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Petunia 〆/956


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自分のトピックを作る
948: ギデオン・ノース [×]
2025-11-26 05:04:20




────……!?

(切実な祈りを込めてのなりふり構わぬ威迫のほどは、無謀がちな恋人にどれほど届いたことだろう。それをしかと確かめるべく、相手の顔に目を凝らし──だからこそ、反応が遅れた。その暖かな指先が、己の頬を労わるように慰撫することを許すまで。……こちらを見つめる翡翠の瞳が、怯えでも、反発でもなく、深い深い慈愛の光を湛えていると気付くまで。
根が生えたような硬直は、実に数秒間ほども晒していたに違いない。いきりたっていたはずの呼吸すら完全に静止して、その不自然さに自覚のないまま見つめ返していた矢先。突然まじないが解けたように反射的に顔を逸らすと、掴んでいた両手を力の抜けるように下ろして、我に返ろうとするかの如く浅い息を繰り返す。何故そんな顔をしている──もしや伝わっていないのか、いやちがう、彼女はきちんと理解している、だがしかし今見据えているのは、全く別の……ならばどういう、なぜ俺を見てそれを、第一どういうわけなのだ、どうすれば良いのかなんて、俺の方こそ──ずっと、毎晩。大好きで仕方ない、最近まったく伝わってないだなんて、伝わるも何も、こちらから言うまでもなく、相手のほうこそ家を出て遠ざかっていたはずだ。愛想を尽かしていたはずだ、遂に現実に立ち戻らせてしまったはずだ。愛想を──そうだ、俺は──目を大きく瞠る──約束を、また、守らなかった。)

──……ちがう。
ちが、うんだ……

(思わず口から零れ出たのは、情けないほどの震え声。この瞬間、魔剣使いのギデオン・ノースは、その見る影もないほどに弱々しく成り果てた。──かろうじて触れていた手をとうとう離し、軽く半歩ほど後ずさりながら、魔素切れで揺れる街灯を背に、昏い翳りに逃げる顔。そのくせ尚も口走るのだ、「おまえがどこにいるのか、無事なのかを確かめたかった、それだけで……」「お前の言うことを──違う、約束を破るつもりは」と。どこを見るでもないはずなのに激しく揺れる目の動き、どんどん凍り付くように強張っていく己の躰。脳裏ではこの決定的な醜態を自覚出来ているはずで、故にけたたましい警鐘がガンガン鳴り響いていながらも、異常を来たす思考回路は恐ろしいほどの無音となって、意識をどんどん巻き込んでいく。──柔らかな愛情で包まれれば包まれるほど、それに己に見合わぬことが浮き彫りにされていくようで、恐ろしくなっていく。
蘇るあの日の記憶、あんなに愛してくれたはずが二度と会えなくなった母。渇望した罰として齢七つの骨身を鞭打つ、真冬の原野のあの寒さ。大事なひととの約束は、それがどんなものであっても、決して、二度と破るまいと胸に誓っていたはずだ──忘れていたわけじゃない。だがどうして、ずっとずっと後に出会った相手の愛情に溺れるうちにだらしなく緩んでいたのか。ならばどうか、今度は決して緩まぬように己を律してみせるから。だからほんの一縷だけでも、それすら烏滸がましかったとしても。
それまで、きっと長いこと相手の働きかけがわからず迷走していた双眸が、ようやく再び相手をみとめる。そしてその瞬間、相手の瞳を見つめた瞬間、一歩その場から踏み出したのは、ほとんど捨て身にも近い、ギデオンなりの決死の勇気。己よりずっと年下の恋人に、こちらを見上げるそのかんばせに、再び上から近づくと。ほんのかすか、去年の今よりもまだずっと浅い距離感で、おずおずと屈みこんでは、絞り出すような、小さな、小さな掠れ声で、相手の慈悲に嘆願し。)

……頼む。一度、だけで、いい……やり直しをさせてくれ。
今度は、ちゃんと……うまく……やるから……





949: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-12-02 05:55:23




──……!?

 ( 数日前のヴィヴィアンは、「迎えに来て」と、確かにそう伝えたつもりでいたのだが。肝心のギデオンへ伝わるまでに、一体何が拗れてしまったのか。相棒が苦難に面している時に、役に立たなかったビビが愛想を尽かされるのであればまだしも。その逆はといえば、あまりに晴天の霹靂でしかない大きな誤解に、心外で堪らないといった表情で、大きな瞳を瞬かせて。
それでも、必死な瞳に捉えられれば、不謹慎にも。根本的に強がりで、すぐに独りになりたがる相手が、一歩踏み出してくれたことが愛おしくて。まずは一刻も早く、この人の不安を取り払おうと、その薄い頬を撫でていた指を翻すと、改めて両掌で柔らかく包み直して。 )

……もちろん。
ギデオンさんは約束通り、迎えに来てくださったじゃないですか。
ありがとうございます、大好きよ。

 ( 本来であれば、すっかり熱の冷めた恋人関係を、再び同意の元で構築し直す。そういった意味では"やり直す"必要も──なんなら、"うまくやる"必要でさえ、一切必要ない。普段は冷静沈着にも関わらず、時々どうしようもなく不器用で、愛情を求める子供のようにいたいけなひと。それもまたギデオンの一面なのだから、彼は一生このままで良い。それについてや、今回の誤解の原因、そしてそもそもの不調についても、改めて話し合う必要もあるだろうが。それでも今は、大好きな相手の心からの笑顔を見たい一心で、そっと顔を近づけて。 )

……それにね、一度だけなんて、言わないでください。
一生隣にいるんですから、何度だって迎えに来て貰わなくちゃ。

950: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-12-02 06:04:56




(末尾の口調の修正です。内容は全く変わりません。)


──……!?

 ( 数日前のヴィヴィアンは、「迎えに来て」と、確かにそう伝えたつもりでいたのだが。肝心のギデオンへ伝わるまでに、一体何が拗れてしまったのか。相棒が苦難に面している時に、役に立たなかったビビが愛想を尽かされるのであればまだしも。その逆はといえば、あまりに晴天の霹靂でしかない大きな誤解に、心外で堪らないといった表情で、大きな瞳を瞬かせて。
それでも、必死な瞳に捉えられれば、不謹慎にも。根本的に強がりで、すぐに独りになりたがる相手が、一歩踏み出してくれたことが愛おしくて。まずは一刻も早く、この人の不安を取り払おうと、その薄い頬を撫でていた指を翻すと、改めて両掌で柔らかく包み直して。 )

……もちろん。
ギデオンさんは約束通り、迎えに来てくださったじゃないですか。
ありがとうございます、大好きよ。

 ( 本来であれば、すっかり熱の冷めた恋人関係を、再び同意の元で構築し直す。そういった意味では"やり直す"必要も──なんなら、"うまくやる"必要でさえ、一切必要ない。普段は冷静沈着にも関わらず、時々どうしようもなく不器用で、愛情を求める子供のようにいたいけなひと。それもまたギデオンの一面なのだから、彼は一生このままで良い。それについてや、今回の誤解の原因、そしてそもそもの不調についても、改めて話し合う必要もあるだろうが。それでも今は、大好きな相手の心からの笑顔を見たい一心で、そっと顔を近づけて。 )

……それにね、一度だけなんて、言わないでください。
一生隣にいるんですから、何度だって迎えに来ていただかなくちゃ。




951: ギデオン・ノース [×]
2025-12-03 04:20:05




────……

(“一生隣にいるんですから”。何てことのないように娘が告げたその一言は、思い返せばほんの数日、しかし本当に長いこと狂っていたギデオンの目に、理性の光を取り戻させる。無論、その恐れの波はすぐには退き切らないものの、それでも気づきの兆した顔で相手を見つめ返してみれば……はたして、そこにあるのは何だ。
花火の夜、雪深い晩、サリーチェの我が家の鍵を初めて渡したあの昼下がり。この一年の日々のなかで幾度となく目にしてきた、温かな慈愛に満ちたヴィヴィアンの表情は、どこも、何にも、何ひとつ、己の記憶に刻んだそれから変わってなどいなかった。……そうだ、彼女は変わらない。こうして何かに竦む自分を、彼女はいつも、ほんの一歩踏み出せば届くような近さから、優しく待ってくれている。己がこうして傍に行くこと、彼女を欲してやまないことを──彼女も、望んでくれている。
は、と熱い吐息が零れた。普段は重い魔剣を振るう幅広の双肩からは、情けないほど力が抜け落ち──その安堵の脱力のまま、そっと、こつんと額を寄せて。わずかに擦りつけてみれば、相手も同じようなしぐさで応えてくるのがたまらない。今度はこちらもおずおずと相手の頬を両手で掴み、そのすべらかな小さな顔を指の腹で撫でながら。今度こそ、きちんと素直に、己の本音を伝えてみせて。)


……わる、かった。遅くなった。
一緒に、帰ろう……帰って、きてくれ。






(──それからの帰り道。数日ぶりに並んで歩く懐かしさを味わいながら、まずは取り戻していくように、何てことのない会話を交わした。
ここしばらくのヴィヴィアンがその身を密かに寄せていたのは、やはりエリザベスの家で間違いがなかったらしい。アパルトマンの窓越しに見守っていたという彼女に、あの後きちんと詫びに行き。ヴィヴィアンが世話になったと頭を下げたその時ですら、人形のように美しいカレトヴルッフの受付嬢は、その淡々とした表情を一ミリたりとも動かさずにいた。──昨日あいつに訊いたんだ、ヴィヴィアンが来てないかって。その時もあの顔で、知らないなんてきっぱり言うから……だからてっきり別のところに、エリザベスを頼らないなんてよっぽどのことと思ったと。少しばかりの気恥ずかしさに笑いながら打ち明けて、相手のくすくす笑う声に、また心が軽くなる。相手のいつもどおりの反応、何も変わらぬその様子に、胸に巣食っていた影がどんどん薄れていくのを感じる。
──だから、そう、必然なのだ。サリーチェの我が家に帰り、リビングの明かりを灯し、夕食がまだだったという相手のそれを温め直して、まずは相手の腹ごしらえを優先させる……そのはずが。相手が屋台の紙パックを行儀よく膝に抱えて食べているのを良いことに、広々としたソファーの上でその体ごとすっかり抱き上げ、腹の辺りに腕を回して、後ろから密に抱きしめる。これは別におかしくはない、こちらも今まで通りの仕草を取り戻しているだけなのだ。食べにくい、と相手が笑えば、こちらも笑って理解を示すふりこそすれど、ますます両腕の輪を狭めて逃しはすまいとするだろう。そうして時折、相手がこちらに取り分けてくれていた分を、そもそも元が足りないだろうと固辞していたはずの癖して、その殊勝な口許に匙を運ばれればまあどうだ。これはクミンだ、カルダモンが、このナッツは鉄鍋での乾煎りの甲斐が云々。相変わらずの煩さを遺憾なく発揮するのは、だがしかし、こうしてどんどん夜が更けるにつれ、きちんと相手と話す時機が迫っているのを感じるから。──ある程度腹がくちくなり、弱めの酒も入れたところで、やっときちんと相手と向き合う。しかしそこには、最早いたずらな不安は混じらず。代わりに、己なりの誠意として相手に事情を共有するべく、ゆっくりと言葉を探す慎重な動きの視線で。)

…………。……ここ数日、いろいろと……すまなかった。おまえに、あんな風に振る舞っていい道理はなかった。
上手く言えないが……そうだな。
“責任”を果たす力がないと、思われるんじゃないかってのを……俺は、いちばん恐れて……いいや。恐れすぎてた、ように思う。





952: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-12-08 11:27:05




──ええ。
ただいま、ギデオンさん。

 ( 最初に違和感を覚えたのは、祭りの灯りが賑やかな通りを急ぐサリーチェへの家路、途中、大の大人が二人並んで歩くには少々辛い未舗装の狭路。そのたった数メートルを通り抜ければすぐまた道幅も開けるというのに、いつも完璧なエスコートをしてくれるギデオンには珍しく。此方をがっちりと握り込んで離さない拳のせいで随分歩き辛い思いを。
それから、これは慣れ親しんだ我が家に帰って来た後。流石に繋いでいた手は離したものの、こちらの食事を急かしてついて回る恋人に、「ご飯もですけど……まずは汗を流してきても?」と──それは決して変な意味ではなく。後の話し合いに向け、済ませられることは済ませておきたいと。要は言外に、一旦離れていただけますかと伝えた要望だったのだが。そんな此方を尻目にして、いつの間にか手中にしていた紙パックを、目の前でホカホカに温め直して差し出してきた恋人は、果たしてビビのお願いが純粋に聞こえていなかっただけなのか、それともさり気なく黙殺にかかったのか。
極めつけに、「ひゃあっ……!?」と、食事中のところを出し抜けに持ち上げられて。何とか零さずにすんだ包みをぎゅっと抱きしめながら、背後の犯人を振り返れば。どうして返り見られているのかなんて、全く見当もつきませんとでも言いたげな、白々しい確信犯を前に(後ろに)して。──ああもう、本当に仕方のない人……! と。ギデオンを神格化するにかけては右に出る者はいないヴィヴィアンも、流石に声を上げて笑うしか無かったのだった。)

……責任?

 ( そうして形無しになった恋人へ、「あーん」と楽しげに給餌したかと思えば、膨らんだ頬を愛でまくり。ギデオン手ずから膝の上へと引き上げられたのを良いことに、視線の下になったつむじをなぞって可愛がること暫く。やおらに正気を取り戻し、真面目な話し合いに移った様子の相手を認めれば、こちらもまや真剣な表情で相手の顔を覗き込むも、その言葉選びがあまりに慎重すぎる故に、真意を理解するには一歩及ばず。──"責任"という言葉に思い当たる節がない訳では無い。しかし、いずれの場合でも、自分はその"責任"をとる必要はない、という文脈で使ったのではなかったか。ギデオンの負担を減らしこそすれ、こうして悩ませるための言葉では一切なかった筈なのだが……。もしかして、男性としての沽券に関わるとかそう云う類のものだろうか。そう一瞬あれこれと考え込みかけて──いけない、と。こうして双方勝手に考え込んだ結果が今回の不安ではなかったかと思い直せば。その叫びの一切を取りこぼさないように、けれども心の柔らかい部分を決して踏み荒らさないよう、じっと静謐な瞳で相手を見つめて。 )

最近のことは……いいの。私も、急に出て行ったりしてごめんなさい。
でも……何が、恐いのか……、
ギデオンさんの仰る、"責任"って……なぁに?





953: ギデオン・ノース [×]
2025-12-09 02:23:38




(相手の美しく澄んだ瞳が、こちらをじっと、注意深く窺っている──自分をよく見てくれている。たったそれだけの小さなことで、“ようやく取り戻した実感がまだ足りぬ”と謂わんばかりにきつく狭めていた腕がごく自然に緩むのだから、つくづく己は単純だ。
その愚かしさを誤魔化すように、「そうだな……」と微かに笑むふりをしながら、青い目を伏せ、数秒ほど沈黙を。言葉を取り繕う真似を冒さなくなっているのは、必要なだけ待ってくれると、相手を信じているからで。「……、」「…………」と、幾度か口を開きかけては、これは違う、そうじゃない、と視線を左右にさ迷わせていた──その果てに。)

……おまえの望みに、応えること。
だから、そのために必要な……ありとあらゆる努力や義務を、毎日、欠かさず行うことだ。

(ぽつりぽつりと呟きながら──脳裏に、声が蘇る。『ギデオンさん……好き、大好きになっちゃったんです! 責任とってください!!』……『責任取って、ちゃんと……私とじゃなくてもいいから、幸せになってください』……『……責任は、取らせてあげない。だからちゃんと……ちゃんと、貴方の気持ちを聞かせてください』。
思い返せばその言葉は、自分たちの関係の幕開けからその節々の変化まで、様々に象りながらも、おそらくはいつだって、ひとつの意味を貫いていた。──私は貴方と一緒になりたい、どうかその望みに応えて。──私は貴方に幸せになってほしい、どうかその願いを叶えて。──私に求められるからそうするなんて許さない、どうか他でもないあなた自身で私のことを欲しがって。そう、ギデオンにとっての“責任”はいつだって、“ヴィヴィアンの望みを叶える”……この一点を意味してきた。
だがしかし、それは決して枷ではないし、重石などにはなり得ない。なぜなら他ならぬ己自身が、彼女の願いを叶えることを自分の望みとしているからで──そうすることによってようやく、彼女の傍にいていいのだと心の底から思えるから。)

……だから、少し……混乱、していたんだろうな。数日前のあのとき、“責任を取るな”と言われて、俺は……てっきり。
お前の傍にいようとする俺が、あれこれを足掻いている様が……見苦しくなってきたのかと。

(──温かなランプの灯を受けたはずのその顔は、他方へ逸れたその一瞬、暗い影へと隠れて見えない。しかし、微かに腕が動いて、再び相手をごく緩く抱き締め直せば、それは何よりも雄弁だろうか。わかっている──わかっている、お前が本来些細なことを気にしないことくらい。それでも俺は違うんだ。十六もの歳の差や、普段目に見えにくいとはいえ生まれついての階級差、そのほかいろいろを踏まえれば──相手の傍にいるために、自分は常に何かしらを果たしつづけていなければいけないだろうと、堅く信じる男の構えで。)





954: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-12-15 02:20:44




 ( 男女の仲で"責任"という言葉が、世間一般に指し示すものといえば。それこそ、いつかのギデオンが危惧していたような、まとまった額の金銭だったり。もしくは、この世界で女性が一人前として扱われるに足る"夫人"の称号、もとい結婚そのものだったり。特にその前者を、稼ぐ力がないと思われるのは、ギデオンのような優秀な男性にとって不本意極まりない侮辱にあたるのかもしれない、と。そう想像していた答えと全く違うそれが帰ってくれば。──ん? と、まん丸にした瞳をぱちくりと、思わずギデオンの表情を覗き込んで。
しかし、それを咎めるかのように微かに緩く抱き寄せられては。視線の合わない訴えに、そこで初めて。どきり、と胸が高鳴ったのは──嗚呼、わかる。わかって、しまうからだ。誰かにとって有益に、誰にとっても好ましく。そんな存在になれなければ、私は誰からも愛されない。大好きなこの場に身を置くことすら、許されない。その心細い感情を、身に染み着いた価値観を。)

まさか…………、ううん。私も、おなじこと考えてた……、って、言ったら。
ちょっとは……安心してくださる?

 ( ギデオンさんを見苦しく思うだなんて、まさか、そんなことは絶対に有り得ない、と。そう強く否定するのは簡単だが。優しい恋人が見せてくれた、繊細な心の柔らかい部分を、強引に否定しようとは思えず。いつもギデオンそうしてくれるように──こつん、と額を合わせれば、「ほら、あの時はグランポートの市長に誤解されていたでしょう……」と。観念したように零した苦笑いは、相手ではなく己に向けた自嘲で。
──あのね、それで……私、本当は……あの時すこし、嬉しくなってしまったの。
そう白状する頬が、自分でもかあっと赤くなっていることが見なくてもわかる。気持ちを通じあわせたこと自体、やっと数ヶ月前のことだと云うのに。人から"結婚"していると誤解されるくらい、それだけお似合いに見えたこと、たったそれだけのことに浮かれていただなんて。我ながらあまりにも子供っぽくて。 ──"厄介だ"と、やはりあの日。他でもないギデオンがそう言っていた言葉を思い出せば。呆れられたらどうしようと、この期に及んで怖気づき。続けた言葉も、ついつい言い訳じみてしまって。 )

ああでも、待って、……ちがうの!!
ちゃんと"わかってる"し、本当に! 私はギデオンさんと居られればそれでいいって、そう言いたかっただけで……貴方に淋しい想いをさせるつもりは、なかったんです。ごめんなさい……。





955: ギデオン・ノース [×]
2025-12-16 02:29:17




────……、

(同じ不安を知っている、だからあのとき嬉しかった。でもちゃんと“わかってる”──一線以上を高望みして困らせるつもりじゃない、だけど、でも、だからといって、一線未満でもないの。
相手が次々畳みかける思いがけない数々に、男のアイスブルーの瞳が唖然としたのは一瞬のこと。気づけばほとんど無意識に、剣だこのある両の掌が、膝上の恋人の柳腰や頭へ滑り。「ごめんなさ──……、」と謝りかけたいじらしい唇を、ごく柔らかに押し黙らせていた。その熱を引き離し、一度間近に見つめながらも。再びわかりやすく目を伏せ、もう一度顔を寄せ──二度、三度、まだ足りぬと言わんばかりに。酒精の華やかな香りを含めて花唇を優しく食むうちに、相手の謂れなき謝罪の声は、はたしてすっかり削げただろうか。
今度こそ顔を引き、こちらを見る恋人をまっすぐに捉え直せば。「……ヴィヴィアン、」と名を呼びながら、しみじみと呟いて。)

“わかって”ないさ。
……なあ、俺たち……お互い、なんにもわかってなかったんだ。

(──思えば当然ではあるのだろう。戦士とヒーラー、古参と若手、男と女、四十代と二十代。ざっと挙げてみるだけでも、自分たちはそう簡単に片づけられぬ大きな違いがいくつもある。ならば各々の捉える世界も、互いに何をどう感じるかも、まるきりちがうものであろうし。それをきちんと伝えなければ、相手が知る術がなく、理解されるはずもないのだ。
……だからただひとつ、それでもたったひとつだけ存在する共通点に、立ち返るべきだった。その確信みなぎる躰で相手を強く抱き直し、真夏にも拘わらずぬくぬく体温を貪って。ようやく帰ってきたとばかりに深い呼吸を繰り返しつつ、相手の耳に口許を寄せ。「一緒にいられればいい、っていうのは、俺も同じだ。それだけで……それが、俺は幸せだ」と、小さな声で告白してから。誓いを立てるかのように、ぎゅう、とより密に抱き締めて。)

──……すまなかった、本当に。これからは、もっとちゃんと……こうなる前に、話をするから。
だから、仲直りさせてくれ。……明日はまだ、先約で埋まってないだろう……?





956: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-12-18 12:30:21




んっ……、

 ( 目を凝らしてよく見ると、幾らか透明なものも混ざり始めた金髪が、魔灯の光を反射して、燃えるように美しく輝いている。その発光せんばかりのオレンジ色の毛先を瞳に映して──つまりは、ギデオンの目を見ることができずに、少し俯きながら。件の謝罪の言葉を口にしていたものだから。にわかにふっと抱き寄せられると、その大好きな唇の感触に目を白黒させるも。二度、三度とその感触を確かめるかの如く繰り返されているそのうちに──……あれ、私、何が怖かったんだっけ、と。それまで萎縮していた思考もぽうっと溶かされてしまい。「……ギデオンさん、」と、その呼びかけに応える頃には、そのエメラルドをすっかりとろんと蕩けさせ、柔らかな体躯をくったりと、意中の男に預けた娘がいるだけで。
そんなヴィヴィアンの告白に、新鮮な衝撃を受けていたギデオンの一方で。この娘はといえば、決してギデオンの"わかってない"を疑っている訳では無いのだろうが、あくまで相手の優しさから来る言葉として、さらりと消費してしまうのは、余程あの"厄介"が悪く作用しているのだろう。それでも、相手から強く抱きしめられて、ただ無邪気にあどけない笑い声を漏らしながら、ギデオンの告白に頬を染めれば。男の提案に此方から唇を合わせたのは、先程そうして謝罪を封じられたお返し──私が謝らなくていいのなら、ギデオンさんも謝らないでという無言の主張こそは忘れないが。合わせていた唇をそっと離して、「ええ、丸一日お休みです……でも、どこかへ行かれるの?」そうきょとんと首を傾げたかと思えば。もじもじと不安そうにギデオンの耳元にそっと顔を近づけて。「それに、あの……あのね、もう、仲直りしたと、思うんですけれど……」と、自分なりに必死に年上の恋人の真意を探ろうとする始末で。 )

──……まだ、仲直りしてなかったら、今夜も一緒に寝てくださらない……?





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