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Petunia 〆/1017


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自分のトピックを作る
998: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-17 09:33:36




 ( これまでの──昨年の建国祭以降のヴィヴィアンだったならば、ギデオンからの提案に、どうにか相手を頼る決断こそ下せたとしても。その表情は、酷い罪悪感か自己嫌悪に濡れ、身体の不調などより余程深く、心の方を痛めていたことだろう。しかし、婚約と共に深い絆を結び直した今、相手によって少し気分を解されれば。優しい婚約者に甘えて、少なからず苦痛を強いているというのに、大好きな手にそっと優しく包まれると、その表情はとてもとても穏やかなもので。
 それは、喜びとは少し違う。深い安心と、それから──自分のことが大好きで、心の底から尽くしたいと願っている男の願いを"叶えてやって"いる実感。本当は与えたくもない苦痛を分け与え、今までは見せたくなかった醜態も、相手の望むままに。その深い忠誠の念に報いて、"愛されてやって"いることへの満足感。表面的に愛で合い、ただ勝手に愛し尽くすだけでなく、ヴィヴィアン・パチオの人生に欠かせない一助として、最愛の男性に役割を、居場所を"与えている"ことに対する誇り。そんな勢いよく押し寄せてきた感情に、また一段、より深い愛情のかたちを教えられれば。その馴染み深い口元へ、思わず自分のそれを合わせたのと、ギデオンが脚を絡めてきたのがほぼ同時で。 )

……お陰様で、少し楽になってきました……
ギデオンさんは? どこも辛くない……?

 ( 自ら触れないでと拒絶した癖に、こちらから触れて来たヴィヴィアンに、ギデオンは一体どんな反応をしたことだろう。ある程度媚毒が抜けたからって、その分を相手に背負わせているというのに、少し勝手がすぎるだろうか。でも──嬉しいでしょ? と、視線を合わせて強気に、しかし無邪気に微笑めば。未だ媚毒の抜けきらぬまま抱き合う事で、もしかしたらまた少し呼吸が上がってしまうかもしれない。逆にビビの毒を半分受けてくれたギデオンのそれを目の当たりにすることになるかもしれない。──それでも、ギデオンさんは、私のことが好きだものね、と強ばっていた身体を弛緩させれば。無垢な中にもどこか威厳を感じさせる微笑みを浮かべ、そっと、相手に向けて両手を大きく広げて見せて。 )

……どうぞ? ほら、おいで……、





999: ギデオン・ノース [×]
2026-06-22 13:36:12




…………

(それまでのギデオンは、毒に苦しむ娘に寄り添う、頼れる大人の男の顔を浮かべてみせていたはずだ。それがどうして──柔らかなキスをただ一度、まばゆい微笑みをただひとつ、そして相手に甘える権利を寄越された、ただそれだけで。どうしてこんなに呆気なく、ふわりと溶け消えてしまうのか。
両の瞼をとろりと閉ざし、その大きな胸郭に深く息を吸い込めば。寝台を軋ませながら遠慮なく身を寄せて、ようやく彼女を抱き締める。ともすればその様子は、大きな獣がその両腕で、哀れな娘を全身まるごと捕食するように見えただろう。だが実際、ギデオンの抱き締め方はどこまでも優しかったし──まるごとすべてを囚われたのは、寧ろこちらのほうだった。
相手の胸元に鼻梁を寄せたり、唇を触れたり。彼女の後ろに回した掌で夜着や素肌を撫でたりしながら。ヴィヴィアンの柔らかさ、桃のように香る匂いを、心行くまで堪能する。そうしているうちにだんだん、ただでさえ媚薬によって熱を持った思考回路が、ますます曖昧になるようで。)

…………つらくは……つらくは、ないんだが。
いかんせん……ねむい……な……

(ようやくの理性をもって相手に届けた現状は、なんとも情けない本音。まあ、長時間に及ぶ繊細な魔力操作や、天文学的に馴染みやすいとはいえ他人の魔素を取り込んだ後だ、別におかしくはないのだが。それでももっと、他に言いようはあるだろうに──相手が外でもないヴィヴィアンなら、どうせこうして取り繕わずとも全てお見通しなんじゃないか、と。不埒な気配もどこへやら、恋人を愛でる手つきも次第に緩慢なものとなり。何かしら話しかけられても「……ん」だの「うん……」だの、やけに素直な唸るだけ。
それでも最後に──どうにも救えないことに。「……おまえが、もう……無事だから言えるが。あの服は……よく……似合ってた」と。今宵の活躍も吹き飛ばす、欲望駄々洩れの掠れ声を、相手の胸元に吐息混じりに含ませて。)

おまえさえ……いやじゃ……なければ……
今度は……ここで……
俺に……だけ……
…………





1000: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-26 01:41:46




……っ、…………、

 ( ある意味で予測通りともいえようか。それまで身体中を蝕んでいた毒を、ギデオンに半分以上引き受けてもらったところで。愛する異性から好きに肢体を貪られては、自然と体温が上がるのも自然なこと。しかし──大丈夫、これくらいなら眠れそう、と、意識的に大きく胸を上下させると。鼻腔中に満ち男性らしい深い香りに、静かに大きな両目を閉じて。
 さて、これは、万が一にもあり得ないこと故、仮定の話に過ぎないが。この時、もし腕の中の大男が睡魔に襲われず、精力的に娘を求めてくることがあれば、もしかすると。まるで今までの苦労など嘘のように、ヴィヴィアンはギデオンをアッサリと受け入れることができたかもしれない。しかし、それはこの時の二人にも知る由はない、今宵起こらなかった与太話。
 次第に男の声が段々と、低くあどけなく蕩けていくのを感じ、そっと閉じた瞼を再び薄く開いて、母を求める子供のように擦り付けられる、金色のつむじを見下ろせば。結局、今晩そのおねだりがどれだけ低俗な意味を持つのか、知り得る機会はなかったが、きっと──おそらく……多分。どこまでもギデオンに甘いヴィヴィアンのことだ。知っていたところで、長かった夜を締め括った言葉は、きっと変わらなかったに違いない。 )

──ええ、お望みならいつでも。
だから、今晩は……おやすみなさい。
本当にありがとうございました……愛してます、ギデオンさん。







 ( それからまだ幾週も立たない近日のことだ。カレトヴルッフに、というには少々規模が小さいが、ビビにとっては今までにない、大きなニュースに見舞われたのは。 )

──ギデオンさん! ギデオンさん!!
ダンジョン! ダンジョン見つけたの!! 私が!!!
行きましょういつがいいですか今ですか!?

 ( 二人がついている仕事柄、なかなか平和──とも言い難いかもしれないが、別に特筆すべきこともない日常的な昼下がりのこと。その日は午前中から、大量発生した麦食いワームの駆除に駆り出されていたビビだったが、ギルドの大きな扉を潜ったかと思えば。ギデオンを見つけるやいなや、そのトロイト並の末脚を披露して、信頼してやまない筋肉へと突き刺さる様に飛び込んで。 )

凄い、スゴイ、すごいっ!!
ギデオンさんと!! ダンジョン……ッ、ふた、ふたりで……!!

 ( キャーッっと、彼女にしては珍しいほど高らかな歓声を上げ。あまりの興奮ぶりに酸欠を起こしかけている娘の代わりに説明するならば。
 ことの始まりは、ワームの駆除もあらかた終わった正午過ぎ、最後のチェックにと、春に刈り取られた藁の束が、村の神木を背に堆く聳える中を、魔法反応がないかと確認していたところで。藁の中から返ってきた見慣れぬ人工的な魔法式の存在に、書き分ける様にして潜り込めば。そこにあったのは、教科書でしか見たことの無かった、超常的な"入口"──若しくは、研究者によって、"出口"と表現するべき派閥ともう一方に分かれる──を見つけて。
 トランフォードでのダンジョンの存在は、全冒険者達の憧れ、英雄への重要な切符の一つだ。それは、古代の魔法使い共からのいたずらとも、挑戦とも、はたまた恩恵とも呼ばれ。現代の技術では再現不可能な魔法陣がある日突然現れたかと思えば、その周辺では大量の魔物に悩まされる代わりに、その最奥のコアを破壊して封じてしまえば。その跡地から半径数キロ範囲の土地には、豊潤な魔素がこれでもかと行き渡り、魔物が寄り付くこともなく、半永久的な豊作が約束される。──と、なれば。開拓時代の農民たちにとって、どれだけ喉から出るほど欲しいもので、かつダンジョンを踏破した冒険者が素晴らしい英雄に祀り上げられたことか。
 その名残は現代でも、どれだけ日々活躍し名をあげたベテラン冒険者でさえ、その肩書きにダンジョンの踏破経験の有るか無いかで、市民たちからの知名度は雲泥の差。しかも、そんな肥沃な大地を管理したい国の記録に、踏破者として己の名前が残り、賞金も出るとなれば。もはや名声や金に飢えた冒険者達は、その"入口"を見つけるやいなや、他のやつに手柄を取られてなるかと飛び込む者が後を絶たず。もちろん、それで踏破されこそすれば問題無いのだが。かつては、発見者が周囲にその存在を伝えぬまま、力及ばず帰らぬものとなり。最初の発見から、推定百人以上の冒険者を飲み込み続けたダンジョンもあった。そんな、最初から、適切な能力が持つものが探索していれば、数十年早くその地の人々は安全と繁栄を手に入れ、貴重な戦力が削られることも無かったという反省を活かし。現代では、トランフォードの記録には、踏破者だけでなく発見者も記されるようになり、発見後まずは国への登録を済ませてからでないと、もし踏破しても公式の記録には残されず、賞金も貰えないという制度に変わってきた歴史がある。その上で尚、非公式でも名声を諦めない貪欲な者たちを抑えるために、発見者には探索権を優先的に与えられる──といった事情が、今回のビビの大興奮に繋がるワケで。 )

……っ!? っ、唾が……変なところにっ、……ッ!!





1001: ギデオン・ノース [×]
2026-06-27 12:11:05




(その日のギデオンが送っていたのは、朝から魔獣と書類を捌く、ごく平穏な一日だった。相棒ヒーラーのヴィヴィアン・パチオが、例の媚薬騒動以来、さしたる後遺症もなく元気に過ごせているからだ──無論、双子剣士が寄越してきた一連の報告書には、件の商人のその後の処遇がさりげなく書かれていたので、ついぴくりと眉を上げたが。あの事件は憲兵団ともしっかり連携しているそうだし、これ以上ギデオンが立ち入るべきではないだろう。故に、デレクたちへの個人的な礼を考えておこうかと、頭の片隅にいくつかのメモを貼り付けるだけにとどめて。
 確認済みの書類を重ね、受付を守るエリザベスへと、言伝と共に提出すれば。また別の書類の束を受け取り、ついでにコーヒーも一杯もらって、“いつもの柱”に身を落ち着ける。これが普段のギデオンの、昼間出動待機中の昔ながらのルーティンだ。柱に軽くもたれかかり、優雅にカップに口を付けて静かに書類を読むその姿は、すらりとした長身や整った顔も相俟って、四十路を迎えた今であっても無駄に様になっている──なお。「ただのスケコマシと思ってたけど、ほら、意外と誠実かもって……」「顔とカラダは悪くないし……」「ちょっとつまむ程度なら……」などと耄碌しだした美人精霊使いには、「たまたまビビちゃんが凄いだけでアレは立派なカレ剣よ!!!」とフリーダが即ビンタを飛ばし、「問題は絶対そこじゃないと思うな~!」とリッリがころころ笑っていたが。
 ちなみに仲間のエスメラルダは、卓に突っ伏して呻いている。きっと女山賊どもは、昨晩かなり遅くまで飲み明かしていたのだろう。ギルドロビーに入った時点でギデオンはそれを目敏く悟り、彼女たちの会話については耳から叩きだしていた。あれらは触らぬ何とやら。残り半日を無事に終え、愛しい我が家へ帰るのが、今日の己が何においても優先すべき事項である。
 ……そうだ、書類で思い出したが。そろそろ王都の書士事務所を、幾つかあたっておくべき頃だ。最終的には教会に申請することになるとしても、婚約証書の用意にあたり、やはり最初はプロの意見を充分に集めておきたい。ギルバートやガリニア貴族に通用する書式となると……躊躇われるものはあるが、やはり学院の“あの男”に、一度伝手を訊ねるべきだろうか。だがこれ以上借りを作れば、関わりたくもない政争にいよいよ引きずり込まれかねない。だがそうでなくたって、どのみち別件で相談をしに行くことにはなるのだし。それだって結局は、ヴィヴィアンと暮らしていく将来のためなのだから──と。
 真面目に仕事に勤しむようで、実はそこそこ色惚けしていた、その隙を。ギデオンをよく知る“彼女”は、まさか的確に見抜いたのだろうか。)

!?
ヴィヴィア──がふっ!?

(高らかな呼び声に反射で顔を上げたのと、満面の笑みのヒーラー娘が飛び込んできたのが同時。次の瞬間、たまたまそばを通ったマリアに無言でカップを攫われるまま、魔猪もかくやの獰猛娘がまっすぐに飛びついてきたのを、ギデオンは咳き込みひとつでどうにかがっしり受け止めた。そうして大いに混乱しながらその顔を見返せば、今度はカヴァス犬もかくやのきらきらした瞳にぶつかり──待て。「ダンジョンを見つけた?」と、思わず構わず盛大に、困惑あらわの鸚鵡返しを。が、今度は興奮しきりの相手が苦し気に咳き込むのを見て、「落ち着け、ステイ、ステイだ」と、ローブ越しに背中を撫でてその呼吸に寄り添ってやる。……仮にも人間の婚約者に、犬に言い聞かせるコマンドを使うのは如何なものか。己の斜め後ろから、マリアのそんな白い視線が突き刺さるのを感じながらも、あれこれ話を聴くうちに……しかしそんな余計なことは、すっかり頭から吹き飛んでしまって。)


──本当に、見つけたのか。
しかも、第一発見者で……

(ところ移って、談話室。わざわざロビーを引き上げたのは、「この手の話は衆目を避けておくべきだ」と、相手に教え込むためだ。──彼女が狂喜したように、ダンジョンの発見は、冒険者にとっては高額の宝くじに当選することにも等しい。そしてその歴史上、発見者に有利な権利が定められているとなると、当然人の感情も大いにどす黒く渦巻くわけで。
『“ダンジョンマスター”という──昔はダンジョンのボスモンスターを指したが、いつからかダンジョンの制覇者という意味になった──名誉ある称号を、手に入れることができたなら』。そんな風に夢見るのは、大抵二種類の冒険者だ。それこそヴィヴィアン・パチオのような、前途多望の若者か……或いは真逆の、歳がいってもうだつの上がらぬ、頭打ちの中年どもか。特に後者は、自分のキャリアに今以上の好転を望めないから、“ダンジョンマスター”になるといった一発逆転に涎を垂らして飛びつきがちだ。つまり、ヴィヴィアンのような若い娘が第一発見者となると、おこぼれにあずかろうといやらしくすり寄るか、もしくは嫉妬を隠しもせずに足を引っ張ろうとするか、そう言った動きをする問題冒険者が出てくると見込めるわけで。実際、先ほどのロビーでも、いつもとは違う意味で目の色を変えて彼女を凝視する連中が実際に大勢いたと、はっきり相手に証言しておく。
だからダンジョンの発見は、まず身内にこそ隠すべきだ、と。ベテラン冒険者の立場から助言した、その上で──しかしギデオンの青い目は、誇らしげに輝いていた。「やったじゃないか。おまえは武功を立てられるし、村はこれから豊かになるし、ギルドの評判も上がるだろう」と。その表情はしばらくぶりの、純粋に先輩として、後輩を可愛がるもので。……しかし、だからこそだろう。次元が数段違うとはいえ、自分もまた、“これ以上先のない中年”であることを自覚しているギデオンは、老兵として身を引くことに一切疑問がなかったらしく。何てことのない軽い調子で、彼女をパーティーリーダーとしての先の展望を尋ねる始末で。)

──それで、誰を連れて行くんだ? 
バルガスがちょうど遠征から帰ってくる頃だろうし、アリアを誘ってのダブルヒーラー体制も、ダンジョン攻略では有効だ。
アランやセオドアもいいんじゃないか? あいつらも最近はますます伸びてきたようだから、先々を考えて引き入れておくのも得策だ。





1002: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-06-29 23:21:51




ごめんなさい、私、浮かれてしまって……

 ( 時にはしゃぎすぎることはあっても、こうして、すぐさま反省出来る素直さは、概ねビビの美徳といってもいいだろう。ギデオンに誘導された室内で、「……恥ずかしい」と、赤い頬をもちもちと両手で隠しながら項垂れれば、心做しかその赤い立ち耳さえ力無く萎れさせて見せるも。相手の明るい声に頭を上げ、どうやら褒められているらしいと認識したその途端。大きく目元を見開いたかと思うと、零れ落ちんばかりのエメラルドをキラキラと輝かせ、心底嬉しそうに尻尾を降り始めるのだから現金なものだ。 )

ううん! ギデオンさんと行くの!

 ( そうして、中年男の遠慮なぞ、この無敵な婚約者にかかればなんのその。「はいこれっ!」とギルドに戻る前に役所へ寄って、貰ってきた通称"ダンジョン登録・探索許可届"の控えを、あっさり相手の目の前に差し出すと。まるで断られることなど、一切想定もしていないといった鼻歌すら歌い出しそうな上機嫌で、小首を傾げて相棒剣士の顔を覗き込み。胸の前で小さな両拳を合わせると、うっとりとした表情でため息を漏らして。 )

──それでねっ、いつならご都合宜しいですか?
ああ、本当に……ギデオンさんとダンジョンに行ける日が来るなんて……




1003: ギデオン・ノース [×]
2026-07-01 17:20:25




(受け取るなり目を見開いてまじまじと眺めたそれは、どこからどう見ても正式な、新規ダンジョンの攻略許可証。確かにダンジョンはその弊害上、早急に踏破されるべく関連書類が優先されるが……だとしても、事前調査が入るのだから、この早さでの発行は物理的に不可能だろう。だというのに相手はいったい、どうやっ……て……? と。その視線を上げていくなり、しかしギデオンの顔と仕草が見事に硬直していったのは、まあ仕方のない話と言えよう。何せすぐ目の前に、女神もかくやと云わんばかりの──夢見る乙女がいたのだから。
 ベテラン戦士の脳裏には、ヒーラー娘と対照的に、世知辛い現実論がぐるぐる渦巻いていたはずだ。なのに結局、とろけるような美貌をひと目見てしまった瞬間、ぴしりとついに真顔に陥り。なんとか絞り出したのは──)

……わかった。
一旦持ち帰って……検討する時間をくれないか。

(──などという、なんともまあ色気に欠けた、事務的な口調の返事。ついでに意気地も皆無なわけだが、しかしこれですら相手には、「どうにか手を尽くす」というニュアンスに聞こえたのではなかろうか。
 しかし愚かなギデオンが遠い目ではたと気がついたのは、桃色の空気から逃げ出すように廊下へと這い出した後。……つまるところ、全ては手強い婚約者の掌の上というわけで。)



(相手に借りた許可届を未だまじまじ見返しながら、ギルマスの御所を訪ねてみたのは、ごく生真面目な躊躇によるもの。そりゃあもちろん、自分とヴィヴィアンのふたりが揃えば、大抵のクエストは難なく解決できるだろう。だが少なくともギデオンは、冒険者ときての活動期間が残り少ない身の上だ。 それなら、権利者であるヴィヴィアンは当然参加するとして、他の枠は自分以外の、未来のギルドを担う若手に回しておくべきではないか。
 ──などという訴えは、しかしかのギルドマスターの生温かい眼差しと、居合わせた幹部連中の盛大な爆笑によって無惨にも薙ぎ払われた。「いいじゃねェか、可愛い彼女に連れてってもらって最後に一華咲かしゃあよ!」と大笑いするシルヴェスターに、ギルマスもまた、細い指を組みあわせながら至極当然の顔を浮かべて。「探索パーティーの采配は、分不相応でない限りギルドが口出しできません。そして正直、今のタイミングで若手資格者がやたら増えると、来年の隔年人事がややこしくなってしまうんですよ。アイスナーやパーカーを持っていかれると困ります──それならさっさと、うちの誰がどう見ても百パーセント納得する揉めない布陣で行ってください」。こんな相談を持ち込んだ己が言うのもはばかられるが、あまりに雑すぎやしないだろうか。そりゃあこれから、シルヴェスターたちを引き連れて、公認協会の古狸どもに一発かましにいくそうだから、心が荒みもするのだろうが……。
 一応そこからも議論はしたが、結局答えは変わらなかった。今回のダンジョンは、魔法に長けたヴィヴィアンがその場で検知をかけていて、ごく単純な浅層構造、険しくはないと判明している。ならばソロでも攻略できるが……彼女は若手で、ダンジョン探索未経験。ならば資格者に限らなくとも、ベテランがだれかひとりくらいは監督役に就くべきで。
 「ヴィヴィアン・パチオの指導に慣れた、戦闘職のベテランは?」。そうギルマスに問いかけられれば、ため息を返すほかはなかった。考えるまでもない──異口同音に返されるより、降参した方がマシである。)



(──と、いうわけで。東広場から出発し、赴く先は郊外の村。頬に受ける真夏の風の、からりと乾いて爽やかなこと……何より、昨年春のワーウルフ狩りと同じ方角へ向かっているので、馬車の外を流れてくのもどこか懐かしい景色ばかりだ。
 この頃にはギデオンも、杞憂の一切を風に流して、戦士装束に着替えた姿をゆったり寛がせていた。ぴらりと懐から取りだしたのも、今回のための追加の許可証。出動先が未知のダンジョンということで、快速馬車の足代が出たし、念の為の周辺調査を急がず丁寧にやれるようにと、延泊許可もとっている。つまり相手はのびのび自由に、人生初のダンジョン踏破をやり込めるということで。
 ──その心意気や如何に、と。遠く見えてきた村の景色に青い視線を投げかけながら、隣の相棒ヒーラーに問い。)

……今回は正式に、お前がパーティーのリーダーだ。
ヒーラー主導、味方は魔剣使いがひとり──この構成で、お前はどういう指示を出す?





1004: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-04 11:34:38




 ( 原始、ヒーラーとは神と人間を繋ぐものであり、迷える人々を助け、それを害する魔物を弱める力を神によって与えられた。歴史的には、軍事を司る貴族の系譜を持つ剣士や槍使い、若しくは、人ならざるものの領域であった森を拓き、人間の土地を拡大してきた木こりや農民の系譜を持つ斧使い達とはまた別に、彼らの始祖は神官であり、神への祈りを生業とする修道士である。故にヒーラーにとって直接魔物を屠るのは専門外のことで、彼らの本業はあくまで剣士や斧使いの力を最大限まで高め、対する魔物共の力を弱める支援職ではあるのだが。そんな開拓時代も今は昔、戦法や魔物の被害も多様化した現代では、駆け出しの剣士とベテランのヒーラーがバディとなることも往々にして増え。そういった際の定番の布陣はといえば── )

──魔物を正面方向に誘導、剣士は正面の敵に集中……は、ダンジョンでは使えませんね?

 ( まだたった一年半も経っていないというのに懐かしい。当時もギデオンに主導権を託されて挑んだシルクタウンでのワーウルフ殲滅作戦は、あれは魔獣が"普通に"生息する平地だから出来たことだ。他の生物たちと同様、ダンジョンの外に生息し、そこで繁殖する魔物達には習性というものがあり、故にその動きを誘導することも可能なのだが。対してダンジョン、その最奥の核から、(現代の研究では)無秩序(としか形容しようがない)に"生成される"魔物相手ではそうもいかない。さてどうしたものか、「どんな魔物が出てくるか……先に探索魔法を使う? でも、それじゃ種類までは分からないし……、」うーんと、両手の指先を顎にあて、己の膝に頬杖をつくようにして、にきび跡一つない顎と眉間に皺を寄せること数秒。しかし、ルーキーの異名は伊達では無く。直ぐさま気づいたように、あっ、と逸らしていた目を相棒に戻せば。答え合わせを強請る生徒のように、恐る恐るといった感じで小首を傾げて。 )

……!
そっか……! 誘導しなくても、反応があるほうには確実に"道"があるんだ……!
そしたら、私は周囲の探索、正解のルート探し、罠の解析等に魔力を温存したいので、魔物のお相手はギデオンさんにお任せしてしまってもいいですか……?




1005: ギデオン・ノース [×]
2026-07-07 02:01:59




ああ、問題ない──寧ろそれこそが正解だ。

(プライベートでは一対一の男女と言えど、冒険者という世界においては、歴に二十年の差がある上司・部下の間柄。故に相手を試すような物言いをしてしまったが、やはり流石と言うべきか、相手は本質を踏まえた答えを自力で導き出せたようだ。その才能に報いるように、こちらもしっかり頷いてやる──彼女の言うとおり、今回は考え方を多少変える必要がある。
 いつもの地上の仕事なら、市民の命と生活のため、必ず魔物どもを屠るが、攻略相手が“ダンジョン”という地形であれば、成功の鍵となるのはルート探索とマッピング。つまり、何も毎度律儀に魔物とバトルするとは限らず、先へ先へと進むことを何よりも重視することになる。だから己の仕事はあくまで、ナビゲーターとなるヒーラーが安全に探知できるよう、彼女と自分の身を守ること──それにかけては、カレトヴルッフの誰よりもやり抜いてみせる自信がある、と。
 さらりと私情を滲ませて相手に微笑みかけながら、夏風になびく栗毛の尻尾を指先で掬った辺り。結局はギデオン自身、公私混同は不可避なのだとどこかで割り切っていたかもしれない。)

 *

(──さて、それから半刻後。昼に相棒がワーム狩りをしたのどかな農村に到着し、村長やその周辺にこれからのことを説明すれば、いよいよ神木の麓から、初のダンジョン探索である。
 ダンジョンとは不思議なもので、自然に生じたそのはずが、人が容易く歩いていけるなだらかな坂が続いていたり、階層が変わるところでは階段すら生じていたり……何よりその側面の壁には、どうも松明にしか見えない明るい魔法火が点々と、こちらの行く手を照らすように果てなく続いていたりする。魔素を燃料とする以上、その煙に害などないし、他の有害な気体の類いも、この魔法火が燃やしてくれる。これは最奥のコアを砕いても不思議と続くそうだから、踏破後のダンジョンを王侯貴族がこぞって欲しがり、屋敷の地下の秘密の通路に仕立て上げたのも、無理からぬ話なのだろう。
 そんな話をぽつぽつと、相手と他愛なく言い交わしながら歩き続けて、さらにどれほど時間が過ぎたか。──ギデオンの歩みがふと、困惑気味に止まったのは、地下3階の最奥に辿り着いたときだった。地下一階と二階ではそれなりのモンスターが湧き、ヴィヴィアンの支援魔法のもと、難なく倒してきたわけなのだが。どうもこの地下三階、不思議と魔物を見かけぬ代わりに、何やら過去の遺跡らしき部屋や道具がこれまで多数見つかっている。そうしてとうとう着いたのがここ──どこからどう見ても普通に立派な、寝台付きの一部屋である。
 ダンジョンにこういう人為的空間も生じることは知っていたが、ここまで普通にあっけらかんと、如何にも居心地良さそうな雰囲気をしているものだろうか。魔法で生じた空間となると、春先のあのサキュバスの黒い館を思い起こすが、どうもあの時とは違い、嫌な感触は湧き起らない。そてでもあちこちにあつらえられた箪笥やら木棚やらを慎重に観察しつつ、先に部屋を突き進み。辿り着いたその場所では、魔法陣で封をされた石造りの丈夫な扉がふたりの行く手を阻んでいる。ルーン文字の刻み込まれたその全体を一瞥し、籠手のついた大きな掌で何度か触ってみせてから。“安全だから来て大丈夫だ”、と相手を仕草で呼び寄せると、困ったように首を傾げて。)

この魔法陣は罠の類いか……?
どうも、押しても引いても開かない様子なんだが……魔法を打ち込んでいいものか。





1006: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-14 22:12:54



……ありがとうございます!

 ( はるか幼少期から憧れて止まない、冒険者ギデオン・ノースから褒められれば、心底嬉しくって堪らないといった笑みを満面に浮かべて。
 思えば、ビビが初めてギデオンの名を知ったのは、いつのことだったか。ダンジョンマスターであるホセやフィリベールらの冒険の同行者として、紙面の端によく載っている名に興味を惹かれたのが始まりだったような──そんな、最初の記憶は朧気な一方で、その精悍な名前と顔が一致したその日のことは、今でも昨日の事のようにありありと思い出せる。魔導学院に入学した年のギルドトーナメントにて。美しく整った色素の薄い顔立ちに、文句のつけようもなく鍛え上げられた男らしい体躯。そして、まだ当時は彼も若く、軽薄さを残した表情の移ろいに、幼いみぎりの心臓を一発で撃ち抜かれ、堕とされた永遠の王子様。そして、今目の前で小さな公私混同に、可愛くはにかんでいる"ギデオン・ノース"この人。その名が今日、ダンジョンマスターとして 、歴史のページに刻まれるのだと想像すれば。ダンジョンに向かう道すがら、度々喉の奥からまろびでそうになる悲鳴を、必死に押し殺すこととなったのは仕方の無いことで。
 さて、そんな──ギデオンさんがダンジョンマスターとか絶対に宇宙一格好良い、好き、大好き!!! と。もしその愛情が手に取れる物質だったならば、こんなダンジョンなどとっくのとうに埋めつくし、麓の村まで届いていたに違いない程の挙動不審をして尚、本日、目を見張るレベルで絶好調なヴィヴィアンの探索魔法をもってしても。急に現れたその部屋に、魔物や悪意ある罠の類が無さそうだというのは同意見で。 )

罠って感じはしないですけど……、……。

 ( ──魔法を打ち込んでも、って。ギデオンさんってこんなに豪快だったかしら、なんて、一体どの口が言うのやら。でもそんなところも素敵?と内心、ぱたぱた相手の隣に駆け寄れば。目の前の扉に手を当ててすぐ、その横顔がきょとりと変わった理由はといえば、「"扉を開くには口付けを"って。……開かないですね」と、浮かせた踵を下ろしながらの事後報告。
 そうして、「何か読み間違えてるのかしら……確かにここの単語とか分からなくって」などと、周囲を調べていたその時。扉に刻まれていた文字が微かに光ったかと思うと、まるで痺れを切らしたかの如く、うにゃうにゃと歪みながら、2人が見慣れた文法体型のそれへと変化していき。 )

……って、アレ……!?




1007: ギデオン・ノース [×]
2026-07-15 22:57:50




(あまりに自然に行われた甘酸っぱい開門テストに、ギデオンがはたと静止したのも仕方のない話だろう。──何より地味に衝撃なのは、相手が脈絡なく顔を寄せれば、こちらも無意識で頭を屈め、軽く“それ”に応じていたこと。これがサリーチェ・ラメット通りの、ふたりの我が家であるならまだしも、仮にも今は仕事中。流石に現場でいちゃつくような愚は犯すまいと思っていたのに、こんな序盤でこの体たらく……しかも、さも当然の呼吸のように、己の頭が追い付く前に唇を重ね合わせていたなど。
 ギルド勤続二十余年の生真面目なベテラン戦士は、そんな己の不確かぶりに、あるべき理性を蘇らすべく愕然としていたのだが。ふんふんと辺りを調べる若いヒーラー娘には、取り合うべくもない話──ついでに言えば、この摩訶不思議なダンジョンにもまた、全く関係ないことで。
 視界の端で扉の石文字が蟲のように蠢けば、流石に放心を即時に取りやめ。魔剣の柄を握りながら相手を後ろに下がらせて、ついでに気合も入れ直すべくべくそちらをじっと注視する。だがしかし、魔剣使いのごく真っ当な警戒心を前にして、分厚い扉が繰り出したのは──)

…………………………は?

(──ヴィヴィアンですら読めなかった古代ルーンの単語というのは、そりゃあ当然、高尚な学問書にわざわざ載るはずもない、卑猥な手合いだったらしい。新たに書き出されたそれは、どこからどう見ても読み間違えるはずもない、現代ガリニア語の一文だったのだが。曰く、この扉を開けたくば、???に……“その者が肉体的に最も昂るどこかしらの部位”に、唇を寄せよというのだ。
 この時点でギデオンは、先ほどまでかき集めていたわずかばかりの常識が軒並み爆散するのを感じ、思わず軽く仰け反りながら遠い目をしてしまったが。一応……そう、一応は、これが立派な古代魔術の一種なのだと、すぐさま気がつく程度には戦士の場数を踏んでいた。──今は製法が失われた古い古い魔法陣に、“近づいた人の思念を読んでそれを発動条件とする”、そんな不可思議な代物が存在しているという。例えば、本物の賢者の石を悪人から守りたいとき、それを“使いたい”者ではなく、“見つけたい”者だけが、魔法のかかった鏡を通じて無から石を取り出せる……といった具合だ。無論、自分に従順な代理人に取り出させればいいという抜け道はあるにせよ、“人の心理”をトリガーとする魔法陣は、その突破の難易度を普通の陣より跳ね上げるという点で、悪人にはもちろんのこと、ダンジョンの奥へ忍び込む冒険者にとり厄介である。
 五千年代の今になっても男性冒険者のみの部隊が大多数である以上、不埒な発動条件は覿面に効果抜群だ。そちらの志向というわけでなければ、どこの男が好き好んで野郎を唇でまさぐるものか。女を連れてくるにしろ、この手のことに協力的で、人間関係に差し障りなく、かつダンジョンで最低限自衛もできる女となると、そうそう見つかるわけもなく。歯を食いしばって試すにしても、いつどこから魔物どもがポップするかもわからぬ場所で、頼みの綱を装備を解かねばまず試行にすら及べない、これもまた心理的な難易度を跳ね上げて……。
 いや待て、少なくとも今回は直接しろと書かれてないから、自分たちに限っては装備越しでも構わないのか。そして地味に気にかかるのが──このダンジョンは、この妙な難易度の防壁からして……おそらくはコア以外にも、何かを守っているのでは。つまり、放置すればするほど、厄介になっていくのでは……?
 そういった方面に思考の舵を切りさえすれば、如何にヘタレと呼び声高いギデオン・ノースを以てしても、腹が決まるというもので。「よし」と一言、とはいえ依然死んだ目で長く続いた沈黙を破ると、くるりと相棒を振り返る。そうしてきっぱりと、あくまで先輩冒険者として確信を持った──ような──声音で、ごく事務的に指示を出し、何てことのない話だと相手に思わせようとして。)

……ヴィヴィアン。お前の方が装備が薄い。
ここを一分で通り抜けるために……そこのベッドで、そのまま少し寝そべってくれ。





1008: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-22 23:29:53




──!?
絶対にイッ……、~~ッ!!
…………せ、めて、他に道や方法がないか、調べてからに、……して、くださらない……?

 ( 平和**しきった動揺に、ギデオンが人知れず固まってから数瞬ののち。石に刻まれている文字が、まるで生き物のように蠢いて変わる現象と、それを受けての相棒の発言に、今度はヴィヴィアンが絶句する番となって。顔や耳どころか、首やその先のシャツから覗く胸元まで、まるで逆上せたように真っ赤に白い肌を染め上げると。最早、相手がギデオンかどうかや、過去のトラウマなどは関係ない。入ってきた側の扉には鍵もかからず、というかそもそもダンジョンではしたないところを暴かれるなんて、普通に絶対にイヤ──と。他に解決策がなかった時のことや、ただのキスとは言え、先程は自分から先に行ってしまったことを考えると、その本音は完全に言い切るギリギリのところで飲み込んだものの。経験の豊富なギデオンとは違い、握った杖もろとも、自分の身体を抱きしめてドン引きした表情で婚約者を見上げる娘が、漸くその深刻さを把握できたのは、不名誉な濡れ衣を着せられた剣士が必死の説得にかかったか。それとも、他の手立てを探すかしている内に、ベテランである男が懸念したその通り、扉に刻まれた要求がさらに酷いものへと更新された後のことで。 )

……!!
な、んなっ……!!!?!?!!!?!?

 ( この扉を開けたくば、"その者が肉体的に最も昂るどこかしらの部位"に、"直接" 唇を寄せよ──と。嘲笑うかの如く付け足された文言に、益々赤くなったり、かと思えば直ぐに青くなったりと、忙しなく顔色を酷く変えながら、声にならない悲鳴をあげたビビだったが。力無くよろよろと背後に後ずさったかと思うと、ちょうどそこにあった寝台に膝を取られて「!?」──ぽすん、と呆気なく尻もちをつき。この時、色んな意味で経験の浅い娘の脳内を占めていたのは、どうしよう、どうしよう……!?!?!? と、一人で大型のドラゴンを倒せと言われても、もう少し冷静だろうと思える程の大混乱。
 あまりのことに数秒おいてから、自分のブーツを履いた爪先だけをじっと見ていたことに気がつくと──そうだ、ベッド……!! と、勢いよく振り向いたのは。ようやく自分が今、ギデオンの指示した通りの場所に腰掛けていることに気がついた故。まさか、ギデオンさんに限って、無理やりされることはなかろうが。もしかして、先程の指示を受け入れたと思われているかもしれないという考えが過ぎって、はしたないと思われてやいないだろうか。本当にここでされちゃうの……? と、まるで捨てられた子犬のような、心細げな表情でギデオンのことを見上げれば。ひぇん、とも。ひゅあ、とも、何とも言語化し辛い悲鳴を洩らしながら小さく震えた一方で。もっと根本的な疑問が、思わずといった調子で口をつき。 )

あの、……その、あたしの、一番……、……る、ブイって、どこ、ですか……???




1009: ギデオン・ノース [×]
2026-07-25 17:57:16




(清純な声で紡がれたあまりにもの質問に、辺りを行ったり来たりしていた懊悩あらわな足取りを止め、盛大に二度見三度見を。……憎たらしいほどよくできた、真っ白な寝台の上。質問の主たる娘は、まるでフェンリルに供された可哀想な子鹿の如く、ぷるぷる震えてこちらを見ている。ギデオンも唖然とした目でそれを数秒も見つめ返し。……やがて、唇を薄く開けると──)

…………、………………。
……俺も……俺にも、わからない。

(──一応、これにはわけがある。
 この扉は人を読む──そう、このふしだらな無理難題は、自分たちのうちどちらかの深層心理を反映している。“相手はどこで感じるのか”、そんな救えぬ欲望を、まさかそこのおぼこな娘がギデオンに抱くはずもない。この状況は百パーセント、ギデオンが日頃押し隠している下心のせいで生じたのだと。その真相に彼女もまたやがて気がつくことを恐れて、必死に知恵を絞ろうとした──しかし、それこそ命とり。
 ギデオン・ノースは考えた。“自分が彼女にするのはいいが、逆は絶対に選べない。こちらは情事に親しみ過ぎて、自分のそれがどこなのかなど、とっくの昔に自覚している。そしてそんな場所への口づけを初心な彼女に要求するのは、外道どころでは済まないだろう。かといって、こちらが彼女に試すにしても、当人のこの怯えよう。……それなら、条件の解釈を無理やり広げてみせるしかない。扉の示す『その者』という言葉には、多少解釈の余地がある。それなら、それなら……理論上は……自分が、決死で……体を張るなら……”。
 死にそうな顔で考えた、四十路男のそんな無謀を──しかしダンジョンは見逃さない。ぞわりと粟立つようにして扉の文字が再び蠢き、“  相  手  が  最も昂る部位に、 直 接 己の口づけを、と。そう再三書き換えられて、──こでようやくギデオンは、その目を完全に絶望させる。……そうだ、この扉は人を読む。心の底に秘めている欲を勝手にお題とする上に、どうにか見出した回避策すら、そんな邪道は不可とばかりに、こうして見破り塗り潰す。このトラップを前にして、“思考”を働かせてはならない。最短で切り抜けたいなら、扉の示す文字通り、事を実行してみせるのみ。応援を呼ぶ時間などない──魔物の害が出ぬように、最速で踏破するのが義務だ……
 ──故に。ギデオンが口にしたのは、考えずとも呟ける、嘘偽りのない本音。正直、未だ不慣れな彼女はどこもかしこもよく反応して、どこがいちばん悦くなれるのか、未だ突き止めきれていない。しかしそこではっとして、その青い目に光が宿る。彼女は知らない、己も知らない。……ならば、この石扉も知らない。つまり──)

…………。
……なあ、ヴィヴィアン。

(そこで思考を断ち切ったのは、三度も条件を書き換えられた失敗を省みてのこと。その表情をやけに真摯で精悍なそれへと変えると、立派な戦士装束でヴィヴィアンの前に跪き、如何にも誠実な顔を浮かべる。それはさながら、神話の世界の乙女の前に騎士が跪くようではあったが。彼女のすべらかな片手を取ると、籠手で覆った両手で包み、いつぞやの夜更けよろしく──おそらく無意識に似せていた──穏やかな声で尋ねて。)

たった今、ひとつだけ……方法を思いついたんだ。
お前は何もしなくていい。装備は一切脱がなくていい。
指輪に賭けて、女のお前を不名誉な目には遭わせないから……一度だけ、試させてくれないか。





1010: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-29 17:16:59




…………ええ。ええ、勿論です、お願いします……。

 ( 二人にとって大切な夜を思い起こさせる構図に、意図的に寄せられた優しい声音。それに対するヴィヴィアンの反応もまた、その紡がれた言の葉の形だけは、偶然似通っていたものの──此の度、ヒーラーの表情がどこか固く、晴れなかったのは、件の晩、プロポーズを受け入れた最愛の女を前にして、未だ準備だ、婚前講座だとよく分からない理屈をごねている男への恨みか。それとも、己の深層心理及び欲望を隠さんとした男の目の色を見逃さなかった故か。はたまたその両方ということもあるかもしれない。とはいえ、基本的には全幅の信頼をおく相手の提案に、小さくこくりと頷いて見せたヴィヴィアンだったが、人の思考を読んでくる魔法を相手にして、その小さな隔たりは致命的なものとなって。
 ギデオンが考えた、"共に閉じ込められた相手の性感帯にキスをする" このお題を前に、ヴィヴィアンも、ギデオンも、そして出題者である扉側もその答えを知らないということを逆手にとり、"触れても遜色のない場所を新たな性感帯にする"といった解決案は、多少の倫理観に目を瞑れば、確かに非常に画期的であり。そこへ導くまでのギデオンの手練手管も、素晴らしいものではあったのだが。全く、可哀想に、己のうなじと襟足の生え際がそうであると、巧みに信じ込まされた娘が、真っ赤になりながら差し出したそこへとギデオンの唇が寄せられたところで、その扉は開く兆しも見せなかったことだろう。 )

……、…………やっぱり。……!

 ( その場で少々俯くことで、口付けしやすいように晒した首筋。そこを扉が正解だと判断しなかったとしても──……私、って。うなじを触られて、反応しちゃってたことがあるんだ……と。扉やギデオンが想定していた事態とはまた別に、新たな、捏造された知見を得ていたヴィヴィアンの内心で。しかし、その"答え"が項ではなく、違う場所だと生成されてしまったのは、たった数秒前。この手の話題に疎い娘の質問に、年上の恋人が苦々しい表情で「知らない」と答えた瞬間だった。ギデオンさんでも知らないなら、じゃあどこなんだろう? 少しでも可能性がありそうなところって……? と。初心で経験が少ないなりに、はしたなくも、記憶の波を掻き分けてしまったのは自然なことだろう。
 そうして、ゆっくりと白い寝台の間から立ち上がり、扉が開かないことをしっかりと己の手でも確認すると。長い睫毛をしっとりと伏せながら、下唇に浮かぶ光の形を小さく歪め、「…………。」と、何やら変な居心地の良さすら醸し出してきた狭い部屋に響かせたのは、ただ単に鼻から息を吸う音だったのか、それとも覚悟の音だったか。
 最初は、ローブの留め金に右手を伸ばしかけて止めた手を、今度こそ己の腹部を守るコルセットの革紐にかけ、ギデオンが止める暇さえ与えず一気に解けば。下まで緩める手間を惜しんで、雑に上半身へと引きずりあげたことで、豊かな双丘が歪に強調されることも厭わず。今度は腰のベルトに手をかけ。そのまま止められなければ、そこへ浮かぶ赤い星を。"自分が相手のものである証"を、他でもないつけてくれた当人へと見せつけるように晒したまでは勇ましかったが。相手の反応を見るのが怖くて、ぎゅっと瞳を瞑った顔を逸らしながら、己のはしたなさへの言い訳で、どんどんと墓石を掘り進めて行くのは最早恒例のことで。 )

その、ごめんなさい、首も、絶対違うって自信がなくて……。
でも、首じゃ、ないなら……"ここ"、が。
あ、えっと。でも、いつもた……る、わけじゃないのよ。その、あの、チクッて…………いえ、ギデオンさんのものって、思えると、なんだか、いいなって……おもっちゃう、ときが……。




1011: ギデオン・ノース [×]
2026-08-01 18:30:32




(人間、何かしらで後ろめたいと、見聞きする物事を悪く捉えがちなものだ。浅ましさを隠そうとしたギデオン・ノースもまた然り──恋人が不意に発した「やっぱり」なる声に、それはもうわかりやすくぎくりと体を強張らせ。恐れで相手を振り向けないまま、直前に彼女が見せた浮かない顔をもその脳裏に思い起こせば、あとはもう、ベッドによろりと腰を下ろして、伏せた顔を片手で覆い、どうにか挽回できないか死ぬほど考え込む始末。
 どうする、どうすれば、どうすべきだ、どうしたらいい。この二ヵ月、恋人としてこつこつと積み上げてきた信頼を、こんな場面で失いたくない。わざと間違えたわけではないと、こちらにとっても想定外だと──この一カ月の前戯のさなか、確かにたまにはこんな悪ふざけもしたが……今回ばかりは絶対違うと、本当にできるだけ恥をかかせずに済むように手を打とうとしたのだと、どうすれば信じて貰える。いや、起こったことは仕方がない。この手もやはり通じないなら、結局、この扉はどう突破するべきだ? ヴィヴィアンを犠牲にせずに、どうやったら責任を取れる。過ちを挽回しながら、どうやってここを切り抜ける……?
 ──そんな、思考の、矢先のことだ。静寂を破る呼吸の音に、ギデオンがその顔を上げ──そのまま、見事に硬直したのは。)

…………

(最初は、妙に迫力ある娘から、命じられたわけでもないのに目を離せないだけだった。だがしかし、その娘が自ら一気に、己の堅牢な装備を紐解き、素肌を守る帯も脱ぎ捨て。その白く柔らかな下腹を、そこに咲いた真っ赤な花を……ダンジョンの火に照らされるまま、こちらにまざまざと曝け出してきたのなら。あまつさえ、思わず耳を疑う台詞を、声音こそ控えめながらも殺人的な一言を、こちらの耳朶に打ち込んでこようものなら。──一瞬前まで、寝台に腰掛けたまま絶望していたはずの男が、遥かルーンの彼方どころか、夜空の銀河の果てにまで一気に思考を吹き飛ばしたのを、いったい誰が責められようか。
 「…………、」と、薄青い目を愕然と見開いて、一言も利けぬまま。しかし理性が戻ってくるのを悠長に待つことなしに、ギデオンの体が勝手に、その場で静かに立ち上がる。そうして、ひとときも目を逸らさないまま──恥じらいに震える娘を、無意識の奥に焼き付けるまま。一歩、二歩、と、重い靴音を立てながら、相手の傍へ歩み寄り。純白のローブが包むほっそりとした肩に、ドラゴン革の手袋を厚く纏った己の片手を、そっと優しく添えてみる。
 彼女がびくりと竦んだのを掌のうちに感じ取っても、もはや揺るぎはしなかった。依然として口も利かずに、ただただじっと──相手がこちらを見ようと、見まいと──相手のことをたっぷり見下ろして不意にその身を屈めれば、温い吐息を零しながら、己の薄い唇を相手の頬の辺りに触れる。──キス、と呼べるほどのものではなかった。ごく軽く、まるで羽根で撫でるようにうっすらと触れるだけ。だがしかし、まるで十の指先の代わりに、唇で彼女の輪郭を確かめていくかのように。沈黙を保つ男の顔が、娘の頬、首筋、鎖骨、歪められた果実の麓……その曲線の上を滑って、次第に下へと降りていく。この時、もはや片手ではなく両手で彼女に触れていたが、その両手もまた、彼女の華奢な二の腕から、小さな肋骨の並んだ辺り、そして優美な腰のラインへ、無骨な親指で遠慮なく腹の辺りを撫でながら、躊躇も遠慮もなく降りていき。
 やがて先程同様に、娘の前で恭しく片膝をつくと。己の両手を娘の腰の後ろに回し、半ば引き寄せるようにして──とうとう。娘自ら差しだしたその無防備な楽園に、湿った吐息ごと顔を埋める。……これも、口づけと呼べるだろうか。薄い肌が守るそこを、飢えたように、甘えるように何度も食んで、言外に何かをねだる行為は、まさに捕食ではなかろうか。
 すぐそこにあるダンジョン三階の石扉ががちゃりと音を立てたかどうか、ギデオンはもはや歯牙にもかけていなかった。痛めぬ程度に歯を立てて、彼女自身がギデオンのものと言った場所、その表面に、何度も何度も貪りつくことをやめない。己の金の頭を掴まれ、行為を咎められたとしても、きっとギデオンは止まれなかった。無垢を装う娘の臀や、すらりとした腿、その膝裏。健やかなヒーラー衣装がきっちり包み込んだそれらに、今は逃がさないとばかりに戦士の両手を巡らせながら、──結局、自分が欲しいのは、今は届かぬ最奥なのだと。それを知らしめるように、いよいよぐっと、そこへ強く、強く強く吸い付いて。
 ……ようやく男が息を吐き出し、顔を離したその場所には。先日我が家の寝室で更新したそれと合わさり、可愛らしいハートのような形になった所有の印が、くっきりと刻まれており。それを静かな熱っぽい目で確かめていたアイスブルーが、やがて真上の恋人を、窺うように見上げるだろう。)





1012: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-08-05 15:55:20




──……?
……ギデオンさ、っ!?

 ( ゴツゴツと重い足音に、肩に添えられたゴワゴワした手袋の感触。今、明らかに目の前にいるであろうギデオンが、しかし中々動き出さないその気配に、恐る恐るといった風に潤んだ瞳を薄く覗かせ、その表情を伺おうとしたその瞬間。
 元々、世界一格好良く大好きで堪らない顔立ちから、何故か一切の表情が抜け落ち、恐ろしいほどの美を放っている中、色づいた薄い色の瞳だけが爛々と輝く、畏怖を覚えるほどの造形美が──ビビの考えていたより、ずっと高い位置。その視界の寸前に突きつけられたことで、「ヒィッ!!」と、本能の根源から捻り出したような悲鳴を漏らしたものの。
 それでも、まだその唇がビビの上半身を順に撫でていく間は、正確な答えが分からない以上、合理的な行動なのかもしれないと。(あまりの衝撃にただ動けなかっただけという事情も考慮しつつ) 兎に角、結果としては、ギデオンの蛮行を止めない行動と内心は一致していた訳だが。跪いたギデオンの力強い両手が、ビビの腰を捕えた次の瞬間、その唇どころか、美しい顔面ごと、己の弛んだ腹部に埋められた衝撃たるや。「ギデオンさん!?」と悲鳴をあげると、必死に金色の頭を止めながら、勢いよく腰を引こうとして。 )

やッ……ダッ……、!!! 開いた!! 開きましたからッ!! 扉!! ガチャって……はッ、ン……、……ッ!!

 ( そもそもこの部屋のお題に対し、後ろめたい節のあるギデオンとは違って、ビビにとっては、下世話なただの嫌がらせの時間稼ぎくらいの認識故に。まさか、迫るタイムリミットに絞り出した苦肉の策が、年上の恋人の理性を焼き切ったことなど知る由もない。
 故に、大好きな相手から触れられることで、理性とは裏腹に、一気に体温の上がる感覚と。あんなに堅牢だったのが嘘のように、最初の一口であっさりと開いた扉の音に、本格的に逃げ出そうと脚をつっぱって全力でもがくも。その膝裏をいとも簡単にかくんと畳まれ、ガッチリと強く抱き込まれてしまえば。屋外の、それも安全かも分からないダンジョンの中にも関わらず、漏れ出てしまった甘い吐息に、益々真っ赤になりながら両手で口許を抑えることとなって。
 そうして、ようやく満足したのか、こちらを見あげてくる薄青に。ジンジンと下腹部を震わせながら、すっかり力の抜けた腰をゆるゆると下ろして、同じ高さになった顔をキッと睨む涙目の迫力のないこと。しかし、「……私、扉開いたって言いましたよね」と、膨らんだ頬の可愛さに、ギデオンが少しでもふざけた返答をしようものなら。容赦なく鳩尾を襲ったかもしれない頭突きの鋭さの一方で、ぽこぽこと刺す釘の甘さには無自覚なのだから仕方がない。 )

──最ッ低!!
こういうのは……~~~ッ、おうちに帰ってからにしてください!!




1013: 匿名さん [×]
2026-08-05 20:28:50

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1014: ギデオン・ノース [×]
2026-08-09 22:52:04




(先ほどまで働いていた淫らな蛮行の余韻か何かを、すぐかき消さぬように──だろうか。唇を薄く開きはしたまま、しばらくの間ものも言わずに、真っ赤に染まったかんばせをただぼんやりと見つめ返して。ようやく口を利くかと思えば、「……悪い。念には念を、と……」だなんて、心にもない屁理屈を、よくもまあ白々しい。そりゃあ当然、怒れるヒーラー娘から栗毛の鉄槌を下されるのも、当然の報いというもの──なの、だが。
 「っ、悪かった。悪かったから……」と吐息混じりに笑う辺りが、この男、なんだか妙だ。それはもちろん、あの時よりもいくらか厚い皮鎧を着ているのだから、相手の頑丈な頭突きを受けても多少は平気なのだろうが。それにしたって、性懲りもなく栗毛を撫でて相手を宥めようとする、その不届きな手つきやら。目尻に皴を寄せながら相手を見下ろすまなざしの、どこか遠い気配やら。──極めつけに、後ろに片手を突く形でヒーラー娘を受け止めたまま、不意にもう片方の手を、相手の前髪の辺りにやって。乱れたそれを掻き分けながら。ぐ……、と固い腹を屈め、その耳元に口を寄せ、何を囁くものかと思えば。)

……。
“家に帰ってから”……なら、 ……いいのか。

(──低く、低く、しっとりと。相手の耳朶を音だけで湿らせようとするかのような、欲の滲んだその声は、しかしこれまでの閨で鳴らした、悪戯に揶揄うそれとは違った。その音、呼吸。少しだけ顔を戻して、間近に相手を見つめる薄青。或いはきっと、鎧越しでももしかしたら伝わるだろう体ら飛び込んできた威勢のよい娘のことを、容易く己の懐に閉じ込め。今更逃がさないとばかりに、いっそ静謐にすら見えるひた向きな視線を以て、真正面から問いかける。
 ──これまでだってされてるだとか、止めたってするのにだとか、そんな逃げは認めない。ただ、おまえの、許しが欲しい。そしてそれは、何も今しがた働いた“口づけ”のことだけではない。もっと先……もっと奥に、欲しいものがあるのだと。腹の底でぐつぐつと甦りだした飢餓の熱を、ただ相手の目を見つめるだけでも伝えられるだろうなんて信じてしまえるくらいには、相手と仲を深めたつもりだ。)





1015: 匿名さん [×]
2026-08-10 14:49:29

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1016: ギデオン・ノース [×]
2026-08-10 16:50:35




(先ほどまで働いていた淫らな蛮行の余韻か何かを、すぐかき消さぬように──だろうか。唇を薄く開きはしたまま、しばらくの間ものも言わずに、真っ赤に染まったかんばせをただぼんやりと見つめ返して。ようやく口を利くかと思えば、「……悪い。念には念を、と……」だなんて、心にもない屁理屈を、よくもまあ白々しい。そりゃあ当然、怒れるヒーラー娘から栗毛の鉄槌を下されるのも、当然の報いというもの──なの、だが。
 「っ、悪かった。悪かったから……」と吐息混じりに笑う辺りが、この男、なんだか妙だ。それはもちろん、あの時よりもいくらか厚い皮鎧を着ているのだから、相手の頑丈な頭突きを受けても多少は平気なのだろうが。それにしたって、性懲りもなく栗毛を撫でて相手を宥めようとする、その不届きな手つきやら。目尻に皴を寄せながら相手を見下ろすまなざしの、どこか遠い気配やら。──極めつけに、後ろに片手を突く形でヒーラー娘を受け止めたまま、不意にもう片方の手を、相手の前髪の辺りにやって。乱れたそれを掻き分けながら。ぐ……、と固い腹を屈め、その耳元に口を寄せ、何を囁くものかと思えば。)

……。
“家に帰ってから”……なら、 ……いいのか。

(──低く、低く、しっとりと。相手の耳朶を音だけで湿らせようとするかのような、欲の滲んだその声は、しかしこれまでの閨で鳴らした、悪戯に揶揄うそれとは違った。その音、呼吸。少しだけ顔を戻して、間近に相手を見つめる薄青。或いはきっと、鎧越しでももしかしたら伝わるだろう体温で。自ら飛び込んできた威勢のよい娘のことを、容易く己の懐に閉じ込め。今更逃がさないとばかりに、いっそ静謐にすら見えるひた向きな視線を以て、真正面から問いかける。
 ──これまでだってされてるだとか、止めたってするのにだとか、そんな逃げは認めない。ただ、おまえの、許しが欲しい。そしてそれは、何も今しがた働いた“口づけ”のことだけではない。もっと先……もっと奥に、欲しいものがあるのだと。腹の底でぐつぐつと甦りだした飢餓の熱を、ただ相手の目を見つめるだけでも伝えられるだろうなんて信じてしまえるくらいには、相手と仲を深めたつもりだ。)





1017: 匿名さん [×]
2026-08-10 21:05:15

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