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Petunia 〆/852


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自分のトピックを作る
121: ギデオン・ノース [×]
2022-07-28 03:24:30




(頬を真っ赤にした相手の必死な抗議に小さく笑い、妙な気を利かせた少年のませた言動にまた笑い。自覚こそなかったものの、そのときのギデオンはたしかに、表情豊かに寛いでいた。ヴィヴィアンとふたりでいるときの彼を知らぬ者が目撃すれば、いつも顔色の変化に乏しいあの男にいったい何が……!? とさぞや目を丸くすることだろう。──そうして連れ立って歩く道中、相手が教えてくれたのは、なんとも困った苦労話で。見当違いの非難というのは、救護職も担う冒険者にはしばしば付き物の辛酸である。しかし、慣れねばならぬ種類のそれとはまた違うはずなのだ。斜め後ろを歩く相手を時折気遣わしげに見やりながら低い相槌を打っていたが、最後に落とされた呟きには、ふと一瞬遠い目をして。……バルガスがヴィヴィアンに惚れている、というのは、ギルド内では有名な話だ。そんな彼が、意中の娘に不甲斐ない様を想像されているのは、同じ男として少し同情したというか、気の毒に感じられ。)

……あいつは軟な男じゃない。明日にはまた、いつもの獅子奮迅ぶりを見せつけてくれるだろうさ。

(そう唸り、彼の面目にほんのささやかな力添えを。とはいえ言葉に嘘はない、ギデオン自身も彼を普段から評価しているのは真実だ。己の知るバルガスという男は、兎角熱い好青年である。肉体だけでなく思想や言動にも筋肉質なきらいがあり、直情的過ぎる一面も目立つことには目立つのだが、真面目な働き者で、情に厚く、周囲をよく思いやる。先輩にも後輩にも好かれる彼の人望は、いずれ未来のカレトヴルッフを支える柱のひとつになるだろう。……奴とヴィヴィアンにはいずれ内密に知らされるだろうな、とうっすら確信しながら、ギデオンはあることを思い出す。今日の事件の事後調査にて、とある疑惑が浮上していた。曰く、この集団強盗事件はなんらかの陽動なのではないか。年に一度の建国祭という、明らかに強力な運営が目を光らせている催事で、白昼堂々及ぶにしては酷く無謀で粗末な犯行。これには何らかの裏があるのではないか、別の深刻な犯罪の隠れ蓑なのではないか、というのが、対策本部に集った警視やベテラン冒険者たちの総意だ。このため今も、魔力体力に満ち溢れた元気いっぱいな冒険者が多数駆り出され、キングストン市内の調査と厳重警備に当たっている。表向きはあくまでも、今日の事件を受けての念のための警備増強。しかしごく少数には、真の狙いが知らされたことだろう。そしてそれは、今は非番となっているヴィヴィアンも、じきに同様となるはずで。シルクタウンの帰り、指揮を執るようなクエストを多数こなせというギデオンの助言を素直に受け取った彼女は、キングストン周辺のモンスター狩りで巧みな采配を振ったと聞いている。その時に伸ばした能力は、こうして今日実際に、現場で見事役立った。自身も未だ若輩の部類でありながら、同世代や後輩の労務管理によく気が回るのは、上に立つ者の才があるからに他ならない。資質のある人間にはどんどんふさわしい場を与えて伸ばす、というのがカレトヴルッフの方針──案外、彼女が自分と同じ場に登ってくるまでそう時間はかからないかもな、なんて思いながら、それを楽しみにしている自分がいることに不意に気づいて。……そうこうするうちに、人混みが僅かに疎になる。どうやら中央広場の手前、特に屋台があるわけでもない暗い小道に来ていたようだ。周囲の風景でふとある伝手を思い出すと、「こっちだ」と案内しながら大きな建物の影に入って。──それは築200年の厳かな時計台。歴史的景観を重んじるため、こういった派手な祭りの際には、周囲に出店が立つこともなければ、一般の立ち入りも完全に禁止となっている。だがあくまでも“一般”の話、裏手の出入り口で警備をしている古株の爺さんに顔が利くならどうということはない。ギデオンが暫くぶりに若い女性を連れ歩いているのを見かけ、真っ白な髪の老人は興味深そうにふさふさの眉を上げたが、何も言わずに裏手の扉を開けてくれた。「暗いから足元に気をつけろ」と声をかけつつ、相手と共に鉄の階段を登ろうか。他にも同様にお忍びで入り込んだ先客はいるだろうが──時計盤の上にある柵に囲まれた展望台は、キングストン中の夜空を眺められることだろう。)





122: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-07-28 10:51:48




そうだったら、いいですよね。

( 狭いテント内から上がる熱い呻き声。上がった怒声に振り返れば、こんな私が人の役にたてることが嬉しいんです、と控えめに笑っていたマリアが、顔を青くして目に涙をため、鋭い嫌味が聞こえた方へ視線を向ければ、カッコつけの癖に毎日の鍛錬を絶対に欠かさないセオドアが、指先が白くなる程強く拳を握っている。静かな顔をして座っているリザの視線も、真っ先に恨みをぶつけられる受付では、心做しかいつもの鋭さが欠けていて。雪のように白い肌を真っ赤に染めているバルガスの腕を掴み宥めながら、ビビだって大切な仲間たちを罵倒する者達をテントから放り出してやりたい気持ちと戦っていた。治療においては自身の方が特性が高いとはいえ、ここにいるのがギデオンさんだったなら──と不毛な想像を何度も繰り返した相手に、( 真意は男同士の同情とはいえ ) 己に都合の良い言葉を貰ってしまえば、そう信じ込みたくなってしまう甘い己を戒めるように小さく微笑んで。 )

うわぁ……、……すご、い。
すっごく綺麗……。私、こんな素敵な場所初めてです。

( 今日の事件の裏で起きようとしている、何か大きく嫌な事態に今は気付かぬまま、祭りの喧騒に恍惚と目を細め、大好きな腕に引かれるまま歩を進めていれば、もうずっと遠くから見えてはいたが、風景の一部でしか無かった時計台を見上げて、目を大きく見開き。ギデオンと老人の間合いを見れば、入っていいんですか?なんて無粋な質問は意味が無いことくらいビビでもわかる。扉を抑えてくれた老人に柔らかい笑みを向けて小さな会釈をして。ギデオンの声がけに「ありがとうございます」とその袖をしっかりと掴み直せば、暗い階段をぐるぐると無言でのぼり。途中で現れた巨大な時計の裏側、その精巧な歯車や機械の噛み合い動く様に見とれていたから、バディが開けてくれた展望台の扉から飛びこんできた風景に、一瞬言葉を失って。天の川のかかる満点の星空に、下は色とりどりの魔法の光が大きな通りや、広場の形を浮かび上がらせ。その奥遠くにはキングストンの市民が毎日見上げる白亜の城が、今日ばかりは愉快な色の光に照らされている。正しく宝石箱をひっくり返したような光景に、走るのも忘れたかのようにゆっくりと手摺まで歩を進め、爽やかな夜風に髪を抑えて、感動のあまり表情時抜け落ちたあどけない顔でギデオンを振り返り。きっとそのまま、ビビが気まずそうに言葉を待っていれば、ギデオンは約束を果たしてくれたに違いない。しかし、バディの話したくないことを話させるのであれば、せめて誠実さだけは失わずにいようと、一度閉じて開いた目に、真っ直ぐな光を灯すと覚悟した表情で口を開き。 )

……、ギデオンさん、ギデオンさんがあの時私を振ったのは、私がシェリーの娘だから、ですか。




123: ギデオン・ノース [×]
2022-07-28 16:19:07




(辿り着いた薄暗いそこには、いくつかの長椅子や持ち込まれたらしいささやかな食卓のほか、ごくまばらな人影があるのみ。組み合わせは夫婦や恋仲の男女に限らず、お偉方と思しき微笑ましい家族連れや、密談をしに来たらしい身なりの整った男同士も見受けられた。しかしそのだれもが信頼できる身元であることは、あの老人……かつてはギルバート同様、大魔法使いと呼ばれた人物が、彼なりの判断基準に基づいて通したことから明らかだ。幸い、知り合いの姿は見当たらない。地上とは打って変わって物静か、加えて他所への興味を互いに差し向けない心地良い空間に、ギデオンもまたゆっくりと足を踏み入れて。──ちらちらと輝く星空の下、カラフルな魔法の明かりを背に振り返るヴィヴィアンの顔は、そのまっさらな幼さでそれらのどれより輝いて見える。いつかの船上の眩い光景、あれを目にした時と同じような感慨が胸に湧くのを覚えながら隣までやってくれば。それまで景色に感激していた彼女がふっと真面目な顔になり、数時間前と同じ疑問を口にしたのが左耳に届き。それまでの相手に倣い、手摺にもたれて賑やかな地上に視線を落としていたギデオンの目が、何もない中空を見やる。相手もそれなりに覚悟してここに来たことは、その声色から伝わっていた。どこへともなく目を伏せる──きちんと、話すべきだろう。)

……そうだ。シェリーの……師匠の、娘だから。おまえを大事にしたかった。

(好意を無碍にしておいて、それが相手を大事にすることに繋がるなどと。おかしなことを口走っているのは、自分でもわかっている。だが、どうすれば自分の思いが伝わるだろうか。選ぶ言葉に迷いながら、抱えていた紙袋を開け、水滴の浮いた冷たいビール瓶を取り出し。食事の入った紙袋は一旦足元に置くと、小瓶の一本を相手に渡し、己もゆるりと手に取って。既に屋台で開封されている瓶の口を唇のそばに合わせながら、ぽつり、ぽつりと思い出話を語りだす。どこを見るわけでもない青い目に浮かぶのは、過去の──在りし日の、彼女の姿。どんなに月日が経とうとも、あの真夏の太陽のような笑顔を忘れたことはなかった。弟子のギデオンを可愛がる親愛に満ちたそれも、母親としての穏やかな慈愛が宿るようになったそれも、ギデオンの胸には今もしっかりと残っている。だからこそ、それを裏切るわけにはいかないのだと。目を合わせない横顔は、罪の色に暗く翳って。)

おまえのことは、生まれる前から知ってる。……シェリーは、いつも嬉しそうに話してたよ。授かったのが娘だとわかってから、こんな服を着せてやりたい、一緒にこんなお菓子を作りたいと言って。おまえのことを心から愛してた。
それを知ってたから、シェリーの死を悲しみこそすれ……あのひとが命懸けで産んだ宝を責める気になんか、なるはずがない。……立派に育ったその子の人生を、俺自身で歪めるなんて、そんなのはもってのほかだ。



(/※酒が入っているのは蓋つきの紙コップ、としていましたが、風情と容量を考えて小さめの瓶へと変更いたしました。ご了承いただければ幸いです……!/蹴り可)






124: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-07-29 11:28:19



……ッ、

( 伏せられた目を真っ直ぐに見つめ、ギデオンの言葉を待つ間、漠然とした不安や緊張から、自然と手摺を掴む手に力が篭もる。数秒にも満たない、されどこれ以上なく長く感じられた沈黙の後、バディから発された肯定と、矛盾した発言に下唇を噛めば、指先に剥がれた金属の塗装が刺さる痛みが走る。昨晩からの怒りが再燃するのを落ち着けるように、小さく息を吐きながら手摺を離し、両の手のひらを軽く擦り合わせれば、パラパラと宝石箱の中に落ちていく塗装の欠片を見つめるように俯く。受け取ったビール瓶の水滴が擦り傷に少しだけ滲みて、口に寄せたそれはやはり苦くて美味しくなかった。自分の知らない2人の思い出話に、どちらに向けたものか分からない嫉妬が腹の底に渦巻いて、自分の汚さが、子供っぽさが嫌になる。大好きなギデオンにとって、大切で綺麗な思い出を、良い気持ちで聞けない自分が嫌い──しかし、言葉を選んだ様子のギデオンに宝とまで言われて初めて、ギデオンが母の事で自分を恨んでなどいなかったのだと、この優しい人がそんなこと思うわけなどないのだと、ギデオンに父に母に恨まれている、そう思いたかったのは自分自身だと気がついて。そうでなければ母が報われないとさえ信じ込んでいた。そうして初めて、昼間ヴィヴィアンがシェリーを殺したと言った瞬間のギデオンの狼狽した顔の意味を知り、自分のコンプレックスと罪悪感に引っ張られ、自分勝手に傷つけてしまった相手にハッと息を飲んで顔を上げ。その暗く沈んだ顔色に思わず両手を伸ばし、約束など忘れてその頬へ触れると、最愛の人を貶された怒りをはっきりと表して。 )

歪めるってなんですか……!ギデオンさんといることが、不幸みたいな言い方しないで下さい!
……私、ギデオンさんが話してくれなかったら、ずっとママのこと勘違いしたままでした。ずっと、私は母から恨まれてるって、母がどんな人かも知ろうとしなかった。いつだって、ギデオンさんには助けられてばかりで……こんなに大好きで、幸せで、好きだって言えないだけで、すごく辛いんです。
──愛してます、ギデオンさん。
ギデオンさんの師匠は、こんなに貴方の事が大好きな私のこと、適当に突き放して喜ぶ人なんですか?

( 背けられたギデオンの顔を無理やり正面から見つめ、理不尽とさえ言える愛をぶつける様子は正しくいつものビビで。周りに気を使って少し声を落とせば、表情こそ珍しい怒りに歪めているものの、淡々と言い聞かせるように熱烈な愛を口にすれば、流石に一瞬覚悟するように瞳を伏せ、ゆっくりと瞼を持ち上げれば、シルクタウンぶり2度目の告白を。続けた言葉は嫌味ではなく純粋な疑問、決定的な答えを恐れてシェリーのことを周りに聞けなかったヴィヴィアンとはもう違う。悪酔いの果てとは違う真剣な告白に、いつか来るだろう関係の結末を覚悟して、睫毛を小さく震わせれば、覚悟の決まった意志の強い瞳を細める笑みはやはりシェリーとよく似ていた。 )

"師匠の娘"じゃなくて、私を見てください。
それで、私のことがどうしても好きになれないってギデオンさんが思った時は、ちゃんと諦めるから、




125: ギデオン・ノース [×]
2022-07-29 14:31:11




(ことり、と何か置いた音がしたかと思えば、横から白い手が伸びてきて、ギデオンの顔を優しく包み込むように捕まえる。そちらを向かされたそのままにようやく相手と顔を合わせれば、どこまでもまっすぐで温かな、相手の怒りの表情に困惑を。しかし、艶やかな唇が懸命な言葉を紡ぎ、一拍ののちに真剣な愛を告白すれば、曖昧に揺れていた目を大きく瞠り。……そして、続く問いかけと、吹っ切れたような明るい笑みを浮かべての懇願に、今度は一転、どこか痛みをこらえるような苦々しい色を浮かべて。)

……そんな風、には、

(反射的に開いた口がごく曖昧に否定しかけたのは、“どうしても好きになれないと思うなら”という部分だった。そんなことはあり得ない。彼女を少しも好くことができないなら、今夜こうして真剣に向き合う機会を作ろうとすらしなかっただろう。……ヴィヴィアンのことを、なんとも思っていないわけではないのだ。むしろ、憎からず思うからこそ、一歩間違えればより深い情を抱き得る危機感があるからこそ、苦悩が付きまとうわけで。自分とて相手にある程度の好意を持っている、だから彼女の一方通行を理由に退けることなどできない。そして、“尊敬するシェリーの娘だから”という考えを抜き去ったところで、自分の人生にとうといだれかを巻き込めない、という自制心と諦念がまるきりなくなるわけでもない──それだけは、決して譲れない。手にしていた瓶を手摺に置き、きちんと相手に向き直ると、彼女のほうにわずかに身を傾げ、頭を寄せる。せめてもの誠意として、事情の説明を……懺悔をするためだった。目は合わせない、合わせれない。まっすぐな相手を恐れるように、足元に落としたままだ。端から見ればそれは、歳も経験も充分に重ねた男とまだうら若い娘が向き合っている図のはずなのに、ギデオンのほうだけがやけに弱々しく、情けなく映ることだろう。だがそれほどに、相手が優しく差し伸べてくれる手を今は決して掴めぬほどに、ギデオンの患う罪悪感もまた、奈落の如く深いもので。一度、心中の何かを飲み干すように目を閉じながら息を詰めると、視線を落としたまま再び緩やかに開け。小さな声を震わせながら吐きだしたのは、しかし裏を返せば、ヴィヴィアンと共にあるのは己にとって幸せになり得るという、無自覚な本音だった。)

おまえ自身を、ちゃんと見ていなかったのは……すまなかった。……だが、それでも……おまえじゃなく、俺のほうに問題がありすぎるんだ。
──何人もの、人生を……永遠に……壊してしまったことがある。今もその償いの最中で……いつ終わるかも、償いきれるかもわからない。
そんな人間の人生に、だれだって巻き込むわけにいかない。他人の人生を奪ったままで、幸せを得るなんてことは……許せないんだ。自分自身が。






126: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-07-30 00:38:18




( もう見慣れてしまった、何故ビビがこんなにギデオンを愛しているのか、一切理解できないと言いたげな困惑の表情。こんな簡単なことも分からないなんて、仕方ない人だなあ──と眉を下げれば、親指で相手の頬をそっと撫で。ギデオンの曖昧な否定と苦々しい表情を、"適当に突き放して喜ぶ人なんですか"という問いにかかるものだと解釈すれば、そうでしょとばかりに、どこか得意気な表情で頷く。──ガラスの瓶と金属の手摺がぶつかる音、小さく見開いた瞳に映るのは、此方に傾いだ上半身と合わない視線、消え入りそうな小さく震える声。そんなシルクタウンで恋に落ちた凛々しい姿とは正反対の姿を見ても尚、最早相手に対する気持ちは揺らがないものとなっていた。ずっと背中を追ってきた相手に、言外に自分といるのが幸せだとさえ言われてしまえば、純粋な嬉しさに目を細めて、相手の首に手をまわす。そんなことを言われて、素直に諦められるほどできた人間じゃない。 )

──そっか、そうなんですね。……話してくれてありがとうございます。

( 手の中にあった命が、自分の指から零れ落ちていく。その絶望はヒーラーであるビビもよく知っている。だからこそ深い事情も知らぬまま、貴方は悪くないなんて言葉が、如何に無意味で軽率かは分かっていて。相手の言葉を否定も肯定もせず、指通りの良い金髪を掻い潜り、形の良い頭を撫でる手つきは、ぐずる子供にそうするような優しいもの。こうしていると、もう何年も隣にいるような気さえしてくるが、シルクタウンからまだたった3ヶ月、ギデオン自身が許せないと言うならば、今のビビにできることはないだろう。それでも心からギデオンを幸せを思っている、その気持ちが伝わるよう祈って腕に力を込めると、抵抗されなければそのままギデオンを抱きしめて。 )

ねえ、ギデオンさん。その償いが終わるまで、待っててもいいですか?
……ダメって言われても、もうギデオンさんとじゃなきゃダメだから、手遅れなんです。
責任取って、ちゃんと……私とじゃなくてもいいから、幸せになってください。




127: ギデオン・ノース [×]
2022-07-30 04:44:27




(言葉少なな自覚は、あった。ここできちんと話さなければ、だがやはり知られたくない──そんな葛藤がありありと滲む、自分勝手で独り善がりな言い回しばかりだったことだろう。だからギデオンの説明は、非常にわかりづらいものだったはずで。更なる詳しい説明を追求されるのではないかと自業自得な恐れに陥り、しばらくの間押し黙っていたのだが。……相手の反応は、予想とは大きく異なった。するりと細腕を回してきたかと思えば、暗がりで蹲る子どもをあやすように、ギデオンの頭を緩く、優しく、愛しむように撫でただけ。ほんのわずかにしか打ち明けられないギデオンの拙い言葉に、穏やかな相槌を打っただけ。あまりに慈愛に満ちたそれらに、最初は唖然としていたのだが。やがてギデオンの表情は、どこか敗北の色を宿したような、彼女の温もりを黙って味わうだけのそれへと変わっていき。体から、余計な力が抜け落ちていくのを感じる。──努めて堅く閉ざしていたはずの何かが、急速に、ほどくように融かされていくのを感じる。それでいて、それを食い止める気にはならないところに、彼女に抱きつつある己の感情の正体を、ようやく自覚しはじめていた。だから相手が、ほんの少しだけヒールを浮かせて温かく抱きしめてきても、返すような反応こそしないが、拒むような身じろぎも何ひとつ行わず。ただされるがまま身を寄せ合い、互いの吐息さえ感じ取れるような距離感で、相手が募らせる言葉にそっと聞き入る。……責任も何も、自分なんぞに惚れたというのなら、それはヴィヴィアンの勝手だ、なんて、先ほどまでなら言えたかもしれないが。こんな風に彼女の腕に優しく囚われた状態では、とてもじゃないが、そんな暴言を吐く気になれない。だから代わりに、ゆっくりと目を閉じてから、彼女の小さな頭に自分の頭をかすかに寄せて。一度だけ、ごく小さな声を落とす。それは聞こえこそ投げやりなようでいて、確かに彼女の要望を受け入れるもので。)

…………。……おまえの、好きにしろ。

(──歴然とした歳の差、相手が敬愛する師の娘であること、そして何より……到底消えぬ、己の罪深い過去。そのすべてが原因で、彼女の想いには応えられない。応えてはいけないという考えは、依然、決して譲れない。しかしそれを承知して尚、ヴィヴィアンもまた、ギデオンを慕い続けることを、諦められないというのなら。……互いに相手のそれを認め、互いなりに受け入れるのが、きっとひとつの落としどころなのだろう。幸せになって、という言葉には、今はやはり何も返せないが──長年患ってきた自罰の意識は、そう簡単には拭い去れないものなのだが。自分とじゃなくてもいいから、という言葉に切実な願いを感じてしまえば、どんなに野暮なギデオンとて、頑固に否定したりはしない。相手がくれるあまりに多くの祝福を、ほんの少しだけ、受け取ろうという気になっていた。……そのまま、どれほどそうしていただろう。不意に耳に届いた特徴的な音に、ふとそちらを見上げると。いつの間に始まっていだのか、風流のある派手な破裂音を鳴らしながら、色とりどりの大輪の花火が夜空一面に咲き乱れていた。これを観に来たはずだというのに、どうやら完全にそっちのけになってしまっていたらしい。密着していた体をごく自然に離し、しばし夏の風物詩に見とれてから、正面に立つ相手に目を戻すと。曇りのなくなった凪いだ声音を聞かせながら、足元の紙袋を抱え上げ、空いたベンチのほうを緩やかな身振りで示して、すっかり忘れていた夕餉に誘い。)

……冷める前にこいつを食べよう。飲み食いしながら眺めるってのも、悪くない。





(/たびたび背後が失礼します。花火デート編もきりよいところに差し掛かってきたので、今後のご相談をしに参りました(今回、ギデオンの心情をいつにもましてみっちりじっくり描写させていただきましたが、互いに対する愛情が着実に深まっていく過程を彼とともに追うのがたまらなく楽しく、何度も何度も読み返しております。特に今回のビビの慈愛の深さと言ったらもう……! いつも素晴らしいロルや展開をくださり、本当にありがとうございます)。

主様の方で、花火デート編の最後をこんな風に締めたい、この話が明けたら次はこんなことをしたい、などなど、イメージしているものはありますでしょうか? 当方もいくつか先の展開のアイディアはあるのですが、いかんせん直近に向きそうなものがなく……! もしあれば、是非是非お聞かせいただけると幸いです。)






128: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-07-31 00:28:18



……、はい、覚悟しておいてくださいね。

( ──絶対に諦めてあげないから。相手の根負けしたような投げやりな言葉にくすくすと笑えば、最後の一言は口にせずとも、腕に込められた女性にしては逞しい力が、そのちょっとやそっとじゃ諦めないビビのしぶとさを表している。ギデオンはその大きな手を周りの人々には差し伸べておいて、自分は誰の手も借りずに1人で生きていこうとする人だ。選ばなくても良い辛い道を、彼を助けたい人間の手を振り払って1人で進んで行ってしまう。だから、そんな彼がすぐ隣の楽な道に気がついた時、其方へ突き飛ばしてあげるために。もし気づかずに茨の道を歩ききってしまっても、振り返った彼が一人ぼっちにならないように。1人くらい迷惑がられても、受け入れられなくても、執拗くついてくる人間がいたっていいだろう。相手が鍛えられたギデオンでなければ苦しく感じるだろう程に、痛いほどの愛を思い知らせるように、ぎゅう、と相手を抱き締めれば、夜空に大輪の華が弾ける音に、ビビもまた今日の目的を思い出し、そっと踵を地面に下ろした。 )

……!…………違うんです。
最近ずっとあまり食欲なかったんですよ。そしたらダイエットにも丁度いいし、別にいいかなって……
今日も昼のケバブサンドだけで……なんで急に、

( 回していた腕もそっと下ろし、数秒間程うっとりと空を彩る光を白い顔に反射させていれば、足元から上がった紙袋の擦れる音に、口でする前に腹の虫で返事を。こんなに豪勢な花火の、ほんの一瞬の間をついて出た音に、咄嗟に何に対するものかよく分からない否定を口にすれば、先程までの慈愛に満ちた穏やかな表情はどこへやら、後れ毛がふっくらと揺れる項まで血の色に染めると、口元を手の甲で覆って視線を逸らし。"健康的な"自身の胸元や太ももを見下ろせば、何が悲しくて惚れた男に目方の話をしているのか、と増える墓穴に今更涙目になって。 )


( / お世話になっております。程よいタイミングでのお声がけありがとうございます!(こちらこそギデオン様の揺らいでいく様子や、弱さの中に揺るがない誠実さに、ビビ共々心臓を鷲掴みされておりました。愛しさを掻き立てる心情描写、本当にありがとうございます。)

花火デート編の締め方については、これから大きな展開を起こすよりは、祭りの後片付けの仕事など囁かな『また明日』を約束するような、日常に戻っていくちょっぴり切ない、祭り最終日の雰囲気を楽しめればいいなと考えております。
今後については、黒い舘編の前に、ギデオン様の過去の女性と関わるような展開があっても良いかなあと。また若干時間軸が前後するのですが、以前仰ってたダブルベッド・デレる前 編もやってみたく……!今度こそ潜入先で夫婦漫才をすることになった2人も見てみたいです。ここ数回、ビビが強い展開が続いたので、演技と言えどギデオン様に自分の女扱いされてタジタジになればいいかと()

・箸休めの番外、ダブルベッド事件
・ギデオン様の過去の女性&夫婦漫才
・黒い舘編

の順番ですとスムーズでしょうか。個人的にビビはギデオンの過去の交友関係の派手さに、うっすら気づいているつもりでロルを回しているのですが、ギデオン様としては矢張り知られたくないものでしょうか…… )




129: ギデオン・ノース [×]
2022-07-31 04:35:28




(しっかりと、逃がすまいとするかのように強められた抱擁は、彼女らしい宣戦布告にも感じられ。それならば甘んじて受け入れようと、目を閉じたまま、それを味わい続けていた。──だがしかし、ひとたびその時間が終わればどうだ。彼女の腹から上がる間の抜けた鳴き声、途端にぼっと赤くなる顔。わたわた取り繕おうとしてますます墓穴を掘っていく、恥ずかしそうに覆い隠された口元。先ほどまでとはまるで別人の、どこにでもいる初心な若い娘の姿に、思わず可笑しそうに噴き出して。)

ダイエットって、おまえ……別にそれ以上痩せる必要はないだろ。連日働き詰めだったんだ、空腹ならちゃんと食べたほうがいい。

(最後のひと言を付け加えたのは、やはり面倒見の良いギデオンらしい気遣いの声。とはいえ、相手の食欲不振の原因は自分自身に他ならないなのだが、それを察する力があれば、そもそもここ2週間のような事態は起こらなかったはずで。──手摺のビール瓶を取り、目を潤ませる相手を連れて長椅子に腰を下ろすと、紙袋の中身を取り出していく。幸い、どこの飲食店でも重宝される保温効果の無属性魔法が袋にかかっていたようだ。焼き立てではなくなったもののまだ温かいそれを彼女にも渡し、ようやく夕食にかぶりつく。昼間ほどの衝撃はないにせよ、やはり不思議な美味しさが舌の上に広がれば、自然と心も軽くなって。「この店のは美味いな」だとか、「これはビールに合う」だとか、ラムの串焼きを差し出しながら「このところ食べてなかったならもっと肉を食っておけ」だとか。夜空にはじける極彩色に照らされながら他愛もない会話を交わす、穏やかな時間が過ぎていき。)





(/今後に関する方向性のご共有、ありがとうございます……!

まずは今の花火デート編について。こちらも先ほど交わした対話が今夜いちばんの見どころと感じておりましたので、主様の案に賛成です。それではこの後は、ほどほどにダイジェストしながら結びへと向かっていきますね。

またこの先の大きな展開について、これもすべて大賛成です。
実は提案したはずの自分自身、目の前で起こるギデオンとビビの関係変化に目を奪われてすっかり忘れていたもので……ダブルベッド事件について覚えていてくださり、ありがとうございます。時間軸が前後するとのことで、今夜の会話よりも前、ということでよろしいでしょうか。過去ログを追って時系列を整理したところ、挿入できるとしたらグランポート編終了~花火デート編開始までの空白の1カ月辺りになるのかな? と考えまして。具体的な背景に関する、ちょっとした提案が。


●アーヴァンク討伐編

グランポートからようやく帰る日。ギデオンとビビは行きと同じように船に乗り、2日ほどかけて遡上するはずだった。ところが途中で、川の水位が何故かどんどん下がっていき、ついに船が止まってしまう。
原因は上流に出没した魔獣、アーヴァンク。青黒い大きなビーバーのようなモンスターで、その怪力により岩を運び、ダム型の巣をつくる。キングストンに帰るための運河は、このアーヴァンクの営巣活動によって堰き止められてしまったらしい。
正式に依頼されたわけではないが、冒険者としてアーヴァンクを討伐することに決めたギデオンとビビ。しかし実はこの魔獣、極端にメスが少ないたためにオスはほぼ万年女日照り。そのせいか、人間の美女──とりわけ、ビビのような若い娘に目がないという害獣だった……


箸休めということで、要所要所飛ばしつつやるのがいいかなあと考えているのですが……進行不能に陥った夜、船の乗客たちが1か所の宿に押し寄せたせいでダブルベッド事件が勃発するだとか、ビビがアーヴァンクたちに惚れられて巣に攫われてしまうだとか、害獣のくせにビビにだけやたら紳士なものだからギデオンが若干イラっとするだとか、ギデオン相手だとガチ戦闘を繰り広げたくせにビビの可愛いお願いひとつでアーヴァンクたちがコロッと撤退するだとか、そういったコミカルな要素を楽しめればと想像しております。
またそれ以外にも、初めてビビだけでギデオンの肩を診るシーンも挿入して、戦場でもないのに見ることになったギデオンの上裸にやたらどぎまぎしてしまうビビが見てみたかったり。背後の欲望盛りだくさんなのですが、主様敵に如何でしょうか……?

ギデオンの昔の女の登場&ビビとの初夫婦漫才、も是非やりたいストーリーです……! 時計台での会話である種吹っ切れたギデオンが、鈍感かつ遠慮なしに、往年の手練手管を発揮してしまう流れになるでしょうか。紳士全開のギデオンにたじたじになるビビ、絶対可愛い絶対見たい……。夫婦を演じる必要に迫られる一環として、何かしらの上流階級のパーティーに正装で潜入する、なんていうのも良さそうです。

ギデオンの過去の女性関係についてですが、彼自身はやはり、今や意中の相手+無垢な乙女である(と思っている)ヴィヴィアン相手に、若いころの爛れた奔放さは隠したがるとは思います。ですが背後の方は、薄々察されていることも、何なら次第にがっつりバレていく展開すらも大歓迎です()。
これは私得妄想なのですが、“あるクエストのために仕方なく、12年前の事件以降時々利用していた娼館を訪ねたところ、かつて指名していた嬢に「なんでお店に来てくれなくなったわけ……?」なんて甘ったるく絡まれていた場面で、同じく仕事でやってきたビビとばったり鉢合わせてしまう”……というような修羅場があったりしたら最高に面白そうだなあ、などと以前から思い描いておりました()。その回では依頼達成のためにあらゆる人脈を頼らねばならなかった結果、単なる水商売の女性だけでなく、各地の別業の女性たちをも好き放題ひっかけていたこと、むしろそっちのほうで有名ですらあったことなどが、ぼろぼろバレてしまえばいいなと。今は完全に落ち着いた上ビビひとりに本気になりはじめたのに、過去の悪さが今さら自分の首を絞めてくるせいで悶絶するイケオジはいいぞ……! 「あの」ギデオンが本気で惚れた相手がいると聞きつけた「昔の女」たちが、ビビをやたら可愛がったり心配したり、或いは嫉妬してちょっと意地悪したり、なんてこともあるかもしれませんね。
この辺り、ビビの抱き得る心情や主様ご自身の許容範囲に合わせて、もっとマシな程度に緩和したり、逆により過激にしたり、といった加減の変更が可能です。何にせよ、ギデオンには酷なようですが背後は大変乗り気である、ということをお伝えさせていただきますね。)






130: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-01 00:47:27




……狡い。見てないから言えるんですー、もう脱いだら凄いんですから。

( 一瞬正気に戻りかけていたにも関わらず、遠慮なく噴き出してくれたギデオンに拳を握り「酷い!笑わないでくださいよ!」と抗議すれば、サラリと痩せる必要ないと言いのける相手に、ムッとした表情で頬を染め。照れ隠しに投げやりな自虐をしながらベンチに向かえば、それでもちゃっかりギデオンの隣にピッタリと腰を下ろすあたりが強かで。その見せかけの不満顔も、ギデオンの差し出したサバサンドに被りつけば、輝く目とともにアッサリと霧散する。小さな口を必死に動かし、しっかり飲みこんでから「ギデオンさん、これ凄く美味しいです!」と、周りを意識した声のボリュームで、それでもその感動が溢れんばかりの表情をギデオンに向ける辺りが、隠しきれない育ちの良さを感じさせ。以降も慣れない串焼きに苦戦したり、次に上がる花火の形を予想したり、本当に他愛もないこの幸せな夜を、ビビはこの先何度も思い出すこととなるのだろう。そして迎えたフィナーレ、白金の花火の群れが薄い煙となってパラパラパラ、と落ちる火花の最後まで目に焼き付けると、そっとギデオンの肩に頭を乗せて。 )

ギデオンさん、お祭り楽しかったですね。
──我儘聞いてくれてありがとうございました。

( トネリコ、白檀、ドワーフの蒸留酒、それから少しだけ、大好きなギデオンさんの香りに瞳を閉じて。まだ明日一日、祭りの後片付けが残っていることは承知の上で、油分を拭った手をグッと前に伸ばせば、この二週間の気苦労を流すような長い長いため息を。 )


( / 今後の展開についてご理解ありがとうございます。

花火デート編について、二人の互いを思うゆえのすれ違いに、もどかしい気持ちもありましたが、背後様の素晴らしい描写で、此方まで異国のお祭りに参加できたような、このご時世にとっても楽しい時間を過ごすことが出来ました。本当にありがとうございます!

ダブルベッドについては、当方かなり楽しみにしており笑
花火デート編で思いのほか早く二人の関係が進み始めた時は、嬉しく感じつつもどうしたものかと考えておりましたので、時間を遡る提案にご賛同いただけて安心致しました。
具体的なタイミングや、展開は背後様のご提案が今回も非常に素敵ですので、是非そちらでお願いします!細かいご提案も想像するだけで楽しそうで、今からワクワクしております!

女性関係についてのギデオン様のスタンスもありがとうございます。
若い頃のヤンチャに首を締められているイケオジは当方も性癖ですので、今から非常に楽しみです。付き合ってるわけでもないのに、冷ややかな視線を向けるビビと、言い訳をするギデオン様に、付き合ってないんだぜ、馬鹿みたいだろって訳知り顔するモブになりたい人生でした()
お着替えの提案も非常に魅力的で、ビジュアルの良い2人の正装を想像するだけでテンションが上がって参ります。

此方はベタなご都合設定や、ある程度色っぽい展開も好物ではあるのですが、ロルの経験が少ないのと、セイチャの規約もございますので、その都度、色気は話し合いつつ進めて行ければ幸いです。
それでは引き続きよろしくお願い致します。 )




131: ギデオン・ノース [×]
2022-08-01 23:19:43




(無意識に男を煽る発言は、相も変わらず不用意に出てくるようで。他の野郎にもこんなことを言ったりしてないといいんだが……などと、甚だ見当違いな呆れ交じりの吐息をつくものの、おざなりに聞き流す己の表情が仄かに柔らかいのは自覚していた。そうしてのどかに過ごす建国祭最後の夜も、あっという間に終曲の時刻。神木ガオケレナの花を模した、一際巨大な花火の残滓が、宵闇に淡く溶け落ちていく……その様を、何とはなしに無言で見届けていたところ。ふと肩に乗った心地良い重みに、一瞬だけ呼吸を止め、それからわずかに頭を動かすようにして見下ろす。近すぎて顔は見えないが、どうやら満足しきった様子の相手が控えめにもたれかかり、彼女なりにごくささやかに、ギデオンに甘えているようだ。──再び、胸の奥でふと湧きあがる未知の感情。しかし今は、それを過剰に封じ込めることはせず、かといってそのまま味わうでもなしに、水面下でただ見過ごすことにする。……今の自分たちの有様は、端から見れば完全に誤解されてもおかしくない。とはいえ、運良く人目などないようなもの。そしてこの2週間のことを思えば、今夜、今この瞬間くらいは、特別に許してやるべきだろう。彼女のしおらしい声に、いつもとは違う穏やかな吐息をひとつ。「我儘も何も、勝ちは勝ちだからな」と、昼間の己の見事な慢心ぶりを思い出しては、若干遠い目をして呟くが。自身もまたその目を閉ざすと、ベンチに深く背をもたれ。軽く天を仰ぎながら、ようやく得られた安心がありありと滲む一言を。)

……、明日からまた、よろしく頼む。


(──そんな、長いようであっという間だったひと夏の日々から、遡ること3週間前。今思えば、建国祭での決定的なすれ違いは、このとき既に予兆があった。何かと言えば、やはり原因はギデオンの発言にある。魔物ファーヴニルや悪党レイケルとの戦いを切り抜けた帰りの船にて。蜃気楼魔法により体力を酷く消耗したヴィヴィアンを案じたつもりが、まるで下手糞な子ども扱いをしてしまった。うら若くも誇り高いヒーラーは当然の如く憤慨し、ちょっと深刻な気まずい空気がふたりの間に初めて生じる。しかし、その後の慌ただしいあれやこれやや、グランポートの医者が柔和な顔で言い放った「あなた死にます」的発言により、何だかんだで有耶無耶に。“彼女自身を一個の人間としてきちんと見ていない”という問題を、ギデオンはもっときちんと考えねばならなかったのに、建国祭を翌週に控えるころには頭から抜け落ちてしまうほど、とにかく他の厄介ごとが多かった。そしてその極めつけが、キングストンへの帰路で遭遇したあの事件だ。……忘れもしない、あの忌々しい害獣どもの騒ぎである。
グランポートの立て直しのために滞在を延長していたふたりだったが、これ以上はそれぞれの冒険者業に差し障るということで切り上げさせてもらい、いろいろ手土産を持たされながら港に別れを告げたその日。実に半月ぶりの乗合馬車に揺られた後、キングストン行きの旅客船へと乗り込んだまでは良かった。行きと違い、運河を魔力で遡上する帰りはどうしても時間がかかる。とはいえ、二泊三日の船旅はすぐに終わるだろうと高をくくっていたのだが、状況が変わったのは二日目の夜。何やら騒がしいと船室の外に出てみたところ、船乗りたちの顔がわかりやすく蒼白だ。このところ日照りはなかったのに、と言い合うところを見るに、どうやら川の水位が極端に下がっているらしい。このまま強引に運航すれば転覆しかねない、ということで急遽着岸し。山中そこそこの距離を歩き、それでもいちばんの最寄りだという宿に身を寄せることとなったのはまあ仕方ない。そこから先に、問題がみっつ。ひとつ、通過していたその地域は山間の小さな田舎町であり、人を泊められるような宿はその小規模な一軒しかなかったこと。ふたつ、宿を満杯にするほどに船の旅客が多かったこと。……つまるところ、ギデオンとヴィヴィアンは鍵をひとつだけ渡されたのだが、これだけならまだ、真顔で無言に陥りつつも、未婚の娘と同室というのはかなりまずいのではと思案しつつも、空きがないなら仕方ないかと、どうにかぎりぎり飲み込めた。みっつ目、最後の大問題は──割り当てられた部屋の扉をがちゃりと開け、燭台に明かりを灯してみれば。部屋の中央にどんと鎮座しているのは、まあまあな広さのダブルベッド、それがどこからどう見てもたった一台ということで。宿への道中湧いたモンスターを率先して倒した疲れの残る体が、旅荷を肩に引っ掛けたまま、「…………」とわかりやすく硬直して。)





(/進展が嬉しい一方ですれ違いやその他の都合が悩ましかったの、とてもよくわかります……! 次の詳細についても採用ありがとうございました。今回のストーリーの余韻をたっぷり味わいつつ、早速その方向で誘導させていただきますね。
ギデオンのやらかしについても概ね問題がないようで安心いたしました。規約順守はこちらも大事にしたいなと考えておりますので、世界観のスパイスになる程度、過分には効かせぬ程度をともに探っていければと思います。こちらこそ引き続きよろしくお願いいたします……!/蹴り可)






132: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-03 01:11:20



( そもそも賭けに乗る義務はなかったにも拘らず、ビビとの関係修復のために乗ってくれたことへの感謝でもあったのだが。遠い目をした彼の優しい吐息に昼間の相手、こちらが煽ればすぐにムキになり、その後負けるとも知らずに余裕綽々と微笑んでいた、その可愛らしさを思い出せば「それもそうですね、」と小さく吹き出して。相手との距離感を探るように寄せた額が拒絶されず、相手の声に安心が滲むのに、この一週間と比べれば凡庸で、されど愛しい人の隣にいられるこれ以上ない幸せな日常の帰還を悟れば、えへへ、とこの世の幸福を詰め込んだような柔らかい笑い声を漏らし、「勿論です!」と、頭を硬い肩に小さくこすりつけ、触れることを許された温もりを堪能した。 )

──ギデッ……ギデオンさん!息してください
何かの間違いですよ、私奥様に言って来……マジか、

( そのあからさま( も何も、宿の部屋にベッドがあるのは当然なのだが。 )に置かれた大きなベッドに、思わずヒュッと息をのむ。ビビもまた、怪我をしたばかりのギデオンが、グランポートの事後処理に、あちこち駆り出されるのを心配し、帰ってもまた依頼が待っていることは分かっていても、本拠地であるキングストンへ帰れることを非常に嬉しく思っていた。その思いの強さといえば、不可抗力で止まった船に珍しく、身勝手な苛立ちさえ覚えたほどで。故に、安全とは言えなかった山道を、なんとか他の乗客を守り抜き、明らかにこの人数を泊めることを想定していない、こじんまりとした宿へ着いたとき、渡された鍵の本数が表す意味など目に入っちゃいなかったのだ。脳内にあったのは、やっとギデオンさんを休ませてあげられるという安堵と、今晩の診察についてだけ。ギデオンの背後につき部屋の鍵を回す段になって、やっとその違和感に気が付けば、次の瞬間視界に飛び込んできた、ふぁーお、とハート付きの効果音が聞こえそうな光景にめまいさえ覚えて、思わずギデオンを見上げる。その一切動じた様子のない涼しい表情に、一瞬自分がおかしいのかと常識を疑い掛けるも、すぐに相手のそれが完全な硬直だと気が付けば、自分より動揺している人を見ると人間何故か落ち着くもので。微動だにしない相手の顔の前で手を振り、変な空気にならないよう努めて爽やかに、入ってきた扉を逆に開けるも、たまたま廊下にいた小太りの女主人が「すみませ……もう、部屋はそのっ」と蚊の鳴くような声で縮こまるものだから、ニコッと得意の笑みだけ残して、静かにそっと扉を閉じる。思わず漏れたビビらしくない俗っぽい語彙は、結局出航までに二度ほど夕食に招待された被害者少年の影響だろう。仕方なく、もう一度与えられた部屋を見回してみれば──そもそも何がまずかったのかしら。むしろチャンスじゃない?グランポートでもその恵まれた肢体を使って、ギデオンを誘惑しようとしたじゃないか。ビビの気持ちにこたえる気がない相手は多少困った事態かもしれないが、その視線が案外露骨に胸元に滑ったり、押し付けられれば一瞬不快とは違った意味で強張ることをビビは知っている。一瞬の間にたどり着いた結論は、後から考えればやはり動揺してどうにかしていたとしか思えないそれだが、今ばかりは天啓とさえ思えた。ペタペタとダブルベッドに近づけば、いっそ今すぐにでもわざとらしく乗ってしまおうかと思ったが、洗ってない体で触れるのは気が引けて、自身の荷物を床に置きながら脇のスツールに浅く腰を掛け。白々しく相手を振り返れば、あざとく小首をかしげて。 )

……まあ、空いてないなら仕方ないか。
肩の調子は……シャワーの後の方がいいですよね。ギデオンさんお先にどうぞ。




133: ギデオン・ノース [×]
2022-08-03 03:15:44




(背後でぱたん、と、扉が控えめに閉まる音。女主人の酷く萎縮した声は、こちらの耳にも届いていた。ヴィヴィアンが珍しく崩れた言葉遣いをするが、ギデオンも完全に同意で、ようやく硬直が終わったかと思えば、俯きながら片手で頭を抱えてしまう。……今になって、女主人の倅らしき小男が鍵を渡してきたときの、憎むような羨むような、妙な視線の意味を知る。労働力が必要な田舎の夫婦は、大抵子沢山だ。そのため、夫婦ふたりで大切な時間を過ごす際には、子どもたちに気取られてしまわぬようにと、わざわざ同じ村の宿に外泊することも少なくない。おそらくこの部屋はそういう客向けなのだろう、手狭かつ質素ではあるものの、少しだけ良い雰囲気の内装をしていた。しかしそんなのは困る、完全に無用の長物である。ヴィヴィアンはあくまでも後輩……もう少し言えば、シルクタウンとグランポート、2回に渡って良き連携を果たしてくれた相棒だ。──間違っても恋人ではない。こういう部屋に通されたところで、すこぶる居心地が悪くなるのが関の山なのだ。どうにか抜け道はないかと頭を回しかけたところで、不意に聞こえた無邪気な足音に顔を上げる。自分と違って気後れのないらしい彼女が、すんなり腰を落ちつけるのを、表面だけは無感動な眼差しで眺めれば。体を緩く捻って小首を傾げる相手の姿は、燭台の揺らめく灯りも相まって、いつか見た絵画にあったような、妙な美しさを放って見えた。しかし、そんなミューズがさらりと口にした言葉には、しっかりと流されない。途端に真面目腐った表情になって「ダメだ」の一言、引っ提げていた旅荷を自分も床に下ろす。麻紐で縛った着替えを取り出せば、しゃくって見せたのは浴室ではなく扉の方。相手の優しい申し出にも拘わらず、頑固に一定の距離を置く構えで。)

多分、どこかに共用の風呂場があるだろ。俺はそっちで済ませてくるから、お前はここでゆっくりすればいい。……21時くらいには戻ってきて大丈夫か?





134: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-03 10:06:39



──ダメですよ
共用なんて休まらないでしょう

( あちらも相当な頑固なら、こちらだって強情度合いでは負けていない。部屋について早々出ていこうとするギデオンを、扉の間に体を滑り込ませて阻むと、上目遣いに小さく睨んで。その行動には勿論下心も含まれてはいるが、グランポートのあの夜から休みなく駆け回っているバディへの、純粋な心配が殆ど。最初こそダブルベッドに驚きもしたが、観光地もない田舎にしては小綺麗で、雰囲気のある部屋の意味も知らずに、休むことを知らない相手を休ませるには丁度良いと感じ始めていて。丁度、今日の診察用の魔法薬の用意のついでに、カミツレを使ったリラックス効果のある香油も作ってみてはいた。香りが苦手でなければ使って欲しいと渡すつもりでいたが、この部屋で使えば燭台の照らす暖かい薄暗さと相まってゆっくり眠れそうだ。下心で呼び止めたにも関わらず、最早相手を休ませることばかり考えているあたりは、警戒心のなさと職業病、目的のために周りが見えなくなる性格、全てが災いしていると言ったところ。なんにせよ、ギデオンが良からぬことを考えるなんてことは一切思いもせずに、相手への厚い信頼を表情に浮かべ半歩相手に近寄れば、アッと気づいた様な顔をして、的外れもいい所な斜め上の心配をして見せて。 )

──覗いたりなんてしませんから、安心して入ってきてください。
もし心配ならギデオンさんが入ってる間、私が外で時間潰してますから。




135: ギデオン・ノース [×]
2022-08-03 11:17:35




……どうせ一晩かそこらで済む予定の宿泊だ、まともな休みならキングストンに帰ってからでも充分間に合う。

(ギデオンの言葉を聞くなり、サーペントのような素早い身のこなしでやってきて、絶対に通しませんよと強情に立ちはだかる相手。そうは言っても、同室でシャワーを済ませるのは流石にこう、いろいろとダメだろうと、ギデオンもぐっと譲らない。それがますます相手の心配を煽り立てるとも知らずに言い返し、共に危険を乗り越えた相棒同士でありながら、しばし相手を睨み合う奇妙な時間が続いたのだが。はっと表情を変えた相手が言い放つ頓珍漢な台詞、それにまるまる虚をつかれたような顔をしてから、思わずがくりと脱力してしまって。──毒気を抜かれたというか、なんというか。よく飽きもせず自分に構いつけているなとは常々感じているが、勿論そんないかがわしい真似をするような人間だなんて思っちゃいない、そんな心配はしなくていい。年頃の女性としてむしろこちらのほうを警戒してくれ、と言いたいのが山々だったが、それをわざわざ口に出す気力もないほどあらゆる意味で疲れていたのも事実で。数秒の沈黙の後に深々とため息をつき、「……わかった」と根負けした一言を。ただ、見知らぬ男たちのひしめく宿にいきなり泊まることになったとあって、相手の身の安全が心配だ。姿勢を直し浴室の方に足を向けるが、念の為、と注意事項をいくつか。それだけ伝えてしまえば、「……ありがたく頂いてくる」と、言葉に反し渋々といった様子で浴室に入っていき。)

……女将の人柄的にないとは思うが。自分たちの宿に上手いこと誘い込んで、無防備な夜中に客を襲う悪質な宿も珍しくない。部屋の外には行かなくていいから、窓辺や来客には気をつけてくれ。





136: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-04 09:24:02



……。

( 案の定、休みを後でまとめて取ればいいという趣旨の発言をする相手に、ジトリと冷めた視線をむける。相手がギデオンだから我慢しているものの、これが調子に乗った同期なら、ヒーラーとして力づくで昏倒紛いでも強制的な休息を取らせるところ。しばし続いた睨み合いの末、少々ビビの反則感は否めないが、毒気を抜かれた様に溜息を着いた相手に、にっこりと強かな笑みを浮かべて。 )

はあい、──ギデオンさん、お父さんみたいですね。

( 浴室に足を向けたギデオンに、こちらも荷の整理に入ろうとして、かけられた忠告に振り返り。その子供にかけるようなそれに、一瞬キョトンと目を丸くするも、素直に荷物の中から自分の杖を取り出せば、これでいいかと問うように握って見せ。それから──それから、本当になんの悪気もなく、あまりに妙齢の男心に容赦ない一言を放つ様は、ギデオンへの安心と信頼に溢れた素なのだから余計にタチが悪い。ビビもまた口では好き好きと言い募るものの、安心出来る大人の男性に特別心を許しているに過ぎない面も無自覚にあって。ともかく、「いってらっしゃーい」の返事と共に、へにゃりと笑いながら相手を見送り、戻る頃には化粧品やら衣類やら、部屋の一角に、明らかに女性が滞在しているとわかる、よく整頓された空間が出来上がっているだろう。 )




137: ギデオン・ノース [×]
2022-08-05 03:26:15




(“お父さんみたい”。そのあまりに無垢で残酷な喩えに一瞬びしりと固まったのは、致し方ないことだろう。先ほどまであった不承不承の表情には滑稽にもひびが入り、青い目の奥にはある種の衝撃がはっきりと浮かぶ始末。相手の温かな送り出しにもかかわらず、最早何も言わないまま黙って浴室の扉を閉めると、ひとりきりになった狭い空間でまずは虚空を見つめ静止。それから鏡台のほうを向き、両手をついて自分の姿を覗き込むように眺め。(まあ、そうだよなあ……)とどこか虚ろな眼差しをしてから項垂れ、先ほどの件を受け入れようとはするのだが。まだぎりぎり──本当にぎりぎり、かろうじて数年程度は余命があるのではないだろうか。心のどこかで自然にそう考えるのも事実、しかしそれは己の下らない矜持に過ぎない気もして、自分の愚かしさに余計気が滅入りそうだ。なんだかもう無駄に満身創痍である。このありとあらゆる疲労を無理やりにでも押し流そうと、ぐっと表情ごと切り替えて装いを解けば、とびきり熱い湯を浴びることにして。──十数分後、さっぱりして出てきたギデオンの格好は、紺色のシャツに緩やかな浅葱色のズボンといった、外を出歩いてもおかしくはないタイプの夜着。まだ髪が多少濡れているが、首元のタオルを適当に掻き込んでおけばすぐ乾くだろう。先ほどまではなかった可愛らしい雰囲気の一角を見て、ほんの少し面食らった顔をしたものの、「待たせた」と声をかけ。自分も剣の手入れ道具を取り出すべく荷をほどきつつ、一応の連絡を。……未だ業務連絡以外の会話が切り出せないところに、相手との距離を掴みあぐねている心理が実は表れているのだが、その自覚も改善も、もう少し後の話になろう。)

温度調節はちゃんと戻したつもりだが、最初はまだ熱いのが出るかもしれない。それだけ気を付けて、ゆっくり入って来てくれ。






138: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-05 13:05:22




( 自身の不用意な発言が相手に与えた衝撃に気付かぬまま、と言うよりは、女としてのビビに大して興味のないギデオンが、今の発言を意に介す訳が無いと考えているようで。そんなことより、目下の問題である自身の寝巻きの前で腕を組めば、隣から聞こえるシャワーの音に気まずくなる余裕もなかった。テキパキと荷の整理を終えて、最後に取り出した今晩分のそれは、洗いやすさと速乾性、機能性に全振りした可愛らしさの欠片もないもの。そもそも男物のタンクトップと、紐で縛るだけの簡易なホットパンツはどちらも薄手で、ただでさえ気まずい一室でこれがよろしくないことくらいはビビでもわかる。──シスターに知られたら卒倒するだろうなあ、と学院時代の恩師を思い出せば、そもそも未婚の男性と同部屋な時点で手遅れかと諦めることにして。幸か不幸か、重ね重ねビビに興味を示さない上に、本人は隠しているらしいが、女慣れしたギデオンのことだ、案外涼しい顔で気にも留めないかもしれない。そう能天気に腕組を解けば、次の懸念事項を解決すべく、先程引き寄せて脇に置いておいた杖を手に取る。宙に魔法陣を描き口の中で小さく唱えたのは、グランポートで既に何度か唱えた蜃気楼魔法。これでギデオンの入浴を覗く──というつもりは毛頭なく、そもそもグランポートでは煌めきながら霧散して、ビビの姿を掻き消していたはずの魔法陣は、水蒸気にもならずに液体の水となってビビが慌てて差し出したグラスに落ちる。「やっぱりか……」と小さく唸ったのは、土地に伝わる古代魔法では良くあること。その地の魔素が発動に大きく関わっているらしく、苦労して身につけた魔法も他の場所では使い物にならないことは多々あるのだ。今回は水属性の魔法が使えるようになっただけでも、充分良しとするべきだろう。それでも、これがあればこの先どれだけ役に立っただろうと、名残惜しそうに溜息を着けば、その不純物の少ない冷えた水は、丁度シャワーを終えたらしいギデオンに差し出すことにした。 )

いいえー、おかえりなさい
ただの水ですけど良かったらどうぞ

( ギデオンの素っ気ない業務連絡も、今回ばかりは助かった。しっとりと濡れた金髪に、心做しか良い顔色、普段は油が少し抜けた質感の肌にも艶が乗って輝いている。見慣れぬ寒色のシャツもよく似合っていて、漂う同年代には出せない色香に、小さく動揺した胸中を隠せているつもりで微笑めば、「ありがとうございます」と、頬を微かに染めつつ、此方も端的なお礼をしてから逃げ込む様に浴室へ飛び込んで。そのまま、ギデオンの調節してくれた調度良い温度の湯で汗を洗い流す頃には、相手への下心とばかり戦っていたものだから、自身のあられもない寝巻きのことはさっぱり忘れていた。濡れて癖のきつくなった茶髪を下ろしたまま、ほこほこと湯気のたつピンク色の肌、頬も大きく空いた胸元も、太腿も無防備に晒して、浴室の扉を開ければ、気持ちよさそうに手で顔を仰いで。ギデオンがシャワーを浴びている間にできていた、女性の生活感が生々しい一角にぺたぺたと歩を向けて。 )

はー、涼しー……
シャワーありがとうございましたぁ
肩、準備するのでちょっと待ってくださいね




139: ギデオン・ノース [×]
2022-08-06 02:33:17




……ん。

(甲斐甲斐しい声に振り向くと、唸るような返事をしながら透明なグラスを受け取り。風呂上がりの喉に流し込んだその冷水は、不思議と全身の隅々まで瑞々しく染み渡る気がした。この辺りの湧水なのだろうか、やけに美味いな、とグラスの中身を不思議そうに眺めるギデオンの頭には、もちろん真相など浮かばない──天文学的な確率で最高に相性の良いヴィヴィアンの魔力にかかれば、一般には不味いとされる魔法水さえ良い効能をもたらしたのだ。そうとは知らずに飲み干して喉の渇きを潤す間に、相手はそそくさと浴室に消え、程なくして柔らかな水音がくぐもった具合で聞こえてきた。……さて、とグラスを小机に置けば、部屋全体を改めて見渡す。部屋の面積のほとんどを占めるダブルベッドに、申し訳程度の机とスツール、窓際には革張りの一人用肘掛け椅子。心底残念なことに、カウチは備え付けられてない。防音性のために壁を厚くしているのか、出窓の框ならばギデオンひとりが横向きにゆったり座れる広さがあるが、寝場所としては向かないだろう。どうしたものか、と頭を抱えた矢先にノック音。少し警戒しながら扉を開ければそこにいたのは女主人で、良かったら、とよく冷えた葡萄の皿を差し出してくれた。背後の手押し車の中身を見るに、他の部屋にも差し入れている心配りの品らしい。気遣いに礼を述べ、ついでにロビーにでも寝かせてもらえないか頼んでみるが、お客様にそんな真似はさせられないと涙目で首を振るばかり。ならばこの辺りで野宿できそうな場所は……と言いかければ、女将は途端に目をかっ開き、「絶っっっ対にいけません!!」と猛烈な反対を食らう。夜の魔獣がどれほど狂暴かおわかりでしょうだとか、いくら腕の立つ戦士様でもまともな休息は必要ですだとか、誰かと似たような心配さえ真剣に言い含められれば、流石に観念せざるを得ないというもの。女主人が帰った後、小机の上に土産の皿を鎮座させると、とはいえどうしろと……と再び悶々と悩みながら、化粧品の類が散らばる一角から目を逸らすようにして剣の手入れをしていたが。がちゃりと戸の開く音とともにふわりと漂う甘い香り、ついでほくほくと寛いだ声。何とはなしにそちらを向いた瞬間、さながら様式美のように再び全身が石化する。しどけない、というレベルを超えて、それこそ豊穣の女神でも舞い降りたのかと疑うような光景だった。普段とは髪型の違う、素朴に下ろした濡れ髪。幸せそうに緩んだ唇、桃色に上気した頬。惜しげもなくさらけ出された、はち切れそうな胸元に太腿。真っ白な肩のまろみやしなやかな脹脛、通り過ぎざま魅せつけてくれた薄い肩甲骨の隆起なんて、呆れ返るほどに目に毒だ。おまけに風呂上りとあって、全身が真珠色に輝き、やたら魅力的な匂いがしている。──これは、完全に、駄目だろう。改めてそんな風に、やけに冷静に断ずることができたのは、単に閾値を大幅オーバーしていたからで。普段と変わらぬ涼しい顔にすっと戻ると、いきなり立ち上がり、やけに無駄のない足さばきで自分の荷物の元へ。グランポートで清潔に洗ったいつもの深紅のシャツを取り出せば、相手の顔に被せるようにぼふりと緩く放り投げる。いささか乱暴だが、自分が理性で抑え込む苦労を思えばこうもしたくなるものだ。そのまま相手を軽く睨めば、その無防備さを遠回しに叱って。)

──……、流石に気が抜け過ぎだろう。命令だ、そいつを羽織れ。






140: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-08-07 00:28:05




えぇー、命令って……!

( ぅわぷ。と、避けようと思えば避けられたそれを、そのまま正面で受け止めたのは、ギデオンがいつも馴染みの仲間達としているような、荒っぽくも信頼関係を感じさせるやり取りが嬉しかったから。とはいえ、飛んでくる物体の正体を見極める様な余裕があったのは最初のみで。シャツを受け止めた瞬間、ふわりと洗剤の中に大好きなギデオンの香りを感じれば、思わず勢いよくシャツを引き剥がし。此方の動揺などつゆ知らず、涼しい顔のギデオンを見やれば、流石のビビでも自信を無くし、今晩物にしてやろうという野望はみるみる絞んでいく。そんなに魅力ないかなあ、と渋々シャツを羽織りながら、八つ当たりの様にベッドへ腰を下ろせば、ギシ、と生々しい音が部屋に響き。態とやるまでもなく、必然的に余った袖から白い指先だけを覗かせて、男女逆の合わせに一寸苦労しながら、モゾモゾと釦をかけていく。邪な野望がなりを潜めると、最初こそ渋々羽織ったそれも、憧れの冒険者のトレードマークを羽織っている事実に、素直なファン心が湧き上がり。第二ボタンまで締め終われば、嬉しそうに紅い袖をまじまじと見つめ、ぴょいとベッドから立ち上がる。女性にしては身長のあるビビでも丈の余るシャツは、胸元は普段よりも露出を抑えてくれたものの、上半身と臀部にかけての凸凹に引っかかり上がった裾は、ホットパンツの存在感を薄れさせるにも関わらず、太腿は全く隠せていない。それでも嬉しそうに自分の格好を見下ろせば、ギデオンに向き直り悪気がないからこそ凶悪な、ピクシーの様な微笑みを浮かべて。 )

──えへ、似合ってます?




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