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愛の報いは愛(〆)/123


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自分のトピックを作る
73: 宮村 湊 [×]
2025-10-01 00:17:39

あ、ずるい!俺もですよ!…俺の好きなお店なんです。今流行りの映えるような華やかさがあるわけじゃないんですけど……どこかほっとする味っていうか。だから、悠さんにも食べてみて欲しくて。

(声をかける直前まで相手の瞳はどこか鋭く、未だ職場という戦場に立つ者のそれだったが、こちらを向いた瞬間その双眸がふとやわらぐ。細く、やさしく笑うように細められた瞳が自分を捉えている、その事実だけで胸の奥がじんわりと満たされるのを感じた。口から零れたのは、もはや"宮村湊"という仮面のための台詞ではなかったのかもしれない。いつの間にか、演じているはずの無邪気さと本当の自分の境界があやふやになっているのを自覚する。仕事の一環として選んだ笑顔のはずが、今はただ心の底から湧いてしまう。彼といると、なぜかいつもそうだ。そんなことを考えながらふと視線をやると、彼の表情がほんの一瞬だけ翳る瞬間を捉えてしまった。きっとまた仕事のことが脳裏をかすめたのだろう。プライベートの時間にさえ入り込んでくる責任や重圧、孤独。芳しい状態とは言えないと分かっているからこそ、今日くらいはそれを追い出したいと思った。任務としても、そしてそれ以上に、個人的な願いとして。タイミングよく、ホームに滑り込んできた電車が夜気を揺らす。車両に乗り込み、反対側のドア付近で手すりを軽く握った。車窓の外で左から右へと流れていく街の灯りを眺めながら、視線をそっと彼の方へ戻す。仕事の重圧を少しでも遠ざけるために、ふと気になっていた問いを相手にぶつけてみる)

今日は俺が勝手に店選んじゃいましたけど……悠さんって、好きな食べ物、ありますか?

74: 常葉 悠 [×]
2025-10-01 12:16:40

……ほっとする味、ですか。なるほど、それはいよいよ楽しみですね。

(ずるいと抗議する彼に目を細めていると、聞き慣れない言葉に眉を僅かに上下させる。"ほっとする味"というのは、どういう味なのだろうか。ほっとするというのは、安心する様を言うが、食事においてそれはどういう状態なのだろうか。家庭的ということなのだろうか。しかし別に自分の家庭はトラブルを抱えていた訳でもない。父親は厳しい人間に違いなかったが、理不尽な人間ではなかった。母親も同様だった。だから家庭は安らぎの場であることに違いなかった。しかし自分には、ほっとする味が分からない。なぜ? どんどん広がっていく疑問を解消するためにも、彼の定食屋に行くのが俄然楽しみになってきた。気分は新しいゲーム機を買いに行く道中の小学生のようだった)

ううん……好き嫌いが全くないので、これといって好物もありませんね。何でも美味しく頂きますよ。……ただ私、甘いものに目がなくて。休日は……スイーツ巡りなどしたり、三食を疎かにしてケーキとか、そういうものばかり食べてます……ははは。三十過ぎて子供っぽいですよね。

(彼からの問いに少し悩む。好きな食べ物を意識したことは全くない。幼い頃から出されたものを何でも食べていたので、特定の好物がない。嫌いなものもなければアレルギーもないので、何でも食べることができる。元々食に興味が薄いのかもしれない。だがそんな自分でも病的なまでに好きなものがある。スイーツだった。なにかきっかけがあった訳ではないが、幼い頃から甘いものばかり欲しがっていた。自分で自由に金銭を使えるようになったら、多くはスイーツに費やした。だがそれをそのまま伝えるのは気恥しく、少し歯切れ悪く、照れながら彼に告げる。顔が熱くなるのが伝わる。恥ずかしさを紛らわせるように愛想笑いをしてみるが、顔の熱さは中々収まらなかった)

75: 宮村 湊 [×]
2025-10-01 18:25:21

甘いもの………………

(彼の好物についての情報は組織のデータベースにも載っていなかったので、単純に興味本位ではあったのだが、返ってきたのは予想だにしていなかった返答で思わず瞳を瞬かせる。だが本人はそれを気恥ずかしく思っているのか、見る見るうちに頬が赤く染まっていく。その様子があまりに無防備で、思わず「可愛い」と零しそうになった唇を、辛うじて噛んで堪える。年下の男にそんなことを言われたら、余計に羞恥心を感じてしまうのが分かっていたからだ。思わぬギャップに動揺を覚えつつも、直ぐにパッと表情を明るくして相手を見つめるとぶんぶんと音が出そうなほど大きく首を横に振ってみせた)

そんなことないですよ!俺もスイーツ好きです!甘い物食べてる時って幸せな気分になりますよね。それにしてもスイーツ巡りかぁ……悠さんがカフェでケーキを食べてるところ、見てみたいかも。

(実のところ、自分も嘘偽りなくスイーツは好きだ。ケーキのために3食を抜くという彼ほどでは無いが、たまの甘味というのはやけに美味しく感じる。そして、同時にふと一つの光景を思い浮かべてしまう。小さなカフェの窓際で、静かにケーキを選んでいる彼。ナイフを入れるときの慎重さや、口元にこぼれるかすかな笑み。そんな想像が胸の奥をやわらかく撫で、無意識に口端がほころんだ。もし美味しいカフェを見つけたら彼は一緒に来てくれるだろうか。そんな淡い期待を胸の片隅で転がしているうちに、車内アナウンスが流れた。やや小さめの駅は人も疎らで、すんなり改札から外へと出ると、夜風を含んだ静かな空気の中を二人並んで歩き出す。彼も少しは落ち着いただろうか、とちらりと覗き見るように視線を送った)

76: 常葉 悠 [×]
2025-10-01 21:15:56

はははは、三十路過ぎた男がケーキを食べているところを見たいなんて、存外湊くんも物好きですねぇ

(彼の反応が一拍遅れたので、もしや引かれたかとギョッとしたが、すぐにそれが面食らっていただけだと反応し、内心胸を撫で下ろす。そして彼の一言に思わず声を出して笑ってしまう。自分がケーキを食べているところが見たいなどと、どのような物好きなのだろうか。どんな意図があるのか聞いてみたくなる。彼は自分が思っている以上に変わった人間なのかもしれない。むしろ、自分は彼のような華のある若者がオシャレなカフェで優雅にケーキを頬張っているところを見てみたい。きっととても画になるだろう。それに「可愛い」とも思う。だが年上の男にそんなことを言われたら、きっと軽蔑の目で見るに違いないだろう。ここは胸の奥にしまっておく方が良い)

うん……ここら辺は静かで気持ちがいいですね。普段はずっと周りが煩いので、たまにこういう所へ来るとすごく落ち着けますね……。

(車内アナウンスが流れ、彼の後に続いて電車を降りる。どうやらあまり人が多くない駅のようで、疎らになった駅を進むと解放感が身体を包む。改札を抜け外へ出ると、今度は夜風が身体に触れてくる。丁度いい風と静かな空気。それらを身体で存分に感じ、深く深呼吸をする。そして彼からの視線を感じると、彼の目を見て微笑みながら言う。なんてことの無いただの道を二人で歩いているだけなのに、何故か心が癒されていく感覚がある。まるで温泉に入った時のように疲労が癒えていく感覚に似ていた。自分は彼と一緒にいることで安らぎを感じているのだろうか)

77: 宮村 湊 [×]
2025-10-01 22:25:27

この駅って各駅停車の電車しか止まりませんし、乗り換える路線とかもないので、利用者が少ないんですよ。都会の喧騒から少し離れると落ち着きますよね。

(視線に気づいたのか、こちらを見つめ返す表情は穏やかで、張り詰めたものが解ける瞬間の柔らかさがあり、胸の奥でそっと安堵した。周りを見渡しても、会社帰りのサラリーマンや学校帰りの男子高校生がちらほらと点在して歩いているくらいだ。日々仕事に追われている彼にとっては、この駅の空気感すらも心地よいものなのかもしれない。やはり、今日は都会のオシャレなレストランよりもこちらを選んで正解だったかもしれない、と思いつつ道なりに少し歩いていくと、その食堂はすぐに姿を現した。古い木造家屋の一階を店舗にした小さな定食屋で、年季の入った暖簾が風に揺れている。白熱灯のあたたかな明かりが格子窓から漏れ、外の暗がりにぽうっと浮かんでいた。引き戸をがらりと開けると、どこか懐かしい匂いが鼻先をかすめる。煮物と焼き魚、味噌汁の湯気が入り混じった匂いだ。店内にはスーツ姿の先客がひとりだけ。奥では腰の曲がった年配の女性が黙々と仕込みをしており、顔を上げると柔らかな笑顔でこちらを迎えてくれた。テーブル席へ通されると、肩からバッグを外して脇に置き、座席の古びたクッションに体を預けながら少し年季の入った手書きのメニューを手に取った。黒々とした墨字の書体にどこか人の温もりが宿っていて、それだけで心がほどけていくようだ。ふと厨房の方を見やると、腰が曲がった店主が水を汲もうとしているのが目に入り、すぐに立ち上がって声をかけた。手際よくグラスを受け取り、二人分の水を注いで戻る。)

どれも美味しいんですよ!俺もどれにしようか迷っちゃうなあ……

(テーブルにコップを一つずつ置きながら、自然に笑みがこぼれる。以前は脂ののった鮭の塩焼き定食に舌鼓を打った。ふっくらと焼き上がった身に箸を入れた瞬間、湯気の奥から香ばしさが立ちのぼったのを今も覚えている。その前は旬の野菜の煮物を選び、じんわりと染み込んだ出汁の味に舌鼓を打った。今日は野菜炒めを頼んでみようか。そんなことを思いながら、目の前の相手をそっと窺う)

悠さんはどれにします?

78: 常葉 悠 [×]
2025-10-02 21:13:16

(暫く歩いていると目的の店が見えてきたようで、ほんの僅かだけ彼の後ろに下がる。全く初めての店なので一抹の不安があった。だが店内に入ると、想像よりも穏やかな空気に驚く。店はもっと混雑していると思っていたが、彼と自分の他に客は一名だけのようだ。ずいぶんと風情のある店だった。目に映るもの全てが物珍しく、視線を忙しなく移動させる。定食屋とは、こんなにも落ち着けるところなのか。自分が知っている世界とは全く違う世界に、興味がどんどん湧いてくる。仕込みをしていた年配の女性の反応と彼の行動から察するに、ここは彼にとって馴染み深い店なのだろう。確かに彼のような純朴な青年にぴったりな店だ。彼の後に続き、カバンを脇に置いて彼の向かい側に着席する)

おお……定食屋とは存外メニューが多いのですね。ううん……色々あって迷ってしまいますね。

(元来優柔不断なところがあるので、予想よりも豊富な品数にたじろいでしまう。腕を組んで虚空を睨みながら、どれを食べるべきかと頭の中で何度も自問自答する。こんなことで思考を働かせるのはどうかとも思ったが、折角彼と来たのだからじっくり悩んで決めたい。料理は美味しいか否かで決めるものだ。だが彼がどれも美味しいと言うので、優柔不断が発症してしまった。そうして悩むこと数分。いい加減彼も痺れを切らしてくるだろうからと、そろそろ決めろと自分を叱る。そして一つのメニューが目に止まった。唐揚げ定食だった。最近は健康を気にして、脂っこいものは控えていたが、せっかくの機会だから、久しぶりに食べても大丈夫だろう)

じゃあ私は、唐揚げ定食をいただきましょうかね。

79: 宮村 湊 [×]
2025-10-02 22:20:33

(彼が思案に沈んでいる間、メニューの端を指先でそっと撫でながら、その様子を横目で盗み見る。普段は決断力のある大人という印象だったのに、こうして「何を食べるか」で真剣に悩んでいる姿がどこか愛おしく映る。仕事の世界では即断即決を求められる立場の人間が、たかが夕食のことで数分も逡巡している──その小さなギャップに心惹かれている自分がいることに気づき、僅かに瞳を細める。ずっと眺めていたい、と思った矢先に彼がようやく決断を下したのを察し、名残惜しさを押し隠すように微笑みを整えた)

唐揚げですか、良いですね!それ、俺も結構前に頼んだんですけど、すごく美味しかったです。ここの唐揚げは衣がカリッとしていて、中はびっくりするくらいジューシーなんですよ。初めて来るなら絶対に外さないと思います!

(声に自然な弾みを乗せながら告げる。自分が通う場所で、彼が初めての一皿を選んでくれたことが、なぜだか妙に嬉しかった。まるで自分の小さな世界に彼を招き入れたような感覚が胸の奥を温める。距離が、ほんの少しだけ近づいたような錯覚さえした。ちょうど手が空いた様子の店主に片手を軽く上げて合図を送り、唐揚げ定食と野菜炒め定食をひとつずつ頼む。厨房から聞こえてくる油のはぜる音やまな板の軽やかな音に耳を澄ませながら、使い込まれたお品書きを丁寧に端へ寄せた。自分の知っている温かい世界を、いま彼と少しだけ共有できている──そんな実感が、ひどく心地よかった)

悠さん、普段は定食屋さんとかはあまり行かないんですか?

80: 常葉 悠 [×]
2025-10-03 23:05:23

それはいい注文をしましたね。とても楽しみです

(声を弾ませて説明してくれる彼に自然と笑顔が浮かび上がる。同時に空腹も意識した。健康面を考えて肉類はあまり食べないようにしていたが、今日は朝からろくに食事を取っていないため、小さく腹が鳴った気がした。最近は一日一食で、しかもカップ麺を啜る生活が続いていた。何が健康面を考えてだ──なんて思われそうだが、仕事を終えて帰宅すると途端に身体が脱力し、カップ麺に熱湯を注ぐことすらも重労働のように感じてしまうのだ。それに元々小心者なので、仕事がある日はあまり食欲が湧かない。高級なマンションに住んでいても、どんなに良いブランドのオーダーメイドスーツを着ていても、自分の内面は所詮そんなものだ)

そうですね。外食に行くことはあっても、こういったお店にはほとんど行ったことがありません。それに食欲も忘れて仕事をしてしまいますから、あまり食事にもこだわることもないですね。

(厨房から聞こえてくる調理の音や、それに伴って漂ってくる香りに体をリラックスさせながら、彼の質問に答える。あくまでも仕事熱心で食事を疎かにしているので定食屋には行かないという設定で話す。彼には悪いが、自分がどういう立場の人間なのかは気付かれたくない。だが彼とは腹を割って話せる友人になりたい。この二つの願望を叶えるために、あえて嘘の理由を告げる。ポジティブな内容に変換したのは、後ろめたさを緩和するためだった)

81: 宮村 湊 [×]
2025-10-04 08:55:49

そう…でしたか。

(彼の食生活については報告書にも記載が無いため、その言葉を疑うことなく鵜呑みにして捉え、少し思案するように瞳を伏せる。確かに彼の多忙さならばそう言った生活になっていたとしてもおかしくないが、単純にしっかり食事を摂れているのだろうかと憂慮してしまう。拘りは無くともしっかり食事を摂れているのならば良いのかもしれないが、食欲を忘れるほど仕事にのめりこんでいるという言葉から察するに、食事をすっぽかしてしまうこともあるのでは無いだろうか。自分の食生活は棚上げにしてそんな心配が頭を過りつつも、しかしながら漸く仕事のことから解放され安らいでいる様子の彼に余計な負荷は掛けたくないと考え、すぐに人懐こい笑みを浮かべると一つ提案をする)

あ、じゃあ美味しいお店見つけたらシェアするんで、また一緒に行きましょう!俺、大学が地方で、就職の時にこっちに来たのであまり近くに友人がいなくて…。一人でご飯食べるの、寂しいなって思ってたんです。お忙しいと思うので、悠さんが一緒に食べたいな、と思ってくださった時にぜひ。一人で食べるより二人で食べた方が美味しいですから。

(半分嘘で半分本当だ。大学など出ていないし、地方から上京してきたわけでもない。だが、後半部分に関してはほぼ偽りのない本音だった。人と食卓を囲む温もりを知らずに生きてきたのは事実だ。任務を理由に人と関わったとしても、心を開いたことなど一度もない。だと言うのに、彼に素の顔を引き出されたあの日から、あまりに固く、重く閉ざされていた心の扉が軋む音を立てながら徐々に開き始めているのを確かに感じていた。危険な感情であることも、それが任務を成功から遠ざけることも、自分を破滅へ導く可能性があることも理解していてなお、止めることが出来ない衝動に近い。そうして出てきた言葉は、表向きにはこれまで通り、信頼をつなぎ、距離を縮めるための誘いに見えるのかもしれない。けれどその本質は、これまで自分が積み上げてきた冷徹な計算とはまるで別の場所から生まれていた。ちょうどその時、厨房の奥から店主が盆を抱えて姿を現した。ゆっくりと近づいてくる湯気の帯に自然と目が引き寄せられる。差し出された盆を丁寧に受け取り、礼を述べて卓上へとそっと置いた。並べられた二つの膳からは、揚げたての香りや温かな味噌の匂いがふわりと立ちのぼり、湯気が柔らかく宙を漂う。鼻先をくすぐるその匂いに、思わず口元がほどけるように緩んだ。)

さ、温かいうちに食べちゃいましょうか!

82: 常葉 悠 [×]
2025-10-04 22:47:39

ふふふ……ありがとうございます。確かに皆で食べた方が楽しいですしね。私で良ければいつでも行きますよ。それに君が選ぶお店にも興味があります。

(彼の話を聞いて意外に思った。最近の若者はタイムパフォーマンスを重視し、自分より年齢が上の人間とは積極的に関わりを持ちたがらない傾向にあると聞いていたからだ。だから彼が食事の誘いをしてくれた時、嬉しさが押し寄せた。学生時代は特に気付かなかったが、父親がこの世を去り、何となく母親とも連絡を取ることが少なくなった今では、やはり侘しさを感じている自分がいる。普段から良くない食生活を送っているので、たまには彼と食事をして気分転換するのもいいだろう。そう考えて、彼の誘いを快諾する)

そうですね。いただきます……。

(そんな話をしているうちに注文の品が来た。盆を受け取り、店主の目を見て一礼する。唐揚げの揚げたての香りが鼻腔をくすぐる。久々の湯気のある食事だった。そして久々に食事の挨拶を呟く。箸で唐揚げを持ってみると、ずしりと重たい感覚がした気がした。ここ半年唐揚げを食べてこなかったせいか、それともこの定食屋の唐揚げが特殊なのか判然としなかったが、期待と共に唐揚げを一口齧る。カリッと小気味よい音がしたかと思ったら、肉汁が口の中に溢れてきた。生姜とニンニクの効いたパンチのある味に全身が包み込まれるような感覚だった。事前に聞いていた彼のレビューを遥かに凌駕した味だった。あまりにも衝撃的な出会いに、暫時咀嚼以外に身体を動かすことができなくなってしまった。唐揚げを皿に置き、白米を頬張る。それを飲み込むと、今度は味噌汁を一口啜る。どれを取っても、自分が今まで食べたことがないくらいに美味だった。感嘆が大きな溜息となって出る。そして長く息を吐いたあと、彼を見つめて告げる)

この値段で、こんなにも美味しいものを食べられるとは……定食屋というのは恐ろしいところですね……!

83: 宮村 湊 [×]
2025-10-05 07:52:14

(提案を受け入れられたことに、思わず小さく安堵の息が零れる。ほんの数ヶ月前まで、任務として口にする誘い文句には感情など一切伴わなかったはずだ。次に相手がどう返すか、その返答によってこちらのカードをどう切り替えるか、それだけを冷静に考える作業だったのに。今は受け入れて貰えなかった場合を考えて、恐れで体が少しだけ強ばってしまう。今はもし断られたらと想像しただけで、体がわずかに強ばるようになっていた。安堵の余韻にひたる間もなく、視線は自然と向かいへ引き寄せられた。唐揚げを箸でそっと持ち上げ、ゆっくりと口へ運ぶ彼の仕草、そのひとつひとつを息を詰めて見つめてしまう。自分が料理したわけでもないのに、自分が勧めたものを食べている姿を見ると、審査されているような緊張感に襲われる。唐揚げをひと口噛んだ瞬間、彼の表情がふっと緩むのが見えた。驚きが混じったような、解けるような表情だった。何度か咀嚼を重ねながら夢中になって食べていくその姿は、どこか少年めいていて愛おしいほどだ。自分の世界の一片を受け入れてもらえることは、こんなにも心を温めるものなのか。その事実が、ゆっくりと胸の内を満たしていく。そしてふと、彼の視線と自分の視線が交わった。次の瞬間、投げかけられた素直な感嘆の言葉に、思わず堪えきれず笑みが弾ける)

あっ、はは!お口に合ったみたいで、良かったです。ここは格別ですよ。

(そう返す声には、仕事としての均衡も計算も混じっていなかった。ただ、胸の奥から温かなものがあふれて自然に笑みを形づくっていく。作業的に最適解を選んでいた時には味わうことの出来なかったような感情だ。リスクを承知でこの店を選んだことへのわずかな迷いが、今はすっかり霧散しているのを感じる。遅れて自らも箸を手に取って野菜炒めを口に運ぶ。シャキシャキとした野菜の食感が程よく残っていて、塩味も野菜本来の甘味を打ち消さない適度な加減。相変わらずの店主の料理の腕に感嘆しつつ、白米と一緒に掻き込む。いつも美味しいその料理が、更に美味しく感じるのも気の所為では無いのだろう。混じり気無く、至って純粋に頬が緩みきってしまっていることに気付かないまま相手に再び顔を向けて、ぽつりと一言零す)

悠さんと一緒に来れて、良かった。


84: 常葉 悠 [×]
2025-10-05 21:53:40

(年甲斐もなく料理に純粋に感動してしまった自分を見て、彼が吹き出すと羞恥と同時に充足感を感じた。彼と同じテーブルで恐ろしい程に美味な料理を突いている現実が、こんなにも幸福な気持ちをもたらしてくれるとは思わなかった。そしてようやく気付く。これが食卓なのかと。自分はこれまで食事を機械的に捉えていた。それは幼少期にこうした経験が少なかったからだろう。父親は激務で家にいなかったし、母親も社長秘書を務めていて父親と行動を共にしていた。家では家政婦の作った料理を食べ、時間が来たらベッドで就寝する日々だった。だから自分は食卓の温かさを知らなかったのだ。だが今は違う。彼が食事の温かさを教えてくれたのだ)

うん? ふふ……はははっ! そんな風に思ってくれているとは嬉しいですね。私も湊くんと来れて良かったですよ。君のおかげで食事を楽しいと思えましたから。

(一個、二個と唐揚げを頬張り、白米と共に咀嚼する。そうして料理を楽しんでいると、彼の呟きが耳に入る。顔を上げると、そこには頬が緩みきった顔があった。その瞬間"可愛い"と思ってしまった。自分より年下の若い男性にそのような感情を抱くのは、些かいけない気がしたが、まるで少年のようなあどけない顔に愛おしさを感じていた。そうか、彼はこんな顔をするのか。初めて会った時、彼を"魅力的"だと思った。だが今の雰囲気はまるで違った。こちらが彼の素の姿なのだろうか。あの時とはまた違う雰囲気に、彼の多面性を感じた。そして今度は自分が堪えきれず笑みを弾けさせてしまった。こちらからも混じり気のない本音を添えておく)

85: 宮村 湊 [×]
2025-10-06 09:54:03

(今まではただ効率よく、冷静に、与えられた指令を遂行するだけでよかった。感情を殺すことは生き延びるための術であり、何も感じないことこそが武器だった。けれど今は違う。向かい合う彼の笑顔を見ていると、どこかで固く凍りついていたものがじわりと溶け出していく。知ってしまった。知らなければ、きっと何も揺るがなかったのに。迂闊にも眼前の彼のこの笑顔を、共に居ることで楽しいと言われるこの幸福を守りたいと思ってしまったとしたら、どうしたら良いのだろう。どうしたら、任務とこの気持ちの両方を持ったまま進めるのだろう。そんな問いが、初めて胸をよぎった。)

……悠さん、俺………………

(もう、このまま晒け出してしまおうか。思わず口を開きかけて言葉を止める。喉の奥にまでせり上がった言葉が、熱を持ったまま凍りつく。胸の内で暴れるものは、これまでの人生で感じてきた恐怖や不安とはまるで質が違った。任務の失敗を恐れているのではない。ただ、目の前のこの人を失うことが怖かった。彼に拒絶された瞬間に、自分の中に築いた世界が一瞬で崩れ落ちてしまうのが、あまりにも鮮明に想像できてしまったからだ。静かに一度口を閉じると、いつもの人懐こい笑顔をゆっくりと被せ直す。醜い告白のかわりに、せめて素直な好意だけを差し出す。)

……悠さんと過ごす時間がすごく好きです。ダーツも、食事も。あなたとなら何をしてでも楽しいって思うのかも。

(普段から計算ずくで好意を伝えているためなのか、素直な好意を伝えることにもそこまで抵抗は無かった。ただ、ほんの少しだけ気恥しさが残り、それを誤魔化すように箸を手に取り直すと残りを口に運び、やがてすっかり空になった食器を前に両手を合わせてにっこりと微笑んだ)

ご馳走様でした!

86: 常葉 悠 [×]
2025-10-07 17:34:36

(味噌汁を啜りながら、彼への違和感を抱いた。口火を切ったきり、次ぐ言葉がないのだ。何でも明快に返事をする彼らしくない現象だった。言葉を選んでいるようには見えない。単に言葉を選んで喋ろうとしているのなら、そういった悩みの表情が出るはずだ。だが今の彼はもっと深刻なことを、大事なことを言おうか逡巡している。そういう表情に見えた。実際にはたった数秒の間のことなのだろうが、その時だけはとても長い時間のように感じられた。暫くしてようやく彼が言葉を続けた。きっとそれは本来彼が言いたかったことではなかったのだろうが、少なくとも嘘を言っているようには見えなかった)

ふふ……30年以上生きてきて、そんなこと言われたのは初めてです。

(彼の言葉に微笑みながら返す。彼が本当は何を言いたかったのかは詮索しないでおく。彼のことだから然るべき時が来たら改めて伝えるはずだ。だがそれよりも看過できなかったのは、彼の発言がこちらへの好意を感じさせるニュアンスを含んでいたことだった。社交辞令を言っているようには思えなかったので、本当にこちらに好意を抱いているのだろう。だが真正面から受け止める勇気はなかった。だから笑って誤魔化してしまった。他人から好意を向けられるのは嬉しいが、如何せん受け止め方を知らない。気まずさを誤魔化すために、残った唐揚げや白米を口に運び、黙々と食事をする。そして彼が食べ終わって暫くしてから、ようやく食べ終わる)

ご馳走様でした。いや……こんなに美味しい食事は久しぶりでした。

87: 宮村 湊 [×]
2025-10-07 19:08:33

(きっとこれは一種の職業病なのだろう。自分の言葉が本来告白しようとしたものではなかったと分かっていながら、彼がそれをあえて深く追及せず受け止めてくれたことも、こちらの差し出した好意を理解していながら誤魔化したことも、その一瞬の内に理解してしまった。だが、存外それを理解しても尚、自分の胸中は凪いだ海のように穏やかだった。いつもなら次の一手を探るために総動員される脳も、それ以上の手を探ろうとはしない。気まずそうに食事を続ける彼を前にそれ以上余計な言葉をかけることなく、ただ静かにその姿を眺める。それは諦めとも違っていて、むしろ、不思議な充足に近いものだった。自分の差し出した好意に対して戸惑いを見せるその姿すらも余計に愛しさを募らせる一因へと変化していく。程なくして食事を終えた相手に柔らかな笑みを向けひとつ頷くと、財布を取りだしながらふと考え込む。先日、ダーツ代を支払って貰っていたので、ここは自分が、と言おうとしたが、歳上の人間を前にそれを言うことで、かえって気を悪くさせてしまわないだろうか、と初めて小さな迷いが胸を掠めた。普段であれば、相手の出方を見て判断をしていたので、こんなことで悩むのは初めてだ。───でも、ここで何もせずに終わらせたくない。そんな衝動が胸の奥で静かに疼く。手にした財布をテーブルに置き直すと、ふっと笑ってから、できるだけ自然に口を開いた。)

俺の一番お気に入りのお店なので、悠さんにも気に入って貰えて良かったです!……あの、もし良ければ今日は俺に払わせてもらえませんか。今日、凄く幸せだったので。

(言いながら、自分でも驚くほど心が軽くなっていくのを感じた。打算や計算ではなく、ただ今日の幸福に何かひとつ返したい──そんな衝動が、自然に言葉へ変わっただけだった。相手が断れば素直に引くつもりだし、受け入れてくれるならそのまま感謝を込めて支払えばいい。そう思えること自体が、これまでの自分にとってはあり得ない変化だった。彼がどんな反応を見せるのか。困惑したように眉を下げるのか、それとも笑って受け止めてくれるのか。財布を握る指先に自然と力がこもる。相手がどんな表情を見せるのか、まだわからない。その一瞬を待つ時間が、計算で導いたどんな駆け引きよりもずっと胸を高鳴らせていた。)

88: 常葉 悠 [×]
2025-10-07 23:04:41

(彼が向けてきた好意をどうするべきか。頭の中はそれでいっぱいだった。嫌悪感がある訳では無い。彼が自分に対して直截に想いを告げてきたら、恐らくそれを受け入れるだろう。だが自分の過去の経験が後ろ髪を引く。そして"上手くいくわけが無い"と囁くのだ。彼が人によって態度を変えるような人間であると疑っているわけではない。しかし自分の立場が彼に嫌な想いをさせてしまうかもしれない。今までもそうだった。だからきっとこれからもそうに違いない)

……分かりました。ではここのお支払いは、湊くんにお願いしますね。

(彼の好意をどうすればいいのか──そんなことに思考を巡らせていると、彼が意外な提案をしてきた。元よりここの会計も自分が済ませようと考えており、それが既定路線だと思っていたので、戸惑いつつ彼の申し出を断ろうと口を開きかけた。しかし、よく考えてみれば自分は頼まれもしないのに支払いをした。それによって彼に一種の罪悪感が芽生えてしまってはいけない。それにわざわざ支払いを申し出ているのだから、あまり無下に断るのも彼の心を傷付けてしまうことになるのではないだろうか。考えすぎかもしれないが、人間の心は読むことができない。だからこそよく思いを馳せることが大事だ。特に彼には。言いかけた言葉を飲み込み、彼の申し出を受け入れる)

89: 宮村 湊 [×]
2025-10-08 08:11:46

(返ってきた答えに、胸の奥がふっと緩むのを感じた。口元に柔らかな弧を描き、ひとつ大きく頷くと財布を手に立ち上がり、店主へ視線を送りながらレジへと向かう。手早く支払いを済ませ、財布をポケットに戻して笑顔で「ご馳走さまでした」と告げたそのとき「まぁまぁ、お兄さん。今日はなんだか、いつもよりずっと楽しそうなお顔ねぇ」と年季の入った声色で、店主の女性がにこやかに笑いながらそう言った。柔らかく皺を刻んだ目元が、まるですべてを見透かしているかのように温かい。思いもよらぬ言葉に、短い沈黙が落ちる。頬の奥から熱がこみあげ、じわりと顔全体が赤く染まっていくのをはっきりと自覚した。普段は任務のために感情を制御することなど造作もないはずなのに、こうして無防備に微笑んでいた自分を指摘されると、まるで心の奥を覗かれたようでたまらなく気恥ずかしい)

……そ、……そうですかね。美味しくて、つい。

(努めて平静を装いながらも、声の端がわずかに震えた。照れ隠しに頭をかきながら会釈をして、そのまま席へ戻っていく。背中越しに、店主の穏やかな笑い声が追いかけてきた。彼に聞かれていないと良いが、と思うものの、この狭い静かな店内、聞かれていない方が無理があるだろう。頬を掻きつつ席に座り直すと、鞄と紙袋を手に取りながら相手に声を掛け)

あの、……この後、少し時間ありますか?近くに公園があるので、ちょっとだけ散歩して帰りませんか?

90: 常葉 悠 [×]
2025-10-09 20:00:12

……ふふっ。

(彼が戻ってくるのを待っている間、二人の会話が耳に入り、和やかな気持ちになると共に頬が緩んでしまう。まるで本当の祖母と孫のような会話だと思った。馴染みの店だけあって、親しげな会話に、ここはやはり彼が大事にしている店なのだろうと改めて思う。そういう場所に招待してくれたということは、やはり彼は自分に何かしらの思いがあるのだろうか。しかし、なぜ? たった二回ダーツをプレーしただけだというのに。そんなことを考えていると、こちらへ戻ってきた時の彼の照れ顔に、胸が高鳴ってしまう。こんな表情もするのか──今までとはまた違う彼の素の部分に、思わずドキッとしてしまった。もっと色々な表情を見たい、なんて一瞬だけ考えてしまうが、すぐに振り払う。彼相手にそんな気持ちを抱いてはいけない。そんな気がした)

それはいいですね。いや、歳をとると消化が遅くて、ゆったりとした時間が欲しくなりますから。

(散歩の提案をされると、すぐに快諾する。理由は我ながら情けないと思ったが、本当のことなので仕方がない。若い彼は大丈夫だろうが、自分としてはゆったりと過ごす時間が丁度欲しかったので、渡りに船の提案だった。欲を言えば普段から食後はそういう時間が欲しい。仕事中は特に。だが社長という立場ゆえのスケジュールがそれを許さない。普段得ることのできない時間を、ここで確保しておかなければ、そろそろストレスでどうかしてしまいそうだった。こういう所で、自分と彼は波長が合うのかもしれない。互いの欲しいものを補完し合えるのかもしれない、なんて大袈裟に考えすぎだろうか。彼の提案を快諾すると、ゆっくりと立ち上がり、店主に一礼する)

91: 宮村 湊 [×]
2025-10-09 23:19:40

良かった。ちょうど今の時期なら気候も良くて気持ちいいと思いますし!じゃあ、行きましょうか。

(漸く火照りが収まった顔を上げると、安堵したように微笑を浮かべて鞄の肩紐を整える。もう一度店主へ丁寧に礼を伝えてから、静かな夜の空気の中へと足を踏み出すと、昼の名残をまだほんの少しだけ残した柔らかな風を感じて心地良さそうに瞳を細めた。駅前から少し離れたこのあたりは、昼間でも人が少ないが、夜は尚のこと静まり返る。静寂の中、二人の足音が響く心地よい音に耳を傾けつつ、並んで歩く歩幅を意識しながら歩みを進めていくうちに、自然と視線が隣を歩く彼の横顔へと惹き付けられていく。街灯に照らされたその表情を眺めながら、ふと思い立ったように口を開いた。)

また近いうちに一緒にダーツもしたいですね。負けたのがちょっと悔しくってまた練習したんで、次こそ負けませんよ!

(実際、あの夜からというもの、何度か一人でダーツバーに足を運んでいた。何でもある程度そつなくこなせる自分が、何かに本気で打ち込むことなど滅多にない。それでも、真剣に戦った上で彼に完敗したあの瞬間だけはどうにも忘れられなかった。何度も練習を重ねたことで、前回よりは投げられるようになっているという自負もあり、朗らかな笑顔と共に挑戦的に口角を上げると宣戦布告をし)

92: 常葉 悠 [×]
2025-10-10 23:12:08

それは楽しみですねぇ。接戦でしたから、今度は負けてしまうかも。でもまぁ、こちらにもプライドがありますから、そういうことにならないためにも手加減はしませんからね。

(彼が唐突に突き付けてきた挑戦状をしっかりと受け取ると、謙遜を繕いながらもしっかりと挑発をしておく。年甲斐もなく──なんて片方では自嘲してみるが、もう片方では競い合えるライバルの誕生に嬉しさを隠せない。交友関係が薄いがゆえに、彼のような存在は人生で初めてといってもいいくらいだ。これまで仕事のことを忘れるために様々な趣味に興じてきたが、どれも一人で完結できるものばかりだった。無論、一人だった時も十分に楽しかったが、彼という存在ができてからは、新しい景色が広がって見えた。"友達"とはこういう関係を言うのだろうか)

俺……私には友達がいません。だから君のような友達ができて、とても嬉しいですよ。そう、ダーツ以外にも色々とやってみたいですねぇ……。こう見えて意外と多趣味なんですよ。私。

(心地よい風と、柔らかな静寂、そして気の置けそうな友人との会話のせいだろうか。つい、本来使っている一人称を口走ってしまい、慌てていつもの口調に戻す。別にまずいことは無いだろうが、出会った時の口調を今更変えるのも気恥しい。彼は気にしないだろうが、所謂"コミュ障"の自分は、そういうことを特に気にしてしまうのだ。目敏い彼のことだから、自分のそういう部分も気が付いているだろう。だから彼の注意を別に引きたくて、趣味の話を継続する。そういう姑息なことをしながら、風を全身に感じ、革靴の音を響かせて、静寂の中を歩いていると公園らしき場所が見えてきた。夜の帳のおかげか、自分が想像していたよりも、独特な雰囲気が漂っていた)

93: 宮村 湊 [×]
2025-10-11 09:11:50

(友達、と心の中でその言葉を噛み締めるように反芻する。今まで生きてきた環境の中で、誰かを信じることは弱さの象徴だった。周囲の人間は信頼の対象ではなく、利用すべき資源。誰と話すにも距離と打算を測り、互いの得と損を勘定して動く──それがこの世界の常識だった。歳の近い同僚ですらも友人と呼べるような間柄では無く、寧ろ商売敵に近い。だが、"宮村 湊"はそうでは無い。明るい好青年を装って友人が居ないという設定は無理がある。だから本当は知らないのに知った振りをして笑顔を浮かべた。そして、同時に恐らく自分が抱いている感情は友愛の枠にすら収まっていないことも自覚していた。彼と会話を重ねる度に知らず知らずのうちに自分の隠していたものが晒されていくようだ。他人の愛情を散々利用してきた自分が愛情にここまで乱されているのは滑稽だと自嘲めいた笑みを口元にだけこっそり忍ばせつつ、しかしこの気持ちは自分を友達だと呼ぶ彼に伝えるべきではないだろうと判断し口を閉ざす。会話を重ねている内にぽろりと零れたのは彼の素の一人称なのだろうか。無意識に漏れた言葉を慌てて取り繕うその様子がどこか愛しくて追及する気にはなれなかった。到着した公園は淡い光を宿した街灯が一定間隔で灯っているのみで、時折犬の散歩をする主婦や仕事帰りらしいサラリーマンとすれ違う程度で静寂を保っている。ゆっくりとした歩調で歩みを進めつつ、彼が趣味の話を広げようとしているのがわかり、わざとはぐらかされるように緩く首を傾げて楽しげな様子で相手に問いかける。彼の好きなもの、休日の過ごし方、そして心の奥にあるもの。それらを一つずつ辿っていけば今よりほんの少しでも彼に近づけるような気がしていた)

へへ、こちらこそですよ!悠さんに友達って言ってもらえるなんて光栄なことです。他にはどんな趣味があるんですか?俺、結構色んなことに挑戦してみるの好きなんで、俺でも出来そうなことがあったら、ぜひ一緒にやりましょう!

94: 常葉 悠 [×]
2025-10-12 13:42:52

色々やってますよ。釣り、ビリヤード、ゴルフ……そんなところでしょうか。ふふ……湊くんは運動神経が良いみたいですから、ダーツ以外では私は勝てないかもしれませんね。

(彼に前向きなチャレンジ精神に安堵と感嘆をしながら、自分がやっている趣味を指で数えてみる。どれも一人でやっていても違和感の無いものばかりだ。とはいえ、ゴルフは一人ラウンドだと些か目立つのだが。だが周囲の目など趣味の世界では知ったことでは無い。ただでさえストレスフルな環境で仕事をしているのだから、プライベートな趣味くらい、思いきり楽しまなくてどうする。趣味に没頭する時間は、自分の中では重要なストレス発散の時間だった。今では彼と会話することも、その時間に当てはまる)

ああ、でも一番の趣味はコーヒーですかね。自分の手でコーヒーを淹れる……学生時代からずっと続けている趣味です。尤もこれは、二人で楽しめる趣味とは言えないかもしれませんけどね。

(公園の中をゆっくりと進むと大人二、三人が座れそうなベンチがあった。やや疲れを感じたので、休憩がてらベンチにゆっくりと腰掛ける。たった数分歩いただけで疲れを感じるほどに、自分は年々体力がなくなっている。学生時代は若さは永続すると思っていた節があるが、やはり30を過ぎれば少なからず加齢が身体に制約を与える。ベンチに腰掛けて一息つくと、最も長い趣味を思い出す。学生時代に大人ぶりたいという邪な理由から始めたのが、コーヒーのハンドドリップだった。軽い気持ちで始めたが、奥が深いコーヒーの世界にすっかりとハマってしまった。彼はコーヒーなど好きだろうか。もし好きだったら、自宅に招いて振舞ってみたい。そこまで考えて、いつしか思考の中心に彼がいることに気付く。今までそんなことなかったのに。そして、ようやくこの感情が友愛の枠を超えてもたらされたものだと気付く。誰かを好きになることなどをもうないと思っていたのに)

95: 宮村 湊 [×]
2025-10-13 02:35:28

わあ……似合いそう!アウトドア系の趣味も多いんですね。俺の運動神経はそれなりですよ、器用貧乏って感じで、そこそこ色んなことが出来るんですけど、特筆してこれが凄い!って言うのは無くて……。だから、きっと思ったよりですよ。でも、趣味の幅が広がるのは嬉しいので、良かったら俺のこと誘ってくださいね!

(指折り数える彼の仕草を眺めながら、思わず柔らかな笑みが零れる。どの趣味も彼らしい、落ち着きのある趣味だと思った。ゴルフは以前に対象の趣味に合わせるために少しばかり付き合ったことがあるが、釣りとビリヤードは経験したことが無い。些か実情以上に自己評価の低いように感じる彼の言葉に緩く首を横に振りつつ、自らの手の内を晒すように言葉を返す。言葉通り、ある程度のところまでであれば、教われば出来るようになるだろうという確信はあるものの、彼に実力で勝てるようになるまでにはそれなりに時間を要するだろう。だが、それもまた楽しそうだと考え至れば、口元に弧を描きつつ返す言葉にそっと自らの意思を忍ばせる。程なくして空いていたベンチに腰を下ろした相手の隣に腰を掛けると、新たに告げられた趣味に静かに思いを馳せた。コーヒーを淹れる彼の姿を想像し、思わず口元が綻ぶ。買ってきたお気に入りのスイーツのお供にコーヒーを淹れたりするのだろうか。彼が淹れるコーヒーはどんな味がするのだろう。そんなことを考えて僅かに瞳を細めると、胸の前で手を合わせ、明るい声を上げた。)

良いですね、コーヒー!俺も毎朝飲んでますし大好きですけど、自分で淹れたりしたことは無かったなぁ……。二人で………、あ。

(折角であれば、一番の趣味と表現するコーヒーを共に楽しんでみたいとは思うが、彼の言う通り二人で楽しむ趣味ではあまり無いのかもしれない。彼が淹れたコーヒーを飲んでみたい気持ちはあるが、それは共に趣味を楽しんでいるかと言うと微妙なところだ。少し考えるようにしていたものの、不意に何かを思い立ったかのように声が零れる。口にするか迷うように数秒口を閉じた後、決心したように膝に乗せていた紙袋を手に取ると相手に差し出して)

…あの!俺、ちょっとしたお菓子作りが趣味で。本当に、そんなに大したものは作れないんですけど、少しクッキーを焼いてきたので、この前のお礼も兼ねてお裾分けしようと思ってたんです。……もし、お口に合うようでしたら、俺がお菓子を作って、悠さんがコーヒーを淹れて……いつか一緒に楽しめたらいいなって。

96: 常葉 悠 [×]
2025-10-13 21:37:09

え? わざわざ……? ……ああ、ふふふ……ありがとうございます、それでは遠慮なくいただきますね。

(コーヒーへの好意的な反応から一転、何を思い立ったのか不自然に漏れた声と、彼らしからぬ間に一抹の不安を覚える。まさか、なにかまずい事でもあっただろうか──そんなことを考えていると、突然目の前に差し出された紙袋を見て、ゆっくりと瞬きをする。唐突の行動に意図を図りかねていたが、彼の言葉を聞いて得心がいった。きっと彼は彼自身の趣味を開示するのに勇気が必要だったのだろう。作ったお菓子が自分の口に合うのか不安だったのだろう。きっと数多くあったはずの不安要素を払って、勇気を出して自分に紙袋を差し出したのだろう。スマートな彼のそういう部分を垣間見て、愛おしさが芽生えた。彼の様子が可愛く思えて、つい笑い声が漏れてしまうが、きちんと礼を言って紙袋を受け取る。待ち合わせた時から持っていた紙袋の正体が解けて、すっきりした気分だった。しかし、今度は自分が迷う番だった。紙袋を受け取った途端に、自分が彼を"愛おしい"と思った事実を自覚してしまった。これまでの自分だったら、気のせいだと思い込んで何事も無かったかのように、日常に戻っていた。しかし、今はこの機会を逃してはいけない。そんな気がした。自分には信仰はないし、運命などという胡乱なものは信じたことは無いが、この出会いは必要なもののように思う。彼も決心したのだから、自分も決めなければならない。そう思って、辿々しくも言葉を紡ごうとする)

……家、来ますか。いつかなんて言わず。今、一緒にコーヒー飲みませんか。クッキーもあることですし。

97: 宮村 湊 [×]
2025-10-14 00:44:12

(一瞬、呼吸が止まった。耳に届いた言葉を何度か頭の中で反芻して、それでも直ぐには意味が掴めなかった。差し出した紙袋を断られる可能性も当然想定の内で、あるいは断ることが出来ずに困らせてしまうかもしれないという懸念も渦巻いていた中で、穏やかな笑顔と共にそれを受け取ってくれた事実だけで十分に満たされていたというのに。唐突に差し出された提案は予想の遥か上を行くもので、嫌に五月蠅く響く心臓が、自分の感情が仕事では留まっていない事実を突き付けてくるようで、味わったことのない感情に翻弄されるかのように言葉が詰まる。それは社交辞令の「今度」でも、曖昧に誤魔化すための「いつか」でもない、紛れもなく自分を誘うための、逃げ道など最初から用意していない「今」だ。眼前にある彼の眼差しは余りに真剣で、そして自分と同じようにほんの少し緊張の色が混じっているのが見えた。───そうか、彼も勇気を出して誘ってくれたんだ。その事実に行き着いた瞬間、胸の奥の緊張が静かに解けていくのを感じた。自然と頬が緩み、作り物ではない多幸感に満ちた笑顔が浮かぶ。ああ、きっともう引き返せない。そんな危険な確信を得ながらも、考えるより先に気付けば大きく一つ頷いていた)

はい、ぜひ!お邪魔じゃなかったら、…一緒に飲みたいです。コーヒー。

98: 常葉 悠 [×]
2025-10-15 22:16:20

そ、そうですか。じゃあ行きましょうか。

(勇気を出して出した提案が受け入れられると、嬉しさと同時に緊張が襲ってきた。心臓がまるで床に叩き付けられたスーパーボールのように跳ね上がる。鼓動がうるさいくらいに鳴る。彼に聞こえてしまうのではないかと思うほどに。うるさく、速く鐘を打つ。仕事をしていてもこれ程までに緊張したことは無い。自分の人生で恐らく一番の、心落ち着かないイベントだ。それでも何とか取り繕わなければと、ベンチから立ち上がると彼に一声掛けて、駅の方へ歩き出す。もう細々としたことなんて考えていられない。とりあえず、彼を家に連れて行かなければならない。本当なら、スマートに案内できればいいのだろうが、緊張から足早になっていて、しかも時々足を取られているという始末だ。何とか駅まで着くと、あと数分で電車が到着する頃だった。改札を通りホームへ向かうと、ここまで特に目立った会話をしていなかったため、緊張を紛らわせるために彼に話しかける)

自宅は待ち合わせした駅から、タクシーで5分くらいの場所にあります。清掃が行き届いているという訳ではありませんが……まあ、細かいことは目を瞑ってくださいね。ああ、そうそう。君はどういう味のコーヒーが好みですか?

(人間緊張している時は、饒舌になるというのは本当なのだと実感する。普段ならば絶対に、こんなに矢継ぎ早に口を動かすことなどないのに、今は一瞬の空白が生まれるのも怖くて、言葉を紡いでしまう。些かでもリラックスできれば、また違うのだろうが生憎としばらくはこんな調子になりそうだった)

99: 宮村 湊 [×]
2025-10-15 23:20:12

(自分も緊張を覚えていないわけではなかったのだが、承諾の返事をしたあとに見せた彼のわかりやすい動揺を目にすると、その初々しいまでの緊張ぶりがどうしようもなくいじらしく思えた。あまりに素直で、どこか不器用なその反応が無性に愛おしく感じられて、頬の筋肉が自然と緩み思わず笑みが零れそうになる。けれど、こちらの視線に気づいてしまえばきっと彼はさらに居心地の悪さを感じてしまうだろう。そう考えて言葉も掛けずただ静かに心の奥で温かさを噛みしめながらその姿をこっそりと見つめていた。駅に入りホームへと向かうと、ようやく口を開いた彼の言葉はいつもよりずっと早口で、それが彼の緊張の名残であることを察すると思わず微笑が漏れる。安心させるように意識してゆっくりとした口調で応じた)

悠さんのお家って、本当にあのダーツバーの近くだったんですね。気にしないでください、押しかけてるのは俺ですし……あ、コーヒーは酸味が強いものよりは苦味が強いものの方が好きです!

(ふと、彼の手に握られている紙袋へと視線が落ちる。その中には自分が焼いたクッキー。味見もしたし、形の悪いものは弾いて、丁寧にラッピングも施した──何の問題もないはずだ。けれど、それが彼の口に合うかどうかと思うと胸の奥がまた少し熱を帯びる。自分が作ったものを彼がどんな表情で食べてくれるのか、想像するだけで鼓動がわずかに速くなる。そうしている内にホームへ滑り込んできた電車へ再び乗車し、奥の方の扉の前で手すりを掴む。程なくして電車が動き出すと規則正しい振動が足元から伝わり、胸の内のざわめきを少しずつ均していく。この流れを予想してクッキーを焼いたわけではなかった。むしろ、彼が甘党だと知ったのはほんの数時間前のことだ。お菓子作りは本当にただの趣味だったのだが、こんな偶然もあるものかと内心感嘆の息を吐きつつ緩く首を傾げて彼を見つめた)

豆とかは俺、全然詳しくないので分からないんですけど。悠さんのオススメはありますか?



100: 常葉 悠 [×]
2025-10-17 19:56:26

苦味……そうですか、苦いのが好きですか。覚えておきます。

(ゆっくりとした口調で話し掛けられると、自分が早口で喋っていたことを自覚させられる。その彼のこちらを安心させるような口調のおかげで、幾分かこちらも落ち着きを取り戻せたように思う。年上の癖に無様なものだと自己嫌悪したくなったが、彼の好みの味を記憶する方に意識を向ける。やがて電車がホームへ到着すると、彼と同時に乗車し、彼の隣で吊革を掴む。規則正しい電車の振動を意識的に聞くようにすると、また少しだけ心が落ち着く感覚がした。だが彼からコーヒー豆のおすすめを聞かれると、また心がざわついた。彼の好みは苦味が強いもの。しかし人間の味覚とは人それぞれだ。自分が良いと思っても彼は思わないかもしれない。苦味の程度もどれくらいがいいのか。どれをおすすめするのがいいか──候補はいくつも出ているものの、答えを一つに絞るのは存外難しく、様々な考えが脳を交錯する)

そうですね、焙煎の深さにもよって変わるのですが……苦味が強いのが好きなのであれば…………インドネシア産のマンデリンやトラジャがおすすめでしょうか。どちらも酸味はほとんどなく、深く焙煎することで濃厚な苦味とコクが感じられます。

(大いに悩み、電車ももうすぐで目的の駅に着くという中、ようやく口を開いておすすめの銘柄を挙げる。無難なものを薦めたが、実際のところ淹れ方によって大きく変わるのだ。だから結局、淹れ方を深くすればするほど苦味やコクは得られる。丁度自宅に自分が薦めた銘柄の豆があるため、試しに淹れてみようか。果たして彼は気に入ってくれるだろうか。程なくして待ち合わせした駅に着くと、改札を通り、外へ行く。歩いて自宅へ向かってもいいのだが、彼も疲れているだろうからと、駅前に停車していたタクシーに乗り込む。足元にカバンを置きながら、マンションの名前を告げると、運転手は二つ返事でハンドルを動かす。いつもなら自分の膝の上にはカバンが置かれているが、今日は彼お手製のクッキーを乗せている。きっとコーヒーによく合うだろう。この紙袋の中身を早く見たくて、自分のコーヒーの味を彼に試して貰いたくて、普段はなんとも思わない帰路が、とても楽しみに思う)

101: 宮村 湊 [×]
2025-10-18 09:56:45

マンデリン…トラジャ…どちらも飲んだことがないので楽しみです!

(彼の口からすらすらと出てくるコーヒー豆の名前はどれも耳馴染みのないもので、興味深そうに耳傾けていると、電車はあっという間に目的地に到着した。相手の後を追い改札を出てタクシーへと乗り込むと、その膝の上に大切そうに置かれた紙袋を見て少し気恥しさと同時に嬉しさを覚え、口元が緩む。その時、不意にポケットの中に入っていたスマートフォンがマナーモードで振動した。定例の報告を求める組織の上長からの電話だろう。夢見心地から一気に現実に引き戻されたような気がして、そっとスマートフォンを取り出すと、すぐに通話終了ボタンをタップする。これで電話に出れない状態であることは上司にも伝わっただろう。後で纏めて報告すれば良い──正しい報告をするとは限らないが。彼の大きな不利益にならないことを掻い摘んで、怪しまれない程度に報告を繰り返せばいい。今までかなり真面目に仕事に取り組んできた自負がある。暫くはきっと露見することもないだろう。そんな策謀を頭のなかでめぐらせつつ、再びスマートフォンをポケットにしまい込むと軽く頭を下げて謝罪してすっとぼけたような声を出し)

…すみません、迷惑電話みたいでした。最近すごく多くて。どこかで俺の電話番号漏れてるのかなぁ。

102: 常葉 悠 [×]
2025-10-18 23:15:04

情報はいつ漏れるか分かりません。細心の注意を払わないといけませんよ。……ああ、そうそう。前にこういう話を聞いたことがあります。

(タクシーが発車して間もなく、彼の携帯が鳴った。だが画面を見たと思ったら、すぐに切って仕舞った。電車なら分かるが、タクシーで電話に出ないというのは何故なのか気になっていたところ、迷惑電話の件を聞いた。自分も仕事用の電話に迷惑電話が来たことはないが、プライベート用のものならば何度かある。だが彼の口ぶりからして、頻繁に来ているらしい。そしてふと、以前知り合った他企業の社員から聞いた話を思い出して、彼に聞かせる)

大手の化粧品会社の女子社員が、バーで人懐こい好青年と知り合ったそうです。社員は青年と友達になり、知り合って半年ほどで二人は男女の仲になりました。ある日、社員は青年の自宅にスマホを忘れてしまいました。青年はすぐに届けに来てくれたのですが、実は青年は裏社会の工作員で、スマホから仕事の情報を全て抜き取ってしまいました。不用心にもスマホには、会社の社運を賭けた大型取引のプレゼン資料が入っていたそうです。もちろん社外秘の機密情報です。その情報を競合の会社に売られてしまい、取引は横取りされました。会社は倒産は免れましたが、業績は悪化して大規模なリストラを実施せざるを得なくなってしまったそうです。自分の軽率な行動で仲間を路頭に迷わせてしまったこと、信頼を寄せた青年に裏切られたことに絶望して、社員は自ら命を絶ったそうですよ。
情報は命そのものです。番号が漏れている疑いがあるのなら、すぐに対応した方がいいと思いますよ。……なぁんて、エンジニアの湊くんには、釈迦に説法でしたね。

(聞いた話を思い出すかのように宙を睨みながら、口を動かす。多少記憶が曖昧なところがあるが、概ねの説明は合っているだろう。説明を一頻りすると、彼の方を向いて眉間の皺を寄せながら助言をする。釈迦に説法だし、余計なお世話だと分かっていたが、彼にはそういうトラブルに巻き込まれて欲しくないので、一応伝えておきたいと思ったのだ。そんな話をしていると、あっという間にマンションに到着した。いつものように素早く財布を取り出し、クレジットカードで支払いを済ませると、タクシーを降りる)

103: 宮村 湊 [×]
2025-10-19 09:10:22

…ええっ…、怖いですね。電話番号くらいなら大丈夫かなと思ってましたけど…対処しておきます。

(掛かってきた電話が迷惑電話でないと気づかれるはずも無いので、この話はここで終わるだろうと考えていたものの、話が思わぬ方向へと展開されて行き、正直内心では冷や汗をかいていた。自分の正体がバレたのかと一瞬疑ったものの、相手の言葉のニュアンスを汲み取るにそういう訳でもないようで、静かに息を吐き出しながら瞳を細める。──3個ほど前の案件だったか、確かにそんなことがあった、気がする。細かいところは少し事実とズレがあったものの、そこは噂話として伝わっているもの、多少歪んでいてもおかしくはないのだろう。自分の仕事は機密情報を抜き取ることで終わっていたため、その後彼女がどうなったかまでは知らなかったが、命を絶っていたとは。気の毒そうな表情を作って心を痛めたような声音でそう返したものの、心の中は恐ろしいほどに冷めていた。全てを仕事と割り切っていたためだ。いちいち標的のその後を心配して心を痛めているようではこの世界では生き残れない──そう教わってきた。だから、唯一の例外は隣に座る彼だけだった。仮面を外した本当の自分は、自分が間接的に死に追いやった人間の死すら悼むことのできない非情な人間だと、もし彼が気づいたとしたら。そこまで考えて仄暗い気持ちが浮かんでくるのを隠して停車したタクシーから降車する。純粋に心配してくれて話してくれたのであろう彼の善意が、自分は彼の隣に並ぶべきではないと突きつけてくるようで、振り払うように軽く首を横に振り、静かに深呼吸をすると見慣れぬ光景にそわそわとするようなふりをして辺りを見渡し)

104: 常葉 悠 [×]
2025-10-20 00:15:48

どうしたんですか、そんなにキョロキョロして。 まあマンションばっかりですから、あんまりこの辺は来ないですよね。さあ、行きましょうか。

(タクシーを降りると何やら彼がそわそわとしていたので、クスッと笑いながら声をかける。見回せばマンションばかりの光景が珍しいのだろうか。地方出身と言っていたし、まだ都会の光景に慣れていないのかもしれない。不安げにも見える彼の表情に、和ませてあげなければと思い立ち、マンションの中に入りながら言葉を続ける)

ここは分譲マンションでしてね。友達とか恋人とかと過ごしやすいようにと、大きめの部屋をウキウキで購入しました。しかし買った後で友達も恋人もいない事に気付きましてね。ふふふ……誰かを部屋に招いたのは君が初めてですよ。

(入口にあるパネルを操作しながら、冗談を交えながら言う。部屋にゆとりを持って暮らしたかったことと、オートロックの解錠方法が顔認証なのでセキュリティがしっかりしていることが、このマンションを選んだ本当の理由だが、多少冗談ぽく伝えた方が、彼も気が楽になるかもしれない。無論、自分の拙い冗談が伝わればの話だが。パネルに部屋番号を入れた後、顔認証でエントランスのドアを開ける。エントランスに入ると、エレベーターで自分の部屋のある階のボタンを押す。自分は最上階に住んでいるので、20階のボタンを押す。所謂タワーマンションと呼ばれる物件だが、実のところあまり気に入っていない。窓からの景色は良いものに違いは無いが、自分の会社のビルが見えてしまうのだ。気が付けばそこばかりを見てしまう。だから自室にいても仕事のことを考えてしまい、身体が休まらないのだ。だから一日中カーテンを閉めて生活している。だが今日は折角の来客だ。夜景は綺麗な部屋だから彼に見せてあげたい。今日くらいはカーテンを開けてみよう。そんなことを考えていると、目的の階に着いた。エレベーターを降り、部屋の前まで来ると、部屋の横に備え付けられているパネルに顔を見せ、顔認証でドアを開ける)

さあ、どうぞ入って。

105: 宮村 湊 [×]
2025-10-20 18:36:10

あ…、いえ、凄く大きくて綺麗なマンションだったのでびっくりしちゃって!…っ、あはは!じゃあ俺、悠さんにここに招いてもらう初めての人なんですね。なんだかとっても嬉しいです。

(相手の後に続きエントランスへと入りながら無邪気な声を上げる。彼がどこに住んでいるかなど報告書でとっくに知っていたのに知らないようなふりをして笑顔を浮かべた。かつて仕事をする中で同じようなタワーマンションや豪邸に案内されたこともあったが、皆一様に聞いてもいない自分の住居についての自慢話を聞かせてくるものだった。彼の住む部屋も都会の一等地のタワーマンション、加えて最上階ともなれば相当値が張っているのは想像に難くない。彼にも自慢話のひとつやふたつくらいあるだろうかと考えながら背後に控えていると、彼の口から掛けられた言葉は落ち着かない様子を見せている自分への配慮のようで、一瞬拍子抜けしたように目を丸めたあと、思わず吹き出した。その気遣いが彼らしいな、と口元を弛めてエレベーターへと乗り込む。灯った最上階のランプを眺めながら、ぼんやりと先程の彼の言葉を考えていた。実際、自分以外のプライベートの彼の交友関係は本当に狭いものらしい。自分が関わりを持った同じような立場の人間の中では彼が一番根が優しく、真面目なのに、少し不器用なところが災いしているのか──難儀な話だ。とは言え、正直に言えば彼に交友関係が少ないことを喜ばしく思ってしまっている自分もいた。自分が彼に惹かれたように、彼の本質に惹かれる人間はきっといる。そのようなライバルが目下存在しないというのはそれだけで安心できた。タクシーの中で彼の話を聞いた時もそう、自分の考え方はあまりに合理主義的で非人道的だとはわかっていた。彼のような人間に相応しくないのは自分であると理解していながら、尚手を伸ばそうとしてしまう浅ましさも。それら全てを隠すように静かに瞳を伏せ、程なくして最上階へと到着したエレベーターから降りると、開かれた扉の中におずおずと足を踏み入れる)

お邪魔しまーす…

(広々とした玄関で靴を脱ぐと丁寧に揃えて端に寄せる。彼が入って来れるように廊下を少し先まで進んでから、部屋の主たる彼を待つように立ち止まった)

106: 常葉 悠 [×]
2025-10-20 20:43:44

(丁寧に靴を脱いで揃える彼に好感を持ちつつも、内心は些かの不安と緊張に苛まれていた。まずここ最近はまともに家の掃除をしていない。元々家事能力が低く、放っておくとすぐに散らかり放題の部屋になっていた。だから定期的に部屋の掃除をするように意識していたのだが、最近は業務が多忙を極め、家に帰ると死んだように眠り、早朝に出社する生活を繰り返していた。家の様子など気にする余裕はなかったし、そもそも最後に掃除したのがいつなのかも覚えていない。だからリビングがどういう状態なのかも分からない。廊下で待っている彼に失望されないかと不安になりながらも、ドアを閉め靴を脱いで玄関に上がる。意識的にゆっくりと歩きながら、彼を追い越しリビングのドアノブに手を掛ける。ギィィ……とドアの開く音が聞こえるくらいにゆっくりと、ドアを開ける。ほんの少しドアを開けて、中の様子を伺ってみる。暗くてよく分からないが、少なくとも物が散逸しているということは無さそうだ。それを確認すると、ようやく緊張が解け、勢いよくドアを開け、リビングの電気を付ける)

ソファでも椅子でも、お好きな所に座ってください。すぐにコーヒー淹れますからね。

(彼に声を掛けながら、スーツの上着とカバンを置きにウォークインクローゼットへ向かう。いつもなら書類などはカバンから出してから仕舞うのだが、来客中であるし、今日はもう書類に目を通す気になれなかった。スーツの上着とベスト、ネクタイを脱ぎ、ハンガーに掛ける。彼から貰ったクッキーの入った紙袋を片手にリビングへ戻る。キッチンに入ると紙袋を置き、手を洗って棚からいくつかコーヒー豆の入った瓶を取り出す。どれがいいだろうか──テーブルに並べた瓶を前に、腕を組みながら小さく唸る。だが考えていても埒が明かないと思い、ここは彼に直感で選んでもらうことにする)

湊くん。この中からどれか一つ選んで頂けますか? どれも苦味が強い傾向にある豆ですが、私一人では決められないので、君に直感で選んで欲しい。

107: 宮村 湊 [×]
2025-10-20 21:12:05

わぁ…広いですね。じゃあ、ソファお借りしますね。

(相手に続いてリビングへと足を踏み入れて辺りを見渡す。確かに少しばかり出しっぱなしになっているような物がところどころに置かれている様子はあったものの、"散らかっている"と形容されるほどの状態では無かった。ここ最近は多忙を極めていた様子であったし、整理する時間も無かったのだろうと考えてそれ以上まじまじと眺めることはせずに促されるままにソファへと腰掛けた。広々とした部屋故に却って掃除も億劫になってしまっているのだろうか。一人で疲労困憊の中、何部屋も掃除をするのはやはり大変なのだろう。そんなことをソファに体を沈めつつぼんやりと考えていると、キッチンの方から聞こえた自分を呼ぶ声にすぐに反応するように立ち上がり、声のする方へと歩みを進めた。テーブルの上に並べられた瓶の中にはコーヒー豆がぎっしりと詰まっているようだったが、当然の事ながらそれを見てもどれが何なのか自分には全く想像がつかない。少し考えるように顎に指を添えていたものの、その後すぐに自分から見て1番右の瓶を選び指さした)

苦味が強い豆だけでこんなに種類があるんですね。うーん…そしたら、これにします!どんな豆ですか?

108: 常葉 悠 [×]
2025-10-22 21:47:30

これはインドネシア原産のコーヒー豆で「マンデリン」といいます。シナモンのような風味でありながら、重厚なコクと苦みが楽しめる豆ですよ。

(彼が直感で選んだ豆を説明しながら、ドリップの準備を進める。IHクッキングヒーターのスイッチを入れ、ドリップケトルのお湯を沸かす。沸くまでの間、豆を挽きながら考え込む。コーヒーの味は豆の質にも左右されるが、最も味を左右するのは淹れ方だ。どのくらいの深さでドリップするか、湯の温度、湯量、時間。これらが完璧で美味しいコーヒーを淹れる事が出来る。無論、彼のことだからきっとどう淹れても美味しいと褒めてくれるに違いない。だが、想いを寄せる人に出すコーヒーだ。完璧なものを出したい。出せなければ罪悪感が暫く纏わり付きそうだ)

誰かに飲んで貰うとなると、少しばかり緊張しますねぇ……ふふ、上手く淹れられるといいんですが。

(やや粗めに豆を挽くとドリップケトルを持ってゆっくりとお湯を入れ始める。一回目は蒸らしという工程だ。豆をお湯で全体的に濡らし、1分程待つ。お湯が完全にドリップされると、ゆるゆるとケトルを傾けながらお湯を入れる。小さく円を描くように、ゆっくりと。お湯を入れながら、緊張を和らげるように彼へ声を掛ける。緊張している時は、敢えて緊張していることを認めるのがいいと言う。どこかで聞き齧った知識を実践してみたが、声に出したことでより緊張したきらいがある。ケトルを持つ手が僅かに震えてしまう。一湯目を淹れ、しばらく待ってから二湯目を淹れる。そうして同じことを繰り返して、お湯が落ちきったところで、ドリッパーをシンクへ移す。予め用意していた二人分のカップに淹れたてのコーヒーを入れる。片方のカップにはガトーショコラを、もう一方には彼お手製のクッキーを付け合せにする。お盆にカップと付け合せを乗せ、ソファへ運ぶ)

お待たせしました、マンデリンの深煎りコーヒーです。……口に合うといいんですがね。

109: 宮村 湊 [×]
2025-10-22 22:53:16

マンデリン…初めて聞きました。でも、とっても美味しそうです。

(コーヒー自体は愛飲していたものの、その種類についてはごくごく有名どころを多少齧っている程度なもので、初めて耳にするそのコーヒーの名前を復唱するように口の中で小さく呟いた。コーヒーと言えば苦いか酸っぱいか程度しか気にしたことが無かったが、思っていたよりも随分と奥が深いらしい。実際に豆を挽くところを生で見るのも初めてで、興味深そうにその様子をじっくりと眺めていたものの、そうしている内にふと次第に自分のクッキーが相手の口に入る時間が近づいていることを意識してしまい、徐々に緊張で胃が痛んできた。なぜ手作りなどしてしまったのだろう、近場の店で美味しそうな既製品でも買っておけば良かったのに、と今更後悔しても時すでに遅く、同時に手渡した時の彼の表情を思い出すとやはり手作りを用意しておいて良かったのかもしれない、と複雑な想いだ。そんなことを悶々と考えてしまっていたせいで、非常に神妙な面持ちになってしまっていたことに彼は気付いただろうか。しかし、暫く彼がコーヒーを淹れる様子を眺めていると、その手が小さく震えていることに気付いて、その瞬間、彼もまた緊張しているのだと理解する。人を招くのは初めてだと言っていたので、このように誰かにコーヒーを振る舞うことも初めてなのだろう。自分が、自分の作ったクッキーを彼が食べることに対して緊張を覚えているように、彼もまた彼が淹れたコーヒーを自分が飲むことに対して緊張を覚えているのかもしれない。そう思うと次第に緊張も解けてきて、辺りに漂う芳醇なコーヒーの香りを楽しむ余裕も出てきた。いくつもの手順を重ねて出来上がったらしいコーヒーを追うように自分もソファに戻ると、再びソファへと腰を掛けてからガトーショコラの乗った方を受け取り、早速カップを手に取った。挽き立ての豆を使っているからなのだろうか。普段飲むコーヒーよりも既に香りが強いように感じる。少しの間、その豊かな香りを楽しんでいたものの、せっかくならば温かい内に飲みたいという気持ちもあり、断りを入れてから軽く息を吹きかけた後に口をつけた)

ありがとうございます、頂きますね。…!これ…

(口に入れた瞬間に、普段飲んでいるコーヒーとは明らかに違う、強めの苦みと同時に華やかなスパイスの風味を感じる。豆の種類、挽き立ての豆であること、淹れ方、それぞれに要因はあると思うが、ここまで違う味になるのかと思わず素で驚いたようにカップを見つめてしまい、唇からは感嘆の息が零れた。軽んじていたわけでは当然無かったのだが、こんなに美味しいコーヒーを口にすることになるとは思っておらず、やや興奮したように瞳を輝かせて相手を見つめると、おそらく今も不安に思っているであろう彼に対して率直な感想を述べ)

…美味しい、こんなに香りがしっかりしたコーヒーは初めて飲みました。コーヒーってこんなに美味しくて幅がある飲み物だったんですね…。苦みはしっかりしているんですけど、スパイスの風味が豊かで…凄く俺の好みの味です。ありがとうございます、悠さん。

110: 常葉 悠 [×]
2025-10-24 23:53:15

よ、良かったぁ……。いや、そう言って貰えてすごい嬉しいですよ。ああ、安心しました……!

(彼の隣に座って、コーヒーが彼の喉へ流れていく様を緊張しながら見ていた。コーヒーを飲んだ彼は顔を輝かせながら、感想を言ってくれた。表情を見れば単なる社交辞令などではなく、本心から言っていることが充分に伝わってきた。自分にとってはそれが最大級の賛辞のように感じられ、嬉しさと同時に緊張の糸が切れたような感覚が全身を包み込む。ソファの背もたれに勢いよく身体を預けると、深く息を吐く。緊張で手が震えてしまい、正直なところ美味しいコーヒーを淹れることができたのか疑問だった。怖くてテイスティングもできなかった。だが上手くいったことに安堵し、自分も飲んでみようかとカップを持ち上げる。しかし、そこで気付いた。自分は猫舌ゆえ、淹れたてのコーヒーを飲むことができない。もっと時間を置いてからでないと。彼と同じタイミングでコーヒーを楽しめないのは、残念に思ったが致し方ない。あと数分待つしかない。と、思ったところで彼の手作りクッキーに目を移す。先にこちらを頂こうかと、クッキーを手に取って一口齧る)

んっ! このクッキー、美味いですね! サクサクだし、程よく甘みもあるし、既製品もいいですが、こっちは絶品ですね!

(クッキーを齧った瞬間、衝撃を受けた。コーヒーの付け合せとして、普段からよく食べているが、今まで食べたクッキーより遥かに美味しかったからだった。通常自分はこういってシチュエーションに出くわした時、あまり感想を言わないようにしている。相手の意図したことと違うことを言って不興を買うのが怖いからだ。だが事このクッキーに至っては、迷わず素直な感想を伝えることが出来た。普段絶対に出さないような声量で、彼にクッキーの美味しさを伝えたいと思った。きっと今の自分はコーヒーを飲んだ瞬間の彼と同じ顔をしていることだろう)

111: 宮村 湊 [×]
2025-10-25 10:16:01

本格的に淹れるところを見たのも初めてで………コーヒーってこんなに美味しいんだ……

(舌鼓を打ちながら、更にもう一口口に運んで彼を見遣れば、その表情が安堵へと弛緩していく様子が目に入り、自然とこちらの表情も緩む。手間隙かけて淹れられたコーヒーの、機械で淹れたものとは全く違う深い味わいに感動を覚えつつすっかり気が抜けた様子でいると、あまりに自然に自分のクッキーへ彼が手を伸ばすので、思わず一瞬反応が遅れ、気づいた瞬間には手製のクッキーが彼の口へと運ばれており、思わずカップを片手に硬直してしまった)

は………、……あ、……良かっ、た………。お口に、合いましたか?

(不安そうに其方を見つめていると、しっかりとした口調で告げられたのは賛辞の言葉で、押し寄せてくる安堵にそれだけを口にするのがやっとで、それでも彼の表情を見れば自分の作ったものが受け入れて貰えたという確信に幸福感を覚えずにはいられず、表情を綻ばせて少し照れくさそうに頬を軽く掻きながらそう問いかけた。今この時ばかりはお菓子作りを趣味にしていて本当に良かったと心底思う。同時に、作り上げたものではない自然体の自分をまたひとつ彼に受け入れて貰えたような感覚に、静かに胸の奥の方が熱を帯びた。カップを静かにテーブルに一度戻して相手の方へと顔を向けると、瞳を細めながら相手の視線を絡め取るように目を合わせて小さく息を吐き出し)

悠さんの口に合うかずっと不安だったんです。自分が作ったものを他人に食べてもらうのは初めてでしたし…。せっかくなので美味しいものを食べて欲しくて、本当は既製品にしようかとも思ったんですけど…… こうやって目の前で食べて貰えて、美味しいって言って貰えるのって、こんなに嬉しいんですね。悠さんのためならまた幾らでも作りますよ。好きなものを教えて貰えたら練習してきます。

112: 常葉 悠 [×]
2025-10-26 21:11:51

ええ、とっても美味しいですよ。ふふ……私のためにありがとうございます。じゃあまた今度、なにかお願いしてしまいましょうかね。

(クッキーを口に運び、ゆっくりと咀嚼する。その度に口の中が幸せで満たされていくような感覚だった。彼のクッキーがそれ程までに絶品なのか、それとも彼の作ったものだからそう感じるのか。あるいは両方なのか。"悠さんのためなら幾らでも作る"という言葉に、小さく笑うと彼の目を見ながら感謝を口にする。だが心の中は別のことを考えていた。これは最早、自分の気持ちを伝えるべきではないのかと。彼の表情の意味も、わざわざ自分のためにと付けた意味も、いくら自分にだって理解できる。彼が自分をどう思っているのかも、自分が彼をどう思っているのかも。全て理解できる。だが過去の経験が自分の足を止めさせる。それに、まだ彼には自分の全てを知って貰っていない。自分のことをもっと知ったら、気持ちも変わってしまうかもしれない。だが、彼だからこそ色々知ってから、自分の言葉に返事をして欲しい)

私はね、ずっと仕事一筋でここまで来ました。……トキハ食品ホールディングスってご存知ですか。私、そこの代表取締役でしてね。同族企業で、子供の頃から誰も彼も利益が目当てで、本当の友達も、安心できる恋人もできたことがない。……だから君という楽しみを一緒に共有できる友人ができて、とても、とても嬉しかった。

(すっかり温くなったコーヒーに恐る恐る口を付けて、一口飲む。猫舌の自分でも充分に飲める温度だった。コーヒーを一口飲むと、意を決して自分の身分を明かす。一瞬、躊躇してしまいそうになったが、一度切った言葉の堰は幸いにも止まることなく、自分の口からはスルスルと言葉が出てきた。一度言葉を区切って再びコーヒーを飲む。そして、彼の目を見て暗に問い掛ける。"君は、私を純粋に友達としてカテゴライズしてくれるだろうか"と)

113: 宮村 湊 [×]
2025-10-27 15:46:47

……えっ?

(気付けば生まれてこの方経験したことの無いような幸福感に支配され、頭からは完全に任務のことなど消えかけていた。まさにそんな時、不意打ちのような彼からの告白に、まさかこのタイミングで打ち明けられると思っておらず、驚きの色を浮かべた瞳を2,3度瞬かせる。しかし、その告白は彼自身の立場を自慢し誇示するような類のものではなく、寧ろその立場を知って尚、自分が変わらず彼と接することが出来るのかを問うているように見えて、返すべき言葉を探すことにそう長く時間はかからなかった。)

もちろん知ってますよ、俺もよく食べてますし。あんな大企業の代表取締役って……、凄く忙しそうだったのも納得です。でも、それを俺に打ち明けてくれたのは、だから、つまり───変に畏まって欲しいとか、そういうことじゃないんですよね、きっと。

(温度を警戒しながらコーヒーに口をつけているその仕草にすらもどうしようもなく掻き乱される。今までとは何もかもが違う。偽りの自分ではなく本当の自分で受け入れられることの穏やかさを知ってしまえば、どうしても本当の自分を受け入れられたいという欲が出てしまう。正しい解答を機械的に選択していくだけだった頃とは違う、確実に体温がある言葉。それが正解かは分からないが───どれだけ遠回りになっても、彼との間にこれ以上の嘘は差し挟みたくない。)

自惚れみたいで恥ずかしいんですけど、…悠さんに信頼、して貰えたのかなって。なんだか俺もすっごく嬉しくなりました!また俺のこと、ここに呼んでください。美味しいお菓子を作って、手土産に持ってきますから。そのために広い部屋、借りたんですもんね?

(先程彼が口にしていた冗談を拾うようにして、肩を竦めて悪戯っぽく笑顔を零す。初めて会った日に浮かべていたような、人好きのするような笑顔からは少し離れてしまったかもしれないが、自然体のままで口元が綻んでしまう。それが無性に心地よくて、彼を害する全てから彼を守りたいと──あまりに軽率にもそう思ってしまった。)

114: 常葉 悠 [×]
2025-10-28 23:49:17

(彼の一挙手一投足が自分の心を乱していく。2、3回繰り返された瞬きも、驚きの色をした瞳も、全てが不安要素となって心を徒に刺激してくる。彼の返事を今か今かと待つ一方で、聞きたくない、聞かない方がいいのではないかという思いが強くなっていく。彼が口を開くまでには実際のところ数秒程度の時間しか掛かっていなかったのかもしれない。だが、今の自分にはそれが果てしなく長い時間に思えた)

…え、ええ! 君のこと、信頼しているんです!自惚れなんかではありませんよ!

(彼の言葉はどれも自分が思っていたことだった。自分の意図を理解してもらえるか些か不安だったが、彼はまるで自分の心を見透かしているかのように、欲しい言葉を的確にぶつけてくる。だがそれは決して打算的に出力している言葉ではなく、本心からのものだと分かる。だから前のめりになって、自分が信頼していることを彼に伝える)

そうですね、ふふっ……君が居てくれたら、少しは狭いと思えるかもしれませんね。ああ、そうだ……じゃあ早速リクエストしてしまおうかな。次はマカロンを作って貰えませんか?

(自分が適当に言った冗談を拾われると、一瞬面食らった顔をしてしまうが、すぐに彼の笑みにつられるように、こちらも笑みを浮かべる。初対面の時の笑顔とはまた違った魅力的な表情だった。恐らくはこちらが自然体なのだろう。だがどんな表情をしていても、その笑顔が自分にだけ向けられているという事実が、気分を高揚させる。そして早速、お菓子のリクエストをする。しかしリクエストして暫くしてから、少しだけ後悔する。我ながら思い上がっていて、そして気持ちの悪いリクエストだと思う。彼の気を知っていながら、マカロンをリクエストしてしまったのだから。自分としては単純に彼の作ったお菓子が食べたいと思ってのリクエストだったが、賢しい彼のことだから別の意味に捉えるかもしれない。あるいは単なるリクエストの一つとして捉えるかもしれない。いずれにしても彼に"重い"とかマイナスのイメージを持たれて仕舞わないか、些かの不安が包み込む)

------

一旦、背後から失礼します!
悠と湊くんの関係は、ここら辺で1段階上に行くのが良いと思いますか? 此方としては、もう少し引っ張るのも良いかななんて思っているのですが、どう思いますか?

115: 宮村 湊 [×]
2025-10-29 13:04:29

……それなら、その信頼を裏切るわけにはいきませんね。

(やや食い気味に向けられた信頼に、応えたいと強く思った。冷徹で非情なだけが自分の本質の全てだと理解していたが、今は胸の内側に確かな熱があるのを感じる。最初から自分にあったものなのか、それとも彼に当てられたのかは分からないが、いずれにせよこの熱を見なかったことにはもう出来なかった。自分が彼に近づいた目的が任務だなどと彼に知られることがあれば、その後の自分の感情がどうであれ彼を深く傷付け、この信頼を裏切ってしまうことになる。それだけは避けなければならない。あらゆる手を尽くして、彼をその事実から遠ざけようという強い決意とともに、テーブルに置いたフォークに手をつけると、添えられていたガトーショコラに一口分の切込みを入れた)

マカロン、ですか?……もちろん、喜んで。

(ガトーショコラのほろ苦い濃厚な甘みを堪能していると、早速のリクエストを聞いて少し思考に邪念が混じる。バレンタインやホワイトデー、様々なイベントを仕事としてこなしてきた身としては、当然贈り物を選ぶ際にその贈り物が持つ意味合いについては深く吟味してきた。それ故にマカロンを贈ることが持つ意味を当然理解しているが、彼はそれを知ってて言っているのだろうか。友人や恋人には縁遠いと話していたため、単純にマカロンが好物である可能性も否定出来ず、一人悶々としてしまったが、すぐに笑顔に戻ると頷いて了承を示した。と言うのも、考えながら窺った彼の表情がわかりやすいほどに不安でいっぱいになっていたためだ。計算も駆け引きも彼の前では無意味だと肩の力が抜けたような気がして、カップに口を付けてコーヒーを一口飲んでから、事も無げにさらりと言葉を付け足した)

俺も作ろうと思ってましたから。悠さんに、マカロン。

─────────

お世話になっております。ご相談ありがとうございます!
そうですね、私もお互いに自分の感情に気付いてからくっつくまでのモダモダがもう少しあっても楽しいなぁと思います…!
展開としては次か、次の次会う時くらいで段階を進めるのが良いかと思いますがいかがでしょう?休日に二人で出かけたりする展開も入れてみても良いかな、と思っておりました!

116: 常葉 悠 [×]
2025-10-30 21:52:39

え、ああ、そうだったんですか。じゃあ……ちょうど良いですね。

(予想よりもあっさりと彼がマカロンを承諾してくれたので、自分の不安が杞憂だと安心する。安心した途端、何枚か残っているクッキーを一枚手に取り、口に運ぶ。口内に残った甘みをコーヒーでミックスする。マンデリン独自の苦味にクッキーの甘味がマッチして、大変に美味しい。そうしてまったりとティータイムを楽しんでいると、彼の付け足された言葉に動揺をする。作ろうと思っていたとはどういう意味だろうか。言葉通りなのか、それとも自分の意図を汲んでの返しなのか。意味深とも取れる発言に少しあたふたとしてしまうが、ここは素直に受け取るのがいいと思い、会話を続ける)

クッキーがこれだけ美味しいのですから、きっとマカロンも絶品なんでしょうね。どうやったらこんなに美味しくお菓子を作れるんです? なにか秘密があるんじゃないですか?

(クッキーを齧りながら、純粋な疑問をぶつけてみる。今までクッキーは個人店のオリジナルも、スーパーで売っているものも問わず様々口にしてきた。だがこんなにも美味しいものは食べたことがなかった。手作りを軽視するわけでは無いが、職業柄、既製品でも最近では専門店レベルの味を再現できる水準にまで達していることを知っている。低価格で高品質なものを作ることができるようになったことを知っている。だからこそ不思議なのだ。科学の粋を集めて作られたクッキーよりも、彼の手作りのクッキーの方が遥かに美味しく感じられることが)

-----

ご返信ありがとうございます!
そうですね、では次の次くらいに会った時に関係を進めることにしましょう!そして、その間に休日でお出かけの展開を入れましょうか!

117: 宮村 湊 [×]
2025-10-31 08:20:07

本当にお菓子作りは自分の趣味でやっていただけなので、他の人に食べてもらうのは初めてで……こんなに褒めて貰えるとは思っていませんでした。クッキーは何度か今までも焼いたことがあったので、焼く度に自分でレシピを少しずつ改良して……後はやっぱり、悠さんに差し上げるものだったのでいつもより丁寧に作りました、し。

(我ながら悪趣味とは思うものの、彼の慌てる反応を楽しむように密かに瞳を細めつつコーヒーに口をつける。お世辞抜きにクッキーを心から気に入ってくれたらしい彼からの質問に少し考えるように緩く首を捻った。個人の趣味の範疇からは出ていないため、特別なことをした覚えは無かったものの、考えられそうな要因についてぽつりぽつりと挙げながら、ふと思い至る───『隠し味は愛情』だとよく言うことに。が、それは言葉に出さないまま飲み込んで柔らかく微笑んだ。)

マカロンは、実は作るのが初めてなので、お店のものより美味しく出来るかと言われると少し不安がありますが……相手にとって不足なしです。楽しみにしていてくださいね。

(マカロンと言えば作るのが非常に難しいと言われている菓子のひとつである。手順の多くにおいて繊細な加減が求められ、分量通り混ぜて焼けば大体美味しく出来上がるクッキーと比較し格段に難易度が上がる。メレンゲクッキーを以前に焼いた際もメレンゲの泡立て不足や乾燥不足で何度か失敗を繰り返したことがあるが、マカロンは恐らくその比では無いだろう。難しければ難しいほど燃え上がる性格故に作りがいがありそうだと考えつつ、ガトーショコラを口に運んだ。そしてふと思い至ったように手を止めて相手を見詰めると、一瞬言葉にするのを躊躇するように唇を引き結んだものの、考え直したのかすぐにその唇を緩めて軽く首を傾げて)

…そうだ、俺からも一つ我儘言って良いですか?

─────────

かしこまりました!
それでは、次のお出かけは湊の方からお誘いさせて頂きますね…!
引き続きよろしくお願いいたします!(蹴可)

118: 常葉 悠 [×]
2025-10-31 21:13:56

君の作ったものならきっと美味しいと思いますので、楽しみにしていますね。

(結局クッキーの美味しさの秘密は経験と丁寧さとして納得することにした。シンプルな回答だが、このシンプルさが重要になることもある。大手会社では大量生産体制でお菓子を作るところが大半なので、機械が素早くクッキーを作ってくれる。最近では緻密な作業ができる機械なんて常識だが、人手と機械の緻密さは違う。きっと彼は手先が器用だから緻密にクッキーを作ることができたのだろう。そんな彼だからマカロン作りが未経験だと聞いても、マイナスイメージを抱くことはなかった。むしろ彼の作ったマカロンを初めて食べるのが自分だという事実が、気分を高揚させた)

我儘? なんですか。何でも言ってください。君のお願いならできる限り力になりますよ。

(マカロンに浮かれていると、唐突に彼から視線を感じた。何か言いたげに唇を動かしたので、続きを促そうとするも、その前に彼が口を開く。内容を聞いて今度はこちらが小首を傾げる番だった。改まって我儘とはなんだろうか。彼のことだから自分にとっては何の煩わしさもないことを我儘と形容しているのだと思うが、いずれにしても初めてのことだったので、キョトンとした顔を彼に向ける)

119: 宮村 湊 [×]
2025-10-31 22:49:58

…悠さんが忙しいのは重々承知の上なんですけど…今度休日が被ったら一緒にゆっくりお出かけしてみたいなって。

(促されるままに紡いだのは、本心からの我儘。今まで自分の心からの願望というものを口に出したことは一度もなかった。優先されるのは自分の感情ではなく任務ただ一点。口にする願望は全て任務を上手く運ぶためのものに過ぎない。彼は多忙な人だ。仕事で疲れている彼に、休日に一緒に出かけて欲しいなどと言うのはあまりに自分勝手な我儘かもしれない。もっと傍に居る時間が欲しい等と思うのは、自分の過ぎた願いであり、彼を困らせてしまう危険性すら孕んでいると理解していたのに。普段の自分ならば絶対口にしないような言葉が、彼といる時ばかり口を突いて出てきてしまう。それ程までに彼が自分にとって特別な存在となっていることは疑いようもない事実だった)

…悠さんと過ごす時間が凄く楽しくて、こうして夜会うだけじゃ物足りなく感じてしまって。あ、もちろん、無理強いをするつもりは全然ないので!…もし、良かったら。どこか少し遠いところに一緒に行ってみませんか?

(今までのどの時よりも慎重に言葉を選んだ。相手の返答を聞くまで、心臓の鼓動は早まったまま落ち着きそうにない。優しい彼のことなので、断るとしても無下にしたりしないだろうとは理解していたものの、こんなに緊張する誘いは経験したことがない。相手の様子を窺うようにちら、とそちらを見遣ると返事を待つように唇をきゅっと結んだ)

120: 常葉 悠 [×]
2025-11-02 19:53:45

……お出かけ、ですか。

(どんな我儘でも聞くと言ったが、まさか"お出かけがしたい"なんて言われるとは思わなかったので、返事に窮する。ぽつりと呟くように言うと、考え込む。自分の方に否はない。本当は今すぐにでも"行きましょう!"と言うべきなのだろうが、下手に返事をして後から都合が悪くなりましたでは彼に申し訳ない。だから今、頭の中でスケジュールを思い出している。今月は工場の視察や同企業の社長との会食が多い。また決済すべき案件も多い。労働基準監督署が真っ青になって止めに入るようなスケジュールで仕事をこなさなければならない。尤も自分には労働基準法は適用されないのだが。それにお出かけともなれば、一日フリーにしておく必要がある。食事程度ならば、その時間だけ抜け出すといったことも無理矢理ではあるができる。ベンチャー企業のエンジニア職がどの程度休みを取りやすいのかは、あまりピンとは来なかったが、いずれにしてもこちらが先に休みの日を申し出た方が、合わせやすいだろう。そう思ってあれこれと考える。そうして考えた結果、日程を変更できる会議がいくつかあることに気付く。優先順位の低い──もっといえば非効率で非生産的な会議だが──会議ならば、別にこの日でなくても良い。そしてその日までにあらかた決済を終えてしまえば、休日にすることができる。そして考えが固まり、彼に話そうと顔を上げた時には、彼の不安そうな表情が目に入り、しまったと思う。随分と長く無言の時間を作ってしまった気がする。彼にネガティブな想像をさせてしまっただろうかと後悔しながら、口を開く)

すみません、予定を思い出していて……ええと、三週間後の水曜日か、来月の第二火曜日であれば一日開けることができますが、どうですか。

121: 宮村 湊 [×]
2025-11-03 20:56:37

!…ありがとうございます、俺はどちらでも大丈夫なので、そしたら一応三週間後の水曜日で決定して、来月の第二火曜日を予備候補日にしておきましょう。もし都合が悪くなったらいつでも言ってくださいね、また日程を調整したら良いですから。

(返事を待つ時間は実際はほんの一分ほどだったのだろうが、永遠に感じるほど長く思われた。相手を困らせてしまっている気がして、やっぱり今のは無しで、と取り下げようと唇を開こうとしたその瞬間、返ってきた返事に思わず僅かに瞳を見開く。今の一瞬の内に、相当頭の中で予定を調整してくれていたのだろう。無理をさせてしまったのではないかという不安は過ったものの、それでも自分との時間を作ろうとしてくれた彼に対してこれ以上不安そうな素振りを見せるのは却って良くない気がして、謝罪の代わりに心から礼を告げた。そもそも本当は会社で働いているわけではない自分の方は幾らでも時間の融通を利かせることが出来たので、相手に負担をかけないようにそう付け加えると、漸く安心したように少しだけ頬を緩める。忙しい中彼が時間を空けてくれると言うのであれば、折角ならば彼が仕事のことを忘れて癒されるような、そんな時間にしたい。いつに無く真剣に計画を練らなければと心の奥底で決意を固めつつ、ガトーショコラの最後の一口を口に運び、ブラックコーヒーで口の中に広がった甘味をきっちりと締めた)

ご馳走様でした。コーヒー、すっごく美味しかったです。

122: 常葉 悠 [×]
2025-11-05 02:05:48

そうですね。ありがとうございます。日程変更しなくて良いように、頑張りますね……!

(自分の答えを聞いた途端に、彼の表情から不安が消えたのを見て一安心する。今度から考え込む前に一言差し挟むことにしよう。三週間後の水曜日。この日を良い日として迎えられるように、明日からの仕事は今まで以上にハードなスケジュールで、しかも効率的に熟さなければならない。今以上に疲労も溜まるし、食事や家事も疎かになるだろう。だが、そんなものは彼と同じ時間を共有することの喜びの前では塵も同じだった。今までの仕事は何のやり甲斐も、感動もなく、ただ単に自分に与えられた職責を全うしていた無味乾燥なものだった。だが今は違う。彼と一緒の時間を過ごすために乗り越えるべき壁に変わったのだ。壁はどんなことをしてでも乗り越える必要がある。例え自分のライフワークバランスが崩壊しようとも、彼と一緒に居れればそれで良い。自分の仕事に色が付いたのだ。具体的な計画は恐らく彼がやってくれるだろうが、不安は一切ない。彼と一緒ならばどんな場所でも構わない。もはや、自分は彼がいなくては生きられなくなっているのかもしれない)

お粗末さまでした。ふふ……君の作ったクッキーも美味しかったですよ。ありがとうございました。さて、帰りはどうしますか。タクシー、呼びますか?

("ご馳走様"彼の言葉が耳に入ると、胸がきゅうとした。コーヒーを飲み終わったら、もうここに彼がいる理由は無い。彼にも仕事があるだろうし、ここら辺で帰してあげるのが良いだろう。胸の中に広がる寂しさを押し殺して、口角を上げて彼にクッキーのお礼を述べる。と、ここで気になったことがある。来る時は自分とタクシーに乗ってきたから良いが、帰りはどうするのか。生憎自分は車を持っていない。彼の住まいは分からないが、駅まで歩いたとしても15分程度は掛かる。帰りまで想定して招くべきだったと後悔しながら、タクシーを呼ぶことを提案してみる)

123: 宮村 湊 [×]
2025-11-05 08:19:19

お口に合って本当に良かったです。あ、気候も悪くないので散歩がてら歩いて帰りますよ。またここに来れるように、道も覚えておきたいですし。あ、洗い物は任せてください。それだけやって帰ります。

(帰りの手段について深く考えてはいなかったものの、タクシーに乗っていた分数から推測するに、駅まではそう遠く離れていないのだろう。また彼の家を訪れることを信じて疑っていない様子でそう付け加えて朗らかな笑みを向けると、軽く腕まくりをしてテーブルの上の空になった食器を全てキッチンへと運ぶ。シンクに置かれていたドリッパーと共に2人分の食器を丁寧に、しかしながら手馴れた様子で手際よく洗うと、水切りにそれを綺麗に並べて濡れた手をタオルで拭いた。そうしていよいよ帰宅の時間が近づくと、今まで一切感じたことの無い、後ろ髪を引かれるようなモヤモヤとした感情に襲われて、それが"寂しさ"だと気づくまでには少々時間を要した。とは言え、それを口にしてこれ以上彼を困らせるわけにはいかない。部屋の端に置いていたバッグを手に取って彼の方へと視線を遣ると、静かに唇を結び、軽くその端を上げて微笑みを形づくる)

それじゃあ、俺はこれで。今日はすごく楽しかったです。…3週間後にまた会えるのを楽しみにしていますね!

(ひらりと軽く右手を振り、瞳を細める。離れ難く思う寂しさを、次の約束がほんの少しだけ補ってくれるような気がして、最後にそう付け加えた)

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