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968:
ギデオン・ノース [×]
2026-02-11 00:54:08
(柔らかな手のひらがこちらに可愛らしく伝える、無垢な慕情と信頼に。片眉をぐいと上げ、「喜んで」と喉を鳴らすも、やはり気取ったそれは続かず、すぐに笑み零れてしまう。隣から見上げる相手がこんなににこにこ嬉しそうに笑顔でいてくれるのだ、釣られないほうが無理だろう。──だからそのまま、ふたり並んで、ごくゆっくりと歩みを進める。相手と一緒であるのなら、なんてことのない石畳の路地、ありふれた古い家々、聖鳥たちが影絵になって横切っていくいつもの王都の空でさえ、何か特別な景色へと魔法をかけられていくようで。とりとめのない話をあれこれと咲かせながら、途中何度立ち止まり、何度重なり合ったことか。ちっとも急がぬその道のりは、しかし思えば、昨日までのここ数日、無意味に置いてしまった空虚を埋めるためでもあったのだろう。
つまらないことに囚われて、大事なことを見落としていた。相手と一緒に在るだけのこと、それをこうして慈しめるなら、他に横たう一切はまったく小さな問題だ。……だから、これを手放したくない。ずっと確かに得ていたい。それを本気で伝えるとき──彼女は、どう答えるだろうか。)
……懐かしいな……一年ぶりだ。
(──そうして。軽い夕食と少しの酒を買い込んで再び訪ねたその場所は、賑やかな中央広場をごく厳かに見下ろしている、キングストン時計台。裏手にある扉の守衛はいつもの古株の老人だったが、ギデオンが去年と同じ、だがより親密になった娘をまた連れてきたことに、(おや)と灰の目を輝かせる様子があった。とはいえ野暮を言うでもなしに、ただ恭しく通すだけのありがたい気遣いに、こちらもしっかり目礼しながら。美しいドレスを纏う夢の女性の手を引いて、鉄の螺旋階段を上へ上へと昇ったその先。扉を押し開けたその瞬間から、懐かしの展望台と──花火を打ち上げる前から見事な、満天の星が飛び込んできて。
全てが美しいこの夜に、手摺りの方へと進みながら、相手は辺りの景色にこそ陶然と見惚れるだろうか。だがギデオンのほうはといえば、今年も同じくここに来た周囲のまばらな人影も目に入らないまま……花咲く髪に瀟洒なドレス、何より無邪気に感動する恋人のその姿にこそ、もはや隠しようもなく熱いまなざしを向けていた。こちらを振り向く彼女に向けて、その静けさを誤魔化すように無難な言葉をかけてみせたが、果たしてどれほど自然なのやら。それでも今度は、はにかみでも照れ隠しでもなく、満ち足りた微笑みを相手に向けてみせると、手に提げた酒や肴を掲げて。)
なあ……花火まで、まだ少し間がある。
今年は先にこいつらを楽しみながら、のんびり時間まで待たないか? ──なに、腹ぺこなわけじゃない、本当だとも。
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