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Petunia 〆/853


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自分のトピックを作る
222: ギデオン・ノース [×]
2022-10-10 04:12:12




(説明に沿って色とりどりの宝飾品を共に確認しながらも、それらを瞬時に選り分けていく相手の真剣な横顔に、時折そっと感心あらわな目を向ける。ギデオン自身、魔剣使いとして一応魔法関連の資格も得てはいるが、粗い独学かつ実践的な攻撃魔法に限った話となる。体系的な知識を授かっていないないので、魔素の読み方などわからないし、その微々たる差異を見分けるなんて芸当は当然できやしない。しかしこの優秀な相棒、ヴィヴィアンの手にかかれば、専用の魔導具もないまま、瞬時に、かつ正確に、対象をある程度まで絞ることができるのだ。今もギデオンの目の前で、当たり前のようにさらりとやってのけているが……この能力の高さが可能とする仕事量やその質は、いったいどれほど素晴らしいものになるだろう。一介のヒーラーにしておくのが惜しいくらいだ、と身勝手なことすら思わずにいられず。かのギルドマスターなら、選ばれた者のみが受けられるクローズドクエストに彼女を推薦したとしても、決して相棒の贔屓目ではないことを理解してくれるだろうか。こんなにも能力の高い彼女が、より優秀な冒険者として昇りつめていくための手助けを、ギデオンにさせてくれるだろうか。──その思いを今は胸中にしまい込み、言われるままにゴーグルを着用する。魔素を肉眼で見られると聞いてすぐそばに歩み寄ると、片手を台座につき、彼女の斜め後ろから覗き込むように眺めて。煌びやかな贈り物たちがすぐに淡い彩光を放てば、真横の相棒の懸念もいざ知らず、ただその美しさに目を奪われる。だからだろう、ふとこちらを向いたヴィヴィアンがおかしな反応を見せたのに気づくことはなく、ワンテンポ遅れて顔を上げると、「この黒いのか……」と感嘆の声を漏らしながら持っていた手帳を開き。この意匠のイヤリングについて書かれたページは──あった、比較的最新の方だ。贈られた日付は12日前、送り主の名はダン・ブルックス。50代の宝飾品店オーナーで、自分の店の秘蔵の商品を、時々アメリアに贈っていたという。ブルックス自身はアメリアにのぼせ上っていて、彼女に会えなくなるような工作をわざわざするとは思えない、と書いてある。しかし……特筆事項を読み上げる際、思わず顔を顰め、呻くような響きを含めてしまった。何せ──)

……なんとなく読めた。このブルックスって男の妻は、アクセサリーデザイナーらしい。宝飾品店のオーナーの妻が彫金師ということは、店の商品の幾つかも、彼女が加工してるんだろう。
この馬鹿なブルックスは、他所の女に入れあげるための道具として、妻自ら手掛けた商品を持ち出してた可能性があるわけだ。そうなると、“夫の夜遊びのパターンを先読みして、憎い女へのプレゼントに呪いを仕込んでおく”……なんて真似も、不可能じゃないだろうな。



(/年表確認いたしました、更新とご連絡ありがとうございます! 自分の感情を自覚済みの段階になって再びアタックされたときのギデオンがどう動くのか、非常に気になるところです。温かなお言葉にも感謝申し上げます。朝方は本当にとても寒くなりましたね、主様も暖かくしてお過ごしくださいませ。

久しぶりに一点相談がございます。今現在、ビビの中では嫉妬の苦しみが少しずつ積み重なっている頃と認識しているのですが、

・何かしらの事実の判明がきっかけでそれが晴れ、再び元気なアタックをできるようになる(猛アタックと逃亡の再開)
・ギデオンの方でクソデカ感情の発露が発生し、あまりの豹変にこれまでの憂さがぶっ飛ぶ(関係の微々たる進展、既成事実の進行)

など、現状の果ての何らかの変化によって、爽快なカタルシスを得られれば……と考えています。
主様の方で、何かお考えや望む方向性、それ以前に困っていることなどありますでしょうか? こちらとしては、ビビの好意に甘んじているギデオンの背後ながら彼女が可哀想で、一途さ故に苦しむビビに少しでも報われてほしい思いがありまして……!
とはいえ、初めての嫉妬と戦うターンもしっかり楽しみたい、ということでしたら、それはもちろん大いに見守らせていただきます。いずれにしても、主様がより楽しめる方向性を共有いただければ幸いです……!)





223: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-10 10:06:56




( / 情報の確認と温かいお言葉、今後の展開についてのご相談もありがとうございます。
ロルのお返しには時間を頂いてしまいますので、取り急ぎお返事のみお先に失礼致します。

ビビの嫉妬につきましては当方も、全くしないのも変ですし、だからといってあまり長々とするのも野暮だと悩みの種となっておりました。
ですので、なにか爽快なカタルシスをというご提案、非常にありがたく魅力的に感じております。

ご相談いただく以前は、ビビが自分の嫉妬心を認めて向き合うなど、どちらかと言えば前者に近い解決方法を検討していたのですが、ギデオン様のクソデカ感情の発露が非常に気になってしまいまして……!
なにか具体的な展開が既に、背後様の中にあれば伺いたく存じます。

どちらにしても、ビビが嫉妬心を自覚しない事には始まりませんので、学院編の後、(展開的には華やかな舞踏会が緩急着いてよろしいでしょうか……)またギデオン様関係のあった女性と顔を合わせる中で、自覚していくという展開を想定しております。

それから直近の相談になりますが、学院での呪具解析について。
ここであまり情報がハッキリと出てしまうと、今後の捜査の意味が形骸化してしまいそうで、『おそらく悪魔、その中でも程度の低い夢魔の類の痕跡』という情報に収めようかと考えております。
もう少し詳しく調べるために、呪具の母数を増やす必要がある、という前提で次の編に進めれば自然かと思うのですが、なにか背後様の方でやりたい展開などお持ちでしたらご教示ください。

最後になってしまって申し訳ございません。
遅ればせながらマリア様のプロフィール確認させていただきました。
最初に拝見した際も、優しさの中に強さのある素敵な女性だと感動していたのですが、お子様のことも確認させていただき、よりその深みと包容力を実感致しました……!
どちらの息子さんも本当に可愛らしくて、ディエゴ君には是非ギデオン様と火花を散らして欲しいですし、ペドロ君に体重を暴露されて固まるビビを妄想したり……今からお二人に会えることが非常に楽しみです!

非常に長くなってしまい大変失礼致しました。お時間のある際にお返事お待ちしております。 )




224: ギデオン・ノース [×]
2022-10-10 15:58:10




(/お早いお返事ありがとうございます……!
ビビ側が努力して立ち直ってくれる展開は建国祭でしっかりやってくださっておりますので、今度はギデオン側が行動を起こす、という狙いも含めて、仰る通り後者の方向、

「ギデオンの方でクソデカ感情の発露が発生し、あまりの豹変にこれまでの憂さがぶっ飛ぶ(関係の微々たる進展、既成事実の進行)」

で進んで参りましょう。
華やかな舞踏会編で物語の装いを変える案にも大賛成です。その流れを汲みまして、そのストーリーのあらましに以下のような提案を。かなり長くなってしまいましたが、要所要所飛ばしつつやるのを念頭にご検討いただければと……!


・『シャバネ』の呪具解析後、『サテュリオン』や他の娼館からも同様の解析を依頼され、それによって呪具のサンプルを複数手に入れつつ、多くの娼婦を呪いから救うことになったふたり。彼女たちからの情報提供により、最近はお貴族様の世界でもまじないが流行っているらしい、元凶の銀髪緋眼の人物は今、花街から社交界に標的を変えたのではないか、という考えを得る。まじないを広めた犯人をとっちめるには、かの人物の行動を追うのが良さそうだ。

・同時にカレトヴルッフ本部でも、社交界への潜入調査依頼が秘密裏に舞い込んだ。なんでも、最近貴族たちの間で怪しい夜会が開かれているようになったといい、犯行現場を押さえるため王立憲兵に協力を仰がれたとのこと。ギルドマスターの命令により、ギデオンやビビの知り合いである冒険者数人が潜入捜査を担当。その彼らに手引きしてもらうことで、ギデオンとビビもまた、自分たちの捜査のため舞踏会に潜り込めるようになる。

・表向きは社交界への参加である以上、婚約者同士を装うふたり。疑似恋愛関係に双方心揺さぶられるも、それは長く続かなかった。原因は憲兵団側から出向した味方の捜査員の女性。なんと彼女はギデオンの昔の女で、ビビへの対抗心を燃やしてか、捜査の裏でやたらギデオンに絡む有様。一方、彼女の連れを装うはずの男性憲兵もまた、ビビに何かと軽薄なアプローチをかける。

・ギデオンとビビの双方とも、望まぬ相手からの好意に振り回されつつ、どうにか合同捜査を進めていく。その結果、一部の貴族たちが通常の夜会を隠れ蓑として開いていたのは、違法薬物や非合法の暗器、狩猟を禁止されている聖獣の加工品などを商品とした、闇のオークション会場だったと判明。王立憲兵とカレトヴルッフの冒険者たちは、そこの主催者と参加者全員の逮捕を目的としていたが、あくまで別の捜査で来ていたギデオンとビビは、ある光景に目を奪われる。「とあるまじないをかけることで、この櫛で髪をとかした女性の心を必ず手に入れることができる」というお触れ付きの高級な櫛、その出品者だという銀髪緋眼の美しい人物が、壇上に立ったのだ。

・証拠は充分と踏んだ王立憲兵と冒険者のチームが一斉検挙に出たことで、オークション会場は大捕り物の騒ぎに。ギデオンとビビも味方を助けて戦いつつ、銀髪緋眼の人物を捕えようとするが、この時はすぐ逃げられてしまう。しかし、ビビの華麗な援護射撃や男顔負けの痛快な戦闘、温かい治療を目の当たりにしたあの男性憲兵が、ここにきて本気でビビへの恋に落ちる。

・闇の夜会の一件が片付いた翌日、ギルドのロビーにて、銀髪緋眼の人物の捜査方法を話し合うギデオンとビビ。魔導学院での解析で悪魔関連だとわかったことだし、教会に協力を仰ごうかと話していると、件の男性憲兵が薔薇の花束を抱えて登場。ビビに想い人がいることは充分承知のうえで、諦めるつもりはない、自分は君にありったけを捧げられる、君を生涯愛する、と情熱的な告白宣言。

・以来、例の憲兵は何かとビビのところにやってきて、アプローチを重ねる有様。ビビに対して諦めが悪いことを除けば、容姿、出自、職業、何もかもが秀でた理想の好青年であり、年齢的な釣り合いもまったく申し分なく、人格的にも魅力的で、一時的な引き際も心得ているとくるものだから、袖にするにはたちが悪い。さらに、彼のお目付け役を言い訳に、ギデオンの昔の女だった女性憲兵も付近に現れるようになり、しつこくよりを戻したがる。

・しかしギデオンは女性憲兵に全く目もくれず、ビビに近づく男性憲兵を自覚なく睨み続けている有様。ある日、男性憲兵が大きな行動に出た瞬間とうとう我慢できなくなり、割って入って牽制。建前こそ「嫌がる女性にしつこくするな」という相棒関係故の助けだったものの、傍からはどう見ても、嫉妬と独占欲による行動。舞踏会の際に慣れたからか、ビビの腰を抱き寄せて距離をとらせる、ビビに話しかける際も顔を近くに寄せる、さり気なく手を取って場を離脱してしまうなど、無自覚のまま親しさを見せつける。──というより、最近は男性憲兵に邪魔されて思うように彼女と過ごせなかった寂しさでも患っていたのか、ようやく彼のいない場になると、甘えらしき言動にまで及ぶ有様。ギルド仲間の面前ということすらすっかり忘れる程度には、男性憲兵の干渉を看過し続ける苦しみが余程堪えていた様子。本人は未だ口先で否定するものの、ビビを欲していることはだれの目にも明らかだった。


学院での解析結果についても、異論等ございません。上記のストーリーそのままは少々流れが確定的過ぎて遊びのゆとりがないかとも思いますので、純粋に様々な呪具をかき集める段階や、主様による変更案なども楽しめれば幸いです。
銀髪緋眼の人物は、まじないを広めた元凶が現実に存在することをふたりに確認させ、この先の捜査において、「まじないの被害者を助ける」以外に、「奴を捕まえる」という勧善懲悪的目的も持たせるべく登場させてみたのですが、まだ早計でしょうか……?

素敵なご感想もありがとうございます……! 初登場時は特に深く考えず出したキャラクターですが、主様が心を寄せてくださった影響から、今では当方にとっても非常に愛着のある女性となっております。パルラ家のストーリーは至極平和になると思うので、いつか日常を楽しみたい折にでも立ち寄ることができればと。

いつも素敵な遣り取りをありがとうございます。ロルと相談内容とで別々のタイミングに分けていただいても構いませんので、ご無理はなさらず、ゆっくりお返事くださいませ。)





225: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-11 10:22:28



( / 今後の展開について、非常に魅力的で胸ときめくご提案ありがとうございます!

普段と違う煌びやかな装いの相手に見蕩れたり、演技でも近い距離感にドキドキしたりする2人を想像しては、その可愛らしさに悶えておりました……!
今までハッキリとした恋敵は登場しなかったので、憲兵のお二人との絡みも非常に楽しみにしております。

解析結果へのご理解もありがとうございます。
銀髪緋眼の人物の登場タイミングについても全く異論はございません。寧ろ未熟な当方は、いつまでも犯人像が見えない中で進める難しさを痛感しておりましたので、背後様のご提案に救われる思いです……!是非そちらでお願い致します。

それから、今回の展開で謝らせていただきたい点がひとつございます。
以前、この章の〆に、『一番最初に学院を案内していた女生徒が発狂しかけるのを止める』という展開を提案させていただいたのですが、現在完全に登場するタイミングを逃しておりました……。
背後様におかれましては、いつ登場するのかと混乱されているかと思います、大変申し訳ございません。
それを踏まえて現状、背後様の仰ってくださった、夢魔を捕まえる勧善懲悪で収束する方が描写しやすいかと考えておりますが如何でしょうか……?

以上、背後様にご提案いただいたストーリーで変更したい点などはございません。
イメージと致しましては、
・舞踏会で疑似恋愛関係に心を揺さぶられる。ビビはここで己の嫉妬心を自覚。憲兵2人の登場。

・捜査で再び娼館や学院、その他施設を回るも、度々邪魔をされてギデオン様のストレスが貯まる。(ここは飛ばし飛ばしになるかと思います)

・情報や証拠を集め揃え、教会で大捕物。事件解決。

・なんとか夢魔を捉えてギルドに帰った2人前に、「人気の店を予約したから、事件解決をお祝いしたい」と男性憲兵が現れ、強引にビビを連れて行こうとしたところで、ギデオン様の我慢が効かなくなる。

と、いった感じでしょうか。
あの誠実で頑ななギデオン様に、ビビの嫉妬心が吹き飛ぶほどの甘さを見せていただける日を今から心待ちにしております。

今回の舞踏会以降、憲兵達の邪魔で2人で過ごす時間が減るといった前提上、もう少し後になってしまうかとは思いますが、パルラ家とのやり取りも非常に楽しみです。
黒い舘編との幕間などで是非、ディエゴ君とペドロ君にお会い出来れば幸いです。

こちらこそ、毎回心踊る遣り取りをありがとうございます。
文章力や語彙力の未熟さ故にご迷惑をおかけすることも度々ございますが、少しでも背後様に楽しんでいただけるよう精進して参る所存です。
お気遣いに甘えまして、まずはお返事のみ失礼致します。ロルの方がただいま迷走しておりまして、もう少々お待ちいただけると幸いです。
引き続きよろしくお願い致します。 )




226: ギデオン・ノース [×]
2022-10-12 15:06:35




(/どうかお気になさらず……! 実のところ恥ずかしながら、僅かな登場シーンにもたっぷり詰まったレイン・アザレアの魅力に大興奮しておりまして、当方も今の今まですっかり忘れていた次第です。主様の変更案にもちろん異存ありません。展開によっては、最後に登場した見覚えある被害者が、学院時代のビビをよく慕ってくれていた後輩だった……というような形で取り入れるなども可能かと思いますので、様子を見つつより楽しい展開を選んでいければと思います。
イメージの共有もありがとうございます! 両案を合わせてまとめたものを、向こうの一番上の共有置場にメモがてら置いておきますね。
こちらこそ、ついつい舞い上がるばかり冗長になりがちな悪癖を自覚しておりまして、主様にご不便をおかけすることが多々あるかと思います。返しにくいロルをお出ししてしまい申し訳ございません……! 自分も楽しみつつ主様も楽に楽しませることのできるロルを模索してまいりますので、今後とも末永くお付き合いくだされば幸いです。
今回は概ねお返事のみの内容となっていますので、背後会話のご返信には及びません。寒い日が続きますが、日々ゆっくりご自愛くださいませ。)






229: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-14 01:10:48




──どうして、

( ギデオンの読み上げた手帳の内容に、ビビもまた眉間に深い皺を刻む。どうして。一度でも結婚するほど愛した人がいながら、別の女性にうつつを抜かすなんて、そんな酷いことができるのだろう。あまつさえ、その人が丹精込めて作った品を盗み出して贈り物にするなんて。一瞬湧き上がったブルックス夫人への深い同情に、先日のアメリアの酷い様子を思い出せばハッと口を抑える。だからといって人を呪っていいわけがないし、その恨みを向ける矛先もまた間違っている。今までの自分ならば、ブルックスだけではなく夫人に対しても怒りを覚えたろうに、今の己に彼女を憎みきれない利己的な感情があることには、まだ気付かないでいたかった。 )

……ブルックスの奥様に、魔法適性はない、ですよね。

( 今は仕事に集中しようと気を取り直し、そう真剣な表情でギデオンの手の中の手帳を覗き込んだ日から数週間ほど。──あの時浮かんだある疑惑は、新しく見つかった数点の呪具達を前に確信に変わっていた。あれからギデオンの魔力調節の手腕も借りながらイヤリングの解析を済ませれば、抽出されたのは黒い蜜蝋、血液、ロベリアのエキス等、どれもそれ自身が魔力を備えているものばかり。その一方で、黒魔術では頻出する折れた針や、カエルの涙など、自分で魔力をふきこんだり、そもそも抽出に魔力が必要な材料は全く含まれていない。アイリーンが教えてくれた呪いと同様、魔法適正のない一般人でも揃えられそうな物だけで構成されている。ただそれ故に、その呪い自体には大した効果は無いはずで、それこそガードの下がる睡眠中、『対象者の夢に入り込む隙を作り出す』のがせいぜいと言ったところではなかろうか。つまり、夢に入り込んで悪さをしている"魔力適正の高い黒幕"が存在している可能性が高い。その事実を前に脳内に浮かび上がるのは、アイリーンの口から聞いた銀髪緋眼の人物だが、それを前提にこの呪いを利用した者の残穢も解析してみたものの、仮定黒幕の力が強くないせいで殆ど辿れない。「おそらく悪魔か……でもそれほど強くないです。夢魔とかその類かと」という曖昧な報告さえ、少しでも魔法解析を齧った人間から見れば快挙といえるレベルなのだが、被害者達の不安を思えば状況は決して芳しくない。結局黒幕の足取りが掴めない今、できることといえば、呪具の母数を増やして魔力を辿るのが最適解だろう。そうしてギデオンに強請りつつ西部で捜査を続け、他の娼館や娼婦からも治療や捜査を依頼されるうちに集まったのがこの呪具達だ。どれもアメリアのイヤリングとよく似た性質を持っており、微かながらも読めるようになってきた魔力的にも、黒幕は同一人物と見て間違いない。しかし、あとひとつかふたつサンプルが手に入れば、魔力が辿れそうだという所まできて、懸命な捜査も虚しく、もう数日は新しい呪具が見つかっていない。気になる情報としては、ある娼婦の言うことに、お忍びで遊びに来る貴族の旦那からも、よく似たお呪いの噂を聞くようになった、と。まだお呪いの噂が広がり始めて日の浅い其方では、呪いの内容も可愛らしいものが多いようだが──はたして。夕刻の捜査がそんな停滞を迎えていた頃合、昼の仕事の報告を提出しにギルドへ足を踏み入れると、ロビーに賑やかな冒険者たちが屯するいつも通りの光景の奥。関係者以外立ち入り禁止のカウンターの奥へ、見慣れぬ男女がさり気なく入り込むのを目撃して。一瞬侵入者かと目を見開くも、それにしては脇に座るリズに動揺が見られなさすぎる。思わず周りを見回せば、向こうも仕事だろうギデオンを見つけて駆け寄り、ベテランの相手なら何か知っているかもしれないと、控えめにその袖を引いてみて。 )

こんにちは、ギデオンさん。
あの、今何か……誰かカウンターの奥に入っていきませんでしたか?




( / 大変お待たせして申し訳ございまんでした!
いつもご配慮溢れるお言葉をありがとうございます。その上元の提案を活かせるアイデアまで、なんとお礼を申し上げれば良いか……!
レインにつきましては、ギデオン様とシェリーのやりとりにより、より深くその功績を掘り下げていただき、此方も感謝の念しかございません。
設定置き場の更新もありがとうございます。憲兵さんのご協力というご提案も確認させていただきました。お2人がギルドに顔を出す理由として非常に自然で、わかりやすい流れでしたので是非そちらでお願い致します!

それから背後様のロルについてですが、返しにくいということは全くございません!
今回のことは、背後様のご用意される展開や、文章の運びを尊敬するあまり、当方の未熟さが我慢ならない当方の完全なる我儘です。大変申し訳ございません。

返信不要との事でしたが、結局どうしても納得いくロルを用意することができず、これ以上おまたせしても良い物をお渡しできる気がしなかったため、冗長かつ、かなり強引に展開を進めましたことお詫びさせてください。大変失礼致しました。
背後様が分かりやすく展開をまとめてくださったお陰で、次回からは以前通りお返事できると思いますので、懲りずにお付き合いいただければ恐縮です。

飛ばした箇所の中にゆっくりやりたいシーンがあるなど、なにかご要望があればお気軽に仰っていただければ幸いです。
此方も特に何もご連絡がなければお返事にはおよびません。よろしくお願い致します。 )



230: ギデオン・ノース [×]
2022-10-14 17:19:06




(それからの日々は、被害者救済を優先して他の呪具を特定すべく、ふたりで花街を歩き回った。そうして回収した様々な贈り物を魔導学院へ運び込むと、互いの得意分野を活かして連携しながら同定を重ね、時には夜遅くまで学院所蔵の魔導書を参照した甲斐あって、いくらかのヒントを導き出すことに成功する。今はここまでしかわからない、と目を伏せたヴィヴィアンに、よくやったと声をかけたのは、何もただの慰めではなかった。口では曖昧に言ったものの、複数ではなく単独の夢魔が犯人だろうということを、相棒は限りなく確信しているはずだ。不確かなことを口にしないのは真摯な解析者の鉄則であり、賢明な彼女はそれにきちんと準じたのだ。……しかし夢魔か、と。準備室の長椅子で仮眠をとるヴィヴィアンの横、腰かけて窓の外の月を眺めるギデオンの目は、仄暗い闇色に沈む。夢魔それ自体は、基本的には低級な悪魔であり、脅威ではない。自殺したくなるほどの悪夢を見せたり、あるいは本当に女の腹に悪魔を孕ませたりするほど強大なものもかつてはいたが、現代では祓魔師たちが徹底的に排除しきってみせている。だから今や、そう恐れる必要のない存在のはずなのだが。──顔を歪めた女の絶叫、呪いが当たって赤く砕ける子どもたちの体……炎の向こうで膝をつく、血まみれの友の影。一瞬でフラッシュバックしたそれらを無理やり記憶の底に封じ込め、両手を組み合わせることで指先の震えを必死に押し殺そうとする。この事件の犯人は、かなり複雑な過程を通じて悪事を働いている、つまり一定の理性がある。だから決してアレではない、違う夢魔だ、と。しんと静かな薄暗い部屋で、独り自分にそう言い聞かせてから。隣の相棒の寝顔をふと見下ろし……その安らかさに、少しでも冷静さを分け与えて貰おうとしていた。)

(それから更に数日間。サンプルとなる新しい呪物が見つからず、ヴィヴィアンが更なる解析に切り込む裏で、ギデオンは単独で加害者たちへの聴取に回った。悪魔と取引した彼女たちとの接触は被害者を思っても危険と見做していたのだが、肝心の夢魔の尻尾がつかめないため、直接ヒントを聞き出そうという魂胆である。しかし奇妙なことに、女性たちは全員、ある症状が共通していた。まず、げっそりと痩せさらばえていたこと。次に、ここ最近の記憶がすっぽり抜け落ちていたこと。悪魔の仕業を仄めかし、被害者のように扱うことで聞き出してみると、再び意識がはっきりするようになったのはとあるきっかけとの話。言い渋るのをどうにか説き伏せれば、彼女らは顔を赤らめ、時には屈辱に横を向きながら、これも皆同じ答えを吐き出した──“見知らぬ”銀髪緋眼の男に、この世のものとは思えぬ法悦を与えられる夢を見た、と。件の夢魔は、魔力は弱くとも頭の回る奴らしい。まず女たちに呪具を作らせ、それを触媒として被害者の夢に干渉し、怨念を叶えてやる……つまりは一種の契約を結ぶ。その代償として、加害者と夢の中で交わり、生気を吸い取り、呪具を作る際の記憶はその時に消去して、何かしらの情報を隠したのだ……おそらくは、まじないに使う夢魔の名を。アイリーンの話では記憶を取り上げられない女たちもいたようだが、おそらく彼女たちは、まじないの噂を広げるための道具にされているだけで、本格的な呪いに使う夢魔の名は教わっていないに違いない。そして、ギデオンの見てきた加害者たちは加害者たちで、呪具を作った際の記憶がないとなると、その咎を追求するのは非常に困難となる。ひとまず、付近の教会にかかって祓って貰うよう最後の女にも伝えると、数日かけた尋問作業は一旦打ち切ることにして。──捜査の局面が動いたのは、しかし翌日すぐだった。)

(今日も夕方には通常のクエストを片付け、ヴィヴィアンと魔導学院へ。そう思っていた矢先、とある情報を女剣士のカトリーヌから聞きつけ、他の冒険者たちにも問い合わせを行い、事件解決の糸口を見出す。ちょうど探そうとしていた栗毛の美しい娘が向こうからやってくると、ギデオンもまた、会いたかったというわかりやすい顔をして。相棒からの問いかけに、「紺と金の憲兵服を着てたか?」と尋ね、もしそうだと答えられれば、事情を説明するだろう。なんでも、この国の上流階級に対する取り締まりを担う憲兵団が、とある件でカレトヴルッフに協力を依頼した。曰く、最近夜な夜な開かれる不穏な夜会への潜入捜査。熟練の憲兵はある程度顔が割れていることもあり、冒険者の手を借りたいということだ。ちょうどギデオンたちの方でも、社交界にも夢魔の魔の手が伸び始めたとする情報を先日掴んだばかりである。捜査に協力するので、自分たちも引き入れてほしいと頼み込んでみると、カトリーヌは気前の良い二つ返事で頷き、憲兵に話を通しておくと約束してくれた──そう、この時点で、ギデオンはまだ、女の方の憲兵の顔を見てすらもいなかった。それが大きな災いを引き起こすともいざ知らず、「そういうわけで、だ」と話を結ぶと。情報を得るだけならば自分だけでも行けなくはないが、どうせなら、この数カ月共に仕事を果たしてきてその機転に信頼を置く相手も一緒がいいのだと、遠回しに持ち掛けて。)

──その舞踏会が、四時間後に始まるらしくてな。衣装や化粧係は、憲兵団の方でこれからギルドに呼び込むそうなんだが……おまえ、ワルツの心得はあるか?



(/温かなお言葉の数々、ありがとうございます……! お詫びなんてとんでもないです、難解な事件の捜査状況を大きく進めてくださったことに心より感謝いたします。お言葉に甘えてこちらも自由に書かせていただきましたが、詳しく掻く必要がある部分でもないため、かいつまんだものにいたしました。次回より舞踏会編に向けて、ギデオンとビビがまた密に絡む楽しい部分を、一緒にゆっくり描いていければと思います。いつも優しくお気遣いくださり本当にありがとうございます、今後ともよろしくお願いいたします。/蹴り可)





231: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-16 01:27:59




( 夕方、広場へ行けばいつもの場所でギデオンが待っている。花街で、学院で、常に己と同じ温度で事件解決に執念を燃やしてくれる相棒と、呪いに悩まされていた被害者達に灯る笑顔。この数週間は、認め難い胸の痛みから目を逸らしてしまえば、思わず溜め息が漏れるほど満ち足りて、幸せの泥濘に沈溺しているようだった。──そう遠くない未来、黒い花弁に埋もれる館を目の前に、この時痛みから目を逸らしたが故に、一番大事な相手の顔色さえ気づくことが出来なかった己の愚かしさを、深く後悔する羽目になることはまだ知る由もない。 )

( そんな一種の蜜月を過ごしていたから、こちらを見て分かりやすく相好を崩すギデオンの様子が、古くから彼を知る人間に目を剥かせるものだと言う自覚は全くなく。此方はといえばいつも通り、相手に会えたことが嬉しくて仕方がないという様子で目を輝かせながら、ふんふんとその説明に聞き入り、千載一遇のチャンスをもぎ取ってくる相棒の交渉力を尊敬するばかり。そうして、自分もギデオンに負けぬよう解析を頑張ろう──そう意気込んだその矢先、相手から思わぬ誘いを受ければ、小さく笑って誘い文句に相応しい優雅なカーテシーを披露するも、ゆっくりと上げた頬は薔薇色に染まり、ふにゃりと緩んだ口元が、難易度の高い潜入捜査について行くことを認められた嬉しさをありありと伝えていた。 )

──ギデオンさんが踊ってくださるなら喜んで!

( それから直ぐに衣装・化粧係が秘密裏に呼び込まれると、複数人並行で進めているとはいえ、ビビの順番は比較的早めに訪れた。というのも、憲兵たちが今夜の舞踏会の情報を掴んだのも昨晩のことで、彼らの殆どは人数分の招待状を用意するために徹夜だったらしい。確かに何名か顔を合わせたが、顔色は悪いのに目ばかりギラギラ光って──……まあ、違法薬物が横流しされている舞踏会に潜入するには、ある意味丁度いいのだろうか。ギルド側もマスター直々に命令を下し、実力と容姿的な観点から、舞踏会潜入に耐えうる人員を急遽呼び戻した事情がある。カトリーヌのパートナー役に駆り出されたデレクに至っては、彼女曰く『3日くらいシーサーペントの巣に潜ってやり合ってたはず』とのこと。道理で磯臭いだけじゃはずだと遠巻きにされている、珍しく無精髭を蓄えた優男をはじめ、めかしこむ以前の問題の連中がそれなりにいたためだ。その他諸々の事情で、幸いにもまだ豊富に残っていた中からビビが選んだのは、オーキッドのチュールを重ねたAラインの可愛らしいドレス。オフショルダーのデザインで、胸元と背中は大きく空いているものの、首元と詰まった同色のレースが上品な印象で、胸元や裾、アクセントにたっぷりと寄せられたワインレッドの花の刺繍が、地味になりすぎず肌の白さを引き立てている。折角滅多にないめかしこむ機会、セクシーなドレスでギデオンに迫ることも考えたが、いざと言う時に脚が上がらなければお話にならない。普段はあげている巻き毛を片側に流し下ろして、前髪もかき揚げ額を見せるヘアスタイルは、少しでも大人っぽく見せたい乙女心で。
全員の準備が終わり次第 作戦会議のため、少々空き時間ができてしまった。いの一番に愛しい相棒の元へ向かうのは、今晩の立ち回りを相談するためであって、決して一番最初に彼に見て欲しかった訳では無い。そう誰宛か分からない言い訳を心の中でしながら、更衣室の扉を開ければ、急に少し恥ずかしくなっておずおずと顔を覗かせて。 )

失礼しまーす、えへ、ギデオンさんご準備いかがですか?




232: ギデオン・ノース [×]
2022-10-16 05:12:50




(周囲から見て明らかに、というより最早目を瞠るほど親密度が増しているギデオンとヴィヴィアンだったが、そのことをまるで自覚していないのは、肝心の本人たちだけ。いっそ確定的ですらある事態に、カウンターのそばにいたマリアなどはため息をついてこめかみを抑える。ヴィヴィアンは別に良いとして、建前上彼女の告白をかわし続けているというギデオンの方が見ていられないのだ。しかしギデオン当人はといえば、その豹変ぶりを自覚する気配もないまま、目の前の相棒だけに意識を向けている有様で。自然な、それでいて淑やかに洗練された仕草は、学院の教養講座仕込みと見える。が、そのお披露目の後に続く相変わらずの甘い言葉には、感心から一転、困ったような苦笑を漏らし。「遊びじゃないんだぞ」と、愉快そうな言葉をくれてやりながら、身体のほんの些細な仕草で、二階の控え室に行こうと促して。……最後に目撃したふたりの絡みが、“ヴィヴィアンの誘惑からいち早く逃げ出すギデオン”という初夏のあれで止まっていたギルドの連中が、あまりの衝撃に皆がくんと顎を落としたのも無理はない。淡白な顔をいつも崩さぬギデオンが、あんなにも機嫌よく笑うことなどあったのか。それとも、ああも心底寛ぐのは、何やらずっと噂になっているヴィヴィアンの前だからだろうか。いつの間に、言葉がなくとも通じ合うくらい親しい仲になったのか──。ふたりがロビーからいなくなるなり顔を見合わせて大集合し、堰を切ったようにそんな噂話を始めた年齢様々な連中を。呆れ顔のマリアが再び、受付のエリザベスと共に、諦めたように眺めていた。)

(さて、そんな騒動はつゆ知らぬまま、突然の潜入捜査に備えてギデオンも身なりを整える。他の男性冒険者たちはまずシャワー室に追いやられたため、幾つかあるうちの更衣室のひとつでごく静かに着替えられたそれは、見事な漆黒のタキシード。今宵参加する舞踏会は本物の貴族ではなく、成り上がりの好事家たちが殆どということで、堅苦しい燕尾服には押し込められずに済むらしい。あとは白檀の香る整髪料で、普段は軽く目にかかっている前髪をオールバックにする程度。あまりしない髪型なので落ち着かないが、「男はこういうところで整えるのが肝心よ」と、真っ赤な美しい口紅を引いた筋骨隆々の化粧係(このなりでも一応憲兵団の諜報部所属らしい)が、細かな部分を調整しながらギデオンに言い聞かせる。「……ところでアナタ、明日の夜なら空いてるかしら?」なんて誘いまでついでにさらりとかけられたが、男と寝る趣味は毛頭ないと、端的に断っておき。──そうして身支度を完了すると、女性陣の準備にまだしばらくかかると憲兵団側の小姓に告げられ、彼らが共有した資料にいち早く目を通すことに。ギデオンの急な交渉がこうもすんなり通ったのは、ギデオンの端正な容貌と女慣れした性格自体の高い適性や需要もあるが、何より、こういった情報の把握がずば抜けて強いのもある。今宵の参加者の名前、人相、出自、領地の状況、他の家との上下関係、城に出入りする身内の存在。そういったメモを次々頭に入れていき、舞台となる会場の間取りも記憶し始めていたところで。控えめなノックに顔を上げ、ごく軽い声で応じながら何の気なしに立ち上がり──ばさり、と。手にしていた資料の束を、足元に落としてしまった。……予想外、だったのだ、あまりにも。扉の向こうからそおっと顔を出したのは、ギデオンの良く知る、けれど普段とは全く違う、めかしこんだヴィヴィアンの姿で。露出した肩や胸元の、華やかな女性らしさも。上品な深紅の花に引き立てられた、しみひとつない白磁の肌も。見慣れた栗色の、なのに可憐にアレンジされた大人っぽい下ろし髪も。……いつにも増して丁寧な化粧が施された顔に綻ぶ、恥じらいながらもこちらを気にする愛らしさも。その全てがギデオンに対し、ただ目を奪われる以外の行動一切を封じるだけの強烈な破壊力を持つことなど、まるで予想だにしていなかった。だから、ようやく返事を絞り出すのに、たっぷり数十秒ほどもかかっただろうか。後ろから聞こえた、ごつい化粧係の可笑しそうな咳払いに、どうにか我を取り戻して瞬きすると。当たり障りのない質問をその場しのぎに投げながら、エナメルの革靴を鳴らしてゆっくり相手に歩み寄り。その稀少で華やかなドレス姿を、より近くから、感情的に揺れ動く薄青い瞳で見下ろして)

……、……ああ。俺は……できてる。
他の連中はまだ、これから戻ってくるところだが……そっちの、女性陣のほうはどうだ。





233: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-17 01:15:06






( 上等な絹地に負けない豪華な厚みのある上半身に、地面から聳え立つ長い脚、何より男性らしく整えられた髪型に、いかに普段何気なく下ろされている前髪が、この整った顔立ちによる殺傷力を緩和してくれていたかを思い知る。シンプルなフォーマルでさえ華やかな絵になる意中の相手に、思わず此方も目を奪われかけたものの、音を立てて散らばった資料によって一足早く正気を取り戻し、足元に滑ってきた一枚を拾いあげようとして、ギデオンか、はたまた憲兵団の化粧係か、どちらにせよ逞しい手がドレスのビビを屈ませなかった。小さく傾げた上半身へ差した影に姿勢を立て直すと、いつの間にか距離を詰められていた相棒の下『すっごく格好いいですね』だとか、『見とれちゃいました!』だとか、口の中に用意していたはずのそれらは、向けられた熱いアイスブルーの瞳に絡め取られて音にならなかった。「え、えと……まだカトリーヌさんの番、なので。もう少しかかるかと」と、途端にもじもじ頬を染め始めたヴィヴィアンに、どうやら筋骨隆々な乙女の味方は気を利かせて席を外してくれたらしい。つい先程まで、思い出しては吹き出すのを何度も何度も我慢して、きっと相棒にも話してあげようと思っていたはずの、腹筋を鍛えすぎてコルセットが締められないカトリーヌの話なんて、とっくに脳のキャパから霧散していた。ギデオンが縮めてくれた距離に応えるように、相手の艶やかな襟に手を伸ばすと、その形を弄んでは整えながら上目遣いに見つめ返す。この部屋に来る以前の予定では『手が届かないから脱がせて欲しい』と、背中の釦を見せて迫るはずだったと言うのに、ドレスと同じくらい真っ赤になりながらはにかんで、あまりにも子供っぽくて言う気のなかった本音を漏らしてしまったのは、全部思わせぶりなギデオンのせいだ。 )

──あの、このドレス……お花のところが、ギデオンさんのシャツみたいだなって、思って……選んだんです。
……その、えへ、可愛いですか?




234: ギデオン・ノース [×]
2022-10-17 03:00:20




……可愛いなんて、もんじゃない。



…………────……、

(つい数瞬前までのヴィヴィアンは、初めておめかしを披露した6歳の少女のように、いじらしいほど初々しくはにかんでいたはずだ。それが今度は、ふとどこか大人びた表情さえ浮かべて、しなやかな白い手をすっと伸ばし。長い睫毛を伏せながら、ギデオンの襟元をたおやかに構いつけるその仕草。何より、時折こちらをそっと見上げる緑の瞳がたたえている、奥深く繊細な煌めき。まさに、ひとりの男に恋い焦がれる花盛りの乙女ならではの、強烈過ぎる程に情感的な香り立ちで。……それだけでももう、言葉もなく見入ってしまうに充分過ぎるはずなのに、恋の魔法がかかった今宵のヴィヴィアンの破壊力は、未だ最高潮に達してなどいなかった。彼女はおしろいをはたいた頬を、更にふんわり赤らめたかと思えば。ほどけるように、恥じらいながらも甘えるように、へにゃりと告白してみせたのだ。彼女の美貌を引き立てるこの素晴らしい衣裳は──“ギデオンの色をしていたから”という理由で──ヴィヴィアン自身が、好きで選んだのだと。それを聞いた瞬間、タキシードの下の全身がかっと熱くなり、一瞬で沸騰した血が隅々まで巡り渡った。頭の奥がバチバチと激しく痺れ、焼き切れていくような感覚に、くらくらと眩暈さえ覚える。ドッと重く高鳴った心臓は、まさしく鷲掴みにされたかの如く、痛むほど強く締め付けられて。そのすべてが全く同時に襲いかかってきたのだ、思わず息など止めてしまう。それでもヴィヴィアンから離さずにいる視線だけは、彼女を焦がして影にするつもりかのように、ますます火のような熱を帯びて。……いっそ無心になった境地で口を開き、掠れた小声でそっと返事をしたそれは、表現こそ捻くれていながらも、最大級にストレートな讃美。気づけばそっと右手を上げて、彼女のすべらかな頬に添え、覗き込むように顔を近づけ。感覚に圧倒されて何も考えられないが、ただ、この激しい感情の促すままに、どれだけ心を動かされたか伝えようと……数秒の無言と静止の後。自然と吸い寄せられるように、長身を屈めようとして。──だが、しかし。ドアの外、廊下の端が俄かに騒がしくなった気配に、ぴたと動きを止めてから、急速に理性を取り戻す。するりと右手を離し、纏っていた熱を霧散させ、一歩踏み込んでいた距離も自然な間隔に戻してしまい。さっと難なく被ってみせた涼やかな表情で騒ぎの方向を向いてみれば。釦もとめないはだけたシャツにごく緩やかな脚衣の、シャワーを終えたばかりらしく言葉通りに水も滴る男たちが、すっかり暗くなって燈火の灯る奥の方から、どやどやとやってくるところだ。「おーう、ビビちゃんにギデオン!今夜はよろしくなあ!」と気風のいい挨拶をしながら、次々更衣室に駆け込んでいく。打ち合わせのことも考えると残り時間は僅かだ、確かに急がねばならないだろう。中には顔見知りの後輩、まだうら若い弓使いであるアランもいて、ギデオンとヴィヴィアンを交互にそっと見遣ってから、控えめな笑みと目礼を伝えてきた。ギデオンも片手を掲げるだけで応じ、身体を傾けてアランを中に入れてやると、その背中をしばし見送り。次に出入り口のヴィヴィアンを振り返った時、先ほどまでかかっていた魔法は、すっかり解けてしまった様子で。いつも通りの冷静な顔、いつも通りの淡々とした声で、先ほど彼女を制して拾い集めた資料を渡し。)

……、こいつが今夜の舞踏会の資料だ。ざっと目を通した感じ、怪しいのは主催者の親友……トゥーヴロン家の夫人だな。
夜会の参加者は六百人ほどだが、その内いつも百人弱が、夫人の開催する“秘密のサロン”とやらにご招待されているらしい。主催者が表に立ち続けるのは、余計な関心を引かないためだろう。
今夜はどうにかこいつの関係者に取り入って、上手いことそのサロンに引き入れてもらう必要がありそうだ。






235: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-18 01:24:23




 ( ビビの知るギデオンは、真っ赤なビビを面白そうに眺めると、追い打ちをかけるように意地悪な笑みを浮かべ、涼しい顔で心にもない『可愛い』をくれる人。そんな心底楽しげな相手に、ビビは精一杯抗議する──想像していたのは、いつものやり取りだ。ギデオンのこんな……こんな、熱の篭った男の目は知らない。此方にだけ届く声量で零された手放しの賛辞に、体温が一気に上がるのを感じて呼吸が浅くなる。温度の上がった視線に焼かれてしまえば、身体の芯がグズグズと沸騰する感覚に顔が火照り、キュンキュンと反応する心臓が苦しいのに、ずっとこうしていたいと思う不思議な感覚に襲われて。……もっとこの人に触れたい、その衝動のままに、未だ襟に添えられていた指に力を込めて、その身を寄せようとした瞬間、もう何度も触れてきたはずの熱い手が、ジリジリと頬を焼く感触に──「っあ、」と小さく、けれども確かに期待で身体が震える。永遠にも感じられる沈黙の後……ゆっくりと近づけられた顔に、そっと瞼を閉ざした。 )

……あ、ありがとうございます。
うーん、中々用意周到ですね、トゥーヴロン夫人、すごく綺麗な方なのに……。
サロンに招き入れてくれそうな人の目星は、ついてらっしゃるんですか?

( ──果たして、あれはなんだったんだろう。廊下から聞こえてきた年下同期の声に、ビビもまた慌てて態度を取り繕ったものの、勘違いでなければあの時ギデオンは……と、今日はグロスをしていたことを思い出し、唇に触れようとしていた指を寸前で止める。 資料を受け取りながら見上げたギデオンは、完全にいつも通りの顔色で、先程の真意は伺い知れない。……私ばかりドキドキしてるみたい、なんて不満もない訳では無いが、打ち合わせまでに時間がないことも確かで、資料を差し出されてしまえば、今回の本題であるそちらに気を取られもする。真剣に今晩のことを相談する心中で、先程の真意は後でゆっくり聞けばいい、と。僅かばかり生まれた期待に甘んじた結果──「失礼します!冒険者の皆様がこちらにいらっしゃると伺いました!」と、更衣室に響いた凛々しい声に、尽くその機会を潰されることになるとは思いもしなかった。 )

あ、憲兵の方ですかね。そろそろ会議始まるかな……




236: ギデオン・ノース [×]
2022-10-19 16:10:55




ほんの何人かな。見込みがありそうなのは、夫人の資料の次の五枚だ。
……着替えの連中もじきに来るだろうし、先にその話をしておこう。

(五か月間で培ってきた相棒同士の阿吽の呼吸は、ともに仕事モードへ切り替わるのを難なく叶えてくれたようで。……ギデオンの方もまた、心のどこかで自覚はしている今しがたの行為について、深く考えるのは後回しにしたいところだった。相手の言葉に頷いて並び替えた資料を示し、それから外の方へくいと頭を傾ける。小姓が呼びに来たということは、会議室の準備が整ったのだろう。ギデオンとヴィヴィアンは厳密には別動隊なので、必要な情報共有を予め済ませるべく、他の連中を待たずに向かっておくことにして。)

(──それから十数分後、ギルドの奥にある大会議室にて。憲兵団とカレトヴルッフの緊急合同作戦に向け、喫緊の顔合わせとミーティングが始まった。憲兵団は闇の舞踏会をこの数カ月追いかけており、今宵を正念場と定めている。逮捕者は百人近くも見込むため、総勢三百人の大掛かりな制圧部隊が会場付近に待機する手筈らしい。しかし、所在不明な“秘密のサロン”に彼らが突入するためには、現場を見つけ出し、内部から手引きする役割が必要になる。そうして白羽の矢が立った会場潜入組のうち、調理師や給仕ではなく、正装の客を装うのが以下の八名。カレトヴルッフの色男デレク、凛とした女剣士カトリーヌ、控えめな弓士アラン、年齢不詳の魔法使いアリス、剣士ギデオンにヒーラーヴィヴィアン。そして憲兵団からは、爽やかな好青年のエドワードに……アリス同様年齢不詳のブルネット美女、ジャネット。敵も憲兵団を常々警戒しているため、確実に顔が割れていないのは彼らのみだったそうだ。正装組の八人は、作戦の密かな協力者である貴族の参加客、ラクロワ卿の縁によって招待されたという口裏合わせになっており、めいめい夫婦か姉弟の関係を偽装する。ギデオンとヴィヴィアンもまた、“遠方の領地からまもなくキングストンに移り住むので、こちらの社交界に馴染みに来た婚約者同士”という設定で、ギデオンには“グレゴリー・ブラック”なる偽の名前も与えられた。作戦の進行にあたり、外に待機する制圧部隊への最終的な指示出しはエドワードとジャネットの役だが、違法薬物が売買される危険な現場に忍び込む以上、正装組同士はあるものを使って連絡を取り合うことになる──情報伝達魔法のかけられた、イヤリングとイヤーカフスだ。魔力を込めて触れれば、アクセサリーの拾った音が他の所持者にも伝わるらしい。ギデオンもシンプルな金のカフスを嵌めると、きちんと作動するかどうか、横のヴィヴィアンと確認しあうことにして。──そうして、現場での動きや非常時の符丁、保全してほしい証拠の例などを細かく話し合っていると、出発の時刻に至るのはあっという間。多くが成り上がりであるとはいえ曲がりなりにも貴族の夜会、怪しまれないための社交界の基礎知識は、行きの大型馬車の中で憲兵団にレクチャーされる運びとなった、のだが。……エドワードと共に同乗していたジャネットが時折、何やら意味深な目を向けてくるのは気のせいだろうか。まさかこんな時に再会するとはと、会議室に入るなり目を見開いてしまった、昔の縁の女である。しかも彼女に限って、別れ際に散々未練を示していたと、朧げながら記憶している。ヴィヴィアンが真横にいる上、そもそも大事な作戦決行前なのだ、妙な様子は匂わせないでもらいたいのだが。役立つ知識を授けてくれながらも、やはりどことなく熱っぽい目を向けられている気がしないでもない。何事かを薄々察して笑いをこらえている様子のデレクの方にでも、関心を移してくれないものか……と、祈っていたのが届いたのか。やがて馬車が止まり、弦楽器の優雅な音色が秋風に運ばれてきた。いよいよ会場についたようだ。ほっとしたように息を吐くと、先に馬車を降りてから、ヴィヴィアンの方を振り返る。今この瞬間から、潜入捜査は始まっていた。車中の妙な空気をきっぱりと押し流し、すっと上げた顔は既に、婚約者をエスコートする準貴族の男のそれで。大きな掌を差し出し、華やかな伏魔殿にドレス姿の相棒をいざない。)

……、レディ、お手を。





237: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-22 18:55:40




( 「──じゃーあー、この巻き毛の女性の名前と旦那の爵位!」「あー待って!さっき見た!ここまで出かかってるんだけど……!」古く由緒のある貴族たちはまず使わない大型馬車の中、ギデオンが思わぬ試練に直面していた一方で、ビビとその隣に座るアランのやり取りのなんと平和なことか。ギデオンとアリス、デレクとカトリーヌ、それぞれ冒険者として活躍して長い彼らは、ギデオンの様に記憶力がいいのか、はたまたアリスの様に危機回避能力が高いのか、その能力の種類に差はあれど、同じ厚みのある資料をさらりと確認しただけで、今晩のもっと綿密な計画だとか、あるいは雑談だとかに興じている──いや、それができるからこそ、長く冒険者として活躍できているのか。その因果関係の順番はともかく、その4人ほど余裕のない2人は、社交界のマナー講座の合間を縫って愚直に資料に向き合うしかない。必死になってアランと一束の資料を覗き込むより前に、一度でもジャネットがギデオンへ向ける熱い視線に気が付いていれば、こんな色気の欠片ものない姿を晒して、彼女に付け入る隙を見せたりはしなかったのに──数時間後、そんな後悔をする羽目になるとにはまだ気づく由もない。 )

──ありがとう、あなた。

 ( それから十数分後、年の離れた婚約者“グレゴリー・ブラック”に、全幅の信頼を寄せ、強い恋慕にとろりと浮かされた瞳を向けながら、優雅に馬車から降り立ったのは、田舎貴族の一人娘“リリー・ジョーヌ”だ。──遡ること数十分、大会議室にて。同じラクロワ卿に招待された者同士、8人の中でもし互いの関係を聞かれた時のため、それぞれの素性設定を軽く共有したのだが……ギデオン演じるグレゴリーに、いっそ“秘密のサロン”にふさわしく、嫌がる若妻を金で買った男にすればいいと持ち上がった冗談に、アランとカトリーヌから同時に「「やめた方がいい」」と。しかもそばかすの同期からは「ギデオンさんはともかくビビがね……」なんて聞き捨てならない注釈をつけられる始末。──どういう意味よ!と、気心知れた同期とじゃれあっていたものだから、カトリーヌの「アタシ達は役者じゃないからな。つかなくていい嘘を増やすとボロが出る。あんた達はお互いしか見えてない、ホヤホヤの新婚さんって顔してた方が向こうも油断するだろ」というフォローに、言外に普段からバカップル扱いされていることも、その笑みを噛み殺しているらしい表情が、どちらかといえばギデオンに向けられていることにも気づかなかった。
──そんなわけで、諸々の演技は相棒に任せたつもりで、内心大好きなギデオンからのレディ扱いに舞い上がりながら会場に踏み込めば、そのあまりの豪奢さに圧倒されてしまう。まず目に飛び込んだのは、身の丈の3倍はありそうな巨大なシャンデリア。遥か高い天井にはステンドグラスが敷き詰められ、床の大理石には継ぎ目が見つからない。貴族とはいってもリリーは年若い田舎娘だから、好奇心のままに周りを見回してもおかしくないだろう。そう半ば素で煌びやかな会場を見回せば──見つけた。2人の立つ入り口付近からは1階下に当たる、吹き抜けの下。赤い絨毯の敷き詰められたダンスホールにて、何やら他の貴族たちと話し込んでいるラクロワ卿を発見すると、ギデオンに絡めた腕を軽く引き、視線だけでそちらを指し示す。本来、社交界では誰かの紹介なしに、知らない相手に声をかけるなどありえないことだが、新興貴族の多いこの夜会では、あまり格式ばった方法は好まれないそうだ。それでも、トゥーヴロン夫人を含む、数名の中堅貴族達とお近づきになるためには、誰かの紹介を挟むというのが暗黙の了解ということで、もう少し会が進んだ時分にラクロワ卿に挨拶をしにいく流れに乗じて、何名か紹介してもらうという手はずになっている。とはいえいつまでも入口で立ち止まっていては、時間差で入場してくる他の6名の邪魔になる。お呪いの噂を得るにしても、秘密のサロンを発見するにしても、誰かに話しかけないことには始まらないので、できるだけ人が集まって出入りも多いテーブルを探して、再び会場を見回したところで、今まで流れていた曲が終わり、新しい曲が始まる雰囲気に思わず、いいなあ、これが仕事じゃなかったら──と楽し気に騒めくダンスホールを見つめてしまう。ただそれも一瞬のことで、人の流れが変わった今こそ、自然にテーブルの輪に入るチャンスだと気合を入れなおせば、無邪気にはしゃいでギデオン、及びグレゴリーを見上げて。 )

ねえ、あちらで飲み物を配ってるみたいですよ……、


( / お世話になっております。今回お返事が普段より遅れてしまい申し訳ございませんでした。
この直後の展開についてですが、まずは夫婦漫才を楽しんでから、ジャネット様とエドワード様のご活躍を楽しめれば、と考えております。此方はただの確認ですので、違う展開などのご提案がなければ流していただいて結構です。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 )





238: ギデオン・ノース [×]
2022-10-23 03:21:02




(若い冒険者の男女が顔を寄せ合い、名簿を睨んで唸る姿。それは、既に熟れきったベテラン一同からすれば、非常に微笑ましいことこの上ない光景──の、筈なのだが。ギデオンただひとりだけは、どこか落ち着かない心地に陥っているらしく。自然な風を装って相棒を盗み見ること数度、暫くそこに目を留めてから、車窓の外へと無理やり?がすこと数度。そうしてしまいには、相手は自分も良く知るアランだというのに……と俯いて自分を戒めている、その向かい側で。女憲兵ジャネットの瞳の奥に、とうとう仄暗い火がついた。かと思えばその真横、彼女の連れのエドワードときたら、楽しそうに同期とじゃれ合うヴィヴィアンを、感情の読めぬ面持ちでじっと眺め続けている。そろりと顔を見合わせたアリス、デレク、カトリーヌの胸中の声は、きっと一言一句違わずに揃っていたことだろう。──今夜の舞踏会は、こちらも間違いなく荒れる、と。)

そうだな、多少は飲んだ方がいい。

(さて、そんな嵐の予感とは程遠い、優美な管弦楽曲に満たされたホールにて。先程相棒の見つけてくれたラクロワ卿への挨拶は後に控える計画だからと、胸を高鳴らせている様子の相手の誘いにすんなり従い、シルクの白布がかけられた賑やかな一卓に向かう。“グレゴリーとリリー”同様、新婚なり婚約中なりの男女が集っているらしきその一帯は、いきなりぶち当たるには分の悪い“サロン”の常連も見当たらない。ボーイたちが配って回っている色とりどりの酒のグラスも会話の糸口になり得るだろうし、自分たちの独自調査の手始めにはお誂え向きと言えそうだ。そうして、他の客を避けながらゆったりと歩く道すがら、ギデオンの左腕を抱く相手の側に不意に頭を屈め。さらりと低音で囁いたのは──グランポート以来二度目となる、お約束の揶揄いの台詞。別段なんてことはない、大きな社交界に不慣れな婚約者をリードするのも自分の仕事であるはずだ。などと言いたげな殊勝な表情を、こちらを見上げる相手にわざわざ向けてみせる。しかし僅かに口角を上げているのは、やはり確信犯であることをありありと示していて。)

……あのシャンパンなら、リリーでもそう酔わないだろう。



(/いつもお世話になっております。どうかお気になさらず、今回の更新分も楽しみにお待ちしておりました……!別案等ございません。せっかくお気遣いいただいたのに恐縮ですが、些細な返事でもお伝えしたいと思い立ち、こちらも少しだけ顔出しを。朝夕が冷え込みやすくなりましたが、主様もどうぞ温かくしてご自愛くださいませ。今後しばらくの舞踏会編も、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。/蹴り可)





239: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-25 02:17:20



 ( ビビなりに自分たち二人が近づいて、おまじないの噂などを聞いても違和感の無さそうな、そしてできるだけ大人数から話を聞けそうな席を選んだつもりだが、冷静に首肯するギデオンの様子を窺う限り、この判断は間違っていなかったようだ。内心ほっとしながらテーブルの方へ一歩踏み出すと、不意に顔を近づけられて先程のやり取りを思い出し、膝から力が抜け落ちそうになる。──えっ嘘!こんなところで!? 思わず閉じた瞼と、絡めた腕にぎゅっと力を込めれば、遅まきに耳許を擽る低音の意味を理解して、己の勘違いによるあまりの羞恥に、顔から火が出るような思いがした。一体いつの話をしてるんだとか、こんな仕事中にだとか、言いたいことは沢山あるものの、いつも通り両手を握って抗議しかけたところで、潜入捜査中であることを思い出し、貴族令嬢が怒りのままに跳ね返るものなのかをはかりかねると、うなじまで真っ赤に染めたまま、行き場の無くなった左手で口元を隠す。そのまましおらしく縮こまれば、潤んだ目でギデオンを見あげて、か細く抗議するのが精一杯だった。 )

は、はずかしい……から、揶揄わないでください……

 ( ──そんな、しおらしく頬を染めていた健気さは何処へやら。テーブルにつき、水色のシャンパンを受け取る頃には、貴族令嬢然とした微笑を浮かべ。それどころか、そっとその頬に片手を当てると、人混みにのぼせてしまって……と、儚げに溜息を漏らして、話題の中心に滑り込む強かな求心力。ご令嬢といっても皆、半分庶民のような……良くて男爵令嬢、中にはそれこそ、望まぬ相手に金で娶られた者もいるだろう。控えめに零されたリリーの溜息は、一度でも社交界で、心細い思いをした経験のある、彼女達の庇護欲を、大いに掻き立てたらしい。あっという間に同年代のご令嬢達に囲まれて、近いうちキングストンに転居する予定を口にすると、それを聞いていた令嬢のうちの一人から「キングストンにはもしかして……」──結婚を機に移住されるの?といった趣旨の、期待の籠った視線を2人に向けられる。その問いを受けて小さく頬を染め、助けを求めるような視線でグレゴリーを見上げて、その腕を緩く引く姿は、傍から見ればいじらしく恥じらう新妻のようだ。しかし、その大きな緑色の瞳の中に、問の答えをギデオンの口から聞いてやらんと、役得に期待する、そんな挑戦的で懲りない輝きが満ちていることが、ギデオンからはよく見えるはずで。 )

……ねえ、グレゴリーさん、




240: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-25 12:09:24




 ( ビビなりに自分たち二人が近づいて、おまじないの噂などを聞いても違和感の無さそうな、そしてできるだけ大人数から話を聞けそうな席を選んだつもりだが、冷静に首肯するギデオンの様子を窺う限り、この判断は間違っていなかったようだ。内心ほっとしながらテーブルの方へ一歩踏み出すと、不意に顔を近づけられて先程のやり取りを思い出し、膝から力が抜け落ちそうになる。──えっ嘘!こんなところで!? 思わず閉じた瞼と、絡めた腕にぎゅっと力を込めれば、遅まきに耳許を擽る低音の意味を理解して、己の勘違いによるあまりの羞恥に、顔から火が出るような思いがした。一体いつの話をしてるんだとか、こんな仕事中にだとか、言いたいことは沢山あるものの、いつも通り両手を握って抗議しかけたところで、潜入捜査中であることを思い出し、貴族令嬢が怒りのままに跳ね返るものなのかをはかりかねると、うなじまで真っ赤に染めたまま、行き場の無くなった左手で口元を隠す。そのまましおらしく縮こまれば、潤んだ目でギデオンを見あげて、か細く抗議するのが精一杯だった。 )

は、はずかしい……から、揶揄わないでください……

 ( ──そんな、しおらしく頬を染めていた健気さはどこへやら。テーブルにつき、水色のシャンパンを受け取る頃には、しっかりと貴族令嬢然とした微笑を浮かべて。それどころか、そっとその頬に片手を当てると、人混みにのぼせてしまって……と、儚げに溜息を漏らして、話題の中心に滑り込む強かな求心力は、冒険者云々と言うよりは、天性のものと言わざるを得ない。ご令嬢といっても皆、半分庶民のような……良くて男爵令嬢、中にはそれこそ、望まぬ相手に金で娶られた者もいるだろう。控えめに零されたリリーの溜息は、一度でも社交界で、心細い思いをした経験のある、彼女達の庇護欲を、大いに掻き立てたらしい。あっという間に同年代のご令嬢達に囲まれて、近いうちキングストンに転居する予定を口にすると、それを聞いていた令嬢のうちの一人から二人へ、「キングストンにはもしかして……」──結婚を機に移住されるの?といった趣旨の、期待の籠った視線が向けられる。その問いを受けて小さく頬を染めると、助けを求めるような視線でグレゴリーを見上げ、その腕を緩く引く姿は、傍から見ればいじらしく恥じらう新妻のようだが、隣にいるギデオンからは、その大きな緑色の瞳が、自分たちが結婚を控えた婚約者である旨を、大好きな相手の口から聞く役得を楽しんでやろうと、懲りずに挑戦的に光るのがよく見えるはずで。 )

……ねえ、グレゴリーさん、


 ( / いつも細やかなお気遣いありがとうございます。こちらこそいつも背後様の更新を、日々心待ちに過ごしております。
背後様におかれましても、寒暖差の激しい季節ですがお体にお気を付けてお過ごしください。
どうぞよろしくお願い致します。

重ね重ね失礼します。
昨晩の投稿ですが、何故か推敲以前のものを提出しておりました……。
言い回しなどをいくつか変更したのみで、展開は全く変わらないのですが、添付し忘れました背後返事と共に、上げさせていただきます。
大変失礼致しました。/蹴り可 )




241: ギデオン・ノース [×]
2022-10-26 16:42:55




(女には、生まれついての女優というのが時々いるが──まだうら若いギデオンの相棒も、まさにその手の才女だったらしい。会話の輪にするりと溶け込み、仕草や表情を巧みに駆使して周囲をたちまち魅了する様は、鮮やかとしか言いようがない手腕。内心舌を巻きつつも、この機を無駄にするわけにはとギデオンも調子を合わせ、彼女のそばに佇みながら、令嬢たちの連れの男性陣と通例の挨拶を交わしていく。この一帯は爵位を持たぬ参加者たちが多いようで、中には男爵家相手に逆玉を遂げたと思しき、ただの小金持ちの中年男さえ混じっていた。会場の雰囲気に完全に圧倒され、おどおどとぎこちないのには、腹の底で哀れんでいたが。……捜査資料からその狡猾さが読み取れる、主催のギヌメール伯爵夫人のことだ。夜会の途中でサロン参加者がいなくなるのを気づかれにくくするために、ただの水増し要員として彼らも掻き集めたのだろう。あくまで中堅貴族に過ぎずとも、遥か下から見上げれば雲上人には変わりない。招待を無碍にするわけにもいかず、苦心してどうにか着飾り来場したまではいいものの、新興貴族の群れの中ではやはり肩身の狭い思いを強いられ、こうして同類同士、端に寄り集まって場を凌いでいる……という事情らしかった。連れのエスコートもままならないのが余程身に堪えていたのか、同じ準貴族とはいえやけに寛いだ様子のギデオンを、まだ二十歳そこそこの青年から、上は五十がらみの中年まで、皆が皆、憧憬露わな眼差しで見てくるほどだ。「……めいめい、美しい妻を連れているんです。ただ堂々としていればいいんですよ」と、飲み干した二杯目のワイングラスをボーイに引き取らせたところで、令嬢たちと囀っていた“婚約者”から声をかけられ、ふと振り向いて──それまでの優雅な二枚目ぶりが嘘のように、ほんの一瞬、石のように固まった。潜入捜査である以上、相棒の会話には当然耳を澄ませていたし、仮初の婚約について尋ねられたのもわかっている。“リリー”が、“グレゴリー”からの言質をいじらしくねだるのだって、別に取り立てておかしくはない。が、しかし。……この数カ月、“ヴィヴィアン”から幾度となくアプローチを受け続けてきた自分にだけは、この状況、その仕草、その視線に込められた真意が、まっすぐに伝わった以上。愛らしい獰猛さに輝くエメラルド色の双眸にすぐさま応えるのは、なんだかものすごく、いつも通りに憚られたのだ。しかもそれだけではない──全くいつも通りではない、全く別の動揺もあった。彼女に傍から見上げられたことで、脳裏に蘇ったのは、たった数分前のやりとり。無邪気にはしゃぐ相棒の表情が可愛らしい怒りに染まるのをふと見てみたくなったからと、彼女の酒の弱さを安易につつくなどした結果。普段なら握り拳を振り上げて抗議するはずのところで、ヴィヴィアンが見せたのはしかし……羞恥にきゅっと縮こまり、真っ赤な顔をして、口元を隠しながら瞳を潤ませるという、いっそ殺人的なまでにしおらしい反応だった。あの時のギデオンは、思わず真顔でまじまじと見つめ返した後、すっと顔を背けて。「悪い」と一言謝ってから、卓に導くふりをしつつ──五月蠅く暴れだした心臓と、臓腑の底からぞくぞくと込み上げるどうしようもない嗜虐心を鎮めるのに、死ぬほど必死だったのだ。あのとき盛大に彫った墓穴をようやく忘れた気になっていたのに、あのときと全く同じように見上げられただけで瞬時に思い出してしまったのだから、コンマ数秒ほど固まるのも無理からぬ話だろう。──とはいえ、これでもベテランの冒険者。ヴィヴィアンの不屈のアプローチにたじろいだのと、先ほどの彼女を思い出して蘇った動物的な揺らぎは、ギデオンの瞳を覗き込むヴィヴィアンにしかわからなかったに違いない。それをいかにも社交的な笑みでさっと打ち消すと、周囲の方に振り向きながらヴィヴィアンの細い腰に手を回し、そっと抱き寄せて宣言する。あまつさえ、頭を寄せて彼女のつむじに唇を落とせば、令嬢たちの間からは押し殺した悲鳴が上がった。……多分今のインパクトで、不自然な間は打ち消せたはずだ。密着を多少ほどくと、通りかかったボーイから三杯目のグラスを受け取り、再び男連中の輪の方に向き直る形で、興奮している令嬢たちに彼女を預けることにして。……質問攻めというのは同性間の方が多少明け透けになるものだ。そのはずみに、巷で広がっているまじないの噂を聞きかじれればいいのだが。)

──ええ、ちょうど一年後に式を挙げる予定でして。
ただ、私の一族は代々、結婚前夜に何かしらのトラブルが付き物でね……聖職者に何度か祈祷してもらっています。……そのくらい、彼女を妻に迎える日を待ち焦がれているんです。





242: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-29 01:22:20




私っ、揶揄わないで、くださいって……言ったあ!

( ──あれから約30分後、会場の喧騒から少し離れた、しかし中の様子はしっかりと確認できるテラスにて。暗い外が中からは見え辛いのをいいことに、ギデオンの分厚い胸筋や太い腕をぽこすかと叩くのは、今夜頬の血流を休ませる暇のないヴィヴィアンだ。正直確かに調子に乗った……ええ乗りましたとも!想像以上にうまく、ご令嬢及びご婦人たちの関心を惹くことに成功し、手に取るように欲しい情報が手に入った。しかもこの状況なら、いつもするりと逃げられるギデオンからさえも、きっと思い出す度幸せになるような言質を貰えるに違いないと思えば、こちらを振り返った相棒の瞳に揺らめいた、凶暴な捕食者のような光さえ、可愛らしい負け惜しみにしか見えなかったのだ。──ええ、ちょうど一年後に式を挙げる予定でして──ここまでは非常に良かった。そう、これを、大好きなギデオンの口から、これを聞いてみたかっただけなのだ。珍しい表情を浮かべるギデオンに見惚れて、あとは肩に手でも添えられたら最高……なんて、可愛らしい出来心に、あんな仕打ちをする必要があっただろうか。腰に回される大きく熱い感触の正体に気付く間もなく引き寄せられ、太陽神とてここまでではない眩いご尊顔を至近距離で拝まされた挙句、頭上から降るつま先から溶かされてしまいそうな甘い台詞。それだけで十分致命傷だというのに、つむじに感じられた柔らかい感触の正体を、目の前の淑女たちの反応から思い知らされれば、あまりの供給過多に眩暈さえ覚えた。あまつさえ、興奮した彼女達からの質問攻めに「困った時に、いつも助けてくださるところとか……」「美味しそうにお食事を召し上がるのが可愛らしくて、」「全部好き、です」など、本人の隣で相手の好きなところを説明させられる耐えがたい羞恥。そうして普段は握る振りで収める拳を、今回ばかりは実際に振り下ろしながらも、万が一にも痛みを与えないよう爪を隠し、猫パンチの要領でぺしぺしと叩くあたりが、案外冷静なのかどうなのか。 )

──確かに、お陰でお話聞けましたけど……。

( そう、あまりのことに先程のギルドでのやり取りの記憶などさっぱり抜けて、ギデオンの仕打ちを自分への揶揄いだとしか認識していなくても、あまり強く怒れないのは、その“素晴らしい”アシストにより、「祈祷といえば……」と、貴族間でも“恋のおまじない”なるものが流行り始めていること。そしてそのおまじないを、最初にキングストン社交界に持ち込んだのは「それは美しい貴公子だって伺ったわ」という有力な証言も得られてしまったからで。アメリアや他の被害者たちを苦しめた犯人が、未だ反省するどころか、新たな標的を増やし続けている。その事実に小さくため息を零し、欄干に手をついて星空を見上げれば、その横顔は既にいつもの真剣なそれに戻っていた。
 先ほどから遠巻きに聞こえてくるマズルカが途切れ、今度は定番のワルツだろうか。また新しく舞踏会に相応しい優雅な曲の演奏が始まる。計画通りならそろそろ、偶然をよそおい同時にラクロワ卿に挨拶に行く予定のエドワード・ジャネットペアがサロンに来るはずなのだが、どうやら聞き込みに時間がかかっているらしい。先程のテーブルで得た情報を色々確認したい気持ちこそあれど、人目がないとはいえ潜入先。怪しまれる会話はできるだけ避けようとすると、あまり込み入った話をすることもできず、どうしても話題は雑談に流れていく──あ、そういえば、と、何気なく会場の方を注視していたビビの視線が、ギデオンに向けられたのはそのタイミングで。流れてくる踊りやすそうな円舞曲に、ギルドでこの仕事に誘われた時の文句を思い出すと、キラキラと期待の篭った目でギデオンを見つめて。 )

ギ……グレゴリーさんは、ワルツ踊れるんですよね
一曲、誘っていただけませんか?


243: ギデオン・ノース [×]
2022-10-29 06:19:28




っく、くくっ……。悪かった、謝るから……謝るから許してくれ。

(二つの意味で湯気を立てながら猛抗議するヴィヴィアンの前で、当のギデオンはと言えば、大理石の欄干に気障にもたれかかりつつ、これまでにない腹の底からの大笑いを、それはもう懸命にこらえている有様だった。いやはや本当に、これほど愉快な気分になるのはいつぶりのことだろうか。仮にも潜入捜査中、尚且つここは優雅さの求められる社交界ということで、人混みから離れたテラスにいるとはいえど一応人目に気を遣い、拳を口に当てながら全身を震わせるだけに頑張って留めているのを、彼女にも褒めてもらいたい。猫じみた軽いパンチの嵐は、相手の優しさが込められているにせよ、そのあまりにも低い威力がかえっていじらしさを掻き立てる。本人はこちらを怒っているつもりでもまるで逆効果にしかならないのだと、はたしてわかっているのだろうか。そんなヴィヴィアンの必死な台詞も、真っ赤に恥じらう表情も、本当にどれもこれもが可笑しくて──それ以上の、もっと深い感情すら、否応なしに抱かせて。未だ明確な言葉にならずとも胸に広がる、この特別な温かさ。それをわざわざ打ち消そうとする考えなど、もはや思い浮かびもしなかった。)

(そうしてささやかなガス抜きを終えると、ギデオンもまた星空を振り仰ぎ、今宵の目的に話を戻す。ヴィヴィアンの(誰の目にもまったくもって演技とは思えない)恥じらいの甲斐あって、大いに浮き立った御令嬢たちは、まじないについての話を口々に教えてくれた。その方法の傾向………酷く歪で型破りな材料の組み合わせ方はやはり、ふたりでここ数週間解析しまくった数々の呪具と全く同じそれだった。そして彼女たちの言う「美しい貴公子」は、中流貴族の御婦人たちの前にだけ現れたそうだ。おそらくそこから口づてに広まって、男爵家のような末端の娘も知るところとなったのだろう。流行りというものに一際敏感な性質を持ち、尚且つ様々な愛憎渦巻く社交界では、例のまじないはより一層脅威をもたらすであろうことが想像に難くない。相手同様、被害の拡大を思うと頭が痛くなり、憂鬱な相槌を返さずにはいられないが、それでも確実に、黒幕に一歩近づけたのは事実。次に話を聞き込むべきは、中流貴族の女性たちだ。そして──それを可能とする絶好の機会は、今まさに、目の前の華やかなダンスホールの中に。)

……エドワードたちも、まだ“挨拶”に向かえないみたいだしな。
先にふたりで楽しんでおくことにしよう。

(相手の言葉にそちらを向いてから、一度片耳に手をやり、装着しているイヤーカフスがちゃんと機能していることを確認する。本来なら、最初の連絡が聞こえてきてもいい頃だ──ギデオンとヴィヴィアンも、それを思って一旦喧騒を離れたのだから。とはいえ、ホール内で姿を見かけてはいるから、何か緊急事態が起こったということはなく、予定が少し遅れているだけのことだろう。リーダーからの連絡の待機がてら、ホールの参加客の様子を確かめておき、脳内に記憶した情報と照らし合わせて聴取対象をより精密に絞るのも悪くない。──たとえ自分や相手にパートナーがいても、社交場のマナーさえ守れば、複数の相手と次々に踊れるのが舞踏会という催し。それを利用して聞き込みを行う為にも、まずは最初の一曲を、自分の婚約者と踊っておくことが必要となる。そんな計算をしていたものの、相手の方に再び向けば、その色鮮やかなグリーンの瞳が純真無垢に輝いているのに気づき、思わず困ったように苦笑して。頷いたそのままに相手の白い手をそっと取り、再び煌びやかな室内へ戻ると、傍目にはいかにも仲睦まじく寄り添いながら、一曲目の終了を待つこと暫し。踊り手が入れ替わるタイミングになれば、静かにホールへ進み出て、所定の位置のうち比較的に目立ちにくいポジションへ。まずは周囲の観客に、それからパートナーであるリリーに優雅な一礼。それから彼女と片手を絡め、残る他方はそのほっそりした背中に回し──初めて素肌のそこに触れた動揺は、仕事に備えての集中を胸に銘じることで速やかに押し流す。自然と近くなる距離感に彼女の熱を感じ、密かに息を押し殺しながら、耳を打つのはほんの一瞬の静寂。──やがて、ポロポロと煌びやかなハープのカデンツァを前置きに、弦やホルンの合奏で主部が織り上げられていく“花のワルツ”が流れ出せば、優雅なステップを相手と共に踏み出して。)





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