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66:
京王院 唯織 [×]
2023-03-02 10:09:44
>>56
>>カーメルさん
「 うふふ、いいえ。私、鼻がいいので。
それから耳もいいんですよ。 」
( 彼女の言葉と、その後のスンと鼻を鳴らすような音に思わずくすくすと笑ってしまう。ぶわりと香るというよりは、上品に香る香水や花束を抱えた人とすれ違った時のような、そんな香りだった。最も、花憑きとして四六時中御花と共にいればその香りすらも認識できなくなってしまうのも納得してしまう。現に自分は自分の御花の香りなんてとっくのとうに忘れてしまったし、彼女が花憑きになってどの程度の年月が経ったのかは分からないが似たようなものなのだろう、と。 )
「 …薔薇にどうして棘が生えているかご存じ?
あれはね、外敵から身を守るために生えているんです。
きっと貴方を守るために精一杯なのね。貴方に似て優しい御花。 」
( `愛とか優しいものとは程遠い`。そんな言葉に、唯織はきょとん、と(見えないのだが)目を丸くした後にすぐにほほ笑むと、ぽつりぽつりと、まるで眠れない子供寝かしつける母のように優しげな声でそう返して。表情こそ御花で覆われていて分かりづらいが、その唇は紛れもなく微笑んでいて。同じ花憑きだからとて、こうして誰かに手を差し伸べるというのはやさしさと言わず何と言おうか。そんな優しい彼女だからこそ、危険な目に合わないように、触れたものに牙をむく薔薇として咲いたのだろう。守るために彼女を傷つけてしまう、そんな不器用なところまでこの直ではなさそうな少女にそっくりだと唯織はまた笑って。 )
>>57
>>栗花落さん
「 曼珠沙華!とっても素敵、`天界に咲く花`ですね。
確かに怖い印象を持つ方が多いですけれど、法華経を釈迦が説いた際に降ってきた花のひとつとして、天上の花と呼ばれていることもあるんですよ。 」
( 彼のメインの花が曼殊沙華と聞き、またパッと表情を輝かせてはすてき、とぱちぱちリンリンと白杖の鈴を鳴らしながら拍手する。確かに彼岸花や死花と呼ばれる曼殊沙華には不気味だったりという意見も多くあるが、唯織は彼岸花が好きだった。もうどんな花だったか正確に思い出せと言われたら不安だが赤く美しい花、また天界に咲く花という別名があるくらいには天上人に愛される花だということは覚えている。
ごく少量しか咲いていないという金木犀の香りがここまで強く香るのも不思議だが、どちらも秋を代表する花で実に物腰の柔らかく淑やかな彼の雰囲気と合う。確か曼殊沙華の花言葉は`情熱・再会`だっただろうか。目の前にいる彼も意外と熱血漢だったり会いたい人がいたりするのかしらなんて考えながら、「 それからね、彼岸花の名前はこのお花を毒花と知らずに食べちゃった食いしん坊がいたからですよ。 」とぽそぽそと声のトーンを落として、だから決してこの花は怖くないのよと彼に伝えて。…自分の御花が、`私のが綺麗でしょう!`とでも言うように講義しているのは感じないふりをして。 )
「 うふふ、…優しい手。こんな手をしている方はそんなことなさらないわ。
それにね、悪い人なら声なんてかけずに無言で私をどうにかしているもの。 」
ふ、と優しく自分の手を両手で包まれればじんわりと冷え切った手先が温まっていく感覚に頬を緩める。自分の御花も人の温もりに安堵しているのかいつもよりも落ち着いているようで、なんだか春の陽ざしが差し込んでいる縁側でひなたぼっこをしているときのような穏やかな時間を感じて。
あたたかい、とぽろりと紅色の唇から零れた言葉は優しげで、今体温を感じている目の前の人が悪い人だなんてとてもじゃないが思えないのだ。唯織は彼の言葉にくすくすと楽し気に笑いながら、目が見えない自分を組み伏せてしまうのも簡単なのだから悪いことをする奴は息を殺して近づくのよなんて、ほやほやと笑う彼女からはあまり似合わない物騒な言葉を口にする。もう花憑きになってから何十年も経つのだ、そんな経験は数えるのが飽きてしまうほどにあった。最初のうちは怯えていたし外も出るのが怖かったが、今ではもうすっかり善悪の区別を空気感で感じ取れるようになった。年を取る(実際にはとっていないのだが)とはこういうことなのだな、と年甲斐もなく思ってしまう。
>>59
>>梵
どこか軽薄で、香水の香りと、少しだけ女の匂いがする。それから老若男女問わず周囲にいるのであろう人間たちからの彼の噂話や値踏みをするような会話たち。
口から出る言葉は優しいのに、どこか掴みどころのない煙のようにふわふわとしている、不思議な人だな、とそんな印象だった。`お客様`という言葉と周囲のざわめきが唯織の脳内でまるでパズルのピースのように組み込まれていき、そうして蠱惑的な色気の漂う囁き。ふわりと彼の近づいたような微風を感じ取れば、チャリ、とアクセサリーの揺れる音がする。
ぞわり、と鳥肌がたったのはその煽情的な彼の声色や雰囲気からだろうか、それとも普段関わりのない町での貴重な経験に高揚しているのだろうか。
「 も、もしかして…ホストの方…!? 」
───おそらく後者だった。
唯織はわあ、と高揚した様子で花が咲くように──実際に咲いているのだが──笑えば、きゃっきゃと楽し気に緩む頬を両手でそっと包む。夜職の方とおはなしするなんてはじめてだわ、と自分で勝手に当てはめて完成させたパズルに書かれたカテゴライズに彼を分類してしまえば、お話の中でしか見たことのなかったこの煌びやかな眠らない町の住人との思わぬ邂逅に心から喜んでいるようで。まるで女子高生が男性アイドルと思わぬ逢瀬を交わしたときのようなそのバラ色の頬はとても楽しげで、さっきの色香を思い出せばそれは男性も女性も彼の虜になってしまうわね。となぜか第三者の客観的してんでうんうんとうなずいて。
と、先ほどの彼の発言にぴたりとはしゃぐのを止めては先ほどまで楽し気に紅潮していた頬にサッと血の気がひき、チリチリとにぎやかに鈴を鳴らしながらあわあわと「 わ、私、ホストの方の靴に、やだ、これからお仕事じゃ… 」と`汚れていない`ではなく`気にしなくていい`と此方に気を使ってくれたのを思い出し。
客商売の方の靴になんてこと、と御花のせいで視力がないため本当に彼の靴が汚れているのか否かが判断がつかないため、まるで一人百面相のように(鼻から下しか見えないのだが)表情をくるくると変えて。
「 あの、もし汚れていたらクリーニング代…靴もクリーニング代というのかしら。必要経費はこちらが払いますので、 」
先ほどまでのはしゃぎようはどこへやら、まるで雨の日に散歩に行けない犬のように静かに、しわしわと心なしか御花もしょんぼりしているような声色でおずおずと彼がいるであろう方向に自身の名刺を差し出し。家名や連絡先、それから彼女の眼もとに咲く御花と同じ牡丹の描かれたソレは、身分証すらろくに持たせてもらえていない彼女にとっての唯一の自分を表すものだった。
本当にごめんなさい、と深々と頭を下げては、また彼女の手元の白杖の鈴がチリン、と場違いに涼やかな音色を落として。
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