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愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた__指名式、BNL/560


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541: リリィ [×]
2022-02-04 18:53:25




>>ハインツ様( >>528)


姫──?私が……?
( 輝きの失せた瞳は恐れていたものに違いなく、彼女の最悪な想像に近付いてしまう恐怖が心に影を落とす。ああやはり、特異は受け入れられないのかという諦念と落胆に僅かに身体を強ばらせて。しかし次に聞こえてきた言葉は聞き間違えだろうかと、簡単な二文字の言葉がすぐには飲み込めずに見開いた瞳に彼を映す。ずっと憧れていた呼び名、いつかそう呼んでもらえたらと夢想したそれが唐突とも言えるほど簡単に叶ってしまった。向けられた暖かな笑みに、何故そのような呼称で呼ばれたのかとほんの少し首を傾げて。さて、彼らのお姫様とはどういう意味だろうか。そして、脈絡もなく紡がれたその呼び名が本能のさらに奥の部分にはすっと馴染んでしまうのは何故だろうか。国をも手玉に取る遊び好きの魔女に造られたことなど露ほども知らない彼女の困惑は、しかしすぐに歓喜に塗り替えられる。「 勿体ないお言葉です。百合だけではなく私まで褒めていただけるなんて…… 」、清廉が形を成す百合のみならず彼女自身をも綺麗だと賞賛してくれた彼、その穏やか且つ歓びに染まった瞳を見てしまえば嘘も偽りもないのは明白と理解し心にかかっていた靄も瞬く間に払われる。己の胸を一際高鳴らせる熱帯びた鼓動は果たして純真な恋か、優しきこの人を己がものにしてしまいたいと願う浅ましい欲か。治療具を持ってきてくれた使用人に「 ありがとう 」と淑やかに微笑んで礼を告げながら、カサブランカには支柱に巻き付き決して逃がさない蔓が生えていないことを初めて惜しんだ。そんな歯痒さをおくびにも出さず、「相棒…… ふふっ、素敵な響きですこと。第三皇子様のお墨付きですもの、次回からはそう表現させていただきます 」、手で口元を隠しながら笑えば、道具を選別し終えた彼に促されてそっと手を乗せる。砂利は多少付着しているものの痛みはほとんどなくなっており、血の流れも止まっている。その手を預ければ彼の治療に大人しく身を委ね、幸福そうに弧を描く口元を正すことなくこの時間を噛み締めるだろう。蒼が混じることにより深い夜闇を連想させる艶やなか黒髪も、白百合を気遣うその優しい心根も、かつて式典で見掛けた時よりもずっと気品溢れて気高さを秘める瞳も、すべてが耽美に第三皇子様という存在そのものを惹き立てている。優しく格好いい皇子様、乙女の夢見る理想、彼こそその具現だろう。垂れている眦をさらに蕩けさせて時折視線を目の前の"愛しいもの"に注がせながら、「 数年ぶりに見た外の世界で、第三皇子様と出逢えた私はとても幸せものですのね 」と穏やかに呟いて。それは無意識にこぼれ落ちてしまったもののようで、外に出た経験の少ない世間知らずと思われやしないかという焦りで咄嗟に空いている手で口を押さえて。 )




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