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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
304:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-04 20:44:59
いえ、こちらこそありがとうございました!
壊れたらいつでも言ってくださいね。
( 驚いたように瞬きを繰り返した後、ふっと和らげられた甘い眦、常に安心感だけを与えてくれる穏やかな低い声。美しい微笑みと共に重ねられた言葉にさえ、醜悪な独占欲を満たされて悦ぶどうしようもない己との対比が──皮肉にも。なんとか、この想いにケリをつける目処を建てさせてくれる気がした。 )
──……え、あ!やだ、本当に大丈夫ですって言ったのに……、いえ、ありがとうございます。
ふふ、今開けてもいいですか?もう今日使っちゃお──!
( ──やっぱりギデオンさんはすごいな……。ここで警備を初めてからものの数分、既に事情を説明した信徒や恋人達の人数は、両手でも数え切れない程に上っている。幾ら教会にツテがあるとはいえ、聖誕祭にほど近いこの季節にここを抑えるのは、どれだけ大変なことだろう。勇気を振り絞っていたギデオンの横で、そんなあまりにも呑気な尊敬に浸っていたものだから、差し出された包みへの反応が一瞬遅れた。それから完全な無意識で、先程のギデオンと全く同じ思考回路・反応を繰り返しながら、手を包みにかけると、出てきたそれに思わず言葉を失って。
ヒーラーのハンカチは包帯と同義だ。出血の有無を確認しやすい白無地に、洗いやすさと応用の効く広い布地。少なくともギデオンに差し出したのは、そんな"ヒーラーとしてのビビ"のハンカチだったはずだ。にも関わらず、このハンカチはどうしたことか……一目で良い物だとわかる質の良い絹地に、流行のレースをあしらった洒落たデザインは、"ヴィヴィアン"の好みとぴったり一致する。その上、さりげなく入った刺繍のロゴは、普段ヴィヴィアンが愛用するシルクタウンブランドのもので。言ってないのに、私が好きだって知って──そう隙あらば芽吹こうとする想いを押し殺し、相手のの表情を伺ってみるも、視線を逸らされていて叶わない。 )
代わりなんて……こんな、すっごく素敵……っんむ、
──えへ、ギデオンさん。本当にありがとうございます!大切に、大事に使いますね……
( 仕方なくもう一度貰ったハンカチに視線を下ろせば、見れば見るほど細部まで可愛らしいハンカチに、うっとりと瞼を伏せ。行き場のない喜びをのせ、ハンカチを汚さないよう、包装紙の上からそっと唇を寄せた瞬間。情け容赦なく吹きすさぶ冷たい風に、手の中で舞い上がったハンカチが顔にかかる。どうしていつもこう……。と、己の三枚目さを呪いつつ──まるで花嫁のヴェールのような──華奢なハンカチの下から顔を覗かせれば、照れくさそうに微笑んで。もう飛ばされないよう折りたたんだそれを胸元に仕舞い、もう一度無邪気に頭を下げて──上げたタイミングだった。──ドォン!!ピシャッ、バリバリバリッ!!!と、背後から上がった計画上にない衝撃音と、何かが割れたような音に振り返って杖を構える。思わずギデオンと見合わせた表情は、既に冒険者らしいものへと切り替わっていて。 )
305:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-05 14:57:47
(隣から上がる温かな声に、ほっと胸を撫で下ろす。その安心でようやく相手のほうを振り向いた途端──あろうことか、ギデオンの贈り物にそっと薔薇色の唇を落とし。その後のハプニングに恥ずかしそうにはにかむ、シルクを被ったヴィヴィアンに、青い視線がくぎ付けになってしまい。……一年前の友人の結婚式に出席したためか、若い女性の晴れ姿は今も記憶に新しい。そのせいだろうか、今目の前にいる相棒も、まるであのときのロザリアと同じように……純白の花嫁衣裳をふわりと纏って見えたのだ。ギデオンが知る限り、最も純真で、最も愛らしく、最も愛情深い娘の、そんな温かな幻を見てしまえば。突然轟いた衝撃音にも、ほんの一瞬、ヴィヴィアンより僅かに遅れる形で振り返ることになり。)
──ッ! ……今、のは……まさか、結界が破られた音か?
(鼓膜がびりびりと震えた感覚に顔をしかめた時には、揺さぶられた情動もすぐさま消し去ることができていた。危機に対して既に真剣に構えているヒーラーともう一度顔を見合わせれば、こくりと頷き、ともに教会の方へ駆け出して──その扉を押し開いた瞬間、あまりの惨状に目を見張る。教会内部は酷く破壊されていた。召喚用に並べられた重厚な燭台のすべてが放射状に倒され、赤い絨毯やチャーチェアに眩しい炎が燃え移っている。回廊は床から天井まで黒ずんだ亀裂が稲妻の如く走り、壁際ではおそらく吹き飛ばされたらしい祓魔師たちが三々五々に呻いている。主祭壇には神父が手負いの獣のようにのたうち回っており、傍らでアンが必死に聖水を浴びせながら聖句を唱えて鎮めようとしていた。彼女は普段こそ、淫らな楽しみのためにそれを悪用しているものの、本来は多少の聖魔法も扱える魔力持ちのシスターだ。故に神父はそのまま任せると決めると、ヒーラーの本能で先に怪我人の元へ向かっていたヴィヴィアンの傍に向かい──すぐ近くのステンドグラスが、派手に割れているのに気がつき。双眸を見開くと、いつになく真剣な顔で相棒に頼み込んで。)
──ヴィヴィアン。どいつでもいい、祓魔師の意識を回復させられるか。何があったか聞き出したい──この状況を援護しようにも情報が要る。
306:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-07 10:21:20
──っ、お任せください。
ギデオンさんは──そこのガラスの下。白い服の方を安全な場所へ。
( 思わず呻きたくなる惨状に、自然と脚が床を蹴る。1,2,3……と救護がいる人数を目で追えば、──まずは安全確保、二次被害防止。と、目立つ怪我をしている者に駆け寄りたくなる気持ちをぐっと抑えて、見習いの頃から叩き込まれた心得を口の中で呟く。そうして燃える絨毯の傍に倒れる祓魔師に駆け寄れば、少し開けた場所へと容赦なく引っ張り出したのと、ギデオンの声が飛んだのがほぼ同時。指示ではなく懇願の形をとった言葉に、反射で相手を安心させるための微笑みを浮かべると、力強く頷いて杖を握り直す。真っ先に喉の奥を確認すると、気道に火傷の兆候がないことに一先ず胸を撫で下ろす。残るはただの魔法裂傷といえど、相性の良いギデオンにやるようにはとてもいかず。真剣な横顔に汗を浮かべ、自己修復を忘れた細胞に意識を注ぐこと十数秒。チャーチチェアが小さく爆ぜた音に、腕の中から上がった呻き声にほっと胸を撫で下ろし。意識を取り戻し、起き上がろうと藻掻く祓魔師に、ギデオンを呼び戻すと、ぐったりと熱を持つ上半身を癒しながら優しく支えてやって。 )
──ああ良かった。目眩や吐き気はない?……出来たら、ここで何があったか、教えていただけませんか。
307:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-07 12:17:05
(相手の頼もしい笑みを見れば、それ以上の言葉など必要なかった。ギデオンもさっと頷き、踵を返すと、まずは教会のあちこちで上がる赤い小火のうち、危ういものを消して回る──これほど負傷者が多くては、彼らを外に運び出すよりこちらの安全確保が先だ。その最中、主祭壇の方にちらと目を向けたが、夢魔の毒で狂っていたらしい神父の容態は強力な聖水で落ち着き、今はアンの腕の中でぐったり力尽きていた。視線を感じてこちらを見上げた古馴染みのシスターが、冷静な表情で小さくかぶりを振る。こちらは大丈夫、それよりも祓魔師たちを。それと、背後の相棒から呼び戻されたのがほぼ同時。ぱっと振り返ると大股でそちらに駆け戻る。ギデオンが己にできることをしているうちに、相棒のヒーラーもまた、己の仕事をしっかり果たしてくれていた。支え起こされた年配の祓魔師は、事のあらましを唸り声で打ち明ける。──召喚事故が起きた。例のインキュバスをいざ呼び出してみると、多くの男女の情念を食らった奴は、目覚ましい力をつけていた。ならば手柄をものにしようと、一部の祓魔師たちがめいめい勝手な行動に及んだらしい。魔法省の高官の指名によって編成された初対面のチームだったため、彼らは非常に傲慢で、老齢の祓魔師や神父が言い募る命令をまったく聞こうとしなかった。そのせいで連携がもつれ、呼び出した夢魔の大暴れを許してしまった、というわけだ。奴は窓を破って逃げた。例の連中に荒っぽく攻撃されて多少弱っているものの、手負いだからこそ危険な状態だ。──そこまで聞けば、無事に動けるギデオンたちが何をすべきか、判断するには充分で。傍らに屈みこんでいたそのままに、腰の愛剣をすらりと引き抜くと、ヴィヴィアンの目の前に置く。辺りの小さな火の輝きを、研ぎ澄まされた魔鋼の刀身が眩しく照り返していた。相手の緑の瞳と絡めたギデオンの青い瞳もまた、決意の色を帯びていた。)
……ほかの連中の手当てに回る前に、こいつにおまえの聖属性を付与してくれ。──例のインキュバスは、俺が探し出す。
308:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-08 01:24:24
ギデオンさん……
( 自分は騒動の後始末と救護に残り、ギデオンを一人で危険な夢魔の元へと向かわせる。あの夜と全く同じ構図に不安を覚えない、と言えば全くの嘘だ。相棒を信頼していない訳では無いが、今までのように無事帰ってきてくれるに違いないと、無責任に信じ込んだ結果がアレだ。みっともなく泣きじゃくり、為す術もなくボロボロだったビビにさえ、弱り縋りついていたギデオンの傷の深さを思い返せば、本当は無理にでも止めたくて腕が疼く。……それでも、祓魔師を寝かせた白い手で、そっと魔剣を拾い上げたのは、その強い決意を浮かべる青に焦がれて──惚れた弱みだ。冒険者としての自覚なんて、高尚なものとは程遠いそれに自嘲の表情を浮かべて、ギデオンの正面に向かい合うように真っ直ぐと立つ。──この人が片手で軽々と振るっていたこれは こんなに重いのかと、両手に伝わる冷たい質量に下唇を噛むと、そのまま屈んだギデオンの額へ剣を翳した瞬間、魔剣を中心に柔らかな──いや、一瞬にして目を突き刺し、視界を吹き飛ばす程の大光量が教会を包んだかと思うと、戻ってきた視界の中で憮然とした表情を浮かべていたのは、他でもないヴィヴィアンだ。魔法を過信し、一人一人の容態を見ない治療は浅はかとしか言いようがなく、本来のビビのポリシーにも大いに反する。しかし、ぐだぐだと殊勝な言葉を内心己に言い聞かせ、この重い剣をギデオンにだけ振るわせることを自覚した瞬間。普段魔法を使う際、無意識に感じていた、リミッターのような何かが弾けとぶような感覚に襲われ、間近の二人はもちろん、一番離れたアンと神父の容態さえ、手に取るように感じられた。その証拠に、同じ聖魔法に適正のあるアンの化物でも見たかのような視線から目を逸らすと、目の前の相棒へと両手で剣を差し出して。)
──……もう、終わりました。手当て。
私もギデオンさんと、行きます。
309:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-08 16:00:15
終わった、って──……、
(それは突然の──想定外の──柔らかな聖魔法の爆発。ギデオンの視界を激しい眩しさ一色で塗り潰した光は、しかし不思議なことに、終わってみれば目を痛めたりはしなかった。目を瞬たかせながら見上げると、そこにいるのは単に従順な後輩ではなく、どこかむくれたような顔をした、芯の強いひとりの乙女。彼女の薔薇色の唇が静かに紡ぐ言葉を聞いて、唖然と鸚鵡返ししながら立ち上がるも、周囲を振り返ったギデオンは目を大きく瞠ることになる。──まさか。魔剣を増幅器代わりにしたのか。長年使いこんできたギデオンが時折そうしているのを、いとも簡単に真似してみせて。或いはそれがなくとも、神に愛されたとしか言いようのない天性の才能でこれを。だが今まで、ヴィヴィアンのこんな圧倒的な力は見たこともない筈で──。『シャバネ』の一件があって以来、相棒の無茶な治療を止めるようになったギデオンだが、今のヴィヴィアンが醸し出す一種の威光を目の当りにすれば、あのときとは勝手が違うらしいことは嫌でもわかる。故に、“一緒に行く”と宣言した相手から、何も言えずにただ魔剣を受け取った、その時。「今の光は!?」「今の爆発は!?」と、聖堂の扉を開け放ったエドワードとニールが、口々にこちらに叫ぶ声に振りむく。現場近くにいることを許されたギデオンたちとは違い、彼らはもう少し離れた場所、ヴィヴィアンと今日落ち合った辺りで待機していたはずだが、爆発音を聞いてすっ飛んできたのだろう。そのふたりとジャネットがこちらを、──小火の揺らめく教会でどこか厳かに向かい合う、熟練の戦士と……最早一介のヒーラーではなく、伝説の聖女のような雰囲気を放つ娘を見て、ぴたりと一様に言葉を失う。しかしその姿を眺めるなり、同じく相棒の威容に圧倒されていた筈のギデオンの頭は、突然冷静に回り始めた。「──召喚事故だ。悪魔が逃げた。現場チームの緊急治療は、ヴィヴィアンが今やってくれた。悪いがおまえたちは、ここの引き継ぎを頼む」大股で入口の方に向かいながらきっぱりとした口調で言いきり、この場を任せたというように、ニールの肩に手を置くと。後方を振り返り、若い相棒に向けたその声、その青い瞳には、最早すっかり切り替えたが故の、明るい、揺るぎない信頼が満ちていて。)
──時間がない。ヴィヴィアン、援護を頼む。
310:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-10 17:42:18
──はいっ!
( もしこの時のヴィヴィアンに、何があったのかを問い詰めたところで『なんか出来た』以上の有益な答えは望むべくもなかっただろう。相棒からの信頼に嬉しそうに破顔して、春風のような甘さを残して駆け出す背中に、残された三人はあっけにとられるのみ……でもなく。年の功でいち早く正気を取り戻した者、惚れ直した様にうっとりと目を細める強かな者、それに呆れたようなドン引きの表情を隠さない者、と実にそれぞれらしい表情を浮かべ。この惨状を治めるべく、それぞれの役割に動き出した。
いくら聖ルクレツィア教会が小規模とはいえ、悪魔の類にとってその聖域を出入りするのは容易なことではない。祓魔師たちに手傷を負わされ、その上、召喚用の結界も力任せに破壊した直後だ。──知能の高い奴なら、正面突破は避けてくるはず。明確な“境界線”である門や鉄柵よりも……そう教会の背後にある小さな森に視線を向けては、ギデオンもまた同じことを考えていたのだろう。特に何か口を開くでもなく、視線だけを交わし、黒々としたその裾野へと歩を向けて。
「……これ、は、」そこまで来れば、かの夢魔がここを通ったことは明白だった。夢魔独特の甘く埃っぽい魔素の気配、それがなくともよく整備された印象の森のあちこちで、よろめき押し倒したかのように枝が折れ、枯れ果て火種が燻る痕跡を追って行った先、大きな菩提樹の根元に“それ”はいた。 )
──ッ!!ギデオンさん、
( どれだけの人数の精気を吸収したのだろう。血液の様な黒い液体を垂れ流し、馬とも蝙蝠ともつかない姿で蹲っていたそれは、此方を認識した瞬間。悍ましい叫び声をあげながら、人間の様な、二足歩行の何かへと自身の体を変形させる。黒く長かった頭部が縮みだし、代わりに銀色の鬣が放射状に伸びる。穴だらけの翼が人の腕になろうとして、指の様なものが生えたそれが風船のように膨らんでは縮み。散らばった鬣の下では、やたら整った青年や紳士、少年の顔が代わる代わる浮き上がり、その奥で緋色の瞳だけが此方を警戒するように光っている。そのあまりの姿に思わず、はっと息を呑んだ振りをして。小さくその名を呼ぶだけで──ギデオンさんなら絶対に分かってくれる。外套の下で握りなれた杖を握りなおすと、冬至もほど近い夜の森を、いつもの白い閃光が切り裂いた。 )
311:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-11 02:11:10
(以心伝心の相棒と、共に駆け抜けた森の奥。はたしてふたりの読みは当たった──そこにいたのは、深傷に唸り蹲る一匹のインキュバスだ。ただしそれは、人間を欺くための美貌をとうに保ててはおらず。祓魔師たちに身体を焼かれたからだろう、夢魔本来の醜悪な異形を晒し……それでもこちらを察知すれば、ぼこぼこと悍ましい音を立てながら、変貌しようと足掻いている。
そのとき浮かび上がった若い男の顔を見て、ギデオンの横顔は一瞬、湧き上がる怒りにはっきりと強張った。忘れもしない、あの舞踏会の夜。あの面をした悪魔に流し込まれた毒のせいでギデオンは、だれよりも大切な娘を──危うく嬲るところだったのだ。今ならばその落とし前を、あの悪魔に、この手で直接。思考を染めたどす黒い殺気はしかし。「ギデオンさん、」と、信頼に満ちた彼女の呼び声が耳を優しく打つだけで、霧を払うようにかき消えた。──私情に煮えかけたギデオンの青い瞳が、この局面に必要な、理性の冷たさを取り戻す。
ヴィヴィアンがお馴染みの閃光弾を矢のように放ったのと、剣を構えたギデオンが一直線に飛び出したのが、ほとんど同時。夜目を光に突き刺された夢魔がギャッと叫んだその声目指し、バチバチと帯電している重々しい魔鋼の剣を、無慈悲にまっすぐ振り下ろす。悪魔の骨を断ち切る音、その肉を叩き潰す手応え──先程ヴィヴィアンが発動した聖属性の治癒魔法の残滓がしっかり効いているのだろう、聖属性を扱えないギデオンが振るう剣でも、奴を痛めつけられるらしい。しかしインキュバスの方も、伊達に前代未聞の大規模搾精に及んだわけではないようだ。ギデオンの下で耳障りな絶叫を迸らせたかと思えば、斬られた左半身をぶちぶちと引きちぎりながら、逆にこちらに掴みかかり、木の根元にどっと叩きつけ返すだけの底力を見せてきた。
相棒の魔法で援護して貰おうにも、これでは自分との距離が近い。だがそれでも、猛然と暴れる悪魔と転がり、殴り合いながらどうにか隙を稼ぎ出すと、敵の醜貌にどすどすと幾度も魔剣を突き立てる。どっと噴き出す悪魔の黒い血、ギデオンの顔も胴体も派手にその飛沫を浴びる。──死に瀕したインキュバスの抵抗は、しかし尚もおさまらない。先程ギデオンに断ち切られた左肩の断面から不意に血まみれの腕が生えだしたかと思うと、その鋭い鉤爪がこちらの横腹を切り裂いた。途端、身に覚えのあるあの忌々しい感触。ドクンと脈が大きく打ち、毒のめぐる全身がかっと熱くなる。──だが、今度こそ呑まれるものか。ぐっと奥歯を噛みしめると、一層の力を込めて、周囲の肉を巻き込むように、悪魔を貫く剣を捩じり。「ヴィヴィアン!」と叫びながら、悪魔の背に生える魔剣の切っ先を──彼女の聖の魔素と馴染みの良い己の武器を──ますます上へと突き上げて。)
312:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-12 01:00:45
──ッ!!ギデオンさんッ!!!
( 思わず悲鳴を上げたヴィヴィアンに届けられた、夢魔の毒に冒されているとはとても思えない清廉な声。それを耳にするだけで、地につきかけていた膝には力が漲り、自然と背筋が伸びる。ギデオンに惚れたあの瞬間の如く、高く高く突き上げられた美しい剣先に──ああ、と。相棒から伝わったその意図を、なんら疑うこともなく杖を握りなおす。この時、ビビの脳内には危険だとか、失敗するかもだなんて思考は、微塵も浮かんでいなかった。ギデオンのそれに答えるようにして、微かに発光し始めた杖を高く掲げて呟く。「もう、終わりにしましょう」──かくして、夢魔の理解も、ビビの理性も、音さえも置き去りにしたその白い稲妻は、醜く膨れたその肉塊ごと避雷針の魔剣を貫いた。
耳にするのも悍ましい断末魔と重なって、遅れてやってきた雷の音が夜の森を切り裂く。相性の良い二人の魔法を容赦なく喰らった夢魔は、人の頭ほどの大きさに縮んで、ぶすぶすと煙を吐いても尚、かろうじて死んでいないようだ。早くギデオンの治療に向かいたいというのに、諦め悪く逃げ出そうとするそれに杖を向けて──“生け捕り”の指令を思い出せば、手早く封印の魔法陣を描いている間。思考を読み取る力さえ弱まっているのか、その爛れた体の一部を、手当たり次第バルガスやニール、エドワードなど、ビビの知り合いの顔に変えて命乞いを繰り返す夢魔には、最早何の感情も浮かばない。──早く、早くギデオンさんのところに行きたい。その一心で仕上げに杖を振り上げた瞬間、中身のない命乞いを繰り返していた顔が、その思考の相手に変わろうとして──ぐしゃり。月明りさえ届かない森の奥、腐った肉がひしゃげてつぶれる音と、無表情で地面を踏みしめるヒーラーだけがそこに残った。 )
313:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-12 02:33:34
(夜気を切り裂く稲妻が──ヴィヴィアンの烈しい聖魔法が──ギデオンの突き上げた敵を、見事激しく焼き落とす。その轟音が引いた後に辺りを包み込んだのは、勝敗の決着を告げる穏やかな静寂で。
菩提樹の根元にもたれたまま、無様に遠くへ転がり落ちたインキュバスの成れの果てと、そこに歩み寄る相棒の姿をぼんやりと眺める。つい先程から、呼吸が妙に浅く、熱っぽい。死闘の後だから、だけではない──例の抗体の副作用だろう。万が一の“二度目”に備えてドニーを頼り、治験に参加して取り入れたあの成分。祓魔師協会の研究機関が開発した、対悪魔用人工魔素。それが早速、ギデオンの体内で効果を発揮しているらしい。「悪魔の毒を打ち消してくれる代わりに、体が少々辛くなるのが難点だ」と担当者が言っていたが、確かに熱で頭が重く、そのくせ体の芯は寒い。だがその不調に、寧ろ心から安堵して震える息を吐く自分がいた。野獣めいた興奮を無理やり引きずり出される、あの日のような感覚はない。ならば、今度こそ雪辱を果たせたのだ──彼女を守りきれた、きっとそう思っていい。
(そうだ、ヴィヴィアン……)と。心の中で彼女を呼ぶなり、ぼんやりしていた意識をぐっと引き締め、ゆっくりと立ち上がる。草藪で魔剣の汚れを拭いながら相手の傍へ歩み寄れば、しかしその様子に、怪訝そうに眉をひそめた。悪魔の死骸を見下ろすヴィヴィアンが、珍しいほどに無表情だ。二度も魔力を爆ぜさせたことで、やはり具合がおかしいのだろうか。だからこのインキュバスを、万が一にでも逃さぬよう、ここで殺しておいたのか。などと、相も変わらず彼女の身を案じてしまうのは、致し方のない話。しかし鈍った思考では、かける言葉がろくに思い浮かばず。だから、というにはあまりに突飛過ぎるものの、ふと大きな掌を伸ばすと、下ろされていた彼女の手を横から握り込み。冬の寒気にも冷えていないその指先を丁寧に確かめてから、ようやく掠れ声をそっと落として。)
……終わったな。今回のこれは、祓魔師どもの失態で起きたことだ。肉片のひとかけらでも持ち帰れば……魔法省も、余計な文句は言わないだろう。
314:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-12 17:21:01
( ──……やってしまった。冒険者が、ヒーラーが、自分の感情さえコントロールできないなんて。足の裏に確かに残る肉を、命を、怒りのままに踏み潰した感覚。それを悼む気持ちが、微塵も湧き上がらない己が恐ろしい。ここ最近、ギデオンのこととなると、どうにも全く余裕が無い──だから、今日で最後にしなくちゃ。と、今朝までの決意を思い出せば、手負いの相棒を振り返ろうとして── )
あ──ひゃっ、ギデオンさ……ん?
( 油断し無防備に垂らしていた手を、唐突に握りこまれる感覚。──そうだ、夢魔の毒……!!と、慌てて相棒を見上げるも。そのあまりに穏やかな表情に、状況を飲み込み兼ねて、浮かべた驚きに困惑の色が混ざる。更にそれだけでは飽き足らず、ビビの指先をまさぐりだした長い指に、堪らず赤く頬を染めると、ギッ、と抗議の視線を向けかけた時だった。甘くかすれた声の抑揚や、微妙に近い距離感、指先の温度に違和感を覚え。相手の額に手を伸ばし、自分のそれと交互に触れると──やっぱり、熱い。激しい乱闘後の上、夢魔の鉤爪に腹を切り裂かれたとはいえ、怪我としては、そこまでの大怪我では無かったはずだ。冬空の警備に体調でも崩したのだろうかと、心配そうな表情でギデオンを覗き込むと──風邪ひくと人肌恋しいよね分かる。と、(実際は何も分かっていない訳だが)得心のいった表情で、その手をぎゅっと握り返し、空いている方の手でその頬に触れて。 )
……少し、体温が高いですね。風邪でしょうか……?
315:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-12 21:06:14
ん……いや、毒消しの副作用だ。
(久方ぶりに与えられたヴィヴィアンからの触れ合いに、今はまだ気づかないらしい。どこかぼうっとした顔つきで、視線を曖昧に落とし、大人しくされるがままになりながら、事情を淡々と説明する。悪魔との戦いに予め備えていたこと、毒の効果を打ち消す代わりに少々体調を崩すこと。しかしそれは下手に治さず、自然寛解に任せるのが良いと、研究員に言われてたこと。「……毒の消し方を細胞に覚え込ませるらしい。経験すればするほど、マシになっていくそうだ」と。そっと目を閉じると、ごくかすかに──まるで彼女の片手に、己の頬を摺り寄せるように──顔を傾げて、温かい吐息をふわりと零す。優しく添えられるすべらかなそれが、ヴィヴィアンの体温が、なんだかやけに心地よくて、少し安らいだ顔をする。……実際、浅かったはずの呼吸もいくらか落ち着いてくるのだから、人間不思議なものだ。)
316:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-13 23:32:15
毒消し……、
( ギデオンの淡々とした説明に、何か重篤な病気の可能性でないことに安堵しつつ、何故この人がここまでしなければならないのだろうという思いが胸をよぎる。我慢強いギデオンがここまで弱るほどの体調不良。誰かを傷つけるより、自分が傷つく方を選ぶ人。そこを好ましいと思っていたはずの長所が、今は忌まわしくて──けれど、ギデオンの覚悟を侮るような真似がしたいわけじゃない。そんな矛盾だらけで利己的な胸中を悟らせまいと、曖昧に視線を伏せた時だった。──すり、と少しかさついた頬が、控えめに擦り付けられる感覚。瞳を閉じた顔に浮かぶ安らぎに、ここ暫く悩まされ続けたどす黒い感情が掻き消え、今はどうしようもなく深い庇護欲が打ち勝った。無意識に慈愛が蕩けた微笑みを浮かべると、求め甘えられるままたっぷり数秒ほど、高い熱を移すように指を滑らせ、時たまその生え際を柔らかく擽ってやる。次第に深く落ち着いていく相手の呼吸に、いつまででもこうしていたい気持ちさえ湧き上がるが、額に滲んだ汗をそっと拭ってから、その白い指先を離したのは、夢魔との対峙でできた傷もまた心配だったからで。回復魔法は物理的・魔法的損傷に効果のあるもので、本来ならば体内から来る体調不良には効果が薄い。しかし、病による炎症などには多少影響があり、なまじ相性の良いビビの魔法は、それこそ一度夢魔の毒さえ中和した前科がある。迂闊な治療でギデオンの覚悟を無駄にするのは本意ではない。──なに、魔法が使えない症例など幾らでもある。そのために普段から数多の治療道具を持ち歩いているのだ。となれば、この寒空で熱のある患者に腹を出させるわけにもいくまい。離した手と反対の手は繋いだまま、小さく微笑みギデオンの顔を覗き込むと、乱闘で乱れた前髪を整えてやりながら、首を傾げて。 )
──ギデオンさん、ゆっくりでも良いから教会まで、歩けそうですか?
( いつかのやり取りを思い出す言葉を、穏やかな笑顔で囁いたのがギデオンのためだったのと同様に。教会を目前にして、大きな扉から顔を出したエドワードを目ざとく見つけると、繋いでいた手を離したのをもまた、紛れもなくギデオンの名誉のためだった。──あれから。礼拝堂に残された彼らはといえば、ビビの治療を受けてピンピンしている当事者たちを、精密検査を名目に厄介払いした後。三人が三人とも後始末やら、各所への融通を通すなどの雑事を得意としていたから、物理的にも法的にもさっさと火消しを済ませて、各所の応援要員達と現場の確認を進めていたらしい。先程から扉を出入りする捜査員の中には、見知ったギルドの顔達もちらほらと見受けられる。そうして、ビビからの報告を受け「僕が言うのも変だけど……本当にありがとう。」と真摯に頭を下げたエドワードは、次いで「そのギデオンさん、“彼女”に見つかると厄介なことになるでしょう」と苦笑して、教会の脇にある木製の小屋を指さす。それは、「今晩は徹夜になりそうだから、休憩室に借りたんだけど、今はまだ誰も使ってないから、落ち着いて治療できるんじゃないかな」少し前に暖炉に火をくべたから、いい感じに暖まっていると思うよ、と手を振るエドワードにお礼を述べて、ありがたく使わせてもらおうと、ギデオンを振り返った時だった。不意に、先程までギデオンと繋いでいた手を、それより幾らか薄い手に握られたかと思うと、「こんな時に、ごめん──今言わないと、次がなさそうだから」と、囁いたエドワードの、今まで見たことのない焦燥感の溢れた表情に気をとられ、その手を振り払うのが遅れた。 )
──っ、エドワードさん?
317:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-14 01:15:12
ん……
(それなりに体面は取り繕っているものの、今は力むことも忘れ、相手のくれる温もりをただ無意識に享受する。しかし、添えられていた手が離れていく肌寒さに、薄く目を開き。相手の愛情深い問いかけを数テンポ遅れて理解すれば、うっそりと唸り声を返して。ギデオンの方もまた、今行われたやり取りにどこかデジャヴを感じたのだが、今はいかんせん熱で頭が回らない。──そうして、弱った姿を存外素直に彼女にさらけ出しながら、優しく導かれるままに夜の森を引き上げた。
教会まで戻ってくれば、こちらを駆けつけたエドワードが顔色を変え、何事かを勧めてきたのを覚えている。おそらく「座って休め」とか、そういった類の話だろう。普段軽妙に砕けた態度をとる彼が、あまりに真摯に案じてくれたものだから、大人しく長椅子の片隅にぐったりと沈み込むことにした。教会に出入りする応援要員の何人かも、心配そうな声をかけてくれたりしたのだが、相棒が事情を話してくれたらしく、やがてそっとしておいてくれるようになり。──それからどれほど経ったのか。長い時間が過ぎたようにも思ったが、しかし実際にはおそらく十数分程度だろう。依然発熱は続くものの、多少回復しはじめたギデオンがまず浮かんだのは、自分も動かなければ、という使命感で。仮にも年長かつ熟練と呼ばれる部類、自分だけがこうして休んでいるわけにはいかない、せめて現場を見なければ。そう重い腰を上げ、多少ふらつきながら歩くと、ギルドから出動した馴染みの面々に進捗を確認し、しっかり残っていた神父と今一度顔を合わせる。彼はギデオンとヴィヴィアンの活躍に随分感謝してくれた一方、今回の召喚事故にはたいそうおかんむりであった。目の前で現場を見ていたため、今回の一部を除く祓魔師たちの無能ぶりがよくよく見えていたらしい。この召喚事故は紛れもなく人災である、もしも外の信徒たちが逃げた悪魔に遭遇すればどうなっていたことか、祓魔師協会には大至急説明責任を求める! ……云々。そもそもだ、彼らは君たちを現場から弾こうとしていたようだがね、逃げた悪魔を片付けたのは他でもない君たちのお陰に他ならないだろう、祓魔師として本当に恥ずべき体たらくと思わんかね! ……かんぬん。どうやら初見の温厚さに反して、キレると喋りが止まらなくなるタチらしい。これは好きに罵らせておこう、と途中で露骨に聞き流しはじめたギデオンが、話題に出た相棒の姿を探そうと、ふと辺りを見回した──そのとき。目に飛び込んできたのは、狼狽えるヴィヴィアンの手を、若い青年が握り込み、熱く囁いている光景だ。「だからだね……、む?」と。ひとりで興奮していた神父が、怪訝そうにこちらを振り返るのにも構わず。教会の扉の方へと、一直線に歩きはじめて。
「こんな時に、ごめん──今言わないと、次がなさそうだから」。そうヴィヴィアンに言い募ったエドワードは、今までになく真剣な顔で彼女の瞳を見つめていた。教会の内外は今回の事故の後始末で慌ただしい雰囲気だというのに、そこだけまるで別空間のようだ。「君に好きな人がいることも、君がその人に真剣だってことも、ちゃんとわかってる。だけどやっぱり、僕は君が好きだ。初めて会ったあの日から、ずっと気になって、ずっと見てきて……今日も、やっぱり感じたんだ。──君が好きだ。……ギデオンさんは、君の誠意をずっと袖にしてるんだろう。それなら、僕に少しだけチャンスをくれないか。あの人を好きなままでも、それでも構わないから。だから、一度だけ僕と──」と。言い募ろうとしたその先は、しかし途中で切り落とされる。横から大きな影が差したかと思えば、ヴィヴィアンの白い手首を、ギデオンが奪ったからだ。ふたりがギデオンを見上げたならば、そこにあるのは一見、いつもの冷静な表情だったことだろう。強いて言えば例の不調により、多少視線が曖昧な程度。しかし、ヴィヴィアンを握り込む体温の高い掌は、わずかに力が強かったし。エドワードを見下ろすその雰囲気も、表情はないというのに、どことなく威圧的で。)
……勝手な真似をされるのは困る。
(たった一言、ただそれだけ。しかしこの上なくシンプルに、彼と彼女がしようとしていた会話の拒絶を、反論不要とばかりに言い渡すと。ヴィヴィアンをぐいと引き寄せ、そのまま問答無用の態度で、魔法石の飾りが煌めく教会の外に連れ出してしまい。──無言で引っ張っていった先は奇しくも、例の小屋の方向で。)
318:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-15 10:37:44
きゃっ……えっ、あ、ウソ──ッエドワードさん!
( あまりに端的な、だからこそ信じ難い一言に、何が起こったのかすぐには理解出来なかった。力任せに引かれた腕にバランスを崩して、ギデオンに寄りかかる姿勢になると、そこで初めて──きゃあ、と何処ぞからあがった悲鳴に状況を理解して、一気に顔に血が上る。そのまま、無言の相手に腕を引かれてしまえば、慌てて振り払おうとするも、強く掴まれた腕はビクともしない。せめて真剣な表情でエドワードに振り向いて、精一杯その誠意に答えようとするが、無情にも。引き摺られるビビの鼻先で、教会の重い扉は音をたてて閉じられた。 )
──……ォンさ、ギデオンさん! そんな体で何処行くつもりですか! ッ、ああもう!
( 此方の腕を強く掴んで離さないと言うのに、幾ら呼びかけても無反応な背中。先程の言葉の真意を反芻する暇もなく、どうしても必死になってしまうのは、ビビを掴むその指先の温度が、先程触れた時よりずっと高くなっているからで。勝手に歩き続けるギデオンに、いい加減痺れを切らして、進行方向と反対に全体重をかけて地面に踏み込むと、無理やり例の小屋にギデオンを押し込む。この時の目の光は、恋する乙女のそれではなく、暴れる患者を制圧するヒーラーの物だったが──高熱で反応が遅れたか、それとも必死なヴィヴィアンに譲歩してくれたのか。なんとか暖かい室内に押し込むことに成功したギデオンの背中に縋り付き、怒りとも恐怖とも付かない感情を押し殺した懇願は、みっともなく震えて、我ながら聞くに耐えなかった。 )
……も、いいから、離して……手当て、させてください……こんな、無茶、しないで……
319:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-15 12:24:32
────…………
(ヴィヴィアンが必死に押し込んだ小屋の中、ようやく突き進むことをやめ、彼女を掴む手をゆるりと離す。しかし、己の広い背中に縋りつく相手の震えに、今は意図的に無言を貫いたまま、まずは室内を見渡して。──5歩も進めば突き当たるくらいには、こじんまりとした造りの小屋だ。カンテラと角笛、それに細長い警棒が壁にかかっているということは、夜警用の拠点なのだろう。教会の信徒たちのうち、ボランティアに名乗り出た者が寝泊まりするための場所──しかし、今夜は事情が事情ということで、非番となっているらしい。夜更けということもあって辺りはかなり暗いものの、既に暖炉に点いている炎が、暖かなオレンジ色を周囲に振りまいてくれている。黒々と燃える薪がパチパチと鳴るその上、炉の天板の部分には、軽銀製の小さなケトル。近くの小棚には、煎り豆の缶がいくつかと、数個の欠けたマグカップが置かれている。そこから横に目を移せば、向かいの窓から外を眺められる位置に、仮眠するには困らぬだろう古びたソファーベッドがひとつ。これも信徒が持ち寄ったと思しき手編みの毛布が積まれていて、如何にも居心地よさそうだ。……あそこなら、いいか。と、続きの何事かを深く考えはしないまま、身を落ち着ける場所として見定めれば、衣擦れの音を立ててようやく肩越しに振り返り。相手に見上げられたならば、先程の強引さから一転してただ穏やかな視線を返し、彼女の手をまたそっととるだろう。そうして、今度は無理強いせずにゆっくり相手を連れていくと、ソファーベッドに並んで腰を下ろすよう促し。コートを傍らに置き、ついで腹部の裂けたシャツも釦を外してくつろげる。先程のヴィヴィアンの必死の懇願は、きちんと聞こえていたらしい。だが、視線を合わせぬまま横の相手に向き合うギデオンは、まるで何かを待っているような──治療の先に何かを見据えているかのような、妙な沈黙を保っていて。)
320:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-15 13:59:56
(/※読み返しての追記:並んで腰かけたと書いてしまいましたが、治療に際して描写しづらい位置関係になってしまっておりましたら、スルーいただいて構いません。そのほかの改変もどうかお気兼ねなく……!蹴り可)
321:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-18 00:24:52
( / 大変お世話になっております。
二人の位置関係について、確認させていただきました。
以前より申し上げておりますが、細かい点を気にしすぎて身動きが取り辛くなるより、全体の流れを楽しめればと考えております。背後様に言われるまで全く気にしておりませんでしたので、本当にお気になさらず!
今回 特にお返事をお待たせしており、大変申し訳ございません。
リアルの時間管理を完全に誤りまして、お返事が出来て明日(1/18)か、明後日になってしまいそうです……。
度々申し訳ございません。長かったおまじない編のクライマックス、心より楽しんで参る所存です。どうぞ懲りずにお付き合い、よろしくお願い致します! )
322:
ギデオン・ノース [×]
2023-01-18 13:48:23
(/温かいお言葉と丁寧なご連絡、ありがとうございます! ご事情了解いたしました、のんびりお待ちしております。初の長編もいよいよ終盤、すれ違い続けていたふたりの交流が本当に楽しみです。こちらこそよろしくお願いいたします。)
323:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2023-01-19 23:42:06
( 静かな室内に暖炉の薪が爆ぜる音と、二人分の衣擦れがやけに大きく聞こえた。分厚い胸板に頭を預けるように乗り出すと、その傷の浅さを確認し、ほっと緊張を緩めた途端。──狭いソファーベッドの上、治療のためとはいえ上半身を晒した意中の相手と、こんな夜更けに二人きり。先程の教会での一連のやり取りが脳内にフラッシュバックして、それまで働いていなかった羞恥心が急に顔を出し、その傷を治療する指先が燃えるように熱く震える。沈黙に加わった己の心音が酷く煩くて、包帯の端を留めながら、その割れた腹に指を滑らせると、期待と羞恥に潤んだ瞳でおずおずと見上げ──最早その想いを自白したような男を目の前にして。視界に映った、何かを恐れているかのように、視線を逸らすギデオンに頭の中で何かが切れる音がした。 )
──……好き。貴方が好き、です。
( 徐に相手の頬へ両手を添わせたかと思うと、少し強引にその唇へと自分のそれを寄せる。ムードも技術もあったものじゃない、彼女の恋心そのもののようなそれが触れようと、寸前で止められようと。鼻先の触れ合いそうな至近距離で放った言葉は、結局変わり映えしない真っ直ぐなそれで。しかし、その真っ赤な顔に浮かぶ表情は、いつもの幸せに蕩けるような甘いそれではなく、眉間や口の下に深い皺を刻んだ、悲しみや怒りの綯交ぜになった、癇癪を起した子供の様な表情だった。──この人は、いつもそうだ。苦しみも、悲しみも、全部忘れてしまったかのような涼しい仮面に押し殺して。全てを一人で抱え込もうとする。此方はといえば、抱えているだけで辛いこの想いを、諦められなくなったというのに。まだ、何も教えてくれないのか──いや、ビビが苦しむだけなら、最初はただの憧れの延長線だったそれを、恋だ愛だと持ち上げてはしゃいだ己の自業自得だからまだいい。この先、人の頼り方を知らない不器用なこの人が、なにか致命的に苦しむ可能性の方が余程恐ろしくて。大きな緑の瞳に真剣な光を宿すと、まっすぐに相手のそれを覗き込み )
好き、だから。皆、ギデオンさんの力になりたい、のに……なんで。
…………いっつも、一人で危ないこと、するし。仕事だ遠征だって……ちゃんと、休まないし、っ。
っよくわかんない薬も、勝手に……一人で。治療しちゃダメ、とか。馬鹿じゃないの、ばーか!!
( レオンツィオが、スヴェトラーナが、ホセがそうしたように。過剰に自分の感情を抑え込もうとするギデオンを諫めようとして、冷静にそれを完遂するには、いささかビビは若すぎたし、ギデオンへの思い入れも強すぎた。此方のことを“相棒”だと言い切るギデオンに、ヴィヴィアンなりに踏み込み過ぎないよう、口出ししないよう弁えてきたにも拘らず、エドワードとの個人的な関係に口を出してきたギデオンへの私怨が、支離滅裂な言葉と共に大いに溢れ、ギデオンの頬を次々に濡らしていく。終いには、「今更…………困る、とか。私のことが好き、みたいなこと言ったって」と、自分こそ今更もじもじと小声で恥じらったかと思うと、「私の方がずっっっと、ギデオンさんのこと好きなんだから! アンさんにも、ジャネットさんにも、嫉妬だってするわよ!! 悪い!?」と、いつかの夜会でカトリーヌらにバカップル扱いされていたことが、さもありなんという台詞を吐き捨て。そうしてやっと一度口を噤んだかと思うと、ギデオンに軽蔑されたくなくてずっと溜め込んでいた全てを吐き出してしまったことに気が付いて、ゆるゆるとその首筋に向かって項垂れる。そうして、ずぴ、と鼻をすする可愛らしくない音を立てながら、速やかに謝罪すると、その身を離そうと胸板に手をついて。 )
勝手な、ことを申しました。ごめんなさい…………、嫌いに、なりますか、
( / 此方こそあたたかいお言葉ありがとうございます! 結局、大変お待たせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした!
お約束の期限ギリギリですが、ロルが出来上がりましたので提出させていただきます。
ビビの反応の方向についてはかなり悩みましたので、お返事し辛いなどありましたらお気軽に仰っていただけると非常にありがたいです。
引き続きよろしくお願いいたします。/蹴り可 )
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