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Petunia 〆/767


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自分のトピックを作る
445: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-05-14 11:07:31




 ( ──またやってしまった。その直情的な性格ゆえの失態と、腰に添えられた大きな手の感触が堪らず恥ずかしくて。滑らかな白い両手で真っ赤な頬を覆い隠すと、差し出された手の指先を控えめにほんの小さく取るも「──……いえ、こちらこそありがとうございました。気持ち悪かったりしたら、隠さないで教えてくださいね……」という、お決まりのお小言さえ、か細く消え入りそうな次第で。
そうして、火照った頬をパタパタと仰いで冷ましながら、この空間に対するギデオンの所見に耳を傾け、続いて周囲を見渡せば。早速訪れた名誉挽回のチャンスに分かりやすく胸を張り、大きく頷いて見せる仕草は、すっかりいつも通り。必要以上に暗くなる空気を吹き飛ばすかのように、零れ落ちそうな程見開いた瞳に宿るのは、その利口さを褒めて欲しくて、飼い主に尾を振る飼い犬然とした輝きで。 )

はい、お任せ下さい!
それはもう、アリスさんにたっぷり扱かれましたから!

 ( そうして、Under時代の問題児ぶりを 無意識に晒すポンコツぶりとは裏腹に。軽く瞼を伏せるだけで様になるのは、その整った容姿の功績としか言いようがない。そのまま、腰からすらりと抜いた杖を真っ直ぐに構えて、索敵魔導波の呪文を流暢に唱えたが……しかし。一度構えた杖を訝しい表情で下ろして、もう一度呪文を唱え直したのは、杖を握る両手に伝わるはずの手応えが、何一つ返ってこなかったから。──まさかそんな筈は……ありえない。それこそ、繊細な魔法操作とは、無縁だったUnder時代でさえも、一気に魔素を流し込みすぎて、大量の罠を全部破壊したり、中途半端に全部発動させこそすれ、あるはずのそれを見つけられなかったことは一度もなかった。ということは、やはり……ないのだ。信じ難いことに。この空間には、先程のような罠は、何一つない。それはまるで堅牢な鍵の掛かった宝箱の中身のように、ただひたすら柔らかく"その中身を守る"為に存在する空間のような。先程の地下牢から壁一枚隔てて現れた不可解な空間に、閉じていた目をゆっくり開いて、ギデオンの方を見遣れば。この状況を共有する間、形の良い頭は心做しかしょんぼりと垂れ、その表情は、数秒前に自信満々に胸を張った気まずさに濡れていて。 )

──……? ……ッ、…………その、ギデオンさん。
……信じられないかも知れないですけど、ない……んです。何も。
そこの絵と……そちらの甲冑と、あの花瓶はスイッチらしいですけど、ただの隠し扉です。
甲冑と花瓶の奥には、何か罠らしいのがあるんです……でも、この廊下と絵の奥には何も無い、です。




446: ギデオン・ノース [×]
2023-05-17 02:42:05




“何もない”……? そんな馬鹿な、

(困惑顔で振り返る相棒に、こちらもまた不可解の滲む表情で呟く。何も相手の探知能力を疑ったわけではない。──寧ろ、相手の下す判断には信頼を置いている。だからこそ、この環境が急に攻撃性を失ったわけを推し量れず、信じられないという面持ちを晒して。「??」「??」と、互いに疑問符あらわな視線を交わせば、その後の行動は口に出して相談せずとも一致していた。まずは一旦、差し出した魔剣の刃の、先ほど死体に触れた部分を、相手の聖属性の火に灼いて清めて貰う。そしてその放熱がてら、今度はギデオンが戦闘で剣を翳しながら進み歩いて、ふたりで壁の絵画の前へと立つ。それは見たところ、普通の油彩の場面画だった──美しい花畑で、それぞれの旗を掲げる騎士たちが、血みどろになって殺し合っているだけの。それを縁取るアンティークな額縁をじっと精査してみても、これと言ったところは見当たらない。絵の奥には何もないとヴィヴィアンも言っていたし、とりあえずこれについては無視しても構わないか、とギデオンが判断しかけたその時。
あ、これもしかして……と、ヴィヴィアンが絵画と廊下を交互に指さす。それをギデオンも真剣に見比べて、ようやく隠された情報に気づいた。絵の中の騎士と、絵が収めてある額縁には、よくよく見るとそれぞれ個性がある。そしてそれらの一部は奇妙なことに、目の前の廊下にある花瓶の模様や、壁際に佇んでいる甲冑ともそっくりだ。……しかし、そのままなようで、微妙にどこかが違う。絵画から目を離し、目を眇めて廊下をもう一度眺め、やがてその違和感を理解した。──仮に絵画の通りが正しいとするならば、そこの甲冑は右手でなく左手に槍を持つべきだ。そして向かいの棚の花瓶は、紋様の流れからして、左に90°回す必要があるはず。その気付きを相手に共有すると、暫し沈黙してから。どのみちダンジョン攻略と同じようにやるしかないと、冷静な光を宿した青い瞳で相手を見つめ。)

……こんな、パズルみたいな理論が本当に成り立つかわからないが、やってみよう。
甲冑は俺が動かすから、おまえは花瓶を頼む。






447: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-05-18 01:30:41




ええ本当に、意図が読めなくて不気味です……いざとなったら建物ごと燃やしていいですか?

 ( ──そんな馬鹿な。そう、半ば投げやりなジョークは兎も角、本当に相棒の言う通りだ。粛々と剣先を炙りながら、戦士の呟きに頷いたヒーラーは最早、相手の何気ない呟きをネガティブに勘違いすることはなく。その大きな緑色の目は、相棒に冒険者として、心から信頼されているという、健やかな自己肯定感で満ち溢れている。そもそも此方を害すつもりならば、あの地下牢のような空間からの逃げ道など、塞いで仕舞えば良かったものを。更に言えば、最初から食事に毒でも混ぜてしまえば良かったにも関わらず。無事とは言い難いにせよ、事実として二人、こうして欠けることなく生き残っている事態は、不可解としか言いようがない。それでも、立ち止まる訳にもいかずに、絵画を前にして指し示された可能性に、二つ返事で頷けば、そこそこ立派な花瓶を、躊躇いなく回して。跳ねるようにギデオンの元へと帰って来ては、扉に手をかける……その前に。再びじっと件の絵画を見上げて──にまり。さて、もうひとつ残る違和感の答え合わせを。ギデオンと二人顔を見合わせて頷き合うと、その絵画の中には存在しない、"絵画そのもの"に手を伸ばしたのだった。 )

 ( はたして、廊下で謎の戯れに付き合ったのは正解だったらしい。絵画を外すと目の前に現れた扉を潜ったその先、これまたよく整えられた居心地良い部屋の奥に、また新しい扉が現れる。──ともかく、先ずは索敵魔導波を、とビビが杖を構えた瞬間。視界の端で、なにか小さな影がが動いたのを捉えると、素早くギデオンと目配せを交わして、言葉を交わすまでもなく、挟み撃ちの要領で、その影が潜り込んだテーブルを回り込んだ先。その黒々とした瞳が円な"それ"はいた。 )

──……なんでこんなところに、……ふふ、人懐っこい、
……まったく、貴方のご主人は誰なのかしらね、


( / お世話になっております。
黒い舘編、早速世界感溢れるギミックをありがとうございます。ギデオン様の頼もしさと共に、心より楽しませて頂いております。
今回は一方的な連絡ですので、お返事には及びません。

お気づきだとは思いますが、今回の最後に登場した生物は、魔女の家の蛙をイメージして登場させております。当初は特定の動物を表記していたのですが、もし背後様に動物の御家族がいらしたりしたら、フィクションでも同種の子が傷つけられるのは楽しみ辛いかと、現時点で特定しておりません。背後は基本的に、表現においてフィクションであれば気にしませんので、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、架空の生物等なんでも、背後様のお心が痛み辛い、又は描写しやすい生物を指定していただければと思います。
最終的には愛着が湧いた頃に、ゲームと同じ顛末を辿っても良いですし、ゲームの主人公と違って、武器を持って戦える2人なので、一緒に脱出できても良いかなと、その場その場で臨機応変に楽しめれば幸いです。

別件ですが、SS拝読致しました!
久しぶりに塩対応のギデオン様が懐かしすぎて!! そのクールな大人ぶりと同時に、それが近いうちに剥がれるんだよなあと思うとニヤニヤが止まりませんでした。背後様によるビビもとっても可愛く、微妙な小生意気加減も解釈ピッタリですありがとうございます!
勿論、ストーリー自体もすごく面白くて、ドキドキしながら続きを楽しみにしております。/蹴可 )




448: ギデオン・ノース [×]
2023-05-20 17:16:27




(建物ごと燃やす、なんて文字通り強火極まりない発言も、莫大な魔力を秘めている相手にかかれば、実現できなくもないだろう。故に、「最終手段だな」なんて抜かして片眉をあげながら、若い相棒と以心伝心で部屋の謎を解き明かしていき……潜り抜けた“扉”の先。まだ新たな部屋をよく確かめるまでもなく、すぐそばでさっと不審な動きを見せた何かを、敵か、罠か、と警戒しながら追い詰めてみたものの。
──なんてことはない。そこに蹲っていたのは、怯えて震えている火トカゲ……サラマンダーの幼体だった。魔剣を構えていたギデオンも、これには拍子抜けしたように切っ先を緩く降ろす。サラマンダーは火属性の象徴のような魔獣だが、同時に非常に強力な聖属性も併せ持っている。だから、人に乱獲される憂き目にこそ遭えど、逆に人を襲うことはないし、闇属性の呪いの類いに操られることもない。これを警戒する必要は皆無と言っていいだろう──なんてことは、ギデオンが言うまでもなく、若い相棒もわかりきっていたようで。彼女が屈んで手を差し伸べれば、先ほどギデオンに向けた怯えの表情は何だったのやら。幼いトカゲは「!」と頭をもたげたかと思うと、しゅたたた、と軽い足音を立てて駆け寄り、その体にぺたぺたとよじ登り。彼女の肩の上におさまってふんすとひと息ついてから、ぱちぱち、と薄い瞼をまばたいて辺りを見回すその様子は、既に長年彼女の使い魔をしてきたかのような、妙なしっくり具合である。ギデオンもこれには少々毒気を抜かれ、毒ナイフのエリアを駆けて乱れていた前髪を軽く掻き上げつつ吐息を。それから周囲に視線を投げかけ、自分たちが次に直面する環境……一見何の変哲もない、広い応接室を確かめて。)

その様子を見るに、ただここへ迷い込んだだけなんだろうな。
とはいえ、何かには使えそうだ……そいつを捕まえておいたまま、ここの仕掛けにあたってみよう。



(/いつもお世話になっております! お気遣いいただいた身で恐縮ですが、諸々ご丁寧に書いてくださったのでお返事させていただきますね。

まずは温かなご配慮をありがとうございました。当方、かれこれ二十年近く可愛がっている爬虫類を飼ってはおりますが、それはそれとして同目の生きものの美味しい話や解体動画などは全く問題なく見られる性分です(食用になるのは別の科のものなんですが、滋味たっぷりらしいんですよ……食べてみたいじゃないですか……)。とはいえ、選択肢を委ねてくださったので、せっかくならとファンタジーならではの生物にさせていただきました。作中での運命についても、臨機応変とのこと了解です。シリアスの演出で原作同様にするもよし、原作とは違う物語だからこそ救いを用意するも良しですね。どきどきはらはらしながら見守っていきたいと思います。

SSのご感想もありがとうございます。「この頃のギデオン、今となっては信じられんほど壁厚いな……」と背後も首を傾げておりました笑。ビビの言動も問題がないようで良かったです。続編も近いうちに書き上げて、またあちらにUPしておきますね。ごゆるりとお楽しみいただければ幸いです。/蹴可)





449: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-05-24 01:49:55




………それにしては随分人馴れしてるような──ん、ん"ん!
もしかして、これを嗅ぎつけたんでしょう? ね?

 ( この見目麗しい相棒にかかれば、何気ない仕草でさえ、やけに様になるのだから油断ならない。思わず奪われた視線をそっと逸らして。不自然に空いた間を、小さな魔獣への違和感のせいにするまでの流れは、ビビにしては名演技だったと思うのだが……果たして勝算はいかばかりか。そうして、──キュィッ? と、どこか間の抜けたタイミングで首を傾げる幼竜に、大体5cm角のオレンジ色の輝石、火の魔素がたっぷり詰まった魔法石をやって黙らせると。相棒に習って、此方もまた室内に向き直り。
ひとまず、入ってきた方とは反対の扉に近寄ると、重厚なそれに魔法鍵がかかっていることを確認した瞬間だった。──ことり、と。部屋を探索する2人の背後に現れたのは、瀟洒な器に盛られた一杯のシチュー。そして、その今出来たてとばかりに湯気をたてるそれの横には、『毒味を しろ』と書かれた紙が置かれていて。相変わらず意図の読めない現象に、杖を構えながらテーブルに近寄れば。ビビがやった魔法石を平らげて尚、長い舌をぺろりと伸ばして、皿を覗き込むサラマンダーに、この食欲旺盛な幼竜が、ここに閉じ込められていた理由に気づいてしまって、心嫌そうな表情を隠すことができない。そうして少し逡巡してから、右のピアスを外すと、銀製のそれを躊躇いなくシチューへと沈めて。)

これは……うわ、悪趣味ぃ……
こんなのこうしてやるんだから!




450: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-05-24 14:52:38




………それにしては随分人馴れしてるような──ん、ん"ん!
もしかして、これを嗅ぎつけたんでしょ? ね?

 ( この見目麗しい相棒にかかれば、何気ない仕草でさえ、やたら様になるのだから油断ならない。思わず奪われた視線をそっと逸らして。不自然に空いた間を、その所見への違和感のせいにするまでの流れは、ビビにしては名演技だったと思うのだが……果たして勝算はいかばかりだろう。そうして、──キュィッ? と、どこか間の抜けたタイミングで首を傾げた幼竜に、大体5cm角のオレンジ色の輝石、火の魔素がたっぷり詰まった魔法石をやって黙らせると。相棒に習って、此方もまた室内に向き直って。
それから暫く。それは、入口では無い方の扉に近寄り、その古めかしく重厚な扉に、これまた古い魔法錠がかかっていることを確認した瞬間だった。部屋を探索する2人の背後で──ことり、と。テーブルの上に瀟洒な器に盛られた一杯のシチューが現れる。そして、その出来たての様に湯気をたてる皿の横には、『毒味を しろ』と書かれた紙が添えられており。相も変わらず意図の読めない現象に、杖を構えながら近寄れば。魔法石を平らげて尚、長い舌をぺろりと伸ばし皿を覗き込むサラマンダーに、この食欲旺盛な幼竜が、ここに閉じ込められていた理由に気がついて、その形の良い栗色の頭が小さく萎え。心底嫌そうな表情で吐き捨てるように呟くと、少し逡巡してから、右耳のピアスを外して皿の中に落とし、誰に問うわけでもなく扉を振り返って。 )

……悪趣味。
少し古典的ですが、これでどうでしょう?


( / お世話になっております!
こちらこそいつも暖かいお気遣いありがとうございます。
爬虫類と住んでいらっしゃると聞いて、なるほどと、サラマンダーちゃんの描写の可愛らしさと説得力に、心底納得しております。早くもその可愛らしさに、今後のお別れを想像しては戦慄しております……

折角返信にお気遣いを頂いたにも関わらず、結局昼間に推敲する以前のロルをあげてしまっており、こうしてご連絡させていただきました。
一昨日の進行状況の報告も、日本語が怪しいところが多々あり、本当に深夜に作業してはいけないなと反省中です。
お忙しい中、お手間おかけしてしまい申し訳ございませんが、よろしくお願い致します。/蹴可 )

451: ギデオン・ノース [×]
2023-05-27 03:20:15




……今度はこう来たか。

(相手と共にテーブルに歩み寄り、その紙を読んだギデオンもまた。眉間に不快気な皴を寄せ、唸るような声を漏らす。誰からかも定かでない唐突な命令、それも『毒見を しろ』などと。最初の地下牢で、悪意ある毒ナイフの罠を切り抜けてきたばかりなのだ、聞き入れがたいに決まっている。だが同時に、その先で直面した、絵画のある廊下での謎解きのことを思い返せば。きっと、空間ひとつひとつにかかった魔法の仕掛けを解かなければ、この先に進めないのだろうと、嫌でも理解できてしまう。要はこの部屋で、見るからに危険な『毒見』をだれが行うか、それが問題だ。己もヴィヴィアンも、未知の毒を呷るリスクはとてもじゃないが犯せない──地下牢であんな腐乱死体を見てきたのだ、どうしても恐れる気持ちがある。ならば今彼女の肩にいる、聖なる幼竜を犠牲にするのか。だがそれは、事の次第によっては、己の魂を穢しかねない邪悪な行為だ。聖獣を殺すとは、本来そういうことなのだ……何か素晴らしいものを得られるかもしれないが、心は穢れ、罪の臭いが纏わりつき、結果あらゆる精霊に忌み嫌われる。だから極悪な乱獲者たちの中には、呪い除けをできない体に成り果てて、凄惨な最期を遂げる者も多い。実際、犯罪者どものそんな死に様を、ギデオンは何度かこの目で直接見てきたのだ。……ここでサラマンダーに毒を呑ませれば、ヴィヴィアンも加護の解除に巻き込みかねない、そういった目に遭わせかねない。ならばここは、相手の治癒魔法を信じて自分が──と、数秒の逡巡で決断を下しかけたそのとき。
隣の相棒がふっととった思わぬ打開策、聖なる銀を以ての“毒見”。扉を振り返る相棒の横、ギデオンが目をしばたいて皿の中を注視すれば、はたして。シチューに沈んだピアスは、煙を立ててどす黒く変色し、同時にがちゃり、と魔法錠の外れる音した。「キュイ!」とサラマンダーが嬉しそうに鳴き、ギデオンも思わず、無意識につめていた息を弛めて吐き出す。──魔狼狩りに出たつもりでとんだ厄介に巻き込んでしまったと、心の奥底で悔やんでいたが。この部屋を危険を冒さずに切り抜けることができるのは、一緒にいるのがほかならぬヴィヴィアンだったからに違いない。「ご名答だ。流石だな」と、目を細めて呟きながら、感謝のこもった手つきで、相手の栗色の頭を撫でてやり。重厚な扉に向き直れば、念のため魔剣を抜いて、慎重に押し開いた──その途端だった。押し寄せる生温い風、肌がざわざわと粟立つ感覚。目の前の、足元の絨毯を見る限り通路なのだろうそこは、しかし一寸先も見えないほどの真っ暗闇が広がっている。扉の内側には、厭らしくもご丁寧に、「まっすぐ 歩けば いいだけ」との文字。だが、ギデオンですら感じ取れるほど濃密な瘴気が前方から流れ込んでくるくらいだ、何もないことはないだろう。広い背中に、この不気味な館に対する嫌悪感を暫し滲ませると。相手を振り返った青い瞳には、この先への警戒心と、それでも通り抜けたい覚悟、そして相手に寄せる信頼の色を浮かべていて。)

…………。
ヴィヴィアン。俺が風よけになって歩くから、後ろから適宜支援してくれ。
……なんとなくだが、この部屋は物理攻撃以外で来そうだ。




(/サラマンダーの魅力が伝わって良かったです……! 主様の描写における、ビビとのある意味息ぴったりなほのぼの交流も可愛すぎます……。

おひとつ、些細な共有を。今回、背後のロルでお馴染みの思考描写が爆発し(久々の執筆でどうしても興じてしまいました……)、その最中にて「聖獣を殺すと魂が穢れる(ことがある)」という設定を捏造いたしましたが。これは、本来ギデオンだけで迷い込んでいれば、「自分が毒見をする→毒にかかって死亡」「サラマンダーに毒見をさせる→魂が穢れ、SAN値が大幅に低下し、次のエリアで“まっすぐ”歩けず死亡」という、どっちにしても詰みルートだったなら良いな……という意図によるものでした。
作中のサラマンダーをこの先死なせてしまう場合は、「ビビが魔法石をくれた恩からふたりを穢さない」ということにできればと思います。それはそれで、あんなに良い子を死なせてしまった……という罪悪感に繋がりそうですし(そしてそのルートの場合、『黒い館』編終了後、まるでその子の生まれ変わりのような見た目をしたサラマンダーを保護する小話で後味をよくする……というのもありかなあと思っています)。
主様の意図と異なっていたり、或いはアレンジを効かせたい部分があったりすれば、撤回・修正いたしますので、お気に召すままにしていただければ幸いです。

ご丁寧なご連絡もありがとうございました! こちらもリアルを大事にしながら『Petunia』を楽しんでおりますので、どうかお気遣いなく、日々ご自愛くださいませ、引き続きよろしくお願いいたします。/蹴り可)





452: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-05-31 00:40:44




…………。お任せ下さい!
あ、その前……に。ちょっと屈んでいただけますか?

 ( 噎せ返るどす黒い瘴気を目の前にして。形の良い口元を手の甲で覆い隠して、ただ小さく眉を顰めるだけで耐えられたのは、旋毛に残る誇らしい温もりと。振り返ったギデオンの顔に浮かんだ、それはそれは強い覚悟そのためだ。その上、ビビに対して深い信頼を湛えた瞳に見据えられ、それが見え透いた虚勢だろうと。自信あり気な笑みを満面に浮かべて、精一杯その豊かな胸を張って見せなければ、女がすたると言うもの。──この人が、ヴィヴィアンに支援してくれというのなら。今出来うる限りの最善を尽くしてやろうじゃないか。そうして、部屋に向き直りかけたギデオンの首筋へと手を伸ばすと。精神から、身体から、何処からでも染み込み人間の魂を削る瘴気に侵されぬよう、負けないように。するりとからめとった上半身を、体重も乗せるように精一杯抱きしめ、ギデオンの身を護る聖魔法の加護を、軽いリップ音と共に、その甘い目尻へと落としてやる。──別にこんな甘やかな触れ合いでなくとも、手と手で触れるだけでも良かったのだが、これくらいは役得で許されるだろう。それからゆっくりと背伸びをしていた踵を地面に下ろして、薔薇色の頬にコケティッシュな微笑を浮かべると、部屋に向かって勇ましく杖を構え直して。 )

……えへ。おまじないです、瘴気からギデオンさんを護ってくれますようにって!




453: びびはいご [×]
2023-06-01 08:49:25



お願い:

度々失礼致します。
設定置き場の方で挨拶をした後に申し訳ございません。
最後にどうか、此方の本編とSummer gardenの方だけは今しばらく削除に猶予をいただけないでしょうか。
未だ気持ちの整理がついておらず、今はギデオン様とビビの思い出だけが心の拠り所になっております。

また、本当に見苦しくて往生際が悪いのは承知の上で、そうやって格好つけて来たのが間違いだったと思い知りましたので、一度だけ引き止めさせてください。
リアルを優先して格好つけてPetuniaがない生活を送るより、駄文で恥を晒してでも、背後様と二人の物語を最後まで拝読させていただきたかったです。
1ヶ月後でも、1年後でも、手の平返しでも、少しでも此方にお気持ちが向くことがあれば、またお声がけください。
本当に、本当に背後様のこともこの世界も大好きでした。
ありがとうございました。



454: ギデオン・ノース [×]
2023-06-04 17:28:56




──こんな時まで、お前は……

(言われるまま素直に屈んだ途端、いともあっさり寄せられた祝福の口づけに、一瞬だけ固まったものの。やれやれと、如何にも仕方なさそうなため息を漏らして、杖を構えた相手と共に魔剣を構え直す。何も、加護を施して貰った恩だけで小言を控えたわけではない。この不穏な状況下で相変わらずな様子の相手に、まんまと安心感を与えられてしまった──そんな気まずい自覚、悔しさのせいもあるのだ。やはりこいつにはどうも調子を狂わせられる、と言わんばかりに顰められた横顔は、しかし相手の目論見通り、護られている心強さがごく自然に滲むのも事実。それを誤魔化すようにひとつ、今度は気合を入れるために小さく息を吐いてから。いよいよ次のエリア、何も見えない真っ暗な闇の中に踏み込んだ。
……慎重に歩を進める足元の感覚を確かめる限り、やはりここは、先ほどまでのエリア同様、“一見は”普通の部屋のようだ。魔法の灯りも吸い取ってしまう強力な暗さには困るが、障害物らしきものは感じないので、生温い風を受けながらただ一歩一歩進む。瘴気のもたらす不快感は、先ほどかけられた加護のおかげでほとんど感じずに済んでいた──完全に防ぐ仕様にしなかったのは、急に濃度が上がった時に気づけるようにするためだろう、傷の経過を正しく診るため強すぎる痛み止めを飲ませないのと同じことだ。そうして時折、後方の相手の肩辺りにいるだろうサラマンダーが「キュイ……」と不安げに鳴く声を聞き流しながら進んでいたとき。相手がぶつからぬよう、後方に軽く片手を差し出しながら、不意に立ち止まる。──あれは、何だ。)

……ヴィヴィアン。何か──誰かの、声が……聞こえないか。



(/大変お待たせいたしました。改めて、よろしくお願いいたします。/蹴り可)






455: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-06-04 21:42:15




……、……っ

 ( ああとっても気持ちが悪い、呼吸をする度視界が霞む。──聖魔法は使用者本人には使えない。先程は相手の信頼に応えたくて、虚勢を張っては見せたものの。こんな時、特に魔素に敏感な体質は、どうしたって影響を受けやすく、一歩一歩に足が竦む。肩に宿った聖なる炎の温もりと、俯いた視界に映る相棒の歩みだけが、なんとか足を踏み出し続ける理由となって。それでも、相棒が言い出すその以前より、ビビの耳には亡者の嘆き声や、よく知っている声が此方を誘うそれ、ギデオン達2人を惑わさんとする声達が、"痛い痛い" "苦しい" "なんで助けてくれないの" と。頭が痛くなる程わんわんと響いて、精神をたっぷりと消耗させていた。──早く、早く終わって……! そう珍しく弱る心も、自分の魔法のお陰でギデオンだけは守れている、その事実があったからなんとか守れていたと言うのに。目の前を歩く広い背中がピタリと止まって、その言葉を漏らした瞬間、精一杯堪えていた何かが崩壊する音がした。そうして、震える手で差し出された手に縋り付くと、悲痛な声を漏らしてギデオンの心を守るべく、その背中をぐいと押して。 )

……聞かないで! 全部幻聴です……
早く……早くッ、ここから出ましょう!!


( / こちらこそ、よろしくお願い致します! /蹴り可 )




456: ギデオン・ノース [×]
2023-06-05 02:07:05




──、わかった、急ぐぞ。

(まるで溺れまいとするように絡みついてきたその掌は、持ち主の恐慌状態をありありと伝えてきた。そこでようやくギデオンも、支援者が思いのほか深刻なデバフを喰らっていることに気がつき、暗中でさっと顔色を変えて。悲鳴に近い声に相槌を打てば、相手を力づけるようにその手を握り、少し速度を速めて先へ先へと突き進む。ヴィヴィアンの様子を思えば、なりふり構わず走り出したいところではある──が、入口の扉には、「まっすぐ 歩けば いいだけ」と書かれていたはずだ。魔法陣の式に定められた条件から外れれば、どんな攻撃を喰らってしまうかわからない。だからただ歩きながら、「おまえのおかげで、出口に近づいてる」「あと少しだ」と、励ましの声をかけ続け。……されど悪意は強力で、瘴気が次第に強まったのか、ギデオン自身の精神にも、じわじわと嫌な感触が沁み込み始める。今までの人生で何度か晒された、不安、恐怖、孤独感、絶望──その味が脈絡なく唐突に再現される。また、先ほどよりはっきりと聞こえてくる亡者の声も、非常に禍々しくおぞけ立つようなもの。自分たちは危険に陥っている、戦わなければと、一瞬目的を忘れそうになる。だが、それでもそれを幻覚と判断して歩んでいられるのは、相棒のかけてくれた聖魔法のおかげだろう。しかし、それのかかっていない彼女は今、どれほど苦しんでいることか。そう言えば、先ほどからヴィヴィアンの声が聞こえない。サラマンダーの鳴き声も聞こえない。濃い瘴気が音を吸っているようだ──相手の存在を感じられる唯一のものは、この片手に握り込んだ弱々しい手だけ。今一度それを握り直して、“俺はここにいる”と伝えると。早く、先へ、先へ、と。息苦しさに歯を噛み締めながら、重くなり始めた足をそれでも動かし続けて──不意に、視界を奪う明るい光に面食らい。二、三秒目眩をくらってから慣れてみれば、そこは別の空間。暗い館にあるとは思えない、どこか模擬的な太陽の光に満ちた明るい音質で。……抜けたのか、と張りつめていた息を弛めると、さっと相手を振り返り。)

……っ、ヴィヴィアン!






457: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-06-05 09:04:12




 ( それは後から思い出しても、我ながらよく耐えられたものだと感心する程の悪夢だった。それが幻聴だと知っていても尚、痛みや苦しみに喘ぐ声、此方に助けを求める声を置いていくのは、ビビにとってこれ以上ない苦しみで。耳の隣でけたたましく鳴いているはずのサラマンダーの声でさえ遠く、俯いた顎、鼻先、額から、涙とも汗ともつかない雫が落ちる。そうしてまた一歩、心臓が破裂しそうな心地に歯を食いしばりながら足を踏み出した途端。「ヴィヴィアン、」と確かに聞こえたその声に、──あの人を助けに行かなくては、と。突然ぶわりと湧き上がった衝動に、とうとうその道を外れようとしたその瞬間だった。血潮の感じられない冷たい指先、いつの間にか繋いでいたその手に込められた力に、ハッと大きな背中が目に入る。──今、私は何を、と正気を取り戻すと同時に、どくどくと心臓が高鳴って、冷たい汗が背中を流れ落ちる感触に身体が震える。だが、私が守って、援護すべき人はここにいる。それを再確認出来れば、もはや怖いものなど何も無く。その誰より優しい暖かな手を、ぎゅうっと力強く握り返すと、眩しい光の中に飛び込んだ。 )

──……ギデオンさん!
ご無事で、良かった……どこも、おかしくないですか……?

 ( そうして明るい視界に慣れるより前、晴れゆく魔素にこの空間が終わったことを感じ取れば、勢いよく目の前の相手に抱きつく。そのままそこで深く呼吸すれば、その魔素の流れに異変がないことを確認しながらも。そのまま大切な相棒を見上げたその顔は、真っ青に血色を失って、冷えた汗で前髪がべったりと額に張り付き、何より自分の身よりもギデオンへの心配で充ちていて。 )




458: ギデオン・ノース [×]
2023-06-05 22:10:13




無事だ、何ともない。
……とりあえず、少し座って休もう。

(明るみの中で再び見た相手は、今まで見たことがないほど青褪めていた──魔力切れを起こした時も随分酷い様子だったが、あれとはまるで比べ物にならない。紫の唇も、冷や汗でぐっしょり濡れた額も、それでもこちらの身を案じるべく見上げているのにどこか焦点の覚束ない瞳も。ギデオンの肝を恐怖で冷やすには充分で、けれどもそれを気取られまいと、いつもの落ち着いた表情を被り。相手の一番の拠り所だろう“こちらの無事”をしっかりと伝えると、相手の体を支えるように腕を回しながら、周囲をさっと見渡す。ガラス張りのドームに覆われたこのエリアは、辺りのそこここに様々な植物が植わっている。虫の羽音や鳥の声も聞こえるが、自然にあるそれと同じ気配で、今のところは危険な様子を感じない。行く手の方で、ふと大きなブナの木が目についた──根元の形が、座って背中をもたれるのに良さそうだ。これ以上気が弱らぬようにと、相手の様子には敢えて言及しない形で声をかければ、足並みを相手に合わせてゆっくりそちらへ向かい、そっと促す形で座らせ。「キュ……」と心配そうな声を上げたサラマンダーが、芝に降りて相手を見上げる様子には構わず。「ちょっと探るぞ」と一声断りを入れてから、相手の腰元のアイテムをまさぐり、何度か一緒にやってきたクエストで相手に渡されたことのあるポーションの瓶を抜きとる──ストックはそんなに多くないとわかったが、今使わずにいつ使うのだ。できることなら他のヒーラーを呼んで診て貰いたいほどなのに、そんな選択肢をとれる状況にないのが、腹の底でひりつくような焦燥感をもたらす。それを押し流すべく、固く嵌めこまれたコルクをポンと抜いて、相手の唇にそっと宛がうと。相手が今唯一頼れるのは自分だけなのだから、決して何も見落とすまいと、相手の様子を注意深く確かめながら、静かに語りかけて。)

飲めるだけ飲めるか……今は安全なようだから、少しずつで大丈夫だ。





459: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-06-06 09:24:43




良か、った……

 ( この場で介護されるべきは、心配されるべきはどちらの方か。そんなことさえ曖昧になるような錯乱状態で、相手の力強い言葉を耳にして、その冷たく強ばっていた身体からのふっと力が抜ける。あれからまだ数刻も経っていないはずだと言うのに、濃密に茂った植物たちの隙間から盛れる光は、まるで昼間かのように暖かく、時折聞こえる生命のさざめきが、こんな状況でなければとても心地よいだろうと思わせる空間で。頼もしい温かなものを腕に、ゆっくりとブナの根元に横たわらされ、唇にあてがわられた硬質な感覚にされるがまま、口に流し込まれた甘苦い良薬の風味に小さく噎せると、瓶を持つギデオンの手をそっと握って。 )

ありがとう、ございます……ごめんなさい、
援護するって約束したのに

 ( そうして目の縁に静かに溜まる雫を零さないよう、ギデオンの腕を頼って、重い上半身をなんとか持ち上げようとする。我ながら上質なポーションで幾らか回復はしたものの、大元の不調が取り除かぬまま進めば、どうしたってジリ貧だ。そもそもあの空間を抜けられただけ奇跡なのかもしれないが──しかし、此処なら……そう熱っぽい視線で周囲を見渡し、賭けてみる価値はあるだろうと。少しでも相手を安心させようと小さな微笑みを浮かべて、その優しい青い瞳を真っ直ぐに見つめ返せば、ヒソプの根、レウケーの葉、蜘蛛の糸と……それから。種類はなんでも良い、掌に収まるくらいの火竜の鱗を、と言いつけ、再びその緑色の光をぐったりと薄い瞼に閉ざしてしまって。 )

──浄化の血清が……これだけの温室なら、きっと材料があると思うんです。
調合は……自分でするので、探していただけないですか……




460: ギデオン・ノース [×]
2023-06-07 20:35:16




(/お待たせしました! 今回、普段以上に長文乱文となっております。「*」で挟んだ区間は、読み飛ばしていただいて全く問題ありません。)



……謝ることじゃない。
おまえはちゃんとやってくれたさ。

(全く非のないことで涙を浮かべるあたり、相棒は精神的にも余程弱っているのだろう。その顔を気遣わしげに覗き込むと、ぐったりしている相手の頭を、宥めるように軽く撫で。そんな彼女から、この状態を寛解させるのに必要な材料を告げられれば、「わかった」とただ頷く。本当は傍についていてやりたいが、ろくな治癒魔法を扱えない自分には、それで何を良くできるわけでもないのだ。せめてもの置き土産にと、目を閉じて休む相手の額に指を添え、濡れて張り付いた前髪を除けてやってから、自分の羽織っていた革の上着を掛け布団のようにそっと掛け。時間がないとばかりに立ち上がると、足元のサラマンダーを見下ろし、「何かあったら全力で鳴け。すぐに駆け付ける」と、人語が伝わるかもわからないのにきっぱりと命じて。実際、きりっとした顔のサラマンダーが「キュ!」と居住まいを正すのを見届ければ。木陰で休む娘の様子にもう一度目をやってから、踵を返し、周囲にさざめく草木のなかへ踏み入っていって。
“ヒソプの根”、“レウケーの葉”、“蜘蛛の糸”、“火竜の鱗”。いずれも、戦士であるギデオンにでもその姿かたちが思い浮かぶのは、何も長年の戦士の経験だけによるものではない。この一年、ヒーラーを本職とする相手と、ずっと密に仕事を組んできたからだ。クエスト中、何度か相手の材料調達に付き合ったこともあった。ヴィヴィアンもそのことを覚えていたから、ギデオンならきっと見つけられると、信じて託してくれたのだろう。ならば、必ずそれらを入手してみせなければ──できるだけ早く、持ち帰ってやらなければ。)



(さて、まずは……と、周囲の植生を観察すれば。行く手の方にあっさりと、ウラジロハコヤナギの控えめな梢が見つかった。しかしその傍まで近づいてみれば、根元の辺りに危険な植物が異常に密生している。ヤ=テ=ベオ、魔女の食人草だ。これに迂闊に近づけば、地表を埋め尽くすように這いまわる幾十もの長い蔦にたちまち引き倒され、体液を吸い取られてしまう。手元の魔剣で斬り払おうにも、攻撃を受けたと気付いたヤ=テ=ベオの群れに、死角から反撃されるのがおちだ。
あの奥の葉を採るにはどうしたものか……としばし逡巡していると。不意に注意を引きたがるようなサエズリが降ってきて、視線をふとそちらに上げた。頭上の藤棚に寝そべっていたのは、一羽の妖艶なハルピュイアだ。「あら、お困り? お兄さん。あそこの葉っぱが欲しいのかしら。毟り取ってきてあげましょうか? だってほら、あの女は」──ウラジロハコヤナギの低木、つまり“レウケー”を、ちらりと忌まわしそうに見た──「冥府のご主人様を誑かした、にっくきニンフの樹なんだもの。ああでも、今はお腹がすいてて、あんまり力が出ないのよね。貧血で墜落しちゃっても嫌だし、何かつまめるようなものを持ってきてくれないかしら。そしたらあたしがあそこまで飛んでって、あの葉っぱを持ってきてあげる。ねえ、悪い話じゃないと思うんだけど?」。
……ハルピュイアの都合や理屈など、正直知ったことではない。が、とにかく彼女の望みを叶えさえすれば、ギデオンには手の届かないレウケーの葉を、代わりに採ってきてくれるようだ。仕方なく周囲を探索していると、一匹の蛇がギデオンの足に噛みつこうとしてきたので、その頭を魔剣の先で反射的に串刺しにした。切っ先ごと掲げてみれば、並の蛇とは違うからだろう、未だ絶命には至らずに、狂ったように尾を振り回して暴れている。
……そうだ、ハルピュイアへの捧げものは、こいつで事足りるだろうか。魔剣を掲げた状態で藤棚の下に戻れば、こちらを見下したハルピュイアが嬉しそうに鳴いたので、どうやら合っていたらしい。魔剣を振って瀕死の蛇を放り投げると、魔鳥はさっと飛び立って咥え込み、頭を傾けて丸のみにしはじめた。顔は人間の女であるから、正直あまり見ていて気持ちの良いものではない──が、酷い光景はそこから先だ。満足げなため息をついたハルピュイアは、「約束は約束よね」とギデオンに微笑みかけ、ヤ=テ=ベオの群生を飛び越えて行ったかと思うと。ハコヤナギの樹に掴みかかり、「あは! あははは!」とけたたましく哄笑しながら、その梢をぶちぶちと毟りはじめたのだ。ハコヤナギから絹を裂くような悲鳴が上がるが、それはハルピュイアをより一層生き生きと、残虐に振る舞わせるだけ。魔鳥の鋭い鉤爪が、哀れな樹の乙女の肌を何度も何度も引き裂いて、真っ赤な樹液が幾筋も流れ落ちていく。そうしてようやく気が済んだのか、ハルピュイアは残り僅かな白ポプラの葉を毟り取ると。ギデオンの頭上に飛んできてそれを落とし、「ああ、すっきりした! 大っ嫌いだったのよ、あの女!」と高笑いしながら、どこかへ飛び去って行っしまった。それを暫し見送ってから、手元の、葉裏が銀白色に煌めく薬草に目を移し、それを剣のホルダーにしっかりと挟み込む。──今見た光景で気分が悪いが、とにかくひとまず、“レウケーの葉”が手に入った。)

(すすり泣くハコヤナギを後にして、今度は温室の壁際を探しはじめる。聖草ヒソプは、たいてい何かの壁際に生えているからだ。独特の良い香りも放つので、あればすぐにわかるだろう。しかし、ガラスのドームのぐるりを注意深く巡っても、なかなかそれらしき情報がギデオンの知覚に引っかからない。と、ある花壇を横切りかけたところで、「探し物かしら?」と美しい声がした。ぴたと立ち止まってから振り返れば、小ぶりの花壇、毒々しい小花たちの絨毯の中央に、ひときわ大きな黒い花が咲いている。ギデオンに話しかけてきたのは、その大花のようだ。
喋る魔花自体は、別に珍しくも何ともない。暫し迷ってから、「……この辺りにヒソプはないか」と問いかけてみれば、花は茎をしならせて頷いた。「ヒソプね。あの子なら、この近くにひっそりと生えているけど、今は隠れているみたい。でも、ただで場所を教えてあげるわけにはいかないわね。ねえ、あなたにちょっとしたお手伝いを頼んでも良くて?」
……また頼み事か、と思いながらも頷くと、大花はその葉で花壇の一帯を指し示し、困ったように花弁を揺らめかせた。「うちの花壇の小花たち、みぃんなみぃんな、素直な可愛い子たちなのだけれど。何輪か、見た目だけはそっくりな嘘つきのあばずれが紛れ込んでいるようなのよ。おかしいわよね? この花壇は、ちゃんと本当のことを言う花だけで満たされてるべきなのに。許せないわよね。だからね、何輪いるのか知らないけれど、あなたが代わりにその悪い花を見つけ出して、引き抜いてくれないかしら。?つきの花は根っこが赤いから、引き抜けばすぐにわかるわ。ああ、でも、正直者の良い子たちに乱暴するのは、絶対だめよ。真実って繊細だから、白い根っこが空気に触れたら、すぐに枯れて死んでしまうの」──ここで花は、ギデオンの方を向いた。そこに目玉などあるわけもなかろうに、相手を射竦めるような剣呑な気配を感じる──「もしそうなったら、あなたのことも許さない。ヤ=テ=ベオの男たちに言いつけて、どこまで逃げようと絞め殺してやるから。だから、絶対、間違えずに炙りだして」。
……面倒な話ではあるが、ヒソプを探して闇雲に土を掘り返すより、この大花の秘める情報を素直に頼った方が良さそうだ。「引き受けた」と言いながらしゃがんで、小花の茎に指を添わせれば、色とりどりの毒々しい花たちは、一斉にギデオンに花柱を向け、耳障りな甲高い声でそれぞれ捲し立てはじめた。「あたしたち8輪のうち、少なくとも1輪は本当のことを言ってるわ! あたしがそうだもの!」「いいえ、少なくとも2輪よ?」「馬鹿ねえ、3輪に決まってるじゃない」「絶対に4輪はいるはずよ!」「きっと1輪は、嘘つきがいるはずなのよね。女王様がそういうのだものね?」「2輪くらいはいるんじゃない?」「最低でも3輪よ」「いいえ、あたしたちの少なくとも半分は嘘つきに取って代わられてるわ。この花壇はもうおしまいよ!」……。
なるほど、と軽くため息を落とすと。すぐに黄と紫の花──最後の2輪に手を伸ばし、花壇から躊躇なく引き抜く。花は悲鳴を上げて暴れたが、その根は毒々しいほど真っ赤な色だ。周囲の正直者の小花たちが一斉に息をのむのをよそに、「これで良いか」と嘘つきの花々を見せつけてみれば、どうやら大花も、ギデオンの出した答えにご満足らしい。「ああ、おかげさまで、花壇の土の違和感がなくなったわ! それじゃ、ちゃんと教えてあげる。ヒソプはそこから右に7歩移動した先の、逆さまに置かれた鉢植えの中に生えてるわよ」。
はたしてその通りに動き、鉢植えをどかしてみれば。ふわりと優しい香りを広げる、爽やかな緑の薬草があった。「悪いな」と一言かけると、引き抜いたそれの根元の土を振り落とし、腰のベルトに再び挟み込む。──ようやく、“ヒソプの根”を手に入れた。)



(あれから、四半刻ほど過ぎただろうか。“レウケーの葉”と“ヒソプの根”に次いで探した“蜘蛛の糸”も、温室にいる虫たちの頼みを聞きだし、また繰り出された謎を解き明かせば、すぐに手に入れることができた。否、持ち主である大蜘蛛と少々格闘する羽目にはなったが、魔剣の一閃を的確に振り下しさえすれば、それで事は片付いたのだ。
とにかくそうして、3つの材料までは揃えることができたのだが。困ったことに、最後のひとつ……“火竜の鱗”だけが、どこを探しても見当たらない。口を利ける鳥や植物に尋ねてみても、ここにはドラゴンなどいない、と異口同音に証言するばかり。つまり、現状すぐに捕まえられるファイアドラゴン種は、ギデオンが思い浮かべるあの一匹を置いて他にない。……が、あれは駄目だ。最初から何度も脳裏にちらついていてはいたが、あれの鱗を剥ぐ選択肢だけは、絶対にとってはいけないと、強く自分に言い聞かせずにいられえない。そもそもが聖獣だし、何よりまだ幼い。ヴィヴィアンが手ずから与えたものを食べて懐いた個体でもあるし、先ほどの暗路を抜ける時にも、随分彼女を助けたはずだ。プロの冒険者として魔獣をシビアに見ることができるヴィヴィアンでも、あれを犠牲にすればきっと胸を痛める、そう容易に想像がつく。だから何か、別の方法を。火竜の鱗の代わりになりそうな、別の素材を……
だが、どれだけ探し回ってもそれらしきものは見つからぬまま、時間はどんどん過ぎるばかりで。そうしてようやく、これでは不足しているとわかっていながら、妥協で選んだ羊角の蛇の鱗を持ち帰る。ギデオンの帰還に気づいたサラマンダーは、「!」と希望に満ちた目を向けてきたが、ギデオンがそこまで近づくと、こちらの表情がまだ晴れきっていないことに気づいたようだ。ぴんと張った尾はすぐに萎れ、「キュ……」と悲しそうな声で鳴いた。そのまま、あまり元気のない様子でやってきて、ギデオンの靴の爪先にぺたりと前足を乗せ、こちらをじっと、どこか悲愴な覚悟を決めたように見上げてくる、その顔を見れば。ただの小さな爬虫類としか思っていなかったこの小さな聖獣が、思っていたより賢いことを──ヴィヴィアンに何が必要か悟っていることを、察してしまって。
「お前が犠牲になることはないんだ。気にするな」と、淡白ながらも、どこか優しさの滲む柔らかな声を、初めてサラマンダーにかけてやる。そうして、じっと押し黙った火トカゲをうっかり踏まぬよう、もう数歩だけ歩を進め。ヴィヴィアンのそばにしゃがみ込むと、薬草や蜘蛛の糸を取り出しながら、そっと相手の名を呼んでみる。先ほどよりいくらか落ち着いたようだが──まだ、夢のなかだろうか。)

ヴィヴィアン。……ヴィヴィアン。
遅くなったな、今戻った。
悪いが、火竜の鱗はなくてな……これでも、代わりになりそうか。





461: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-06-08 09:45:10



──ッ、……ゥ、

 ( ああまた、酷い悪夢を見ている。夢を見ながらこれが夢だとわかるのは、この夢を見るのがもう何十回目に当たるのか分からないほど、何度も何度も同じ内容を繰り返しなぞっている光景だからだ。父にとって自分がいらない子どころか、憎くて堪らない忌み嫌うべき対象なのだと突きつけられる夢。待って、やめて、遠くにやらないで……私が役に立つって今すぐ証明して見せるから。そうして追いかけ続けた背中がまた、憎々しそうに振り返る寸前。暖かな優しい声が自分を呼ぶ声がして、暗い夢の縁から意識を浮上させられる。瞼を貫通する眩い光に眉を潜めながらも、誰より信頼出来る相棒の姿に、ホッと安心しきった笑みを綻ばせれば、硬い木の根に手をついてゆっくり上半身を起こそうとして。 )

──ギデオンさん。
これは…………はい。ちょっとお時間いただいちゃうんですけど……ありがとうございます。大変だったでしょう?

 ( 目の前に差し出された品々と、明らかに覇気なく項垂れる小さな聖獣。それから一見いつも通りに見えるものの──どれだけ、貴方見つめてきたと思っているのか。これだけ沢山の素材を集めてきてくれたにも関わらず、致命的なまでに優しすぎる相棒を目の前にして。彼らに残酷な現実を突きつける強さなど、微塵も持ち合わせていなかった。そうして、どこか覚悟を決めてしまったような、今にも身投げしかねない表情をするサラマンダーに苦笑すると。その尊い気持ちは誰より強くわかっている癖をして──卑怯にも。わざ申し訳なさそうな顔をして手を差し伸べると、ゆっくりと手に乗ってきたその暖かい矮躯を一撫でしてから、素早く無理やり腰の革袋に押し込めて、空気穴だけを残してその口をキツく閉じてしまう。その間に、火竜の鱗の代わりに緑色のそれを元にして火をつけると、その小さな火の上に少量調合用の小鍋を火にかけて、貴重な植物たちをすり鉢に放り込む。そうしてやっと、此方は小袋に押し込めない相棒の顔を仰ぎみて、困ったように小さく笑えば。仕方なく絞り出したその言葉を最後まで言いきらなかったのは、この人なら絶対にどうにかしてくれるという強い確信があったからで。 )

……大丈夫ですよ、これでも薬学の成績は良かったんですから。
半日くらいは、持たせてみせますから……その後は、いえ。




462: ギデオン・ノース [×]
2023-06-09 02:11:23




──……。

(覇気なく窄んでいく声、非力なサラマンダーに対して唐突に及んだ行為、ギデオンへの期待を寄せながらもどこか力ない笑顔。それらを正しく踏まえれば、相手がこの状況を暗く思っていることは、否応なく理解できてしまう。故に、傍で屈んでいるギデオンの表情にも、思わず複雑な翳りが差し──けれども、その薄青い目が、ふと静かに虚空にとどまって。
……自分は、普段の明るく力強い彼女を知っている。あの太陽のようなヴィヴィアンが、ここまで後ろ向きに気を弱らせた発言をするなど、普通はほとんど起こり得ないだろう。今回ばかりはその例外に陥ってしまったのは、先ほどのあの闇の中を通り抜けたせい──相手が己の身を挺して先導であるギデオンを支援し、その分強い呪いに晒されてしまったせいだ。ならば、己は何をするべきか……聖属性の魔法などろくに使えぬ身で、それでも相手の生存率を少しでも上げるために、いったいどうすればいいか。
ひとまずはただちに取れる行動を、と数瞬思案した結果。ふと腰の革袋の紐を緩めて、依頼書や討伐報告書の入ったその中身をごそごそと探る。やがて取り出したそれ、薄紙に包まれている小さな丸いものは、ごく些細な思い出のある薬飴だ。──いつだったか、人に貰ったのをたまたま相手にも分けたところ、「美味しい!」と喜ばれたことがある。それから何となく、常にではないにせよ、王都の薬師が店頭で売っているときには仕入れるようにしていたのだ。包み紙を剥き、その透明な黄金色の飴玉を人差し指と親指でつまめば。そのまま相手の口元にすっと持っていき、無言で“食べろ”と意思表示を。そうして相手の緑の目を見つめ、甘味がほどけるのを待ちながら、「心配要らない。半日どころか、一時間でここから連れ出してやる」と、静かな声で彼女に……己に誓いを立て。次いで周囲を見渡しながら、その裏付けをするように、淡々と分析を共有し。その先にひとつ、“美味しい飴”を用意したのは、この苦境に対する詫びの気持ちも込めたからで。)

……睡眠中に襲えば確実に俺たちを殺れたのを、敵はそうしなかった。つまり、何かしらの行動制限があるはずだ。
さっきのエリアを抜けてすぐのこの場所に、血清の材料のほとんどが揃っていたのだって、この空間全てが敵の制御下にあるわけではないということだろう。
ナイフ罠のときのように、後手に回れば不利だろうが……相手に気取られずに先手を打てば、きっと脱出の糸口を掴める。
俺は魔法は使えないが、物理戦なら死んでも負けない。だから、あと少しだけ辛抱してほしい。

そうだな……ここから出たら、おまえの言うことを何でもひとつだけ聞く、なんてのはどうだ。





463: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-06-11 01:52:38




 ( これでも冒険者の端くれとして。その生業の果てに、己の命が絶える可能性があることなど、とうの昔に覚悟の上だ。とはいえ、実際こうして数時間後に己の死を意識して、取り乱しまではしないにせよ、明るく塞ぎ込まずにいられるほど、強靭な心臓も持ち合わせていない。腰で暴れる聖獣を、時折袋の上から優しく撫でてやりながら、パチパチと燃える火にぼんやりと、力なく揺れる瞳を向けていたその時──徐ろに差し出された見覚えある飴玉に、ぱちくりと瞬かせた瞳には、未だ確かな恐怖が映っていたはずだ。ビビが遠慮しても、せめて自らの手で食べると主張してみても、珍しく諦めてくれないギデオンに仕方なく、落ちてくる髪を抑え。その指先に白い唇を寄せると、微かに触れてしまった感触に、もう片方の手で唇を抑えて熱くなる頬をそっと逸らす。そうして、口内でその甘味をゆっくり転がせば、じんわりと広がる優しい甘さと、いつだってビビが一番欲しい言葉をくれる相棒の優しさが、冷たくなっていた心をじんわりと溶かして、その雫がぽろりと漏れた。相手の冷静な分析を聞いているだけで、先程まで弱っていた心は嘘のように晴れて。何かを諦めてしまったように、静まっていた鼓動が心地よく主張し始める。この人といれば大丈夫に決まっているのに、何を心配していたというのだろう。思わず大好きな相棒に近寄ろうとして、踏み込んだ脚に力が入らず、ギデオンの方へふらりと倒れ込む。……そういえば、肝心の薬はまだ飲んでいなかった。チラリと視線を向けた小鍋はまだグツグツと白い湯気を立てていて、完成まであと十分は擁すだろう。それでも、それを忘れてしまう程、元気が出たのだと、相手がくれた自分にくれた心強さを伝えたくて、回した腕に精一杯の力を込めれば、その分厚い胸の中、にんまりと相手への信頼、安心に満ち溢れた微笑みを浮かべて。 )

──……ありがとうございます。
……でも、そんなこと言っていいんですか?
私、すっごい我儘言うかも……




464: ギデオン・ノース [×]
2023-06-12 12:46:13




おまえの言う我儘なんて、たかがしれてるさ。

(倒れ込んできた相手をふわりと受け止め、楽な姿勢をとれるようにと、逞しい腕で抱き直し。そうしてこちらを見上げてきたその顔に、見たかった表情が──信頼感と安心感が満ち満ちているのを目にすれば、同じく穏やかな笑みを浮かべ、次いで口の端に悪戯っぽい気配を混ぜて。この一年相棒をやっていれば、相手の強請りそうなことなど、だいたいは想像がつく。そして、それがここを出るためのよすがになるというのなら、釣りがくるほどお安いものだ。)

……どの道、こっちの用事を済ませた後に、例をしようと思ってたんだ。急な誘いに付き合って貰ったわけだからな。
俺がたまに行くカトブレパス料理店に行ってみたい、って話だったよな。だから、“我儘”はそれ以外で頼むぞ。

(なんて、他愛もない雑談を交わしつつ。自分も相手と木の根元の間に滑り込み、相手を後ろから支えるような体勢になると。薬が煎じ上がるのを待つという名目で、相手を緩く抱き込みながら、光にあふれた温室で平穏な時を過ごす。──今はもう、相手とこうして過ごすだけで、心が潤うのがわかる。いつだったか、妻を抱きしめるだけで魔力がみるみる回復する……なんていう槍使いの惚気話に、白けたため息を返したことがあったが。今ならギデオンにも、それが嘘でも誇張でもないと理解できる。相手を元気づけるつもりが、こうして密になってあれこれ話しているだけで、己まで回復していくのだ。もうそういう風につくり替わってしまったことが、例え相手にバレていようと、別に構わない気持ちさえあった。だからただ、自分の胸の奥の音を相手に伝わらせながら、最初はペースの違っていた呼吸を、溶け合うように重ねさせていき。──この後訪れる戦いに備えるかのように、相手に自分を味わわせ、また自分も、存分に相手の息吹を感じていた。)

(──さて。軽食用に持ってきていた干し肉を相手と分け合って噛み、それで胃の動いた相手が、薬をしっかり飲み干したのを確認すれば。今度は単独ではなくふたりで、温室のあちこちを探索し、どこかにあるだろう出口を探す。そうして見つかった、ガラス張りの細い通路の先にある扉には、案の定魔法の鍵がかかっていたものの。ここまでの探索で要領を得た自分たちふたりには、もはや容易い障害だ。顔を見合わせるなりお互いに頷き、それぞれ必要なものの調達へ。これにはあれが必要、あれにはそれが必要、と順々にこなしていけば、最後には大きな花の蕾が花開き、中の鍵を入手することができた。……やはり、同じ疑問が再びのぼる。毒ナイフの罠や瘴気の暗路は、問答無用でこちらに悪意を向けてきたように感じるのに、絵画のあった廊下や、薬草にあふれたこの温室は、こちらが外に出るための手助けをしてくれているようだ。「信じすぎても危ういが、突破口はそこにあると見ていいだろうな」と、鍵を回しつつ呟くと。押し開いた扉の先、また新たなエリアが広がっているのを目にしてから、隣の相棒を振り返って頷きかけ。)

──よし、行くぞ。





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