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Petunia 〆/888


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自分のトピックを作る
868: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-02-23 21:54:38




……ええ。これを取りに行く時に少し聞いただけですけど、

 ( 確かに、診察とは受ける方も気力や体力を消費するものだ。──少し配慮が足りなかったな、と見えないはずの耳をぺしゃりとさせれば。そもそも折角持ってきたドクター特製のハーブティーを追いやったのも、疲労の相棒を少しでも長く休ませてやりたかったが故。本人が飲みたいというのなら、特に断る理由もなく、少し冷めてしまったポットを、魔法で再度温め直してやりながら。ギデオンらベテラン勢の顔色が悪いのは、マルセルとフェルディナンドが今度は依頼人の積荷を紛失したからだ、と。しかもかなり高価な品だったらしい、という噂がマーゴ食堂まで──つまり、ギルド中に知れ渡っていること。しかし、その具体的な品名までは未だ、当該パーティの内に留まっていること。それから、これはビビが個人的に目にした内容だが、暫くは内勤だったはずのカトリーヌやデレクの名が(彼らは彼らで別件で謹慎中だったらしい)、急遽組まれた季節外れの魔獣討伐依頼に記されていたこと。「それってこの捜索に関係があるでしょう? ね、当たり?」そして、そのパーティが帰還予定時刻を過ぎても帰ってきていないという事は、負けず嫌いな先輩たちの事だ。お互いがお互いを意識して、可哀想なメンバーをまきこみ、カヴァス犬もかくやという嗅覚で、辺りを嗅ぎ回っている姿が目に浮かぶ。ろくな事をしでかさない癖に、仕事は出来るのがタチが悪い彼らのことだ。それぞれの担当地域は本当になんの手がかりもなかったと見て良いだろうが。今頃どこを這いずり回っているのやら──なんて、噂をすれば。彼らと一緒に出たはずの見習いが二人、今にも死にそうな顔で「「カティ・デレクより先に見つけるまでぜっってえに帰んない!!」」という、パーティ長の現状報告、及び駄々を伝えに来たのが窓から覗いて。──まあ、つまり要約すると、可能性のある地域が狭まっただけであまり芳しくない状況を、香り高いお茶と共に差し出すと。その珍しく突き放すようなどこか冷たい物言いは、大切な相棒をここまで弱らせた私怨、もとい冒険者というより、元学生としてのそれも乗っているようで。 )

そもそも、そんな希少な研究資料を無断で積み込む依頼主も私はどうかと思いますけど。
いっそ、そちらの方面から訴えて時間を稼ぐ手も有りそうですけど……参考に、どこの偉い学院に所属されてる先生なんです?




869: ギデオン・ノース [×]
2025-02-24 11:04:44




(相手の口から語られる別の問題児コンビの様子に、やれやれという顔を隠しもせずに耳を傾け。湯気の立つカップを受け取り、すぐにありがたく味わって──思わずカップを二度見する。……何だこの茶は、やけに美味い。だが色や香り、それに相手が封を切ったあの包み紙の様子からして、こいつはギルド勤続数十年ですっかり慣れ親しんでいるいつものドクターブレンドのはず。疲労や寝不足をすぐに和らげてくれる効き目ならたしかにあるが、それにしたって美味すぎる。いったい何故。今更ドクターの配合が変わったのか……? と。相手がトレーを脇に置くその一瞬の間だけ、甚く衝撃を受けた顔で、大真面目にそう考えていたが。他所にご立腹の相手に不意の質問を投げかけられれば、さっとポーカーフェイスを被り、すっとさり気なく姿勢を正して。)

──ああ、そこがまた厄介でな。
一応の勤務先は、王立隠秘学研究所……そこだけなら正直、そう争いにはならないだろうが。ここ数日のこっちの捜査で、どうももうひとつ、厄介な組織の一員らしいというネタが上がってきてるところだ。
“ローゼンクロイツァー”……ってのを、お前も聞いたことがあるだろう?

(──“薔薇十字原理教団”。それは大昔にあったそれから優雅な名だけを剽窃した、過激派集団の一派である。かれらのうちのほとんどは、世や学界に馴染めなかった知識人崩ればかり。そんな同類で寄り集まって思考を先鋭化させたせいか、かれらは自分たちこそが救世だと妄信し、各地で妙な活動をしている。しかしこれの厄介なのは、なまじその構成員に、知識や財力やコネクションに富んだ輩が多いこと。たとえば依頼主のように、表の顔を立たせたうえで裏で蠢く者もいるし、捕まった仲間のために、法曹界の人脈を動かす大物さえ潜んでいる。
よって今、王立研究所にとっても、またカレトヴルッフにとっても、件の依頼主の老爺は爆弾であり触れ難い。おまけに研究所のほうは、そもそもほぼ間違いなく、教団員と知っていながら奴を引き入れてたクチだろう。研究所と教団は、本来その思想や体質から敵対する立場なのだが、双方ともそれぞれの研究のため利用し合っていた腹だ。とはいえそれが、カレトヴルッフの捜査の結果白日の下に晒されてしまえば、研究所側は威信にかかわる大問題。そのせいで、こちらがいくら要請しても、情報の共有をしきらない節がある。
──このややこしさ、まったくほとほと気が滅入る、というように小さなため息をひとつつき、いつもより乱れた前髪を掻き上げてから。横の机に手を伸ばし、ヒーラー娘が淹れてくれた温かい茶を再び含めば、わかりやすく顔を緩めて。足を組み替え、肘を突いた側の骨ばった手でその顔を支えながら、相手の翡翠の目をまっすぐ見つめ。)

……お前の言うとおり、奴の言うことは筋がおかしい。「欲をかいた冒険者に盗られると思った」なら、てめえが肌身離さずに持ってりゃよかった話だろう。
それをせずに積み荷に隠して運ばせたということは、奴は馬鹿だが、おそらく何か裏がある。
だからまず、うちで真っ先に回収して、碑文に明るい第三機関を頼りたいところなんだが……どこか心当たりはないか。





870: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-02 00:41:01




ローゼン、クロイツァー……、

 ( 一体全体どうしてしまったというのか。疲労の剣士が思わぬ茶の旨味に、険しい視線を柔らかく解いたその瞬間。目の前の娘もまた、その剣士の横顔をぽうっと蕩けた視線で見つめていた。──乱れた頭に、伸び放題の無精髭、目の下が黒々と落窪んだ表情は、いつもより軽く十は老けて見え。その上いつもはパリッと手入れのされた上衣でさえ、今は見る影もなくヨレヨレである。そんな忌避感さえ感じこそすれ、決して魅力的だとは思わなかったはずの相手の姿に、未だ無自覚な母性をどうしようもなくかき乱され、その窮屈な胸をぎゅんぎゅんと強く締め付けられていたものだから。不意に向けられた薄青に、赤らめた頬を逸らして、緑色の視線を気まずそうにさ迷わせれば。その返答の歯切れが随分と悪くなったのは、折角、尊敬する大先輩から頼りにして貰えたというのに。相手の求める第三者機関を、すぐにでも約束できないもどかしさのためだけとも言えないだろう。 )

第三機関、だいさんきかん、……ですよね。
うーーーーん、その、心当たりが無いわけじゃ、ええ……無いんですけど。
確定じゃないので、えっと……。

 ( 「……一応、ガリニアの方に、知り合いの学者が」その"彼"を通して、あちらの学院の調査期間を頼ることが出来れば、ギデオンのいう第三期間としては、これ以上なく申し分無いだろう。なんて、常日頃からハキハキと、真っ直ぐにその翡翠を煌めかせる彼女にしては珍しく、長い睫毛の影を落としたかと思うと。非常に歯切れ悪く、下唇を噛んだその脳裏には──当の娘と瓜二つの麗しい美貌を誇る、偏屈五十路大魔法使いの切りそろえられた金の毛先が揺れる。その複雑な真意を打ち明けられる程、この時のベテラン剣士と、若手ヒーラーの仲は未だそれほど深くないが。「忙しい人なんです」と、「でも、ギルドの危機だったら、力を貸してくれると思います」なんて、まるで注釈に"ビビの個人的なお願いを聞いてくれるかは分からないが"とでもつけたそうな表情で自嘲すれば。ぱちん、と打った柏手は、自分から意味深な含みを持たせておいて、それ以上の追随を許さないといった卑怯な布石。「連絡をとってみますので、2,3日ほどお時間頂けますか?」そう自然に細めた視線の先には、見慣れた精霊の姿がこの場ではビビだけに見えていた。──なんにせよ、まずは現物を探し出さないと、第三機関もへったくれもないのだ。そのためにも、 )

──じゃあ、お茶飲み終わったら、そろそろ肩診せてくださいね!

 ( なんて、繊細な男心を理解しない一撃を食らわせた若ヒーラーを通して。激震のカレトヴルッフに、ガリニアの魔導学院から協力の打診が届いたのは翌朝のことだった。ビビのことを信用していないのか何なのか、"彼"が定期的に飛ばしてくる精霊さんにお願いしてはいたものの、まさかこんなに早く返答が来るとは──やっぱり離れてもギルドのことは今も大切なのね。と、どうにも報われない父親の哀愁はともかくとして。
ガリニア魔導学院が対価として要求してきたのは、向こうの政治闘争の影響か、ガリニア国内ギルドが、学院の依頼を黙殺……否、"討伐に非常に手こずっている"ドラゴンの討伐協力で。それと引き換えに、タブラ・スマラグディナ発見後の解析を引き受けてくれるというガリニア魔導学院からは、もう一つ。トランフォードがガリニアから別れるよりはるか以前より、ガダウェル山脈の一部地域に定住しているされる先住民の部族。魔獣の多いトランフォード地方に増して、更に危険な地域で生き延びる身体能力や、独自の武力を持ちながらも、大国の政治には興味が無いのか、彼らが大切にするのは彼らの神だけ、そんなごくごく温厚な性格だった筈のその彼らが、最近どうも苛立っていると。度々、山を降りてきたかと思うと、ガリニア勢力圏の小さな村々を脅かしていく、彼らの言葉が分かる地元民曰く、彼らの神から賜った翡翠の秘宝が盗まれたらしい、といった情報が寄せられて。 )




871: ギデオン・ノース [×]
2025-03-03 00:08:06




ああ、助かる。よろしく頼──……、

(高学歴冒険者であるこのヴィヴィアン・パチオなら、きっと何かしらの人脈を持っているに違いない。たしかにそう期待していたが、まさか国外にいる有力者まで動かしてくれるとは、と無知ゆえ無垢な感想を抱き。この光明を逃すまいと、頭を下げて頼み込んだ……はたして、その代償だろうか。
その後カレトヴルッフでは、珍妙な光景が爆誕することになった。最近噂のふたり組、ベテラン戦士のギデオン・ノースと若手ヒーラーのヴィヴィアン・パチオが、何やら本気の追いかけっこに興じている姿である。男の沽券にかかわるだとか何とかで、ボロボロの姿の戦士は何やら必死に言い返しながらあちこちに逃げ回り、それを健気なヒーラー娘が果敢に追い詰めていくという、なかなかの喜劇だったそうだが。詳しくは別の機会に──もしくはいずれ、また後日。)

(さてはて。そんな一幕を経たから、なんてだけではなかろうが。数日後のギデオンは、清潔な装いを一度しっかり取り戻し、何やら覚悟を決めたような精悍な目つきをしていた。何せ、後輩のヴィヴィアンが類稀なる伝手から引き出してくれた情報と、マルセルとフェルディナンドの報告を統合すると、あるとんでもない仮説が導き出されてしまったせいだ。
……エジパンス族、というサテュロスの末裔がいる。かれらは下半身が山羊のようになっている半獣の亜人族で、カダヴェル山脈の南北にいくつも氏族を築いている。祖先と違い、かれらは異性にそこまで強くは固執しない。だがその代わりに欲情するのが、他人の所有する“価値ある財産”。──そんなかれらがどこかしらで、「同じ霊峰に棲んでいる先住民の秘宝を聞き知った」と仮定しよう。欲深い彼らは、まず間違いなく例の碑文を盗み出す。だが彼らはまた、同族同士ですら“価値ある財産”を奪い合う救えない性質を持つので、碑文があちこちに渡っていく。そうこうするうちにどんどん山を南下して、トランフォード側に出たとしたら。それが巡り巡って、あの邪であろう学者の手中に収まってしまったのだとしたら。そしてその学者がまた、トランフォード側に棲んでいる南のエジパンス族によって碑文を奪われたというのが、全ての真相だとしたら……?
──マルセルとフェルディナンドは、馬車で北上して数日目の夜に、山賊に襲われて積み荷を奪われたと言っていた。そのときのあいつらは確か、いやに多くの蹄の音を聞きつけていたはずだ。そして襲撃されたのもあの、この国のエジパンス族がたびたび出没する一帯。この情報から逆算すれば、上記の一説が浮上する。──盗み癖のある亜人族、その同族同士の盗難と例の学者が絡んで、名宝タブラ・スマグディナがトランフォードのあちこちを冒険しているなどという、とんでもない物語が。
しかしそれより注視すべきは、例の碑文が今失われているせいで、地味に国際問題が起こりはじめていることだ。何せ今、エジパンス族の被害に遭ったのだろう秘境の部族の手によって、何の謂れもないガリニアの無辜の民がたびたび脅かされている。ガリニアの巨大な政府は、カダヴェル山脈沿いの村に無関心なきらいがあるが、それでもトランフォード側に碑文が流れてしまったことで自国民が害されていると知ったら、きっとただではおかないだろう。……とはいえかの大国も、決して一枚岩ではない。こちらに根回しすることで和平を望む者もいる、魔導学院がその最たる例だ。国内ギルドに蔑ろにされ業を煮やしたあちら側は、どうせならトランフォード側の冒険者たちの働きを信じると決めてくれているのだろう。例の碑文周りの騒ぎを公には伏せているのは、そういうことであるはずだ。
──ならばそれに応えるのが、己が果たすべき使命。トランフォード国内で消えた碑文を捜し出し、解析に出すという体でガリニア側に返還する。そのためにまず、こちらが突き止められる限りのエジパンス族の住処を洗えるだけ洗うのだ。幸いかれらは、盗みに特化しているだけで戦闘力は高くない。カレトヴルッフほど大きなギルドも人員には限りがあるから、最悪の場合、自分ひとりで行動しても充分問題ないだろう。──そう、思っていたのだが。)

……なんで、おまえがここにいる……?

(──事件発生から五日目の昼。「もう肩の傷は問題ない」と受付に無理を通して自分の出動許可をもぎ取り、戦士装束の格好で東広場に来たギデオンは、王都の遥か北へ向かう街道馬車を待っていた。自分がこれから赴く先には、既にデレクとカトリーヌのパーティーが先行している。彼らや近隣ギルドのパーティーと合流しながら亜人族の巣を叩いていけば、きっとすぐにでも例の碑文を見つけだせると踏んだのだ。
だがふと呼ばれて振り返れば、そこには同じく遠征用の荷物を背負った、馴染みのヒーラー娘相手の姿。どう見ても同じ行き先に向かうらしいその様子をまじまじ見ると、信じ難いというように唖然とした声で呟いて。)





872: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-05 17:13:48




……あら! ギデオンさん、受付で言われたこと、もう忘れちゃったんですか?

 ( まあ、逸る気持ちは解りますけど、なんて。大袈裟な身振りでこめかみに手を当てて見せたヒーラーは、豊かな胸を自慢げに張ると、背負った大荷物をゴソゴソとやり。「担当治療官の適切な受診を怠らないこと!」と、相手も受け取ったろう出動許可証の写しの条件項目を読み上げる。
時刻を遡ることほんの少し。ギデオンが受付で出動許可をもぎ取ったその時。目の前で唖然としているベテラン剣士からすれば、年若く押しの弱い受付事務員の時を狙い、上手く出動許可をもぎ取ったつもりだったのやも知れないが。それに困った事務員が判断を仰いだのは、本日早番のドクターが出勤していたギルド医務室。そして、まさにその決定的なタイミングを逃さず、苦虫を噛み潰したような表情で決済印を押す老年のドクターの隣に、"たまたま偶然"同席していた。彼女が微笑めば、運命の神さえそれを叶えずにはいられない──ヴィヴィアン・パチオとは、そういう星の下に産まれた娘だ。
とはいえ、決してドクターの判断に口を挟んだ訳でも、なにか不正を働いた訳でも決して無く。あくまでビビはと言えば、正当な協力者を得たギルドから、今回の重要人物であり、負傷中のギデオン・ノース剣士が現場へ向かう。それに伴って出されるだろうヒーラー募集の応募を待ち構え、張り出されるや否や飛びつくように受諾しただけで。「おじさま、じゃあ私は少し用事を思い出しましたので」と。困惑の事務員と共に、医務室を出ていこうとしたその瞬間。ドクターが何かを言ったような気がするが、恋する乙女にはケルピーに説教もいいところ。こうして、尊敬する冒険者と馬車駅で二人。許可証をしまいこんだ流れで太い腕に絡みつくと、渾身の上目遣いとともに可愛らしくこてりと首を傾げて。 )

いち早くヒーラーが捕まったお陰で、ギデオンさんこぉんなに早く出動出来たんですよ?
……どうです、優秀すぎて、そろそろ彼女にしたくなってきません?





873: ギデオン・ノース [×]
2025-03-08 13:18:16




馬鹿言え、まだ百年早い!

(幸運さえも味方につける魅惑のヒーラー娘を前に、即座にその手を振り払い、噛みつくような一声を。しかしその次に「帰れ!」と命じるわけでもなく、苦々しい顔を浮かべて頭を抱え込みだしたのは、どうやら相手の正道さを否定しきれないかららしい。
──出動許可証に記された指定条件、その小狡い拡大解釈。それは世知に長けたベテラン勢が好んで用いるやり口で、今回のギデオンもまた、“担当治療官”が多忙という名目のもと、義務付けられた診察を帰還後に回すつもりだった。だがその治療官本人が、こうしてわざわざ自分の許可証まで携えてすっ飛んできてしまったとなると、当然話は別である。ギデオンに許されるのは、本来ギルドの専属医がそれで良しとした条件通り、クエストの進行中に治療を受けながらの出動のみ。第一、後輩冒険者が志願し、ギルドも許可を出した以上、こちらがきちんと現場に連れていってやらねばそれこそいよいよ規律違反だ。それに相手の指摘通り、想像以上にとんとん拍子で自分が出動できたのは、おそらく裏で相手の出動許可も同時進行していたから、つまり借りがあるわけで……
そこまで考え至っては、眉間の皴を深めに深めて大仰な溜息をひとつ。「……余計なことを」とぼやきながらもようやく諦め顔になって、ちょうど到着した馬車に先にさっさと乗り込んでしまう。だがそれでも、ただ根負けしたなどと思われるのは癪であると言わんばかりに。奥の席へと陣取ると、「捜索任務の経験は」「亜人討伐の心得は?」と、揺れる車中で次々に心構えを試す真似をすることしばらく。ふと真横の窓を見て、流れていく外の景色をやや無言で眺めれば、いつぞやの船上をふと思い出したように呟き。)

……今回のクエストは、完全に森の中だ。火属性は使えないし、おまえがグランポートで高めた水魔法も分が悪い。
いちばん良いのは土魔法だ──今、おまえは何が使える。





874: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-13 15:12:35




じゃあ、私と一緒に百年生きてくださいね。

 ( 全身全霊の可愛いポーズをすげなく振り払われたヒーラーはしかし、傷ついた様子を見せるどころか、"お決まりのやり取り"に、満足気な笑みさえ浮かべて、安心しきった様子で馬車に乗り込むと。ひとりでに硬い座席へともちりと腰掛けた距離感は、いっそ清々しいほど上司と部下らしい常識的なそれで。そうして、"お約束のルーティン"をこなした後は、その表情をあっさりと仕事中に相応しいものに切り替えると。「見習いの時に腐るほど」 「"相手の言葉には耳を貸さない、我々と同じ部位が致命傷になると思うことなかれ"」 と、大半の冒険者が読まずに枕にしている初期教本の一節を諳んじたまでは良かったが。その話題が属性魔法の適正に移れば、それまで得意満面だった表情を、今度はその顔中にシワがよっていないところを探すのが難しいほど萎びさせ。 )

──………………ウォール、とか…………。

 ( そうして漏らしたたった一つの土魔法は、魔導学院初等部の子達が最初に触れる基礎の基礎。魔法使いにとって防御の要であるそれこそ、死に物狂いで身につけこそすれ、実はシルクタウンの帰りのあの日から、ビビが一番苦労した依頼はと言えば、貴重な"麦もどき"をドロップするヴァイツの討伐作戦で。季節毎に新緑や黄金にその穂を染める植物性の魔物は、一個体であれば、その逃げ足だけは一流だが、鎌を持ったトランフォード農民の相手にもならない。しかし、集団で麦畑に紛れて畑の栄養を吸い尽くしては増殖する奴らといったら、本物の麦と見分けるために、収穫祭の音楽を演奏してやると、やたらと嬉しそうにその穂をワサワサと踊る姿はそれなりに愛嬌があるのだが。その一方で、一度魔法の火がつけば、為す術もなく右往左往し、これ以上なく惨めに、酷く可哀想な様子でもがき苦しんだ後、肝心の"麦もどき"ごと、最後には灰だけを残して燃え尽きる姿は、精神的にも依頼内容的にも大ダメージで。文字通り彼らの足元から崩せる魔法さえ使えれば、見習いでさえ苦労しないランクⅠの低級な魔物に対して、この脳筋ヒーラーが結局どう対処したかといえば、その膨大な魔力であちこち"土壁"を出現させ、逃げ場の無くなったヴァイツ達を杖で殴ると言った純然たる力技で。
閑話休題。そんな嫌な記憶を振り払うようにぷるぷると首を振り、相手の膝に手を着いて上半身を乗り出すと。置いていかれてたまるかと、焦点のあっていない視線をぐるぐると、必死に自分の出来ることを主張してみせ。 )

でもでも!!
最近、発破技術について職人さんから教えて貰って……出した壁を吹き飛ばせば大体いけるな? ……って、なって……
それにそれに、ギデオンさん知ってます? 大体の枝って風で吹き飛ばすと結構殺傷能力が…………あ・と! 私!! タブ……っと、その現物!! 見たことあります!!!! 探知魔法も少しならイけるし、わぁビビちゃん頼もしい!!!!




875: ギデオン・ノース [×]
2025-03-16 21:30:59




わかっ──落ちつけ、ちゃんと連れてってやるから落ち着け。

(がばっとこちらに縋ったかと思えば、何やら酷く必死になって言い募ってくる若手の後輩。こちらはたじろぎながらのけ反り、車中で妙な真似はするなと、相手の華奢な肩を掴んでどうにか元に押し戻す。……とはいえ、予想だにしない答えに一瞬唖然としたのは事実だ。大魔法使いを父に持つこの優秀なヒーラーでさえ、そこまで苦手なものがあるとは。
しかも今回出動するのは樹々が密な森の中、相手が本領を発揮する豪快な戦術は迂闊に使えないだろう。困ったな……というように、一度窓枠に腕をもたれてからため息をつきかけて。しかしふと、「……今何と?」と渦中の娘を隣を振り返る。彼女が仮にもう一度、“本物の碑文を見たことがある”と繰り返してくれたなら。見開かれた青い瞳が、未だ揺れながらも輝きはじめて。)

なあ、ヴィヴィアン。グランポートの時みたいに、失われた錬金術を再現してくれとは言わない。
──が、お前の見たエメラルド碑文の……贋作を作ることはできるか。

(……失われた錬金術を刻み込んだ文献群、秘宝タブラ・スマラグディナ。それは伝説によれば、百を超える碑石によって魔法の神髄を語るらしい。しかしその全てが発見されているわけではなく、また多くの知識人が喉から手が出るほど欲しがるだけに、これまでの歴史上、贋作のエメラルド碑文も数多くつくられてきた。
つまりまともな学徒であれば、まさかまかり間違っても、自分がその贋作を作ろうなどとは思わない。それをこちらも踏まえた上でヴィヴィアンに頼み込むのは、亜人族から例の秘宝を奪い返してみせるにあたり、贋作で奴らを惑わす必要を感じたためだ。元々そんな高度な手は使わず、もっと荒っぽい方法で碑文を探す気でいたが……ヴィヴィアンが囮作戦に協力してくれるなら、予定より早く確実にエジパンス族を捜し出せる。──国境付近の問題が大きくなってしまう前に、事態を収束させられる。
「今夜一泊する宿は、ちょうどガラスの名産地らしい。許可さえ取れれば、材料にする石を掘りだすこともできるはずだ」と。懐から取り出した地図で周辺地形を指し示すうち、つい熱がこもったのか。何ら意識することなく相手に頭を寄せながら、間近な距離で相手を見つめて。)

……おまえほどの魔法使いなら、まともな学者が気づけるように、贋作としての証拠をこっそり刻み込めるだろ。
頼む、手を貸してほしい。





876: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-21 23:53:23




任せ……えっ、………………

 ( 失われた錬金術を再現しろとは言わないという約束に、ほっと安心する一方で──もっと頼ってくださってもいいのに、なんて恋する乙女の複雑さを楽しんでいた報いだろうか。古代魔法を再現するより難しいことなどなかろうと、危うく安請け合いしかけた言葉を反芻すると、返す言葉もないといった調子で絶句して。
タブラ・スマラグデイナの贋作を作る……? よりによって、魔導学院の一学徒である自分が? その発言の衝撃たるや、一瞬もう既に自分が現役の学生で無いことをビビに忘れさせる程。尊敬しうる上司たっての頼みだろうと、これまでヴィヴィアンが培ってきた価値観の中では絶対に、絶対に有り得ない行為で。「だって、」それは先人が積み重ねてきた知識に対する酷い冒涜であり、「でき、……」できるか、できないかという問題ではない大罪だ。「それに」純粋な翡翠と見紛うような材料なんて、と。次々浮かぶ反論を切実な表情に、言葉に、"全て分かっていて頼む"と否定されてしまえば、相手の懸念する"最悪の事態"を想像できるからこそ、心底困り果て俯いて。
このまま秘宝が見つからなければ、ガリニアのなんの罪もない民に対する簒奪は収まらず。最悪の結果、隣国との国際問題、そして戦争となってしまえばより多くの人々の命が脅かされるだろう。それでも、歴史上の暗君は、進んで祖国を亡きものとしたろうか。否、寧ろ目先の被害を最小限に食い止めるべく、書の一冊を燃やす蛮行に及んだ歴史の登場人物を、自分はこうはなるまいと、青春の砌に学友達と確認しあった記憶はまだ若く。やはり魔導学院に育まれた人間として、いくら相手からの頼みだって叶えられない。そう震える唇を噛み締めて、ぐっと顎の下の筋肉を逸らせばしかし、その表情が鋭く勇ましかったのは、俯いていた顔を上げる直前までだった。
次の瞬間、揺れる馬車の中に響いたのは、ひゃあともきゃあともつかない悲鳴。眼前に迫る美貌に座席を揺らして仰け反れば。人間、圧倒的な美を目の前にすると、思考どころか上手く呼吸さえ出来なくなるもので。──格好良い、好き、褒められた、嬉しい、好き、助けになりたい、etc. ──かあっと頭がのぼせ上がり、冷静な思考は為す術もなく干上がっていく。神の造りたもうた生物の美しさを前にして、人間の叡智など取るに足らないものに見え、土属性の魔法一つ使いこなせない矮小な己が、歴史の大義を振りかざすなんて烏滸がましいにも程があるのでは無かろうか……? と、その思考を狂わす絶景から少しでも距離をとろうと、細い両腕を前に回して胸の前で拳を震わせるも。「でも、でも……」と、最早意味の無い抵抗を試みること数秒間。更に惨いとどめを刺されたか、それとも真摯な視線に射殺されたか。どちらにせよ、哀れ恋する乙女はぐったりと白旗をあげたのだった。 )

──……何日、……どれくらいの時間があれば、本物を取り返すことが出来ますか?

 ( そうして、せめてもの落とし所として受け入れたのは、時間制限ありの偽装魔法。一定時間経過すると魔法が解けて元のガラス板に戻るそれならば──と。今のガリニアの民が危険に晒されている状況も問題だが、あちらはトランフォードを含む大陸中の学問の中枢を担う総本山。そちらの秘宝である遺物をまた、トランフォード人であるビビが偽造することの、ナショナリズム及び精神構造的な問題も説明して。 )



877: ギデオン・ノース [×]
2025-03-23 23:08:02




お前だけが頼りなんだ、

(酷く驚いた様子の相手に、しかし真剣そのもののこちらは顔色ひとつ変えることなく。ひた向きな熱い視線で相手を焦がしていたかと思うと、振り上げられた細い手首を武骨さ極まる掌で捕らえ。ごく優しく握り込み、やんわり下ろさせてしまえたのは、こちらが上手く導いたのか、はたまた相手の娘の力が抜け落ちてしまったせいか。とにかく再び目と目を合わせて、もはや駄目押しの囁きを。──そうして相手が降参すれば、わかりやすく目元を緩め、穏やかに感謝を述べて。
とはいえ相手の言うとおり、例の碑文の贋作は、そもそも製作すること自体が倫理的に大問題。限られた時間の中でのみ使えるようにすべきだろう。真面目な顔で頷けば、「そうだな……」と顎に手を当て、思案を巡らせることしばし。ふと下げていた視線を上げて、もう一度相手を見ると、よし、というように顔色を凛々しく変えて。)

──三日だ。三日後の日没まで。
それだけあれば事足りる。

(──さてはて。デレクとカトリーヌのパーティーが幾日探しても見つからぬ、魅惑の幻・エメラルド碑文。それをこの手に取り返すまで、わずか三日で足りるなど、ギデオンの出した答えはまるで無謀もいいところだ。しかしこのベテラン剣士は、後輩ヒーラーの仕事の腕を心から信じ切っていた。ヴィヴィアンなら絶対に、今回のクエストを大いに前進させるほどのモノづくりをしてくれると。
それに相手の協力を得るなら、やはりその三日程度が精神的に上限だろう。元より無理を頼んでいるのはこちらのほうであるのだし、ならば相手に任せる分だけ、こちらがどうにかするべきなのだ。そうしっかり腹をくくって、「詳しい作戦は、今夜の宿に落ちついてからにしよう」と、一度話を切り上げる。馬車が途中駅に停まって、乗客が増えてきたからだった。
それからの道中は、深い森を幾度か過ぎて、当然道も険しくなった。その際、掴むものもなく揺れるヴィヴィアンの肩をそれとなく抱きかかえ、「しばらくは我慢してくれ」と言ってそのまま支えつづけていたのは、どうやら相手の協力を引き出せたことで、想像以上に機嫌が上向き、相手を手助けする思いがいつもより増していたせいらしい。……静かな車中、ごく寛いだ様子で車窓なんぞを眺めているのは、はたして朴念仁という語で収めていい範疇だろうか。
──それからさらに数時間後、その日の宿の女将に魔法鍋や薪の類いを借り受け。宿の裏手にある一角にようやく姿を現した時も、いつもよりやや気さくな様子で。)

……どうだ、材料は足りそうか。
鉱石が足りなければ、もう辺りも暗いから、俺が調達してくるが。





878: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-27 09:18:06




……三日、わかりました。

 ( ──まったく、この澄んだ美しい薄青い目には、哀れな娘の様子が、少しでも映って無いのだろうか。可哀想に耳の先まで赤くして、これでもかと分かりやすく白旗を掲げて見せているというのに、追い打ちとばかりに残酷な笑みを見せたかと思うと、その手を離さないギデオンに、「約束ですからね!」と続けた表情が苦々しかったのは、何も問題の偽造行為への罪悪感だけではなく。極めつけには、険しい森を進む道中、さも当然の様子で回された腕に──ワタシ、学ンダ、この人を調子付かせたらダメ、と。往年の遊び方は風の噂で存じているが、決してビビの好意を利用しようと自覚している訳では無いのだろう。しかし、まるで親戚の娘にそうするような気安さは、仮にも熱心なアプローチを繰り返している娘に対して、あまりに無配慮というものでは無かろうか。これで──……本気になった、っていったら困った顔をする癖に! と、言外に未だ本気じゃないと自覚していること自体に、自分でも気がついているのかいないのか。出来るだけ相手の温もりを意識しないよう、華奢な身体を縮こまらせれば、件の集落にたどり着くまでの道中は、やけに静かに過ぎていったのだった。 )

──……っ、ありがとうございます。
でも大丈夫、お陰様で十分ですわ。

 ( さて、道中あんな惨い目に合わされたのだ、不意の返答に少し棘が立つくらいは、どうか許されたいところ。碌でもない経緯で折れたとはいえ、約束は約束、仕事は仕事だ。それまでテキパキと調合の準備を進めていた身体を、ギデオンが姿を見せるなり強ばらせ、毛を逆立てた猫のようににばっと距離をとったかと思うと。「あ、でも、この件が解決したら、なにかご褒美があってもいいですよ? 例えばデートとか、」と、露骨に好意を滲ませるのは、さしずめフシャーッと怒気を滲ませた威嚇といったところだろうか。 ──私は、いつもあなたに迫って困らせている小娘ですよ、と。本人すら無意識な言外の主張を正確に読み取るか、それとも言葉通りに受け取っていつも通りに困惑するか。( 若しくは、更に一枚上手な相手に、上手く宥められでもしたかもしれない )どちらにせよ。やっと普段の距離感を取り戻せば、腰の袋から熟れた手帳を取り出して。これから作ろうとしている物の説明と、今後の作戦相談を。 )

タブレットに記すのは、この一章……マテリア・プリマの節にします。
これ自体は別の……初めて発見されたタブレットの文言ですから、分野の者なら学生だって分かりますけど、エジンパス族は中身には興味が無い……ですよね?
……それで、これを使って、一体どうやって本物を取り返す作戦なんですか?





879: ギデオン・ノース [×]
2025-03-29 19:11:52




(相手の何やら構えた態度に、最初のうちは呑気なことに不思議そうにしていたが。相変わらずちゃっかりとその気を混ぜ込まれようものなら、一度目を瞬いてから「は、」と呆れたため息を。──それでも仕方なさそうに、「……労いって名目でなら、美味い飯には連れてってやる」と、相手への謝意と期待の両方を込めて言い足し。的確な対応と訝しげな問いに鷹揚に頷けば、近くの切株に腰を掛け、大鍋の薪を取り出して。)

お前の言うとおり、連中は碑文の中身には興味がない。
ただ、他人が価値を置くものを手に入れて悦に入りたいだけだ……だからそいつを利用する。

(──碑文の遺失騒ぎを起こした、盗人亜人・エジパンス族。曰くかれらには、“他人の財産に欲情し、盗んだ獲物に魔素のマーキングを施す”という独特の習性がある。その連中の目の前に、同じエジパンス族の内ではまだ誰も手にしたことのない、完全にまっさらなエメラルド碑文を突き付ければどうなるか。──他の氏族が散々奪い合ってきた人間族の秘宝、その姉妹石でありながら、未だ手つかずの……いわば“処女”にも等しい一枚。所有欲の激しいエジパンス族の連中は、必ず惹きつけられるはずだ。
一部の喩えを取り換えてその考えを説明してから、「ならばそいつをくれてやろう」と、いよいよ作戦の本題に入る。明日の昼、馬車が襲われた辺りの森をヴィヴィアンと歩き回れば、財産狂いのエジパンス族は、必ずこちらを様子見しに来る。その時に贋作をちらつかせてみて、マーキングもないそれに強い反応を示すなら、それは必ず“本物”を所有しているエジパンス族だるう。そうして標的に定めさせたら、後はその晩の野営で、わざと隙を晒しながら寝入ったふりでもすればいい。こちらが手間をかけずとも、エジパンス族の方から近づき、贋作を巣へと持ち帰る。──その贋作に相手の使える追跡魔法をかけておけば、本物の眠る隠し場所も突き止められるというわけで。
馬車でも見せた周辺地図、それを懐から取り出して史料として渡しながら、右手は大鍋を持ち上げて、相手の構えた簡易竈の組み木の上に持っていこうと立ち上がる。だがしかし、二、三歩歩いたその先で、不意によろめいたかと思えば、ガランと大鍋を落とした右手、それを力なくぶら下げながら、咄嗟に肩を抑え込んで。)

あの辺りの森は、夜光草が豊富なわりに強い魔獣がいないからな。本物の回収は問題なくできるだろう。
だから実行は明日から明後日、伸びたとしても明々後日まで、には……っ、





880: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-04 00:06:49




……贋作を囮にする、ってことですね。

 ( 伝説の宝を探す大冒険に、黒幕には知る人ぞ知る秘密結社、そうして仕事の後には苦労を労い合う仲間との一杯──それってなんだか、すごく、すごぉぉぉっく冒険者っぽい……!! と。デートなどよりよほど目を輝かせて真剣に、相手の語る作戦内容に尊敬の念を顔に浮かべ、その内容を手帳へと書き留めようと視線を落とした時だった。ガラン、と金属製の質量がそれなりの高さから落ちる衝撃音に、何気なくそちらを振り返れば。肩を押えて蹲る先輩に、「ギデオンさん!!」と、一も二もなく駆け寄って。
そうして、まずは原因である闇の魔素を取り除くため、取り急ぎ孤島の砂浜でも披露した回復魔法で応急処置的に蹴散らすも何かがおかしい。結局件の数日前こそついに逃げられてしまったのだったが、翌日ギルバートの返答を報告に行った時には、レイケルの魔素の進行はここまで進んでいなかった筈で。だからこそギルドのドクターも、出動許可を出したのであり、その後の経過はビビもしっかりと確認している。にも関わらず、今この状況に有無を言わさず赤シャツの胸元のボタンへと手をかければ。──身体を蝕む悪意の魔素、その進行速度は宿主の体力に大きく左右される、と。考えうる中で一番可能性が高い原因に想いを馳せれば、その返答次第では相手が現場に立つことを、担当治療官として否定する判断を無常に下さねばならないだろう。 )

ギデオンさん──正直に答えてください。
この件が発覚してから……一週間くらいでしょうか、その中でまとまって5時間か、それ以上の休息をとった日は何日ありますか?





881: ギデオン・ノース [×]
2025-04-12 18:53:28




……ずっと、内勤だったんだ。毎日休んでたようなもんだろ……

(切株に背を預け、うら若いヒーラー娘に大人しく服を剥かれて介抱を受けながら、いかにも捨て鉢な呻き声を。これが暴論に聞こえることは、こちらも渋々承知している。だが剣士の己に言わせれば、素振りもせずにただ大人しくする日々こそが拷問で、せめて自分が抜けた分の穴埋めでもこなさなければ、気が休まりそうになかった。……とはいえ、「もっと具体的に」とヒーラーに請われたならば、一瞬押し黙ってから、薄青い目を露骨に逸らし。「持ち出せる書類は全部自宅に持ち帰ってた」、「日中まともに疲れないから、一日四時間も眠れちゃいない」と。要するにこのところ、相手の思う休息など一日たりとてとれていないと、ここでようやく認めたものの。)

余計な心配はしないでくれ。
──元々不眠の気があって、ドクターの出す睡眠薬も碌に効いたためしがないんだ。

(さらりと告げたその台詞は、相手に初めて打ち明ける、自分自身の弱みのひとつだ。──冒険者ギデオン・ノースは、元からこういう生活だった。十年ほど前、一睡もできない日々が長く続いていたせいで、それが随分和らいだ今も、そう長くは眠れない。だから無理に仕事を詰めて自縛したわけではなく、休もうと思っても休めない体質なのだと。それなら余程、無為に過ごすより何かした方が有益だ、それを否定しないでくれ……と。はだけた襟元から覗く傷の熱が映ったのか、どこかぼんやりした目つきでヒーラーを見るまなざしは、不調への苛立ち以上に、普段なら見せないような、仄かに弱々しくすら見える懇願の色が滲んで。)





882: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-18 01:26:41





……睡眠時間は一朝一夕では仕方ないにしても、こんな状態で現場に出す許可なんて出せませんよ。

 ( 一体、何がこの人をこうも駆り立てるのだろう。これまでのビビにとって、分別のある大人であれば自己の健康管理などして当然の、むしろ義務に近い認識のものだった故に。カレトヴルッフの剣士として名高い筈のギデオンの滅茶苦茶な発言に心の底から驚くと。まるでその身の破滅を望んでいるかのような言動をするギデオンに、いつか取り返しのつかない事態を招くのではと、件の海上ぶりに、身体の芯から凍えるような恐怖を覚えて。それでも、あくまで冷静なヒーラーとして、相手の懇願に首を振れば。目の前の剣士に背中を向けてしゃがみこんだのは、丁寧な治療の続きを室内で行うため。
果たして相手がその背中へ素直に体重を預けたかどうか、いずれにせよ本日泊まる宿の部屋、備え付けの椅子に先輩を座らせると。首都キングストンよりずっと北方に来た土地で、もう夏も近いというのに、うっすらと冷える室内を暖炉で温め、闇の魔素に効く薬草を手早く焚べると、その火が大きくなるのを待つ間。患者の身体を脅かす夜気をカーテンで断ち切り、清潔な布や薬、その他治療に必要なものをテキパキと用意しながら、相手のその刹那的な振る舞いをどうすれば辞めさせられるか、必死に知恵を振り絞り。必要な準備を終えて相手の元に舞い戻れば、その冷たい拳に少しでも、自分の体温を移そうとするかのように、しっとりと柔らかな両手で包み込み。 )

……ご自分が一番わかっていらっしゃるでしょうが。
もしさっきみたいに動けなくなるのが戦場だったら、動けなくなったギデオンさんを庇うのは誰です?

 ( そもそもギデオンにこんな不治の大怪我をおわせたのは誰だ。立場上厳しい言葉連ねながらも、その表情や声音には、何の役にも立ちやしない自責の念が滲むのが我ながら鬱陶しく。それでも、幾ら周囲が望んだところで、この人は自分の身の安全を省みてはくれないのだ、と。であれば、代わりに誰かが常に付き纏い、本人の代わりに省みてやらねば、あっという間にこの人は潰れてしまう。それをこの時点ではっきりと認識していた訳では無いが、兎に角この人を放っておいてはいけないという危機感だけで相手にすがりつけば。「私はギデオンさんの仕事の邪魔はしません」と、「むしろ、ドクターよりも、誰よりも早く貴方を前線に立たせて差し上げます」──だから、精々私をたっぷり利用してください。そうして、その言葉通りに手早く正確に治療を済ませれば、救急箱を閉じながら。物凄く言い出し辛そうに述べた提案の真意はといえば。前線で戦う冒険者や軍人達の中で、戦場から帰ってきた後も、数少なくない者たちが不眠や動悸、性格が変わってしまったかのような激情に悩まされることがある、といった話を何処かで聞いたことあったのだ。その多くが恐らく高ストレスに晒された精神的な負担からくるもので、画一的な根本治療までは誰も研究していないものの、動物や植物……そして他の人間との触れ合いによって一時的な改善が期待できる可能性がある、という対処療法も。果たして、そんなうろ覚えの知識と、往年の相手に纏わる聞きかじった噂から導き出した提案だったが。要は、それを遠回しに口にするだけで、頬を赤らめる娘に、商売女を利用することを仄めかされて、ギデオンはどのように反応するだろうか。 )

あとは私が贋作を作る間、ちゃんと意識して休息をとってください…………眠れない……んですよね。
それって、もし……その、寝る時にどなたかが近くにいた方が、良い、とかでしたら……
その、お金で……いえ、その。"そういった方"を呼ばれたりしても、軽蔑したりしませんから……




883: ギデオン・ノース [×]
2025-04-20 11:01:08




(よくできた後輩からのご尤もなご指摘に、大人しくため息をつき、素直に治療に身を委ねる──そこまではまだよかった筈だ。しかし問題はその直後。傷の痛みもすっかり和らぎ、つくづく相手は優秀だと感謝の念を覚えながら薬茶を啜るところへ、ともすればあのヘルハルト・レイケルよりよほど容赦なき一撃を叩き込んでくれたのが、またしてもそのヴィヴィアン・パチオで。
これを受けたギデオンといえば、がふっと派手な勢いで咳込み、そのまま唖然としたまなざしで相手の方を振り返る。“わかってますから”、“だって男の人ですもんね”……そう言いたげに赤面など覗かせているこのおぼこを前にして、どうして迂闊に聞き捨てられよう。ガン! と割りかねぬ勢いで茶の器を机に叩きつけ、片手で頭を抱え込むと、耐えかねたような呻き声を絞り出すような有り様で。)

~~~っ、お前、この状況で俺がそんなことをする大馬鹿野郎に見えるのか……!

(……さてはて。魔導学院卒であるヴィヴィアンは、しっかり目敏く気づくだろうか。そう、この男、「この状況で」と宣うあたり──そういった“治療法”について、身に覚えがないわけではないのだ。
この時代のこの国において、冒険者と娼婦とは、非常に密接な関係だ。ギデオンが少年時代を送っていたゼロ年代のギルドなど、クエスト帰りの冒険者が街で贔屓の娼婦を買うのは今より遥かに常識だったし、それは寧ろ男としての“嗜み”であるのだと、そう大真面目に教わるような一種の文化さえ蔓延していた。……これは浅ましく下劣な欲も大きいが、しかし非常に差し迫った実情が混じっていないこともない。今は魔法医が処方してくれる抑制剤が生まれる前、女を買うのは正しく自己管理と言えた。自分の身に生まれる欲を日頃から上手く発散しておかねば、狩らねばならぬラミアやダーム・ヴェルトゥに魅入られ、愚かな殉職を遂げてしまう冒険者が数多くいた。そしてまた、男が常に強いられる凄惨な現場の後には、自分の心をまともな場所へつなぎ留めておくために、女に実存の救いを見出す──そのいっときだけを求める──必要にも駆られてしまいがちだった。多くの男はその苦しみの自覚自体ができておらず、故に社会もまだ見つけていない。ただ女に手を伸ばせば和らぐということだけを、当事者たちが知っていて……そうして連綿と続いてきたのが、冒険者と娼婦の共依存的な関係というわけだ。
しかし今はもうすっかり、5030年も間近という時代である。あの当時に比べれば、社会も倫理も討伐技術もいくらかは進歩しており、例えばバルガスやカーティスのように、女を買う文化圏に寄りつかない青年の方が増えてきている(マルセルとフェルディナンドが先輩風を吹かすつもりでバルガスを花街に誘い、まっとうにドン引きされて寧ろ威厳が吹き飛んだ一幕、あれは三年ほど前だったろうか)。それに応じて、このギデオン・ノースもまた、昔の時代に生まれ育った古い人間でありながら、変わりゆく社会常識を多少取り入れてきたつもりだった。──だからこそ、居た堪れないのだ。
異性の、それもまだうら若い後輩にその辺りを気遣われるのは、脳天に巨人の一撃を喰らうほうがまだマシというものだ。加えて言えば、相手は先代マスター代理・ギルバートの娘であるし、今はこうして庶民的に冒険者などしているが、家系図を辿ればガリニア貴族の血を引くらしい、社会の上澄みのお嬢様である。何故そんな娘っ子が、“ギデオンのような年代の男なら、そういう必要もあるだろう”などと。──それどころかこの口ぶり、俺が昔はそういう店を使っていたと知っていて……いやまあ、こうして汗臭い男社会でしっかりやって来ている以上、そりゃどこかでは聞き知るだろうが……。ここまでやたら堪えているのは、相手が地味に「軽蔑しない」などと口走ったからでもあった。それは裏を返せばつまり、本来のヴィヴィアンは、同年代のバルガスと同じ、今の時代の倫理感覚を宿している娘ということ。──あのろくでなしの後輩コンビ同様に、今この瞬間ギデオンの威厳もまた、自覚なき乙女によって粉々に打ち砕かれ、満身創痍というわけで。)

……誤解されるような状況は、こっちもたまったもんじゃない。だいたいな、ただでさえ上官の俺が、おまえをひとりで屋外作業にあたらせるわけがないだろう。

(疲れた顔をようやく上げると、立ち上がりながら器を手に取り、部屋の水場で軽く洗う。そうして相手に返しながら、有無を言わせぬその言い草で相手の瞳をじっと見るのは、俺は俺なりにちゃんと嬢歩する──だから絶対譲らないぞと、こちらもまなざしで物語るためだ。贋作の錬成に魔法火を使う以上、相手は宿の室内で続きをするわけにいかないし、かといって間もなく夜が来るこの時間に、若い女をたったひとりで外にいさせるわけがない。ならせめて、傍で仮眠を取りながら用心棒を兼ねるくらいはさせてもらおう。これは決定事項とばかりに、背嚢から毛布を取り出し、外に戻るぞという身振りを示し。……相手に何を言われようと、その構えを解かないのは、相手がこちらを案じるように、こちらも相手を案じるからだと、今一度真剣に見つめて。)

生意気を言う前に、自分のことも心配しろ。
お前はもうこっちを治して、自分の仕事を果たしてる。なら戦士の俺にも、それなりの……最低限の働きをさせてくれ。
──ふたりきりのパーティーだろう。





884: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-22 10:13:51




っ、……ご、ごめんなさい……?

 ( 貴重な白磁が木製のテーブルを打つ剣呑な音。そして、目の前の男が珍しく必死に言い募る剣幕に、どうやら間違った提案をしたらしい、ということは認識しつつも──"この状況"って、状況によるものなの? と。むせるギデオンの弁明を、実質、"今では無いが、ことと次第によっては有り得る" といった宣言として受け取れば。年上男の涙ぐましい価値観のアップデートも虚しく、あまりの勢いに小さくのけ反り、目を白黒させる娘の中で、哀れベテラン剣士の前時代的なイメージがここで刷新されることはなく、これから数ヶ月後の秋の夜、犬も食わない一騒動を起こすのは別のお話。現時点ではそんな幻滅する可能性さえ孕みこそすれ、プラスの評価になることではなかろうに、自分でも気が付かないうちに完璧では無い、不安定な危うさを抱える相手から目を離せなくなっていったのはこの頃からだったのかもしれない。 )

…………そこまで仰るなら。

 ( そうして、「本当に、どこもお辛くないんですね?」と、相手の真剣な眼差しに今度はこちらが根負けすれば。その渋々といった表情からは──屋外って言ったってすぐそこの庭先なのに、といった不満がありありと読み取れるあたり、結局お互い自分の大切に仕方を知らない似た者同士なのだ。
重い素材の詰まった木箱を、強情な相手と取り合いながら庭に戻り、試作も含めて様々な調合を試すこと複数回。やっと納得のいった調合に、コトコトと良い音を立て始めた鍋を確認し、少し離れてギデオンの隣にそっと静かに腰掛ければ。普段の就寝時間を大幅に廻った時間帯、オレンジ色に染まった顔を、揃えた両手でお行儀良く隠すと、これまた無音でくぁりと小さく欠伸して。 )

……、





885: ギデオン・ノース [×]
2025-04-27 23:32:52




(宿の外壁に取り付けられた木の長椅子に横たわり、魔剣の柄に手をかけたまま、ひとまず目を閉じておくことしばらく。……だがしかし、このところ強張っていた右肩の傷が癒えたからか。或いは相手の立ち働く音に、どこか菱木な懐かしさのある安心感など覚えたせいか。いつしかかすかに気の抜けた顔で素直にとろとろ眠っていたのは、思えばこの娘の前では初めてだったかもしれない。
しかしそれでも、耳馴染みの良い作業音がふとやんだのに気が付けば、薄色の睫毛を震わせながら目を開けて。最初に横の焚火、それから他方へ顔を巡らせ、一休みする相手を見つける。──王都から長旅の後、短い休憩を挟んだだけで小道具作りを任せていたから、あのヴィヴィアンも流石に疲れてきたのだろう。そんなことを考えながらも、数秒ほどただぼんやりとその様子を眺めているのに、果たして気づかれたかどうか。ともかく、目頭を軽く揉みながらようやくのっそり起き上がれば、低く掠れた寝起きの声で話しかけ。)

悪い……おかげで助かった。
……そっちも、一段落ついたのか。

(辺りの闇に、パチパチと火の粉が爆ぜる──それ以外はごく静かな宵。相手の錬成する魔法液がゆっくり煮えるのを待つ間、相手の報告に頷きながら、「寒くはないか、」「小腹は、」などと、ぼんやりしたまなざしのまま、とりとめのない言葉をかける。いつもの己らしくもなく、起き抜けのぼんやりとした感覚がまだ抜けきってくれないせいだ。まあでも、相手にはそう隠さずともいいだろうか……などと考えながら話していると、不意に宿の外から歓声。そちらに顔を向けてみると、どうやら賑やかに聞こえてくるのは、こんな夜更けだというのに、村の向こうからやって来た祭囃子の一隊らしい。)

……牛追い祭りの前夜祭だな。
南部の本格的なやつほどじゃない、小規模なものらしいが……
こっちのは……美味い牛飯が……出ると聞く……





886: ギデオン・ノース [×]
2025-04-27 23:37:59




(宿の外壁に取り付けられた木の長椅子に横たわり、魔剣の柄に手をかけたまま、ひとまず目を閉じておくことしばらく。……だがしかし、このところ強張っていた右肩の傷が癒えたからか。或いは相手の立ち働く音に、どこか不思議な懐かしさのある安心感など覚えたせいか。いつしかかすかに気の抜けた顔で素直にとろとろ眠っていたのは、思えばこの娘の前では初めてだったかもしれない。
しかしそれでも、耳馴染みの良い作業音がふとやんだのに気が付けば、薄色の睫毛を震わせながら目を開けて。最初に横の焚火、それから他方へ顔を巡らせ、一休みする相手を見つける。──王都からの長旅の後、短い休憩を挟んだだけで小道具作りを任せていたから、あのヴィヴィアンも流石に疲れてきたのだろう。そんなことを考えながらも、数秒ほどただぼんやりとその様子を眺めているのに、果たして気づかれたかどうか。ともかく、目頭を軽く揉みながらようやくのっそり起き上がれば、低く掠れた寝起きの声で話しかけ。)

悪い……おかげで助かった。
……そっちも、一段落ついたのか。

(辺りの闇に、パチパチと火の粉が爆ぜる──それ以外はごく静かな宵。相手の錬成する魔法液がゆっくり煮えるのを待つ間、相手の報告に頷きながら、「寒くはないか、」「小腹は、」などと、ぼんやりしたまなざしのまま、とりとめのない言葉をかける。いつもの己らしくもなく、起き抜けのぼんやりとした感覚がまだ抜けきってくれないせいだ。まあでも、相手にはそう隠さずともいいだろうか……などと考えながら話していると、不意に宿の外から歓声。そちらに顔を向けてみると、どうやら賑やかに聞こえてくるのは、こんな夜更けだというのに、村の向こうからやって来た祭囃子の一隊らしい。)

……牛追い祭りの前夜祭だな。
南部の本格的なやつほどじゃない、小規模なものらしいが……
こっちのは……美味い牛飯が……出ると聞く……





887: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-01 00:20:12




……牛追い祭り?

 ( ギデオンがその単語を発した途端、それまで淡々と順調な進捗報告をしていた後輩の瞳へ、あくまで真面目に、けれど持ち前の好奇心が隠せていない煌めきがあどけなく滲む。トランフォードではキングストンの建国祭、南部オーツバレーの牛追い祭りとまで言われる程の規模を誇る祭事ではあるが。物心ついて間もなく禁欲的な学院に入学した娘にとって、それは本の中でしか触れたことの無い知識であり、したがってその憧憬は初めて参加する子供たちらと何ら変わらない純朴なそれで。毎年怪我人が続出するにも関わらず、陽気な市民が熱狂するお祭り。その一番定番の催しが終わったあとも、人々は艶やかに装い、街の仲間たちと一晩楽しく踊りあかすという──もしかして、ギデオンさんは現地で見た事があるのだろうか? "牛飯"ってどんな味なんだろう? もし相手から見たいのかと問われれば、明日以降の仕事の責任の重さを承知しているが故に、非常に強く固辞するだろうが。お行儀よくベンチに座ったまま、まろい頬をじゅわりと瑞々しく紅潮させ、賑やかな行列に向けるキラキラとした眼差しは無自覚だったのだろう。 )

わぁ……いいなぁ……




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