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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
35:
Arthur [×]
2025-02-03 01:00:22
足元に気をつけて。
(デッキを離れると潮風が途切れ、代わりに船内独特の静かな圧迫感が広がった。船の奥から響く機関の低いうなりが壁を伝い、床を這うように微細な振動を送り込んでくる。背後に声をかけつつ一定のリズムで階段を下り、階下に降り立つとそのまま長い通路を進んでいく。両側に規則正しく並ぶ客室の扉はどれも同じ深い木目の装飾が施されており、一等客室のような華美な意匠こそないものの、整然とした実用本位の落ち着きを備えている。黙々と歩を進め、やがて自室の前に到着する頃、背後から尋ねられてようやく肝心の行先をまだ伝えていなかったことを思い出した。「自分の客室だ」と言いかけた口を一度噤む。我ながら呆れるほど今更ではあるが、女性であるベアトリスを唐突に自室へ招き入れる行為は、或いはとても軽率で無神経な行いではなかろうか。第三者に見られる心配が及ばない場所を選択したつもりで、当然他意は無いが、彼女の気持ちを慮るべきだったかもしれない。以前、社交の場での失敗後に伯爵夫人から釘を刺された記憶が蘇る。“貴方は絵以外のことには木のように鈍感なのよね。女性の気持ちにはもう少し注意を払うべきではなくて?”──あの言葉を適当に受け流すべきではなかったと、この場で反省しても遅い。実際に見て貰った方が判断も容易いだろうと、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込み、手首を捻る。カチリと鈍い音が響いた後に扉を押し開けば、薄暗い簡素な室内には折り畳まれた画架に画材の詰め込まれた木箱、開きっぱなしのスケッチブックなど、自身の気配を色濃く宿した空間が広がっている。それらを確認したであろう彼女の表情を窺うように視線を向け、言い訳でもするように口籠り)
……ここなら誰にも見られずに済むかと……、……気が進まないなら他の場所でも。
36:
Beatrice [×]
2025-02-03 20:52:45
(一室の前でふと足を止められた。先ほど投げかけた問いに対して、わずかに逡巡を滲ませながら言葉を選ぶ彼。その姿に睫毛がそっと揺れるような静かな瞬きを返すして。懸命に言葉を紡ごうとする様子とどこか気まずそうな眼差しに気がつくと、この場に相応しくないと分かっていながらもどうしようもなく愛らしく思えてしまい。そうなれば自然と微笑みがこぼれ、ふふ、と柔らかく綻ぶように笑い声をこぼし、バツの悪そうな彼とは対照的に、にこにこと微笑みを浮かべ。行き先が明確になったその瞬間、驚きがなかったと言えば嘘になる。それでも作品に対して真摯でひたむきな彼が不純な動機を抱いているとは到底思えなかった。一般論としてそう映るのかもしれないと、今この瞬間になって気づいてしまったと言葉なく伝わる彼の様子に自らの考えが間違っていないと確信できた。そして開かれた扉の先を覗いた瞬間?? 目に飛び込んできたのはまるで別世界に迷い込んだかのような光景だった。そこかしこに広がる画材の数々と、開かれたままのスケッチブック、それらが醸し出す空気に胸がくすぐられるような感覚を覚えずにはいられなかった。湧き上がる好奇心を前にこの場を断る理由などあるはずもなく、感謝の言葉とともに答えを返して。)
場所を提供してくれてありがとう。……この香り、──画材の匂い? 素敵ね。この空間には、まるで芸術家アーサーの魂が満ちているみたい
37:
Arthur [×]
2025-02-03 22:50:37
(反応を待つ間は無意識のうちに下唇を浅く噛み、些細な仕草で気持ちを誤魔化した。やがて口を開いた彼女の声音と微笑みは静かに室内に溶け込み、その言葉にはこちらの躊躇いを見抜いたような気配がありながら、それをからかうでもなく、ただ穏やかに受け入れてくれるようだった。その柔らかな余韻が妙にくすぐったく、気恥ずかしさを覚えるが、少なくとも不快な思いをさせていないのだと確信できて安堵し、開かれた扉の奥へと視線を戻す。彼女の言葉に倣うように室内を見渡し、薄く息を吐いた。出港からわずか二日しか経過していないにも関わらず、部屋の中は既に雑然としており、良いように言えば制作のための環境が作り上げられている。自身にとっては画材も画帳も全てが生活の一部であり、乱雑にも見えるその空間さえ当たり前の風景だが、こうして改めて他者の視点を通せば、それらは確かに“芸術家の空間”と呼べるのかもしれない。警戒されるどころか興味深げに受け止めてくれたことにもう一段肩の力が抜け、しかしそれを表に出さぬよう口元を引き締める。扉を開けたままそっと身を引き、彼女がこの部屋へと足を踏み入れるのを迎え入れるように促して)
……大したものではないけど、好きに見てくれて構わない。
38:
Beatrice [×]
2025-02-04 10:35:24
本当に? それなら、Mr.アーサーが描きたくて描いた作品が見たいわ。あなたほどの画家が”描きたい”と心を動かされる題材も、それをあなたの目を通してどのように映し出すのかも??。
(彼が開いたまま支えてくれている扉。その心遣いに感謝を抱きながら、一歩、また一歩と部屋の中へと足を踏み入れた。途端に植物のような瑞々しい香りと、シンナーのようにぴりりと鼻を刺す匂いが混ざり合って鼻腔をくすぐる。それらはきっと絵の具や溶き油、紙や木材?? さまざまな画材が持つ匂いなのだろうと推測をして、未知の世界へと足を踏み入れた探検家のように心が自然と弾んだ。そんな折、“好きに見ていい”という寛大な許しを得て、心が躍るのを隠せずに微笑む。これから彼が描く自分の肖像画が、彼にとってどれほどの意味を持つかなど考えもしない。ただ、純粋に、彼が”本当に望み、心惹かれるもの”を知りたい。その想いに、まだ自分では気づいていなかった。ゆっくりとした動作で部屋の奥へと進み、ふと目に入ったのは開かれたままのスケッチブック。その中には、威風堂々と佇む貴族の姿が描かれていた。彼の筆致が生み出した端正な顔立ちとその堂々たる立ち姿??必要以上に美化されているだろう仕上がりに思わず目を細め、ぽつんと心に浮かぶのは彼の才能に茶々を入れることの愚かさと、それを疎かにすることの勿体なさだった。ふと、スケッチブックへと向けていた視線を彼へと戻す。控えめに綻ばせた微笑み。その奥には静かに奮い立たせるような意志の強さが秘められていて。)
───お願い。私を描くときは、『よく描こう』としないで。それ以外は、どんな仕上がりになっても、絶対に口を出さないわ。
39:
Arthur [×]
2025-02-04 15:08:37
(彼女に続けて室内に入り、後ろ手に扉を閉めれば、人の行き交う廊下の賑やかさから遮断される。“描きたくて描いたものを”と、そう求められて自然と視線を向けたのは、壁際に立てかけられた一冊のスケッチブックだった。片手で拾い上げて指先で表紙を撫で、ぱらりとめくれば、最初に現れるのはサウサンプトンの港の光景。朝焼けに霞む波止場、湿った石畳を叩く馬蹄の音、行き交う荷車。乗船を待つ人々の表情、見送りに訪れた家族の姿、黙々と荷を運ぶ労働者たち。船を見上げる群衆の中には、期待に目を輝かせる少年もいれば、不安げに指を組む女性もいる。さらにページを繰れば、この船旅の記憶が幾枚にも渡って映し出されている。一等客用の広間、チェス盤を挟み静かに対峙する老紳士たち。夕暮れのデッキ、海へ向かって紙飛行機を飛ばす子供。機関室近くの廊下、煤けた作業服のままうたた寝する整備工。三等客用の食堂、酒を酌み交わし陽気に笑う男たち。写実的な筆致が細密に描き込まれた場面もあれば、荒々しく未完成のまま留められたものもある。感情が強く揺さぶられた瞬間ほど、未完のまま残されているのかもしれない。──背後で机に広げたスケッチブックを眺めていたベアトリスが静かに言葉を紡ぎだし、その声に反応して振り返る。「よく描こうとしないで」、そこには冗談めかした軽さも、誇張した謙遜もない。ただ真直ぐに向けられたそれが彼女の本心なのだと、迷いなく受け止めた。確かな響きを以て返事をすれば、余計な言葉は挟まず手にしていた一冊を差し出す。彼女がそれを受け取るのを見届けたなら、スケッチの準備に取り掛かるだろう。)
当然そのつもりだ。……これを。
(/航海三日目も大変楽しい交流をありがとうございます!直近の展開についてご相談をしたく、背後よりお声がけさせていただきました。
この後スケッチに着手していくかと思いますが、その過程でアーサーがベアトリス嬢の本質に触れながらも、結果的に「今の自分では彼女を描けない」と痛感して挫折を経験する流れを一案に考えております。妥協してただの美しい肖像画に閉じ込めることは出来ないと判断した上で、この日スケッチの完成は断念し、ベアトリス嬢や事件の捜査に関わる中で内面的に成長できたら、その後改めて再挑戦させられればと思っております…。もし背後様に他のお考えがあり、その点でご不都合などございましたら別の展開でも問題ありませんので、ご意見頂戴できますと幸いです!)
40:
Beatrice [×]
2025-02-06 16:47:56
ありがとう。───ふふ、素敵。
(受け取ったスケッチブックをそっとページを開けば、まるでこの瞬間へと誘われるような感覚に包まれる。描かれた光景は単なる絵ではなかった。まるで風が、光が、声が、そこに息づいているかのように目の前に広がり夢中にさせる。)
Mr.アーサー、貴方が描いた作品はページを開くだけでこの瞬間に連れていってくれるのね。
(手渡されたスケッチブックを愛おしげに抱きしめるように持ち、慎重に指先でなぞる。容易に捲ることができず、一枚の絵をじっくりと見入るとレガリア号に乗る人々の期待や喜び、そして不安までもが細やかに描かれて、次のページでは穏やかに広がる海の景色がただの背景ではなく物語の一部として息づいていた。目を細めながらそこに切り取られた一瞬一瞬に触れることで、まるで見逃していた場面が蘇るように絵の中にいる人々の笑顔や囁き声までも感じられる気がした。そんな風にスケッチブックの中の世界に浸っていると準備を進める彼の立てる微かな物音が耳に届いてそっと視線を上げて。それから彼を見つめる瞳には信頼と尊敬が宿っていた。この人は、ただ風景を写し取るのではなく、そこに流れる時間や感情までをひと筆に乗せて描いている。そんな彼の手で、自分はどのように描かれるのだろう。飾らない自分を、この人はどんな眼差しで捉えるのか── 期待と、そしてどこか試すような気持ちが、ふっと唇に微笑みを咲かせて)
……Mr.アーサー。スケッチの間、少しだけ私についてを聞いて欲しいのだけれど、構わない?
(/お返事遅くなり申し訳ございません…!ご相談もありがとうございます!とても素敵な流れに今から楽しみで仕方がないです…!是非ともいまお伺いした流れで進めて行ければと思います。スケッチをして頂く際にベアトリス視点では場を持たせるために(そこには無自覚ながらアーサー様に己のことを知って欲しいの意味を持ち)聞き流して貰っても構わないという認識で自分語りと振り返りをさせようかなと考えておりました…!)
41:
Arthur [×]
2025-02-07 10:50:07
(スケッチブックを手渡した後、すぐさま作業の準備に取り掛った。彼女の反応に正面から向き合うことが何故か落ち着かなかく感じたからだ。まずは部屋の光の具合を確かめるべくカーテンへと歩み寄り、軽く開閉して角度を調する。決して大きくはない船室の窓から差し込む自然光を最大限に活かし、柔らかな陰影が生まれるように、彼女の輪郭や表情を最も美しく捉えられる加減を探った。その折、背後から届いた声に思わず一度手を止めて振り返る。その言葉は胸の奥に静かに落ち、ゆるやかに波紋を広げるようだった。どこか遠くを見るように響いた声は、過去に取り残されるような感覚によるものか、あるいは過去を手繰り寄せることができる安堵によるものか。そのいずれであれ、一枚一枚を慈しむようにスケッチブックを見つめる彼女の瞳が、単に絵を鑑賞する以上に、その奥に宿る何かを掬い取ろうとしているのが分かる。妙な充足感が心の奥に満ちるのを感じた。誰かに見せるために描いたものではなかったが、自らの筆が刻んだものが確かに彼女の心へ届いたのだと実感し、その手応えを噛みしめながらも「…お気に召して貰えたなら何より」あくまで返事は淡々と素っ気なく。無造作に置かれた椅子を手に取り、光が最も柔らかく入る位置へと移す。長く座っても負担にならぬよう、背もたれには小さなクッションを添えることも忘れない。大方の準備が整った頃、彼女がふいに、自分自身のことを聞いてほし願い出た。その意図を測りかねつつも承諾し、椅子を軽い手の動きで示して)
それは…どうぞ、描きながらで構わないなら。…ここに座ってくれ。光がちょうどいい。
(/いえいえ、お互いに無理なく続けていけたらと思っておりますので、レスペースについてはどうかお気になさらないでください!展開についての快いお返事もありがとうございます。急なわがままで申し訳ないです…!また、スケッチ中にベアトリス嬢のお話をお聞かせいただけるとのこと、大変嬉しい追加要素でありがたいです!スケッチの過程や心境の変化など丁寧に描きたい場面でしたので、楽しみつつ描写していければ幸いです。引き続きよろしくお願いします。※特に追加確認などが無ければこちらお返事お構いなくです。)
42:
Beatrice [×]
2025-02-07 23:48:57
ベアトリス・ルーナ、17歳。母がプレストン伯爵家に仕えていたご縁で、まだ右も左もわから頃から私もまた自然とプレストン伯爵家に身を寄せていたわ。屋敷での暮らしは毎日が生きるための学びの場で、……プレストン夫人はとても優しい人、幼い私にそっと教えてくださったのよ──「この世にはね、人の数だけふさわしいドレスがあるのよ」と。
(そっと視線を落とせば、用意された座席に添えられたクッションが目に入り、ふわりと薫る淡い気遣いの香りに心がそっとほどけるようで静かに腰を下ろす。少しの緊張感に背筋を伸ばし、小さく息をついた。窓の外からは優しい陽射しが降り注ぎ、ガラスに映る翡翠の瞳が柔らかく煌めき、彼へと顔を戻す。一人語りの許しを得たことでまるで糸を紡ぐように、ぽつりぽつりと自らのことを語り始めた。思い返すのはふんわりと甘く、それでいて温もりをはらんだ布の匂い。アイロンをかけたばかりの生地に宿る、柔らかな熱。そして、果てしなく並ぶ、名前もわからないデザインをした色とりどりのドレスたち。今思うとプレストン夫人は幼い私の容姿を気に入ってくださっていたのかもしれない。でもそれだけではなく、本当に優しく接してくださった。学のない私にも、夫人が学び得た服飾に関する大切な知識を分け与えてくださっていた。最後にあの重たい鉄のアイロンを手にした日すら思い出せないけれど、あの時間は間違いなく私にとって楽しく愛おしい思い出だったと大切な宝箱をこっそり開くように初めて吐露をした。互いのことを多く知らない間柄の彼だから、誰にも話したことの無い胸の中のずっと奥に隠していた大切な思い出を語れているのかもしれない。)
私ね、アイロンがけが得意なのよ。……シワひとつ無いほどピンと張った生地。その上に繊細なレースが映える瞬間が、とても好きだったの。
43:
Arthur [×]
2025-02-08 14:55:37
(彼女が静かに腰を下ろすのを見届けると、対面する位置にもう一脚椅子を引き寄せ、腰を落ち着けながらスケッチブックを開く。窓から差し込む淡い光がベアトリスの髪を撫で、頬の輪郭に繊細な陰影を落とし、瞳に柔らかな輝きを宿らせる。その長い睫毛が作る影までが美しく、筆を取る前の静かな高揚が胸の奥を満たした。彼女の穏やかな語りに耳を傾けつつ、迷いなく紙へ鉛筆を走らせる。労働階級の生まれで貴族の屋敷に仕えていたという過去は、洗練された今の姿とは結びつかない。ふと指先に目を落とせば、そこにあるのは白くしなやかで傷ひとつない指。高価な香油で手入れされたようなその手も、かつては家事に追われ、水仕事に晒されていたのだろうか。しかし彼女の語る思い出に翳りはなく、誇りさえ滲むようだった。プレストン伯爵家での暮らしを懐かしむように話すその表情は、幸福な記憶に彩られている。ならば、彼女はなぜ今ここにいるのか──侯爵の愛人という立場に。その問いを飲み込みながらも無意識に手が止まり、視線が吸い寄せられた。アイロンがけが得意なのだと、大切にしまっていた宝物をそっと見せるように微笑んだその顔を、光と影が際立たせる。揺れる髪の一本、端正な顔立ちの奥に残るあどけなさ、記憶を辿るような遠い眼差し、繊細な指先、ふと浮かぶ微笑み──すべてを捉えようとしたはずなのに、最初に引いた線がひどく不完全に思え、思わずページを繰る。新たな白紙と向き合い、光の加減を確かめながら静かに口を開いて)
……意外だな。今の貴女は上流階級の人間と遜色ないように見える。…少しだけ顎を引いて。…それから、手を組まずに膝の上に自然に置いて…指先の力は抜いて。
44:
Beatrice [×]
2025-02-09 01:18:41
ふふ……ふふっ。本当にそう見えていたの? それならば、私の戯れもなかなかの腕前ということね。──失礼。顎を少し引いて、手はこちらへ。力を抜いて……これでよろしいかしら?
(上流階級の装いが違和感なく映るほどに、他ならぬ芸術家アーサー・バートンの審美眼に認められるとは。まるでストンと矢で射抜かれたかのような衝撃が心臓を貫き、一瞬、呼吸さえ忘れてしまう。大きく見開かれた瞳にほんの刹那、ひどく人間らしい戸惑いと確かな安堵の色が宿り。それを悟られまいと朗らかな笑いを紡ぎ、ほっそりとした指先でそっと口元を隠した。けれど、懐かしむ心が油断を生みほろりとこぼれ落とした発言は思いがけず零れた幼き日より続くごっこ遊びの名残。それを掘り下げられる前に、あるいは自ら掘り下げてしまう前に──そっと指先を降ろし、彼の指示に応じて姿勢を整える。ふと目元を撓めると、モラレス侯爵に迎え入れられるにあたり、最初に模倣した夫人の面影が脳裏をよぎった。幼少期より接してきたプレストン夫人の気立ての良さを学ぶことは、さほど難しくはなかったと。時には社交界で最も人気のあった令嬢の慎ましやかな立ち振る舞いを、時には嫉妬の的となった淑女の聡明さとあざとさを──そのすべてを己が身に落とし込みながら、本来の私とは遠く離れた男性にとって理想の女性へと形を変えることに密やかな愉悦があったと思い出した。忘れてしまっていたくらい当たり前だったその気持ちも、彼の傍にいると上書きされていた”本当のベアトリス”がふと顔を覗かせることに不思議な気持ちを抱き。先ほどまでカリカリと音を立てて迷いなく進められていたペン先が止まった事に気がつくと新たなページにめくられるのを静かに見届けて。どのように私を描いたのか──その好奇心を飲み込む代わりに、そっと微笑みながら質問を口にして。)
Mr.アーサーが芸術に触れたきっかけを教えて頂きたいわ。
45:
Arthur [×]
2025-02-10 00:27:49
……良い。そのままで。
(数秒の静寂の中で、指示通りに整えられた姿勢を確認して頷く。微細な調整を要するかと一瞬考えたが、光の加減と彼女の自然な佇まいに違和感はなく、視線を紙へと戻して迷いなく鉛筆を走らせる。今度こそ、彼女の姿を正しく捉えられるはずだ。綻ぶように滲んだ一瞬の安堵も、それを塗り重ねるように作られた笑顔も、すべてを拾い上げなければ気が済まない。顔の輪郭をなぞるように曲線を走らせたその時、思いがけない問いが耳に届いた。手元の線が乱れる前にそっとペン先を浮かせ、即座に返答はせず、鉛筆の後端を口元に押し当て思考を巡らせる。芸術に触れたきっかけ──紋切り型の答えならいくつも思いつくが、本当の原点を誰かに語ったことは、これまで一度もなかった。目を細めれば、遠い記憶の奥底に埋もれていた情景がゆっくりと輪郭を帯びて蘇る。──鉄と油の香りが入り混じった重い空気。部屋の隅々まで響き渡る活版印刷機の規則正しい駆動音。紙の束が運ばれるたびに立ち上る、乾いた繊維の匂い。煤で曇った窓に西日が差し込み、大きな機械の鋳鉄の表面が鈍く赤く光る、妙に印象的な光景。静かに息を吐き、鉛筆の動きを再開させながら口を開く。なぜこの記憶を知り合ったばかりの彼女に語りたくなったのか、自分でも理由はわからない。)
──…子供の頃、印刷所で働いていた叔父がよく工房に連れて行ってくれた。本や新聞が山ほど積まれていて、まだ字が読めなかったから挿絵のある本ばかり眺めて…その中にレンブラントやターナーの複製画があった。…色彩もない、影と線だけの…今思えば職人が元の絵を真似て彫っただけの版画だ。…だけど、不思議と光を感じた。
(/ご連絡のみ失礼します。相談所の方にご相談の書き込みを致しましたので、お手隙の時にご確認いただけますと幸いです!※こちらご返信お気遣いなくです。)
46:
Beatrice [×]
2025-02-13 11:49:26
(姿勢を正して優雅に佇むその姿はまるで繊細な細工を施された宝石のようで。しなやかに首を傾けて肩の角度を計りながら、微笑みにふわりと優美な曲線を描くことなど、ベアトリスにとっては呼吸するほどに自然な所作だった。向かい合う静寂の中でペンが紙を滑る微かな音に耳を澄ませながら問いを投げてはみたが、その答えはきっと当たり障りのない言葉で彩られてこの場を穏やかに流れてゆくものだと予想していた。だからこそ、予想を超えた真実──彼が芸術に目覚めた瞬間を知ることができたとき、ほんの僅かでも彼の本質に近づけたような気がして心がふわりと浮き立って。作り物のように整えた微笑みはいつしか好奇心に染められて、無邪気な色を帯びていた。それはまるで幼き日に初めて目にした美しい絹の輝きに魅了され、ただ心のすべてを奪われたあの頃の自分と重なって見えたからかもしれない。そう思うと目の前の彼への親しみがそっと芽吹き、もっと彼自身を知りたくなって。心を揺さぶる美しさの前に立ちそれに携わることを選ぶのは、決して容易ではない訳で。そこへ踏み込むには確かな勇気が必要だと理解しているからこそ、静かに翡翠の瞳を向けた。尊敬の色を宿したまなざしで、一瞬だけ、正面に座る彼の姿だけを映し込み。)
……その光に、手を伸ばそうとしたとき。怖くはなかった?──光を追い求めるいま、”アーサー少年”は幸せ?
47:
Arthur [×]
2025-02-14 14:46:49
……痛みを知らない子供は恐れもしない。火に指を伸ばして、崖を覗き込み、闇の中に踏み込んでいくものだ。……そういう意味では、俺は随分長い間、子供だったんだろう。
(二つの問いかけが心に揺らぎを生じさせたことを悟られぬよう、視線を上げることはせず、無言のままスケッチの線をなぞる動作を繰り返して思考の間を稼いだ。ひとつめの問いに対してはさして迷わずに答えが出た。芸術を求める道の途上で恐れを抱いたことはない。最初に炭を握り紙の上に影を落とした瞬間から、その行為は言葉など不要なほど純粋な歓びそのものであり、疑念も逡巡もほんの一欠片たりとも入り込む余地はなかった。才能にも恵まれ、それだけが己を表現する唯一にして絶対の手段であったが故に、筆を握ることはただひたすらに幸福であるはずだった──いや、幸福でなければならなかった。彼女の問いの後半、“今、幸せか”──その言葉は容赦なく突き刺さり、鉛筆の先が震えて紙の上に刻まれる線が微かに乱れる。眉を寄せ、誤魔化すようにスケッチの角度を変えた。直向きに光を追い求める無垢な子供でいることは叶わない。仕事とはそういうものだと教えられ、芸術は自由であるべきだと高尚な信念を掲げたつもりでいながら、現実は貴族たちの望む肖像画を描き、彼らの虚飾を彩ることに費やされる。理想と妥協の狭間で足掻きながらも、他に何も持たない自分には筆を置くことは許されなかった。選ぶ余地など初めからなかったと自らを思い込ませ、それでも折り合いをつけられていないことを、彼女は見透かしている。そこに悪意など微塵もないのが分かるからこそ尚更たちが悪い。沈黙が降りる中、指に余計な力がこもり紙が軋む音が耳を打った。言葉にならない何かを噛み潰し、視線を躱すように頭の角度を深くして。苛立ちとも焦燥ともつかぬ感情が湧き上がるのを、理性が制しようとする。良くない事だとわかっている。わかっていたのに、気づけば言葉が零れていた。)
──…貴女こそ。貴女は……愛しているのか? “彼”のことを
48:
Beatrice [×]
2025-02-19 00:44:55
──アーサー少年は、“子供”のまま”大人”へと堕ちてしまったのね。………この時代に愛をただの幻想ではなく本当に”愛して”生きられる女はどれほどいるのかしら。
(彼の頭は深く落とされ、視線が交わることはそれが物理的に不可能であると教えるように無かった。そんな姿のまま落とされた凪いだ声色の問いかけは、反論の余地すらないほど確信を帯びた内容だったようで喉の奥が石のように重くなり、声を発することさえできなくて。苦虫を噛み潰したように口角がわずかに落ち、瞳が曇る。しかしその色は決して悲壮感ではなく、鋭い言葉を正面から受け止めてころころと鈴を転がすような笑い声を。眉をわずかに下げて意図的に困ったような表情を作りながらも、その返答には確かな負けん気が滲み。何も持たぬ女がこの世を生きるために、どう身を振るべきか──それくらい、思春期を迎える頃の子供でも知っているはずだと。受けた問いに、明確な答えを返すことはせずに暗に伝える、それが己の出した答えだった。夢を追い光に手を伸ばしたはずのアーサー少年がいつしか”幸せ”を濁してしまったように、持たざる者がこの時代を生き抜くためには妥協や諦めが必要になる。そう理解するからこそ、ほんの数秒だけ静かに目を閉じて。誰もが思っていても敢えて投げない意地悪な質問に答えたことが寧ろ心に落ち着きをくれたらしい。ゆっくりと目蓋を開くと長い睫毛に縁取られた瞳には明日を見据える無謀な光が宿り。わずかに下唇を噛む葛藤の末、不敵に口角を上げて言い切って。)
………私もそうよ。今もまだ“子供”のまま、“大人”のふりをしているの。
49:
Arthur [×]
2025-02-19 22:57:34
………すまない。今のは浅はかだった。
(言葉を噛みしめるように低く呟き、手のひらに残る紙の感触を確かめるようにスケッチブックの端を指でなぞる。自分でも驚くほど素直に謝罪の言葉が出たのは、彼女の毅然とした態度に完全に打ち負かされたと悟ったからだ。問いかけた瞬間の自分はあまりにも幼稚で、彼女が何を見て何を知りながら生きているのかを考えもせずに──ただ、現状と向き合うことを恐れ、自己防衛のためにあのような問いを投げたのだと気づいてしまった。自尊心が焼けるように痛めど取り繕うことすらできない。躊躇いながらも視線を上げた丁度その時、丸窓から一際強く差し込んだ陽光が彼女の輪郭を淡く縁取った。金糸のような髪が光を編んでふわりと輝き、影を削り取られたその姿は聖像めいて神々しく、そこに存るだけでひとつの絵画のようだと、深く胸を打たれる。世界の欺瞞も、光の裏に伸びる影も、彼女は現実の冷酷さを知りながら、まるで舞台の幕が下りる最後の瞬間まで演じきる役者のように、堂々と“物語”を生きている。自分にその覚悟はあるかと問われたなら──答えを探すように鉛筆を握り直すも、その先は紙を捉えることが出来ない。このまま問いを閉じることもできたはずだった。彼女の強さをただ眩しいと見上げるだけなら、余計な詮索を加えることなく絵を描き続けることで沈黙を保つことができただろう。しかしそれでは駄目だと、その核心に触れずにはいられないという衝動が抑えようもなく胸の奥で疼いてしまった。指先の微かな震えを握った鉛筆の冷たさで誤魔化して、歯切れ悪く問いを紡ぎながら、光に揺れる彼女を見つめ)
……もし、何にも縛られずただ“子供”でいられたなら……貴女は、何を望んだ?
50:
Beatrice [×]
2025-02-20 19:18:54
私らしく生きることを望むわ。──熟した林檎を口にできなくても、華やかなドレスに袖を通せなくても、たとえこの手が荒れてしまったとしても、それでも構わないわ。ただ、がむしゃらに働いて、自分の足で歩いてみたいの。ベアトリスは、生きていることを楽しむのよ。
(真っ直ぐに届けられた謝罪の言葉が胸の奥をそっと叩いた。ふっと小さく息を漏らし、穏やかな微笑みを浮かべると僅かな表情変化だが許しの意を表して。互いの好きな物だって知らないのに、それでも多くを語らずに理解が出来るのはきっと、生きるために身を置く世界があまりにも似ているからだろうか。あるいは──そう信じたかったのかもしれない。強い陽射しがほんの少し眩しくて、天日に干されたシーツの香りが記憶の扉をそっと叩いた。思わず太陽の香りを探して深く息を吸い込んだけれど、そこに広がったのは太陽の匂いではなく、絵の具や木炭、オイルの混ざった画材の香りだった。その違和感にほんの一瞬、どこか不思議な気持ちになって眉が下がる。不意に筆を止めた彼が、言葉を慎重に選びながら、それでも正解を見つけられずにいるように問いを投げると瞬きの後に視線を向けて。その内容に驚くこと無く、すう。と息を吸い込んで返事をする。──それはあまりにも優しくて、あまりにも現実味のない夢と同じ。子供が「空を飛びたい」と願うのときっと同じくらいに儚く綺麗なだけの内容で。一拍の間を置いてからその言葉に合わせるように、すらりと伸ばした指先を視線の高さまで掲げる。瞳に映るのは冷たい水に晒されたことのない、爪の先まで整えられた美しくきめ細やかな手。苦労を知らない、貴族の愛玩物にふさわしい指先だった。その手をそっと握りしめると静かに再び元の姿勢へと戻った。今、こうして夢を語るベアトリスは誰かの模倣ではない。ベアトリス・ルーナとして、己の言葉を紡いでいると実感が湧いた。それは彼が飾り気のない率直な言葉をくれるからこそ取り繕う必要のないありのままの自分でいられる時間だった。困り眉のまま目を細め、にこりと微笑む。少し大きく開いた唇の隙間からは、白いエナメルが覗いた。幼い子供が楽しくてたまらないときに見せるような、屈託のない笑顔。淑女には相応しくない仕草かもしれない。それでも構わなかった。心のままに、ただ笑う。それはまるで、幼い少女たちが寄り添い、おとぎ話に夢中になるような、無邪気な笑顔でそんな表情のまま言葉を紡ぎ。)
そんなふうに生きた先で、心のままに“愛する”ことができたら──最高ね。
51:
Arthur [×]
2025-02-21 07:05:07
(衝動に駆られるまま投げかけた問いに迷いなく応じた彼女の声は、確かに空気を震わせながらも耳に届く頃にはどこか現実の輪郭を曖昧にし、遠くで鳴る銀の鈴の音のように儚く揺れた。そして言葉を締めくくるように微笑みを向けられた瞬間、世界のすべての音が掻き消えたような錯覚を覚えさせられる。それは決して計算された媚びでもなく、誰かに愛されるための装いでもなく、ただ心の奥底から零れ落ちた何の衒いもない無垢な微笑み。洗練された容貌には不釣り合いなほど幼く無邪気でありながら、その奥底には揺るぎない意志が宿っている。繊細な花弁のように儚い一方で大地を踏みしめる足取りは確かであり、ただのか弱い美しさではなく、己の道を歩もうとする強かさ。その在り方こそが彼女の本質なのだと、理屈ではなく、もっと根源的な部分で理解させられた。震える指先で鉛筆を握り直すが、いざ紙に線を刻もうとした途端その動きは宙で凍りつき、やがて力なく下ろされる。──これまで数え切れぬほどの肖像画を描いてきた。貴夫人の誇りも、戦士の哀しみも、彼らの一瞬の輝きを筆先に掬い取り、紙の上に縫い止めることができたはずだった。だが、今目の前にいる彼女をどう描けばよいのかが、まるでわからない。幾度となく紙に触れ数多の絵画を生み出してきたこの手が、今やただの無機質な器のように虚ろで頼りないものに思える。焦燥が喉の奥に絡みつき、ゆっくりと目を伏せた。彼女の瞳を真正面から受け止めることができない。それ以上に、今の自分では到底この姿を紙に留めることは叶わないという、あまりにも残酷な現実を突きつけられることが、ただ恐ろしい。筆さえあれば何でも描けると信じていた傲慢な幻想は、彼女に触れた瞬間、音もなく崩れ去った。今、ベアトリスの気高き矜持の前に立たされ、痛いほどに思い知らされる。掠れた声で紡ぐ言葉は彼女に向けられたものでありながら、同時に自らの無力を噛み締めるような、苦い告白であり)
……描けない。──……俺の手では、貴女を描くことはできない
52:
Beatrice [×]
2025-02-22 08:29:56
(これは自分でも気がついていなかった夢物語。当然、誰にも漏らしたことのない秘密の会話。心の奥深くに閉じ込めた想いを声に乗せて伝えれば、ほんの少しの恥ずかしさとそれを上回る爽快感が押し寄せた。何も持たぬ愛人の女が語る夢を彼がどう受け取るのか、鼻で笑うのかそれとも馬鹿げた話と笑うことさえないのだろうかと彼の反応を窺って。しかし、予想に反して彼は何かを恐れるような怯えた表情を浮かべていた。何に脅えているのか皆目見当もつかず、苦しみながら絞り出すように発した声には驚きと戸惑いが宿っていた。苦々しく伝えられたその言葉を頭の中で何度も繰り返し、それでもやはり理解できないまま疑問が次々と浮かぶ。何故?どうして?何が理由なの?私の解答が可笑しかったから?頭の中には疑問が渦巻き、声を出せずにいた。芸術家アーサーの実力は、自身の目で確かに把握している。こんなにも素晴らしい芸術家に今後出会える保証はなく、同時に恐らく会えないだろうと思うのに──そんな彼が筆を置いた。彼が描きたいと思わなかったのかもしれない。彼が思い描くほどの魅力がベアトリスにはなかったと言われてしまえば、それまでなのだ。それでも「はい、わかりました」と素直に返事をすることはできず、諦めの悪さで言葉を探し口を結び。必死に彼へかける言葉を探すうちに怯えながら筆を止めた彼の悔しさに触れたらしい、気丈に見せた凜とする声で静かに問いかけて。)
…………Mr.アーサー、どうしてか理由を伺ってもよろしい?
53:
Arthur [×]
2025-02-22 17:33:48
(静かに投げかけられた問いに、即答できるはずもなかった。否、答えならば既に目の前にあるのに、それを手に取り晒すことに、どうしようもなく躊躇いが生じてしまう。──ベアトリス・ルーナという少女は、この手で捉えようとするには、あまりに遠かった。愛の不在ごと己の境遇を受け入れ、しかし決してそれに呑まれることなく自らの意志で立ち、歩み続ける。苦しみも憧れも、そのすべてを抱えながら前へ進もうとする彼女を、果たして描くことなどできるのか。伯爵家の庇護を捨てる覚悟も、ひとりで生きる勇気も持たぬまま、ただ曖昧に、臆病に、「画家」を気取ってきた自分に、彼女の本質を捉える資格があるのか。己の在り方すら定まらぬまま、強靭で、崇高で、そして何より確固たる意志を宿したその瞳を、真に描き出すことなどできるはずがないと、痛いほどに思い知ったのだ。彼女の姿に向き合うことで否応なく自分自身とも向き合わされ、逃げ場のない現実に晒された今、筆は動かず、胸の奥でざわめく何かを押し殺すように強く拳を握る。爪が掌に食い込む痛みだけが生々しく残り、心の奥にまで突き刺さる。見ないふりをして筆を執ることもできただろう、しかしそれでは美しいだけの虚ろな「肖像画」しか生まれない。彼女をそんなものに閉じ込めるわけにはいかない、その一心で筆を置くことが、今、自分にできる唯一の誠実な選択だった。ゆっくりと拳を開き赤く爪痕の滲んだ手のひらを見つめ、沈黙の果てにようやく、塞がった喉を押し開くように言葉を絞り出して)
………月を、掴むようだ。どれだけ手を伸ばしても届かない。──…光を追うことをやめた俺には、貴女が遠い。
54:
Beatrice [×]
2025-02-23 10:17:57
(芸術の殿堂とも称されるクラリッジ伯爵が目を掛ける画家。さらに、彼が描く肖像画は真実を映し出すと噂され、多くの貴族たちが理想の姿を「真実」として描いてほしいと彼の筆を求め始めた。ベアトリスもまた、その一人。ただし、求めたのは虚飾をまとった姿ではなく内面をも映した偽りのない自分だったと言うだけ。今後を生き抜くための光として、その一枚を宝箱に閉じ込めておきたかった。自分でも知らない自分とは何だろうかと昨夜から募らせていた期待。冷たくも鋭い宝石のようなブルーグレーの瞳が己をどのように映しているのかという高揚に満ちていた。しかし、作品が未完に終わるという事実を突きつけられた。彼の痛々しいほどに握り締められた拳と、胸を締めつけられるほど苦しげな表情が、言葉よりも鋭く真実であると物語っている。失望がないと言えば嘘になる。期待していた作品を得られないことは、どうしようもなく残念だった。けれどそれ以上に、彼が自らを罰するほどに苦しんでいることのほうが心に刺さった。誤魔化しなどいくらでもできたはずなのに、適当に仕上げることなく筆を置いたその誠実さは、むしろ好感を抱かせるものだった。彼は、女に恥を晒してでも嘘をつかない。そんな人間がいるのだとベアトリスは初めて知った。静かに立ち上がり、一歩ずつ彼に近づく。イーゼルを避け、正面に立てば、白い肌に爪を立てた深い跡が目に入る。それほどまでに彼を追い詰めたのは何だったのだろう、そう考えてみても彼がこの苦しみを抱えるに至った理由を理解することはできない。ただ、彼が誰よりも誠実な芸術家であることだけは、痛いほどに伝わった。イブニングバッグを開き、控えめなピンクのレースのハンカチを取り出す。そっと爪痕に被せ、そのまま両手を包み込んだ。この手に描いてもらうことは叶わなかったけれど、彼と過ごした時間の中で自分自身を見つめ直すことができた。それは、どんな宝石よりも価値のあるものだった。ふ、と瞼を落として気持ちを込めればかけがえのない感謝を込めて、包んだままの彼の手にそっと温もりを預けるように握りしめて。)
……アーサー様のおかげで、私はベアトリスに触れることができたわ。アーサー様がいてくれたから。アーサー様が、私をちゃんと見ようとしてくれたから──ありがとう。
55:
Arthur [×]
2025-02-23 13:06:47
(己を映し出す鏡──ベアトリスという存在はまさしくその象徴であり、彼女を前にして否応なく突きつけられるのは、自分が求めながらも手を伸ばし得なかったもの、目を逸らし続けたもの、そしてひたすらに背を向け逃げてきたもの、その全てだ。自らの無力を暴き立てられ、画家としての“敗北”を容赦なく突きつけられる、それは筆をとって以来初めての挫折であった。顔を上げることさえ叶わぬまま沈黙の中に身を埋めていると、微かな衣擦れの音が静寂を破り、続いて椅子がわずかに軋む音が響いた。歩み寄る足音は静かで、それでも近づいてくる気配は否応なしに伝わってくる。そして次の瞬間、冷えた指先に、じんわりとした温もりが滲んだ。柔らかな布地が肌を撫でる感触とともに、小さく震えていた手がそっと包み込まれ、ハンカチ越しに伝わる体温がかえって胸を締めつける。痛むほどに優しいその仕草が、まるで無言のうちに己の脆弱さを肯定されるようで、抗いがたいほどの居たたまれなさが込み上げた。それでもなお顔を上げることができず、ただこの手を覆う彼女の白い指先を見つめる他ない。真っ直ぐに向けられる言葉が、いかに真心からのものであるかは理解できた。しかし、だからといってそれに甘んじて己を赦すことなどできるはずもなく、そうであるからこそ、彼女の瞳を見上げることなく目を逸らし、低く押し殺した声で吐き捨てるように呟き)
……やめてくれ。…俺は、貴女が求めるものを何ひとつ形にできなかった。それなのに、感謝される筋合いなんて……
56:
Beatrice [×]
2025-02-24 10:51:11
…………アーサー・バートン、私を見て。下を向かずに、この目の前にいる私を見てちょうだい。私は誓うわ。夢を、夢のまま終わらせないと。今すぐには叶えられないかもしれない。けれど、あなたがくれた”勇気”を胸に、この瞬間を大切に抱きしめながら、いつかきっと──私はこの手で夢を掴んでみせると。
(包み込んだ手は大きく、男らしい強さを宿していた。それなのに、ひどく怯え、体温は冷たく、かすかに震えていた。ほんの少し前まではどんな些細な変化も見逃さないというように、まっすぐに己を見つめていた彼が、今は塞ぎ込むように俯いている。その姿が、惜しくて、悔しかった。彼は、ベアトリスがどんな女であるのかを思い出させてくれた人。だからこそ、彼がこんなふうに自らを閉ざしてしまうのを、ただ見過ごすことなどできなかった。そっと包んだ手に、気づかぬうちに力がこもる。呼びかける声には凛とした響きが宿った。それはまるで、落ち込み傷つく彼を奮い立たせる鞭のようであり、彼の中に巣食い始めた恐れを振り払うための祈りのようでもあった。彼がくれたものは、ベアトリスの未来を照らす大切な贈り物。それなのに、彼が自らの選択を後悔し、筆を取ることを怖れるようになってしまったら……それはあまりにも悲しい。ふと、弱々しい声が耳を打つ。胸が痛む。けれど、その痛みよりも強くこみ上げるのは、彼自身が自らを貶めることを許せないという感情だった。誰が彼を侮辱しようとも、それがたとえ彼自身であったとしても──それを許せなかった。きっ、と射抜くような眼差しを向けて彼が視線を合わせるのを待つ。その眼差しに込められたものは、言葉にせずとも彼が筆を手放さないように、彼が、己の芸術を誇れるように。その思いばかり。そうして脅しや呪いのような想いを彼へ伝えて)
そして、夢を叶えたそのとき──私を描くと約束して。
57:
Arthur [×]
2025-02-24 16:03:11
(握られた手からじわりと伝わる力が、身体の隅々にまで浸透するかのように感じられた。その力強さとともに響く凛とした声が鼓膜を打ち、心の奥底にまで届く。恐る恐る視線を上げると、感情を宿した強い眼差しが絡みつき、逃れられぬまま心を縫い留められた。そしてその声が告げる言葉は胸を鋭く貫き、まるで彼女の指先が直接触れたかのように、心の深層を突き刺すような感覚に襲われる。夢を手に入れてみせるのだと、揺るぎない決意を込めた彼女の声は眩いほどに輝き、同時に、暗闇に沈みかけた自分に差し伸べられた救いの手のようで。霧に閉ざされた世界の隅に一筋の光が射し込むような温もりに包まれながら、握られたままの手を静かに見つめる。逃げることは容易だ。それでも、今この瞬間に背を向ければ、二度と取り戻せない何かが失われる気がした。ベアトリスが誓った、夢を叶えてみせるというその言葉。その夢を手にした時、彼女の姿を描くのは一体誰だろうか。その輝きを、無謀に見えるほどの夢の果てで燃え上がるその姿を、他の誰でもなく、ただ自分の手で描きたい──そんな衝動が、執着にも似た激情が、理性を押し退けて顔を覗かせながらも、それでもなお、自分には確信が持てなかった。まるで聖母に祈るように、救いを乞うように、迷いを滲ませた問いが震える唇からこぼれ落ちて)
──……俺は…、……俺はもう一度……光を、追えるだろうか。
58:
Beatrice [×]
2025-02-24 17:39:52
(呼びかけに応えて彼の顔がゆっくりと上がる。ブルーグレーの瞳に浮かぶのはただの戸惑いではなくて、落ち着きの奥に怯えの色が滲んでいる。それを確かに捉えながらも――もしも彼が、芸術を諦めずにいてくれるのなら。たとえそれが苦しく、険しい道であったとしても、嬉しいと感じてしまうのだろう。それが傲慢で身勝手な考えだと自覚している。それでも、抑えられなかった。いつか、きっと。次こそは、彼が思うままに自由を手にしたベアトリスを描いてほしい。そのためならばどれほどの茨が道を塞ごうとも、耐えられる。共にこの時代を生き、戦う仲間としての願いだった。苦しい道を進む同士として、盟友として。彼が筆を手にし、ただひたむきに芸術と向き合い続けるのだとしたら、それ以上の心の支えなど他になかった。目の前の彼は、今にも溺れてしまいそうなほど不安定に見えて、本当ならば救いの手を差し伸べるべきなのかもしれない。けれど、それを知りながら彼を道連れにしようとしている。己の選択が彼の人生を変えたかもしれない。だが、己もまた、彼と出会ったことで生きる世界も、見るべきものも、進む道も、すべてが変わっていたのだ。思いのままに顔を寄せれば柔らかなレースのハンカチ越しに包み込んだ彼の手。その甲へ、そっと唇を触れさせる。希望をくれた、尊敬する手に敬愛を込めて。それからゆっくりと顔を上げる。そして、ふんわりと微笑んだ。救いを求める彼に対して伝えるそれは踏み込みすぎた発言だったけれど、本心からそう思うとあまりにも自然な言葉だった。)
───私が、あなたの光になるわ。
59:
Arthur [×]
2025-02-24 19:54:00
(体温が少しずつ戻る手の甲に唇が触れた瞬間、心臓がひどく跳ねた。ハンカチ越しであっても、彼女の温もりと柔い圧力が確かに伝わり、驚きと、それ以上に胸を満たす熱に戸惑い、指先まで痺れるような感覚に呑み込まれる。凍てついた大地に初めて陽光が差し込むように、雪解けの朝日に似た微笑みを湛えた彼女の口から発せられる言葉が、重く、温かく、そして恐ろしいほどに真っ直ぐに響いた。奥底で鈍く燻っていた何かが、炎のように激しく揺らめき始める。世界の全てを許し、肯定するかのようなその微笑みが、何よりも美しく、呼吸の仕方を忘れたように胸の奥がひどく詰まる。そして確信めいて強く思う、この光を失いたくないと。筆を折ることで自ら光を遠ざけるなど、そんなことは耐えられないと。心臓が煩わしいほどに鼓動を刻み、耳の奥で血液が流れる音が聞こえる。痛いほどの熱が心を焦がし、ただ、今この瞬間に彼女が──ベアトリスがここに在ることだけが、すべてになった。何かが決定的に変わってしまったことを本能が告げるが、抗おうとする意思すら湧かず、ただ、もう戻れないのだと理解するだけだった。震えを失った手は静かに彼女の手を握り返し、そっと瞼を落として。思わず彼女の名を呼び、出かかった言葉は自分たちの立場を思えばこそ苦々しく飲み込んで、再び開いた瞳をまっすぐに向け、代わりに先ほど彼女が望んだ約束だけを交わして)
……この光があれば、闇の中でも迷わずに歩いていける気がする。──ベアトリス…、………いや、…いつか貴女という光を、この手で描かせてほしい。
(/お世話になっております。今回もとても楽しい一幕をありがとうございました!きりが良さそうでしたので、このあたりで一旦シーンを閉じても良いかなと思っております…!こちらで〆でも、最後仕上げを施していただいてもどちらでも大丈夫です。場面転換先を迷っていまして、相談所の方で少しご相談を進めさせていただいてから移行したいと思うのですがいかがでしょうか…!)
60:
Beatrice [×]
2025-02-26 00:48:22
(大きくて、少し筋張った男性の手が、自らの手の中で小さく震えていた。怯えるように、怖がるように。可哀想に、大丈夫よ――そう言葉にする代わりに、己の熱をそっと分け与える。指先からじんわりと伝わる温もりが、まるで氷のように冷たかった彼の手を次第に人肌の暖かさへと戻していく。そしてふいに握り返された。決して強い力ではなくて、それでも確かに彼の意志を持ったその手の動きに驚きの思いが胸を落ちる。けれどそれ以上に、初めて出会ったときから今に至るまで一度たりとも見たことのないほどの強さが彼の瞳に宿っていることに衝撃を受けた。何かを言いかけて、けれど言葉にしなかった彼。その言葉がどんなものだったのだろうと心に引っかかることはなかった。それほどに光を宿した彼の瞳はまっすぐで、力強くて、ただそれだけで心を大きく揺らしたのだ。交わしたのは契約書など存在しないただの口約束。けれど彼の声で名前を呼ばれ交わされた約束は、これまで生きてきた中で何よりも重たく、そして何よりも大切な約束になった。──極論、これだけで今後の人生を生きていけるとそう思わせるほどの力を持った約束だった。ああ、この船に乗りこの部屋で芸術家アーサー・バートンと出会えたことを、きっと生涯忘れることはないと、自信を持って言い切れるほどだ。熱く力を持った彼の瞳、吸い込んだ画材の匂い、窓から差し込む眩しいほどの日差し。そしてこの部屋で過ごした全ての時間が、何よりも愛おしい。その愛しさに蓋をするように、そっと触れていた手を解いてこくん、と頷いた。大切な約束を胸の中の宝箱にそっと閉じ込めるように、ふんわりと微笑んでからもう一度だけ、ゆっくりとした動作でしっかりと頷く。この部屋を後にすればベアトリス・ルーナは再びモラレス卿が描く理想の女性に戻る。けれど、不思議と苦しくはなかった。それさえも温かく感じられるほどに彼との約束が胸をじんわりと満たしてくれていたから。だからこそ、彼にベアトリスを残すように。この時間を、この想いを、そっと託すように。持ち歩いていたレースのハンカチーフを彼のそばに置いていくことを決めた。姿勢を正し、にっこりと微笑んで別れの挨拶を。すう、と目元を細めればそれはまるで会釈の代わりのようで。それから小さな箱庭のようだった、優しくて暖かな時間を後にして──。)
Mr.アーサー、私の光は、……あなたよ。
61:
Arthur [×]
2025-02-26 13:05:38
(穏やかな風が吹く中、絶え間なく降りしきる雨が海面を叩く、航海四日目の夜。一等客室のダイニングルームは特別な演出が施され、シャンデリアの灯りが落とされる代わりに各テーブルのキャンドルが揺らめき、夢幻のような雰囲気を漂わせていた。金の縁取りが施された白磁の皿に彩られた料理が並び、グラスの中では琥珀や葡萄の色が静かに揺れる。ワイングラスを鳴らしながら談笑する老夫婦、事業の話に花を咲かせる紳士たち、その傍らで退屈そうに欠伸をする少年。各々の時間が蝋燭の光の中で静かに溶け合っていく──そんな華やかな場にあっても、人目を避けるように隅の暗がりへと身を置き、銀のフォークを手に取ることなく眼前の光景をスケッチブックに写し取る。社交が苦手な自身にとってこうした場はただ疲れるばかりで、恐らく後で伯爵夫人に小言を言われるだろうが、それでも筆を執る方がはるかに気が楽であり。鉛筆の先が紙を走り、描かれるのは食事と社交を楽しむ貴族たち、そして……真直ぐ向けた視線の先には、ベアトリスとモラレス侯爵。並んで席に着き、親しげに会話を交わしながら食事を楽しむ二人の姿を目にするだけで、胸の奥に小さな棘が刺さるような苛立ちが込み上げる。視線を外して別のものを描こうとしても、なぜか鉛筆は彼らの姿を紙の片隅に刻んでしまう。彼女と正面から向き合った時には惨めになるほど手が動かなくなり、醜態を晒したにも関わらず、群衆の一部としてならそれが出来る──そんな自分に嫌気が差しながらも、筆を止めることはできず。その時、不意に肩に軽い衝撃を受け)
──…っ…!
「おっと! 失礼。どうも食べ過ぎてしまってね、この通り道が狭くて……いやはや、シェフの腕が良い証拠だ! 素晴らしい船の、素晴らしい食事に乾杯!」
……はあ。いえ、こちらこそ…。
(振り向けば、そこにいたのは自分よりも少し背の低い中高年の紳士。丸い腹をポンと叩き、陽気な笑いとともに楽しげに語れば、片手のグラスを掲げてウインクを一つ。その場を去ろうとした途端また別の乗客にぶつかり「おっとっと! 失礼。」と謝罪しながら忙しなく消えていく。貴族らしからぬその雰囲気に、自分と同様にこの場へ招かれた立場の人間だろうか…と頭の隅で考えながら彼を見送り、再び鉛筆を握り直して。)
(/航海4日目の晩餐シーンまで飛ばして再開させていただきました!今後は他の人物との会話も増えそうでしたので、テスト的に上記のように表してみましたが、もし苦手な書き方でしたらお申しつけください…!また、航海日誌も記録しましたので下記に添えさせていただきます。すみません、完全に背後の趣味なのですが、航海日誌感?を強めたく色々と情報を蛇足ながら加えております…。)
1日目
天候:晴れ、微風(東北東3ノット)
海況:穏やか(波高0.5m)
航路:サウサンプトン港 → イギリス海峡 → ブレスト岬沖
豪華客船レガリア号は午前10時、サウサンプトン港を華々しく出航。青空のもと、甲板では貴族たちがシャンパンを傾け、出航の祝宴が繰り広げられる。船はイギリス海峡を東へ進み、夜半にはフランスのブレスト岬沖を通過した。
ギルバート・モラレス侯爵は、同船していたクラリッジ伯爵付きの画家アーサー・バートンの存在を知る。彼の画才を聞き及んでいた侯爵は、自らの肖像画制作を依頼した。
2日目
天候:曇りのち晴れ、北風(8ノット)
海況:やや波高し(波高1.2m)
航路:ビスケー湾 → スペイン北部沿岸
午前、船はビスケー湾を南下。荒々しいことで知られる海域だが、この日は比較的穏やかで、船は揺れを最小限に抑えながら進行。時折遠くの水平線に雷雲が見えるも、進路には影響なし。
モラレス侯爵の客室にて、アーサーは肖像画のための下絵を描き始める。その場には侯爵の愛人、ベアトリス・ルーナも同席。
アーサーの絵が持つ「対象の奥深い本質を捉える力」に強く惹かれたベアトリスは、彼に密かに自身の肖像画を依頼。二人は翌日の同時刻、誰にも知られぬようスケッチを行う約束を交わした。
3日目
天候:快晴、東風(5ノット)
海況:穏やか(波高0.8m)
航路:ポルトガル沖を南下
約束の時刻、アーサーはベアトリスを自室に招き、肖像画のための素描を始めた。しかし、その過程で彼女の本質や生き様に触れるうち、自らの芸術に対する姿勢を省み、未熟さを痛感した結果、彼女を描くことを諦め筆を置く。ベアトリスは迷える画家に導きの言葉を授け、彼は再び筆を取る決意を固めた。
深夜、後部デッキで絵を描いていたアーサーは、一組の男女がそこで待ち合わせ、静かに会話を交わした後に抱きしめ合う姿を目撃。その情景を無意識のうちにスケッチに収めた。
62:
Beatrice [×]
2025-02-26 20:35:55
(豪華絢爛なシャンデリアの灯りが消え、薄暗くなった部屋の中では、キャンドルの炎だけが鮮やかに燃えていた。揺らめく光と影が織りなす幻想的な空間の中、集った貴族たちはその非日常を優雅に楽しんでいる。贅を尽くした食事に舌鼓を打ち、そこに身を置くだけで特別な存在であるかのような錯覚を覚える──その効果を、ベアトリスは冷静に理解していた。モラレス卿との会話は、いつも彼が話し彼女が聞き手に回る。それはモラレス卿に限ったことではなく、この時代の女に求められる“あるべき姿”なのだろう。慎み深く、控えめに。まるで愛らしい小花が咲くように微笑み、時に頷き、時に『わかりませんわ』と相手の知識を引き出す。そうすることで、彼を心地よくさせ、穏やかで満たされた時間を作り上げてきた。だが、今宵は違った。モラレス卿から視線を逸らしたことなど一度もなかった彼女が、ほんの一瞬、さりげなく口にしたのは──芸術家アーサー・バートンを暗に示す話題、『ギルバート様の肖像画が出来上がるのが楽しみでたまらないわ』そう自然な話題の流れを装いながら、その彼を口に出したのはほんの些細なきっかけにすぎなかった。それなのに無意識のうちに視線は彼を探してしまう。けれど煌めく光の中から暗がりにいる彼の姿を見つけることは叶わず、胸の奥に浮かんだ感情を寂しさと名付けることもできないまま、再びモラレス卿へと意識を戻した。お気に入りの愛人が肖像画にしてまでも求めてくると、その言葉のままに受け取ったモラレス卿は機嫌を良くし、にやにやと笑みを浮かべる。『そう急かしてやるな。良い作品を手がけるには時間が必要なのだよ』これみよがしに手にしたワイングラスの中では、ルビーのように濃く深い葡萄酒が揺れていた。促されるままに、自身のグラスへと細い指を伸ばし品のある動作で静かに掲げて口をつける。薄口のグラスはひんやりと冷たくて舌の上で転がしたワインは丸みのある上品な味を広げた。しっかりと味わい、適切な感想を伝えようとした、その瞬間──目の前のモラレス卿が呼吸困難に陥った。肺に酸素を落とせず、大きく口を開くが絞められた鶏のように掠れた声ばかりが洩れ出る。息を吐くことさえできないまま、喉を押さえて電流を浴びたかのように激しく震え始めた。その異様な光景に、周囲のざわめきが一瞬で止まっていた。何が起きているのか、理解が追いつかない。唖然とするばかりで、悲鳴すら上げられずに手にしていたワイングラスを床へ落としてしまった。ガシャン──! ガラスの割れる音が静寂を切り裂き、ガタンッと大きな音を立てながら椅子を後方へと引いて。この状況下では大きく見開いた目を瞬く以外、ベアトリスにできることは何もなかった。声を絞り出そうとしても、細い糸のように震えるばかり。震える唇が何度も名前を呼ぶが答える声は無く、モラレス卿が泡を吹き倒れ落ちる頃に漸く大きな波が押し寄せるような悲鳴が広がった。その後のことはハッキリと覚えていないのだ。気づけば医務室へ運ばれ、考える間もなく自室での待機を命じられ、それから間もなくしてモラレス卿が死亡した事が伝えられたのだ。更には直前の様子や死体の状況で読み取るに死因が毒によるものだと言うこと、伴ってモラレス卿が殺されたという事実だった。以来、部屋の外には一歩も出ていないが船の中は一瞬にして大きなスキャンダルで持ち切りに、その場に居合わせた貴族は愛人が怪しいと噂が広まっていた。)
……ギルバートさま。ギルバート様……?
(/読むことで物語に入り込める素敵な航海日誌をありがとうございます!早速、航海日誌と他キャストの名簿をまとめページに記載しておりますのでお手隙の際にご確認して頂けると嬉しいです。ダイジェストとして飛ばしながら書き進めるつもりが長くなってしまい、読みにくかったら申し訳ございません。アーサー様以外の台詞を含めた書き方も全然苦手じゃないのでこのままお好きなように描写下さい!)
63:
Arthur [×]
2025-02-27 14:45:39
(ベアトリスは完璧な微笑を湛えて優雅にモラレス侯爵の話に耳を傾け、舞台の役者が演じるような洗練された仕草に、侯爵は満足げに目を細める。自分は彼女と二人きりで語らうことすら憚られるのに、彼は何の制約もなく微笑みを交わし、穏やかに会話を楽しんでいる。その事実にどうしようもなく悔しさが込み上げるが、本来ならば立場上、彼女をどうこう思う資格すらないはずで、その思いを振り払うように手元のスケッチに意識を集中させようとした。だが、次の瞬間──視線の先で侯爵が苦しげに喉を押さえ、ワイングラスを取り落とした。深紅の液体が鮮血のごとく白いクロスへ滲み、見る間に広がっていく。青ざめた侯爵は息を求めてもがくが、空気は通らず、ひとつの呼吸さえ叶わぬようだった。隣のベアトリスも突然の事態に声も出ぬようで、震える手からグラスを落とし、砕けたガラスの音が鋭く響いた。侯爵の体が傾ぎ、ついに椅子から崩れ落ちると、その瞬間悲鳴が上がり、次いで椅子を引く音と騒然とした声が飛び交い始める。給仕が駆け寄り、誰かが船医を呼べと叫ぶ。指示を飛ばす声、狼狽する貴族たちの動揺。つい先ほどまで華やかに彩られていた晩餐の場は、一瞬にして騒然たる混乱へと変貌した。無意識のうちに息を詰めてスケッチブックを握り締め、鉛筆の先が紙を突き破り、小さな穴を穿つ。目の前で繰り広げられる光景が、どこか現実離れして見えていた。──その後、船の警備員が現れ、ダイニングは一時的に封鎖された。乗客たちは各自の部屋へ戻るよう指示を受ける。そんな中、足が床に縫い付けられたように動かぬまま、そこに立ち尽くしてただ侯爵の倒れた場所を見つめ、給仕に付き添われながらその場を離れるベアトリスの姿を目で追っていた。「バートン君。バートン君……」 遠くから呼ばれる声がしたが、騒音にかき消されるようにぼんやりとしか耳に届かず、「アーサー。」強めの呼び声にようやく、はっと息を飲んで振り向けば、クラリッジ伯爵が険しい表情で立っていた。鋭い眼差しが混乱を見透かすように射抜き、「我々も帰るぞ。」と冷静な、有無を言わさぬ力の籠った声に無言のままうなずき、伯爵夫妻の後を追って歩き出した。)
──………。
(一等客階の部屋へ戻る夫妻とは通路に出て早々に別れ、外の空気を求めてデッキへ向かおうと歩き出した時、不意に耳を打つ声があった。「……私の経歴はご存じないかもしれませんが、かつてスコットランド・ヤードに勤めていた者です。」足を止めて何気なく声のする方へ歩を向け、柱の陰から覗くと、二名ほどの警備員に囲まれ、見覚えのある小太りの男──先ほどダイニングでぶつかった陽気な老紳士が、低い声で何やら話していた。「ですが、ええと…Mr.ホプキンス──」 警備員の一人が少し困惑したように応じる。ホプキンスと呼ばれた男は先ほどの朗らかさとは一変し、今は真剣な眼差しを携え、低く落ち着いた声で語っており、その姿はまるで別人のようにすら思えた。「私は単なる好事家ではありません。長年、数々の事件を目にしてきた者として申し上げます。この件は慎重に捜査すべきです。寄港まで乗客の安全を守る為にも──」警備員たちは戸惑いながらも、彼の言葉に耳を傾けている。彼等の会話に耳を傾けながら、ふとスケッチブックを見下ろした。そこには今夜の晩餐の光景と、そしてモラレス侯爵とベアトリスの姿が描かれている。彼の最期の瞬間を目にした者の一人として、自分もまた何かを知る立場にあるのかもしれない。先ほどの衝撃的な出来事を反芻しながら、今なお速く脈打つ鼓動を押さえ込むように深く息を吐き、それからのち、静かにその場を後にした。)
○ ハロルド・ホプキンス(元刑事)
モラレス侯爵が関与した過去の不正事件を追っていた元刑事。50代後半の男性。髪はすっかり薄くなり、笑い皺の刻まれたふっくらとした丸顔に、腹回りの肉付きが目立つ小太りの体型。今でこそ親しみやすい風貌だが、本人いわく若い頃は相当な色男だったらしい。しかし鋭いアンバーの眼光は未だ衰え知らず。人懐っこく、皮肉を交えた軽妙なジョークを飛ばす陽気な性格で、酒と煙草をこよなく愛す。侯爵の不正を暴ききれぬまま無念の引退を遂げたが、偶然にも同じ船に乗り合わせる。事件発生時に現場付近にいたことから、正義感に駆られ、船長や警備員に捜査協力を申し出た。自身の過去の経歴を明かし、非公式ながらも調査に加わる立場を得る。
(/緊張感漂う一場面をありがとうございます!いえいえ、ダイジェストとはいえ大事な場面かと思いますので、詳細な描写ありがたいですし何よりとても楽しく読ませていただきました!一旦アーサーも自室に戻らせておりますが、次アクションとしては翌日午前、ベアトリス嬢が疑わしいと噂になっていることを知り、居ても立ってもいられずモラレス侯爵の客室に向かうことになるかと思います。そこでベアトリス嬢が連行されそうな場面に立ち会う、もしくは連行されたと聞いて警備室に向かう…という流れを考えておりますが、もちろん他の展開でも構いません。或いは4日目のうちに挟んでおきたい描写などございましたら是非取り入れさせてください!恐れ入りますが次場面の舵取りをお願いできればと思います。また、こちらも完全に趣味というか少年心を押さえきれずで、初登場キャラについてカットイン描写的な演出イメージで紹介文を置いてみております…。)
64:
Beatrice [×]
2025-03-03 10:13:39
(ベアトリスは豪奢な絹のドレスの裾を乱しながら、静かすぎる自室に置かれる椅子に力なくただぼぅっと深く座っていた。煌めくシャンデリアの光が彼女の髪を照らしてまるで聖母の後光のように見えるが、扉の外では周囲の貴族たちの視線は時に冷たく、時に野次馬の冷やかしでにやにやとどの部屋に置いてもベアトリスを見世物にするように空気はまるで墓場のようだった。それを知らぬまま、一人ぽっちの空間で掠れるほど小さい細い声が落ちる「……モラレス卿が……亡くなった…」そう呟いた瞬間、ベアトリスの心臓が大きく跳ねた。脳が理解を拒むのに眠ることも気を休めることも出来ず、ただ呆然とするだけの為に現実に引き戻される。──どれほどそんな時間を過ごしていたのか。警備員が複数名、扉の前に訪れる音がする。それから間もなくガチャンと解錠され、予想通りの姿がずけずけと無遠慮に入ってきたのだ。外はすっかり明るくなっていたと今気づく。『毒殺です。そして、容疑者は――あなたです、ベアトリス・ルーナ嬢』重々しい声が部屋の中に響き、それを伝えた船内の警備を任されている隊長が彼女に向かって歩み寄る。その背後には、すでに数人の警備兵が控えていた。モラレス卿が死んだ?毒殺?そして、犯人は私?ありえない。彼の愛人である私が?、ぐるぐると思考の海に溺れてしまいそうになるが、それさえも許されないらしい。『ベアトリス嬢、申し訳ありませんが、事情を聞かせていただきます』一歩ずつ隊長が歩み寄るのをどこか遠くに感じてしまう。足の先から血の気が引くようにクラクラとするのはこの場にいる全員から向けられるお前が殺人犯だと疑う鋭い目線が刺さるからだろうか。違う、違う、違う、この場を切り抜けなければならない。私は、ただの愛人ではない。貴族の気まぐれで弄ばれるだけの女ではない。そう思うのに言葉は途切れてしまう。それでも無罪を主張する必死な声が扉の先に向かって伸びた。それなのに『詳しくは、取り調べの場でお話しください』だなんて、まるで決まりきったことのように警備隊長はそう告げた。声に併せて後ろに控える警備員が近づきベアトリスの細い腕を掴んだが、声を上げても、抵抗しても、もう手遅れだと言う様子で逃げ場が無いことを悟る。扉の外では『まぁ、お気の毒に……』『愛人の座を守るために、ついにやったのかしら?』『いいえ、逆でしょう。もう捨てられるのが分かっていたから?』くすくす、ヒソヒソと面白がるように野次馬の貴族たちが近付けるギリギリの範囲まで近寄って噂話に花を咲かせていた。)
……冗談でしょう?……違う、私じゃない。私は何もしていません!!それに……毒なんて!
(/お世話になっております!遅くなってしまい申し訳御座いません!早速次の日の午前、連行される場面として出させて頂いております…!心理描写が多くなってしまっているので伝わりにくければお申し付け下さい!新しく登場するキャラの紹介文が入る演出にわ!と盛り上がってしまいました。本当に一つの小説や映画のような演出に心踊っております…!)
65:
Arthur [×]
2025-03-04 09:48:46
(過ぎ去った雨の名残が甲板に薄く光り、湿った冷気が降りる鈍色の朝。東に重なる雲を赤く燃やす朝日と、時折遠方に見え隠れする雷雲を眺めながら、デッキの手すりに肘を預けて重い瞼を指で擦る。昨夜の一件から昂揚と動揺を引きずったままほとんど眠ることが叶わず、脳裏にこびりつく光景──優雅な晩餐の席上に突如として崩れ落ちたモラレス侯爵の姿、そしてその場に取り残されたベアトリスの蒼白な表情を、振り払おうとしては何度も思い出していた。かすかに忍び寄る靴音が背後から近づき、その存在が隣に並ぶや否や、気配の主であるメイドのエミリーが周囲を伺いながら抑えた声で問いかけてくる。「ねえ、亡くなったんでしょう? モラレス侯爵……あなたも昨晩、あの場所にいたのよね。」まさしく予期していた話題に違いなかったが、何かを噛み殺すように唇を引き結び、「よく見ていない。席が遠かったから…」と取り繕うように答え、しかし彼女は一歩も引かず声音をさらに沈ませて「それでね、“やった”のは愛人だって聞いたわ。侯爵がお連れになっていたのって、夫人じゃなくて愛人だったのね。どうりでお若いわけだわ…。」耳を疑った。侯爵を殺害したのが彼の愛人──即ちベアトリスであると、その発言に瞬間、思考が凍りつく。「……そんな人には、見えなかったけど」返す声は震え、ひどく喉が乾いて唾を飲み下す。「そう? でも皆、そう噂しているわ。きれいな御人だから目立つでしょうし……こんなふうに船の中じゃ噂話なんてあっという間に広がるものよ。そういえばさっき、警備兵の人たちが何人か一等客階に行くのを──あっ、ちょっとアーサー!どこに行くのっ?」鼓動がうるさいほど脈打つ。冗談ではない。まさか彼女が、そんなことをするはずがないのに。エミリーの達者な語りが終わらぬうちに、思考を置き去りに動いた身体はデッキの扉を押し開けて駆け出し、廊下を突き進むにつれ耳に入り始める貴族たちのざわめきを追い抜いていく。やがてモラレス侯爵の客室近くまで辿り着けば、扉の前に集う人々の間を縫うように進み、その最前、警備隊の輪の只中へと身を投じて。一人の警備兵の腕を掴み、荒い息を整える間さえ惜しいとばかりに掠れた声を絞り出し)
──…っ、待ってください。…何を、しているんですか…。
(警備兵は一度振り向いたが、突然現れた男の身形を一瞥したのみで一等客室の乗客ではないと判断すると、「昨晩の事件に関する容疑者の確保を行っています。乗客は不用意に近づかないように。貴方、関係者ではないでしょう?」冷ややかにそう言い放つや腕を振り払った。)
(/お世話になっております!五日目の開始ありがとうございます。事件発生から緊迫する場面が続き、感情移入してドキドキしてしまいます…心理描写ありがたいです…!また、先日更新いただいた保管庫の方も確認して参りました、毎度ご対応ありがとうございます。と言いつつ誠に恐縮なのですが、四日目の航海日誌をつけましたのでこちらもお手隙の時に仕舞っておいていただけると嬉しいです…!)
4日目
天候:降雨、東風(6ノット)
海況:畝りあり(波高1.0m)
航路:ジブラルタル海峡を通過、地中海へ進入
船は夕刻、ジブラルタル海峡を抜け地中海へ進入。終日降り続いた雨が甲板を濡らしていた。
夜、一等客専用ダイニングにてモラレス侯爵が突然倒れ、間もなく死亡が確認された。毒殺の疑いが濃厚となり、元刑事ホプキンス氏が非公式の捜査を開始。最初の容疑者として被害者の愛人であり隣席のベアトリス・ルーナに疑惑が向けられた。船内に緊張が走る中、侯爵の死の真相は未だ闇の中である。
66:
Beatrice [×]
2025-03-04 15:10:07
(波に揺れる船の上でベアトリスは冷たく沈黙していた。犯人が愛人だと疑わない警備員の無骨な手が乱暴に腕を掴み、ただ一言『歩け』と命じる。悪酔いをした時のように世界がぼやけ、足元がふわりと浮くような感覚に襲われてしまった。誰もが愛人による毒殺事件だと疑わないこの空間が酸素を奪っていく気がする。私は……殺してなどいないのに、見たいようにしかものを見ないほぼ全ての人は結論を決めた視線で射抜くのだ。一瞬の内に世界の全てが敵になった環境はまるで冷たい霧の中をさまようような気分で、目の前の光景が現実のものとは思えない。それでも、容赦なく警備員たちが連行しようとしていた。このままでは、すべてが終わる──しかし何もする事が出来ない。そう心が折れかけたその時、船の奥から誰かが駆けてくる音がした。ベアトリスが顔を上げた先にはアーサー・バートンが。正しく駆けつけたと言うのが伝わる雰囲気で彼は真っ直ぐこちらへ向かおうとするが、すぐに警備員に行く手を阻まれてしまっていた。その瞬間──ベアトリスは初めて、まともに息ができた。沈んでいく船の中で唯一、掴める浮き輪を見つけたような気がしたのだ。彼が自分を見ている。どんな時も本当の姿を見抜いてくれる彼が、無茶を承知で来てくれたと知れば考えるよりもずっと早く無意識に、その名を呼んでいた。警備兵に押さえつけられながら、それでも息を乱した彼がこの場まで来てくれたという事実がとてつもない勇気を与えてくれた。指先の震えを握りしめて、流されてはいけないと、ベアトリス、今すぐに目を覚ましなさいと己を律する。きっと彼だけは私を信じてくれるはずだ。船という閉ざされた世界の中で、彼だけは。そう信じて澄んだ声が大きく無罪を主張し、抗うことなく取り調べを受けるだろう船長室へと自らの足で向かう事にした。勇気をくれた彼のそばを通り過ぎる際、感謝を乗せてそこには少しの後ろめたいことなんて無いのだと証明するように微笑んで。)
………Mr.アーサー…?、───ベアトリス・ルーナは無実です。……乱暴をしないで、私は逃げません。
(/保管後のご確認と共に4日目の航海日誌もありがとうございます!後で読み返した際に鮮明に場面が思い出される素敵な航海日誌がとても楽しみで何度だって読んでしまいます…!後ほど保管庫へ写させて頂きます。相談の方もお返事をありがとうございました!それでは早速ベアトリスを船長室へと向かわせます…!)
67:
Arthur [×]
2025-03-05 14:38:05
………っ、ベアトリス……! 離してください、彼女は──
(警備隊長らしき男に先導され、両側を固められ部屋の中から姿を現したベアトリスと目が合った瞬間、反射的に名を呼び無実を訴えようと声を上げかけたが、その刹那、彼女の澄んだ声が場を制した。抗えぬ力に腕を引かれ、野次馬たちの好奇の視線を一身に浴びても、彼女の声音は微塵も揺るがず毅然とした響きを宿し、まるで自身にさえ言い聞かせるように、静かに、しかし確かに前を向いていた。最後に送られた微笑みは儚く、それでいてどこまでも凛としていて、ひどく胸が締め付けられる。閉ざされた船の中、一度張られた悪意ある噂は容易には消えない。疑念と恐れ、不確かな憶測が渦巻くなかで彼女はそのすべてを振り払い、自らの潔白を証明するために歩みを進めていく。その背にあるのは、無実の者だけが持つ純然たる光だった。警備兵たちの輪が再び閉じられ、客室の扉に施錠し、立ち尽くす自身の前に踏み出した一人の警備兵が煩わしげに眉をひそめて低く告げる。「関係者でもないあなたが騒ぎ立てても無駄です。証拠の一つも持たないなら、邪魔をしないでくれ。」喉が詰まり、言葉が出ない。悔しさと焦りが入り混じり胸の奥を燃やしていくが、それで終わらせるわけにはいかない──そう、証拠だ。証拠を持ってくるしかない。昨晩の出来事を確かにこの目で見た。モラレス侯爵が倒れる直前、彼の席、彼のグラス、隣に座すベアトリスと周囲の様子。その光景を確かに記録しているはずだ。あの時広げていたスケッチブック、もしそこに、何か手がかりが写っていたならば。警備兵たちの冷ややかな視線を背に受けながら踵を返し、次の瞬間には駆け出していた。靴音を廊下に響かせ、息を切らしながら自室の扉を乱暴に開く。机に投げ出していた数冊のスケッチブックから一冊を掴んで急くようにページを捲り、荒い呼吸が紙の上に落ちる。そして──見つけた。鉛筆の走った線が昨夜の光景を鮮明に蘇らせる。紙が指の汗を吸い、わずかに波打った。これが、この一枚が、何かを変えられるかもしれない。スケッチ帳を握り締め、焦燥を胸に再び部屋を飛び出した。)
(/ご確認並びにご対応ありがとうございます!加えて、直近で一つご相談がございます。。ご提案もとい我儘なのですが……この展開でのスリル感&ドラマ性を増したいと考えておりまして、アーサーが証拠品を提示したいと船長室の前で掛け合うも相手にされず→船長室外に待機しているバムフォード氏orワイズナー嬢に手助けいただく、というもたつきを挟めたらと考えてみたのですがいかがでしょうか…?(一等客なのでお付の人がそこまで同伴していることもあるのかなと!)もし採用いただけそうでしたら同伴の描写を取り入れていただけますととても嬉しいです…!そして遅れて登場したいので船長室では先に尋問が始められているとすごく…すごく嬉しいです…ベアトリス嬢に心細い思いをさせてしまうことだけが心苦しいのですが……!!)
68:
Beatrice [×]
2025-03-08 00:13:42
(連行された先は船長室だった。だが、扉が閉じられた瞬間にそこは檻へと変わる。重厚な木製のデスクを挟んで警備隊長が静かに座っている。その背後では複数の警備隊員が控えており彼らの視線は、まるで有罪を前提にした裁きの目のようだった。『ベアトリス・ルーナ嬢、改めてお聞きします。あなたはギルバート・モラレス卿を毒殺しましたか?』「いいえ」何度目になるか分からない問いに対して彼女が答える内容は変わらない。ベアトリスは背筋を伸ばし、凛とした声で即答した。「ギルバート様を慕っておりますのに、どうして私が毒を持って殺害する必要があるのでしょう?」「たかだか愛人のひとりである私が、ギルバート様の庇護を自ら手放すなど、考えられませんわ」冷静な口調を保つ。そこに感情を交えてはいけないと落ち着いた佇まいで気を配り発言しなければいけない空間に、今すぐにでも酸欠で倒れてしまいそうだった。警備隊長の態度は丁寧であくまでも彼女を一人の女性として扱っているが、背後の警備隊員たちが浴びせる視線はとても冷たくて疑念に満ちている。ここで一言でも回答を誤れば揚げ足を取られる、そう恐れを抱きながら回答を選ぶのは生半可じゃない苦しさがあった。警備隊長は微妙な間を挟みながらも穏やかな声で尋ね続ける。『では、事件当時の状況を説明してください』「はい。美味しい食事を楽しみながら、先日描いていただいた肖像画の完成を楽しみにしておりました。それが私とギルバート様の話題の中心でした」「ワインに毒を仕込む隙など、私にありましたか? ギルバート様の目の前で、魔法のように毒を仕込めるとでも?」事実を淡々と述べるが警備隊長は無表情を崩さなかった。『ですが、実際にワインには毒が入っていたのです』「私が入れた証拠はございますの?」問いには答えず、ただ彼らが決めつけたい方向へと誘導されているのは勘違いじゃないとわかるからこそ悔しくて、腹立たしい。それでもベアトリスは感情を押し殺し、冷静に応じるしかなかった。──どれほどの時間が経ったのか分からない。疲労が少しずつ忍び寄り、精神が削られるような感覚があった。その時、一人の男性が声を上げたことで部屋の空気が変わる。)
『おやおや、随分と厳しい尋問をなさっているようですな』
(それは少しくぐもった、どこか軽妙な声。扉が開き、そこに立っていたのは小太りの男だった。笑い皺の刻まれた丸顔。親しみやすい風貌とは裏腹に、鋭いアンバーの眼光が光る。「ハロルド・ホプキンス」と名乗る彼は、船長を一瞥し、煙草を咥えながらのんびりと室内に足を踏み入れた。『さて、お嬢さんが犯人だと決めつける前に……少し、お話を伺っても?』穏やかで軽い雰囲気にも関わらず垣間見える鋭さに場の空気が一変する。ベアトリスは、彼の登場に僅かに息を飲んでから怯えずに微笑んで。)
ええ、もちろん。知っていることなら何でも話すわ。……私もギルバート様を殺した犯人を探し出したいの。
(/とても素敵なご提案をありがとうございます。背後様の素敵な案に益々気持ちが踊ってしまいます…っ。ぜひとも乗らせてください!折角ですので共にベアトリスの無罪を信じる騎士メルヴィンがアーサー様の手助けになればと思います。それでは早速では有りますが、一旦は船長室にて審問を受ける場面を載せさせて頂きます。また、その中でハロルド様を登場させて頂いております…!
別件でご連絡がございます…!私事なのですが、暫し仕事が立て込んでしまい来週のお返事が遅くなってしまうかと思われます…。既に毎度お時間を頂いているにも関わらず申し訳ございません!!ご容赦頂けると幸いです。)
69:
Arthur [×]
2025-03-10 10:02:04
中で行われている取り調べについて証言させていただきたい。証拠はここに。私は昨晩、事件が起こる直前までモラレス侯爵の姿を──
(船尾寄りに配置された客室を飛び出し上階の船首方向へと長い廊下を駆け抜ける途中、通りすがりの乗客や船員と何度かぶつかり、短い謝罪の言葉を零しながら、それでも止まることなく進んだ。焦るなと自らに言い聞かせても逸る心は収まらず、鼓動はなおも激しく鳴り響き、足音は制御の利かぬまま床板を打ち鳴らす。目的地はこの巨大な船の中で最も権威ある部屋、船長室──そして、今まさに取り調べが行われている場所だ。豪奢な装飾が施された扉が見えて歩速を緩めれば、扉の前には警備兵が二人、鋭い眼光を走らせ壁のように立ちはだかる。息を整えながらスケッチブックを小脇に持ち直し、一歩前へと踏み出して強張る声で申し出た。しかし言葉の途中で警備兵たちは互いに目配せを交わし、次の瞬間には憐れむような、まるで何も知らぬ少年の戯言だとでも言わんばかりの眼差しを向けてきた。そしてうんざりしたように口を開く。「何度も言わせないでくれ。あなたにできることは何もない。それに、ここがどこだかわかっているのか? これは船長室だ。当然、部外者の立ち入りは許されない。」冷たく突き放す門前払いの言葉に、それでも諦めるわけにはいかず、もう一度食い下がろうとしたその時──「彼はクラリッジ伯爵家に随行する肖像画家、アーサー・バートン氏です。」澄んだ声が割り入り、場の空気を一変させた。「美術界では名の知れた画家であり、モラレス侯爵もまた彼のクライアントの一人でした。三日前には肖像画制作のために侯爵の客室にも招かれている……間違いありませんね?」こちらに向けられた問いに一瞬遅れて頷く。その“彼”は、すらりとした長身に中性的で端正な顔立ちを持ち、射抜くような視線には確かな知性と力強さがあった。装いや口振りから恐らくは侯爵家の護衛だろうか。その存在感に圧倒されたのは自分だけではなかったらしく、警備兵たちもたじろぎ、互いに目を交わし合っている。「疑いをお持ちなら乗員名簿を確認してはいかがでしょう。…彼は昨晩の晩餐にも同席し、その証言があるというのに、それを無視する理由がありましょうか?」凛とした声がさらに重ねられれば警備兵たちは露骨に躊躇いを見せ、しばしの沈黙の後に一人が観念したように小さく息を吐き、渋々と扉を叩いた。「船長、外に一人、話を聞いてほしいと申し出ています。」「……誰だ?」扉の向こうから返ってきたのは低く響く男の声。おそらく船長、もしくは警備隊長だろう。「アーサー・バートン。証拠があると言っています。」短い沈黙が降りる。緊張に包まれた一瞬の間の後、ついに命が下る。「入れ。」扉が軋む音を立てて開かれた。思いがけず助太刀をしてくれた“彼”へと一つ礼を送り、深く息を整えてから、静かにその部屋へと足を踏み入れた──。)
(/ご快諾のお言葉、誠にありがとうございます!麗しの女騎士メルヴィン様にお助けいただけるとのことで、嬉しさのあまり思いの他たくさん喋らせてしまったのですが、イメージの齟齬などございませんでしょうか…?気になる部分などございましたら訂正しますのでお申しつけください。そしてせっかくなので(?)アーサーからは背格好や服装から第一印象でメルヴィン様を”男性”と認識させております…。後で事実が明らかになるのが個人的に楽しみです…!
ご連絡もありがとうございます!お忙しい中、お気遣いいただき恐縮です。お返事はご無理のない範囲で、お仕事が落ち着かれてからで大丈夫ですので、どうかお気になさらないでください。どうぞご自愛くださいね。)
70:
Beatrice [×]
2025-03-17 22:03:52
(扉が開いた瞬間、ベアトリスは無意識のうちに息を詰めた。扉が開かれる音が静かに響き、ゆっくりと、しかし迷いのない歩調で近づいてくるその人影を見たとき、胸の奥で張り詰めていた何かが緩むような感覚を覚える。今この場に居て欲しいと我儘にも願っていた姿、信じ難いがアーサー・バートンが来てくれたのだ。どれほど繰り返し訴えようとも、決して届かない無実の叫びと、どれほど言葉を尽くしても、揚げ足を取られるだけの徒労。まるで決められた結論に向けて形ばかりの儀式をさせられているような、この終わりの見えない尋問の場に彼が確かな存在をもって入り込んで来てくれたのだ。彼の存在を共に目視したのだろう、その時にハロルド・ホプキンスの軽妙な声が響いた。「Mr. アーサー、証拠をお持ちとか? いやあ、いいタイミングで来たもんだ。ちょうど、この尋問に飽きてきたところでね。」ハロルドは今この場にいる誰よりも陽気で飄々とした態度だったが、その目に宿る光は鋭かった。飽きた、という言葉を受けた警備隊長の眉が僅かに動くのをベアトリスが見つけたのはまさに同じ心境だったからだろうか。この息苦しい空間の中で、ただ一人余裕を崩さない男である彼がただの道化でないことは世間知らずのベアトリスにも理解ができた。緩いようで鋭く張り詰めた空気の中で「さて、見せてくれるかい?」とハロルドが促す。ベアトリスの心臓は期待と不安で早鐘を打っており、アーサーが何を持って証拠としているのかとらそれを思う瞬間には無意識のうちに拳を握りしめていた。彼が持ってきてくれた証拠がこの場においてただひとつの蜘蛛の糸だとわかっているからこそ、握りしめた拳に爪が食い込む中で、それでも微笑む表情を崩さずにいなければならなかった。何も知らぬ無実の女ではなく、決して怯まずに最後まで自らの潔白を示す英国女性としてこの場に立っているのだと己のことを奮い立たせていた。他ならない彼が、こうして目の前に立ち、言葉ではなく確かな証拠を差し出そうとしている。──少なくとも、彼は私を信じている。その事実がどれほどまでに心強いか。彼の持つ証拠こそが、この絶望に光を落とすただ一つの希望だと言うようにアーサーの抱くスケッチブックへ視線を向けてからその目は彼の目元へ動き、頼もしいその人へ瞳で語るように真っ直ぐな眼差しを送ってから深く息を整える。そうして、これまでと同じように背筋を伸ばした。冷たい視線が交差する船長室で、芯の通った声で彼のことを、そして自らとの関係性を告げて。)
皆さま、彼をご存知ですか?彼はアーサー・バートン、その人の真実を描く画家だと言えばご存知の方もいるでしょう。……私も、ギルバート様も、彼へ肖像画の依頼を出していた所ですわ。
(/大変お待たせ致しました!お伝えしていた以上にお待たせしてしまったこと本当に申し訳ございません…!月に一度程度では有るのですが仕事が集中してしまう事が有るため、都度ご連絡させて頂きますがご容赦頂けると嬉しいです。
メルヴィンのイメージに齟齬もございません!正にイメージしていた騎士が動いており感動しております…!性別の勘違いも承知致しました。また新しい交流が出来そうでわくわくしております!)
71:
Arthur [×]
2025-03-19 09:15:34
(扉をくぐり船長室の中へと歩を進めれば、昨晩も晩餐の時間に見かけた紳士、ホプキンスの軽妙な声と飄々とした態度に迎えられ、一瞬拍子抜けさせられるがそれも束の間のこと。警備隊長や船長をはじめとする一同の視線が一斉に自分へと注がれれば、改めてこの場に漂う重苦しい緊張が全身に圧し掛かるようで。彼らの目にはただの画家風情がどのような証拠を持参したものかと訝しむ色が濃く滲み、思わず気圧されそうになるが、視線を前へと向ければ沈黙の中で交わったベアトリスの眼差しには怯えも揺らぎもないことが見て取れ、決してこの場に屈しないという確固たる意志をその瞳に見た瞬間、自身もまた動じることなく立たねばならないと改めて心を固くして。彼女の紹介を受けたホプキンスは得心したように「ああ」と短く相槌を打ち、「つまり君が提出しようとしている証拠というのは、昨晩の晩餐の光景を描いたもの、そんなところかね?では、拝見しようじゃないか」と穏やかに促す。その問いかけに応じて彼の前へと進み、スケッチブックの該当のページを開いて手渡し)
これが昨夜、事件が起こる直前まで私が描いていた光景です。あの場にいた誰よりも、この瞬間を正確に記録した自負があります。これを見ていただければ、彼女の席から侯爵のグラスに何かを仕込むなど不可能だと──
「いやぁ、昨日のディナーはそれはもう美味だったね!」
(主張を並べ立てる言葉を突拍子もなく遮ったのは、他ならぬホプキンスの軽快な声。その場違いとも思える陽気な発言に空気が一瞬凍りつき、皆が訝しげに眉をひそめるも、彼は意に介した様子もなく愉快げに言葉を続ける。「ああ、実によく描けているとも。おかげで思い出して腹が減ってきてしまったよ。ところで…」太い指先でスケッチの一部を軽く叩きつつ、するりと視線をベアトリスへと向け「貴女にも伺ってもよろしいかな、Ms.ルーナ。昨夜の晩餐で提供された料理の品々を覚えているかい?特に印象に残った一皿があれば、ぜひ聞かせてほしいものだ。」それはまるで世間話の延長に過ぎぬかのような穏やかな問いかけで、即座には真意を測りかね、数秒遅れて意図を理解する。──ホプキンスの狙いは、スケッチに描かれた光景の正確性を裏付けること。そしてそれを証明できるのは昨夜の料理を実際に口にしたベアトリス自身であり、即ち彼女の記憶と画面に描き出された皿の数々とが一致しなければ、この一枚の絵の信憑性は揺らぎ、証拠としての意味を成さないことになる。)
(/お返事ありがとうございます。繁忙期お疲れ様でございました…!お仕事の状況につきましてもご丁寧に共有いただき感謝いたします。突発的にご多忙になることもあるかと思いますので、連絡に関してはどうぞお気になさらないでくださいね。相談所の方に一言メッセージを残していただくだけでも構いませんので…!
メルヴィン様のイメージも相違無いようで安心致しました!ベアトリス嬢とお二人会話されているところもいつか拝見できたら嬉しいです。それでは、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!)
72:
Beatrice [×]
2025-03-19 16:02:03
どの料理も素晴らしく、シェフの勤勉さが伺える品だからこそ難しい質問ですわ。
(まるで世間話のように向けられた問いかけはハロルドの雰囲気がよりそう思わせるのか、ここで気を抜いてはいけないとベアトリスは少し考えるふりをしながら言葉を選んだ。ハロルドの真意は理解しているつもりだ、彼が求めているのは単なる感想ではなく昨夜の晩餐が正しく記憶され、再現されているかの証明なのだから。この場で曖昧な答えを返せば、ベアトリス自身の証言の信憑性もまた揺らいでしまうと記憶の扉を開く。こんな時にまさか自身の記憶力の良さが活かされるとは思ってもいなかったが、まるでその場所に戻ったかのように浮かべる微笑みはきっとアーサーが書き残すベアトリスの微笑みと同じはず。「牛ほほ肉の煮込みと、鴨肉のオレンジ風味……この二つでどちらにするかを私が迷っていたところ、ギルバート様が片方を選んでくださいましたの。新しく頼むと全部食べられないから、食べ物を残すのを嫌う私を思って選んでくださったのよ。ギルバート様の優しさを感じる二品は、どちらも美味しくて、食べ進めるのがもったいないほどでしたわ。……ああ、赤キャベツを使ったマリネがさっぱりしていて特に気に入ったわ。」静かな船長室の中に、彼女の言葉が染み渡る。その瞬間、ハロルドの目が微かに光ったのを見抜く。本来ならば、赤キャベツのマリネが付け合せに乗るのは鴨肉の皿だ。しかしベアトリスが選んだのは牛ほほ肉の煮込みであり、モラレス卿が鴨肉を選んでいる。モラレス卿が赤キャベツを好んでいない事を知るものは少ない訳で、アーサーの描くスケッチブックの中にいるベアトリスの皿の内には牛頬肉の煮込みと本来存在しない赤キャベツが描かれているのだろうか。具体的にどちらを選んだかを敢えて伝えずに、それでいて本来とは違う皿の内になっていることを伝えるのはベアトリスにとってひとつの賭けだった。アーサー・バートンならば些細なことも見落としをしないと信じているからこそ踏み込んだ発言であり、本来のままのメインディッシュが描かれていたならば今後の発言に信憑性は欠けてしまう。しかし、反対に本来のメニューには有り得ない皿の状態でスケッチが残っていたならば、アーサーが持ってきてくれたスケッチブックが証拠として強く認められるはずだ。彼が画家アーサー・バートンだからこそ出来る賭け事だった。今一度背筋を伸ばして凛とした佇まいで口を閉じて。)
73:
Arthur [×]
2025-03-20 15:47:43
(世間話を装うベアトリスの語りを聞きながらも、胸中には緊張の波が広がっていた。ホプキンスの問いの意図は理解しているが、自らが昨夜描いたスケッチの細部を完全には記憶しておらず、募る不安に喉の渇きを覚えながらも自分に言い聞かせる。彼の手元にあるスケッチと彼女の記憶が一致していれば、証拠としての価値は十分にあるはずだ、と。警備隊の面々は二人のやり取りに潜む含みを察しきれぬまま、訝しげな表情で小声を交わしていた。眉をひそめる者もいる。その間にもホプキンスは楽しげに相槌を打ち、指先でスケッチブックのページをなぞりながら暫し沈黙する。その仕草が妙に長く感じられ、無意識のうちに握りしめた拳に力が入りすぎていることに気づき、そっと指を解いた。やがてホプキンスは口を開き、「彼女を犯人と決めつけるのは、いささか慎重さに欠けるようだ。」と、その言葉が室内の空気を一変させる。彼が出した結論はベアトリスの証言とスケッチの画が一致していることを意味した。安堵の息を飲み込み、表情を崩さぬよう努める。心臓の鼓動がわずかに落ち着きを取り戻したが、完全に気を抜くことはできない。「確かに、席の並びと皿の位置関係を見れば、Ms.ルーナがモラレス卿のグラスに毒を仕込むのは不可能だ。その可能性が極めて高い。そんなことをするには、この丸テーブルを大きく回り込む必要があるだろう。さっきは遮って悪かったよ、君の主張も同じかね?」ホプキンスが指摘するまでもなく、そのページには彼女がそのような動作を行える余地がないことがはっきりと描かれている。一瞬だけ目を伏せ、静かに息を整えたのち再び顔を上げて)
ええ、違いありません。彼女は晩餐の間、終始侯爵の左手側に座していましたし、彼の目を盗んで毒を盛る隙など、あり得なかったかと。
(ホプキンスは満足げに頷くと、飄々とした口調のまま、警備隊長へと視線を移す。「さて、どうする?証拠としての価値は十分にあると思うがね。少なくとも、彼女一人を容疑者として断じるのは、あまりにも拙速では?」警備隊長は難しい表情を浮かべ、スケッチブックを覗き込みながら沈思する。その横顔には責任の重さが滲み、やがて決断を下したかのように深く息を吐くと、ベアトリスへ向き直り慎重な口調で言葉を紡いだ。「……Ms.ルーナ、今回の件に関しては、我々の対応が過剰であったことを認めざるを得ない。無礼を働いたこと、心より謝罪する。」その言葉にホプキンスは微笑み、そしてこちらを振り返り、スケッチブックを差し出しながら穏やかに問いかけた。「君、この後、少し話せるかな?」)
74:
Beatrice [×]
2025-03-20 18:21:31
(踏み込んだ賭け事が正解か不正解か──その回答を待つ時間は、実際よりもずっと長く感じられた。指先から体温が抜け落ちてしまうような錯覚を覚え、緊迫感に何とか食らいついているだけだった。警備隊長が沈思し、ホプキンスがスケッチブックのページをなぞる時間が、まるで永遠のように思える。それでも、すべきことはひとつ。静かに、しかし確固たる意志をもって待つことだけだった。──そして、その瞬間は訪れた。ホプキンスの発言を受けた警備隊長の謝罪が、緊張で張り詰めた室内に響く。ほんの一瞬で自らの置く立場が変化したことに安堵の息をほっとつく。心臓を締めつけていた見えない手が漸くほどけていくようだった。胸中に落ちるのはただ一つ、『Mr.アーサー、彼を信じてよかった。』その想いだけだ。彼の目は信じていた通り、真実を見逃さずしっかりと物事の事実を残してくれていた。彼の手で描かれたものが、救ってくれた。本当に素晴らしい腕を持つ、優秀な画家だと彼へ顔を向ける。両腕では抱えきれないほどの感謝を抱きながら、向けた顔には自然と微笑みがこぼれる。それは彼にだけ向けたものであり、してやったぞと現状を逆転させた喜びを共有するようなそんな笑みだった。対照的に、警備隊長の表情には苦々しさが滲んでいた。おそらく彼は、本音ではベアトリスが容疑者として扱うことに何の疑問も抱いていなかったのだろう。それを思いながらも、ほんの少しの苛立ちも見せずに柔らかな微笑みを浮かべながら口を開く。「私は、私の無実を証明しただけですわ。……皆さまお願い、ギルバート様を殺した犯人を、穿った見方ではなく、真摯な目を持って探してくださいませ。」静かに、けれどはっきりとした声で言う。事実は、歪められてはならないぞと。それはそのままの姿で、誰の手によっても塗り替えられることなく、表に出るべきものだ。──そう、アーサー・バートンが見る世界のように。その一言を、大切に胸の中に閉じ込めた。有力な証拠を運んでくれた彼へホプキンスが声をかけている。ただ一人の容疑者から逸れたとは言え、渦中の人でしかない。それでも間違いなく巻き込んでしまった彼へ少しでも手助けになればいいと思いを込めて、ほんの数分前までの立場では発言の機会すら与えられなかった彼女だって今は違うはずだとホプキンスへ語りかけ。)
昨夜は私の騎士も傍に控えていたわ。いつも私の傍で使えてくれている騎士ですもの、きっと昨夜のこともよく見ていたはずですわ。
75:
Arthur [×]
2025-03-21 15:26:11
(警備隊長の判断──即ちベアトリスに向けられた謝罪の言葉が発せられた瞬間、抑えきれない安堵が込み上げ膝の力が抜け落ちそうになる。もし自分を厳しく律していなければ、その場にへたり込んでしまったかもしれない。一瞬だけ向けられた彼女の微笑に気づきながらも、それに応じるだけの余裕はなく、ただ静かに姿勢を保つのみだった。ベアトリスの願いを受けたホプキンスは朗らかに胸に手を当て、「もちろんだとも。必ず真実を明らかにしてみせよう!」と誓う。そう、肝心の謎は未だ霧の中なのだ。“ベアトリス・ルーナが晩餐の席で侯爵の杯に毒を混ぜた” という疑惑こそ払拭されたが、それは単なる一つの可能性が消えたに過ぎず、真犯人が誰なのか、動機は何なのか、その問いは依然として宙に浮いたまま。この飄々とした元刑事を中心に、捜査はなお続くことになるのだろう。指先に残る微かな緊張を振り払うように静かに息を吐き、ホプキンスから差し出されたスケッチブックを受け取りながら問いに応じる)
……ええ、構いません。
(表面上は平静を装いながらも、心の奥底では一抹の警戒が芽生える。彼が求める「話」とは何か。ホプキンスの瞳に宿るものは単なる好奇の色ではなく、確信に限りなく近い光のように見えた。そこへ、ベアトリスが自身の騎士を紹介すると、彼は耳を傾けながら目を細め、穏やかな微笑を湛えて静かに頷く。そして落ち着いた口調で問いかけた。「それは心強い。それに、貴女自身にも改めてお話を伺いたいのだが……後ほど、お部屋へ伺ってもよろしいかな?」──その問いに対する彼女の応答を受けた後、警備隊長が部下の一人に命じ、先程とは異なり今度は然るべき配慮をもって、ベアトリスは客室へと送り届けられることになるだろう。)
(/弁明シーンお疲れ様でございました!この後はホプキンスからアーサーへ捜査協力の依頼シーンを一つ挟んで一旦場面を閉じ、午後にモラレス侯爵のお部屋へホプキンスと共に訪問させていただき、ベアトリス嬢&メルヴィン様へ改めて事情聴取の流れを考えておりますが、いかがでしょうか?そこでワインをサーブした人物等、ベアトリス嬢の記憶力をお借りして他の犯人候補を浮上させられればなと…!お手数ですがご意見いただけますと幸いです。)
76:
Beatrice [×]
2025-03-22 22:25:56
───勿論ですわ、お待ちしております。(先ほどまで「容疑者」として警備隊に連行されていたはずなのが信じ難いくらいに、今や彼らは清らかな佇まいで丁重に扱ってくれている。その対応の変化はまるで、はじめから何の罪も疑われていなかったかのようにだった。本音を語るなら、今すぐにでもアーサーへ自らの声で感謝を伝えたいとそう思うものの、それが出来ない歯痒さに口を閉じて。彼のスケッチがなければ、私はこの場にはいなかっただろうと思うのは、彼の目が真実を捉え、彼の手がそれを証拠として残してくれたからこそ、私は救われたのだとその事実に胸が暖かくなった。彼の名を、喉の奥でそっと呼ぶとホプキンスと話をする姿を眺めて。今、丁重に扱われているとはいえども、事実上の「監視下」にあるのだから、ここで彼に無遠慮に近づくことが許されないと理解している。ならば、大人しく流れに身を委ねるしかないと、静かに立ち上がり優雅な所作でカーテシーを行って警備隊に従いながら船長室を後にした。扉の前ではメルヴィンが構えており、船長室で下された尋問の結果を察し喜びを控えめに浮かべていた。船の中を歩く際に感じるのは依然変わらない好奇の目、それを浴びながらベアトリスは噂の広がりとは恐ろしいものだと改めて感じる。白は容易く黒に染め上げられるが、逆もまた然り。堂々と船内を歩く姿こそが、ベアトリスの無実を何より雄弁に語るようで、廊下の片隅で息をひそめる乗客たちに笑ってしまいそうになるのを堪えた。彼らは目にした光景をすぐさま口にし、さらなる噂へと変えていくのだろうと。──「Ms.ルーナはやはり無実だったのね」──「だとすると、本当の犯人は?」──「侯爵を毒殺したのは一体誰なの?」無責任な囁きがベアトリスの進む歩みとともに船内へ広がっていく。ただ一人の容疑者から逸れた事を安堵しつつ、自らの部屋へと送り届けられた。)
(/有難うございます…!臨場感溢れるやり取りにハラハラドキドキと楽しませて頂きました!
今後の流れのご提案も有難うございます。是非ともその流れで進ませて頂ければと思います。
アーサー様のベアトリスの無罪のために衝動に任せた動きも、その反面で不安を抱く姿も、そのどちらもが愛おしくて…っ。ハラハラする場面ながらも日々の癒しを頂いておりました!本当に有難うございます…!)
77:
Arthur [×]
2025-03-24 10:42:13
(警備隊に伴われ部屋を出ていくベアトリスの無事を見届けるように、その姿が扉の向こうへ完全に消えるまで見送った。船長と警備隊長が言葉を交わす声が耳に入るが、未だ残る緊張の中では遠い雑音に過ぎない。「……聞いているかね?」近くから届いた低い声に一瞬肩を震わせ振り返れば、腕を組んでこちらを見つめるホプキンスが軽く肩をすくめながら言葉を続ける。「君が来てくれて本当に助かったよ。正直なところね、君が来るまでの尋問は、まあ……あまり健全とは言えなかった。どうにかしたくても、私はそもそも部外者の身。もどかしさが募るばかりでね。」それを聞いて思わず眉をひそめる。確かに先程までの状況を思い返せば、ベアトリスが尋問の場でどのような扱いを受けていたのか想像するのは容易かった。「…それで、お話とは?」本題を促せば彼は一つ頷いて口を開く。「私は芸術家でも画商でも、ましてや評論家でもないがね…君の目はただの画家のものじゃない。いや、それ以上のものを持っていると、君の絵を拝見して感じたよ。つまり…その観察眼を借りたいんだ。捜査に協力してもらえないか?」思いがけない頼み事に一瞬だけ戸惑いの表情を見せつつも、すぐに静かに首を横に振り)
申し訳ありませんが、私は“ただの画家”です。事件には関わるべきではないかと。
(返答を受けたホプキンスはわざとらしく長いため息をつく。「いいかい? 確かにMs.ルーナにかけられた疑惑は晴れたかもしれない。だが、今のところ彼女以外に容疑者の候補は誰一人として浮かんでいない。つまり、彼女の無罪が“完全に”証明されたとは言い切れないのだよ。」スケッチブックを握る手に力が入る。彼の言う通り、事件が未解決である以上、ベアトリスの疑惑はあくまで“一時的に”晴れたに過ぎないのだろう。無言のまま視線を落とし、思考を巡らせながら彼女が去った扉の方へ目を向けた。その一瞬の仕草を見逃さず、ホプキンスは面白げに目を細める。「横恋慕とは大したものだがね。──“終始”、見ていたんだったか?」突然の指摘に肩がわずかに強張り、動揺を隠せないまま彼に目線を戻せば、見抜くような視線に晒され再び目を逸らしてしまう。彼はにこにこと微笑ましげに見つめ、「おや、君が証言したことだよ。“彼女は終始モラレス侯爵の左側にいた” とね。まるであのお嬢さんから一瞬たりとも目を離さなかったかのような口ぶりだ。」咄嗟に取り繕うための否定の言葉を探すも、目の前の男から確信に満ちた顔で見つめられては観念する他なく、無意識に奥歯を噛み締めていた顎の力を抜き、額に手を当て短く息をついて)
……クラリッジ伯爵にも、許可を頂いてきます……。
(/こちらも場面の緊張感にあてられ手に汗握りながら書いておりましたので、一緒にハラドキしていただけて大変嬉しいです!そして四面楚歌の状況にあっても毅然とした態度を貫くベアトリス嬢のかっこよさに惚れ惚れしておりました…!今後の展開もご了承いただき有難うございます。それでは、午後まで時間を飛ばしてお部屋に向かわせていただきたく思いますので、お部屋にお戻りになったシーンで〆でも、先行で場面転換いただき午後のシーンから始めていただくでも、やりやすい方でお待ちいただけますと幸いです。)
78:
Beatrice [×]
2025-03-24 17:17:40
(扉が閉まる音をどこか遠くで感じれば無意識に小さく息を漏らして。漸く、戻ってこられた──。そう思えば全身の力が抜けそうになるのを必死に堪えながら、ふらりと部屋へ足を踏み入れる。普段と変わらないはずの船室が、どこかよそよそしく見えるのはあの尋問室で過ごした時間が思っていた以上に心身を削っていたのかもしれない。「お嬢様──!」聞き慣れた声が、安堵と怒りをない交ぜにして響いた。振り向くよりも早く、彼女の腕がそっと肩を支えてくれていた。メルヴィンの琥珀色の瞳が、鋭く彼女の顔を覗き込みながら「怪我は? 何かされましたか?」と、まるで何かに噛みつくような語調で重ねる。普段冷静な彼女が、ここまで感情を露わにするのは珍しい。微かに微笑んで「……何もされていないわ。」そう答えると、メルヴィンは僅かに唇を噛みしめた。その様子を見て、「ただ少し、疲れただけ。」その言葉に、メルヴィンはゆっくりと支えていた手を離した。だが、表情は険しいままだ。「……警備隊の連中、あまりにも無礼でしたね。」そう低く唸るような声に、ベアトリスはそっと首を振る。「仕方ないわ。彼らにとって私は“侯爵の愛人”……そして今は“殺人事件の容疑者”だったのだから。」冗談めかして言ったつもりだったが、メルヴィンの眉間の皺は深まるばかりだった。「……それでも、私は許せません。」怒りを抱える彼女を宥めるように声をかける。「ねえ、メル。少しだけ休ませてくれる?」その声を聞けばメルヴィンは僅かに躊躇いながらも、深く頷いた。ゆっくりと息を整え、ふと鏡に目をやった。──そこに映っていたのは、驚くほど草臥れた女だった。髪は乱れ、ドレスは皺だらけ。青ざめた頬は、彼女自身の疲労を何よりも雄弁に物語っていた。これではまるで、ただの哀れな女だとそう思うと、途端に堪え難くなった。こんな姿のままでは、彼女は“ベアトリス・ルーナ”でいられなかった。静かに立ち上がり、シャワーを浴びる。乱れた髪をとかし、慎重にまとめ直す。衣装箱から皺ひとつないドレスを選び、優雅に身に纏う。血色をよく見せるために頬へわずかに紅を差し、唇も慎重に整えた。そこまですると鏡の中には、いつものベアトリスが戻っていた。準備を終えたベアトリスがティーテーブルへ向かうと、メルヴィンが既に紅茶を用意していた。ベアトリスは礼を言い、そっとカップを手に取る。熱い液体が喉を通ると、それまでの出来事がようやく現実のものとして自分の中に落ちてきた。モラレス卿はもういない。彼の存在しない世界が、確かにここにある。そして、彼が何者かに殺されたという事実も。この船のどこかに、犯人がいる──。思考がそこへ至った瞬間、ゆっくりとカップを置いた。「ねぇ、メル。私は……こんな形で自由になりたくなかったのよ。」ぽつりと零れた言葉に、メルヴィンの表情が僅かに曇る。「……大丈夫です、お嬢様。」その言葉に確信を込めながら、メルヴィンはしっかりとベアトリスを見据えた。「真実は、すぐに露になります。アーサー・バートンは……貴女の話に聞いていた以上に、善い人でした。きっと強い力になってくれるはず。」彼の名前を聞いた瞬間、ベアトリスの中に不思議な感情が広がった。彼は、あの場でベアトリスのために立ち向かってくれた。迷いなく、強い意志をもって。彼がいたからこそ、今ここに座っている。彼の眼差しを思い出しながら、ベアトリスは僅かに目を伏せた。少なくとも確実に、特別な感情を彼へ抱き始めている事にまだ自覚がない。その思いを追求するよりも先に扉を叩く音がする。その先にはホプキンス氏が控えていることだろう。先程までの哀れな女ではなく、にこりと微笑みを蓄えた一人の女性として彼を出迎えて)
どうぞ──。
(/それでは折角なので戻って来てからと、午後に繋げられる導入文として投げさせて頂きました。自己満足小説のようになってしまいましたがベアトリスのアーサー様への感情の芽生えとして抱かせる為の一幕として残させてください…!)
79:
Arthur [×]
2025-03-24 21:24:23
(モラレス卿殺害事件の捜査協力について許可を仰いだ際、クラリッジ伯爵は初めこそ渋い顔を見せたものの、夫人の助言により逡巡の末、最終的に承諾するに至った。「真相を明らかにするために貴方の力を尽くしなさい」と背を押す夫人の言葉に加え、伯爵からは「ただし、無闇に詮索して事件をかえって混乱させるような真似はするな」と厳しく念を押されたが。この報せを受けたホプキンスは予想通りとばかりに満足げに笑い、「よし、まずは腹ごしらえだ!空腹では鋭い思考も鈍るからな」と言い放つや、辞退の意を示そうにも言葉を挟む間もなく半ば強引に昼食へと連行され──そこからは、思わぬ忍耐の時間が幕を開けた。わずか一時間の間に彼の「武勇伝」なるものを耳にすること幾度となく、その内容たるや、かつて手掛けた名高い事件の数々、華々しい捜査手腕、幾多の場面で犯人の嘘を見抜き、真相を暴いてきた実績──それらを誇らしげに語る彼自身の言葉によって存分に知らしめられることとなった。「犯人というのはね、事件が起こった瞬間から既に舞台の上にいるものさ。あとはそいつがどこで綻びを見せるか、それを見極めるだけだ。」「だからこそ、一見何の変哲もない仕草や言葉の端々こそ、細心の注意を払って拾い上げねばならんのだよ。」「君の観察力は確かに優秀だが、それをどう組み立て、どう突きつけるかで意味は大きく変わる。証拠とは、使い方次第で鋭利な刃ともなれば、ただの紙切れにもなるものだからね。」果てしなく続く熱弁に、もはや聞き流すことに徹するしかないと悟った頃、ようやく食事が終わり本題へと移ることとなり。向かう先はモラレス侯爵が使用していた客室。そこにはベアトリスが待機している。午前中の張り詰めた空気は幾分和らぎ、船内は平静を取り戻しつつあったが、それでも侯爵の部屋へと向かう道すがら、幾つもの視線が背に刺さるのを感じずにはいられなかった。廊下の片隅では乗客たちが小声で囁き合い、まるで先ほどの騒動を反芻しながら、次なる展開を見守ろうとしているかのようだ。やがて目的の扉の前に辿り着くとホプキンスは旧友の部屋でも訪ねるかのような気軽さで軽くノックをして、しばしの間の後、静かに開かれた扉の向こうからベアトリスが姿を現した。ホプキンスは穏やかな笑みを湛え、恭しく胸に手を当て「失礼いたします、Ms.ルーナ」と柔らかく言葉を紡ぎ、促されるまま一歩踏み出す。その背に続きながら彼女の顔色を窺えば、船長室で見たときよりも幾分血色は戻り、身に纏うドレスも着替えたようだったが、それでも僅かに落ちた肩や指先の力の抜けた仕草が、彼女の疲労を如実に物語るようで。昨夜の惨劇を目の当たりにし、今朝から尋問を受け続けていたのだから当然無理もない。そう思いながら先に部屋へ入ったホプキンスへ目を向けると、彼は刑事の性なのか室内を興味深げに見回しており。その姿に苦笑しつつ、彼に聞こえぬよう配慮しながらベアトリスの傍らで声を落とし)
…疲れているだろ。平気か?
(/一連の流れを丁寧に描いていただき、さらに念願のベアトリス嬢とメルヴィン様のやり取りまで拝見でき、あまりにも贅沢な一幕でした…!ベアトリス嬢の淡いお気持ちの芽生えも可愛らしくて心が温まります…。こちらも午後までの展開を追ってみたところ思いのほか長くなってしまいましたので、次からはもう少し抑えてまいりますね。引き続きよろしくお願いいたします!)
80:
Beatrice [×]
2025-03-25 13:27:31
(扉の向こうにいたのは、ホプキンスだけではなく、その傍らには、アーサー・バートンの姿があった。予想外の訪問者に、一瞬だけ驚きが胸をよぎる。しかしそれ以上に──嬉しさが込み上げた。彼が来てくれた。尚も助けの手を伸ばしてくれているのだとそう思えば、理屈ではなく自分がどれほど彼の存在を頼りにしているのかと事実を改めて突きつけられた。その瞬間に胸の奥が熱を帯びるのを感じる。けれどそれを表に出すことはせず、いつものように優雅な微笑を浮かべて、平静を装った。「どうぞ。」そう声を掛けて誘導するように手で示したのは、つい先日彼と初めて顔を合わせた場所だった。当時の空気とはまるで異なる状況の中、こうして再び並び立つことになるとは───思いもしなかった。彼らが入室するより先にメルヴィンが気を利かせてティーセットを片付けてくれていたおかげで、室内は整然としている。ホプキンスが元職種の習性か興味深げに部屋の隅々まで目を走らせているのを目にしても、見られて困るものなど何もないのだからと咎めることはしない。それよりも、彼が私の疲労を気遣ってくれたことが、嬉しかった。微笑みを隠そうともしないまま、ふと隣に目をやり「Mr.アーサー、貴方が手を貸してくれるなら、私は大丈夫ですわ。」静かに、控えめな声量でそう告げ、そして彼だけに向けて──「ありがとう。」そう囁くように、より密やかな声でその言葉を伝えた。本当はもっと素直に伝えたい気持ちもあったけれどそれは今ではないと飲み込んで、すぐに表情を整え、部屋を見回すホプキンスに向けて声をかける。「お二人とも、お飲み物は紅茶で宜しい?」まるで何事もなかったかのように話をする為の準備を行って。)
81:
Arthur [×]
2025-03-25 19:34:04
(ベアトリスの微笑みと控えめな感謝の言葉を受け、自らが彼女の助けとなれているという実感が誇らしさにも似た安堵をもたらすが、そうした心の揺らぎを表に出すことは避け、返事は一つ頷くだけに留めた。彼女の気丈な態度の奥に潜む疲れや不安を無理にこじ開けるつもりはない。ただ彼女が手を伸ばせば、それを迷いなく取る用意があることを沈黙のうちに伝えながら。ベアトリスが話題を転じて紅茶の用意を申し出れば、くるりと振り返ったホプキンスが顔を綻ばせながら「ありがたい! できればミルクを少しだけ。」と、そう言いながら親指と人差し指の間をわずかに広げ、“少し”の加減を示す。その仕草を眺めながら自分も異論はないと軽く頷き、彼女が支度に取り掛かろうとするのを横目に、さりげなく手招きするホプキンスの側へと歩み寄れば、手渡されたのは使い込まれたノートと一本のペン。「今日はスケッチではなく、メモを取ってくれたまえ。頼んだよ、ワトソン君!」快活な笑みを浮かべながら芝居がかった調子で肩に手を置かれる。最近流行しているミステリー小説に、たしかそんな名の探偵の助手がいたような気がする。軽妙な冗談のつもりなのだろうが、まるで自分の役割を決定づけられたかのような響きに思わず溜息が漏れ、しかしそれに抗うほどの気力もなく、ただ淡々と空白のページを探しながら諦念とともに低く応じて)
……ええ、分かりました。
82:
Beatrice [×]
2025-03-26 10:16:39
(ささやかな物だがずっと伝えたかった気持ちを直接伝えることが出来て嬉しかった。二人からの返事を聞けば微笑みを残して部屋の隅にあるティーセットへと歩み寄り。アールグレイの香りが漂う茶葉が、濃く淹れる準備を整えている。ティーポットに注ぐ湯はちょうど良い温度で、湯気を立てながら落ち着いた音を立てる。茶葉がふわりと浮かび少しずつ色を引き出す様子を眺めながら、心を落ち着ける。しばらくして香りが広がり始めると丁寧に茶こしを使ってカップに注ぎ始めた。茶色の液体がカップにゆっくりと流れ込みまるで絵画のように美しく広がっていく。ミルクピッチャーも共にトレイに載せれば「お待たせしました。」と一声を添えてティーテーブルへセットを終えた。「お好みで、ミルクを加えてください。」先程のホプキンスの声に応えるように伝えるのも忘れず、しばらくしてから着席する。メルヴィンはすでに部屋の隅で静かに控えており、軽く目を向ける事で彼女は無言で頷いて応じる。ベアトリスの背後へ控えるメルヴィンを言葉なく示しつつ「では、改めて紹介させていただきます。こちらは、私の護衛をしてくれている専属騎士メルヴィン・ワイズナー。私と共に行動することが多いので、この事件に関しては知っていることが多いかと。客観的に見ていることと思います。どうぞ、何でも聞いてください。」メルヴィンは微笑みを浮かべながらも、その目には慎重さがにじんでいる。ベアトリスの立場を守りたいという強い意志が凛々しい佇まいより込められていることが伝わった。「私も何かお力になれればと思います。事件に関しては、何でも話します。全ての証言、全ての事実、何も隠しません。」メルヴィンがそれを言い終わると心の中で少しだけ肩の力を抜く。自分を信じてもらうためには、まずは全てを伝えなければならないのだと、強く心に誓ってホプキンスへ顔を真っ直ぐに向けた。)
83:
Arthur [×]
2025-03-26 23:25:20
(カップとソーサーが触れ合う小気味よい音が静寂を縫い、湯気とともに漂うアールグレイの芳香が室内に仄かな安らぎをもたらす。椅子に身を預けたホプキンスは早速カップを手に取ると、ミルクピッチャーから一滴、また一滴と慎重に注ぎ、その所作は精密な計測を行う研究者のごとく細やかで、やがて満足げに頷くと優しくスプーンでかき混ぜてから一口含む。「うむ、非の打ち所がない!これほど見事に淹れられた紅茶には、敬意を表さねばならないな。」彼はそう言いながらカップを置き、満足げな笑みをベアトリスへと向けた。その背後に控え、専属騎士として名を告げられたメルヴィンは凛とした佇まいを崩さぬまま、穏やかな微笑を浮かべる中にも鋭い眼差しを宿し、その一挙手一投足に無駄はなく、研ぎ澄まされた感覚を持つ人物であることが如実に伝わる。「先ほど船長室でもご紹介いただいた騎士殿だね。真実を追うには多角的な視点が欠かせない。ご助力に感謝するよ。」ホプキンスがそう述べるのに続き、自身も軽く姿勢を正して向き直り)
…そういえば、今朝は助かりました。あのままでは証言の機会さえ得られなかったでしょうから。
(午前、ベアトリスの尋問の現場へ赴く際、メルヴィンの一言がなければ船長室に入ることすら叶わなかったに違いない。言葉を簡潔にまとめつつも、誠意を込めて感謝を伝えた。ホプキンスはそんなやり取りを横目にしながらゆったりとカップを傾け、そして談笑の延長のように柔らかく、滑らかに本題へと踏み込もうとする。紅茶の香りに包まれた和やかな空間に静かに重なる彼の声、その語調は穏やかでありながら芯の通った響きを帯び)
「──いやはや、昨晩から今朝にかけて随分と慌ただしかったでしょう。お二人とも、気を休める暇もなかったのでは?」
(/お世話になっております。相談所の方へ少しご相談を書かせていただきましたので、お手隙の際にご確認お願いいたします!こちらは蹴ってくださいませ。)
84:
Beatrice [×]
2025-03-29 16:26:42
(気を休める暇もない、そう言われれば僅かに困った様子で眉尻を下げながら微笑を浮かべ。指先でそっとカップの縁をなぞった。アールグレイの芳香が心を落ち着かせるように広がる中、軽く息を整えてホプキンスの言葉を受け止める。「ええ、昨晩のことを思い返すだけでも、まだ鼓動が早まるのを感じます。」それを伝える声音は落ち着きを持っているが、その奥に隠された感情の波を完全に消し去ることはできない。メルヴィンがさりげなく視線を投げかけると、応えるように小さく頷き、思考を整理するようにゆっくりと口を開いた。「Mr.アーサーが描かれるスケッチの中にウェイターの姿は有りますか?昨日、ギルバート様との卓には当初予定されていたウェイターが二名おりました。二人は事前に挨拶をしてくれたものですから、間違いがありません。……ですが、実際にはそこに三人の姿がありました。」事前に丁寧に記憶の扉を開いて状況の整理をすることが出来ていたからか、その中で不審になる点がある事に気がついた。その不審点に直接的に触れるよりも先に自らの記憶に間違いがないかを証明するためにスケッチブックとの照らし合わせを求め「まず、ワインバトラーは一人。背が高く、頬がこけた細身の男性です。髪は黒に近い暗い栗色で、丁寧な手つきをしていました。彼の動きに不審な点は特になく、少なくとも私の目には、事件に関与しているようには見えませんでした。…… その他、私達の卓には、本来ならば背の低い黒髪の青年と、赤毛でそばかすのある少し大柄な男性、この二名がつくはずでした。」先ずはここまで。食事の前にテーブルまで来て挨拶をしてくれたウェイターの二人を脳裏に描き、印象に残っていた特徴を伝える。ここまででスケッチとの相違がないかを確認するように口を閉じてからホプキンスとアーサー、その二人へ視線を向けて。)
ですが、昨晩、そこにはもう一人、彼らのどちらでもない人物がいました。
(/相談所へのご連絡をありがとうございます!とてもわかりやすく自然な流れでの話の発展が出来そうでワクワクしてしまいます…!それでは勝手ながらウェイター、ワインバトラーの姿をざっくりと決めさせて頂きました…!もしイメージと違いましたら修正かけて頂いて大丈夫なのでご遠慮なくお伝えください!)
85:
Arthur [×]
2025-03-30 12:51:57
(ホプキンスが紅茶を嗜みつつ穏やかに話を切り出した時、その声音には何気ない気遣いが滲みつつも、その実、彼が慎重に言葉を選びながら本題への橋渡しを試みていることは明白だった。事実、今朝の尋問においてベアトリスが置かれた立場を鑑みるならば、彼が拙速な踏み込みを避け、あえて婉曲な語り口を用いるのも頷ける。しかしながら、当の彼女はそうした配慮を必要としないかのように、迷いなく自ら供述を始めた。語られたのは、昨夜モラレス侯爵の卓へと仕えた給仕たちの姿。彼女の言葉は揺るぎない確信のもと、この場に過去の記憶を披露する。ワインバトラーが一人。ウェイターは二人。そう断言して一瞬言葉を区切り、こちらの反応を伺うように向けられた視線を受け、ホプキンスは小さく眉を動かし目配せを寄越してくる。スケッチと照らし合わせよ、と無言のまま促すように。膝の上に載せていたスケッチブックを手に取り、昨夜の晩餐時に何気なく描き留めた場面を目で追う。ワインバトラーの姿こそ記録していなかったが、確かにウェイターらしき二人の姿はそこにあった。粗く走り書きされた筆致ではあるが、一方は華奢な体躯の青年、もう一方は上背の高い大柄な男。ベアトリスの証言と符号する二名が、確かにそこに記録されている。スケッチブックの向きを変え、彼らにも見えるように角度を調整して真っ直ぐに告げ)
ええ、確かに二名のウェイターは記録しています。事前に配膳係として紹介されたという面々で間違いないかと。
(スケッチの内容を確認したホプキンスは満足げに頷くが、一方で、ベアトリスの口から紡がれる次の言葉は、そこに違和感を示唆するものであった。語られた“もう一人の存在”──紅茶の湯気が緩やかに立ち昇る静寂の中、空気の密度が変化したのを感じる。まるで、ある一点を境に室内の温度がわずかに下降したかのような、そんな錯覚すら覚えた。ホプキンスは腕を組み、改めてベアトリスへと向き直る。彼の表情には先程までの穏やかさが影を潜め、より鋭利な思考の刃を研ぐような緊張感が漂っていた。しかし、あくまでもその声音は柔和さを保ったまま、慎重に核心へと踏み込んでいく。)
『──で、その“三人目”の人物とは?』
(/ご確認いただきありがとうございます!ウェイターとワインバトラーの特徴、とても分かりやすくてありがたいです…!お手数おかけしました。進行状況により、またすぐにご相談に上がらせていただくかもしれませんが、ひとまず引き続きよろしくお願いいたします。こちらお返事はお気遣いなくです!)
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