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Petunia 〆/936


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自分のトピックを作る
917: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-22 11:28:57




……、……?

 ( わかるかどうかと問われても、年上男の複雑な胸の内など、不慣れで初心な年下娘にはよくまだ理解できる筈もなく。否、その甘やかな触れ合いと声音から、無理をする必要は無いと、何やら宥められているらしいことだけはわかるのだが、今改めて念押しされる理由がわからずに──私は、ギデオンさんのために"頑張りたい"のに!! と。逞しい腕の中、伸び上がる様に上半身を反らして、"優しすぎる"相手を安心させるかのように小さく唇を合わせると。 )

無理なんて、してないです……!
ギデオンさんのこと大好きだもの!

 ( 「さっきは本当に、重いって思われたくなかっただけなの……」なんて、恥ずかしそうに固い胸板に丸い頭を擦りつける仕草からは確かに、これ以上ない信頼と愛情が溢れてはいるだろう。そうして、自分の愛情を疑われたかのような錯覚に、ぷくりと頬を膨らませると。手首を支点にしててこの原理でぺしぺしと、「ね、次はギデオンさんの番ですよ」と中断していたゲームの続きを促し。そのすぐ次だったか、若しくは数往復経ての辛勝だったか。やっと此方が命令する権利を手に入れると。まるで服従を受け入れた野生動物がそうするように、自ら繊細なレースの裾を捲りあげ、シミひとつ、"跡"ひとつ無い真っ白な腹を相手に晒して。 )

──……じゃあ、私からのお願い、ね……?





918: ギデオン・ノース [×]
2025-07-24 02:38:31




──…………、、、

(夜のしじまをしっとりと打つ甘やかおねだりに、何よりいっそ毒々しいほど愛くるしいその媚態。ギデオンが喰らわされたのは、そんなあまりに殺人的にも程がある一撃で。その青い目が愕然と揺れ、くらくら揺れた脳天が僅かな理性も焼き落とす。──そうして気づけば、それがトラウマらしいからと慎重に避けていたのも忘れて、彼女に大きく覆い被さり。
己の飢えた唇が真っ先に吸ったのは、しかし乞われた下腹ではなく、持ち主の柔い口許だった。胸の内で爆ぜている言いようもない熱を、この罪作りな恋人にも?み込ませたくてたまらなかったせいだった。──しかし決して怯えさせてしまいたくない、違う、愛情を伝えたいのだと。いつもよりどこか不器用な手つきで彼女の頬に掌を添え、親指の腹で何度も何度も、すべらかなそれを撫でさする。……しかしそうして取り繕ってみせたところで、そのすぐ傍から貪るように耽溺するのが、いつになく本能的で余裕のない口移し。舌を絡める間に零れる、唸るような熱い吐息も、まるで年甲斐もない焦がれようをぼろぼろ物語るようで。
それでも尚、焼ける全身を潤すように、娘の甘露を絡め取りつづけることしばらく。ようやく「……は、」と一息挟み、月光を孕む細い銀糸を引きながら顔を離せば、困ったような、敗れたような……けれど間違いなく愛おしそうな、何とも言えない表情の目で真下の娘を一瞬見つめ。また再びその金の頭を静かに屈めたかと思えば、今度はその高い鼻先が、ネグリジェの少しはだけた肩から、優雅な陰影を描いた鎖骨、たっぷりとした見事な丘からその麓に至るまで、まるで羽毛で触れるような軽い手触りで撫でていく。──そうしてようやく、お望み通りの神聖な場所に己の狙いを定めれば。二、三度ばかり、わざと予告するように軽く歯を立てて食んでから、単純だった前回と違い、与える力に脈拍じみたリズムを付けるようにして、所有の証を刻みはじめて。)





919: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-07-28 17:24:22




~~~ッ!?

 ( それはほんの数刻ほど前、自らの手で真っ白に洗濯したばかりの柔らかなシーツ。その太陽の香りに包まれて、呼吸に合わせ上下するなだらかな起伏を、じっと期待に濡れた眼差しで見つめていた娘は、まさか自らが男の理性の一片を焼き切ったことなど思いも至らない。故に、不意に身を起こした恋人にされるがまま、怯える暇すらなく奪われてしまえば──ちがう、とも。それじゃない、とも。なんら意味のある言葉を許されず、時々耳元で聞かされる吐息の熱さにびくりとその身を硬くしては、己からも漏れるその不本意なそれへの羞恥に、じわじわとその身を縮めるだけ。
 『やり方次第だ』、と。いつだったか、目の前の相手が言っていた言葉の意味が今はもうよく分かる。唇を合わせていた時間だと思うと長い、しかしたった数十秒で、普段意識すらしない正しい呼吸の仕方を忘れさせられてしまえば。美しい鼻先から教えられる曲線に、思わず頤を反らせて表情を隠す行為のなんと無意味なことか。
 そんな些細な抵抗を果たして男は赦してくれただろうか。どちらにせよ、こんなはずじゃなかった、と。最初こそその拍動に頬を染め、どう反応したらよいか分からないといった様子で翻弄されていたヴィヴィアンだったが。次第に何度も、何度も、飽きずに花畑を広げるギデオンに、これ以上ない愛しさが溢れてしまうと、それまできつく寄せていたシーツの皺を開放したのは無意識だった。 )

……かわいい。

 ( これが普段通りの娘だったなら、足を広げるなんてはしたないとしなかっただろう。しかし、相手がそうしてくれているように、自分もどうにかして恋人を物理的に繋ぎ止めておきたくて、その両手だけでは飽き足らず、白いレースから健やかに伸びた両脚で愛しい恋人を捕まえると。その唇が腹から離されようとそうでなかろうと、心底愛おしくてたまらないと言った表情で、愛しい頬を、生え際を、くすくすと微笑みながら優しく撫で始め。 )

大好きよ、ギデオンさん……ねえ、ゲーム、は?
次の番はいいの……?




920: ギデオン・ノース [×]
2025-08-01 00:21:59




(すべらかな生脚が自ら巻き付く感触に、思わずといった調子で上げられる青い双眸。しかし相手の優しい手つきにさらさらと慈しまれれば、ただそれだけでとろんと目許が和らいでしまう、この飼い馴らされようよ。
往年のギデオンは、カレトヴルッフの剣士職に珍しくない不身持な男……時に“カレ剣”なんて俗称で揶揄されたそれとして、相応に血気盛んな狼でいたはずだ。──それがどうして、歳下の、たったひとりのヒーラー娘に捕まってしまってからは、この腑抜けた駄犬ぶり。そんな己の不甲斐なさに今更やや不貞腐れてか、「何だ……」なんて唸り声を喉元から絞り出せば、伸び上がる要領で彼女の真上へと戻り、きゅっと結んだ唇を、その花唇に二度三度と押し当てる。そうしてむっとしたような目を向け……ようとしたはずが、如何にもわざとらしい茶番を続けられたのは結局そこまで。目と目がまっすぐ合った瞬間ほどけるように笑ってしまい、何なら自ら額を摺り寄せ、プライドもへったくれもなく続きの愛撫をねだりながら。「そうだな……」なんて、すっかり寛ぎきった声で呟いた矢先のことだ。)

──……

(それまでの穏やかな呼吸がごく一瞬止まった理由は、己の真下に抱き込んでいる……否、ギデオンに抱きついているヴィヴィアンのほうもまた、感じられたことだろう。
──真夏の夜の寝台の上、睦み合う男と女。若い娘の無邪気な脚が男の腰を絡め取るなら、自然と触れ合うそのうちに気づいてしまうものがある。抑制剤は飲んだはずだが──いやちがう、だからこそこれしきで収まってくれているのか。何にせよ、いつかはグランポートの波間で触れてしまった己のそれが、今は相手の密かな場所へ、瀟洒に飾り立てられた真っ白なレース越しにその存在を示している。一瞬そちらへ俯いていたギデオンの横顔は、おもむろに相手へと戻り、じっと静かな視線を注いだ。──むやみに押し付けるつもりはないが、臆病に退くつもりもない。それを無言の空気で語ってふと目を閉ざしたかと思うと、薄い唇が今一度、相手のまろい額を愛でる。それから吐息を零しつつそっと落としたその囁きは、今夜の無邪気な戯れは、やはり大人のそれなのだと……そう思い出させるための声音で。)

……なあ。
難易度を……上げてもいいか。





921: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-01 11:36:18




 ( 最初はベルトの金具か何かが当たっているのかと思った。溢れる多幸感に目を細め、俯く恋人の隙なく愛おしい頭皮をぼんやり見つめていたその時。男の反応に違和感を覚えて、数cm程小さく上半身を起こしかけると、「あっ……」と漏れたその声は、期待でも恐怖でもない小さな動揺で。 )

…………。

 ( まず勝ったのは、一体どうしよう、といった困惑の感情。本来、人の生理反応にどうしようも何もないのだが、不慣れゆえにどう反応したら良いか分からず、真っ赤な顔でカチンと小さく固まれば。どこへ向ければ良いか分からなくなってしまった視線を、無言のブルーに縫い止められると、益々思考は迷走するばかりで。しかしそんな娘の動揺を見透かすことなど、経験豊富な男にとっては手に取るように簡単だったろう。それまでの強い視線がふっと閉ざされ、その唇がいつもそうしてくれる様に優しく額に落とされれば。ふわり、と。その思わず込められていた力が抜け、全身の強張りが緩んだのは、いくら滑稽で不格好だったとしても、ここ数ヶ月のギデオンの努力が身を結んだ瞬間だった。──大丈夫、これは悪いことでも、はしたないことでもない。だから、何か怖いことも起こらない。そう恐る恐るといった様子でギデオンを見上げ、その小さな口角をふにゃふにゃはにかんで見せるのは、前回の講義の効果もあっただろう。とはいえ、難易度を上げるってどこまで……? と、自分で想像した内容に耐えられず、すぐに空いた両手で顔を覆い隠してしまえば。華奢な肩を震わせながら、かき消えてしまいそうな声と共に頷いて。 )

……上手に、できなくても、きっと許してくださいますね……?




922: ギデオン・ノース [×]
2025-08-02 11:12:29




“上手に”なんか、しなくていいんだ。
……言ったろ? 俺はただ、おまえと遊びたいだけだって。

(可哀想なほど縮こまる初々しい娘を前に、それをゆくゆく喰らわんとする熟しきった男ときたら、しかし今はまだ悠然と、優しく喉を鳴らすのみ。泣く子をあやす要領で栗毛の頭を撫でてやり、そうして白魚の指が下がれば、ようやく覗いた潤みがちな翡翠の瞳を愛おしそうに見つめるだろう。
実際のところ、自分はそう大層な聖人なんかじゃありはしない。が、まだ不慣れな彼女のためにそう振る舞うのが大事だとわかっているし、そうであればやる気は充分。故にごろりと横に転がり、肘を突いた手に頭を預ける格好でゆったりと寛げば、まずは己の腰辺りを一瞥。依然下穿き越しに元気な様子のそれを見て、軽く肩を竦めてみせると、相手のほうに視線を戻し、「こいつは一旦忘れろ」とおどけたような一言を。訝しんでか、異議を唱えてか、相手の様子に変調が見られるならば、「だがここにいること自体は許してやってくれないか」と、如何にもさり気ない声で懇願も加えておこうか。“こいつ”だの“ここにいる”だの、まあ実に白々しく下らない言い回しだが……いずれ親しんでもらうには、そういった刷り込みからしていこうという目論見で。
──さて、己の話はそこまで。軽く伸ばした手の先で彼女の頬の髪を除け、そのまま返した指の甲でごく優しく撫でてから、いよいよゲームの再開だ。「難易度を上げるってのは──」……つまりはこういうことだ、と。先ほどまでの数ラリーでは、いきなり彼女を竦ませないよう、こちらも掌や前腕と言ったごくごく無難な場所にだけ、欲の滲まぬ普通の強さで指文字を書いていたのだが。娘の優美な体のラインをゆっくりと撫で下ろす、今度のその掌は、明らかに深い情愛の込められた男の手つきのそれだろう。そのままゆっくりと撫で下ろし、腿の辺りに届いたならば、元々ただでさえ丈の短いネグリジェの裾を、焦らすような間の後に軽くぺろりとめくってしまい。普段はスキニーパンツが隠す引き締まったその肌へ、つ……つつ……とやけにかすかに、ゆっくりと、文字を記していって。)

──……よくわからなかったら、目を閉じて集中してみろ。
ヒントは、そうだな……食材だ。おまえも扱うことがある。……





923: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-04 12:41:11




━━こいつ、って……

 ( 世の中の男性達の中で、己のそこをまるで息子のように表現することがあるのは知っていたが、それが目の前の恋人の口から出たのがおかしくて。優しい温もりにあげた顔を、ふふふと無邪気に綻ばせれば。此方を見下ろす愛し気な眼差しに━━そうだった、と。この人の前では取り繕わなくて良いんだった、と次第に全身の緊張が解けていく。そうして、大好きな指へ頬ずりをして、愛しい気持ちと無言の了承を相手に示せば。しかし、その女体を愛でる大きな掌には、恥ずかしそうに身を捩り、長いまつ毛の影を震わせ恥じらう様子も未だ見せるだろう。 )

……っ、ギデオンさん、くすぐっ……~~ッ!!

 ( ──この時、初めて。初心な娘は、心の底から信頼しきり、安心して己の身体を預けた相手から触れられると、こうも肌が敏感に拾うことを、愛しい恋人手ずから教えられることとなった。思わずびくりと腹筋に力を込めて、薄れるどころか一文字一文字更に蓄積していく刺激に目を見開くも。大袈裟な反応だと思われるのが恥ずかしくて、無言で下唇を噛みながら「サーモン」「……、オニオン」「ッ、キャロット!」と、思いつく限りの単語を投げかけるも、集中など全くできていないのだから当たるわけが無い。そうして、その辺にあったクッションをいつの間にか抱え込み──実際は完全に甘く蕩けきり、普段の凛々しさなど見る影もないわけだが──少なくともビビ本人は、冷静に保てていると信じ込んでいる声さえも、取り繕うのが限界を迎えた頃合。尚も続けられる遊戯にガバリと、その太腿で勢いよく、文字を書くギデオンの腕を捉えてしまうと。ボタニカル柄のクッションカバーから蕩けきった瞳を覗かせて、うるうると精一杯の懇願を。 )

……イジワル、しないで……。
ちゃんと触って、ください……!!





924: ギデオン・ノース [×]
2025-08-05 01:11:29




(こちらの指先ひとつで力み、時にびくんと、あるいはくにゃりと、その瑞々しい狼狽を七色で描く素直な躰。ゲームの答えをやけっぱちに絞り出すその声や、必死になって抑え込まれる嬌声未満の喉の音さえ、いつまでも味わいたくなる禁断の甘美さで。
とはいえそのそのヴィヴィアンが、すっかり熱く火照った腿や、哀願するような濡れた瞳で、切々と直訴しようものなら。その精一杯の有り様でさえ密かに脳裏に焼き付けつつ、しかしそれまで纏っていたやけに淫靡な静けさを、いつもあっさり霧散させよう。そうしていつもの己に戻って愉快気に喉を震わせ、何を言いだすものかと思えば──)

っくく、悪い……いや、悪かったって。
頼むから、そんなのをこんなにたっぷり抱き締めてやらないでくれ。俺がいるだろう? ……

(──まるで寄る辺を求めるように、相手が強く抱き込むクッション、そいつに妬けて仕方がないと。如何にも思わしげな手をかけて、片眉をぐいと吊り上げ。そうしてごく素直にか、はたまた激しい攻防の末にか……相手がその柔らかい盾を手放してくれたなら、それをベッドの端に押しやり。空いた空間をぬくぬくと、互いの体温で埋めはじめながら、相手の耳元でぽそぽそと、甘える声音で提案を。)

……、とはいえ、駒落ちはできないな。
今回は俺に不戦勝を譲って、その分すぐに次の番で反撃に出られるのと……
頑張って今回の正解を当てて、その分今夜、後はぜんぶ、俺をいいなりにできるのだったら……
おまえはどっちがいい……?





925: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-08 10:47:12




 ( ほんのり湿度を帯びた寝室に、ぷしりと色気ないくしゃみが小さく響く。そんな攻防を物語る羽毛も落ち着く頃、寄る辺を失いすんすんと、すっかり縮こまって相手の肩に顔を埋めていた娘はといえば。非常に満足気な男の一方で、つい恥ずかしくて強硬に抵抗してしまったが、それが雰囲気を壊してしまっていやしないかと小さく頭を持ち上げて、男の甘やかな表情を確認すると、無意識にほっと胸を撫で下ろしていて。 )

…………、絶対当てますから。
今度は変な触り方しないで、ちゃんと書いてください……!!

 ( そうして、ギデオンの恣意的な質問に、何か具体的に相手をどうこうしたい願望がある訳では無いが、これ以上好き勝手されるよりはと、形良い眉を悩ましげに歪める表情こそ、その純粋な恥じらいが、余計にその強烈な色気を掻き立てていると云うのに。おもむろに硬い胸板をペシペシと、柔らかいシーツの上に座り直すと。横になる男の目の前に正座の要領で、でんとたわんだ白い腿を差し出す表情はいたって──いたって、真面目なのだから仕方がない。きゅっと唇を噛んで引き結び、最初こそ見逃してなるかと零れ落ちんばかりに見開いていたエメラルドも、次第にぎゅうと閉じてしまうと、ぷるぷると小さく震えながら、今か今かと年上男の指を待ち。 )




926: ギデオン・ノース [×]
2025-08-09 09:52:07




……

((……困ったな、)と。横の恋人が身を起こすその刹那、穏やかな笑みはそのままに、部屋の宵闇に視線を留めて密かに思案を巡らせる。──此度提案した指文字遊びは、その“変な触り方”に、寧ろ明るく慣れ親しんでもらうためのものだった。だがこの清純な娘には、それがまったく伝わっていない……というより、その手の戯れはまだ随分と気が早かったご様子だ。とはいえ、今宵の初めの“喜ばせたい”という話然り、或いは以前戯れた時は初々しくも必死に応じて乱れてくれていた記憶然り。男の浅はかな早とちりなどというには、いささか反証が見込まれるはず……ならば何故、このように?
──と。そこで初めて、そういえば前回は、帰ってきたギルバートの存在が大きかったことを思い出す。『……ギデオンさんの手で。パパがぜったい、しないこと。教えて、ください……』……そうだ、あれはたしか、娘の交際に口を出す父親への反発が弾みをつけていた夜だった。当時はこれ幸いとばかりに己の役得を堪能したが、なるほど、払うべきツケがきっちり回ってくるのがここか。……まあ逆に、先日ではなく今宵こそ、本来のヴィヴィアン自身に手をつけはじめたタイミングと看做せよう。どうやら気の長い──己自身の忍耐力とじっくり向き合う──戦いになりそうだ。)

……、そう強張らないでくれ。
取って食おうってんじゃないんだ。

(──さてはて、遠い眼差しはそろそろやめて、目の前にいる初心な娘との戯れに戻ろうか。青い視線を今一度相手のほうに上げてみせれば、先ほど散々不埒になぞった男の指に構える娘、そのあまりに哀れな生贄ぶりに、思わず吹き出すような声を。眼前に差し出されているたっぷりとした太腿に、無論浅ましい劣情を催さぬわけがないのだが、それより優先しておくべき下拵えというものがある。
故に、こちらもシーツをどけながらやおら起き上がったと思えば。その薄い白布に飾られた華奢な背中に手を回し、ぐいっと引き倒す要領で、再び寝台に沈み込んだ己、その両のかいなのなかに再び娘を抱き込もう。そうして上からばさりと、ふたりの躰を隠すように──それまでの邪な空気を清潔に取り払うように──大きな白いデュベをかけ。娘の躰を背後から、今一度ぬくぬくと味わいきってやりつつも、柔らかなシーツの下、己の無骨な掌を娘の腿へ滑らせる。
しかし今回はあくまでも、いやらしさは封印だ。その証拠に、今度は臀部の近くではなく、折りたたまれた膝の辺りにす、と指を宛がえば、今一度その五文字をゆっくりと書きだそう。……今ごろ“甘い”雰囲気なら、それこそこれをきっかけに話題を広げるつもりでいたが、こういった展開に備え、逃げを打つこともできなくはないところが、この遊びの便利なところだ。最後のyをなぞり上げれば、このくらいの妨害は許してくれと言わんばかりにその首筋に唇を寄せ。何ならヒントを与える体で、そっと吐息を吹きかけて。)

……俺はいつか、ヨトゥン巨人がこれから作る本物の酒を呑んでみたくてな──と、言ったらわかるか……?





927: ギデオン・ノース [×]
2025-08-09 10:00:26




……

((……困ったな、)と。横の恋人が身を起こすその刹那、穏やかな笑みはそのままに、部屋の宵闇に視線を留めて密かに思案を巡らせる。──此度提案した指文字遊びは、その“変な触り方”に、寧ろ明るく慣れ親しんでもらうためのものだった。だがこの清純な娘には、それがまったく伝わっていない……というより、その手の戯れはまだ随分と気が早かったご様子だ。とはいえ、今宵の初めの“喜ばせたい”という話然り、或いは以前戯れた時は初々しくも必死に応じて乱れてくれていた記憶然り。男の浅はかな早とちりなどというには、いささか反証が見込まれるはず……ならば何故、このように?
──と。そこで初めて、そういえば前回は、帰ってきたギルバートの存在が大きかったことを思い出す。『……ギデオンさんの手で。パパがぜったい、しないこと。教えて、ください……』……そうだ、あれはたしか、娘の交際に口を出す父親への反発が弾みをつけていた夜だった。当時はこれ幸いとばかりに己の役得を堪能したが、なるほど、払うべきツケがきっちり回ってくるのがここか。……まあ逆に、先日ではなく今宵こそ、本来のヴィヴィアン自身に手をつけはじめたタイミングと看做せよう。どうやら気の長い──己自身の忍耐力とじっくり向き合う──戦いになりそうだ。)

……、そう強張らないでくれ。
取って食おうってんじゃないんだ。

(──さてはて、遠い眼差しはそろそろやめて、目の前にいる初心な娘との戯れに戻ろうか。青い視線を今一度相手のほうに上げてみせれば、先ほど散々不埒になぞった男の指に構える娘、そのあまりに哀れな生贄ぶりに、思わず吹き出すような声を。眼前に差し出されているたっぷりとした太腿に、無論浅ましい劣情を催さぬわけがないのだが、それより優先しておくべき下拵えというものがある。
故に、こちらもシーツをどけながらやおら起き上がったと思えば。その薄い白布に飾られた華奢な背中に手を回し、ぐいっと引き倒す要領で、再び寝台に沈み込んだ己、その両のかいなのなかに再び娘を抱き込もう。そうして上からばさりと、ふたりの躰を隠すように──それまでの邪な空気を清潔に取り払うように──大きな白いデュベをかけ。娘の躰を背後から、今一度ぬくぬくと味わいきってやりつつも、柔らかなシーツの下、己の無骨な掌を娘の腿へ滑らせる。
しかし今回はあくまでも、いやらしさは封印だ。その証拠に、今度は臀部の近くではなく、折りたたまれた膝の辺りにす、と指を宛がえば、今一度その五文字をゆっくりと書きだそう。……今ごろ“甘い”雰囲気なら、それこそこれをきっかけに話題を広げるつもりでいたが、こういった展開に備え、逃げを打つこともできなくはないところが、この遊びの便利なところだ。最後のyをなぞり上げれば、このくらいの妨害は許してくれと言わんばかりにその首筋に唇を寄せ。何ならヒントを与える体で、そっと吐息を吹きかけて。)

……俺はいつか、ヨトゥン巨人がドワーフどもに“これ”から造らせるっていう、本物の酒を呑んでみたくてな──と、言ったらわかるか……?





928: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-14 00:44:12




……? ッひゃあ!?

 ( 古今東西、何事も。物事の全体像を捉え損ねた初心者が、その必死さ故に目的と手段を見誤るということは、決して悪気なく起こるものだ。それは今夜すっかり削いでしまった相手の興に気づけぬまま、柔らかなシーツに引き戻された娘もまた同じ。最愛の恋人にとっては一度、餌を見せつけた直後に、酷なお預けを喰らわせる仕打ちとなった訳だが。それで遠い目をした男もまた、目の前の娘がこれ程緊張してまで尚──ギデオンさんに喜んで欲しい、ギデオンさんの笑顔が見たい──と。分不相応に虚勢を貼らんとする理由に気が付いてさえいないのだからお互い様だ。そうして、どれほど戯れたろう。くったりと疲れた身体をゆっくり上下させ、自ら大好きな腕の中に転がり込めば。──ああ、やっぱりすごく、すごく好きだなあ……なんて。もう何度目かも分からない感慨を、睡魔なんぞに溶かさずに、もっと真剣に伝えていれば良かったと、後悔するのは後のお話。 )

──ギデオンさん、お疲れ様です!!

 ( さて、数日後に控えた建国祭を前にして。昨年の思い出を脳裏に、嬉し恥ずかし指折り楽しみにしていたヴィヴィアンを、ひとつ大きく落胆させた出来事があった。それは今年も発表された建国祭の警備シフト、お祭りの間中行動を共にするペアの相手が、お互いではなかったということで。とはいえ、そもそも昨年が幸運だっただけで、今年もペアになれる保証など一切なかった訳なのだが、「去年の分もギデオンさんと楽しみたかったの……」というのは、サリーチェに帰ってからの泣きごとで、仕事中は一切の公私混同を控えたのだから許されたいところ。不幸中の幸いだったのは、ギデオンの代わりに今年のペアとなったのが、よく知るカーティス・パーカーだったことか。仕事のできる同期とふたり、見回りを終えてギルドに戻ってきたヴィヴィアンが非常に上機嫌だったのは──休憩の時間が合えば、その辺の屋台でケバブでも、と。今朝サリーチェの家で示し合わせていた休憩時間に間に合った上、先に戻ってきていたらしい大好きな背中が見えたからで。 )





929: ギデオン・ノース [×]
2025-08-19 02:55:24




(ふたり分の体温で自ずと温むデュベの下。真夏の暑さをものともせずにこんなにも抱き合うふたりが、まさか実は盛大にすれ違っているなんて、互いに思いもしなかった──そんな一夜から数日後。
5029年のトランフォード建国祭は、例年よりも華々しいファンファーレに彩られながら遂にその開幕を迎えた。と言うのも今年は、先の大戦が終結してから60年の平和を祝う、十年に一度の機会。キングストン市が主催する平和式典はさることながら、毎日のように開かれる様々な催しや、五日目の馬上槍試合、果ては皆の楽しみである最後の花火大会まで、全てにおいて特別な雰囲気が満ち満ちる年である。それを百万の国民が待ち望んでいたからだろう、今年はもういつにも増して、どこを見渡しても人、人、人。通りに居並ぶ魅惑の露店や、行き交う人々に黄色い悲鳴を上げさせる魔法使いの大道芸人、子どもたちを怖がらせたり興奮させたりで忙しい竜騎兵たちのマラクドラゴン──そういった賑やかしまで、桁違いに多い有り様だ。
しかしながら、その警備の補佐にあたるカレトヴルッフの冒険者たちは、今年のこの盛況のせいでとんでもなく忙殺される……ということはなかった。何せ今年は平和の年、キングストン警察が例年の三倍にも上る人員をどかどかと投入しては、自陣の強力な統制のもと、四方をたっぷり睨んでいる。それはそれで、協力側としてはやりづらさがないわけではないのだが、祭に際して、国家組織とギルドとではあちらが優先されるお立場。故に冒険者たちは皆、万が一に備えての待機などを行いながら、警察の下支えとして順次見回りに繰り出しており。今年はヴィヴィアンとのペアが外れたベテラン戦士のギデオンもまた、丁度良い機会とばかりに後輩育成を施しながら、その日最初の休憩時間をしっかり調整していたところで……)

──……、ああ、お疲れ。
見たところ、特に大きなトラブルはなかったみたいだな。

(待ち侘びていた娘の声にくるりと向いたその瞬間。しかしギデオンの表情に一瞬揺らぎが走ったのを、このギルド専用テントに集まっている面々では、付き合いの長いヨルゴスくらいは気が付いてしまったろうか。何やら楽しかったのか、にこにこ笑顔で近づく娘と、その後ろから爽やかに汗を拭きながら続く青年。何の変哲もないそのふたりを見た途端思い出したのは、ここに戻ってくる数分前、すれ違った若者たちが言い合っていた会話だった。
──なあおい、見たか? やっぱあの噂、マジのガチだったんだ。
──噂?
──ほら、カレトヴルッフの美人ヒーラーに、とうとうカレ剣の彼氏ができちまったって話だよ。
──ああそれ、確か四十路とかいう?
──ばぁか、んなわきゃねえだろうが。ヴィヴィアン・パチオは俺らと同い年くらいだぜ? さっき一緒にいた男、絶対あいつとデキてんだって……よぉくお似合いだったじゃねえかよ。
たかが野次馬の会話である。そんな馬鹿らしいものを気にする方が余程愚かしいだろうに、何故ふたりを見た瞬間、咄嗟に忘れたはずのそれをすぐまた思い出すのだろう。そんな内心の狼狽を気取られぬよう、一瞬の間を打ち消すように無難な言葉を続けると、共にいたヨルゴスに軽く手を上げて休憩抜けを宣言する。同僚の魔槌使いはごく普通に応じつつ、その目の奥になんだかちらりともの見る気配が窺えたのは、やはり自分が何もかもに過敏になり過ぎているだけか。──いや、どうでもいい、この短い休憩時間を無駄にしてはいられない。後輩たちにも指示を済ませてようやくテントの外へと出ると、再びいつも通りの涼しい笑みを浮かべてみながら、軽い調子で相手に問いかけ。)

──……今年はどうも、南部から来たケバブ屋がワラ熊通りに出ているらしい。
去年の店を探すのもいいが……どうだ、ちょっと見に行ってみないか?





930: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-08-24 11:59:23




お陰様で──……ギデオンさんは、……何かありました?
なんだかお顔の色が……

 ( 付き合いの長さでは遅れをとろうが、強がりな恋人の表情を伺う事において、他の誰かに負けるビビではない。しかし熱でもあるのかと男の額へ伸ばした掌を、さりげなく自然と避けられてしまえば。じっと真っ直ぐに相手を見つめるも、本当になんでもないぞと首を横に振る恋人にそれ以上深掘りもできまい。確かに自分の勘違いかもしれないと、それか本人もまだ気が付いていない軽微な疲れの蓄積かもしれな故、注意深く見ていてやらねばとも思うのに──私が、頼りないから言えないの? と。信頼している筈の恋人を、心のどこかで疑ってしまうのは、まだたった数日前。またビビに黙って家計へと、決して少なくない額を懲りずに払っていたギデオンを諌めたやりとりの記憶が新しいせいだ。 )

まあ!
南部から……私仕事以外でほとんど行ったことがないんです!

 ( それでも、建国祭中やっと訪れたデートの機会だ。何やら早速気になる食べ物を見つけてきたらしいギデオンに、思わずふっと毒気を抜かれると。「あちらではどんな味付けが好まれるんですか?」なんて、慣れた様子で腕を絡ませ歩き出し。そうしていると、先程までは何か問題でも起きてはいまいかと気を張るだけだった人混みも、ギデオンと見るだけで、こうも楽しく気分を盛り上げてくれる賑わいになるのから不思議でならない。絡めた腕をぎゅっと引き、「ねえ、早く行きましょ!」なんて自らワクワク急かした癖をして、道中で人混みに気後れする老婆や、風船を飛ばした子供、強風に煽られた看板を追う屋台の主人らを放っておけないのは性分だろう。その度花だの、水笛だの、マスカレードの仮面だの、満面の笑みで貰ってきたお礼の品々を、「……はい。ギデオンさんが持ってて?」と隣の恋人に持たせては、段々と愉快になっていくその姿に心底楽しそうに笑い声をあげ。大道芸に驚きはしゃぎ、テンションの上がりきった犬に怯え、くるくると表情を変えては建国祭の雰囲気を満喫していた時だった。人混みの中やっとワラ熊通りにたどり着き、目的のケバブ屋を探す最中、通りに繋がる広場からわっと大勢の歓声が上がるのを耳にすると、興味津々といった様子でギデオンの袖を引いて。 )

──ギデオンさん、ギデオンさん!!
あちらでも何かやってるみたいですよ!





931: ギデオン・ノース [×]
2025-09-01 10:54:38




(恋人の問いかけに大丈夫だと返し、すぐに表へ歩き出せば、その後浮かべられていた不安げな表情に気がつくことはできなかった。そしてそれは、ヴィヴィアンがまたしゃんと切り替え、せっかくの建国祭をのびのび楽しみはじめる姿を真横から眺めるうちに、ますます遠ざかる一方で。──そのツケが回るまで実は案外すぐなのだが、ならば逆にひとまずは、このお祭りを楽しむ姿を注視してしまうことにしよう。「この間、碑文探しで寄った村で牛追い祭りをやってただろう?」と、すっかり嬉しそうにくっつきながら話題を振るヴィヴィアンに、こちらもゆったり寛ぎきってあれこれと雑談を。あれには南部の木の実を挽いた名産品のスパイスが使われているんだが、本来、本場本物のいちばん有名なそれは、もう火のように辛くてな。だからあっちのディアファノ地方は、ディアブロ地方……悪魔の地方だなんてもじられることがある。だから屋台の主人に会ったら、ちょっとした聖魔法を試しに振りかけてやるといい。大抵の南部商人は、そういったじゃれつきを大歓迎する性格で……おい、どうした? 何をしに──。
──その光景が生まれたのは、己の隣を歩く女性がヴィヴィアンだったからだろう。かつてギデオンが十代や二十代の若者であったころ、別の女ともこの夏祭りに繰り出したことがあったが、当時は今よりすかしていたし、女性もまたこちらに夢中で、互いとの浅い戯れに興じるだけがこの通りの歩き方だった。しかし、その頃とは別の人生を歩む今、同じ状況でも全く違う。隣にいたはずの恋人は、辺りの人々を手助けせんとすぐさま軽やかに飛んでいき、それでもすぐに舞い戻っては、ほうぼうからの頂きものでこちらを飾り立てはじめる。多少困惑しながらもその構いつけを許していれば、少し前まで軽い蘊蓄を垂れていた四十路男が、自分では決して選ばないだろい品々にまみれる有り様。しかしそれへの困惑も、愛しそうにころころ笑うヴィヴィアンの様子を見ればすぐに絆されてしまうのだから、つくづく相手は始末に悪い。「やられてばかりにさせないぞ」と、こちらも相手につられるように人助けに入りだしては、礼を言うその口で「これもどうだい?」と大笑いする屋台の主人に渡された、魔獣を模したカチューシャを相手の頭に被せてみせて。……ちなみに、反撃のつもりのそれが思いのほか似合っていてぐっと来てしまったのは、愚かな己だけの秘密だ。
そうしてすっかりお互いに浮かれた格好になったところで、おや、と相手の促すままに歓声の沸いた方角へ。互いに背の高いほうなので、広場に集う人々の後方から覗いてみれば、何やら変わり種の的当てのが行われているようだ。「──さあさあお通りの皆々様、どうぞどなたもお入りください! 見事真ん中を胃抜けたならば大当たり、外れても復活戦でこちらの商品が当たります! どうです、どうです──ああ是非、そこの娘さんも! おひとつ試してみませんか!」
派手な装いの大道芸人がヴィヴィアンを誘うままにもう少し近づいてみれば、どうもこちらは、祭りの屋台を巡り歩いてスタンプラリーを満たした客が、「目隠しダーツ」で商品を当てる遊びのようだ。先程の大歓声は家族連れの父親が見事真ん中を射てみせて、リゾート地への馬車代と現地の豪華な宿代を勝ち取ったものらしく、布をとった目をまん丸くする父親が、狂喜する妻と娘四人にすっかりもみくちゃにされていた。「必ずボードの上だけに矢が向くようにしてありますから、お怪我の恐れはありません! さあお嬢さん、お代は少しだけいただきますが、一本どうです? 今ならほら、ボートごとにラインナップが違うんですが、こちらのリストならあちらのボード、こちらは一等はさっきのパパさんが、ああこちらなら、あちらのボードに!」──休憩に来た冒険者だから市民の方が優先だし、スタンプも集めていないから……と引いてみせても、まだまだ的はたくさんあるし、冒険者割があるからと、とにかく場を賑やかしたい様子。相手の方を愉快げに見て、大丈夫だぞと頷きかける。カレトヴルッフの冒険者は大概盛り上げ役に良いから、屋台の側が寧ろ喜んでイベントに招き入れるのは、もう何年もあることだ。楽しんでやってごらんと、大道芸人から受け取った矢を相手に渡すと、しなやかな背を掌で軽く押してやり。)





932: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-08 00:44:55




本当に、私でいいんですか……?

 ( このキングストンに生まれ育って約四半世紀。この手の大道芸人による盛り上げ方を、ビビもまたよく承知しているが──いや、寧ろ知っているからこそ。今隣にいる高名で、世界一格好の良い、最高の魔剣士を差し置いて、自分が選ばれたことが納得いかないといった表情でおずおずと前へと進み出ると。それでも一応、今をときめく冒険者の端くれ、一般人向けに設置された的などお手の物だが……さて。偶然とはいえ直前のお父さんが射抜いてしまった以上、それだけではあまりに芸がない。よって、期待の視線を寄せる観客達の中、魔法使いの仮装をした少女を前へと引き上げると。彼女の杖の一振りに合わせて、ステージ中へとキラキラと星屑のような光を煌めかせ、それと同時に、事前に少女の希望を受けて宣言していた賞品を見事射抜いてみせてから、さっと大衆の面前から引っ込もうというのが最初の計画。しかし、そのそつの無い計画を狂わせたのは、見事に狙った的を射抜いたヴィヴィアンが、へにゃりと力の抜けた笑顔でギデオンの下へと戻ってきたその瞬間、分厚い群衆を切り裂いて「待って!!」とよく響いた、未だステージ上にいた魔法使い志望の少女の声だった。
 それまで、やんやと楽しげだったざわめきが、にわかにすんと静まると、「私がほしかったんじゃなくて、ビビちゃんにあげたいの!!」という必死な声と共に、件の景品──もう一枚残っていた南部へのリゾート旅行チケット──を掲げた少女は、どうやら冒険者であるビビのことも、そしてその"公私共に最愛のパートナー"であるギデオンのことも以前からよく知っていたらしい。可愛らしいファンの素朴な好意、それだけにしては真剣な表情にはて、と首を傾げかけたところで、「"しんこん"さんは、ふたりで旅行へ、いくんでしょう?」とやられたところで、誰がそんな純粋な少女に、恥をかかせられたと云うのだろう。)

……ぁ、ありがとう、嬉しいわ、ね、あなた……?

 ( この時はまだ、数分後に覚えることになる焦燥やら、悪戯心などはまだ遠く。赤い頬をした少女の無垢な可愛さ。そして、──新婚さん、ですって。と、やむを得ず想像した幸せな未来の形に微笑むと。ちらりと隣の恋人と視線を交わし、わっと湧く歓声のさなか、大好きな掌を捉えてぎゅっと握って。 )




933: ギデオン・ノース [×]
2025-09-09 03:17:26




──……ああ、そうだな。
本当にいいのか? ……そうか、ありがとうな。

(予想だにしない言葉にわかりやすく目を瞠り、そのまま隣の相手を見るも。その無垢な──やけに眩しく感じられた──微笑みに、かえって冷静さを取り戻すと、握り返す掌で導くように共にしゃがみ、駆け寄る少女を出迎えて。そうして差し出された旅行券、それを彼女がめいっぱい受け取るその真横、奇しくも相手と似通う台詞できちんと感謝を伝えよう。その際一端の大人らしく、普段は魔剣を握る右手でその頭を撫でてやれば、途端に嬉し恥ずかしとはにかむ少女に微笑ましい視線を向けると。さらにその後ろから、にこにこと嬉しそうな祖父らしき者が近づいてくるのに気が付き──ああ、それでか、とそこでようやく合点がいった。
この老人には見覚えがある。ついこの間、王都の東にある有名な朝市でヴィヴィアンとデートしたときに、ふたり仲良く物色した青物屋……その店主を務めておられたお方のはずだ。どうやら向こうもあの時のことをよくよく覚えていたようで、「グランポートでもトリルの森でも、ご立派なご活躍で……」と、先々週のヴァヴェル擬きの退治が載った王都新聞だけでなく、去年のあちらの地方紙までちゃっかりご存知でいるらしい。おそらくは、王都屈指のヒーラーに憧れている孫娘とお喋りをするためにあれこれ詳しくなったのだろう。あの子を膝に乗せながら、『あの有名な冒険者が、うちの店に仲睦まじく林檎を買いに来たんだよ』なんて自慢する光景は、想像に難くなく。──そういった類の延長線にあるのだろう老爺と少女の思い出に、どうして水を差せようか。)

……噂をすれば、何とやらだな。

(かくして、思いがけず市民から贈られたディアファノ行きの旅行券。それをありがたく受け取って、とはいえ互いに多忙の身だし、どうしたものか……なんて、笑い合った時だった。「──ああ、君たち! ちっとも知らせてくれないなんて、全く水臭いじゃあないか!」。まるで雲を払うような朗らかな声に振り向けば、今度こそ更に大きく目を見開く羽目になる。群衆を掻き分けてふたりの前に飛び出てきたのは、公人にしてはやけに浮かれたお祭り衣装に身を包む、恰幅のいい中年男性──しかしこんななりであっても、先月の水難救助訓練合宿で恭しくお目にかかった、グランポート新市長その人である。
何故この方がこの町に、とヴィヴィアンと顔を見合わせたものの。彼の後ろからひいこらと、リードを振り切った犬を追いかけるが如く大仰さで別の男性も現れれば、すぐに状況が呑みこめた。この後続のもうひとりは、い憲兵団のSPをわらわらと引き連れた、やけに地味だと有名な(ことでたびたび落ち込んでいるらしい)我らがキングストン市長だ。彼がぜいぜい喘ぐ合間にわざわざ説明してくれずとも、どうやら今日、親睦を深めるために友好都市の新市長を王都の祭に招待し、最中テンションの上がった先方が賑やか方へ突進するのを制しきれずに連れまわされ、それでもお忍びということでそこから大人しく眺めるはずが、件のギデオン・ノースとヴィヴィアン・パチオのハレの報を聞きつけた途端、わっと沸いた先方がこれまた派手に飛び出していった……──なんていう顛末が、まあまあ理解しがたいものの、なんとなくは呑みこめた。以前の合宿の夕食の席で挨拶した時も思ったが、どうやらこのグランポート新市長、前市長の後任として例の事件に踏み込む以上敏腕ではあるのだろうだが、いかんせん猪突猛進・天真爛漫な変わり者。どうやらキングストン市長でさえ手を焼くレベルであるらしい──なんて所感を、もっと重大に捉えるべきだったと思い知るのは、しかし次の瞬間のこと。
「やあやあ、聞いたよ、聞いたとも! ついに結婚したんだって!?」──無駄によく通るその大声に、今度こそこちらの顔にはっきり焦燥が走ったことを、港の陽気な新市長は少しも気づいちゃいなかった。「まったくもう水臭い、祝辞のひとつでも贈らせてくれればいいものを! 式はいつだったんだい、え!? どこの街で挙げたんだね!? ──えなに、まだ先? じゃあセーフじゃないか!! 頼むよ頼む、頼むから、我々も呼んでくれたまえ。うちの市民はこちらの皆さんに負けないくらい君たちのことを祝うはずで、私にその代表を務めさせてはくれんかね? だって、なあ、あの時どん底の闇ばかりを書かざるを得なかった我々の街の新聞で、君たち二人の明るい記事がどれだけ救いになったと思う! ン、何だね……ああそうか、もうそろそろ行かねばな、だが頼む、忘れれくれるなよ、私は参列が待ちきれない! 日取りは追って知らせたまえよ!」──……これだけのことを大声で囃し立てながら、新市長はとうとう、王都市長とそのSPにはっきり引きずられるようにして会場を去っていった。後にぐったり残されたのは、うら若い恋人の横ではるか遠い目を投げかける、憔悴の魔剣使いである。
──なんてことを、してくれやがった……と、そんな思いでいっぱいだった。あの幼い可愛い少女がふたりのことを誤解して優しい贈り物をくれる、その程度の話であれば、まだ微笑ましいものとして思い出にできたはずなのだ。ところがその直後に、あのデリカシーゼロ公人のとんでもない大破壊で、全てがもう滅茶苦茶である。なまじ地位も縁もある無視などし難いお偉方、そんな人間にあそこまで騒がれてしまえば、今や己とヴィヴィアンが“新婚”であることは、もはや公然の事実として市民の間に広まりかねない。となると、どうせおそらく王都市長の側近から、友好都市の市長を招待するならうちを通せ、あれしろこれしろ、ここに警備を就かせろと、無駄に現実的なあれこれを命ずるために首を突っ込まれだすだろう。
しかし、全ては完全に誤解だ。──己はヴィヴィアンに、まだ求婚すらしていない。)

……厄介だな。あんな奴にあの勢いであちこち言い触らされるんじゃ、この先が思いやられる。

(──しかしそのぼやきはそれはあくまでも、落ち着きのない新市長の振る舞い全体にかけてのもので……“結婚”そのものの噂だけにとどめるつもりはなかったはずだ。案外肝心なところで口下手を発揮する、そんな己の短所には未だ無自覚であるがまま、前年も相手と訪ねた屋台があったその辺り、目当ての南部ケバブの店に重い足取りで到着すると。せめて楽しみにしていた飯で少しは気分をマシにしようと、呑気にメニューを眺めはじめて。)





934: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-10 11:57:25




いえそんな……恐れ入ります。
先程は急にお願いしてしまって……あの、お孫さんにお名前を伺っても良いでしょうか?

 ( 穏やかそうな御祖父様と優しく可愛らしいお孫さん。そんな二人に対しせめてもの感謝の気持ちに、楽しい観光の思い出をより華やかなものに出来ればと、束の間の交流を楽しめば。それ自体にはなんの下心など微塵もあらねど、寛いだ様子の恋人へ──ギデオンさんも、私と同じ気持ちだったら良いな……なんて。最愛の恋人と夫婦に間違えられては満更でも無い胸のときめきを、密かに楽しんでいたものだから。その後の相手の言いぐさに、少しがっかりしたのもまた事実で。 )

でも、市長さんとってもお元気そうで良かったですね。
きっととてもお忙しいんでしょう?

 ( そもそもの話。こうして隣にいることを許され、付き合ってもらえているだけでも、これ以上なく幸せなのだ。ギデオンと二人、温かい紙袋を抱えて、イートインスペースに腰を下ろせば。ちょっと期待しすぎちゃったなと、案外深刻になりすぎることもなく、最近の浮かれようを反省しながら、辛いソースで口を汚して。──でも。同じ一つの屋根の下、結婚もしていない異性と生活を共にする決断だけでも、自分にとっては相当の覚悟が必要なものだったのだ。それが相手にとっては大したことでは無かったとしても、少しくらい、その気持ちを思い知らせてやりたいと思ったことは、そんなに悪いことだっただろうか。)

──……責任なんて、感じちゃダメですよ……、

 ( それは、一回目はワーウルフに悩まされた郊外の農村、二回目は明るく清潔な病室で、繰り返し確認した愛の言葉。ギデオンさんにとっては、しつこく言い寄られて少し情が移っただけの寄り道のつもりだったとしても、私はそうでは無いのだと。責任なんかとってもらう必要も無い、自分の意思でこれからも貴方の隣に居続けて、絶対に逃がしてあげないという強い意志。しかし、ビビもまたこのやり取りを、大きな誤解を産みかねないタイミングで切り上げざるを得なかったのは、座っているベンチのその背後、他の客がタイミング悪く飲み物をひっくり返してくれたせいで。 )




935: ギデオン・ノース [×]
2025-09-13 12:48:28




──…………、

(「あら、大変!」「いンやいやいやいやもぉーしわげね゙……!」と。どうやら北方から王都観光に来たらしい純朴そうな若者を、相手が助けに行く間。一方のこちらはと言えば、虚空に視線を投げかけたまま、瞬きすらしていなかった。“責任なんて、感じちゃダメよ”──その柔らかな一言に、凍りついていたせいだ。
それでもほとんど自動的に己の躰が動きだす。ヴィヴィアンの杖の魔法が、観光客の衣服の汚れを綺麗さっぱり拭う間に、彼の落とした荷物を集め、取り纏めて手渡してやり。ぺこぺこしながら去りゆく彼を、残りの祭りも楽しむように背中を押して見送れば、ようやく元のベンチへ戻って昼飯の続きといこう。最中からそこに至るまで、己の自覚する限りでは、いつも通りのギデオン・ノースを振る舞えていたはずだ──「ギデオンさん、大丈夫ですか?」と。怪訝そうな顔の相手に、すぐさま覗き込まれるまでは。
まっすぐな翡翠の瞳に、どこまでも純粋にこちらを案じるような表情。愛しい娘ヴィヴィアンのそれらをまじまじ見つめ返してから、「大丈夫だ」とかぶりを振る。──いや、本当だ、今日のシフトの調整についてちょっと考えていただけさ。暑気あたりなんかしちゃない……お前の持たせてくれた塩飴だって、ところどころで食べてるよ。ああそういや、ギルドロビーにも置いてたろう? ドニーたちが、「こいつは世紀の発明だ!」なんて大喜びしていたぞ。
無難にこなしていたはずだ。ぼそぼそしたピタパンや水っぽい細切れ肉を作業的に頬張りながら、相手を何やら揶揄って可愛らしい文句を誘い、衆目の許す範囲でじゃれあうふりに興じてみせて。そうして休憩テントに戻り、「また後で」と明るい声で言い交わしてそれぞれの持ち場に戻れば、あとは仕事に打ち込むことで何かを忘れようとした。……それがいったい何なのか、ギデオン自身もよくわからない。とはいえ結局その程度、おそらく大した問題ではないし、気に留める必要もない。そのはずだ。
──だがしかし、大抵の場合。よりによってこういう時に、間の悪いトラブルが降りかかるというもので。)

くそっ、アリス!
現場は今どうなってる!?

(平和だった建国祭に早くもトラブルが生じたのは、憲兵団陸軍によるマラクドラゴンのパレードが始まった時だった。並みいるドラゴン目の中でも、スコス属──翼のない四脚竜として地上を練り歩くこの生きものは、人類が完全なる家畜化に成功した数少ない魔獣であり、戦場に出る時以外は非常に温厚な性格をしている。王都育ちの人間ならば、赤子連れの母親ですらその鼻面に触れると言えば、市民の彼らへの信頼がどれほど厚いかわかるだろう。──しかしそのマラク竜が、王都の北通りの広場で暴れ出したとの急報だ。今年の建国際は警備が大幅増員とはいえ、それはあくまで、人間を取り締まる王都警察の人員であり、暴れ狂うドラゴンには対処が及ぶべくもない。故に、現場の魔法使いから魔法伝達を得た今年のコンビのアリスと共に、冒険者であるギデオンもまた、現場へ急行していたところで。
──しかし、その道中を阻むのが、そちらからどっと逃げてきた市民や観光客だった。恐慌するかれらは前後が見えていないようで、転ぶ子どもや老人が踏み潰されてしまわぬよう警察が声を張っているが、それでも統制が効いていない。王都暮らしの長い己は、この大群を避けられる抜け道を知っているし、アリスも自身の浮遊魔法で簡単に飛び越せよう。しかしどちらも、それを選ぶ考えはなかった。アリスの答えで、他の冒険者も次々に現場に来ていると知った今、混乱の酷いここを見捨てていくことはできない。故にそれぞれ最善を尽くし、ようやく警察に後を任せられる段階まで整えれば、今度こそ一目散に北通りへと駆け抜けて。──換装したさすまたに雷魔法を溜め込みながら、視界に見えた白いローブに思わずその名を大きく呼んで。)

──ヴィヴィアン!





936: ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-09-17 01:54:25




 ( 終戦六十周年の節目の年を祝う特別な建国祭。恒例の警察や冒険者に次ぎ、今年は国軍の兵士たちまで。キングストン、及びトランフォードの名だたる治安維持組織が総力をあげた警備体制下。それでも起こってしまった騒動の瞬間、ヴィヴィアンとカーティスの二人組は、北通りから一本曲がった通りでパレードの進行ルート封鎖に当たっていた。最初は何か巨大なものが倒れる衝撃音、次いで上がった群衆の悲鳴に騒動の現場へと駆けつければ。もくもくと上がる土煙の奥に、寸前まで屋台だった残骸の上に立つ一体のマラクドラゴンを見咎めて。
 「ッ、カーティス!!」「わぁってる!! 仕方ねぇだろ!!」と、この時。珍しく口調を荒らげたのは、単体でマラクドラゴンへ斬りかかった美貌の剣士。ビビの援護すら待たずに広場に入るなり、その巨体へと踊りかかったその無謀はしかし、逃げ遅れた市民を守る為のものだったことに気づかなかった訳では無いが。見渡す限り、戦力になりそうな味方がカーティスとビビしかいない状態で、前線での殺戮に特化したドラゴンの逆鱗に触れることが如何に危険なことか。不幸中の幸いは、カーティスが守った一人を最後にして、守るべき市民達の避難は完了していること。いち早く到着した対魔獣の専門家である冒険者達の存在に、市民の避難と広場の封鎖に専念した警察達の動きは、表彰されこそすれ、決して責められるべきことでは無い。とはいえ、フッフッと荒い息を吐くドラゴン相手に二人では──と、改めてそのドラゴンに視線を向けかけた瞬間。ドォン!! バキッ、メリメリメリメリ!!! と、耳の横すれすれを掠めた瓦礫が、背後の屋台を一撃で破壊する衝撃音に、取り急ぎ完全無策で駆け出すと。相手は対人特価の殺戮兵器。竜騎兵の操るマラクドラゴンの相手は、こちらも同種のドラゴンか、もしくは熟練の連隊が作戦をもって対峙するもの。まかり間違っても、カーティスとビビの二人で相手取れるパワーバランスなどではなく、かといってそんな暴れ竜を広場から逃がすなどもっと有り得ない。この万全の警備体制下、この騒動はすぐさま他の冒険者たちの耳にも入り、すぐさま応援に駆けつけてくれるだろうが、果たしてそれまでどうもたせるか──と、その時。必死に見開いたエメラルドに、その文字列が映ったのは完全なる偶然だった。
 類稀なる高い知能を持ち、前線では鋭い爪を振るう一方で、平時では市民とも触れ合う温厚なマラクドラゴン。その理知的な視線は、見る者の浅ましい欲を宥めさえする美しい竜だが、そんな彼らには一つ共有する欠点がある。それは──酷く、それはもう救いようがないレベルで食い意地が張っているのである。どんなに十分に餌を用意しようと、彼らのバディである竜騎兵の注意も虚しく、道端の花壇や店の商品を貪り食む姿は最早日常。最近は彼らが通ったあとは雑草一本残らぬことから、農村での導入も研究されているらしい。とはいえ、建国祭の花形である竜騎兵のパレード。誘惑の多い祭日の中を練り歩く事情上、屋台の食事に手を出さずに我慢出来る優秀な(?)個体が選別されていたはずだが──ビビの視界に映ったのは、バターと……マラクドラゴンの好物である蜂蜜がたっぷりとかかったイラストが描かれた屋台の看板。そして、その蜂蜜の種類が、"ハオマハニー"と。最近、市井で健康に良いと流行っている健康食品である高級蜂蜜なのだが。人間には様々な良い効能をもたらすガオケレナの近縁種の花から作られる蜂蜜も、確か一部の魔獣や動物には良くなかったはずと、太い尾の鋭い一撃を交わしながらその様子を観察すれば。ダラダラと溢れるヨダレに、虚ろな視線、時折腹を庇うように屈んではギュウゥ……とうなる姿は、腹痛に苦しんでいるようにしか見えず。
 そうと分かれば話は早い。「顔の前まで飛ぶわ、援護して!」と共有したカーティスからの、「正気か!?」という快い承諾を背に、遥か高い位置にもたげられた首の先へと飛びついて、解毒の呪文と共に大きな動きで杖を振れば十数分後、結果から述べるにビビの推測はたしかに当たっていたようで。酷い腹痛から解放され、キュゥ……と自分の起こした惨状に申し訳なさそうに縮こまるドラゴンの隣。数刻ぶりに顔を合わせた恋人の呼ぶ声を、カーティスの腕の中で聞くことになったのは、着地に失敗して足を挫いたからで。 )

──ギデオンさん!
ね、もう下ろしてちょうだい、大袈裟なんだから……

 ( 普段膝上までしっかりと防備しているブーツを脱いで片手に持ち、もう片方の足で駆け寄ってくるギデオンとカーティスの間に立てば。「暴れていたドラゴンはあちらです。もう危険性はないと思うんですけど……」と、ことの顛末の説明を。「つまみ食いしたか、見物人に与えられたか……ハオマハニーによる錯乱かと思われます」と口にしたところで、よく気づいたなと驚いたのは男性陣のどちらだったか。しかし、カーティスの方はといえばすぐに「……『アナバシス』だな?」と得心の言った表情で頷いたかと思うと、「蜜をとる植物によっては、蜂蜜が毒になるなんて本当だったんだな……」と、今回の閃きがビビの実力ではなく、古代の歴史書からの引用だと、ギデオンへとバラしてくれようとするのを黙らせようとしてバランスを崩すと。──ギデオンさんに褒められたいのに!! と、その浅黒い腕に掴まってぽこぽこと頬を膨らませ。 )

──まって! しーっ、シーッ!!
なんで、バラしちゃうのよう……!




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