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Petunia 〆/853


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自分のトピックを作る
605: ギデオン・ノース [×]
2023-10-02 17:24:37




(一発目に弾けたのは、伝達開始を知らせる高らかな破裂音。それが己には何故か、『──ギデオンさん!』と呼ぶ声に聞こえ、反射的に振り仰いだ。地上の血生臭さなどつゆ知らぬ、爽やかな冬の青空。そこによく映える、真っ白な信号花火が、パン、パパパン、と明瞭に鳴る──“ら・っ・か・ちゅ・う・い”!
急ぎながらも正しいリズムで打ち上げてくれたおかげで、向こうで異状が起きたことを把握しつつ、そちらで対応が取れていることまで察せたから、こちらのためだけの最速判断を下すのに躊躇はなかった。「総員!」──若手のひとりに襲い掛かった親トロイト、その足元を魔剣のひと薙ぎで打ち払って牽制してから、谷全体を振り返り──「各自、南北へ退避!」。無論、中堅以上の戦士ならば、ギデオンがこうしてわざわざ再共有するまでもない。しかし、今戦っている多くの若者は、強い魔獣と対峙しながら想定外の信号にまで気を配る余裕など、まだまだ身につけていないに等しい。故に、相棒のくれた情報を確実に行き渡らせるのは、信じて託された己の使命だ。
はたして、谷の随所で激戦を繰り広げていた冒険者たちも。辺りを駆けるギデオンが、差し迫った表情で「退避!」「南北へ散れ!」と呼びかけ続けたものだから。はっと冷静に動きを止め、敵を依然注視しながらも、谷の両端に散開した。
そのタイミングを、完璧に読んだのだろうか。ひとりの若手戦士、ヒーラーの護衛に回っていた筈のカーティスが、必死に体勢を立て直しながら滑り落ちてきた、その頭上。崖の外れでものすごい爆発が轟いたかと思うと、派手な土煙と共にひとつの巨体が吹っ飛んでくる。それを決して逃さずに、「最高だ!!」と叫んだのは、傍で構え続けていた熟練魔槌使いヨルゴス。韋駄天のように駆けたかと思うと、別の戦士に突っ込もうと蹄を打ち鳴らしていた敵の一頭──最も頑丈で手を焼く子トロイト──のこめかみに、強力な打撃を撃ち込んで。谷の後方へ勢いよく吹っ飛ばされる巨体、その着地地点はもちろん、崖から飛んできた兄弟が落ちていくまさにその場所。どしゃっと潰れる嫌な音が響き、辺りの地面にむごたらしい赤がぶちまけられる。
しかしギデオンの目は、それを一瞬確認しただけで、すぐに上空へと吸い寄せられた。煙が次第に薄れると、その高い崖の一点に、ひとりのヒーラー娘の姿がはっきり見えてきたからだ。純白のローブと栗毛の髪をはためかせ、ぐっと険しくも凛々しい目で、こちらを見下ろすヴィヴィアン・パチオ。その雄姿はギデオンだけでなく、谷底にいる戦士皆の目に、強烈に焼き付いた。
──しかし、まだ戦いは終わっていない。コンマ数秒の静寂から真っ先に我を取り戻すと、彼女やヨルゴスを労う間も惜しみ、周囲に、そして崖上のヴィヴィアンに、毅然とした声で指示を飛ばし。相棒もまた、最速の動きをもって、最後の追い込みを調えてくれる──作戦どおり、谷に煙幕が充満する。いよいよ、この作戦の総仕上げだ。)

第二! 左翼展開、威嚇用意!
第三! 目標10時、右左方用意!

(ヴィヴィアンとアリアが作ってくれた燻し玉の煙幕は、嗅覚を奪うのみで、呼吸や視界には支障をきたさぬ優れもの。しかし、視力の悪いトロイトにとっては、最悪極まりない妨害工作だ。血塗れの子トロイト二頭を従え、自身も平らな鼻面から夥しい量の血を噴きだしている親トロイトは、ぶっぶっと息を吐きながら、忌々し気に頭を揺らめかせ、こちらに攻めあぐねている様子。左眼の瞼の上を深く斬っておいたので、そちら側の視界はもう、完全に塞がっていることだろう。加えて、討伐作戦の序盤で第三部隊が撃ち込んだ矢が、左半身を痛め続けているとなれば。奴は今、死角になっている左からの攻撃を、神経質に警戒しているはず。ギデオンはそこに勝機を見ていた──着実に、最小限の被害で奴を仕留めきるために、全ての手駒を活かすのみだ。)

第四、第二を助攻! 目標のサイドを排除しろ!
第一、主攻構え! ──攻撃、始め!!

(作戦通りの陣形を展開した冒険者たちは、三頭の魔猪たちに一斉に迫りかかった。ギデオンらが迂回混じりに距離を詰める隙を稼ぐべく、第二部隊が陽動を展開。その音に敏感に反応した親トロイトをいち早く庇おうと、子ども二頭がそちらに突っ込み──ギデオンの指示どおり、強力な魔法を己の弓にためていた少数精鋭の第四部隊が、先ほどとは比べ物にならないほど強力な矢を発射する。案の定、子トロイトはその頸椎を射抜かれ、あまりの勢いに首がくるくると飛んでいく。
頭部のない残りの身体が、崖に激しく叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちる──その無残な光景を、残る右目で見届けたのか。ごおおお、ともはや地響きじみた唸りを上げたのは、大ボスである親トロイトだ。もはや臭いでの索敵を投げ捨てたのか、冒険者たちを手当たり次第に蹴散らそうと、むやみやたらに暴れ狂いはじめた。ここにきて、その脅威度が更に数段階上がったのだ。
魔獣の死力は凄まじく、奴に接近していた何人かの若手が、いとも呆気なく撥ね飛ばされた。しかし、第二部隊の魔法使いたち、もしくは崖上のヒーラーや魔法戦士が、すかさずカバーの魔法を投げかけてやったおかげで、崖に身体を打ち付けての致命傷には至らない。起き上がるなり自力で退避できたのは、ヴィヴィアンの巧みな煙幕操作のおかげで、トロイトがろくに追い討ちをかけられないためだろう。それでも元気のある者は、ほんの少し息を整えただけですぐに飛び出し、再び戦況に加勢していく。
一方、すべての攻撃を躱し続けるギデオンとヨルゴスは。魔獣に巧みに接近し、己の魔剣、己の魔槌を、その巨躯に幾度も叩き込んでいた。後援として潜んでいた罠師たちもまた、揺らめく煙幕に紛れるようにして、ほんの小さな足止め程度の罠を何発も新たに植え込み、トロイトの動線をさりげなく操作する。冒険者たちの連携は盤石だ──それでもトロイトは、道連れを増やすことを諦めない。
たった今、トロイトの巨大な牙の切っ先が鎧を掠め、ばりばりと金属が引き裂かれていく嫌な音が響き渡った。被害を受けたのは、最前線にいたギデオン及びヨルゴス。しかし咄嗟の回避力に年季が入っていることもあり、その傷はさほど深くない。一切怯みを見せることなく、トロイトの肩、及び後ろ脚をずたずたにして、同時に後方へ飛び退る。ここまでくれば、自分たち特攻隊の仕事はもう充分と言っていい。「総員、撤退!」と一声命じれば、他の冒険者たちが一斉に戦場を離れていく。
──それに応えるようにして、「第三、構えました!!」と爽やかな声で叫んだのは、安全地帯に引き上げられていた筈のカーティスだろうか。信頼のおける相手ゆえ、そちらを見もしなかったギデオンは、己の魔剣を正面に構え、バチバチと魔素をため込みはじめた。お得意の雷魔法──今日ずっと使わなかったのは、この最後の一撃のためだ。普段よりもその閃光が激しかったのは、激しい闘気によるものか、それとも崖上に控えている相棒に支援魔法をかけられてか。
いずれにせよ、煙幕を薙ぎ払うようにして射出された雷撃は、こちらを圧し潰そうと突進してきたトロイトの勢いを、中間地点で相殺しきり、その場で激しくもんどりうたせた。──そして、「総隊長の雷魔法」という合図を今か今かと待ちながら、その石弓に自分の魔力を込めきっていた、第三部隊の大勢が。第四部隊のそれよりさらに強力な、必殺の弓矢の雨を、ここぞとばかりに解き放つ。
痺れて動けぬトロイトは、死んだその子らと同様に、どすどすと貫かれはじめた。立ち上がろうにも、矢、矢、矢。ここまでくると、剣や槌といった近接武器を使う特攻部隊の面々は、その壮絶な死にざまをじっと見届けてやるしかない。何度も何度も立ち上がろうと藻掻き続ける大猪は、最後に一度、血の塊を吐き出しながらギデオンを睨みつけて。──その血走った右目が、ぐるんと上を向き。どうっと倒れて、谷を激しく震わせた。)

(──数秒の沈黙の後、荒い息を整えながら、「ヨルゴス」と隣に呼びかける。ベテラン仲間はそれだけで、隊の前では見せられないギデオンの魔法疲労を感じ取ったらしく、代わりに進み出てくれた。「──おまえら、まだ気ぃ抜くな! まだ敵は死んでないぞ!」。煙幕が薄れゆく中、よく響き渡る怒鳴り声は、迂闊な勝利に浮かれぬよう、仲間たちの気をしっかり引き締めるためのもので。
ヨルゴスが適当な者を呼び集めると、そのなかのひとり、若い槍使いが、強張った面もちで親トロイトの死体に近づいた。敵はほぼ確実に事切れただろうだが、念には念を入れろ、というのが冒険者の鉄則。この頃にはギデオンも静かに息を整えたので、後輩の傍まで歩いて行き、周囲の仲間と共に万一に備えながら、しっかりと立ち合いを担う。
ヨルゴスの指導の下、若い槍使いはトロイトの後頭部に槍の穂先を突き立てると、ずぶずぶと沈めていって──「あっ、これですか」「そうだ、そいつだ」。初めてでは穴を見つけるのは難しいだろうに、しっかりと手応えを得たらしい、額に脂汗を浮かせながら、その槍を激しく動かす。魔獣の頭蓋骨の中身を、念入りにかき混ぜているのだ。王都の市民がこれを見ると、酷くグロテスクな所業だと恐れをなすのだが、なまじ強い魔獣ともなると、ここまでしなければ死なないことも多い。これをぬかって返り討ちにされた事例も、冒険者史上数多く存在する。故に、トロイトのような特定魔獣を狩るときは、最後に必ずこの処理をする決まりなのだ。
そうしてようやく、「もういいぞ」とベテラン戦士双方に言われ、獲物をしっかり引き抜いた青年は。その赤い穂先を高く掲げ、興奮で頬を紅潮させながら、「──ブランドン・ベイツ、対象の死亡を確認しました!」と声高らかに宣言した。その瞬間、谷中がわっと湧き、むさ苦しい凱歌があちこちで立ち昇って、血だらけ土だらけの冒険者たちが、ごろごろと無邪気に抱き合う。何度経験していようと、大掛かりな討伐を果たした時の達成感というものは、冒険者皆が熱狂する、最高の瞬間だ。ギデオンもそれは決して例外でなく、崖の上の相棒をふと振り返ると、満足気な笑みをふっと浮かべるのだった。)



(──さて、現場にいる間だけは、泣く子も黙る鬼になるのがヨルゴスだ。
「静まれジャリども! ここからがこのクエストの本番だぞ!」と相変わらず怒鳴る彼に、縮み上がる若手たち。その様を面白おかしく眺めるのも一興だが、総隊長のギデオンには懸念事項が山ほどある。現場処理の指揮を一旦ヨルゴスに任せることにして、まずは作戦中異状があった後衛の確認へ。激戦明けのはずの身体で崖を軽快に駆け上り、がさがさと茂みを掻き分けること数歩。真っ先に顔を合わせた相棒に。開口一番、先ほどの偉業を褒めてやるよりも前に、まずは責任者としての真摯な確認を投げかけて。)

──……、負傷者は何人、どの程度だ。アリアは無事か?





606: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-03 21:20:03




 ( 谷上まで届く程の振動と共に、今回の首領・親トロイトが、どうと音をたて倒れ臥す。確実な生死を確認するまで、戦士たちの緊張は変わらない(べきだ)が。もう既にこの瞬間から、ヒーラー達の新たな戦場は始まっている。煙幕の操作にかかりきりだったビビの背後で、初めての大型クエストにも関わらず、深手を負ったセオドアを診ながら、同時進行で壮絶な前線に滑り落ちたカーティスを拾い上げる大立ち回りを、冷静にこなしてくれたアリア。そんな二人の状態が安定したことを確認して、崖の先に立つ此方へと指示を仰ぎに来た後輩と、努めて明るい雰囲気で負傷者を数えながら、今後の方針を話し合う。とはいえ、作戦中の事だけではなく、その後に負傷者を治療するためのスペースや、必要な物資の調達先等、必要な確認は事前に済ませており。流石のギデオン指示下、この負傷者数ならば、事前の計画通りにこなしてなんら問題なさそうだ。そう手早く医療部の方針をまとめれば、あとは早々に総隊長から権限を移行して、速やかに負傷者の治療を始めたいところ。後衛の撤収はアリアに任せて、自身は先程登ってきた獣道を滑り降りようとしたところで、ちょうどギデオンと出会して。 )

現状確認できている範囲で、重篤な負傷者はナシ。速やかな手当がいる対象は9,10名程。
ヒーラーに被害は出なかったので、予定通り休耕地にテントで負傷者の救護にあたります。
他に小さくても怪我をした人がいたら、力尽くでもなんでも寄越してもらって……それから、誰でも良いので、動ける人を2人ほど貸してください。

 ( 総隊長の問を受け、先程アリアと確認した所見をスラスラと述べるヴィヴィアンは、急場でこなした一人での煙幕操作に、前髪は汗で潰れて、白い頬は微かに上気している。そうでなくとも、鬱蒼と茂った獣道を駆け上がった関係で、白い装束はあちこち汚れて、全身鉤裂きや小さな擦り傷だらけ。しかし、それらをものともせずに、この場の医療部責任者として、真っ直ぐにギデオンを射抜くエメラルドには、作戦前のような甘えは見られずに。谷を引き上げる準備のため、一旦相手と別れるその間際、さりげなく相手の腕に触れたかと思うと──トロイトの抓を受けていた相棒に。「お疲れ様です」と短い一言で施した回復魔法が、ビビにとってはあるまじき精一杯の公私混同だった。
さて、纏まったスペースの取れない渓谷の代わりに、昨日ビビが確保した休耕地は、ここから山道を徒歩で20分程のところにある。とはいえ、医療従事者にとっての"重傷者"とは、早急に最新医療に繋げなければ、数時間先が分からない者たちを指す言葉であり。従って重傷者はゼロ……と言っても、今この瞬間も脂汗を浮かべて、痛みに喘ぐ負傷者達が歩ける距離ではとてもない。それ故に──パンパン! と手を叩いて、歓喜に湧く冒険者たちの視線を取り集め、負傷者を背負って山を下れる体力の残っていそうな者を数名割り振れば、ビビを目の前にした男どものそれはそれは素直なこと。元気だけが取り柄の連中を、ベテラン顔負けの速度で取りまとめ。何処から話が漏れたのやら。この後の救護活動で二人、誰がヒーラー助っ人をするかで勝手に紛糾したり、それが収まると、今度は助っ人枠から漏れた連中が、自分の身体に優しく手当をしてもらえるような負傷がないか、お互い探しあったりと。よく言えばこんな時まで健康的に、忖度を抜きにすれば品もなく、ニヤつきながら山を下る珍妙な一行を先導しながら山を下った。
そうして辿り着いた休耕地には、既に大きなテントが既に3棟。主導するのはヒーラーと言えど、大型クエスト後の救護活動は、基本的には総力戦になる。ヒーラーが負傷者の治療に当たるテントの一方で、無限に必要になる熱湯をグラグラと沸かし続け、備品の消毒等を繰り返す体力班に、その間に使う薬や物資、労働力の調整をする、頭脳労働班用のテントがそれぞれ。まずはその負傷者用のテントを開けて、その傷に響かないよう慎重に負傷者達を寝かせると、治療に当たる前に手を洗いに顔を出せば。下山中、勝手に助っ人の座を勝ち取った青年達が、テントから顔を出したビビが、助っ人を呼ぶのをソワソワと待ち構えているところで。 )

それじゃあ、誰か救護テントの方を手伝っていただける方──……




607: ギデオン・ノース [×]
2023-10-04 20:52:00




(各種の数字、今後の計画、そちらの現場に必要なもの。相手が寄越した情報は、いずれも過不足なく明瞭で、全く申し分がない。おまけにさらりと、ほんの一瞬の触れ合いだけでギデオンの傷を癒すのだから、つくづく優秀なヒーラーである(ギデオンもギデオンで、彼女の魔素をいともあっさりと取り込むほどに、この半年間の相棒関係で馴染んでいたこともあるが)。とはいえ、今は状況対応が最優先。真剣な顔で「すぐに向かわせる」と返すと、踵を返し、今来た崖道をすぐさま戻る。後衛の面々について、もはや己が直接確かめるべくもないと踏んでいた──ヴィヴィアンもアリアも、職務を立派に果たしている。ならば己も、今の一分一秒を惜しんで、総隊長としての仕事を着実に果たすだけだ。)

……だからおまえら、そんなに飢えるくらいなら、普段から女遊びをしておけって言ってんだ。
ほら、ぼさっとしてないでさっさと手伝え。

(さて、あれから半刻ほど過ぎた頃。最優先の確認作業をすべて終えたギデオンは、ヨルゴスと適宜相談しながら、浮かれている若手たちにあれこれ指示を飛ばし。時折、うんざりしたように投げやりな発破をかけている有り様だった。
魔獣討伐という仕事は、敵を倒せば終わり! と言えるほど単純明快なものではない。子ども向けのおとぎ話であれば、何か希少なアイテムでも落として綺麗になくなるところだが、生憎ここは現実世界。死体の解体、有用物の採取・加工、不要物の処分、荒れた現場の清掃、二次被害の防止措置、などなど。討伐を終えた後にこそ、多くの仕事が待ち受けている。特に死体の解体作業は、病魔の発生や他の魔獣の誘引を避けるため、最速で着手すべきものだ。だからできれば、戦い終えた全員を投入したいところなのだが……もちろん、決してそうもいかない。元々今回は、昨今ギルド上層部が悩んでいる人件費対策により、本来よりもかなり少人数でのパーティー編成である(戦士二十人近くに対し、元の計画ではヒーラーがたったひとりしか配置されなかったのが良い例だ)。つまり、討伐での負傷者が出れば出るほど、その後の現場処理に回す人手がどんどん足りなくなってしまう。ここのところは、ギデオンの綿密な作戦が功を奏して、これでも本来の半分ほどのダメージに抑えることができたのだが、それでもやはり、苦しいものは苦しい、足りないものは足りない。かといって、医療部による衛生処理を軽んじれば、そちらの方がよほど長期的な悪影響をもたらし得る。とにかく、もうこの状況は仕方がない。今動ける人間が最大限の仕事を果たせるよう、常に現場を睨みながら、適宜割り振りを尽くすしかない──そう腹を括って、あちこち駆けずり回っているというのに、だ。
ギデオンやヴィヴィアンの悩む、人手不足などつゆ知らず。戦闘後の高揚感──冒険者用語でいうバトル・ハイ──に浮かれている連中は、皆が皆、ヒーラーのテントの周りにぞろぞろとたむろする有り様だ。このバトル・ハイは、気分が異常に高まる代わりに、思考力がとんでもなく落ちる、要は馬鹿になる。特に魅力的な異性を見ると、花の蜜に誘われる虫のようにふらふらついて回ったり、或いは全力で口説きにかかったりするのだ。「ビビは能力面でいやあ間違いなく必要だったが、それはそうと、こういう時にゃなあ……最大の人選ミスだわなあ」とは、水を飲んでひと息ついたヨルゴスの言。彼は谷での現場処理の監督をする傍ら、たびたびこちらに人手を借りに来るのだが。普段はよく効く鬼教官の怒鳴り声も、今の青年たちにかかれば、マドンナヒーラー・マジックによってぷよんぷよんと跳ね返せてしまうらしい──鬼教官の肩書が泣くわけだ。「二十年前の誰かさんみたいだな」とギデオンが皮肉を叩けば、魔槌使いは気まずそうに、「仲間の女にゃ手を出さなかったぞ……」と言い訳を。奴には連れ添って二十年になる妻がいるが、つまるところその馴れ初めは──という話はさておき。とにかくこういったわけで、ギデオンはヨルゴスとのぼやき合いもそこそこに、若手たちの統制に手を焼いている最中だった。ここまで来たら仕方ないかと、とっておきの切り札、昔行きつけだった娼館の名前を出す。あのがめついやり手婆に、「昔大恩を売ってやったろう」「新しい金蔓を寄越しな!」と、散々せっつかれていた事情もあるのであり、決して今も通っているわけではない。──が、花街で遊んだことのあるらしい何人かが、ギデオンの口にした嬢の名前を聞くなり、(え、マジ!?)というようにぱっと振り返ったのと、後ろのテントから思いがけずヴィヴィアンが顔を出し、他の連中がその面をだらししなく蕩けさせたのとが、ほとんど同時。ふと振り返ったギデオンも、この半年親しくしている若い娘と鉢合わせるなり、ぴた──と、それはもうものの見事に凍りついて。)

いちばん捌ききった奴には、一回くらい『サテュリオン』の女に口利きしてやってもいいぞ。ほら、アドリアーナに会いたい──奴、は──……





608: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-05 12:33:50




──…………?

 ( ビビがテントから顔を出した途端、それまでガヤガヤと煩かった周囲が一気にしんと静まり返る。え、なに……? と怪訝に眉をひそめてぐるりと周りを見渡してみれば。あからさまに泳ぐ瞳を隠せない者、その一方で、だらし無く期待に緩む表情で固まる者、または何かがおかしくって堪らないといった様子で口元を押さえる者。反応様々に、皆一様に此方を見つめてくる奇妙な光景も、しかし、ビビにとっては見慣れたものだ。自身の容姿が彼等にとって好ましいもので、好ましい異性には見せたくない姿がある、という男の自尊心に触れない賢さは、幼少期のみぎりからとっくに身についている。何を話していたかは聞こえなかったものの、これまでの経験上、どうせ大した話はしていないのだ。文字通り蚊帳の外な状況に、はあ……と漏らしたため息は、次に発する声への前準備でしか無かったのだが、後ろめたいことのある連中にはどう映ったろうか。ピシリと硬化する大男達を再度見回し、再び口を開きかけたその時。背後からふわりと耳を塞がれ、「そういう話は場所を選んだ方が良いんじゃないか、レディの耳が腐ったらことだ」と、辛うじて聞こえる気障ったらしい台詞は、中で寝ていたはずのカーティスだ。一体何をしに出てきたのか、痛みに上がる呼吸と、熱を持った掌が痛々しくて。脚を引きずる相手をしっかりと支えてやれば──この居た堪れない空気も、ギデオンさんならピシッと纏めあげてくれるに違いない。そう誰がこの空気の元凶かも知らずに、真っ直ぐな瞳で大好きな相棒を見上げると、仕方の無い色男の汗を拭ってやってから、信頼に満ちた声をギデオンにかけ。 )

カーティス、無理したら駄目よ。
──ギデオンさん、私カーティスを寝かせてくるので、人選お願いしても良いですか?




609: ギデオン・ノース [×]
2023-10-07 02:08:55




──……了解。

(いつもと変わらぬ表情を向けてくれた明るい相棒に、こちらもごくごくいつも通り、落ち着き払った声を返す。……しかし、彼女がカーティスを優しく支えながらテントの中に消えていく姿を見送る、その無言の視線はどうだ。まずい部分は聞かれていなかったらしいと理解しての、浅ましい安堵やら。同期の男にやけに近しく接していた様子への、何やらひりついた思案やら。その場に佇んだまま沈黙している横顔は、傍目にはいっそ雄弁に見えたかもしれない。
現に周囲の、ギルドきってのマドンナにだらしない野郎どもときたら。巧みな目配せを交わしたかと思えば、すっと数人が進み出て、「ギデオンさん、あいつ、あのカーティスの野郎、俺許せねえですよ」「ビビちゃんに悪いことしないか、俺らがちゃんと見張っておきますんで!」なんて、真面目腐った顔で申し出る連携ぶりだ。しかしギデオンの方も当然、自分の個人的な心の揺らぎに、この莫迦な若造たちを付け入らせるはずもない。ゆっくり振り向いた青い双眸は、普段は湖のように穏やかなはずが、ルーン海の底より厳しく冷え込んで。「……お前ら。五体満足なら、全員バラシに回れるな?」と、有無を言わさぬ低い声で命令を。途端に、若者たちが顔に貼り付けた凛々しい笑みは、皆一様に激しく引き攣って崩れ去るのだった。)

(──さて、何やら虫の居所が悪い指揮官に圧をかけられたとあれば、さしもの色惚け連中も、皆ひいひい言いながら谷間の方へ走っていった。倒したトロイトは全部で8頭、総重量は優に20トンにものぼる。数時間は帰ってこられないだろうが、働き盛りの若者にとってはさぞや嬉しいことだろう。
人手を欲する医療部には、それまで魔獣討伐後の喫緊の処理にあたってくれていた罠師数名を回すことにした。死亡直後の魔獣の臭いは、長く吸うと身体に悪い。だから現場の交代がてら少し休ませてやろう、という気遣いなのだが、しかし実のところ、罠師という特殊な人種の性格傾向を見込んでの人選でもある。──専門家気質な彼らは、良くも悪くも人間に興味がない。否、人を驚かせて楽しむタイプもいるにはいるが、それは本質的に、己の悪戯……要は“罠”が、狙い通りの効果をもたらしたことを喜んでいる。道行く美女には振り返らない癖して、奇想天外な術式で書かれた罠型魔法陣には、どことは言わずおったてる変人までいるくらいだ。故にある種の状況において、ほぼ確実に間違いを起こさない。そういう意味で、彼らを信頼することにしたのだ。
──そう、これは別に、多忙な医療従事者たちにいちいち見惚れず、きちんと真面目に手伝ってくそうな人選をしただけのこと。面倒なガキどもを皆一緒くたに相棒から遠ざけたかった、だとか。他の者をテントに出入りさせることで、少しでも相棒とカーティスがふたりきりになる確率を下げようとしただとか。そんな愚かな他意など、決してありやしないのだ。)

────……、

(それから更に一晩が過ぎた。休耕地に追加の野営を構えて泊まり込んだ冒険者たちは、翌日も解体やら清掃やらの仕事にひたすら追われ続け。ようやく原状復帰したのは、冬の弱い太陽が天高く昇るころ。村に借りた幾つもの荷台を馬に曳かせ、一同が皆揃って凱旋すると、村人たちはそれはもう大喜び。事前の約定どおり、トロイトから獲れた肉──痺れ毒を用いたため、結局可食部全体の一割にも満たなかったが──の半分を贈呈すれば、これまた大変な、気でもちがったかと思うほど大騒ぎとなって。ギデオンの制止もむなしく、「今宵は宴じゃ!」「祭りじゃ!」「ぱーちーじゃ!」と、村をあげての宴会準備がとうとう始まってしまった。それからも再三固辞してみたものの、最終的には、「これは厚意に甘えようか」とヨルゴスと話し合い。結局、もう一晩の延泊を決め、若者たちに自由時間を与えてやる。各地の依頼者との交流は、この先数十年の冒険者人生に大きく影響することを、ギデオンたちはその経験で知っていた。この二日間頑張った褒美がてら、当人たちはそうと思っていない勉強を、たっぷりさせてやることにしようか。
──そうして、若者たちが待ちに待った祝宴会は、案の定大盛り上がり。昨晩まで怪我で呻いていた連中も、今や村人と肩を組み、酔いどれながら歌っている有り様で。冒険者といい村人といい、トランフォード人というのは、つくづく元気で陽気なものだ。そんな賑やかな輪の外、ギデオンはと言えば、広場の中央のそれより小さな、こじんまりした焚火の傍で、日中に仲間たちが書き上げた報告書に相変わらず目を通している。自分はああして騒ぐたちではない、仲間たちの楽しそうな様子を見聞きしている方が好きだ。何より、カレトヴルッフに帰ってから別途ギルマスに上げる報告を、考えておかねばならない──のだが。いったい全体、こんなこじんまりした村のどこに、そんな代物が眠っていたのか。お偉いさんにゃ特別に、と村長直々に異国の杯を注いでくれたのだが、その強い酒精がじわじわ回ってきたらしい。後輩たちの手前、最低限は気を引き締められるものの、この思考の鈍りようじゃ、今夜はあの方の耳に入れられるような話をろくに纏められなさそうだ……と、書類から顔を上げて断念すると。背を預けていた古井戸に更にもたれ、冬の澄んだ夜空を見上げる。広場中央の大火から舞い上がる火の粉が、ちらちらと赤く揺れながら、天の川に溶け込んでいく……その様子を眺めるうちに、また一段階頭が鈍って。少し眠気を取ろうかと、少しの間瞼を閉ざし。)

…………





610: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-08 12:47:20




 ( ギデオンの苦悩と、外の喧騒など露知らず。急拵えの簡易ベッドにカーティスを寝かせてやれば、「──……待て、待ってくれ。渓谷の、俺が……滑り落ちた途中の、木の幹に。デカい爪痕があったんだ……。ありゃトレントじゃねえ、ノースさんに……」と成程。この青年は自らが見た責任を果たすべく、満身創痍の身体を引きずり出てきたというわけか。しかし、この作戦で彼の言う爪痕の主が現れなかった以上、それはビビ達がギルドに帰った後、然るべき装備の調査隊が入るべき案件だ。今はただ「……わかった。ギデオンさんには私から伝えておくから安心して」と、宥めるようにその額の汗を拭ってやれば──その責任感だけで意識を保っていたのだろう。少しだけ安心した表情で、気丈な後輩が瞳を閉ざし、その呼吸が深くなるのを確認すれば、そっとその場を離れるのだった。
そうして、計画通りアリアと各々1人ずつ、ギデオンが割り振ってくれた罠師を連れて。人手不足故の慌ただしさはありつつも、少ない資源を効率的に、かつ速やかに痛みに喘ぐ怪我人達の治療を済ませていけば。痛々しい呻きで揺れていたテントに、次第に穏やかな寝息が響き始める。しかし、もしその過程を俯瞰的に眺めることが出来たならば、アリアが担当した5人側と、ビビが担当した4人側で、そのヒーラー達を取り巻く空気が、全く違う色を放っていたことに気がつけただろう。そもそも冒険者という輩は、この仕事に着くまで軽い病気にもかかった事がないような連中が殆ど、そのうえ見栄っ張りで強がりという救えない性格を持ってすれば。まずその治療必須の大怪我を、可能な限り隠し通そうとして、それが出来ないとなると、今度はこんな怪我たいしたことないと、なんとしても治療から逃げ回ろうと足掻く始末。そんな傍迷惑な野郎共をどうするかと云うのは、ヒーラーによって大きく変わるところで。魔獣討伐も終わったというのに、魔獣より元気な怪我人共とプロレスを繰り返し、最終的には魔力に任せて、連中を昏睡紛いの眠りに突き落とすビビに対して、アリアサイドの穏やかなこと。人一倍大きな成りをして、注射や見た事のない医療道具に震え上がる冒険者達を宥めつつ、一生懸命丁寧に手当をしては、「ね、痛くなかったでしょ?」と、普段おどおどと気弱に見える娘が、自分のために微笑んでくれる姿に、一度アリアの手当を受けた連中は、次回からも素直に治療に応じるようになるとの評判さえある程だ。しかもアリアが凄いのは、それを──雑務処理や、他に軽傷の連中の手当も引き受けていたとはいえ──4人しか診ていないビビと、大して変わらない速度でこなしていく出際の良さで。そうして、優秀な後輩のお陰で、負傷者の治療は速やかに進み。一方の解体作業の方はと言えば、なにやら此方もとてもスムーズに片付いたらしいというのに。約数名、最後のキヨメに呼ばれたビビを見て、サッと顔色を変え、キョロキョロと不審に周囲を見渡していたのは何事だったのだろうか。 )

 ( ──あら、珍しい。暖かく揺れる焚き火を頬に写して、睫毛の長い瞼を閉ざした相棒を見つけたのは、予定外の宴も大いに盛り上がって来た、まだそう遅くない時刻のこと。お茶目な村長の隣について、今後の対策やら、村の来歴やら、ご主人との馴れ初めやら、どんどん逸れていく話に花を咲かせることしばらく。赤ワインの瓶が開けられた気配に、そっとさり気なく席を外して、自分でも無意識に探していたのは愛しい相棒の姿。懸命に探すまでもなく、相手の好みそうな場所を探せば、すぐ様見つかったギデオンはしかし、その大好きな青い瞳をビビに向けてはくれずに。──この数日、ヨルゴスと2人、大所帯を抱えて、ついに凶暴な魔獣を討伐したのだ。疲れきって、今は気が緩むのも当然の相手の姿に。いくら焚き火の隣といえど、この寒空に無防備な様が気にかかって。一度冒険者達の荷物が纏めて置いてある方へと歩みを変えると、旅慣れした荷物の中から薄い毛布を取り出し、ゆらゆらと揺れる焚き火で温める。そうして、宴の喧騒も遠く、信頼する相棒と2人、パチパチと爆ぜる火の音に、自身もまったりと降りてくる瞼を感じ取りながら、ふわりと大きな欠伸をひとつして。──いつかの夜のように。座る相手のピッタリ隣に腰掛けながら、相手の逞しい膝に暖かい毛布をかけてやれば、"お疲れ様です"と、口の中で囁くように労って、その頬が冷えていないか、酒精と眠気でやけに温まった、人差し指から小指までの指の甲でそっと触れて。 )




611: ギデオン・ノース [×]
2023-10-08 14:07:35




…………

(一緒に呑み交わしていた村長たちには、仕事の都合で途中から少し席を外す、そちらは気兼ねなく楽しんでいてくれ、と事前に伝えてあった。そのおかげで誰に見咎められることもなく、ほんの少し目を休める程度のつもりが、結局とろとろと無防備に微睡んでいたらしい。
しかし、ふと頬に触れた、こちらを労わる優しい感触に。炎に照らされた睫毛が震え、薄青い目がゆっくりと開く。そうして微かに身じろぎし、すぐ隣をのっそりと見たその表情は、未だぼんやりと、眠たそうに曖昧なまま。数秒後、ようやく相手が誰だかっわかってきたのだろう。その唇の端に、安堵の窺える仄かな笑みが、ふわりと緩慢に浮かび上がって。)

……おまえか。

(掠れた小声で呟いたのは、たったそれだけ。今置かれているこの状況は、仮にもパーティーの長であるベテラン戦士が、人目を忍び、若手のマドンナヒーラーと毛布を共にして寛いでいる──という、平時ならば眉を顰めてはねのける状況であるはずだ。しかし酔いの回った今宵は、どうやらそこまで考えが及ばぬらしい。それ以上は特に何を言うでもなく、相手が何事かを言えば一言二言返しながら、またぼんやりと前を向いて。すぐ隣の娘の体温にぬくまりながら、パチパチと爆ぜる焚火を、穏やかな横顔で眺める。
視線をほんの少しずらし、向こうの広場の方を見てみれば。赤々と燃え盛る炎の周りでは、冒険者と村人たちが輪になって踊りはじめていた。囃子と共に軽快な音楽が鳴り響いているのは、きっと器用な誰かが、トロイトの骨の余りで、笛やらクラベスやらを作ってみせたのだろう。村人たちも家々から太鼓やマンドリンを持ち出し、即興の狂想曲を楽しそうに奏でている。顔の良い奴は村娘たちにくすくすと戯れられ、そうでない者は、同じくあぶれてしまった村の男たちと共に、悪鬼のように凄惨極まりない面で、ド迫力の打楽器を叩きはじめ。がらりと転調した雰囲気、その真ん中に意気揚々と躍り出たのは、昨夜ヴィヴィアンに昏睡させられていた、体はでかいのに注射器は怖い、可笑しな槍使いたちだ。去年の夏、建国祭でも披露していた戦士舞踊を舞い始めれば、広場はまた大盛り上がり。すっかり元気になった連中、そのぶどう酒を呷りあう楽しそうな様子を眺めて、ギデオンもまた、満足気にふっと微笑むと。その細めた目を隣に向け、少し意地悪く揶揄って。)

あっちに混ざらなくていいのか。
それか──あれから逃げだしてきたってわけなら、このまま隠れ蓑になってやるが。





612: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-09 11:57:44




……起こしちゃってごめんなさい。

 ( 実を言うとここ最近の、ギデオンの少しよそよそしい態度に不安を覚えなかったと言うと嘘になる。あの聖なる夜に与えられた温もりと約束は、夢だったのではないかと思うほど。隙間風が吹き込む距離感に、強請っても少し早く離れていく手──やっぱり醜い嫉妬心なぞ見せなければ良かった、とは決して思いたくないが……。ギデオンが浮かべた笑顔に、深い安堵を覚えたのは此方もまた同じ。眠そうな掠れ声に、此方も囁くような声で謝罪して、少しかさついた頬を少し撫でてからそっと手を離すと。代わりに──ぽす、と筋肉のついた肩に頭を預けて、ギデオンが視線を向ける宴を、ビビもまた夢を見るような眼差しでうっとりと眺める。
そうして、相手から発されたお馴染みの意地悪に、普段だったら憤慨したか。若しくは、それを逆手にとって──隠れ蓑じゃなくて、私がギデオンさんといたいからいたのだと、真正面から迫ったかもしれない。しかし、不安に弱った心にはそんな狡い提案さえも魅力的で。「うん、隠してください」と、肩が触れ合っている方の手をとり、戯れにその筋を弄んだり、両手でぎゅっと包み込むも。すぐ様そんな己が恥ずかしくなって、態とらしく声を上げると、もしそのまま促されれば、昼間カーティスから聞いた顛末を詳細に語るだろう。 )

──……あ、そうだ!
ギデオンさん、カーティスから聞いたんですけど……




613: ギデオン・ノース [×]
2023-10-09 13:17:34




──なあ、あいつとは、

(ギデオンはその瞬間まで、ふわふわと心地よかったのだ。ヴィヴィアンのらしくない、どこかしおらしく感じられる様子を、最初は「……?」と、訳も知らずのうのうと、不思議に思いはしていたものの。こちらにしっとりともたれかかっている彼女が、徐にギデオンの手を弄び始めたのを見て──ああ、いつもの相棒だ。これがいい、俺はこれがいい、と、何ら抗わず身を委ねていた。強い魔獣を仲間たちと屠り、喜びに沸く市民と熱い食事を一緒に囲み、酒を飲んで、皆が愉しそうに騒いで。それをのんびり眺めながら、相棒とふたり、なんてことのないささやかな時間を楽しむ……今の己に、これ以上恵まれた人生などあるだろうか。そんな満ち足りた心境だったから、“こちらは応えないが、相手を拒むこともしない”という、いつぞやの花火の夜の約束よろしく。理性の利いている普段なら身を引くだろう触れ合いを、与えられるまま堪能していた──その矢先に、急に心が冷えたのだ。
カーティス・パーカー。あの爽やかな、男から見ても魅力的な後輩戦士の名を、よりによってヴィヴィアンの口から親し気に聞かされた途端。とろりと凪いでいたギデオンの双眸は、すうっと不穏に焦点を取り戻し。目の前の焚火を見遣りながら、思わず反射的に口走ったのは、相手を促すどころか、あからさまに遮っての問いかけ。これも普段ならば決してしない真似だろうに、酔いと動揺で頭の鈍っている今は、その浅慮を全く自覚していないらしい。大して考えていなかったのだろう、続きの言葉を捻りだすのに、一瞬「……」と沈黙を挟んでから。触れられた手を振りほどくことはできぬまま、それでも顔だけは、ふいと僅かに他方にそらし。少し低く落とした、どこか親しみの失せた声で、言い訳じみた言葉まで重ね。)

あいつとは、仲がいいのか。
……テントでの様子を見て気になっただけだ。個人間の繋がりは、隊の編制をする側としては、掴んでおきたいところだろう。……






614: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-10 14:33:30




──……ギデオンさん。お顔、見たいです。

 ( まさか遮られるとは思っていなかった発言に、当初、ビビのエメラルドグリーンの瞳は、真剣に驚いた様子でまん丸に見開かれる。慌てて口を噤みながら、次に考えたのは、カーティスが何らかの不正や間諜を犯している信用に足らない人物である可能性。そんな風にギデオンのたった一言で、親交深い相手でさえ、迷いなく疑いの目を向けられる程、ギデオンのことは深く、第一に信頼し尊重しているうえに、──そもそもビビがカーティスと気軽に付き合えるのは、彼には大切に愛してやまない婚約者がいるからだ。ということは、ギデオンだって知っているだろうに。──未だ記憶も新しい。"誰にも盗られてくれるな"と、そう言ってくれた愛しい人が連ねる言い訳に、相手の態度の原因が、もっと私的なそれに聞こえるのはビビの自惚れだろうか。
そっと相手から手を離して、自身の獲物へ手を伸ばし、ビビがふわりと腕を振るうと。宴と二人の間に枝をもたげていた枯れ木に葉が茂って、宴からの視線を上手く遮ってくれる。そうして、真摯なお強請りに相手が此方を見ようと、見なかろうと。硬い太腿に添えた手に体重を寄せ、その唇で相手の頬を奪うと。「あの、勘違いだったらごめんなさい」と、膝立ちになって相手の頭へ腕を回せば。「確かに、カーティスとは友達ですけど、私が好きなのはギデオンさんだけです」と、あくまで誠実に答えながら、その透き通った金髪をサリサリと梳き。それから暫く、"応えられなくとも、拒まれない"ならば、金色の頭を撫でながら、「好き」「大好き」「愛してます」と、足りていなかったらしい愛情を、これでもかと時折キスにして注ぎ込み。ゆっくりと腰を下ろしながら、その薄青い瞳をうっとりと覗きこめば、おもむろに髪紐を解いたことで、ホワイトムスクのような清潔で甘い香りがふわりと周囲に広がって、 )

…………ね、昼に言ったご褒美、今、くれませんか。
最近、あんまり撫でて下さらないから、寂しいです……




615: ギデオン・ノース [×]
2023-10-10 22:59:34




(向こうの方の楽し気な賑わいとは反対に、辺りに降りるしばしの沈黙。ついで、相手の手が静かに引かれていくものだから、どこへとなく落としていたギデオンの視線は、ぴたりと強張るように固まった。──しかし次いで、何やら魔法の煌めく気配に、植物らしきものがざわざわと茂る音。……ヴィヴィアンはいったい何を、そう内心戸惑い、気になるものの、どこか意固地さを孕んだままの視線は、まだ一点に落とされたまま。相手が質問に答えずに、そっと強請ってきた声にも、やはり素直に応えられない。己の有り様を見透かされているのが、薄々わかってしまうからだ──どんな面をして見ればいい。
そんな聞き分けの悪い子どもを、ゆったりとあやすように。ヴィヴィアンはその温かい体を寄せてきて、こちらの頬にそっと口づけを落とした。そこまでされてようやく、大いに狼狽する双眸を、相棒のそれに合わせてみれば。今やギデオンの膝の間で向き合っている彼女は、こちらを覗き込みながら、ただまっすぐな誠意の言葉を。果ては、こちらの頭を柔く擽りながら、何度も頬や額にキスを落として、愛の告白を繰り返す。──不自然に閉ざされていたギデオンの胸中が、余計な力の抜け落ちるように、急速にほどけていく。どこか暗く、刺々しく翳っていた顔つきにも、穏やかな弛みがゆっくりと取り戻されて。その目にも、どこか心地よい敗北感が、温かく蕩け込んでくる。)

…………。

(極めつけは、お馴染みのポニーテールを解いた瞬間、密かに馴染みある香りがふわりと押し寄せてきたことだった。密かに好んでいた“彼女の匂い”が、鼻腔から肺の中まで潜り込んできた途端。そのあまりに単純明快な、真正面からの物理的な征服に、元々疲労と酒で弱っていたギデオンの牙城は、いとも呆気なく陥落し。……無言を保ったまま、ずり落ちていた毛布を片手で拾うと。もう片方の手で彼女の背を軽く押し、自分の胸の内に抱き込んで。そうして、彼女と自分の両方をすっぽりと覆うように、薄い毛布を掛け直す。腕の中のヴィヴィアンには、今の己の顔は見せない──これ以上見せてやらない。思考は未だ薄ぼんやりとしているものの、道理の通らぬ嫉妬に気づかれてしまったことを、酷く恥ずかしく思う気持ちはあるのだ。故に、締め付けのない艶やかな栗毛を、大きな掌でゆったりと撫でてやりながら、上辺ばかりの言い訳を諦め悪く繰り返す。──先ほど、彼女が酒の席から逃げてきたことを、ギデオン自ら言及していたし。そもそも彼女が、酒精で記憶を飛ばすことはないたちであることも知っている。彼女の好意を承知している身で、この“ご褒美”をなかったことにしてくれだなんて、酷く身勝手で薄情極まりない言い草だということも、痛いほど自覚している。だが、こうして建前を並べ立てるのでもなければ……己の方が、素直に彼女に甘えられない。)

……明日には、忘れろ。
俺もお前も、今こんな風にしてるのは……酔いが……回っているせいだ。
いつもみたいに撫でるのは、またしてやるから。
だから、今夜のこれは……特別だ。






616: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-11 12:37:22




……はい。明日には……全部、忘れてます。

 ( 髪を解いたのは、ただ撫でてもらいやすいようにした私利私欲。暖かな胸に顔を埋めて、うふ、と小さく微笑んだ娘は、自分の行為が男を陥落させたなど露知らず。気持ち良さそうに瞼を閉じて、相手の要望にしっとりと頷きながら、自らも背中に回した腕に力を込める。そうして、──酔いが回っている、か。なんて、村長と相手との間でされたやり取りなど知らぬビビには、ただそれだけギデオンが疲れ果てているように感じられて。こんな言い訳をしてまで、自分に甘える選択肢を選んでくれた相棒を、とことん甘やかしてやりたい本能にも近い気持ちが湧き上がる。
最初は回していた手でとんとんと、「お疲れ様です、今日もとっても格好良かったです」と広く逞しい背中を撫で擦り。次第にギデオンの腕の中、ゆっくりと体勢を立て直すと、顔を見られたくなさそうな相手を暴くことはせずに、その形の良い頭をゆっくりと抱えこんでしまう。そうして、胸元かギデオンが逸らせば肩口かに乗せられた頭をふわふわと撫でながらも、己を撫でる大きい手が止まれば、不満げに身を捩って強請るのは、あくまでビビが甘えているという体を崩さないため──……否、ギデオンをこうしていることで、こうもドクドクと湧き上がる本能的な庇護欲、母性を満たされている時点で、やはり甘えさせて貰ってるのはビビの方なのだろう。透明なそれが入り交じる金髪を梳いては、たまに襟足を擽ったり、サラサラとした中に暖かい軟骨を見つければ、その愛しい耳を柔らかくなぞる。──嗚呼、私今絶対だらしない顔をしてる。そう最早、顔を見せられないのはどちらの方か。かき上げた生え際にもう一度唇を落として、最近の寂しさを埋めるようにぎゅうっと身体を押し付けると。えへ、と小さく笑ってから、幸せそうに喉を鳴らして、 )

ギデオンさんの体温……暖かくて子供みたいですね、可愛い。




617: ギデオン・ノース [×]
2023-10-11 23:25:59




……うるさい、

(相手に抱かれ、撫でられながら、こちらもまた彼女の頭を撫で返す──という、双方の愛情表現の、なかなかの渋滞ぶりに。ギデオンのただでさえ回らぬ頭は、ものの見事に混乱しきり、結局相手にねだられるまま、片掌を不器用に動かし続けていたのだが。愛しくて仕方がない、そんな響きを孕む相手の言葉に、優しく耳朶を打たれるや否や。途端にこの状況がこそばゆくなったのか、思わず相手の頭に爪を立て、ざり、と痛くない程度に抗議を。そのまま、相手のふわふわの栗毛を、腹立たしげにぐしゃぐしゃと掻き乱しつつ。相手の肩口に顔を埋めた状態で、言葉の上でも──しかし弱々しくくぐもった声音で──ふてくされる有り様で。
今の己は、四十路に入った大の男だ。それがこうして、“まだ”恋人ではないはずの、十六も下の若い娘に、こんなにあからさまに甘やかされ。体温が上がっているのもバレてしまっている上に、可愛いとまで形容される──こんな恥ずかしい体たらくをして、どうして平気でいられよう。そんな風に思う癖して、しかし彼女を離せもしない、いったいどういう了見か。甘い現状に気まずくてならず、腹いせに相手の髪を、撫で下ろすように弄ぶ。そうして、ふと得た気づきに面を上げ。真横の髪に鼻梁を向けて……相手からは見えないだろうが、熱に淀んだ目を、ぼんやりとさ迷わせる。そうだ、この香りのせいだ。すぐそばからずっとふわふわと漂っている、清潔で甘やかなこの匂い。──ヴィヴィアンの匂い。
たしか、ちょうど二ヶ月ほど前。合同捜査で一緒に働くことになった昔の女が、不愉快な工作をけしかけてきたことがあった。職業柄、情報収集能力に優れているその女は、相棒の使っている洗髪料をぴたりと嗅ぎ当ててしまったらしく。次にギデオンが会った時、“この香りが好きなんでしょ?”と言わんばかりに、あからさまに振りまいてきたのである。今までの半生、女に色仕掛けをされた経験はそれなりにあるが、たかがハニートラップであれほど気分を害されたこともない。何せ当時のギデオンは、ちょうど相棒との関係が拗れまくっていた頃で。鼻先に届く馴染みある香りに、一瞬、実際に反応してしまい。──けれど、その後に届くラストノート、女自身の肌の匂いと入り混じってできる香りが、明らかに別の、あざとく品のない代物だったから、余計に胸をかき乱された。これは違う、あれとは比べ物にならない、と。相棒の甘く優しいそれを思い起こしては──彼女は今、エドワードやニールといった、同じ年頃の青年たちと一緒に過ごしているところなのだと。このところずっと忘れようとしていた事実まで思い出し、ますます機嫌を悪くしていた。……そうだ、あのとき。例の小屋で、相手を一晩中抱きしめるなんて蛮行に及んだのは、相手の香りが恋しかったからだ。今の自分が、相手から離れられないのだって、似たような道理だ。この7週間、ろくに休んでいない。遠征に次ぐ遠征で、合間も単発に駆り出される日々。年が明けて以来、ゆったりと寛いで夕餉を楽しめたのは、せいぜいが二、三日。歳もあって堪えつつある身体に、とにかく癒しが欲しかった。自分を安らがせてくれるものが──相棒が、たまらなく。)

……、

(しばらくの間、相手の顔の真横で、静かな呼吸を繰り返していたものの。最後のそれが深まったかと思えば、不意に相手の背中を両腕でかき抱き、逃がすまいというようにがっちりと捕えつつ。その華奢な首筋に顔を吸い寄せ、深く深く埋めて。──普段から胸元を寛げているためだろう、彼女の来ている白いシャツのスタンドカラーは、ほとんど防波堤を為さない。鼻先か、ともすれば唇まで相手の素肌に触れさせるという、普段からは考えられない蛮行に出ながらも。香りと温もりを得られればそれでいいのか、必要以上にまさぐるでもなく、そのままじっと、胸元を安らかに上下させ。相手がどうにか逃げ出すか、邪魔が入るかしなければ、その呼吸は少しずつ、眠たげな、よりゆっくりしたものへと凪いでいくことだろう。)





618: ギデオン・ノース [×]
2023-10-11 23:34:31




※些事ですが訂正を。7週間は盛大な計算ミスで、実際はおそらく5週間程かと思います。失礼いたしました……!





619: ギデオン・ノース [×]
2023-10-11 23:51:49




……うるさい、

(相手に抱かれ、撫でられながら、こちらもまた彼女の頭を撫で返す──という、双方の愛情表現の、なかなかの渋滞ぶりに。ギデオンのただでさえ回らぬ頭は、ものの見事に混乱しきり、結局相手にねだられるまま、片掌を不器用に動かし続けていたのだが。愛しくて仕方がない、そんな響きを孕む相手の言葉に、優しく耳朶を打たれるや否や。途端にこの状況がこそばゆくなったのか、思わず相手の頭に爪を立て、ざり、と痛くない程度に抗議を。そのまま、相手のふわふわの栗毛を、腹立たしげにぐしゃぐしゃと掻き乱しつつ。相手の肩口に顔を埋めた状態で、言葉の上でも──しかし弱々しくくぐもった声音で──ふてくされる有り様で。
己はもう、四十路手前の大の男だ。それがこうして、“まだ”恋人ではないはずの、十六も下の若い娘に、こんなにあからさまに甘やかされ。体温が上がっているのもバレてしまっている上に、可愛いとまで形容される──こんな恥ずかしい体たらくをして、どうして平気でいられよう。そんな風に思う癖して、しかし彼女を離せもしない、いったいどういう了見か。甘い現状に気まずくてならず、腹いせに相手の髪を、撫で下ろすように弄ぶ。そうして、ふと得た気づきに面を上げ。真横の髪に鼻梁を向けて……相手からは見えないだろうが、熱に淀んだ目を、ぼんやりとさ迷わせる。そうだ、この香りのせいだ。すぐそばからずっとふわふわと漂っている、清潔で甘やかなこの匂い。──ヴィヴィアンの匂い。
たしか、ちょうど二ヶ月ほど前。合同捜査で一緒に働くことになった昔の女が、不愉快な工作をけしかけてきたことがあった。職業柄、情報収集能力に優れているその女は、相棒の使っている洗髪料をぴたりと嗅ぎ当ててしまったらしく。次にギデオンが会った時、“この香りが好きなんでしょ?”と言わんばかりに、あからさまに振りまいてきたのである。今までの半生、女に色仕掛けをされた経験はそれなりにあるが、たかがハニートラップであれほど気分を害されたこともない。何せ当時のギデオンは、ちょうど相棒との関係が拗れまくっていた頃で。鼻先に届く馴染みある香りに、一瞬、実際に反応してしまい。──けれど、その後に届くラストノート、女自身の肌の匂いと入り混じってできる香りが、明らかに別の、あざとく品のない代物だったから、余計に胸をかき乱された。これは違う、あれとは比べ物にならない、と。相棒の甘く優しいそれを思い起こしては──彼女は今、エドワードやニールといった、同じ年頃の青年たちと一緒に過ごしているところなのだと。このところずっと忘れようとしていた事実まで思い出し、ますます機嫌を悪くしていた。……そうだ、あのとき。例の小屋で、相手を一晩中抱きしめるなんて蛮行に及んだのは、相手の香りが恋しかったからだ。今の自分が、相手から離れられないのだって、似たような道理だ。この5週間、ろくに休んでいない。遠征に次ぐ遠征で、合間も単発に駆り出される日々。年が明けて以来、ゆったりと寛いで夕餉を楽しめたのは、せいぜいが二、三日。歳もあって堪えつつある身体に、とにかく癒しが欲しかった。自分を安らがせてくれるものが──相棒が、たまらなく。)

……、

(しばらくの間、相手の顔の真横で、静かな呼吸を繰り返していたものの。最後のそれが深まったかと思えば、不意に相手の背中を両腕でかき抱き、逃がすまいというようにがっちりと捕えつつ。その華奢な首筋に顔を吸い寄せ、深く深く埋めて。──普段から胸元を寛げているためだろう、彼女の来ている白いシャツのスタンドカラーは、ほとんど防波堤を為さない。鼻先か、ともすれば唇まで相手の素肌に触れさせるという、普段からは考えられない蛮行に出ながらも。香りと温もりを得られればそれでいいのか、必要以上にまさぐるでもなく、そのままじっと、胸元を安らかに上下させ。相手がどうにか逃げ出すか、邪魔が入るかしなければ、その呼吸は少しずつ、眠たげな、よりゆっくりしたものへと凪いでいくことだろう。)






620: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-13 00:50:18




ぁ……ひゃっ、ギデオンさん……!?

 ( 人体の急所でありながら、擽られると特別弱い、首筋の柔らかい部分に、ギデオンの高い鼻が当たり、少しかさついた唇が触れる感覚に、それまで爪を立てられようが、髪をぐしゃぐしゃに掻き回されようが、無邪気にきゃあきゃあと喜んでいた娘の身体が、ぴくりと跳ねる。季節は真冬、そしてあれから一度、村民の好意でシャワーを浴びたとはいえ、それも既に数時間前のこと。生暖かい吐息がぬるりと当たる感覚に、「やぁ……かがなッ」とそこまで漏らして、"嗅がないで"という単語の持つ艶めかしさに怖気付くと、先程までの余裕は跡形もなく吹きとび。先程のギデオンより余程のぼせ上がり、真っ赤になって瞼を伏せ、いじらしく恥じ入る娘が残るのみ。遅れて、がっちり固められた腕から逃げ出そうとしても、首筋をなぞるギデオンの吐息に力が抜けてままならず。この場から逃げ出したくなる本能とは別に、こうして甘えてくれたギデオンを受け止めたい理性がまた、余計に混乱を助長するようで。時折、たまらぬこそばゆさに反応しかけて、その都度ぐっと堪えながら、ぼんやりと熱に浮かされた瞳で、その金色の頭をふわふわと撫でること暫く。
──ギデオンの呼吸が深いものとなって、どれくらいの時間がたっただろうか。それはギデオンが自然と理性を取り戻した数分後のことだったか、それとも、とうとう宴も終わってしまった頃合だったか。思わぬ距離感に混乱しきって思考を手放し、腕の中の相棒をひたすらに柔らかく撫で続けていた娘は、その太い腕が緩んだ隙を逃さず、まるで尾を踏まれや猫のように跳び上がると。普段はその尻尾を悠々とたなびかせている深紅のマフラーを、己の肩から耳元にかけ、ぐるぐると勢いよく巻き付け、体育座りの要領で勢い良く顔をうずめる。そうして、「……ッ、」と声にならない悲鳴を、自身の膝に吸い込ませてから、そのマフラーに負けず劣らず赤い顔をおずおずと上げると、潤んだ瞳をギデオンに向け。その分厚い胸板に向けて、力のない拳をぽこんぽこんと振り下ろしたかと思うと。ゆるゆると下ろした拳を開いて頬を覆い、真面目な顔で全く説得力のない釘を刺し )

──……くび、弱いからだめ、です!
そ、れに…………かっ、嗅……ぐのも駄目!
こんなの……もう、ほんとにお疲れの時だけですからね……、




621: ギデオン・ノース [×]
2023-10-13 11:56:21





(長く続く穏やかな微睡みに、ギデオンの頑なな檻がごく自然と緩んだ、そのとき。腕の中にいた温もりがびゃっと身を引いていく気配に、ようやくぴくりと目を覚まし、ぼんやりとそちらを見遣る。──目の前には、真っ赤な顔を埋めている、馴染みのうら若いヒーラー娘。そのすらりと長い脚を縮こめ、もうこれ以上は駄目ですと言わんばかりに、ギデオンの贈ったあの赤いマフラーでがっちりと防御を固めて。次いで向けられた涙目やら、全く痛くない反撃やら……酷く恥ずかしがりながらも、こちらへの甘さを決して捨てきれていない台詞やら。いじらしいにも程がある有り様に、まだ少し夢うつつの状態にあったギデオンの顔は、やがてふっと緩く笑み。)

……それなら、また近いうちに許してくれそうだな。

(なんて、これは流石に冗談だ──ほとんどは。身振り口振りでもそうちゃんと説明すると、暫く固まっていた体をほぐすべく身じろぎし、片膝を立てる形で、古井戸に背中を預けながらゆっくりと座り直す。まだ酩酊が残ったままだが、先ほどよりは多少の理性を取り戻したのか、もう相手を拘束する意図はないようだ。頭上の冷たく澄んだ星空を見上げ、白い息を幾らか吐いて。次に広場の方を見ようとすれば、季節に似合わず青々と茂った枝に、「?」とわかりやすく疑問符を(本当に何も覚えちゃいないらしい)。身体を傾け、隙間から奥を窺えば、どうやら村の広場の方も、お開きとなりつつある様子だ。焚火の始末をしたり、酔い潰れた冒険者や村人を介抱したりする光景が見え、その中であの酒の強い村長だけが、相変わらずヨルゴスと何やら盛り上がっていた。アイツ含め、うちの連中に関しては、昨夜泊まった村の公民館に放り込むことになるだろう。無論、そんな雑対応はあくまで男に限った話。パーティーの紅二点であるヴィヴィアンとアリアは、村人の家の一軒に泊まることになっている。そうか、それを想うと、そろそろ相手を帰してやらないとな……とまで考えて、ふと思い出し。正面の相手に向き直ると、マフラーに巻き込まれて撓んだ栗毛に手を伸ばし。何とはなしにひと房出して弄びながら、穏やかなまなざしを投げて。)

……そういや、今回のアリア。お前のサポートがあったにしろ、随分活躍してたみたいだな。俺も正直、あそこまで立派に動いてくれると思ってなかった。
上には改めて、評価を上方修正するように伝えるつもりだ……これからますますしごかれるだろうが、あいつならやっていけるだろう。





622: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-10-14 14:05:24




…………、

 ( ギデオンの人を食ったような冗談にビビの心を過ぎったのは、揶揄われたことへの憤りではなく、こんな"ほんとにお疲れの時"が、またすぐに訪れるような生活をしている相手への深い心配。──冗談、とこちらに表してくる相棒の一方で、我ながらどうしようも無い甘さを自覚してしまえば。そっと甘い感触の残る首元を抑えながら、案外相手の言う通り、またすぐにでもチョロく受け入れるだろう己の未来を察知しては、気まずい思いで首を縮め。──だって。ギデオンさんに無理して欲しくないし、私で元気になってくれるなら嬉しいし……と、既に絆されきって手遅れの思考に頭を抱えて、ぷるぷると葛藤していた塊は、しかし。相手の瞳に理性が取り戻され、更に自分が可愛がっている後輩が褒められるのを耳にした途端。ぴこりと頭が持ち上がり、えへえへと嬉しそうにほぐれ解凍されていくのだから、いじめ甲斐のないことこの上ない。 )

……そうでしょう、そうでしょう! アリアってとってもすごいの!
私も真似したことあるんですけど、全ッ然効果ないかすっごく時間がかかるんですよ。でも、アリアが言うとみーんなすぐ言うこと聞くんです!
……ちょっと悔しいけど、皆の役に立ちたいって子だから、あの子の活躍する場面が増えるなら私も嬉しいです!

 ( そうして、ギデオンの隣。後輩のことで何故か自分が誇らしげなヴィヴィアンは、相棒に寄り添うように井戸に寄りかかり、ぐっと伸びをしてから元気よく跳ね上がるように立ち上がると。今日も今日とて変わらぬ満面の笑みでギデオンを振り返り、「そろそろ行きましょうか」と手を差し出す。そうして、結局カーティスの報告を上げたのは、約束の民家への家路の途中。誰からの報告かは濁したものの、ちゃんと伝わっているに違いない。あの巨大なトロイトより、更に大型の存在を前にして、さて相手は魔獣かただの野生動物か。あれこれと可能性を挙げ連ねていれば、ビビ達を泊めてくれる約束の民家の門はすぐにでも見えてくるだろう。 )

──っと、送ってくださってありがとうございました。
……久しぶりにお仕事ご一緒できて嬉しかったです。
今年もよろしくお願いいたします……なんて、まだ明日無事にギルドに帰るまでが依頼、ですよね?




623: ギデオン・ノース [×]
2023-10-16 03:28:52




(後輩ヒーラーを褒められるなり、ぱあっと輝くヴィヴィアンの顔、そのにこにことご機嫌なこと。ギデオンも思わず苦笑し、立ち上がって促されるままゆったりと歩き出す。その横顔は、気づけば随分と──少し前の一幕が嘘のように──寛いでいるのだった。
そうして道すがら、相手の真面目な報告に耳を傾けているうちに。冬の肌寒さが酒精を和らげてくれたのか、「そうか」「それで?」と相槌を打つ様子は、いつもの冷静沈着なギデオンにすっかり戻り切ったと言える。……しかし同時に、少しばかり、(……?)と首を捻っていた。素面に戻ったことで、何か違和感のようなものがぼんやりと沸いている──さっきまで、何か……とんでもないことをしていたような。歩きながら視線をさ迷わせ、眉をうっすら顰めては、記憶の糸を手繰り寄せようと試みるものの。適当な言い訳をつけて、酔い醒ましに宴を抜け出した、そこまでは覚えているのに……その後、おそらくこの小一時間ほどについては、靄がかかったようにほとんど思い出せずにいる。まあ、いつからか一緒にいた相棒の様子を見るに、別段いつも通りに振る舞えていたのだろう。そう安易に結論付けると、暫し黙っていたことを、「悪い、何でもない」と手を振って軽く詫び。辿り着いた民家の前、相手に向き直った時には再び、いつものベテラン戦士然とした面持ちになっていて。)

ああ、こちらこそ宜しく頼む。
ただ……実のところ、俺はもう少しここに居残ろうかと思っててな。さっきの爪痕の話、おそらく冬ごもりに失敗した大型魔獣の類いだろう。そういう個体は気が立ってるから、初動が遅れると厄介だ。
……いや、おまえや他の奴らはいい、ヨルゴスと一緒にまっすぐギルドに帰ってくれ。必要以上に動かすと、それはそれで上に怒られることになるんだ。
俺と斡旋官での調査がある程度纏まったら、そこで初めてクエスト化して、もうひと狩り片付けることになるだろうな。……そうだな、ああ、二、三日は見込む。だから、悪いんだが──

(そうして懐から取り出したのは、錫のリングに連なった鍵束。そのうちひとつは、相手も見覚えがあるだろう、己の自宅の鍵なのだが。どうやら今回は、ギルドの私書箱、ラドニア銀行の貸金庫など、他の諸々の鍵も一緒に預けてしまうつもりらしい──相手のことを信用しているから、大雑把でいいと踏んでいるのだ。ちゃり、と軽く鳴らしたそれを相手の掌の上に渡すと、澄んだ青い瞳で見つめ、ごく緩く首を傾げる。……どうやら、記憶は綺麗に飛んでいようと、素直に頼る考えもきちんと残っているらしい。)

手の空いたときに、また家の様子を見てくれると助かる。掃除や食事はいい……いや、掃除に関しては、妖精どもを寄せ付けない程度にしてくれたら正直助かるが。とにかく、この前ほど頑張らなくていい、感謝はしてるがもう充分だ。
二週連続頼むわけだから、報酬は弾む。そうだな、お前のよく使う薬草粉を、向こうひと月分……とかで足りるか?





624: ギデオン・ノース [×]
2023-10-16 03:28:52




(後輩ヒーラーを褒められるなり、ぱあっと輝くヴィヴィアンの顔、そのにこにことご機嫌なこと。ギデオンも思わず苦笑し、立ち上がって促されるままゆったりと歩き出す。その横顔は、気づけば随分と──少し前の一幕が嘘のように──寛いでいるのだった。
そうして道すがら、相手の真面目な報告に耳を傾けているうちに。冬の肌寒さが酒精を和らげてくれたのか、「そうか」「それで?」と相槌を打つ様子は、いつもの冷静沈着なギデオンにすっかり戻り切ったと言える。……しかし同時に、少しばかり、(……?)と首を捻っていた。素面に戻ったことで、何か違和感のようなものがぼんやりと沸いている──さっきまで、何か……とんでもないことをしていたような。歩きながら視線をさ迷わせ、眉をうっすら顰めては、記憶の糸を手繰り寄せようと試みるものの。適当な言い訳をつけて、酔い醒ましに宴を抜け出した、そこまでは覚えているのに……その後、おそらくこの小一時間ほどについては、靄がかかったようにほとんど思い出せずにいる。まあ、いつからか一緒にいた相棒の様子を見るに、別段いつも通りに振る舞えていたのだろう。そう安易に結論付けると、暫し黙っていたことを、「悪い、何でもない」と手を振って軽く詫び。辿り着いた民家の前、相手に向き直った時には再び、いつものベテラン戦士然とした面持ちになっていて。)

ああ、こちらこそ宜しく頼む。
ただ……実のところ、俺はもう少しここに居残ろうかと思っててな。さっきの爪痕の話、おそらく冬ごもりに失敗した大型魔獣の類いだろう。そういう個体は気が立ってるから、初動が遅れると厄介だ。
……いや、おまえや他の奴らはいい、ヨルゴスと一緒にまっすぐギルドに帰ってくれ。必要以上に動かすと、それはそれで上に怒られることになるんだ。
俺と斡旋官での調査がある程度纏まったら、そこで初めてクエスト化して、もうひと狩り片付けることになるだろうな。……そうだな、ああ、二、三日は見込む。だから、悪いんだが──

(そうして懐から取り出したのは、錫のリングに連なった鍵束。そのうちひとつは、相手も見覚えがあるだろう、己の自宅の鍵なのだが。どうやら今回は、ギルドの私書箱、ラドニア銀行の貸金庫など、他の諸々の鍵も一緒に預けてしまうつもりらしい──相手のことを信用しているから、大雑把でいいと踏んでいるのだ。ちゃり、と軽く鳴らしたそれを相手の掌の上に渡すと、澄んだ青い瞳で見つめ、ごく緩く首を傾げる。……どうやら、記憶は綺麗に飛んでいようと、素直に頼る考えもきちんと残っているらしい。)

手の空いたときに、また家の様子を見てくれると助かる。掃除や食事はいい……いや、掃除に関しては、妖精どもを寄せ付けない程度にしてくれたら正直助かるが。とにかく、この前ほど頑張らなくていい、感謝はしてるがもう充分だ。
二週連続頼むわけだから、報酬は弾む。そうだな、お前のよく使う薬草粉を、向こうひと月分……とかで足りるか?





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