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【 指名制 】香撫町の住人。【 リメイク / 日常 / 考察 】/71


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37: 睡 / スイ [×]
2021-02-17 22:16:44



>月


 【 冬 / ゲームセンター / >36 】


 ( おれに一言も喋る隙を与えないまま、足早に去ってゆく弟の背中を茫然と見送る。隣で月が追い掛けなくても良いのかと心配してくれたけれど、おれには、とてもそんなことは出来なかった。あんな……あんな、母さんに向けるような顔。おれは來を傷付けたりしない、信じて欲しい、無理に笑わないでくれ、と伝えたかったけれど、伝えてきたつもりだったけれど。きっと、來にとってはおれも母さんも一緒なのだ。自分のことしか考えていないエゴイスト。弱虫。裏切り者。あの時逃げてしまったおれの言葉では、もう何一つ届かない。今朝、あの子がおれを探しに来てくれたから、少しでも溝は埋まったのかと勘違いしてしまった。けれど、違う。あの子は、ただ、優しいだけで。憎むべき相手にも優しく出来るだけだ。メダルの器を掲げ、努めて明るく振る舞ってくれている月を見て、來が彼女と仲良くしている理由が分かる気がした。彼女の傍は安心するのだろう。おれだって、今、隣に彼女が居てくれることでどれだけ救われているか分からない。「いいんだ。來は……おれが居ない方が、まっすぐ歩けるから」目を伏せて、感情の無い声で零す。近付くことでまた來が壊れてしまうなら、おれを憎むことで少しでも楽になるなら、このままでいい。〝慈愛〟なんて言い方をすれば聞こえは良いけれど、結局は自分で何かを変えることを諦めた言い訳だ。何が優しさで何が正しいのか分からない。分からないうちは触れられない。毎日、思う。逃げてばっかりで、おれはあの頃と何も変わっていない。どうやら來から押し付けられたメダルを今日中に消化しなければならないらしい彼女に、一言「ごめんね」と声を掛ける。來が迷惑を掛けたこと、おれ達の問題に巻き込んでしまったこと、背中を押してくれたのに來を追い掛けられないこと。色々な意味の〝ごめん〟だ。せめてものお詫びに、と彼女が掲げるカップからメダルを一枚拾い上げる。 )
 おれも手伝う。……って、遊ぶだけだけど。






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