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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
545:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-23 16:50:53
( ──ビビちゃん、ビビちゃん……ギデオン・ノースさんが。生憎の天気に見舞われた、グランポート三日目の夜。雨に振り込められたコテージに力強いノックが響いたその瞬間、ビビはリズと共に昨日の片付けに取り掛かっていた。こんな酷い天気の中、思わぬ訪問者に固まっていると、冷たい目をした親友に酒瓶を奪われ、そのまま玄関へと突き出されてしまう。──せめて着替えさせて欲しかったな、なんて。まだ日中の装束をかっちりと着込んでいる相手に対して、此方はと言えば、昨年の夏披露したアレ程ではないものの、胸元も脚も投げ出した、気の抜けた部屋着が居心地悪くて。そうでなくとも丸一日以上、碌に顔を合わせていなかった恋人に気まずい思いでへらりと笑いかけると。それが表向きの理由だとは分かっていても、確信に触れない事情にほっと顔を緩めながら、広い玄関に相棒を招き入れた。 )
んっ、分かりました……ちょっと着替えて来るので待ってていただけますか。
( それから四半時は経っていないだろうか。いつもの仕事着に着替えたヴィヴィアンとギデオンは、コテージ裏手の急な階段を下って、夜の砂浜を歩いていた。雨はまだしとしとと降り続いていたものの、玄関先を出る際、ビビが傘を手に取らなかったのは、自分が今からしなければならない話を、傘二つ分の距離を隔ててとても出来る気がしなかったからだ。そうして自然と一つ傘の下、誰もいない浜辺を、数cm越しに相手の体温を確かめながらゆっくり歩く。目指しているのは、砂浜の西側に浮かぶ小屋の影。小屋と呼ぶにも些か簡素なそれは、数本の柱にトタンの屋根が乗っかっただけで壁もなく、落ち着いて話をするにはやや開放的だが、夜の帳と静かな雨が目隠しとなってくれる今晩にはピッタリだろう。
ザザ、ザザン……サクサクサク……と、低い波の音を縫って、二人分の足音が耳をくすぐる。小屋につけば、優先すべきは仕事の話で──……もうこれ以上なく私的な話をするなら、今しかない。そう意を決して開いた唇は、辛うじて謝罪の気持ちは音にしてくれたものの。それ以上を口にするのがどうしても出来なくて、どうしようもない羞恥と、ギデオンに呆れられたらという恐怖に震えて白い顔で唇を噛む。それでも、ギデオンに話すための勇気を、ギデオンに貰っているようで訳ないが……今日はまだ一度も触れていなかった手をそっと握り。何度も何度も躊躇って、話の確信から逃れようとした結果、なんとか震える声を絞り出してから、逆にとんでもないことを口にしてしまったことに気がついて、堪らず潤んだ瞳を海側に逃がすと。初日以降ゆったりとおろしている豊かな髪の隙間から、真っ赤な首筋を覗かせて。 )
……ギデオンさん。お仕事って……ううん。
昨日は、変な態度を取ってごめんなさい。……突然だったから少し、驚いちゃって。
…………っ! それ、それでね……、あの、…………っと、ギデオンさんは私と──その、キス……以上のこともしたいの……?
546:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-23 18:47:17
(ここまでの道中、何とはなしにお互い黙っていたものだから。浜辺の小屋に着き、傘を振るって折りたたみつつ、なんと切り出すべきか考えていた。先ほどのヴィヴィアンの、昨夕ほどは強張っていない様子……けれど、今日一日ほとんど話していなかったこと。それらを踏まえ、どこから触れれば、目指すものに近づけるだろうか。しかし、先におずおずと伸びてきた手に、少し驚いた顔を上げ。目の前の若い娘の、ふるふると躊躇いながら勇気を振り絞ろうとする様を、ふと表情を変え、決して邪魔せず静かに見つめる。──そうして転がり出てきた言葉に、一瞬きょとん、と目を瞬くと。小さく吐息を漏らすように笑い、真っ赤な顔を逸らしている恋人の方に一歩近づいて。)
──……、したいよ。俺は、それなりに……欲深い人間だから。
(決して昨夕のような仄暗い声ではなく、寧ろ穏やかに落ち着いた声で、あっさりと肯定すれば。夜風にたなびく栗毛の束を軽くすくい、彼女がこちらを向いたタイミングで、緩やかに微笑みかけるだろう。ふと促すように視線を逸らせば、その先にあるのは、砂に半分埋まった大樽(おそらくこの簡素な小屋は、これに合わせる形で建てられたものなのだろう)。手を繋いだままそちらに歩み寄り、上に被っているボロ布をどければ、幸いその下は雨に濡れていないようで。先に腰を下ろす形で相手の手を緩く引き、隣に座るよう促すと、足元に転がっていたランタンに火魔法をぽうと灯し。小さな明かりに照らされながら、脚の間で両手を軽く組み。至極落ち着いた、けれど自分の本心を隠し立てもしない様子で、隣の相手の顔を見て。)
いきなり変な態度をとったのは俺の方だから、おまえは何も悪くない。怖がらせて悪かった。
……お前に対して、そういう気もある、と思うと……やっぱり、怖く感じるか。
547:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-24 20:54:35
…………、
( ぬるく湿った潮風に、しゃぼんのような林檎のような、無垢で清潔な香りの巻き毛が揺れる。此方の血迷った質問に、ギデオンがあまりにあっさり頷くものだから、思わず脱力して優しいエスコートに引かれるがまま、斜めった大樽に腰を掛けると──こうして大好きな手を握り、ただ温かいだけの優しさに浸っていられたらどれだけ幸せだろうと、ぽやりと目を細めて現実逃避に耽っていた時だった。確かにそう思っていたのは事実だが、本人には言ってなかったはずなのに。ギデオンの口から漏れれ聞き捨てならない言葉に、思わず身体を乗り出して、 )
ギデオンさんは怖くなんか……ッ!
…………。ごめんなさい、ギデオンさんだから、怖いわけじゃないんです……
( ──優しいギデオンを傷つけるような態度をとってしまった。その事がとても辛くて、勢いのままに反応をとってみたものの、それが嘘だということは誰より自分がよく知っていて。硬い太ももに着いた手をそっと離し、暗い顔で項垂れる。──これまでビビを傷つけたのも、裏切ったのも決してギデオンではないのに、大好きなこの人を信じたい気持ちはあるのに、これまでの経験がそれを許さない。そんな己の事情でギデオンに迷惑をかけたくない、見捨てられたくない。たったそれだけの事を伝えるのがこんなにも怖くて、優しいアイスブルーを見上げると「ハグ……は。ハグも、不純ですか……?」と、何よりビビに勇気を与えてくれる触れ合いをおずおずと強請って。何度か深呼吸をしてから、震える声を振り絞る。途切れ途切れの本音は醜くて、時々甘えたような水音が鼻にかかるのが酷くて聞くに絶えない。自分でも支離滅裂な本音を吐露しきれば、我ながらどうしようもなく稚拙で、相手に相応しくない弱音に心がしずんでいくようで。 )
……昔。その時の彼氏に、無理矢理……その、されそう、に、なったことがあって……
ギデオンさんはそうじゃないって、有り得ないって思っても駄目、なんです。
……本当はちゃんと応えたい、んです。でもきっと、いっぱいご迷惑おかけしちゃう。ギデオンさんが今までしてきた人達に敵わない……って、見捨てられたらって、それが、怖くて……
548:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-25 17:09:24
(躊躇いがちかつ遠回しなおねだりに、思いがけず深い安心感が沸き起こる。ヴィヴィアンはまだ、こちらの全てが恐ろしくなってしまったわけではないのだ──きっとまた、親しく打ち解けあう関係に充分戻れる。とはいえ、返事をする前に、今にも泣きだしそうな相手が必死に呼吸を整えるのを、ゆっくり待つことにして。相手の方を向きながら、弱々しく震える背中を優しく擦ることしばし。途切れ途切れに打ち明けられる心情を最後までしっかり聞き届ければ、まずはその頭を、よしよしと撫でてやり。)
……怖い思いを、ひとつどころじゃなく、たくさん抱え込んでたわけだな。言葉にするのは難しいだろうに、よく俺に話してくれた。
ちゃんと確かめ合おう……おいで。
(そう柔らかな声をかけながら、樽の上で深く座り直し、その両腕を緩く広げて、相手を迎え入れる姿勢を。おずおずとか、飛び込むようにか──いずれにせよ、相手が懐に潜り込んでくれば、嬉しそうに喉を鳴らして、ごく優しく抱きしめるだろう。そうして、小雨と波打ち際の優しい水音に包まれる中。相手の側頭部を己の胸板にもたれさせ、こちらの深い呼吸とゆっくりした鼓動を、ヴィヴィアンにも分け与えながら。絹糸のように柔らかな髪を、ゆっくりと撫で下ろし続けて。)
俺がおまえに欲深くなるのは、自然なことだとは思ってる。だけど、昔怖い思いをしたおまえが、同じ“男”である俺にも怖さを感じてしまうのだって、当たり前のことだろうよ。
だから、気にしなくていい……焦らなくていい。いつか怖くなくなるなら、そのときまでゆっくり待つし。そういう日が来なくても、おまえとこうしていられるのだって、俺は充分幸せなんだ。
それなのに、見捨てるなんて馬鹿な真似をするはずがないだろう? ありもしないことは、怖がる必要なんてない。
549:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-26 14:37:25
( ──ギデオンの懸念とは裏腹に。背中を、頭を、その大好きな手に擦られるだけで、深い安堵が胸に広がり、浅かった呼吸が徐々に治まっていく。まるで此方の心を覗いたかのような、ひたすら自分に都合の良い言葉が面映ゆくて──ドスッ、と。色気容赦ない動きで広げられた胸に飛び込み、頭上から上がる満足気な喉の音に耳を傾ければ、何故か自分が褒められているような、温かく、誇らしい気持ちになってくるのだから不思議でならない。頭を通過していく優しい手つきに目を伏せ、胸板越しに響く低い声を聞くだけで……今迄認められなかった、認めたくなかった恋人の欲、己の弱さまで、そういうものかと素直に胸に染み渡り。誠実に、しかしビビにとって、世界一安心出来る恋人であり続けようとしてくれるギデオンに、少しでも報いたい気持ちの双葉が芽生える。そうして、最愛の恋人の胸の中、「……ありがとう、ございます」と、それはそれは嬉しそうにはにかんで──たっぷり息を吸い込んだかと思えば、肺の中までたっぷりとギデオンの香りに満たされて、まるで酒精に当てられたかのような幸福感と、少しの勇気を分けて貰って。おずおずと上げたエメラルドには、未だあどけない怯えを滲ませつつも、ギデオンの顎にそっと触れたかと思うと、強気に引き結んだ唇を相手のそれへと押し付ける。以前の方が余程上手だった、ティーンだってもっと上手くするような触れるだけの不器用なキス。"不純"だと教えられてしまったソレを自らする羞恥に、真っ赤な顔をぷるぷると震わせ、ぎゅっとキツく目を閉じているものだから、狙いだって定まらなかったかもしれない。──しかし、ただ何も考えず幸福を享受していただけのこれ迄とは違う。"不純"だと言われる行為でさえも、貴方のために捧げたい、という気持ちを篭めた唇を離して。ギデオンの腕の中、素直な気持ちで無邪気に笑って見せたのも束の間。一足遅く己の発言の意味に気がつけば、生真面目に輝いていた表情が、じわじわと羞恥に濡れていき、言葉尻もしどろもどろになっていく有様で、 )
──……それでも、頑張りますね。できるだけお待たせしないで済むように!
私。ギデオンさんになら教えて、貰いたい、なっ……なんて、……、
550:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-26 17:47:06
(弛緩して程良く重く寄りかかる身体、至極安らかな深い呼吸。それらをじかに感じれば、今宵この場の自分は、きちんと正解を選べたのだと──いつぞやの秋のような馬鹿をせず、ヴィヴィアンの欲しい言葉を与えられたのだと安堵するには充分で。すっかり油断していたものだから、ずず、と頭をずらして見上げてきた恋人がまさか、拙くも一途なキスを打ち上げてくるとは思わない。一瞬平和に硬直したその数秒、腕の中の犯人はと言えば、呑気に無邪気にはにかんでおり。かと思えば、己のぶちかました爆弾を遅れて自覚し、真っ赤な顔でわたわたと狼狽えはじめる有り様で。「………ッふ、」と、堪えきれず吹き出せば、ツボに入ったのだろう、そこからはもうダムが決壊するように、くっくっくっと全身を激しく震わせはじめて。怒られようが嘆かれようが、こればかりは仕方ないだろう──どうしてこのヒーラー娘は、己の前ではこんなに愛らしい阿呆になってしまうのだ。ようやく笑いを引かせながら天井を仰げば、「おまっ、おまえなあ……こっちが約束したからって、すぐさま煽りに来るんじゃない……」と、困ったような、呆れたような、脱力したような嘆きの声を落とし。それからふと、真面目な表情で相手を見下すと、その柔らかな頬を片手で軽く、愛情を込めてむにっとする。──相手の無自覚な煽り癖は、こちらに対する全幅の信頼ゆえの油断であって、他の男にはそうそう向けない、それはわかっているのだが。自覚のない癖だからこそ、ふとしたときの相手の言動を、見てくれ程度でしか寄り付いていない連中が、どう勘違いすることかと心配なのだ。)
……なあ、真面目に、他では気を付けろよ。今日来た消防団の奴らだって、やたらお前を振り返ってたんだ。明日の訓練はまたあいつらが来るから……頼むから、エリザベスやカトリーヌのそばを離れないでくれ。俺が傍にいられないときは、そうだな。絶対傍にいるはずだから、困ったらすぐバルガスを呼んで……
(──そうやって、安定の過保護モードへと急ハンドルを切りながら、あれこれ言いつけていると。ざく、ざく、と砂を踏む音が近づいてきたかと思えば、不意に指向性の魔法灯に照らされる。細めた目に片手を翳してそちらを見遣れば、揃って「「あ」」声を上げたのは、夜間パトロールをしていたらしいデレク、そして今まさに話題にしていたバルガスだ。「──へえ、あんた、野外プレイが好きだったんだ?」と、酷く愉快気な後輩の色男が、にやにやと笑いながらうるさいことを投げかけてくる一方。「……ん゙ん゙っ、その、もう深夜ですし。一応、コテージに戻っていただけると……」と諫言を述べるバルガスは、どこからどう見てもいちゃついている現場をがっつり目撃したからだろう、日焼けを差し引いても真っ赤な顔を、ごく紳士的に背けており。──仕方ないか、というように両手を上げて興産のポーズをとると、「帰るか」とヴィヴィアンを誘い、傘を持ちつつ立ち上がった。
デレクたちと別れた後、相手のコテージに送り届けるまでの道のりで、再び傘を差す必要はなかった。小雨がすぐに止み、頭上の雲の切れ間からは星空すら見えはじめたからだ。──華やかな王都とは違い、ここは地方の観光地。生温い夏の夜風が吹く中、黒雲を掻き分けて次第に面積を広げていく天の銀砂は、そのどれもがはっきりと、手に取れそうなほどの近さで瞬いているようで。ふたりで自然に手を繋ぎ、見えそうで見えない星座の話をしながらのんびり歩くこと数分。コテージももうすぐそこ、という急勾配の階段を上った辺りでふと足を止め。相手に向き直り、先ほどのお返しを柔らかな唇に静かに落とせば。やはりずっと無意識に抑えていた反動だろう、二度、三度と、触れるだけだが熱いそれを幾度も重ねて。しかしその合間に、「そうだ、」と不意に口にしたのは、やはり根が仕事人間であるが故の、真面目で大事な話題。──それでも、額に唇を触れたり、顔の輪郭を撫でたりと、相手を愛でながらの共有となって。)
思い出した……明日の話なんだが。ギルマスから指示が出次第、グランポート編警察署に行くことになりそうだ。“もう一度事情聴取を受けてほしい”って要請があったそうでな。
ヘルハルト・レイケルについて、何やら大掛かりな追跡調査が始まってるらしい。俺たちの知ってることは……ん……1年前にも、数日掛けて洗いざらい話してはいるが。せっかくこっちに来たならと、もう一度……確認したいんだと。
551:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-27 12:48:15
ち、ちがっ! ~ッ、笑わないでくださいよ!!
( よくもまあ、本気で人が恥じらっているのに、こうも楽しげに笑えるものだ──と。いつかの舞踏会以降感じていた相手の印象は、実は必ずしもビビ以外の人達にとって、既知では無いことを最近知った。堪らない羞恥と憤慨し、意地悪な恋人の肩をぺしぺしとやりつつも、この表情が自分だけに向けられていると思うと、ついつい強く怒れない。そうして、その後の子供にするような触れ合いや、過保護な言い含めに対しての方へ、よっぽど不満の表情を返しつつも。そんな余裕さえ、デレク、バルガス両名に決定的な瞬間を見つかってしまえば、一瞬のうちに吹き飛んで──結局ニコニコと2人。仲睦まじく手を繋いで帰路を歩いている。
そうして、崖の上の別れ際。落とされる唇や触れ合いに嬉し恥ずかしといった笑い声を漏らし、首をすくめながら仕事の話に耳を傾ければ。翌日の予定を確認し、オレンジ色の光を灯す玄関ポーチへ振り向こうとした、その間際。思い出したようにギデオンの袖を引いたのは、先程随分と笑ってくれた意趣返しのつもりで。その威力を察知していたかは兎も角、今回は確信犯だった爆弾と共に、愛しいギデオンの耳殼にリップ音を落とせば。後から恥じらいが追いつくその前に、元気よく頭を振り下ろして──ニコッと完璧な笑みで追撃し、捕まらない限りパタパタとコテージへ駆け出すだろう、 )
──……はい、かしこまりました!
ん、ふふ……そしたらとりあえず、皆さんと同じ場所に集合すればいいんですね。明日もよろしくお願いします、おやすみなさ……あ。
……あの、さっきのこと。ギデオンさんなら良いって言ったのは本当ですから…………それじゃ、おやすみなさい!
( 翌日。結局朝から始められた事情聴取に、ギデオンとビビの2人が警察署から解放されたのは、午後4時くらいのことだった。例の事件に、レイケルが捜査線上に上がるまでの経緯、ジェフリー達との指示関係、その劇的な最期について等々……真剣な顔の捜査官達から確認される数々の事項に、ビビはといえば──多分だの、確かだの、我ながら全く宛にならない返事しか出来ない一方で。あの状況でそこまで冷静に、それも1年間以上前の出来事を、と惚れ惚れする程スラスラとよどみなく答えるギデオンに惚れ直し、その格好良い横顔を、隣で存分に堪能するだけの時間となった。……それでもまあ、古代魔法の存在や、それが周囲に及ぼす影響等に話が移れば、一応面目躍如の働きは出来たのではないだろうか、多分。そう信じたい。
そんなビビにとってのボーナスタイムの結果、捜査官達の感謝の言葉──と、なんとも言えない生暖かい視線──を背に、警察署を出ると。ううん、と固まっていた身体を一伸ばし。まだ初夏の日は長くとも、今から海岸に戻ってもすぐに訓練が終わってしまうだろう微妙な時間に、仕事場では上司に当たるギデオンを振り返れば、夏空が良く似合う爽やかな笑顔で相手の指示を仰いで。 )
──お疲れ様でした!
ギデオンさんすっっっごく格好良かったです!
聞かれたこと全部スラスラ答えちゃうんですもん! 私も見習わなくちゃ!
……とりあえず、この後はどうしましょう、戻るにも微妙な時間ですよね?
552:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-27 16:44:21
(いたいけながらに悪戯好きな小悪魔が、最後にちゃっかりやり返してから、するりと逃げていった後。樫の扉が閉まると同時に、ギデオンは声にならない呻き声をあげ、軒先にしゃがみ込んだ。眉間に皴を寄せ、横髪をぐしゃぐしゃと掻いてため息を吐き出す。しかしその程度では、込み上げる苛立ち交じりの敗北感を噛み殺すことなどできない。彼女に口づけされた耳朶は、らしくもなく染まったままだ。
──彼女の前では、ああして穏やかに演じてみせたものの。ギデオンは決して、聖人でと呼べる男ではない。元々、彼女の体調を気遣って待つつもりではあったにせよ……せいぜいがキス止まりという初心過ぎるこの状況を、歯痒く思わないわけがない。齢四十にもなればそれなりに落ち着きはしたが、所詮性根はけだもののまま。欲は抱くし、溜まりもするのだ。相手が若く美しく、誰より愛しい娘となればなおのこと。なのに肝心のヴィヴィアンが、未だおぼこい怖がりの癖してあの様だ。こちらがどれほど苦しみ悶えていることか。あまり度が過ぎたら、流石に抑えきれるかわからない。
しかし、こんなにも腹立たしくはあれど。怖いもの知らずなヴィヴィアンのことを、愛しく、仕方のない奴だと感じてしまうのも事実だった。──結局のところ、惚れた弱みで弱り果てるのは、ギデオンもまた同じなのだ。……まあ、その時が来たら存分に思い知らせてやればいいか、と、不穏な考えで落ち着きを取り戻す。行為を怖がらなくなった頃にでも、煽ったのはお前だろうと言って、心行くまで貪らせてもらえるのなら。それできっと、そこまでの数ヶ月の鬱憤を思いきり晴らせるはずだ。
そう割り切ってようやく重い腰を上げ、コテージの上を見遣る。二階の丸いガラス窓には、先ほどはなかった暖かな明かりがついている。白いカーテン越しに揺らいで見える影は、おそらくヴィヴィアンのものだろう。「……おやすみ、」と最後に小さく呼びかけて、ゆっくりと踵を返すことにした。──この数年後、ふたりで星空を見上るたびに、『あの時は随分もどかしいことをしていたね』と笑い合う日が来るのだが……今はまだ先の話。)
(──さて、あくる日。予想以上に本格的で長丁場だった事情聴取をようやく終えて、ギデオンも彼女同様、開放的な気分で軽く首をほぐしていた。ギデオンとしてはてっきり1年前を再現する程度だろうと思っていたが、どうやらレイケルの件は今や、壮大な捜査網を敷くまでになっているようで。どんなことも聞き漏らすまいと、入れ代わり立ち代わり、無数の捜査官や専門家、似顔絵職人や他の関係者などがやってきて、それなりに大変だったのだ。「まあ、なんとなくこの展開を予測して、頭の中で準備していたからな」と、ヴィヴィアンの称賛の声に、あっさり種明かしをして笑いつつ。今後の予定を確認されれば、いつぞやの悪い上司の顔で、ぐいと片眉を上げてみせ。)
そうだな。一応ギルマスからは、夕食までに戻ってきて報告してくれという話だ。今回の仕事は警察の都合で動いてるし、長引くことも想定して、時間をたっぷり貰ってある。
……そこで提案なんだが。今後も、グランポートに遠征で来ることがたびたびないとは言い切れないだろう。でもって、各地に赴いたときに、そこの様相を隅々まで把握しておくのは、できる冒険者の鉄則だ。土地勘があるとなしとじゃ、いざというときに動ける早さが変わってくる。
そういうわけで……意味はわかるな?
(言いながら軽く頭を傾けて示したのは、いつぞやふたりでのんびり歩いた、浜辺まで続く砂利道の商店街。どう考えても、危険な魔獣や悪霊が出て討伐沙汰になる可能性はないのだが、物は言いようというやつだ。甍を連ねる軒先には、グランポート名物である魚の骨飾りがカラカラと回っていて、それを見比べるだけでも楽しいに違いない。向こうまで通り抜けても、そこの浜辺はギルドの連中がいるビーチよりだいぶ北寄りだから、うっかり見つかるようなことはないだろう。「ちょうど、買うものもあるだろうしな」と、ふと手を伸ばして掬ったのは、初日以降下ろされているヴィヴィアンの柔らかな栗毛。これはこれで新鮮かつ好みなのでいつまでも見ていたいが、強い潮風に吹かれれば邪魔になるのを、ギデオンも気づいていたのだ。まずは髪留めを探さないかと、相手の白い手を恋人繋ぎで絡めとりながら、近くの小物屋を指し示して。)
553:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-28 14:18:18
そっか……事前に予測……
( ギデオンはまるで簡単な種明かしの様に笑って見せるが、教えてもらえばこんな簡単なことも思いついていなかった己に、相手との埋めがたい経験の差を見せつけられる。しかし、必要以上に悲観的になるでもなく、真剣な表情でぶつぶつと。本日の反省点を次回に活かすべく、新たな視点の吸収に勤しんでいれば。隣のギデオンの表情が悪く歪んでいく様に、思わず瞳を丸くして。そうして、ギデオンの提案に上げた視界に映った通り──『海産物をふんだんに使った磯料理屋、釣り道具屋、水着屋、流木や海の生き物の骨を使った民芸品店、珊瑚や真珠のアクセサリーショップ』──忘れもしない、約一年前。レイケルらの収入源を調べに資料館へと辿った通り、今隣にいる恋人とデートしてみたいと願った通りを目の前に、思わず建前も忘れ、これでもかと興奮が溶け込み輝く瞳をギデオンに向けて。 )
──……わあっ! 本当にいいんですか?
去年ここでギデオンさんとデートしたいなって思ったの!
それに合宿中はゆっくりできないと思ってたから嬉しい……ギデオンさん大好きです!
( ただでさえ興味深いものでいっぱいの賑やかな市を、世界一大好きなギデオンと並んで歩く。しかも今回は、相手直々に隅々まで堪能して良いとのお達しで。そんな素晴らしい機会を逃せるはずもなく。これがもし仮に訓練場にほど近い場所で、バレる危険性があったとしても、例の古代魔法を引っ張り出して来てでも遂行してやったに違いない。
──さて何から見よう。まずはお酒のアテになりそうな乾物などどうだろうか……と、周囲を見渡した瞬間。耳の脇の毛束を柔らかくとられる感触に、ふっとギデオンを見上げて。その優しい瞳の色に、直接相談したわけでもない些細な不便に気が付いてくれていた喜びがどっと押し寄せ、先程までの興奮から一転。空いている方の手で自身の毛先を弄び始めたかと思うと、もじもじとはにかんで「はい、」と頷く声の小さいこと。
貝殻のピアスに、色ガラスの首飾り。舶来の染料を使った鮮やかな髪紐、オーガンジーの白いリボン。ギデオンに引かれて覗いた店の品ぞろえは、簡素な路面店とは思えない程垢ぬけていて、こんな時でもなければ喜んで夢中になっただろうに。その可愛らしい品々の輝きも、隣の美しい恋人の前にはかすんでしまって選べない。最初こそビビを見て相好を崩した中年の主人が、色々な品を手に取らせてくれようとしたのだが、彼の奥さんらしい店員が奥から出てきて、さりげなく主人を奥に引きずっていったかと思うと──どうぞごゆっくり、と微笑まし気な表情を向けられてしまって。それまで碌に商品を見てなかったことを誤魔化すべく、少し恥ずかしそうな笑みでギデオンを振り返れば、桃色の首をこてん、と傾げて )
どれも素敵で悩んじゃいます……ギデオンさんはどちらがお好きですか?
554:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-29 15:44:43
(この春付き合いはじめたばかりの可愛い恋人に、「去年のうちからここでのデートを思い描いていた」と打ち明けられて、男心を擽られない野郎などいるだろうか。仕方なさそうに苦笑しつつ、絡めた手をがっちりと繋ぎ直すその仕草から、ギデオンも同じだけの愛情を相手に伝え返したつもりで。そうして、これまた愛らしくはにかむ旋毛頭に穏やかなキスを落としつつ、ふたりでぶらぶらと小物屋へ。こじんまりとしたアクセサリーショップは、どうやら店の奥がそのまま店主の自宅に繋がっているらしい。軒先に置かれている樽や流木のほか、歩いて数歩もない店内の両壁や二、三の棚には、いたるところに色鮮やかな雑貨の類いが並んでいる。全てを大方見比べれそうなのが、デートにお誂え向きでありがたいところだ……はたしてどれが相手のお気に召すことか。こちらがそう考えたのと同じタイミングで、横のヴィヴィアンのほうからも、可憐な仕草で問いかけられれば。それだけで既に今日一日分も深々満たされるのを感じつつ、表面上はあくまで余裕たっぷりに。ごくゆったり変え品ながら、ヘアアクセサリーの陳列された一角へ歩を進めて。)
ん? そうだな……この辺りなら、デザインも材質も良さそうじゃないか。
(──冒険者という職業柄、まずは機能性や保ちの良さに重きを置く性分だ。加えて、今回の買い物のそもそものきっかけは、ヴィヴィアンの髪紐が波に攫われてしまったこと。だから第一の条件として、「ほどけにくい」ものを選びたいところである。海ウサギの毛皮のパイルゴムなどは、髪に痕がつかない上に可愛らしいこともあり、一般女性は好んでつけるのをギデオンも知っているが……何分“激しい運動”をすれば簡単に滑り落ちるのを見てきた、冒険者の女性には使いにくいものだろうと、選択肢から除外する。とはいえ、隣にある無染色の海猪の革ひもや、樹液を固めて作ったスプリングタイプの輪では、丈夫さや耐水性では群を抜くと知っているものの、少々味気なかろうか。機能性は第一だが、それに次いでデザインの良さも欠かせないという価値観は、ギデオンがそれなりに洒落ている所以である。それに相手の言ったとおり、せっかくのグランポートでのデートなのだ。土産物感が出過ぎない程度に、思い出のゆかりになりそうなものはといえば……。
そうしてギデオンが指し示したのは、右隅にある2種類の髪留めだ。手前にあるのは、丈夫そうな太い髪ゴムに、おそらくガリニアから直輸入した布の切れ端からつくったのであろう、手触りの良いシンプルなスカーフが結びつけられた品物。赤、白、緑、青に黄色と、バリエーションも豊かだし、ワンポイントとしてあしらわれているストーン付きの金具は、ここらの浜辺の貝殻から型抜きしたものらしく、ひとつひとつ形が違う。更に奥へと目を移せば、そこに並べ立てられているのは螺鈿細工のヘアカフス。どれもゴム付きの使いやすそうな造りだが、カフス部分の金や銀の土台は、リング状であったり、菱形や花形であったり、珊瑚を象っていたりと、まずそこからして種々様々。加えて、おそらくル・カルコルの殻から作ったのだろう螺鈿細工は、青やピンクや真珠色を基調とした虹色の殻が細やかに嵌めこまれている。陽に当たればきっと、魔素の宿る物質特有のあの輝きを、きらきらと放つことだろう。螺鈿細工は伝統工芸品ゆえ、ともすれば古臭くなりがちだが……この店の仕入れ先の職人は余程センスが良いらしい、どれも小洒落たものばかりだ。
ちら、と店の奥のほうを振り返ってみたものの。そちらからは店主の旦那と奥方の、「いやぁ、だからよォ、あの都会から来た別嬪さんにゃよォ、俺の確かな目でうちのおすすめってのを……」「バカ! ああいうのは一緒に悩むのが楽しいもんなの! 邪魔すんじゃないのこのスカタン!」なる小競り合いが、相も変わらず聞こえてくる始末。あのご夫婦なら、試着をしても喜んで許してくれそうだ、と安心すれば、壁に掛けられた小さな鏡を指し示し。「実際につけた感じを、確かめてみるといい」と、傍にあった小さな櫛を差し出しながら促して。)
555:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-31 01:12:42
( それこそ昨年からは思いもつかない。甘くて優しい触れ合いに、えへへ、と気の抜けた幸せいっぱいの笑みを漏らす。絡んだ指先に自らも力を込めて、その形を、恋人から与えられる愛情を確認するかのように、むぎゅむぎゅと好きに弄べば。相手の気持ちが伝わったことは十分に伝えられただろうか。 )
あっすごい。そうなんです、こういう太いゴムじゃないとすぐ切れちゃって……
( ──そういえば去年のクリスマス。ギデオンから貰ったハンカチは、ヴィヴィアンの好みを正確に捉えていてとっても使いやすかった。最近の流行や使い勝手のみならず、きっと普段から人のことをよく見ているのだろう観察眼に感心すると。相手オススメの品を手に取って、思いのほかしっかりした作りのそれに目を見開く。──折角のデートの思い出だ。たとえ、ビビの癖毛多毛の前にゴムの部分が儚くなってしまおうと。何度だって紐を入れ替え使う気ではいたのだが、これだけ消耗部がしっかりしているなら、装飾部の素材もきっとこだわって作られているに違いない。相手の提案に櫛を受け取りながら頷いて、「すみませーん、試着させていただきますね」と、奥に一言申し付ければ。それぞれ好きにうねって光を乱反射していた縮れ毛が、櫛を通されたところから濡れたように美しい栗色を映し出す。流れるような巻き毛を後頭部で纏めて、白いうなじに散る後れ毛を手早くかき集めると──まず手に取ったのは、貝のモチーフが可愛らしいガリニアスカーフ。中でも迷わず鮮烈な赤を選びとったのは、ビビの中で今年の冬も、あの赤いマフラーを巻くことが決定しているからで。 )
……えへ、どうです?
似合う? 可愛いですか?
( 余程しっかりゴムと飾りが縫い付けられているのだろう。形の良い頭の小さな動きを、如実に反映させるスカーフの揺れの表情豊かなこと。──少し恥ずかしそうにギデオンを振り返って、そのくせ強欲に褒め言葉を強請って期待するビビの頭上で、深紅のうさ耳が控えめに震えたかと思えば、次の瞬間にはピコピコと元気に跳ね回る。それに気づいているのかいないのか、自分でも鏡を覗き込めば、可愛らしくもカジュアルで、使いやすいデザインのそれは自分でも大いに気に入るのだった。
それから次に試したのは、螺鈿細工のヘアカフス。直線的でシンプルなリングに、贅沢にもぐるりと敷き詰められた玉虫色の細工は、さりげなくも上品に、キラリと光って大人っぽい。それからそれから、楕円の細工や、立体的な小花のカフス──途中からは、もう当初の目的から随分逸れ出し。オーガンジーのリボンを試しに、柔らかな髪をハーフアップに捻りあげたり、可愛らしい桃色のリボンでお下げにしたり……さながら2人きりのプチヘアスタイルショーの時間を楽しんで。
そうして結局、こういう時は最初の印象が一番あってたりするもので。悩むビビが握るのは、最初に選んだ赤いスカーフと、シンプルな螺鈿細工のヘアカフス。ギデオンが以前プレゼントしてくれたマフラーと合うのは絶対前者のスカーフなのだが、正直25歳を目の前に控えて、このデザインの寿命はいかばかりか。……であれば、後者の方が長く大事に使えるのだが──ううん、と。普段つるりとした眉間に皺を寄せて、真剣な表情で悩むこと暫く。何気なく覗き込んだ鏡の中で目が合うと、恥ずかしそうに小さく笑って首をかしげて )
ああぁあ……どっちも可愛くて悩みます……
ギデオンさんにが可愛いと思う方にしたいんですけど、どっちがいいですか?
556:
ギデオン・ノース [×]
2023-08-31 23:01:38
ああ、よく似合ってる。おまえらしいよ。
(無防備に曝け出された白いうなじに耐え切れず、一瞬視線を外したものの。相手が器用に髪を纏め、くるりとこちらを振り返った時には、いつもの顔を取り戻し、目尻にくしゃりと皴を寄せる。実際、心からの褒め言葉だ──元気溌溂・純真無垢を絵に描いたようなヴィヴィアンには、情熱的な赤、そして少女らしいアクセサリーが、驚くほどよく似合う。おまけに例のスカーフは、頭の上で綺麗に立てれば、さながらウサギの耳のように生き生きと揺れるらしい。今もギデオンの表情ひとつにぴこん! とわかりやすく跳ねるものだから、可笑しそうに喉を鳴らし。鏡の中の相手に向かって、ふと意味ありげな表情を浮かべたかと思うと、「ウサギはウサギでも、手強い海ウサギかもしれないな」なんて揶揄いを。ウサギと言えば、寂しさで死ぬこともあるという俗説が有名だが、相手はそんな弱々しい女性ではない。しかし海ウサギとなれば、時に手練れの戦士でも手こずる獰猛さ、そして何より、決して獲物を諦めない不撓不屈の粘り強さ……そういった点で、ある意味重なる部分があるだろう、実際自分がこうして捕まったのだからと。相手が笑うなり怒るなり、巧みに揶揄い返すなりすれば、また小さく笑いながら、相手のうさ耳、次いで本物の可愛い耳をくすぐり。そうして過ごす最初の寄り道は、瞬く間に過ぎて行くだろう。)
──そうだな……やっぱりいちばん最初のが好きだ。スカーフなら、おまえの気分次第で自由に結び直せるだろうしな。
親父さんに声をかけてくるから、よかったらそのまま着けてくれないか。
(据え置きの鏡の前で(むむん)と悩むその姿は、もはやそれだけで愛しいのだが、何よりその思考がある程度読み取れるものだから、さらにいじらしさを増していた。──ギデオンからすればまだまだ若い娘だが、それでもヴィヴィアン自身からしたら、あのうさ耳(もどきの)のヘアスカーフは、着けづらく思う気持ちもあるのだろう。それでもやはり、今がいちばん若いことには変わりない、身につけたいものを心置きなく着ければいい、実際とても似合っていた。そんな考えからそちらを選び、「いざとなったら、職人街のあいつらに仕立て直して貰えばいい」と、更に背中を押してやる。そう、ヴィヴィアンのためを思ったのであって……数ある色の中から真っ先にあの深紅を選んだ姿に、独占欲やら何やらをがっつり擽られただとか、そんな愚直な理由であるはずがなく。とにかく、相手にもう一度鏡の方へ向き直らせると、自分はカウンターの方へ寄り、奥の店主に声をかけ。「そこのスカーフのを、そのまま連れに着けさせていっても?」と尋ねれば、奥さんと言い合いつつのそのそ出てきた中年親父は、案の定色好い返事を返してくれた。「お熱いねえ」「そちらほどでは」、そんな雑談を交わしながら、その場ですぐに勘定を払おうとして──ふと、卓上の端に目を落とす。鍵のかかった小さな木箱、ガラスの嵌めこまれたそれの中には、この手の土産物屋にしては少しばかり高級な品が収まっている。そのうちのひとつに目を奪われたギデオンは果たして、儀狄の産地より遥か遠い東の島国の習わしを、聞き知ったことがあるのかどうか。随分長く試着を楽しませてもらったしな、とさほど考えずに決断すれば、「こちらもひとつ」と、布袋を一つ包ませ、それを手にヴィヴィアンの元へ戻る。髪を結い上げたいつも通りのその姿、けれども深い赤がぴょこぴょこしているのが新鮮で、自然と口元を弛ませれば。彼女とともに、店の夫婦にもう一度礼を伝えてから、陽射しの和らいだ表の通りへ。次のどこかへの道すがら、手に持ったサテンの小袋をさりげなく渡してみせる。口紐を解いて中を覗けば、ちょうどヴィヴィアンの瞳の色と同じ、明るい翡翠をあしらったシックなデザインの簪が、きらりと美しく光るだろう。)
途中、一回シニョンにもしてたろ。あれも良く似合ってたから……今度良かったら、それを使ってやってみてくれ。
557:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-09-02 12:44:32
ありがとうございま──……海ウサギ。
( ギデオンからの褒め言葉に、嬉しそうに目を細めた表情が、次がれた単語にスンッと落ち着く。揶揄の中にも、その話しぶりからして、どうやら肯定的なニュアンスらしい。ということは何となく分かるのだが──海ウサギ、ああ、このスカーフが耳で……じゃあ私自身は生臭い魚か? と、どうも納得いかないのが複雑な乙女心である。しかしそんな不満も、頬を膨らませたヴィヴィアンに笑ったギデオンが、甘やかに触れてくればあっという間に霧散して。 )
んっ、……わか、りました……
( 目の前の髪飾りに集中し、すっかり油断仕切って無防備なところへ──好きだ、なんて。髪飾りに対しての評価だとは分かっていても、真っ直ぐに此方を射抜いていたアイスブルーに、どうしようもなく胸が高鳴る。大好きな恋人の優しさに、これまでの安心しきった様子はどこへやら。肩に触れた温かい手にもじもじと頬を染めたかと思うと──好きだ、すきだって……とぽーっと夢を見るような表情で鏡の中を見つめながら、相手の要望のままにお馴染みの尻尾を結い上げていく。そうして、ぼんやりとしていた娘が意識を取り戻したのは、戻ってきたギデオンがお会計を済ませていたことに気づいた瞬間で。最初こそ「私そんなつもりじゃ……払わせてください!」と、早速その赤い耳をパタパタと慌てさせていたものの。定期的に贈り物を受け取ってやらないと、品に不満があるのだと思い込み、もっと高価な物を送り付けてくる某大魔法使いを思い出せば、適度なタイミングで引き下がる代わりに、「ありがとうございます、大事にしますね!」と、頭上のそれに両手で触れながら、大袈裟に喜ぶことで落ち着かせたつもりだったというのに、どうやらギデオンの方が一枚上手だったらしい。
オレンジ色の陽が2人の影を長く伸ばす賑やかな通りで、差し出された袋を受け取ったヴィヴィアンは、東洋の慣習を知っていた訳では無い。しかし、生い立ち上肥えざるを得なかった審美眼で、その簪の価値を一目で見抜けば。──こんな高価なものを、そうひとこと言ってやろうとして、夕陽をバッグに満足気な目をした恋人に、ついつい毒気を抜かれてしまう。そうして仕方なそうに溜息を漏らし、ジトリとギデオンを見つめて今度こそ分かりやすく釘を刺す体で、男から女へ。ある意味、簪を贈るその意味への返答を無意識に返しながら、ギデオンの逞しい腕に抱きつき。おもむろに先程結んだばかりの尻尾をしゅるりと解いてしまうと、うっとりとした眼差しで簪を陽に透かしてから、器用にシニョンを作って見せて。 )
~~~ッ、…………。
……簪は激しい動きには向かないんですよ、
これを付けていられるような……お仕事だけじゃなくて、デートも、お休みも。ずっと一緒にいてくれなきゃ駄目ですからね。
…………ふふ。ありがとうございます、とっても綺麗……ね、
558:
ギデオン・ノース [×]
2023-09-03 16:38:36
──……、約束するとも。
(しっとりと希う声も、贈った簪をうっとりと気に入った様子も、それをすぐさま身につけてくれたことも。そのすべてが、文脈は曖昧なままでも、ギデオンの胸の内を深く深く満たしてくれるものだから。つくづくヴィヴィアンには、何を講じても敵わぬらしい、そう小さく笑おうとしたのだが。実際に返した声音は──真剣な面持ちをした男の、低く掠れたそれとなり。
いつもより大人びた髪形の恋人を熱っぽく見つめ、その前髪を優しく掻き分けてやったが最後。不意に細腕を抱き寄せたかと思うと、店々の隙間の路地裏へ、流れるように連れ込んでしまう。人通りのあるのどかな往来から、ほんの少し横に入っただけのその暗がりは、人目を忍ぶには充分だろう。よって、せっかくのシニョンを崩さぬよう、己の大きな両掌を、彼女の背と柳腰に力強く回しながら。胸の内の熱を伝えるように、普段よりもことさら深く激しく、互いの唇をたっぷりと、夢中で溶け合わせるのだった。)
(──さて、そうやってなんだかんだがっつりといちゃついていれば、あれほど見込んでいたデートの時間は、矢のように過ぎていくものだ。ようやく我に返り、「そろそろ歩き出さないと」と笑い合えば、また仲良く手を繋ぎ、懐かしの商店街をのんびり見て回ることにした。去年は結局、事件後の処理への協力で忙殺され、観光を楽しむ暇などろくにないままグランポートを発っている。故に、何の懸念も責任もなく、元気な体でぶらぶらするだけのことが、もう晴れやかに楽しくて。
釣り道具屋を通り過ぎれば、今まで釣りを楽しんだことはあるかどうかを話し合い。磯料理屋の看板の前でいちいちギデオンが立ち止まり、メニューに真剣に目を通せば、ヴィヴィアンがそれはそれは愉快そうに、ころころと笑い声をあげる。やがて老舗の酒店に辿り着けば、「キングストンに帰ったらどれで晩酌しようか」なんて話しながら、鮭とばやレモラのからすみ、蓑亀の肝の天日干しを買い込んで。「日に干した聖獣の肝は、体にとっても良いんですよ」──ヒーラーらしいコメントをくれたヴィヴィアンが、次の瞬間、魔法薬の材料を並べた店にぱあっと目を輝かせるものだから、くっくっと笑いつつ、お次はその店に立ち寄ろうか。オウムガイの粉末、ユウレイクラゲの毒液、メガロドンに茂った海藻を煮出して作った汁のボトル、数千年以上前の貝や骨が埋まっている海琥珀……どれもこれも素晴らしい品揃えだが、珍しい素材であればあるほど、当然値段は高くなる。財布を握ってうんうん唸るヴィヴィアンに、「この予算の中で好きなものを買うといい」と、敢えて金額を設定することで、逆に遠慮なく買い物ができる取り計らってみれば。彼女は最初こそ、「この簪までいただいてるのに!」と頑なに固辞していたものの。「良い素材が揃えば、俺のために作る魔法薬もそれだけ良いものになるんだろう?」と、ギデオンが甘えてみせれば。もの言いたげなジト目を寄越しつつ、結局そのアイデアには抗えないといった様子で、最後には嬉しそうに籠の中身を厳選していた。
そうして土産袋を手に提げ、海岸沿いのなだらかな帰路を、夕陽を眺めつつのんびり帰って。コテージについてすぐ、もう一度だけキスを惜しむと、「また明日」と別れを告げる。
──その後、ヴィヴィアンのほうはどうだったかわからないが。男部屋に帰還したギデオンのほうはといえば、ジャスパーから開口一番、「訓練合宿中に女連れで一日中ほっつき歩くたぁ、随分良いご身分だなあ??」と嫌味をかまされる羽目になり。……どうやら、本格的な救助訓練をしたり、借り物の船を動かしたりする日だったというのに、例のろくでなしコンビ(言うまでもなくマルセルとフェルディナンドだ)が、また随分やらかしたらしい。席を外してて悪かった、と土産……もとい賄賂の地ビールの瓶を投げ渡せば。「おまえのそういうところがムカつくんだよ!」と唾を飛ばして怒鳴りつつ、ちゃっかり氷結魔法で冷やしてごくごく飲み干すのだから、扱いやすくて助かる男である。そこにデレクやらレオンツィオやらもやってきて、あれやこれやと言い合っているうちに、いつの間にか音もなく現れて全員をビビらせたのは、無論我らがギルマスだ。
「……ノース。今日大目に見た理由は、賢い貴方ならわかっていますね?」。その有無を言わさぬ問いかけに、降参したように無言で頷く。春に遭った例の事件で、ヴィヴィアンが生死の淵をさ迷ってから約2ヵ月。彼女の予後が定かではないからと、未消化の有休を追加で詰め込んだり、自宅でできる書類仕事を優先的に回して貰ったりと、既に随分融通を利かせてくれていた。今回はその最後の羽休みで……この合宿が明けてしまえば、またしばらくの間、この御仁の意のままに動くことになるのだろう。つくづく感謝している上、この先のキャリアの希望も──ヴィヴィアンにはまだ話していないあの件だ──聞いてもらっているだけに、圧を拒めるはずもなく。「……土産です、」と、ジャスパーに渡したそれより随分高級な酒の瓶を、恭しく差し出すことにして。
そうしてまた、ベテラン戦士としての顔で仲間たちの元に戻り。夕食の段取りや明日以降の連絡事項を請け負った後、湯浴みを終えた後ですら、諸々の会議で忙しかったものだから。──弟分の青年、若い弓使いのアランが、連れもなくたったひとり。夜のプライベートビーチではなく、鬱蒼と茂る真っ黒な木立の方へ向かっていることに、ギデオンはついぞ気づかなかった。否、一度だけ、窓の向こうにその影を見かけはしたのだが、その時は何とも思わず見過ごしていた。
思えば、レイケルが着々と根を張っていたこのグランポートにて、かの国の息のかかった者が暗躍しない筈がない。だというのに、その時のギデオンも、ジャスパーも、ギルマスですら。身内の動きを怪しんで疑う者など、この場には誰ひとりとて存在せず。よって、大人しいそばかすの青年の姿は、誰にも見咎められることなく、一晩のあいだ闇の中へと消えていた。それが大きな過ちだったと知るのは……もう少し、後の話だ。)
(さて、翌日。今日は訓練最終日、そして最後の自由時間の日でもある。朝早くから海に入って救助訓練の仕上げを済ませた面々は、昼食がてらグランポートの商店街に出掛け、土産の買い込みや夕食の材料の買い出しを楽しんだ(今夜の晩餐は、ビーチでのバーベキューの予定だ)。ギデオンもヴィヴィアンも、ここの通りは昨夕のうちにふたりで楽しんでいたものだから、仲間のための案内や荷物番、といったサポート役を率先してこなし。そうしてほくほくで帰ってきた面々は、コテージで一休みした後、再び初日の水着に着替え、エメラルドグリーンの海へ大はしゃぎで繰り出した。
が、それは一部の例外を除いての話。珍しくにっこりと笑ったギルマスが、不意に何名かの名を挙げて。何かと思えば、訓練の補修を受けろと無情にも言い渡したのだ。
「おまえたち、今朝のあれを仕上げなどとは言わせません。仲間や友だちと一緒に買い物を楽しんだでしょう? 飴を先にやったのですから、もう一度だけ励みなさい。大丈夫、真剣に取り組んで合格点を取れば、皆のところへ戻る許可をすぐにでも出しますよ」──と。
訓練追加を命じられたのは、例のろくでなし組と、どうしても運動が不得意な事務方数名。また例外的な参加者として、ヴィヴィアンも「できれば流れを掴む程度に」と、参加を促されたらしい。彼女の場合は出来不出来ではなく、そもそも昨日丸一日訓練を休んでいて何も知りようがないのが理由である。……つまるところ、腐っても冒険者なはずのろくでなし組は、不得手だろうと多少は仕方ない一般人、もしくは訓練未受講の後輩と並べられてしまうほど、なんにも身につけちゃいなかったわけだ。
最初こそ魂が抜けたようにがっくり来ていたマルセルとフェルディナンドだが、ヴィヴィアンやエリザベスも同じ補修を受けるとなれば、その蘇りの鮮やかなこと。「ビビちゃん、俺が手取り足取り腰取り教えてやるよ」と無駄に色気たっぷりに抜かしたフェルディナンドは、直後に青い空から訳もなく雷が落ちて、無様に撃沈していたし。やけに凛々しい顔で天を突かんばかりに挙手したマルセルが、「俺! 人工呼吸下手だったんで! 一生懸命補修します!」と高らかに主張した後、「あっでも、昨日の人形はぁ、消防局に返しちゃったしぃ……」とエリザベスをチラチラ見始めるや否や。どこからともなく颯爽と現れたバルガスが、「良かったら俺が付き合いますよ」と、白い歯を見せて笑えば。マルセルはその笑顔を引き攣らせ、「いやっ、い、いいわ……」と、すごすご手を下ろしてしまった。後輩がせっかく申し出てくれたのに何が不満なのだろう、まったく不遜なことである。
そうして、指導側も含め十人程度。岩礁のそばにある穏やかなエリアで、溺れたふりをしたマルセルをフェルディナンドが救助するという、当人ら含め誰もが砂狐顔になる訓練中に──事件は起こった。不意にざざざざ、と不審な音がしたかと思えば。参加者たちの浮いている海面一帯が、突然どっぷんどっぷんと激しく踊りはじめたのだ。
「おわあ!?」「なんだなんだ!?」とあちこちから上がる悲鳴、岩礁から指導の声を飛ばしていたギデオンとジャスパーも思わず同時に立ち上がる。真っ先に飛び込んでいたバルガスは、幼馴染を助けようと力強く泳ぎ出すものの、波の力が強すぎてそちらに近づくこともできない。そうこうするうちに、補修組は皆海上でばらばらになり──ヴィヴィアンとエリザベスに至っては、随分沖まで流されてしまったようだ。「無理に泳ぐな、今助けに行く!」とヴィヴィアンに叫んでから、ギデオンもまた海に飛び込み、荒波を掻き分けてそちらに必死に向かおうとする。だが、他の面々を助けに行ったジャスパー含め、もう少しだけ岩の上から辺りを注意していれば、きっと見落とさなかっただろう。──ヴィヴィアンとエリザベスが流されてしまった方へ、不気味な黒い影が海中を突き進んでいることに。)
559:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-09-06 01:04:14
プ、ポ、ェッ……!?
( 夢のような時間も過ぎ去って、それはまだ唇の触れ合った感触も残る、一人コテージの部屋へ戻ろうとした夜だった。とうとう合宿のあいだ毎晩ここで宴を開いてくれた山賊……もとい、頼りになって美しい先輩方に見つからないよう、そっと寝室へと上がる階段へ向かったつもりが、酔っ払っても冒険者である彼女達の気配に聡いことといったら。サッと背筋を伸ばし表情を取り繕うも一足遅く、フワフワと周囲に花を飛ばした、周囲が照れくさくなるほどの女の顔を見咎められれば、女社会とて追求の手の手厳しいことには変わらない。すわ、いったい訓練をサボった何シてたのかしらぁ。やだわ決まってるじゃない。数日前のアレはなんだったんだ──等々。ベテラン捜査官達の前に、居た堪れない針のむしろに耐えかねて、あっさり今日の全てを自供すれば。次の瞬間「──ははプロポーズじゃん」そんなこれまでのやり取りを、隣で聞くともなしに聞いていたカトリーヌの一言がトドメとなって。口の端から奇声を漏らして首まで真っ赤になったヴィヴィアンは、折角の合宿最後の夜を処理落ち、及び気絶という形で締めくくったのだった。 )
──よろしくお願いします!
( そうして迎えた最終日。──昨晩寝る前の記憶が少々思い出せないのが気になるが──今日も絶好の訓練日和である。昨日のデートはとっても楽しかったものの、1人だけ必要な知識が抜けているという状態は好ましくなく。後からギデオンに聞くつもりでいたところを、こうして実践で補習していただけるなんて有難い!──と、ギルマスの指示に満面の笑みで返したのはまさかの自分だけ。周囲の目が明らかに死んでいることに気がつけば、一瞬遅れてじんわりとした羞恥に小さく縮こまっていたものだから。哀れフェルディナンドは、ビビに相手してもらえるどころか、その存在すら気付かれぬまま、ギデオンの雷撃に熱い砂に沈み込むことになったのだった。
そうして始まった合宿最期の訓練中。突如起こった強い流れに押し流されながらも、初日と違って冷静に周囲を伺えたのは、ここ数日の訓練の賜物に違いない。急な波に身体を強ばらせ、真っ青な顔をしていたエリザベスを何とか宥めると、陸から聞こえたギデオンの叫びに小さく手を振って無事の合図を。──大丈夫、私達は慌てずにゆっくりギデオンさんを待てば良い。冒険者としては少々頼りない判断だが、冷静な状況分析もまた何より大切だ。しかし、「浮いて待て、だね」なんて、習ったばかりのことを和やかに確認し合いながら、波に揺られていた2人と、他の参加者達がいる陸側との間に大きな飛沫が上がったかと思うと。大きな水の壁が2人を覆い隠すかのように立ち上がり、その中からそれはそれは美しい馬が現れて。
──ケルピー……いや、エッへ・ウーシュカ……? ギデオンも初日に言っていた、立派な黒い毛並み、張り付いた海藻、こちらを見て嬉しそうに伸び縮みする体躯は、その特徴で間違いないはずだがしかし、水を操る能力はケルピーじゃ……と、どちらにせよ危険な魔物に、非戦闘員のリズを背後に庇うも。此方の警戒を気にも留めない魔物といったら、呑気に鼻の穴を膨らませながらその顔を此方に寄せてくる始末で。──まだ自分の正体がバレてないと思って媚びているのだろうか。そっと刺激せぬよう上半身を反らせば、やたら満足気な獣臭い鼻息を吹きかけられて、思わずギュッと目を瞑ってしまった瞬間。勢いよく巻き起こったこれまでとは違った種類の水流に翻弄掻き回されて、沈みそうになる頭を必死にあげた瞬間。その立派な鬣があったはずの位置。白い……ここ数日でよく見なれた形状のそれが張り付いてるのを確認した瞬間。ハッと己の胸元を見下ろした隙を突かれ、いつの間にか可憐なセーラーも貼り付けた黒馬は、実に腹の立つ嘶きを上げたかと思うと、あまりのことに呆然と顔を見合わせる娘を残して、意気揚々と水上を走り出して )
な、なんだったの……?
560:
ギデオン・ノース [×]
2023-09-06 22:14:25
(ヴィヴィアンとエリザベスを包み隠すかのような、縦にも横にも広い大波。それはすぐにも、真っ白な飛沫を立てて打ち砕けはしたのだが。高く低く荒れたままの海面により、はぐれてしまったふたりの姿は、依然としてこちらには見えず、救助に向かう男たちの胸を焦燥感でひりひりと焦がす。故に、必死の思いでようやく彼女らのそばに泳ぎ着いたとき、すぐには気づかなかったのだ。)
ヴィヴィアン、無事か!
(開口一番に相手の無事を訊ねれば、一旦周囲を振り返り、こちらに脅威が差し迫っていないかの確認を。──周辺の海上をご機嫌で走り回るのは、やはり例の海洋魔獣、エッヘ・ウーシュカの亜種らしい。トリアイナの言うとおり、人間にちょっかいを出すきらいはあるが、怪我を負わせるほどの害を与えてやろうという悪意までもはないようだ。そうはいっても気は抜けないので、まったく傍迷惑なやつだと、忌々し気に睨みつつ。ひとまず安堵の息を吐きながら振り返り、「とにかく浜に……」戻ろう、と言いかけた、そのときだ。)
…………!?
────わ、るい、っ……
(ただでさえ面積の少なかったそれを、邪悪にも剥ぎ取られた今。目の前の恋人の、縛めから解き放たれた肉感たっぷりの乳色の果実は、あまりに見事に美しい円形を描きながら、青海原にぷかぷかと、蠱惑的に浮かび揺れていた。動物的な反射として自然にそれを見つめてしまったギデオンは、次の瞬間わかりやすいほどぎこちなく動揺し。ばっと口元に手をやりながら、思い切り顔を逸らして。──いや、まさか、違う、大丈夫だ、己は何も見ていない。波が乱れているせいで一瞬淡い飾りまで見てしまっただとか、寧ろ見え隠れするチラリズムめいた様子のせいで余計に煽情的に感じただとか、散々紳士を装ってきた分、あまりに鮮烈に映ったそれを本能的に目に焼き付けてしまっただとか、まさかそんな、神に誓って。……だがしかし、かつて散々女を喰い飽きてきたはずのギデオンの横顔には。エメラルドグリーンの海に映え映えするほど、いつもの涼やかな表情には不似合いな紅が差していて。)
561:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-09-07 10:03:08
ごめ、ごめんなさい、こちらこそ……
( 水着の上衣を盗まれたのを、頭ではきちんと理解していたはずだ。しかし冷静でいたようでいて、大波から開放され、初めて聞いたギデオンの声に深く安心すれば、ほっと油断して恋人兼相棒に腕を伸ばそうとしてしまい、物凄い勢いで顔を逸らしたギデオンに、ハッと豊かなそれを掻き抱いて。爽やかな南国の夏空の下、陸の仲間達や流されたエリザベス達とは離れていると言えど、拓けた海中であっという間に二人だけの世界が出来上がる。──もし見られたのが白く、だが微かに水着の跡を残す丸い双丘だけならば、ギデオンがここまで気まずそうにするはずがない。ということは──と、血液が集まってピンク色になる肌に、益々分かりやすく三角形の跡を分かりやすく浮かび上がらせれば。とにかくまずは気まずい思いをさせてしまったことへの謝罪を。相手は必死に此方を助けに来てくれただけであって、別にこの人に脱がされたわけでも、分かっていてわざと見に来た訳でもない。寧ろ盗まれたことを分かっていて無防備に手を広げた自分が明らかに悪いのだから──「──謝らないでくださいっ! それにギデオンさんなら大丈…………、ちが、……」だから、何故自分はこうも学習しないのか──言うに事欠いて何を言う気か、と口を噤むも。一応、この気まずい空気をどうにかしたかっただけなのだと弁明させて貰いたい。今度は、咄嗟に余計なことしか言わない口を塞ごうとして、ぷるん、と溢れそうになった胸を慌ててかきだけば、ズレた腕の位置が益々際どくなるばかりで。──自ら動けば動くほど悪化する事態に、どうしたものかと立ち尽くした瞬間だった。
改めて今、ビビは深い沖の方でも少しとび出た岩の足場を見つけ、そこに軽く体重を預けている状態だったのだが、ただの偶然かウーシュカの仕業か。これが逆にただ浮いているだけなら良かったものを、なまじ同じ場所に根を張ろうとしていたところへ大きな横波をくらい、一応まだ病み上がりの足元がずるりと滑ってしまったのだ。
──そうして起こったのは、見事なまでの半年前のリプレイ。ぐらりと揺れた上半身は、見事にギデオンの方へと吸い込まれ。身体を支えんと反射で出てしまった腕に、問題の駄肉は綺麗に放り出されて、ギデオンの──実はこの数日、あまりも美しさに直視を避けていた──腹筋の凹凸を掠めた瞬間。あくまで純粋な擽ったさに、んっ……と小さな吐息が漏れてしまい、カッと頭が沸騰する。本当に、どうしてこの人の前だとこうなのか──もうここから消えていなくなってしまいたい……。と、真っ赤になった顔を手で多いながらも、小さな声故に聞こえなかったかもしれないと一縷の望みにかければ。大きな瞳の羞恥の涙を堪えながら、頭上のギデオンを窺って。 )
…………今の。聞こ、ました……?
562:
ギデオン・ノース [×]
2023-09-07 15:09:42
(昨年のグランポートの海上でも、ギデオンの軽々しい謝罪をこうして怒られたことがあった。そう、ヴィヴィアンはいつだって誇り高く、思慮深い女性のはずなのだ。だというのに、いったい何をすれば、またそんな軽率極まりない一言が口から飛び出してしまうのか。反射的に鋭い目でそちらを睨みかけたギデオンは、しかし。海水に瑞々しく濡れ、細腕に柔く歪んだ巨桃をはたと見つめてしまうなり。再びぎゅんと、先ほどとは反対の方向へ、露骨に目を逸らす有様で。
──冷静な判断が遅れたのは、たぶん、おそらく、そのせいだ。不意にざあっと押し寄せる波、ヴィヴィアンの小さな悲鳴が上がったかと思えば、その体が傾ぐ気配を感じて。咄嗟に振り返ったギデオンが、同じ岩の上に乗りあげて相手を支えようとしたのも、そう、致し方のない話。──気づけば、いつぞやの冬と違って布一枚すら隔てていないすべらかな柔肉が、同じく素肌を晒しているギデオンの固い胴に、たゆんと無防備に押し当てられ。羞恥のせいでかえって起こってしまったらしい何かしらが、逆に思わせぶりなほど軽く擦りつけられた感触に──堪えきれずに漏れ出たらしい、持ち主の艶やかな、聞き逃せるはずもない吐息。相手を支えるべくその薄い肩を掴んでいたギデオンの掌は、一瞬不自然に固く強張り。そうして、思わず中空に目をやったまま、完全に思考停止状態で見事なフリーズを晒していれば。恥ずかしさに顔を覆い隠していた恋人が、きゅっと揃った白魚の指の下から、真っ赤な顔と潤んだ瞳で、おずおずと上目遣いに見上げてくるのだ。──耐えきれるわけが、ないだろう。)
──……いいや。
なんにも………聞いちゃいない…………
(苦し気に絞り出したのは、言葉の上こそ否定ではあるものの、どこをどう聞いてもその裏返しを意味しているのを隠しきれていない声音。眉間に皴を寄せて目を閉じる、苛立ちを耐え忍ぶようなその表情に至っては、もしや相手にも見覚えがあるのではなかろうか。──そこに突然、再び押し寄せた強い波が、戦士の体幹をぐらつかせてヴィヴィアンと密着させてくるとなれば、これはもう、何かしらの超法規的作為が働いていると恨むほかあるまい。「────ッ」と、声にならない呻き声をあげるなり、飛沫を立てて距離を取るものの、無論とうに手遅れで。ろくに相手の顔を見られず、ざばっと音を立てて大きな背中を向けてしまうと。骨ばった片手で顔を覆い隠しながら──こんな醜態時でも見目だけは優れているので、やたら様にはなっているのが滑稽だ──、絶望感に打ちひしがれた声で、聞き苦しい言い訳を。)
…………、言っただろう。
欲は……あるんだ……それなりに…………
563:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-09-08 15:09:53
ギデオンさん、危ない……!
( 再度訪れた強い波に、今度はギデオンの身体が此方に傾く。物理的に手が塞がっている状態で、避けるも避けるも上手くいかずに。ぷちゅ、と太い鎖骨に濡れた唇が触れ、分厚い胸板に押し付けられて再度歪む柔肌に、しかし最早、それに注目する余裕さえなかったのは、華奢な腰骨に押し付けられた感触のせいだ。実際に触れ合っていたのは、ビビがその正体に気付くより余程短い約1秒にも満たないほんの一瞬。しかし、ギデオンの苦しそうな、見覚えのある表情に遅れて真実に気がつけば、今度はビビが硬直する番で。「~~~ッ」と、此方も声にならない悲鳴をあげながら、火照る顔に勢いよく海水を叩きつけ。うねった前髪からポタポタと水滴を零しながら、絶望に満ちたギデオンの声に、流石に申し訳なさが胃の底をつく。そもそも自分がこの人に応えられれば解決するものを──せめて今自分が出来ることを、と。許可を得るまでは触れないものの──項垂れた男の背後、お互いの体温が感じられる程の距離へそっと近寄り。相手を安心させるような掠れた低い声で。相手のありのままの現状を急かさず受け入れる発言──つまり、自分が恋人にされて嬉しかった対応で、とうとう愛しい恋人へ知らぬうちにトドメを刺しかけたのと。閑話休題。この状況の元凶たるエッへ・ウーシュカ。彼が、自分でその原因を作り出した癖をして、目当ての美女たちが他の男といちゃつき出したことへ不満抱いて、その雰囲気をぶち壊す下品な声で嘶いたのは、どちらが早かっただろうか。 )
──……ええ。辛い思いをさせてごめんなさい。
でも、私のためにって思ったら……嬉しくて。もっともっと大好きになっちゃいました。
えっと。その、まだ……最後まではちょっと怖いですけど、私に出来ることがあったら。教えてください、ギデオンさんのために頑張りたいんです……!
564:
ギデオン・ノース [×]
2023-09-08 23:47:45
(ギデオンにそっと話しかけるヴィヴィアンの声に滲むのは、嫌悪でも羞恥でもなく。こちらの身を案じるような、静かで優しい思いやり──とすら、とても呼べない代物だった。ギデオンは彼女に背中を向けたまま、途中までなら、じっと黙って聞いていたのだが。可愛らしい恋人の発言が、愚昧なほど頓珍漢な方向へすっ転び始めれば。正直そうなる展開を予感してはいたものの、それでも二、三度、びしりびしりと、その彫刻のように逞しい後姿を、あからさまに強張らせて。
自分のためにそうなったと思うと嬉しい? 俺のために頑張りたいから、自分にできることを教えてほしい? けれど最後は……肝心要の部分については、トラウマがあってまだ怖い? おまえは──おまえは、本当に、何ひとつ、わかっちゃいない……! 正直にぶちまければ、今すぐ彼女をどこかに連れ込んで、この煮えるような苛立ちを、胎の奥どころか骨の髄まで叩きつけてやりたいほどだ。そんな乱暴なわからせ方を選ばずとも、いい加減に学んでくれ、と本気で怒鳴りたくはあるのだが、しかしもちろん、本当にそうするつもりなどなかった。見ての通り、恋人のヴィヴィアンには、しっかりがっつり浅ましい欲を抱いてはいる。しかしそれ以上に、彼女の心からの信頼や安心こそ、ギデオン自身が最も欲してやまないものだ。一時の欲や怒りなんぞに呑まれたせいで、それをみすみす損なってなるものか。しかし、それを踏まえるならなおのこと、おまえの相手は聖人君子ではないのだと、そろそろ真面目に教えねばならないだろうか。しかし、それはまた後で……きちんとゆっくり話ができる状況になってから、落ち着いてするべきだろう。そう冷静に答えを出すと、盛大な溜息をひとつ。険しい眉間を強い指圧で揉みほぐしながら、こめかみにびきびきと浮かんでいた青筋を鎮め。「……、その話なんだが。とりあえず、まずは浜に戻って──」と、疲れた顔で相手を振り返った、その時だ。
語弊しかないタイミングで続きの言葉を切ったのは、この珍妙極まりない状況の原因こと……悪戯もののエッヘ・ウーシュカが、こちらに猛然と駆けてきたせいである。ブルヒン、ブルヒン、ブルヒヒヒンと、いやにうるさい嘶きを撒き散らしながらやってきた黒い馬は、まずはギデオンをじろりと一瞥。「ケッ」とでも言うような、いつぞやの齧歯類よろしくイラっと来る顔を向けてきやがったかと思うと、今度はあからさまに一変。ヴィヴィアンの方に向き直るなり、きゅるんと愛らしい、まるで従順な家畜の如き、白々しい表情を浮かべ。不意に長い首をふるったかと思うと、その口にはいつの間にやら、見覚えのある白い布切れを食んでいる有り様だ。ヴィヴィアンが気づきの声を上げるのと、全てを察したギデオンがその表情を完全に消し去ったのとは、ほとんど同時。相手がその細腕を伸ばして取ろうとしたとて、無駄に知能のある魔獣はその首を後ろにそらし、「そう簡単には返さないよぉ~~~ん!」とでも言うようなにんまり顔で、彼女を見下ろすことだろう──だがしかし。「あっ」とでもいうように、その目が丸く見開かれ、歯茎を向いた汚い笑顔ががちんと凍りついたのは。お目当ての可憐な娘の背後、沸々とどす黒いオーラを立ち昇らせる、凄まじい修羅に射竦められたからだ。「……ヴィヴィアン、」と、恐ろしく低い声で話しかけたその男は、自分の羽織っていたボタンのない白いシャツを、後ろから相手にそっとかけ。そのままざぶざぶと岩棚の上を歩きながら、今までにない戦士の背中を相手に見せることだろう。)
俺から離れて、浜に上がれ。
すぐに──こいつを──片付ける。
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