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―Φ― エインヘリャルの痛哭 ―Φ―[ ダークファンタジー / キャラロスト有り ]/91


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43: ナジャ [×]
ID:09beb1e04 2022-03-08 15:54:25


【 イチイの谷 / 谷端への道中 】

>42 ロヴァル

まずい、と。反射的にそう思った。困らせたいわけではないのだと、彼を見上げたまま少しだけ表情に焦りが滲む。
言葉を選んでいるのか、そもそも打ち明けることが嫌なのか、沈黙に耐えられず謝罪と共に無理に言わなくていいと伝えようとする一瞬前に彼が口を開き

「…………、」

返す言葉が見つからなかった。
上辺を少しなぞって聞くだけでも壮絶な半生を歩んできただろうに、彼は今もこうしてこちらに気を配ってくれる。
石段をひとつひとつ慎重に踏みしめ無事に彼に追いつきまた歩んで

「……!」

ここに骨を埋めても良い、と。
その言葉に感応して即座に胸を満たした感情は歓喜で、そんな自分が浅ましく思えて小川の前で立ち止まり

「私、怖かったの」

なぜあんな質問をしようと思ったのか。
彼の答えを聞いてようやく自分の心を少し理解できた気がして、ぎゅっと自分の片腕を握り

「上手く言えないけれど…。あなたは私たち谷の住人にはない、凄い力を持ったひとだってずっと思ってた。魔法の巧さや身体の強さだけじゃない、特別な力。……だから、きっといつか谷を離れてもう一度大陸に羽撃いて行くんだって。」

単なる戦力としてではなく、既に隣人となった存在を失うのが怖かった。
だが、恐れの対象はそれだけではなかった。

「でも、あなたは強いだけじゃない。とっても優しいひとよ。だから、4年前の恩を谷の皆に返さなきゃって、無理してここに残ってくれてるんじゃないのかって。……本当は、今すぐにでも出ていきたいのに」

彼の願いに反して、狩人の役割を押し付けこの狭い谷に縛り付けてしまっているのではないかと。
いくら危惧しても恐れてもおいそれと口には出せなかった、こうして彼が今の気持ちを吐露してくれるまでは。
ワンピースの裾が川に浸からないよう、少しだけたくし上げれば子を一人産んだとは思えないほど細いふくらはぎがちらと映り、こちらへ手を差し伸べてくれる彼を豆鉄砲を食らったような顔をして数秒見つめ

「……スタンがあなたの自慢話ばかり、誇らしげに話してたわけだわ」

男も惚れる男、とは彼のようなひとの事を言うのだろう。
諦めたように笑って、彼の手を握って飛び石へと向かう。
先に跳んでくれた彼に受け止めてもらう形で半ばまでは上手く行っていたのだが、対岸まであと2つというところで足を滑らせ踏み切りを誤り

「きゃ…!」

バランスを崩してロヴァルの腕の中に思い切り身を投じてしまい。




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