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 忍び事。《 3L 》 /76


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49: 橘 蛍 [×]
2021-11-12 03:42:46


>40 龍也

っ……何、どうしたの!?まさか…

(標的である社長は慌てふためき、のたうち回っている。床に放り投げられたスマートフォンは手の届かない所まで飛んでいってしまっていて、その存在はすっかり忘れ去られているようだ。吸っていた煙草はというと、同じく床に転がっているようだが、スコープで確認するには限界だ。部屋の半分程はカーペットが敷かれている為、もしそこに火の着いた煙草が転がっているとしたら。更にはカーペットの敷いてある床の隅に、酒類のような入れ物が複数置いてあるのが見て取れる。念の為警戒しておく事にしては、相手からの称賛する言葉に口元を緩めたのは瞬きするほどの時間。手筈通りに裏口から脱する事が出来たと続くのかと思いきや、聞こえてきたのは鼓膜が破れそうなくらい驚愕した彼の声。無線機を着けている左耳への、突然の大音量に思わず左目をギュッと強く瞑り顔を顰める。一瞬止まった心臓が不安を警告するように、動悸を打っている。一体何があったというのか。問いかけながらビルの入口付近を見る。まさか…到着した警察と鉢合わせてしまったのかと思うが、彼が声を上げたとほぼ同時に到着し入口付近にいると思われる為その可能性は低い。だとしたら社員の方か。自分のいるこの位置からは入口しか見えず、裏口は反対側の為全く見えない。最悪の状況を考えながら上着のフードを浅く被った瞬間──目が覚めるような爆発。それはあの社長室からだった。驚きと共に矢張りかと思えばスコープを向ける。割れた窓からは濃い灰色の噴煙が次々と上がり鮮やかな炎が室内の一部を燃やしていた。辛うじて無事である標的や、更なる混乱に陥っている社員達を尻目に、警官達が爆発に気を取られている今が最大のチャンス。焦らないが早口で状況を伝え早く離れるよう言い)

社長室で爆発があった。今のうちに早く逃げて。




>41 夕鷹

…夕鷹、終わった。今からそっちに帰るから、後の事はよろしく。

(完璧なタイミングで真っ暗闇に包まれるビル。同様に社長室の電気も消えると、標的は天井を見上げてピタリと脚を止めた。その上、スマートフォンを耳から離し画面を見た後、再度耳に着けるといった行為を繰り返している。瞬間、前触れも無く引き金を引いた。一帯に響き渡る重い銃声音と共に放たれた弾丸は、まるで吸い込まれるように開いている窓から室内に侵入。標的のアキレス腱、それも両方をかすめれば、そのまま部屋の奥へと貫通し何処かへと消え去った。狙い通りである。標的の身体に着弾させてしまえば、弾丸という証拠が残ってしまい警察から不審がられてしまう。組織への足掛かりを築かせないようにするにはこの方法がベスト。あくまでも密かに。派手に前のめりに転倒した社長は、起き上がるどころか両足を少しも動かす事が出来ていない。当然だ。アキレス腱という靭帯の中でも最大且つ最強の腱を断裂しているのだから。上半身だけ見れば床に頭を着け土下座でもしているかのように見える。無様なその姿に、憐れみと同時に快哉を感じつつ小さく息を吐くと、遠くから近付いて来るサイレンが聞こえてきた。やがて赤色灯も見えて複数のパトカーがビルの周辺を占拠すると、降りて来た警察が次々と入って行き標的は確保された。そこまで見届けてから、無線機で彼に伝える声は普段と変わらないようではあるが、安堵感が含まれていた。直ぐに労う返答があればフッと口角を上げ、後の事を任せる。が、仕事が早い彼の事だ。もう既にやっているかもしれないと思いながらフードを目深く被り銃を手早く片付けると、屋上から下りて他の仲間が運転する車で帰路につき、彼が待つ事務所へと到着すれば、それまで張り詰めていた気を一段と緩ませ帰って来た事を告げる言葉と共に扉を開けて)

ただいまー…




>48

…ぅーん、入れるー……。

(深く沈み込んだ意識は、そう簡単に浮上しないようだ。ちょっとやそっとの物音でさえ全くと言っていいほど気付かない。ましてや、静かに且つ気配を消しているとなると尚更。普段の敏感な様子からは想像出来ないくらいである。だが、そんな落ちるところまで落ちた意識を引き上げるきっかけとなったのは、身体を直接揺さぶられたり、大きな音を出されたりといったインパクトが大きいものでは無く、ほんの僅かに鼻に届いた火薬の煙と錆びた鉄のあの独特な匂い。毛布の下の鼻にふんわりと匂ってきたそれは、他のメンバーよりも長い事共に任務を遂行してきた彼以外は他に居ない。無意識に認識する。自分にとって嗅ぎ慣れた、安心するその匂いによって覚醒へと近付く一歩を踏み出したようだ。そこから、耳が利くようになると同時に声が聞こえた。はっきりとは言えないが、名前を呼ばられ問い掛けられている。ただでさえ丸く小さくなっているのに、毛布に目も突っ込んで更に小さく身じろぎ、そのまま寝ぼけながらも答える。答えてから、この声はもしかしてと、再び沈んでいきそうな意識を覚醒へと繋ぎ止め毛布から顔だけを出すと、頭を持ち上げ未だ朧げな様子で声がした方を見る。キッチンに立っている人物──久しぶりに見たその姿は、いつもと変わらない余裕のある彼。いつの間にか帰還していたのかと、ゆったりとした動作で起き上がりながら言い、ボサボサの髪を直すよりも先ず大きく伸びをしてから隠さずに欠伸をして)

あれ…遼、帰ってたんだ。




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