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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
886:
ギデオン・ノース [×]
2025-04-27 23:37:59
(宿の外壁に取り付けられた木の長椅子に横たわり、魔剣の柄に手をかけたまま、ひとまず目を閉じておくことしばらく。……だがしかし、このところ強張っていた右肩の傷が癒えたからか。或いは相手の立ち働く音に、どこか不思議な懐かしさのある安心感など覚えたせいか。いつしかかすかに気の抜けた顔で素直にとろとろ眠っていたのは、思えばこの娘の前では初めてだったかもしれない。
しかしそれでも、耳馴染みの良い作業音がふとやんだのに気が付けば、薄色の睫毛を震わせながら目を開けて。最初に横の焚火、それから他方へ顔を巡らせ、一休みする相手を見つける。──王都からの長旅の後、短い休憩を挟んだだけで小道具作りを任せていたから、あのヴィヴィアンも流石に疲れてきたのだろう。そんなことを考えながらも、数秒ほどただぼんやりとその様子を眺めているのに、果たして気づかれたかどうか。ともかく、目頭を軽く揉みながらようやくのっそり起き上がれば、低く掠れた寝起きの声で話しかけ。)
悪い……おかげで助かった。
……そっちも、一段落ついたのか。
(辺りの闇に、パチパチと火の粉が爆ぜる──それ以外はごく静かな宵。相手の錬成する魔法液がゆっくり煮えるのを待つ間、相手の報告に頷きながら、「寒くはないか、」「小腹は、」などと、ぼんやりしたまなざしのまま、とりとめのない言葉をかける。いつもの己らしくもなく、起き抜けのぼんやりとした感覚がまだ抜けきってくれないせいだ。まあでも、相手にはそう隠さずともいいだろうか……などと考えながら話していると、不意に宿の外から歓声。そちらに顔を向けてみると、どうやら賑やかに聞こえてくるのは、こんな夜更けだというのに、村の向こうからやって来た祭囃子の一隊らしい。)
……牛追い祭りの前夜祭だな。
南部の本格的なやつほどじゃない、小規模なものらしいが……
こっちのは……美味い牛飯が……出ると聞く……
887:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-01 00:20:12
……牛追い祭り?
( ギデオンがその単語を発した途端、それまで淡々と順調な進捗報告をしていた後輩の瞳へ、あくまで真面目に、けれど持ち前の好奇心が隠せていない煌めきがあどけなく滲む。トランフォードではキングストンの建国祭、南部オーツバレーの牛追い祭りとまで言われる程の規模を誇る祭事ではあるが。物心ついて間もなく禁欲的な学院に入学した娘にとって、それは本の中でしか触れたことの無い知識であり、したがってその憧憬は初めて参加する子供たちらと何ら変わらない純朴なそれで。毎年怪我人が続出するにも関わらず、陽気な市民が熱狂するお祭り。その一番定番の催しが終わったあとも、人々は艶やかに装い、街の仲間たちと一晩楽しく踊りあかすという──もしかして、ギデオンさんは現地で見た事があるのだろうか? "牛飯"ってどんな味なんだろう? もし相手から見たいのかと問われれば、明日以降の仕事の責任の重さを承知しているが故に、非常に強く固辞するだろうが。お行儀よくベンチに座ったまま、まろい頬をじゅわりと瑞々しく紅潮させ、賑やかな行列に向けるキラキラとした眼差しは無自覚だったのだろう。 )
わぁ……いいなぁ……
888:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-03 09:16:55
(相手の漏らした呟き声があまりにあどけなく聞こえ、思わずふっと笑みながら薄青い目を投げかける。シルクタウンの帰りの馬車でも思ったが、ヴィヴィアンのこういうところは見ていて非常に好ましい。歳を重ねれば重ねるほど無垢から程遠くなるだけに、若い人間の見せるそれにはつい癒しなど覚えるのだろう。……だがしかし、焚火に明るく照らし出された娘の顔をいざ眺めると、そんな愉快な面差しは、ふと静かに消え失せた。ヒーラ娘のまなざしは、どこまでも混じり気のない煌めきに満ちていて……それが何故か、ごく穏やかに、いたましいと感じたからだ。
──北の辺境で生まれ育った、浮浪児上がりのギデオン・ノースと、華の王都で生まれ育った、名家令嬢のヴィヴィアン・パチオ。たまたま同じギルドで働いている自分たちは、思えば年齢だけでなく、実は身分も随分違う。だがそれでも、国内の祭りをあちこち覗く楽しみは、若い時分に貧乏だった自分の方がたっぷり馴染みきっていて……反対に富める彼女には、ああして遠く眺めるような憧れの世界らしい。厳しい学院をとうに出て独り立ちもしているのだから、実際に行こうと思えば、自由気ままに行けるだろうに。或いはやはり、多忙な仕事の合間を縫って女の身で動くには、何かと不自由するのだろうか。……それとも、“そこに行ってはいけない”という大人に言いつけられた教えを、今もどこかで無意識に、従順に守るせいだろうか。
そんな風に考えたから、最初のそれはただ純粋に、己の後輩を可愛がってやりたいという、下心なしのものだったはずだ。「ヴィヴィアン、」と声をかけ、相手がこちらを見たならば、先に予備動作で予告してから、小さなものをぽいっと放る。──腰袋から取り出したそれは、碑文探しに旅立つ前にギルドの事務から御裾分けされた、包み紙入りの薬飴だ。何でも疲労回復の効能があるとかで、このところやつれていたギデオンを気遣ってのものらしい。とにかく、自分の分も口に投げ入れ、しばらく甘味を味わっていたが。やがてコロ……と転がしていた飴をとどめて、軽く噛み砕いてしまうと、皮革の水筒に手を伸ばしながら、何てことのないように誘って。)
この辺りの郷土料理は、俺も恋しかったところだ。タブレットを回収出来たら……ちょうどいい、付き合ってくれ。
祭はしばらく続くから、終わりがけの手頃な屋台にありつくくらいはできるだろう。
889:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-11 16:28:39
──!
ありがとう、ございます?
( 自分が舐めるついでの気遣いか。ヴィヴィアンにとっては、唐突に投げよこされたように感じる甘味を軽く両手で受け止めると、相手に習って口内に含む。そうして、コロコロと人前で白い頬を膨らませることすら恥ずかしかった時代があることなど、ギデオンには信じられるだろうか。カレトヴルッフに飛び込んで3年間、自分ではずっと世間慣れしたつもりで、何故これまで憧れの祭典へ赴かなかったのかと問われれば。結局、自分にもその権利があると、その発想さえなかったと答えざるを得ないのだから仕方がない。そうして、薬飴の優しい甘さと薬草の香りを楽しむこと暫く、この時はまだ子供扱いに過ぎなかったギデオンの提案に相応しく、素直に目元を見開くと。「わあっ、本当!? いいんですか?」と、片方膨らんだ頬を無邪気染め、満面の笑みを綻ばせれば。 )
それじゃあ益々早く見つけなくちゃ!
( 「ギデオンさん大好き!!」そう元気いっぱい立ち上がったこの頃は、そう遠くない未来、こんな些細な飴では決して満足出来ないほど、自分が相手から目を離せなくなっていくことなど微塵も予想だにしていなかった。
そんなやり取りから、かれこれもう丸一日近くなる。乗合馬車の路線などとうになく、対魔獣用に特別に装備を施した荷台は、普通のそれに比べて倍以上の速さが出る代わりに、乗り心地はお世辞にも良いと言えるものではなく。ビビはと言えば、最初こそピンと元気よく背筋を伸ばし、向かいのギデオンと今回の作戦について真剣な表情で話し合っていたのだが。カダウェル山脈が次第に近づいてくるにつれ、いよいよ本格的になってきた悪路に、紙より白くなった唇を緩慢な動きで抑えると。相棒の許可を得て外の空気を吸おうと、小さく幌を開けた瞬間だった。夕焼けの空にかかる壮大なアーチ、巨人の肋骨に例えられる大コスタ。その知識としてだけは持ち合わせていた、かつて始まりの冒険者たちが踏破した大自然に息を飲むと──ガタンッ、と、一際大きな振動に、為す術もなくころんと後ろにひっくり返り。 )
──……すご、い! これが…………ギデオンさんも見、ひゃっ!?
890:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-18 00:54:56
ッ、おい、気を付け──……
(外から差す陽に照り映える、あどけない娘の横顔。それを見てくれこそ気怠げにじっと眺めていたものの、突然の揺れに目を大きく見開いたのは、ギデオンもまた同じ。──それでも、籠手付きの手を咄嗟に伸ばして娘の頭をどうにか支え。そのまま床から抱え起こす……かと思いきや、その両頬を包み込むようにして後ろから上向かせ、睨むようにして覗き込む。こちらの座席の鋭い角に頭を打ちつけでもしていたら、いったいどうするつもりだったのか。そんな、思えばこの頃から発動していた過保護気味の心配から、剣呑な声を落としたものの。その気配をふと掻き消して馬車の前方を振り向いたのは、馬車が急停止すると同時に、声が聞こえてきたからだ。「ああっ、まずい──止まれ、止まれ!」と。)
(──結論から言うと、幌馬車での旅路はそこで一旦中止となった。先ほど馬車が大揺れしたのは、巨木の根を回り切れずに勢いよく乗り越えたからで、このとき、巨木に絡んでいた寄生植物の太い蔓が、車体の下の複雑な車輪に巻きついてしまったらしい。そのせいで、頑丈なはずの車輪の一部が大きく歪んでしまったとか。帰路での事故を避けるためにも、蔓を慎重に切り離すほか、車輪の部品を新しく替える必要があるそうだ。
それならそれで構わないと、幌馬車の御者と護衛は、この近場の集落にしばらく置いていくことにした。どのみちこの一帯がエジパンス族の住処のはずだし、馬車の入れない鬱蒼とした森林には、冒険者である自分たちだけで分け入っていく必要がある。かれらと一度別れると、ヴィヴィアンとふたりきりでもう一度森に戻った。日が落ちるまであとわずか……野営を構えるその前に、この辺りの様子のことは少しでも知っておきたい。)
(──がさり、がさりと、蜜に絡んだ下生えを踏み分けて、緑の斜面を登っていく。戦士装束に身を包んで遠い山林に繰り出すのは、実に二週間ぶりだった。たかが半月、されど半月……特にこの数日を思えば、自分自身が現地に出て自由自在に行動できる、これの何と喜ばしいこと。腰に下げた魔剣の重み、そして肺にたっぷり吸い込む森の大気は、こんなにも心地良くしっくりくるものだったろうか。
ベテラン戦士のあるべき姿として、大コスタに近い森を慎重に見渡しつつも、普段は澄ました薄青い目は、どこか生き生きと、少年時代に初めて遠征に出た時のように揺れ動き。時折相手を振り返って声をかけるその響きにも、どこか寛いでいるような、のびのびした気配が乗って。)
……、気になる薬草を見つけたら、好きに採集するといい。集落の許可はとれてるし……お前も土産が欲しいだろう。
891:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-22 22:01:01
…………!
( 獣道すらない原生林を、数歩先に行くギデオンに促され、初めてその広い背中と横顔に、自分が見蕩れていた事に気が付く。いくら歴戦の勇士と云えど、必要性がなければ危険な前線より安全地帯を好むのが、生き物としての人間の性ではなかろうか。それが目の前の男ときたら、人の手が及ばぬ魔獣共のテリトリーに怯むどころか、ごく自然にギルドの会議室にいた時より、よほど強い生気に満ち溢れる様子を目の当たりにして──これが、この人が、冒険者ギデオン・ノースなのだ、と。思わず瞳を奪われたのは、この数ヶ月"ハマって"いる戯れとは関係の無い素直な畏敬だ。そんな深い緑を取り込んだ薄青を此方に向けられて、一瞬驚いたように目を見開き、無言で唇を震わせれば。 )
……いいえ。私も──いえ、目の前の仕事に集中させてください。
( "私も、貴方のようになりたい"と、唐非常に突な、そして口にするのも烏滸がましい目標を飲み込み、改めてぐっと引き締め直すと。もしその様子を不思議そうに見つめられれば、「お土産でしたら、帰った後ギデオンさんがしっかり休んでくだされば十分です」と、小首を傾げる仕草こそ可愛らしくも強かに、当初の要望を強くねじ込むことも忘れずに。
そうして当初の計画通り、エジンパス族の森を何処か目的地でもあるかのように歩き回ること暫く。ビビがその違和感に気がついたのは、森の精霊たちがにわかにざわめき始めた時だった。そもそも植物性の精霊は概して警戒心が強いにも関わらず、この森では侵入者であるヴィヴィアンらの足音に、興味津々で近づいては時たま木陰からぴょこりと顔を出す者まで。つまり、普段彼らを脅かす木こりが入って来れない人ならざるものの領域で、その鈴を転がすような笑い声がピタリと止んだのを感じ取れば。果たして、尊敬する相棒と目を合わせたのはどちらからだったか、 )
──……ギデオンさん。
892:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-26 00:44:34
──……“この辺りみたいだな”。
(魔力の豊富な相手と違い、ギデオンの目に精霊は視えない。それでも森の気配が変わり、かれらとは違う何者かに囲まれだしたと気がつけば、振り返った薄青い目にいっそ愉快な色すら浮かべ、悠然と一芝居を。盗人亜人エジパンス族は、人間世界に本能的に興味を持つその性質上、人語を解することができる。当然、こちらに忍び寄っては、その会話に聞き耳を立てて注意深く窺うだろう。それを逆手に取ってしまえば、嘘を信じ込ませることだって、こちらにとって容易いわけで。
それからの小一時間、ヴィヴィアンと共に野営の支度を進めながら、無防備な調査隊として、如何にもそれらしい会話を垂れ流しておくことしばらく。ふと懐から取り出した、精巧な“処女”のエメラルド碑文。それを魔法で輝かせれば、やはり周囲に潜む気配に、明らかな動揺が波紋のように広がった。──やはり、当たりだ。心の内では拳を固く握り込みつつ、上辺は素知らぬふりを。「朝になったらこいつの続きを捜し出そう」と……まあこれは、こちら側の本懐ではあるのだが、とにかくそう言い交わしてしまえば、あとはいよいよ寝入る様子を装うだけだ。
今宵のうちに、追跡魔法をかけた碑文をわざとかれらの手に渡らせる。その後を追えば棲みかがわかり、盗み出された本物をこの手にようやく取り戻せる。ギデオンのその計画は、本来ならば間違いなくそのように行くはずだった。しかし、そこには誤算がふたつ。……梢の上の雲間から、神秘的な月明かりが煌々と降り注いだこと。そしてそれに照らされたのが、眠るふりをするヒーラー娘、カレトヴルッフの誇るマドンナ──ヴィヴィアン・パチオだったことで。)
(──こちらを囲む亜人の気配が、何やら……妙なものに変わった? ギデオンがそう察知してそっと薄目を開けた瞬間、ざっと顔から血の気が引いた。月光の差す原生林にて、いよいよ姿を現しはじめた、山羊脚の亜人族の群れ。彼らは何故か、すぐそこに置いてある碑文のレプリカに目もくれず、皆が惚けたような──どこか見覚えのある──顔で、ヴィヴィアンの横たわる方へ、ふらふら吸い寄せられていくのだ。
作戦をかなぐり捨てて魔剣を掴み身を起こしたのと、臆病なエジパンス族がびくっとこちらを向くのが同時。何やらみょうちきりんなポーズで固まったものまでいたが、かれらはすぐに我に返ると、途端に激しくいなないてそれぞれ行動に出始めた。──弓矢をつがえてギデオンに放つ者、ヴィヴィアンの杖を盗んで懐に仕舞い込む者、森の精霊に何やら命じて木の蔦を奮い起こさせる者。どういうつもりか知らないが、こちらの読みが大きく外れ、攻撃されていることはたしかだ。斜面の岩を足場にして矢の雨を除けきりながら、杖を盗んだ一頭に雷魔法を叩き込み、肉薄して奪い返したその大切な仕事道具をヴィヴィアンの方へと放る。話し合う暇はない、今は防戦に出なければ。)
──ッ、受け取れ!
893:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-28 13:00:09
──……はい、
( 亜人族達の気配を察知して、思わず固く表情を強ばらせたビビに対するギデオンの返答は、ごくごく自然な違和感を感じさせないそれだった。首都キングストンの冒険者ギルドで、伊達にその上層部に名前を連ねてはいないということだろう。そのまま自然に会話をしているようで、ギデオンの質問や指示にビビが短い相槌を打つといったやり取りを何往復か──これは、大変な人を目標に持ってしまった。せめて足手まといだけにはならないようにせねば、とへこたれそうになる頭を上げ、気を引き締め直したヴィヴィアンに。しかし、その名誉挽回の機会は思ったよりも早めに訪れたのだった。 )
ありがとうございますッ!!
( 汚い嘶きに飛び起きて、ギデオンがとり戻してくれた杖を受け取れば、「触らないでっ!」と、此方へと躙り寄って来る一頭へ先日ジェフリーにもお見舞した一撃を。しかし、瀕死の悪党を沈めた一撃も、山の亜人には大して効いていないようで、叩かれた頭を掻きながら立ち上がる亜人にギデオンの元へと飛び退くと、その途中で──……やった! と。視線だけで確認したのは、後ろに飛び退るその瞬間、迂闊を装って踵で蹴飛ばした革鞄、そしてその弾みに衆目の下に晒された処女タブラ・スマラグディナの贋作で。そうして、無防備にも世紀の秘宝を慌てて拾いに行こうとした娘を止めたのは、頼りになる相棒か、手癖の悪いエジパンス族だっただろうか。 必死──なのは、手強いエジパンス族を目の前にして演技では無い。尚も色呆けした表情で此方へ踊りかかってくる亜人に対し、己の杖を構え直せば。間を置かせずに詠唱するのは、前衛であるベテラン剣士に対するバフ、腕力、体力に対する増強魔法。それも相手に合わせてカスタムした特別仕様で。転がった"餌"を一頭が懐に入れたのを確認すると、背後の相棒と視線をかわし頷いて。 )
ギデオンさん、援護します!!
894:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-02 07:54:28
──ああ、頼んだ!
(魔剣の柄を今一度強く握り直せば、なみなみと湧き上がる底知れない生命力。ここまでしっくり来るバフは、その道およそ云十年の熟練レベルであるはずで、相手と合わせた薄青い目を、面白がるようにふっと狭める。──ワーウルフ狩り、ファーヴニル狩り、アーヴァンク狩りに呪傷の治療。相手の支援を受ける機会は、これまでたしかに幾度かあった。しかし決して多くないし、己と彼女が組みはじめてから、まだ二ヵ月も経っていない。それだというのにこの娘は、既にギデオンの身体を読みきり、的確な支援魔法を最高効率で寄越してくれる。前衛の戦士にとって、それがどれほど快いことか。
──襲い来る蔦を足場に天高く躍り上がり、月を背に大きく反転、そこから一直線に落下。右手の魔剣の切っ先を稲妻のように閃かせ、力強く着地すれば、こちらを狙って蠢いていたこの森の巨大な蔓が、数秒の遅れを持ってばらりばらりと裂けていく。眺めていたエジパンス族たちに「!?」と走る動揺の波。かれらが皆一様に蹄を一歩下がらせた、その中央で立ち上がるこちらのほうは、まだ戦るかというように軽く不敵な笑みを浮かべて。ここでようやくエジパンス族も、稀代の天才ヒーラーの支援を受けた魔剣使いが、たった単騎でどれほどの脅威になるか、呑み込み始めてくれたようだ。リーダーらしき一頭が大きな震え声で嘶き、皆森の下闇に飛び込んでの一斉退却が始まった。このまま一度逃がしてやってもこちらは問題ないのだが、しかし一応、手持ちの碑文を盗まれたというふりは貫かねばならない。「ヴィヴィアン!」と相手の名を呼び、最低限の荷を回収して共に同じく闇へ繰り出す。
──駆けるふたりを照らし出す、木々の根に茂る夜光草、時折差し込む月明かり。先を行くエジパンス族は小癪なルートを選ぼうとするが、冒険者であるギデオンたちは、そもそも身体能力がそこらの常人と桁違いだ。時折待ち受ける障害ですら、己の魔剣か彼女の杖が容易く無力化してしまうから、こちらを振り向くエジパンス族がぎょっと二度見をするのが見える。それを受けてふっと笑うと、真横の娘にちらりと目を向け、息も乱れぬひと声を漏らして。)
ヴィヴィアン──……楽しいな。
895:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-10 19:41:53
──……!
はいっ!! とっても楽しいです……!!
( ギデオンの発言に一瞬、思わず反応が遅れたのは、その内容があまりに予想外だったからだ。人の領域外れた危険な森で、屈強な亜人と対峙しているとは思えない単語に目を瞬き、そもそもこの件が起こった経緯を考えれば。決して楽しいだなんて言えない──言ってはいけない、不謹慎だとさえ思うのに。ギデオンの言葉を咀嚼するほど、それ以外の言葉で今の気分を言い表すことができず、くしゃりと満面の笑みで頷いて。これは相手に任せたいと思う前に太い草蔓が木っ端微塵に切り裂かれ、これは自分で対処した方が早いと描いた軌道は邪魔されない。相手の呼吸が、鼓動が、魔素の流れが、手に取るようにわかる、まるで自分の何十倍も強く賢い相手が自分の身体の一部になったような一体感といったら。しばらく続いた追いかけっこも終盤、山羊亜人達がほぼ垂直に近い崖を逃げていく様子に、ここらが一旦潮時だろうと脚を緩め。まろい頬を薔薇色に上気させ、華奢な肩を小さく上下させながらギデオンの方へ振り返れば。 )
…………すごい、スゴイすごいっ!!
なんで!? 私の考えてること、ギデオンさん全部ご存知だったんですか!?
グンッてやったらバァンッてなって……気持ち良かったぁ、ありがとうございます!!
( きゃあっとその場で飛び跳ねるヒーラー娘の瞳には、ベテラン剣士への深い尊敬が満ち溢れ、未熟な自分に相手が合わせてくれたのだろうと、まず微塵も疑わない様子で栗色の尻尾を振りたくれば、擬音過多な感動を爆発させ。そうして、尊敬する相手に改めて、自分も役に立たねばと目を細めれば。深い懸崖の下、鬱蒼と茂る森の中でも、事前にかけておいた探索魔法の魔素が辿れることを確認すれば。今後の作戦を確認しようと、再度ギデオンの方を振り返り。 )
まずはあの人達が住処に帰るのを待たないとですよね。
ばっちり魔素は追えてますから、今度は私に任せてくださいね……
896:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-12 10:46:39
っくく、ああ──頼りにしてるぞ。
(わくわく張り切る娘を前に、とうとう堪えきれなくなって籠手を口にやり吹き出しつつも。その声を和らげてふと穏やかに投げかけたのは、薄青い目に滲ませる紛れもない感心だった。──いやはやまったく、大したものだ。相手はまるで、ベテランであるこちらが全て合わせたように言ってくれるが、あらゆる動きがしっくり噛み合い、全てが自由に無限に叶う……そんな不思議な一体感を得られていたのは、ギデオンもまた同じ。こんな感覚、それこそ十年以上前に、同じ魔剣使いの“相棒”がいた頃が最後だったと思っていたが。……この春から始まった妙なあれそれを差し引けど。この元気な若手ヒーラー、後輩ヴィヴィアン・パチオとは、どうも相性が好いようだ。
──ギデオンのその確信は、それから続く碑文奪還の任務の上でも、ますます深まる一方だった。翌朝早くに森に分け入り、エジパンス族の巣窟に突撃しての大暴れ。その一部始終において、戦士とヒーラーのふたりだけでここまで掌握できるものかと思わず苦笑してしまったし、何なら近場の集落が盗まれた財産もついでに取り返した次第。しかしさらに優れていたのは、ヴィヴィアンの機転により、なんとこの亜人族をやっつけるだけでなく、周辺の同類含めた一定の協定さえ、魔法で結ばせてしまえたことだ。……奴らはどうも、いつぞやの川のあの迷惑齧歯類同様に、稀代の乙女ヴィヴィアン・パチオの虜になってしまったらしい。故に、人類が追い求める錬金術の奥義より、かのヒーラーが作りだした世界に唯一の贋作の方が、よほどプレミアと思ったようで。仕方なく、彼女がマテリア・プリマの節を消して己のサインを上書きすれば、大歓喜するエジパンス族のまあなんとも鬱陶しいこと。これで平和になるならいいか……と、ヴィヴィアンが眉を下げる一方。ギデオンの方と言えば、すっかり懐いたふりをしてヴィヴィアンに撫でられている十数頭のエジパンス族の幼獣に、相次いで渾身のドヤ顔を見せつけられる羽目となった。──そうだ、そういえば。奴らは本来、“他人の所有する”価値ある財産に高い価値を見出すという、捻じれた性根の生きものである。ヴィヴィアン絡みで何だか妙に改心したと思ったら……いや待て、何故奴らがにやにや見るのが俺なんだ、と。ギデオンがうっすら駆られたその複雑な心境を、野性的な亜人族こそが余程的確に捉えていたとわかるのは……しかし一年後の話。)
(──ともかくこれで、失われていた人類の秘宝、タブラ・スマラグディナの一片は、無事人類の手に戻った。近隣の牛追い祭りは、近場の集落への財産返還の手続きであいにく逃がしてしまったが、ギルドのある王都でもまもなく祭が始まるから、ヴィヴィアンもそう惜しい思いをしつづけないで済むだろう。
戻った碑文の行く末は、ギルドマスターから学院経由で、外部に委ねることとなった。ガリニア絡みということでなかなか大事ではあるが、向こうの客員教授であるヴィヴィアンの父ギルバートが、その辺りはかなり慎重に根回しをしてくれたらしい。しかし同じ教授でも、カレトヴルッフ相手にごねた元のクエストの依頼人、あのローゼン・クロイツァーに内通している老人は、何やら余罪も出てきたことで、王立憲兵団の取調室に強制移送されたとか。これだけ迷惑をかけられたのだ、奴の企みのあらましをこちらも知りたいところだが……しかしこの事情についても、ギデオンたちが聞き知るのは、やはりしばらく後となる。
──騒ぎを招いた張本人、マルセルとフェルディナンドは、今日も元気にギルド厩舎の馬糞の処理を担当中だ。連日ひいひい喘いでいるが、こればかりは仕方ない。かれら皺寄せに翻弄されたギルド幹部の望みときたら、どうせ自分たちの休みはまだまだ先になるからと、いつもギルドを支えている掃除夫や見習いたちに休暇をやることだったのである。棚ぼたの褒美を得られた彼ら一同は大喜び。うだる暑さを迎える前に、家族や友人とのひとときで羽を伸ばせることとなった。)
(──そうしてカレトヴルッフに、盛る夏を迎える前の静けさが戻ってきた頃。しかしギデオンはと言えば、カレトヴルッフ本舎四階・執務室の横にある、あの休憩室にてひとり、何やら書類を見つめていた。本来事務員でもない人間は閲覧できない代物なのだが、己は一応ランクⅥ、加えて普段携わる業務内容の特殊さから、こういった機密情報に触れる権利を密かに得ている。……それによれば、あの溌溂とした若い後輩、ヒーラーヴィヴィアン・パチオには、ギデオンの知らぬところでいくつか苦労があるようだった。
──端的に言えば、彼女が加入している保険が、今は不完全なのだ。キーフェンなどに比べればこれでもかなりマシではあるが、この国トランフォードもまた、女は男の署名がなければ得られぬものが山ほどある。保険周りもそのひとつで、これは元々彼女の父ギルバートが署名をきちんと付していたが、彼がガリニアで勤める間に、更新するべき数々がすっかり放置中らしい。忙しいあの方のこと、愛娘の身のことは誰より案じているはずだが、こういった些事については失念しているのだろう。とはいえ先日の娘の手紙に即刻返事を寄越したように、あまりにも忙しくて知らせが届かぬわけではない。……おそらくはヴィヴィアンの方が、自分自身に関することでは連絡を取れずにいるのだ。
とにかく問題は、今もおそらく書類周りで面倒が生じている上、もし万が一のことが起これば、あの明るく元気な娘が、かなりの不利益を被ってしまうということ。これは完全にプライベートな事情であり、上司が立ち入るべきでは無いが、一度知ってしまったからには、今更見過ごすことはできない。……以前から考えていたことは、やはり実行に移すべきだな、と書類から顔を上げたのと、コンコンと控えめなノックの音がしたのが同時。「入れ」と促しながら、保険の書類は脇へ仕舞って。)
897:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-14 01:31:40
( 時を遡ること約一週間、様々な感動に満ち溢れたガダヴェルでの大冒険が始まる数日ほど前。若手ヒーラー・ヴィヴィアン・パチオは、密かに胸を高鳴らせていた。それは、帝国魔導学院から届いた協力要請の書面とは別にもう一通、とある手紙が娘の元へと届いていたからだ。今回協力を仰いだガリニアの学者──もとい、ヴィヴィアンの父親にあたるギルバート・パチオから、一人娘に当てた一通の私信。流行の薄紙を使った便箋には、お堅い時候の挨拶や今回の事件についての個人的な主観の他、"久しぶりに顔が見たい"、と。忙しいパパが、私に、会いたいと!! この話の流れだ、魔導学院からギルドへ協力しに来てくれる代表者はパパなのだと──てっきり、そう信じ込んでいた娘の下を、つまりカレトヴルッフを訪れたのは、顔も知らない歴史学者の青年だった。
とはいえ、彼個人の名誉の為にいうと、学者の仕事は非常に素晴らしかった。盗まれた碑文が、いつどこで出土した代物なのか、確かな文献とともにあっさり提示し、ついでに“薔薇十字原理教団”が多用する管理魔法の痕跡さえ、捜査の証拠として正式に使える形式で並べられては誰もが感心するしかない。あとから話を聞けば、今の帝国では右に出る者はいないと謳われるその道の第一人者ということで。ギデオンらの活躍をもって尚、彼の存在がなければこんなに早い事態収拾は望めなかったであろう大物の出国を、よくもあの帝国が認めたものだと、カレトヴルッフ側が感心していた時期を同じにして。そんな彼の出国に一番大きく貢献した大魔法使い、愛する娘が自分を頼ってくれたことに、密かに浮かれ回っていたギルバート・パチオが──例の私信を出すに至った、それを進めてくれた研究助手から、「そうじゃないでしょう!」と。何故アンタが行かなかったのか、「娘さんに"会いたい"って、今度こそ書けたんでしょう!?!?!?」と、持ち前のコミニケーション下手をボコボコに叩かれていたのは別のお話。 )
…………。
( 閑話休題。カレトヴルッフに激震を走らせたタブラ・スマラグディナに纏わる一連の事件が収束し、いつも通りの日常が帰ってきたギルドにて。此度大変お世話になった教授に感謝を伝え、辻馬車の駅までお見送りから帰還したヒーラー娘は、普段元気よく揺れている尻尾をしょんぼりとさせ、とぼとぼと長い廊下を歩いていた。──忙しいって、わかってたのに。普段滅多に個人的な連絡を寄越さない父からの手紙に、ただの社交辞令を真面目に受け取ってしまった自分が恥ずかしい。子供じゃないのに、こんなことで落ち込んで、会いたかったのは、あんなにお世話になった教授じゃ無かったなんて失礼だ。そうして、ふ、と自嘲を漏らし──いけない、と。暗い気持ちを物理的に振り切るように首を振れば、ぱたぱたと真っ直ぐ走り出した先は、ドクターのおじ様に聞いた"彼"の居場所。こんな酷い気分の時は、誰か他の人に構いつけ、忙しくなってしまえば自分の事など忘れてしまえる。そんな破滅的な思考を自覚していた訳ではないが、担当治療官として任務後の相手の体調は、他意なく確認しておきたかったところ。ワーカーホリックな相手のことだ、もたもたしているとすぐ様次の依頼に向かってしまう前に捕まえなくてはと。ノックの返事を待って勢いよく部屋に飛び込めば、いつもの通りの人懐こい笑顔で擦り寄って。 )
お疲れ様です、ギデオンさん!
今先生を送ってきたんです……あれから傷の調子は如何ですか?
898:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-14 14:45:24
ああ、いや……まったく問題ない。
おまえの狙い通り、新しい調合が効果を発揮しているらしい。
(てっきり伝令の見習いか誰かだろうと思っていたその矢先、まさか思い描いていたヒーラー娘本人が飛び込んでくるとは思わず。一瞬大きく目を瞬き……とはいえ動揺を隠すべく、すぐにいつもの気怠げ顔を。「来週もまた調整して、それで問題がないようなら、外部の精密検査には行かなくて済むようだ」──と、それで時間が浮くことのほうをありがたがるような口ぶり。しかし実際、相手の全てにつくづく感謝しているのだと、擦りつく娘を以前ほどは遠ざけずにおくことで、多少は示せているだろうか。)
今回の件、改めて助かった……おまえがうちにいるんでなけりゃ、もっと大事になってただろう。
(ため息交じりにそう言いながら横の椅子に座らせて、これを見ろ、と促したのは、丸テーブルに広げていた今朝付の新聞だ。窓から差し込む夏の陽で明るく輝くそれによると、なんでも隣国ガリニアが、自国の古代の歴史に関わる美術品の流出を巡り、北方の周辺国と火花を散らしているだとか。……もしトランフォードのほうでも、碑文と先住民の件でひとたび狼煙が上がったならば、この記事に書かれているのと似たような厄介ごとが膨れ上がっていただろう。事態が大きくなる前に碑文そのものを回収し、それを誰より適格なガリニア人の手に渡す。ただひとつの正解をここまで早くこなせたのは、偏にパチオ父娘のおかげだ。
──しかしそのギルバートは、今もあちらの学院にいるまま。今回こちらに寄越してくれた歴史学者がおそらくはそうしたように、特権でも何でも駆使してワイバーンに乗ってくれば、ほんの一週間もかからずこちらに戻ってこられるだろうに。とはいえ、なかなかそんな時間も建前も取れないお立場なのだろう。そしてヴィヴィアンのほうもまた、契約の更新の件を長らく伝えていないとなると──……と。
相手が読み終わったと見て新聞を四つ折りにすれば、その下から現れた数枚の羊皮紙を、相手のほうにふと滑らせ。とんとん、と指の頭で空欄を指し示してがら、胸ポケットから取り出した少し特殊な羽ペンをテーブルの上に置く。──本人が少し魔素を込めれば、それが中のインクに混ざる公文書用の羽根ペンだ。通常、ギルド内の報告書にわざわざ使う代物ではないが、今はそれしか持ち合わせがないんだ……というような声の調子で通しながら、他にも広げていた書類を封筒に纏める間。相手が目を通す書類の最後、クリップで留められた少し紙色の違うそれらは、既にギデオンの署名が為された、『魔獣討伐者身元保証書』『第2号連帯保証書』『一通扶助新規適用届』……等々であるはずで。)
ついでだ。今回の件で俺が出さなきゃならない書類にいくつかお前のサインがいるから、ここで書いていってくれ。
899:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-16 03:27:41
そんな……私自身は大したことは何も。
でも、ギデオンさんのお役にたてたなら嬉しいです。
( 相手の体調の確認も済み、大好きな相手からの感謝に、えへへ、と促された椅子に手をかければ、長い脚を斜めに引き美しい仕草で腰掛けて。そうして、受け取った記事に、ギデオンからの評価を実感し、じわりと頬を赤く染める一方で、形の良い眉尻を八の字に下げ、「大事にならなければ良いんですが……」と、自分らが免れた不穏を他人事として、僥倖だったと切り捨てられないのは性分だろう。どこか複雑そうな表情で、読み終わった新聞を返しながら、代わりに差し出された書類に「サイン?」と小さく身を乗り出せば。慣れた動きで魔導率の良いペンをふわりと浮かせて引き寄せると、椅子ごとテーブルの方へと向きを変え、長い睫毛を揺らしながら、また小さい文字の並んだ書類を、特に苦もなく目を通していき。 )
…………。……!!
ギデオンさん、これ……!!
( そうして、まずは一枚目、それから二枚目の『魔獣討伐者身元保証書』と『第2号連帯保証書』に視線を滑らせていた時は、まだ困惑しつつも悪くなかった顔色が、『一通扶助新規適用届』に至った瞬間、さっと薄く青ざめる。本来であれば、『相棒届』に対しても、何故こんなに唐突にだとか、人の承諾を得る前に申込もうとしてくれるなだとか、そもそも勝手に人の情報に当たるなでも。ギデオンの少し(?)行き過ぎた行為から守るべきは自分の身だったろうに、問題の書類を見た途端全て吹き飛んでしまい、思わず立ち上がりながら、必死の表情でギデオンの方へ向き直り。 )
違うんです!!
パッ……父は!! 元々ちゃんと入ってくれてたんです!!
更新を……更新を、わ、"私が"、忘れてただけなんです!!
( 本当は、違う。ヴィヴィアンはその保険の通知先を、ガリニアのギルバートの住所にしていた。故に約3ヶ月ほど前の更新手続きの書類も、そちらに届いているはずで。しかし、借りぐらしのアパートにまともに帰りつきやしないのか、それとも見た上で失念しているのか。どちらにせよ、忙しい父親に催促するのが申し訳なくて、躊躇っている内に切れてしまった保険を相手に見られたという焦燥が背中を濡らして。たった一人の肉親から、あまり関心を向けられていないだなんて、寄りにも寄ってこの人にだけは知られたくない。ましてや、"パパの大切な人を殺した私が悪いのに"、私のせいでパパの評価が下がるのはもっと嫌だ。その一心で、相手の拳を両手でとると、どこか焦点の合わない必死な視線で、父の名誉を守ろうとすがりつき。 )
900:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-21 22:51:04
わかってる──わかってるから、落ちついて聞いてくれ。
(──流石に勘が良いな、などと、取り乱す娘を前にモラルを欠いた感慨を得るも。その上辺の表情だけはいつも通り涼しげなまま、すべらかな手を優しく払い、逆に包み込むようにして、卓上に軽く抑える。会話の主導権を穏やかに絡め取りたいときに、若い頃からよく使ってきた手だ。さらに念には念をとばかりに、椅子の上から身を乗り出し、薄青い双眸で縫い留めるように相手の翡翠を覗き込んで。──そこらのぼんくら冒険者に何か一筆書かせるときは、いいから黙って従えと言いつければそれでよかった。だがしかし、頭脳も学歴も充分なこの若い娘には、同じ手管は通用しない。まずは不安を取り除きながら、ギデオンなりの誠意を……一応ちゃんと嘘偽りではないそれを、感じ取ってもらわなくては。)
いきなりこんなのを出したりして悪かった。……お前の状況を勝手に調べたりしたことも。
だが、こいつは……グランポートから帰ってすぐに考え始めていたことでな。
頼む、この機会に相談させてくれないか。
(乞うようにそう呟けば、そこで一旦視線を外し、テーブルの上の書類にその視線を走らせる。相手がそれに倣おうものなら、空いた片手で滑らせるように扇形に書類を広げ、そのいくつかを引き寄せて、共に向き合うよう誘うだろう。身元保証書、“二号”に“一扶”。この組み合わせだけでただ解釈するならば、相手が青褪めたその通り、まるでこちらが出しゃばって、彼女の父親代わりにでもなろうとしているかのようだ。しかし実際はそうではない。今回ギデオンが持ち掛けたいのは、この申請の先にあるもの。──ヴィヴィアンとの正式な、公的な相棒契約だ。
「今年から、ふたりで仕事をすることが増えたろ」と。敢えて相手と顔を合わさず、重ねていた手もようやくどけて、彼女に考える余地を与える。シルクタウン、グランポート、それから今回の碑文探しと、幾つかクエストを共にする中で、互いを相棒と呼ぶことは、確かに何度かありはした。……だがそれはあくまでも、その都度限りの関係で。毎回パーティーが解散すれば、後はただの一冒険者同士に過ぎず、互いに何の恩恵もない……そのはずだったというのに、しかしふたりの関係が決定的になってしまった部分がある。シルクタウンでのあの夜のことではない。ギデオンがグランポートでレイケルの呪い傷を負い、ヴィヴィアンがその治療を引き受けるようになったことだ。
優しい相手は一も二もなく担当ヒーラーとなってくれたが、それこそが問題だった。今のギデオンの右肩は、天文学的な確率で適合する魔素を持つヴィヴィアンにしか癒せないが、彼女自身による継続治療が欠かせないということは、ギデオンの具合に合わせて、ヴィヴィアンが自分の依頼を調整せねばならぬということ。老兵の世話のため、若い女性冒険者がそのキャリアに制限を受ける……これはよくある話だが、本来ならばあってはならない。これまで業界全体で連綿と続いてきたものを、ギデオンはこの優秀で気立ての良い大事な後輩に負わせてしまいたくはなかった。……よりによって、かつて慕った“シェリーの娘”なら尚のこと。その彼女にどうせ負担を強いねばならぬというのなら、こちらもその分恩返しを。それはごくごく当然の、自然な道理であるはずで。)
……冒険者同士が助け合うための契約には、いくつかの種類がある。俺たちはまだ仕事を組みはじめたばかりだから、本格的な内容のものはまだ承認が下りないだろうが……それでもこの書類でなら、過去の特例を引き出して通せるし、部分的には新しい先例も拓けるんだ。
だから何も、親父さんとお前の問題に首を突っ込むためじゃない。ついでにそこも助けられるなら一石二鳥、というだけで……俺の真意としてはあくまで、この先も今以上に、お前の治療を堂々と頼れる立場にしてほしい、といったところだ。
901:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-25 23:37:11
お気遣い、ありがとうございます……。
( ──また、だ。また、一体この人は何故こうもビビに頼るのに申し訳なさそうにするのだろう。年齢? 性別? 未来の後輩達のための先例作り? いつかの海上でのやりとりを、覚えていてくれているのだろう。ビビの名誉を傷つけないよう、かなり言葉を選んではいるものの。『堂々と頼れる立場にしてほしい』という言葉とは裏腹に。まるで、自分にその価値はないとでも言うかのような。その言葉の本質が変わっていないことくらい、付き合いの浅い自分でも分かる。次第にその卑怯な薄氷が何気なく逸らされた気配に、それまで、大きさも、厚みも、皮膚の薄さの違いからくる触り心地までも、その全てが自分とは違う掌に絡め取られた時から俯いていた視線を上げ、今度は此方から真っ直ぐな翡翠で相手を射抜き返せば。__やはり目の前のギデオンは今日だって一段と美しい。いや顔立ちの話だけではなく。人一倍の長身に見合った素晴らしい体格、剣を握るための形をした大きな掌、それら全てが見かけだけではない、実際に人々を守ってきたそれだと言うことは、キングストンの誰もがよく知っている。そして、その恵まれた腕力を司る理知的で、理性的な頭脳。まるで神話の英雄のようなどこをとっても精悍で、その存在を脅かせる物などないほど強く、賢く美しい大男だというのに、そのどこか非常にアンバランスで、ともすれば簡単に突き崩してしまえそうな危うさに目が離せなくなっていたことに、この時はまだ無自覚だった。
とはいえ、そんな娘にとって、男から『頼れる立場にしてほしい』と、合法的にこのベテラン剣士に纏わりつける口実、もとい言質を抑えられたのは僥倖だ。自らの衝動の理由も自覚せぬまま、これでこの人をぬい止められるなら良いと。そう思えば、ビビの身上に、相手のサインを載せられる余白があったこと、保険に不備があったことはラッキーだったのかも。なんて、そんな内心の嘯きは、心の傷を癒すための強がりだったが。「確かに、この契約を結んでいただければ、私はすごく助かります。それで私以外の誰かの助けになれるなら、おっしゃる通り一石二鳥で、光栄です──」と。そこで、音を立てながら椅子を引き、すっくと立ち上がると同時に、今度は相手にやり込められぬよう、男が立ち上がる経路を塞ぐかのように上半身を乗り出し、相手の瞳に写る自分の顔が見えるほどの至近距離で見つめ返せば。これだけはなんとしてでも伝えたい、伝えなければならないことを。非常に堅い意志にそのエメラルドをギラギラと強く光らせて。 )
__でも。
私がギデオンさんを治療するのは、女だからでも、若いからでも、契約のためでもありません。
私が、ギデオンさんをそうしたいから、するんです。
ギデオンさんのことが、好きだから!!
902:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-26 04:22:47
(自身の心の持ちようにどこまでも無自覚な、ギデオン・ノースにしてみれば。相手の娘、ヴィヴィアン・パチオのその剥き出しの愛の台詞は、酷く唐突に聞こえたはずだ。何をいきなり、なぜそこに話が戻る、何をそんなに必死な面で。本来そんないろいろを、目を瞬いた上の眉間に皴のひとつでも寄せながら、ため息交じりにぼやくつもりが……しかし、実際のギデオンはちがった。その気配こそうっすらとだが、静かに凍りついていたのだ。
引き戻される──否応なく──もう二十五年も前の、色褪せたはずのあの夏に。もう遠い記憶の向こうで霞んでいたはずのあのひとも、今ここにいるヴィヴィアンと同じことを言っていた。……いや、違う。あのひとの目は違う。たとえよく似た翠緑だろうと、恩師シェリーの瞳には、こんなにぎらぎら燃え盛る眩い激しさはなかったし、こんなにギデオンただひとりにがむしゃらな顔もしちゃいなかった。あのひとはもっとずっとおおらかで、穏やかで……けれどいつも、どこか少し哀しげで。その陰を隠した笑顔からずっと目を離せずにいたのは、ギデオンの方だというのに。彼女は酒焼けでしゃがれた声で、それでも……心底愛おしそうに。
──ギデオン。
アタシがアンタの面倒を見るのは、ギルドにやらされてるからでも、雑用係が欲しいからでもない。
アンタのことが可愛くて、そうしたいから、そうするだけなんだよ。
アンタのことが、大事だからだ。)
────……
(──しかし、それでもかろうじて。表に現れる動揺は、頼りなく揺れ動く薄青い双眸のみだった。それが一度横に逸れ、どこへともなく落とされたのは、ともすればきっと、ただ単に相手の言葉に心が動かされたように見えもすることだろう。それはあながち間違いではないのだが、しかしこの時のギデオンは、もっと深くにあるものを見過ごしてしまうべく、それを装うことにした。──拳を上に持っていき、彼女のまろやかな白い額を軽く小突くふりをして、ふわりと仕方なさそうに笑う。これはあくまでこのふたりの会話だと、自分に言い聞かせるように。)
……言ったろ、「お前を頼りにしてる」って。
ちゃんとわかってるから、そう心配するな。
903:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-30 01:17:20
……信じてますからね。
( ──ああ、全く本気にされていないな。こういった時、説得力に欠ける自分の社会経験の無さがもどかしくて、むうと唇を尖らせつつも、上半身の距離感を正常に起こした娘にはまだ、相手の密かな動揺の真意は読み取れなかったらしい。それでも、『“お前を”頼りにしている』と言う相手に一旦矛を収めるくらいには、その言葉を嬉しくも感じていたものだから。まもなく来たる建国祭、頼りにするどころか、一人の個人としてさえも認められていなかったと信頼を裏切られ、二人がひどくすれ違うのはまた別のお話。
閑話休題。そうして、手元の書類に再度向き直れば、手元のそれを便宜的な制度と見做しつつも、憧れの相棒届が手元にある感慨に、気づけばため息を漏らしていた。かつて、やはり相棒関係にあった先輩方お二人へ憧憬の念を向け、そんないいもんじゃないと、身寄りのない者同士の利害関係だと切り捨てられて、うすら寂しい思いをしたのはいつのことだったか。この関係だって、あくまでギデオンの負い目を減らすためのギブアンドテイクにすぎないのだが、それを承知の上、密かに幼少期からの夢に浸るくらいなら許されるだろう。──ギデオン・ノースの相棒ヒーラー……なんて。赤く艶のある唇に弧を描き、ヴィヴィアンの署名のために残された空欄の上の欄、男性らしい筆跡で滑る剣士の名をそっと撫で、手に取ったペンに魔力をこめると。窓から吹き込む外の風は、いつの間にか夏らしい雰囲気を纏っていた。)
__……その、私ばかり……じゃなくて。
どう、したら……ギデオンさんにも、喜んでいただけますか……?
( そんなガダウェル山脈でのタブラ・スマラグディナ捜索、及び初めての相棒契約から約一年。その間様々な事件が二人を取り巻き、その関係性に"相棒"以外の称号が加えられても。──優しい相手から貰ったそれ以上に、自分もまた相手のために尽くしたい、という想いはずっと変わらなかった。
とはいえ、まさか本人も、それが褥の上でも対象だとは、自覚していたわけでは決してあるまい。
時分は建国祭直前、救世主の祝日の関係でギデオンとヴィヴィアンのどちらも早く帰りつけた夜のこと。今日も美味しい夕飯に舌鼓を打ち、後片付けも終えたいつも通りの団欒の時間。愛しい恋人の腕の中、ネグリジェから透ける胸元まで真っ赤にした娘の声は、その至近距離をもってしても、消え入りそうにか細いもので。先日、初めて迎えた夜は予想外の事情がきっかけだったが、ギデオンの想いにやっと報いることが出来た満足と同時に、一つ叶えばまた一つと欲が出るのは我儘だろうか。未だ完遂には至らぬ触れ合いに──今度、もしまた誘っていただけたら、と。密かに決めていた勇気を振り絞ると、透きとおった金髪がさらりと隠す耳元へ、震える唇をそっと寄せて。 )
……教えて、いただけませんか、
904:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-30 01:18:04
……信じてますからね。
( ──ああ、全く本気にされていないな。こういった時、説得力に欠ける自分の社会経験の無さがもどかしくて、むうと唇を尖らせつつも、上半身の距離感を正常に起こした娘にはまだ、相手の密かな動揺の真意は読み取れなかったらしい。それでも、『“お前を”頼りにしている』と言う相手に一旦矛を収めるくらいには、その言葉を嬉しくも感じていたものだから。まもなく来たる建国祭、頼りにするどころか、一人の個人としてさえも認められていなかったと信頼を裏切られ、二人がひどくすれ違うのはまた別のお話。
閑話休題。そうして、手元の書類に再度向き直れば、手元のそれを便宜的な制度と見做しつつも、憧れの相棒届が手元にある感慨に、気づけばため息を漏らしていた。かつて、やはり相棒関係にあった先輩方お二人へ憧憬の念を向け、そんないいもんじゃないと、身寄りのない者同士の利害関係だと切り捨てられて、うすら寂しい思いをしたのはいつのことだったか。この関係だって、あくまでギデオンの負い目を減らすためのギブアンドテイクにすぎないのだが、それを承知の上、密かに幼少期からの夢に浸るくらいなら許されるだろう。──ギデオン・ノースの相棒ヒーラー……なんて。赤く艶のある唇に弧を描き、ヴィヴィアンの署名のために残された空欄の上の欄、男性らしい筆跡で滑る剣士の名をそっと撫で、手に取ったペンに魔力をこめると。窓から吹き込む外の風は、いつの間にか夏らしい雰囲気を纏っていた。)
__……その、私ばかり……じゃなくて。
どう、したら……ギデオンさんにも、喜んでいただけますか……?
( そんなガダウェル山脈でのタブラ・スマラグディナ捜索、及び初めての相棒契約から約一年。その間様々な事件が二人を取り巻き、その関係性に"相棒"以外の称号が加えられても。──優しい相手から貰ったそれ以上に、自分もまた相手のために尽くしたい、という想いはずっと変わらなかった。
とはいえ、まさか本人も、それが褥の上でも対象だとは、自覚していたわけでは決してあるまい。
時分は建国祭直前、救世主の祝日の関係でギデオンとヴィヴィアンのどちらも早く帰りつけた夜のこと。今日も美味しい夕飯に舌鼓を打ち、後片付けも終えたいつも通りの団欒の時間。愛しい恋人の腕の中、ネグリジェから透ける胸元まで真っ赤にした娘の声は、その至近距離をもってしても、消え入りそうにか細いもので。先日、初めて迎えた夜は予想外の事情がきっかけだったが、ギデオンの想いにやっと報いることが出来た満足と同時に、一つ叶えばまた一つと欲が出るのは我儘だろうか。未だ完遂には至らぬ触れ合いに──今度、もしまた誘っていただけたら、と。密かに決めていた勇気を振り絞ると、透きとおった金髪がさらりと隠す耳元へ、震える唇をそっと寄せて。 )
……教えて、いただけませんか、
905:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-01 02:46:09
(時が経つのは早いもの。あの後やがて訪れる波乱のひと夏から一年、そしてサリーチェに越してきてから数間ほど過ぎた今。すっかり住み良く調えられた宵のリビングルームには、ついに恋仲となったふたり──ベテラン剣士ギデオン・ノースと若手ヒーラーヴィヴィアン・パチオの、他愛ない囁きだけが温かに満ちている。
ともに現役冒険者同士、そう毎日とはいかないものの、たまに過ごせるこのひとときがギデオンは大好きだ。ふたりで選んだソファーの上でヴィヴィアンを膝に抱き、仕事の話やその日の出来事をあれやこれやと話しながら、合間合間にキスをねだってねだられて、笑い合ったり見つめ合ったり。これ以上の人生の歓びなんて、この世のどこにあるだろう。そう大真面目に感じていたから、“自分ばかり”という彼女の台詞に、どこかあどけなく見えるほどきょとんとした顔を差し向け。いったい何を、と軽く問おうとした、しかしまさにその瞬間──油断していた耳元に、この清艶な爆撃である。)
────……、
…………、、、
(わかりやすくたっぷりと、愕然と目を瞠ったのち。すっと教会の信者のように敬虔な顔をしたかと思えば、天を仰いで目を閉じるなり息を止めて押し黙る、珍妙な反応のギデオン・ノースがそこにいる。この衝撃のやり過ごし方もかれこれ数度はしているはずで、ずっと傍にいる恋人もそろそろ見慣れてくる頃だろうか。「おまえな……、」と仰いだまま参ったような声を漏らすと、相手に回していた腕をぐっと力強く狭めて、真っ赤になって震える恋人を力いっぱい抱きしめてやる、これもいつものお約束。相手がどんな反応をそこで示してみせたにせよ、溜飲を下げるように大きな唸り声を漏らせば、ようやく少し腕を緩めて、見上げてくるエメラルドをじっくりと見つめ返す。──もう他の誰とも重ねない、ヴィヴィアンだけのその輝き。今はおずおずと揺れるそれがもっとよく見えるよう、軽くかかった横髪を片耳にかけるそのまま、その可愛らしい耳朶の端をかすかに擽る悪戯を。しかし続けたその声は、相手の望みに寄り添うように、こちらも湿度を帯びたもので。)
そういや、あれからお互いなんだかんだと忙しくて、すっかり間が空いてたものな。
……あの痕も、もう……?
906:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-01 03:01:10
(時が経つのは早いもの。あの後やがて訪れる波乱のひと夏から一年、そしてサリーチェに越してきてから数間ほど過ぎた今。すっかり住み良く調えられた宵のリビングルームには、ついに恋仲となったふたり──ベテラン剣士ギデオン・ノースと若手ヒーラーヴィヴィアン・パチオの、他愛ない囁きだけが温かに満ちている。
今はヴィヴィアンが段階的に復帰しつつも療養中、加えてギデオンも内勤が多く帰りやすいこともあり、共に過ごせるこのひとときが己は心底大好きだ。ふたりで選んだソファーの上でヴィヴィアンを膝に抱き、仕事の話やその日の出来事をあれやこれやと話しながら、合間合間にキスをねだってねだられて、笑い合ったり見つめ合ったり。これ以上の人生の歓びなんて、この世のどこにあるだろう。そう大真面目に感じていたから、“自分ばかり”という彼女の台詞に、どこかあどけなく見えるほどきょとんとした顔を差し向け。いったい何を、と軽く問おうとした、しかしまさにその瞬間──油断していた耳元に、この清艶な爆撃である。)
────……、
…………、、、
(わかりやすくたっぷりと、愕然と目を瞠ったのち。すっと教会の信者のように敬虔な顔をしたかと思えば、天を仰いで目を閉じるなり息を止めて押し黙る、珍妙な反応のギデオン・ノースがそこにいる。この衝撃のやり過ごし方もかれこれ数度はしているはずで、ずっと傍にいる恋人もそろそろ見慣れてくる頃だろうか。「おまえな……、」と仰いだまま参ったような声を漏らすと、相手に回していた腕をぐっと力強く狭めて、真っ赤になって震える恋人を力いっぱい抱きしめてやる、これもいつものお約束。相手がどんな反応をそこで示してみせたにせよ、溜飲を下げるように大きな唸り声を漏らせば、ようやく少し腕を緩めて、見上げてくるエメラルドをじっくりと見つめ返す。──もう他の誰とも重ねない、ヴィヴィアンだけのその輝き。今はおずおずと揺れるそれがもっとよく見えるよう、軽くかかった横髪を片耳にかけるそのまま、その可愛らしい耳朶の端をかすかに擽る悪戯を。しかし続けたその声は、相手の望みに寄り添うように、こちらも湿度を帯びたもので。)
そういや、あれからお互いなんだかんだと忙しくて、すっかり間が空いてたものな。
……あの痕も、もう……?
907:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-04 01:57:01
(あの後やがて訪れる波乱のひと夏から一年、そしてサリーチェに越してきてから数週間ほど過ぎたその晩。明日も午後まで休みだからと、少しばかりの“夜更かし”に恋人を誘ってみたのは、今度は初心な乙女ではなく、こなれた男のほうだった。
鉄と何やらは熱いうちに……なんて、往年のその考えが微塵もないとは言わないが。こちらは肌着を脱ぎ捨てて広い背中を晒しながらも、相手の可憐な砂糖衣は未だ剥がずにいる辺り、一応今宵のギデオンとしては、前回程度の戯れで満足するつもりでいたのだ。──剣だこのある掌で彼女のすべらかな肌に触れれば、ぴくり、と強張るその感触から、その先の行為には未だ恐れがあるのだろうと推察するのは難くなかった。だがそれでいて、それでも一歩踏み出す程度に、彼女側なりの動機がどこかしらにあることも。
ならばせめて、元凶たる過去の記憶が、少しずつでも自分とのそれで薄らいでいけばいい。いつまでも十代の頃の男の影を引きずらせてなるものか、今の彼女の身も心も己が安心させてやろうと。そんな殊勝な──もとい、至極単純な心意気で彼女を優しく啄んでいた、その矢先のことである。)
…………どう、って……、
(耳元に吹き込まれた精一杯の懇願に、一瞬ぴたりと固まったのち。ベッドの上で体を傾け、その顔を上げた男は、すっかり熱っぽい顔をして、返す声すら掠れていた。──前回“程度”の戯れ、なんて。そう楽観していたはずが、結局心の奥底では彼女との睦み合いを渇望していたせいだろうか。その頬に、額に、肩に、腕に、あらゆる場所にキスを落として時折鼻梁を摺り寄せるだけで、何故かこちらが多幸感でぼんやりしはじめ、頭の奥がとろりと蕩けて、この体たらくという始末である。それを幾らか誤魔化すのように、どこか番の獣じみた動きで相手の肩に顔を寄せ、ぱくぱくと軽く食んでから。そのまま厚い胸元に相手の頭を抱き寄せ、シーツの下の脚を絡め、その栗毛を撫でながら、低い小声で囁いて。)
……今だって、喜んでるさ。
それとも何か……何がしたい……?
908:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-06 14:09:20
……っ、う、嘘……!!
( 首筋を食む唇の柔らかな感触、そこから漏れる熱い吐息。それら全てを拾って強ばる娘のその表情は、あどけない困惑に濡れていた。私は何もしてないのにと、翻弄されるばかりだった初夜を思い出しては唇をもにょもにょと尖らせ。振り絞った勇気を、まさか相手が問い返してくるとは思ってもみなかったという表情で、シーツの上で身動ぎもできないまま、腹の辺りでネグリジェを握り込むと。二人のコミュニケーションの果てに、より深い交わりとして楽しむギデオンと、未だその行為を物理的な接触としてしか捉えられていないヴィヴィアン、その経験差から来るすれ違いに困ったように眉を下げ。その挙句、何って──手、とか、胸とか……!? と、なまじ中途半端に備えた知識故に、生々しく迷走し出す思考にぐるぐると目を回し、オーバーヒートして真っ赤になった顔を両手で覆い隠すと。ひん、と頼りなく喉を鳴らしながら、分厚い胸板に丸い頭を擦り寄せ。覚悟を決めたようにぐっとあげたエメラルドの輝きは、あくまで──だから、自分に出来ることを教えてくれ、という健気なお強請りだったが果たして、 )
──……わ、わかんない……。
でも、私、ギデオンさんが喜んでくださるなら……何でも、頑張ります……!!
909:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-07 04:16:31
っくく、ああ、そうか──何でも、だな……?
(彼女を狼狽えさせたのは他でもない己だろうに、それでもこちらに縋るように擦りつけられる小さな頭、またそのぽかぽかと温かなこと。これを世界でただひとり享受できる男ときたら、先ほどまでの顔から一転、今や目尻に皴を寄せ、その上躯を小刻みに震わせてしまう始末である。
しかし今宵のちがうのは、いつもならそこで二、三の言葉を交わしてあとは満足するはずが、そうはならなかったところだ。相手に注ぐ薄青い目に隠しもしない熱を宿せば、「……ヴィヴィアン、」と名を呼びながら、そのすべらかな片頬を掌で優しく包む。彼女がどう応じたにせよ、ナイトランプの薄明りに照らされたヒーラー娘の面差しには、こちらもやはり隠しきれない緊張の色が窺えよう。いつもはごく紳士に振る舞う──ふりに興じる──歳上の恋人が、いよいよ今夜に限っては、ならば先へ進もうとその手を取ってしまうのだから。
とはいえこちらも退く気はない。まるで仔羊のような相手を、仕方がなさそうな愛おしい目でくすりと笑ってみせたと思うと。「おいで、」と囁きながら、腕枕にしていた腕で彼女のしなやかな体を転がし。──そうして、およそ一般的な男女の閨事のそれのように、ギデオンが上、ヴィヴィアンが下……そんな体勢になるかに見えたが。その太い両腕でギデオンがまず導いたのは、ヴィヴィアンが上、ギデオンが下──この初心な恋人に主導権を取らせる構図だ。しかしそれでいて、まずはリードが必要だろうと。見下ろしてくる相手の瞳に、わざと少し気取ったような表情を映しながら、「なあ、それならゲームをしないか?」などと軽い声で尋ねてみせて。)
相手の身体に指文字で名詞を書いて、それを当て合うだけの遊びだ。
ルールはふたつ──一度書くのに使った場所は、それきりもう使わないこと。
それから、指文字を当てられた方は、当てた方の言うとおりにすること。
当然その内容は、その場ですぐに叶えられるものだけだ……どうだ、乗ってみないか?
910:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-07 04:35:35
っくく、ああ、そうか──何でも、だな……?
(彼女を狼狽えさせたのは他でもない己だろうに、それでもこちらに縋るように擦りつけられる小さな頭、またそのぽかぽかと温かなこと。これを世界でただひとり享受できる男ときたら、先ほどまでの顔から一転、今や目尻に皴を寄せ、その上躯を小刻みに震わせてしまう始末である。
しかし今宵のちがうのは、いつもならそこで二、三の言葉を交わしてあとは満足するはずが、そうはならなかったところだ。相手に注ぐ薄青い目に隠しもしない熱を宿せば、「……ヴィヴィアン、」と名を呼びながら、そのすべらかな片頬を掌で優しく包む。彼女がどう応じたにせよ、ナイトランプの薄明りに照らされたヒーラー娘の面差しには、こちらもやはり隠しきれない緊張の色が窺えよう。いつもはごく紳士に振る舞う──ふりに興じる──歳上の恋人が、いよいよ今夜に限っては、ならば先へ進もうとその手を取ってしまうのだから。
とはいえこちらも退く気はない。まるで仔羊のような相手を、仕方がなさそうな愛おしい目でくすりと笑ってみせたと思うと。「おいで、」と囁きながら、腕枕にしていた腕で彼女のしなやかな体を転がし。──そうして、およそ一般的な男女の閨事のそれのように、ギデオンが上、ヴィヴィアンが下……そんな体勢になるかに見えたが。その太い両腕でギデオンがまず導いたのは、ヴィヴィアンが上、ギデオンが下──この初心な恋人に主導権を取らせる構図だ。しかしそれでいて、まずはリードが必要だろうと。見下ろしてくる相手の瞳に、わざと少し気取ったような表情を映しながら、「なあ、それならゲームをしないか?」などと軽い声で尋ねてみせて。)
相手の身体に指文字で名詞を書いて、それを当て合うだけの遊びだ。
ルールはふたつ──一度書くのに使った場所は、それきりもう使わないこと。
それから、指文字を当てられた方は、当てた方の言うとおりに……逆に当てられなかった方は、書いた方の言うとおりにすること。
当然その内容は、その場ですぐに叶えられるものだけだ……どうだ、乗ってみないか?
911:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-08 18:01:21
( 頬に添えられる大きな掌、呼び掛けと共に向けられる真っ直ぐな熱。──大丈夫、この人になら、触られても怖くない。歳上であるギデオンがビビの緊張を、ともすれば内心の葛藤をも見通していた一方で。経験の浅い娘は、そんな相手を信頼して、愛しているからこそ、相手に喜ばれたいという想いで縮こまっていたものだから。優しい呼び声におずおずと寄ろうとしたところを、ぐんと腕枕を持ち上げられると、いとも簡単にころんと軽く転がされてしまって。 )
──ひゃっ……!?
( そうして、不安定な体勢に思わず白い太腿に力を込め、相手の腹筋にしがみつくも。ギデオンの上に自分が跨る体勢に気がつくと、気まずそうな表情でギデオンを見下ろしながら、気になる荷重を膝立ちの要領でもじもじと逃がす乙女心には気づかれたかどうか。少なくとも、ギデオンの提案に──そんなことでいいの? といった表情で、思わず目を丸くしていたあたり、その手の遊び方に縁遠いことは知れただろう。実際に、「……ギデオンさんが、よろしいなら」と、また優しく紳士な相手が、不慣れな自分に遠慮しているのではという疑いを隠さない表情で頷きながらも。ビビの返答に満足気に頷くギデオンに、どうやらそうでもないらしいと、不思議そうな表情で受け入れれば。有利だからと譲ってもらった先攻に──……名詞、めいし、と。お題を探して見渡すことで、無意識のうちに身体の強ばりが些かほぐれ、いつの間にか上手く呼吸が出来るようになっているのだから敵わない。そうして、数秒の沈黙の末、窓の外になにか見つけたように瞬きすると「えっと、じゃあ……お手を」と大好きな手を取り綴ったのは、今まさに窓辺に八重咲きの花弁をたっぷりと広げて咲き誇っている可愛らしい花の名前。白い指先で最後のaを書き終わり、あげた視界に映った半裸の相手に、自分もまた薄いネグリジェという格好をして、ちぐはぐなように思える遊びに戯れるギャップが恥ずかしくてはにかむと、照れ隠しにその手をキュッと握りながら、細い小首を小さくかしげて。 )
さあ……なんて、書いたでしょう?
912:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-09 09:11:58
参ったな。
一問目から難問な上に……こいつは随分な反則技だ。
(しどけない姿の相手が幾重も綻ばす、あどけない愛らしさ──その破壊力たるや。口元を緩めながら思わ唸り声を上げると、繋がれた掌をぎゅむぎゅむと握り返して、この温かなハニートラップに抗議する振りに興じてみせる。しかし相手が解こうとすれば、その手を軽くこちらに引いて、離すことなど許さずに。「何だったかな、」と、寝室の天井を白々しく見上げては、ああでもない、こうでもないと、澄ました顔で思案してみせ。)
サルビアじゃ字数が合わない……ヴァニラでもなかったはずだろ……?
(──本当はその答えに辿り着いていることなんて、こちらもちらりと窓辺に目をやる、その横顔の穏やかさですっかり筒抜けに違いない。たしかそこにあるのは、退院後の静養期間に暇を持て余したヴィヴィアンが、「聖バジリオでの入院中に持ってきてくれた花だから」と、たまの散歩をねだった時に花屋で買っていたものだ。ギデオン自身に草花を愛でる感性はないにせよ、彼女と交わした些細な言葉を忘れてしまうわけもなく。繋いだ手と手をもう一度引き、彼女の真っ白な手の甲に笑み交じりの唇を寄せ、「──……ペチュニア。そうだ、それだろう?」と、正解を吹く込めば。その顔を正面へ、彼女の前に戻した時には、窓から入る夏の夜風を受けながら、もう片方の掌でその小さな頬を優しく撫でて言い聞かせ。)
それじゃあ、さっそく権限行使だ──もっとこっちに、潜り込むくらいの気持ちで寄ってくれ。
そんな風に離れられてちゃ、肌寒くって敵わない。
913:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-10 11:26:33
……え、
( 大好きな恋人がくれる甘やかな触れ合いに、えへえへと嬉しそうに頬を染め、「反則……イヤ?」だとか、「うん、そう、あたり……!」だとか、添えられた手に控えめに頬ずりしながら、たっぷりと甘えていた娘の顔色が、しかし、ギデオンの要求を耳にした途端、心底困ったように曇り出す。それまでは緊張していながらもキラキラと、純粋な愛情に瞬いていたエメラルドが泳ぎだし、リップクリームだけを塗った桃色の唇からはうにゃうにゃと言葉にならない声が漏れる。その表情からは一片の恐怖も見当たらない代わりに。一体何が問題で、何に困るかって。
──ギデオンさんに、重いって思われたくない……!! と。ただそれだけが何より重大な問題なのだ。ゆるゆると浮かんだ臀部を上げて下げて、覚悟を決めかねたようにギデオンを見下ろすと。う~っと幼獣のような唸り声を上げ、紅潮した頬をぷいと逸らして。 )
私もギデオンさんとくっつきたい、けど……
私、身長があるでしょう……他の女の子より、重い、と思う、から……
914:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-12 00:12:35
(いやはやまったく、その仕草のひとつひとつでこちらをきょとんとさせた挙句に、何を言いだすかと思えばこれだ。年頃の娘にとっては文字通り重大だろうが、鍛えた男にしてみれば、それこそ羽根より軽い話。故に苦笑交じりの声で、「気にする必要はないだろうに」と喉を鳴らしてみせるものの。その程度の台詞では、この可愛い恋人の顔が晴れないのだから仕方ない。)
……なんだ。
試しもせずに諦められてしまうほど、俺はヤワななりに見えるか?
(片肘を突く格好で腰から上を斜めに起こし、如何にもこれ見よがしにもう片方の腕を広げて。相手が寄越したその双眸に惜しげもなく披露するのは、布きれ一枚纏わないありのままの己の躰だ。──己が肉体を資本とする冒険者である以上、毎日のように鍛えてメンテナンスしているそれは、歳の割に肌艶がよく、リラックス中の今でさえ程良く隆々と張りつめたもの。多少の自惚れを差し引いたとて、十六も下のヴィヴィアン相手に決して見劣りしないつもり……なのだが。はたしてそれでは不足だったか、なんて弱気な論法は、しかし実際はったりで。その目元を優しく和らげ、伸ばした片手を相手のそれに重ねると、優しい声で説得し。)
お前のその長身は……そのまっすぐな長い脚は、市民の元にいち早く駆けつけるためにあるんだろう。
俺はそれごと、お前のまるごと全部が好きなんだ。
──だから、おいで。
915:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-15 01:43:44
ギデオンさん……、
( 正直なところ、このやり取り上でギデオンからの"重くなんかない"という言葉を期待しなかったと言えば嘘になる。しかし、優しいこの人ならばそう言ってくれるだろうと思った以上の──ビビ本人でさえも、こんなにかけられて嬉しい言葉があるなど知らなかった言葉をかけられて、思わず胸が詰まったように息をのむと。逸らしていた視線を下げ、熱の篭ったエメラルドに相手を映すだけでドキドキと苦しいほどに愛おしさが溢れて堪らず。頬に添えられた手をとり、愛おしそうに口付けしながら、「ありがとう、ございます」と掠れた声で相手に懐けばしかし。それでも普段のように飛びつくこと無く、じわじわと少しずつ慣れさせていくかのように肌を合わせていくあたり、心底本気で己の目方に自信が無いらしい。それでも、ついに長い栗毛を下ろした丸い頭頂部から、その桜色の爪先まで、ぴったりとその体温に溶け合わせると。「わたしもすき、大好き……!!」と、その硬い胸板に頬ずりしながら、つつと目一杯伸ばした爪先でギデオンの踝あたりをなぞり、 )
ギデオンさんの脚も……私よりもっと長いし、腕も太くて……手だって──
( そう先程からずっと繋いでいる片手をにぎにぎと堪能してみせるのは、与えてもらった愛情が如何に嬉しかったかを相手に伝え、あわよくば自分はもっと貴方を愛しているのだと云うことを伝えたかった故。一体全体、私がどれだけ人として、冒険者として、目の前の貴方を尊敬して、信頼して堪らないか。本当にこのまま貴方の身体に潜りこんで、一緒になれたらどれだけ良いだろうか──と。衣擦れの弟と共に硬い胸板にまろい頬をぺったりと付けたままギデオンを見上げ、上目遣いにくしゃりと小さく微笑めば。甘えきった様子で首を縮め、とっくに伝えた、知られているつもりだった真意を漏らしながら、再度その掌甲へと唇を寄せ。 )
──手だって、こんなに大きさが違うんですもの、強引に進めることだって出来るでしょうに……そうなさらないの。
なさらない、貴方だから……応えたいんです。
頑張りますから……待ってて、ね?
916:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-17 02:35:05
……なあ、ヴィヴィアン。そのことなんだが──
(心配性な恋人がやがてすっかり構えを緩め、そのしなやかな全身で己にしなだれかかるのを、これぞ求めた夢とばかりにぬくぬく堪能していた矢先。相手の言葉にふと顔を変え、一瞬思案の間を置いたのち、まるでなんでもないような軽い声音でそれを切り出す。
「お前が信じてくれるように……俺は絶対、絶対に、嫌がるお前に押し入るような酷い真似は犯さない」。相手の頭を撫でながらわざわざ挟んだ前置きは、本来言葉にするまでもない、ただただ当たり前のお話。そしてそこまでで切るならば、きっと自分はこれまでどおり、初心な彼女のためだけの聖人君子でいられただろう。
──しかし今宵のギデオンは、その生温く優しい惰性を、ここで破ると決めていた。すなわち、不意にごろりと転がり、横倒しにした彼女の旋毛に深々とキスを寄せたのち。腕の檻に閉じ込めながら、見上げてくる緑の瞳を酷く穏やかに見つめ返し。もしきょとんとするようならば、その優美な腰のラインを、大きな掌、その親指で、どこか意味深げな手つきを込めてそっと撫でることだろう。)
……だが、かといって。おまえが“頑張る”なんてのを、ただ“待つ”だけでいるなんて、どうにも性に合わないんだ。
そもそも俺は、おまえに無理に頑張らせるような……そんなつまらない戯れに、おまえを誘いたいわけじゃない。
──今こうして遊ぶのだって、もう“応えてる”うちに入ってるって……わからないか……?
917:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-22 11:28:57
……、……?
( わかるかどうかと問われても、年上男の複雑な胸の内など、不慣れで初心な年下娘にはよくまだ理解できる筈もなく。否、その甘やかな触れ合いと声音から、無理をする必要は無いと、何やら宥められているらしいことだけはわかるのだが、今改めて念押しされる理由がわからずに──私は、ギデオンさんのために"頑張りたい"のに!! と。逞しい腕の中、伸び上がる様に上半身を反らして、"優しすぎる"相手を安心させるかのように小さく唇を合わせると。 )
無理なんて、してないです……!
ギデオンさんのこと大好きだもの!
( 「さっきは本当に、重いって思われたくなかっただけなの……」なんて、恥ずかしそうに固い胸板に丸い頭を擦りつける仕草からは確かに、これ以上ない信頼と愛情が溢れてはいるだろう。そうして、自分の愛情を疑われたかのような錯覚に、ぷくりと頬を膨らませると。手首を支点にしててこの原理でぺしぺしと、「ね、次はギデオンさんの番ですよ」と中断していたゲームの続きを促し。そのすぐ次だったか、若しくは数往復経ての辛勝だったか。やっと此方が命令する権利を手に入れると。まるで服従を受け入れた野生動物がそうするように、自ら繊細なレースの裾を捲りあげ、シミひとつ、"跡"ひとつ無い真っ白な腹を相手に晒して。 )
──……じゃあ、私からのお願い、ね……?
918:
ギデオン・ノース [×]
2025-07-24 02:38:31
──…………、、、
(夜のしじまをしっとりと打つ甘やかおねだりに、何よりいっそ毒々しいほど愛くるしいその媚態。ギデオンが喰らわされたのは、そんなあまりに殺人的にも程がある一撃で。その青い目が愕然と揺れ、くらくら揺れた脳天が僅かな理性も焼き落とす。──そうして気づけば、それがトラウマらしいからと慎重に避けていたのも忘れて、彼女に大きく覆い被さり。
己の飢えた唇が真っ先に吸ったのは、しかし乞われた下腹ではなく、持ち主の柔い口許だった。胸の内で爆ぜている言いようもない熱を、この罪作りな恋人にも?み込ませたくてたまらなかったせいだった。──しかし決して怯えさせてしまいたくない、違う、愛情を伝えたいのだと。いつもよりどこか不器用な手つきで彼女の頬に掌を添え、親指の腹で何度も何度も、すべらかなそれを撫でさする。……しかしそうして取り繕ってみせたところで、そのすぐ傍から貪るように耽溺するのが、いつになく本能的で余裕のない口移し。舌を絡める間に零れる、唸るような熱い吐息も、まるで年甲斐もない焦がれようをぼろぼろ物語るようで。
それでも尚、焼ける全身を潤すように、娘の甘露を絡め取りつづけることしばらく。ようやく「……は、」と一息挟み、月光を孕む細い銀糸を引きながら顔を離せば、困ったような、敗れたような……けれど間違いなく愛おしそうな、何とも言えない表情の目で真下の娘を一瞬見つめ。また再びその金の頭を静かに屈めたかと思えば、今度はその高い鼻先が、ネグリジェの少しはだけた肩から、優雅な陰影を描いた鎖骨、たっぷりとした見事な丘からその麓に至るまで、まるで羽毛で触れるような軽い手触りで撫でていく。──そうしてようやく、お望み通りの神聖な場所に己の狙いを定めれば。二、三度ばかり、わざと予告するように軽く歯を立てて食んでから、単純だった前回と違い、与える力に脈拍じみたリズムを付けるようにして、所有の証を刻みはじめて。)
919:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-28 17:24:22
~~~ッ!?
( それはほんの数刻ほど前、自らの手で真っ白に洗濯したばかりの柔らかなシーツ。その太陽の香りに包まれて、呼吸に合わせ上下するなだらかな起伏を、じっと期待に濡れた眼差しで見つめていた娘は、まさか自らが男の理性の一片を焼き切ったことなど思いも至らない。故に、不意に身を起こした恋人にされるがまま、怯える暇すらなく奪われてしまえば──ちがう、とも。それじゃない、とも。なんら意味のある言葉を許されず、時々耳元で聞かされる吐息の熱さにびくりとその身を硬くしては、己からも漏れるその不本意なそれへの羞恥に、じわじわとその身を縮めるだけ。
『やり方次第だ』、と。いつだったか、目の前の相手が言っていた言葉の意味が今はもうよく分かる。唇を合わせていた時間だと思うと長い、しかしたった数十秒で、普段意識すらしない正しい呼吸の仕方を忘れさせられてしまえば。美しい鼻先から教えられる曲線に、思わず頤を反らせて表情を隠す行為のなんと無意味なことか。
そんな些細な抵抗を果たして男は赦してくれただろうか。どちらにせよ、こんなはずじゃなかった、と。最初こそその拍動に頬を染め、どう反応したらよいか分からないといった様子で翻弄されていたヴィヴィアンだったが。次第に何度も、何度も、飽きずに花畑を広げるギデオンに、これ以上ない愛しさが溢れてしまうと、それまできつく寄せていたシーツの皺を開放したのは無意識だった。 )
……かわいい。
( これが普段通りの娘だったなら、足を広げるなんてはしたないとしなかっただろう。しかし、相手がそうしてくれているように、自分もどうにかして恋人を物理的に繋ぎ止めておきたくて、その両手だけでは飽き足らず、白いレースから健やかに伸びた両脚で愛しい恋人を捕まえると。その唇が腹から離されようとそうでなかろうと、心底愛おしくてたまらないと言った表情で、愛しい頬を、生え際を、くすくすと微笑みながら優しく撫で始め。 )
大好きよ、ギデオンさん……ねえ、ゲーム、は?
次の番はいいの……?
920:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-01 00:21:59
(すべらかな生脚が自ら巻き付く感触に、思わずといった調子で上げられる青い双眸。しかし相手の優しい手つきにさらさらと慈しまれれば、ただそれだけでとろんと目許が和らいでしまう、この飼い馴らされようよ。
往年のギデオンは、カレトヴルッフの剣士職に珍しくない不身持な男……時に“カレ剣”なんて俗称で揶揄されたそれとして、相応に血気盛んな狼でいたはずだ。──それがどうして、歳下の、たったひとりのヒーラー娘に捕まってしまってからは、この腑抜けた駄犬ぶり。そんな己の不甲斐なさに今更やや不貞腐れてか、「何だ……」なんて唸り声を喉元から絞り出せば、伸び上がる要領で彼女の真上へと戻り、きゅっと結んだ唇を、その花唇に二度三度と押し当てる。そうしてむっとしたような目を向け……ようとしたはずが、如何にもわざとらしい茶番を続けられたのは結局そこまで。目と目がまっすぐ合った瞬間ほどけるように笑ってしまい、何なら自ら額を摺り寄せ、プライドもへったくれもなく続きの愛撫をねだりながら。「そうだな……」なんて、すっかり寛ぎきった声で呟いた矢先のことだ。)
──……
(それまでの穏やかな呼吸がごく一瞬止まった理由は、己の真下に抱き込んでいる……否、ギデオンに抱きついているヴィヴィアンのほうもまた、感じられたことだろう。
──真夏の夜の寝台の上、睦み合う男と女。若い娘の無邪気な脚が男の腰を絡め取るなら、自然と触れ合うそのうちに気づいてしまうものがある。抑制剤は飲んだはずだが──いやちがう、だからこそこれしきで収まってくれているのか。何にせよ、いつかはグランポートの波間で触れてしまった己のそれが、今は相手の密かな場所へ、瀟洒に飾り立てられた真っ白なレース越しにその存在を示している。一瞬そちらへ俯いていたギデオンの横顔は、おもむろに相手へと戻り、じっと静かな視線を注いだ。──むやみに押し付けるつもりはないが、臆病に退くつもりもない。それを無言の空気で語ってふと目を閉ざしたかと思うと、薄い唇が今一度、相手のまろい額を愛でる。それから吐息を零しつつそっと落としたその囁きは、今夜の無邪気な戯れは、やはり大人のそれなのだと……そう思い出させるための声音で。)
……なあ。
難易度を……上げてもいいか。
921:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-01 11:36:18
( 最初はベルトの金具か何かが当たっているのかと思った。溢れる多幸感に目を細め、俯く恋人の隙なく愛おしい頭皮をぼんやり見つめていたその時。男の反応に違和感を覚えて、数cm程小さく上半身を起こしかけると、「あっ……」と漏れたその声は、期待でも恐怖でもない小さな動揺で。 )
…………。
( まず勝ったのは、一体どうしよう、といった困惑の感情。本来、人の生理反応にどうしようも何もないのだが、不慣れゆえにどう反応したら良いか分からず、真っ赤な顔でカチンと小さく固まれば。どこへ向ければ良いか分からなくなってしまった視線を、無言のブルーに縫い止められると、益々思考は迷走するばかりで。しかしそんな娘の動揺を見透かすことなど、経験豊富な男にとっては手に取るように簡単だったろう。それまでの強い視線がふっと閉ざされ、その唇がいつもそうしてくれる様に優しく額に落とされれば。ふわり、と。その思わず込められていた力が抜け、全身の強張りが緩んだのは、いくら滑稽で不格好だったとしても、ここ数ヶ月のギデオンの努力が身を結んだ瞬間だった。──大丈夫、これは悪いことでも、はしたないことでもない。だから、何か怖いことも起こらない。そう恐る恐るといった様子でギデオンを見上げ、その小さな口角をふにゃふにゃはにかんで見せるのは、前回の講義の効果もあっただろう。とはいえ、難易度を上げるってどこまで……? と、自分で想像した内容に耐えられず、すぐに空いた両手で顔を覆い隠してしまえば。華奢な肩を震わせながら、かき消えてしまいそうな声と共に頷いて。 )
……上手に、できなくても、きっと許してくださいますね……?
922:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-02 11:12:29
“上手に”なんか、しなくていいんだ。
……言ったろ? 俺はただ、おまえと遊びたいだけだって。
(可哀想なほど縮こまる初々しい娘を前に、それをゆくゆく喰らわんとする熟しきった男ときたら、しかし今はまだ悠然と、優しく喉を鳴らすのみ。泣く子をあやす要領で栗毛の頭を撫でてやり、そうして白魚の指が下がれば、ようやく覗いた潤みがちな翡翠の瞳を愛おしそうに見つめるだろう。
実際のところ、自分はそう大層な聖人なんかじゃありはしない。が、まだ不慣れな彼女のためにそう振る舞うのが大事だとわかっているし、そうであればやる気は充分。故にごろりと横に転がり、肘を突いた手に頭を預ける格好でゆったりと寛げば、まずは己の腰辺りを一瞥。依然下穿き越しに元気な様子のそれを見て、軽く肩を竦めてみせると、相手のほうに視線を戻し、「こいつは一旦忘れろ」とおどけたような一言を。訝しんでか、異議を唱えてか、相手の様子に変調が見られるならば、「だがここにいること自体は許してやってくれないか」と、如何にもさり気ない声で懇願も加えておこうか。“こいつ”だの“ここにいる”だの、まあ実に白々しく下らない言い回しだが……いずれ親しんでもらうには、そういった刷り込みからしていこうという目論見で。
──さて、己の話はそこまで。軽く伸ばした手の先で彼女の頬の髪を除け、そのまま返した指の甲でごく優しく撫でてから、いよいよゲームの再開だ。「難易度を上げるってのは──」……つまりはこういうことだ、と。先ほどまでの数ラリーでは、いきなり彼女を竦ませないよう、こちらも掌や前腕と言ったごくごく無難な場所にだけ、欲の滲まぬ普通の強さで指文字を書いていたのだが。娘の優美な体のラインをゆっくりと撫で下ろす、今度のその掌は、明らかに深い情愛の込められた男の手つきのそれだろう。そのままゆっくりと撫で下ろし、腿の辺りに届いたならば、元々ただでさえ丈の短いネグリジェの裾を、焦らすような間の後に軽くぺろりとめくってしまい。普段はスキニーパンツが隠す引き締まったその肌へ、つ……つつ……とやけにかすかに、ゆっくりと、文字を記していって。)
──……よくわからなかったら、目を閉じて集中してみろ。
ヒントは、そうだな……食材だ。おまえも扱うことがある。……
923:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-04 12:41:11
━━こいつ、って……
( 世の中の男性達の中で、己のそこをまるで息子のように表現することがあるのは知っていたが、それが目の前の恋人の口から出たのがおかしくて。優しい温もりにあげた顔を、ふふふと無邪気に綻ばせれば。此方を見下ろす愛し気な眼差しに━━そうだった、と。この人の前では取り繕わなくて良いんだった、と次第に全身の緊張が解けていく。そうして、大好きな指へ頬ずりをして、愛しい気持ちと無言の了承を相手に示せば。しかし、その女体を愛でる大きな掌には、恥ずかしそうに身を捩り、長いまつ毛の影を震わせ恥じらう様子も未だ見せるだろう。 )
……っ、ギデオンさん、くすぐっ……~~ッ!!
( ──この時、初めて。初心な娘は、心の底から信頼しきり、安心して己の身体を預けた相手から触れられると、こうも肌が敏感に拾うことを、愛しい恋人手ずから教えられることとなった。思わずびくりと腹筋に力を込めて、薄れるどころか一文字一文字更に蓄積していく刺激に目を見開くも。大袈裟な反応だと思われるのが恥ずかしくて、無言で下唇を噛みながら「サーモン」「……、オニオン」「ッ、キャロット!」と、思いつく限りの単語を投げかけるも、集中など全くできていないのだから当たるわけが無い。そうして、その辺にあったクッションをいつの間にか抱え込み──実際は完全に甘く蕩けきり、普段の凛々しさなど見る影もないわけだが──少なくともビビ本人は、冷静に保てていると信じ込んでいる声さえも、取り繕うのが限界を迎えた頃合。尚も続けられる遊戯にガバリと、その太腿で勢いよく、文字を書くギデオンの腕を捉えてしまうと。ボタニカル柄のクッションカバーから蕩けきった瞳を覗かせて、うるうると精一杯の懇願を。 )
……イジワル、しないで……。
ちゃんと触って、ください……!!
924:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-05 01:11:29
(こちらの指先ひとつで力み、時にびくんと、あるいはくにゃりと、その瑞々しい狼狽を七色で描く素直な躰。ゲームの答えをやけっぱちに絞り出すその声や、必死になって抑え込まれる嬌声未満の喉の音さえ、いつまでも味わいたくなる禁断の甘美さで。
とはいえそのそのヴィヴィアンが、すっかり熱く火照った腿や、哀願するような濡れた瞳で、切々と直訴しようものなら。その精一杯の有り様でさえ密かに脳裏に焼き付けつつ、しかしそれまで纏っていたやけに淫靡な静けさを、いつもあっさり霧散させよう。そうしていつもの己に戻って愉快気に喉を震わせ、何を言いだすものかと思えば──)
っくく、悪い……いや、悪かったって。
頼むから、そんなのをこんなにたっぷり抱き締めてやらないでくれ。俺がいるだろう? ……
(──まるで寄る辺を求めるように、相手が強く抱き込むクッション、そいつに妬けて仕方がないと。如何にも思わしげな手をかけて、片眉をぐいと吊り上げ。そうしてごく素直にか、はたまた激しい攻防の末にか……相手がその柔らかい盾を手放してくれたなら、それをベッドの端に押しやり。空いた空間をぬくぬくと、互いの体温で埋めはじめながら、相手の耳元でぽそぽそと、甘える声音で提案を。)
……、とはいえ、駒落ちはできないな。
今回は俺に不戦勝を譲って、その分すぐに次の番で反撃に出られるのと……
頑張って今回の正解を当てて、その分今夜、後はぜんぶ、俺をいいなりにできるのだったら……
おまえはどっちがいい……?
925:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-08 10:47:12
( ほんのり湿度を帯びた寝室に、ぷしりと色気ないくしゃみが小さく響く。そんな攻防を物語る羽毛も落ち着く頃、寄る辺を失いすんすんと、すっかり縮こまって相手の肩に顔を埋めていた娘はといえば。非常に満足気な男の一方で、つい恥ずかしくて強硬に抵抗してしまったが、それが雰囲気を壊してしまっていやしないかと小さく頭を持ち上げて、男の甘やかな表情を確認すると、無意識にほっと胸を撫で下ろしていて。 )
…………、絶対当てますから。
今度は変な触り方しないで、ちゃんと書いてください……!!
( そうして、ギデオンの恣意的な質問に、何か具体的に相手をどうこうしたい願望がある訳では無いが、これ以上好き勝手されるよりはと、形良い眉を悩ましげに歪める表情こそ、その純粋な恥じらいが、余計にその強烈な色気を掻き立てていると云うのに。おもむろに硬い胸板をペシペシと、柔らかいシーツの上に座り直すと。横になる男の目の前に正座の要領で、でんとたわんだ白い腿を差し出す表情はいたって──いたって、真面目なのだから仕方がない。きゅっと唇を噛んで引き結び、最初こそ見逃してなるかと零れ落ちんばかりに見開いていたエメラルドも、次第にぎゅうと閉じてしまうと、ぷるぷると小さく震えながら、今か今かと年上男の指を待ち。 )
926:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-09 09:52:07
……
((……困ったな、)と。横の恋人が身を起こすその刹那、穏やかな笑みはそのままに、部屋の宵闇に視線を留めて密かに思案を巡らせる。──此度提案した指文字遊びは、その“変な触り方”に、寧ろ明るく慣れ親しんでもらうためのものだった。だがこの清純な娘には、それがまったく伝わっていない……というより、その手の戯れはまだ随分と気が早かったご様子だ。とはいえ、今宵の初めの“喜ばせたい”という話然り、或いは以前戯れた時は初々しくも必死に応じて乱れてくれていた記憶然り。男の浅はかな早とちりなどというには、いささか反証が見込まれるはず……ならば何故、このように?
──と。そこで初めて、そういえば前回は、帰ってきたギルバートの存在が大きかったことを思い出す。『……ギデオンさんの手で。パパがぜったい、しないこと。教えて、ください……』……そうだ、あれはたしか、娘の交際に口を出す父親への反発が弾みをつけていた夜だった。当時はこれ幸いとばかりに己の役得を堪能したが、なるほど、払うべきツケがきっちり回ってくるのがここか。……まあ逆に、先日ではなく今宵こそ、本来のヴィヴィアン自身に手をつけはじめたタイミングと看做せよう。どうやら気の長い──己自身の忍耐力とじっくり向き合う──戦いになりそうだ。)
……、そう強張らないでくれ。
取って食おうってんじゃないんだ。
(──さてはて、遠い眼差しはそろそろやめて、目の前にいる初心な娘との戯れに戻ろうか。青い視線を今一度相手のほうに上げてみせれば、先ほど散々不埒になぞった男の指に構える娘、そのあまりに哀れな生贄ぶりに、思わず吹き出すような声を。眼前に差し出されているたっぷりとした太腿に、無論浅ましい劣情を催さぬわけがないのだが、それより優先しておくべき下拵えというものがある。
故に、こちらもシーツをどけながらやおら起き上がったと思えば。その薄い白布に飾られた華奢な背中に手を回し、ぐいっと引き倒す要領で、再び寝台に沈み込んだ己、その両のかいなのなかに再び娘を抱き込もう。そうして上からばさりと、ふたりの躰を隠すように──それまでの邪な空気を清潔に取り払うように──大きな白いデュベをかけ。娘の躰を背後から、今一度ぬくぬくと味わいきってやりつつも、柔らかなシーツの下、己の無骨な掌を娘の腿へ滑らせる。
しかし今回はあくまでも、いやらしさは封印だ。その証拠に、今度は臀部の近くではなく、折りたたまれた膝の辺りにす、と指を宛がえば、今一度その五文字をゆっくりと書きだそう。……今ごろ“甘い”雰囲気なら、それこそこれをきっかけに話題を広げるつもりでいたが、こういった展開に備え、逃げを打つこともできなくはないところが、この遊びの便利なところだ。最後のyをなぞり上げれば、このくらいの妨害は許してくれと言わんばかりにその首筋に唇を寄せ。何ならヒントを与える体で、そっと吐息を吹きかけて。)
……俺はいつか、ヨトゥン巨人がこれから作る本物の酒を呑んでみたくてな──と、言ったらわかるか……?
927:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-09 10:00:26
……
((……困ったな、)と。横の恋人が身を起こすその刹那、穏やかな笑みはそのままに、部屋の宵闇に視線を留めて密かに思案を巡らせる。──此度提案した指文字遊びは、その“変な触り方”に、寧ろ明るく慣れ親しんでもらうためのものだった。だがこの清純な娘には、それがまったく伝わっていない……というより、その手の戯れはまだ随分と気が早かったご様子だ。とはいえ、今宵の初めの“喜ばせたい”という話然り、或いは以前戯れた時は初々しくも必死に応じて乱れてくれていた記憶然り。男の浅はかな早とちりなどというには、いささか反証が見込まれるはず……ならば何故、このように?
──と。そこで初めて、そういえば前回は、帰ってきたギルバートの存在が大きかったことを思い出す。『……ギデオンさんの手で。パパがぜったい、しないこと。教えて、ください……』……そうだ、あれはたしか、娘の交際に口を出す父親への反発が弾みをつけていた夜だった。当時はこれ幸いとばかりに己の役得を堪能したが、なるほど、払うべきツケがきっちり回ってくるのがここか。……まあ逆に、先日ではなく今宵こそ、本来のヴィヴィアン自身に手をつけはじめたタイミングと看做せよう。どうやら気の長い──己自身の忍耐力とじっくり向き合う──戦いになりそうだ。)
……、そう強張らないでくれ。
取って食おうってんじゃないんだ。
(──さてはて、遠い眼差しはそろそろやめて、目の前にいる初心な娘との戯れに戻ろうか。青い視線を今一度相手のほうに上げてみせれば、先ほど散々不埒になぞった男の指に構える娘、そのあまりに哀れな生贄ぶりに、思わず吹き出すような声を。眼前に差し出されているたっぷりとした太腿に、無論浅ましい劣情を催さぬわけがないのだが、それより優先しておくべき下拵えというものがある。
故に、こちらもシーツをどけながらやおら起き上がったと思えば。その薄い白布に飾られた華奢な背中に手を回し、ぐいっと引き倒す要領で、再び寝台に沈み込んだ己、その両のかいなのなかに再び娘を抱き込もう。そうして上からばさりと、ふたりの躰を隠すように──それまでの邪な空気を清潔に取り払うように──大きな白いデュベをかけ。娘の躰を背後から、今一度ぬくぬくと味わいきってやりつつも、柔らかなシーツの下、己の無骨な掌を娘の腿へ滑らせる。
しかし今回はあくまでも、いやらしさは封印だ。その証拠に、今度は臀部の近くではなく、折りたたまれた膝の辺りにす、と指を宛がえば、今一度その五文字をゆっくりと書きだそう。……今ごろ“甘い”雰囲気なら、それこそこれをきっかけに話題を広げるつもりでいたが、こういった展開に備え、逃げを打つこともできなくはないところが、この遊びの便利なところだ。最後のyをなぞり上げれば、このくらいの妨害は許してくれと言わんばかりにその首筋に唇を寄せ。何ならヒントを与える体で、そっと吐息を吹きかけて。)
……俺はいつか、ヨトゥン巨人がドワーフどもに“これ”から造らせるっていう、本物の酒を呑んでみたくてな──と、言ったらわかるか……?
928:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-14 00:44:12
……? ッひゃあ!?
( 古今東西、何事も。物事の全体像を捉え損ねた初心者が、その必死さ故に目的と手段を見誤るということは、決して悪気なく起こるものだ。それは今夜すっかり削いでしまった相手の興に気づけぬまま、柔らかなシーツに引き戻された娘もまた同じ。最愛の恋人にとっては一度、餌を見せつけた直後に、酷なお預けを喰らわせる仕打ちとなった訳だが。それで遠い目をした男もまた、目の前の娘がこれ程緊張してまで尚──ギデオンさんに喜んで欲しい、ギデオンさんの笑顔が見たい──と。分不相応に虚勢を貼らんとする理由に気が付いてさえいないのだからお互い様だ。そうして、どれほど戯れたろう。くったりと疲れた身体をゆっくり上下させ、自ら大好きな腕の中に転がり込めば。──ああ、やっぱりすごく、すごく好きだなあ……なんて。もう何度目かも分からない感慨を、睡魔なんぞに溶かさずに、もっと真剣に伝えていれば良かったと、後悔するのは後のお話。 )
──ギデオンさん、お疲れ様です!!
( さて、数日後に控えた建国祭を前にして。昨年の思い出を脳裏に、嬉し恥ずかし指折り楽しみにしていたヴィヴィアンを、ひとつ大きく落胆させた出来事があった。それは今年も発表された建国祭の警備シフト、お祭りの間中行動を共にするペアの相手が、お互いではなかったということで。とはいえ、そもそも昨年が幸運だっただけで、今年もペアになれる保証など一切なかった訳なのだが、「去年の分もギデオンさんと楽しみたかったの……」というのは、サリーチェに帰ってからの泣きごとで、仕事中は一切の公私混同を控えたのだから許されたいところ。不幸中の幸いだったのは、ギデオンの代わりに今年のペアとなったのが、よく知るカーティス・パーカーだったことか。仕事のできる同期とふたり、見回りを終えてギルドに戻ってきたヴィヴィアンが非常に上機嫌だったのは──休憩の時間が合えば、その辺の屋台でケバブでも、と。今朝サリーチェの家で示し合わせていた休憩時間に間に合った上、先に戻ってきていたらしい大好きな背中が見えたからで。 )
929:
ギデオン・ノース [×]
2025-08-19 02:55:24
(ふたり分の体温で自ずと温むデュベの下。真夏の暑さをものともせずにこんなにも抱き合うふたりが、まさか実は盛大にすれ違っているなんて、互いに思いもしなかった──そんな一夜から数日後。
5029年のトランフォード建国祭は、例年よりも華々しいファンファーレに彩られながら遂にその開幕を迎えた。と言うのも今年は、先の大戦が終結してから60年の平和を祝う、十年に一度の機会。キングストン市が主催する平和式典はさることながら、毎日のように開かれる様々な催しや、五日目の馬上槍試合、果ては皆の楽しみである最後の花火大会まで、全てにおいて特別な雰囲気が満ち満ちる年である。それを百万の国民が待ち望んでいたからだろう、今年はもういつにも増して、どこを見渡しても人、人、人。通りに居並ぶ魅惑の露店や、行き交う人々に黄色い悲鳴を上げさせる魔法使いの大道芸人、子どもたちを怖がらせたり興奮させたりで忙しい竜騎兵たちのマラクドラゴン──そういった賑やかしまで、桁違いに多い有り様だ。
しかしながら、その警備の補佐にあたるカレトヴルッフの冒険者たちは、今年のこの盛況のせいでとんでもなく忙殺される……ということはなかった。何せ今年は平和の年、キングストン警察が例年の三倍にも上る人員をどかどかと投入しては、自陣の強力な統制のもと、四方をたっぷり睨んでいる。それはそれで、協力側としてはやりづらさがないわけではないのだが、祭に際して、国家組織とギルドとではあちらが優先されるお立場。故に冒険者たちは皆、万が一に備えての待機などを行いながら、警察の下支えとして順次見回りに繰り出しており。今年はヴィヴィアンとのペアが外れたベテラン戦士のギデオンもまた、丁度良い機会とばかりに後輩育成を施しながら、その日最初の休憩時間をしっかり調整していたところで……)
──……、ああ、お疲れ。
見たところ、特に大きなトラブルはなかったみたいだな。
(待ち侘びていた娘の声にくるりと向いたその瞬間。しかしギデオンの表情に一瞬揺らぎが走ったのを、このギルド専用テントに集まっている面々では、付き合いの長いヨルゴスくらいは気が付いてしまったろうか。何やら楽しかったのか、にこにこ笑顔で近づく娘と、その後ろから爽やかに汗を拭きながら続く青年。何の変哲もないそのふたりを見た途端思い出したのは、ここに戻ってくる数分前、すれ違った若者たちが言い合っていた会話だった。
──なあおい、見たか? やっぱあの噂、マジのガチだったんだ。
──噂?
──ほら、カレトヴルッフの美人ヒーラーに、とうとうカレ剣の彼氏ができちまったって話だよ。
──ああそれ、確か四十路とかいう?
──ばぁか、んなわきゃねえだろうが。ヴィヴィアン・パチオは俺らと同い年くらいだぜ? さっき一緒にいた男、絶対あいつとデキてんだって……よぉくお似合いだったじゃねえかよ。
たかが野次馬の会話である。そんな馬鹿らしいものを気にする方が余程愚かしいだろうに、何故ふたりを見た瞬間、咄嗟に忘れたはずのそれをすぐまた思い出すのだろう。そんな内心の狼狽を気取られぬよう、一瞬の間を打ち消すように無難な言葉を続けると、共にいたヨルゴスに軽く手を上げて休憩抜けを宣言する。同僚の魔槌使いはごく普通に応じつつ、その目の奥になんだかちらりともの見る気配が窺えたのは、やはり自分が何もかもに過敏になり過ぎているだけか。──いや、どうでもいい、この短い休憩時間を無駄にしてはいられない。後輩たちにも指示を済ませてようやくテントの外へと出ると、再びいつも通りの涼しい笑みを浮かべてみながら、軽い調子で相手に問いかけ。)
──……今年はどうも、南部から来たケバブ屋がワラ熊通りに出ているらしい。
去年の店を探すのもいいが……どうだ、ちょっと見に行ってみないか?
930:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-24 11:59:23
お陰様で──……ギデオンさんは、……何かありました?
なんだかお顔の色が……
( 付き合いの長さでは遅れをとろうが、強がりな恋人の表情を伺う事において、他の誰かに負けるビビではない。しかし熱でもあるのかと男の額へ伸ばした掌を、さりげなく自然と避けられてしまえば。じっと真っ直ぐに相手を見つめるも、本当になんでもないぞと首を横に振る恋人にそれ以上深掘りもできまい。確かに自分の勘違いかもしれないと、それか本人もまだ気が付いていない軽微な疲れの蓄積かもしれな故、注意深く見ていてやらねばとも思うのに──私が、頼りないから言えないの? と。信頼している筈の恋人を、心のどこかで疑ってしまうのは、まだたった数日前。またビビに黙って家計へと、決して少なくない額を懲りずに払っていたギデオンを諌めたやりとりの記憶が新しいせいだ。 )
まあ!
南部から……私仕事以外でほとんど行ったことがないんです!
( それでも、建国祭中やっと訪れたデートの機会だ。何やら早速気になる食べ物を見つけてきたらしいギデオンに、思わずふっと毒気を抜かれると。「あちらではどんな味付けが好まれるんですか?」なんて、慣れた様子で腕を絡ませ歩き出し。そうしていると、先程までは何か問題でも起きてはいまいかと気を張るだけだった人混みも、ギデオンと見るだけで、こうも楽しく気分を盛り上げてくれる賑わいになるのから不思議でならない。絡めた腕をぎゅっと引き、「ねえ、早く行きましょ!」なんて自らワクワク急かした癖をして、道中で人混みに気後れする老婆や、風船を飛ばした子供、強風に煽られた看板を追う屋台の主人らを放っておけないのは性分だろう。その度花だの、水笛だの、マスカレードの仮面だの、満面の笑みで貰ってきたお礼の品々を、「……はい。ギデオンさんが持ってて?」と隣の恋人に持たせては、段々と愉快になっていくその姿に心底楽しそうに笑い声をあげ。大道芸に驚きはしゃぎ、テンションの上がりきった犬に怯え、くるくると表情を変えては建国祭の雰囲気を満喫していた時だった。人混みの中やっとワラ熊通りにたどり着き、目的のケバブ屋を探す最中、通りに繋がる広場からわっと大勢の歓声が上がるのを耳にすると、興味津々といった様子でギデオンの袖を引いて。 )
──ギデオンさん、ギデオンさん!!
あちらでも何かやってるみたいですよ!
931:
ギデオン・ノース [×]
2025-09-01 10:54:38
(恋人の問いかけに大丈夫だと返し、すぐに表へ歩き出せば、その後浮かべられていた不安げな表情に気がつくことはできなかった。そしてそれは、ヴィヴィアンがまたしゃんと切り替え、せっかくの建国祭をのびのび楽しみはじめる姿を真横から眺めるうちに、ますます遠ざかる一方で。──そのツケが回るまで実は案外すぐなのだが、ならば逆にひとまずは、このお祭りを楽しむ姿を注視してしまうことにしよう。「この間、碑文探しで寄った村で牛追い祭りをやってただろう?」と、すっかり嬉しそうにくっつきながら話題を振るヴィヴィアンに、こちらもゆったり寛ぎきってあれこれと雑談を。あれには南部の木の実を挽いた名産品のスパイスが使われているんだが、本来、本場本物のいちばん有名なそれは、もう火のように辛くてな。だからあっちのディアファノ地方は、ディアブロ地方……悪魔の地方だなんてもじられることがある。だから屋台の主人に会ったら、ちょっとした聖魔法を試しに振りかけてやるといい。大抵の南部商人は、そういったじゃれつきを大歓迎する性格で……おい、どうした? 何をしに──。
──その光景が生まれたのは、己の隣を歩く女性がヴィヴィアンだったからだろう。かつてギデオンが十代や二十代の若者であったころ、別の女ともこの夏祭りに繰り出したことがあったが、当時は今よりすかしていたし、女性もまたこちらに夢中で、互いとの浅い戯れに興じるだけがこの通りの歩き方だった。しかし、その頃とは別の人生を歩む今、同じ状況でも全く違う。隣にいたはずの恋人は、辺りの人々を手助けせんとすぐさま軽やかに飛んでいき、それでもすぐに舞い戻っては、ほうぼうからの頂きものでこちらを飾り立てはじめる。多少困惑しながらもその構いつけを許していれば、少し前まで軽い蘊蓄を垂れていた四十路男が、自分では決して選ばないだろい品々にまみれる有り様。しかしそれへの困惑も、愛しそうにころころ笑うヴィヴィアンの様子を見ればすぐに絆されてしまうのだから、つくづく相手は始末に悪い。「やられてばかりにさせないぞ」と、こちらも相手につられるように人助けに入りだしては、礼を言うその口で「これもどうだい?」と大笑いする屋台の主人に渡された、魔獣を模したカチューシャを相手の頭に被せてみせて。……ちなみに、反撃のつもりのそれが思いのほか似合っていてぐっと来てしまったのは、愚かな己だけの秘密だ。
そうしてすっかりお互いに浮かれた格好になったところで、おや、と相手の促すままに歓声の沸いた方角へ。互いに背の高いほうなので、広場に集う人々の後方から覗いてみれば、何やら変わり種の的当てのが行われているようだ。「──さあさあお通りの皆々様、どうぞどなたもお入りください! 見事真ん中を胃抜けたならば大当たり、外れても復活戦でこちらの商品が当たります! どうです、どうです──ああ是非、そこの娘さんも! おひとつ試してみませんか!」
派手な装いの大道芸人がヴィヴィアンを誘うままにもう少し近づいてみれば、どうもこちらは、祭りの屋台を巡り歩いてスタンプラリーを満たした客が、「目隠しダーツ」で商品を当てる遊びのようだ。先程の大歓声は家族連れの父親が見事真ん中を射てみせて、リゾート地への馬車代と現地の豪華な宿代を勝ち取ったものらしく、布をとった目をまん丸くする父親が、狂喜する妻と娘四人にすっかりもみくちゃにされていた。「必ずボードの上だけに矢が向くようにしてありますから、お怪我の恐れはありません! さあお嬢さん、お代は少しだけいただきますが、一本どうです? 今ならほら、ボートごとにラインナップが違うんですが、こちらのリストならあちらのボード、こちらは一等はさっきのパパさんが、ああこちらなら、あちらのボードに!」──休憩に来た冒険者だから市民の方が優先だし、スタンプも集めていないから……と引いてみせても、まだまだ的はたくさんあるし、冒険者割があるからと、とにかく場を賑やかしたい様子。相手の方を愉快げに見て、大丈夫だぞと頷きかける。カレトヴルッフの冒険者は大概盛り上げ役に良いから、屋台の側が寧ろ喜んでイベントに招き入れるのは、もう何年もあることだ。楽しんでやってごらんと、大道芸人から受け取った矢を相手に渡すと、しなやかな背を掌で軽く押してやり。)
932:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-08 00:44:55
本当に、私でいいんですか……?
( このキングストンに生まれ育って約四半世紀。この手の大道芸人による盛り上げ方を、ビビもまたよく承知しているが──いや、寧ろ知っているからこそ。今隣にいる高名で、世界一格好の良い、最高の魔剣士を差し置いて、自分が選ばれたことが納得いかないといった表情でおずおずと前へと進み出ると。それでも一応、今をときめく冒険者の端くれ、一般人向けに設置された的などお手の物だが……さて。偶然とはいえ直前のお父さんが射抜いてしまった以上、それだけではあまりに芸がない。よって、期待の視線を寄せる観客達の中、魔法使いの仮装をした少女を前へと引き上げると。彼女の杖の一振りに合わせて、ステージ中へとキラキラと星屑のような光を煌めかせ、それと同時に、事前に少女の希望を受けて宣言していた賞品を見事射抜いてみせてから、さっと大衆の面前から引っ込もうというのが最初の計画。しかし、そのそつの無い計画を狂わせたのは、見事に狙った的を射抜いたヴィヴィアンが、へにゃりと力の抜けた笑顔でギデオンの下へと戻ってきたその瞬間、分厚い群衆を切り裂いて「待って!!」とよく響いた、未だステージ上にいた魔法使い志望の少女の声だった。
それまで、やんやと楽しげだったざわめきが、にわかにすんと静まると、「私がほしかったんじゃなくて、ビビちゃんにあげたいの!!」という必死な声と共に、件の景品──もう一枚残っていた南部へのリゾート旅行チケット──を掲げた少女は、どうやら冒険者であるビビのことも、そしてその"公私共に最愛のパートナー"であるギデオンのことも以前からよく知っていたらしい。可愛らしいファンの素朴な好意、それだけにしては真剣な表情にはて、と首を傾げかけたところで、「"しんこん"さんは、ふたりで旅行へ、いくんでしょう?」とやられたところで、誰がそんな純粋な少女に、恥をかかせられたと云うのだろう。)
……ぁ、ありがとう、嬉しいわ、ね、あなた……?
( この時はまだ、数分後に覚えることになる焦燥やら、悪戯心などはまだ遠く。赤い頬をした少女の無垢な可愛さ。そして、──新婚さん、ですって。と、やむを得ず想像した幸せな未来の形に微笑むと。ちらりと隣の恋人と視線を交わし、わっと湧く歓声のさなか、大好きな掌を捉えてぎゅっと握って。 )
933:
ギデオン・ノース [×]
2025-09-09 03:17:26
──……ああ、そうだな。
本当にいいのか? ……そうか、ありがとうな。
(予想だにしない言葉にわかりやすく目を瞠り、そのまま隣の相手を見るも。その無垢な──やけに眩しく感じられた──微笑みに、かえって冷静さを取り戻すと、握り返す掌で導くように共にしゃがみ、駆け寄る少女を出迎えて。そうして差し出された旅行券、それを彼女がめいっぱい受け取るその真横、奇しくも相手と似通う台詞できちんと感謝を伝えよう。その際一端の大人らしく、普段は魔剣を握る右手でその頭を撫でてやれば、途端に嬉し恥ずかしとはにかむ少女に微笑ましい視線を向けると。さらにその後ろから、にこにこと嬉しそうな祖父らしき者が近づいてくるのに気が付き──ああ、それでか、とそこでようやく合点がいった。
この老人には見覚えがある。ついこの間、王都の東にある有名な朝市でヴィヴィアンとデートしたときに、ふたり仲良く物色した青物屋……その店主を務めておられたお方のはずだ。どうやら向こうもあの時のことをよくよく覚えていたようで、「グランポートでもトリルの森でも、ご立派なご活躍で……」と、先々週のヴァヴェル擬きの退治が載った王都新聞だけでなく、去年のあちらの地方紙までちゃっかりご存知でいるらしい。おそらくは、王都屈指のヒーラーに憧れている孫娘とお喋りをするためにあれこれ詳しくなったのだろう。あの子を膝に乗せながら、『あの有名な冒険者が、うちの店に仲睦まじく林檎を買いに来たんだよ』なんて自慢する光景は、想像に難くなく。──そういった類の延長線にあるのだろう老爺と少女の思い出に、どうして水を差せようか。)
……噂をすれば、何とやらだな。
(かくして、思いがけず市民から贈られたディアファノ行きの旅行券。それをありがたく受け取って、とはいえ互いに多忙の身だし、どうしたものか……なんて、笑い合った時だった。「──ああ、君たち! ちっとも知らせてくれないなんて、全く水臭いじゃあないか!」。まるで雲を払うような朗らかな声に振り向けば、今度こそ更に大きく目を見開く羽目になる。群衆を掻き分けてふたりの前に飛び出てきたのは、公人にしてはやけに浮かれたお祭り衣装に身を包む、恰幅のいい中年男性──しかしこんななりであっても、先月の水難救助訓練合宿で恭しくお目にかかった、グランポート新市長その人である。
何故この方がこの町に、とヴィヴィアンと顔を見合わせたものの。彼の後ろからひいこらと、リードを振り切った犬を追いかけるが如く大仰さで別の男性も現れれば、すぐに状況が呑みこめた。この後続のもうひとりは、い憲兵団のSPをわらわらと引き連れた、やけに地味だと有名な(ことでたびたび落ち込んでいるらしい)我らがキングストン市長だ。彼がぜいぜい喘ぐ合間にわざわざ説明してくれずとも、どうやら今日、親睦を深めるために友好都市の新市長を王都の祭に招待し、最中テンションの上がった先方が賑やか方へ突進するのを制しきれずに連れまわされ、それでもお忍びということでそこから大人しく眺めるはずが、件のギデオン・ノースとヴィヴィアン・パチオのハレの報を聞きつけた途端、わっと沸いた先方がこれまた派手に飛び出していった……──なんていう顛末が、まあまあ理解しがたいものの、なんとなくは呑みこめた。以前の合宿の夕食の席で挨拶した時も思ったが、どうやらこのグランポート新市長、前市長の後任として例の事件に踏み込む以上敏腕ではあるのだろうだが、いかんせん猪突猛進・天真爛漫な変わり者。どうやらキングストン市長でさえ手を焼くレベルであるらしい──なんて所感を、もっと重大に捉えるべきだったと思い知るのは、しかし次の瞬間のこと。
「やあやあ、聞いたよ、聞いたとも! ついに結婚したんだって!?」──無駄によく通るその大声に、今度こそこちらの顔にはっきり焦燥が走ったことを、港の陽気な新市長は少しも気づいちゃいなかった。「まったくもう水臭い、祝辞のひとつでも贈らせてくれればいいものを! 式はいつだったんだい、え!? どこの街で挙げたんだね!? ──えなに、まだ先? じゃあセーフじゃないか!! 頼むよ頼む、頼むから、我々も呼んでくれたまえ。うちの市民はこちらの皆さんに負けないくらい君たちのことを祝うはずで、私にその代表を務めさせてはくれんかね? だって、なあ、あの時どん底の闇ばかりを書かざるを得なかった我々の街の新聞で、君たち二人の明るい記事がどれだけ救いになったと思う! ン、何だね……ああそうか、もうそろそろ行かねばな、だが頼む、忘れれくれるなよ、私は参列が待ちきれない! 日取りは追って知らせたまえよ!」──……これだけのことを大声で囃し立てながら、新市長はとうとう、王都市長とそのSPにはっきり引きずられるようにして会場を去っていった。後にぐったり残されたのは、うら若い恋人の横ではるか遠い目を投げかける、憔悴の魔剣使いである。
──なんてことを、してくれやがった……と、そんな思いでいっぱいだった。あの幼い可愛い少女がふたりのことを誤解して優しい贈り物をくれる、その程度の話であれば、まだ微笑ましいものとして思い出にできたはずなのだ。ところがその直後に、あのデリカシーゼロ公人のとんでもない大破壊で、全てがもう滅茶苦茶である。なまじ地位も縁もある無視などし難いお偉方、そんな人間にあそこまで騒がれてしまえば、今や己とヴィヴィアンが“新婚”であることは、もはや公然の事実として市民の間に広まりかねない。となると、どうせおそらく王都市長の側近から、友好都市の市長を招待するならうちを通せ、あれしろこれしろ、ここに警備を就かせろと、無駄に現実的なあれこれを命ずるために首を突っ込まれだすだろう。
しかし、全ては完全に誤解だ。──己はヴィヴィアンに、まだ求婚すらしていない。)
……厄介だな。あんな奴にあの勢いであちこち言い触らされるんじゃ、この先が思いやられる。
(──しかしそのぼやきはそれはあくまでも、落ち着きのない新市長の振る舞い全体にかけてのもので……“結婚”そのものの噂だけにとどめるつもりはなかったはずだ。案外肝心なところで口下手を発揮する、そんな己の短所には未だ無自覚であるがまま、前年も相手と訪ねた屋台があったその辺り、目当ての南部ケバブの店に重い足取りで到着すると。せめて楽しみにしていた飯で少しは気分をマシにしようと、呑気にメニューを眺めはじめて。)
934:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-10 11:57:25
いえそんな……恐れ入ります。
先程は急にお願いしてしまって……あの、お孫さんにお名前を伺っても良いでしょうか?
( 穏やかそうな御祖父様と優しく可愛らしいお孫さん。そんな二人に対しせめてもの感謝の気持ちに、楽しい観光の思い出をより華やかなものに出来ればと、束の間の交流を楽しめば。それ自体にはなんの下心など微塵もあらねど、寛いだ様子の恋人へ──ギデオンさんも、私と同じ気持ちだったら良いな……なんて。最愛の恋人と夫婦に間違えられては満更でも無い胸のときめきを、密かに楽しんでいたものだから。その後の相手の言いぐさに、少しがっかりしたのもまた事実で。 )
でも、市長さんとってもお元気そうで良かったですね。
きっととてもお忙しいんでしょう?
( そもそもの話。こうして隣にいることを許され、付き合ってもらえているだけでも、これ以上なく幸せなのだ。ギデオンと二人、温かい紙袋を抱えて、イートインスペースに腰を下ろせば。ちょっと期待しすぎちゃったなと、案外深刻になりすぎることもなく、最近の浮かれようを反省しながら、辛いソースで口を汚して。──でも。同じ一つの屋根の下、結婚もしていない異性と生活を共にする決断だけでも、自分にとっては相当の覚悟が必要なものだったのだ。それが相手にとっては大したことでは無かったとしても、少しくらい、その気持ちを思い知らせてやりたいと思ったことは、そんなに悪いことだっただろうか。)
──……責任なんて、感じちゃダメですよ……、
( それは、一回目はワーウルフに悩まされた郊外の農村、二回目は明るく清潔な病室で、繰り返し確認した愛の言葉。ギデオンさんにとっては、しつこく言い寄られて少し情が移っただけの寄り道のつもりだったとしても、私はそうでは無いのだと。責任なんかとってもらう必要も無い、自分の意思でこれからも貴方の隣に居続けて、絶対に逃がしてあげないという強い意志。しかし、ビビもまたこのやり取りを、大きな誤解を産みかねないタイミングで切り上げざるを得なかったのは、座っているベンチのその背後、他の客がタイミング悪く飲み物をひっくり返してくれたせいで。 )
935:
ギデオン・ノース [×]
2025-09-13 12:48:28
──…………、
(「あら、大変!」「いンやいやいやいやもぉーしわげね゙……!」と。どうやら北方から王都観光に来たらしい純朴そうな若者を、相手が助けに行く間。一方のこちらはと言えば、虚空に視線を投げかけたまま、瞬きすらしていなかった。“責任なんて、感じちゃダメよ”──その柔らかな一言に、凍りついていたせいだ。
それでもほとんど自動的に己の躰が動きだす。ヴィヴィアンの杖の魔法が、観光客の衣服の汚れを綺麗さっぱり拭う間に、彼の落とした荷物を集め、取り纏めて手渡してやり。ぺこぺこしながら去りゆく彼を、残りの祭りも楽しむように背中を押して見送れば、ようやく元のベンチへ戻って昼飯の続きといこう。最中からそこに至るまで、己の自覚する限りでは、いつも通りのギデオン・ノースを振る舞えていたはずだ──「ギデオンさん、大丈夫ですか?」と。怪訝そうな顔の相手に、すぐさま覗き込まれるまでは。
まっすぐな翡翠の瞳に、どこまでも純粋にこちらを案じるような表情。愛しい娘ヴィヴィアンのそれらをまじまじ見つめ返してから、「大丈夫だ」とかぶりを振る。──いや、本当だ、今日のシフトの調整についてちょっと考えていただけさ。暑気あたりなんかしちゃない……お前の持たせてくれた塩飴だって、ところどころで食べてるよ。ああそういや、ギルドロビーにも置いてたろう? ドニーたちが、「こいつは世紀の発明だ!」なんて大喜びしていたぞ。
無難にこなしていたはずだ。ぼそぼそしたピタパンや水っぽい細切れ肉を作業的に頬張りながら、相手を何やら揶揄って可愛らしい文句を誘い、衆目の許す範囲でじゃれあうふりに興じてみせて。そうして休憩テントに戻り、「また後で」と明るい声で言い交わしてそれぞれの持ち場に戻れば、あとは仕事に打ち込むことで何かを忘れようとした。……それがいったい何なのか、ギデオン自身もよくわからない。とはいえ結局その程度、おそらく大した問題ではないし、気に留める必要もない。そのはずだ。
──だがしかし、大抵の場合。よりによってこういう時に、間の悪いトラブルが降りかかるというもので。)
くそっ、アリス!
現場は今どうなってる!?
(平和だった建国祭に早くもトラブルが生じたのは、憲兵団陸軍によるマラクドラゴンのパレードが始まった時だった。並みいるドラゴン目の中でも、スコス属──翼のない四脚竜として地上を練り歩くこの生きものは、人類が完全なる家畜化に成功した数少ない魔獣であり、戦場に出る時以外は非常に温厚な性格をしている。王都育ちの人間ならば、赤子連れの母親ですらその鼻面に触れると言えば、市民の彼らへの信頼がどれほど厚いかわかるだろう。──しかしそのマラク竜が、王都の北通りの広場で暴れ出したとの急報だ。今年の建国際は警備が大幅増員とはいえ、それはあくまで、人間を取り締まる王都警察の人員であり、暴れ狂うドラゴンには対処が及ぶべくもない。故に、現場の魔法使いから魔法伝達を得た今年のコンビのアリスと共に、冒険者であるギデオンもまた、現場へ急行していたところで。
──しかし、その道中を阻むのが、そちらからどっと逃げてきた市民や観光客だった。恐慌するかれらは前後が見えていないようで、転ぶ子どもや老人が踏み潰されてしまわぬよう警察が声を張っているが、それでも統制が効いていない。王都暮らしの長い己は、この大群を避けられる抜け道を知っているし、アリスも自身の浮遊魔法で簡単に飛び越せよう。しかしどちらも、それを選ぶ考えはなかった。アリスの答えで、他の冒険者も次々に現場に来ていると知った今、混乱の酷いここを見捨てていくことはできない。故にそれぞれ最善を尽くし、ようやく警察に後を任せられる段階まで整えれば、今度こそ一目散に北通りへと駆け抜けて。──換装したさすまたに雷魔法を溜め込みながら、視界に見えた白いローブに思わずその名を大きく呼んで。)
──ヴィヴィアン!
936:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-17 01:54:25
( 終戦六十周年の節目の年を祝う特別な建国祭。恒例の警察や冒険者に次ぎ、今年は国軍の兵士たちまで。キングストン、及びトランフォードの名だたる治安維持組織が総力をあげた警備体制下。それでも起こってしまった騒動の瞬間、ヴィヴィアンとカーティスの二人組は、北通りから一本曲がった通りでパレードの進行ルート封鎖に当たっていた。最初は何か巨大なものが倒れる衝撃音、次いで上がった群衆の悲鳴に騒動の現場へと駆けつければ。もくもくと上がる土煙の奥に、寸前まで屋台だった残骸の上に立つ一体のマラクドラゴンを見咎めて。
「ッ、カーティス!!」「わぁってる!! 仕方ねぇだろ!!」と、この時。珍しく口調を荒らげたのは、単体でマラクドラゴンへ斬りかかった美貌の剣士。ビビの援護すら待たずに広場に入るなり、その巨体へと踊りかかったその無謀はしかし、逃げ遅れた市民を守る為のものだったことに気づかなかった訳では無いが。見渡す限り、戦力になりそうな味方がカーティスとビビしかいない状態で、前線での殺戮に特化したドラゴンの逆鱗に触れることが如何に危険なことか。不幸中の幸いは、カーティスが守った一人を最後にして、守るべき市民達の避難は完了していること。いち早く到着した対魔獣の専門家である冒険者達の存在に、市民の避難と広場の封鎖に専念した警察達の動きは、表彰されこそすれ、決して責められるべきことでは無い。とはいえ、フッフッと荒い息を吐くドラゴン相手に二人では──と、改めてそのドラゴンに視線を向けかけた瞬間。ドォン!! バキッ、メリメリメリメリ!!! と、耳の横すれすれを掠めた瓦礫が、背後の屋台を一撃で破壊する衝撃音に、取り急ぎ完全無策で駆け出すと。相手は対人特価の殺戮兵器。竜騎兵の操るマラクドラゴンの相手は、こちらも同種のドラゴンか、もしくは熟練の連隊が作戦をもって対峙するもの。まかり間違っても、カーティスとビビの二人で相手取れるパワーバランスなどではなく、かといってそんな暴れ竜を広場から逃がすなどもっと有り得ない。この万全の警備体制下、この騒動はすぐさま他の冒険者たちの耳にも入り、すぐさま応援に駆けつけてくれるだろうが、果たしてそれまでどうもたせるか──と、その時。必死に見開いたエメラルドに、その文字列が映ったのは完全なる偶然だった。
類稀なる高い知能を持ち、前線では鋭い爪を振るう一方で、平時では市民とも触れ合う温厚なマラクドラゴン。その理知的な視線は、見る者の浅ましい欲を宥めさえする美しい竜だが、そんな彼らには一つ共有する欠点がある。それは──酷く、それはもう救いようがないレベルで食い意地が張っているのである。どんなに十分に餌を用意しようと、彼らのバディである竜騎兵の注意も虚しく、道端の花壇や店の商品を貪り食む姿は最早日常。最近は彼らが通ったあとは雑草一本残らぬことから、農村での導入も研究されているらしい。とはいえ、建国祭の花形である竜騎兵のパレード。誘惑の多い祭日の中を練り歩く事情上、屋台の食事に手を出さずに我慢出来る優秀な(?)個体が選別されていたはずだが──ビビの視界に映ったのは、バターと……マラクドラゴンの好物である蜂蜜がたっぷりとかかったイラストが描かれた屋台の看板。そして、その蜂蜜の種類が、"ハオマハニー"と。最近、市井で健康に良いと流行っている健康食品である高級蜂蜜なのだが。人間には様々な良い効能をもたらすガオケレナの近縁種の花から作られる蜂蜜も、確か一部の魔獣や動物には良くなかったはずと、太い尾の鋭い一撃を交わしながらその様子を観察すれば。ダラダラと溢れるヨダレに、虚ろな視線、時折腹を庇うように屈んではギュウゥ……とうなる姿は、腹痛に苦しんでいるようにしか見えず。
そうと分かれば話は早い。「顔の前まで飛ぶわ、援護して!」と共有したカーティスからの、「正気か!?」という快い承諾を背に、遥か高い位置にもたげられた首の先へと飛びついて、解毒の呪文と共に大きな動きで杖を振れば十数分後、結果から述べるにビビの推測はたしかに当たっていたようで。酷い腹痛から解放され、キュゥ……と自分の起こした惨状に申し訳なさそうに縮こまるドラゴンの隣。数刻ぶりに顔を合わせた恋人の呼ぶ声を、カーティスの腕の中で聞くことになったのは、着地に失敗して足を挫いたからで。 )
──ギデオンさん!
ね、もう下ろしてちょうだい、大袈裟なんだから……
( 普段膝上までしっかりと防備しているブーツを脱いで片手に持ち、もう片方の足で駆け寄ってくるギデオンとカーティスの間に立てば。「暴れていたドラゴンはあちらです。もう危険性はないと思うんですけど……」と、ことの顛末の説明を。「つまみ食いしたか、見物人に与えられたか……ハオマハニーによる錯乱かと思われます」と口にしたところで、よく気づいたなと驚いたのは男性陣のどちらだったか。しかし、カーティスの方はといえばすぐに「……『アナバシス』だな?」と得心の言った表情で頷いたかと思うと、「蜜をとる植物によっては、蜂蜜が毒になるなんて本当だったんだな……」と、今回の閃きがビビの実力ではなく、古代の歴史書からの引用だと、ギデオンへとバラしてくれようとするのを黙らせようとしてバランスを崩すと。──ギデオンさんに褒められたいのに!! と、その浅黒い腕に掴まってぽこぽこと頬を膨らませ。 )
──まって! しーっ、シーッ!!
なんで、バラしちゃうのよう……!
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