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1504:
秋天 [×]
2024-09-09 14:20:30
>クォーヴ ( >>1499 )
( 悪夢。彼が発したその言葉を口の中で転がして考えてみる。元々あまり夢を見る性質ではないので、目が覚めたとき"夢じゃなかったんだ"とは思わなかった。適応力は高い方なんだと思う。でも、夢を見ないからといって夢であれと願うことがないわけではなかった。「うん、夢は見なかった。全部現実だったみたい」シャワーを浴びる前に一瞬沈んだ気持ちがぶり返しかけて、呟くような声で返事をする。すぐに取り繕うよう笑ってみせて、彼の謝罪に対しても首を横に振るにとどめた。てきぱきと食事を口に運びながらこぼした善意に難色を示されると、これは真剣に耳を傾けた方が良い話だと判断して手を止める。"自身の確からしさを疑う事になる"……その言葉を聞いた僕は"テセウスの船"と呼ばれる思考実験のことを思い出していた。わかりやすく説明するならこうだ。──テセウスという男が怪物を倒しに行くため乗り込んだ一隻の船がある。テセウスは航海の末見事怪物を打ち倒し、船は偉大な記念品として後世に受け継がれていった。だが船は時間と共に朽ちていく。壊れたパーツを一つずつ交換して、やがて全てが新しいものに置き換わったそのとき。その船はテセウスの船だと呼べるだろうか──哲学の授業で問われたパラドックスの一つで、僕はこのことに自分なりの結論を出していた。クォーヴが言ったのは置き換わったときではなく消えてしまったときのことだが、僕の考えそのものは変わらない。「忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」餌のアイデンティティに気を配るなんて変わった人だなと密かに思う。時折存在が示唆される"他の住人"が皆こうとはいかないことは想像に難くなくて、はじめにこの屋敷で出会ったのがあなたで良かったと心から思った。穏やかな声で礼を告げ返事を待たずに口を開く。「でも、例え記憶がなくなっても僕は僕だ。それを疑うことはないと思う、きっと……」そう言って小さく微笑むと、不思議な虹彩を見つめ返す。会話に一区切り設けた彼にこくりと首肯で返事をして、続く言葉をじっと待った。 )
あなたと話しているといろんな記憶が蘇ってくるよ。あなたの性質がそうさせているのかな。
筆が乗る予感がしたから、僕が過去に件の思考実験について考えたときのことを宝箱に入れさせてもらおうかと思うんだ。今のあなたに何か影響を与えるものではないと思うけど、僕のアイデンティティを形成した重要な記憶の一つとして知ってもらえたら嬉しいな。
……他でもないクォーヴに僕の軽率さを注意されたところだから、食べちゃだめだよ。ごめんね。
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