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個人用・練習用
自分のトピックを作る
46:
菊 露草 [×]
2023-02-25 09:45:53
( 相手が走り去った後、その場所に呆然と立ち尽くす。
相手に押さえ付けられた腕がじりじりと痛んだが、其の痛みよりも胸奥が酷く締め付けられて。
そして不意にズキリと頭痛がし額を抑える。
_『やっぱり御前も他の奴らと一緒だった。俺の能力を知れば何も信用出来なくなる。分かり合えたと思ったのは俺の勘違いだったみたいだな。』
_『…もう会いたくない。考えたくもない。』
己の脳内に流れた風景は雨の日ではなく、桜が散る丘の上。
相手に良く似た銀髪の男の話に聞く耳を持たずに冷たい口調で何もかも諦めた顔をして一方的に言葉を吐き捨てる己に良く似た男の姿。
思えばこんなことばかりだった。すれ違い、打つかり合ってまたすれ違って。
思えば?己と相手はまだ出会って月日は経っていない。
なのに何故こんな記憶に似た何かを見るのか。
ぽつりと頬に冷たいものがあたり、頭痛も治まり雨が降り出したことに気がつく。
少し冷静になって先程の明らかにおかしい相手の態度を思い出せば、相手に会う前にすれ違った慌てて丘を下りてきた男たちが関係しているのだろうと。
男たちがどうやって此の場所を嗅ぎつけたかまでは分からないが、もしかしたら相手も噂を聞いたのかもしれない。
其処でまた脳内に銀髪の男がびしょ濡れになって酷く悲しそうな顔をして佇む姿が脳内に流れ。
誤解があるならば早く解かなければと相手の後を追おうとしたところで、己の組織の人間が前に立ちはだかって。
『新しい依頼の話だ。今直ぐ拠点に来い。』
「何故さっき話さなかった。…同じ話なら答えは変わらない。それに此の場所を何処で聞いた?」
『新しいと言っただろ。ついさっき決まったことだ。此処では話せない。…御前が言ったんだろ?』
時機の良すぎる話と身に覚えのない話に疑念を抱くが断れる雰囲気でもなく歯がゆさに薄く唇を噛む。
依頼を聞いて朝には相手の元へ行こう。近づくなとは言われたが此の儘では此方も虫の居所が悪い。
組織の男の後に付いて行き雨脚が強くなるのを感じれば、また雨に濡れた銀髪の男が脳内にちらつく。
また何処か一人で泣いているのかもしれないと、無意識に思いながら丘を後にして。)
47:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-26 18:23:54
(孤児荘へ着き、風呂に入り自室へと戻れば時刻はそろそろ朝方。布団へ入り少し眠ろうと瞳を閉じると、ふと相手の顔が浮かぶ。?今は何も考えたくない、と無理矢理別の事に思考を移しては、無意識の内に疲れていたのかいつの間にか眠っていて。??
(朝、襖が勢い良く開けられ子供達が数人入って来ては耳元で『朝食だよーーーーー!!!』と大声で言ってきて、飛び起きるなり悪戯を仕掛けてきた少年を捕まえる。?少年を抱えたまま居間に向かい席に着いては年長の少女からみそ汁を受け取り、他愛も無い話をしながらのんびりとした時間を過ごし。??(朝食を終え、食器を台所に運んでは年長の少女に今日の予定を聞かれる。?令嬢と街に出向く事を伝えては少女はあまり良い表情はせず『あの人、良い噂聞かないよね。』と。?あくまでも仕事の延長線上の付き合いである事を話し、子供達は今日何するのか聞くと『寺子屋に行くよ。』と答えて来て。?無表情のまま何処と無く不安を隠しながらこく、と頷き自室に戻っては着替えを済まし真っ直ぐ貴人の家へと向かう。?道中、寺子屋の前で無意識に一度足を止めるも一度咳払いをし煙管を咥えては歩みを再開し。?貴人宅へと到着しては令嬢がいつもと比べ落ち着いた服装で大きな包みを持って立っていて。?
「随分大きな荷物だな。なんなんだ、其れ。」
?『………。』
?「答えたく無いなら、良いけど。」
?荷物を持ってやろうとするも令嬢が首を横に振るので、其の儘街へと歩き出し。?人々の視線を集めながら令嬢が足を止めたのは八百屋の前。?店主と女将が慌てながら令嬢の前に跪くも令嬢は二人の視線まで屈み大きな荷物を押し付ける様に女将に手渡す。?
『あの、此れは…。』
?『お着物と、玩具。…前、貴女の子供を叩いてしまったから。…其れと、着物。弁償させてしまったけど、本当は、着物なんてどうでも良くて、…その、』?
令嬢の首筋に伝う汗が目に止まり、僅かに表情を和らげては二人に開けてみる様に促す。?中身は子供の玩具が数個と、女性用の真新しい着物。?「女将に似合いそうなもんを選んだのか。確かに、良く似合うと思うぜ。」?令嬢に言うも、照れ臭そうに下を向いては押し黙ってしまい。?八百屋の周りには人が集まっていて、皆それぞれ動揺を隠せずにいて。
?『こんな、…大層な品物受け取る訳には、』?
慌てふためく女将に「折角選んだんだろうし貰ってやれよ。」と言えば女将は令嬢に向き合い優しく微笑んで。?
『…有難う御座います。でもこんな素敵な着物、どこに着て行こうか迷うわ。』?
女将の表情に安堵した様子の令嬢は立ち上がり深々と礼をし、己の着物の袖を掴みその場を後にしようとするも店主が奥から籠を持って来ては令嬢に手渡して。?
『“お嬢さん”、林檎は好きか?苺も入ってる。良かったら食べてくれ。』?
此れまで敬語で御偉いさん相手に接する様にしてきた店主が、まるで町娘を相手にするような態度で令嬢に話すのを町民が不安な様子で見つめる中、令嬢が心底嬉しそうに『有難う!』と受け取るのを見ては皆何処と無く表情が穏やかになり。?街に来るまで緊張していた様子の令嬢の雰囲気の変化に気付き、「甘味処でも行ってみるか?」と問い掛けると『行ってみたい!私、行った事ないの。』少し寂しそうに言ってきて。
48:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-02-26 18:30:37
(孤児荘へ着き、風呂に入り自室へと戻れば時刻はそろそろ朝方。布団へ入り少し眠ろうと瞳を閉じると、ふと相手の顔が浮かぶ。今は何も考えたくない、と無理矢理別の事に思考を移しては、無意識の内に疲れていたのかいつの間にか眠っていて。
(朝、襖が勢い良く開けられ子供達が数人入って来ては耳元で『朝食だよーーーーー!!!』と大声で言ってきて、飛び起きるなり悪戯を仕掛けてきた少年を捕まえる。少年を抱えたまま居間に向かい席に着いては年長の少女からみそ汁を受け取り、他愛も無い話をしながらのんびりとした時間を過ごし。
(朝食を終え、食器を台所に運んでは年長の少女に今日の予定を聞かれる。令嬢と街に出向く事を伝えては少女はあまり良い表情はせず『あの人、良い噂聞かないよね。』と。
あくまでも仕事の延長線上の付き合いである事を話し、子供達は今日何するのか聞くと『寺子屋に行くよ。』と答えて来て。
無表情のまま何処と無く不安を隠しながらこく、と頷き自室に戻っては着替えを済まし真っ直ぐ貴人の家へと向かう。
道中、寺子屋の前で無意識に一度足を止めるも一度咳払いをし煙管を咥えては歩みを再開し。
貴人宅へと到着しては令嬢がいつもと比べ落ち着いた服装で大きな包みを持って立っていて。
「随分大きな荷物だな。なんなんだ、其れ。」
『………。』
「答えたく無いなら、良いけど。」
荷物を持ってやろうとするも令嬢が首を横に振るので、其の儘街へと歩き出し。
人々の視線を集めながら令嬢が足を止めたのは八百屋の前。
店主と女将が慌てながら令嬢の前に跪くも令嬢は二人の視線まで屈み大きな荷物を押し付ける様に女将に手渡す。
『あの、此れは…。』
『お着物と、玩具。…前、貴女の子供を叩いてしまったから。…其れと、着物。弁償させてしまったけど、本当は、着物なんてどうでも良くて、…その、』
令嬢の首筋に伝う汗が目に止まり、僅かに表情を和らげては二人に開けてみる様に促す。
中身は子供の玩具が数個と、女性用の真新しい着物。
「女将に似合いそうなもんを選んだのか。確かに、良く似合うと思うぜ。」令嬢に言うも、照れ臭そうに下を向いては押し黙ってしまい。
八百屋の周りには人が集まっていて、皆それぞれ動揺を隠せずにいて。
『こんな、…大層な品物受け取る訳には、』
慌てふためく女将に「折角選んだんだろうし貰ってやれよ。」と言えば女将は令嬢に向き合い優しく微笑んで。
『…有難う御座います。でもこんな素敵な着物、どこに着て行こうか迷うわ。』
女将の表情に安堵した様子の令嬢は立ち上がり深々と礼をし、己の着物の袖を掴みその場を後にしようとするも店主が奥から籠を持って来ては令嬢に手渡して。
『“お嬢さん”、林檎は好きか?苺も入ってる。良かったら食べてくれ。』
此れまで敬語で御偉いさん相手に接する様にしてきた店主が、まるで町娘を相手にするような態度で令嬢に話すのを町民が不安な様子で見つめる中、令嬢が心底嬉しそうに『有難う!』と受け取るのを見ては皆何処と無く表情が穏やかになり。
街に来るまで緊張していた様子の令嬢の雰囲気の変化に気付き、「甘味処でも行ってみるか?」と問い掛けると『行ってみたい!私、行った事ないの。』少し寂しそうに言ってきて。
49:
菊 露草 [×]
2023-03-01 23:23:24
( 丘を離れて拠点に戻り言い渡された依頼と言えば良くある薬草の密売。態々緊急で直接言い渡される内容でもなく、相手と己の関わりに組織とは別で何らかの根回しをされているのではと疑念は深まるばかり。組織からは依頼の序に相手との親交を念押しされ、絶賛険悪化した関係と不明瞭な状況に頭を抱えつつ、其の夜は家路に付いて。
( 翌朝、寺子屋の門が開く時刻。
町の子どもたちに続き孤児荘の子どもたちも元気良く訪れる。
昨夜の相手との衝突もあり何となく相手のことが気になったが子どもたちの方から話してくれて。
『おはよう、菊先生。あのね、爛兄ちゃん、今日ごれいじょーと逢引してるんだよ。』
「え?」
『違うの、あ…ご令嬢と会うのは本当みたいだけど、逢引とは違う…かも?お仕事だって言ってたし。…でもやっぱり気になってたりするのかしら。綺麗なお方だし…』
「ああー、…もしかしてお兄さんのこと好きなのかな?」
『え!そ、そんな…!ただ心配なだけで、好きとかでは、』
( 少年の言葉を言い換えて赤面してあたふたする年長の少女が微笑ましく、御免ごめんと謝りつつ相手は今日もご令嬢との依頼かと。
相手が令嬢と関わってから令嬢の嫌な噂は聞かない。
懸念があるとすれば貴人も相手を気に入っているから令嬢と相手をくっつけて手に入れよう等と下手に考えないかだ。
其処まで考え心配すべきは今は別にあったと懐から文を取り出し年長の少女に差し出して「悪いけど、帰ったらでいいから此れをお兄さんに渡してくれないかな。」と。
内容は“話がしたい。会いたくないだろうが誤解がある可能性がある。此方が孤児荘に近づくのが心配なら、悪いが今夜にでも寺子屋迄来て欲しい。”と記してあり。
( その頃街では令嬢の振る舞いと相手との組み合わせに小さな賑わいを見せ、野次馬が甘味処に集まっていて。
『ふふ、あのご令嬢様は素直ないい子なんだね。誰がそう変えたのかしら。』
『本当に美男美女でお似合いだ。』
『逆手の玉の輿なんてこともあり得るんじゃないかい。』
( 甘味処の暖簾の向こうでチラチラと町民たちが中を除いて盛り上がる中、そんな声が聞こえるものだから令嬢は頬を赤らめており。
『何を言ってるのかしらね。…でも少し嬉しいわ。色恋の話もあまり出来ないから。貴方は居るの?想い人、とか。…あ、あと名前で呼んでもいいかしら。』
( 令嬢は時折寂しそうな表情をしながら落ち着き無い様子で、運ばれてきた抹茶を飲み相手の答えを気にしていて。)
50:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-04 21:56:18
(令嬢の問い掛けに少しの沈黙が走り、名前で呼ぶのは構わないと言った後想い人という存在に僅かに頭を悩ませる。
_何故か相手の顔が浮かんだ。
今一番憎らしいと言っても過言では無い相手の存在。
「想い人か…、俺にはよくわからないな。」
率直な意見を述べ抹茶を飲み干しては令嬢も其の先は何も言わず、店主を呼び会計をしようとして。
『あ、私が払うわ。私が行きたいって言ったんだもの。』
「おい、貧乏人扱いか?流石に其れは、」
『…前に、通りすがりに此処のお店に文句言ってしまって。女の子達がお店ではしゃいでたのが羨ましくて…』
「…なるほどね。あんたは問題ばっか起こしてんな。」
令嬢はおずおずと店主にお金を渡しては店主が釣りを持ってくる。
『あ、お、お釣りはいらないわ。』
『いやいや流石にこんな金額…当分団子には困らないだけの金額ですよ。』
困ったように冗談めかしていう店主に令嬢はぶんぶんと首を振り『お、美味しかったから!また来たいの!…どうしても受け取って貰えないなら先払いって事にして頂戴。』と。
店主は優しく微笑むと『お姫様に気に入って貰えたならうちも繁盛店間違い無しだ。』と嬉しそうにしていて。
相変わらず何処かつんつんした様子は解けない物の、令嬢の雰囲気は以前と比べて非常に穏やかで。
(貴人宅に送り届けると令嬢は自分を見上げ『夜のお誘いは、もうしないわ。だから貴方が想い人がなんだか、誰なのか気付くまでは良い友人でいて欲しい。』と言われ。
無言の見詰めていると『お友達すらいないのよ。私。だから恋人とかはまだ早いし、お友達からって言っているの。本当に鈍感ね。もし貴方に心から想える人がいたら応援させて貰うから。』と真剣な表情で言って来て深く意味も考えないまま頷き令嬢と別れ孤児荘への帰路を辿り。
(孤児荘へ到着すると丁度子供達が寺子屋から帰って来た頃。
手を洗い終えた年長の少女に呼び止められ懐から出された文を受け取り其れを開けばどうやら相手からの物で。
初めて見た相手の字、其れなのに何故か見覚えがありまたあの頭痛が襲い掛かる。
年長の少女が『兄さん!?』と声を上げ自身を支えようとする中またあの記憶。
「-文通でのやり取りは組織に表沙汰になったらまずいし、読んだらお互いすぐに燃やそう。-」
銀髪の男の言葉に頷く長髪の男。
(そしてまた場面が変わる。
銀髪の男がいるのは内装こそ少々古臭いが自分の自室其の物。
荒々しい手付きで畳を剥がすと、畳の下には大きな木箱があり、其の中には沢山の文が入っていて。
「-菊、…-」
小さな声で呟いた銀髪の男はぐしゃりと手紙を掴み大粒の涙を流す。
(頭痛が綺麗さっぱりと治まり、少女を宥めては夕餉の時間まで自室に篭る。
先程の記憶の中で見た、長髪の男からの物であろう文の筆跡は相手とあまりに似ている。
目の前の畳を力任せに剥がせば其処には記憶の中で見た木箱があり驚きのあまり尻もちをついてしまい。
木箱を力任せに開けてはぼろぼろに劣化した大量の文。
無言で木箱を閉め畳を戻せばもどかしい感情に駆られ「_俺に、何を伝えようとしてるんだ。」と過去の自分と思しき銀髪の男に呟く。
「行くよ。其れで満足か。」
一人でにそう呟くと頭の中に直接木霊する声。
「-そうしてくれ。御前は俺みたいになるな。-」
(僅かな苛立ちを隠し、子供達に呼ばれと夕餉を済ませては子供達が寝静まった頃渋々寺子屋へと向かう。
最近は相手に関わるとやたら邪魔が多い。
今回も相手の罠であるかもしれない事を考慮しては屋根へと上がり人目を完全に避けるべく周りに警戒しながら自分の匂いしかしない場所を辿る様にして。
漸く寺子屋の門の前に到着し、あまり大きな音を立てない様に門を叩いては、警戒を解かぬまま刀に手を掛けたままで。
51:
菊 露草 [×]
2023-03-05 17:32:56
来てくれたんだな。…態々足を運ばせて悪かった。外は冷えるし中で話そう。
( 相手は来るだろうか、そんな気掛かりは不要だったようで門を叩く音に其方へ足を向ける。
暗い夜、提灯を持って近づけば、白い鞘に添えられる手を一瞥するも気にせずにさらりとした口調で話して返答を待たないまま住まいへと進み。
「…適当に座ってくれ。まあ、信用されてないだろうから其の儘でもいいが、」
( 寺子屋を元々開学した家主から引き継いだ家、2階建てで広さもそこそこ、未使用の部屋も多数あるが、其の中でも一番狭い2階奥の角部屋を主に使わせてもらっていて襖を開けて先に入る。
七輪で沸かしておいたお茶を湯呑に入れると卓袱台の上に2つ置き、先に刀を置いて畳の上に座ると真向かいに座るよう顎でしゃくって。
俺も何で態々御前を呼び出してまで話をしようとするのか、…自分でも良くわからないが、俺たちの知らないところで色々と操作されている気がするんだ。俺の意識しないところで誤解されて反感を買うのは不愉快だからな。
( つい回りくどくなり小さく咳払いしては先にお茶に手を伸ばして軽く息を吹きかけてから口を付けて「まず何処からが演技かどうの言っていたが、大名の一件で御前と協力した意に偽りはない。…まあ始めのうちは御前と関わる依頼で何かと介入したのは認めるけどな。それと、誤解の件について、御前が聞いたかは知らないが、街で流れてる噂の大半はでたらめだよ。俺が御前を売っているだとか何とか。」とつらつらと己の知っていることを話し、組織から相手に近づいて親交を深め物にする依頼を頼まれていることも隠さず話してしまい。
其れにしては俺たちを敵対させようとする噂が流れてるから別の力が働いてるんだろうな。…俺の話を信じるか否かは御前に任せるよ。
( 緩く肩を竦ませて相手の瞳を見ては、凛とした紅い瞳にまた胸の奥がグッと熱くなる。
何故こんなにも相手に惹かれるのか、僅かに表情を歪めて唇を震わせて
「…おかしな話しだが、俺は御前を以前から知っている気がするんだ。あの丘もこの地に来た時から自然と導かれるように足を向けていた。…御前は前から俺のことを知っていたりするのか?」
( 突拍子もないことを聞いている自覚はある。
もしかしたら能力の代償で相手を忘れている可能性もある。
然し其れもあまり腑に落ちない。
真剣な声色で真っ直ぐに相手を見据えては答えを待って。)
52:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-06 00:07:41
(警戒心を持ちながら相手の自宅へと上がり部屋へ通されると、相手が刀を置くのが目に入り自分も刀に添えていた手をそっと離せば表情は変えぬまま相手の顔をじっと見詰める。
まだ相手と出会ってそう経っていない、其れなのに相手が嘘を吐いている様には伺えずに差し出された茶を一口飲む。
続く相手の問い掛けの内容は自分もずっと気になっていた事。
まさか相手も同じ様な出来事に合っていたのかという僅かな疑問に眉を寄せては漸く口を開く。
_今更名乗るのもおかしいが、俺の名前は霧ヶ崎爛だ。…名乗るのは初めてだが、あんたも知っているんだろ。俺もあんたの名前を知っている。
(無表情のまま淡々と答えればゆっくりと此れまでの事を話し始め僅かに眉を寄せる。
「俺にも良く分からないんだが、時折激しい頭痛に襲われる。ご先祖様やら何やらだか知らないが俺が知ってる身内なんて金の亡者みたいな父親と早くに死んじまった母親だけだ。母親なんて顔も覚えてない。俺とあんたに何を伝えたいのか知らないが…所詮過去の人間に振り回されるのは御免だ。…あんたもそうだろ。実際俺を気にかけてあんたも大変な目にあった訳だ。」
大名に囚われた時の事を思い出し視線を下げたまま言えば茶を飲み干す。
「誤解があった事は分かった。俺も言いすぎた。そこは悪かったよ。」
小さな声で謝罪を述べ部屋を後にしては何だか切ない気持ちに心を掻き乱される。
門へと続く庭を通り過ぎようとした際、最早慣れたあの頭痛。
(大きな松の木の下にいるのは相手と、相手に良く似た容姿の女。
これまで顔がぼやけてはっきり見えなかったが今ははっきり顔が見え、長髪の男はやはり相手と瓜二つで。
『兄さん、いつまでも自分を誤魔化さないで。ちゃんと、爛さんに…』
女の言葉を遮るように首を振る相手の姿。
其の表情は切なそうで苦しそうで、_何故か胸の奥が痛んだ。
(頭痛が治まり、玄関口から此方に向かってくる相手のじっと見詰めては「あんた姉か妹がいるのか?」と一言問い掛ける。
何度も脳裏に浮かぶ記憶を何となく思い返せば、自分と思しき銀髪の男はいつも相手を想って苦しんでいた。
___まるで相手に先立たれてしまったかの様に。
きっと相手からの手紙も捨てられなかったのだろう。
大きな溜息を一つ溢し相手に近付けば一応周りに警戒しながら、「明日の夜、俺の家に来い。気になるものがあるんだ。」と簡潔的に言い。
(寺子屋を後にし孤児荘へと辿り着けば玄関口には黒服の男の姿。
「こんな時間にご苦労なこった。」
『今回の依頼だ。前回御前が囚われた大名の娘を探して来いとの事だ。』
「攫われちまった事も広まってんだな。怖いもんだぜ。それにしてもあのおっさん娘がいたのか。」
『遊女が孕んだ子供がいるらしい。年齢は御前とそう変わらんくらいだろう。寺子屋の男に惚れ込んでるらしく、今は町娘としてたまに手伝いに行ってる女だという所までは目星がついてる。』
「其処まで分かってんのなら自分で行けよ。」
『あくまでも依頼だ。其の娘をどうするのかまでは此方も聞いていないんだ。』
「女子供を悲惨な目に合わせる様な依頼だけは御免だぜ。」
男から依頼の紙を受け取ればすぐに燃やし、信用しきった訳ではないが寺子屋に入り浸っている情報があるのなら明日相手にも話さなければならないな、と。
53:
菊 露草 [×]
2023-03-06 08:24:47
…爛、
( 相手が去った後、部屋へ戻り相手の名をひとり呟く。
相手も頭痛に襲われ、似た夢のようなものを見ていた。
そしてほんの一部しか聞いていないが、幼い頃から理不尽で不条理な苦悩を背負ってきたのだろう。
_ズキリとあの頭痛が襲う。幼い銀髪の少年がぼろぼろの服を来て、傷だらけの身体を自ら抱えるようにして蹲っている姿。
此れは己の記憶なのか、見せられているものなのか分からないが直感でその幼い少年が相手に思えて。そしてふと先程の相手との会話を思い出す。
妹か姉がいるのか問われたこと。その場では「いや、姉も妹もいないし、兄弟もいない。父親と母親とも死別してる。」と答えた。
だが、其れは断片的な記憶の中で得た事実を答えたまで。
己は一度、能力の過度な使用によって全てを失ったことがある。
ただ子どものころの話で全てではないが過去の記憶は回復しつつあり、今は能力の制限も出来ているため大人になってからは軽い物忘れ程度の範囲で収まっている。
それでも兄妹がいるかどうか、核心が持てずに。
そしてまたあの頭痛。今度は古い装いをした己と良く似た女が出てきて
_『兄さん、私と貴方の能力は二人で1つなの。…貴方が忘れても私が覚えているから安心して。』
_『これ、盗まれそうになってたから預かってたの。…大事なものでしょ?』
己に良くにた女の手にはきれいな装飾が施された簪。
何故かその簪には見覚えがあった。金銀は高価で装飾品も付くとなれば値は上がる。
そんな高価なもの何処で見たというのか。
頭痛が治まれば小さく息を吐き出し、ひとまずまた明日相手の元へ向かおうと寝支度を始めて。
( 翌日、相手の依頼のことは知らず、今日は件の町娘が寺子屋を手伝いに来ていて。
己は町娘の正体は知らずに毎日で無くとも献身的に手伝いに来てくれ子どもたちの面倒を見てくれる町娘を快く思っていて。
『此れは何処に運べばいいのかしら?』
「あー、そんなに一変に持って。重たいだろう?」
『あ!全部持っていかなくてもいいのに。』
「君にはこの教書の並べ替えをしてもらうから付いてきて。」
( 何冊も積み重ねられた教書を町娘の手からひょいと奪うと寺子屋内にある書庫へ向かう。
書庫には昔の文献から歴史等が刻まれた貴重なものもあり、何でも寺子屋の家主が嗜好で集めたもの。己も文字を読むのは好きでこの書庫に入り浸ることも度々で。
『此処の匂いって落ち着くわよね。…色々画集もあって飽きないわ。』
「そうだね、…もし気になる本があれば持ち帰ってもいいよ。いつでも返してくれればいい。」
『いいの?なら此れにする。画人の名前がね、はっきりとはわからないけど凛の花の絵なの。変わっているけど面白いわよね。水墨画と水彩を織り交ぜていてとても綺麗な絵なのよ。特にこの絵がお気に入り。』
( 町娘が画集を開き見せてきたのは美しい銀毛の狼の画。毛先の一本一本まで月明かりに照らされて美しく輝く様が丁寧に描かれており、その画を見て小さく目を見開く。
『どうかした?これ、持っていったらだめかしら。』
「…いや、いいよ。凄くきれいな画だったから驚いただけ。」
( 早鐘を打つ鼓動に平静を装って笑顔を向ければ「片付け早く済ませようか。」と声をかけて一緒に教書を棚に並べていく。その画集の他の頁にはあの簪の絵も描かれているがまだその事は知らずにいて。)
54:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-06 23:43:13
(翌朝、子供達といつも通り朝餉を済ませては自室へと籠り例の畳をじっと見詰める。
子供達には仕事をするから暫く部屋に来てはいけない事を伝えており、今夜相手にも見せる事になるであろう木箱の中を先に確認しておこうと。
畳を剥がし、埃と黴の混ざった匂いに眉を寄せながら木箱を開け、ぼろぼろになった文を一枚取る。
内容は全てにおいて完結的な物だった。
『-今夜真夜九つ-』
『-明日昼四つ、寺子屋の住まいにて-』
恐らく会う為の約束だろうと思しき文ばかり。
特に物珍しい物は無いかと文の山をざっくりと持ち上げた其の時、小さな木箱が目に入り手に取る。
木箱を開ければ僅かに劣化こそしている物の高価な物と思われる簪。
菊の花の飾りが誂えてある其れには錆びた血の様な物がこびり付いていて。
多少劣化している物の手入れに出せば光沢を取り戻せそうな代物。
何故ここに簪があるのかと暫し頭を悩ませるも思い浮かぶのは記憶の中の、相手によく似た長髪の男。
畳を戻し、大名の娘とやらの偵察がてら先に街へと向かっては老舗の簪屋へと向かって。
(簪屋に着くなり古びた木箱を店主に渡せば店主は丸眼鏡をくいっと上げ、驚いた様な顔をして。
『お兄さん、此れはあんたが持ってたのかい?驚いた。此れは俺の先祖が作った物だよ。間違いない。なんせこの細かい細工を作れたのはあの人しかいない。爺さんも、父さんも、俺も。作れないんだ。』
「…其れ、磨けるか。使えるくらいに。」
『嗚呼。それくらいはできるが、作りが本当に細かいんだ。少し時間をくれないか。…そうだな、折角巡り会えたんだ。今日は店終いにして此奴を生き返らせてやるよ。夜にまた取りに来てくれるか?』
「分かった。」
何故「使えるくらいに。」などと言ったのかは自分自身も分からなかったが、不思議とそうしてやらなければならない気がして。
暖簾を下げる店主に軽く会釈しては其の儘寺子屋へと向かって。
(寺子屋へと到着すれば庭で遊ぶ子供達の中に、自分とそう歳の変わらないであろう女子が一人混じっていて。
あっさり見付ける事ができた物の大名があの娘をどうするつもりなのか分からない今、動く気にもなれない。
頭を悩ませていた所、中から相手が出てくるのが見え咄嗟に門の影に身を潜める。
『今日はお天気が良いわね!菊先生もこっちに来て!』
『次はお姉ちゃんが鬼だよー!』
大名の娘とは到底思えない程のお転婆な様子。
着物の裾を翻し楽しそうに走り回る娘が躓き、咄嗟に相手の胸の中に倒れ込むのを見掛けては何故か鼓動が騒ぐ。
『あ、ご、ごめんなさい。』
髪を耳に掛けながら顔を赤らめ俯く娘に優しく微笑む相手の姿に居ても立っても居られなくなり足早にその場を後にしては原因不明の苛立ちに苛まれて。
55:
菊 露草 [×]
2023-03-07 08:03:41
( 昼時、寺子屋にて元気な町娘が子どもたちと遊ぶ様子を見守り、なにやら物音がした気がしたが相手だとは気が付かずにその後も何事もなく時は過ぎる。
夕刻になり子どもたちも町娘も皆帰れば一息付くも、ずっと朝方見た画のことや相手の事が引っかかっており、約束の時間迄と書庫へと向かう。
棚の奥へと進めば過去の歴史やその土地に流れる逸話などが記された本を探り、最近脳内に流れる映像について手掛かりはないか調べて。
然し、能力者のことは記されていてもぴたりと嵌まるような内容は直ぐには見つからず、時間を掛けて調べるしかないかと諦め掛けた時だった。
数冊並べられた本の後ろに風呂敷で包まれたものが隠されており、ざわつく胸を抑えながら其れを取り出して風呂敷の結びを慎重に解く。
中から出てきたのは古びた帳簿とくたびれた黒い布。
どちらもぼろぼろだったが己が持っているものと相手が使っているものと似ていた。
まさかと思いながら帳簿を開いて見ると、其処には己が普段記すような日々の日常や約束事が書いてあり、重要な誰かと会う約束でもしたのか時刻や場所に所々線が引いてある箇所がって。
「…今夜真夜中九つ、」
( 指先で己と良くにた字をなぞり、もう1つの黒い布を見る。
己は此れと良く似たものを知っている気がする。
そこでハッとなれば帳簿と黒い布を大事に手早く風呂敷に包み直して自室へと走り、忙しなく押し入れの襖を開ける。
そして奥にある木箱を取り出して中から更に小さな箱を取り出すと蓋を開けて。
その中には先程見たものとそっくりの黒い布。
然し先程のものと比べて新しく布もしっかりとして。
此れは己が此の地に行き倒れ家主に拾われた時、己が懐に持っていたもの。
何故忘れていたのか。関連性がないとは思えずにこくりと息を飲む。
そこでいつの間にか相手との約束の時間が迫っていることに気がつけば、今持っているものを風呂敷にまとめて孤児荘へ向かって。
( 孤児荘に付くと門を叩き相手が出てくれば焦ることでもないのに相手の手を取って足早に建物内入る。
流石に部屋にズカズカ上がり込むことはしないものの、今更だが馴れ馴れしく相手の手を掴んでいたことに気が付きパッと離して。
「悪い、つい気持ちが焦って。…あれからまた色々と御前に聞きたいことが出来たんだ。…御伽噺を信じる訳ではないが俺と御前の先祖には何かしら関わりがあるように思えて…。あと、此れなんだが見覚えはあるか?」
( まだ玄関口で少し早口に言えば持ってきた風呂敷を取り出し、帳簿や二枚の黒い布を見せる。
逸る気持ちを抑えて返答を待って。)
56:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-08 22:24:41
(縁側で煙管を燻らせていた所、約束の時間になり門を叩く音に気付けば其方へと向かい相手を自室へと招く。
自室の扉の前にて相手に手を掴まれ、やや焦った口調で言われた内容は以前から己が感じていたもの。
相手に手渡された布を受け取りまじまじと見れば、劣化こそしている物の普段から己が愛用している布と全く同じ物で。
形から厚さから生地感から同じものであるが故に間違える筈も無く、無言で己の額に巻き付けてある布を解き、相手に放り投げる様に渡しては「何であんたがこんな物持ってるんだ。」と、同じ物である事を肯定した様な一言を溢し。
相手の問い掛けには応えないまま、自室へと入り畳を剥がせば呆然とする相手の前で畳の下の木箱を開ける。
相手から帳簿を受け取り、内容を読めば木箱の中の手紙と全て照らし合わせられる事に気付き溜息を一つ漏らしては「信じるしか無いだろ。」と今更ながら短い返答をして。
思い出した様に着物の懐から小さな木箱を取り出し、磨き直して貰った簪を差し出す。
_何で此処にあったのかは知らないが、其れは多分あんたの御先祖様のもんだろ。
(一枚の文を開いたまま相手に差し出し、己の手にある帳簿の項を開いたまま相手に見せ一文を指でなぞる。
『-簪、有難う。-』
『-○月○日:簪を貰った。-』
何となくの憶測だったものが確信に変わり、帳簿と文を照らし合わせる相手をじっと見詰める。
「其の簪は今日見付けたんだ。余りにも酷い状態だったから磨き直して貰った。………血が付いてたんだよ、錆びていて汚れかと思ったんだが匂いで分かった。誰のかは知らないが。血が付いてる簪を其の儘保管して置いたってのも意味が分からないし、…」
「(もしかしたらあんたの先祖の死因は、)」と言い掛けそうになった所で押し黙る。
暫くの沈黙が続いた後、ここまで相手に見せたのなら隠す必要も無いかと此れまでの記憶を話し始めて。
毎回起こる頭痛、不思議な記憶、相手の返答を聞いている内にやはり記憶の中の二人の男は己と相手の、_恐らく先祖である事は間違いないだろうと。
「兎に角、…俺とあんたの先祖に何があったかは知らないが俺達には関係の無い事だろ。頭痛だ何だと振り回されるのは
勘弁だ。」
昼間見掛けた、相手と大名の娘の様子を思い出し何故か胸の奥がチリチリと焼け焦げる様な感情を隠す様に、自分に言い聞かせるかの様に相手に言い放つ。
此れは己の感情なのか、御先祖様とやらの感情に支配されているだけなのか、そんな事を己が知る由も無く、どこか相手を遠去けている様な物言いになってしまいまた暫しの沈黙が襲う。
煙管を咥え、部屋が煙る事を考慮し襖を開ければ今夜は満月。
以前相手と此の部屋で一緒に満月を見た事がある気がする。
相手に背を向け月を見上げたまま「…あんたの寺子屋に入り浸っている女がいるだろ。俺と歳が変わらないくらいの。どういう関係なんだ?」と問いかける。
しかし其の後はっとし、此れでは相手か娘に好意を寄せている様な言い方では無いかと気付けば「依頼の標的なんだよ。まだ完璧に受けると返答した訳じゃ無いが。」と続けて。
57:
菊 露草 [×]
2023-03-10 08:00:13
…!ああ、そうだな。確かに、先祖が何であれ関係ないことだ。
( 相手に言われた事にははっとさせられ最もだと思う。
なのに何故か胸が痛み、同意はするが視線を反らし声を落とし。
黒い布に帳簿や文、そして簪まで…解けて散り散りだったものが折り重なり1つになっていくのに胸の蟠りは其の儘どころか大きくなっている。
部屋を照らす満月の眩さが懐かしくも気持ちは陰り、凛としながらも何処か危ゆい背中を見つめて。
「この黒い布、古い方は寺子屋の書庫にあったんだ。…まだ新しい方は俺がこの地に来た時に持っていた、らしい。はっきりとは覚えていないが子供の頃に誰かから受け取った気がするんだ。…あと、女は寺子屋をたまに手伝いに来てくれているだけで其れ以上の関係はない。」
( 己のことなのに曖昧な返答になるのが歯痒い。
曖昧になるのは子供の頃の記憶だからではなく能力の代償。
然し其れを打ち明けるのは憚られ、町娘との関係を問われれば何だ此奴もしっかり十代の男なんだと安心と共に少し靄付いたりして。
それから少し気持ちを落ち着かせて息を吐くと生き返った簪を手にしたまま相手の隣へ足を進めて「依頼内容がどうかは知らないが、御前のことだから罪のない女子供に手出しをするのは主義から外れるんじゃないか?御前が断れば他の誰かが代わりに依頼をするだろうし、もし女を傷つけたくないなら依頼を受けてどうにかすればいい。それなら俺も助太刀できる。…因みにその子は甘いものよりみたらし団子とか煎餅とかしょっぱいもののが好きだ。」
( 相手はきっと外道な行いは好まないと勝手に思っているため余計なお世話だろうが口出しし、ついでに背中を押すつもりで情報を足してやる。
「あと、この簪…俺が預かってもいいか?此れだけ良いものを此処まで綺麗にしたなら其れなりに値はしただろうし修復代は後日返す。今持ち合わせがないんだ。」
( 先祖にとって恐らく大事な簪、己自身見た瞬間から心惹かれて貰うと迄は言わぬが一時的でも手元に置きたく頼み、ふと相手の横顔を見て其の頬に指先で触れて「こうして近くで見ると意外と子供っぽい顔をしてるんだな。と言うかまだ子供か。……先祖は関係ないの確かだ。でも先祖関係なく、俺は御前のこと結構気に入ってるよ。出ないと態々此処まで来ない。」と相変わらず揶揄い混じりだが、自然に双眸を緩めて微笑み軽く頬を摘んでやれば言い逃げの如く、依頼のことも含めまた何かあれば報告してくれと言い残してさっさとお暇してしまい。
孤児荘から住まいに帰り、一息つくも簪と帳簿は持ち帰ったが黒い布は相手の元へ置いてきたことに気が付き、不慣れなことをした動揺を隠せていないのにため息が出る。
相手はあの娘のような子が好きなのかと、先祖のことも衝撃だったのに別の思考に走るのに首を横に振って、依頼の件もあるし町娘は明日も来るため探りをいれてみようと。
そして簪がこれ以上傷まぬよう少し上質な布袋にしまおうとした時だった、ズキリと強い頭痛が襲い
_『…爛、…らん、…もっと名を呼べばよかった。』
_『こんな護りかたしかできない。独りにして、御免。…どうか生きて欲しい。____』
酷く切ない声、それは己のものと酷似しており伝えられなかった言葉に思えた。
最期の言葉は雑音でかき消されたが恐らくは…。
結局は先祖に振り回されるのに苛立つも、この苛立ちの原因は其れだけでないのは自覚していて。
その後、簪を布袋に包み木箱にしまうと寝支度を始めて。
( 翌日、昼休みに町娘と学び舎の片付けをする間、不躾だがまどろっこしいのも面倒のため身内について問いかける。
『…私が狙われてるかもしれないの?だとしたらそうね、私の両親が関係してるのかも。先生の言うの通り私は遊女の母と大名の間の子。どこで其れを知ったのかは聞かないけれど、父親が裕福なのはもちろんだけれど、私の産みの親は遊女であると同時にちょっと色んな人と関わりがあるみたいで……私を攫ってゆすりたいのかも。なんて…こんな危ない話先生にするものじゃないわね。それとも先生も実はそういうことに関係してたりするの?』
「……実はね。まあ、君に何かあったら嫌だから気をつけて。俺もできるだけ注意しておくから。」
( 冗談半分に聞かれた問いかけだったが、今後裏でも関わりを持つ可能性がありそうだし己だけ色々探るのは対等ではない気がして、人差し指を口元にあてて小さく笑み肯定する。
町娘は少し驚きながらも『わかったわ。』と頷き、母親が裏の密売組織や刺客とつながりがあることを教えてくれて。)
58:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-12 21:56:29
(相手が帰った後、掴み所のないあの妖艶な笑みを思い出してはくしゃりと髪を掴み項垂れる。
嘘偽りは無いと感じ取れる様子で素直に気持ちを話せる相手に大人の気品の様な物すら感じ、胸奥のもやつきを隠す為に思っても無い事を言った自分に嫌気が差す。
深い溜息を一つ溢し、戻した畳の上にいつも通り布団を敷き横になれば段々と瞼が重くなり瞳を閉じて。
(翌日、朝の一服をしていた所、門の近くの人影に気付き其方へと向えば黒服の男が立っているのに気が付く。
「朝っぱらから何の用事だ。」
『大名の娘についての調べは付いたのか。』
「まあ、多少。ただ娘をどうすんのか聞かされない内は依頼を受ける気は無いぜ。」
『自分の娘に会ってみたいらしい。』
「ほう。見事な嘘だ。で、実際はどうなんだ。俺に嘘は付かない約束だろ。」
『…一々面倒な男だ。大名は自分の血を継いでいる人間が一般人の如く生活しているのが気に食わないだけさ。母親の様に遊女にして自分の領地でもある花街に引き摺り込みたいんだろうよ。其の方が金にもなるしな。何せ母親は高級店の花魁だ。』
「…へぇ、娘は町で一人暮らしか。随分おっかねぇ事させる薄情な母親なこった。」
『愛情があるからこそさ。花街に引き摺り込みたく無いからこそ町民に紛れさせて“普通の暮らし”をさせたいんだろうよ。其の証拠に花魁が稼いでいる金は殆ど偽名で娘へと送られている。残りは全部あの大名の金になってる。高級店の一番人気を誇る花魁ともあろう者が、一番の貧乏人だ。』
どこか憐れむような男の言い草に無表情のまま依頼の紙を受け取る。
「“自分の娘に会ってみたい”だけなんだろ。其れなら護衛付きでも構わない筈だな。」
『…だから其れはあの大名の建前の嘘の内容であって、』
「いや、俺はそう聞いた。あんたも大名からそう言われてんだろ。」
歯痒い表情のまま眉間に皺を寄せる男を尻目に煙管を燻らせては其の場を立ち去りまずは情報収集でもするかと。
(真昼間から花街へと足を向ければ娘の母親がいるであろう店へと真っ直ぐ向かうも流石は一番人気。
そう簡単に指名を取れない事を知り今日は諦めようと裾を翻した其の時、強い香の香りと共に一人の遊女が己の腕を掴んで来て。
『………驚いた。…霧里じゃないか、…』
振り向けば大名の娘と瓜二つの遊女が嬉しそうな笑顔で己の顔を覗き込んでいて。
店主が『あれ程部屋から出てくるなと言っているのに!』と怒りを見せるも遊女は気にも止めず、嬉しそうな顔からきょとんとした表情に変わり『…若い。其れに男…?お前狼になれるだけじゃなく性別から年齢まで変化できるってのかい?』と。
何を言っているのか分からず頭を困惑させるも己が口を開く前に目の前の遊女は店主に向き直り、『御免よ親父様。次の相手の時間を少しばかり遅らせて欲しいんだ。旧友との再会なんだよ。』と美しい顔で眉を下げて頼み込んでいて。
『何を言っているんだ!馬鹿な事を言うもんじゃ、』
『頼むよ。次の御客様にはたんまり御奉仕するし、今月はいつもの倍売り上げに貢献するさ。滅多に無いあちきの我儘だ。此の我儘がやる気ってもんに繋がるんだよ。』
店主の怒りは治らない様子だが遊女の言葉に口篭り始めて。
ぐいぐいと腕を引かれては奥の部屋へと連れられ。
「おい、さっきから何を言っているのか分からないが、」
『何を言ってるんだよ。其の瞳の色、間違える訳ないだろう。わざわざあちきに会いに来てくれたのかい?お前だったら金なんぞ払わなくて良いって言うのに真面目だねえ。』
「………誰と勘違いしているんだ。」
『…冗談はおよしよ霧里。…嗚呼、今は二人だ。此の呼び名は野暮だったね。会いたかったんだよ。紅。…それにしても何で若い男の姿なんだ。まぁ驚きはしないよ。狼になれる人間が居たってだけで驚きには尽きた。いやあ憎らしいね。あちきより若返りやがって。』
続け様に一人で話し続ける遊女は、花魁である事を感じさせない程に親密で。
そして花魁の口から呼ばれた名は、名前しか知らないが母親のもので。
59:
菊 露草 [×]
2023-03-14 23:24:10
( 相手の動きや花魁との関わりは知らず、夕刻になれば大名の娘である町娘を念のため家まで送り届ける。
そして偶然か否か、今宵は花街での依頼があり。
内容は簡単なもので遊郭が発注を掛けた薬を送り届けること。
遊郭で使う以上真っ当な薬ではないが身体に大きな害はない媚薬の類。
相手のことも気に掛かるし、町娘のことも知らぬ振りはできないため密売ついでに情報が得られればと。
依頼の時間になれば密売時の恰好をして花街へ向かう。
表通りからは外れて裏路地を進み、遊郭の裏口へと進めば何食わぬ顔で戸口を開けて。
すると待ち構えていた見張り役の男が紙に包まれた密売金を出してくるも、嫌にその紙包みが厚く。
「…額を間違えていないか?」
『自分用に欲しいんだ。どうせ多めに持ってきているんだろう?頼むよ。』
「仕方ないな…。」
(不快感はあるが金はきっちり出しているので、薬を多めに渡す。
そんな時、裏手で休んでいるのか遊女の声が聞こえてきて。
『聞いた?姉さまが男を部屋に連れ込んだ話。』
『その言い方やめなさいよ。違うわよ、何でも親しい古い友人だそうよ。』
『あんな姉さまの嬉しそうなお顔、なかなか見ないわよね。』
『殿方も素敵だったわ。銀髪できれいな紅い目をしてた。』
『あんな素敵な色男に私も指名されたいわ。』
(そんな会話が聞こえて、真っ先に浮かんだのは相手の姿。
銀髪に紅い瞳なんてそうそうない。
相手もこの遊郭に来たのだろうか。
花街で遊ぶ印象はないため依頼か情報収集だろうが、何故か胸奥がざわつき。
そのせいで見張りの男の話が耳に入っておらず。
『おい、聞いているのか。』
「すまない、なんの話だ?」
『だから最近、此処の遊女の隠し子に報奨金が掛けられてるって話だよ。金も其れなりに持ってるらしいし、あんたも何か情報があれば恵んでくれよ。』
「興味ないし、何も知らないな。」
(無表情に吐き捨て用は済んだとばかりに再び裏口から遊郭を出る。
何も知らない、と言ったが恐らく隠し子とは大名の娘のことなのだろう。
思いの外、裏の界隈で話が広まっているらしい。
ともすれば町娘の身の安全が危ぶまれる。
相手も動いているかもしれないが、何かあってからでは遅いため路地裏を進み町娘の暮らす家へ向かって。)
60:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-16 22:57:47
(帰宅後、複雑な気持ちのまま自室へと戻れば縁側に腰を下ろし煙管を燻らせる。
昼間、あの馴れ馴れしい花魁に自分は“紅”の息子である事を伝えた。
『こりゃ驚いた。しかしお前さん本当に紅に瓜二つだね。そして紅は何してるんだ。あの殿方と幸せに暮らしてんのかい?』
「殿方ってのは親父の事であってんのか知らねぇが俺を産んですぐ、その…死んじまったよ。だから悪いがどんなに母親の事を聞かれても話されても俺には分からないんだ。」
『…そんな、嘘だろ。やっと幸せになれたってのに。…あんまりじゃないか…。そんな、』
「それに、素敵な殿方って。再婚でもしたのかね、うちの母親は。言っちゃ悪いが俺の親父は最低な男だぜ。」
『…お前さんも苦労をしたんだね。紅はね、最初見世物小屋に売られて来たんだ。だけどあんまりに別嬪だったから見世物をさせられながらもここで男の相手をして。それでも苦言一つ溢さなかったのさ。…嗚呼、もう一度、もう一度きりで良いから顔を見たかったよ。…そうだ!折角お前さんに出会えたんだ。ここだけの話だがあちきにも娘がいるんだ。紅が孕んで水揚げされて行った頃に出来た子供だからきっとお前さんと同い年くらいだよ。多分友達の一人もいないんだ。良かったら友達になっておくれよ。』
(急に泣き腫らしたかと思えば、優しい表情で娘の話を始めるその様子に随分感情が豊かだなと。
しかし娘の事を語る声色は非常に優しく、自分にはいないが、母親という物の愛情とやらを深く感じた。
よくよくと見ればこの花魁、そんじょそこらの花魁よりも年齢は上かと思える。
しかし年齢すら感じさせない美しさを持っており、さすが高級店の一番を誇るだけあるなと。
(時刻は夜。あくまでも“大名に顔合わせさせる。”という依頼は受けた為、調べを付けてある大名の娘の自宅の扉を叩けば扉は開かないまま『誰?』と声が聞こえ。
口下手故に説明が出来ず、「あんたが御大名様の娘だと聞いて迎えに来た者だ。」と大失敗の自己紹介をする。
『………開ける訳無いじゃない。あんなの父親じゃないわ。』
「あんたの顔が見たいらしい。俺は顔合わせだけの依頼を受けたんだ。」
『へぇ、貴方は“そういう”仕事をしているのね。そんなの彼奴の口車に決まっているじゃない。どうせ貴方も私の行き末を知っているんでしょ?』
「あー…ったく、説明が面倒だな。もう一度言うが俺が受けた依頼は顔合わせだけだ。それ以上の事があるなら俺が対処する。」
ほんの少しだけ扉が開くも娘は自分を睨み、『嘘よ。貴方みたいな容姿の人信じられる訳無いじゃない。どうせ私をゆするか母と同じように花街に売り付けるつもりでしょ。知らない男の相手なんて御免よ。私にはもう心に決めた人がいるの!』と強い口調で言って来て。
「だから何度も言ってんだろうが。大名があんたに危害を加えそうになったら叩っ斬ってやるし、そもそもあんたの母親があんたを花街送りにする訳無いだろ。」
『それはどうかしらね。なんせ母は私を捨てた女ですもの。』
娘を狙う輩が何名もいる噂を知り、焦って手荒なやり方になってしまった事を心底後悔する。
最早気絶させてしまった方が早いんじゃないか?なんても思ったが大名の前で娘が気絶している状態はさすがに不味い。
項垂れて頭を悩ませていた所、『早く帰って頂戴。貴方みたいな不良と絡んでるなんて思われたくないの!』と。
「あのな、黙って聞いてりゃさっきから随分失礼な事言ってくれるじゃねえか。」
同い年だからだろうか。焦りもある事からなんだか若干カチンと来ては口論になりそうな雰囲気で。
61:
菊 露草 [×]
2023-03-17 23:32:57
_夜中に女一人の住まいに御前みたいな図体大きい男が訪ねてきたら警戒されるに決まってるだろ。
( 裏道を通って町娘の家へ向かえば先客が。
しかも最近良く見知った顔。
相手からの情報も欲しかったため一辺に済んで丁度良いと思い近づこうとしたが何やら様子が可笑しい。
暫し様子を窺っていたがいよいよ空気が怪しくなってきた為、相手の背後から半分故意に気配を消してしれっと横入りして。
「悪い、盗み聞きする気はなかったんだが声が聞こえてきてな。御前が受けた“依頼”もだいたいわかったよ。…千代(チヨ)さん、この姿では初めてだったね。ちょっと君を狙う良くない話を聞いて心配で来てみたんだ。此奴はこんな見て呉れだけど子供に優しいし意外と律儀な男だ。信用はしていいと思う。大名のところへ行くなら俺も隠れて付いていくつもりだし。」
( 相手の横に立ち口元を覆っていた布を下ろして顔を晒せば戸惑う町娘を安心させるため名前を呼びいつものように双眸を緩める。
町娘には己が“そういう”界隈にあるのは伝えていたためか割りとあっさり受け入れられ。
そして相手の見て呉れが不良だと思ったことはないものの、揶揄い含めてぽんぽんと肩を叩いて。
「千代さんの母親のことは俺も良く知らないけどこの男が何か知ってそうだし話だけでも聞いてみたらどうかな。と…此処で話すのも目立つから戸口迄でいいから入れてくれる?」
( 時間はないだろうが町娘が納得しないまま大名の元へ連れていくよりはいいだろうと提案し、町娘が己と相手の顔を見比べ渋々だが首を立てに振り了承したとき__
『おー、もう俺たちより先に情報聞きつけてきた奴らがいるじゃねぇか。』
『悪いが報奨金は俺たちのものだぜ。痛い目見たくなかったら其処をどいたどいた。』
( 暗い夜道に響く男たち声。
気持ちのいい、絵に描いたような不逞浪士。
大方、報奨金の噂を聞きつけた野次馬の類だろうが、しっかり刀を向けてきていて。
『っておいおい、其処の大きいのはちょっと前に見世物屋をざわつかせて男じゃないか。此奴も手に入れられれば、もっと金になるぞ。』
( わいわい騒ぐ男達に少々呆れ気味の視線を送りつつ、相手を己の背後にグイッと押しやって「あまり騒ぎになって人の目に付くと厄介だ。御前は千代さんと家の中に。此処はどうにかする。話が付けば裏手口からでも大名の元へ行くといい。」
( 視線は男達に向けたまま鞘に手を掛け、身勝手な策の押し付けになるが相手にだけ聞こえる声量で告げて。)
62:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-21 20:55:30
(相手が登場し事を収めてくれたのも束の間、現れた不定浪士の存在に身構えるも相手の耳打ちに僅かに眉を顰める。
己は相手の能力は知らない為、其の役回りは自分が請け負うと言いたかった物の娘の存在の事を考えれば迅速に行動するのが得策。
「怪我するなよ。」
己自身何でこんな言葉を言ったのかは理解出来なかったが、あまりに自然に相手の身を案ずる言葉が出た。
其れは最早“言い慣れている”と言う感覚に近い感覚で。
娘を肩に抱え相手に背を向け一目散に走り出すも娘は相手の身が心配な様で喚いており。
「五月蝿ぇな。こんな時間に騒いでたら見付けて下さいって言ってる様なもんじゃねぇか!」
『だって先生が!嫌よ!下ろして!私戻るわ!』
「あんたが行った所で足手纏いでしかないんだよ。分かったらさっさと依頼を完遂させろ。俺は彼奴(相手)の敵じゃない。」
自分の言葉に多少の緊張が解けたのか僅かに大人しくなった娘は『それにしても貴方。女子を肩に抱えて運ぶなんて本当に野蛮ね。先生だったらきっとお姫様みたいに横抱きにしてくれたわ。』と悪態付いて。
(城に辿り着き従者に内容を告げればあっさり大名の元へと通される。
大名の横には娘の母親である花魁が大名の盃に酒を注いでおり、己と娘の存在を目にした途端僅かに目を見開く。
『御大名様、嫌だわ。あちきに飽きて若い女子に目移りでありんすか?』
僅かに上擦った声で花魁は大名に擦り寄るも大名は花魁の肩を抱き寄せたまま下卑た笑みを浮かべており。
『何を言っているんだ。千早(チハヤ)。あれは御前の娘だろう。…そして儂の娘。ほう、母親に似て美しいな。こっちに来い。』
『お、御大名様。あちきに娘なんていませんわ。』
『嘘を吐くな。御前もよく見てみろ。瓜二つじゃないか。』
娘は初めて見た父親の存在と、幼い頃の記憶しかない母親に娘である事を否定された事からわなわなと震えており其の足を一歩踏み出した所で娘の腕を掴む。
「さて。顔合わせは済んだか?」
無表情のまま大名に問い掛ければ大名は片眉を上げ不服そうに己を見詰めて来て。
『何。家族水入らずの時間が欲しいだけさ。御前はもう下がれ。』
「そうは行かねぇよ。俺はあんたの娘の護衛も請け負っている。このまま街に帰すまでが任務だ。』
怒りに身を任せ立ち上がる大名から娘を庇うように前に立つも娘は己を押し退け険しい表情のまま大名の前に立ちはだかる。
『家族水入らず?笑わせないで。私には父も母もいないわ!…何なのよ。二人揃って娘を攫わせて…。馬鹿にするのも大概にして!』
『小娘が。頭に乗りおって…、』
花魁は酷く辛そうな表情のまま大名を落ち着かせようとしていた所、大名の合図一つで部屋の外で待機していた従者達が己を取り囲む。
やはり一筋縄では行かなかったかと頭を抱えては、刀を抜き、構え、「学習能力が無ぇな。前回の俺を忘れたか?恐ろしい化物から尻尾巻いて逃げたのは誰だったっけな。」と従者達を挑発し。
従者達を脅すように大名に刀を向けた所、動き出す従者達に紛れ花魁は娘の腕を掴み悲痛な表情のまま『逃げて!』と叫ぶも娘は腕を振り払い『触らないで!』と。
このままじゃ埒が明かない。
花魁が娘を庇い続けてしまえば花魁自身が処罰の対象になる事も容易に想像がつく。
きっと相手も此方へ向かっている筈。
ならば取り敢えず少し強引なやり方にはなるが黙らせるのが得策かと。
娘を再び強引に肩に抱えれば片手の刀は離さずに「手を出してみろ。大事なお嬢様も傷物になるぜ。」と。
そのまま大名に向き直り「さて交渉の時間にしよう。娘との顔合わせは済んだ筈だ。其れ以上の用事があるならさっさと話してくれ。」と言い放ち。
63:
菊 露草 [×]
2023-03-23 01:26:16
_全く不本意だが便利だな…。
( 相手が娘を抱えて颯爽とした身のこなしで去った後、当然男達は激昂しその後を追おうとした。
然し、己の能力により報奨金のことは偽りだと思い込みお家に帰って貰ったところ。
代償があり欠陥があるとはいえ世を統べるのに便利過ぎる能力。
便利過ぎるが故に一人の男を狂わせた。
_『御前のせいで__母さんは死んだんだぞ!』
_『何故躊躇う。金が必要なんだよ!!』
脳裏に過る一度消えた過去の記憶。
己と同じ藍色の髪に目元が良く似た男が疲弊した顔で怒号を飛ばす。
少し感傷的になり嘲笑と共に一人ごちれば緩く首を横に振って拳をそっと握る。
相手が去り際に残した、たった一言。
“怪我をするな”と。
その一言で何故か心が震え、鼓舞させた。
今更だが依頼でもなく金にもならない案件に首を突っ込みすぎではと思うも本当に今更過ぎるため、相手に加勢すべく夜の街を走って。
( 一方大名の屋敷、大名は相手の機転を働かせた行動に顔を赤くして息を荒げており。
『御前、何様だ!交渉も何も儂の娘なのだから自由に扱って何が悪い。娘を此方に渡せ。何、悪いようにはしない。部屋は今住んでいる家の何十倍の広さ、金にだって困らない。身の回りの世話も全部使いの者がやってくれる。』
『そんなのいらない!私は今の暮らしがいいの!』
『その頑固な所、母親にそっくりだな。千早、この小娘が実の娘だと認めて二人共儂の元に来れば何も言うことはない。御前もいつまでも鳥籠の中では窮屈だろう。』
( 大名は下衆な笑みを浮かべて花魁と娘を交互に見る。
勿論傍に置くだけなんてことはなく、二人の美しさや人脈を利用するだけ利用するつもり。
大名にとって二人は道具でしかなく。
と、張り詰めた空気の中、静かに開く襖。
入ってきたのは従者で何を隠そう此の従者の正体は己である。
宣言通り隠れて屋敷の中へ侵入し、途中からではあるが大方会話を聞いていた。
大名との話し合いよりも一時花魁と娘を話し合わせたほうが良策に思え、一旦その場を離れ裏手口にいた見張り役を気絶させて着物を拝借し、髪は布で隠して軽く変装した次第。
顔は知れている為、直ぐ気付かれる危険性はあるが相手も居るし何とかなるだろうと。
『なんだこんな時に!この状況がわからんのか!』
「ご尤もで御座います。立ち入っているところ誠に申し訳ございません。ですが、大切なご来客が、」
『なんだと?こんな時間に無礼な!大切なのは今だ。こんな時に客人を通すなど御前もどうかしている!』
( 苛立つ大名に臆せず傍によればそっと耳打ちを。
その客人は大名よりも偉い地位の名前。
当然此の場凌ぎの嘘のためこの後は適当に話を合わせとんずらするつもり。
「…ですから今は千早様にもお帰りになって頂いたほうがいいかと、」
( 駆虫を噛み潰したような顔をする大名、然し自身よりも地位が高い客人を放っておく訳にはいかないだろう。
変装は簡易的なもの、相手にはバレているだろうと踏んでさっさと娘と花魁と共に此の場から離れるよう目配せして。 )
64:
霧ヶ崎 爛 [×]
2023-03-27 22:35:08
(従者に扮した相手に気付いたのは相手が部屋に入って直ぐの事。
最早嗅ぎ慣れた相手の匂いに視線だけを其方にやり小さく頷く、…がしかし、相手は一体どう此処を切り抜けるつもりなのか皆目見当も付かない。
兎にも角にも相手が作ってくれた隙を逃す訳には行かない。
花魁と娘を追い出すかの如く共に部屋を出ては花魁が困ったように己を見上げて来ては『御前さんには、驚かされてばっかりだね。』と。
花魁に案内され、屋敷から直通でもある通路を通り花街へと出れば娘を花魁に預け己は屋敷へと戻ろうと。
『待って。…先生は?』
「彼奴なら、大丈夫だ。今から迎えに行く。だからあんたは大人しく母親と、」
『私に母親なんていない!!!勝手に連れて来られて、…こんな場所に置いていくなんて本当に最低よ!!!』
喚く娘の腕を強く掴んだ花魁は瞳に涙を溜めながら厳しい表情で娘を見詰め、『大きな声を出すんじゃないよ。逃してくれたんだよ。もう分かってるだろ?』と諭すような口調で言う。
『御前が出来て、どうしたら良いか分からなかった。ずっと放って置いたんだ。恨まれても仕方ない。でも、この守り方しか出来なかったんだ。』
花魁の言葉の語尾に力が籠っており、娘は静かに黙っては唇を噛み締めたまま静かに涙を溢す。
『さあ行ってくれ。足止めして悪かったよ。“娘”が惚れ込んだ男の顔、見てみたいんだ。…ちゃんと無事に連れて来ておくれよ。』
『ちょっと!!!』
『今更何だい。御前の反応見てたら“先生”とやらが御前の想い人だなんてあっさり分かったよ。さあ行こう千代。まずは身を隠さないと。………爛、ゆっくりで良いから帰って来て。店で待ってる。』
(優しく微笑む花魁の表情は穏やかな物で、花魁に手を引かれる娘にももう抵抗の様子は無く。
走り去っていく二人を見送ってはさっさと今来た道を戻り。
(自分が去って直ぐの事、一向に現れない“客人”に痺れを切らした大名は従者二人を呼び付け相手を押さえ付けては顔の布を強引に剥ぎ取り、其の正体に目を見開く。
しかし大名からすれば相手の存在は疎ましいものではなく、ふ、と息をつき先ほどの嫌らしい笑みを浮かべれば相手の頬を撫でる。
『誰かと思えば。…まぁ良い。客人は御前のはったりだろう。そんなに俺があの女どもと馴れ合っているんが嫌だったのか。』
清々しいまでの勘違いをひけらかし相手の正面に腰を下ろすも、相手の解放とまでは許さず従者は相手を抑え付けたままで。
『良い良い。御前の気持ちは分かってる。交換条件にしよう。御前が大人しく俺の元に来ればあの女どもには今後一切手出しはしない。花魁も所詮もう年増女よ。御前が望むのなら花魁から金を巻き上げるのもしないさ。俺とあの女に接点があるのは嫌だろう。』
相手の気持ちが完全に自分の物になってない事を知ってか知らずか、大名は何とも都合の良い条件ばかり提示して来て。
(其の頃、漸く部屋まで辿り着き内部の様子を確認していた己は大名の其の言葉一つ一つに全身の血が逆流したかの様な感覚を覚え襖に手を掛ける。
しかし、なぜこんな感覚になるんだと疑問を感じては襖に掛けた手をぴくりと止めて。
よく分からない、が、相手に馴れ馴れしく触れている其の行為が酷く許せない。
相手の能力に関して己は全く知らない。
…が故に、僅かに緩んだ従者の腕から解放された相手の細腕が大名に伸ばされて行く瞬間が目に入っては、相手が大名の条件を受け入れた物だと思い音を立てて襖を開けて。
『…御前は、』
大名の言葉など耳に入らず、思考もままならないまま、ただ“嫌だ”という感情に支配されては呼吸すら整えない状態でゆっくりと刀を抜いて。
65:
菊 露草 [×]
2023-03-28 23:18:27
( 頬に触れる他人の体温、低俗な交換条件、全てが不愉快で表情が歪みそうになるのを堪える。
いっそ、ほんの少しだけ条件を飲んでやろうと思った。
其れで事が収まるのなら。然し、脳裏に過ったのは何故か相手の顔で、相手以外に触れられることに腹の奥底から激しい嫌悪感を覚える。
可笑しな話だ。相手にだってそう触れられたこと等ないのに。
___!?
( 此方から触れるのは不本意だが致し方ない。
相手が戻ってきてくれているなど露知らず、条件に乗ってやるフリをして大名の頬に触れ能力を解放しようとしたまさに其の瞬間、襖が開け放たれ現れた相手に目を見開く。
刀を抜く姿は美しく、怒りに燃える深紅の瞳に惹き込まれる。
己の為に戻ってきてくれたのではと場違いにも期待して震える心。
然し自惚れている場合ではなく、従者たちは相手を取り押さえようと刀を抜き、大名は声を荒らげて
『御前、もう護衛の任は済んだはずだろう!何故戻ってきた!』
( 品位の欠片もなく吠える大名、従者たちも今にも刀を振るわんとしておりそうなれば何かと面倒。
相手の目の前で能力を解放するのは躊躇いがあった。
でもこんな下衆の為に相手の手を汚させたくない。
一瞬の間の葛藤の元、大名に触れたままの手に意識を持っていき能力を解放する。
“ 花魁とその娘には今度一切手を出さず関わりを持たないこと。交換条件は己と偶に酒を飲み交わす。”
と契約を交わした記憶を改竄する。
流石に無条件では不満が残るだろうし、ある程度関わりを残したほうが大名の動向も探れて視察にもなる。
酒の相手くらいならと妥協した次第。
大名はぴくりと身体を強張らせぼーっとする。
「そういうことだから、次会うまでに良い酒を用意して待っててくれ。で、この手はなし。今日は疲れたからお暇させて貰うよ。」
『…ぐ、解せないが仕方ない、か。…だが何故…。いつのまに、儂は…』
己の頬に触れる手を退けると納得いかない様子の大名と困惑気味の従者たちを無視して立ち上がる。
着物の裾を軽く払うと相手に近づいていき刀を持っていないほうの手を取り「ほら行くぞ。」とほぼ強引に手を引き屋敷を出て。
( 屋敷を出て冷たい風の吹く夜道を手を引いたまま暫く歩く。
人気の少ない路地へと回れば漸く足を止めて相手と向き合って。
正直、相手に何か悟られてはいないかと畏れていたが平静を装い。
「別に戻ってこなくても良かったのにな。…心配して戻ってきてくれたのか?」
( 冗談っぽい口振りで小さく笑みを浮かべるも、何となく気まずく咳払いをして。
「あの大名が今後あの二人に関わることはないはずだ。御前が上手く逃してくれたから事が運べた。あの二人の様子はどうだった?親子でちゃんと話し合いできそうだったか?千……、」
( 花魁とその娘、二人の様子を気にして問いかけ娘の名前を口にしようとし、はっとする。
名前が、出て来ない。“千代さん”と娘の名前は何度も口にしているし、ど忘れするなんてことは通常はあり得ない。だが、一瞬浮かんだ名前が霧状になって脳内で消えた。
帳簿には名前が記してある。然し相手の前故に直ぐには見られない。
微かに狼狽えて視線を泳がせた後「…あの子、いつも何処か寂しそうにしてたから気になってたんだ。上手く話し合えるといいけど。」と誤魔化して眉尻を下げ下手くそに微笑み。)
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