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紅蘭紫菊/112


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自分のトピックを作る
21: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-16 01:16:06




(翌日、昨夜攫われていた少女は深い眠りに落ちていた所為かいつもの様に起きて来ては挨拶をしてきて。
『私もお買い物行く!』と此方の返事も待たずに上着に着替えては夕飯の食料を買いに向かう。
八百屋にて、沢山の野菜を購入した後、少女と手を繋ぎながら通りを歩いていた所、八百屋方面へと向かう相手と擦れ違う。
擦れ違い様に微かに見えた口元の切傷。やはりあの男は相手だったかと確信に近い物を持っては声も掛けず少女の手を引き颯爽と歩いて。
『お兄ちゃん?…どうしたの?』
「今日は鍋にするって姉ちゃん達が言ってたぜ。ほら、早く帰らねぇと。」
(『やったー!お鍋!楽しみ!』とはしゃぐ少女と共にやや急足で帰れば年長の少女達に食材を渡し、自分は孤児荘の庭で遊ぶ年少の子供達の様子を縁側から見ていて。

(子供達も寝静まった夜、最早変装をする意味も無い気もするが寺子屋へと向かい玄関を叩く。
相手が出てくるや否や首元に手刀を落とそうとするも華麗な身のこなしで避けられてしまい、瞬時鳩尾に拳を入れる。
一発で仕留められると思っていた物の華麗に避けた様を見るにやはり相手は昨夜の男で間違いないと。
やや強引に相手を肩に背負っては令嬢の住まう屋敷へと向かう。
裏口から入り、令嬢の部屋に相手を雑に下ろすと令嬢が目を輝かせ、うっとりと相手を見詰めて。
『はい。報酬よ。お父様から聞いていたけど貴方って本当に何でもやってくれるのね。』
かなりの額の報酬を受け取り、用事は済んだと裾を翻す。
部屋の中からは『ねぇ!早く目を覚まして下さいな!ふふ、本当に綺麗な顔…女の私ですら嫉妬しちゃうわ。』と甘ったるい声が聞こえ。

(其のまま真っ直ぐ向かうは花街の奥の特設で建てられた見世物小屋。
看板には“恐ろしき化物、狼男”と大きく書かれており昨夜の管理者と落ち合う。
渡されたのは狐の面。
『ここは花街だ。遊女が使う面しかねぇのさ。其れで我慢してくんな。』
「分かった。後、黒い布を借りるぜ。銀髪なんて江戸中探しても俺くらいしかいない。すぐに身元がバレちゃまずいんでね。」
『注文が多いな。しかしこの客の数だ。今晩だけで暫く食い扶持には困らねぇ程だ。しっかりやってくれよ。』
「嗚呼、任せな。」
太鼓や笛の音が鳴る中、予定の時刻になり黒い布で頭を包み狐の面を被ったまま舞台に裸足で上がる。
用意された漆黒の着物からはしっかりと手足が見えており自分が人間である主張をしていて。
大きな太鼓の音と共に意識を集中させると紅い瞳の瞳孔が開き始める。
面の下の頬からは銀毛が伸び始め、着物が引き千切れて行くと同時に、其の時には完全な狼の姿になっていて。
面が落ち、カツンと音を立てると会場は一瞬静まり返る物のすぐに歓声が湧き上がり。
幼少期、自分が置かれていた状況を目の当たりにし吐き気を覚えるも持ち堪え裏へと戻る。
人型に戻り、管理者に『此奴はすごい。ほら、御前の取り分さ。』と渡されるも断り「二度と俺に関わらない事だな。今回は俺の要求を素直に呑んでくれたからやったんだ。変な考え起こして利用しようなんて思ったら最後、あんたの事も食っちまうかもしんねぇぜ。」と軽く脅し。
未だ騒がしい花街を後にしてはいつもの服装に着替え煙管の煙を燻らしながら江戸の街をのんびりと歩き、何気なくいつもの丘に向かっていて。

22: 菊 露草 [×]
2023-02-16 08:31:17




( 僅かな鳩尾の違和感と嫌な臭いに少しずつ意識が浮上する。近くで誰かが動く気配がし、敵意はないようだが嫌悪感を覚えて。ゆっくりと瞼を上げて視界に映ったのはあの令嬢。
そこで是迄の記憶を思い出す。昼形町で見かけた少女と相手。どういう経緯か分からないが少女は無事だった。気に食わないが相手が上手く動いたのだろう。然し少女が元気なら何よりだ。
問題はその後。真夜中の訪問者に警戒はしていたが相手のが上手で、無駄のない動きに隙を付かれてしまった。迂闊で不覚…だが薄れゆく意識の中、相手に運ばれている時に感じた何か。
一瞬胸奥がちくりと痛むも其れは苛立ちと共に“嫌な臭い”の正体と共にかき消されて。

『やっと目を覚ました。待ちくたびれたわ。…本当はあの護衛の者も残ってほしかったのだけれど、それはまたにしようかしら。』
「…随分と強引なんだな。悪いが俺はこんな手を使う奴は好きじゃない。まあ、既成事実は必要か。」
(少し重たい身体を起こし座ったまま令嬢に視線を向ければ、格好は寺子屋だが冷たく言い放つ。
相手ほど嗅覚は鋭敏でないものの流石にこのキツい香の匂いは頂けない。それに僅かにだが、気持ちを上向かせる香もして自惚れる訳ではないが令嬢が何を求めているかは察して。
『あら、想像していたよりも冷たいのね。…それに何を書いているの?』
「別に、貴方に教える必要はない。」
令嬢の目の前で気にせず帳簿を取り出し筆を走らせて直ぐに懐へ仕舞えば、己の態度に黒い瞳をぱちぱちさせる令嬢の髪にそっと振れてやる。
そして能力を開放し“令嬢と己は一度切りの約束で営みを交わした。”という偽りの記憶を植え付け、ついでに相手への当てつけで“相手とも夜の約束をした”記憶を足してやる。
嘘でも令嬢と関わりを持った等身の毛もよだつが、記憶を変えられても人の感情までは完全には変えられないので令嬢が満足すればいいかと。
記憶の改変によりぼーっとする令嬢を置いて見張りの目を掻い潜って屋敷の外へ出ては白い息を吐き出し、虫の居所の悪さを抑えて気持ちを落ち着かせようとある場所へ向かい。


たどり着いたのは静かな丘、道中花街が騒がしかった気がするものの今は雑踏に構う気はしない。なのにどうだろう丘を登った少し先に己の機嫌を逆立てる張本人がいるではないか。
気に食わない相手なのに、月に照らされて輝く髪とその横顔が綺麗なのがまた更に気に食わない。
関わらないのが得策…なのに気付けばずかずかと相手に近づいていきその肩をがしりと掴む。
一応寺子屋の格好、正体はバレている可能性のが高いが胸ぐらを掴まなかっただけ褒めてほしい。
「こんばんは、お兄さん。さっきはやってくれたね。…お兄さんがそんな怖い人だと思わなかったよ。」
(にこりと分かりやすい作り笑顔を向けてやれば後ろの大木に相手の身体を押し付け、その長身に尚苛立ち「お兄さんがこんな悪いことしてる人だと子どもたちが知ったらどう思うかな?…それとも俺がお役所様に告げ口して牢にいれてあげようか。」とどの口が言うかと内心思いながらぎりぎりと肩を掴む手を強めて。)




23: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-16 13:43:02




(疲れ切った身体を休めていた物の、今一番会いたく無い相手の登場に本の僅かに動揺するもいつもの無表情は崩さずにいて。
肩に食い込む程込められる力に、表情こそ柔らかい物の相手の怒りを感じては其の手を捻り上げ相手を大木に押し付けるように覆い被さる。
唇が触れそうな程至近距離で「言ってみろよ。」と。
相手の口元の傷にそっと触れては相手の正体は既に知っている事を物語っており。

_少女誘拐に阿片の代理受け取り。上っ面だけ優しくて随分おっかねぇ“先生”だな。
(相手を見下す様に笑みを浮かべるも己の正体も割れてしまっている以上は慎重に行かなければならない。筈なのに。
何故か眼前の相手を見ると腹立ちが勝る。
「其れにしても随分と早い“お楽しみ”だったんだな。物足りなかったんじゃないか?…俺が相手してやろうか。」
相手の顎をぐい、と掴み其の白い首筋に顔を埋めようと近付けた所で、幼少期見世物に出された後に一晩買われた日の事をふと思い出す。
ぴたりと動きを止めては、自分を嫌う、色仕掛けの効きめの無い相手にこんな事を行う必要も無いかと。
ただ相手の腹の虫に触れられれば其れで十分かと思い、すっと離れれば正面に座り込んだまま煙管を一吸いし煙をふう、と相手の顔に吹きかける。

_ま、交換条件ってやつだよ。俺もあんたの事は調べが付いてる。互いに大人しくしてりゃ平和だろ。
(先程の己の行いなど気にも止めないかの様にけろっとした様子で言い。
「うちの子供がが寺子屋に通う子供の事の事を気に入ってんだ。腹が立つがあんたの事もな。…まぁ、俺達も“仲良く”しておいたほうが得策だと思うぜ?」と小馬鹿にした様な表情で言えば立ち上がり其の場を後にして。

(孤児荘の前へと辿り着けばまだ明け方にも関わらず貴人の側近である黒服の男が立っており。
今夜の依頼の話だろうかと其方に近付けば依頼は明後日の物のようで、其れなら何故今日届けに来た物かと僅かに首を傾げる。
『お嬢に、今夜は御前に直々に依頼をしているから頼まない様にと言われたんだ。』
「…は?そんなやり取りしてないぜ。勘違いじゃ…」
『其れはお前とお嬢のやり取りだろう。取り敢えずはこの依頼は明後日の物だ。しっかり頼むぞ。」
紙を受け取り懐に仕舞えば再び頭を悩ませる。
昨夜相手を連れてくると言った依頼は終えた筈。其れなのに自分にまだ依頼をしてきたなどと、思い当たる節も無い。
兎にも角にもいつもより早目の時間に屋敷に向かう必要があるなと思えば孤児荘へと入り風呂を済ませ少しだけ寝る事にして。

24: 菊 露草 [×]
2023-02-16 22:47:24



…疲れた。
( 相手と対峙した後に住まいの自室に戻り障子に凭れては思わず心の声が漏れる。
相手に己の正体はバレている。そしてやはり気に食わない態度。
首元に残る相手の息遣いを思い出し片手を首筋に振れさせては下唇を薄く噛み締めて。
嫌いな相手のしたこと、当然嫌悪感はあるはずなのに其れよりも悔しさが強いのが一層腹立たしい。
煙管の匂いが染み付いているようで少し乱暴に髪を解き見出すと一度深く息を吸い気持ちを落ち着かせて。
子どもたちの為、“仲良く”してやろうじゃないかと。令嬢とのお楽しみの仕返しは被ってもらうが。
我ながら子供じみたことをしていると思いながら一休みするため準備をして。

( 時刻は其の日の昼下がり、寺子屋の広場で子どもたちが遊ぶ様子を少し離れた木の下で見守っていれば木の上からひらひらと舞い落ちる白い紙。
顔の前あたりを落ちていくあたりで指先で掴み中を広げると案の定依頼が書かれており。
その内容は“先日花街の見世物で出た狼人間を大変気に入った大名がいる。大名はどうしても狼人間を手に入れたい為、強い鎮静剤を大名へ密売されたし。”と。
狼人間と相手は結びつかない。然し直感的に嫌な予感はしていて。
「狼…」
『狼がどうしたの?菊にぃ』
「あ、いや…何でもないよ。狼って綺麗だよなぁと思ってね。」
『ええー、でも狼は危ないって母ちゃん言ってた。』
「んー、まあ狼も人間怖いって思ってるかもしれないからお互い様だよね。」
『そうかぁ。あ、それ僕の鞠だよ!』
( 走り寄ってきた少年は首を傾げていたが、また忙しなく広場へと掛けていく。
その姿を見つつ今夜も忙しくなりそうだと白い雲が流れる空を見上げて。)


25: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-17 00:18:43




(翌日、昼時に目を覚ましてはいつもの様に平穏な日常を過ごし夕方に貴人宅へと向かう。
あくまでも令嬢からの依頼の内容を聞く為。
孤児荘では今頃年長の子供達が年少の子供達の世話をしている頃、内容を聞き次第己も早く自宅へ戻りたく颯爽と街を歩く。
子供達は寝る前必ず一人一人自分に「おやすみ。」と挨拶をして来る。
恒例となっている其れは自分自身も「今夜の依頼も必ず生きて帰る。」と言った指揮に繋がっている為外す訳には行かず。
子供達が寝る前には帰らなければと急足で屋敷へ到着すれば門番に令嬢に呼ばれている事を伝え令嬢の部屋へと通して貰って。
何度か訪れている此の屋敷の人間には己の顔は知れている為すんなり通されると、部屋から令嬢が顔を出す。
使いの者に『あっちに行っていて頂戴。』と人払いをした令嬢は己を見詰めるなり『約束の時間より大分早いじゃない。まだお父様も起きてるわ。』と。
約束などした覚えは無く何の事かと伝えると令嬢が機嫌を損ねた様に詰め寄って来る。
『女に言わせるなんて失礼ね。今夜私の相手をしてくれるって約束よ。』
「…は?」
『昨日先生を届けてくれた際にしたじゃない。…って事でもうちょっと時間が経ってから来て頂戴。待ってるわね。来なかったらお父様に言言い付けちゃうから。』
襖が閉められ暫く呆然とするも、考えられるのは相手しかいない。
屋敷を後にするなり真っ直ぐ向かうは寺子屋。
孤児荘の子供達は今頃風呂支度をしている頃だろうか。
寺子屋の扉をやや乱暴に叩けば出て来た相手の襟をぐいっと掴み「あの令嬢に何を吹き込んだ。」と低い声で問い。
最初に相手を攫ったのは自分、何か仕返しをされても文句を言えた立場じゃ無いのは百も承知だが、何故か眼前の相手に何か仕組まれるのは心底気に食わず。

(丁度其の頃大名は“狼人間”の素性も調べており。昨夜の花街の見世物小屋へ出入りしていた怪しい人物の肖像画を何枚か集めていては其の中には己の姿もあり銀髪と言った特徴に目を細める。
従者に、『鎮静剤を依頼した男を今晩此の部屋へ呼べ。』と一言命じると城の窓辺から花街を見詰める。
大名は密売人である相手の情報はある程度仕入れている為、其の美貌が気になっていて。
欲しくなった物は何でも手に入れないと気が済まない性格。
まずは鎮静剤の入手という目的と共に相手を品定めしようとしていて。

26: 菊 露草 [×]
2023-02-17 08:29:34




藪から棒にどうしたの、…なんて“仲良く”する話はどこへ行ったんだよ。
( 寺子屋の子どもたちも皆帰り住まいで今夜の依頼のために準備をしようかと思っていたところけたましく鳴る扉にまさかと思いながら扉を開けて見れば、相手の姿。
少し胸元が息苦しく感じながら始めは、優しげな困り顔で惚けて見せるも互いに面が割れた今となっては茶番。
表情を消して冷たく言い放ち嘲笑うように口角を上げて。

御前がなんで怒っているのか知らないが、ご令嬢は御前のこともいたく惚れ込んでいたからそのことか?だとしたら令嬢に気に入られたと思って御前も楽しめばいい。色男はつらいな。
( 嘲笑する口ぶりは変わらずまっすぐに相手を見ると能力のことは明かさずに嘘と真を半々に告げ胸ぐらを掴む手を払う。そのままその掌を艶めかしく指先でなぞり「…あー、分かってると思うがあのご令嬢を無下に扱えば後ろにいる貴人様がうるさいから気をつけてな。“仲良し
”のよしみで忠告。」と嫌味っぽく笑み、手を離してぽんぽんと肩を叩いてやり。「じゃあ、この後仕事があるんだ。答えてやったから帰ってくれ。」ととんっと胸元を押して強制的に扉をしめてしまい。能力のことは組織にも明かしていない。記憶を操作ができる等と知られればどうなるかなんて目に見えているから。それ以前にあまり此の能力を好まないのもある。
扉を背に掌をぐッと握ると、少しやりすぎたかなんて甘い考えが過る己に首を横に振って今宵の依頼の準備に取り掛かり。

( 月が昇る時刻、鎮静剤を渡すだけで終わる依頼のはずが何故か大名に会うことになり気分が萎える。きっと関わる人間のことを把握しておきたいのだろうと思いつつ大名の元へ。
門構えから金箔や漆が使用された立派なお屋敷に此れだけの金があればどれだけの人が救われるのかと考えながら、此れまた豪華な廊下を案内人の後ろについて進む。
一番奥の部屋へ通されると大名がふてぶてしく座っていて、葉巻の類の香が強く炊かれた室内に顔を顰めそうになるのを堪え、一応大客のため正座をして頭を下げる。
『よく来た。例のものは持ってきたか?』
「ああ、…少しの量で通常の数倍の効力がある。無味無臭で溶けやすいから口にするものに混ぜるでもいいし、水に溶かしたものを布に染み込ませて嗅がせるだけでもいい。……その肖像画は?」
『成る程、…ん?これか。知らないのか。まさしくこの依頼に関わっている狼人間の肖像画だ。まあ未だ怪しいやつと言うだけで正体は分かっていない。しかし、あの化物は素晴らしかった。恐ろしく綺麗、躾ければ良い護衛にもなりそうだ。』
( 大名は既に“狼人間”を手に入れた口ぶりで鼻を鳴らしていて、何処の誰かもわからない“狼人間”を不憫に思う。それにしてもだ…肖像画の中の一枚。銀髪の特徴に引っかかりを覚える。浮かんだ相手の姿と嗅覚の鋭さ、まさかなと思いながら早く此の場を終わらせたいと考えていて。)



27: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-17 22:33:33




(一度孤児荘へと帰宅し子供達の就寝を見届けては気乗りしないまま再び孤児荘を後する。
やはり今回の事を仕組んだのは相手で間違い無い。
依頼を全うしただけというのは所詮己の言い訳でしか無く、仕返しをされても文句は言えないのを理解しているからこそ心底腹が立ち。
重たい足取りで屋敷へと辿り着けば、裏口から内部へと入り令嬢の部屋の襖を叩く。
襦袢のみの姿のまま出て来た令嬢から匂う牡丹の香りに眉を顰めるも、何処と無く胡散臭く表情を和らげては誘われるままに部屋へと入る。
『約束を忘れてたみたいだったから来ないかと思ったわ。』
「そんな筈無いだろ。先に金を出してくれ。其れが条件だ。」
『駄目よ。だって貴方が私を満足させられるか分からないじゃない。お金の話は後よ。』
此の令嬢、容姿こそそこそこ美しい物の性格が非常に悪い事は街でもかなり有名で。
以前令嬢が街で散歩をしていた際に、走り回り遊んでいた子供が令嬢にぶつかってしまい着物を汚してしまった為、幼い子供相手に力任せに平手打ちした挙句、其の子供の親には高価な着物を弁償させたとか。
こうなったらとことん演技をしてやり此の貴人の家ごと喰らい尽くしてやるのも悪くない、と大層大きな悪巧みを考えては令嬢の首筋に顔を埋めゆっくりと押し倒す。
「綺麗な御令嬢に買って頂けるのは俺としても有難いよ。金には困ってるんだ。普段身体だけは売らないんだが、あんただけは特別だ。…どういう意味か察してくれたら助かる。」
胡散臭い台詞と共に切なげな笑みを貼り付け令嬢をそっと抱き締めれば其の死角で表情を殺し、どう利用しようかと。
兎にも角にも汚い手を使って民から巻き上げた金額相応の物は返して貰おうと企てていて。

(其の頃、用事は済んだと下がろうとする相手の腕を強引に掴んだ大名は相手の顔を覆う布を奪い払い。
普段民には何の興味も示す事も無く、偵察は愚か、街と言えば花街くらいしか碌に行った事も無い為、相手が寺子屋を営んでいる事は知る由も無く。
『ほう。随分美しい顔をしている。』
下卑た笑みで一言言えば、相手の顔を掴み視線を合わせる。
いきなり『情夫になれ。』といった言葉を使う事はせず、まずは相手を成るだけ自分に近付けて行くところからだと画策を練っており。
『今回の報酬だ。御前の事が気に入った。狼男の捕獲までも協力を頼みたい。何、報酬なら山ほどやろう。』
“狼男”の正体とやらは家臣達を使い調べを進めている為所詮其れは口実でしか無い。
相手が断れる筈など無い事を知りつつも、酒を煽ってはのんびりと相手の返事を待っていて。

28: 菊 露草 [×]
2023-02-18 06:13:33




…分かった。言い値で構わないなら受ける。あと急な呼び出しには応じられないのは承知してほしい。
( 大名の考え全てを把握しきれた訳ではないが気に入られたのなら都合が良い。正直頼まれた依頼も気分の良いものではないが大名の頼みを断れば面倒なことになるため条件付きで了承する。
『金はいくらでも構わないが、時間の融通は何とかしてほしいものだ。…まあ良い、仕方ないが早く狼男の捕獲を頼んだぞ。』
( にやついた笑みを浮かべ酒を飲む姿に嫌悪感を顕にしないよう無表情を貫いては、奪い取られて畳に落ちた布を拾い上げて口元を隠し直して立ち上がり一応頭だけは下げてその場を後にして。
屋敷を出れば底冷えする寒さに身を震わせる。面倒ごとは嫌いだが金にはなる。然し“狼男”とはどんな男だろうか。肖像画を思い出し胸奥がざわつくも、情報を得るなら管理主の元へいき聞き出すか口を割らないなら記憶を読むのが手っ取り早いかと。事は早いほうがいいと早速管理主の所在である花街方面へ向かい。
そう言えば相手も今頃令嬢のお相手をしている頃かと胸奥の蟠りは無視して他人事のように考えて。


( 一方令嬢は相手の特別の言葉にうっとりの頬を染める。
相手の企てのことなど頭になく抱きしめられたままそっと着物の合わせ部分を少しだけはだけさせて。
『…この傷はどうしたの?やっぱり護衛の仕事が多いと大変なのかしら。』
傷の一部が見えれば令嬢は驚いた顔をして指先で触れる。少し怯えた顔はするも相手のことを気に入っているため離れはせずに『貴方は一夜限りなんて言わずに呼んだらこれからも来て頂戴ね。』と首元に艶めかしく片手を引っ掛けて顔を近づけて。)



29: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-18 19:49:21




(令嬢と唇が重なる其の刹那、時を見計らい能力を中途半端に解放する。
牙が鋭く伸び、獣の瞳孔が開き始めた途端声を上げようとする令嬢の口元を抑え切な気な表情を貼り付ける。
「怖がらせてしまったな。…流石にあんたも“化物”は相手に出来ねぇだろ?」
此の能力も使い様だな、なんて考えては怯えを見せながらも己の手にそっと手を乗せてきた令嬢が顔を覗き込んで来て。
『何か…病気なの?』
「病気…と言えば病気なのか…餓鬼の頃からだから俺もよく分かんねぇんだ。折角こんな綺麗な御令嬢と一夜を共にできると思ったのに残念だ。」
『だ…大丈夫よ!ただちょっと驚いただけで、』
「でも手が震えてる。もしまたあんたが俺を呼んでくれるのなら今日は話をしながら寝るだけにしよう。近くにいるのは平気か?」
『え、えぇ。そうね、お話をしましょう。朝までは長いんだもの。それに私貴方の名前も知らないわ。』
上手い事、令嬢との情事を逃れる事が出来たと内心喜んでは添寝をする形で己の名を名乗る。
貴人の令嬢で己より少し年上と言えど、頭の中は所詮大人の遊び事を覚えたばかりの少女に過ぎない。
手を握りながら好青年を気取り、貧困に苦しむ民の話を上手く交えながら話をして。
令嬢が眠りに落ちる瞬間に「街の皆の暮らしが落ち着いたらもっと沢山会いに来れるのにな。」と暗示の様に囁き、やがて寝息を立て始めた令嬢の部屋を後にしては小さな声で「馬鹿女。」と呟き口角を上げて。

(我ながら性格が悪いな、なんて思いつつも令嬢は街の貧困具合から目を背けていた上に父親の悪事は知らない様子だった。
少しづつ真実と甘い言葉を混ぜて話を続けて、令嬢が更生してくれたら楽だな、なんて思っては煙管を咥える。
時刻はまだ夜明け前。今夜はもう仕事も無いし丘にでも向かおうかと道中の花街を真っ直ぐ通り。
令嬢を抱き寄せた際に服の襟に付いた口紅にも気付かぬまま煙を吐いては男を誘う遊女の声に耳を貸す事も無いまま歩を進めて。

30: 菊 露草 [×]
2023-02-18 21:40:05






( 相手が上手く令嬢との営みを躱しただけでなく丸め込んだことはいざ知らず、己は管理主の元へ付いたところ。
然し管理主も口が堅い。やはり一筋縄では口を割ってはくれず、気は進まないが能力を使うことにする。
管理主に迫るふりをして腕を掴み記憶を読めば、脳内には数日前相手が少女を救うため管理主と交わした依頼や花街でした見世物の情景が流れ込んできて。
「……嫌な予感はしてたんだ。」
『なんだ。…俺は何も話さないぞ。』
「ああ、そうみたいだな。その口の堅さは買う。…無理に聞き出そうとして悪かった。今後も依頼の時は頼むよ。」
( 用済みとばかりに諦めたフリをしてふらりと後退すれば管理主の元を後にする。重たい足取りで裏路地に入れば外壁に凭れて片手で額を抑えて。
一言でやり辛すぎる。相手は裏の人間で気に食わないところが多々あるが恐らく子どもに真摯に向き合い優しいのは真。狼男が相手である事実は驚きではあるが、己にとっては些細なこと。だが、狼男が相手である以上、大名の元へ突き出さなければならない。
素知らぬ振りでもしてしまおうかと考えた時、丁度悩みの種である相手が路地を通り過ぎていくのが見えて。
無視すれば良いものを自然と体が動き相手の後を追えば後ろからその手を掴んで振り向かせ。
「ちょっと、来い。」
( ぐいッとそれなりにある腕力で腕を引き先程までいた路地裏へと戻れば、ひとまず腕を袂に通して手出しする気はない呈示をし
「大名がお前を狙ってる。この前特殊な鎮静剤を売った。怪しい奴が近づいてきたら気をつけたほうがいい。」
藪から棒に己自身何を口走っているのかと思うが淡々とした音色で大名が何故相手を狙っているかは伏せて無表情に告げる。
何となく居心地が悪さを感じつつふと相手の襟の紅に気がついて。
「…令嬢とお楽しみでもしてきたか?子どもたちに会う前に“それ”はどうにかしたほうがいいと思うぞ。あと匂いも。」
( 己が令嬢に働きかけたことは懲りずにしらばくれ、“それ”と片手を出して襟元を指差し先の無表情はいずこへか掴みどころのない笑みを浮かべる。そしてスッと相手との距離を詰めて黒い布を顎下迄下げると首元の匂いを嗅ぐ素振りをし「牡丹の香りだ。」と最初出会った時の仕返しではないが小さく口端を上げて。)



31: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-18 22:44:32




(のんびりとした足取りで丘へと向かっていた所、唐突に相手が現れては、其の細腕からは想像も付かない力で引っ張られ路地裏へ連れ込まれて。
僅かに身構えるも何か此方に危害を加えようとしている様には伺えず落としかけた煙管を咥え直す。
“大名が狙っている。”“特殊な鎮静剤を売った。”
其れは恐らく相手の仕事内容でもあり、尚且つ簡単に他人に口走って良い内容で無い事は容易に分かり。
何故自分に其れを伝えて来たのか、皆目見当も付かぬまま僅かに眉間に皺を寄せては斜め下へと視線を下げる。
自分は薬には滅法弱い。
無言のまま考え込んでいた所、いつの間に襟首に付着していたのか令嬢の物であろう紅を指摘され怠そうに襟元を乱し紅を擦る。

_嗚呼、あの女の部屋は香の匂いが強くて参る。残念だがあんたが想像している“お楽しみ”は何にも無かったよ。化物はおっかなくて御免らし、
(相手が自分に対しての情報を知っているとは露知らず言いかけた言葉を止めては着物を叩いて香りを取ろうとする仕草で言葉の続きを誤魔化して。
そして自分は何故相手に弁解地味た事を言っているのかと疑問に思い溜息を吐く。
煙管を懐へと仕舞い「まぁ、気を付ける。だがあんたが其の内容を俺に話すのは問題あるんじゃないか。何で大名様が俺を狙ってんのかは知らないが少なからずあんたも関与してんだろ。」と問うも此れでは相手を気に掛けてやっている様では無いかと。
何故だか今日は調子が狂う。
眉間に皺を寄せ、相手の返答も聞かぬまま其の場を後にしようとするも一度足を止め、相手に背を向けたまま「取り敢えず、礼は言っておく。有難う。」と一言だけ言いやや大股で足早に退散して。

(丘へと辿り着き、いつもの大木の下へ座り込む。
そういえば自分は相手の名前すら知らないな、と思うも孤児荘の子供達が相手を『菊先生』と呼んでいた事を思い出し。
「………菊、?」
名を口にした瞬間刺す様な頭痛が走る。
ぼやけた微かな頭の中、自分によく似た銀髪の男が嘆いている映像が浮かぶ。
「-菊、どうして俺を置いて行った。-」
銀髪の男が苦しそうに悲しそうに呟いた言葉が頭の中に反響した所で不意に頭痛が治まり、今の出来事は何だったのだろうかと。
到底理解も出来ないまま立ち上がっては、疲れているのかもしれないな、なんて呑気に思い孤児荘への帰路を辿って。

32: 菊 露草 [×]
2023-02-19 03:46:02



( 相手と別れた後、大名への報告は明日することにして住まいへ戻る。
寝支度を整えて布団の上で髪を梳かしながら思うのは相手のこと。誤魔化してはしていたが自分自身のことを“化物”だと零したり、此方を気にかけ礼を述べてきたり…思えば言動は出会った時から礼儀はしっかりしていた。
少女を攫うため孤児荘に忍び込んだ際に見た相手の肌に刻まれたあの傷も深い理由があるのではないか。管理主の記憶の中で見世物として狼の姿になる相手が断片的に浮かんだ瞬間、ズキンと頭が痛み手で抑え。
__どこかで、あの姿を見た気がする。月に照らされて美しく艶めく銀毛、燃え滾る紅い瞳…。
然し、一度見たのなら忘れるはずがない。胸奥のざわめきが酷く鬱陶しい。
相手に大名の情報を教えたのも相手に何かあれば子どもたちが悲しみ路頭に迷うから。決して相手の為ではない。そう言い聞かせて仮眠を取って。

そして夢を見る。
恐らくあの丘で、血まみれになった己が仰向けに倒れていて震える手で月に手をのばす。
泣いているのか視界はぼやけていて何か言葉にしようとするも口から溢れるのは紅。
「__どこかで、また、」

その夢は起床する頃にはぼんやりとしたものになり、男が己だったのかも定かではない。
胸奥の蟠りは相変わらずだが夢についてはあまり深くは考えずに今宵大名へどう報告するかを考え、重たい気分のまま寺子屋の準備を始めて。

一方、その頃大名の方にも動きがあり、己が情報を得て報告しようがしまいが別の従者がしっかりと相手と狼男を結び付けており、鎮静剤を用いた捕獲を企てようとするところ。
従者はいかにも陽気な飴売りの行商人に扮して孤児荘へ行き、外で遊ぶ子どもたちを呼びつける。
『やぁ、みんなかわいいね。ほら見て、この飴細工。猫の形をしているだろ?こっちは鳥の形だ。』
『わぁ、すごい!これ全部飴なの?』
『そうだよ。よかったらこの猫さんを君にあげるよ。君には龍を。…あーそうだ。これはただの丸いベッコウ飴なんだけど生姜が入っているから疲れによく効くんだ。確か君たちには銀髪のかっこいいお兄さんが居たよね。』
『爛兄ちゃんを知ってるの?』
『そうそう、爛お兄さん。君たちのために頑張ってて疲れているだろうから此れを上げたらすごく喜んでくれると思うよ。あ、今回は特別で数がないから君たちは食べたらだめだよ。』
( にこにこと言葉巧みに子どもたちを引き入れようとすれば『はい、お兄さんに渡してあげてね。』とベッコウ飴を渡す。勿論ただのベッコウ飴ではなく、鎮静剤入り。舐めればそう時間は掛からず効力を発揮する。
行商人は子どもが舐めてしまえば其れ迄としか思っておらず『爛兄ちゃん、喜んでくれるなら嬉しい!この猫さんの飴も見せてくるね!』とはしゃいで孤児荘の建物へ掛けていくのを見届けて其の姿を消して。)



33: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-19 23:37:33




(やや遅めの時間に起床しては寝巻きのまま布団の上で欠伸をしていた所、ぱたぱたと数人の子供達の足音が聞こえるなり唐突に扉を開かれて。
『爛兄ちゃん今日起きるの遅いー!!!』
『疲れてるんだよ!』
わらわらと入って来た子供達の手にあるべっこう飴が目に入ってはいつ買ったのだろうかと。
「其れ…どうしたんだ。」
『飴屋さんがくれたんだよ!』
嬉しそうに飴を咥える少女の返答にほんの僅かに首を傾げるも孤児荘に差し入れを持って来てくれる町民は多数いる為、対して疑念も抱かずに「良かったな。ちゃんと礼は言ったのか?」と。
『言ったよー!それに爛兄ちゃんの分もあるんだよ!生姜が入ってて疲れが取れるんだって!』と丸い形の飴を差し出されては、起床したばかりの正常に働かない思考のまま其れを受け取る。
ふと頭に浮かんだのは昨夜の相手の言葉。
時期が良過ぎないか?と思うも眼前の少年少女が実際に飴を口にしている事もあり考え過ぎかと。
『早く食べて!』と言わんばかりに自分を見詰める子供達に負け袋から飴を取り出し、すん、と匂いを確認する。
怪しい匂いはしない、正直この時点で己の嗅覚を過信し過ぎていた。
飴をぱくりと咥えては子供達に『美味しい?』ときらきらした瞳で問われる。
_其の刹那、視界が霞み瞬時意識が薄れていく。
子供達は驚きと困惑の余り一瞬黙り込むも、すぐに泣きながら年長の子供達を呼びに向かい。
慌てて駆け付けた年長の子供達が『お、大人の人、呼ばなきゃ…そ、そうだ!菊先生、私、呼んでくる!!!』と急ぎ早に孤児荘を後にする。
残された数人の子供達は自分を呼び掛けたり、布団へ寝かし直し濡れた手拭いを持って来たりとしていて。

(孤児荘の裏口にて待機していた医者の装いをした大名の従者が、さもたまたま通り掛かったかの様な様子で孤児荘の入り口付近で態とらしく立ち止まる。
其れに気付いた一人の少年が『お医者さん!助けてください!』と声を上げては微かに口角を上げる。
縁側から自分の自室に上がっては自分の意識を確認するなり『お兄さんは私の病院で預かろう。大丈夫だ。すぐに元気になるよ。』と胡散臭い笑顔を貼り付けて。
寝巻きのまま担がれる自分を見送るも一人の少女が『着替えとか…持ってかなくて大丈夫だったのかな。刀も、置いてっちゃったし。』と不安気に溢す。
『でも、僕達は刀は触っちゃ駄目って約束だから、取り敢えず菊先生が来てくれるのを待とう。』
年中の少年の意見に賛成しては、子供達は暗い表情のまま孤児荘の庭にて集まっていて。

34: 菊 露草 [×]
2023-02-20 08:15:28




( 寺子屋にて子どもたちに教鞭を取っていれば涙目の孤児荘の子どもたちが駆け込んできたのは少し前のこと。
事情を聞いてその場はお手伝いに来てくれている青年に任せ、孤児荘の子どもたちも念のため安全な場所が良いだろうと寺子屋に残るように言いつけ己だ孤児荘へ向かう。
孤児荘へ付けば不安げな子どもたちが右往左往しており、現状を聞けば何とも訝しく。
『爛兄さん、此の子達が飴売りのおじさんに貰った飴を上げてそれを食べたみたいんだけど、その直後に倒れたみたいで…』
『お医者様が偶然前を通りかかったの。でもこのあたりでは見かけないお医者様だった気がするの。』
( 年長の子どもたちは幼い子どもたちを不安にさせないよう小さな声で話しかけてきて、大名の関連で間違いないだろうと微かに眉を潜めて。
「大丈夫、ここまで良く頑張ったね。…お兄さんが戻ってくるまでもう少しだけ小さい子たちを見ていてくれるかな?先生はお医者さんのところへ行って様子を見てくるよ。着替えを持っていきたいからお兄さんの部屋を教えてくれるかな?」
( 年長と言えどまだ子ども、優しく頭を撫でてやり相手の部屋に案内してもらう。勝手に人の部屋に入るのはどうかと思うがそうも言っていられない。着替えと共に目に止まった白い刀を手にしようとして一瞬躊躇するももしもの時に必要の為掴む。すると主君意外を拒むかのようなグッとした重みと嫌な感覚がして、僅かに表情を歪めるも直ぐにその感覚は薄らぎ着替えと共に背中に斜めに掛けて孤児荘を足早に出て。

『おや、菊先生…こんな時間にどうしたんだい?』
( 大名の元へ走って向かうところ、男一人を抱えて動いているなら直ぐ追いつけるかと思ったが怪しい男は見当たらず。
なるべく裏道を通ってきたが偶然八百屋の店主に出くわし、改めて己が今寺子屋の格好をしていることを思い出し。
「…いや、少し急ぎの用事を思い出してね。ところでこの辺りで大きな荷物を抱える人を見なかったかな?」
『大きな荷物?そう言えば二人の男が小麦の乗った荷車を引いて花街の方へ歩いてのは見たよ。あんなにたくさんの小麦を花街へ運ぶなんて珍しいから覚えてたんだよ。』
「荷車…ありがとう。…御免、今は急いでいるから此れで。また美味しい野菜を買いに行くね。」
( 少し早口に言えば手をひらりとさせて八百屋と別れる。
何故己は相手のために急いで焦ってるのかと今更ながら苛立ちつつ、偽の医者が仲間と合流し荷車で相手を運んだとみて、自身の恰好のことは頭にありながらも大名の屋敷へと足を走らせて。

( その頃大名の屋敷、従者たちはいち早くたどり着き相手を大名の部屋に送り届けて。
大名は豪勢な自室の畳の上に眠る相手をうっとりと眺める。
然し、相手の正体も知っているため念のために鎮静剤より弱いが似た効力のある香を炊き、直ぐ逃げられぬよう両足を纏める足枷だけして。
『ああ…やっと手に入った。美しい毛並みだ。これからどう躾ようか。』
( 大名は香の対抗薬を飲んでいるため正常で、相手の傍らに座ると其の毛先を掬って厭な笑みを浮かべて。)




35: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-20 17:59:25




(目を覚ましたのは豪勢な部屋の中。まだ霞む視界に眉間に皺を寄せ立ち上がろうとするも足枷が其れを許さず体制を崩す。
畳に爪を立てた所で己の姿が脳力解放後の姿になっている事に気付き、部屋に充満する刺す様な匂いの香に力を奪われる。
立つ事も起き上がる事も儘ならずにいた所、不意に従者に頭部の毛を掴み上げられては『顔を上げろ。』と。
強制的に顔を大名に向けられては、ふてぶてしく佇む男に視線をやり。
『やっと目を覚ましたか。…ほう、瞳の色も珍しい。』
顎とぐい、と掴み上げられ渾身の力で其の手に噛み付けば大名は大袈裟に騒ぎ己を思い切り蹴飛ばして来て。
頭を掴んでいた従者に刀を向けられて、人の姿に戻ろうとするも強い香の匂いにやられ、何とも中途半端な人間の姿になってしまい。
『…此れは素晴らしい!!!…そう威嚇するな。蹴って悪かったよ。だが主人に噛み付くのはいけない。』
まるで犬でも愛でるかの様な言い方に虫唾が走りふらふらとしたまま腰元に手をやるも、_刀が無い。
よくよく己の姿を見れば寝巻きのまま。
ここで漸く孤児荘の子供達が貰った飴が原因だと知り「子供達にも薬を盛ったのか。」と怒気を含んだ低い声で問う。
『安心しろ。子供達の分はただの飴だ。意識を奪って花街に売ってやっても良かったんだがな。御前が悲しんでしまうと思ったらそんな事は俺には出来なかったよ。』
纏わり付く様な大名の言葉に嫌悪感を隠さず舌打ちをする。
兎にも角にも此処を出なければ、とまだ朦朧としている頭を懸命に働かせては、唐突に体を丸め足枷の間の鎖部分を牙で破壊する。
どよめく従者達が恐ろしそうに刀を向けてくるも、“大名の大切な愛玩動物”に手を出して来る事はまず有り得ないと。
ふらつく身体に鞭打ち、全速力で襖へと走り思い切り襖を開けた其の刹那_其処のは何故か相手の姿があり。
驚いていた束の間、従者に身体を抑えられ口元を布で覆われてはまた意識が薄れて行きその場に倒れ込む。
力の抜けた身体を引き摺られ大名も元へ戻されると共に大名は相手へと目をやり『…勿か。昼間に会うとは珍しい。何の用事だ?』と相手に問い掛ける。
『例の“狼男”なら今捕獲した所だ。全く聞かない奴だが…薬の前では無力と見た。』
はだけた寝巻きから除く己の傷跡、特に背中は切り傷や鞭打ちの後が多く、其れをつ、となぞり『以前の主人は乱暴だったんだな。…何、今度は優しく躾けてやろう。』と囁き。
『良い酒の肴になる。まだ昼間だが御前も一杯付き合え。』と相手の肩を抱き寄せては従者に酒を持ってくる様にと命じて。

36: 菊 露草 [×]
2023-02-20 22:42:36




「…丁度その男の情報を得て来たところだ。でも俺の出る幕はなかったみたいだな。一杯付き合うのはいいが、その男の見張りを俺にさせてほしい。」
( ずっと走ってきた為僅かに上る息。其れを整えながら室内を見回して現状を把握し、嫌悪感が顕にならぬよう嘘ではない言葉を口にする。
実際に初めて目の当たりにする相手の姿。その姿云々よりも大名は我が物顔で触れるのが何故か気に障る。
距離の近い大名から自然な動作で少し離れれば従者が持ってきた酒を継いでやり。
『見張りか。時間に制約のある御前に務まるのか?』
「確かに見張れるのは夜が大半だ。たが俺は薬や香にある程度耐性があるから中和剤が無くともこの男を弱らせる為に香を焚いた部屋に長時間いられるし、貴方と飲むならやっぱり夜が良い。」
( 酒の入ったお猪口を揺らして軽く喉に流し込み、何となく大名が己のことを気に入ってくれているのは察していたため、そこはかとなく匂わせる笑みを浮かべて。

( 時は数刻後、結局あの後大名からは見張りの務めの承諾を得て、大名が酔い潰れる迄飲み交わし、まだ意識のない相手を抱えて別室へ移ってきたところ。
大名の部屋程ではないが壁や障子に彫刻や金粉が散らされたちゃんとした部屋。だが相手を軟禁する小屋であることに変わり無い。
今はその部屋に相手と己だけ。日も暮れ始めており、相手は部屋の真ん中に敷かれた布団で足枷を外し眠っていて行灯の光がその白く端正な顔をぼんやりと照らしていて。
「…寝顔はまだまだ子どもだな。」
( ボソリと呟き疲労の浮かぶ目元を見て眉を寄せる。
相手が目覚める前に着替えだけでもさせておこうかと今着ている寝間着に手を掛けては前に一度、そして先程も見た傷が顕になって。
二十に届かぬ大人と呼ぶにはまだ早い相手が背負うもの…己には全く関係のないことだが何故か突き放せず、ほぼ無意識にその傷に触れていて。)



37: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-21 01:07:54




(夢の中だろうか、深い微睡の中で銀髪の男が隣にいる美しい長髪の男に微笑みを浮かべている。
己によく似ている、否、似ている所の話ではない。
服装こそ僅かに昔っぽさを感じる物のあれは確かに自分だ。_そして、隣にいるのは、___顔がぼやけて良く見えない、しかし隣にいる男は相手に余りに似ていて。
不思議な夢だ、しかし夢というよりは記憶に近い何かを感じる。
自分はあんな表情が出来たのか、相手はあんな顔をして笑うのか、なんて考えていては銀髪の男の声が頭の中に木霊する。
「-菊、お前側にいるなら俺は“化物”では無く“人間”として生きられるんだ。だから、-」
言葉の続きは聞こえなかった。
夢にしては相手の髪に触れる感覚に生々しさを感じる。
しかし子憎たらしい相手が登場しているにも関わらず、何故か心中穏やかで、尚且つ居心地が良くて___。
「___き、く…。」
無意識に相手の名前を呟き目を覚ませば、またもや見慣れない部屋、…に相手の姿。
がばっと起き上がり距離を取るも着替えかけの自分の姿に気付き、相手が着替えを持って来てくれたのかと察し、まだ少しだけふらつく身体で着物の前部分を直す。
「悪い。あっさり捕まった。折角知らせてくれたのにな。大した薬だ。」
あの夢の後故何処か居心地が悪く、罰が悪そうに視線を逸らしてはきっと自分の身体を見たのだろうと。
「嫌なもん見せたな。_まぁ、気にしないでくれ。此処数年身体張る仕事ばっかりだったんだ。」
適当な言い訳を付け着替えを済ませると、此れからどうしようものかと。
そもそも今夜は依頼が入っていたのに貴人の令嬢が其の依頼を別日にするように金に物を言わせていた。
だが令嬢の家へ通うのも依頼は依頼。
今回ばかりはどうにもならなそうだし埋め合わせをしなければ、なんて考えていれば窓一つ無い部屋をぐるりと見回す。
まだ相手が刀を持って来てくれているとは知らず、急行突破で逃げるのが唯一の手だが相手も関わっている以上、己がそんな事をすれば相手に危害が行くのでは無いかと。
自分自身なんでこんなにも相手を気遣っているか分からず、暫くの間沈黙が走り。

_逃げないから、あんたも少し寝ろよ。どうせ深夜か明日まで動けないだろ此れ。俺が動けたとしてもあんたが罰せられるぜ。
(窓こそないもののそろそろ夜になる頃だろう。部屋にて己の私服の懐から煙管を取り出し咥えては頭を悩ませる。
今夜か明日の朝、大名はこの部屋を訪れるだろう。
昼間、あの香の中でも平気でいた大名と従者は何か対抗薬を服用していた筈。
ならば、今夜も同じ手を使って来る事だろう。
刀が無いなら物理技で行くしか無い。
此の部屋に香の匂いがしない事から、相手はやはり完全に大名側では無いのだと。
ならば相手に手を借り、一芝居打って隙を見て相手も無理矢理一緒に連れ出すか、と。
作戦を相手に伝えるべく向き直っては「なぁ、菊___、」と呼び掛けた所で一筋汗が流れる。
「子供達が、あんたの名前呼んでだからだ。」
聞かれてもいないのに無愛想に言い訳をしては共に屋敷を抜け出す作戦と、抜け出した所で相手は手強い為その後の策を相談しようと口を開き。





38: 菊 露草 [×]
2023-02-21 08:29:40






_御前が動けるなら強行突破もありかと思ったが、一芝居打つのも確実か。あとここを抜け出させればその後の事は少し強引だが手はある。
( 平静を装い策を話すも動揺を隠すのに必死であまり思考が回らない。
鼓動が煩く胸奥がグッと締め付けられる感覚に僅かに息がつかえて無意識に襟元を押さえ。
寝言なのか、相手の口から零れた名前に始めは聞き間違いだと誤魔化した。然し、相手が起きてはっきりと己の名を口走った時、身体に電撃が走ったような、直接心の臓を掴まれるような衝撃が走ったのだ。
「それと、別に御前の身体のことも事情も俺には関係ない。…ただ腕は立つのに意外とヘマはするんだと思っただけだ。ちゃんと食べて寝てるのか?日々の生活をしっかりしておかないといざという時に……今はそんなことは良かったな。」
( 眠気は大丈夫だと軽く首を横に振り、迂遠に相手の傷も能力のことも気持ち悪く思っていないことを伝え、つい憎まれ口に続き説教じみた言葉が続き軽く咳払いをして。
そして先程から主人の元へ戻りたがっているように感じる白い刀を背中から下ろして風呂敷から取り出し相手に差し出す。
「念のため持ってきた。…作戦が今夜じゃないしにしても御前が隠し持っていたほうがいいだろ。」
( 白い刀を相手の膝下へ置き、少し落ち着いてきた鼓動に小さく息を吐く。
因みに抜け出した後の策と言えば己の能力を存分に使うこと。個々数日連続して使っているため代償は少なからず出そうだが昨日の夕飯を忘れるくらいだろうと軽い気持ちで。
そして何気なく煙管を燻らせる相手を見て
「なぁ…あの丘には良く行くのか?前に居たことがあっただろ。あまり人がより付かないところだから気になってな。」
( あの丘は己もふとした時に行く場所。気付けば相手に聞いていて少し居心地悪くなるも真っ直ぐに紅い瞳を見ていて。)



39: 霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-22 01:37:37




(説教地味た相手の言葉も何故か嫌味には聞こえず、何なら聞き覚えがある様にすら感じ取れ。
刀を取り、「(此れがあれば何とかなる。)」と表情を和らげては小さな声で礼を言う。
相手の能力に関してはまだ何も知らないまま、相手の問い掛けに煙管の煙をふ、と吐き出す。
「嗚呼、あそこは気に入ってるんだ。月がやたらと近く見えるし、___なんか、懐かしい様な感じがするんだ。」
一見変わらない表情のまま言い、暫しの沈黙が走る。
外は段々と明かりを取り戻して来た頃。
静かに襖を開けるも、相手に見張りを頼んだ安心感からなのか廊下には誰もおらず静まり返っていて。
「随分信頼されてるんだな。」と小さな嫌味を溢し足早に廊下を抜ける。
屋敷の玄関口まで来た所で、背後から『何をしている!!!』と言った声が響く。
あっさり外に出られる筈も無いか、と溜息を吐き、自分に刀を向ける従者達の元へ歩を進める。
昼間の己の姿を知ってか従者達の刀は僅かに震えており。
『勿!!!貴様…ッ裏切ったのか!!!!!』
従者は自分から視線を逸らし相手へと怒声を上げる。
一応相手は大名の仕事を受けた身である事を思い出し、すんなり外へ出られないのならやはり一芝居打つしか無いかと。

_此奴なら、御大名様とやらからの二倍の金を出して俺が買って此処まで連れて来て貰った。お陰様で懐が寒いんだ。御大名様とやらの部屋へ案内してくれ。
(口角を上げ言えば従者達は自分に刀を下げるように命じた後、取り囲むように城内の大名の部屋へと通され。
従者が言葉を発する前に襖を開けては、まだ酔いが冷め切れて無い様子の大名の前にどかっと腰を下ろす。
「あんたが買った男は其の倍の金を出して俺が買ったぜ。お陰懐はカラッカラだ。あんたは俺に幾ら出す?金額に寄っては…」
『取引でも持ちかけるつもりか?俺はお前を飼い慣らす為に此処まで連れて来たんだ。』
「だから、薬を使おうが何しようが俺はあんたに懐く可愛い愛玩動物にはなれないぜ。身体中包帯まみれにはなりたくねぇだろ。』
昼間に己が噛み付いた大名の手を顎で挿せば大名は面白く無さそうな顔をする。
「さあ、幾らだ。額に寄っては尻尾振って擦り寄ってやるよ。」
立ち上がり返答を急かす様に刀を構える。
刀からは紅いもやの様なものが揺らめき、ゆっくり刀を抜けば悔しそうに歯を食い縛る。
『今夜までに条件と金額についての検討をしよう。一旦解放してやるが今夜また此処へ来い。約束を破ったら、』
「俺は約束は破らない。分かったよ。」
『勿!!!御前は此処に残れ!!!!!御前とは“話し合い”が必要だ。』
声を荒げる大名に相手に視線をやった後、「此奴は俺が買ったと言ったろ。今の雇い主は俺だぜ。」と。
『ならその倍の金を払おう。断ったら、利口な御前なら分かっている筈だぞ。』
笑みを浮かべ相手に言い放つ大名に舌打ちし刀を抜こうとするも流石に大名ともあろう人間に手を出すわけにはいかない。
用済みだと言わんばかりに従者に部屋を追い出される其の刹那、相手の横を過ぎる際に「_深夜、あの丘で待ってる。」と告げ。
少なくとも自分の所為、其れに相手とは話さなきゃいけない事がある気がして。
従者達に城の外へ追い出されては静かに孤児荘への帰路を辿るも内心相手の事が心配な気持ちがあり。
何でこんなに気にかかるのか自分でも分からないが、相手が手を貸してくれたからだと無理矢理結論付けて。


40: 菊 露草 [×]
2023-02-22 08:30:31







( 華麗な身のこなしに人を言い包める饒舌な物言い、相手の後に付きその細くも凛然とした背中を見て全身が脈動する感覚を覚えた。

__己はこの背中を知っている。

すれ違い際に言われた言葉、念のために帳簿に記したいところだったが、どうやら大名は其れを許してくれないらしい。帳簿を取り出そうと懐に手を入れようとしたところで『何をする気だ!今の御前の立場をわかっているのか。怪しい動きをしてみろ。今後の対応を考えることになるぞ。』と怒鳴り散らされ。
「分かってる。裏切ったのは認める。でも安心してくれ。金を払ってくれたんだ。今の主人は貴方だよ。やっぱり大名様はすごいな。すぐに俺の望むものをくれるし、一緒にいて楽しませてくれる。…あの男に気が揺らいで悪かったよ。」
( 警戒する従者たちを他所にまるで大名しか見ていない口ぶりで妖しい雰囲気を作りながら近づき隣に座り身を寄せる。脳裏では“あの丘に行く”と忘れぬように復唱し、能力を解放する隙を窺って。
『ふん、御前の望むものは俺じゃなく金だろう。』
「金好きだからな。いくらあっても困らない。でも金で回るのが世の中だろ。…だから大金持ちの貴方は魅力的だ。此れだけ財位があるのは貴方に魅力があって其れだけ俊逸だからなんだろうな。」
『素直なのか捻くれてるのか分からないやつだな。』
( 眉を寄せながらも警戒を解いてくれた様子に全く気分の良いものではないが大名の肩に触れて「今後もよろしく頼むよ。」と笑みを向ける。その間に能力を解放し“既に相手とは金の取引は結束し今後も横暴な捕獲をしない条件をのんだ”記憶を植え付ける。本来なら辻褄合わせに従者たちの記憶を改ざんする必要があるが、大名がこうだと言えば従者たちは首を立てにふるしかないだろう。ややずさんではあるが能力の代償を考えれば仕方ない。ついでに“相手に取引済みと条件、今夜来る必要のない旨を記した文を届ける”ように仕向けさせて。
「大名様?ああ、昨日飲みすぎていたから疲れが出たんだな。ゆっくり休んでくれ。…それじゃあ俺はこれで。」
( ぼーっとする大名を介抱する素振りで横にさせては後の世話を従者たちに任せてその場を後にして。



( 日が昇る頃に家路に付き、己も能力者と言えど超人ではないので眠気は来る。
寺子屋をお手伝いの青年に任せて身体を休める間、またも浮かぶのは相手のこと。

__『爛兄さん。』確か孤児荘の子どもたちはそう呼んでいた。
“爛”…懐かしい響きに感じてあの丘のことを思い出す。
そしてあの丘もなぜか心が惹かれ落ち着く場所。
月明かり照らす大樹の下で己と相手に似た二人が立っていて、己に似た男は優しい微笑で柔らかな銀髪を撫でている。

あの丘に行かないと…。

( ふっと目を覚ました時、窓からは赤い夕暮れの光が差し込んでいて、寝過ごしたことに気が付き慌てて起き上がる。
然し、目を覚ましたときには何処かへ行くつもりだったことは薄っすら覚えているが何処へ行くつもりだったかは思い出せず。帳簿を取り出すも当然何も記されていない。
「……誰かと会うんだったか?」
( 考えても出てこずに頭を悩ませていれば『菊にぃ!まだ寝てるの?ちょっとお勉強で分からないところがあって聴きたいところがあるんだけど。』と襖の向こうから少年に声を掛けられ。
「ああ、今起きたところだよ。すぐ行くから待っててね。」
( もやつきは残るがひとまず起きようと身支度を整え始めて。)




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