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自分のトピックを作る
848: ギデオン・ノース [×]
2024-12-08 10:34:58




(ギデオンとヴィヴィアンが半年ぶりに訪れた、キングストン職人街。ここで働く連中は、鑿・槌・鉋はお手の物……しかし人間相手となると、どうにも不器用なやつらが多い。そんな難儀な人種にとって、店と客の間を取り持つ女将がたの存在は、まさにかけがえのないものだろう。そしてそれは、客にとっても同じこと──良い買い物をしたいときは、その店の女主人と話し込むに限るのだ。
故にギデオンとヴィヴィアンも、ふたり並んで席につくと、向かいに座ったマダム・メーラーに、早速事情を打ち明けた。──今月からの交際で同棲生活を始めるにあたり、寝具を買い替えることにした。ギデオンは五、六時間、ヴィヴィアンは八時間以上眠るのが習慣で、仕事はともに冒険者だ。ただ、先々の暮らしを考え、いずれ別業種に変えることを検討している。そうすると今よりは家に居つくようになるから、日々の睡眠以外でも、暖炉のある寝室でゆっくり寛ぐのに使いたい。予算はおよそこのくらい、搬入先はこの地区で、この日までに誂えられれば……。
四十男と若い娘の、しかもやたらと勢いの良いカップル。そう見て取れたはずであるが、しかし流石はマダム・メーラー。眉ひとつ動かさずにヒアリングを取りまとめると、にこりと笑って席を立った。「セミオーダーがよろしいですわね。それでもまずは念のため、おふたりのお体を測りましょう……ええ、ええ、あちらにある計測用のマットレスにも横たわっていただきますよ。必要な数字が揃えば、お好みにぴったりのものをスムーズに探せますでしょ?」)

……面白いな。まさかここまで測られるとは……

(──さて、それから十五分後。女将の寄越した計測データの紙を手にしたギデオンは、カーテンに仕切られた計測室から戻ってくると、思わずそんな声を漏らした。ギデオンの身長、体重、両腕を広げた幅はもちろん、筋肉のつきかたや重心の移し方まで、眼をかっ開いた真剣な様子の女将に、これでもかというほど確かめられまくったのだ。先に出ていたヴィヴィアンも、おそらくは同じように、しかし男のギデオンよりはもう少し手心を加えて計測されていたのだろう。
ふたりの手元の紙には今、各種の身体データのほかに、この店にあるマットレスやヘッドボードの簡易カタログが載っている。女将が赤丸をつけたのは、「この品番の商品が合うだろうから是非試して」という指示らしい。最初はそのガイドのままに、女将による丁寧な案内を受けていたふたりだが。途中でドアベルの音が増え、お針子たちの出迎えでは対応が間に合わなくなると、とうとうマダム・メーラーもそちらに赴かざるを得ず。しばらくの間、ギデオンたち自身で好きに見て回るようにと頼まれた。どの道頃合いだったろう──案内の様子からして、ギデオンたちがふたりきりでもゆっくり探したいことを薄々察していたはずだ。
半階上のあのブースで聞き取りを行っている女将の声を聞きながら、ようやく相手を振り返り、片眉をぐいと上げると。今はまだほかに客のない、魔法灯で如何にも居心地よく照らされた店内を、相手と腕を絡めながらゆったりと歩いて回る。マットレスの寝心地は幾つか軽く試したから、そろそろベッドフレームのほうも見繕いはじめようか。のんびりと喉を鳴らしながら、各商品に据えられた番号札と案内紙を見比べては、顔を軽く傾けて隣の相手に相談し。)

……寝室を広く見せるなら、低いものがいいんだろうが。ある程度の高さがある方が、普段使いにはいいんだろう。
サイズはどのくらいがいいと思う? ゆったり眠るには、クイーンサイズだと少し手狭に思えてな……





849: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2024-12-11 10:58:16




 ( 快適な生活とは、得てして非常に物入りなものである。ましてや新たな生活準備に対し、ビビとてある程度の出費は勿論想定していたのだが。他でもない恋人の口からさらりと述べられた今回の予算に、内心穏やかでいられなかったこともまた確かな事実で。今をときめく勤続数十年のベテラン剣士と、やっと新人扱いが抜けてきたばかりの若手ヒーラー。その収入に大きな隔たりがあるのは至極当然の道理で、質の良い生活を享受する権利がある相手を、自分の低い生活レベルに付き合わせるのはただの自己満足に過ぎないとも強く思う。その上、ギルド運営の中心に深く食いこんでいる有能な上司が、後輩ヒーラーが出せる予算など大体把握した上で提示していることも頭では理解しているつもりだし、特に身体を休めるベッドは冒険者である二人にとって何より大切な資本になる等々……。要はここは意識して物分り良く振舞ったのだったが──帰ったらもう一度話し合わなくちゃ、と。己の甘さに唇を噛んだ娘とって、更に大きな衝撃が待ち受けているのはまだ一旦別のお話。 )

私も、もう少し大きい方が良いと思います。
その方が帰ってくる時間がバラバラでも、お互いを起こさずに住みますし……

 ( 結局、なんだかんだ浮かれているのは此方も同じ。当たり前のように、ひとつのベッドで寝てくれるらしいギデオンに、えへえへと纏わり着くと。「……でも、二人とも元気な日はくっついて寝てもいいですか……?」と耳打ちした薔薇色の頬や、キラキラと輝くエメラルドのいっそ残酷なレベルで無邪気なこと。これから数ヶ月にわたって、相手を酷く苦しめることなど微塵も分かっていない顔をして、強請るようにこてりと首を傾げれば。高さ順に並べられたベッドの群れに駆け寄り、一番高いそれにぴょいと浅く腰掛ける。そうして少し浮いた踵をぷらぷらと、楽しげにギデオンを見上げては、「これくらい高い方が沢山収納できないですか?」と、あの広い住宅に対して妙に所帯染みた思考はご愛嬌。少しでもじっとしていられないのか、すぐさま今度は低いそれに腰掛け、余った脚を億劫そうに折りたためば。ふんふんと丸い頭を小さく揺らして相談を。 )

今はどちらも分厚いマットがあるから低い方が良く見えますけど、薄いマットを敷いたら高い方もそんなに圧迫感なくないですか?
脚が細い……床が見える物ならもっと広く見えるかも……?




850: ギデオン・ノース [×]
2024-12-13 01:01:19




────……、

(“頼れる恋人、ギデオン・ノース”。己よりずっと若い彼女にきっと相応しいそれを、自分はここ数週間、努めて演じ続けたつもりだ。だがしかし、ピュアを煮詰めたような娘のとんでもない発言に、一度びきんとひびが入れば。辺り一面に展示されている素晴らしいベッドフレームを、彼女が熱心に眺める間……ギデオンのほうはと言えば、その場にじっと佇んだまま、大きな片手で険しい顔を覆い隠して。
……ああ、そうだよな。収納のことも、ちゃんと考えておかないと。それで……そうか。ヴィヴィアンのほうも、俺と眠るのが嫌じゃないと。それどころか、むしろたまにはくっついて寝たいと。普段は遠慮してすらいると。そうか。なるほど。抱いてもいいか。
──なんて本音は、しかしまだ言えやしない。なまじ恋仲になったからこそ、下手な冗談に聞こえないせいだ。それに何より聖バジリオの、あの担当医からのお達し……退院してまだ数日の、相手の体が第一だろう。
故に何とも歯痒そうに、一度眉間の深い皴をぎりぎりとより極めたものの。ようやく顔を上げたかと思えば、その面は今度はス──ンと、酷く冷静に凪いでいた。やがてこの先何年かギデオンを眺めるうちに、彼女も気づきはじめるだろうか。……この慎重居士の魔剣使いが、もはや盛大に開き直ると決めたときの面である。)

いや、マットもフレームも、しっかりしたものを選んでおくほうがいい。
二階に運び上げるのに一苦労だろう? だから──最低、五年は保たせてみせないと。

(まったく、何が“保たせる”だ。その意味深な物言いの訳を自分からは明かさずに、相手の手を取り立ち上がらせて、別のコーナーに連れていく。どうやらそこは、彼女が今までそれとなく避けてくれていたであろう、この店の最高級品が並んでいる一角らしく。仮に相手に見上げられても、そこにある男の横顔は、まったく揺るぎやしないままで。
ヘッドボードにさりげない引き出しがついているものをふと見つければ、「これなんかは便利そうだな」と、はたまた何を常備するつもりなのやら。ともかくそのベッドの、どっしりとした脚の太さをいたく気に入ってしまった様子で。先にベッドに深く腰掛け、その据わり心地に(ほう)という顔で見下ろすと。ふと相手に顔を戻し、緩く腕を広げては、当たり前のように誘って。)

これに合わせるマットレスは、やっぱり……ほら。この店独自の、『メーラースプリング』ってのが、いちばんフィットするらしい。
……ほら、お前も、こっちに来てみろ。





851: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2024-12-18 22:25:54




……いえ、その、5年後も一緒にいてくださるんだなって思ったら嬉しくて!

 ( それは生きてきた年月の違いからくる、時間感覚の違いに過ぎなかったのかもしれない。しかし、年若いヴィヴィアンにとっては決して短い時間ではない、これまで相棒として過ごしてきたよりも、ずっと長い歳月を当たり前のように信じてくれる恋人に、思わずきゅんと言葉を詰まらせれば。熱く火照る耳先をくりくりと面映ゆそうに弄び、潤んだエメラルドを震わせて。そうして、嬉しそうに「わあ! 確かに、ふっかふかですね!」と相手の隣に腰掛ければ。上質なスプリングに任せ、上下にぽよぽよ揺れて見せるも、正直、もう内心マットの良し悪しなんてどうでも良かった。ギデオンさんが隣にいてくれるのなら、私ドラゴンの鱗の上で寝たって構わないな──なんて、そんな自己陶酔に浸っているから、“普通に使っていたら”、先程のマットだって十分に5年は使えそうだとか、収納ってそんな小さい引き出しのことじゃなくてだとか、色々と大切なことを見落とすのだ。しまいには、確かに運搬料だってかかるんだし、ギデオンさんが言うならそうなのかもしれないなどと、すっかり上手く乗せられている自覚のないまま、戻ってきたマダムの助言に滑り止めやら、素材やらのオプションを幾つか見繕えば。ベッドの他にもいくつかの家具を含め、あれよあれよという間に、契約書等を纏めた書類を受け取っていたのだった。 )

お……お休みの日は、少しでも長くベッドの上に居なくちゃ……

 ( 結局、支払いの段階でやっと僅かばかりの冷静さを取り戻すも、帰りの馬車の中、本人はいたって真剣な表情で呟く内容がどこまでもずれているのはご愛敬。5年どころか、ベッド本体は一生使えそうな代物に、その視線は何処か遠い宇宙を映しながら、ぐっと両こぶしを握りこむと「ギデオンさん! 帰ったら相談したいことがあるんです!!」と。それは、これから始まる共同生活にあたり、特に経済的な方向性で、一方的に相手のお世話にだけなるつもりはないのだと。改めて伝え直すべく、帰宅後に時間をとってもらった時だった。まずは月々の細かい収支を確認すべく、約束通りに持ってきてもらった賃貸契約書に目を通すと、暫くして「………?」と首を傾げ始め。「あの、ギデオンさん………」と、指し示したのは月々の『家賃』とは別に記載された『共益費』の項目。家を借りる際に名目上の『家賃』とは別に、その他雑費がかかることは、流石の箱入り娘とて、この下宿を借りる際に知っていたが──……否、なまじ中途半端な経験があったからこそ勘違いしていた。ビビの知る『共益費』は家賃の数分にも満たない、あくまで雑費の粋を超えない程度だったが、完全な富裕層を相手にした住宅は訳が違う。警備費、補償費、清掃費……この書類から計算するに名目上家賃同等か、月によってはそれ以上の額に上るそれを正確に認識した途端、あまりの衝撃に目眩を覚え。家賃の半額だってギリギリだというのに──いや、寧ろ引っ越す前に判明して良かった、と。腹を決めたところまでは良かったのだが。その後のあまりに言葉足らずな宣言から生じる誤解に思い至れない程度には、内心かなり動揺しているらしく。入居の数日前になって、あまりの申し訳なさからそれ迄くっついていた上半身を離すと、真っ青な顔を横に振り。 )

──…………ごめんなさい!!
どうしよう、私ギデオンさんと暮らせない……





852: ギデオン・ノース [×]
2024-12-21 01:17:01




────は、

(それはまさに青天の霹靂。一瞬ぴたりと静止した後、愕然とした顔を相手に向けて、狼狽あらわな震え声を。──これが普段のギデオンならば、相手の言わんとすることを冷静に捉えただろう。しかし今はいかんせん、恋人の家に上がって寛いでいた矢先。己に後ろから抱き込まれている部屋着姿のヴィヴィアンがふんふん書類を読むあいだ……顔が見えないのを良いことに、その甘いぬくもりでたっぷりふやけきっていたのだ。
そこにヴィヴィアン本人からの、突然のこの冷や水だ。ギデオンの青い目はあからさまに揺れ動き、その太い両腕は我知らず固く強張った。勝手に狭めることこそしないが──それでも相手を出さぬとばかりに、ぎこちなくもがっちりと、堅牢の構えをとらずにはいられない。ようやく絞り出した声にも、動揺が色濃く乗って。)

……待て、待て待て。
何故、なんだ、何を……いまさら、

(──今更も何も、病み上がりの若い娘に同棲を持ち掛けて、まだほんの二週間。仮に相手が本気で意向を翻したとて、別におかしくはない話なのだが、何せこの男ときたら、春先に死なせかけた娘を今度こそ失うまいと、本気で固く決心している。故にこの二週間、頼れる大人の皮を被って、必死になって口説いてきたのだ。そうしてようやく手に入れた──そう一安心していたというのに。それが水の泡になるのか。彼女を今更諦めることになるのか。嫌だ。それは、絶対に嫌だ。
それを素直に打ち明けるには、しかし何せ臆病すぎた。故に何も言いだせぬまま、長いことただ唇を開いたり閉じたりしていたものの。それでも何かは言わねばと、藁にも縋る思いで青い視線を巡らせて、ふと契約書に目が留まる。先ほど相手に何やら言われ、一応こちらもちらりと見たが、何か取り立てておかしなことが書いてあるわけではなかった。──そう、少なくとも、ギデオン自身の視点では。
ある可能性にふと気がついて、もしや、とそれに手を伸ばす。今一度確かめた家賃と同等の共益費、これはこの文教地区たるサリーチェの家に住むならば、至極当然の数字をしている。そして──わざとではないのだが──ヴィヴィアンと家賃のことを話す時、自分は自ずと、共益費を除いた数字で等分することにしていたはずだ。単純に計算して、ギデオンの支払う額とヴィヴィアンの支払う額は、実に三倍の違いがある。「……まさかとは思うが、」と、すっかりいつもの自分に戻った困惑顔で相手に尋ね。相手がこくりとでも頷けば、契約書を脇に押しやり、かぶりを振りながら反論を。)

金のことなら気にしなくていい。
おまえの考えることはわかるが、手取りが数倍も違うのに、全部をひっくるめた額で折半するわけがないだろ。





853: ギデオン・ノース [×]
2024-12-23 23:58:52


※予告の修正内容から変更はございません



────は、

(それはまさに青天の霹靂。一瞬ぴたりと静止した後、愕然とした顔を相手に向けて、狼狽あらわな震え声を。──これが普段のギデオンならば、相手の言わんとすることを冷静に捉えただろう。しかし今はいかんせん、恋人の家に上がって寛いでいた矢先。ソファーとスツールでは視線が上手く合わないからと、相手のベッドの前にローテーブルを持ち込んで、仲良く並んで腰かけながら帰りに買った夕食をつつき……そうして食後のコーヒーを、共にのんびり味わうなどをして過ごしていた最中だ。
そこにヴィヴィアン本人からの、突然のこの冷や水である。ギデオンの青い目はあからさまに揺れ動き、カップを手にしたままの手もわかりやすく強張って。よもや足元の白いカーペットにこぼしてはことだからと、まずはそれを下ろしたものの……ようやく絞り出した声にも、動揺が色濃く滲み)

……待て、待て待て。
何故、なんだ、何を……いまさら、

(──今更も何も、病み上がりの若い娘に同棲を持ち掛けて、まだほんの二週間。仮に相手が本気で意向を翻したとて、別におかしくはない話なのだが、何せこの男ときたら、春先に死なせかけた娘を今度こそ失うまいと、本気で固く決心している。故にこの二週間、頼れる大人の皮を被って、必死になって口説いてきたのだ。そうしてようやく手に入れた──そう一安心していたというのに。それが水の泡になるのか。彼女を今更諦めることになるのか。嫌だ。それは、絶対に嫌だ。
それを素直に打ち明けるには、しかし何せ臆病すぎた。故に何も言いだせぬまま、長いことただ唇を開いたり閉じたりしていたものの。それでも何かは言わねばと、藁にも縋る思いで青い視線を巡らせて、ふと契約書に目が留まる。先ほど相手に何やら言われ、一応こちらもちらりと見たが、何か取り立てておかしなことが書いてあるわけではなかった。──そう、少なくとも、ギデオン自身の視点では。
ある可能性にふと気がついて、もしや、とそれに手を伸ばす。今一度確かめた家賃と同等の共益費、これはこの文教地区たるサリーチェの家に住むならば、至極当然の数字をしている。そして──わざとではないのだが──ヴィヴィアンと家賃のことを話す時、自分は自ずと、共益費を除いた数字で等分することにしていたはずだ。単純に計算して、ギデオンの支払う額とヴィヴィアンの支払う額は、実に三倍の違いがある。「……まさかとは思うが、」と、すっかりいつもの自分に戻った困惑顔で相手に尋ね。相手がこくりとでも頷けば、契約書を脇に押しやり、かぶりを振りながら反論を。)

金のことなら気にしなくていい。
おまえの考えることはわかるが、手取りが数倍も違うのに、全部をひっくるめた額で折半するわけがないだろ。





854: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2024-12-28 01:28:19




あっ……駄目!! ちゃんと見せてください!!

 ( 取り上げられた契約書を取り返そうと、どたばたとベッドに乗りあげたところで、渡す気のない相手に此方が適うはずもなく。二人のことなのに──と、柔らかい寝具の上、体育座りの要領で長い足を畳みながら、「"わけがない"なんて、誰が決めたの」と小さくむくれてみせれば。しかし、そうして見上げた蒼い瞳に、悪気どころか、ビビを喜ばせようとしていた困惑しか見て取れないことに気がつくと、仕方なさそうにゆっくりと相手の隣に腰を下ろし直して。 )

ギデオンさんにとって、私はまだ先生の子供なの?
そうじゃなくて対等な……恋人、でしょう?

 ( こほん、と言葉足らずな恋人を諌めるべく、居住まいを正したところで。自分で発した甘い単語に嬉しくなって、にこにこと勝手に機嫌を直しているのだから世話がない。座り直した際に触れた小指を嬉しそうに見つめ、その少し乾燥した分厚い掌にちゃっかりと自分のそれを重ねると。「ギデオンさんの方が、余裕をお持ちなのは分かってます」「でも、私達ふたりの生活ですもの。……最終的に折半じゃなくなったとしても、私もちゃんと関わりたいんです!」と、その瞳を真っ直ぐに見つめてみるが、果たして過保護な相手にどこまで通じたことか。ふっと一瞬瞼を閉じたかと思うと、すぐさま爛々と強欲に輝くエメラルドを覗かせて。 )

それにね、私、ギデオンさんがしてくださったことは、どんな事でも覚えておきたいの!




855: ギデオン・ノース [×]
2024-12-29 12:17:28




(無垢に、そして貪欲に、望みを語る相手の前で。最初は虚を突かれたように薄青い目を瞠ったものの、やがてふっと和ませて、「そうだな、」と喉を鳴らし。そうして軽く頭を寄せ、重ねられた掌の下、親指の先で相手の小指をごくゆっくりと撫でることを繰り返す。しばらく部屋が鎮まったのは、己なりに、今の会話に続ける言葉をきちんと探そうとしているからで。)

……どんな事でも、か。

(──今更のように実感したことがある。“対等な大人としてきちんと扱ってほしい”のだと、彼女はこちらを嗜めてくれた。だがそれとまた同時に、“恋人”という単語ひとつで未だぽやぽやはにかんでしまう、そんないじらしい純真さをまだまだ残した娘でもある。つまるところ、彼女はやはり、歳を重ねた自分とは大きく離れた存在なのだ。
相手の若さを侮るわけでも、単に手放しに神格化するわけでもない。ただ厳然たる事実として、ギデオンとヴィヴィアンは、人生の季節がちがう。こちらがもう晩夏も過ぎ、秋に差し掛かる年の頃なら、彼女はまだ初夏真っ盛り……咲初めの花が香る頃。だから先を行くギデオンに初々しく憧れるし、ギデオンが夏の盛りにつけた力に敬意を払ってくれながら、自分も力になりたいのだと懸命に背伸びする。そしてギデオンのほうもまた、ヴィヴィアンの瑞々しさや花開いていく様にごく当然に惹かれながら、与えることで与えられたい、その日々を続かせたいと、水面下で必死になってあの手この手を尽くすなどする。それがきっと、これからの自分たちの有り様になっていくのだろう。おそらくそう単純じゃない。それぞれの時間の流れを相手に合わせていこうとするなら、この先もまた、こうして何かしら見えてくるものがある。
──だが、それでも、ふたりでなら。こちらに負けず劣らず諦め悪く欲深い、彼女が相手であるのなら。)

なら、絶対忘れさせないぞ。忘れずに……俺のことを、きちんと見ていて貰わないと。

(再び上げたギデオンの顔からは、もう憂いが抜けていた。今の長い長い思案の間をようやく埋め合わせるように、己の大きな掌を返して相手の柔らかな手を握り、鮮緑の目を穏やかに見つめる。そこにあるのは、きっとヴィヴィアンが望んだ以上にこちらが決めた覚悟の色。「そうだな、ふたりの生活だ。ごっこ遊びじゃないもんな、」と。空いた片手でその頬に触れ、最初こそ穏やかに親指の腹でさすったものの。やがて撫で下ろしたその先は、相手の柔らかな唇に我知らず流れていき──半月前のあの時ぶりに、己の視線も吸い寄せられて。)

わかった。こういう大事なことは、これからはもっときちんと話し合っていくようにしよう。
とすると当座は、保険や名義の再確認と、それに──……





856: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-01-08 00:44:37




もう! 頼まれたって、忘れてあげたりなんてしませんよ!

 ( そう心外そうに唇を尖らせた娘は未だ若く、中年男の覚悟の大きさも、その内心の呵責も何も知らない。しかし、その代わりに男の逡巡など意に介さず、真っ直ぐに欲しい物へと飛びつけるのは若者の特権だろう。此方の要望を踏まえ、相手が述べてくれる内容もしっかりと頭の中に書き留めつつも。ゆっくりと降りてきたそれに、しなやかな腕を相手の太い首へと回すと、全身を寄せるように半ば奪う様な勢いで受け止めて。 )

……わがまま、聞いてくださってありがとうございます。
大好きよ、ギデオンさん。





857: 匿名さん [×]
2025-01-15 19:38:46

支援

858: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-01-17 01:09:43




待って待って! 今メモを準備しますから……っ、!

 ( やっと通じたらしい真剣な想いに、ほっと肩の力を抜いたのも束の間。次々と俎上に上げられる現実的な問題に、慌てて立ち上がろうとしたその瞬間。いつの間にか握られていた手にぎゅっとその場に引き止められると、唐突に与えられた触れ合いに、ぴんと背筋を緊張させて。嫌な訳じゃない、訳が無い。自分からするのは良いが、相手からの愛情表現に慣れないと言ったら笑われそうだから言わないが。無意識にそれまでギラギラと見開いていた瞼もきつく閉じ、長い睫毛を震わせ、相手の反応に面白いほど簡単に翻弄されながらも。それでも、与えられる愛情の一片をも逃してなるかと、必死に応える若い娘は、未だ年上男の内心の哀愁に気がつけない。そこには、現にギデオンも認めたように、諦め悪く自らの有様も気にしない、愚直でまっすぐな深い愛情があるだけだった。 )

──おはようございます、ギデオンさん!

 ( そうして迎えた引渡しの日は、眩しいほどの晴天に恵まれて。約束の時間にはまだ少し早いはずだが、下宿の自室の窓から相手の姿が見えた瞬間。下宿の階段を転がり落ちるようにして駆け下りたヴィヴィアンが身にまとっているのは、胸元を開けた白いシャツに、瑞々しいラインを描くコルセット、そして長い脚を覆う白いブーツ。他でもないギデオンが何より、誰より見慣れている筈の仕事着で。勿論このまま数十日ぶりに出勤しようとする訳ではなく。暫く家主のいなかった新居の掃除のため、汚れても良い、動きやすい服故に、いつもの白いローブは今日は既に荷物の中だ。そのため分かりやすく晒されている、少し痩せてしまった全身でギデオンに飛びつけば。肩を竦めてはにかんで、前髪をくしゃりと硬い胸板に擦り付け。 )

あのね、あのね、私もうすっごく楽しみで、誰かに起こされる前に目が覚めちゃったって……言ったら、子供っぽい、かも。
お願いしたら……聞かなかったことにしてくださる?





859: ギデオン・ノース [×]
2025-01-18 12:24:58




(この二週間の理性がどれほど脆い代物か、気づけば甘く食んでいた柔い唇で思い知る。大事な話の最中なのだ、満足したらすぐに退こうと、どこかしらでは考えていたはずが……相手の娘がいじらしくも懸命に応えてくれるものだから、それでまた箍が二、三外れて。やがてようやく吐息をこぼし、まだ熱っぽい目を交わせば。「……それで、何の話だったか」なんて、気の抜けきった呟きに、相手と思わず笑い合って。
──こんなにも己の中身を変えられる。しかしそれがこれほどに心地良いことだなんて、自分はこの四十年、全く知らずに生きてきた。そしてこれを、今ひとときの思い出だけにとどめてしまうつもりもないのだと。この腕のなかの娘に、これから先、何年かけて伝えていけばいいだろうか。)

──……っくく。ああ、おはよう。

(ガチャン、パタパタ、と忙しない物音は、それだけで己のヴィヴィアンが飛び出してきたのだと気が付くには充分だ。よく晴れた初夏の昼下がり、こちらもワインレッドのシャツに黒い脚衣といういつもの出で立ちでやって来たのは、ギルド本部での早朝勤務を切り上げてきたばかりだから。懐かしい姿の相手をその胸元にしっかり抱きとめ、可愛らしいことを言われれば、その頭を撫でながら愉快そうに喉を鳴らして。「いいや、聞き捨てならないな。誰に起こして貰ってるんだ?」なんて、相手の寝坊助を揶揄いつつ、戯れに妬くふりを。おおかた同じ寮に住む同じ親しい女性住人だろうが、その美味しい役割は、これからは自分ひとりが独占していいものだ。そんなようなことを、涼しい顔でさらりと言って見せながら、相手と手と手を絡め合って歩いていったその先は、ギルドからそう遠くない場所。今日からしばらくは自分たちのものになる、のどかな通りの一軒家──なのだが。)

……? あれは、

(やっぱりかなりやつれたろう、しばらくは無理をせず一緒に美味しい食事を囲もう、俺はあれなら作れるが……なんて、他愛ない話を咲かせていた矢先のことだ。ふと歩みを止めたのは、自分たちの新居の青々とした前庭に、何やら様子のおかしいものを見つけてしまったからである。
近くまで歩いてみれば、それは黒々とした喉にアヌビス模様の袋を提げた、白い羽毛を誇る生きもの。言わずと知れたカラドリウス、その早生まれの若鳥らしいが、その場でバタバタと小さな羽根をもたつかせながら、上手く飛び立てずにいるらしい。万病を癒すというこの聖なる鳥でさえ、自分がどこかしらに負った怪我は治せないということだろうか。つぶらな瞳でこちらを睨み、ギャッギャッと威嚇鳴きするその存外な気性の強さに、思わず目を瞬かせつつ。──あいにく自分は、魔獣の類いを斬り倒すしか能がない。何かわかるか、というように、隣の恋人の方を見て。)





860: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-01-23 10:46:21




……、じゃあ、責任もって毎朝っ……、優しく起こしてくださいね!

 ( ギデオンとの関係が変わって幾週か。ビビばかりその迂闊を咎められている気がするが、この愛しい恋人だって大概だ。涼しい顔をしてさらりと吐かれる殺し文句に、自分ばかりドキドキさせられているのが悔しくて。その涼しい表情を真似してみるも、徐ろに長い指を絡められれば。いいように人が動揺する様を見て、なんて楽しそうにしてくれることか。心底楽しそうに眦を下げる相手を前に、ぷくりと頬を膨らませて見せれば、ご機嫌をとらんとする少し焦った薄青の瞳。それに免じて許してやった以降も、何気ない話題に目尻の皺を深めたり、かと思えば見開いたり。そんな大好きな人の色鮮やかな表情を隣で、合法的に眺めていられる幸福にたっぷりと浸かっていたものだから。二人の歩む進行方向、その足元に撒き散らされた白い羽毛に気がついたのは、当の恋人に促されてのことで。 )

いえ、良い機会なのでこのままちょっとダイエットしようかなって──……

 ( 負傷した翼を精一杯伸ばして、少しでも自分の姿を大きく見せようとする痛々しい有様を見て。入院前のビビだったなら、自分が病み上がりなことも忘れて一も二もなく治療に当たったかもしれない。しかし──ギデオンさんと会えなくなるようなことはしない。あの日の約束を胸に、投げかけられた視線にこくりと頷けば。「ごめんね」と、すっかり怯えきって威嚇の鳴き声をあげるカラドリウスの前にしゃがみこみ、その鋭い爪や嘴に掌が傷だらけになるのも厭わず拾い上げたのは、一晩をここで過ごしたのだろうか、すっかり冷えきってぶるぶると震える羽毛を温めてやるため。ここで普段通りに魔法が使えていたのなら、少しでもその痛みを和らげてやることが出来ただろうに。手持ちの薬草を使うにしても、まずは身体を温めてやってから、最終的にはドクターのところへ──……と、無意識のうちにここまで考えて。はっと気づいたようにギデオンを振り仰ぐ娘の表情には、ビビと同様かそれ以上に、今日この日を楽しみにしてくれていた恋人への罪悪感と、それでもこの人なら絶対に背中を押してくれる、という確かな信頼がはっきりと滲んでいて。 )

……ギデオンさん、その、私、この子をドクターのところへ連れて行ってあげてもいいですか……?
ちゃんとすぐに帰ってきます! でも、どうしても放っておけなくて……




861: ギデオン・ノース [×]
2025-01-28 01:24:52




(医療知識のある彼女なら、こういった時にどうするべきかも何かしら知っているだろう。己のその信頼は決して間違いではなかったが、しかし愚かにも見落としたのは、博愛精神あふれる相手が、それを執るため何を容易く看過するかということで。
その手に滲む小さな赤にこちらが目を瞠った時には、ヴィヴィアンはいつも通り、こちらをまっすぐ見上げていた。──そこに少しでも、いつかの秋にも見た陰を見出そうものならば、再び彼女を止めたはずだが。眩しい初夏の空の下、エメラルドの目の奥の輝きは、あの頃とは少し違うことをギデオンにもわからせる。故に揺れていた瞳を、ふっと弛緩するように伏せ。「……だめだ、」と一言、その意味に似合わず柔らかな声で言いながら、相手の手に己の手を添えて。)

そんな手で、ひとりで行かせるわけがないだろ。
ドクターのところでもいいが……なあ、少しあてがある。

(だからそいつを、と。恋人の手を傷つけた鳥を、代わりに引き取ろうとしたものの。聞かん気の強いカラドリウスは、ヒーラー娘の優しい手を最初はあんなに傷つけた癖に、今度は彼女の手の中から絶対に出たくないらしい。ギデオンが手を近づければギャッギャッと叫んで拒み、自分を包むヴィヴィアンの手に小さな体をぐいぐいと押し付けてみせる始末だ。これ以上下手に暴れられても困るなと諦めて、相手と一羽を先導すべくゆったりと歩き出す。向かった先は、ほんのすぐそこの1番地。──この麗らかなラメット通りに古くから住んでいる、町内会の会長夫人その人のお屋敷で。)



(「あらあら、まあまあ。この子は随分暴れん坊なカラドリウスね」。
以前の本契約時以来二度目に会ったそのご婦人は、ふたりが道から挨拶したとき、庭先に誇る花壇にじょうろで水をやっていた。しかしこちらに気が付いて、ヴィヴィアンが傷だらけの手に小鳥を保護していると見れば、みな東屋に呼び込んで。──さてはてどういう手練手管か、あのカラドリウスを大人しくさせて自分の手に乗せてしまうと、軽い治癒魔法をぽわりと温かく光らせたのは、かつて近くにある病院で働いていたかららしい。「お次はお嬢さんの番よ」と、相手の傷をたちまち癒してくれた彼女に、引っ越し早々世話になったと恐縮の謝意を述べつつ、改めての挨拶を。
──そう、ふたりとも冒険者なのね。うちの夫もそうだったのよ、今じゃすっかり二歳の曾孫にやっつけられてばかりだけど。
すっかり元気になった小鳥に庭の草の身をやりながら、どこかしみじみと懐かしそうに目を細めるご婦人は、どこまでも淑やかで親切なお人のようだ。ラメット通りの新顔であるギデオンとヴィヴィアに、いつでもうちにいらしてね、と軽い手土産まで持たせてくれた。遠方にいる二番目の娘夫婦がはるばる送ってくれたという、南部レモンをふんだんに混ぜた自家製の甘い焼き菓子。今日は引っ越し初日でしょう? 色々大変だと思うから、これでお茶でもしてくださいなと。──このお礼はどう返そうか、なんて話を帰りにヴィヴィアンと交わしたのは、当然の成り行きで。
そうしてそのまま今度こそ、裏手の柳が目に柔らかい、自分たちの我が家に戻る。庭先に例のカラドリウスを放ってやれば、最初は二、三歩跳ねてから、ちょっとばつが悪そうにヴィヴィアンのことを見上げているのがどこか可笑しい。「ほら、さっさとどこか行け」と小鳥をあっさり他所にやり、娘の背中に手を回すと、玄関先のポーチを上がる。
そうして真新しい鍵を胸ポケットから取り出して──……しかし、すぐには差し込まず。何やら眺めていたかと思えば、どこか静かな表情で、相手の方にふと渡し。)

……なあ。
よかったら……お前が開けてくれないか。






862: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-02-02 00:45:04




 ( こんな取るに足らない擦過傷を、少なくとも二人の人間と一羽の小鳥が気づいて、皆自分を心配してくれる。それを申し訳なく思う一方で、どうしようもなく満たされてしまう想いは、まるで、あたりいっぱいに漂う少し苦くも甘酸っぱい芳醇な果実と、それを馥郁と包み込む甘いバターをたっぷりと練り込んだ焼き菓子の香りのようで。どんな些細な事象でも気にかけられて良いのだと、自分にはその価値があるのだと、この一年をかけて相手に伝えたかったことを、奇しくも自分が教えられる形となってしまえば。ギデオンはよくビビに貰ってばかりだと言うがとんでもない。この強く、長く、優しい腕に首をもたげて、自分は何をか返せるだろうかとぼんやりと考えていたものだから、ふいに鍵を差し出されると、思わず大きな目元をぱちくりとさせ。
「? ええ、もちろん……」と小首を傾げた娘にとって、ギデオンの真意こそ図り兼ねれど、愛しい恋人のお強請りを叶えてやらぬ理由もない。受け取った金属片を素直に回して、観音開きの扉をゆっくり奥へと開け放てば──わあ! と。既に内見の時にも見ているだろうに、声だけでもなくその表情も無邪気なこと。ぱたぱたと嬉しそうに数歩あゆみ出て、大きな窓から差し込む眩い光の中、これから始まる生活にいてもたっても居られずに、新しい木の香りをたっぷり胸に吸い込みながら、ふわりと優雅にターンを決めたことで、未だ玄関の外に立ち尽くす恋人を見つけると。うっとりと微笑みを浮かべながら腕を広げて、可愛い恋人が自分の腕の中へと来てくれるのを信じて、一切疑わない表情で待ち構えてえ。 )

……ギデオンさん。




863: ギデオン・ノース [×]
2025-02-09 13:13:16




(自分はこの三十余年、家らしい家を持たなかったし、持とうと思いもしなかった。それが次第に変化したのは、世話焼きなヒーラー娘が押しかけ始めてからのこと。──暗い帰路からでも見える、遠い自宅の窓辺の灯。扉を開ければ出迎える声、辺りに漂うポトフの香り、ふたつに増えた食器の音に、ごく他愛のない会話。それらを一度知ってしまえば、元に戻れるはずもなく。故にあれこれ手をこまねいて、着実に事を進めてきた。そうしていよいよ目前になり……ふと、確かめたくなったのだ。
わけも語らず委ねた鍵を、きっと相手は、どういう意味かと尋ねることもできただろう。だがヴィヴィアンはそれを選ばず、ただそのままと聞き入れて、自ら中へと入ってくれた。そうして光を浴びながら、全身に喜びを乗せ、振り向いた先のこちらを、ただまっすぐ待ち受ける。そんな姿を目にしてしまえば、ああそうか、とすぐに気が付く。──遠回しに欲しがって確かめるまでもない、最初から与えられていた。)

──…………

(ただ無言で歩み出し、相手の前に佇めば。瞼を閉ざし、引き寄せられるようにして、うら若い恋人の華奢な肩に頭を沈める。そうしてすり、と鼻梁を摺り寄せ、回しかけられた腕に同じものを返してみせれば、くすぐったいというように耳元で上がる笑い声。その余裕が悔しくて、「……やっとだ、」なんて、照れ隠しに囁き返す。相手も望んでいることが、どんなに自分の胸を満たすか、伝えられているだろうか。
とにかく、ようやく手に入れられた。忘れもしないこの住所、キングストンサリーチェ区、ラメット通り8番地。ここが冒険者のふたり、ギデオン・ノースとヴィヴィアン・パチオの……この夏からの我が家である。)





(──さて。あのときとは異なる時間、異なる場所で。ベテラン戦士のギデオン・ノースはその日、何とも面倒な問題に頭を悩まされていた。
事の発端は、四日前に帰還したとある冒険者パーティーだ。その一隊の隊長は、諸事情で依頼を降りたギデオンの代打として出動する筈だったのだが、こちらの与り知らぬところで、なんと更なる交代を勝手に行っていたらしい。その代打の代打というのがまた、よりによってあのマルセルとフェルディナンド。カレトヴルッフきっての問題児コンビふたりに隊長職を委ねるなど、ギデオンを始めとする古株のベテランたちは決して許さなかっただろう。しかし別のギルドから転属してきた横着な冒険者が手続きを省いたせいで、事はもう起こってしまった。──端的に説明すると、問題児コンビの率いていた若手冒険者たちの部隊は、護送を担う依頼の途中で、積み荷をロストするという大失敗をやらかしたのだ。
これだけでも頭が痛いが、さらに頭痛の種になるのが依頼主の存在だ。彼は王都の機関に勤めるお偉い学者様なのだが、何と預けた積み荷のなかに、大層価値のある代物を無断で混ぜ込んでいたらしい。──それもエメラルド碑文こと、タブラ・スマラグディナの一枚。何故そんな大事なものを申告しなかったかというと、欲に目が眩んだ冒険者に盗られると思ったからだそうだ。
マルセルとフェルディナンドはろくでなしの大馬鹿どもだが、さすがに依頼主の荷物を掠め取るほど愚かななりはしていない。とはいえ依頼主の翁は、積み荷を失くしたということにして奴らが碑文を盗んだはずだ! と声高に一点張り。……だが本来、貴重な学術資料を無断で移送すること自体が大問題のはずなので、依頼主が所属している研究機関の調査も立ち入ることになってしまい、事態はすっかり混迷を極めきっている。
──そもそも本当に、なくした荷物の中に碑文は存在していたのか? 依頼主のあの人物像を見るに、賠償金目当ての言いがかりという線も有り得るのではなかろうか? 疑念は込み上げてやまないが、とにかくこの事態の責が、きっかけを作ってしまったギデオン自身にもあることは、火を見るより明らかだ。グランポートから帰ってしばらく、まだ右肩の傷が痛むので大事をとって休もうとしたら、全てが悪化の一途を辿り、今やこんな有り様である。故にこの数日間、ギデオンはギルド本部の内勤に徹しながらも、ほとんど不眠不休で働き、すっかりふらふらの血眼だった。何せ幹部の冒険者たちも、今回の事態解決に向けて東奔西走してくれている。どうして自分が休めるだろう。
とにかく碑文、碑文発見の報が欲しい。それだけでは解決しないが、少なくとも失くした積み荷を見つけだして無事に回収しないことには、全ての回復が始まらないのだ。同じく徹夜で働いているギルドマスターの許可のもと、ギルド内外から収集するあらゆる報告に目を通し、あらゆる若手に指示を出し、あらゆる始末書を次々書き上げ……そんなことをしていたら、とてもじゃないが、自分のなりに構うような暇などなかった。──事態が発生してから四日目、今朝のギデオンはいつにもましてくたびれた顔、隈の濃い目元、これだけならまだいいが、顎にはぼうぼうに無精ひげが生え、ワインレッドの服もすっかりよれよれという有り様である。それはそれで好みだなんて宣うフリーダのような物好きもいるのだが、普段なら勿論のこと、女相手にこんな姿は晒さない。今は療養を理由として内勤業務に拘束され、ギルド四階の執務室に缶詰の状態になっていたからこうなっているだけで、ここ数日間話していたのも、同じようにボロボロになった幹部の男連中だけだ。
故に、部屋の戸を軽くノックする者があれば。どうせ幹部の御使いで来た後輩のアランか誰かだろう、と大股で歩み寄りながらすぐさま扉を開けたのは、完全なる油断の結果で。)

──どうだった! いい加減、何か見つかった……か……






864: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-02-16 00:11:39




 ( マルセルとフェルディナンド。天下のカレトヴルッフが誇る問題児両名が、此度も盛大にやらかしたらしいという噂を、恋に恋するヒーラー娘が聞いたのは、事が発覚したXデーから数日たってのことだった。このヴィヴィアン・パチオの名誉のために補足するとすれば、いくら諸般の事情で同期と馴染み切れていないとはいえ、普段から決して情報に遅い方では決してないのだが。今回ばかりは、たまたまこの数日、母校魔導学院たっての依頼で首都キングストンを留守にしており、先程やっとギルドへと帰ってきたところだったのだ。まずは依頼報酬の貴重な薬草の類を片付けに医務室により、その足で上層部へと報告しに行こうとしたところへ、「あ、今はやめておけ、ちとタイミングが悪い」と、日ごろから世話になっている魔法医に声をかけられれば。──タイミング? と首を傾げたビビを見て、「いや、まあ……お前さんならいいか」と。昔から何かとヴィヴィアンに甘い御仁から今回の顛末を知ることとなり。
そうして、タブラ・スマラグディナの歴史的価値や、カレトヴルッフどころか、トランフォード冒険者ギルド協会自体が吹き飛びかねない時価総額……しかし、そんなものよりずっと。気にかかるのは、病み上がりの身体でもう四日もろくな休息を取らずに働き続けているらしい"彼"のことで。他の仲間たちに覚える心配とはまた違う、あの海上の夜からずっと、楽しく甘えて擦りついている時でさえ拭えない酷い焦燥感に俯けば。──……、ギデオンの坊主なら、四階の執務室だぞ、と教えてくれた魔法医へのお礼もそこそこに。元気よく飛び出していった直情型ヒーラーに、「まあ、坊主にゃいい薬になるだろうて」という呆れ声が届くはずもなかった。)

……あっ、いえ、私、ギデオンさんがもう四日も休まれていないって聞いて…………

 ( そうして、勢いよく開かれた扉に対面すると。思わずその両手で持ったお盆の上のティーセットが、音を立てて震えるほど縮みあがったのは、相手のあまりの容貌に驚いたからで。いつものパリッと小洒落た相手からは想像もつかない草臥れた姿。見た目だけじゃない、四日も帰っていないのだから当然と言えばそうだろうが、むっと漂ってきた男臭い香りも、この稼業についていればもう慣れっこである筈なのに。目の前のこの人からしていること自体がどうにも信じ難く混乱する。ともすればそんな百年の恋も冷めそうな状況だと云うのに、ショックを受けるどころか、胸に湧き上がる、この人を放っておけないという想いにぐっとギデオンを見上げると。相手が少しでも断ろうとする節を見せれば、多少強引に押し入る覚悟で。 )

……リラックス効果のあるハーブティなんです。
淹れ方にコツがいるので、中に入れてくださいませんか?
ちゃんと少しでも休まれないとダメですよ。




865: ギデオン・ノース [×]
2025-02-21 03:02:57




────…………

(それはきっと傍目には、瞬きひとつせずに固まる石像のように見えただろう。この数週でやや馴染じんでいる娘に再会した途端、ギデオンの思考回路は見事まっさらに吹き飛んでいた。……しかしそのくせ胸の奥には、妙な感情が噴き出してもいる。まさかどうしてこんな時に、よりによって何故ヴィヴィアンが、今の俺の──こんな、姿を。そのふざけた心境の色気づきように気がついて、我ながらまた愕然とする。何だ、俺は何を言う。いや何も言ってはいないが、だが何故こんな、何歳下だと、こいつはただの後輩だ、いったい何を血迷って。相変わらずその青い目を、全くどこにも、一厘たりとも動かさぬという不自然さを見せつけながら、「……後に、して……くれないか」と、掠れた小声を絞り出すのがせいぜいで。)

(──さてはて。相手が反応するその頃には、部屋先で長引く静けさに、奥におわす重鎮たちもようやく気が付きはじめていた。「何だ」「何だ」と書類の山から挙げられたその顔は、その先にいるギデオン同様、連日の賠責処理でどす黒い色をしているのだが。部屋の入り口を塞いだまま固まっているベテラン戦士と、お茶を手にしたヒーラー娘……その組み合わせに気が付くなり、((あ)))と胸中異口同音に察した声を揃えてみせて。
──ギデオン・ノースとヴィヴィアン・パチオ。シルクタウンとグランポートで相次ぐ成果を挙げたふたりは、最近噂になっている。なんとギルドのマドンナ・ビビが、遥か年上のギデオンにベタ惚したという話だ。それはもはやギルドどころか、隣のマーゴ食堂にさえ知れ渡りだしているのだが……今自分たちが目にしているのは、荒れた姿をビビに見られて見事に固まるギデオンの背中。──おいおいなんだよ、そっちもそっちで何やら萌してんじゃねえか、と。一応ギルドの重鎮としてそれなりにお堅いはずが、皆ぎらりと目を光らせてやたら生き生きとしはじめたのは、疲労で頭の螺子が飛んだか、苦労性の後輩剣士を密かに可愛がる延長か……はたまた陽気な血を引いているトランフォード人たる故か。
「なあビビちゃん、そこで突っ立ってるくらいなら、ちょっとそいつを持ってってくんねぇか!」と。堂々大声を張り上げたのは、ギルドに勤続四十年、“ラミア殺しのシルヴェスター”と名高い魔斧使いの男。「その馬鹿、ドクターの問診もここのところできてねえんだ。ちょいと代わりに診てやって、カルテをちゃちゃっと書いてやれ。じゃねえと俺らが特労局に怒られることになるからよ!」
「いや、あんたらだって同じような古傷が……」と。思わず振り向くギデオンに被せるように、「ついでに仮眠室にぶち込んでくれ、午後に帰してくれりゃいい!」だの、「お茶ならさっき、リズが僕たちに淹れてくれたよ。そこののろまは、間の悪いことに逃がしてしまって……」だの、今度は“西の魔狼”と“王都の弩”、往年のパーティーでは犬猿の仲だった厳めしい顔の男ふたりが、息ぴったりに抜かす始末。てめえらこんな時に限って、と思わず口走るギデオンに書類の束を投げつけたのは、“ネフィリム喰らいのフィリベール”だ。「つべこべ言うな、さっさとこれを出すついでに、五階に報告を上げてこい!」と。要するに体のいい雑用で追い出す目論見もあるわけで。
五階、つまりギルマスの執務室にはすぐに向かえはするのだが、あの方は今渦中の機関に出向中で、戻ってくるのは数時間も後。それまでは好きにしろ、といきなり放り出されることに反論したい気持ちはあれど、ギデオンが普段混じっているこの重鎮連中は、こういう妙なことに限って、一度決めたら頑固である。ただでさえ寝不足の頭、ついでに言えば今の有り様を相手に見られて既に満身創痍となると、もはや深く考えるだけの体力など残っておらず。目上連中がそこにいるのに隠しもしないため息をつけば、「……隣の部屋に行くぞ、」と、先に執務室を出て。)





866: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-02-21 20:21:06




あら! ギデオンさんだけのために持ってきたんじゃないですよ、皆さんもいかがですか?

 ( 目の前の男の見慣れぬ醜態に驚いたのも束の間。珍しい反応を見せたギデオンに、すっと普段の強気を取り戻せば。その風体を心配こそすれ、自分でも不思議なほど、相手が懸念しているような幻滅の念などは一切なく。案の定と言うべきか。苦しげに聞きなれた拒絶の言葉を吐く年上男に、此方も用意していた文句で応戦すれば。思わぬ方向から飛んできた援護射撃にに、「お任せください!」と勝ち誇った笑みを浮かべたかと思うと、書類の束から漏れた1枚をさっと拾って人質にとる周到さで。そうして、錚々たる顔ぶれに日和るどころか、「その、お茶はお済みなら、一応軽食も持ってきたんです」と、丁寧に保存魔法をかけられた人数分より少し多いサンドイッチを配り終えると。「そこで買ってきたものですけど、皆さんもご無理なさらないでくださいね」と、残された幹部達にも眉を八の字に下げてみせる様から察するに。決して先程の文句も、ただギデオンをやり込める為だけの方便という訳でもないようで。
その証拠に二人きりの時間に浮かれるどころか、部屋を出た後も。うら若い娘の表情に浮かぶのは、一刻も早く診療を終わらせ、この貴重な時間内に一秒でも長く相手を休ませてやらねばというヒーラーとしての責任感で。念の為に診療道具も持ってきておいて良かった、と。隣の部屋に移るなり、どうでも良さそうに持っていたトレーをあっさりとその辺に追いやり、近くの椅子を引きながら、疲労の剣士に促せば。顔色の悪い意中の相手を目の前にして、混乱中の相手とは裏腹に、そこへ何か甘ったるい感情の入り込む余地など微塵もなく、その直截な要求にギデオンが怯みでもすれば──きょとん、と首を傾げて見せるだろう。 )

じゃあギデオンさん、肩を脱いで見せていただけますか?




867: ギデオン・ノース [×]
2025-02-22 21:00:16




(歓声を上げて軽食を頬張りはじめた幹部連中を後にして、雑多な休憩室へと移り。勧められるまま椅子に腰かけ、両膝に肘を置く格好でがっくりと項垂れる。労いに来てくれた相手に全く非などないのだが、結局続報ではなかったことに、今更参ってしまっていたのだ。
その矢先、あっけらかんと割り込む指示にぼんやりと顔を上げれば。いつも以上にくすんだ顔色、霞んでいるかのような視線、戦士にしてはあまりに生気のない表情で数秒止まっていたものの。やがて「……は?」と、まるで理解の及んでいない困惑のひと声を。それでも揺るがぬヒーラー娘の治療の構えに、そこでようやくいつぞやの、あの夏の夜の宿と同じ要求をされたと気付けば。──今のこのむさ苦しい有り様で、こいつに上裸を晒すだと? と、大きく大きく目を見開き、椅子の上で若干仰け反る。「今はいい!」と突っぱねたのはほとんど反射のようなもので、少し離れろと雑な仕草で示しすらする有り様だ。それを窘められようものなら、眉間の皴をもみほぐしながら、「先にひと息つかせてくれ」と卑怯な物言いをするだろう。──相手の治療を受けるのは、せめてシャワーを浴びてから、そればかりは譲れない。)

悪いが……一杯淹れるついでに、下の様子を教えてくれないか。
その様子だと、今回の騒動はおおかた知っているんだろ。





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