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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
985:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-05-26 11:36:45
…………。
( カレトヴルッフの華の王都、キングストンが有する巨大ギルドカレトヴルッフの今代マドンナ、ヴィヴィアン・パチオ。優秀なヒーラーでありながら、見目麗しく、器量よし、そんな常日頃から周囲の目を惹いて止まない彼女だが。彼女を知らない人間に一点だけ、特にその容貌に関して、とりわけ素晴らしい長所をひとつ、例を上げて説明せよと言われれば。"それ"が脳裏に一瞬でも浮かばなかったという男はいないであろう。豊かに、たっぷりと実った、溢れんばかりの双房へ、ギデオンの頭が埋められると。これまで、意識的にせよ無意識にせよ、それこそつい数秒前でさえも、その温もりを信頼する相手へと許したこと自体は無数にあったにも関わらず、ぎくりと身体を強ばらせて。 )
それは……おつかれ、さまです……。
その、……ん、えっと……あの、まち、待ちたいっ……です……ギデオンさんが、良かったら。
( なるほど、この会話の内容を周囲に聞かれないように密着しているのか、と。捜査に必要なことだと脳内で理解するのと、それはそれとして、繊細な乙女心の動揺はまた別の話。しかし──お仕事のためなんだから、意識しちゃダメ……! と、本人としては必死に冷静を装いながら、息も絶え絶えにこくこくと真っ赤な顔を縦に振るその様は、まさに今、その胸中で呼吸する男の目には、良い兆しとして映ったのではなかろうか。いつかの浜辺での様に、少しの示唆だけで真っ青になるわけでも、かといって、完全に無害な父親相手にする様に、すっかり安心しきっている訳でもない。ギデオン・ノースの女として、開花し始めた大輪の花の香りは、思わぬ収穫をも惹きつけることとなって。
そんな、なにやら甘いやりとりをしていたバカップルに一人──やあ、どうも、と。慣れた様子で声をかけてきたのは、其方もまた、女性を侍らせた小柄な紳士で。彼は、油断していたところへ思わぬ声がけに飛び上がり、“グレゴリー”の肩にぐったりと顔を突っ伏す娘の様子に笑いながら、当たり障りのない雑談を数往復、ごく自然な様子で楽しんだかと思うと。──実は、自分は商人なんだ、と寧ろ清々しいほどあっけらかんと素性を表し。断る暇もなく、今晩はお近づきの印に、と懐の中から幾つかの道具を転がしてみせるだろう。──嗚呼、いいや。今晩はお代は結構ですよ……可哀想なうさぎさん。良い夜を……そいつがよかったら今度は購入を検討してくれたまえ、とスマートに名刺を滑らせると、そのまま一切のしつこさを残さず立ち上がってしまって。
そうして、商魂たくましくも風のように、紳士が戻っていったことを確認すると。「……あの! もしかしてコレって……!」と、たった今行方不明の二人が探しているだろう証拠物と、その流出元への物証を同時に得られた可能性に、目を輝かせた娘だったが。そのうち一つに手を伸ばした瞬間。──これ、ゴーレムの核だわ、と。その認可印の有無を確認しようと覗き込んだビビの胸元に、核の内側から飛び出した桃色のスライムが飛び出してきたかと思うと、その態とらしく開いた隙間から潜り込んでくる魔法生物は、危険度こそトランフォード市民でも簡単にいなせる下の下でも。いや、だからこそこれで済んでいると言うべきか。この時のテンションは最早、完全に服の中へと虫が入り込んできた時と同じ。自身もその両手でぬるぬるとその尾(?)の部分を必死に引っ張って止めながら、半泣きになりながら必死にギデオンへと助けを求めて。 )
──ひゃぁ!?!?
何!? なにこれ、はいってく……やっやだぁっ、ギ、グレゴリーさん、とって……!!
かく、核の部分、とってください!!
986:
ギデオン・ノース [×]
2026-05-28 02:41:11
(“ゴーレム”、魔法の泥人形。遡れば神話時代から存在するとされるかれらは、大別すれば二種類いる。ひとつは、魔法使いがその魔力により使い魔として錬成するもの。そして対するもう一方は、カダヴェル山脈の奥地から自然に発生したと云われる、主人のいない“天然モノ”だ。
後者は他の魔物ども同様、“死の巨人の血のしずく”、いわゆる魔核を持っている。しかも特徴的なのは、原生ゴーレムの魔核の場合、内に何かを“しまい込む”性質があるということ。巨人のような外敵にどんなに破壊し尽くされても、自身の二大成分となる魔素と土とを貯め込んだ己の核さえ無事であるなら、あとは辺りが安全な時に地面の上を転がるだけで、何度でも雪だるま式に再成長を遂げられる──という分析が、51世紀時点ではほぼ定説であるらしい。
……そんな性質に目をつける悪徳な輩が出るのも、確かにおかしくはないかもしれない。ただ、だからとはいえいくら何でも、そこにまた別の生物を。例えばそう、魔素を主な栄養源とし、薄暗く狭い場所に身を潜める習性を持つ──“スライム”なんぞを組み合わせようだなんて、いったいだれが思うだろうか? そしてなお悪質なことに、己の身を護るべく何かを“吸収”する性質を生まれ持つスライムに、媚薬の類いを吸わせておくなど、どこの下衆が目論むだろうか。)
……!? !?!!?
(──さてはて。ギデオンがその青い目で、さりげなく視……、見ていた限り。娘の着ている白い衣装は、その肉体にぴったり吸い付き、彼女の見事なボディラインを忠実に描いていたはずだ。ところが核にぶち込まれていた弱小スライム野郎ときたら、魔核より余程魔素にあふれた娘の肉体目掛けて飛び出し、どうやってかその僅かな隙間に潜り込みやがる始末で。
不本意に体をくねらせ悶え苦しむ美女の姿に、ギデオンが今日何度目かの間抜け面をまた晒すのも、しかし時間にして一瞬のこと。先膨れした──はたしてそれは頭部なのか──太く長い不埒な小山が、ヴィヴィアンの衣装の下をぐねぐね這いまわるのを見た瞬間。痴態に凍り付いていたギデオン・ノースの脳内は、瞬時に怒り一色となり完全に再起動した。その背景を言葉にするなら、“彼女の体を好きにするのはお前如きじゃない”という、どうしようもない野郎ごころが九割がたではあるのだが、それが適切に使われるなら結局紳士と言えないだろうか。
ともかく、スライムの尾を捕まえて動けないヴィヴィアンのため、こちらも邪心を一切排して、己の大きな掌を真剣にぐっと押し当てる。しかし怯えたスライムはびくんびくんとのたうった末、びちびち激しく抵抗しはじめ、その核を一向にギデオンに握り潰させない。それどころか、ついにヴィヴィアンの手をすり抜けてしまう様を見て、これはまずいと直感する。──スライムという魔生物は、狭く暗い場所に逃げ込む。今のヴィヴィアンは潜入のために丈の短いワンピース姿で、また彼女はただでさえ、おそらく類稀なほど魔素に満ち満ちた体をしていて……。
スライムが“そこに”気づけば、より度し難いことになるのは火を見るよりも明らかで、故にギデオンは即断した。彼女の長い両脚をいきなり大胆に掬い上げ、その身をぐるりと反転させて、ギデオンの片膝の上、こちらに背面を向けるような格好でしっかり跨り直らせる。これなら“後ろ”はギデオンの腰、“前”もギデオンの太腿でしっかり塞いでおけるという、あくまで合理的判断である。その証拠に、片足を遠慮なくローテーブルの縁にかけ、腿をぐっと急傾斜にしてより密着させながら。「──少し我慢しろ、」と真後ろから無駄に真剣な声音で囁き、その両腕で迷いなく、遠慮なくまさぐり倒すその目的は、あくまで有害な魔生物を捕まえることにこそあり。……ただでさえ瑞々しい肉感を生まれ持ち、今はその上、可愛らしいうさぎ耳を可哀想なほど揺らささるを得ないだろう、若く麗しい娘のことを追い詰めかねない自覚など、これっぽっちもあるわけがなく。)
987:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-05-29 23:27:33
──……ひぁっ!?
( ──ドクン、と。当初、心臓の高鳴りとして現れた違和感を、最初はただ恐怖から来る高鳴りかと思った。しかし、ぐるりと膝の上で持ち上げられて、不安定な体勢に、悲鳴とも喘ぎともとれる声をあげながら、後ろ手にギデオンへとしがみつけば。──次の瞬間だった、何かが可笑しい、と。己の身に起きている異変に気がついたのは。 )
ッは、ァ"……っ、…………ぁ?
( さて、ヴィヴィアン本人それ以外で、その違和感へと気がつけたのは、ギデオンくらいのものだっただろう。流れる音楽にかき消されてしまう程の小さな吐息。しかし──グランポート産の高級砂糖を限界まで煮詰めて、滑らかさの中にも、濃厚なザラつきを感じさせるような──甘い、甘い響きを返事の代わりに吐き出せば。そこにいたのは、すっかり砕けた腰を小さく震わせ、力の入らない状態をぐったりと捉えられた無力な小兎で。
果たして、この後の時間はどちらにとって、より酷い拷問となっただろうか。衣装の中の魔物が暴れる度、または魔物が這ったあとの肌を男の手元が掠める度に、頭上の耳をだらしなく揺らして。蕩けきった吐息を両手で押し殺しながら、悩ましく身体をくねらせることしか出来ないヴィヴィアンと、その甘い声を、熱を持った肌の質感を、直接流し込まれる羽目となったギデオン。その媚薬に対する耐性の差は、この時、魔物に魔力を奪われた娘の身体が、その失った分を補おうと、スライムの這った跡 ≒ 媚薬成分に残る魔素を、恐ろしい勢いで直接吸収したから──と、いうことは。まるで永遠のように感じられた格闘の末、何とか引っ張り出したか、潰したか。その肌の上から、やっと元凶を除いたところで最早、不規則な呼吸にひくひくと鼻先を揺らし、目元以外もあちこち真っ赤にした疼きは、そう簡単には消えてくれないということで。
とろんと蕩けた虚ろな目をして、読み取った魔素に対してぶつぶつと、うわ言のように言及すれば。最早、もう己の状態を客観視出来ていないのだと。かえってその状態が如何に良くないかということを、まざまざとギデオンに見せつけながら。「……あつい、」と、立ち上がろうとしてバランスを崩せば。再び向かい合う形で、信頼する腕の中へと治まって。 )
~~~ッ!!
は……、あぁ……ありがと、ございましゅ……
ん、あの、これぇ……っ、違法で間違いないかと、ま、魔素が……
988:
ギデオン・ノース [×]
2026-05-30 12:50:54
(娘を苛む男の調べが、突然ぴたりと凍りつく。たった今、甘く濁った女の吐息が己の耳に届いたのだが──それで起こるのは興奮ではなく、寧ろ理性の冷却だった。これまでの三カ月弱、二十歳もとうに過ぎてなお初々しい恋人を、伊達にほぐしてきたわけではない。男の本懐に至れなくとも(そもそも事情を踏まえればあまりにも手が早いだけだが)、彼女が示す反応全てが愛おしいものである以上、寝台の上の観察記録はしっかり脳裏に刻まれている。故に、確信を以て断じる──ヴィヴィアンは“まだ”、こんな風に啼いたりしない。こちらがどんなに手技を凝らせど、その喉が絞り出すのは、本来もっと清明な戸惑いの音であるはずだ。なら何故、何が起きているのか?
その思考は数秒も経たずに断たれる。これまで山野の第一線で様々に作戦を立て、仲間に責任を負いながら臨機応変に対応してきたベテラン冒険者の感覚が、正確無比な自動操縦に身を委ねろと囁いている。故に今は努めて無心で、引き続き──だがやはり明らかに、異様にぐにゃりと力の抜けた、様子のおかしい──娘をまさぐり、すぐに真相のひとつにに至る。スライムはほぼ最弱と言っていいほどの魔生物、それがこれほど生き生きと力強く逃げ回る時点で、“それ”に気づくべきだったのだ。「……雷魔法で処置をする。指輪に誓って痛い思いはさせないが……驚いて舌を噛むなよ」と。事前に警告するのが大事で、実際どれほど理解したかは今は構わなくていい、こちらが確保することだから。彼女の下腹に掌を当て、瞼を閉じ集中し、これまでの人生で最も繊細に気を遣いながら己の魔力を操作して──パチッ! と。たった一度だけ、青い閃光を走らせる。
はたして、稀代のヒーラーの魔素をいくら貪り食べようと、やはりスライムはスライムだ。娘の服の胸元から躊躇なく手を突っ込めば、すっかり気絶し粘度の下がったその塊を、すぐにぬぱぁと引きずり出せよう。……その核を捻り潰すのは感情的にも容易いが、今は絶対にしてはいけない。引き続きほんのわずかなひとかけらでも回収しそびれていないかを──そのサイズの方が脅威だ──指を巡らせ確認し。それは、スライムの吐いた媚薬を拭うことにも広げることにもなるのだが、いずれにせよそのたびに肌を火照らせ苦悶するヴィヴィアンに、「辛いな」「絶対助けてやるから」と、いっそ優しい声音で囁く。掌に吸い付く瑞々しい感触は──これは、記憶に刻まない。
……問題ない、これで全部だ。そう告げるなりヴィヴィアンが力なく顔を上げ、ローテーブルの灰皿の上でぴくぴくと動くスライムをきちんと検分しはじめたのは、こんな目に遭わされて尚やはりプロヒーラーたる美点か。それでもきっと無自覚にぐらぐらと身体を揺らし、視線を熱っぽく潤ませ、碌に呂律も回らないまま、無理にきちんと立とうとしてやはりこちらへ倒れ込むのを、今はただそのまま受け止め。片手で灰皿を掴み上げ、スライムを元の魔核へ流し込むように戻せば(安全な“狭く暗い場所”へと、スライムの方も自分からぬるぬると戻っていった)、「ああ、そうだな」「デレクたちに渡してやろう」「よくやった」と囁きながら、ゆっくり抱き寄せ休ませてやる。
──そうして、その華奢な肩越しに、フロアの向こうへ視線をやれば。やはりしっかり目が合ったのは、先ほど注文を取っていた若い女の店員だ。店の暗い壁際で、自分より年嵩の女店員と何か囁き合っていたが、ギデオンの顔を見た瞬間その場にじっと固まって、数秒ほど見つめ合った。……グルではないな、と判断する。少なくとも末端は信用できる、ほんの数分程なら。試しに軽く人差し指で呼びつけるなら、やはりそれだけで察する程度に、こちらを案じていたようで。薄手の大きなタオルケットを急いで持ってきた女に、「少しここについていてくれ」と席を立ちながら命令する。依頼ではない、命令だ。女の顔がわかりやすいほどに強張り、何やら様子がおかしいようだと心配し始めていたらしいソファー席の客たちも、怪訝そうにこちらを見たが。その一切に構うことなく、タオルケットにすっぽりくるまれぐったりしている恋人に、視線を合わせるべくしゃがむ。ああ、自分はこんな時、こんなに優しい声色を出すことができたのか。)
……“ヴィヴィアン”、少しだけ待っていてくれ。
大丈夫だ、五分で戻る。……その後、一緒に家に帰ろう。
(──さて、ここまで長くなったが。この直後の話については、手短に済ませられよう。「お客様!」「おやめください!」「わたくしどもでお調べを!」と追いすがる年嵩の女店員、その様子を見て何事かと振り向く黒服数人に構わず、フロアを縦断しても無駄なら、店の廊下を突き進みトイレのドアを開け放つ。そこで煙草に火を点けて、紫煙を──文字通り紫色の、禁制品の魔法植物でしか出し得ない臭いのものを──悠々と吐いていたのは、やはり先程の密売商人。「うん? 何だね、さっきの君かね。どうだ、君の仔ウサギにはいい具合に火が通った、か……」と、言いかけていた男のところへ。たった数歩で距離を詰め、その髪をきつく掴んで、目を剥く男の顔面を窓ガラスへ叩き込んだのも、血だらけになったその顔に鼻を突き合わせる勢いで尋問をけしかけたのも。後から幾度振りろうと、ギデオンは常に揺るぎなく、終始冷静な判断だったと心の底から言い切るだろう。
多少酌量するならば──後日“偶然”再会した、エドワード・ワーグナーの世間話から聞き知るに。件の密売商人はやはり組織の末端だったし、そこまで強力な催淫剤を仕込んだつもりもなかったらしい。ただ今回は、ヴィヴィアン・パチオというイレギュラーがあまりにも規格外な生ける魔素の塊であり、本来もう少し穏やかな効果にとどまるはずが、スライムの活性化により、どうやら理論限界値を突き破ってしまったようだ。とはいえ、媚薬はその程度により劇物としか言えないし(というより合法で売られる媚薬はどれも実際強壮剤だ)、これがたとえ薬であろうと、やはり過ぎたるは毒である。そして被害者のヴィヴィアンがいくら規格外であろうと、安全が不確かならば、その商品は規制すべき欠陥品でしかありえない。
酒場『バッカナリア』自体は、魔道具ならば話題の種にと持ち込みを許可しているが、その使用の範囲については、実はしっかりルールがある。そして人体に取り込んだ後外に戻せないものは、水も含めてその一切の持ち込みを禁止している。理由は当然、今回のような事案を未然に防ぐため。そして花街の区画にない店が課される風営法を遵守するためでもある。故にギデオンの暴行は、店の落ち度と手打ちとされ。その後の追加調査については、あの後ちょうど降りてきたデレクとカトリーヌのコンビにすっかり引き継ぐこととなった。『バッカナリア』に常駐している施療師の診断を受け(ここでもこの酒場が本来はまともであることを察せよう)、ただ単に催淫効果が和らぐのを待つだけで健康に戻るとわかれば、後は店に用はない。タオルケットに包まれたまま、まだ苦しそうなヴィヴィアンを抱き上げ、店が呼んだ馬車に揺られて夜更けの王都を横切っていく。
サリーチェの我が家に帰宅し、白うさぎの衣装を剥いで、ゆったりとしたネグリジェに居替えさせてやった後。寝台の上で横たわる可哀想な恋人をしばしじっと観察してから、水差しをグラスに傾け、冷えた中身を口に含んで、そちらにそっと身を屈める。やがてこくん、と相手に水分を摂らせたならば、その間近な距離のまま、頭を撫でて囁いて。)
…………。具合は、どうだ。まだ辛いか……?
989:
ギデオン・ノース [×]
2026-05-30 12:55:30
(娘を苛む男の調べが、突然ぴたりと凍りつく。たった今、甘く濁った女の吐息が己の耳に届いたのだが──それで起こるのは興奮ではなく、寧ろ理性の冷却だった。これまでの三カ月弱、二十歳もとうに過ぎてなお初々しい恋人を、伊達にほぐしてきたわけではない。男の本懐に至れなくとも(そもそも事情を踏まえればあまりにも手が早いだけだが)、彼女が示す反応全てが愛おしいものである以上、寝台の上の観察記録はしっかり脳裏に刻まれている。故に、確信を以て断じる──ヴィヴィアンは“まだ”、こんな風に啼いたりしない。こちらがどんなに手技を凝らせど、その喉が絞り出すのは、本来もっと清明な戸惑いの音であるはずだ。なら何故、何が起きているのか?
その思考は数秒も経たずに断たれる。これまで山野の第一線で様々に作戦を立て、仲間に責任を負いながら臨機応変に対応してきたベテラン冒険者の感覚が、正確無比な自動操縦に身を委ねろと囁いている。故に今は努めて無心で、引き続き──だがやはり明らかに、異様にぐにゃりと力の抜けた、様子のおかしい──娘をまさぐり、すぐに真相のひとつにに至る。スライムはほぼ最弱と言っていいほどの魔生物、それがこれほど生き生きと力強く逃げ回る時点で、“それ”に気づくべきだったのだ。「……雷魔法で処置をする。指輪に誓って痛い思いはさせないが……驚いて舌を噛むなよ」と。事前に警告するのが大事で、実際どれほど理解したかは今は構わなくていい、こちらが確保することだから。彼女の下腹に掌を当て、瞼を閉じ集中し、これまでの人生で最も繊細に気を遣いながら己の魔力を操作して──パチッ! と。たった一度だけ、青い閃光を走らせる。
はたして、稀代のヒーラーの魔素をいくら貪り食べようと、やはりスライムはスライムだ。娘の服の胸元から躊躇なく手を突っ込めば、すっかり気絶し粘度の下がったその塊を、すぐにぬぱぁと引きずり出せよう。……その核を捻り潰すのは感情的にも容易いが、今は絶対にしてはいけない。引き続きほんのわずかなひとかけらでも回収しそびれていないかを──そのサイズの方が脅威だ──指を巡らせ確認し。それは、スライムの吐いた媚薬を拭うことにも広げることにもなるのだが、いずれにせよそのたびに肌を火照らせ苦悶するヴィヴィアンに、「辛いな」「絶対助けてやるから」と、いっそ優しい声音で囁く。掌に吸い付く瑞々しい感触は──これは、記憶に刻まない。
……問題ない、これで全部だ。そう告げるなりヴィヴィアンが力なく顔を上げ、ローテーブルの灰皿の上でぴくぴくと動くスライムをきちんと検分しはじめたのは、こんな目に遭わされて尚やはりプロヒーラーたる美点か。それでもきっと無自覚にぐらぐらと身体を揺らし、視線を熱っぽく潤ませ、碌に呂律も回らないまま、無理にきちんと立とうとしてやはりこちらへ倒れ込むのを、今はただそのまま受け止め。片手で灰皿を掴み上げ、スライムを元の魔核へ流し込むように戻せば(安全な“狭く暗い場所”へと、スライムの方も自分からぬるぬると戻っていった)、「ああ、そうだな」「デレクたちに渡してやろう」「よくやった」と囁きながら、ゆっくり抱き寄せ休ませてやる。
──そうして、その華奢な肩越しに、フロアの向こうへ視線をやれば。やはりしっかり目が合ったのは、先ほど注文を取っていた若い女の店員だ。店の暗い壁際で、自分より年嵩の女店員と何か囁き合っていたが、ギデオンの顔を見た瞬間その場にじっと固まって、数秒ほど見つめ合った。……グルではないな、と判断する。少なくとも末端は信用できる、ほんの数分程なら。試しに軽く人差し指で呼びつけるなら、やはりそれだけで察する程度に、こちらを案じていたようで。薄手の大きなタオルケットを急いで持ってきた女に、「少しここについていてくれ」と席を立ちながら命令する。依頼ではない、命令だ。女の顔がわかりやすいほどに強張り、何やら様子がおかしいようだと心配し始めていたらしいソファー席の客たちも、怪訝そうにこちらを見たが。その一切に構うことなく、タオルケットにすっぽりくるまれぐったりしている恋人に、視線を合わせるべくしゃがむ。ああ、自分はこんな時、こんなに優しい声色を出すことができたのか。)
……“ヴィヴィアン”、少しだけ待っていてくれ。
大丈夫だ、五分で戻る。……その後、一緒に家に帰ろう。
(──さて、ここまで長くなったが。この直後の話については、手短に済ませられよう。「お客様!」「おやめください!」「わたくしどもでお調べを!」と追いすがる年嵩の女店員、その様子を見て何事かと振り向く黒服数人に構わず、フロアを縦断しても無駄なら、店の廊下を突き進みトイレのドアを開け放つ。そこで煙草に火を点けて、紫煙を──文字通り紫色の、禁制品の魔法植物でしか出し得ない臭いのものを──悠々と吐いていたのは、やはり先程の密売商人。「うん? 何だね、さっきの君かね。どうだ、君の仔ウサギにはいい具合に火が通った、か……」と、言いかけていた男のところへ。たった数歩で距離を詰め、その髪をきつく掴んで、目を剥く男の顔面を窓ガラスへ叩き込んだのも、血だらけになったその顔に鼻を突き合わせる勢いで尋問をけしかけたのも。後から幾度振りろうと、ギデオンは常に揺るぎなく、終始冷静な判断だったと心の底から言い切るだろう。
多少酌量するならば──後日“偶然”再会した、エドワード・ワーグナーの世間話から聞き知るに。件の密売商人はやはり組織の末端だったし、そこまで強力な催淫剤を仕込んだつもりもなかったらしい。ただ今回は、ヴィヴィアン・パチオというイレギュラーがあまりにも規格外な生ける魔素の塊であり、本来もう少し穏やかな効果にとどまるはずが、スライムの活性化により、どうやら理論限界値を突き破ってしまったようだ。とはいえ、媚薬はその程度により劇物としか言えないし(というより合法で売られる媚薬はどれも実際強壮剤だ)、これがたとえ薬であろうと、やはり過ぎたるは毒である。そして被害者のヴィヴィアンがいくら規格外であろうと、安全が不確かならば、その商品は規制すべき欠陥品でしかありえない。
酒場『バッカナリア』自体は、魔道具ならば話題の種にと持ち込みを許可しているが、その使用の範囲については、実はしっかりルールがある。そして人体に取り込んだ後外に戻せないものは、水も含めてその一切の持ち込みを禁止している。理由は当然、今回のような事案を未然に防ぐため。そして花街の区画にない店が課される風営法を遵守するためでもある。故にギデオンの暴行は、店の落ち度と手打ちとされ。その後の追加調査については、あの後ちょうど降りてきたデレクとカトリーヌのコンビにすっかり引き継ぐこととなった。『バッカナリア』の客のひとりが偶然にも医師であり、ただ単に待つだけでも無事に寛解するだろうと診断を下されたなら、後は店に用はない。タオルケットに包まれたまま、まだ苦しそうなヴィヴィアンを抱き上げ、店が呼んだ馬車に揺られて夜更けの王都を横切っていく。
サリーチェの我が家に帰宅し、白うさぎの衣装を剥いで、ゆったりとしたネグリジェに居替えさせてやった後。寝台の上で横たわる可哀想な恋人をしばしじっと観察してから、水差しをグラスに傾け、冷えた中身を口に含んで、そちらにそっと身を屈める。やがてこくん、と相手に水分を摂らせたならば、その間近な距離のまま、頭を撫でて囁いて。)
…………。具合は、どうだ。まだ辛いか……?
990:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-03 18:05:16
──いえ……、すこし、あついだけ……
( その言葉が嘘だということは、熱い口内、未だ蕩けて潤む瞳、そして普段より長く引いた銀糸、それら全てがあまりにも、あまりにも分かりやすく伝えていた。
まるで罰でも当たったかのようだ──ギデオンさんの本気を疑った。自らの有用性を示したくて、慣れない潜入捜査も出来ると虚勢をはったのがこのザマ。かろうじて、証拠だけはデレクやカトリーヌに引継ぐことが出来たものの、それも運が良かっただけで。結局、腹が立った、見返してやりたかった婚約者に、今こうして迷惑をかけている。 )
ごめん、なさい……まだ、触れられると辛いみたいです……
( こちらは強ち嘘でもない。優しい手が、ビビの生え際を掠める度、イライラと腹の底から湧き出す自責の念に、浅くなる呼吸を押し殺し、未だ力の入らない腕で、しかし確かに相手の掌を拒絶するように押し返せば。濡れた目元を赤くして、珍しく酷く苛立っている様は、己が身を襲う生理現象を理解できずに、眠気にむずがる幼児と変わらないということに、襲われている本人が気づけないでいる。そうして、ギデオンから離した顔を、ぐったりと白いシーツに埋め、無理やり引き出された興奮に震える身体を抱きしめ低く唸ると。人間、弱った時の悪癖など、中々変わらないものだ。大好きな愛おしい婚約者に、これ以上醜態を晒し続けたくなくて、今晩は自分の部屋へ篭ろうと、ぐらぐらと安定しない頭を持ち上げると、柔らかい寝具に力の籠っていない細い腕を突っ張って。 )
……から、今日はひとりでいたいの……こんな、はしたない……
ご迷惑おかけして、ごめんなさい……
991:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-04 00:49:35
……迷惑なわけがないだろう。
(火照る体を震わせて無理をおす恋人に、除けられた手を引きながら、溶かし込むように低く囁く。触れられたくない、頼りたくない──そうはっきり示されたとて、婚約前のあの騒動を散々省みたギデオンが、今更揺らぐわけもあろうか。「当たり前だが、はしたないとも思っちゃいないぞ」と。自分は相手の、恋人であるヴィヴィアンの、絶対の味方なのだと。窓から差し込む月明かりに淡く浮かんだその横顔は、どこまでも彼女のことを気遣ってやまないもので。
──とはいえ。本気でよく見ているからこそ、理解してしまうものもある。ヴィヴィアンは本当に、今ばかりはギデオンに離れていてほしいのだ。不可抗力の状態異常、そんな何がどうなるか自分でもわからないのに、大事な人を関わらせるのが不安で不安でたまらない。その心情にはギデオン自身、どこか覚えがあるだけに。どうしたものか、と口許に片手を当てて、薄闇の中思案する。
……こんな時、多少の仲の男と女、それに完璧に安全な寝室が揃っているなら、取るべき対処はただひとつ。だがしかし、未だ十代の少女のようにおっかなびっくりのヴィヴィアンに、その明け透けな方法はあまりにも酷だろう。付け入る形にもなってしまうし、望まない快楽は恐らくよ碁を悪くする。……だからといって、ヴィヴィアンのお望みどおり、ギデオンの目に見えないところで放置するなど論外だ。確かにふたりの我が家には、ヴィヴィアンのための個室があるし、そこには下宿から引き上げたひとり用のベッドがある。彼女が普段調合している香草類が豊富なうえ、そもそもその空間は、年嵩の自分と共に生活していく上で、きっと時々ごく単純にひとりになりたいだろうからと、如何にも気の利いたふりをして確保したものなのだ。──だが、きっと、そうとは言っても、使いどころは今じゃない。一種の体調不良と言えるヴィヴィアンを無慈悲に放り込むために、そこを用意したわけじゃない。なら、代わりにどうすればいい? どうすれば今のヴィヴィアンを、充分納得させられる……?
そこではた、と思いつく。時間にして数秒か数十秒か、止める間もなく彼女が部屋に籠ってしまうまで時間がない、これでだめなら元々だ。「なあ、ヴィヴィアン」と、相手の具合がすぐれないのをよくよくわかっているうえでだと、声のトーンで慎重に感情の距離を調整しながら。いつものように撫でかけた手をさりげなく引き戻し、あくまで相手の返答を重んじるように静かに尋ねて。)
……実はひとつだけ、お前の辛さを和らげてやれる方法を思いついたんだ。
少しの間、手を……魔力弁を……繋いでもらうことにはなるが、お前は何もしなくていい。息が上がるようなことにはならない。
もしその方法でも駄目だったら、あとはお前の言うとおり、ゆっくりひとりで休ませるから。……一度だけ、試させてくれないか。
992:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-05 17:41:31
( ──どうして、こんなに優しいんだろう。ギデオンが差し伸べてくれた手を、ヴィヴィアンは無下に振り払ったにも 関わらず。怒るどころか、気遣わしげな表情を浮かべる恋人に。自然と溢れ出す好きな気持ちも、しかし今は悪い方へと作用するばかり。低く、甘く、大好きな声が、優しく耳に響く度、益々燃え上がるように増す熱に、最初の雫が瞼の縁を乗り越えるともう駄目だった。
敏感になった触覚から流し込まれる、まるで神経に直接触れられるような信号に、腹の底から湧き上がって、脳を直接揺さぶるような酷い衝動。それら得体の知れない感覚を、診断してくれた医者に悪意はなかったにせよ、発情しているのだと謗られてしまえば。未だ初心な娘には、堪えきれずに上ずる呼吸や、その反応全てが、恥ずかしくて堪らなかったものだから。『息が上がるようなことにはならない』というギデオンの言葉は、ぐずぐずと子供のようにべそを書き始めた彼女にとって、まさに天から差し伸べられた救いの一言で。 )
……っ、…………ほんと……?
( そうして、将来を約束しあった男女が、自分たちの寝室に二人きりという状況にして。まるで相手を疑う素振りもなく、大きな両目をまん丸に見開けば。年上の婚約者の真意をはかりかねつつも、おずおずと両掌を差し出しかけるも、「あっ」と。なにかに気づいたような表情を浮かべると、さっと両腕を引っ込めかけて。 )
でも、私の代わりにギデオンさんが辛くなるのはイヤ……
993:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-07 21:10:32
(夜の寝室の静けさに、笑んだ男の温い吐息が柔らかなさざなみを打つ。ああ違う、何も嗤ったわけじゃない──あまりにいたいけな反応や、自分が辛い時ですらこちらを案じる情の深さに、つい堪らなくなっただけなのだ。
とはいえ安心させてやるべく、「なりやしないよ」と穏やかに即答すると。まずはのんびりと周りを見回し、太い腕で枕を引き寄せ、深々体を落ち着ける。そうして、すっかり寛ぎきった様子を相手に示してみせながら、日の香りがする涼しいシーツをぽん、ぽん、と優しく叩いて。幼子をあやすような、宥めるようなこの手つきは、相手に直接触れずとも、いくらか助けになるだろうか。)
……昔、ホセやレオンツィオたちとパーティーを組んでた頃に、うっかりラミアの巣窟に入り込んだことがあってな。ちょうど繁殖期だったから、“蠱惑の霧”の噎せ返るほど濃いやつを、これでもかと噴きつけられて……そりゃあ、あの時は辛かったさ。
……だが、逆に言えば、そのときの耐性があるから、大抵の魔生物由来の媚薬は、多少平気な体なんだ。淫魔の毒だって、もう抗体を持ってるからな。……
(落とした声で語りだすのは、なんてことない思い出話。懐かしんで軽く肩を竦めると、その和やかな青い視線を、一度己の掌に遣る。それから再び相手の目を見て、優しく微笑んでみせたのは、そこから先の相手の意思を仕草のうちに問うためで。)
寧ろ、おまえがひとりで苦しんでるのに何もしてやれないほうが、俺にはよほど堪えるよ。
──片方が独り苦しむよりも、ふたりで一緒に乗り越える。そのほうが良い、だろう……?
994:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-09 22:56:27
( ──ギシリ、と。実用的な筋肉の重さに,
堅牢なベッドが微かに歪む音が寝室に響いた。その部屋の中心で、薄絹の背中を、しっとりと湿らせていた無垢な乙女は、近づいたギデオンの体温にはぎゅっと身体を縮こまらせ、俯いた視線をもじもじと困ったように彷徨わせる癖をして。その大きな手が、今は空いている相手の隣のスペースを、ぽんぽんと優しく叩くのを見れば。それが、己の為に用意されたスペースであると、微塵も疑うことなくするりと身体を横たえると。火照った頬は俯いたまま、視線だけでじっとギデオンの表情を見つめて。 )
──…………でも。……、
あの、……その、その時のこと。
どうして……どんな風に、ご無事に帰ってきてくださったのか、聞かせてくださいませんか……?
( それでも、自らの選択でギデオンを少しでも苦しめる勇気がすぐには出せずに、艶やかな下唇を噛み締めれば。その中身に触れないよう慎重に、桃色の指先だけで婚約者シャツの裾を引いたのは──わかっています、と。最終的にはちゃんと勇気を出しますから、少しだけ時間をくださいな、と。口に出しこそしないものの、きっと察してくださるだろう、優しい年上の婚約者に対する最大限の甘えで。 )
995:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-12 08:13:35
(ほとんど条件反射のようにすり寄ってくるいじらしさ、縋りつく華奢な指先のこれまたちょこんと奥ゆかしいこと。そして何より、未だぽうっと熱っぽいのに、それでも信頼が窺える上目遣いまで寄越されたなら、思わず抱き寄せたくなったのを誰が咎められようか。実際にはもちろんのこと、ほんのかすかな身じろぎだけでぐっと思いとどまってみせ。「そう大層なもんじゃないぞ」と、如何にも余裕な大人の顔で困ったように微笑んで。
そこから先はしっとりと、お姫様にねだられた寝物語を聴かせる時間だ。「──それで、ようやく陽が落ちた頃。まず俺の状態異常がようやくいくらかマシになって、ヒュドラの縄張りに突っ込むような馬鹿をやらなくなったんだ。だがまあ、そこから先の方が、むしろ大変なところでな……」と。──魔法医学や魔法薬学を修めているヴィヴィアンに、今更素人のギデオンが説く話でもなかろうが。薬も毒も通常は、その人間の体格……体積に比例して、効果の程度や必要量なりが変動する傾向にある。そしてまた、人間ひとりひとりの体に絶えず張り巡らされている魔導回路が備えている“魔力保有量”もまた、同じく効果時間の類いに大なり小なり影響する。……まあ、要は早い話が。仲間内では最も良い体格×最も少ない魔力保有量 を併せ持つギデオンと、②仲間内では普通の体格×最も高い魔力保有量 を併せ持つホセ、そして③仲間内では線の細い体格×普通の魔力保有量 を持つレオンツィオでは、ラミアの毒への耐性に、個人差があったということ。当時のパーティーメンバーの中では、ギデオンの理性が真っ先に多少復活し、他の仲間の面倒を見ることになったわけだ。)
女なら可愛いもんだが、野郎の発情状態ってのはまったく手に負えないぞ。
なまじ冒険者として征圧力がある以上、絶対人里に戻っちゃいけない。当時ヒーラーをつけてなかったのもある意味幸運だったわけだが、そうなるとまあ、自然に効果が収まるまでは、とにかくめちゃくちゃに暴れ倒すしかなくなるって寸法でな……
(……気が狂いそうだからといって、代わりに魔獣狩りに傾倒するなんて話は、この手の事故でよくあることだ(ちなみにそれが、ラミア毒の間接的な死因としても有名である)。ところが、なまじホセのような実力者がやる場合、体の疼きを発散すべく、卵を守るドラゴンの巣に突撃しに行くなどという無謀な馬鹿をやることになり、理性の戻ったギデオンが、魔力量で敵わぬ相手を必死に制する羽目になる。さらに言えば、その間やたら色っぽくふらついているレオンツィオが、雌の精霊に逆ナンされて異界に引きずり込まれかけるのも、同じくらい目が離せなくて本当に大変だったと。「だから今のおまえの具合は、迷惑どころか、本当に可愛いもんだ……」と。かつてのむさ苦しい地獄絵図に、思わず遠い目で呟いて。)
996:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-13 00:11:06
っふふ、
笑っちゃ……ごめんなさい、だって、ホセさん、レオンツィオさんも、皆さんったら……!
( ギデオンがしてくれたその話は、長年のファンであるビビでも聞いた事のないものだった。ホセ・モンドラゴンに、レオンツィオ・バルロッティ、そしてギデオン・ノースと、確かに己の武勇伝を声高に語る人達ではないのは確かだが。それにしたって、花形冒険者たちの逸話というものは、一体誰が見ていたのか、冒険者人気の高いトランフォードで、何年もまことしやかに語られがちだというのに。大の男達のうち三人が三人、よほどお互い気まずかったのだろう。その全員が、むっつりと口を閉じていたこと。そして純粋に、話し上手なギデオンの語り口に、思わず口を抑えて吹き出せば。そんな貴重なお話を、自分には話してくれたこともまたじわじわと嬉しくて。 )
……そうですね、お二人よりは、ご迷惑をおかけしてないかも。
( そう嘯きながら、ギデオンの非常に深い愛情の形に、未だとろんと熱を持った瞳で、じっと己の掌を見つめれば。──はあ、と。熱く浅い息を一つ吐いてから。まるでエスコートでもされる時のように、薬指の指輪が光る手の甲を、そっとギデオンの方へと差し出して。 )
…………。
ギデオンさんが、"可愛い"って、言ってくださるなら、……いっか。
お話、してくださってありがとうございました…………ギデオンさん。
たすけて……、お願い、ギデオンさんに、らくにしてほしいの……。
997:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-14 08:05:54
…………
(どうにもおかしい。こちらはあくまで、毒に臥せった哀れな娘に助けを乞われた立場のはずだ。それがなぜ、掌で甘く転がされるような──逆にぐっと救われるような心地にされてしまうのか。たおやかで意味深い手や、幾度も名を呼ぶ湿った吐息、そういった魔性の仕草に、きっとヴィヴィアン本人は無自覚であろうことさえ、どこか馴染みの悔しさに包み込まれるような気がして。だからただ、相手のそれを掬うように両の手を優しく握ると、ごくわずかに頭を寄せ、「任せろ」と囁き返し。
──やることは単純だった。以前にもしたことがある、魔力弁を介してのお互いの魔素のやり取り……それを今度は、ひとつの弁で押して返して感覚的に遊ぶのではなく、片手から吸い片手で吐きだす、循環方式でやるだけだ。ただし少々工夫が要るのは、ギデオンが己の魔素をヴィヴィアン側へ流すとき、きちんと中身を“濾して”おくこと。ヴィヴィアンの魔素は今淫毒に冒されていて、ふたりの魔素をただ単に均すだけでは、大して楽にしてやれない。だが、ギデオンの身体の方にいくらか多く毒を残して、その分こちらの清潔な魔素を彼女に渡してやれたなら、かなりの変化を見込めるだろう。互いの体格差と魔力差を踏まえるに……己が引き受けるべきは、理論上全体の六割ほどと言ったところか。もちろん彼女の願ったとおり、これは決してギデオンだけが多く苦しむことにはならない。同じ程度に、決して身悶えしない程度に互いの体を疼かせたなら、数時間ほどとろとろ眠れば、翌朝にはすっきりと同時に毒が抜けきるだろう。)
……どうだ。少しは落ちついて来たか?
(──そうして。両の掌を繋げながら、とくん、とくんと互いの魔素を巡らせあって、どれほど時間が過ぎただろうか。それまでもぽつぽつとお喋りに興じてきたが、自分の方で少しずつ毒が溜まって来た感覚に、そっと小声で問いかけてみる。魔素そのものに温度はないが、最初はかっと熱いそれを吸い上げてきた気がするのに、ここ数十秒ほどは、寧ろ相手の魔力弁こそほどよく冷えてきたように思う。それとも、ギデオンの方の体がぽかぽか火照ってきたために、そう錯覚するだけだろうか。「……、」と零す熱い吐息を小さく笑って誤魔化せば、今ならもういいだろうかと、シーツの下の己の脚を相手のすべらかなそれに絡め、言外に相手をねだって。)
998:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-17 09:33:36
( これまでの──昨年の建国祭以降のヴィヴィアンだったならば、ギデオンからの提案に、どうにか相手を頼る決断こそ下せたとしても。その表情は、酷い罪悪感か自己嫌悪に濡れ、身体の不調などより余程深く、心の方を痛めていたことだろう。しかし、婚約と共に深い絆を結び直した今、相手によって少し気分を解されれば。優しい婚約者に甘えて、少なからず苦痛を強いているというのに、大好きな手にそっと優しく包まれると、その表情はとてもとても穏やかなもので。
それは、喜びとは少し違う。深い安心と、それから──自分のことが大好きで、心の底から尽くしたいと願っている男の願いを"叶えてやって"いる実感。本当は与えたくもない苦痛を分け与え、今までは見せたくなかった醜態も、相手の望むままに。その深い忠誠の念に報いて、"愛されてやって"いることへの満足感。表面的に愛で合い、ただ勝手に愛し尽くすだけでなく、ヴィヴィアン・パチオの人生に欠かせない一助として、最愛の男性に役割を、居場所を"与えている"ことに対する誇り。そんな勢いよく押し寄せてきた感情に、また一段、より深い愛情のかたちを教えられれば。その馴染み深い口元へ、思わず自分のそれを合わせたのと、ギデオンが脚を絡めてきたのがほぼ同時で。 )
……お陰様で、少し楽になってきました……
ギデオンさんは? どこも辛くない……?
( 自ら触れないでと拒絶した癖に、こちらから触れて来たヴィヴィアンに、ギデオンは一体どんな反応をしたことだろう。ある程度媚毒が抜けたからって、その分を相手に背負わせているというのに、少し勝手がすぎるだろうか。でも──嬉しいでしょ? と、視線を合わせて強気に、しかし無邪気に微笑めば。未だ媚毒の抜けきらぬまま抱き合う事で、もしかしたらまた少し呼吸が上がってしまうかもしれない。逆にビビの毒を半分受けてくれたギデオンのそれを目の当たりにすることになるかもしれない。──それでも、ギデオンさんは、私のことが好きだものね、と強ばっていた身体を弛緩させれば。無垢な中にもどこか威厳を感じさせる微笑みを浮かべ、そっと、相手に向けて両手を大きく広げて見せて。 )
……どうぞ? ほら、おいで……、
999:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-22 13:36:12
…………
(それまでのギデオンは、毒に苦しむ娘に寄り添う、頼れる大人の男の顔を浮かべてみせていたはずだ。それがどうして──柔らかなキスをただ一度、まばゆい微笑みをただひとつ、そして相手に甘える権利を寄越された、ただそれだけで。どうしてこんなに呆気なく、ふわりと溶け消えてしまうのか。
両の瞼をとろりと閉ざし、その大きな胸郭に深く息を吸い込めば。寝台を軋ませながら遠慮なく身を寄せて、ようやく彼女を抱き締める。ともすればその様子は、大きな獣がその両腕で、哀れな娘を全身まるごと捕食するように見えただろう。だが実際、ギデオンの抱き締め方はどこまでも優しかったし──まるごとすべてを囚われたのは、寧ろこちらのほうだった。
相手の胸元に鼻梁を寄せたり、唇を触れたり。彼女の後ろに回した掌で夜着や素肌を撫でたりしながら。ヴィヴィアンの柔らかさ、桃のように香る匂いを、心行くまで堪能する。そうしているうちにだんだん、ただでさえ媚薬によって熱を持った思考回路が、ますます曖昧になるようで。)
…………つらくは……つらくは、ないんだが。
いかんせん……ねむい……な……
(ようやくの理性をもって相手に届けた現状は、なんとも情けない本音。まあ、長時間に及ぶ繊細な魔力操作や、天文学的に馴染みやすいとはいえ他人の魔素を取り込んだ後だ、別におかしくはないのだが。それでももっと、他に言いようはあるだろうに──相手が外でもないヴィヴィアンなら、どうせこうして取り繕わずとも全てお見通しなんじゃないか、と。不埒な気配もどこへやら、恋人を愛でる手つきも次第に緩慢なものとなり。何かしら話しかけられても「……ん」だの「うん……」だの、やけに素直な唸るだけ。
それでも最後に──どうにも救えないことに。「……おまえが、もう……無事だから言えるが。あの服は……よく……似合ってた」と。今宵の活躍も吹き飛ばす、欲望駄々洩れの掠れ声を、相手の胸元に吐息混じりに含ませて。)
おまえさえ……いやじゃ……なければ……
今度は……ここで……
俺に……だけ……
…………
1000:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-26 01:41:46
……っ、…………、
( ある意味で予測通りともいえようか。それまで身体中を蝕んでいた毒を、ギデオンに半分以上引き受けてもらったところで。愛する異性から好きに肢体を貪られては、自然と体温が上がるのも自然なこと。しかし──大丈夫、これくらいなら眠れそう、と、意識的に大きく胸を上下させると。鼻腔中に満ち男性らしい深い香りに、静かに大きな両目を閉じて。
さて、これは、万が一にもあり得ないこと故、仮定の話に過ぎないが。この時、もし腕の中の大男が睡魔に襲われず、精力的に娘を求めてくることがあれば、もしかすると。まるで今までの苦労など嘘のように、ヴィヴィアンはギデオンをアッサリと受け入れることができたかもしれない。しかし、それはこの時の二人にも知る由はない、今宵起こらなかった与太話。
次第に男の声が段々と、低くあどけなく蕩けていくのを感じ、そっと閉じた瞼を再び薄く開いて、母を求める子供のように擦り付けられる、金色のつむじを見下ろせば。結局、今晩そのおねだりがどれだけ低俗な意味を持つのか、知り得る機会はなかったが、きっと──おそらく……多分。どこまでもギデオンに甘いヴィヴィアンのことだ。知っていたところで、長かった夜を締め括った言葉は、きっと変わらなかったに違いない。 )
──ええ、お望みならいつでも。
だから、今晩は……おやすみなさい。
本当にありがとうございました……愛してます、ギデオンさん。
*
( それからまだ幾週も立たない近日のことだ。カレトヴルッフに、というには少々規模が小さいが、ビビにとっては今までにない、大きなニュースに見舞われたのは。 )
──ギデオンさん! ギデオンさん!!
ダンジョン! ダンジョン見つけたの!! 私が!!!
行きましょういつがいいですか今ですか!?
( 二人がついている仕事柄、なかなか平和──とも言い難いかもしれないが、別に特筆すべきこともない日常的な昼下がりのこと。その日は午前中から、大量発生した麦食いワームの駆除に駆り出されていたビビだったが、ギルドの大きな扉を潜ったかと思えば。ギデオンを見つけるやいなや、そのトロイト並の末脚を披露して、信頼してやまない筋肉へと突き刺さる様に飛び込んで。 )
凄い、スゴイ、すごいっ!!
ギデオンさんと!! ダンジョン……ッ、ふた、ふたりで……!!
( キャーッっと、彼女にしては珍しいほど高らかな歓声を上げ。あまりの興奮ぶりに酸欠を起こしかけている娘の代わりに説明するならば。
ことの始まりは、ワームの駆除もあらかた終わった正午過ぎ、最後のチェックにと、春に刈り取られた藁の束が、村の神木を背に堆く聳える中を、魔法反応がないかと確認していたところで。藁の中から返ってきた見慣れぬ人工的な魔法式の存在に、書き分ける様にして潜り込めば。そこにあったのは、教科書でしか見たことの無かった、超常的な"入口"──若しくは、研究者によって、"出口"と表現するべき派閥ともう一方に分かれる──を見つけて。
トランフォードでのダンジョンの存在は、全冒険者達の憧れ、英雄への重要な切符の一つだ。それは、古代の魔法使い共からのいたずらとも、挑戦とも、はたまた恩恵とも呼ばれ。現代の技術では再現不可能な魔法陣がある日突然現れたかと思えば、その周辺では大量の魔物に悩まされる代わりに、その最奥のコアを破壊して封じてしまえば。その跡地から半径数キロ範囲の土地には、豊潤な魔素がこれでもかと行き渡り、魔物が寄り付くこともなく、半永久的な豊作が約束される。──と、なれば。開拓時代の農民たちにとって、どれだけ喉から出るほど欲しいもので、かつダンジョンを踏破した冒険者が素晴らしい英雄に祀り上げられたことか。
その名残は現代でも、どれだけ日々活躍し名をあげたベテラン冒険者でさえ、その肩書きにダンジョンの踏破経験の有るか無いかで、市民たちからの知名度は雲泥の差。しかも、そんな肥沃な大地を管理したい国の記録に、踏破者として己の名前が残り、賞金も出るとなれば。もはや名声や金に飢えた冒険者達は、その"入口"を見つけるやいなや、他のやつに手柄を取られてなるかと飛び込む者が後を絶たず。もちろん、それで踏破されこそすれば問題無いのだが。かつては、発見者が周囲にその存在を伝えぬまま、力及ばず帰らぬものとなり。最初の発見から、推定百人以上の冒険者を飲み込み続けたダンジョンもあった。そんな、最初から、適切な能力が持つものが探索していれば、数十年早くその地の人々は安全と繁栄を手に入れ、貴重な戦力が削られることも無かったという反省を活かし。現代では、トランフォードの記録には、踏破者だけでなく発見者も記されるようになり、発見後まずは国への登録を済ませてからでないと、もし踏破しても公式の記録には残されず、賞金も貰えないという制度に変わってきた歴史がある。その上で尚、非公式でも名声を諦めない貪欲な者たちを抑えるために、発見者には探索権を優先的に与えられる──といった事情が、今回のビビの大興奮に繋がるワケで。 )
……っ!? っ、唾が……変なところにっ、……ッ!!
1001:
ギデオン・ノース [×]
2026-06-27 12:11:05
(その日のギデオンが送っていたのは、朝から魔獣と書類を捌く、ごく平穏な一日だった。相棒ヒーラーのヴィヴィアン・パチオが、例の媚薬騒動以来、さしたる後遺症もなく元気に過ごせているからだ──無論、双子剣士が寄越してきた一連の報告書には、件の商人のその後の処遇がさりげなく書かれていたので、ついぴくりと眉を上げたが。あの事件は憲兵団ともしっかり連携しているそうだし、これ以上ギデオンが立ち入るべきではないだろう。故に、デレクたちへの個人的な礼を考えておこうかと、頭の片隅にいくつかのメモを貼り付けるだけにとどめて。
確認済みの書類を重ね、受付を守るエリザベスへと、言伝と共に提出すれば。また別の書類の束を受け取り、ついでにコーヒーも一杯もらって、“いつもの柱”に身を落ち着ける。これが普段のギデオンの、昼間出動待機中の昔ながらのルーティンだ。柱に軽くもたれかかり、優雅にカップに口を付けて静かに書類を読むその姿は、すらりとした長身や整った顔も相俟って、四十路を迎えた今であっても無駄に様になっている──なお。「ただのスケコマシと思ってたけど、ほら、意外と誠実かもって……」「顔とカラダは悪くないし……」「ちょっとつまむ程度なら……」などと耄碌しだした美人精霊使いには、「たまたまビビちゃんが凄いだけでアレは立派なカレ剣よ!!!」とフリーダが即ビンタを飛ばし、「問題は絶対そこじゃないと思うな~!」とリッリがころころ笑っていたが。
ちなみに仲間のエスメラルダは、卓に突っ伏して呻いている。きっと女山賊どもは、昨晩かなり遅くまで飲み明かしていたのだろう。ギルドロビーに入った時点でギデオンはそれを目敏く悟り、彼女たちの会話については耳から叩きだしていた。あれらは触らぬ何とやら。残り半日を無事に終え、愛しい我が家へ帰るのが、今日の己が何においても優先すべき事項である。
……そうだ、書類で思い出したが。そろそろ王都の書士事務所を、幾つかあたっておくべき頃だ。最終的には教会に申請することになるとしても、婚約証書の用意にあたり、やはり最初はプロの意見を充分に集めておきたい。ギルバートやガリニア貴族に通用する書式となると……躊躇われるものはあるが、やはり学院の“あの男”に、一度伝手を訊ねるべきだろうか。だがこれ以上借りを作れば、関わりたくもない政争にいよいよ引きずり込まれかねない。だがそうでなくたって、どのみち別件で相談をしに行くことにはなるのだし。それだって結局は、ヴィヴィアンと暮らしていく将来のためなのだから──と。
真面目に仕事に勤しむようで、実はそこそこ色惚けしていた、その隙を。ギデオンをよく知る“彼女”は、まさか的確に見抜いたのだろうか。)
!?
ヴィヴィア──がふっ!?
(高らかな呼び声に反射で顔を上げたのと、満面の笑みのヒーラー娘が飛び込んできたのが同時。次の瞬間、たまたまそばを通ったマリアに無言でカップを攫われるまま、魔猪もかくやの獰猛娘がまっすぐに飛びついてきたのを、ギデオンは咳き込みひとつでどうにかがっしり受け止めた。そうして大いに混乱しながらその顔を見返せば、今度はカヴァス犬もかくやのきらきらした瞳にぶつかり──待て。「ダンジョンを見つけた?」と、思わず構わず盛大に、困惑あらわの鸚鵡返しを。が、今度は興奮しきりの相手が苦し気に咳き込むのを見て、「落ち着け、ステイ、ステイだ」と、ローブ越しに背中を撫でてその呼吸に寄り添ってやる。……仮にも人間の婚約者に、犬に言い聞かせるコマンドを使うのは如何なものか。己の斜め後ろから、マリアのそんな白い視線が突き刺さるのを感じながらも、あれこれ話を聴くうちに……しかしそんな余計なことは、すっかり頭から吹き飛んでしまって。)
──本当に、見つけたのか。
しかも、第一発見者で……
(ところ移って、談話室。わざわざロビーを引き上げたのは、「この手の話は衆目を避けておくべきだ」と、相手に教え込むためだ。──彼女が狂喜したように、ダンジョンの発見は、冒険者にとっては高額の宝くじに当選することにも等しい。そしてその歴史上、発見者に有利な権利が定められているとなると、当然人の感情も大いにどす黒く渦巻くわけで。
『“ダンジョンマスター”という──昔はダンジョンのボスモンスターを指したが、いつからかダンジョンの制覇者という意味になった──名誉ある称号を、手に入れることができたなら』。そんな風に夢見るのは、大抵二種類の冒険者だ。それこそヴィヴィアン・パチオのような、前途多望の若者か……或いは真逆の、歳がいってもうだつの上がらぬ、頭打ちの中年どもか。特に後者は、自分のキャリアに今以上の好転を望めないから、“ダンジョンマスター”になるといった一発逆転に涎を垂らして飛びつきがちだ。つまり、ヴィヴィアンのような若い娘が第一発見者となると、おこぼれにあずかろうといやらしくすり寄るか、もしくは嫉妬を隠しもせずに足を引っ張ろうとするか、そう言った動きをする問題冒険者が出てくると見込めるわけで。実際、先ほどのロビーでも、いつもとは違う意味で目の色を変えて彼女を凝視する連中が実際に大勢いたと、はっきり相手に証言しておく。
だからダンジョンの発見は、まず身内にこそ隠すべきだ、と。ベテラン冒険者の立場から助言した、その上で──しかしギデオンの青い目は、誇らしげに輝いていた。「やったじゃないか。おまえは武功を立てられるし、村はこれから豊かになるし、ギルドの評判も上がるだろう」と。その表情はしばらくぶりの、純粋に先輩として、後輩を可愛がるもので。……しかし、だからこそだろう。次元が数段違うとはいえ、自分もまた、“これ以上先のない中年”であることを自覚しているギデオンは、老兵として身を引くことに一切疑問がなかったらしく。何てことのない軽い調子で、彼女をパーティーリーダーとしての先の展望を尋ねる始末で。)
──それで、誰を連れて行くんだ?
バルガスがちょうど遠征から帰ってくる頃だろうし、アリアを誘ってのダブルヒーラー体制も、ダンジョン攻略では有効だ。
アランやセオドアもいいんじゃないか? あいつらも最近はますます伸びてきたようだから、先々を考えて引き入れておくのも得策だ。
1002:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-29 23:21:51
ごめんなさい、私、浮かれてしまって……
( 時にはしゃぎすぎることはあっても、こうして、すぐさま反省出来る素直さは、概ねビビの美徳といってもいいだろう。ギデオンに誘導された室内で、「……恥ずかしい」と、赤い頬をもちもちと両手で隠しながら項垂れれば、心做しかその赤い立ち耳さえ力無く萎れさせて見せるも。相手の明るい声に頭を上げ、どうやら褒められているらしいと認識したその途端。大きく目元を見開いたかと思うと、零れ落ちんばかりのエメラルドをキラキラと輝かせ、心底嬉しそうに尻尾を降り始めるのだから現金なものだ。 )
ううん! ギデオンさんと行くの!
( そうして、中年男の遠慮なぞ、この無敵な婚約者にかかればなんのその。「はいこれっ!」とギルドに戻る前に役所へ寄って、貰ってきた通称"ダンジョン登録・探索許可届"の控えを、あっさり相手の目の前に差し出すと。まるで断られることなど、一切想定もしていないといった鼻歌すら歌い出しそうな上機嫌で、小首を傾げて相棒剣士の顔を覗き込み。胸の前で小さな両拳を合わせると、うっとりとした表情でため息を漏らして。 )
──それでねっ、いつならご都合宜しいですか?
ああ、本当に……ギデオンさんとダンジョンに行ける日が来るなんて……
1003:
ギデオン・ノース [×]
2026-07-01 17:20:25
(受け取るなり目を見開いてまじまじと眺めたそれは、どこからどう見ても正式な、新規ダンジョンの攻略許可証。確かにダンジョンはその弊害上、早急に踏破されるべく関連書類が優先されるが……だとしても、事前調査が入るのだから、この早さでの発行は物理的に不可能だろう。だというのに相手はいったい、どうやっ……て……? と。その視線を上げていくなり、しかしギデオンの顔と仕草が見事に硬直していったのは、まあ仕方のない話と言えよう。何せすぐ目の前に、女神もかくやと云わんばかりの──夢見る乙女がいたのだから。
ベテラン戦士の脳裏には、ヒーラー娘と対照的に、世知辛い現実論がぐるぐる渦巻いていたはずだ。なのに結局、とろけるような美貌をひと目見てしまった瞬間、ぴしりとついに真顔に陥り。なんとか絞り出したのは──)
……わかった。
一旦持ち帰って……検討する時間をくれないか。
(──などという、なんともまあ色気に欠けた、事務的な口調の返事。ついでに意気地も皆無なわけだが、しかしこれですら相手には、「どうにか手を尽くす」というニュアンスに聞こえたのではなかろうか。
しかし愚かなギデオンが遠い目ではたと気がついたのは、桃色の空気から逃げ出すように廊下へと這い出した後。……つまるところ、全ては手強い婚約者の掌の上というわけで。)
*
(相手に借りた許可届を未だまじまじ見返しながら、ギルマスの御所を訪ねてみたのは、ごく生真面目な躊躇によるもの。そりゃあもちろん、自分とヴィヴィアンのふたりが揃えば、大抵のクエストは難なく解決できるだろう。だが少なくともギデオンは、冒険者ときての活動期間が残り少ない身の上だ。 それなら、権利者であるヴィヴィアンは当然参加するとして、他の枠は自分以外の、未来のギルドを担う若手に回しておくべきではないか。
──などという訴えは、しかしかのギルドマスターの生温かい眼差しと、居合わせた幹部連中の盛大な爆笑によって無惨にも薙ぎ払われた。「いいじゃねェか、可愛い彼女に連れてってもらって最後に一華咲かしゃあよ!」と大笑いするシルヴェスターに、ギルマスもまた、細い指を組みあわせながら至極当然の顔を浮かべて。「探索パーティーの采配は、分不相応でない限りギルドが口出しできません。そして正直、今のタイミングで若手資格者がやたら増えると、来年の隔年人事がややこしくなってしまうんですよ。アイスナーやパーカーを持っていかれると困ります──それならさっさと、うちの誰がどう見ても百パーセント納得する揉めない布陣で行ってください」。こんな相談を持ち込んだ己が言うのもはばかられるが、あまりに雑すぎやしないだろうか。そりゃあこれから、シルヴェスターたちを引き連れて、公認協会の古狸どもに一発かましにいくそうだから、心が荒みもするのだろうが……。
一応そこからも議論はしたが、結局答えは変わらなかった。今回のダンジョンは、魔法に長けたヴィヴィアンがその場で検知をかけていて、ごく単純な浅層構造、険しくはないと判明している。ならばソロでも攻略できるが……彼女は若手で、ダンジョン探索未経験。ならば資格者に限らなくとも、ベテランがだれかひとりくらいは監督役に就くべきで。
「ヴィヴィアン・パチオの指導に慣れた、戦闘職のベテランは?」。そうギルマスに問いかけられれば、ため息を返すほかはなかった。考えるまでもない──異口同音に返されるより、降参した方がマシである。)
*
(──と、いうわけで。東広場から出発し、赴く先は郊外の村。頬に受ける真夏の風の、からりと乾いて爽やかなこと……何より、昨年春のワーウルフ狩りと同じ方角へ向かっているので、馬車の外を流れてくのもどこか懐かしい景色ばかりだ。
この頃にはギデオンも、杞憂の一切を風に流して、戦士装束に着替えた姿をゆったり寛がせていた。ぴらりと懐から取りだしたのも、今回のための追加の許可証。出動先が未知のダンジョンということで、快速馬車の足代が出たし、念の為の周辺調査を急がず丁寧にやれるようにと、延泊許可もとっている。つまり相手はのびのび自由に、人生初のダンジョン踏破をやり込めるということで。
──その心意気や如何に、と。遠く見えてきた村の景色に青い視線を投げかけながら、隣の相棒ヒーラーに問い。)
……今回は正式に、お前がパーティーのリーダーだ。
ヒーラー主導、味方は魔剣使いがひとり──この構成で、お前はどういう指示を出す?
1004:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-04 11:34:38
( 原始、ヒーラーとは神と人間を繋ぐものであり、迷える人々を助け、それを害する魔物を弱める力を神によって与えられた。歴史的には、軍事を司る貴族の系譜を持つ剣士や槍使い、若しくは、人ならざるものの領域であった森を拓き、人間の土地を拡大してきた木こりや農民の系譜を持つ斧使い達とはまた別に、彼らの始祖は神官であり、神への祈りを生業とする修道士である。故にヒーラーにとって直接魔物を屠るのは専門外のことで、彼らの本業はあくまで剣士や斧使いの力を最大限まで高め、対する魔物共の力を弱める支援職ではあるのだが。そんな開拓時代も今は昔、戦法や魔物の被害も多様化した現代では、駆け出しの剣士とベテランのヒーラーがバディとなることも往々にして増え。そういった際の定番の布陣はといえば── )
──魔物を正面方向に誘導、剣士は正面の敵に集中……は、ダンジョンでは使えませんね?
( まだたった一年半も経っていないというのに懐かしい。当時もギデオンに主導権を託されて挑んだシルクタウンでのワーウルフ殲滅作戦は、あれは魔獣が"普通に"生息する平地だから出来たことだ。他の生物たちと同様、ダンジョンの外に生息し、そこで繁殖する魔物達には習性というものがあり、故にその動きを誘導することも可能なのだが。対してダンジョン、その最奥の核から、(現代の研究では)無秩序(としか形容しようがない)に"生成される"魔物相手ではそうもいかない。さてどうしたものか、「どんな魔物が出てくるか……先に探索魔法を使う? でも、それじゃ種類までは分からないし……、」うーんと、両手の指先を顎にあて、己の膝に頬杖をつくようにして、にきび跡一つない顎と眉間に皺を寄せること数秒。しかし、ルーキーの異名は伊達では無く。直ぐさま気づいたように、あっ、と逸らしていた目を相棒に戻せば。答え合わせを強請る生徒のように、恐る恐るといった感じで小首を傾げて。 )
……!
そっか……! 誘導しなくても、反応があるほうには確実に"道"があるんだ……!
そしたら、私は周囲の探索、正解のルート探し、罠の解析等に魔力を温存したいので、魔物のお相手はギデオンさんにお任せしてしまってもいいですか……?
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