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Petunia 〆/854


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自分のトピックを作る
505: ギデオン・ノース [×]
2023-07-21 04:59:17




……、

(ようやく知った全ては、ギデオンの目を愕然と開かせるものだった。自分がヴィヴィアンの愛情深さを見誤ったために、彼女はあろうことか、自分自身の命さえ犠牲にしようとしていたというのだ。だが同時に、あの戦いの成り行きに得心がいくところもあった。あのとき、自分を殺しかけたヘレナが自爆したのは、ヴィヴィアンとの契約内容に違反した悪魔の宿命によるものだった……つまり。巡り巡って、やはりヴィヴィアンこそ、ヘレナとの因縁の戦いに勝利をもたらす鍵だった。ヴィヴィアンがいなければ、そして戻ってきていなければ、ギデオンは今ここにいない。一度きりでなく、幾度もの場面で、彼女に命を救われていたのだ。
そんな相手に、何を馬鹿なことをだの、無謀にも程があるだの、見当違いの説教なんぞをかませるはずがあるだろうか。故に、咄嗟に沸いていた言葉や感情を呑み込むように項垂れて──それでも、緩く重ねたままの手は、指の腹で彼女のそれを愛しむように撫で続け。そこに不意に向けられた言葉、“事の次第では二度目も有り得る”と開き直る声に、思わず青い視線を上げると。今にも眠り込みそうながらも、穏やかに譲らぬ表情を読み取り……この決意は絶対に覆せない、と悟ったその途端。負けた、とでもいうように、ギデオンの顔が鈍く歪んで。身体を屈め、相手に耳打ちするように自分の顔を近づけると。ふたりにしか聞き取れないほど小さな掠れ声で、辛さの滲む微かな吐息を交えながら囁き。)

…………。おまえは、俺が好きなんだろう。
俺に二度と会えなくなるような真似は、もう絶対にしないでくれ。俺もしないから……





506: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-07-23 03:27:12




……うん、大好き。約束ですよ。

 ( 静かな治療室に、ギデオンの衣擦れの音がやけに大きく響いた。苦しそうに顔を歪めた相棒の、最後の一言を聞いた時、思わぬ距離感にどぎまぎと固まっていたビビの表情が、それはそれは満足気に綻び、やがて穏やかな吐息となって沈黙に溶ける。グランポートの海上から約11ヶ月──身を削るような生き方をするギデオンと、それに難色を示すヴィヴィアンの攻防が、ヴィヴィアンの勝利で終わった、勝鬨の笑みだった。 )

 ( そうして、ギデオンに見守られ、再度深い眠りに落ちていったビビが、次に目覚めたのは翌日の夕方。元から人一倍魔力の生産が盛んな身体は、一度目覚めて以降、目覚しい程の回復を見せて。時折、回復量に耐えきれなかった魔力弁から、発作のような魔力漏れを起こすことも度々あれど。一足早く相棒が退院する頃には、その回数もめっきり減って、予定よりも早く、高度治療室から普通の病室へ移れることになったのだった。
更に、良い事というのは続くもので。その報せを持ってきた小児科の医師曰く、──ヘレナの呪いに侵されたビビの魔髄には、13年前、同じ悪魔に呪われた少年達に適応し、その回復を早める力が見込めるのだと。最終的には、事件前と遜色のない生活を望めると言う夢の様な話に──これが本当ならば、少年達やその家族はもとより、あの責任感が強い相棒がどれだけ喜ぶだろうかと。不純にも、世界で一番大切な相手の笑顔を想像した瞬間。具体的な流れや日程を聞くより前に、一も二もなく女医の手を取らずにはいられなかった。
それから初めての、ギデオンが見舞いに来る予定の日。何度も何度も鏡を確認しては、その幸運を早く相棒に伝えたくて、ベッドの上でソワソワと落ち着かずにいた。──ああ、早くギデオンさんにも伝えてあげたい。あ、でももしかしたら、病院に着いた時点で、先に彼らの病室に寄って、自分で情報を得てくるかもしれない。どちらにしたって、責任感の強い相棒にとって、これ以上なく幸福な報せとなるはずだ。初夏の陽気が差し込む病室ベッドの上、大好きなギデオンが喜ぶ表情を想像しては、緩む頬を抑えて。そうでなくとも、リズやバルガスが見舞いに来てくれた時の話だとか、何故か看護婦がギデオンのことを彼氏だと勘違いしている話だとか、話したいことはこれでもかとあるのだ。今すぐベッドを飛び降りて、ギデオンを迎えに行きたくなる程までに、今か今かと逸る気持ちを抑えるべく、読み始めた本に視線を埋めれば。肝心な相棒が来る頃には、つい集中し始めた真剣な横顔で出迎えることとなって。 )

──……、




507: ギデオン・ノース [×]
2023-07-23 16:25:59




(安堵の笑顔を綻ばせてからすやりと寝入った相棒に、ギデオンもふっと小さく笑みを零し。「おやすみ」と囁きながら、そっと額にキスを落とす。少しでも休まるように、回復するように……そんな祈りを抱いて自然にとった仕草だったが。もしかすればそれは、他でもない相手から移されたのかもしれなかった。

──さて、それから三、四日の後。魔力の自己生産量ではヴィヴィアンに大きく劣るものの、彼女ほど深刻な損傷にさらされていなかったギデオンは、彼女より先に無事退院し、今回の事件の処理に奔走することになった。この1週間ほども行っていたカレトヴルッフへの再三の報告に、祓魔師協会との面会、例の森での事後検証、掻き上げなければならない書類エトセトラエトセトラ。本来なら祓魔師たちに祓われるはずのアーロンが、この時まで拘束されていたのは、その過程で厳重な確認を行うためだ。ギデオンとヴィヴィアンにどこまでの被害があったか、そもそも何故襲われたのか。主犯たるヘレナが、再び今回のような事件を引き起こす恐れはないか。
昔可愛がっていた後輩が、夢魔を誑かした代償として、悪魔に成り果てていたと知り……ドニーは酷く複雑な顔をしていた。アーロンは元人間ということもあり、全面的に協力してくれるが、それでも祓魔師である彼は、やがてアーロンを処刑せねばならない。
──ギデオンとヴィヴィアンを脅かした悪魔ヘレナの、復活の可能性について。キングストンにある祓魔師協会の聖堂にて、魔法の鎖に巻かれても尚けろりとしているアーロン曰く。少なくとも、今すぐということは絶対にないらしい。ヴィヴィアンの聖の魔素に消し飛ばされたヘレナは、それでも魂の大部分が地獄に引き戻されただけで、力を取り戻せば復活し得るが。聖なる力に灼かれた傷を回復するのには、やはり長い時間を要するそうだ。だが、ひとたび地上に戻れるようになったなら──この触媒を座標にするだろう、とアーロンは“それ”を皆に見せた。ヘレナがアーロンに突き刺して遺した、五つの黒い、禍々しい爪だ。
この爪は不気味なことに、焼いても潰しても、埋めても砕いても、またいつのまにかひとりでに、無事な状態で復元される性質を持っていた。プロの祓魔師たちがよってたかって聖魔法をぶち込んでも蘇ってしまうのだから、間違いなく特級呪物だろう。いっそ本部の地下聖堂で厳重に封印すればいい、という意見に、しかしアーロンはかぶりを振った。あの女の執着はそう簡単に制御できない。ならば目には目を、歯には歯を。悪魔の自分に託して貰えれば、人間ではたどり着けない魔境にでも赴いて、こいつを完全消滅させる方法をきっと探しだしてみせるよ……と。
呪いの爪を持ち出して自由になるというのか──そうは問屋が卸さない、と、ドニーを除く祓魔師たちが剣呑な空気を発し。アーロンもまた、かかっていたはずの魔法の拘束をあっさりと破り捨てて、周囲の緊張感を一気に高める。そこで彼はふと、事態を静観するギデオンを振り返った。──なあ、ギデオン。おまえも知ってると思うけど、僕は結構人の心がないし、今は実際、ほんとに人間じゃなくなってるんだよな。だから、僕を消す気のこいつらを、ここで今、正当防衛の名のもとに呪い殺すこともできるんだけど。──それはやっぱり、駄目だもんな。
ああ、と落ち着き払って答えた。おまえは悪魔になったって、俺との約束で、二度と人の道を外れたりしないんだ。……こういう危ういやりとりは、実は若い頃にさえ、何度か交わしたことがある。そしてそのたびにアーロンは、何故かギデオンの言うことにだけは、真剣に耳を傾けるのだ。
そうだよな、じゃあまたいつか会いに来るよ。あの子のこと、そのときにゆっくり紹介してくれよな! そう言い残すなり、派手な目晦ましの魔法を一発ぶちかまして……アーロンは、忽然と消えた。ヘレナの依り代たる、あの呪いの爪とともに。
……あと、どうやってか知らないが、余計な声だけは随分と残していった。アーロンはこの数日のうちに、実は何度も祓魔師どもの目を盗んで外に繰り出し、彼らの妻たちと“夜遊び”に興じたらしい。奥さんたち、あんたらが仕事ばっかで構ってくれないって、熟れた身体を疼かせてたぜ。可哀想な話だよな! あ、あと、そこのあんたの奥さんはそっちの祓魔師と懇ろだし、そこのあんたの相棒も、あんたの妹とダブル不倫中だ。僕を追いかけてる場合じゃないんじゃないか? ま、とりあえずご馳走様!
あらゆる意味で虚仮にされた祓魔師たちは、それはもうカンカンであった。「何しやがったんだテメェ!?」と互いに胸ぐらを掴む者、一方的に蹴られながらも縮こまってやり返さぬ者、真っ赤な顔でアーロンを探し回り、本当にどこかへ逃げ去ったらしいと見れば、今度は大騒ぎしながらギデオンに詰め寄ってくる者。しかしギデオンとて、親友がいきなり飛んだ先を知っているわけもない。「手助けなんかしちゃいないし、これからもするつもりはない。追いかけて好きにぶん殴れ」と、首を横に振るだけだ。──あいつは昔からそうだ、人を引っ掻き回して、ぐちゃぐちゃにして残していく。だが今回は、ヘレナを完全に滅ぼすという正しい目的のために動いてくれるのだろう。祓魔師たちへの悪行は完全に嫌がらせだが……まあ、そうそう人の道に外れたこともするまい。自分とそう約束したのだ。
ふとドニーと目が合う。禿げた小男は、激高する祓魔師仲間たちを横目に、(あいつ、人間やめたってのにクソガキのままでいやがって……)と、困ったように天を仰いでいた。だがその、悪魔を取り逃がした祓魔師にあるまじき、心底ほっとしたような表情が──ギデオンも、嬉しかった。)

(そうして、事件の後始末をあらかた見届けたアーロンが、さらっと高飛びした翌日のこと。ギデオンは数日ぶりに、馬車で6時間の道を乗り継いで、聖バジリオを訪れた。左手には、『オ・フィール・デ・セゾン』の焼き菓子が入った幾つかの紙袋。そして右手には、薄桃色の八重咲のペチュニアでつくられたプリザーブドフラワーがふんわり詰め込まれたバスケット。病院のすぐ外の花屋で見かけ、まだ暫くは検査入院が必要なヴィヴィアンに……と買ってきたものだ。
面会カードを取るとき、受付にいたのはふたりの女性だった。やけに不機嫌そうな様子で伝票処理をしている他方とは反対に、ギデオンを出迎えた受付担当者は、これまたやけににこやかで。「きっと素敵なニュースがありますよ。あの子たちは今ご家族が面会中ですし、先に彼女さんの方に会いに行かれては?」と、堪えきれない様子で匂わせられれば、「??」と首を傾げつつ、入院棟の階段を上がったのだが。
ヴィヴィアンの病室に着くころには、そんな些細な疑問などすっかり忘れていて。顔を見られることに既に表情を緩めながら、扉を小さくノックする。が、返事がない。おかしい、今日この時間帯に来ることは伝えてあるはずだが……と首を傾げながら、「入るぞ」と開けてみれば。明るい陽射しが差し込む真っ白な病室の中──ベッドの上の相棒は、すっかり良くなったと見える体を起こし、妙に真剣な表情で……一心に読書に没頭している様子だ。一瞬ぽかんとした後、耐えかねたように小さく吹き出しながら歩み寄り。声をかけつつ、土産の花籠や甘く香る紙袋を小棚に置くと。見舞客用の丸椅子をベッド脇に引き寄せてから、相手の隣に腰を落ち着け。)

相変わらず熱心だな。何を読んでるんだ?






508: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-07-25 02:35:21




──ギデオンさん、こんにちは!
この本は……ふふふ、

 ( 白い肌に薄く散りばめられた星屑と、つんと尖った桃色の唇。普段は燦然と煌めく大きな瞳が、手元の本に向けられた静謐な表情は、しかしギデオンの声に気づいた途端吹き飛んで。少し気恥しそうな、しかし、相手に会えたことが嬉しくて堪らないといった眩しい笑顔が満面に綻ぶ。「わあ、可愛いお花。ありがとうございます!」なんて軽く手を叩きながら、これからする真剣な話題に、居住まいを正し表情筋を引き締めようとするも。これ以上なく幸福な報告に、自然と頬が緩んで、ギデオンの顔を見るだけで、堪えきれない笑みが口の端から漏れ出す始末で。そうして、当初想定していた真面目な雰囲気での報告を早々に諦め。ギデオンの肩そっとへ、その形の良い頭を自然に預ければ、ギデオンも言及した手元の鈍器……及び、『人体における魔素の機能と魔学註解』から取り出したのは、ビビの署名が成された魔髄提供の同意書で。)

この前、ギデオンさんが言ってた子達がいるでしょう?
その子たちの回復に、私の魔髄が役に立つって教えて貰ったんです。

 ( 同意書に記された手術の日程は、今日の二日前。そのやたら仰々しい文体のそれをぺらりとギデオンに握らせ。相棒がそれに目を通している間に、二人分のお茶を入れようと、ベッドの脇の戸棚にぷるぷると手を伸ばしたその瞬間だった。窓の外から聞こえてきたのは、それはそれは楽しそうな甲高い少年の笑い声。タイミングの良いそれに、にんまりと笑って、相棒を振り返ると。そのほっそりとした白い足を、徐ろにベッドからサンダルにつっかけ、愛しい相棒にその奇跡的な光景を見せてやるべく、窓に向かってふらふらと立ち上がろうとして。 )

……ね、今の声、聞こえました?




509: ギデオン・ノース [×]
2023-07-26 17:25:57




(優しくもたれかかってきたぬくい頭の感触に、一瞬視線が中空でたじろぐ。……自分のほうは意識のない彼女にこれまで散々してきたくせに、相手からの似たような触れ合いは、全く予想だにしていなかったらしい。否、これまでもボディタッチなら幾らでもされてきたはずだが──あれらとは、どこか違うような。と、その端整な見てくれに似合わず、丸椅子の上で若干挙動不審になっていたギデオンだが。目の前に取り出された文書に、ふと顔色が、真面目なそれに切り替わり。「──…………、」と無言のまま受け取ったそれを、ただ黙って読むうちに……その薄青い瞳が、少しずつ大きく見開かれていく。
針金で綴じられたそれは、複数枚から成る書類だった。いちばん上は同意書そのもので、ヴィヴィアンの氏名・署名、住所といったもののほかに、手術名や目的、麻酔の方法が記されている。しかし詳細を求めて頁を捲ると、そこから先は、今回の手術がどのように役立つかの具体的な説明書きが為されていた。──悪魔の呪いにかかって尚回復力の高い人間が、特別な魔素を自身で生成できるうちに、その貴重な魔髄の一部を提供する。魔法医はその魔髄を培養し、的確な技術と魔法術式をもって、他の被害者に植え付ける。そうすると、本来完全寛解に届かないはずの人々さえも、呪いの後遺症から完全に解き放たれる、という話のようだ。技術が発展途上であることから、今はまだ、同一の悪魔に汚染された者同士でしか移植ができないようだが……ヴィヴィアンと同じ悪魔に呪われた被害者といえば、13年前のあの子どもたちしかない。それはつまり……つまり。
思わず顔を上げたのと、窓の外から明るい笑い声が聞こえてきたのは。ほとんど同時だった。満面の笑みを浮かべて振り返る相棒に、まだ何も返せぬまま、ギデオンも静かに立ち上がると。まだ足元の覚束ない相手の隣まで歩み寄り、その肩を緩く抱いて支え、彼女と一緒に白い紗のカーテンを捲って、窓枠の向こうを眺める。──そこは、中央の東屋によって一帯に聖属性の守りを張った、入院患者のためののどかな中庭らしかった。一面にそよぐその青い芝生の上を、3人の少年たちが……かつてギデオンが何度も何度も見舞った子たちが、面白そうに笑い転げながら、元気いっぱいに駆け回っている。まだ足取りは多少たどたどしいものの、走るのがとにかく気持ちよくてたまらないといった様子で……生命の歓びを、全身に躍り上がらせている。傍に控えている看護婦や家族たちも、いざというとき駆けつけられるように構えてこそいれど、心配して止めるような様子は見られない。ただにっこりと、子どもたちの元気なさまを思い思いに見守るのみだ。──だが、だがあの子たちは。ついに目覚め、駆けつけた家族だけでなく病院皆に祝われてからの数日でさえ、まだ病室の外へも出て行けなかった筈。あんなふうに、この13年の昏睡がなかったかのように駆け回るなど……まだ遠い夢の話だったはずなのだ。
息を震わせたギデオンが、眩しい戸外からすぐ隣を振り返り。その青い目を細めて、「ヴィヴィアン……」と名を呼んだのは何も、見かけの表情通り、苦しいからというのではなかった。──こんな、こんな。こんな本物の奇跡のような話が、本当にあって良いのだろうか。ヴィヴィアンがそこにいた、たったそれだけで……彼女のあらゆる献身のおかげで。自分やアーロン、あの子たちやその家族でさえ。皆が……皆が、本当に救われた。こんな、こんな幸せな結末が、本当に与えられて良いのか。本当に、何もかも──ヴィヴィアンに与えられて。俯いた顔を思わず、額を合わせるようにして擦り寄せると。視線を真下に落としたまま、小さな小さな声を絞り出して。)

俺は……俺は、お前に……感謝しても、しきれない……






510: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-07-27 23:50:45



…………、

 ( 肩を寄せあって歩く、冒険者らしい佇まいの男と、薄花色の入院着を纏った女。果たして、ベッドから窓までのその短い距離の間、相手を支えて歩いていたのはどちらの方だったのか。振り返った相棒のその表情の意味を分かってはいても、その色鮮やかな幸福の光が、これまでのギデオンの苦難の影をより濃く映し出すようでもあって。その俯いた頬にそっと手を伸ばし、窓の外と同じ色をした新緑の瞳を穏やかに細めると、その強ばった表情を溶かすかのように包み込む。──これで、この人の荷を少しでも下ろすことが出来ただろうか。陽の光が差し込む暖かな病室に二人、ゆるゆると降りてきて、首筋に埋まるかと思った顔が、鼻先が触れ合いそうな距離でぴたりと止まり、至近距離から向けられる真っ直ぐな瞳に、ぶわりと体温が上がる。しかし、そんな僅かな緊張も、相手の零した小さな声を聞いた途端、呆れたような笑みとなって溶け出して。──本当に、仕方ないなぁ、と。この期に及んで、まだそんなことを言う相棒の頬を優しく擦れば。一瞬前の恥じらいは何処へやら、大好きな青を真っ直ぐに見つめ返しながら、はっきりと口にしたのは、13年越しに依頼を達成した相手への労いで。 )

……あの子達が今生きてるのはギデオンさんのおかげで、呪いを解いたのはアーロンさんでしょう?
私は後から、ほんの少しだけお手伝いしただけで──あの子たちを救ったのは、ギデオンさんとアーロンさんのおふたりです。
本当に、お疲れ様でした。




511: ギデオン・ノース [×]
2023-07-28 12:18:49




…………

(“ほんの少しのお手伝い”ではきかないほど沢山助けられただとか、自分とアーロンだけでは絶対に生還できなかったろうだとか。言いたい返事は山ほどあるはずなのだが。ヴィヴィアンの手つきと言葉に、己の全てが優しく蕩かされていくようで。宥められたそのままに、何も言わず目を閉ざし、ヴィヴィアンの前で息を深く吸って吐き。己の頬に寄り添う彼女の手に、己の武骨な手を外側から緩く重ね。そうして、顔を僅かに横に向け、相手の掌の内側に、己の唇をそっと押し当てながら……与えられる優しい労わりを、ただ静かに享受する。
──そうだ、終わった。終わったのだ。子どもたちの予後は、これからも長く見守るにせよ……13年間の贖罪の夜は、ようやく明けた。ここに居るヴィヴィアンが、たった今、そう教えてくれた。……自分は役目を果たせた。きちんと、やり遂げられたのだ。
次にギデオンが目を開けて、彼女に顔を戻したとき。その薄青い瞳の奥には、何か新しい、明るい光が、静かに、しかしきらきらと、ちらつきはじめているだろう。彼女の片手に添えていた手をふと伸ばし、その形の良い頭に置くと。“あの時のように”二、三撫ながら、穏やかに微笑みかけて。)

……なあ、ヴィヴィアン。覚えてるか。
初めてふたりでクエストに出て、ワーウルフ狩りをしたあの夜……あれから、ちょうど1年だな。





512: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-07-30 10:27:37




……ッ、

 ( 覚えていない訳がない、忘れられる筈がない。それは他でもない、ヴィヴィアンがギデオンを好きで、大好きでたまらなくなった最初の夜だ。今でもその気持ちは薄れるどころか、日増しに強くなるばかりで、しろと言われれば今すぐにでも、この場で誰にも負けない熱烈な愛を語れる程だというのに。目の前で開かれたギデオンの目が、始めて見るほど美しくて、穏やかな微笑みが酷く心臓に悪かったものだから、どうしようもなく一瞬押し黙ってしまう。
それに──嗚呼違う、落ち着かなければ。この人が言っているのは、共にワーウルフを倒したかの夜のことで……この優しい大好きな手が、ビビの頭を"二、三撫で"てくれた、初めてギデオンに迫ったあの夜の事じゃない。今回の件もシルクタウンの件も、どちらも気の毒な被害者がいる深刻な被害で、そうでなくとも13年の呪縛から解かれたばかりの相手に、身勝手に湧き上がるこの期待をぶつけてはいけない。……その覚悟を目の前で決めているのだ、それこそ一年間隣にいてくれた相棒にはバレバレかもしれないが、それでも高鳴る心臓を押さえつけ、一度ぎゅっと目を閉じたかと思うと、緩みそうになる表情をなんとか引き締めて、"良い相棒"の顔を用意すれば。いつもの純粋な好意だけが、爽やかに滲む声でなんとか返事を絞り出して。 )

え……ええ、あの夜のギデオンさん、すっごく格好良かったですから!




513: ギデオン・ノース [×]
2023-07-30 13:38:43




(目の前でパニックを起こす娘の、なんとわかりやすいこと。一瞬どうしようもなく情熱が込み上げて、かと思えばこちらにぽうっと見惚れて。そこから理性を取り戻そうと、必死に思考を巡らせながら、自制心を取り繕って。──ああ、これはたぶん、まだわかってないな、と淡く微笑む。或いは、こちらの急な変化が理解できずに、必死に辻褄合わせをしようとしてくれているのかもしれない。けれど、相手のそんな殊勝な心掛けは、これからは必要ない。相手の熱は……こちらも望んでいるものだ。
故に。「そうか」と言って、思わずくつくつと喉を鳴らしながら。手を僅かに下ろしたそのままに、彼女の柔らかな桃色の耳朶を、愛情を込めて軽くくすぐった。相手がどう反応するにせよ、これで目と目が合ったなら、そこに浮かぶ“相棒”らしからぬ色合いで、少しは伝わるだろうか。今度はその手を、すべらかな頬に……小さな顔を包むように添え。親指の腹で目元を撫でつつ、少し面を上げさせると、大きな瞳を覗き込んで。)

あの日の俺がそうだったなら、お前は、そうだな……一生懸命だったな。
町の人たちをあれもこれも治しまくって、あちこちにたくさん花を咲かせて。
夜更けの宴じゃ、ワイン一杯で真っ赤になって。それで、それから──……

(そうしてあの日の思い出を、ひとつひとつ。低い掠れ声で、けれども少々の笑みを滲ませて、意地悪く辿っっていった末に。ヴィヴィアンが初めて、唐突に迫ってきたあの瞬間を仄めかすころには、愉快気な気配などとうに消え失せていた。
そうだ、あの日の翌日──キングストンへ、同じ馬車に乗り込んで帰る頃。相手は前の晩の記憶を、アルコールで消し飛ばしたりはしていなかった。それどころか、諦め悪くギデオンに言い募って……そこからすべてが始まったのだ。
そう思い出した途端、ギデオンの薄青い瞳は、ただ静かな熱を帯び、相手の視線を縫い留めて。そっと顔を寄せたかと思えば、吐息交じりに一度……別の台詞を重ねながら尋ね。)

──……
責任を、取っていいか。





514: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-01 03:43:25




っひぅ、……!

 ( もしこのまま、甘やかな触れ合いを続けられていたならば、胸の奥で膨れ上がった期待を宥めるのはさぞ難しかったことだろう。そう離れていく手を名残惜しく、少し残念に思いながらも、密かにほっと安心していたのも束の間。戯れに耳を擽った指に、思わず小さく声が漏れ、顔を真っ赤にして両手で口元を抑え込めば。相棒の瞳に滲む色に、ますます体温は上がるばかりで。そうして、どうしようもない期待にドキドキと高鳴る心臓を押さえつけ、「……ギデオンさ、」と小さく言い募ろうとしたその瞬間。顔を包んだ手が大きく温かい一方で、継がれた物言いの意地悪さといったら。 )

──ちょっと、!

 ( ──狡い。真っ赤なビビを見下ろし、愉快そうに目を細める相棒に怒りの鉄槌を下そうと。力強く見上げた相棒の瞳は既に、これ以上なく真剣な色に染まっているのだから。言いたかった言葉は全て、行き場の失った拳と共に、ゆるゆると虚空を彷徨うしかなく。ギデオンの熱い視線に絡め取られて、潤んだ瞳をそらすこともままならない。この時には、ギデオンが紡ごうとしている言葉の意味にも、ようやっと気がついて、自分の心臓の音で鼓膜が破れそうだった。それでも、病院着の背中をしゃんと伸ばして、ギデオンの言葉を受け取れば──「イヤ、です」と、真っ直ぐな瞳をした娘は、赤い頬を小さく膨らませて見せる。勿論、"責任とってください!"そう自分から迫ったことを忘れたわけじゃない。しかし、ヴィヴィアンはこの気持ちの責任を、既に自分で取れるようになってしまった。建国祭で宣言して、聖夜の小屋で約束したように、この先一生ギデオンが応えてくれなくても、この先自分はずっと待ち続けられるだろう。何より、ギデオンへのこの大切な想いは、ギデオン本人にだって譲れない、ビビの宝物だ。それに、この一年間。此方は何度も何度もその想いを伝えてきたと言うのに、その言葉だけで察しろなんて、それは少し卑怯じゃなかろうか。するりと相手の首に手を回したビビの表情に、先程までの困惑は既になく。寄せられたギデオンの影の下、強欲な光を称えた瞳がらんらんと綺麗な弧を描いていた。 )

──……責任は、取らせてあげない。
だからちゃんと……ちゃんと、貴方の気持ちを聞かせてください。ギデオンさん。
……我儘、聞いてくれるんでしょう?




515: ギデオン・ノース [×]
2023-08-02 00:13:41




(吐息のかかる距離で真剣に乞えば、きっと“それ”を許される。ギデオンのそんな甘い考えは、しかしヴィヴィアンのこれ以上なく簡素な一言で、いとも呆気なく爆散した。コンマ数秒遅れて理解すれば、年嵩の美丈夫の、常に冷静を気取りがちな顔には、(……!?)と、あからさまに虚を突かれた間抜け面がありありと。──いや、今の流れじゃ、しかし何故、何が……と、軽く目を瞬きながら。近かった距離を少し戻して、相手をよくよく見下ろせば。こちらをまっすぐ見上げる小顔は、相変わらず愛らしいままだが……見違えようもなくご立腹である。
相手のその反応それ自体はすんなり受け止めたものの、その背景が読み解けずに、「???」と、ますます首を傾げるギデオンだったが。するりと伸びた細腕に絡みつかれ、より間近に迫られることで、その答えをいよいよはっきりと突き付けられた。──どこまでも獰猛な新緑の瞳、輝くばかりに勝気な笑み。そして何より……甘くしたたかな声音での、その台詞。ギデオンの抜かりの一切を薙ぎ払うそれらを、しっとりと差し向けられれば。さしもの朴念仁も、ようやっと合点がいって。脱力したように吹き出し、「……そうだったな、」と、今度こそこつんと額を合わせて、白旗を上げるように項垂れながら微笑んだ。
──そうだ、この1年ずっと見てきたなら、とうにわかっているはずではないか。目の前の娘は、ヴィヴィアンは。こちらをまっすぐ、どこまでも情熱的に慕いながらも……まるで予想がつかないほどに、烈しくしたたかで、貪欲な女性なのだ。シルクタウンでも、グランポートでも、聖ルクレツィアのあの小屋でだってそうだった。ギデオンが抱え持つ、狡さや臆病さといったものを。ヴィヴィアンはその、太陽のような底抜けの明るさと温もりで、たちどころに吹き飛ばしてしまう。決して一筋縄でいってはくれない──けれども最後にあるのは必ず、ギデオンに対するひた向きな愛情だ。そうだ、それを何度も味わうことで、半年前のあの舞踏会の晩にも、既に痛感したのではなかったか。自分は一生、ヴィヴィアンには敵わない。けれど、彼女に敗れ続けることは、今や自分自身にとっても……どうしようもなく、心地良くて仕方がない。)

……。
……ヴィヴィアン、好きだ。

(短い沈黙を挟んでから、再び顔を上げ、ふっと目を細めて呟いたのは。こちらもごくごくシンプルな、慕情を告げる言葉だった。──これまで共有してきた日々のなかで、相手もとっくにわかってはいるだろう。だが、ギデオンが自分からはっきりと口にするのは、何だかんだでこれが初めてには違いなかった。だから彼女も真っ先に欲したのだ。そう理解しているからこそ、もう一度、「好きだ」と。ごく軽やかに口にした一度目よりも、熱を込めて。そして、今度は。)

……………──愛している。

(……やや、躊躇いの間を挟んだのちに。それまでの口ぶりでは到底足りていなかった、もっとどろどろに甘く重たい本心を、低く震える声で、目の前の娘に落とす。実のところ、こんな大層な台詞は、自分にはまるで不似合いではなかろうかと……気恥ずかしく思う気持ちも、やはりあるにはあるのだが。ふたりで初めて真剣に話した、あの花火の夜以来。ヴィヴィアンの方は、何度も何度も、繰り返し伝えてくれていたはずだ。ならば自分が今ここで、彼女に望まれて尚言わずにいるのは、あまりに愚か者が過ぎよう。故に──熱に耐えかねたように、一度相手の肩口に顔を埋めてから。もう一度顔を上げ、今更な照れくささを飲み干す様子を見せながら、それでも真剣に。「……ずっとそばにいてくれ、」と、相手の瞳を見つめながら打ち明けて。)





516: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-03 12:45:42




 ( まだ好きって言われてないからキス出来ない──なんて、流石に子供が過ぎただろうか。目の前で可笑しそうに破顔したギデオンにほっと胸を撫で下ろすと、額を寄せる温かな仕草が純粋に嬉しくて、えへへ、と子供のような声が漏れる。今更ギデオンが如何にビビを大切にしてくれているかなんて、よくよく分かっている。それでも、その想いを形ある言葉として受け取れたなら。私も大好きだと返して、先程の続きを強請ろうと、その顔に強かな笑みを湛えていたと云うのに、 )

…………、

 ( ──大好きな声が名前を呼んだ。その甘さに息を飲む暇すら与えられずに、さらりと与えられたその三音を耳にした途端。今まで聞いたこともないくらい大きな音でドッと心臓が高鳴って、呼吸の仕方さえ忘れてしまう程の衝撃だった。そのうち繰り返されたより糖度の高いそれに、はふはふと浅い呼吸を繰り返して、チカチカと輝く視界が眩しくて。口角がじわじわと上がるのは耐えられないのに、ずっと欲しかった言葉に視界は歪む。そうして、とうとう与えられた熱烈な愛の囁きが、自分が仕込んだものとも知らずに──大輪の笑みを浮かべると、大粒の雫が目の縁を乗り越える感触がした。 ) 

はいっ……!
ずっと……ずっと、いっしょに居ます……!

 ( ああ私、今絶対変な顔してる。これ以上なく幸福に満ち溢れた笑顔を浮かべているのに、次々と溢れ出す涙が真っ赤な頬をぐちゃぐちゃに濡らして止まらない。喉が詰まって伝えられない想いの代わりに、回した腕にこれでもかと力を込めるも。折角ギデオンから合わせてくれた視線を逸らしたくなくて、無理に首を曲げるものだから、自分が今どんな体制になっているかもよく分からない。ギデオンに似合う大人で素敵な女性には程遠い──それでも、相手が自分を選んでくれたことが心底嬉しくて。いつの間にか、病み上がりの体を全部相棒に預けて、掠れ声で「私も好き」「大好き」「愛してます」と繰り返しながら、触れている額や肩をぐりぐりと擦り寄せれば、視界にたったそれだけうつった深い蒼に、今度こそその瞼をそっと伏せるのだった。 )




517: ギデオン・ノース [×]
2023-08-03 14:28:19




(己の言葉は酷く愚直で、なんとも不器用だったに違いない。だがそれでも、目の前にいる娘は、嬉しくて嬉しくてたまらないというように、真っ赤な頬にえくぼを浮かべて、ほとんど泣きじゃくっている。その様子を見れば、無事に相手に応えられたのだと、こちらも安堵するには充分で。低く喉を鳴らしながら、エメラルドの双眸がぽろぽろ零す温かな雫を、そっと優しく拭ってやる。
するともたれかかってきた娘の、熱烈な愛情表現と、「すっと一緒にいる」という答えに。こちらも思いがけず──ああ、きちんと言葉にしたことには、やはり意味があったのだ──これまでにないほど深く満たされて。薄い青色の瞳が、水面のように柔らかく揺れる。──応えあう幸せというのは、こんなにも温かいものだったのか。もう到底、これのない人生に戻れる気がしない……戻るつもりもない。ようやく互いを手に入れた喜びと安らぎが、全身に温かく沁み渡っていくのを感じながら。腕の中にある栗毛の頭を、大きな掌でゆっくり撫でてやること二、三度。ふと合わさった明るい緑に、こちらも視線を吸い寄せられれば。その頬にもう一度手を添え、顔を寄せながら、こちらも自然と目を閉ざして。)

──…………

(──そうして、白く明るい、暖かな窓辺で。最初はそっと、触れ合わせるだけだったそれは、相手を確かめ合うように何度か優しく重なった。やがて、親愛を込めてやんわり食めば、相手が少し恥じらいながらも、それでも嬉しそうに返してくるのが感じられて。──胸の内にある箍が、一段階、二段階と、大きな音を立てて外れる。どうやら自分は、自覚している分よりもずっと深く、相手を愛していたようだ。温かく溢れだして止まらない感情は、そのまま唇の動きに乗って、より深く相手を貪った。
そうしてしばらくしてから、ふと同時に、何とはなしに目を開けて。互いの瞳を見つめ合えば、はにかむように小さく笑み交わし。額を寄せて、鼻先を擦り合わせてから、再び相手の顔に自分のそれを落としていく。──ヴィヴィアンといると、心が安らぐ。そんなことは、もはや言葉にせずとも、自分の全身から相手に伝わっているだろう。)





518: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-05 17:29:30




( 静かな病室に二人分の衣擦れと、微かなリップ音だけが密かに響く。ずっと慕ってたまらなかった相棒が、ヴィヴィアンの腕の中、此方だけを見つめて、自分だけを求めてくれている。そんな夢の様な幸せに思わず薄く目を開き、そっと相手の様子を窺えば。此方の視線に気が付いた水面がふっと柔らかく細められ、熱に浮かされた脳みそは益々益々のぼせ上がるばかり。ギデオンから与えられる溢れんばかりの愛情に、太い首に回していた腕に力を込めて、精一杯の拙い動きで必死に追い縋る。長い長い口づけに、唇の端から洩れる到底己のものとは思えない、しっとりと濡れた吐息が堪らなく恥ずかしくて、力の抜けた脚では立っているのも辛いというのに──愛しい人に触れて、触れられている、たったそれだけの事がこんなにも幸せで。決して小さくはないビビの体躯さえ覆い隠す、広い背中から少しだけ覗いたほっそりと白い指先が、赤いシャツに皺を作るその背後で。窓辺から流れる爽やかな風に、可愛らしい桃色の花弁が何処か満足げに揺れていた。 )

( 主治医から退院の許可が下りたのは、それから数日たった後のことだった。慣れ親しんだ下宿の扉をくぐって、南の大通りに面した広い窓を開け放つ。整頓された机の上で、吹き込んできた風に揺れる薄紫の花弁は、一カ月以上も家主が留守にしていたというのに、その帰還祝いとばかりに美しく咲き誇り。お日様の香りがする白いシーツに、暖かな窓辺。部屋のサイズに見合わない巨大な本棚は、天井近くまでびっしりと埋まっているのに塵一つ見受けられない。──あとで大家さんにお礼を言っておかなきゃ……、と振り返った視界に映ったのは、この空間で唯一見慣れない……否、この一年間、誰より何より網膜に焼き付いて離れない程には見慣れてはいるのだが、如何せんこの空間との場違い感が否めない恋人、ギデオン・ノースだ。いつかの秋の夜に──野火より早く広められるぞ、なんて。人の誘いをにべもなく固辞した男は何処へやら、当たり前といった顔で荷を下ろす相棒がここに居る事情は、まあ……色々あったのだが、それはまた今度の機会にしよう。
さて、元々面倒見の良い人だとは思っていたが、ビビの下宿で過ごした一週間の間。「退院後の一週間は絶対安静、その後も暫くは激しい運動は控えるように」という主治医の言いつけを受けたギデオンは、とうとうヴィヴィアンにその物理的な引っ越し作業の一片も手伝わせてはくれずに。その過保護さは新居に移った後も、多少和らぎはすれど、とても成人女性である恋人に向けられるものとは思えない有様で。勿論、愛しい人と二人きり、これ以上なく幸せには違いないのだが、ビビとて自由を愛する一介の冒険者ということを忘れられてはたまらない。色とりどりの花が咲き乱れる居心地の良い新居に届けられたその一報は、この一カ月、まるで深窓の令嬢かの如き生活を余儀なくされたヴィヴィアンを喜ばせるには十分だった。 )

────、──……、

( 二人の新居の一階、よく磨かれたキッチンとつながる明るいリビングに、調子っぱずれの鼻歌が楽し気に響いている。二人で探しに行ったソファの上で旅行……ではなく、訓練合宿の準備に浮かれているのは、一人満面の笑みを浮かべているヴィヴィアンだ。毎年6月の半ば、カレトヴルッフでは来る夏に向け、水難救助訓練が行われる。キングストン郊外に流れる川で行われるそれは、寒い、汚い、きつい、と毎年大顰蹙を買う不人気な訓練で、今年も例年に違わず参加予定者はごく少数だった。しかし、状況が一転したのはビビが静養中の6月頭のこと。命を救う重要な訓練にも関わらず、一向に受講者が増えないことに頭を悩ませていたギルドの上層部が、今年の救助訓練を南国グランポートのプライベートビーチを貸し切って行うと発表したのだ。この一報は、日に日に上がる気温に参っていた冒険者たちに衝撃を走らせ、次々に応募者が溢れた講座は無事定員上限を僅か半日でクリア。御触れ以前に申し込んでいた希望者以外は、倍率数倍の抽選にまでなったという効果絶大ぶりで、来年以降も“不定期”に場所を変更する、という御触れに、いつか南国のビーチを夢見る冒険者たちが、毎年キングストンの汚い川に浮かぶこととなるのだろう。そんな冒険者たちの純真を弄ぶ幹部たちの思いきりは、そもそもグランポートの方から申し入れがあったということで。昨年、未曽有の政治的危機に陥っていた市を救ってくれたカレトヴルッフに、未だ立て直し途中のため少数で申し訳ないが、と40名程度の団体旅行が送られてきたということらしい。その建前上、訓練に参加するならば、という条件はあったものの、功労者であるギデオンたちにも声がかかったという次第である。その頃になるとヴィヴィアンの体調も、少しまだ足元が覚束ない瞬間はありつつも、随分と回復し、主治医から段階的な運動の許可も下りたばかりだった。そうして、約1年ぶりのグランポート遠征が目前に迫り、ぱたぱたと目まぐるしく駆けずりまわっていたところに恋人が姿を現すと、真夏の太陽より余程明るい表情を浮かべてとびついて。 )

あ、そうだ、ギデオンさん!
私の荷物に浮き輪ってなかったでしたっけ──?




519: ギデオン・ノース [×]
2023-08-06 00:31:38




(──あの麗らかな昼下がりから、一週間ほど経ったその日。ギデオンは再び馬車を乗り継ぎ、緑豊かな聖バジリオを訪れた。経過観察中である例の子どもたちを見舞う、というのはもちろんのこと……ついに無事退院の叶ったヴィヴィアンを、キングストンに連れ帰るためだ。

この頃にはヴィヴィアンも、わんぱくざかりの少年たちと──そう、彼らは眠っている間成長が止まっていたが、目覚めてからはまた健やかに進みはじめている最中だった──すっかり顔馴染みになっていたらしく。「姉ちゃん、もう行っちゃうの?」「もっとずっとここにいていいんだよ!」「またオレたちと遊んでよう!」と、大変な懐かれようである。ちゃんとまた来るからね、と彼女に優しく撫でられれば、少年たちはそれはそれは嬉しそうにはにかみまくっていたのだが。病院のエントランスの柱にもたれ、後方何とか面で待っているギデオンに気がつけば、めいめい不満げなジト目を寄越してきて。「姉ちゃん、ほんとにあのおっさんが彼氏なの?」「オレたちに乗り換えたっていいんだよ!」「すぐ迎えに行くから待っててくれよう!」と、まあ生意気な抜かしよう。ギデオンも面白がる目を向けながら、ヴィヴィアンの腰をさらりと抱き寄せ。「できるものならな」なんて、戯れに煽り返しては、誰かさんの恥じらいとわんぱくトリオのブーイングを、一斉に買うのだった。
だが、こんなやりとりでさえ、ギデオンに取っては噛み締めたくなるようなものだ。……13年前、血だらけでぐったりと動かない少年たちを、この腕に抱いたあの夜。そしてそれ以来、暗い灰色に淀んだ病室で、一向に目覚めぬ彼らを、重い面持ちで見舞い続けた日々。あのときは、まさかこんな風に、無事に目覚めた子どもたちと明るくやり合えるようになるなど、夢にも思っていなかった。
さらに、彼らの家族でさえも、ギデオンに対する態度は、この数週間ですっかり打ち解けてくれている。子どもたちが眠っていた間は、我が子をみすみす魔法障害を負わせた冒険者であるギデオンを、決して許しはしなかったのだが。子どもたちが無事に目覚め、ヴィヴィアンの魔髄提供のおかげでみるみるうちに回復した今……院内を大騒ぎで駆け回って看護婦にこってり絞られ、それでも懲りずにげらげら大笑いしてはしゃぐようにすらなった今は、親たちの厳しかった顔も随分と和らいで。ついには、ギデオンの改めての謝罪を、13年越しにとうとう受け入れてくれるまでになった。中には、延命治療の費用を払い続けたことを温かく労って、食事を共にしてくれた家族さえある。
どれもこれも、ヴィヴィアンのおかげだった。彼女のまっすぐな献身のおかげで、子どもたちも、その家族も、ギデオンも。皆が笑って、明るく過ごせるようになったのだ。

しかしヴィヴィアンの活躍は、それだけでは終わらない。彼女は3週間の入院中に、新たなひとつの大事件を、見事に暴いてみせたのだった。聖バジリオの一事務員による、医療費の巨額の横領──ギデオン自身も知らぬうちに被害者だった、いわゆる汚職事件である。前からその様子が引っかかっていたある事務員が、不審な会話をしている場面に、ヴィヴィアンは偶然居合わせたらしい。立ち聞きしている内容にギデオンのことが浮上するなり、彼女は一気に推理を働かせ、なんと例の子どもたちにも協力してもらいながら、その無道な犯罪の証拠を、あっという間に掻き集めたそうだ。
時に貴族もお忍びで利用するほど信用の厚い聖バジリオ、その内外に走った衝撃の大きさたるや。ヴィヴィアンが人柄を見込んで話を打ち明けた院長は、ケルツェンハイム警察にすぐさま通報してくれた。そこから瞬く間に、例の事務員の尋問と、院内で起きた不正の本格的な捜査が始まり。ギデオンがこうして、ヴィヴィアンを巡って子どもたちと鞘当てを興じる今さえ、どこか奥の方の部屋では、厳密な事情聴取が行われている筈である。まだ詳細は検証中だというが、この事件に最初に気づいたヴィヴィアンの計算によれば、ギデオンの被害額は、これまで払い続けてきた賠償金のおよそ一割にものぼるそうだ。……元がとんでもなく高額であるだけに、聖バジリオが計画中だという返金の額は、かなりまとまったものになるだろう。
子どもたちのために、高額な薬代を納め続ける日々が終わり……その巨額の賠償金の一部が、今度は自分の財産として戻ってくる。つまりようやく、自分の人生に余裕が生まれる。それはギデオンに、このところ既に固めつつあった様々な決意を、より深めさせる結果となった。──夏の到来とともに、ヴィヴィアンを攫うようにして、ふたりでの新しい日々へ移り住んだのだ。)



* * *



(──キングストンサリーチェ区、ラメット通り8番地。そこがギデオンとヴィヴィアンの、この夏からの住み家である。
長い付き合いの友人である不動産業者が、「おまえが!? 女と!? 同棲!?!?」とぶったまげながらも、「よし来た任せろ!」と、鼻息荒く確保してくれただけあって。共通の職場であるギルドや、日々のものを買うための店や、いざというときの病院との近さ……そして周辺の日夜の治安。そういった実利面を重視して選んだ物件だったはずだが、実際の家や、周囲の街並みそのものも、既に非常に住み心地が好い。
赤みがかったクルミの床に、柔らかな白い漆喰の壁。大きな窓は陽の光を燦々ととりこみ、ベランダには色とりどりの夏の花々が咲いている。柵越しに清かな音を立てるのは、家の裏を流れているゴンドラ用の水路だ。その両端には地区の名物であるヤナギの枝葉がさらさらと揺れていて、目に優しい緑色を柔らかに投げかけてくる。時折野生のカラドリウス──小さな聖鳥もやってきては、ヴィヴィアンが皿に乗せた葡萄や苺を啄んで飛んでいく。おそらくこの辺りは、地区そのものが余程聖らかなのだろう。
以前までのギデオンは、元々長期クエスト漬けであまり家にいないものの、一応の住所が必要になる立場であるから、家賃を極限まで削るべく、知り合いのやっている宿付き酒場の屋根裏を間借りしていた。──が、住む家と、ともに住む人間。そのふたつが変わるだけで、こうも家に帰りたくなるものなのかと、それ自体が面白いほど感慨深い日々である。結婚してからのホセやニックがああも付き合いを減らした理由が、今は恋人関係でしかないギデオンにもわかってしまう。これは道理で、酒の付き合いを断ってでも、家路を急ぎたくなるわけだ。)

──ん?

(故に。既にこの新居が好きで仕方ないギデオンは、叶うことならもう二ヶ月ほど、のんびり居ついて過ごしたかったのだが。ほかならぬギデオン自身の過保護ぶりのせいで、肝心の同居人であるヴィヴィアンの方は、寧ろそろそろいい加減、どこかに出掛けたくてたまらなくなった頃合いらしい。
そんな矢先に飛び込んできた、グランポートからの檀頼旅行の招待状……もとい、カレトヴルッフ恒例の夏季合宿への参加指令。──要は、水難救助の復習を皆でしましょうという体で、ギルドの一部でちょっとしたバカンスに洒落込もうという話なのだが。ギデオンとしては正直なところ、聖バジリオを退院してまだひと月も経っていないヴィヴィアンに、遠出などさせたくはなかった。船上で万一のことがあれば、魔法医にかかるまでに何時間かかるか知れないからだ。けれどもヴィヴィアン本人から、「これ以上閉じ込められてたらそっちの方が魔素不全になります!!!」との猛反発を喰らい。まあ息抜き程度ならいいかと、先方への義理立ても兼ねて、ふたりで参加することに決めたのだ。
その出発はいよいよ明日、ギルド近くの東広場に朝8時の集合の手筈で。ギデオンは既に、全く旅行っ気のない簡素な荷造りをあらかた終え、このところ(ヴィヴィアンの世話に夢中で)ため込んでいた仕事の書類を、別室で捌きまくっていたのだが。ひと段落したからと、相手の様子を覗いてみれば……これが何とも、絵に描いたようなあどけない浮かれぶり。箪笥のあちこちをひっぱりだして、かと思えば部屋のあっちにすっ飛んでいって、まだ大袋に詰めたままの衣類の山をひっくり返して。ギデオンをぱっと振り返って飛びついてきたその表情も、明日が楽しみで楽しみで仕方がないと言わんばかり。思わず困ったように苦笑して、落ち着けというように相手の頭を軽く撫で。)

浮き輪か……俺は見てないな。ヒーラー用の雑貨類ならともかく、衣類は流石に勝手に触っちゃいないから、その辺りに紛れ込んでるならわからんぞ。

(──と、その手がふと静かに止まり。一瞬中空で思案した視線は、そのまま真下の恋人へ。そのいつもは端正で落ち着いた顔には、このひと月ほどで相手が散々見飽きたであろう、無駄に思慮深い懸念の色が浮かんでいて。)

……なあ、考えたこともなかったから、完全に聞きそびれていたが。
お前、まさか……泳ぎの覚えは……?






520: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-06 12:43:41




うーん、そっか……ん?
専門的にやったことはないですけど……今回は海水ですし、浮いて進むくらいならなんとか、
……、大丈夫ですよ、だってそのための訓練でしょう?

 ( 嗚呼、確かに──服は自分で詰めたんだっけ、と。頭に触れる優しい温もりに目を伏せながら、だったら捨てちゃったのかもなあ、水着もなかったし等々……分厚い胸板から相手の鼓動が伝わってくるこの距離感も、この1ヶ月で随分と慣れてしまった。まだもっと撫でて欲しかったというのに、ぴたりと止まった掌に、最早感情を隠さなくなった不満げな表情で恋人を見上げれば。相手もまた最近、過剰な程表すようになった過保護な表情に、仕方なさそうに吹き出して。未だ──自分はそんなに頼りないだろうか、という不満がもたげない訳では無いものの。結局、自分はこの人に向けられるならどんな表情だって嫌いじゃないのだ。ギデオンの真剣な表情に応えるように、自らのあまりに褒められたものでも無い実力を包み隠さず伝えれば。そこで、つい、心配そうに皺を寄せる眉間があまりに可愛らしかったものだから。眉間、目尻、口角のあたりへ、自身の唇で軽い音をたて触れれば。浮いていた踵をゆっくり下ろして、白い拳を顔の横で頼もしく握って見せる。そうして、──自身でもそのポーズに思い当たるところがあったのだろう。そうだ、サンオイル部屋から取ってこなくちゃ。と、名残惜しそうに上半身を離しながら、その白い頬にさっと朱を走らせたかと思えば、悪戯っぽい笑い声と共に、語尾にハートでもつきそうな甘い声を残して、逃げるように廊下へと駆け出して、 )

…………、お好みかは分かりませんけど。
可愛い水着買ったので、楽しみにしててくださいね




521: ギデオン・ノース [×]
2023-08-06 14:49:20




(掌の下から弾け上がる、可笑しそうな笑い声に。(そうは言っても……)と言いたげな視線を投げかけようとしたのだが。このひと月で相手にすっかり慣れ親しんだのは、可愛い恋人も同じこと。ほんの少し背伸びして親密なキスを与えられれば、真剣に強張っていたギデオンの心配顔も、いとも容易く弛んでしまって。
──まあ、大丈夫か。今回は目的が目的だから、熟練ヒーラーも同行するし、その堅固な状況でこそ泳ぐ練習をした方がいいのも、まさに相手の言うとおり。自分が目を離さなければいいだけの話だだろう。しかし、そんな心づもりも。荷造りに戻る相手の凶悪な置き土産を喰らえば、たちどころに吹き込んで。)

────、、、

(ギデオンが思わず二度見する頃には、ヴィヴィアンはとっくに逃げ去った後。その虚空をしばし見つめてから、復活してしまった峻厳な眉間の皴を、無言で揉んで立ち尽くす。
──ヴィヴィアンと同棲を始めて一カ月。ギデオンは、彼女に未だ手を出していない。理由は単純、聖バジリオの元担当医から、「暫くは激しい運動は控えるように」とのお達しがあったからだ。……あの後個人的に、夜の生活について相談すれば。相手は少々面喰いながらも、それでも真摯に、魔法障害の予後にどんな影響を及ぼし得るかの見解を述べてくれた。その時の話から、もう一、二ヶ月か……三か月か……半年か。とにかく、未だ潔癖な乙女であろうヴィヴィアンの身体には、余計な変化をもたらさない方がいいという結論を出している。以来ギデオンは密かに、己の慾を押し殺す工夫を積み重ねてきたのだが──当の彼女は、のほほんと知らずにいるようだ(こちらが話していないのだが)。何にせよ、明日からの旅行でも、密かな覚悟を決めなければならないだろうかと、思わず小さなため息をつく。まあ、十五のガキじゃあるまいし。初めて見る恋人の水着姿くらいで、今更動じたりはしない──筈だ。)

(翌日。東広場に集合した冒険者たちは、やいやいと賑わいながら貸し切りの船に乗り込んだ。王都からグランポートまでは、この下りの船で一泊二日……そこから更に、馬車で数時間の距離である。若い連中は中型船に乗るのも初めてというのがいて、既に大変な盛り上がりよう。デレクとカトリーヌに至っては、船上のロマンスを描いた某超大作の名シーンを男女逆で真似して遊んで、案の定川面に落っこち、刺青を彫った船乗りたちににしこたま怒られるなどしていた。そんな騒ぎをよそに、ギデオンとヴィヴィアンは、去年の夏と同じように、甲板のベンチに仲良く並んで座り。グランポートから個人的に届けられた手紙を広げ、そこに綴られている事件後の市の再生の様子に、楽しく思い出を馳せながら過ごして。
翌朝。王都の冒険者一行は、船着き場の辺りで数時間留まってから、数台の馬車に分かれて乗り、夕刻頃にグランポートに到着した。その晩は市から温かくもてなされ、当時救出した少年たちやあの記者たちと再会を楽しみ。その後は海辺のコテージに引き上げ、まずは一晩ゆっくりと休んで(デレクとカトリーヌはここでも枕投げをおっぱじめ、ジャスパーに首根っこを掴まれるなどしていたようだが、これはまた別の話だ)。
──さて、王都を発ってから二日目。いよいよこの日が、水難救助訓練当日である。幸いにも天気は快晴。晴れ渡る青い空の下、白いシャツに黒いサーフパンツという出で立ちのギデオンも、現地集合の打ち合わせ通り、眩しい日差しに手を翳しながら、貸し切りのビーチに現れた。片手に講習用の資料を持っているのは、特殊ランカーという立場上、一応は引率側に配置されているためだ。この後、今回は珍しく参加しているギルマスの前で、責任者に抜擢されたジャスパーの補佐をすることになっているのだが……早くも波打ち際で遊んでいる若い連中のなかに、ヴィヴィアンの姿はまだない。まだ支度をしている頃か、と見当をつけると、浜辺のテントを張りだした日陰、ビーチチェアに座っているスヴェトラーナの元に行き(陽光に当たれぬ彼女は、今回は終始サポート役だ)。そこにちょうどやってきて、手伝いを申し出てくれた若手の星バルガスとともに、これからの訓練で必要な情報共有をしながら過ごすこと数分──ざわ、と周りが大きくどよめいた気配に、ふとそちらを振り返り。)






522: ギデオン・ノース [×]
2023-08-06 15:41:01



※王都を発ってから三日目でした。お詫びして訂正致します……




523: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-08-08 01:27:08




 ( 船で川を下ること半日と宿で一晩、そこから馬車で数時間。固まった身体を伸ばしながら、日除けの幌から顔を出せば、そこには色鮮やかな夏が広がっていた。日の傾きかけた空は群青と橙がせめぎ合い、真っ赤な夕陽が煌めく水平線へと沈んでいく絶好のタイミング。湿気を多分に含んだ空気はどこか息苦しいにも関わらず、潮の香りがするそれをたっぷり肺に取り込むだけで、どうしてこうも気分が盛り上がるのだろう。周囲を見渡せば、夕暮れに灯り始めた、色とりどり、それぞれ全く違った異国情緒たっぷりのランプが、キングストンとは質の違う石畳をカラフルに彩り。昨年よりずっと賑やかな雑踏に、興味深い品々を見つける度、はぐれないようにするのが精一杯だ。引率のベテランが先導を行く列の後方で、アリアやエリザベス、バルガス等同年代の仲間達と会話に花を咲かせていれば、どこから調達したのやら。美しい南国の花をふんだんに使った豪華なレイを、突然女性陣の首だけにさしかけたのは、マゼンダのアロハシャツがやたら似合っているデレク。そして、全く同じタイミングで、小さなパラソルの刺さったこれまた色鮮やかなドリンクを差し出してきた、既に水着のカトリーヌが睨み合い。その幼稚なやり取りを冷めた瞳で見つめていたリズでさえ、二人の隠し持っていた水鉄砲の流れ弾が、見事にジャスパーの頭を撃ち抜いた瞬間は肩を震わせ俯いていた。そうして今回の遠征は、(因みにビビの貰った蛍光グリーンのドリンクは、目を離した隙に飲まれていた。アラン絶対許すまじ。) 目を見張る程の大復興を遂げた港街グランポートで、それはそれは賑やかに始まったのだった。)

うぅぅ、やっぱりちょっと可愛すぎたかも……

 ( そうして本番、今回の遠征のメインイベント。トランフォード屈指の観光地、グランポートが誇るプライベートビーチ目の前にして。皆が我先にと砂浜へ駆け出して行く中、そうも単純になりきれないのはうら若き乙女達だ。なんとか水着には着替えたものの、それぞれ姿見の前で、往生際悪く足掻く姿はご愛嬌。人前で肌を晒すことへ呪詛を吐き続けるエリザベスに、自分なんか、皆さんの目が腐る、とここに来て持ち前のネガティブに陥るアリア。因みにカトリーヌは若手男冒険者よりも早く駆け出して行った……という余談はさて置き。ビビもまたご多分に漏れず、戻しきれなかった体重と贅肉を呪いながら項垂れること暫く。結果的に一足遅れて姿を現すことで、余計に周囲の視線を掻き集めながら砂浜に降り立ったのは──それでもまだ辛うじて、その単純な性格故に、エメラルドグリーンの海を目にして、テンションが上がってきたヴィヴィアン。今日のために下ろした真っ白なビキニは、大判なフリルが可愛らしくも、腰の横の蝶々結びや、ふっくらとしたデコルテでクロスする紐が、柔らかく食い込む質感が非常に健康的な印象で。大好きな相棒を見つけて飛び跳ねる姿に、自分の胸部を抑えたスヴェータが「溢れる、溢れる……!」と顔を真っ青に慌てている。そんなビビの後ろで、頑なに日傘を離さない仏頂面のエリザベスの出で立ちは。紺色のセーラー服を模したワンピースタイプの水着が少しレトロながらも、そのお人形のように完璧に均整の取れたスタイルにはよく似合って。何より、普段下ろしているロングヘアが結い上げられて、その下で真っ白に輝く項の美しいことといったら──バキッ、と嫌な音をたて砂浜に響いたのは、爽やかな笑みを浮かべたバルガスが、力余って巨大なテントを支える太い骨を握り折った音だ。そんな派手な先輩方に承継の瞳を向けるアリアもまた、ギンガムチェックのワンピースから大きく覗く綺麗な背筋に、周囲の視線をこれでもかと釘付けにしていて。 )

──あ、ギデオンさーんっ! 私にも手伝わせてくださいっ!




524: ギデオン・ノース [×]
2023-08-09 15:25:39




(何の気なしにそちらを振り向いたギデオンは、いつぞやの夏の宿よろしく、わかりやすいほどの硬直を見せた。──その視線の先にいるのは、こちらに駆け寄る若い恋人だ。たしかにギデオンの方とて、やはり楽しみにしてはいたのだろう、そろそろ来るはずの相手の姿を無意識に探し求めてはいたのだが……。燦々と降り注ぐ陽光のなか、彼女の肉感的な美貌は、今にもたわわにはちきれんばかりで。視覚の処理が追い付かない──いや、決して、まかり間違っても、蠱惑的に揺れ動くそれに、目を奪われたりするはずがなく。
しかし幸い、その熟練戦士らしからぬ挙動不審さを見咎められるほど冷静な者は、周囲にひとりもいなかったようだ。「やっべぇ……」だとか「すっげぇ……」だとか、そこらで遊んでいただろう青年連中の漏らす惚けた声に、ようやくのことで我に返ると。「…………、」と黙ったまま、相手に配布を頼みたい書類の類いを取りまとめ、傍に来た彼女に渡そうとする。が、しかし。間近からにこにこと見上げてくる恋人の、まっさらなほど清廉で──それ故かえって淫靡が過ぎる水着姿を見下せば。……その表情は、見れくれこそいつも通りで、どんなことにも揺るがぬ冷静なそれに、粛々と引き戻りゆくも。このひと月同棲し、らしくもない甘い顔を幾度も見せてきた恋人には、己の狼狽が──必死に守りに入っていく姿勢が、かえってあからさまに映るだろうか。ましてや今は人前、おまけに周囲を統率する責任者側。ふたりきりの時のように己をさらけ出すのは非常に躊躇われる……となると、ギデオンが堅牢な防衛へと迷走するのはもはや必然。露骨に視線を逸らしながら、硬い声で指示を出し。)

……助かる。こいつを同期たちに一部ずつ配ってくれ。……





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