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 忍び事。《 3L 》 /76


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63: 在善 遼 [×]
2021-11-14 11:17:04




>49

ついさっきだよ。どうぞ、眠り姫。火傷しないようにな。
(毛布の擦れる音は、静寂な部屋の中ではよく響いた。予想よりも早めの起床に僅かに首を傾げるも、いかにも寝起きです、と言わんばかりのか細い声が耳に届けば、彼女のカップにはアクセント程度、使い慣れた方には少々多めにシナモンを加える。寝ぼけ眼の彼女のもとへ、ことりとマグカップを置いては、向かいに足を組み腰掛けた。柔らかな黒髪に寝癖はよく目立っていて、実年齢よりも幾ばくか幼いように見える。相変わらず年頃とは思えない大雑把さに自然と口角が上がり、笑いを零した。敢えて指摘はしないでおき、長旅のせいかくたびれて見える紙袋へと目線を移す。彼女の分はマスコット付きボールペンといった実用的なものと可愛らしいものが半分、残りはお菓子とバランスよく入っている。その中から等身大であろう大きさのアザラシのぬいぐるみを取り出して)
これ、蛍に似てるだろ?オレがいなくても寂しくないように、プレゼント。


>50

可愛らしいのは姿だけかい、お嬢さん?
(少々厄介な任務をやっと終えて、事務所に帰宅したのは今朝のこと。この三日間一睡も取れていないのは流石に体力が持たないと、瞼を閉じたのが昼食を取った後だったか。そうして意識が残る浅い眠りを覚ましたのは、ドアの木材が軋む音と肌を撫でる冷たい風。部屋を仕切る壁の向こうから運ばれたそれらは、未だ疲れが残っている身体を動かすには十分な理由。何度か瞬きを繰り返して目に光を慣らしながら、楚々とした柔らかなワンピースには似つかわしくない冷蔵庫を漁る後ろ姿を視界に捉える。それに既視感を覚えると同時に、山のように持っている偽名の一つであろう名前に辿り着き。背後に歩き寄って肩に手を置き、まるで白雪で人を形取ったような彼女へと相応の挨拶を。すっかり眠気は去ってしまい、手持ち無沙汰になったついで。コーヒーメーカーに二人分の分量を入れては、若干埃の被った彼女用のコップをシンクですすぎ)
依頼やリークならボスか夕鷹を待ってな。それとも、遊びに来た感じ?


>54 夕鷹

やること一緒なら、楽しんだ方がマーシ。それに、こうやって夕鷹とお茶飲めるんなら、いくらでも買ってくるさ。
(最初は、単に旅行客を偽るためのカモフラージュとして始めたもの。けれど、これだけ殺伐とした仕事、心まで錆びて動かなくなったらもう戻れない。案外、息抜きは欠かせないものであり。加えて、一人一人の好みに合わせて、何かをあげることは性に合っていたよう。今となっては必要性がなくとも、土産選びは毎回のことになっていて。それは同時に、この事務所に随分と馴染んでしまった証拠でもあった。呼吸をするように砂糖を煮詰めたような言葉を紡ぎながら、鞄から自分用の小さな袋を取り出す。その中の地酒入りのチョコを机に置いて見せたはいいものの、途端過去の酒を飲んだ彼の様子を思い出してはほんの少し眉を寄せた。飲むことは好きな様だが、普段からは想像もつかない悪酔い。念のための確認程度に質問を)
じゃ、オレ紅茶。甘いのはこれだけだから、夕鷹も食べ……流石に、チョコでは酔わないよな?


>55 朝陽

(今日は久しぶりの非番の日。スーツをクリーニングに出したため、黒のハイネックにジーンズとマウンテンブーツ、ピーコートを合わせた珍しい私服姿。フロアが二つに分かれた広い書店で本を眺めていればあっという間に時間は過ぎて、もう正午に近い。小説の新刊をいくつかと暇つぶし用の雑誌に話題のビジネス書を購入しては、帰路に着く。午後の予定は部屋の片付けと今日手に入れた本を早速読むといった自分にとっては本当に充実したもの。今のうちに簡単に計画を立てていれば、事務所を丁度出るところの依頼にきたであろう人影見かけ、デザインよりもスペックを重視して作られた無骨な腕時計で時間を確認すると、昼休憩の最中の頃。女性ものの香水の残り香が漂う室内に入れば、その香りとは似ても似つかない素朴さを漂わせるつい最近入ったばかりのバイトの子が、昼食を作っている様子で。早速オープンキッチンの前に陣取れば、弾んだ調子で言葉を使って)
ただいま、朝陽。それ、オレの分もある?


>57 龍也

あー、龍也は潜入任務は向いてないなって。
(ぽかんと呆気に取られた様な、置いてけぼりの彼の様子を見て、内心反省しつつ理由を言い添える。訳もわからず、話し相手が突然笑い出したら気味が悪いと感じるのは普通だろう。もっとも、感情の読み取りやすい彼の瞳には純粋な好奇心しか感じられないが。そのことに安心感を覚えつつ、唐突な彼の提案に今度は此方が面食らう。「奢り?気にしなくていいのに」とは言ったものも、期待に満ちた様子を見ては断るといった選択肢はなかった。いかめしい顔つきとは真反対の元気いっぱいな子犬のような表情なのに、不思議と違和感を感じさせない。間違いなくそれは彼の魅力の一つであり、この顔を見れば表の依頼人に避けられることもないんじゃないかと密かに思っている。欲しいもの、と言われては顎に手を当てて思案顔。不意に彼の傍に置いてある、トレーニング道具が目に入る。丁度いい、といかにも重そうなそれを指差して)
ダンベル、ちょっと憧れてたんだ。よくわかんないし、一緒に選んでくれる?





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