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Petunia 〆/1023


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自分のトピックを作る
1004: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-04 11:34:38




 ( 原始、ヒーラーとは神と人間を繋ぐものであり、迷える人々を助け、それを害する魔物を弱める力を神によって与えられた。歴史的には、軍事を司る貴族の系譜を持つ剣士や槍使い、若しくは、人ならざるものの領域であった森を拓き、人間の土地を拡大してきた木こりや農民の系譜を持つ斧使い達とはまた別に、彼らの始祖は神官であり、神への祈りを生業とする修道士である。故にヒーラーにとって直接魔物を屠るのは専門外のことで、彼らの本業はあくまで剣士や斧使いの力を最大限まで高め、対する魔物共の力を弱める支援職ではあるのだが。そんな開拓時代も今は昔、戦法や魔物の被害も多様化した現代では、駆け出しの剣士とベテランのヒーラーがバディとなることも往々にして増え。そういった際の定番の布陣はといえば── )

──魔物を正面方向に誘導、剣士は正面の敵に集中……は、ダンジョンでは使えませんね?

 ( まだたった一年半も経っていないというのに懐かしい。当時もギデオンに主導権を託されて挑んだシルクタウンでのワーウルフ殲滅作戦は、あれは魔獣が"普通に"生息する平地だから出来たことだ。他の生物たちと同様、ダンジョンの外に生息し、そこで繁殖する魔物達には習性というものがあり、故にその動きを誘導することも可能なのだが。対してダンジョン、その最奥の核から、(現代の研究では)無秩序(としか形容しようがない)に"生成される"魔物相手ではそうもいかない。さてどうしたものか、「どんな魔物が出てくるか……先に探索魔法を使う? でも、それじゃ種類までは分からないし……、」うーんと、両手の指先を顎にあて、己の膝に頬杖をつくようにして、にきび跡一つない顎と眉間に皺を寄せること数秒。しかし、ルーキーの異名は伊達では無く。直ぐさま気づいたように、あっ、と逸らしていた目を相棒に戻せば。答え合わせを強請る生徒のように、恐る恐るといった感じで小首を傾げて。 )

……!
そっか……! 誘導しなくても、反応があるほうには確実に"道"があるんだ……!
そしたら、私は周囲の探索、正解のルート探し、罠の解析等に魔力を温存したいので、魔物のお相手はギデオンさんにお任せしてしまってもいいですか……?




1005: ギデオン・ノース [×]
2026-07-07 02:01:59




ああ、問題ない──寧ろそれこそが正解だ。

(プライベートでは一対一の男女と言えど、冒険者という世界においては、歴に二十年の差がある上司・部下の間柄。故に相手を試すような物言いをしてしまったが、やはり流石と言うべきか、相手は本質を踏まえた答えを自力で導き出せたようだ。その才能に報いるように、こちらもしっかり頷いてやる──彼女の言うとおり、今回は考え方を多少変える必要がある。
 いつもの地上の仕事なら、市民の命と生活のため、必ず魔物どもを屠るが、攻略相手が“ダンジョン”という地形であれば、成功の鍵となるのはルート探索とマッピング。つまり、何も毎度律儀に魔物とバトルするとは限らず、先へ先へと進むことを何よりも重視することになる。だから己の仕事はあくまで、ナビゲーターとなるヒーラーが安全に探知できるよう、彼女と自分の身を守ること──それにかけては、カレトヴルッフの誰よりもやり抜いてみせる自信がある、と。
 さらりと私情を滲ませて相手に微笑みかけながら、夏風になびく栗毛の尻尾を指先で掬った辺り。結局はギデオン自身、公私混同は不可避なのだとどこかで割り切っていたかもしれない。)

 *

(──さて、それから半刻後。昼に相棒がワーム狩りをしたのどかな農村に到着し、村長やその周辺にこれからのことを説明すれば、いよいよ神木の麓から、初のダンジョン探索である。
 ダンジョンとは不思議なもので、自然に生じたそのはずが、人が容易く歩いていけるなだらかな坂が続いていたり、階層が変わるところでは階段すら生じていたり……何よりその側面の壁には、どうも松明にしか見えない明るい魔法火が点々と、こちらの行く手を照らすように果てなく続いていたりする。魔素を燃料とする以上、その煙に害などないし、他の有害な気体の類いも、この魔法火が燃やしてくれる。これは最奥のコアを砕いても不思議と続くそうだから、踏破後のダンジョンを王侯貴族がこぞって欲しがり、屋敷の地下の秘密の通路に仕立て上げたのも、無理からぬ話なのだろう。
 そんな話をぽつぽつと、相手と他愛なく言い交わしながら歩き続けて、さらにどれほど時間が過ぎたか。──ギデオンの歩みがふと、困惑気味に止まったのは、地下3階の最奥に辿り着いたときだった。地下一階と二階ではそれなりのモンスターが湧き、ヴィヴィアンの支援魔法のもと、難なく倒してきたわけなのだが。どうもこの地下三階、不思議と魔物を見かけぬ代わりに、何やら過去の遺跡らしき部屋や道具がこれまで多数見つかっている。そうしてとうとう着いたのがここ──どこからどう見ても普通に立派な、寝台付きの一部屋である。
 ダンジョンにこういう人為的空間も生じることは知っていたが、ここまで普通にあっけらかんと、如何にも居心地良さそうな雰囲気をしているものだろうか。魔法で生じた空間となると、春先のあのサキュバスの黒い館を思い起こすが、どうもあの時とは違い、嫌な感触は湧き起らない。そてでもあちこちにあつらえられた箪笥やら木棚やらを慎重に観察しつつ、先に部屋を突き進み。辿り着いたその場所では、魔法陣で封をされた石造りの丈夫な扉がふたりの行く手を阻んでいる。ルーン文字の刻み込まれたその全体を一瞥し、籠手のついた大きな掌で何度か触ってみせてから。“安全だから来て大丈夫だ”、と相手を仕草で呼び寄せると、困ったように首を傾げて。)

この魔法陣は罠の類いか……?
どうも、押しても引いても開かない様子なんだが……魔法を打ち込んでいいものか。





1006: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-14 22:12:54



……ありがとうございます!

 ( はるか幼少期から憧れて止まない、冒険者ギデオン・ノースから褒められれば、心底嬉しくって堪らないといった笑みを満面に浮かべて。
 思えば、ビビが初めてギデオンの名を知ったのは、いつのことだったか。ダンジョンマスターであるホセやフィリベールらの冒険の同行者として、紙面の端によく載っている名に興味を惹かれたのが始まりだったような──そんな、最初の記憶は朧気な一方で、その精悍な名前と顔が一致したその日のことは、今でも昨日の事のようにありありと思い出せる。魔導学院に入学した年のギルドトーナメントにて。美しく整った色素の薄い顔立ちに、文句のつけようもなく鍛え上げられた男らしい体躯。そして、まだ当時は彼も若く、軽薄さを残した表情の移ろいに、幼いみぎりの心臓を一発で撃ち抜かれ、堕とされた永遠の王子様。そして、今目の前で小さな公私混同に、可愛くはにかんでいる"ギデオン・ノース"この人。その名が今日、ダンジョンマスターとして 、歴史のページに刻まれるのだと想像すれば。ダンジョンに向かう道すがら、度々喉の奥からまろびでそうになる悲鳴を、必死に押し殺すこととなったのは仕方の無いことで。
 さて、そんな──ギデオンさんがダンジョンマスターとか絶対に宇宙一格好良い、好き、大好き!!! と。もしその愛情が手に取れる物質だったならば、こんなダンジョンなどとっくのとうに埋めつくし、麓の村まで届いていたに違いない程の挙動不審をして尚、本日、目を見張るレベルで絶好調なヴィヴィアンの探索魔法をもってしても。急に現れたその部屋に、魔物や悪意ある罠の類が無さそうだというのは同意見で。 )

罠って感じはしないですけど……、……。

 ( ──魔法を打ち込んでも、って。ギデオンさんってこんなに豪快だったかしら、なんて、一体どの口が言うのやら。でもそんなところも素敵?と内心、ぱたぱた相手の隣に駆け寄れば。目の前の扉に手を当ててすぐ、その横顔がきょとりと変わった理由はといえば、「"扉を開くには口付けを"って。……開かないですね」と、浮かせた踵を下ろしながらの事後報告。
 そうして、「何か読み間違えてるのかしら……確かにここの単語とか分からなくって」などと、周囲を調べていたその時。扉に刻まれていた文字が微かに光ったかと思うと、まるで痺れを切らしたかの如く、うにゃうにゃと歪みながら、2人が見慣れた文法体型のそれへと変化していき。 )

……って、アレ……!?




1007: ギデオン・ノース [×]
2026-07-15 22:57:50




(あまりに自然に行われた甘酸っぱい開門テストに、ギデオンがはたと静止したのも仕方のない話だろう。──何より地味に衝撃なのは、相手が脈絡なく顔を寄せれば、こちらも無意識で頭を屈め、軽く“それ”に応じていたこと。これがサリーチェ・ラメット通りの、ふたりの我が家であるならまだしも、仮にも今は仕事中。流石に現場でいちゃつくような愚は犯すまいと思っていたのに、こんな序盤でこの体たらく……しかも、さも当然の呼吸のように、己の頭が追い付く前に唇を重ね合わせていたなど。
 ギルド勤続二十余年の生真面目なベテラン戦士は、そんな己の不確かぶりに、あるべき理性を蘇らすべく愕然としていたのだが。ふんふんと辺りを調べる若いヒーラー娘には、取り合うべくもない話──ついでに言えば、この摩訶不思議なダンジョンにもまた、全く関係ないことで。
 視界の端で扉の石文字が蟲のように蠢けば、流石に放心を即時に取りやめ。魔剣の柄を握りながら相手を後ろに下がらせて、ついでに気合も入れ直すべくべくそちらをじっと注視する。だがしかし、魔剣使いのごく真っ当な警戒心を前にして、分厚い扉が繰り出したのは──)

…………………………は?

(──ヴィヴィアンですら読めなかった古代ルーンの単語というのは、そりゃあ当然、高尚な学問書にわざわざ載るはずもない、卑猥な手合いだったらしい。新たに書き出されたそれは、どこからどう見ても読み間違えるはずもない、現代ガリニア語の一文だったのだが。曰く、この扉を開けたくば、???に……“その者が肉体的に最も昂るどこかしらの部位”に、唇を寄せよというのだ。
 この時点でギデオンは、先ほどまでかき集めていたわずかばかりの常識が軒並み爆散するのを感じ、思わず軽く仰け反りながら遠い目をしてしまったが。一応……そう、一応は、これが立派な古代魔術の一種なのだと、すぐさま気がつく程度には戦士の場数を踏んでいた。──今は製法が失われた古い古い魔法陣に、“近づいた人の思念を読んでそれを発動条件とする”、そんな不可思議な代物が存在しているという。例えば、本物の賢者の石を悪人から守りたいとき、それを“使いたい”者ではなく、“見つけたい”者だけが、魔法のかかった鏡を通じて無から石を取り出せる……といった具合だ。無論、自分に従順な代理人に取り出させればいいという抜け道はあるにせよ、“人の心理”をトリガーとする魔法陣は、その突破の難易度を普通の陣より跳ね上げるという点で、悪人にはもちろんのこと、ダンジョンの奥へ忍び込む冒険者にとり厄介である。
 五千年代の今になっても男性冒険者のみの部隊が大多数である以上、不埒な発動条件は覿面に効果抜群だ。そちらの志向というわけでなければ、どこの男が好き好んで野郎を唇でまさぐるものか。女を連れてくるにしろ、この手のことに協力的で、人間関係に差し障りなく、かつダンジョンで最低限自衛もできる女となると、そうそう見つかるわけもなく。歯を食いしばって試すにしても、いつどこから魔物どもがポップするかもわからぬ場所で、頼みの綱を装備を解かねばまず試行にすら及べない、これもまた心理的な難易度を跳ね上げて……。
 いや待て、少なくとも今回は直接しろと書かれてないから、自分たちに限っては装備越しでも構わないのか。そして地味に気にかかるのが──このダンジョンは、この妙な難易度の防壁からして……おそらくはコア以外にも、何かを守っているのでは。つまり、放置すればするほど、厄介になっていくのでは……?
 そういった方面に思考の舵を切りさえすれば、如何にヘタレと呼び声高いギデオン・ノースを以てしても、腹が決まるというもので。「よし」と一言、とはいえ依然死んだ目で長く続いた沈黙を破ると、くるりと相棒を振り返る。そうしてきっぱりと、あくまで先輩冒険者として確信を持った──ような──声音で、ごく事務的に指示を出し、何てことのない話だと相手に思わせようとして。)

……ヴィヴィアン。お前の方が装備が薄い。
ここを一分で通り抜けるために……そこのベッドで、そのまま少し寝そべってくれ。





1008: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-22 23:29:53




──!?
絶対にイッ……、~~ッ!!
…………せ、めて、他に道や方法がないか、調べてからに、……して、くださらない……?

 ( 平和**しきった動揺に、ギデオンが人知れず固まってから数瞬ののち。石に刻まれている文字が、まるで生き物のように蠢いて変わる現象と、それを受けての相棒の発言に、今度はヴィヴィアンが絶句する番となって。顔や耳どころか、首やその先のシャツから覗く胸元まで、まるで逆上せたように真っ赤に白い肌を染め上げると。最早、相手がギデオンかどうかや、過去のトラウマなどは関係ない。入ってきた側の扉には鍵もかからず、というかそもそもダンジョンではしたないところを暴かれるなんて、普通に絶対にイヤ──と。他に解決策がなかった時のことや、ただのキスとは言え、先程は自分から先に行ってしまったことを考えると、その本音は完全に言い切るギリギリのところで飲み込んだものの。経験の豊富なギデオンとは違い、握った杖もろとも、自分の身体を抱きしめてドン引きした表情で婚約者を見上げる娘が、漸くその深刻さを把握できたのは、不名誉な濡れ衣を着せられた剣士が必死の説得にかかったか。それとも、他の手立てを探すかしている内に、ベテランである男が懸念したその通り、扉に刻まれた要求がさらに酷いものへと更新された後のことで。 )

……!!
な、んなっ……!!!?!?!!!?!?

 ( この扉を開けたくば、"その者が肉体的に最も昂るどこかしらの部位"に、"直接" 唇を寄せよ──と。嘲笑うかの如く付け足された文言に、益々赤くなったり、かと思えば直ぐに青くなったりと、忙しなく顔色を酷く変えながら、声にならない悲鳴をあげたビビだったが。力無くよろよろと背後に後ずさったかと思うと、ちょうどそこにあった寝台に膝を取られて「!?」──ぽすん、と呆気なく尻もちをつき。この時、色んな意味で経験の浅い娘の脳内を占めていたのは、どうしよう、どうしよう……!?!?!? と、一人で大型のドラゴンを倒せと言われても、もう少し冷静だろうと思える程の大混乱。
 あまりのことに数秒おいてから、自分のブーツを履いた爪先だけをじっと見ていたことに気がつくと──そうだ、ベッド……!! と、勢いよく振り向いたのは。ようやく自分が今、ギデオンの指示した通りの場所に腰掛けていることに気がついた故。まさか、ギデオンさんに限って、無理やりされることはなかろうが。もしかして、先程の指示を受け入れたと思われているかもしれないという考えが過ぎって、はしたないと思われてやいないだろうか。本当にここでされちゃうの……? と、まるで捨てられた子犬のような、心細げな表情でギデオンのことを見上げれば。ひぇん、とも。ひゅあ、とも、何とも言語化し辛い悲鳴を洩らしながら小さく震えた一方で。もっと根本的な疑問が、思わずといった調子で口をつき。 )

あの、……その、あたしの、一番……、……る、ブイって、どこ、ですか……???




1009: ギデオン・ノース [×]
2026-07-25 17:57:16




(清純な声で紡がれたあまりにもの質問に、辺りを行ったり来たりしていた懊悩あらわな足取りを止め、盛大に二度見三度見を。……憎たらしいほどよくできた、真っ白な寝台の上。質問の主たる娘は、まるでフェンリルに供された可哀想な子鹿の如く、ぷるぷる震えてこちらを見ている。ギデオンも唖然とした目でそれを数秒も見つめ返し。……やがて、唇を薄く開けると──)

…………、………………。
……俺も……俺にも、わからない。

(──一応、これにはわけがある。
 この扉は人を読む──そう、このふしだらな無理難題は、自分たちのうちどちらかの深層心理を反映している。“相手はどこで感じるのか”、そんな救えぬ欲望を、まさかそこのおぼこな娘がギデオンに抱くはずもない。この状況は百パーセント、ギデオンが日頃押し隠している下心のせいで生じたのだと。その真相に彼女もまたやがて気がつくことを恐れて、必死に知恵を絞ろうとした──しかし、それこそ命とり。
 ギデオン・ノースは考えた。“自分が彼女にするのはいいが、逆は絶対に選べない。こちらは情事に親しみ過ぎて、自分のそれがどこなのかなど、とっくの昔に自覚している。そしてそんな場所への口づけを初心な彼女に要求するのは、外道どころでは済まないだろう。かといって、こちらが彼女に試すにしても、当人のこの怯えよう。……それなら、条件の解釈を無理やり広げてみせるしかない。扉の示す『その者』という言葉には、多少解釈の余地がある。それなら、それなら……理論上は……自分が、決死で……体を張るなら……”。
 死にそうな顔で考えた、四十路男のそんな無謀を──しかしダンジョンは見逃さない。ぞわりと粟立つようにして扉の文字が再び蠢き、“  相  手  が  最も昂る部位に、 直 接 己の口づけを、と。そう再三書き換えられて、──こでようやくギデオンは、その目を完全に絶望させる。……そうだ、この扉は人を読む。心の底に秘めている欲を勝手にお題とする上に、どうにか見出した回避策すら、そんな邪道は不可とばかりに、こうして見破り塗り潰す。このトラップを前にして、“思考”を働かせてはならない。最短で切り抜けたいなら、扉の示す文字通り、事を実行してみせるのみ。応援を呼ぶ時間などない──魔物の害が出ぬように、最速で踏破するのが義務だ……
 ──故に。ギデオンが口にしたのは、考えずとも呟ける、嘘偽りのない本音。正直、未だ不慣れな彼女はどこもかしこもよく反応して、どこがいちばん悦くなれるのか、未だ突き止めきれていない。しかしそこではっとして、その青い目に光が宿る。彼女は知らない、己も知らない。……ならば、この石扉も知らない。つまり──)

…………。
……なあ、ヴィヴィアン。

(そこで思考を断ち切ったのは、三度も条件を書き換えられた失敗を省みてのこと。その表情をやけに真摯で精悍なそれへと変えると、立派な戦士装束でヴィヴィアンの前に跪き、如何にも誠実な顔を浮かべる。それはさながら、神話の世界の乙女の前に騎士が跪くようではあったが。彼女のすべらかな片手を取ると、籠手で覆った両手で包み、いつぞやの夜更けよろしく──おそらく無意識に似せていた──穏やかな声で尋ねて。)

たった今、ひとつだけ……方法を思いついたんだ。
お前は何もしなくていい。装備は一切脱がなくていい。
指輪に賭けて、女のお前を不名誉な目には遭わせないから……一度だけ、試させてくれないか。





1010: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-07-29 17:16:59




…………ええ。ええ、勿論です、お願いします……。

 ( 二人にとって大切な夜を思い起こさせる構図に、意図的に寄せられた優しい声音。それに対するヴィヴィアンの反応もまた、その紡がれた言の葉の形だけは、偶然似通っていたものの──此の度、ヒーラーの表情がどこか固く、晴れなかったのは、件の晩、プロポーズを受け入れた最愛の女を前にして、未だ準備だ、婚前講座だとよく分からない理屈をごねている男への恨みか。それとも、己の深層心理及び欲望を隠さんとした男の目の色を見逃さなかった故か。はたまたその両方ということもあるかもしれない。とはいえ、基本的には全幅の信頼をおく相手の提案に、小さくこくりと頷いて見せたヴィヴィアンだったが、人の思考を読んでくる魔法を相手にして、その小さな隔たりは致命的なものとなって。
 ギデオンが考えた、"共に閉じ込められた相手の性感帯にキスをする" このお題を前に、ヴィヴィアンも、ギデオンも、そして出題者である扉側もその答えを知らないということを逆手にとり、"触れても遜色のない場所を新たな性感帯にする"といった解決案は、多少の倫理観に目を瞑れば、確かに非常に画期的であり。そこへ導くまでのギデオンの手練手管も、素晴らしいものではあったのだが。全く、可哀想に、己のうなじと襟足の生え際がそうであると、巧みに信じ込まされた娘が、真っ赤になりながら差し出したそこへとギデオンの唇が寄せられたところで、その扉は開く兆しも見せなかったことだろう。 )

……、…………やっぱり。……!

 ( その場で少々俯くことで、口付けしやすいように晒した首筋。そこを扉が正解だと判断しなかったとしても──……私、って。うなじを触られて、反応しちゃってたことがあるんだ……と。扉やギデオンが想定していた事態とはまた別に、新たな、捏造された知見を得ていたヴィヴィアンの内心で。しかし、その"答え"が項ではなく、違う場所だと生成されてしまったのは、たった数秒前。この手の話題に疎い娘の質問に、年上の恋人が苦々しい表情で「知らない」と答えた瞬間だった。ギデオンさんでも知らないなら、じゃあどこなんだろう? 少しでも可能性がありそうなところって……? と。初心で経験が少ないなりに、はしたなくも、記憶の波を掻き分けてしまったのは自然なことだろう。
 そうして、ゆっくりと白い寝台の間から立ち上がり、扉が開かないことをしっかりと己の手でも確認すると。長い睫毛をしっとりと伏せながら、下唇に浮かぶ光の形を小さく歪め、「…………。」と、何やら変な居心地の良さすら醸し出してきた狭い部屋に響かせたのは、ただ単に鼻から息を吸う音だったのか、それとも覚悟の音だったか。
 最初は、ローブの留め金に右手を伸ばしかけて止めた手を、今度こそ己の腹部を守るコルセットの革紐にかけ、ギデオンが止める暇さえ与えず一気に解けば。下まで緩める手間を惜しんで、雑に上半身へと引きずりあげたことで、豊かな双丘が歪に強調されることも厭わず。今度は腰のベルトに手をかけ。そのまま止められなければ、そこへ浮かぶ赤い星を。"自分が相手のものである証"を、他でもないつけてくれた当人へと見せつけるように晒したまでは勇ましかったが。相手の反応を見るのが怖くて、ぎゅっと瞳を瞑った顔を逸らしながら、己のはしたなさへの言い訳で、どんどんと墓石を掘り進めて行くのは最早恒例のことで。 )

その、ごめんなさい、首も、絶対違うって自信がなくて……。
でも、首じゃ、ないなら……"ここ"、が。
あ、えっと。でも、いつもた……る、わけじゃないのよ。その、あの、チクッて…………いえ、ギデオンさんのものって、思えると、なんだか、いいなって……おもっちゃう、ときが……。




1011: ギデオン・ノース [×]
2026-08-01 18:30:32




(人間、何かしらで後ろめたいと、見聞きする物事を悪く捉えがちなものだ。浅ましさを隠そうとしたギデオン・ノースもまた然り──恋人が不意に発した「やっぱり」なる声に、それはもうわかりやすくぎくりと体を強張らせ。恐れで相手を振り向けないまま、直前に彼女が見せた浮かない顔をもその脳裏に思い起こせば、あとはもう、ベッドによろりと腰を下ろして、伏せた顔を片手で覆い、どうにか挽回できないか死ぬほど考え込む始末。
 どうする、どうすれば、どうすべきだ、どうしたらいい。この二ヵ月、恋人としてこつこつと積み上げてきた信頼を、こんな場面で失いたくない。わざと間違えたわけではないと、こちらにとっても想定外だと──この一カ月の前戯のさなか、確かにたまにはこんな悪ふざけもしたが……今回ばかりは絶対違うと、本当にできるだけ恥をかかせずに済むように手を打とうとしたのだと、どうすれば信じて貰える。いや、起こったことは仕方がない。この手もやはり通じないなら、結局、この扉はどう突破するべきだ? ヴィヴィアンを犠牲にせずに、どうやったら責任を取れる。過ちを挽回しながら、どうやってここを切り抜ける……?
 ──そんな、思考の、矢先のことだ。静寂を破る呼吸の音に、ギデオンがその顔を上げ──そのまま、見事に硬直したのは。)

…………

(最初は、妙に迫力ある娘から、命じられたわけでもないのに目を離せないだけだった。だがしかし、その娘が自ら一気に、己の堅牢な装備を紐解き、素肌を守る帯も脱ぎ捨て。その白く柔らかな下腹を、そこに咲いた真っ赤な花を……ダンジョンの火に照らされるまま、こちらにまざまざと曝け出してきたのなら。あまつさえ、思わず耳を疑う台詞を、声音こそ控えめながらも殺人的な一言を、こちらの耳朶に打ち込んでこようものなら。──一瞬前まで、寝台に腰掛けたまま絶望していたはずの男が、遥かルーンの彼方どころか、夜空の銀河の果てにまで一気に思考を吹き飛ばしたのを、いったい誰が責められようか。
 「…………、」と、薄青い目を愕然と見開いて、一言も利けぬまま。しかし理性が戻ってくるのを悠長に待つことなしに、ギデオンの体が勝手に、その場で静かに立ち上がる。そうして、ひとときも目を逸らさないまま──恥じらいに震える娘を、無意識の奥に焼き付けるまま。一歩、二歩、と、重い靴音を立てながら、相手の傍へ歩み寄り。純白のローブが包むほっそりとした肩に、ドラゴン革の手袋を厚く纏った己の片手を、そっと優しく添えてみる。
 彼女がびくりと竦んだのを掌のうちに感じ取っても、もはや揺るぎはしなかった。依然として口も利かずに、ただただじっと──相手がこちらを見ようと、見まいと──相手のことをたっぷり見下ろして不意にその身を屈めれば、温い吐息を零しながら、己の薄い唇を相手の頬の辺りに触れる。──キス、と呼べるほどのものではなかった。ごく軽く、まるで羽根で撫でるようにうっすらと触れるだけ。だがしかし、まるで十の指先の代わりに、唇で彼女の輪郭を確かめていくかのように。沈黙を保つ男の顔が、娘の頬、首筋、鎖骨、歪められた果実の麓……その曲線の上を滑って、次第に下へと降りていく。この時、もはや片手ではなく両手で彼女に触れていたが、その両手もまた、彼女の華奢な二の腕から、小さな肋骨の並んだ辺り、そして優美な腰のラインへ、無骨な親指で遠慮なく腹の辺りを撫でながら、躊躇も遠慮もなく降りていき。
 やがて先程同様に、娘の前で恭しく片膝をつくと。己の両手を娘の腰の後ろに回し、半ば引き寄せるようにして──とうとう。娘自ら差しだしたその無防備な楽園に、湿った吐息ごと顔を埋める。……これも、口づけと呼べるだろうか。薄い肌が守るそこを、飢えたように、甘えるように何度も食んで、言外に何かをねだる行為は、まさに捕食ではなかろうか。
 すぐそこにあるダンジョン三階の石扉ががちゃりと音を立てたかどうか、ギデオンはもはや歯牙にもかけていなかった。痛めぬ程度に歯を立てて、彼女自身がギデオンのものと言った場所、その表面に、何度も何度も貪りつくことをやめない。己の金の頭を掴まれ、行為を咎められたとしても、きっとギデオンは止まれなかった。無垢を装う娘の臀や、すらりとした腿、その膝裏。健やかなヒーラー衣装がきっちり包み込んだそれらに、今は逃がさないとばかりに戦士の両手を巡らせながら、──結局、自分が欲しいのは、今は届かぬ最奥なのだと。それを知らしめるように、いよいよぐっと、そこへ強く、強く強く吸い付いて。
 ……ようやく男が息を吐き出し、顔を離したその場所には。先日我が家の寝室で更新したそれと合わさり、可愛らしいハートのような形になった所有の印が、くっきりと刻まれており。それを静かな熱っぽい目で確かめていたアイスブルーが、やがて真上の恋人を、窺うように見上げるだろう。)





1012: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-08-05 15:55:20




──……?
……ギデオンさ、っ!?

 ( ゴツゴツと重い足音に、肩に添えられたゴワゴワした手袋の感触。今、明らかに目の前にいるであろうギデオンが、しかし中々動き出さないその気配に、恐る恐るといった風に潤んだ瞳を薄く覗かせ、その表情を伺おうとしたその瞬間。
 元々、世界一格好良く大好きで堪らない顔立ちから、何故か一切の表情が抜け落ち、恐ろしいほどの美を放っている中、色づいた薄い色の瞳だけが爛々と輝く、畏怖を覚えるほどの造形美が──ビビの考えていたより、ずっと高い位置。その視界の寸前に突きつけられたことで、「ヒィッ!!」と、本能の根源から捻り出したような悲鳴を漏らしたものの。
 それでも、まだその唇がビビの上半身を順に撫でていく間は、正確な答えが分からない以上、合理的な行動なのかもしれないと。(あまりの衝撃にただ動けなかっただけという事情も考慮しつつ) 兎に角、結果としては、ギデオンの蛮行を止めない行動と内心は一致していた訳だが。跪いたギデオンの力強い両手が、ビビの腰を捕えた次の瞬間、その唇どころか、美しい顔面ごと、己の弛んだ腹部に埋められた衝撃たるや。「ギデオンさん!?」と悲鳴をあげると、必死に金色の頭を止めながら、勢いよく腰を引こうとして。 )

やッ……ダッ……、!!! 開いた!! 開きましたからッ!! 扉!! ガチャって……はッ、ン……、……ッ!!

 ( そもそもこの部屋のお題に対し、後ろめたい節のあるギデオンとは違って、ビビにとっては、下世話なただの嫌がらせの時間稼ぎくらいの認識故に。まさか、迫るタイムリミットに絞り出した苦肉の策が、年上の恋人の理性を焼き切ったことなど知る由もない。
 故に、大好きな相手から触れられることで、理性とは裏腹に、一気に体温の上がる感覚と。あんなに堅牢だったのが嘘のように、最初の一口であっさりと開いた扉の音に、本格的に逃げ出そうと脚をつっぱって全力でもがくも。その膝裏をいとも簡単にかくんと畳まれ、ガッチリと強く抱き込まれてしまえば。屋外の、それも安全かも分からないダンジョンの中にも関わらず、漏れ出てしまった甘い吐息に、益々真っ赤になりながら両手で口許を抑えることとなって。
 そうして、ようやく満足したのか、こちらを見あげてくる薄青に。ジンジンと下腹部を震わせながら、すっかり力の抜けた腰をゆるゆると下ろして、同じ高さになった顔をキッと睨む涙目の迫力のないこと。しかし、「……私、扉開いたって言いましたよね」と、膨らんだ頬の可愛さに、ギデオンが少しでもふざけた返答をしようものなら。容赦なく鳩尾を襲ったかもしれない頭突きの鋭さの一方で、ぽこぽこと刺す釘の甘さには無自覚なのだから仕方がない。 )

──最ッ低!!
こういうのは……~~~ッ、おうちに帰ってからにしてください!!




1013: 匿名さん [×]
2026-08-05 20:28:50

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1014: ギデオン・ノース [×]
2026-08-09 22:52:04




(先ほどまで働いていた淫らな蛮行の余韻か何かを、すぐかき消さぬように──だろうか。唇を薄く開きはしたまま、しばらくの間ものも言わずに、真っ赤に染まったかんばせをただぼんやりと見つめ返して。ようやく口を利くかと思えば、「……悪い。念には念を、と……」だなんて、心にもない屁理屈を、よくもまあ白々しい。そりゃあ当然、怒れるヒーラー娘から栗毛の鉄槌を下されるのも、当然の報いというもの──なの、だが。
 「っ、悪かった。悪かったから……」と吐息混じりに笑う辺りが、この男、なんだか妙だ。それはもちろん、あの時よりもいくらか厚い皮鎧を着ているのだから、相手の頑丈な頭突きを受けても多少は平気なのだろうが。それにしたって、性懲りもなく栗毛を撫でて相手を宥めようとする、その不届きな手つきやら。目尻に皴を寄せながら相手を見下ろすまなざしの、どこか遠い気配やら。──極めつけに、後ろに片手を突く形でヒーラー娘を受け止めたまま、不意にもう片方の手を、相手の前髪の辺りにやって。乱れたそれを掻き分けながら。ぐ……、と固い腹を屈め、その耳元に口を寄せ、何を囁くものかと思えば。)

……。
“家に帰ってから”……なら、 ……いいのか。

(──低く、低く、しっとりと。相手の耳朶を音だけで湿らせようとするかのような、欲の滲んだその声は、しかしこれまでの閨で鳴らした、悪戯に揶揄うそれとは違った。その音、呼吸。少しだけ顔を戻して、間近に相手を見つめる薄青。或いはきっと、鎧越しでももしかしたら伝わるだろう体ら飛び込んできた威勢のよい娘のことを、容易く己の懐に閉じ込め。今更逃がさないとばかりに、いっそ静謐にすら見えるひた向きな視線を以て、真正面から問いかける。
 ──これまでだってされてるだとか、止めたってするのにだとか、そんな逃げは認めない。ただ、おまえの、許しが欲しい。そしてそれは、何も今しがた働いた“口づけ”のことだけではない。もっと先……もっと奥に、欲しいものがあるのだと。腹の底でぐつぐつと甦りだした飢餓の熱を、ただ相手の目を見つめるだけでも伝えられるだろうなんて信じてしまえるくらいには、相手と仲を深めたつもりだ。)





1015: 匿名さん [×]
2026-08-10 14:49:29

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1016: ギデオン・ノース [×]
2026-08-10 16:50:35




(先ほどまで働いていた淫らな蛮行の余韻か何かを、すぐかき消さぬように──だろうか。唇を薄く開きはしたまま、しばらくの間ものも言わずに、真っ赤に染まったかんばせをただぼんやりと見つめ返して。ようやく口を利くかと思えば、「……悪い。念には念を、と……」だなんて、心にもない屁理屈を、よくもまあ白々しい。そりゃあ当然、怒れるヒーラー娘から栗毛の鉄槌を下されるのも、当然の報いというもの──なの、だが。
 「っ、悪かった。悪かったから……」と吐息混じりに笑う辺りが、この男、なんだか妙だ。それはもちろん、あの時よりもいくらか厚い皮鎧を着ているのだから、相手の頑丈な頭突きを受けても多少は平気なのだろうが。それにしたって、性懲りもなく栗毛を撫でて相手を宥めようとする、その不届きな手つきやら。目尻に皴を寄せながら相手を見下ろすまなざしの、どこか遠い気配やら。──極めつけに、後ろに片手を突く形でヒーラー娘を受け止めたまま、不意にもう片方の手を、相手の前髪の辺りにやって。乱れたそれを掻き分けながら。ぐ……、と固い腹を屈め、その耳元に口を寄せ、何を囁くものかと思えば。)

……。
“家に帰ってから”……なら、 ……いいのか。

(──低く、低く、しっとりと。相手の耳朶を音だけで湿らせようとするかのような、欲の滲んだその声は、しかしこれまでの閨で鳴らした、悪戯に揶揄うそれとは違った。その音、呼吸。少しだけ顔を戻して、間近に相手を見つめる薄青。或いはきっと、鎧越しでももしかしたら伝わるだろう体温で。自ら飛び込んできた威勢のよい娘のことを、容易く己の懐に閉じ込め。今更逃がさないとばかりに、いっそ静謐にすら見えるひた向きな視線を以て、真正面から問いかける。
 ──これまでだってされてるだとか、止めたってするのにだとか、そんな逃げは認めない。ただ、おまえの、許しが欲しい。そしてそれは、何も今しがた働いた“口づけ”のことだけではない。もっと先……もっと奥に、欲しいものがあるのだと。腹の底でぐつぐつと甦りだした飢餓の熱を、ただ相手の目を見つめるだけでも伝えられるだろうなんて信じてしまえるくらいには、相手と仲を深めたつもりだ。)





1017: 匿名さん [×]
2026-08-10 21:05:15

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1018: ギデオン・ノース [×]
2026-08-12 10:41:14




(先ほどまで働いていた淫らな蛮行の余韻か何かを、すぐかき消さぬように──だろうか。唇を薄く開きはしたまま、しばらくの間ものも言わずに、真っ赤に染まったかんばせをただぼんやりと見つめ返して。ようやく口を利くかと思えば、「……悪い。念には念を、と……」だなんて、心にもない屁理屈を、よくもまあ白々しい。怒れるヒーラー娘から栗毛の鉄槌を下されるのも、そりゃあ当然というもの──なのだが。
 「っ、悪かった。悪かったから……」と吐息混じりに笑う辺りが、この男、なんだか妙だ。それはもちろん、あの時よりもいくらか厚い皮鎧を着ているのだから、相手の頑丈な頭突きを受けても多少は平気なのだろうが。それにしたって、性懲りもなく栗毛を撫でて相手を宥めようとする、その不届きな手つきやら。目尻に皴を寄せながら相手を見下ろすまなざしの、どこか遠い気配やら。──極めつけに、後ろに片手を突く形でヒーラー娘を受け止めたまま、不意にもう片方の手を、相手の前髪の辺りにやって。乱れたそれを掻き分けながら。ぐ……、と固い腹を屈め、その耳元に口を寄せ、何を囁くものかと思えば。)

……。
“家に帰ってから”……なら、 ……いいのか。

(──低く、低く、しっとりと。相手の耳朶を音だけで湿らせようとするかのような、欲の滲んだその声は、しかしこれまでの閨で鳴らした、悪戯に揶揄うそれとは違った。その音、呼吸。少しだけ顔を戻して、間近に相手を見つめる薄青。或いはきっと、鎧越しでももしかしたら伝わるだろう体温で。自ら飛び込んできた威勢のよい娘のことを、容易く己の懐に閉じ込め。今更逃がさないとばかりに、いっそ静謐にすら見えるひた向きな視線を以て、真正面から問いかける。
 ──これまでだってされてるだとか、止めたってするのにだとか、そんな逃げは認めない。ただ、おまえの、許しが欲しい。そしてそれは、何も今しがた働いた“口づけ”のことだけではない。もっと先……もっと奥に、欲しいものがあるのだと。腹の底でぐつぐつと甦りだした飢餓の熱を、ただ相手の目を見つめるだけでも伝えられるだろうなんて信じてしまえるくらいには、相手と仲を深めたつもりだ。)





1019: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-08-15 11:18:56




………? ……、…………。

 ( 一体、何がこうもギデオンのスイッチに触れたのだろう。扉が開いたなら、こんな部屋すぐにでも出ていってしまいたいにも関わらず、反省どころか、強情な様子の婚約者に、珍しく眉間に皺を寄せて、まじまじとその美しい顔を見上げれば。しかし、情熱的な視線に悪い気もしないあたりが、割れ鍋に綴じ蓋。とはいえ、こんなにも腹立たしいのは──、 )

じゃあ帰ったら結婚して、今すぐ。

 ( 自分ばかりが、相手のことを好きなのだと勘違いしているようなその顔だ。一体、誰が先に好きになって、誰のおかげで今この関係になれたと思っているのだろう。自分のことを追う側だと、捕食者側だと勘違いして、自らが狩られた側だと云うことは、すっかり忘れた呑気な顔の年上男にわからせてやりたくなって。後ろ手に体重を預けている恋人の腰の両横に手をつくと。その割れた腹にのしりと馬乗りになるまま、その顔の高さが同じになるくらいまで、更には上から覗き込める程、相手の上半身を倒させれば。これが普段であれば、甘いキスを降らせる間合いでしかし、ぴたりと寸前で止まると、その薄青が此方を見ていることを確認してから、にっこりと満面の笑みを綻ばせて。 )

──知ってますよ、無理なんでしょう?

 ( これが非常に理不尽な我儘だと云うことは、ビビもまたよく分かっている。他でもないギデオンが、建国祭の帰り道説明してくれた通り。教会や父との関係を考えれば、まだまだ準備しないといけないことは盛り沢山で、寧ろその事情の出元を考えれば、待たせているのは此方側と言っても差し支えないにも関わらず。──なんだか、とっても、ビビの気分を害するのは、様々な課題を前にしたここ最近のギデオンが、どこか楽しげにさえ見えることだ。
 それが、ただの肩書きひとつがもどかしくて、些細な障害が煩わしくて堪らないほど、父との関係などどうでもいいほど、相手のことが好きなのは自分だけなのだと言われているようで気に食わず。じっとギデオンを観察しながら、態とらしく大きなため息を漏らすと。おもむろに相手の大きな左手をとり、分厚い篭手の上から、その薬指の先をがぶりと一噛み。そのまま、ツンと顔を逸らしながら立ち上がろうとして。 )

──……でも、いいですよ。
ギデオンさんが全部くださらなくても、私は全部、ギデオンさんのものですもの。





1020: ギデオン・ノース [×]
2026-08-16 17:49:26




(狙った女をものにするのは、かつては容易いことだった。相手と目を合わせて話し、示せる限りの誠意を覗かせ、距離を縮めたら深く見つめて……あとはただ熱を込めながら、「部屋に来ないか」と囁けばいい。ほとんどの女なら、それだけで後の一夜を快く過ごしてくれたし、少し守りの固い女も、単純接触を重ねるうちに緩んでいく様子を見極め、相手に合わせた方法で慎重に口説きにかかれば、最後に必ず応えてくれた。自分のような男にとって、異性の説得とはそういうことだ──結局、その程度の浅い狩りしかしてこなかったというわけだ。
 故に愚かなギデオンは今、あっさり押し倒されている。己より遥かに軽く、筋力で圧倒的に勝るはずの娘相手に。笑顔、ため息、そして甘噛み……繰り出される手練手管に大混乱のギデオンは、きっと傍目には面白いほど愕然としていただろう。先ほどまで帯びていた余計極まりない熱も、すっかりダンジョンのどこかへ散らされ、その顔色が少しばかり青白くなっているほどで。
 ──ついには、離れて行こうとするその仕草に、思わずほとんど反射的に手を伸ばし、ぐいとその懐に引き戻してしまうのだから。まだ頭が真っ白なままのくせして、相手を抱き込む腕を緩めず、寧ろきつくきつく縛って行かせようとはしないのだから。まんまと“ものに”されているのは、果たしてどちらのほうだろうか。)

…………、……違う。
ヴィヴィアン、俺は……

(……何を、どう言えばいいのだろうと。恋人を抱き締めたまま天井を見る男の眉間に、悩ましげな皴が寄る。相手と結婚したいのは本気だ──本気というか、確定事項だ。じゃあなぜ今すぐそうしないのか。口先だけの威勢なのか。ごっこを楽しみたいだけか。それこそ相手の不満であり、失望のもとということを、さしもの己も今ならば理解している。それをただちに解決できずに、こんなにはっきりと示される望みひとつに応えられずに、果たして彼女の一生の伴侶になり得るだろうかとも。
 ──だが、今のこの状況は、ギデオンもギデオンなりによくよく考えてのことだ。世間体だの何だのも、もちろん考慮のうちにはあるが、それだけならば投げ捨てられる。決してそれだけの理由ではない、何を思っての選択だったか。彼女と恋仲に進む前から、その関係では飽き足らないと、あまりにも早く婚約指輪を買い求めたあの勢いを、今とどめるのは何故なのか。──その答えを思い出し、初めてふ、と少しだけ脱力するように腕を緩めて。相手のことを宥めるように、その背中をローブ越しにごくかすかに撫でながら。しかし始めに選んだのは、結論を出す前の、大事な現状確認で。)

…………。
……俺のことを信じてない、ってわけじゃないんだろう。
ちゃんと、話し合うために……今の何が嫌か、ってのを、教えてくれないか。





1021: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-08-18 12:20:46




…………、

 ( 往年の武勇伝の一方で、拗ねた女に理屈を求める──やさしい、しかたのない人。そんな恋人の野暮な可愛さと、抱きしめてくれる腕の強さに溜飲を下げ。今度こそ、相手の唇へと祝福を落とせば、何が嫌かって? まずは──「もう二度と、お外で変な触り方されるのは嫌」と、太い太い釘を一発。ついでに、「ええ、信じてますからね」と容赦のない追撃を加えながらも、分厚い胸板上、ぐりぐりと栗色の頭を擦りつければ、そこまで怒っている訳では無いという意思表示は伝わったろうか。)

あとは……その、我儘だって、子供っぽいって、笑わない?

 ( ところで、今この状況の何が不満で、どうしたら解決できるのか。この答えについてだが、実はヴィヴィアン自身持ち合わせていないのだ。勿論、どうでもいい障害を前にして、なんだか楽しげな相手に腹は立っているのだが。だからといって、一緒になって怒ったり、増してやビビのように後先考えず、突き進むギデオンをイメージできるかと言われると全く出来ず。どんなことにも、いや、大切なことだからこそ慎重に、丁寧に不安を潰していくことに楽しみを見出す横顔は、何より可愛く愛おしくすらあって。故に言語化できる不満があるとするならば、「……寂しいの」それだけで。 )

私のせいで結婚できないし、その……夜の、……だって、出来ないのに、ギデオンさんは怒ったり、悲しんだりしないでしょう?
そしたら、"本当はしたいんです"とか、"ギデオンさんのためなら、他のことなんて全部どうでもいい"とか……
私は、もっと言えないし……大好きなのに、言いたいのに、言えなくて、もっと好きになってもらいたいのに、ギデオンさんにしてあげられることが何も無くて……寂しい……





1022: ギデオン・ノース [×]
2026-08-25 04:16:40




(ぐうの音も出ぬ正論に、ぎくりと強張る間抜けな男。隙のない二段構えにもわかりやすくたじろぐほどだが、きちんと真面目に頷く辺り、切実な話なのだと理解できてはいるらしい。とはいえ、その年甲斐のない顔も、相手がぽつりと呟いた問いかけを耳にするなり、ふと静謐に変化して。──知っている。いつも明るく強気な彼女がここまで弱気に不安がるのは、気を許す自分相手でも……ごく限られた時だけだ。
 故に。乱れた栗毛をそっと撫でてやりながら、「笑わないよ」と、こちらもごく穏やかに落とした声で、はっきり即答を。その手をそのまま背中へ滑らせ、ゆっくりと撫で下ろすのを何往復か続ければ、相手の呼吸はほんの少しでも安らいでくれるだろうか。……幸い、ここまでの道中は破竹の勢いだったから、こうした小休憩の時間は堂々と取って問題ない。精神感応するギミックが待ち受けるなら尚のこと──よってじっくり、たっぷりと、相手が打ち明けるのを待ったが。はたして、全てを聞き終えたなら、それまでぽん、ぽん、とあやすように続いていた優しい手つきが、次第にゆっくり止まってしまって。
 もしも不安に思った相手が、男の面を確認したなら。──そこにはきっと、「……?」と、それはそれはわかりやすく困惑気味に揺れ惑う青い視線があることだろう。今の話をもう一度、脳内再生するかの如く、わざわざ目を閉じてまで数秒沈黙したかと思えば。「……うん??」と、やはり拭えぬ疑問を、今度は唸り声に滲ませ。思わず、と言った様子で、しなだれかかる相手ごと己の上体を起こしてしまうと、背後の寝台にもたれる形でその場に腰を落ち着け直し、相手をすっぽり腕に収める。そうして、その疑問符でいっぱいのまなざしを、間近な距離から相手に注ぎ。)

……なあ、なんだ……待ってくれ。
結婚ができないだとか、夜の……アレの……ことだとか。その辺りの誤解もまあ、今すぐ解きたいところなんだが。
“何も無い”ってのはどういうことだ……? 俺は寧ろ、今までたくさん、お前にしてもらってばかりだろ。
それが、なんで……

(──と。世の中、口で言葉にしてみて、初めて気づける真理があるが、どうやら今回の疑問についても、そういう類だったようだ。不意に口を噤んだかと思うと、そのまま軽く目を瞬いて。そこから、……ああ、そういうことだったのか、と。そんな温かな納得に、垂れた目元をふっと馴染ませ。どこか仕方なさそうな、可愛いものを見る表情を浮かべながら、相手の白い頬の片側を皮手袋で優しく包み。
 ……己を今もいじらしく見上げてくる、この強く賢く初心な娘に、己は責任があるはずだ。そうようやく気がついたなら、こつん、と軽く額を合わせ、微かに擦り寄せることさえしながら。呟いたのは今更な、しみじみとした確認で。)

──そうか。そんなに……俺が好きか。





1023: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2026-08-27 00:33:30




…………、

 ( 穏やかな、しかし頼もしい即答と、優しい手の温もりに、言葉を交わすまでもなく、しばし小休止の意向を共有すれば。ダンジョン内で一体何をしているやらという思いこそ少なからずあれど、こうなってしまっては、ギデオンにしなだれかかる体重を、より遠慮なくしっかりと預け直し。
そうして、やはり、"わかっていなかった"飼い主の困惑には、拗ねたように眉間の皺を深めるだけで、ますますその胸板に潜り込むように深く顔を埋め直せど。その視線がこちらを覗き込もうとする気配に、渋々と言った表情で顔を上げれば。そもそも──広い屋敷に、数多の贈り物の数々をもってしても、どうしたら"してもらってばかり"になるのかが、この年上の恋人の不思議なところだが。閑話休題、乙女心には疎いところもあれど、元来鋭い頭脳を持つ薄青が、次第に心得たように和らいでいく表情に、やっと目元を和らげて、ふんと鼻を鳴らしてから、その革手袋の掌を捉えて、好きなように頬擦りすれば。どうしようもない朴念仁の、あまりにも今更な発言に、じとりと相手の顔を見あげて。 )

──……そうよ。
貴方が私を好きになるずっと前から、私の方がギデオンさんのこと大好きなんですから。

 ( その唇に甘く鋭く噛み付けば。次に進むにせよ、水分補給やバフ魔法のかけ直しをするにせよ、まずは相手の隣に座ろうと起き上がろうとして。 )





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