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 炎の灯に照らされて、 /61


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自分のトピックを作る
42: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:55:16



「って危ねー! びっくりするじゃねーか!」

まさか、いきなりランタンを突きつけられるとは思っていなかったのだろう。相手が地面へとランタンを突き出したときにちょうどその場所に居たのか、思わず後ろのほうにのけぞりながらも威嚇するように尻尾の毛を逆立てて。が、尻尾もすぐに落ち着けば、驚いたような表情を浮かべてはハキハキと喋り始めて。見た目が動物なのに、やけに人間の言葉を流暢に話し、かつ人間臭い表情を浮かべている。目の前にいる人間にとってこれほどまでに奇妙なことは早々無い筈であろう。だが雷斗はそれに気付かず、

「その明るくてあったかいやつ、近付けられたらすげー熱かった! 一瞬火傷するかと思ったぜ!」

相手の持っているランタンを“明るくてあったかい”などと称しつつ、そんな感想を続けて述べてみせ。更には二足歩行になってはその場に座りこみ、パタパタと自身の顔を手で仰ぐ等暑がるような仕草をして見せるほどで。勿論、表情も今まさに人間が熱がっているかのようなものであり。が、すぐにコロコロと表情を変えれば今度はまじ勘弁だと言わんばかりに肩を竦めつつも、「火傷するかもと思った」なんて冗談めかした風に述べて

「あっ、てかさ、お前はそれ持ってるけど、手とか熱くないのか?」

座った姿勢からまたもや四足歩行に戻りつつ、ランタンと星莉とを交互に見つめながらも「てか、」と間髪入れずにそう問いかけて。同時に質問の回答を強請るような目で相手の方を見上げながらも、非常に人懐っこい様子で足に何度も擦り寄ったり、足元でウロチョロと動き回ったりしており。気分が良いのか興奮しているのか、理由は何にせよ、完全に自分のペースで話している様子である。
それに雷斗は、星莉が持っているようなランタンは今までに手にしたことが無いのだろう。ランタンを近付けられたときの感覚から、ランタンを持っている手まで熱くなるものだと思っている様子であり。が、それにも関わらず目の前の相手は全く熱がる素振りも見せない。めちゃくちゃ不思議だ、と言いたげな雰囲気を醸し出しており




43: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:56:10



「えっなに、しゃべった!?」
 
 あまりの驚愕と、それを上回る恐怖で力が抜けてその場に座り込む。
 怒涛の勢いで喋りかけてくる目の前のカワウソを、星莉は怯えた表情で見つめた。もう訳が分からず、とりあえず自分の周りを動き回る黄色い生物──生物なのかも定かではなく──をひたすら目で追う。
 
「わー二足歩行にもなれるんだったら人間なのかな」
 
 やたらと人間風な動作で話しかけてきたかと思えば二足歩行になった彼に向けるでもなくぽつりと呟く。先程の風景、いつの間にか手の中にあったランタン、そしてこの黄色い生物。立て続けに起こる出来事に、そのうち感覚が麻痺してきたのか、「手とか熱くないのか」と問われれば、そのままその質問に答えようとする。
 
「これ、なんか結構暖かいしまぶしいね……あなた結構悪いひとじゃなさそうなのに、いきなり突き出しちゃってごめん。わたしは別に持ってるだけならあんまり熱くないんだけど───って熱ッ!?」
 
 火傷するかと思った、という彼に向けて申し訳なさそうにそう言って。自分で「持ってるだけでは熱くない」と言いつつ、持ち手の部分ではなく外枠の黒い部分や天井部分に一瞬触れれば、やはりとても熱かったのかすぐ手を引っこめる。
 
「この黒いのが断熱材的ななにかなんじゃない? 分からないけど。持ち手もちょっと暖かい気はするな。これ消えないのかな、ロウソクだし……」
 
 と言いつつ、ハッとしたように顔を上げて。自分が明らかに人でない者と会話しようとしていることに今更気付くと、かなり動揺しつつ、座ったままじわじわと後ずさりして。

「あなた誰!? ここどこ!? わたし模試に行かないといけない……じゃなくて、わたしここの人間じゃないと思うんだけど、いやこの世界に人間がいるかどうかもわからないんだけど」
 
 そんなことを言いながらも、直感的に目の前の彼は敵ではないと分かっているようであり




44: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:57:18



「へぇ、案外しっかりした設計――」

相手の説明(というよりは半ば相手の考察だが)に感心したように目をきらりと輝かせつつ、やや興奮しているような声色で喋り始める。だが、随分と急に慌てだした相手によってその声は遮られてしまい。
動揺、困惑。何故そんなにも感情を露わにするのか。雷斗にはその理由が分からないのか、そんな感じの様子に陥っている彼女を不思議そうに見つめ。その間、彼女の口から連続的に紡がれる言葉に耳を傾けて

「そういえば……すっかり自己紹介するのを忘れてたぜ、オレは雷斗って言うんだ。いやぁ、言ってくれて助かった!」

大方彼女の言葉を聞き終えれば、恥ずかしげもなく堂々と自己紹介を忘れていたなんて言いながらもそう名乗りを上げて。そしてすぐさまヘヘっと笑いつつも、心の底からそう思っているかのようなトーンでお礼の言葉を口にする。いや、動作こそ大袈裟なようにも見えるが、雷斗は本当にそう思って発言しているのだが。それに雷斗が人間の姿だったなら、今頃後頭部を掻きながら歯を見せて笑っていたことだろう。

「で、後はなんだっけ? この国のこと、だったか? ……まー、お前見るからに余所者だもんな」

と確認を取るようにそう聞きながらも、首を傾げては相手の方を見やり。しかし相手との距離を詰めることはせず、代わりに少し切なさを含んだ視線を彼女が持つランタンへと向けて。雷斗にとって、このようなランタンは負の象徴だ。あまり言いたくないと言いたげな、落ち込んだような声色に変化していき




45: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:57:49



 どうやら本当に敵でもなんでもない様子に少し安堵したのか力を抜いて、体勢を体育座りに変えては雷斗へと目を落とし。先程は楽しそうにしていたのに、今はどこか切ない雰囲気を漂わせていて、自分は歓迎されていないことを実感する。左手の拳をぎゅっとスカートの上で握りしめる。雷斗、とその名前を小さく呟いて、深呼吸した。
 頑張れ、と自分で自分を応援しつつ、なにを言うべきかを考える。とりあえず名乗り返そう、と考えて。しばらく黙り込んだ後、雷斗を見下ろしながら少し沈んだ口調でゆっくり喋りかける。

「……わたしは星莉。正木星莉だよ。中3、ってこればどうでもいいかな……。あの、雷斗。余所者、ってことは、やっぱりここに人間はいないんだね。答えにくいこと聞いちゃってごめん……代わりってわけじゃないけど、雷斗のこと教えてほしい。ううん、別に無理して知りたいわけじゃないんだけど……つまり雷斗は喋れる動物的な感じなの? さっきの人間? 二足歩行? のもわたし結構好きだけど」
 
 最後の方はほんの少しだけ笑って、一旦口を閉ざすが、なにか付け加えるようにもう一度口を開いて。
 
「でも、最初に会ったのがあなたで良かった、かも。雷斗は私のこと、取って食べたりしなさそうだし」
 
 段々慣れてきたのか、最初よりもずっと滑らかな口調で冗談交じりにそう言えば。雷斗を見下ろしながら、今度こそ明確に笑って




46: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:58:24



「当たり前だろっ、人間だって、オレ達と同じ、ちゃんとした“人”だと思うし……あと、オレ的には人間は不味いし、わざわざ食おうとは思わねーかな。高級品ってのは聞いたことあるけど、あんなの食うぐらいなら、オレは別のもん食べるぜ」

口角を上げては愛らしい笑みを見せて、相手の言葉に勿論だと言いたげに頷き。相手のジョークであろう部分には、世間話をするような声色でさらりとそう言ってのけて。星莉のような外来者が狭間の国の者に食べられるなんて、ままあることだ。

「あとオレは動物っつーか……えーと、雷獣だなっ! あっ、星莉みたいな見た目にもなれるけど、」

少し考えては輝かしい笑顔で半分答えになっていないようなアンサーを示しつつも、付け加えるように自分は変身できることも伝えて。実際にその場で人間の姿になってみせようかとも思うも、此処は大通りの外れであることに気付けば寸前の所で思い留まり。そんな場所で変身などすれば、誰かに気付かれる恐れがある。

「……そうだ、オレのことは歩きながら話すよ。此処にずっと居たらオレ達は危険だし、一旦オレの家まで行こう。それに、そうした方が、多分星莉も話しやすいだろ? オレも星莉の話、たくさん聞きてぇからさ」

まずはこの場を離れた方が自分たちの為になるとも判断すれば、やや下手くそながらにもそう話を切り出せば提案し。どうだ?と問いかけるように座っている相手を見つめながらも、話の最後辺りはへにゃっと人懐こそうな笑みを浮かべて




47: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:59:04



 雷斗の言葉を受けて、冗談のつもりだったと僅かに動揺し。本当にそういうことが起こりうる世界なのだということが確かに感じられ、それでも雷斗は「人間は食べない」と言っているのだから、信じるほかに無く。らいじゅう、と小さく復唱しながら黄色い毛並みを見て、だから雷なのかと得心したように頷いて。変身もできると言われれば、先程ちらりと二足歩行の姿になったのかとこれにも納得する。
 
「雷斗の家……? わたしは、その……この世界のこと何もわからないから、あなたについていくよ」
 
 歩きながら話すと言われて、誰かに見つかったら食べられてしまうのではないかと一瞬驚き。しかし続けて雷斗がここにいたら危険だといえば、確かにそうだと思い直す。向こうの方へ目を転じれば、そこは明らかに人では無い者たちが見えた。一瞬過ぎった恐怖からか、僅かに間を空けつつもそう返事をする。
 彼の笑みに釣られてかすかに笑い、そのまままわりを見回しながらそっと立ち上がった。ランタンでより先を照らそうとするかのように右手を突き出しつつ、足元の地面を見下ろす。

「雷斗、えっと……変身しないんだったら乗る? 手乗りカワウソ……みたいな? あれ、でもわたしは雷斗の家分からないし……」
 
 そのままでは移動が不便ではないかと思ったのか、ランタンを持っていない左手を差し伸べた。天然と取られても仕方のない、かなり的はずれな発言をしつつ首を傾げて




48: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:59:53



自身の提案を飲み込んでくれた相手に、良かった、と言葉にはしないもののホッとしたように目を僅かに細める。相手の持っているランタンの明かりのお陰だろうか。いつもよりも視認性が高い。そんなことを思いながらも自身の家の方向へと足先を向ければそのまま歩き出そうとする。が、何やら相手の手が自分の方へと迫ってくるようではないか。

「……? なーんだ、てっきり、星莉はオレを撫でたいのかと……」

相手の言葉を聞きながらも、星莉はオレを撫でたいのか?と考えては差し出された手に顎を乗せようと体を伸ばす。しかしそれは勘違いだとすぐに判明すれば、ポツポツと噴き出る羞恥心を誤魔化すように冗談めかすようにしてそう言い。もう少しで相手の掌に触れるところだった顔をひゅいっと半ば逸らすように、相手をそのまま見上げて

「心配ありがとな、星莉。でもオレ割と歩くの早いから、大丈夫だぞっ」

少し相手の発言の意図を考える必要があったものの、この姿の自分と人間の姿である星莉とは歩く速度が異なることを心配しているのだろうかという結論に辿り着けば、ニカッと星を散らしたみたいに明るい笑みを浮かべながらもそう言い。じゃあ早速家に行こうかと言いたげな視線を送れば、トコトコと早歩きする猫のような軽快さで歩き始めて




49: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:00:27



 若干言葉足らずだったかと表情には出さないものの反省していたが、雷斗が自分の意思を汲み取ってくれたらしいことに安心して。一瞬彼の顎が手に近付いて来た時は噛まれるのかと驚きそうになったが、それはすぐに引っ込められた。
 
「撫でていいの──って、そうじゃないや」
 
 雷斗の言葉を受け、首を傾げながらもそう呟きかける。が、慌ててそうじゃないと自分の言葉を取り消すように首を振り、照れを隠すように小さく笑って。最初のひとことは相手に尋ねかけるものであったから、雷斗にきっと聞こえてしまっただろう。天然だと思われてしまっただろうか、と時すでに遅しといっても過言ではないことが一瞬頭に浮かぶ。
 
「そっか、なら大丈夫だね」

 先程の言葉を誤魔化すかのように矢継ぎ早に、字面こそ素っ気なくなってしまったものの顔に笑みを浮かべてはそう言って。左手をすっと引っ込めて右手に添える。歩き出した彼は予想よりも早く、これなら確かに大丈夫だと安心しながら彼の背を見下ろしながらも着いて歩き。
 
「う……なんか、ごめん……」 

 彼の行動と自分の行動諸々を思い返して恥ずかしくなったのか、手で顔を覆いそうな雰囲気を纏って──実際にはそうしなかったものの──そう言って。




50: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:00:57



普通ならば初対面の人の頭などそう易々と撫でられるようなものではないだろう。そもそも普通に生きていればそんな機会さえ早々訪れるものではないと思うし、相手が少し驚いたのも無理はない。まぁ、自分は撫でられたところでそこまで不快感を抱いたりはしないタイプではあるけど。
そう思いつつ“勿論撫でても構わない”と相手の呟きに対し口を開こうとするも、その機会は失われてしまって。次々と喋り出した相手の──どこか誤魔化すような、取り繕うような。そんな雰囲気のように感じ、何かしら反応を示すのは憚られることのように思われた為である。まぁそこまで重要な話でもないしな、と話もほどほどに切り上げ家路を辿っていれば

「……そんな気にすんなって、オレはあんまり気にしてないしさ」

上から謝罪の言葉が降ってきては、歩きながらも相手の方を見上げて。
彼女が何故謝るのか理解できないところもあるが、それを言ったり突っ込んだりするのは野暮であろう。どう声をかけるべきか少し考えては、励ましとまではいかないものの、そんなに気負わなくても良いと言いたげな声でそう言いつつ、気遣うように笑いかけて




51: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:02:10



 雷斗がこちらを見上げている。その小さな瞳と視線を合わせるようにして見下ろすと、表情から彼に気を遣わせてしまったことに気付いて。
 
「あ……ごめん、ありがとう。またちゃんと機会があったらなでなでさせてほしいな」
 
 と、彼の言葉でいつもの調子を取り戻したのか、元気を取り戻したような語調でそう言って。
それきり黙って雷斗に続いているのだが、沈黙が続くのはどうにも居心地が悪く、恐怖がじわじわと戻ってくるように感じる。辺りをなるべく見回さないように努めてみるが、視界をちらつく夜闇が恐怖心を煽った。慌てて視線を動かすと、雷斗の小さな背中が目に入り、そちらの方だけを見て歩くことにして。
そうしても暗い上に静かなのはやっぱり怖い、だからなにか喋りたい。そう思ってか、先程のやりとりを思い返しつつ呟く。

「雷斗はいいひとだね。距離感が心地いいっていうのかな、そういう感じ」

 雷斗の少し後ろを行くくらいのスピードを保って歩き続けつつ、前方を見透かすようにして、

「雷斗の家って、ここからもうすこしかかるの?」
 
 と続けて尋ねて




52: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:04:37



◇ 雷斗と正木星莉

>星莉
>41    >43    >45
>47    >49    >51

>雷斗
>42    >44    >46
>48    >50




53: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:05:26



 何時も通り、友達と別れやっと自分が戻って来たように感じる癒しの時。
 背伸びをして、茜色に染まりつつある空を見上げほっと息を吐いて気分転換にでも少し遠回りをしていこうかと住宅街を外れ小道に入っていく。
 
 「……え、あ……?」
小道を真っ直ぐ真っ直ぐ獣道が続くまで歩いていたらこつん、と何かが当たった音がした。小さな小さな鳥居が並ぶ列。足元をよく見なきゃ確認は出来なかった。
 何故か危うい気がするも足は気持ちとは反対に鳥居を追いかけるとばかり踏み出し、走っていて。
ずっとずっと、ずっと、その鳥居の終着点まで無我夢中で走っていた。

 「す……っご、い………!」
綺麗、より凄いを口に出してしまっていた。奥には古びた神社が見えていて、それを掴むかのように手を伸ばし虚を掻き大きくそれを視界に入れるだけで心を奪われ目が冴え渡る鳥居を潜り抜けていた。



 好奇心と言う病が瞬に治るかのようにゆとりは我に返った。視界に広がるのは見えていた古びた神社ではなく言葉で言い表すことも出来ない神秘的な息を呑むこともその世界を壊してしまうようでとてもじゃないが出来ることもない光景。提灯に屋台に今時古風な建物。目を惹き遊びたくなってしまうそんな魅力的でしかない光景、ゆとりはでも、何故か。


 恐怖を覚えていた。
今すぐにでも帰らなくちゃ、と振り返るも潜って来た大きな鳥居は忽然と消えていてそれにまた恐怖心が襲い掛かって来る。
 「あ……」
どうしよう、どうしよう、帰りたい。どうすればいいの、と思考を巡らそうと俯かせたその瞬間、眼を又もや奪ったのは自分の手に何故か握られていた一つの水晶立体の提灯だった。
「なに、これ」
太陽のようにもうもうと燃えた呑み込むような火を見つめ、ぎゅっと瞼を伏せればどくんどくんっと生々しく鳴り響く胸倉を片方の手で握り締め、正面に向き直る。明らかに人間ではない者たち。
それがまた、ゆとりの恐怖心を広がらせた。

 
 「だ、だれか……たすけて……」
弱弱しくそんなことを言ってしまった自分に嫌になる。外来者! 人間だ! と囁く声が聞こえゆとりは恐る恐る振り返れば悍ましい手がふらふらと捕まえようと伸ばされる。ゆとりは慌てて立ち上がり竦んだ足を必死に動かし走る。

言葉のしようが無い声に耳を塞ぎたくなるゆとりは気付けば廃れた木造の屋敷に逃げ込んでしまっていた。
「ここ、ほんとに……どこなの……だ、だれ……か」
誰かいますか、と虚に訊きそうになりぱっと口を噤んでしまうゆとりは、先程のような自分を食って掛かる者がいるかもしれないから慎重にならなくてはと思い、しゃがみ込む。
膝をついて、ゆっくりと移動して隠れるところはないか、と探していて。




54: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:06:07



外が騒がしい。まさしく喧騒と呼べる騒ぎの中には、言葉にしたくもないほどに酷い罵声も混じっているようだった。はっきり言って異常としか言いようのない騒ぎようである。いや、まだ、ただ単に周りがうるさいだけならばまだ良いのだが、問題は、

(……これ、どう考えても家の近くだよな)

ギルが住処としている廃屋敷付近でその騒ぎが起こっている可能性があることだ。此処に自分が居ることがとうとうバレたのかもしれない。少なくともそう思ってしまうくらいには大問題だし、はっきり言って緊急事態である。
そもそもギルが住んでいる場所は滅多に人が来ないような場所なのだ。つまるところ、普段は静かなのである。だというのに、珍しくも何かしらの騒ぎが屋敷内にまで聞こえているのだから、屋敷の近くに大勢の人がいるかもしれないという風にしか考えれない訳で。

できれば騒ぎが収まるまで身を潜めていたいが、自分を殺しにあいつらがやってきたのかもしれない──その可能性を踏まえると、屋敷周辺はともかくとして最低限屋敷の様子は確認しなければならないと否応なしに思い直させられる。もしあいつらが自分を殺しにやってきたならば、間違いなく屋敷の扉を破壊してでも屋敷に侵入して自分を探しにくるだろう。そうなれば、確実に自分は此処で命を散らすことになる。

(せめてナイフくらいは持っていくか)

そう思い、屋敷の中に元々あった物である(廊下に落ちていた)錆びているナイフを手に取る。完全に安心はできないが、せめてものお守りくらいにはなるだろう。いつか使うかもしれないと拾っておいて良かった。そう思いつつナイフを懐へ仕舞い込み、そして明かり代わりの手燭を手に持つと、部屋からそっと抜け出して




55: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:06:46



 ─────ふわふわとした光がある。

何か隠れる場所はないかと膝をついて探していたゆとりは温かな光を見つける。自分の手燭とまた違った光に、もしかしたら自分と同じ境遇の者がいるのではないかと考え。

 その光の許へと行こうとしてのっそりのっそりと膝をついたまま腰を低くし動かす。ぺたぺた、こんこんという音がしてしまうがそれは抑えられない音であり仕方が無いとゆとりは思う。

出来る限り声を出さないよう息を止めながら近づいて。
「ひ、あッッ!!」
ずるっと、手を前に動かす際に滑ってしまい、そのまま足までもが絡みごろんっと床を擦ってしまう。足首がじんじんと痛い。「いッ」と声を出しながらも唇をかみしめ、けれどもそんな努力あんな盛大な音と声を出してしまったのだから意味もないのでは? と思い。
足を抱えたまま、仰向けの形で寝っ転がってしまったゆとりはとりあえず死体の振りをし。




56: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:07:33



「……!」

突然上がった女の声らしき悲鳴と大きな鈍い音。なんとなく何かがいる気配はしていたから、さほど驚くようなものでは無かったが、気を引き締めるには十分だった。
まあちょうど良い、返り討ちにしてやろう。そう殺意を心に宿せば忍ばせていたナイフに手を添えつつ、音のした方向へと足を運んで

「……。……死んでいる、だと?」

そこには倒れ伏している女の姿があった。見たところ人間のようである。
こんなところに何故人間が?と疑問を抱かずにはいられないが、それよりも疑問なのは、この女は一見したところ死んでいるようで──

「いや、生きている……のか?」

いやしかし、さっき聞こえて来た悲鳴が彼女のものでなければ、あの悲鳴について一切の説明もつかなくなってしまうだろう。そう考え、呼吸の有無を確認しようと顔を近づければ、微かに呼吸音が聞こえて来て。呼吸音などまさしく生きている証であろう、死人が出せない音の筈だ。
なんだか腑に落ちないような顔を浮かべながらも、怪訝そうな声でそう呟き




57: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:08:09



 ぎし、ぎし誰かが近付いてくる足音が聞こえる。仰向けからうつ伏せに体勢を俊敏に変え死体を演じているゆとりは咄嗟に立ち上がりそうになりぐっと堪え、叫んでしまいそうになる唇を噛み締める。

 「……。……死んでいる、だと?」足音の主は不可解そうに言う。


「いや、生きている……のか?」

急に顔を近づけてきたのかお互いの呼吸が絡み合う。
(ひぁああああぁああっ!! 顔に、耳に、息掛かってる!! いや近い近い近い!!)
と心では叫んでいるゆとりだったが仏像の如く表情を変えず目をつぶっており。
腑に落ちない声を片耳で聞いてまだ疑ってるの? どっか行ってよ、そろそろこの体勢も辛いんだよ!! と皺が眉間に刻まれてくる。
「あひぃ……ぐほっっ」
限界に超し息を吸うのが困難になって来る。もう無理だとゆとりはもぞもぞ気持ち悪い虫のように動き出し。




58: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:08:40



「……ッげ……っ」

転倒した際に体を強く打ちつけ過ぎたが為に気絶しているのだろうか……と結論づけようとした矢先、急に死体らしき女が動き出し。これには思わずびっくり、いや、動き出す際の動きがあまりに気持ち悪かったため、若干の嫌悪も混じっているが──とにかく驚いたような声を短くあげればワンステップ後ろへと下がって、相手との距離を取って。その際に懐からナイフを取り出すのも忘れない。

「動くな、この不審者が」

ただの気絶者、あるいは死体であれば一応匿ってやろう、処理してやろうとも考えてはいたが、現状、この女はただの怪しいやつであろう。そもそも何故ここに入ってきたのかも分からない。ナイフの刃先を相手に向けつつ、威圧するようにそう言い放って




59: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:09:15



 「……ッげ……っ」

こうなったら仕方が無い。どんな化物が出て来ても知らん、はり倒そうと腹を決めたゆとりはバッと海老みたく上半身を起こし、蛙のよう飛び上がって立つ。

 ぱちっと伏せていた眼を開ければ目の前には鋭利なナイフを持って威圧的な瞳を向けてくる男が「動くな、この不審者が」と言ってきてゆとりは瞬きを繰り返してからわざとらしい笑みを浮かべ空気をすうっと凄まじい引力で吸って。

 「……、……あのねええ不審者はどう見たってあんたでしょーが!!」

そんな危ないもの持ってんじゃないわよ、と鬼のような形相で怒気高まった声で叫んで。
「ていうかゲッて、ゲッて……失礼じゃない! そんなコンバットを食べた仲間を共食いしちゃって死んだGを目撃したような声出さないでよ、わたし華の女子高生!!」
と頬膨らまして一生懸命に口を開くゆとりは男の爪先から旋毛までじろじろと観察し、手に持っている光に目を止める。
「その提灯……」と呟いて。




60: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:39:04



◇ ギルと日南ゆとり

>日南ゆとり
>53    >55    >57
>59

>ギル
>54    >56    >58




61: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 21:42:24



── 記録 ──


環・日比谷周( >27 )


ヴァルプ・工藤哲也( >40 )


雷斗・正木星莉( >52  )


ギル・日南ゆとり( >60  )




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