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Petunia 〆/853


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自分のトピックを作る
202: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-23 01:28:52




( ギデオンさんならあの船を恐れるに足らないものだと思わせてくれるかもしれない──そう漠然とした期待が、此方の言葉を疑問形で繰り返した相手に沸き上がるものの、寧ろしっとりと雰囲気たっぷりに頷かれてしまえば、ますます顔色は悪くなるばかり。しまいにはメイドの悪戯に、よせばいいのに恐る恐る振り向いて、今度は全身の肖像と目が合ってしまった時の動きといったら──自慢の脚力を活かして蛇を見つけた猫の様に飛び上がり、口を押えているギデオンの脇にしっかりとしがみついた腕力は、相手が一際頑丈な部類だから問題ないものの、なぜこれで眉唾な存在にここまで怯えられるのか不思議になるほど、しっかりと鍛えられている。それでいて豊かな脂肪をもってしても尚、隠しきれないほどに心臓を暴走させながら漏らした叫びは、彼女らしからぬ弱々しいものだった。 )

……絶対、絶対いないんだから!

( ──結果的にメイドとギデオンの2人に弄ばれ、紙のような顔色をしていたのは幸運だったかもしれな……いやそれはない。ともかく、サロンに踏み入れれば、明らかに男の劣情を煽るためだけに作られた衣装で着飾った彼女達を前に、普段であれば赤面は免れなかっただろう。すっかり引いていた血の気が過剰に登りきる前に、サロンを抜けられたことに安心したのもつかの間。通された一室の重苦しい雰囲気にギデオンを仰ぎ見れば力強く頷き返して進み出る。明らかに小娘であるヴィヴィアンに、少なからず警戒の視線を向ける女将に会釈をしてから、未だアメリアから姿の見えない位置から挨拶を。ある意味場違いな余所者の女の声に、少しだけ安心したらしい彼女の許可を得て枕元に近づけば、シュミーズをまとった背中が起き上がろうとするのを手伝う。まだ残暑も厳しいというのに、分厚い掛布団から顔を出した彼女は、美しいウェーブを描く豊かな栗毛に、長いまつ毛に縁どられたペールグリーンのたれ目、これだけやつれても尚アイリーンやフィオリーナに劣らず実った胸元には、今日だけで3人目にしてギデオンの好みが窺い知れるが、ビビとて其れを指摘しない手心くらいは持ち合わせている。そして何よりまあるい産毛が色っぽくも可愛らしい額から、ほっそりとした鼻を通って反対側の頬へ、大きく入った漆黒の奇妙な紋様と白い肌のコントラストは、いっそ怪しいくらいに彼女の魅力を掻き立てているが、白魚のような手で顔を覆った彼女はさめざめと泣きながらこう語る。最初に気が付いた時は額に黒子より小さく咲いた花のようだったのだと。それと時期を同じくして毎晩毎晩悪夢を見る。あの人を返せ、返せ!と、恐ろしい声に追い立てられて朝目を覚ませば額の紋様が痛みと共に成長していて、今はもう痛みで眠るのもままならず、数日おきに体力切れ気を失うように眠りに落ちれば、また紋様が大きくなっているらしい。普通の女なら半狂乱になってもおかしくない状況でも、冷静に説明してくれた女性は大人しそうに見えて、やはりシャバネの看板を背負っていた娼婦なのだと思い知る。それでも冷やした布を時折変えながら、もういっそ楽になりたいと嘆く彼女に悲痛さに、思わず手を伸ばせば聖の魔素を流し込んでいた。杖やローブという正規の通り道もないままに膨大な魔力を使ったものだから、アメリアに渡らず空気に混ざったとんでもない量の魔素がぱちぱちと光っては霧散していく。しばらくして周りの光が落ち着くと「あ……いたく、ない」と嬉しそうに微笑んで自然な眠りについたアメリアを、もう一度ベッドに寝かせて、自分の額に浮かんだ汗をぬぐう。今ので額まで後退した紋様はやはりどこか悪魔のそれに似ているが、悪魔のそれは種族、また種族の中でも地域や血筋によって細分化されていて、呪いの型式もわからない状態で押し返すのはこれが限界だ。ただ、丸腰のビビで押し返せるのなら、大した力じゃないだろうと見当がついたのは不幸中の幸いか。何とか呪具を見つけて破壊するか、本当に関係する元の魔族がいるのならば、そいつを引きずり出してボコボコにのしてやるか──後者の方が楽そうだな、と相変わらずの思考回路でため息をつけば、カバンの中からアメジストのドリームキャッチャーを取り出して。学院の被害者たちの話を聞いてもしかして、と用意してきていて本当に良かった。呪いの元を絶ったわけではないから、これで彼女の体調が劇的に良くなるわけではないが、夢を依り代にしているのなら進行くらいは防げるだろう。天蓋のロープにくくろうとしてから、もし彼女がこの部屋で客をとっているのならば、いわば彼女にとって戦場となる場所に勝手に下げるのは如何なものかと思い立ち、せめて女将に許可をとろうと振り返る。そういえばギデオンの視線に甘えてアメリアに集中してしまっていたものの、ギデオンの方でやり手婆から何か情報は得られたのだろうか。魔力の大量消費で血の気を失って震える指先を隠せば、廊下にいたころとさして変わらない白い顔で気まずそうに2人をみやって。 )

──あ、勝手に魔法を使ってしまってごめんなさい。
せめて痛みだけでも、と思って……あのこれ、夢を見なくなるだけでも随分変わると思うんです。お渡ししてもいいですか?


( / お返事にお時間をいただき大変失礼いたしました。今回、被害者の描写がメインということで、進行優先でかなり強引な形となってしまったため、返信し辛いなどございましたら仰っていただければ幸いです。こちらこそギデオン様がたまに見せてくださる、意地悪な表情には毎回心臓を撃ち抜かれております。

設定置き場のご提案もありがとうございます!
お忙しい中サンプルまでご用意いただいてなんとお礼を申し上げてよいか…!!当方が調べていた無料サービスも、背後様がおっしゃるような問題点がございまして、このまま「poolsketch」でお願いしたく存じます。
初めて使うサービスのため今少し使い方の確認をしておりまして、そちらが終わり次第、バルリズも含めて、いくつか温めていた設定をあげられればと考えております。
今回も非常に素敵なロルとお気遣いありがとうございました。背後様の描写や言葉の取り回しが本当に本当に大好きでして、こちらが楽しませていただいている分、背後様にも少しでも楽しんでいただければと試行錯誤する毎日です。それでは何かご連絡がなければ、ご返信には及びませんので、次回の学院編に向けてどうぞよろしくお願いいたします。 )




203: ギデオン・ノース [×]
2022-09-25 04:53:28




(こくりと頷いた相手の顔は、既に上級ヒーラーと比べてもまったく見劣りしないそれ。故に、相手にすぐさま背を向けて病床のアメリアを任せ。己は女将を部屋の端に呼んで、二、三の質問から切り込んでいくことする。──話によれば、事の起こりは十日ほど前。アメリアの額に、突然小さな紋様が咲いた。その日はさほど気にしなかったが、夜になって眠りにつくと、覚えのない女の声が罵ってくる悪夢に、一晩中魘されたそうだ。そしてようやく朝を迎えると、紋様が広がっていると同時に、痛みが差すようになった。それは夜毎、朝毎にどんどん酷くなり、客を取れなくなったどころか、休むことすらもままならなくなる有様。これはまずい、と感じた女将が、慌てて『シャバネ』お抱えの魔法医に診せたところ、おそらく心身の病ではなく、たちの悪い呪いをかけられたのではないか、と言い渡される。しかし、非常に不可解な魔法回路が用いられているため、すぐに解析することは到底不可能との話。魔法医の方でも他の専門家をあたっているが、正直進捗は芳しくない。そうこうする間にも、アメリアの衰弱は悪化していく一方だ。……どうにか、ならないものか。あの子は長年、懸命に、この館を支えてきてくれたのに。そう声を震わせる老婆は、このうたかたの業界で厳しく采配を振るいながらも、自分の育てた嬢たちに直向きな愛情を注いでいるのがよくわかる憔悴ぶりで。「……彼女の得意先に心当たりは?」とギデオンが静かに問いかければ、女将は濡れた目をそっと閉じ、首を横に振るばかり。アメリアは身請けの予定もなかったから、独占欲を拗らせた男が傷つける可能性は低いだろう。第一、そんな危険のある男など、アメリアの部屋にはまず通さない。そもそも容体が悪化して以来、どの客にも会わせていないし、いずれも、少なくとも表面上は、アメリアの不調を心底心配している様子だ。ならば客の妻は……という話だが、そもそも『シャバネ』の女たちは、一夜の夢を見せるのが仕事。妻に隠れて遊びに来る男など、数えあげればきりがない。客と館の信頼関係を崩さぬためにも、顧客の名簿は決して外部に見せられない。そこまでしおらしく言ったところで、けれど、と老婆は顔を上げた。アメリアは高級娼婦だから、旦那方から高価な贈り物を貢がれる。そういう品はほとんどの場合、その場で身に着けることを求められる。もしかしたらその中に、何かあるのかもしれないと、今日になって疑い始めたところ。品物はトランクケースに纏めておいたから、持ち出して、好きに調べてもらって構わない。とにかく少しでも、アメリアを良くするための方法を探してほしい、と。)

(──そこまで話がまとまったところで、パチパチッ、と空気中の魔素が派手に瞬く気配に、女将が驚いた顔で振り返る。それよりも早く、室内の魔素の急激な高まりに気づいていたギデオンも、ヴィヴィアンの顔色や、そっと隠した手元の辺りを注意深く見つめていて。「……」と無言で思案すること数秒、女将の方に向き直ると、この調査をきちんと捜査すると伝え──言外に、そろそろ引き上げる、と匂わせる。……ヴィヴィアンとはこの数カ月、何だかんだで多くの時間を共にしてきた。彼女の人柄も、弱った患者を前にしてとるであろう行動も、……結果、どんな体調に陥ってしまうのかも、今のギデオンならわかるのだ。不自然にならぬよう、暇乞いの時間をしばし作ろうと見守れば、ヴィヴィアンの質問を受けて、「あ……」と声を漏らした女将が、答えを返さぬままベッドの端に歩み寄り。そっとアメリアを覗き込んだ背中、そこに今にも崩れそうな安堵の気配がぶわりと滲んだのを見て、ただそっと目を逸らし、部屋の隅に置いてあったトランクケースを持ち上げる。「……ッ、こんなに、呪いが小さくなって……こんなに、こんなに安らいだ顔のこの子を、見るのはっ、もう随分と……久しぶりで……っ」嗚咽を必死に抑えようとする女将は、そう言ってこくこくと頷き、相手が手にしたドリームキャッチャーを受け取ろうと手を伸ばした。ヴィヴィアンの手配の良さに感心しながら、そこでようやくギデオンも、何かあれば連絡するように、──今回のような治療は頻繁に施せないが、酷くなる前にまたヴィヴィアンを呼んでほしい、と。別れの言葉にかこつけて、さり気なく相手の治療に口出ししておく。それは女将を安心させるためと同時に、ヴィヴィアンの行動を牽制するためのもの。出過ぎた真似は百も承知だ。しかし、今は人前だから、とそのまま雰囲気で押し流せば。最後にもう一度女将に挨拶し、ヴィヴィアンと共にアメリアの部屋を出て、行きと同じメイドの案内のもと、長い廊下を戻っていく。そうしてとうとう『シャバネ』の出口──行きで使ったものとはまた別の裏口──から、月明かりに淡く照らされた裏路地の上に出ると。ふ、と小さく息を吐いてから、隣の相棒に向き直る。そこには心なしか、うっすらと怒ったような表情を浮かべていた。ヴィヴィアンは、あのギルバード・パチオの娘だ。天賦の魔力を秘めており、やろうと思ったことを本当に成し遂げてしまう。しかしアメリアの受けた呪いは、自分がレイケルに叩き込まれたあれと似たような厄介さだ。たとえあの時のように、古代魔法の継続使用で消耗してはいないにせよ……一時的にでも癒そうとして、杖の助けすらなしに、自身に宿る膨大な魔素を動かすなど。──冗談じゃない。)

────……。今、眩暈や吐き気の類は?



(/普段よりかなり遅い返信となってしまい申し訳ありません。ひとまず、第三者が登場するシーンを一度終わりにしましたので、ここからは再び、ギデオンとビビのふたりでまじないの解析を進める方向にできればと思っております。
こちらこそ、いつも素敵な物語をありがとうございます。こちらもあれこれ試行錯誤を続けている身でして、ロルの文量や展開の進み具合、心情・行動の比重は大丈夫だろうか……と思い悩んでいたのですが、主様のそのお言葉に救われております。これからも最適なロルを真摯に模索してまいりますね! ギデオンとビビの交流を描くお付き合いも長くなってきましたので、そういったストーリー以外の要素でも今一度相談したい事柄などあれば、お気軽にお声がけくださると幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。/蹴り可)






204: ギデオン・ノース [×]
2022-09-25 05:11:35



(/度々失礼いたします。投稿後に読み返してから諸々の矛盾に気づきまして……!
ビビを信頼しておきながら、魔力に飽かせたパワー系治療に怒ったり、そもそも相手はそういうことをする人間だとわかっていたはずであったり……その辺りがごちゃごちゃになってしまっており、大変申し訳ありません。
ひとまずは、ギデオン自身の中でも、彼女を一人前のヒーラーとして尊重したい気持ちと、それに基づく油断めいた信頼、しかし強引な治療で無自覚に無理をしているのを目の当たりにする度にやはり許し難くなってしまう気持ちが沸いたり、と複雑に揺れ動いている……ということにさせていただければと思います。ご迷惑をおかけします……!)




205: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-25 17:21:47




( 今にも泣き崩れてしまいそうな背中を、駆け寄って支えたい気持ちはあるというのに、殆ど重みのないお守りを差し出す手を、震えていないように見せるだけで精一杯なのがもどかしかった。アメリアの枕元には少しでも痛みを和らげるためか、冷水を張った木桶と布の切れ端が置いてある。女将自ら何度も布を絞ったのだろう、真新しい肌荒れと、欠けた爪紅がその愛情深さを感じさせる両手が此方の手を握って、何度も何度もお礼を繰り返す姿を見れば、これで全快とはいかない心苦しさはあれど、どちらかといえば安堵と誇らしい気持ちが優っていた。それ故に思わぬギデオンの牽制に目を瞬かせれば、トランクを片手にさっさと部屋を出ていこうとする相手の冷たい反応に、何か硬いもので頭を殴られたかのような大きなショックを受けてしまい。──何か、しでかしてしまったのだろうか。行きと違って一言も発さずに廊下を進む広い背中を追いかけながら、必死に思考をめぐらせる。部屋に入るまではいつも通りだったはずだ。こちらに向けられた視線に浮かぶ信頼が心底嬉しくて、穏やかに眠るアメリアを見ればまたきっと褒めて貰えると思った。1人で調べた呪具への対策もピッタリと役に立って、もしかしたらグランポートの時のように撫でてもらえるかもしれない、なんて……浮かれていた気持ちがみるみる絞んでいくのと、入口より一回り小さい裏口が見えてきたのがほぼ同時で。冷たい月光を反射する、美しく透き通った金の頭が振り返り、その珍しく怒りの滲む表情と、短く吐かれた息に小さく肩を震わせれば、叱責の言葉に備えて肩を強ばらせ、薄目で相手の言葉を待っていた。そうしてかけられた言葉の意外さに一瞬目を見開くも──こんな時まで、優しい人。と、こんなに怒っていても尚、まず此方の体調を気にかけてくれるギデオンに、場違いにときめく胸が我ながら煩わしくて、そっと相手から視線を逸らす。そんな誰よりも優しい人を怒らせるようなことをしてしまったのなら、その叱責は甘んじて受けるべきだ。眩暈も吐き気もないと言えば嘘になるが、馬鹿正直に答えればきっと優しいギデオンはビビを怒れなくなってしまう。未だ震えるみっともない両手を体の後ろに隠して、真っ青な顔色のままおずおずと後退れば、涙を堪え合わせる顔もないといった表情で俯いて。 )

……いえ、体調はどこも、問題ありません。
あの、ごめんなさい……私、こういう場所の、ルールとか、全然分からなくて──何か失敗してしまった、んですよね…。

( / お世話になっております。
追伸についてですが、背後様に仰られるまで全く気にしておりませんでしたので、そんなに恐縮されないでください。寧ろ、いつも一貫されているギデオン様の揺らぎとして、非常に魅力的なロルで!当方もこんな心理描写が書けるようになりたいと考えておりました……。
矛盾につきましては、今回当方も店の看板を背負っている高級娼婦であるアメリアには、当然高度な医療が既に施されているはずで、それでどうにもならなかったものがビビの治療で良くなるのは、あまりにもおかしかったなあと反省しておりました。
背後様と作り上げてきた、たくさんの設定がからんだ世界観が大好きなので、全て適当でいい……とまでは申し上げられませんが、そこを気にするあまりやり取りが楽しくなくなってしまうのは本末転倒ですし、ある程度は余裕を持って楽しむことが出来れば幸いです。
また、背後様の返信は本当に毎回素晴らしくて、全く不満などは感じておりませんが、先日リアルがお忙しいと仰っていての今回ですので、今度は背後様がご無理なされていないかと心配しております。返信速度につきましてはリアル優先でお気になさらず、ご負担の少ない形でお返事いただければと存じます。
折角、設定置き場も作っていただいたので、自分用のメモの体裁を其方に載せられるよう編集したりですとか、返信をお待ちしている間も楽しみは沢山ございます。これからもゆっくり末永くお付き合いいただけること楽しみにしております!

お忙しい中にも関わらず、時系列まとめもありがとうございました。完全に同じイメージでしたので、其方でお願い致します。 )




206: ギデオン・ノース [×]
2022-09-26 03:23:00




(ギデオンがじっと見据える先にあるのは、普段の快活さが見る影もなく消え失せて、萎れきった相手の姿。叱られるのを待つように、けれどもそれを心底怖がっているかのように。泣きだしそうな幼子にも似た必死の謝罪を前にして、無表情だったギデオンの顔は、胸を締め付ける罪悪感に歪む。……別に、こんな風に萎縮させたいわけじゃない。それでも今ここで、強く、強く、伝えなければ。そんな信念が胸にあるのだ。──奇跡にも等しいヴィヴィアンの治癒魔法は、苦しむアメリアをたしかに救った。嬢を心底案じる女将も、泣き咽ぶほど感謝していた。しかしそれを、ギデオンまでもが手放しに褒めてしまえば。己が本領を発揮するにはああするのが正しいのだと、きっと彼女は学習する。その先に待つのは地獄だ──感謝と賞賛で舗装された、孤独な衰弱死への道のりだ。しかし、なまじ天才に生まれついてしまったからこそ、本人はその危険を未だ自覚できていない。そして魔法使いという人種は、えてして師弟関係が希薄なもの。ひとたび学び舎を出れば独学を究めていくことが多いがために、ヴィヴィアン独自の方法の危うさに、他人もなかなか気づけない。そうして、だれもかれもが彼女の才能を賞賛しながら、最後にはたったひとり、気づかぬうちに弱らせてしまうのだ。……大事な師匠の忘れ形見を、そうでなくとも自分にとって大事な存在になりつつあるこの娘を、そんな悍ましい道に追いやるなど。絶対に、絶対に認められない、だから。)

そういう問題じゃない。……頼むから、嘘はつかないでくれ。

(──努めて、先ほどよりは幾らか和らいだ声音を以て、臆した彼女の謝罪をやんわり否定したかと思えば。トランクを下ろし、靴音を立てて一歩、二歩、彼女の方に歩み寄り。怯えた様子には取り合わずに彼女の嘘を看破すると、背後に隠した片手をそっと掴み、ギデオンの目の前へと問答無用で引き上げる。白魚のような、精巧で細い指先──しかし、先ほどよりはましになったようだが、まだ微かに震えている、これは明らかに痙攣だ。何より、親指の腹で撫でるように確かめれば、氷水にでも漬かっていたかのように冷たい。彼女の顔に視線を移すと、そこにはまだ血色が戻らない頬。普段はぷるんと桜色に色づいている唇も、生気のない青紫色に沈んでいる。……いつかの氷上で船乗りたちとアーヴァンクを一気に治療してみせたときさえ、こうはならなかったのに。やはり、法外な呪いを杖の補助もなく押し流したことで、大きな無理を働いたのだ。ぐ、と再び軽く狭められたギデオンの双眸に浮かぶのは、しかし今度は怒りではなく、苦悩と、心からの心配の色で。掴み上げた手の力を緩め、自然に下まで下ろすと、彼女の手をゆるく包み込み直す。己の体温が、少しでも移るように。そうして、相手の手の甲を指の腹で軽く撫でながら、そっと小声で囁きかける。どうかほんの少しでも、自分の言わんとすることが伝わってくれるだろうか。)

……自分の体調を虚偽申告すれば、いずれパーティー全体にその悪影響が及ぶ。なんてのは、冒険者が気を付けるべきお約束だろ。
だからまず、俺の前では──今後は絶対、そういうのはなしだ。



(/あああよかったです、ほっとしました……! 逆にこちらにとっても、ビビの治療でアメリアの症状が緩和された件は、全く気になっておりません。「魔法医の力を以てしてもそう簡単に解決できない、“おまじない”の厄介さ」「しかしそれをも突破できる、ビビのヒール力の高さ」の二点を魅力的に演出する要素として、わくわくしながら読んでおりました。主様の仰るように、世界観の作り込みを楽しみつつも、都度擦り合わせるゆとりをもって遊べればと思っております。
背後へのお気遣いについても、心より感謝申し上げます。無理はしておりませんので、ご安心くださいませ! とはいえ、本当に忙しくなりそうなときは、お言葉に甘えるべくきちんと連絡いたしますね。
またこちらも、主様のお返事を待つ間にも物語に触れる場ができてずっとうきうきしております。少しずつ少しずつ、そういった背景整備の楽しみ方も追っていければと思います……!
時系列も特に問題がないとのことで、細かな修正を施したのち、共有資料置場に転載しますね。この先ももしかしたらこまごまと纏めを作るかもしれませんが、主様の方でも加筆修正等お気兼ねなく行ってくださいませ!/蹴り可)






207: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-26 10:52:21



……。あっ──……ッ!?

( 嘘、と一瞬で虚勢を看破されれば、気まずそうに顔を歪める。この時点でまだ内心は、ギデオンの叱責を邪魔してしまった己の貧弱さへの呪詛で埋まっていた。一歩、二歩、と距離を詰められ、慌ててその腕から逃げるように体をよじるも、万全の調子でだって勝てない相手から逃げられるわけが無い。先程の嘘を証明するような白々しい指先から顔を背ける様子は、指先さえ隠してしまえば逃げ切れるつもりでいた、自分の顔色さえ把握出来ないほどに余裕がないことを表していて。──少し寒かっただけですって。本当に心配性なんですから。そうできるだけ軽薄に、口の中で何度か練習した言葉を口に出そうとして、なけなしの力でギデオンの手を振り払おうとしたその瞬間、その熱い親指にそっと手の甲をなぞられて思わず息を飲む。普段であればカッと顔に集まるであろう血液の温度さえ感じない身体に、やっと自分の有様に気づき始めて体を強ばらせれば、丁度歪められたギデオンの表情がよく視界に映った。もしかしてこの人は、私を心配してあんな表情をしていたのだろうか。そう気づいてしまえば、最早反駁する気も完全に失せ、(そうでなくとも逆らう力など残っていないが)されるがままにゆるゆると腕を下ろす。今までビビの無茶な治療に感謝こそすれ、怒る人など誰もいなかった。治療が終われば誰もビビの事など見ていないから、嬉しそうに笑う人達に水を差さないよう、そっとその場を離れて黙っていれば皆幸せでいられる。そう本気で思っていたというのに、あの狭くない部屋でギデオンは、昔情を交わした美しい天蓋付きのベッドに横たわる女性ではなく、部屋の隅に立っていたビビを見てくれていたのだ。自分の手を包み込んだ大きくて熱いその手に与えられた安堵は、弱った心には刺激が強すぎる。思わず涙腺が緩む感覚に慌てて唾を飲み込み、普段は自ら後輩達に言い聞かせているレベルの指摘を、今更言い含められている自分へ苦笑すれば、相手の気持ちに応えるように、今度は自分から半歩相棒に近づいて、その分厚い肩に額を預ける。今まで何度も何度も聞いてきたにも関わらず、言う側には殆ど立ったことがなかったそれは非常にたどたどしく、口にすると気持ちまで弱っていくようで、途中から鼻にかかったような甘えと水音が混ざっていくのが恥ずかしくて、顔があげられなくなってしまった。 )

──気持ち、悪い……です。寒いし。頭も痛い、グラグラする。こうしてると、少し楽で、安心します。
……ッ、鼻の奥も……痛いし、鉄の匂いがする。もう、ッ帰りたいけど、歩きたくないな。




208: ギデオン・ノース [×]
2022-09-26 12:14:52




(相手は身構えていた力を抜き、ぽすんとギデオンの肩口にもたれた。下からぽそぽそと上がる説明の言葉には、鼻を啜るような水っぽい気配こそあれど、先ほどのような疚しい強がりはもう見当たらなくなっている。そのことにギデオンも、安堵の滲む温かい吐息を無音で漏らせば、繋げていないほうの片手をすっと持っていき。相棒の小さな頭の後ろ側を、ぽんぽんとあやすように撫でてやることにして。……ヒーラーとしての高い誇りを胸に宿すヴィヴィアンが、未熟者として扱われることを強く嫌うのは、今も記憶に新しい。それでも、今夜はこうして素直に弱みを吐露してくれるのだから、ギデオンの言いたいことは届きかけているのだろう。無自覚に重ねてきた過ちについても、話せばきちんと理解してくれるにちがいない。とはいえ今は、一気に話を進めないほうが良さそうだ──彼女が語る症状は、思っていたよりずっと重い。今晩のところは下宿先にまっすぐ送り届けて、休ませてやることにしよう。グランポートの医者のおかげで、しばらく安静にしていれば回復することはわかっている。だから、おそらく顔を見られたくないだろう相手の頭のてっぺんに、そのまま軽く顔を寄せると。)

……表通りまでは、頑張って歩いてくれ。巡回馬車を捕まえられるし、ベンチがあるから座って休める。そこまで行ったら、あとはぐったりしていて構わないから。な?

(穏やかな声で、そう言い聞かせて。息の合う彼女とは仕事を組むことが多くなると見込まれたので、万一のために、と互いの住所を交換していたのが幸いした。30分ほどかかるだろうが、ヴィヴィアンの住む下宿のそばまで、乗り継ぎなしで行くことができるはずだ。だから帰ろう、という意思表示を含めて、ゆっくりと体勢を戻すと。ゆるく握ったままだった手を、そのまま少し動かして、並んで歩くように促し。)





209: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-27 21:43:24




( 頭上から振る穏やかな声にこくりと頷けば、その手を引かれるままに歩き出す。ビビもまた、此方を振り返らない優しい背中を見て、2ヶ月半前の海上でのやり取りを思い出していた。変わったのは──この人は"私"を見てくれている、その確信。今のギデオンはビビを、自分の体調の責任も取れない、"師匠の守るべき幼い娘"ではなく、"パーティの一員"として扱ってくれた。たったそれだけのことが、女だ七光りだと侮られてたまるものかと、肩肘張っていたビビの心を解いていく。それでも残るこの胸の痛みは、自分勝手でままならぬ乙女心だ。ギデオンの蕩けるような低く、甘い声から聞き取れる優しさも関心も、天に舞い上がるほど嬉しいというのに、その声が優しくなればなるほど己の未熟さ、即ち今晩あった女性たちやギデオンとの埋められない差を痛感してしまう矛盾。今の弱った精神でこれ以上聞こうものなら、また泣いて困らせてしまいそうで、馬車に乗り込んだ後は相手の言葉に甘えて、寝た振りを決め込むことにした。
──心地よく揺れる馬車で目を瞑っていたものだから、本当に寝入ってしまっていたらしい。馬車が下宿……つまりギルドのある区画に入った喧騒に薄く目を開ける頃には、至近距離に映った大好きな顔に嬉しそうにはにかめる程度には復活していた。寝付いたビビが掴んで離さなかったか、ギデオンが握ってくれていたのか、多方前者だろう。未だ残る手の温もりをぎゅうっと握り返せば、短かったようで長かった今晩を思い出し、申し訳なさそうに瞼を伏せる。巡回しているとはいえ、馬車で30分かかる距離を今から帰る相手は明日、巨人狩りという中々厄介な案件が入っていたはずだ。迷惑ばかりかけているお詫びに、なにかできることはないだろうかと、疲労した脳みそに鞭打てば、悪戯っぽい笑みと共に零れた提案はあながち冗談でもなく。 )

──ん、ふふ、なんで手離してないんですか……ギデオンさん、今日は……色々、ごめんなさい。
明日も大変なのに……そうだ、泊まっていかれます?




210: ギデオン・ノース [×]
2022-09-28 12:07:58




……おまえが離さなかったんだ。

(乗合いの、しかしふたりきりでゆったり座れた中型馬車にて、暗い車内から窓の外を眺め続けること数十分。身じろぐ気配にふと見下ろすと、浮かれ騒ぐ若者たちの喧騒が耳に届いたのか、相手も目を覚ましたらしい。先ほどより随分良くなった顔色にほっとしていれば、可笑しそうにはにかむ可愛らしい小声が上がり、その内容に流石にさっと気まずさを覚える。それとなくそっぽを向いてはぼそぼそと言い訳を吐き出すが、それでも別段、すぐに振りほどくということもなく。──そう、引き抜こうと思えば引き抜けたはずだった。しかし落ち着かなかったのだ……相手の冷え切った指先が。だから、ほとんど重ねるだけだったにせよ、ギデオンの方でもまた、ヴィヴィアンの小さな手をずっと離さずにいただけである。しかし今はほら、相手のほうが温かく握り込んでくるので、これはもう仕方がない。されるがままというやつだ。そうして誰にともなく胸の内で弁明を重ねながら、相手の謝罪には「気にするな、今日は良く休め」とごく軽い返事を。後日改めて話をするつもりではあるが、今触れる必要もないだろう。そうこうするうちに、馬車はいよいよ下宿付近の閑静な通りに入ったらしい。降りる構えに入ろうとすると、先ほどよりさらに幾らか元気を取り戻した相手の声に、一瞬ぴたりと固まり。ため息をついてから、相手を振り返って睨む。それは相手の不調隠しに気付いた時の真剣なそれとは違い、悪戯っ子を窘めるような、ごく軽いものだ。あくまでも堅物らしくきっぱりと断ると、ようやく静止した馬車の扉を開け、トランクやその他の荷物を提げて先に路面へと降り立つ。ここまで来たのだ、門までは送り届けよう。)

馬鹿言え。おまえの同期には噂好きの奴がいるだろう。男を連れ込むところなんて見られたら、野火より早く広められるぞ。





211: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-29 18:22:32



やだ,野火の方がもう少し節操ありますよ

( 予想通り断られた誘いに、なんの感慨もなくへらりと笑えば、御者にお礼を伝えながら石畳に降り立つ。その際に少し高い段差に少しふらついて、思わずギデオンの逞しい腕に手をつき、普段の体調ならありえないことにも関わらず、ついなんでもない事のように、えへ、と笑って誤魔化そうとしてしまってから、しまったと気が付き気まずそうに視線を逸らして。先程これで叱られたばかりじゃないか。そう理性ではわかっていても、ここまで来れば下宿まであと少しだというのに、全ての荷物をビビに持たせず、先に降りたギデオンを、現にこうしてふらついても尚、内心では心配性だなあと思っている始末である。その心配こそ素直に受け取りつつも、繰り返してきたことへの危険はまだ理解しきれていないようで。医者の不養生とはよく言ったもので、何気なく相棒の持っているトランクに目を移せば、体調不良をもう忘れたかのように次の仕事を考えていて。 )

──あ、そういえばそのトランク。呪具かもしれないんですよね?
危ないですし解析は施設の整った場所でしたいな……多分魔導学院なら部屋貸してもらえると思うんですけど、ご都合いかがですか?




212: ギデオン・ノース [×]
2022-09-30 05:21:08




(気がかりになって背後を振り返ると、相手は案の定、降りるときに幾らかふらつく様子を見せた。それで咄嗟にギデオンの腕にすがりつき──ギデオンも思わず反射的に軽く受け止め──、その小さな顔を上げたかと思えば、無邪気にへらりと笑うのだから。……やはりたちの悪い娘だ、と、かすかに顔をしかめながら胸の内で言葉にする。その奥でたった今、また妙な温度がじわりと生まれていた自覚も、今は一旦押し流そう。そうして相手の提案に耳を傾け、夜道で思案することしばし。相手の相変わらずの真面目ぶりには未だ心配になるところもあるが、正直一理あるのも事実だ。冒険者として多少の魔法は使えるが、ギデオン自身には、本格的に魔導を究めた経験などない。それに比べて、きちんと学位を取ったヴィヴィアンが、このトランクの中身を「危険だろう」と見做しているのだ。ならば確かに、下手にそこらで開けようとせず、万全の設備がある場所で解析にかかるべきだろう。しかしもっともらしい手順を設け、明日からすぐにはどうこうできないよう仕向けておくことにする。呪具の解析でまた多くの魔力を使わせるかもわからないし、だとするとせめてもう一日は休みを取らせたいのが本音。明日はギデオン当人もグレンデル狩りに出動する身だが、さしあたっての保管場所にはきちんとあてがあった──馴染みの祓魔師と精霊使いなら、トランクに何があっても対応を取れるだろう。……二つ返事で引き受けた彼らが、その代わりにと後日飲みに出かける約束を取り付け、ギデオンと彼女の関係をあれこれ詮索する腹積もりを抱くことなど、今はまだつゆ知らぬまま。頭の中で軽く計画を取りまとめると、とりあえずは下宿の方を軽く示し、ゆっくり歩きだすことにする。ふたり分の足音が石畳を打ち鳴らすなか、辺りはコオロギが優しい音を奏でていた。その環境に囲まれれば、ギデオンの指示する声も、自然と穏やかなトーンになって。)

……たしか、魔導学院の出身なんだったな。
今夜から数日保管するくらいなら、俺の方でどうにかできる。だからそっちでは、明日以降に母校と連絡をとって、何かしらの許可を得てくれるとありがたい。ギルドの古い解析室じゃ限界があるだろうしな……おまえの言うとおり、最初から専門機関の手を借りるのが良さそうだ。





213: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-09-30 10:53:03




──ギルドのも中々趣ありますよ、教科書に載ってそうっていうか……
でもほら、万が一がありますし、明日には連絡入れておきますね

( ギデオンの内心に沸いた温度など露知らず、ただ相手が自分の出自を知ってくれていたことに、えへへ、と素直に嬉しそうにはにかんで、無邪気に眉尻を下げてみせる。相手の思惑によって生まれた数日の猶予は、学院の施設を借りることを考えると、寧ろ丁度良かった。てっきりトランクは自分で持ち帰るつもりでいたが、ギデオンが信頼して預けられるという相手ならば何の心配もいらないだろう。大方仲のいい祓魔師であるドニーか、その相棒のジュナイドか。カレトヴルッフでも有数のベテランでありながら、気さくで楽しい紳士達であるコンビへのお礼を考えながら、ギルドの解析室へフォローのつもりで骨董品扱いのトドメを刺して、記憶を遡るように尖った顎へ指を沿わせる。別れるまでに次の予定を決めておかなくては──慌てていつかも待ち合わせしたことのある場所を告げたのは、本当はもう少しこの秋の夜長を楽しみたかったのだが、いつもは魅力的にビビを出迎える下宿の門が、今日ばかりは恨めしい早さで視界の奥に見えてきたからで。 )

……多分、明明後日くらいには使えると思います、一応また連絡しますけど東広場で待ち合わせでいいですか?

( そうして訪れた約束の日。夏の間に伸びた雑草を一掃するという地味に辛い仕事も、この後ギデオンに会えると思えばなんということは無い。弾むような足取りで待ち合わせ場所を訪れて、大好きな相棒を見つけると、飼い主の帰宅に千切れそうな勢いで尾を振る飼い犬の如きテンションで駆け寄り、ぱあっと浮かべた満面の笑みで小さく頭を下げる。先日グレンデル狩りの晩に、逞しくも酒場で呑んでいたという目撃情報の上がっている相手を、注意深く観察してから顔をあげれば、まだ18時を回らない微妙な時間に首を傾げるまでの勢いは、相変わらず全身からギデオンへの好意を溢れ流していて。 )

ギデオンさん、お疲れ様です!
怪我とかしてないですか?もうご飯食べました?


( / お世話になっております。設定置き場の更新と注意書きまでありがとうございました。非常に魅力的な小説に、本当にタダで読ませていただいてしまって良いのだろうかと朝から打ち震えております……!
私事で大変恐縮ですが、早朝御手洗に起きて拝読させていただいてから興奮で全く眠れず、その勢いで書き上げたロルでして、なにかご迷惑をおかけしてなければ良いのですが……
此方に限らず、せっかく作っていただいた設定置き場も遅筆で申し訳ございません。少しずつ準備しておりますので、もう少々お待ちいただければ幸いです。
取り急ぎ感謝の気持ちだけお伝えしたく、帰ってからまたゆっくり拝読させていただき、感想を伝えさせていただきます。重ね重ね本当にありがとうございます……!!
此度もどうぞよろしくお願い致します!/ 蹴り可 )




214: ギデオン・ノース [×]
2022-09-30 14:49:05




ああ、問題ない。
それじゃあ、今夜は本当によく休むんだぞ。……おやすみ。

(“趣”呼ばわりに込められたごく遠回しなさがな口に、こちらもくつくつと笑いを漏らす。カレトヴルッフは古き良き巨大ギルドだが、特定の設備や道具の化石じみたボロさには、皆思うところがあるのだ──若い世代なら尚のこと。しかし、質素倹約を重んじるさしものギルドマスターも、相手の感想を聞きつけたならば、設備改革に乗り出すかもしれない。ギルドの多くの連中と違い、あの方御自身はヴィヴィアンを普通に扱っているが、彼女の甚大な影響力を見過ごす真似もしないだろう。……そうこうするうちに下宿に辿り着き、門を見上げてから向き直る。ギデオンもまた、(案外早く着いたもんだな)と、うすぼんやりした名残惜しさを覚えてはいたのだが、その感傷の意味するところを未だ自覚しておらず。相手の提案にそのまま実直にうなずくと、最後にひとつ、紙袋をふいと差し出す。『シャバネ』を出るとき、あの能面メイドが「今宵のお礼に」と持たせてくれたマドレーヌの入った箱だ。おおかた蝶たちのお気に入りの菓子で、ふわりと漂う香りからするに、相当良い粉を使っている。高級娼館の名に恥じぬよう客人に礼を尽くした心遣いなのだろうが、正直なところ、ギデオン自身はそこまで甘味に拘りがない。むしろ、相手のような若い女性が下宿仲間とシェアしたほうが、菓子も冥利に尽きるだろう。そうしてそのまま持たせてしまえば、空いた片手で最後に一度、相手の頭を軽く撫で。微笑みながら挨拶を告げ、ごくゆっくりと離れると、それからは振り返ることなく、宵闇のなかに戻っていった。)

(──さて、そんなやりとりのあった夜から、さらに二日二晩過ぎたのち。お決まりの東広場にギデオンが赴くと、ちょうと相手も来たところらしく、はちきれんばかりの笑顔でまっすぐに飛び込んできた。思わず苦笑を漏らつつ、こちらも軽く掌をかざす。本当はいの一番に相手の体調を尋ねるつもりでいたのだが、いざ再会してみればこうだ、心配するまでもなく無事に全快したのだろう。「二十人の大隊で着実に挑んだからな、かすり傷も負わなかったさ。……軽く食べたが、おまえはどうだ?」そう言いながら歩きだし、魔導学院への道程を辿っていくことにする。学食なり付近の店なりで腹ごしらえをしてからでも、片手のトランクの中身を検めるための時間は充分にあるだろう。必要な情報共有も交えつつ、ふと相手の側の話も持ち出す。ギデオン自身は専門機関にまったく所縁がないため、詳しくはわからないが。相手が学んでいた恩師は、かなりの大物だったはずだ。)

ドニーの話じゃ、幸い何もなかったそうだ。それでもやはり、どことなく妙な魔素が臭う気はするらしい。奴がそう言うってことは、悪魔を媒介する黒魔術の線も信憑性が増してくる。……おまえの学院時代の先生は、たしかその辺りにも詳しいんだったか?



(/こちらこそお世話になっております。トランクの処遇について考えたところ彼らの顔が浮かびまして、そこからギデオンとの愉快なやりとりを思いついてしまった瞬間、こちらも勢いだけで書き上げた次第でした。後から読み返して羞恥心に悶えることになったらどうしよう……!? と内心ドキドキだったのですが、読み物としての体裁は保てていたようで安心しました。何より、もったいないくらいのお褒めの御言葉、誠にありがとうございます……! 主様を大興奮させられるくらいのものだったと言ってもらえて、本当に本当に嬉しくてたまりません。ご迷惑などとんでもないです、軽やかな場面転換をありがとうございました。再び元気なビビを見ることができて、ギデオン共々心からほっとしています。
設定置場についてはどうぞお気になさらず! もちろん更新を日々楽しみにしておりますが、あくまでも本場であるこちらを補佐し、物語の楽しみを広げるための場所ですので、主様のペースでゆっくりとお取り組みください。また、何分この物語を好きすぎる当方が、懲りずにあれこれ思いついては書き殴るかもしれませんが、完全に趣味でやることですので、毎度感想をいただいたり、或いは小話のボリュームを揃えたり……などといったお気遣いには及びません。小話の中で登場した情報について、必要がありそうなもの、本編の役に立ちそうなものは、別途関連項目に追記していく予定です。重ね重ね、背後が楽しんでやることですので、どうかお気になさらず。
改めて、こちらこそ温かなお言葉をくださりありがとうございました……! 引き続き、学院編もよろしくお願いいたします。/蹴り可)





215: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-02 12:10:39




( ジジ…と油が焦げる音をたて、夏の終わりと共に衰えて不格好な飛び方を晒す羽虫を集めているランプの下、取り残されたのは、馬鹿みたいに口を半開きにして、高級人気店の紙箱を片手に突っ立った女が一人。──はい、ありがとうございます、おやすみなさい。そう微笑んで小さく下げた頭にのった、暖かく大きな優しい感触。大好きなそれを嬉しく思うと同時に、子供扱いのようなそれに焦燥感で胸を焼かれるようだったというのに、何気なく見上げたギデオンの表情と言ったら──……ずるい。好意を期待させ勘違いしたくなる極上の微笑みに、けれど決して振り返らない大きな背中。一人になってやっと呼吸を思い出したかのように大きくため息を漏らせば「狡いのはどちらかしら?」と、徐ろに背後からかけられた声に飛び上がる羽目となる。どうやら帰りが遅い隣部屋の戦闘職を、心配してくれていたらしい貧乏役者の言葉に、心の声が漏れていた口をハッと抑え、どういう意味かと心拍数を上げれば「『オ・フィール・デ・セゾン』の限定マドレーヌ!今並んだって手に入らないんだから!」と縋りついてくる彼女にガクリと項垂れ、めっきり涼しくなった晩夏の夜、こちらのフリーズを解いて風邪の危機から救ってくれた彼女に免じて、ギデオンの分になるはずだった分を贈呈することとした。 )

実は食べ損ねまして。学食よってもいいですか?

( そんな件の人気製菓店も出店しているようなキングストンの一等地。東広場からもほど近い場所に魔導学院は位置している。初等部から高等部を経た研究部まで、常時500人を超える魔法使い、及びその卵が在籍し、今まで何人もの優秀な人材を輩出してきた、この由緒ある学院の創設は建国と共にあり、石造りの堅牢な校舎こそ古めかしくも、最新鋭の機材が常に導入され続け、魔法が支える豊かな暮らしのため、全ての学生とキングストン市民に無料で提供されている。そんな魔法に関する英智の結晶であると同時に、ギデオンの問いかけに照れくさそうに腹を触ったビビの言うように、学食や寮なども有する、才能に恵まれた子供たちが青春を過ごす場でもあり、伝統ある制服を着た生徒たちが挨拶と共に駆け抜ける青い喧騒はどこか懐かしく、爽やかな気持ちにさせてくれる。「ドニーさんがそう仰るなら当たりですね。レイン先生は……シスターレインは元ヒーラーなんです。60年前はまだ黒魔術について戦時国際法も整備されてなかったから、毎日呪いで苦しむ兵士達を見てたって。すぐに解呪できない呪いの対処療法、この前のドリームキャッチャーとかもそうなんですけど……を確立したすっごい人!厳しいんですけどすっごく優しい方で、私レイン先生に憧れてヒーラーになったんです。」と、何故か自分の事を誇るように頬を染め、道すがらいつもより少し早口でまくし立てたのは、先の戦では戦場の天使とも謳われた尊敬する恩師を、大好きなギデオンに紹介できることが嬉しかったからだ。
そうこうしているうちに学院の門へ辿りつくと、桃色に染まった空を突くような、重厚で黒々とした鉄製の門が2人を出迎える。厳重な割に守衛などの姿が見えない門の前で、ちょっと待ってくださいね、とギデオンから離れ、数歩前に進み出れば「御機嫌ようビビ、レインから話は聞いているよ」と、鉄製のライオンのドアノッカーがパチリと目を開け、大きく開かれていた口で器用にお喋りを。巨大な鉄門がひとりでに広く開くのにお礼を告げ通り抜けた背後、ギデオンに対してまでぺちゃくちゃと「普段は一人分の隙間しか開けてやらないんだ、なんでってほら疲れちまうからね。でもこの子は俺によく油を指してくれたから特別。ビビはアンタにも油を指すかい?そうでなくても嫉妬は止してくれよ。俺たちはもう十年以上の付き合いになるんだ」と、2人が見えなくなるまでずっっっと喋っていた声にクスクスと笑えば、校舎に続くよく手入れされた並木道を歩きながら、初めて来る人間は大抵目を丸くする門番を指し、悪戯っぽくギデオンを見上げて。)

驚きました?
私が子供の頃、先輩の魔法が当たって話せるようになったんですけど……200年以上黙って働いた分を取り戻したいんですって




216: ギデオン・ノース [×]
2022-10-02 17:35:44




(国の礎を築いてきた年代物の学び舎は、都の一等地にありながら、青々とした芝生のそよぐ広い前庭を擁している。その開放的な空間には、元気よく駆け回る歳若い学生や、外から散歩しに来たらしいキングストン市民の姿がちらほら。周囲の長閑さに染まってか、相手と連れ立って歩くギデオンが「構わない」と返す声音も、ごく寛いだ調子のそれで。左右の木々が優しい夕風にざわめく音を聞きながら、相手の話にのんびりと耳を傾ける、この時間。……ああ、なかなかに、悪くない。──そんな感慨に浸っていたが、“シスターレイン”の名を聞くなり、まさか、という顔で相手を見遣る。少年時代のギデオンが冒険者入りするころには、既にある程度御年配になっていたが、彼女の伝説は当時のギルドでも熱く語り継がれていた。むしろ、ちゃんと知っておきなさいとあのシェリーにも教えられた、それほどの人物のはずだ。ヒーラー・レインと言えば、当時はまだ格下の支援職として見下げられていながらも、苦しむ人々を救うべく、悪性呪文の対処療法を幾つも見出し啓蒙した、救命の女傑である。特に冒険者のように、日常的に命のやり取りをする職種ならば、今を生きるほとんど誰もが彼女の恩恵を得ていると言っていい。若い戦士なら、彼女の名こそ知らずとも、彼女が確立した方法で呪いを凌いでいることだろう。そんな偉人に師事する学徒は当然、選りすぐりの優秀な卵ばかりに限られる。ということは、ギデオンが普段から揶揄ってやまないこの娘も、魔導学院に認められた、れっきとした天才なのだ。しかし、隣で頬を染めながら興奮気味にしゃべっているヴィヴィアン自身は、それを鼻にかける様子など一度も見せたことがない──きっと、本当に才能があるからこそなのだろう。そのときギデオンの目が和らいだのは、何も彼女の笑顔に癒しを覚えたから、だけではなく。どこまでもまっすぐで強い相棒への、尊敬の念。それを改めて、秘かに深めたからだった。)

(そんな一幕を経たのちに、出迎えたのは重厚な門、その陽気なドアノッカー。相手の言葉に何事かと待っていたギデオンは、硬いはずの金属が突然滑らかに口を動かし始めたのを見て、思わず仰天する羽目になる。魔法が溢れる現代において、“彫像が喋る”、それ自体は別にあり得ない事象ではない、行楽地などでもしばしば使われる魔法技術だ。しかし魔導とは深遠なもので、その最古と最先端を学べる場所にいたことがあるのでもなければ、そんな技術が当たり前にそこらに存在するとは知らずに一生を終える、なんて話も珍しくない。今のはまさに、魔法が起こし得る奇跡の一端を垣間見せて貰ったのだろう。にしては、随分と俗な百獣の王だったが。可笑しそうに見上げてくる相棒を逆に見下ろせば、素直に感嘆のため息をついて、降参したように、或いは“彼”の賑やかさに呆れたように、緩くかぶりを振る。カレトヴルッフの化石じみた研究室しか知らないギデオンは、この先どれほど驚くことになるのやら。それを思えば、呪物の解析という必須過程を踏むにあたって、今回も彼女と協力することにしたのは想像以上の僥倖になろう。ここは開き直って相手の知識と経験に頼るとしようか、そう思いながら雑談をかわす間にも、じっくり煮込んだトマトスープか何かの匂いが、どこかの窓から漂ってきて。おや、と辺りを軽く見まわし、それから隣を歩く相手に推測を振ってみて。)

……そりゃ、ああもお喋りになるはずだわな。まさかドアノッカーにマウントを取られる日が来るなんて、夢にも思わないだろ。……こいつは、ミネストローネか……?





217: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-03 01:21:12




多分ギデオンさんを歓迎してくださってるんですよ。
私今まで父以外の人と来たことなかったから……わあ、本当!
やったあ!……ここのミネストローネすっごく美味しいんですよ。家でも試してみたんですけど中々同じ味が出せなくって……

( 小さく目を見開き、興味深そうにかぶりを振るギデオンを確認することができれば、両手で口元を押さえ、してやったりと笑い声を漏らす。普段はビビが新しい世界を教えてもらうばかりの経験豊富な相手に、少しは驚きを楽しんでもらえただろうか。自分が相手と共にいることで与えられている楽しさ、驚き、世界の輝きのほんの一部でも返すことができていればいい。そう願って、まだ紅葉の始まっていない街路樹を見上げれば、──もうあと一カ月後に来られたらまた良かったな、と目を細める。十年以上この学院に通い見慣れてしまったが、確かこの木は東洋の非常に希少な種らしい。ドレスの様に裾が広がった葉が可愛らしい広葉樹で、毎年秋になると今は青々とした葉が一斉に黄色く染まる様は、元生徒としても中々見事だ。株ごとに雌雄があるそうで、これが雌の木だと落ちた実が臭くて堪らない、でも種の中身は旨いんだ、実に惜しいことをした、と酒好きな教授が残念そうに見上げていた数年前の秋を思い出す。その時は臭くない雄の木で良かったと内心こっそり安心したものだが、酒に合うならギデオンも喜んだかもしれない。そんな風にぼんやりと懐かしさに浸っていたものだから、振られた話題に上げた歓声がつい子供じみてしまって、恥ずかしそうに咳ばらいを一つ。それでも真っ赤なトマトと程よく聞いたガーリックの間に、複雑に香るハーブの滋味を思い出すと、ぶわりと唾液が分泌される感覚に思わず白い喉を上下させ、学食の中でも1,2を争う当たりメニューに、頬を染めてギデオンを振り返ったその瞬間、「ヴィヴィアン・パチオ!何です、そのだらしない胸元は!」という凛とした良く通る声と、齢八十を超えても背筋の伸びた美しいシルエットに、思わず敬礼するような勢いで背筋を伸ばし、慌ててシャツのボタンに手をかける。皺一つない修道服に、ビビよりずっと小柄だというのに、誤魔化しようのないその迫力、ハイリングラードの戦場の女神、シスターレインそのご当人の登場に思わず目を見張るも、すぐに嬉しそうに頬を染めて駆け寄るビビに、その眉間の皺が控えめに緩むあたりが、彼女もまたヴィヴィアンに絆されたうちの一人だということを表している。ちなみに学生時代、当時の彼氏について相談してみたところ案外親身に相談に乗ってくれた懐深い恩師だが、どの同級生に話しても未だ信じてもらえたことがない。「キャ──!嘘!!絶対に会えないと思ってたのに!!お会いできて嬉しいです!解析室こんなに早くありがとうございます!」と飛び跳ねるビビの黄色い声にも怯まずにただ一言「淑女がみだりに声をあげるものではありません」と諫めれば、貴族的な優雅さとはまた違う、指先まで神経の張り巡らされた無駄なく美しい動きでギデオンに向き直り、「はじめまして、レイン・アザレアと申します。この度はご協力感謝いたします。弟子の顔も見れましたので失礼いたします。解析室はごゆっくりご利用ください。」深々と頭を下げる彼女は、元々ビビの顔を見ればすぐ退散するつもりだったようだ。ついその開放的な身だしなみに口が出てしまったというところか、恐れ知らずにも「ええ、もう行っちゃうんですか?」と露骨に眉を下げる愛弟子に「ええ、貴女は私がいなくても問題はないでしょう」と、去り際についたため息は深い愛情と信頼に満ちていた。 )





218: ギデオン・ノース [×]
2022-10-03 16:53:13




(パッと瞳を輝かせた相手は、実に軽やかな声で思い出話を語りながら、くるくる表情を変えていく。ギデオンの意表を突けて大満足だと言わんばかりの顔、秋空に聳え立つ珍しい樹々を見上げては穏やかな感傷に浸る顔。子どものように純粋な喜びが弾ける顔、慌てて照れくさそうに取り直す顔。彼女と仕事をするようになってもう数カ月ほど経つが、“ずっと眺めてきたはずなのに”、未だ見飽きる気がしない。ペールブルーの目を細めてただ眺めているうちに、その彩りの豊かさにどんどん惹き込まれていく自分を、今では自覚できてしまう。……胸の内に、きちんと留めておけるなら。そう、縛りをかけておく。そのくらいならきっと、この身にも許されるだろう。──そんな矢先に突然、弛んだ新兵を叱り飛ばす軍曹のような鋭い一声。びりりと感電したように姿勢を正したヴィヴィアンは、しかし次の瞬間には大はしゃぎで駆け出した。その様子を見て、また面白いものを見た、と喉を低く鳴らしながら、ゆっくり後をついていく。そこにいたのは先ほど噂したばかりの“戦場の天使”、シスターレイン。彼女の洗練された挨拶には、「此方こそ、貴重な解析室の貸し出し許可をありがとうございます」と、ギデオンも端的に返礼を。話は通っているようだし、敢えて名乗りはせずにおいたが、どうやらそういった臨機応変や目礼のほどは、シスターのお眼鏡にかなったらしい。淡い微笑みを浮かべた偉大なる元ヒーラーは、別れを惜しむ愛弟子にも厳かに、けれど愛情たっぷりに言葉をかけると、またどこかへと歩き去ってしまった。権威ある教授なのだ、お忙しい立場なのだろう。小さくも威厳ある背中をしばらく静かに見送ると、ふと隣の相棒を見下ろし、愉快そうに唸ってみせる。先ほどの相手のハイテンションぶりは、ギデオンに向けるそれとは少し異なるのが新鮮で、それでも確かに、ヴィヴィアンは昔から元気溌溂だったのだと窺い知るには充分過ぎた。)

……学生時代から、既にあんな風だったのか。シスターはさぞかし手を焼いてきたことだろうな。

(そうして軽口をたたきながら食堂に立ち寄り、紙のボウルにミネストローネをよそってもらうと、解析室横に併設された薄暗い準備室にて、まずは夕食をとることに。学生や院生は研究室に四六時中缶詰めになるのも珍しくないそうで、学食メニューの多くはこうした持ち出しに対応可能なのだという。ギデオンの方はさほど空腹というわけではなかったものの、美味しそうな匂いにつられ、懐に優しい値段のそれを試しに買ってみた次第。四方の壁が専門書で堆く埋まった部屋、その真ん中のデスクに持ってきたトランクを置くと、古めかしい椅子に腰かけて、湯気の立つ器に口をつける。途端、口の中いっぱいに広がったのは、トマトのまろやかな酸味のほかに、ひよこ豆の優しい甘さ、ローリエの奥深い滋味、ベーコンの脂の王道の旨味……こくりと染み渡っているこれは、もしや魔王ニンニクの風味だろうか。その恐ろし気な名に反し、悪しきヴァンパイアを真に撃退できるという、聖属性の薬草である。「ここのミネストローネはすっごく美味しい」というヴィヴィアンの自慢は、確かに疑いようがないだろう。そしてこれを試そうとするくたいなら、彼女は相当料理上手に違いない──冒険者の女性としてはかなり珍しいことに。その辺りもふと気になり、本格的な解析作業に入る前に、軽く尋ねてみることにして。)

そういえば、料理をするって言ってたな。てっきりおまえのことだから、そっちの方もごり押しで、弱火の五分を強火の一分に縮めるタイプかと思ってたんだが。






219: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-06 00:59:41




あんな風って!これでも結構成績優秀だったんですから!
……それに、ギデオンさん"は"応えてくだされば、手を焼かなくても済むんじゃないですか?

( 結構どころか、常にトップ層に名を座し続けた膨大な魔力値。そんな望んで得た訳では無い才能や、親に有名人を持つことへの妬み嫉み。そんな学生生活に疲れ切っていた10代のヴィヴィアンを、谷底から救い出してくれたのが他でもないレイン先生だ。そのしゃんと伸びた背中をどこか寂しげに眺めていたのも束の間、脇から上がった愉悦を含んだ唸り声に、小さく頬を膨らませてギデオンを見上げると、両拳を握って抗議の姿勢をとってみせる。春以前からずっと、紳士的な大人だと思っていたこの人が案外意地悪で、人を揶揄うのが好きな人だと気がついたのは最近のことだ。別に目の前のギデオンは「シスター"も"」とは言われなかった訳だが、その渾身のアタックを若気の至りだと受け流され続けてきた経験が、言葉の意味を取り違えさせる。笑っている目への意趣返しに、その両手をとって精一杯可愛らしく小首を傾げたって、どうせ相手は仏頂面でするりと逃げていくだけだろうと。じっと一瞬 相手を見つめた後、普段より少しだけ手を離すタイミングが早くなったのは、慣れっこになりつつあるお決まりのパターンに傷つかないためで。)

ええ、料理も魔法も突き詰めれば科学ですから。
といっても家庭料理の範疇ですけどね──ギデオンさんはポトフ、何が入ってると嬉しいですか?

( それに対し、解析準備室で差し向けられたまあまあ失礼な質問に、気分を害した様子もなくサラリと応じる態度を見れば、やはり先程の『学生時代に恩師を手こずらせていた』という指摘は、少なからず図星だったのだろう。その謙遜にかえって料理の覚えの確かさを覗かせつつも、女子力溢れるケーキやスイーツの話ではなく、所謂"おふくろの味"を何気なく聞き出そうとするあたりに、胃袋を掴んでやらんとする強かな本気が伺える。空になった紙皿を片付けながら、レンタルロッカーから引っ張り出した二人分の白衣やゴーグルは、その当初の宣言通り、魔法や超常的なそれというよりは、無機質で科学的な印象を与えるもの。科学と魔法、この世界の理に関する物同士、突き詰めていけばよく似た形に辿り着くのは当然の機能美で。準備室から分厚い扉を超えた先、そのエネルギーの源こそ魔法が担っているものの、没個性的な機械類やメモリ、いくつもの数字のならんだ解析室を見れば、未だに色とりどりのフラスコが煙を上げ、有害な気体の検知にロック鳥の雛を使うギルドのそれを、悪気なく骨董品扱いする気持ちも分かるだろう。いくつかの機械にスイッチを入れ、モーター音よりは些か神秘的な音をたてながら立ち上がるそれらを待つ間、部屋の中心に置かれた作業台の上を片付ければ、トランクを持つギデオンへ手を伸ばして。 )

あー試験前だし散らかってるなあ……ヨシ、今のうちに"モノ"特定しちゃいましょう。




220: ギデオン・ノース [×]
2022-10-07 13:14:53




(こちらが口を開く前に大人しく距離を戻した相手を見て、(……ん?)と小さな違和感を覚えたものの。これもきっと彼女なりの新しい駆け引きか何かなのだろう、とその時は流すことにした。別に彼女が大人しくなる分には、ギデオンも平穏を保てるはずに違いないのだから──見過ごせない何かだったような気がするのは、気のせいだ。)

……ありきたりな具材がいちばんだな。強いて言えば、肉にはチョリソーを使ったのが好きだ。

(しかし、無意識下ではどこか引っかかっていたものだから。彼女が寄こしてきた質問の陰に隠れたいじらしいしたたかさには何ら気づくことなく、素直に考え込んだかと思うと、普段通り淡々としていながらも、どこか懐かしむ声を返して。──ポトフは、優しい味のそれを、冬の寒い日に母がよく作ってくれた。ところがある晩、近所の肉屋は皆閉まってしまった時間に。父親の来訪用にとっておいた本格的なチョリソーしか持ち合わせがないと気付いた母が、「……オトナの味に挑戦してみる?」なんて、悪戯っぽくウィンクしてきたのだ。程なくして湯気を立たせながら出てきた、ぴりっとした下味のスープは、幼いころのギデオンの舌には当然刺激的過ぎた。しかし、母の言葉を幼気に信じ込んでいた当時は、これを食べられるから自分はもう大人なのだと、得意になっておかわりまでして、それからも寧ろせがんでまで慣れようとして。そのうち本当にその味が気に入り、今でも時折、食材を見繕えた日には自分で作ることもある。──そんな背景こそ今は語らずにいたものの、思い入れのある味であることを横顔の色で語りながら、ギデオンもまた、空の器を軽く洗ってゴミ袋に仕舞い、解析作業の準備に入り。最新鋭の魔導機材にも慣れ親しんでいる相手が必要なものを稼働させてくれるので、普段着のシャツの上に相手が寄こした大型の白衣を羽織り、まだ着けぬゴーグルは首元に下げることにすれば、やたらガタイの良い助手の男が一丁上がりとなる。そう、普段はギデオンの方が上の立場に立つことが多いが、今宵この場に関しては、ヴィヴィアンに教えを乞う側だ。彼女の言葉に素直に従い、『シャバネ』から預かったトランクを持っていくと、作業台の上に乗せ、ふたりで鍵を外して開ける。中に入っているのは、ビロード張りの宝石箱やシルクの袋、香の焚き染められた木箱。そのひとつひとつの中身を、手袋を嵌めて取り出してみるに、やはり一見何の変哲もない、首飾りや腕輪、アンクレットやイヤリングといった装身具がほとんどだ。間違っても混同せぬようそれぞれを別のトレーに乗せていたところで、トランクの底に仕舞われていた手帳に気づき、手に取って確かめる。達筆な字で書かれているのは、それぞれの“贈り物”をどの客が送って来たか、それぞれの客はどんな人間かという内容。なるほど、あの婆はこれらが怪しいのではと踏むなり即行動を起こしたらしい。相手の傍に歩を進めると、手帳の見開きを彼女にも見せ。それから、専門的なことはわからずとも助手として手を動かすくらいはできるからと、色とりどりに輝く作業台の上の品々を示し。)

ありがたいことに、『シャバネ』の婆さんがそれぞれについての情報をきちんと纏めてくれてたみたいだ。引っかかるものがあったら、こいつを参考にできそうだな。──さて、どいつから取り掛かる?





(/こちら単なる感想なのでお返事には及ばぬものです。今朝がた更新されておりましたビビのPFを確認しまして、未だ知らなかった数々の情報にひとしきりはしゃいでおりました……! ギルバートの娘に対する愛情深さにほろりときたり、父と娘の数々のすれ違いにたまらなく切なくなったり、ギデオンと知り合う前のビビの知られざる苦労や、それを乗り越えて人生を切り開く姿に目を瞠ったり、ビビにとってのレイン・アザレアがどれほど大きな存在だったか今一度しみじみと理解したり。ひょんなことからビビの恋愛のトラウマを知ったギデオンが、やはり冗談でも押し倒そうものならきっと怖がらせるに違いないから、とますます(無駄に)ガードを固くしようとしてすったもんだになることもありそうですし、ギルドの女性陣たちのこれからの悪だくみにも期待してやみません。公式供給本当にありがとうございました……!)






221: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2022-10-09 00:13:23




……わあ、オトナの味ですね、美味しそう。
今度作ってみようっと。

( 先程「軽く食べてきた」と答えていたはずのギデオンが、紙皿に盛られた一杯を難なく平らげる姿に、つい表情筋が緩んでしまう。大柄な体躯の相手がよく食べる様だけでも気持ちが良いというのに、普段あまり感情のわかりやすいとは言えない相棒の、美味しい食事を前にした時、ほんの少し箸の進みが早くなったり、一口をゆっくりと噛み締めたりする姿がたまらなく愛おしくて、そのペースに合わせて咀嚼する時間が好きな自分がいる。案の定こちらの下心に気づかずに質問に答えてくれる、ガードの下がりきった穏やかな表情を、久しぶりの好物そっちのけでずっと見つめていたものだから、浮かんだ深い懐かしさにも一目で気がついてしまった。食べ物についてはこんなに素直で可愛らしいギデオンだ、彼のためにチョリソーのポトフを作った女性はさぞ作りがいがあったに違いない。なんて、先日からどうも憂鬱になりがちな気持ちの正体に未だ気づけぬまま頭を振り、相手の食の楽しみへ水を刺さないよう、無意識に微笑ましげな視線を向けながら小さく笑えば、当たり障りないよう選んだ感想が、彼の回想と被ったのは完全な偶然だった。 )

と、とりあえず──銀製品は除外です……そのロザリオも多分違います。アメジストは呪具に出来ないわけじゃないですけど、魔法の使えない人には無理です。コレは──

( 一通り機械を立ち上げ終わって何気なくギデオンを振り返れば──う、白衣姿もカッコイイ……じゃなくって!!と、歳若いビビの指示にも当たり前のように従い、白衣を身につけてくれるギデオンの期待に応えんと、甘い不整脈の原因からさりげなく距離をとり、作業台の上の品々に手を伸ばす。頼れる祓魔師の言う通り、作業台の一帯から怪しい魔素は感じるが、流石は高級娼婦への貢物と言ったところか。件の呪具以外にも、彼女の幸福を願う"おまじない"がかかった品が混ざりあって、魔素に敏感なビビには"見"にくいことこの上ない。それでも手早く数を絞ると、もう少し時間をかければ更に絞れなくもなかったが、折角の設備を活かさない手はないだろう。相棒にゴーグルを促し、先程立ち上げた機械のうちの1つ、天井から数多のケーブルを生やした毛虫のようなランプを照射すると、このアクセサリー達が元々持っていた宝石の輝きの他に、ほんのりとした光が色とりどりに表れる。世界中にたった一台、魔素を可視化するこのランプを貸し出してくれた生徒を思う恩師の本気に、犯人の末路を想像してゾッと肝が冷えた。あれでいてビビなんかより余程苛烈な御仁だ、思わず輝かしい恩師の人生に前科がつく心配をしてしまう程に。でもそのお陰であっさりと目的の呪具を見つけ出しことが出来れば、これを更に解析するのがビビの仕事だ。イヤリングの放つ黒い靄を説明しようと顔をあげると、思ったより近くにあった大好きな顔に思わず変な悲鳴が漏れる。ゴーグル越しで良かったと、高鳴る胸を撫で下ろしながら呪具を指刺せば、アメリアの衰弱ぶりを思い出して眉をひそめ、取り急ぎ手帳の送り主を確認しようと。 )

──ギデオンさん、みっ……!いえ、見つけました、これです。
ばれ辛いように石と台座の間にしこんでますね……許せない。送り主は?


( / お褒めの言葉ありがとうございます。
当初より変更した点もいくつかございましたので、そう仰っていただけて安心致しました。ギルバートのマスター代理就任時期を変更したのに際し、年表を一部書き換えましたのでご報告まで。
ビビの過去を知り、ギデオン様が今までしていたようなスキンシップさえ避けるようになった最中に、再びダブルベッドで一夜を明かすことになって……なんて2人を想像してにっこりしてしまいました。
いつも細やかなお気遣いありがとうございます。最近めっきり冷え込んで参りましたので、背後様に置かれましてはご健康にお気をつけてお過ごしくださいませ。/ 蹴り可 )




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