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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
244:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-29 17:16:01
まったく悪いと思ってないでしょう!
( まさかこれでも更に大きな笑いを堪えているなど思いもしないため、謝ると言いながらも、拳を口元に肩を震わせるギデオンに、ビビの温度はますます上がるばかり。此方のパンチなど意に介さず笑う相手に、馬鹿らしくなって拳を下ろすと、ラメ入りのグロスが乗った唇を尖らせて、分かりやすく“拗ねてます”といった表情で、上目遣いにギデオンを睨む。──どんなに私が心をかき乱されているか、ちっとも分かってないくせに。人の羞恥心をいいだけ煽り、ひどい愉悦に震えている姿さえ気障で絵になるのが悔しくて。こちらもまた欄干にもたれかかりながら、未だ楽し気な相手を呆れた気持ちで眺めれば、よく笑う人だな……と絆されてしまうのは惚れた弱みだろう。──それでも、すぐに許してしまうのはあまりにも癪だ。もう少しだけ、となんとかその少し怒った表情を保とうとしても、首をかしげてギデオンの顔を覗き込み、もう数時間は呼べていない愛しい響きに耐えかねて、唇の動きだけでその名を呼べば、たちまちすぐに相好が崩れてしまう。見慣れない蝶ネクタイに指を伸ばして弄びながら、いつも健全に輝いている瞳はとろりと、深い愛情に溶かされているようだった。 )
──……さん、大好きです。
大好きなので、何されてもきっと許しちゃいますけど……あんまり意地悪しないでくださいね。
( まるで夢の中に誘われるかのような、それは美しいカデンツァにうっとりと目を細めた。煙草の煙が充満するうっすら白い空気が、天井のシャンデリアに照らされて、ステップやターンの度にキラキラと揺れる──まるで本当に御伽の国の中にいるような気分に、思わず小さな笑みが零れてしまう。勿論レオン&ル・ルーのようにはいかないが、学院時代からヴィヴィアンと踊ると上手になった気がするとさえいわれた腕前は、きっと常に相手をまっすぐに見つめている性分が、二人で踊るというダンスの性質に合うのだろう。それも今晩は気心知れたギデオンが相手となれば、行きたいと思った方向へ自然とリードされ、ターンしたいと思うタイミングもぴったりと合うものだから、いつも以上に気持ち良くたっぷりと優雅な間をもって、大好きな腕の中に帰ってこられる。けぶる視界でもなお鮮やかさを失わない遥か高い天井のステンドグラスや、色とりどりのドレスの花に感嘆のため息を漏らした瞬間。──アイスブルーの優しい瞳と目が合って、思わず吐いた息を呑んだ。急に心臓が高鳴り、先程まで境界線などなく溶け合っているかのように感じていたはずのギデオンの手が、急に耐え難い熱となって右手と背中の肌をじくじくと焼く。このまま黙っていると、運動した以上の熱が顔に集まっているのがバレてしまいそうな気がして、「グレゴリーさんが呪われたら、絶対私が解いてあげますね」と、この曲が使われる演目のヒーローとヒロインに自分をなぞらえたのは、何を図々しいことを、と笑い飛ばして欲しかったからだ。
そんな素晴らしい夢のような時間も、いずれ必ず終わりが訪れる。あまりにも有名な節が転調し、段々と豪奢に早く重ねられていく管弦の音が美しくも、この楽しい時間の終わりを告げていた。まばらな拍手の中、大きな満足と少しの寂しさを感じながら周囲を見渡せば、ホールの壁際にエドワードとジャネットを見つけて、現実に引き戻されるだけではなく、それまで殆ど周りが見えていなかったことを痛感させられる。そして不可解なことに彼らは、ラクロワ卿へ挨拶に伺うため、ギデオンたちを壁際で待つことなく、何故か未だホールにいる此方に近づいてくるではないか。──まるで、次の曲を踊ろうとするかのように。そういう嬉しくない予感というのは大抵よく当たるもので、ギデオンとビビの前に進み出たエドワードは二人に向けて、「やあどうも、お久しぶりです!こんなところでお会いできるとは……」と軽薄な笑みを白々しく浮かべたかと思えば、「相変わらずのお手前で。私とも一曲踊っていただけませんか」と、ヴィヴィアンの手を取って跪いてくる。何か共有したいことでもあるのだろうか、別にこの男と踊るのは、舞踏会で再開した夫婦同士、二曲目として大しておかしくもないため、これといって構わないのだが……、何より気になるのはその隣で、ビビやエドワードには目もくれず、婀娜っぽい視線をギデオンに送り続けているジャネットの方だ。その視線を見ると──何!?何この人……!と、本能的に悪寒が走る。つい縋るような思いでギデオンを見上げてしまうも、そんなことをしたって、自分が衆目の面前で誘われてしまった以上、残されたジャネットをグレゴリーが誘わなければ非常に体裁が悪い。──そうこうしている内に始まってしまった前奏は、明らかにしっとりと手を取る二人の雰囲気を盛り上げようとするそれで、半ば無理やり引かれた手と、「さ、行こうか」と囁かれたそれには何の興味もわかないが、ギデオンがこの女をダンスに誘うと思うだけで激しく胸がざわつく。エドワードによりホールの中心へいざなわれる間、何度も何度もギデオンの方を振り返った視線は不安そうなものとなって。 )
え、ええ……。
245:
ギデオン・ノース [×]
2022-10-30 03:18:27
(せっかく武器になるツラをしてんだ、間に合ううちにワルツくらいは覚えとけ──。3年前のギデオンにそうきっぱり命じたのは、誰あろう、先輩戦士のホセである。そのころのギデオンは、満を持しての昇格と共に大幅な昇給も叶い、今後の立ち回りを今一度考え直す心の余裕が生まれていた。だから、“引き受ける依頼の幅をさらに広げるにはどうすればいいか”と、ギルドで彼に相談したのだ。……結果、魔導学院時代のコネを仰々しく引っ張りだされ、三十路も半ばを過ぎた身で教養講座なるものに通わされる羽目になるとは、流石に思いもよらなかったが。とはいえ、夜間クラスで習得したマナーだの語学だの、音楽・歴史の知識だのは、その後開拓した分野のクエストにおいて、実際すこぶる役に立った。ほんの些細な教養ひとつで依頼元の関心や信用を買い、その後も連続指名してもらうことで懐が温まる、なんてケースは数え上げればきりがない。つくづくホセは頼りになる先輩なのだと考え直し、きちんとした礼を伝えたものだ──が、しかし。彼に対して、今宵この瞬間ほど深く感謝したことはないだろう。何せ今、うっとりと夢見るような表情でギデオンを見上げているのは、この半年間、数々の出来事をともに乗り越えてきた相棒のヒーラー娘、ヴィヴィアンである。美しく着飾った花盛りの彼女とふたり、それこそ戯曲の登場人物にでもなったかのように、ぴったりと呼吸を合わせて優美に舞い踊る一夜。そんな夢のような人生など、ホセのあの助言がなければ、決して得られなかったはずだ。そう、この特別なひとときに内心酔い痴れているのは、一見普段の涼しい表情を崩さぬままのギデオンもまた同じ。──そんな折に、ワルツの物語に準えた愛の言葉を囁かれたものだから。一瞬目を見開いてから、ああ……と、まるで眩しいものを見るかのように、柔らかく細めてしまった。……不意に、気がついたのだ。ギデオンが彼女を何かと揶揄いたがるのには、きちんと訳があったのだと。──どんなに彼女を意地悪くつついて優位に立ってみせたところで、ヴィヴィアンは何度でも、その甘い情熱で、ギデオンを優しく絡めとってしまう。たった今の包み込むような風雅な台詞も、テラスの去り際に囁かれた幾度目かの一途な告白も……建国祭最終夜の、あのどこまでも優しい抱擁や愛撫だってそうだ。ヴィヴィアンの愛情深さに、ギデオンはいつだって勝てない。それが穏やかに悔しくて、何度も何度も、些細なことでやり返そうと悪あがきしつづけてしまう──そういうことだったのだ。けれど結局はまた敗れ……またやり返し、また敗けて。その繰り返しの日々だった。そしてその敗北の積み重ねを、他ならぬギデオン自身、今や尊く思っていることを、最早認めないわけにはいかない。だから、今までにない感情を素直に混ぜた、しみじみとした微笑を浮かべてみせると。「……俺は生憎、律儀な王子様なんて柄じゃない」──ヴィヴィアンをくるりと大きくターンさせてから、既定のステップ通り、腕の中にふわりと迎え入れて。「夢の世界に招待したが最後──……二度と帰してはやれないぞ」、と。顔を寄せてそっと落としたのは、普段の心なく揶揄う笑みに匿わせた、半ば本気の想いだった。)
(そんな心地よい熱も、華やかで荘厳な弦とホルンが霧散させるのに任せてしまえば、フィナーレまであっという間。少しの名残惜しさと、それでも尚余りある満たされた思いを胸に、一度戻ろうとしたところで──ギデオンもまた異状を察し、かすかに面食らった顔をする。エドワードとジャネットはようやく自分たちの仕事を追えたらいいが、潜入捜査員同士でわざわざ接触したところで、いったい何になるというのか。情報共有なら各々耳に装着している魔導具で叶うはず、まるで時間の無駄ではないか。しかし憲兵の青年は、爽やかながらも有無を言わさぬ雰囲気で演技しながら、ヴィヴィアンを次の一曲にいざなう有様。真意はまったく量りかねるが、自分たちの正装組の司令官は彼であるから、下手に乱すわけにもいかないと判断。不安げな相棒を勇気づけるように頷くと、遠ざかっていく顔を見送ってやることにして。「──変わらないのね、女の趣味」……と。蜜の絡みつくような声に、ようやく隣にいるジャネットを振り返れば。その蛇に似た危うい視線を向けられて、ギデオンもまた、不穏な相手とふたりきりになってしまったことに気がついた。)
(──そんな、互いに少々因縁のある目上の男女が改めて再会したシーンなど、若い自分の知るところではない。潜入捜査が本格化する前にこの女性、ヴィヴィアンを連れ出せたのは幸運だったと、口の端を満足げに上げながら、ホールの中央へ彼女を悠々導いていく。彼女がどんなに戸惑っていようと、ここまで来てしまえば踊りだすほかないのだし、そうなれば数分の間だけは独占していられる……馬車で間近に見たときから、ずっと話してみたかったのだ。だからそのために、本来ラクロワ卿への挨拶後に行う聞き込みの前倒しさえ働いた。とはいえもちろん、今夜の目的を忘れてなどいない。本来の自分はあくまで憲兵団の一員、仲間たちの努力を、邪な貴族たちを一網打尽にする機会を、どうして無駄にできようか。だが捜査に戻る前に、せめてほんの少しだけ、自分の胸をざわめかせたこのヒーラーの不思議な魅力を探らせてほしかった。色恋に長年興味を持てなかった自分が、何故ここまで気になっているのだろうかと。──その本音は今はまだ顔に出さず、極は始まっているために簡略化した礼を済ませると、ヴィヴィアンの片手と背中に控えめな手を添え、早速ゆったりとワルツの群れに溶け込んでいく。流れているのは『シンデレラ』のワルツ・コーダ。それだけでは短すぎるから、『真夜中』も続けて演奏するに違いない。あの曲は飛び込みのワルツには向かない不穏な曲調だから、きっと一時的に照明を落とすなりして、事前に打ち合わせている数組のみが特殊な舞いを披露する演出でもするのだろう──ならば、その機に乗じてより話し込めるだろうか。諜報員ゆえこういった勘が働くだけの教養を身につけているわけだが、まさかこんな風に役に立つ日が来るとはと、奇しくも相手の意中の男、ギデオンと似たような感傷に浸りながら、のびやかな弦やきらきらした鉄琴のままに、彼女とステップを組み合わせる。──さり気なく口を開いたのは、僅かな転調のタイミング。ほんの少しだけ身を寄せて彼女を見下ろしながら、あくまでも軽く、まずはなんてことのない雑談から始めてみて。)
──踊りやすい、って……よく言われない? それとも冒険者って、皆こんな風にワルツも嗜んでるものなのかな。
246:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-02 01:11:50
( ──あー、本当に夢の中にいるみたい!ビビの言葉に一瞬見開かれた目が、あまりにも優しく細められるから、その後の見慣れぬ表情も相まって、自分は相手にとって、特別価値のある人間なんじゃないかと勘違いしそうになる。少し開けたスペースに誘われて、最早合図するまでもなくターンしようとした瞬間、囁かれた否定に思わず──ふふ、と小さな笑い声が漏れた。こんな時まで律儀に拒絶されたのだと思うと、半年前から変わらぬ頑なさに、最近とんと感じてなかったぬるい安心を覚えて、思わず顔がほころぶ。武骨な腕の中に帰ったら──私にとっては王子様ですよ!そう言って、困惑気味に逸らされる仏頂面を想像した時点で……迎えられた腕が武骨どころか、非常に穏やかに洗練されていたことも、懐かしさを覚えるほど、このやり取りが久しぶりだった意味も、そのどちらにも気付けていなかった。溌剌と顔を上げ、思ったより近くにあった意地悪な微笑みに、やっと警戒心を思い出しても時すでに遅し。その情熱的すぎる、しかし自分を揶揄うためだけに降らされた冗談だろうそれに「ひぇっ」と色気のない悲鳴を漏らして、耳の先まで一気に染め上げる。往生際悪く「や、だ、もおー……、」と動揺を誤魔化そうとした声も完全に上擦って、恥ずかしそうに長い溜息を漏らせば、困ったように眉を下げ、のぼせ上がった小首を小さく傾げて、降参するしか無かった。)
──……帰さないでって、言っても、招待してもくださらないくせに。……いじわる。
( そんな傍から見ても可愛らしい表情から一変、此方からさりげなく距離を取りながら「恐れ入ります……?」と見上げる彼女の、そつの無い微笑みを目の当たりにすると、これは強敵だなと女上司の想いの前途多難さを思って、思わず小さく笑いが漏れた。非常に真面目そうな彼女には──……数分前のホール上階、会場入口付近にて。聞き込み相手のお喋りに捕まっていた最中の話。……潜入を手引きをした不安がそうさせたのだろう、予定より早くホールから上がって来てしまったラクロワ卿に、ギデオンペアと合流する前、しかもトゥーヴロン夫人と離れた位置で鉢合わせしかけてしまい、慌ててダンスホールに降りてきたのだと。捜査のため直前にジャネットとは踊ってしまっていたから、誰でもいいから自由の効く他の相手と踊りたかっただけだと伝えてやると、笑われ心外そうに瞬きをしていた彼女の顔に、あからさまな納得と安心の色が浮かんだ。そのあまりの素直さには面食らい、己を棚に上げて心配さえ覚えてしまったが──それからは、プライベートに関する話題にも朗らかに答え、小手調べに投げたジョークへも、教養を感じさせる返答を打ち返してくる彼女との数分間は、信じられないほど早く過ぎ去った。それ故、エドワードと話しながらも、チラチラと相棒の方を伺う彼女が煩わしくて、態と彼らが死角になるような位置へリードし続けた動機も、愛しい相棒を見失って、どこか心細そうな表情を隠している彼女に湧き上がった愉悦も、この時点ではまだ無自覚だった。 )
( ──エドワードの言う通り、煌びやかでありながらもどこか不穏なワルツ・コーダが終わると、会場が暗くなり始める。最初は意図が読めなかったエドワードだが、話してみると気さくで明るい好青年で。正直、ギデオンの危機を前に"それどころ"では無いのだが、人懐こく、そもそも仕事相手である彼を無下にも出来ずに、へらへら笑う彼に適当な相槌を打つ苦痛は、短いはずのワルツ・コーダを、先程の花のワルツよりもずっと長く感じさせた。その上、先程より人が増えて来たのだろうか?早々にギデオンとジャネットを見失ってしまえば、"真夜中"で立ち止まって久しぶりに発見できたギデオンら2人の姿に、ぴしり、と固まってしまう。なまめかしい視線をギデオンに向けて、その腕を絡ませているジャネットと、それを振り払わないギデオン。その光景に──嫌、そんな女に触らせないで。それ以外の思考は何も働かず、遮二無二2人に向けて踏み出そうとした脚が、がくん、と背後から引き止められる。は、と振り返れば「ビビちゃん?どうしたの?」と、どこか感情の読み取れないエドワードに腕を掴まれていた。彼はビビの頭越しに2人を覗き見て──「ああ、ジャネットさん復縁できたみたい」と、楽しげに悍ましい言葉を吐く。復縁?知り合いだなんて、そんなこと一言も──と、駆け巡る嫌な想像に立ち尽くした瞬間、やっとこちらに気づいたらしいギデオンと目が合う。それから、立ち尽くすビビの腰に蛇のように目を細めたエドワードが手を回し、なにか覚悟を決めたようなジャネットが、うっとりとギデオンを見上げたのがほぼ同時だった。 )
嘘……、
( / お世話になっております。
お返事にお時間頂き誠にありがとうございました。設定置き場の方の返信はただいま用意しておりますので、もう少々お待ちいただければ幸いです!
たくさんのコンセプトアートや、季節柄のサイドストーリー非常に楽しませていただきました!いつもありがとうございます!当方も牛の歩みではございますが、少しづつ準備しておりますので懲りずにお付き合いお願い致します……!
さて、今回ですが、サイドストーリー『ハッピーハロウィン①』にて、ジャネット様の悪戯が決まりそうな予感が致しましたので、上記の展開とさせていただきました。
当方の完全な勘違いで、返信に困るという場合は書き直しますので、御手数ですがご教授願います。
以上の確認を長々と大変失礼致しました。問題がなければお返事には及びません。よろしくお願い致します!)
247:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-02 02:57:25
(青い闇の帳が下りる、広い広いダンスホール。様々な盛装で優雅に踊っていた男女がぴたりと立ち止まったかと思えば、限られたごく数組にスポットライトが当てられて。彼・彼女らの統率のとれた舞いに、会場中の目が自然と吸い寄せられている。一種の特殊演出とギデオンにもわかったが、それは同時に、闇のサロンの開催準備に向けた目眩ましであるということまでは見抜けないままでいた。否、普段ならば難なく勘づけたはずだろう──今回に限り見落としたのは、会場中に鳴り響く不穏な音楽に影響されてか、非常に嫌な焦燥感が胸の奥を焼くせいだ。──ギデオンの大事な相棒が、憲兵団の妙な男にかどわかされた。そして今や、人目を忍べてしまう暗がりのどこかに、離れ離れになっている。エドワードの行動は、任務中である以上意味あってのこととは思うが……それでも、ヴィヴィアンが最後に見せたあの不安げな顔が忘れらない。それを理由に、ジャネットには取りつく島もない態度を取る一方、狂乱的な時計の音が鳴り響くダンスホールに目を凝らし、ヴィヴィアンの姿を探し求めて。……だから、すぐには気づずにいた。自分の片腕に、ジャネットの不屈の細腕がしなやかに絡みついていたのを。彼女がうっとりとした顔で、その実腸を煮え立たせながら、何事かを囁いていたのを。ようやく相棒の姿を見つけてほっとしたのも束の間、彼女の信じられないという顔をどうしたのかと怪訝に思い──そこで初めて、ぎくりと強張って振り返れば。「……ねえ、ギデオン。覚えてる?」そこにあるのは、かつて十年以上前にも見た、情念の炎燃ゆる女の目。「──あなた、お菓子をくれなかったのよ」と、艶っぽい唇が蠢き、その瞳にラミアのような獰猛さが光る。あれだけ会場中に満ちていた針の音がぴたりと失せ、どこか死刑を知らせるような鐘の音がひとつ打ち鳴らされたかと思えば、美しく抒情的な弦の音がいっそ晴れやかに響き渡りはじめると同時。伸びてきた片手に顔を捕らわれたギデオンの、唖然と薄く開いていた唇に──ジャネットの熱い呼気がねっとりと押し入った。あまりの事態に頭が真っ白になり、凍りつくこと数秒──状況を理解するより早く、反射的に湧きあがった強い拒絶の感情で彼女をどんと押しのけるも、それはあまりにも遅すぎて。望まぬ行為を働かれた強い怒りと、間違いなくヴィヴィアンに見られたとわかっているが故の恐ろしさと。激情に未だ何事も言えぬまま、ただ息を震わせ、大きく見開いた目で彼女を見遣るが、ジャネットは妖艶に……そして酷く満足げに舌なめずりしているだけだ。後ずさるギデオンに尚も優雅に歩み寄る彼女は、また甘やかに話しかけはじめた──事態を見ているであろうヴィヴィアンの心を、残酷に掻き回すと知りながら。)
(/お世話になっております、今回も楽しみにお待ちしておりました! こちらでもあちらでも日々密なやりとりをしてくださっているおかげで、背後も変わらずのんびりと過ごしておりました。こちらが用意する資料集の更新などは、物語への愛着から好きでやっていることですので、どうか本当にお気になさらず(もちろん主様側の更新があるたびに密かに狂喜乱舞して何度も読み返しておりますが……!)。年末も近づき慌ただしくなってくる頃と思いますので、ご自愛を第一にお過ごしくださいませ。
ジャネットの“悪戯”について、仄めかしていただいた展開で相違ございません。そこまでやるとビビを描く主様側での収拾が大変かな……などと悩んでいたのですが、巧みに汲み取っていただいた上、その展開でも大丈夫そうとお見受けしたので、その流れで続けさせていただきました(『ハッピー・ハロウィン』は複数話構成ですが、最後はこのキスシーンで締める予定です。そこまでに挟まれる物語も営為執筆中ですので、今暫くお待ちください)。また、“それどころ”がこんなにも巧みに呼応するとは予想だにしていませんでした、とても嬉しかったです……!
さて、一点軽めの相談が。現在、ギデオン・ジャネットペア、ビビ・エドワードペアで現在分かれている状況ですが、「この組み合わせにチェンジしたまま闇オークションに向かう展開」にしてみても宜しいでしょうか。
・物語上の理由付けとしては、それぞれの修羅場がトゥーヴロン夫人かその取り巻きの目に留まっており、「悋気に苦しむ人間は闇の品を買い求めやすい」という理由でサロンに招待されやすくなったからだとか。
・メタ的な理由としては、ビビの嫉妬の自覚の掘り下げにもう少し時間をかけても良さそうかな……? という気がしているからだったりします。
また、もしこの方向で可能な場合、「ギデオン背後が一時的にエドワードを動かすことで、しばし彼とビビのやりとりを行う」、もしくは「ギデオン・ジャネットサイド、ビビ・エドワードサイドを、だいたいの時間軸を合わせつつ、背後各々でしばし別々に書き連ねていく」という形式のどちらがやりやすいでしょうか。前者は普段とは一味違う交流の良さ、後者はそれぞれの主人公の危機を思い思いに書ける自由度の高さがメリットと考えております。
上記相談内容によってこの後が変わるため、今回は一旦短めのシーンにてお送りしました。毎度相談事が多くお手数をおかけしますが、ご検討よろしくお願いいたします……!)
248:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-05 00:43:00
( それは正しく一夜の夢、優しい魔法が溶けゆく瞬間だった。薄暗闇の中、斜め後方を照らすスポットライトが、2人の重なったシルエットを、怪しくも美しく照らし出す。そんなあまりの光景に声も出ず、ただただ呆然と立ち尽くし。演者に集中しすぎたカップルにぶつかられて、魂の抜けかけた体が大きくよろめいた。咄嗟に肩を引き寄せられた硬い手は当然……ギデオンのものでは無い。今ギデオンの隣にいるのも自分ではない。その時点で既に、吐き気がするほど最悪な気分だと言うのに。直後、ギデオンが女を突き飛ばしたのを目にした途端、産まれてから一度も、感じたことの無い程、それは深く強い怒りが、ゾッと背筋を焼きながら湧き上がった。──ジャネットの深紅のそれよりも薄い、グロスののった唇を噛み締めて、つかつかと2人に歩み寄る。そのままブルネットを掴んで引き倒し、馬乗りになってその頬を張って──そんな、無意識に駆け抜けた苛烈な想像。それが、"ギデオンが望まない暴力的な行為を強いられたこと"への怒りだけでは、到底説明しきれない物だと言うことに、いい加減気づきかけていた。──ギデオンさんを困らせたくない。こんな醜い気持ちを知られたら、きっと嫌われてしまう。それが何より怖くて、「大丈夫?顔色が悪いよ、無理しない方がいい」と、最早どんな表情を浮かべていたのかも分からない顔を、分厚い胸板にそっと隠してくれたエドワードに縋ってしまった。 )
……少し、疲れちゃった。休ませてくださる?
( そう力なく俺にエスコートされる彼女には、少々ガッカリしてしまった。あんなに分かりやすく、あの壮年の男が好きで好きで堪らないといった顔をしておいて。あの光景を見ても、最初に信じられないといった表情を浮かべた後は、いっそ無感動な微笑を浮かべ続けたのは、仕事に対する責任感か、そもそも人への甘え方を知らないのか。彼女なら身も焦がすような想いというものを教えてくれる、そう思ったのは間違いだったか。少なくとも──もっと取り乱してくれた方が、奴らの目にも止まったんだけどなあ、と彼女の肩を支えながらも、次の作戦を考え始めていたのだが、後者はどうやら杞憂で済んだらしい。まだ明かりのつかないホールの壁際、まだぼんやりとしている彼女目掛けて──いや、これは間男希望の俺も獲物かな。豪華に見えてどこか安っぽさの拭いきれない新興貴族達の中、善良とはかけ離れていても"本物"の迫力を放つマダム達。そのうちのひとりが耳打ちをした道化師が、こちらに近づいてくる様に、ここ数ヶ月の努力が実ろうとしている実感を得て、密かに拳を握ったのだった。 )
( / 此方こそお世話になっております、いつも温かいお言葉をありがとうございます。背後様におかれましても、お体に気をつけてお過ごしください。
前回の展開についても、勘違いではなかったということで安心致しました。"それどころ"については、リアルタイムに関わる大変素敵なお話をいただき、少しでも活かせればと思った次第ですので、そう仰っていただけて光栄です。
ご相談の方もありがとうございます。
ギデオン・ジャネットペア、エドワード・ビビペアで闇オークションへ向かう展開について、承知致しました。ビビの心情描写にもご配慮頂き誠にありがとうございます。勿論全く問題ございません。よろしくお願い致します。
描写の仕方については、ギデオン様サイドも是非拝見したく、後者の「ギデオン・ジャネットサイド、ビビ・エドワードサイドを、だいたいの時間軸を合わせつつ、背後各々でしばし別々に書き連ねていく」という形式だと嬉しく思いますが、背後様にご負担のない方法で進めていただければ幸いです。
諸々のお気遣いやご配慮、大変ありがとうございます。引き続きよろしくお願い致します。)
249:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-06 16:07:16
(激しい嫉妬に掻き乱される相手の姿が魑魅魍魎の目に留まり、闇深きサロンの世界へ秘密裏にいざなわれた頃。ギデオンもまた、煮え立つような感情を努めて押しとどめながら、ジャネットと連れ立って階下の部屋へと向かっていた。──あの蛮行の直後、ギデオンを壁際に追い詰めたジャネットは、それまでの狂気めいた妖艶さを突然失せさせたかと思えば。まるで、今や望まぬプライベートな関係から、一憲兵と一冒険者という線引きのある関係に突如戻ったかのように、その瞳に理性の気配を取り戻し。「……あたしから見て十時の方向。二階席にエルノーがいるわ」と、顔を寄せるふりをして、こっそり囁きかけてきたのだ。「覚えてるわね? あの女、面白いものがないか探すような素振りだったわ。だからエドにあの子を連れ出して貰ったの。向こうも向こうで、今頃方法を探しているはずよ」──それでギデオンにも作戦が読めた、読めてしまった。ジャネットの言うエルノー夫人の情報は、当然頭に入れている。社交界の痴情の縺れに自分も関わるのが趣味であり、時には陰ながら破談の糸を引いては悦に浸っているという、性根のねじくれた女狐だ。しかし、あのトゥーヴロン夫人と親しくしている最重要人物でもある──青い血を腐らせた者同士、類友というやつなのだろう。ジャネットの横暴は、そんな毒婦の関心を引くためだったということだ。となれば、作戦への協力に引き入れて貰った身であるギデオンがここで何をすべきか、吐き気がするほど明白で。隠し切れなかった舌打ちの後、明るい照明が戻る前に人混みを離れて階段を登ると、ダンスホールを取り囲む二階部分の回廊へ。「……あくまでも演技だ」と脅すような小声を挟むと、心を押し殺し、恋人の目を盗んで不義を働く男女を装う──吹き抜けを挟んだ反対側にいるエルノー夫人の、いよいよ激しさを増す喜悦の視線を嫌というほど感じながら。ギデオンの荒々しい演技、本心の苛立ちを隠しもしない噛みつくような有り様は、僅かに残る理性で葛藤しながらも泥棒猫の色仕掛けに堕ちずにいられない、この上なく愚かな男に見えたことだろう。果たして、暫くそうしていた後、いよいよ外に抜け出すふりを装えば。中庭に続く扉を押し開けた先、仮面をつけた燕尾服の男がギデオンたちを待ち受けていて、一枚の黒い高級紙を差し出す。金箔で細く捺されているのは、『より素敵なお楽しみはいかが?』というごく曖昧な文言。「とあるご夫人からのご厚意による招待です。彼女に選ばれたほかの皆様も、地下で楽しんでおいでですよ。見学だけでもいかがでしょう?」と、仮面の男がいかにも好意的に言い添える。魔法の気配が感じられるカードは、どうやら一種の名簿兼誓約書らしい。意図を汲み取ったギデオンが仮面の男からナイフを受け取り、名簿への記名代わりに血判をひとつ捧げれば、仮面の男がメイドを呼び寄せ、「新しいお客様だ」と案内を命じる。そうしてとうとう、舞踏会を本格的に抜け出す段になれば。耳飾りにさり気なく手を触れたジャネットが、「まさか、グレゴリーさんと一緒にお招きいただけるなんて」と満足げな声を装い現状報告を。数秒の後、『──了解。俺たちもそろそろ抜け出す』『こちら、アリス・アラン班。制圧部隊の誘導に備えます』──聞き耳を憚る状況にはないらしいデレク・アランからも、ほんの少しの動揺が滲む応答の声が返ってきた。)
(そうして誘い込まれるままに、城の端にあった螺旋階段を果てしなく降りてから、燭台の灯りが揺れるばかりで人気のない曲がりくねった廊下を進み。門番の男の差し出した水晶髑髏に再び血を吸わせることで招待客の認証を得れば、いよいよ通されたその先は、地下にあるとは思えないほど豪華絢爛な小劇場。ダンスホールのそれに劣らぬ煌びやかなシャンデリアの下、段になった扇状の席は既にとんど満杯で、真珠の盃や金の水煙草を手にした正装の参加者たちが妖しく笑いさざめている。どうやら今は、それまでの競売がひと段落ついた幕間の時間らしい。座席の隙間を縫うようにして売り子をしているのは、奴隷にされているエルフ族の子どもだろうか。貴族たちが金貨を出せば、シーシャに使う魔草と思しき萎びたものを紙に乗せて手渡している。そんな忌まわしいサービスを手配したのであろう、この夜会の運営者──トゥーヴロン夫人はといえば、舞台上手側のクッション席にゆったりと身を沈めながら、競売人らしき男に何やら指図をしている様子。この現場だけで既に差し押さえられそうなものだが、隣のジャネットを見下ろせば、案の定目つきだけで(まだよ)と告げられたため、端の座席に並んで腰を下ろすことに。──辺りに充満する香がどうにも不愉快だ。ざわざわと肺が落ち着かない辺り、闇の魔素でも孕んでいるのだろうか。魔法医学を修めているギデオンの相棒ならば、きっとすぐにでもこの煙の害を見抜き、貴族どもを追い立てて適切な処置をとるだろうに。……如何にも泥棒猫らしくギデオンにしなだれかかるジャネットが、それでもその視線だけは抜け目なく会場中をチェックして機を見計らう間、ギデオンが考えていたのはやはり、離れ離れになった相棒のことで。煙る場内に視線をさ迷わせてまだ来ていないか探していたものだから、右肩の傷がかすかに疼きだしたのに気づきもしない。──そうこうするうちにも、次の一幕の始まりだ。台に戻った競売人が木槌を高らかに打ち鳴らし、新しい“商品”のお目見えを揚々と場内に知らせて。)
250:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-09 10:37:15
( / お世話になっております。ビビの背後です。
お待たせしており大変申し訳ございません。現在続きは準備中なのですが、本日までリアルの方が立て込んでおりまして、完成と提出が明日になってしまいそうです。
重ね重ねご迷惑おかけ致しますが、懲りずにお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願い致します。/ 蹴り可 )
251:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-11 01:48:15
( ジャネットからの連絡が届いたのは、道化師のパントマイムを先導に、控室奥の隠し階段を下りている最中だった。ホールで渡された黒い高級紙。『より素敵なお楽しみはいかが?』の金箔がほどこされた面の裏に、『愛しいあの人の心の射止め方を教えてあげる』なんて、奇しくも例の“お呪い”を彷彿とさせる走り書きが足されていたのは、仲介したのが物言わぬ道化師だったからだろう。社交界での“お呪い”の伝播の速さに舌を巻く一方で、「おや、これは?」なんて白々しく目を丸くするエドワードとこの文面に、やっと不可解な行動をとる憲兵たちの意図に気が付くも、普段であれば情報共有の杜撰さに、精々眉を潜めるか、人の傷心に付け込むような文面にまっすぐな怒りを燃やすだけで済んだに違いない。しかし、ピエロに促されてカードを裏返し、初めてその誘い文句を目にしたその瞬間。──ドキリ、と。ほんの少し、けれども確かに揺らいだ心臓を自覚してしまえば、己の中にある、加害者たちと変わらない卑怯さがおそろしくなって、ギデオンを振り返る権利さえなくなってしまった気がした。──ふ、と小さく震えた空気を漏らす口元を押さえて「ねえ、私。いってみたいわ」とエドワードの袖を引く。そうして満足げな道化師に続いて、早々にホールを引き上げたビビの表情。もし仲間たちが見ていたのなら、名演技だったとそやされたろうそれは、明らかな自棄と自己嫌悪に焼かれた女の顔だった。
そうして、届いたジャネットの報告に、こちらもエドワードと二人。潜入成功したことを伝えるべく、小さな悲鳴を上げながら足を踏み外した振りをして、エドワードに縋りつく。「暗いから気を付けて」と、呆れの隠しきれていない表情で此方を覗き込む彼に「ごめんなさい、ありがとう」と微笑みながらも、つい──ギデオンさんなら、わかってくれるのに。とその苛立ちこそ顔にしないが、さりげなくエドワードの耳たぶを弾く指に力が入った。ビビの狼藉に驚いたように目を見開きながらも、やっと心得たらしい表情を浮かべた男憲兵が「大分下りてきたけど……招待客を随分歩かせるじゃないか」とイヤリングに触れながらピエロに話しかける振りをするのに便乗し「控室がこんな場所に繋がっているなんて」とさりげなく、連中のいくつあるか分からない逃げ道をひとつ塞いでおく。そんな二人に、ぺこぺこと大げさに振り返る道化師の背後、門番と水晶髑髏の仰々しい空間が三人を待ち構えていた。 )
( そうして会場に足を踏み入れた瞬間、思わず顔を顰めたのは、会場全体に蔓延する特徴的な魔素と香りに覚えがあったからだ。どこの青少年が集まる場にも一定数、問題児というものはいるもので。それが魔導学院になると、一定の能力や頭脳を持ち合わせている分 余計に質が悪い。この芥子や麝香、蘭奢待などの混ざった特徴的な香りは、そんな碌でもない後輩の暴走に巻き込まれ、一度だけ不可抗力で目に……鼻にしたことがある、アルカンシァの蛇涎香──勇気をもたらす香りとして、古代アルカンシァの兵士に好まれたというこの香は、実際のところ高い興奮作用を持ち、聞いた者の罪悪感や理性を薄れさせる効果を持つ。重度の使用者による度重なる犯罪事件や、強い万能感に対する薄れた際の悲壮感による高い依存性、その他が大いに問題視され100年以上前から国際的に禁制となっている──それそのものだ。強い影響力のわりに、材料がその辺の野草や、低級モンスターから集められ、精製法も魔導学院の悪童でなんとかできるレベル。これで性的興奮作用も芳しいとなれば、今も一部の好事家たちの中で出回っていると知識としては知っていたが──……これだけで十分差し押さえられるじゃないと、図らずも思考回路は離れ離れの相棒と同じで。そっとドレスの裾に手を伸ばそうとすれば徐に、肩に回されていた手に強い力を込められ、思わず痛みで顔をしかめた。──いきなり何を、と化けの皮が?がれつつあるエドワードを軽く睨みつければ、「こんなもの。だんまりの間に保釈金を積まれて全部終わりさ」と、吐き捨てた彼の眼差しには強い正義感が滲んでいて、その真剣な表情の意外さに思わず、自分の肩の痛みなど一瞬で許してしまった。ギデオンとどちらが高いだろう位置にある眉間に手を伸ばし、深く刻まれた、似合わないその皺を伸ばしてやる。リリーを狙う男を演じた以上、振り払うわけにもいかず、迷惑そうに口を歪める表情は中々滑稽で、少しだけ溜飲が下がる。この香は依存性のわりに、其れそのものが体に及ぼす毒性は低い。仲間達の浄化も十分ビビの手に負えるだろう。馬車の中で確認した必要な証拠は、人身売買と違法薬物、それから聖獣の横流し。この真面目な憲兵の努力を思えば、取り押さえるのは三つ全てを確認してからでも──なんて、結局は蛇涎香に判断力を多少なりとも犯されていたとしか言いようがない。素面であれば、“この特徴的な魔素”の既視感を見逃したりなど絶対しなかっただろう。 )
( そんな風にビビ達が会場に足を踏み入れたのは、ちょうど競売が終わりかけ、本格的に幕間が始まる直前だった。先程イヤリングから聞こえた報告によれば、ギデオンたちが来るのはもう少し後になるだろうと踏んで、こんな下衆な催しでも人気らしい前方席を押さえておくことにする。エドワードのエスコートで席に座り、好奇心で旺盛な田舎娘といった様子で、周囲を観察していると「ねえ、お隣宜しいかしら?」と前列から降り注いだ声に、勢いのまま立ち上がらなかった自分を褒めてやりたい。「勿論です、マダム」と優美にお辞儀するリリーに、ほほ……と上品に微笑む彼女は、既にビビの隣に座っていた初老の男性から席を横取る姿から見て分かるように、上品という言葉からは一番かけ離れた存在。エルノー夫人その人だ。彼女の悪趣味が、悪趣味で収まっているならばまだいい。最近は彼女と関わった男女の心中事件が頻発し、しかも尽く心中した二人の遺産がまわりまわって──“トゥーヴロン夫人の懐に転がり込んでいる”。どの件も証拠不十分で起訴には至っていないが、このサロンに限らず、どれだけの余罪があるのやら──カードの文面から想像はしていても、この催しに自分たちを招待した黒幕を確信し、その相手を目の前にすればどうしたって体がすくむ。夫人が座っても中々腰掛けようとしないリリーに何を思ったのか、上機嫌で「そんなに畏まらなくていいのよ。私はあなた達の味方ですもの」と手を握ってくる爪が凶器のように尖っていて──わあ、アーヴァンクみたい……と、先日もビビの来訪を花や魚を用意して歓迎してくれた、人懐こいモンスターが脳内をよぎったのは、過度な緊張による混乱だろう。ゆっくりと腰掛けたリリーを見て、満面の笑みを浮かべた夫人にぞっと身の毛がよだつ。これはまさしく獲物を見つけた猛獣のそれだった。「──ああ、可哀そうに!」とビビの両頬を包み込んだ夫人の表情は喜色満面といった様子で、同情の欠片も見当たらない。しかし、夫人がペラペラとまくし立てた内容を思えば、それはむしろ救いだった。自分はグレゴリー達が舞踏会に来た時、仲睦まじい夫婦の転入に大いに喜んだのだと。それだというのに、ダンスホールでの修羅場を見てリリーに深く同情した。不意を突かれたとはいえ、避けようと思えば、大の男が鍛えてもいない女からのキスを避けられないわけがない。つまり遠回しにリリーは不幸だと、何度も何度も懇切丁寧に繰り返されて、少しでも夫人に本当の同情の様子が見られれば、あまりの惨めさに心が折れていたかもしれない。途中からはもう、早く競売が始まって必要な証拠が集まることだけを祈りながら、適当な相槌を繰り返していたリリーにめげることなく話を続け、それどころか「ねえ、これはあなたのために見せるのよ」と眼前に差し出された水晶に、初めて嫌な予感が背筋を貫いた。先程からさりげなくビビの手をさすってくれていたエドワードの手が強張るのがまた、その予感に拍車をかける。無属性の投影魔法がかけられたそれは、もやもやとダンスホールの映像を映し始め、ビビ達が道化師につられてホールを出た後、ギデオン達がどうやって会場に招待されたのかを、はっきりとビビに教えてくれる。ある程度予想……予想というか、そうじゃないといいな、って思ってた。──この光景を見て最初に浮かんだ感情が、あれだけ彼女のキスに拒絶を表していたギデオンへの同情や心配ではなく、ジャネットへの強い怒りだったのだから、もう……認めねばならないだろう。ぼたぼたと目から溢れだした汚い感情が頬を濡らして、目の前のエルノー夫人の口角が吊り上がる。「ああ、怒らないで。仕方ないのよ、男の人ですもの」そう嘯いた彼女は、小さな小瓶をリリーに握らせる。「でもね、お近づきの印に良いものをあげる」──あなたも聞いたことがあるでしょう、恋のおまじないよ。ベッドを共にする夜に、これを二人で飲むの。そうしたらあの人は、あなたのものよ。そう囁いた夫人が「ね、使い方を教えてあげるから、この後私の部屋にいらして?早くしないと……」そう指さした先には、人目も気にせずにギデオンにしなだれかかるジャネットと、それを振り払わずにいるギデオンが、始まったばかりのステージの光に照らされていて──泣きぬれるリリーの左手は、神経質なのだろうか、ずっと己のイヤリングを弄り続けていた。 )
……どうも、ご親切に、ありがとうございます。
( / 大変お待たせした上に、昨日中に間に合わず大変失礼いたしました。大人組の色っぽい雰囲気や、背後様描写の豪華絢爛ながら怪しい小劇場の雰囲気に魅了され、クライマックスの気配にも書きたいものが大暴走した結果、大変お待たせした上、割愛しきれず大・大・大長文となってしまいお恥ずかしいやら、なんとお詫び申し上げればよいやらで……。この後は、すぐに証拠を集めて捕り物に移行していただいても結構ですし、背後様の進めやすいようお好きに展開していただければ幸いです。
いつもお付き合いありがとうございます。設定置き場の方でも申し上げましたが、この機に少しでもあちらの方に情報を追加できればと考えておりますので、ご自分のお身体のことだけを優先に、ゆっくりご自愛なさってくださいませ。また回復された背後様とお話しできる日を心待ちにしております。/蹴り可 )
252:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-12 02:19:43
(ふと耳に届いたそれは、偽善と愉悦で脂ぎった、覚えのない女の声。何事かとカフスを押さえて真剣に聞き入れば、女はどうやら、話し相手の女性を慰めている……ふりに興じているようだ。“お近づきの印”についてぺらぺら宣いだした辺りで、この音声の送り主はヴィヴィアンだと直感する──実際その直後には、ヴィヴィアン本人の……か細く震える謝礼の声が聞こえてきた。どんな様子か気がかりではあるが、ギデオンの優秀な相棒は、この舞踏会に潜入した本懐を見事遂げかけているらしい。これはきっと、エルノーだろう声の主が憲兵団の拘束下に置かれる前に、ふたりで尋問しておこうという誘いだろう。お喋り好きな夫人を叩けば、社交界に潜り込んでいる“銀髪緋眼の黒幕”について、何かしら有益な情報を得られるはずだ。
「……ジャネット、こっちの捜査に進展があった」と隣の女に耳打ちすれば、肩を竦めた彼女は、ギデオンに甘えながらイヤリングを弄ぶふりをして、各員に指示を飛ばす。──エドワードは次の3つのオークションで入札者を装い、突入のタイミングの調整を。デレク、カトリーヌはエルフ族の子どもたちを誘導して安全地帯へ。会場外にいるアリス、アランは門番を制圧し、水晶髑髏のギミックを無効化、制圧部隊と突入準備を。ギデオンとヴィヴィアンは、独自調査のためにここから別行動へ移って構わない……ただし、あくまでもこちらの制圧を妨害せぬように。
各々の「了解」という返事やそれを意味するタップ音が聞こえてくると、いよいよギデオンも立ち上がり、ジャネットを振り返ることなく会場端に移動する。……相棒の顔を直接見て話したいところだが、生憎それにはまだ早い。カフスに触れて魔力を込め、「ヴィヴィアン」と呼ぶ低い声を後方から飛ばす。ほんの数十分前までふたりで動いていたというのに、長いこと彼女と話さずにいたような感覚に陥るのは気のせいだろうか。「……エルノーの話は聞こえた。次のオークションが終わったら、彼女の誘いどおり部屋に向かってくれ。俺も後から追いかけ──……!?」と、作戦を伝える言葉は、しかし驚愕に途切れて終わる。いよいよ始まった最後の競売、観客席の照明が落とされた代わりに明るくなったステージ上。──大型のスフィンクスを閉じ込めた檻や、美しい人魚を沈めた水槽、その奥に……正確には、彼らの前座として。……銀髪緋男の美しい青年が、進み出てきたからだ。)
(/改めて、あちらでも丁寧に打ち合わせをしてくださりありがとうございました……! 主に感想がメインですので、こちらはお返事には及びません。
まず、今回も1000字弱とまだまだ長いままですが、ここから少しずつ初期のロルに寄せてボリュームダウンを目指しますので、何卒ご容赦いただければ。主様の方で今後執筆するシーンも、こちらを気にすることなく、当初のような短いものにしていただいて大丈夫です。
また、当方の描写をお褒めくださり恐縮です。主様の今回の更新分をわくわくしながら読み込んだのはこちらも同じでして……! 嫉妬や自己嫌悪を経験したビビの確実に増している色気や、エドワードの眉間を伸ばす戯れの微笑ましさ、彼女に気のある素振りのない方がビビと普通に親しくやれそうなエドワード、アルカンシァの蛇涎香という魅力的な危険薬物、闇の魔素の要素の回収、悪趣味な性格に残酷な計算高さが合わさって悪役としての格を増したエルノー夫人、彼女の仕打ちで例の現場を見てしまいぼろぼろ泣いてしまうビビの憐れさ、その中にもしっかりと宿る潜入員としての強かさ……などなど、本当に見どころたっぷりのロルをありがとうございました!
今後については今のところ、エルノー夫人に問いただそうとしたところ黒幕本人が現れたため、どうしようか見計らっているうちに、エドワードの号令により制圧部隊が突入。その騒ぎで怪我人が出る中、インキュバスを追いかける形で再びふたりになって……という流れをぼんやりイメージしております。あくまでガイド程度の大筋の案ですので、臨機応変の別ルートも俄然大歓迎ですし、主様の中に別案があれば是非ご共有くださいませ。
改めて、引き続きよろしくお願いいたします。/蹴り可)
253:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-12 11:52:06
……っ、
( ジャネットから指示が飛ぶ間も、未だエルノーはビビの手を握り、優しい気遣いを装った雑言を繰り返し続けている。ステージから響く俗っぽい競売主の木槌の音や、美しい奴隷の登場に観客席から上がる下品などよめき、そんな聞くに絶えない騒音を切り裂いて飛びこんできたのは──大好きなギデオンが自分の名を呼ぶ声。それだけで無闇に掻き回され、傷つけられた心がすっと落ち着いて、もうずっと俯いていた顔を上げる勇気が湧くのだから、我ながら単純なものだ。目の前のエルノーにバレないよう、ギデオンからの指示にタップ音だけで返事をする。お互い顔も見えない中やり取りをしているというのに、一度も互いの返事がかち合って混線する様子のないやり取りに、ギルドメンバーたちが苦笑していたことなど知る由もない。また1人、罪のない奴隷の競売が終わったらしい。一瞬 静かになった小劇場で、ギデオンの指示通りエルノーの誘いを受けようとして───絶句したギデオンの様子を伺おうと周りを見回し、ステージ上に"それ"を見つけてしまえば、相棒同様目を見開いて絶句するしか無かった。「紳士淑女の皆様、御機嫌よう」そんな隙のないお辞儀とともに始まったそれは、好色な淑女達だけではなく、ステージ上の"商品"が、美女から櫛に変わって興味を失ったように見えた、露骨な紳士たちさえも引き込む不思議な魅力を纏っていた。『とあるお"まじない"をかけると、この櫛で髪をとかしたあの子の心を必ず手に入れることができる櫛』この1ヶ月、嫌になるほど耳にした言い回しに、再びイヤリングに手を伸ばしかけた瞬間──「100だ」と。確かに、会場の耳目がステージに集められている今は、踏み込む絶好のチャンスだったろう。先程からビビの隣で、3000、20000、と競売に参加するふりをして、密かにカウントダウンをしていたエドワードが大きく声を張り上げたかと思うと、会場の扉が大きな音を立てて、外から勢いよく開かれる。「動くな!カレトヴルッフ陸軍だ!」と響いた怒声に一瞬、静まり返った会場は、流石に野盗の巣窟とは訳が違う。参加者の殆どが、体力的に勝ち目のない憲兵相手に暴れるよりも、いかに従順に振舞って保釈金を積み、今夜のことを揉み消せばいいと考えていたに違いない。しかし、そうされて困るのは──証拠がたっぷり詰まった会場を、現に抑えられている主催者達だ。人殺しさえ厭わない悪党どもが、いっそ騒動の隙に逃げ出してやろう、そう考えてもなんらおかしくはなかったというのに、あまりの悪意に気づくのが遅れた。急に濃くなった蛇涎香の魔素にハッと顔を上げ、「口と鼻塞いで!吸わないでください!!」そう叫んでももう遅かった。香炉の近くにいた参加者が意味不明な奇声をあげたかと思うと、会場は蜂の巣をつついたかのような大混乱に陥って。 )
──ギデオンさん!!
( / こちらこそ、暖かいお気遣いをありがとうございました。ああ仰っていただけて大変安心すると共に、これからも二人の冒険を見守っていける喜びで胸がいっぱいです。これでまたご相談のお返事に時間をいただいて、本編の進行に遅れを来たしますと本末転倒ですので、誠に申し訳ございませんがお言葉に甘えて、こちらでお返事とさせていただきます。中々お返事敵いませんが、いつも最後まで読ませていただいております。
当方もまだ今回は場面転換とはいえ、1000文字を超えておりますし、こちらの方も無理せず少しずつ理想に近づけていければと思っております。前回当方がやりたかったことも全部気づいていただけて本当に光栄です。
今後の展開についてもご共有ありがとうございました。エルノー夫人に問いただそうとするところにつきましては、当方の技術で綺麗にまとめきる事が難しかったため、以上の形とさせていただきました。かなりあっさりで申し訳ございません。大枠につきましては確認しておりますので、是非そちらでよろしくお願い致します。/蹴り可 )
254:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-12 13:06:17
──ッ、アリス! 会場を排気しろ!!
(相棒の呼ぶ声にぞっとして、会場前方へ駆け出しながら、即座の指示を魔導具越しに怒鳴り込む。しかし──古代の兵士たちが強壮剤として好んだ魔香、その原液そのままの香りが、辺りに濃密に満ちはじめれば。強い猛毒に耐性のない貴族たちが、前列から次々に発狂し暴れだすのは、必然の事態というもので。更におぞましいことに、スフィンクスの檻の扉を、壇上のだれかが開け放ったらしい。次の瞬間、アルカンシァに中てられた狂える聖獣が猛然と飛び出し、太い前脚を薙ぎ払って参加客たちを吹っ飛ばす。轟く咆哮、つんざく悲鳴、苦し気な金切り声、我先に逃げ出そうとする叫び声、それを抑え込む王立憲兵団の怒声。まさに最悪の大混乱だ。──しかしこの場の鎮圧は、エドワードたちに任せるほかない。この二ヵ月近く捜査してきた悪質なまじない事件、その犯人がすぐそこにいる。なんとしても捕まえなければ──そのために、まずは相棒の無事を確保しなければ。白目を剥いて飛び掛かってきた貴族を屈んで避け、立ち上がりざま鳩尾に一発ぶち込み、近くの憲兵に押し付け、そういったことを繰り返しながらどうにか前方に辿り着くと、そこはいちばん悲惨な状況。暴れるスフィンクスに数人が噛み裂かれ、ドレスの女たちは泡を吹いて倒れている──エルノーは見当たらない、トゥーヴロン側の人間であるがゆえにこういった事態も見越していたのか。憲兵団に指示を飛ばすエドワードがスフィンクスとやり合う間、相棒に背後から襲い掛かった貴族の老人を殴り倒して沈めると。袖口で口と鼻を押さえ、辺りの騒乱に苛立たしそうに顔を顰めながらも、ようやく相手と再会し。)
──ヴィヴィアン! 無事か……!?
255:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-13 10:43:55
( いけない、幾ら毒性が低いとはいえ……!突如パニックに陥った最前列、逃げ出した誰かが落としたらしいステッキを拾えば、他の参加者を庇い、奇声を上げて殴りかかってくる参加者の攻撃を真っ向から受け止める。「くっ……!」特別体を鍛えていない一般人とはいえ、香で正気を失った成人男性の手加減のない一撃をもろに食らえば、手がビリビリと痺れる感覚に顔をゆがめて。90度に折れ曲がり、使い物にならなくなったステッキを早々に捨て「ごめんなさいっ!」と高いヒールで紳士の顎を蹴りあげると、あられもなく広がったパニエの裏、レースの海の中から取り出したのは手に馴染んだいつもの杖で。初めて1人西部地区に踏み込んだあの夜から、二度と手放さないと誓った獲物を片手に、今しがた自分で吹き飛ばした紳士に浄化魔法をかけていると、背後に迫っていた男性に気づくのが遅れた。 )
っ……!
はいっ、ありがとうございます!!
( ──ああ、これでもう大丈夫。正気を失った者たちに、暴れる猛獣、怪我人多数の決して安全とは言い難い状況下、視界に飛び込んで来てくれた相棒に、いっそ場違いな程の安心を覚えて、無意識に頬が緩む。解れてしまったドレスの裾を翻しながら立ち上がり、真剣な表情でギデオンを真っ直ぐに見つめた謝罪は、共に2ヶ月追いかけた犯人より、目の前の広がる被害を優先せざるを得ないヒーラーの矜恃で。「ごめんなさい……香炉を、止めて来ます。
ギデオンさんはあの男を!私も後で追いかけます」 そう既にステージ上から姿をくらましかけている銀髪の男を指しながら、取り出したハンカチを魔法で濡らし手渡す。ドレスの裾を割いて作った自分の分で、鼻と口を覆い、首の後ろで結んで見せながら付け足した注釈に、それどころじゃない緊急事態だというのに、どこか間の抜けた恥じらいが浮かんだ。 )
それ、今日はまだ綺麗なので安心してくださいね!
256:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-13 12:34:46
(ぱっと顔を綻ばせた相手を見て、騒乱の中だというのにふっと瞳を和らげる。何も心配は要らなかった──自分の相棒は、若手でありながら底抜けに強いヒーラーなのだ。真剣な面差しで告げられる使命の宣言にこくりと頷き、ギデオンもまた、再会してすぐにもかかわらず身を翻しかけたその矢先。魔法水で濡れたハンカチを不意に差し出され、素直に受け取りはするものの、戸惑うような顔を返す。こいつは、魔香がいちばん濃いここで踏ん張るおまえこそ使うべきじゃ……と言いたかったのだが、相手はすぐさま、惜しみなくドレスを裂いて自分のマスクの急拵えを。かと思えば、こんな時にもふにゃりと乙女のはにかみを見せてくるものだから──ああ、つくづくうわてな相手だ、と。乱闘を経ていつものようにほぐれ始めた前髪の下、心強さに思わず微笑むと、ありがたくハンカチで口元を覆い。こちらの顔もまた、獲物を追う戦士の精悍なそれに一変すれば、あとはただ一心に、舞台袖に消えた敵の方へと走り出すことにした。)
……手が空いたら連絡してくれ、場所を伝える。──ここは頼んだ!
(──そんなやりとりの、相手の方にだけ、居合わせた青年憲兵の目が釘付けになっていたとはつゆ知らぬまま。ここから逃げ出そうと闇の奥へ駆ける銀髪の輝きを、執念深く追い続けた末。元々この城のものであろう、宝飾品や武器の類が棚のあちこちに仕舞われている地下深くの倉庫にて──ギデオンはしかし、予期せぬ苦境に追い込まれていた。……ギデオンが決して諦めないと気付いた銀髪の男は、とうとう捕まって取っ組み合いになった末、とどめの雷魔法を打ち込まれる直前に。ギデオンの太い首に、その鋭い爪を走らせたのだ。ただの裂傷程度ならば別に気に留めるはずもなかった──しかし問題は、その爪から、おそらくは悪魔の毒を流し込まれてしまったことで。……元々、ある種の興奮作用をもたらすアルカンシァの香りを多少は吸い込んでいた上に、ずっと無視し続けていた右肩の古傷の痛みが理性を掻き乱していたところを──血管に直接入り込んだのが、よりによって夢魔、インキュバスの毒。傷の痛みだけではない異様な熱さが全身をどっと巡り、思わず床に崩れ落ちて目を?くギデオンの息が、獣のように荒くなる。揉み合いの際に額が割れて自らも流血していた銀髪の男は、それを悠然と見下ろすと、「……良い夢を」とやけに美しい声で囁き、闇の奥へと立ち去ってしまった。──駄目だ、追わなければ。奴を今ここで拘束しなければ……! そうはわかっているのに、異常をきたしたギデオンの体は、藻掻くばかりで制御が効かない。無理やり引き出された獣性のまま、手当たり次第に周囲にぶつかり、棚の品々が派手な音を立てて落ちるが、それでも衝動は収まらない。頭の奥で微かな理性の声がする──早く、早く己を取り戻せ。でなければ──あの娘が、ヴィイアンが、いずれはこの場に来てしまうからと。)
257:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-15 01:34:31
( もうもうと紫煙燻る小劇場にて。大好きな相棒からかけられた信頼に、喜びの隠しきれない笑みを浮かべて力強く頷けば、十数分後。そのギデオン本人が冷たい床に倒れ臥しているのを見つけるまで、ずっと走り通しだった。群がる貴族達を吹き飛ばしては、その隙に浄化するという荒業を久しぶりに披露しながら。強い香りを放ち、色濃い煙を吐き出す香炉を止めることに成功すると、約束通りイヤリングを通して伝えられた倉庫へと急行する。もし先に男を捉えられたのであれば、まっさきに連絡が入るはずにも関わらず、場所を伝えたあと沈黙するイヤリングに嫌な予感を覚えれば──呼吸の、及び全力疾走の邪魔をする粗末なマスクを流れる廊下へかなぐり捨てた。 )
──……ギデオンさん?ッギデオンさんッ!!
( そうして訪れた地下の倉庫は、周囲より機密性が高いらしく、蛇涎香の甘ったるい香りが薄い代わりに、どこか埃とカビの匂いが鼻につく。──大丈夫、ギデオンさんがやられるわけない……。そう自分に言い聞かせながら、薄暗い通路を杖で照らし、早歩きで周囲を探る最中──ガシャッ!ドサッ!!と、金属製の棚に何か大きなものがぶつかり、物が落ちる音が響いて。慌ててそちらへ駆けつけると、力なく床へと倒れふし、苦しそうに脂汗を浮かべて藻掻くギデオンを見つけて──カランッ、と地面を打ったのは、先程はスフィンクスからエドワードを庇うファイヤーボールを打ち出し──そして何より、ビビ自身が身を守るための手段である木の杖。あまりに勢いよくついた膝には血が滲んでジンジンと痛んだ。先程は充満する闇の魔素に紛れて気づけなかったが、ギデオンの肩に同じものが渦巻くのを感じれば、なんの躊躇も無くそのシャツに手をかけようとして。 )
なんでこんな早くっ──……失礼します!
258:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-15 19:21:26
(こちらに近づく温かな存在を感じた途端、ドクン、と脈が高鳴り、血走った目を大きく見開く。次の瞬間にギデオンがとったのは、もはや本能的な動き。救いのために差し伸べられた細い手首を奪い、ぐいと強く引き込んで冷たい床に押し倒す。薄暗い倉庫の一角、あちこちが裂けたドレス姿の相手の上へと、のしかかるように馬乗りになれば。ただ「はッ、はッ……──」と荒い呼吸を繰り返しながら、我を失った顔つきのまま、視線は合わせずに……相手の表情を読み取れずに……大切なはずのだれかを、余裕なく見下ろす有り様で。──先程の乱闘で血の巡りが早くなっていたギデオンの体には、隅々までインキュバスの毒が回り、まともな思考力など既にほとんど焼き切れている。額の傷から滴る血が、相手の白い頬や肩に、ぼたぼたと深紅の痕をつけるだけで──美しい娘を己が穢す光景だけで、今にも狂いだしそうなほどだ。しかし、かろうじて一線を踏み越えさせずにいるのは、幸か不幸か右肩の古傷。蛇涎香が孕む混ぜものに共鳴していよいよ活性化した残留魔素は、あの晩のように暴力的な激痛でギデオンを弱らせ、相手の肌に痣を残すほどの乱暴を働かせない。心臓が脈打つたびに視界が暗くなり、全ての音が遠のき、悪寒が這い上り、青褪めた顔を異常な汗が伝い落ちる……生命の危機の兆候はそれだけ表れているというのに、暴走する本能は目の前の娘に食らいつくことしか命じず。──それを、己の胸の奥の何かが、強烈に拒み続けている。何もかもがばらばらのまませめぎ合う苦しさに、ぐしゃりと顔を歪めると。思い出せない相手の名をそれでも呼ぼうと、喉からようやく絞り出したのは、瀕死の獣のような掠れ声にしかならないもので。)
──ッゔ、ぁッ……
259:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-18 00:43:56
やぁッ!いや!ギデオンさん!!肩が……傷口がッ……!!
( ギラギラと光って此方を射抜くにも関わらず、肢体にばかり注がれ視線の合わない眼差しに、獣のように荒い不規則な呼吸音。──これは、夢魔の……!ようやく危機感を思い出した心臓が早鐘を打ち、全身から嫌な汗が吹き出すが、どんなに本気で暴れてみてもその逞しい脚はびくともしない。毒による暴走も深刻だが、何より肩から感じられる魔素の量が。一刻も早く治療しなければ危ないというのに、腹部に跨られて、万力のように手首を抑えられている状態では、パニエ内の血清にも手が届かず、為す術なく恐怖に震える指先が惨めで仕方がない。──彼が可愛いって褒めてくれたから。お気に入りだったブラウスの釦が弾け飛ぶ音。少し触れるだけで幸せだった。優しくて大好きだったはずの薄い手が、乱暴に無遠慮にビビを暴く痛み──そんなフラッシュバックしたトラウマに、全てを諦めて伏せた瞼から一筋の涙が流れ落ちた瞬間。この状態になったギデオンが初めて、微かに放った掠れ声の深い悲しみにハッと目を見開く。そうすると苦しそうに歪められた表情が目に映って──何を、勝手に諦めてるんだ。そうもう一度、緑の瞳に光が取り戻された。このまま諦めれば、目の前のギデオンはまもなく息絶えるだろう。──それより怖いことなどあるものか。 )
──ごめんなさい、ギデオンさん。……愛してるので、許して。
( 目の前には制御しきれない欲望を押し付けてくる獣、血清にも杖にも手は届かず、回復魔法では恐らく夢魔の毒を分解できない。つまり、魔法をかけても肩の傷が塞がるだけで、毒による衝動は収まらないだろう。その後の結果は明白で、その結果助かったとしても相棒が喜ばないことも知っている。そんな身体の傷は治せても、間違いなく相手の精神を傷つける計画は、ヒーラーとして、とても上等とは言えないが、他に方法は思い浮かばなかった。薄暗い倉庫の僅かな光の下、涙や鮮血で濡れそぼった白い顎を気丈に逸らすと。長い腕の周りにぱちぱちと、『シャバネ』でも見せた魔素が空気中の抵抗に弾ける光が取り巻く。せめてもの強がりに、愛の告白と共に微笑んで見せるも、ギデオンの首に回した腕が、ガクガクと震えている様は、あまりにも格好がつかず、恐怖の隠しきれない様は滑稽としか言いようがなかった。──これでいい、後悔はしない。そう自分に言い聞かせると、見慣れた白く暖かい光が2人を包み込む。この時 震えを誤魔化すように、ギデオンの胸に顔を埋めていたビビの誤算は、己とギデオンの魔素と体質、その天文学的確率までの相性の良さをすっかり忘れていたことで。 )
260:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-18 02:11:18
(それはあの晩にも自分を包み込んでくれた、温かな浄化の光。ヴィヴィアンに縋りつかれるまま、ギデオンの強張った身体が時を止めたように静止する。──右肩に埋まる爆弾が、優しく洗い流されていく。必然、乱暴を怯ませる枷がなくなり、暴走状態のギデオンを止めるものがいよいよなくなってしまうわけだが。覚悟を決めた相棒の流し込む圧倒的な聖の魔素、奇跡的な相性の祝福は、昏い水底に沈められた理性にも確かに触れてくれた。己の真下に取り篭めた娘の、震えながらも寄せられた勇敢な温もりを、そこで初めて感じ取れば。──彼女を自分自身から守らねば、という意志が、急速に強くなっていく。……やがて光がほどけた頃、再び闇に沈んだ倉庫には、衣擦れも荒い呼吸も聞こえない、完全な静寂が下りて。)
…………。
……ヴィヴィアン、悪い。こいつも……治して、くれるか。
(それをそっと破ったのは、相棒の頭を撫でながら耳元に口を寄せる、落ち着いたギデオンの声音。──ヴィヴィアンが恐れたのは、自分が乱暴されることより、ギデオンが暴走の末に命尽きることだったのと同じで。本来のギデオンもまた、他ならぬ自分自身が彼女に狼藉を働くこと、それほど恐ろしいことは他にない、そう考えた。そんな過ちを犯すくらいなら、いっそ──と。先程の大暴れの際棚から落ちていた短剣に手を伸ばし、己の横腹を躊躇いなく切り裂いて生まれた傷。それがふたりの横に、少しずつ血だまりを広げているのが、相棒のヒーラーたる彼女に知らせねばならない現状で。流石に燃えるような痛みを感じはするが、今はそれすらもありがたい……おかげで今や、意識が完全にはっきりしている。とはいえ──グランポートの孤島や『シャバネ』の看護室で、生来の魔法力に飽かせた治癒魔法を施した相棒が、その後どんな状態に陥っていたか、もちろん忘れたわけではないのだが──このままどくどく流血し続ければ、死ぬことはなくとも、長く気絶してしまいそうだ。僅かに体を起こし、少し決まり悪そうな微笑みを浮かべて見下ろしたのは、そういった事情によるもので。ある程度の失血によって興奮状態が完全に引いたのを自覚すれば、……流石にもう、大丈夫か、と。安心したように顔を逸らして息を吐くと、片側に転がるようにして、ゆっくりと身体をどけ。)
261:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-18 09:18:32
……あ、ごめんなさ、
( ギュッと瞳を閉じて身体を強ばらせ、来るだろう衝撃に備えていると、降ってきたのは穏やかな声と優しい手の感触。そのどちらもいつも通り、ビビの大好きな甘く暖かいギデオンのものに、そっと濡れた顔を上げると、気まずそうな相手の笑顔が視界に映って。ただその言葉に反射的に反応してるだけで、まだ良かったとも、助かったとも、状況を把握しきれていないような、ぼんやりとしたあどけない表情で杖を拾い上げると、先程2人を包み込んだ白い光がギデオンの腹部に集中する。それから今度は、ビビがギデオンに覆い被さるように四つん這いの姿勢になって、ギデオンの赤く染まってしまったシャツを──くい、と指でズボンから引きずり出すと、無言のまま控えめな指先で、相手の硬い腹、肩、そして首元の傷跡をなぞるように確認していく。その全てが塞がっていることを確認し終わってやっと、ぺたんと床に腰を下ろしたかと思うと、潤んだ瞳でギデオンを真っ直ぐに見つめ、その青ざめた顔に明るい笑顔をほころばせて。
ドリアードに分けてもらった取っておきのオイルまで使って、必死に整えた生来のくせ毛は、小劇場での乱闘やその後の全力疾走、先程までのやり取りで、完全にふわふわといつものボリュームを取り戻しているし、顔は涙でぐちゃぐちゃ。ギデオンが褒めてくれたドレスは、相手同様ベッタリと血に染って二度と着られないだろう。本当は大好きな相手には見られたくない酷い有様なのだが、カタカタと小さく震える手を広げ、泣きそうな笑顔で懇願した真意は、今記憶を上書きしておかないと、二度と触れられなくなりそうだったからで。)
ギデオンさん、抱き締めてもらっても……いいですか?腰、抜けちゃって……
262:
ギデオン・ノース [×]
2022-11-18 13:48:44
……ああ。
(ヒーラーとしての本能か、まだ状況を飲み込めていない様子ながらも次々治療してくれる相手。ようやく全てを終えてこちらを見つめる潤んだ目元は、安堵の笑みを浮かべながらも、涙ですっかり溶けてしまったマスカラのせいで、どす黒い青痣ができたように痛々しい。否──先程のヴィヴィアンは、それに匹敵するくらい強いショックを受けていたのだ。そうわかっていたから、未だ震えの止まらぬままか細く請われた哀願に、静かに起き上がりながら頷き。迎えるように広げられた細い両腕の中に大きな上半身を寄せると、自分も彼女の後頭部や背中にそっと手を回し、ごく柔らかに、けれどしっかりと抱き締めてやる。……ふわふわに乱れたヴィヴィアンの頭を何度も撫でたり、汚れてしまった華奢な背中をさすったりする手つきによって、己の理性がすっかり戻っていることは、上手く伝えられているだろうか。穏やかになった呼吸を、彼女のそれにゆっくりと溶け込ませていく──そうして重なり合うことで、自分の取り戻した落ち着きを、ほんの少しでも分け与えられるように。上階で遠く聞こえる大捕り物の騒ぎは少しずつ鎮まりはじめているから、感謝や謝罪、労わりの言葉を紡ぐには、彼女の耳だけに届くような低い小声で充分だった。そうして何度も何度も優しく撫でさすりながら、自分と相手双方の無事を実感できるよう、頭を寄せて囁きつづけ。)
ありがとう、おまえのおかげで戻ってこられた。
……怖い思いをさせてすまない……頑張ってくれたな。本当によく、頑張ってくれた。
263:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-11-19 11:52:00
──謝らないでください。
( ギデオンの腕の中はとても暖かく、ビビを優しく撫でさすって安心させてくれる大きな手を、大好きなままで居られて本当に良かったと、心から深い安堵で満たされる。そのまま荒い呼吸と涙で冷えた鼻先を──すり、と逞しい首筋に埋めた瞬間。小さく震えていた呼吸に相手の深いそれを重ねられ、大好きなギデオンの香りをたっぷり吸い込むと、耳も、鼻も、強い腕の感触も、五感全てを相手で満たされるような感覚にとらわれて。嫌な思い出や不安がかき流され、その代わりに顔や耳、指の先がかあっと熱くなる多幸感のまま、ギデオンの耳元で小さな笑い声をたてれば、その場で小さく頭を振る。優しいギデオンは、たまたま救えただけの未熟なヒーラーを気遣ってくれるが、実際に夢魔の毒を受け、暴走する本能に苦しんだ今回の被害者は彼だ。──自分が傷つくより、傷つけてしまうことを怖がる人。この半年でそのことはよく分かっているから、優しいギデオンがどれだけ辛い思いをしたか、想像するだに心が痛んで、徐に。相手の背に軽く回していた腕へ力を込め、ギュウゥッとありったけの力で自分の上半身を相手へと押し付ける。ゆっくりと腕の力を緩め、透き通った金髪をサラサラとかいくぐると、ギデオンの頭を優しく撫でながら、はっきりと己の無事を口にして。もう片方の手は広い背中をできるだけ大きく擦りながら、時たまとんとんとあやす様に叩いてやり。 )
──ギデオンさんは誰も傷つけてなんか、ないんですから。
ほら、私こんなに元気です。ギデオンさんこそ……怖かったですよね。戻ってきてくださってありがとうございます。
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