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Petunia 〆/906


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自分のトピックを作る
888: ギデオン・ノース [×]
2025-05-03 09:16:55




(相手の漏らした呟き声があまりにあどけなく聞こえ、思わずふっと笑みながら薄青い目を投げかける。シルクタウンの帰りの馬車でも思ったが、ヴィヴィアンのこういうところは見ていて非常に好ましい。歳を重ねれば重ねるほど無垢から程遠くなるだけに、若い人間の見せるそれにはつい癒しなど覚えるのだろう。……だがしかし、焚火に明るく照らし出された娘の顔をいざ眺めると、そんな愉快な面差しは、ふと静かに消え失せた。ヒーラ娘のまなざしは、どこまでも混じり気のない煌めきに満ちていて……それが何故か、ごく穏やかに、いたましいと感じたからだ。
──北の辺境で生まれ育った、浮浪児上がりのギデオン・ノースと、華の王都で生まれ育った、名家令嬢のヴィヴィアン・パチオ。たまたま同じギルドで働いている自分たちは、思えば年齢だけでなく、実は身分も随分違う。だがそれでも、国内の祭りをあちこち覗く楽しみは、若い時分に貧乏だった自分の方がたっぷり馴染みきっていて……反対に富める彼女には、ああして遠く眺めるような憧れの世界らしい。厳しい学院をとうに出て独り立ちもしているのだから、実際に行こうと思えば、自由気ままに行けるだろうに。或いはやはり、多忙な仕事の合間を縫って女の身で動くには、何かと不自由するのだろうか。……それとも、“そこに行ってはいけない”という大人に言いつけられた教えを、今もどこかで無意識に、従順に守るせいだろうか。
そんな風に考えたから、最初のそれはただ純粋に、己の後輩を可愛がってやりたいという、下心なしのものだったはずだ。「ヴィヴィアン、」と声をかけ、相手がこちらを見たならば、先に予備動作で予告してから、小さなものをぽいっと放る。──腰袋から取り出したそれは、碑文探しに旅立つ前にギルドの事務から御裾分けされた、包み紙入りの薬飴だ。何でも疲労回復の効能があるとかで、このところやつれていたギデオンを気遣ってのものらしい。とにかく、自分の分も口に投げ入れ、しばらく甘味を味わっていたが。やがてコロ……と転がしていた飴をとどめて、軽く噛み砕いてしまうと、皮革の水筒に手を伸ばしながら、何てことのないように誘って。)

この辺りの郷土料理は、俺も恋しかったところだ。タブレットを回収出来たら……ちょうどいい、付き合ってくれ。
祭はしばらく続くから、終わりがけの手頃な屋台にありつくくらいはできるだろう。





889: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-11 16:28:39




──!
ありがとう、ございます?

 ( 自分が舐めるついでの気遣いか。ヴィヴィアンにとっては、唐突に投げよこされたように感じる甘味を軽く両手で受け止めると、相手に習って口内に含む。そうして、コロコロと人前で白い頬を膨らませることすら恥ずかしかった時代があることなど、ギデオンには信じられるだろうか。カレトヴルッフに飛び込んで3年間、自分ではずっと世間慣れしたつもりで、何故これまで憧れの祭典へ赴かなかったのかと問われれば。結局、自分にもその権利があると、その発想さえなかったと答えざるを得ないのだから仕方がない。そうして、薬飴の優しい甘さと薬草の香りを楽しむこと暫く、この時はまだ子供扱いに過ぎなかったギデオンの提案に相応しく、素直に目元を見開くと。「わあっ、本当!? いいんですか?」と、片方膨らんだ頬を無邪気染め、満面の笑みを綻ばせれば。 )

それじゃあ益々早く見つけなくちゃ!

 ( 「ギデオンさん大好き!!」そう元気いっぱい立ち上がったこの頃は、そう遠くない未来、こんな些細な飴では決して満足出来ないほど、自分が相手から目を離せなくなっていくことなど微塵も予想だにしていなかった。
そんなやり取りから、かれこれもう丸一日近くなる。乗合馬車の路線などとうになく、対魔獣用に特別に装備を施した荷台は、普通のそれに比べて倍以上の速さが出る代わりに、乗り心地はお世辞にも良いと言えるものではなく。ビビはと言えば、最初こそピンと元気よく背筋を伸ばし、向かいのギデオンと今回の作戦について真剣な表情で話し合っていたのだが。カダウェル山脈が次第に近づいてくるにつれ、いよいよ本格的になってきた悪路に、紙より白くなった唇を緩慢な動きで抑えると。相棒の許可を得て外の空気を吸おうと、小さく幌を開けた瞬間だった。夕焼けの空にかかる壮大なアーチ、巨人の肋骨に例えられる大コスタ。その知識としてだけは持ち合わせていた、かつて始まりの冒険者たちが踏破した大自然に息を飲むと──ガタンッ、と、一際大きな振動に、為す術もなくころんと後ろにひっくり返り。 )

──……すご、い! これが…………ギデオンさんも見、ひゃっ!?





890: ギデオン・ノース [×]
2025-05-18 00:54:56




ッ、おい、気を付け──……

(外から差す陽に照り映える、あどけない娘の横顔。それを見てくれこそ気怠げにじっと眺めていたものの、突然の揺れに目を大きく見開いたのは、ギデオンもまた同じ。──それでも、籠手付きの手を咄嗟に伸ばして娘の頭をどうにか支え。そのまま床から抱え起こす……かと思いきや、その両頬を包み込むようにして後ろから上向かせ、睨むようにして覗き込む。こちらの座席の鋭い角に頭を打ちつけでもしていたら、いったいどうするつもりだったのか。そんな、思えばこの頃から発動していた過保護気味の心配から、剣呑な声を落としたものの。その気配をふと掻き消して馬車の前方を振り向いたのは、馬車が急停止すると同時に、声が聞こえてきたからだ。「ああっ、まずい──止まれ、止まれ!」と。)

(──結論から言うと、幌馬車での旅路はそこで一旦中止となった。先ほど馬車が大揺れしたのは、巨木の根を回り切れずに勢いよく乗り越えたからで、このとき、巨木に絡んでいた寄生植物の太い蔓が、車体の下の複雑な車輪に巻きついてしまったらしい。そのせいで、頑丈なはずの車輪の一部が大きく歪んでしまったとか。帰路での事故を避けるためにも、蔓を慎重に切り離すほか、車輪の部品を新しく替える必要があるそうだ。
それならそれで構わないと、幌馬車の御者と護衛は、この近場の集落にしばらく置いていくことにした。どのみちこの一帯がエジパンス族の住処のはずだし、馬車の入れない鬱蒼とした森林には、冒険者である自分たちだけで分け入っていく必要がある。かれらと一度別れると、ヴィヴィアンとふたりきりでもう一度森に戻った。日が落ちるまであとわずか……野営を構えるその前に、この辺りの様子のことは少しでも知っておきたい。)

(──がさり、がさりと、蜜に絡んだ下生えを踏み分けて、緑の斜面を登っていく。戦士装束に身を包んで遠い山林に繰り出すのは、実に二週間ぶりだった。たかが半月、されど半月……特にこの数日を思えば、自分自身が現地に出て自由自在に行動できる、これの何と喜ばしいこと。腰に下げた魔剣の重み、そして肺にたっぷり吸い込む森の大気は、こんなにも心地良くしっくりくるものだったろうか。
ベテラン戦士のあるべき姿として、大コスタに近い森を慎重に見渡しつつも、普段は澄ました薄青い目は、どこか生き生きと、少年時代に初めて遠征に出た時のように揺れ動き。時折相手を振り返って声をかけるその響きにも、どこか寛いでいるような、のびのびした気配が乗って。)

……、気になる薬草を見つけたら、好きに採集するといい。集落の許可はとれてるし……お前も土産が欲しいだろう。





891: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-22 22:01:01




…………!

 ( 獣道すらない原生林を、数歩先に行くギデオンに促され、初めてその広い背中と横顔に、自分が見蕩れていた事に気が付く。いくら歴戦の勇士と云えど、必要性がなければ危険な前線より安全地帯を好むのが、生き物としての人間の性ではなかろうか。それが目の前の男ときたら、人の手が及ばぬ魔獣共のテリトリーに怯むどころか、ごく自然にギルドの会議室にいた時より、よほど強い生気に満ち溢れる様子を目の当たりにして──これが、この人が、冒険者ギデオン・ノースなのだ、と。思わず瞳を奪われたのは、この数ヶ月"ハマって"いる戯れとは関係の無い素直な畏敬だ。そんな深い緑を取り込んだ薄青を此方に向けられて、一瞬驚いたように目を見開き、無言で唇を震わせれば。 )

……いいえ。私も──いえ、目の前の仕事に集中させてください。

 ( "私も、貴方のようになりたい"と、唐非常に突な、そして口にするのも烏滸がましい目標を飲み込み、改めてぐっと引き締め直すと。もしその様子を不思議そうに見つめられれば、「お土産でしたら、帰った後ギデオンさんがしっかり休んでくだされば十分です」と、小首を傾げる仕草こそ可愛らしくも強かに、当初の要望を強くねじ込むことも忘れずに。
そうして当初の計画通り、エジンパス族の森を何処か目的地でもあるかのように歩き回ること暫く。ビビがその違和感に気がついたのは、森の精霊たちがにわかにざわめき始めた時だった。そもそも植物性の精霊は概して警戒心が強いにも関わらず、この森では侵入者であるヴィヴィアンらの足音に、興味津々で近づいては時たま木陰からぴょこりと顔を出す者まで。つまり、普段彼らを脅かす木こりが入って来れない人ならざるものの領域で、その鈴を転がすような笑い声がピタリと止んだのを感じ取れば。果たして、尊敬する相棒と目を合わせたのはどちらからだったか、 )

──……ギデオンさん。



892: ギデオン・ノース [×]
2025-05-26 00:44:34




──……“この辺りみたいだな”。

(魔力の豊富な相手と違い、ギデオンの目に精霊は視えない。それでも森の気配が変わり、かれらとは違う何者かに囲まれだしたと気がつけば、振り返った薄青い目にいっそ愉快な色すら浮かべ、悠然と一芝居を。盗人亜人エジパンス族は、人間世界に本能的に興味を持つその性質上、人語を解することができる。当然、こちらに忍び寄っては、その会話に聞き耳を立てて注意深く窺うだろう。それを逆手に取ってしまえば、嘘を信じ込ませることだって、こちらにとって容易いわけで。
それからの小一時間、ヴィヴィアンと共に野営の支度を進めながら、無防備な調査隊として、如何にもそれらしい会話を垂れ流しておくことしばらく。ふと懐から取り出した、精巧な“処女”のエメラルド碑文。それを魔法で輝かせれば、やはり周囲に潜む気配に、明らかな動揺が波紋のように広がった。──やはり、当たりだ。心の内では拳を固く握り込みつつ、上辺は素知らぬふりを。「朝になったらこいつの続きを捜し出そう」と……まあこれは、こちら側の本懐ではあるのだが、とにかくそう言い交わしてしまえば、あとはいよいよ寝入る様子を装うだけだ。
今宵のうちに、追跡魔法をかけた碑文をわざとかれらの手に渡らせる。その後を追えば棲みかがわかり、盗み出された本物をこの手にようやく取り戻せる。ギデオンのその計画は、本来ならば間違いなくそのように行くはずだった。しかし、そこには誤算がふたつ。……梢の上の雲間から、神秘的な月明かりが煌々と降り注いだこと。そしてそれに照らされたのが、眠るふりをするヒーラー娘、カレトヴルッフの誇るマドンナ──ヴィヴィアン・パチオだったことで。)

(──こちらを囲む亜人の気配が、何やら……妙なものに変わった? ギデオンがそう察知してそっと薄目を開けた瞬間、ざっと顔から血の気が引いた。月光の差す原生林にて、いよいよ姿を現しはじめた、山羊脚の亜人族の群れ。彼らは何故か、すぐそこに置いてある碑文のレプリカに目もくれず、皆が惚けたような──どこか見覚えのある──顔で、ヴィヴィアンの横たわる方へ、ふらふら吸い寄せられていくのだ。
作戦をかなぐり捨てて魔剣を掴み身を起こしたのと、臆病なエジパンス族がびくっとこちらを向くのが同時。何やらみょうちきりんなポーズで固まったものまでいたが、かれらはすぐに我に返ると、途端に激しくいなないてそれぞれ行動に出始めた。──弓矢をつがえてギデオンに放つ者、ヴィヴィアンの杖を盗んで懐に仕舞い込む者、森の精霊に何やら命じて木の蔦を奮い起こさせる者。どういうつもりか知らないが、こちらの読みが大きく外れ、攻撃されていることはたしかだ。斜面の岩を足場にして矢の雨を除けきりながら、杖を盗んだ一頭に雷魔法を叩き込み、肉薄して奪い返したその大切な仕事道具をヴィヴィアンの方へと放る。話し合う暇はない、今は防戦に出なければ。)

──ッ、受け取れ!





893: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-28 13:00:09




──……はい、

 ( 亜人族達の気配を察知して、思わず固く表情を強ばらせたビビに対するギデオンの返答は、ごくごく自然な違和感を感じさせないそれだった。首都キングストンの冒険者ギルドで、伊達にその上層部に名前を連ねてはいないということだろう。そのまま自然に会話をしているようで、ギデオンの質問や指示にビビが短い相槌を打つといったやり取りを何往復か──これは、大変な人を目標に持ってしまった。せめて足手まといだけにはならないようにせねば、とへこたれそうになる頭を上げ、気を引き締め直したヴィヴィアンに。しかし、その名誉挽回の機会は思ったよりも早めに訪れたのだった。 )

ありがとうございますッ!!

 ( 汚い嘶きに飛び起きて、ギデオンがとり戻してくれた杖を受け取れば、「触らないでっ!」と、此方へと躙り寄って来る一頭へ先日ジェフリーにもお見舞した一撃を。しかし、瀕死の悪党を沈めた一撃も、山の亜人には大して効いていないようで、叩かれた頭を掻きながら立ち上がる亜人にギデオンの元へと飛び退くと、その途中で──……やった! と。視線だけで確認したのは、後ろに飛び退るその瞬間、迂闊を装って踵で蹴飛ばした革鞄、そしてその弾みに衆目の下に晒された処女タブラ・スマラグディナの贋作で。そうして、無防備にも世紀の秘宝を慌てて拾いに行こうとした娘を止めたのは、頼りになる相棒か、手癖の悪いエジパンス族だっただろうか。 必死──なのは、手強いエジパンス族を目の前にして演技では無い。尚も色呆けした表情で此方へ踊りかかってくる亜人に対し、己の杖を構え直せば。間を置かせずに詠唱するのは、前衛であるベテラン剣士に対するバフ、腕力、体力に対する増強魔法。それも相手に合わせてカスタムした特別仕様で。転がった"餌"を一頭が懐に入れたのを確認すると、背後の相棒と視線をかわし頷いて。 )

ギデオンさん、援護します!!




894: ギデオン・ノース [×]
2025-06-02 07:54:28




──ああ、頼んだ!

(魔剣の柄を今一度強く握り直せば、なみなみと湧き上がる底知れない生命力。ここまでしっくり来るバフは、その道およそ云十年の熟練レベルであるはずで、相手と合わせた薄青い目を、面白がるようにふっと狭める。──ワーウルフ狩り、ファーヴニル狩り、アーヴァンク狩りに呪傷の治療。相手の支援を受ける機会は、これまでたしかに幾度かあった。しかし決して多くないし、己と彼女が組みはじめてから、まだ二ヵ月も経っていない。それだというのにこの娘は、既にギデオンの身体を読みきり、的確な支援魔法を最高効率で寄越してくれる。前衛の戦士にとって、それがどれほど快いことか。
──襲い来る蔦を足場に天高く躍り上がり、月を背に大きく反転、そこから一直線に落下。右手の魔剣の切っ先を稲妻のように閃かせ、力強く着地すれば、こちらを狙って蠢いていたこの森の巨大な蔓が、数秒の遅れを持ってばらりばらりと裂けていく。眺めていたエジパンス族たちに「!?」と走る動揺の波。かれらが皆一様に蹄を一歩下がらせた、その中央で立ち上がるこちらのほうは、まだ戦るかというように軽く不敵な笑みを浮かべて。ここでようやくエジパンス族も、稀代の天才ヒーラーの支援を受けた魔剣使いが、たった単騎でどれほどの脅威になるか、呑み込み始めてくれたようだ。リーダーらしき一頭が大きな震え声で嘶き、皆森の下闇に飛び込んでの一斉退却が始まった。このまま一度逃がしてやってもこちらは問題ないのだが、しかし一応、手持ちの碑文を盗まれたというふりは貫かねばならない。「ヴィヴィアン!」と相手の名を呼び、最低限の荷を回収して共に同じく闇へ繰り出す。
──駆けるふたりを照らし出す、木々の根に茂る夜光草、時折差し込む月明かり。先を行くエジパンス族は小癪なルートを選ぼうとするが、冒険者であるギデオンたちは、そもそも身体能力がそこらの常人と桁違いだ。時折待ち受ける障害ですら、己の魔剣か彼女の杖が容易く無力化してしまうから、こちらを振り向くエジパンス族がぎょっと二度見をするのが見える。それを受けてふっと笑うと、真横の娘にちらりと目を向け、息も乱れぬひと声を漏らして。)

ヴィヴィアン──……楽しいな。





895: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-10 19:41:53




──……! 
はいっ!! とっても楽しいです……!!

 ( ギデオンの発言に一瞬、思わず反応が遅れたのは、その内容があまりに予想外だったからだ。人の領域外れた危険な森で、屈強な亜人と対峙しているとは思えない単語に目を瞬き、そもそもこの件が起こった経緯を考えれば。決して楽しいだなんて言えない──言ってはいけない、不謹慎だとさえ思うのに。ギデオンの言葉を咀嚼するほど、それ以外の言葉で今の気分を言い表すことができず、くしゃりと満面の笑みで頷いて。これは相手に任せたいと思う前に太い草蔓が木っ端微塵に切り裂かれ、これは自分で対処した方が早いと描いた軌道は邪魔されない。相手の呼吸が、鼓動が、魔素の流れが、手に取るようにわかる、まるで自分の何十倍も強く賢い相手が自分の身体の一部になったような一体感といったら。しばらく続いた追いかけっこも終盤、山羊亜人達がほぼ垂直に近い崖を逃げていく様子に、ここらが一旦潮時だろうと脚を緩め。まろい頬を薔薇色に上気させ、華奢な肩を小さく上下させながらギデオンの方へ振り返れば。 )

…………すごい、スゴイすごいっ!!
なんで!? 私の考えてること、ギデオンさん全部ご存知だったんですか!?
グンッてやったらバァンッてなって……気持ち良かったぁ、ありがとうございます!!

 ( きゃあっとその場で飛び跳ねるヒーラー娘の瞳には、ベテラン剣士への深い尊敬が満ち溢れ、未熟な自分に相手が合わせてくれたのだろうと、まず微塵も疑わない様子で栗色の尻尾を振りたくれば、擬音過多な感動を爆発させ。そうして、尊敬する相手に改めて、自分も役に立たねばと目を細めれば。深い懸崖の下、鬱蒼と茂る森の中でも、事前にかけておいた探索魔法の魔素が辿れることを確認すれば。今後の作戦を確認しようと、再度ギデオンの方を振り返り。 )

まずはあの人達が住処に帰るのを待たないとですよね。
ばっちり魔素は追えてますから、今度は私に任せてくださいね……




896: ギデオン・ノース [×]
2025-06-12 10:46:39




っくく、ああ──頼りにしてるぞ。

(わくわく張り切る娘を前に、とうとう堪えきれなくなって籠手を口にやり吹き出しつつも。その声を和らげてふと穏やかに投げかけたのは、薄青い目に滲ませる紛れもない感心だった。──いやはやまったく、大したものだ。相手はまるで、ベテランであるこちらが全て合わせたように言ってくれるが、あらゆる動きがしっくり噛み合い、全てが自由に無限に叶う……そんな不思議な一体感を得られていたのは、ギデオンもまた同じ。こんな感覚、それこそ十年以上前に、同じ魔剣使いの“相棒”がいた頃が最後だったと思っていたが。……この春から始まった妙なあれそれを差し引けど。この元気な若手ヒーラー、後輩ヴィヴィアン・パチオとは、どうも相性が好いようだ。
──ギデオンのその確信は、それから続く碑文奪還の任務の上でも、ますます深まる一方だった。翌朝早くに森に分け入り、エジパンス族の巣窟に突撃しての大暴れ。その一部始終において、戦士とヒーラーのふたりだけでここまで掌握できるものかと思わず苦笑してしまったし、何なら近場の集落が盗まれた財産もついでに取り返した次第。しかしさらに優れていたのは、ヴィヴィアンの機転により、なんとこの亜人族をやっつけるだけでなく、周辺の同類含めた一定の協定さえ、魔法で結ばせてしまえたことだ。……奴らはどうも、いつぞやの川のあの迷惑齧歯類同様に、稀代の乙女ヴィヴィアン・パチオの虜になってしまったらしい。故に、人類が追い求める錬金術の奥義より、かのヒーラーが作りだした世界に唯一の贋作の方が、よほどプレミアと思ったようで。仕方なく、彼女がマテリア・プリマの節を消して己のサインを上書きすれば、大歓喜するエジパンス族のまあなんとも鬱陶しいこと。これで平和になるならいいか……と、ヴィヴィアンが眉を下げる一方。ギデオンの方と言えば、すっかり懐いたふりをしてヴィヴィアンに撫でられている十数頭のエジパンス族の幼獣に、相次いで渾身のドヤ顔を見せつけられる羽目となった。──そうだ、そういえば。奴らは本来、“他人の所有する”価値ある財産に高い価値を見出すという、捻じれた性根の生きものである。ヴィヴィアン絡みで何だか妙に改心したと思ったら……いや待て、何故奴らがにやにや見るのが俺なんだ、と。ギデオンがうっすら駆られたその複雑な心境を、野性的な亜人族こそが余程的確に捉えていたとわかるのは……しかし一年後の話。)

(──ともかくこれで、失われていた人類の秘宝、タブラ・スマラグディナの一片は、無事人類の手に戻った。近隣の牛追い祭りは、近場の集落への財産返還の手続きであいにく逃がしてしまったが、ギルドのある王都でもまもなく祭が始まるから、ヴィヴィアンもそう惜しい思いをしつづけないで済むだろう。
戻った碑文の行く末は、ギルドマスターから学院経由で、外部に委ねることとなった。ガリニア絡みということでなかなか大事ではあるが、向こうの客員教授であるヴィヴィアンの父ギルバートが、その辺りはかなり慎重に根回しをしてくれたらしい。しかし同じ教授でも、カレトヴルッフ相手にごねた元のクエストの依頼人、あのローゼン・クロイツァーに内通している老人は、何やら余罪も出てきたことで、王立憲兵団の取調室に強制移送されたとか。これだけ迷惑をかけられたのだ、奴の企みのあらましをこちらも知りたいところだが……しかしこの事情についても、ギデオンたちが聞き知るのは、やはりしばらく後となる。
──騒ぎを招いた張本人、マルセルとフェルディナンドは、今日も元気にギルド厩舎の馬糞の処理を担当中だ。連日ひいひい喘いでいるが、こればかりは仕方ない。かれら皺寄せに翻弄されたギルド幹部の望みときたら、どうせ自分たちの休みはまだまだ先になるからと、いつもギルドを支えている掃除夫や見習いたちに休暇をやることだったのである。棚ぼたの褒美を得られた彼ら一同は大喜び。うだる暑さを迎える前に、家族や友人とのひとときで羽を伸ばせることとなった。)

(──そうしてカレトヴルッフに、盛る夏を迎える前の静けさが戻ってきた頃。しかしギデオンはと言えば、カレトヴルッフ本舎四階・執務室の横にある、あの休憩室にてひとり、何やら書類を見つめていた。本来事務員でもない人間は閲覧できない代物なのだが、己は一応ランクⅥ、加えて普段携わる業務内容の特殊さから、こういった機密情報に触れる権利を密かに得ている。……それによれば、あの溌溂とした若い後輩、ヒーラーヴィヴィアン・パチオには、ギデオンの知らぬところでいくつか苦労があるようだった。
──端的に言えば、彼女が加入している保険が、今は不完全なのだ。キーフェンなどに比べればこれでもかなりマシではあるが、この国トランフォードもまた、女は男の署名がなければ得られぬものが山ほどある。保険周りもそのひとつで、これは元々彼女の父ギルバートが署名をきちんと付していたが、彼がガリニアで勤める間に、更新するべき数々がすっかり放置中らしい。忙しいあの方のこと、愛娘の身のことは誰より案じているはずだが、こういった些事については失念しているのだろう。とはいえ先日の娘の手紙に即刻返事を寄越したように、あまりにも忙しくて知らせが届かぬわけではない。……おそらくはヴィヴィアンの方が、自分自身に関することでは連絡を取れずにいるのだ。
とにかく問題は、今もおそらく書類周りで面倒が生じている上、もし万が一のことが起これば、あの明るく元気な娘が、かなりの不利益を被ってしまうということ。これは完全にプライベートな事情であり、上司が立ち入るべきでは無いが、一度知ってしまったからには、今更見過ごすことはできない。……以前から考えていたことは、やはり実行に移すべきだな、と書類から顔を上げたのと、コンコンと控えめなノックの音がしたのが同時。「入れ」と促しながら、保険の書類は脇へ仕舞って。)





897: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-14 01:31:40




 ( 時を遡ること約一週間、様々な感動に満ち溢れたガダヴェルでの大冒険が始まる数日ほど前。若手ヒーラー・ヴィヴィアン・パチオは、密かに胸を高鳴らせていた。それは、帝国魔導学院から届いた協力要請の書面とは別にもう一通、とある手紙が娘の元へと届いていたからだ。今回協力を仰いだガリニアの学者──もとい、ヴィヴィアンの父親にあたるギルバート・パチオから、一人娘に当てた一通の私信。流行の薄紙を使った便箋には、お堅い時候の挨拶や今回の事件についての個人的な主観の他、"久しぶりに顔が見たい"、と。忙しいパパが、私に、会いたいと!! この話の流れだ、魔導学院からギルドへ協力しに来てくれる代表者はパパなのだと──てっきり、そう信じ込んでいた娘の下を、つまりカレトヴルッフを訪れたのは、顔も知らない歴史学者の青年だった。
 とはいえ、彼個人の名誉の為にいうと、学者の仕事は非常に素晴らしかった。盗まれた碑文が、いつどこで出土した代物なのか、確かな文献とともにあっさり提示し、ついでに“薔薇十字原理教団”が多用する管理魔法の痕跡さえ、捜査の証拠として正式に使える形式で並べられては誰もが感心するしかない。あとから話を聞けば、今の帝国では右に出る者はいないと謳われるその道の第一人者ということで。ギデオンらの活躍をもって尚、彼の存在がなければこんなに早い事態収拾は望めなかったであろう大物の出国を、よくもあの帝国が認めたものだと、カレトヴルッフ側が感心していた時期を同じにして。そんな彼の出国に一番大きく貢献した大魔法使い、愛する娘が自分を頼ってくれたことに、密かに浮かれ回っていたギルバート・パチオが──例の私信を出すに至った、それを進めてくれた研究助手から、「そうじゃないでしょう!」と。何故アンタが行かなかったのか、「娘さんに"会いたい"って、今度こそ書けたんでしょう!?!?!?」と、持ち前のコミニケーション下手をボコボコに叩かれていたのは別のお話。 )

…………。

 ( 閑話休題。カレトヴルッフに激震を走らせたタブラ・スマラグディナに纏わる一連の事件が収束し、いつも通りの日常が帰ってきたギルドにて。此度大変お世話になった教授に感謝を伝え、辻馬車の駅までお見送りから帰還したヒーラー娘は、普段元気よく揺れている尻尾をしょんぼりとさせ、とぼとぼと長い廊下を歩いていた。──忙しいって、わかってたのに。普段滅多に個人的な連絡を寄越さない父からの手紙に、ただの社交辞令を真面目に受け取ってしまった自分が恥ずかしい。子供じゃないのに、こんなことで落ち込んで、会いたかったのは、あんなにお世話になった教授じゃ無かったなんて失礼だ。そうして、ふ、と自嘲を漏らし──いけない、と。暗い気持ちを物理的に振り切るように首を振れば、ぱたぱたと真っ直ぐ走り出した先は、ドクターのおじ様に聞いた"彼"の居場所。こんな酷い気分の時は、誰か他の人に構いつけ、忙しくなってしまえば自分の事など忘れてしまえる。そんな破滅的な思考を自覚していた訳ではないが、担当治療官として任務後の相手の体調は、他意なく確認しておきたかったところ。ワーカーホリックな相手のことだ、もたもたしているとすぐ様次の依頼に向かってしまう前に捕まえなくてはと。ノックの返事を待って勢いよく部屋に飛び込めば、いつもの通りの人懐こい笑顔で擦り寄って。 )

お疲れ様です、ギデオンさん!
今先生を送ってきたんです……あれから傷の調子は如何ですか?




898: ギデオン・ノース [×]
2025-06-14 14:45:24




ああ、いや……まったく問題ない。
おまえの狙い通り、新しい調合が効果を発揮しているらしい。

(てっきり伝令の見習いか誰かだろうと思っていたその矢先、まさか思い描いていたヒーラー娘本人が飛び込んでくるとは思わず。一瞬大きく目を瞬き……とはいえ動揺を隠すべく、すぐにいつもの気怠げ顔を。「来週もまた調整して、それで問題がないようなら、外部の精密検査には行かなくて済むようだ」──と、それで時間が浮くことのほうをありがたがるような口ぶり。しかし実際、相手の全てにつくづく感謝しているのだと、擦りつく娘を以前ほどは遠ざけずにおくことで、多少は示せているだろうか。)

今回の件、改めて助かった……おまえがうちにいるんでなけりゃ、もっと大事になってただろう。

(ため息交じりにそう言いながら横の椅子に座らせて、これを見ろ、と促したのは、丸テーブルに広げていた今朝付の新聞だ。窓から差し込む夏の陽で明るく輝くそれによると、なんでも隣国ガリニアが、自国の古代の歴史に関わる美術品の流出を巡り、北方の周辺国と火花を散らしているだとか。……もしトランフォードのほうでも、碑文と先住民の件でひとたび狼煙が上がったならば、この記事に書かれているのと似たような厄介ごとが膨れ上がっていただろう。事態が大きくなる前に碑文そのものを回収し、それを誰より適格なガリニア人の手に渡す。ただひとつの正解をここまで早くこなせたのは、偏にパチオ父娘のおかげだ。
──しかしそのギルバートは、今もあちらの学院にいるまま。今回こちらに寄越してくれた歴史学者がおそらくはそうしたように、特権でも何でも駆使してワイバーンに乗ってくれば、ほんの一週間もかからずこちらに戻ってこられるだろうに。とはいえ、なかなかそんな時間も建前も取れないお立場なのだろう。そしてヴィヴィアンのほうもまた、契約の更新の件を長らく伝えていないとなると──……と。
相手が読み終わったと見て新聞を四つ折りにすれば、その下から現れた数枚の羊皮紙を、相手のほうにふと滑らせ。とんとん、と指の頭で空欄を指し示してがら、胸ポケットから取り出した少し特殊な羽ペンをテーブルの上に置く。──本人が少し魔素を込めれば、それが中のインクに混ざる公文書用の羽根ペンだ。通常、ギルド内の報告書にわざわざ使う代物ではないが、今はそれしか持ち合わせがないんだ……というような声の調子で通しながら、他にも広げていた書類を封筒に纏める間。相手が目を通す書類の最後、クリップで留められた少し紙色の違うそれらは、既にギデオンの署名が為された、『魔獣討伐者身元保証書』『第2号連帯保証書』『一通扶助新規適用届』……等々であるはずで。)

ついでだ。今回の件で俺が出さなきゃならない書類にいくつかお前のサインがいるから、ここで書いていってくれ。





899: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-16 03:27:41




そんな……私自身は大したことは何も。
でも、ギデオンさんのお役にたてたなら嬉しいです。

 ( 相手の体調の確認も済み、大好きな相手からの感謝に、えへへ、と促された椅子に手をかければ、長い脚を斜めに引き美しい仕草で腰掛けて。そうして、受け取った記事に、ギデオンからの評価を実感し、じわりと頬を赤く染める一方で、形の良い眉尻を八の字に下げ、「大事にならなければ良いんですが……」と、自分らが免れた不穏を他人事として、僥倖だったと切り捨てられないのは性分だろう。どこか複雑そうな表情で、読み終わった新聞を返しながら、代わりに差し出された書類に「サイン?」と小さく身を乗り出せば。慣れた動きで魔導率の良いペンをふわりと浮かせて引き寄せると、椅子ごとテーブルの方へと向きを変え、長い睫毛を揺らしながら、また小さい文字の並んだ書類を、特に苦もなく目を通していき。 )

…………。……!!
ギデオンさん、これ……!!

 ( そうして、まずは一枚目、それから二枚目の『魔獣討伐者身元保証書』と『第2号連帯保証書』に視線を滑らせていた時は、まだ困惑しつつも悪くなかった顔色が、『一通扶助新規適用届』に至った瞬間、さっと薄く青ざめる。本来であれば、『相棒届』に対しても、何故こんなに唐突にだとか、人の承諾を得る前に申込もうとしてくれるなだとか、そもそも勝手に人の情報に当たるなでも。ギデオンの少し(?)行き過ぎた行為から守るべきは自分の身だったろうに、問題の書類を見た途端全て吹き飛んでしまい、思わず立ち上がりながら、必死の表情でギデオンの方へ向き直り。 )

違うんです!!
パッ……父は!! 元々ちゃんと入ってくれてたんです!!
更新を……更新を、わ、"私が"、忘れてただけなんです!!

 ( 本当は、違う。ヴィヴィアンはその保険の通知先を、ガリニアのギルバートの住所にしていた。故に約3ヶ月ほど前の更新手続きの書類も、そちらに届いているはずで。しかし、借りぐらしのアパートにまともに帰りつきやしないのか、それとも見た上で失念しているのか。どちらにせよ、忙しい父親に催促するのが申し訳なくて、躊躇っている内に切れてしまった保険を相手に見られたという焦燥が背中を濡らして。たった一人の肉親から、あまり関心を向けられていないだなんて、寄りにも寄ってこの人にだけは知られたくない。ましてや、"パパの大切な人を殺した私が悪いのに"、私のせいでパパの評価が下がるのはもっと嫌だ。その一心で、相手の拳を両手でとると、どこか焦点の合わない必死な視線で、父の名誉を守ろうとすがりつき。 )





900: ギデオン・ノース [×]
2025-06-21 22:51:04




わかってる──わかってるから、落ちついて聞いてくれ。

(──流石に勘が良いな、などと、取り乱す娘を前にモラルを欠いた感慨を得るも。その上辺の表情だけはいつも通り涼しげなまま、すべらかな手を優しく払い、逆に包み込むようにして、卓上に軽く抑える。会話の主導権を穏やかに絡め取りたいときに、若い頃からよく使ってきた手だ。さらに念には念をとばかりに、椅子の上から身を乗り出し、薄青い双眸で縫い留めるように相手の翡翠を覗き込んで。──そこらのぼんくら冒険者に何か一筆書かせるときは、いいから黙って従えと言いつければそれでよかった。だがしかし、頭脳も学歴も充分なこの若い娘には、同じ手管は通用しない。まずは不安を取り除きながら、ギデオンなりの誠意を……一応ちゃんと嘘偽りではないそれを、感じ取ってもらわなくては。)

いきなりこんなのを出したりして悪かった。……お前の状況を勝手に調べたりしたことも。
だが、こいつは……グランポートから帰ってすぐに考え始めていたことでな。
頼む、この機会に相談させてくれないか。

(乞うようにそう呟けば、そこで一旦視線を外し、テーブルの上の書類にその視線を走らせる。相手がそれに倣おうものなら、空いた片手で滑らせるように扇形に書類を広げ、そのいくつかを引き寄せて、共に向き合うよう誘うだろう。身元保証書、“二号”に“一扶”。この組み合わせだけでただ解釈するならば、相手が青褪めたその通り、まるでこちらが出しゃばって、彼女の父親代わりにでもなろうとしているかのようだ。しかし実際はそうではない。今回ギデオンが持ち掛けたいのは、この申請の先にあるもの。──ヴィヴィアンとの正式な、公的な相棒契約だ。
「今年から、ふたりで仕事をすることが増えたろ」と。敢えて相手と顔を合わさず、重ねていた手もようやくどけて、彼女に考える余地を与える。シルクタウン、グランポート、それから今回の碑文探しと、幾つかクエストを共にする中で、互いを相棒と呼ぶことは、確かに何度かありはした。……だがそれはあくまでも、その都度限りの関係で。毎回パーティーが解散すれば、後はただの一冒険者同士に過ぎず、互いに何の恩恵もない……そのはずだったというのに、しかしふたりの関係が決定的になってしまった部分がある。シルクタウンでのあの夜のことではない。ギデオンがグランポートでレイケルの呪い傷を負い、ヴィヴィアンがその治療を引き受けるようになったことだ。
優しい相手は一も二もなく担当ヒーラーとなってくれたが、それこそが問題だった。今のギデオンの右肩は、天文学的な確率で適合する魔素を持つヴィヴィアンにしか癒せないが、彼女自身による継続治療が欠かせないということは、ギデオンの具合に合わせて、ヴィヴィアンが自分の依頼を調整せねばならぬということ。老兵の世話のため、若い女性冒険者がそのキャリアに制限を受ける……これはよくある話だが、本来ならばあってはならない。これまで業界全体で連綿と続いてきたものを、ギデオンはこの優秀で気立ての良い大事な後輩に負わせてしまいたくはなかった。……よりによって、かつて慕った“シェリーの娘”なら尚のこと。その彼女にどうせ負担を強いねばならぬというのなら、こちらもその分恩返しを。それはごくごく当然の、自然な道理であるはずで。)

……冒険者同士が助け合うための契約には、いくつかの種類がある。俺たちはまだ仕事を組みはじめたばかりだから、本格的な内容のものはまだ承認が下りないだろうが……それでもこの書類でなら、過去の特例を引き出して通せるし、部分的には新しい先例も拓けるんだ。
だから何も、親父さんとお前の問題に首を突っ込むためじゃない。ついでにそこも助けられるなら一石二鳥、というだけで……俺の真意としてはあくまで、この先も今以上に、お前の治療を堂々と頼れる立場にしてほしい、といったところだ。





901: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-25 23:37:11




お気遣い、ありがとうございます……。

 ( ──また、だ。また、一体この人は何故こうもビビに頼るのに申し訳なさそうにするのだろう。年齢? 性別? 未来の後輩達のための先例作り? いつかの海上でのやりとりを、覚えていてくれているのだろう。ビビの名誉を傷つけないよう、かなり言葉を選んではいるものの。『堂々と頼れる立場にしてほしい』という言葉とは裏腹に。まるで、自分にその価値はないとでも言うかのような。その言葉の本質が変わっていないことくらい、付き合いの浅い自分でも分かる。次第にその卑怯な薄氷が何気なく逸らされた気配に、それまで、大きさも、厚みも、皮膚の薄さの違いからくる触り心地までも、その全てが自分とは違う掌に絡め取られた時から俯いていた視線を上げ、今度は此方から真っ直ぐな翡翠で相手を射抜き返せば。__やはり目の前のギデオンは今日だって一段と美しい。いや顔立ちの話だけではなく。人一倍の長身に見合った素晴らしい体格、剣を握るための形をした大きな掌、それら全てが見かけだけではない、実際に人々を守ってきたそれだと言うことは、キングストンの誰もがよく知っている。そして、その恵まれた腕力を司る理知的で、理性的な頭脳。まるで神話の英雄のようなどこをとっても精悍で、その存在を脅かせる物などないほど強く、賢く美しい大男だというのに、そのどこか非常にアンバランスで、ともすれば簡単に突き崩してしまえそうな危うさに目が離せなくなっていたことに、この時はまだ無自覚だった。
 とはいえ、そんな娘にとって、男から『頼れる立場にしてほしい』と、合法的にこのベテラン剣士に纏わりつける口実、もとい言質を抑えられたのは僥倖だ。自らの衝動の理由も自覚せぬまま、これでこの人をぬい止められるなら良いと。そう思えば、ビビの身上に、相手のサインを載せられる余白があったこと、保険に不備があったことはラッキーだったのかも。なんて、そんな内心の嘯きは、心の傷を癒すための強がりだったが。「確かに、この契約を結んでいただければ、私はすごく助かります。それで私以外の誰かの助けになれるなら、おっしゃる通り一石二鳥で、光栄です──」と。そこで、音を立てながら椅子を引き、すっくと立ち上がると同時に、今度は相手にやり込められぬよう、男が立ち上がる経路を塞ぐかのように上半身を乗り出し、相手の瞳に写る自分の顔が見えるほどの至近距離で見つめ返せば。これだけはなんとしてでも伝えたい、伝えなければならないことを。非常に堅い意志にそのエメラルドをギラギラと強く光らせて。 )

__でも。
私がギデオンさんを治療するのは、女だからでも、若いからでも、契約のためでもありません。
私が、ギデオンさんをそうしたいから、するんです。
ギデオンさんのことが、好きだから!!




902: ギデオン・ノース [×]
2025-06-26 04:22:47




(自身の心の持ちようにどこまでも無自覚な、ギデオン・ノースにしてみれば。相手の娘、ヴィヴィアン・パチオのその剥き出しの愛の台詞は、酷く唐突に聞こえたはずだ。何をいきなり、なぜそこに話が戻る、何をそんなに必死な面で。本来そんないろいろを、目を瞬いた上の眉間に皴のひとつでも寄せながら、ため息交じりにぼやくつもりが……しかし、実際のギデオンはちがった。その気配こそうっすらとだが、静かに凍りついていたのだ。
引き戻される──否応なく──もう二十五年も前の、色褪せたはずのあの夏に。もう遠い記憶の向こうで霞んでいたはずのあのひとも、今ここにいるヴィヴィアンと同じことを言っていた。……いや、違う。あのひとの目は違う。たとえよく似た翠緑だろうと、恩師シェリーの瞳には、こんなにぎらぎら燃え盛る眩い激しさはなかったし、こんなにギデオンただひとりにがむしゃらな顔もしちゃいなかった。あのひとはもっとずっとおおらかで、穏やかで……けれどいつも、どこか少し哀しげで。その陰を隠した笑顔からずっと目を離せずにいたのは、ギデオンの方だというのに。彼女は酒焼けでしゃがれた声で、それでも……心底愛おしそうに。

──ギデオン。
アタシがアンタの面倒を見るのは、ギルドにやらされてるからでも、雑用係が欲しいからでもない。
アンタのことが可愛くて、そうしたいから、そうするだけなんだよ。
アンタのことが、大事だからだ。)

────……

(──しかし、それでもかろうじて。表に現れる動揺は、頼りなく揺れ動く薄青い双眸のみだった。それが一度横に逸れ、どこへともなく落とされたのは、ともすればきっと、ただ単に相手の言葉に心が動かされたように見えもすることだろう。それはあながち間違いではないのだが、しかしこの時のギデオンは、もっと深くにあるものを見過ごしてしまうべく、それを装うことにした。──拳を上に持っていき、彼女のまろやかな白い額を軽く小突くふりをして、ふわりと仕方なさそうに笑う。これはあくまでこのふたりの会話だと、自分に言い聞かせるように。)

……言ったろ、「お前を頼りにしてる」って。
ちゃんとわかってるから、そう心配するな。






903: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-30 01:17:20




……信じてますからね。

 ( ──ああ、全く本気にされていないな。こういった時、説得力に欠ける自分の社会経験の無さがもどかしくて、むうと唇を尖らせつつも、上半身の距離感を正常に起こした娘にはまだ、相手の密かな動揺の真意は読み取れなかったらしい。それでも、『“お前を”頼りにしている』と言う相手に一旦矛を収めるくらいには、その言葉を嬉しくも感じていたものだから。まもなく来たる建国祭、頼りにするどころか、一人の個人としてさえも認められていなかったと信頼を裏切られ、二人がひどくすれ違うのはまた別のお話。
 閑話休題。そうして、手元の書類に再度向き直れば、手元のそれを便宜的な制度と見做しつつも、憧れの相棒届が手元にある感慨に、気づけばため息を漏らしていた。かつて、やはり相棒関係にあった先輩方お二人へ憧憬の念を向け、そんないいもんじゃないと、身寄りのない者同士の利害関係だと切り捨てられて、うすら寂しい思いをしたのはいつのことだったか。この関係だって、あくまでギデオンの負い目を減らすためのギブアンドテイクにすぎないのだが、それを承知の上、密かに幼少期からの夢に浸るくらいなら許されるだろう。──ギデオン・ノースの相棒ヒーラー……なんて。赤く艶のある唇に弧を描き、ヴィヴィアンの署名のために残された空欄の上の欄、男性らしい筆跡で滑る剣士の名をそっと撫で、手に取ったペンに魔力をこめると。窓から吹き込む外の風は、いつの間にか夏らしい雰囲気を纏っていた。)

__……その、私ばかり……じゃなくて。
どう、したら……ギデオンさんにも、喜んでいただけますか……?

 ( そんなガダウェル山脈でのタブラ・スマラグディナ捜索、及び初めての相棒契約から約一年。その間様々な事件が二人を取り巻き、その関係性に"相棒"以外の称号が加えられても。──優しい相手から貰ったそれ以上に、自分もまた相手のために尽くしたい、という想いはずっと変わらなかった。
 とはいえ、まさか本人も、それが褥の上でも対象だとは、自覚していたわけでは決してあるまい。
 時分は建国祭直前、救世主の祝日の関係でギデオンとヴィヴィアンのどちらも早く帰りつけた夜のこと。今日も美味しい夕飯に舌鼓を打ち、後片付けも終えたいつも通りの団欒の時間。愛しい恋人の腕の中、ネグリジェから透ける胸元まで真っ赤にした娘の声は、その至近距離をもってしても、消え入りそうにか細いもので。先日、初めて迎えた夜は予想外の事情がきっかけだったが、ギデオンの想いにやっと報いることが出来た満足と同時に、一つ叶えばまた一つと欲が出るのは我儘だろうか。未だ完遂には至らぬ触れ合いに──今度、もしまた誘っていただけたら、と。密かに決めていた勇気を振り絞ると、透きとおった金髪がさらりと隠す耳元へ、震える唇をそっと寄せて。 )

……教えて、いただけませんか、





904: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-06-30 01:18:04




……信じてますからね。

 ( ──ああ、全く本気にされていないな。こういった時、説得力に欠ける自分の社会経験の無さがもどかしくて、むうと唇を尖らせつつも、上半身の距離感を正常に起こした娘にはまだ、相手の密かな動揺の真意は読み取れなかったらしい。それでも、『“お前を”頼りにしている』と言う相手に一旦矛を収めるくらいには、その言葉を嬉しくも感じていたものだから。まもなく来たる建国祭、頼りにするどころか、一人の個人としてさえも認められていなかったと信頼を裏切られ、二人がひどくすれ違うのはまた別のお話。
 閑話休題。そうして、手元の書類に再度向き直れば、手元のそれを便宜的な制度と見做しつつも、憧れの相棒届が手元にある感慨に、気づけばため息を漏らしていた。かつて、やはり相棒関係にあった先輩方お二人へ憧憬の念を向け、そんないいもんじゃないと、身寄りのない者同士の利害関係だと切り捨てられて、うすら寂しい思いをしたのはいつのことだったか。この関係だって、あくまでギデオンの負い目を減らすためのギブアンドテイクにすぎないのだが、それを承知の上、密かに幼少期からの夢に浸るくらいなら許されるだろう。──ギデオン・ノースの相棒ヒーラー……なんて。赤く艶のある唇に弧を描き、ヴィヴィアンの署名のために残された空欄の上の欄、男性らしい筆跡で滑る剣士の名をそっと撫で、手に取ったペンに魔力をこめると。窓から吹き込む外の風は、いつの間にか夏らしい雰囲気を纏っていた。)

__……その、私ばかり……じゃなくて。
どう、したら……ギデオンさんにも、喜んでいただけますか……?

 ( そんなガダウェル山脈でのタブラ・スマラグディナ捜索、及び初めての相棒契約から約一年。その間様々な事件が二人を取り巻き、その関係性に"相棒"以外の称号が加えられても。──優しい相手から貰ったそれ以上に、自分もまた相手のために尽くしたい、という想いはずっと変わらなかった。
 とはいえ、まさか本人も、それが褥の上でも対象だとは、自覚していたわけでは決してあるまい。
 時分は建国祭直前、救世主の祝日の関係でギデオンとヴィヴィアンのどちらも早く帰りつけた夜のこと。今日も美味しい夕飯に舌鼓を打ち、後片付けも終えたいつも通りの団欒の時間。愛しい恋人の腕の中、ネグリジェから透ける胸元まで真っ赤にした娘の声は、その至近距離をもってしても、消え入りそうにか細いもので。先日、初めて迎えた夜は予想外の事情がきっかけだったが、ギデオンの想いにやっと報いることが出来た満足と同時に、一つ叶えばまた一つと欲が出るのは我儘だろうか。未だ完遂には至らぬ触れ合いに──今度、もしまた誘っていただけたら、と。密かに決めていた勇気を振り絞ると、透きとおった金髪がさらりと隠す耳元へ、震える唇をそっと寄せて。 )

……教えて、いただけませんか、





905: ギデオン・ノース [×]
2025-07-01 02:46:09




(時が経つのは早いもの。あの後やがて訪れる波乱のひと夏から一年、そしてサリーチェに越してきてから数間ほど過ぎた今。すっかり住み良く調えられた宵のリビングルームには、ついに恋仲となったふたり──ベテラン剣士ギデオン・ノースと若手ヒーラーヴィヴィアン・パチオの、他愛ない囁きだけが温かに満ちている。
ともに現役冒険者同士、そう毎日とはいかないものの、たまに過ごせるこのひとときがギデオンは大好きだ。ふたりで選んだソファーの上でヴィヴィアンを膝に抱き、仕事の話やその日の出来事をあれやこれやと話しながら、合間合間にキスをねだってねだられて、笑い合ったり見つめ合ったり。これ以上の人生の歓びなんて、この世のどこにあるだろう。そう大真面目に感じていたから、“自分ばかり”という彼女の台詞に、どこかあどけなく見えるほどきょとんとした顔を差し向け。いったい何を、と軽く問おうとした、しかしまさにその瞬間──油断していた耳元に、この清艶な爆撃である。)

────……、
…………、、、

(わかりやすくたっぷりと、愕然と目を瞠ったのち。すっと教会の信者のように敬虔な顔をしたかと思えば、天を仰いで目を閉じるなり息を止めて押し黙る、珍妙な反応のギデオン・ノースがそこにいる。この衝撃のやり過ごし方もかれこれ数度はしているはずで、ずっと傍にいる恋人もそろそろ見慣れてくる頃だろうか。「おまえな……、」と仰いだまま参ったような声を漏らすと、相手に回していた腕をぐっと力強く狭めて、真っ赤になって震える恋人を力いっぱい抱きしめてやる、これもいつものお約束。相手がどんな反応をそこで示してみせたにせよ、溜飲を下げるように大きな唸り声を漏らせば、ようやく少し腕を緩めて、見上げてくるエメラルドをじっくりと見つめ返す。──もう他の誰とも重ねない、ヴィヴィアンだけのその輝き。今はおずおずと揺れるそれがもっとよく見えるよう、軽くかかった横髪を片耳にかけるそのまま、その可愛らしい耳朶の端をかすかに擽る悪戯を。しかし続けたその声は、相手の望みに寄り添うように、こちらも湿度を帯びたもので。)

そういや、あれからお互いなんだかんだと忙しくて、すっかり間が空いてたものな。
……あの痕も、もう……?





906: ギデオン・ノース [×]
2025-07-01 03:01:10





(時が経つのは早いもの。あの後やがて訪れる波乱のひと夏から一年、そしてサリーチェに越してきてから数間ほど過ぎた今。すっかり住み良く調えられた宵のリビングルームには、ついに恋仲となったふたり──ベテラン剣士ギデオン・ノースと若手ヒーラーヴィヴィアン・パチオの、他愛ない囁きだけが温かに満ちている。
今はヴィヴィアンが段階的に復帰しつつも療養中、加えてギデオンも内勤が多く帰りやすいこともあり、共に過ごせるこのひとときが己は心底大好きだ。ふたりで選んだソファーの上でヴィヴィアンを膝に抱き、仕事の話やその日の出来事をあれやこれやと話しながら、合間合間にキスをねだってねだられて、笑い合ったり見つめ合ったり。これ以上の人生の歓びなんて、この世のどこにあるだろう。そう大真面目に感じていたから、“自分ばかり”という彼女の台詞に、どこかあどけなく見えるほどきょとんとした顔を差し向け。いったい何を、と軽く問おうとした、しかしまさにその瞬間──油断していた耳元に、この清艶な爆撃である。)

────……、
…………、、、

(わかりやすくたっぷりと、愕然と目を瞠ったのち。すっと教会の信者のように敬虔な顔をしたかと思えば、天を仰いで目を閉じるなり息を止めて押し黙る、珍妙な反応のギデオン・ノースがそこにいる。この衝撃のやり過ごし方もかれこれ数度はしているはずで、ずっと傍にいる恋人もそろそろ見慣れてくる頃だろうか。「おまえな……、」と仰いだまま参ったような声を漏らすと、相手に回していた腕をぐっと力強く狭めて、真っ赤になって震える恋人を力いっぱい抱きしめてやる、これもいつものお約束。相手がどんな反応をそこで示してみせたにせよ、溜飲を下げるように大きな唸り声を漏らせば、ようやく少し腕を緩めて、見上げてくるエメラルドをじっくりと見つめ返す。──もう他の誰とも重ねない、ヴィヴィアンだけのその輝き。今はおずおずと揺れるそれがもっとよく見えるよう、軽くかかった横髪を片耳にかけるそのまま、その可愛らしい耳朶の端をかすかに擽る悪戯を。しかし続けたその声は、相手の望みに寄り添うように、こちらも湿度を帯びたもので。)

そういや、あれからお互いなんだかんだと忙しくて、すっかり間が空いてたものな。
……あの痕も、もう……?






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