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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
875:
ギデオン・ノース [×]
2025-03-16 21:30:59
わかっ──落ちつけ、ちゃんと連れてってやるから落ち着け。
(がばっとこちらに縋ったかと思えば、何やら酷く必死になって言い募ってくる若手の後輩。こちらはたじろぎながらのけ反り、車中で妙な真似はするなと、相手の華奢な肩を掴んでどうにか元に押し戻す。……とはいえ、予想だにしない答えに一瞬唖然としたのは事実だ。大魔法使いを父に持つこの優秀なヒーラーでさえ、そこまで苦手なものがあるとは。
しかも今回出動するのは樹々が密な森の中、相手が本領を発揮する豪快な戦術は迂闊に使えないだろう。困ったな……というように、一度窓枠に腕をもたれてからため息をつきかけて。しかしふと、「……今何と?」と渦中の娘を隣を振り返る。彼女が仮にもう一度、“本物の碑文を見たことがある”と繰り返してくれたなら。見開かれた青い瞳が、未だ揺れながらも輝きはじめて。)
なあ、ヴィヴィアン。グランポートの時みたいに、失われた錬金術を再現してくれとは言わない。
──が、お前の見たエメラルド碑文の……贋作を作ることはできるか。
(……失われた錬金術を刻み込んだ文献群、秘宝タブラ・スマラグディナ。それは伝説によれば、百を超える碑石によって魔法の神髄を語るらしい。しかしその全てが発見されているわけではなく、また多くの知識人が喉から手が出るほど欲しがるだけに、これまでの歴史上、贋作のエメラルド碑文も数多くつくられてきた。
つまりまともな学徒であれば、まさかまかり間違っても、自分がその贋作を作ろうなどとは思わない。それをこちらも踏まえた上でヴィヴィアンに頼み込むのは、亜人族から例の秘宝を奪い返してみせるにあたり、贋作で奴らを惑わす必要を感じたためだ。元々そんな高度な手は使わず、もっと荒っぽい方法で碑文を探す気でいたが……ヴィヴィアンが囮作戦に協力してくれるなら、予定より早く確実にエジパンス族を捜し出せる。──国境付近の問題が大きくなってしまう前に、事態を収束させられる。
「今夜一泊する宿は、ちょうどガラスの名産地らしい。許可さえ取れれば、材料にする石を掘りだすこともできるはずだ」と。懐から取り出した地図で周辺地形を指し示すうち、つい熱がこもったのか。何ら意識することなく相手に頭を寄せながら、間近な距離で相手を見つめて。)
……おまえほどの魔法使いなら、まともな学者が気づけるように、贋作としての証拠をこっそり刻み込めるだろ。
頼む、手を貸してほしい。
876:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-21 23:53:23
任せ……えっ、………………
( 失われた錬金術を再現しろとは言わないという約束に、ほっと安心する一方で──もっと頼ってくださってもいいのに、なんて恋する乙女の複雑さを楽しんでいた報いだろうか。古代魔法を再現するより難しいことなどなかろうと、危うく安請け合いしかけた言葉を反芻すると、返す言葉もないといった調子で絶句して。
タブラ・スマラグデイナの贋作を作る……? よりによって、魔導学院の一学徒である自分が? その発言の衝撃たるや、一瞬もう既に自分が現役の学生で無いことをビビに忘れさせる程。尊敬しうる上司たっての頼みだろうと、これまでヴィヴィアンが培ってきた価値観の中では絶対に、絶対に有り得ない行為で。「だって、」それは先人が積み重ねてきた知識に対する酷い冒涜であり、「でき、……」できるか、できないかという問題ではない大罪だ。「それに」純粋な翡翠と見紛うような材料なんて、と。次々浮かぶ反論を切実な表情に、言葉に、"全て分かっていて頼む"と否定されてしまえば、相手の懸念する"最悪の事態"を想像できるからこそ、心底困り果て俯いて。
このまま秘宝が見つからなければ、ガリニアのなんの罪もない民に対する簒奪は収まらず。最悪の結果、隣国との国際問題、そして戦争となってしまえばより多くの人々の命が脅かされるだろう。それでも、歴史上の暗君は、進んで祖国を亡きものとしたろうか。否、寧ろ目先の被害を最小限に食い止めるべく、書の一冊を燃やす蛮行に及んだ歴史の登場人物を、自分はこうはなるまいと、青春の砌に学友達と確認しあった記憶はまだ若く。やはり魔導学院に育まれた人間として、いくら相手からの頼みだって叶えられない。そう震える唇を噛み締めて、ぐっと顎の下の筋肉を逸らせばしかし、その表情が鋭く勇ましかったのは、俯いていた顔を上げる直前までだった。
次の瞬間、揺れる馬車の中に響いたのは、ひゃあともきゃあともつかない悲鳴。眼前に迫る美貌に座席を揺らして仰け反れば。人間、圧倒的な美を目の前にすると、思考どころか上手く呼吸さえ出来なくなるもので。──格好良い、好き、褒められた、嬉しい、好き、助けになりたい、etc. ──かあっと頭がのぼせ上がり、冷静な思考は為す術もなく干上がっていく。神の造りたもうた生物の美しさを前にして、人間の叡智など取るに足らないものに見え、土属性の魔法一つ使いこなせない矮小な己が、歴史の大義を振りかざすなんて烏滸がましいにも程があるのでは無かろうか……? と、その思考を狂わす絶景から少しでも距離をとろうと、細い両腕を前に回して胸の前で拳を震わせるも。「でも、でも……」と、最早意味の無い抵抗を試みること数秒間。更に惨いとどめを刺されたか、それとも真摯な視線に射殺されたか。どちらにせよ、哀れ恋する乙女はぐったりと白旗をあげたのだった。 )
──……何日、……どれくらいの時間があれば、本物を取り返すことが出来ますか?
( そうして、せめてもの落とし所として受け入れたのは、時間制限ありの偽装魔法。一定時間経過すると魔法が解けて元のガラス板に戻るそれならば──と。今のガリニアの民が危険に晒されている状況も問題だが、あちらはトランフォードを含む大陸中の学問の中枢を担う総本山。そちらの秘宝である遺物をまた、トランフォード人であるビビが偽造することの、ナショナリズム及び精神構造的な問題も説明して。 )
877:
ギデオン・ノース [×]
2025-03-23 23:08:02
お前だけが頼りなんだ、
(酷く驚いた様子の相手に、しかし真剣そのもののこちらは顔色ひとつ変えることなく。ひた向きな熱い視線で相手を焦がしていたかと思うと、振り上げられた細い手首を武骨さ極まる掌で捕らえ。ごく優しく握り込み、やんわり下ろさせてしまえたのは、こちらが上手く導いたのか、はたまた相手の娘の力が抜け落ちてしまったせいか。とにかく再び目と目を合わせて、もはや駄目押しの囁きを。──そうして相手が降参すれば、わかりやすく目元を緩め、穏やかに感謝を述べて。
とはいえ相手の言うとおり、例の碑文の贋作は、そもそも製作すること自体が倫理的に大問題。限られた時間の中でのみ使えるようにすべきだろう。真面目な顔で頷けば、「そうだな……」と顎に手を当て、思案を巡らせることしばし。ふと下げていた視線を上げて、もう一度相手を見ると、よし、というように顔色を凛々しく変えて。)
──三日だ。三日後の日没まで。
それだけあれば事足りる。
(──さてはて。デレクとカトリーヌのパーティーが幾日探しても見つからぬ、魅惑の幻・エメラルド碑文。それをこの手に取り返すまで、わずか三日で足りるなど、ギデオンの出した答えはまるで無謀もいいところだ。しかしこのベテラン剣士は、後輩ヒーラーの仕事の腕を心から信じ切っていた。ヴィヴィアンなら絶対に、今回のクエストを大いに前進させるほどのモノづくりをしてくれると。
それに相手の協力を得るなら、やはりその三日程度が精神的に上限だろう。元より無理を頼んでいるのはこちらのほうであるのだし、ならば相手に任せる分だけ、こちらがどうにかするべきなのだ。そうしっかり腹をくくって、「詳しい作戦は、今夜の宿に落ちついてからにしよう」と、一度話を切り上げる。馬車が途中駅に停まって、乗客が増えてきたからだった。
それからの道中は、深い森を幾度か過ぎて、当然道も険しくなった。その際、掴むものもなく揺れるヴィヴィアンの肩をそれとなく抱きかかえ、「しばらくは我慢してくれ」と言ってそのまま支えつづけていたのは、どうやら相手の協力を引き出せたことで、想像以上に機嫌が上向き、相手を手助けする思いがいつもより増していたせいらしい。……静かな車中、ごく寛いだ様子で車窓なんぞを眺めているのは、はたして朴念仁という語で収めていい範疇だろうか。
──それからさらに数時間後、その日の宿の女将に魔法鍋や薪の類いを借り受け。宿の裏手にある一角にようやく姿を現した時も、いつもよりやや気さくな様子で。)
……どうだ、材料は足りそうか。
鉱石が足りなければ、もう辺りも暗いから、俺が調達してくるが。
878:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-03-27 09:18:06
……三日、わかりました。
( ──まったく、この澄んだ美しい薄青い目には、哀れな娘の様子が、少しでも映って無いのだろうか。可哀想に耳の先まで赤くして、これでもかと分かりやすく白旗を掲げて見せているというのに、追い打ちとばかりに残酷な笑みを見せたかと思うと、その手を離さないギデオンに、「約束ですからね!」と続けた表情が苦々しかったのは、何も問題の偽造行為への罪悪感だけではなく。極めつけには、険しい森を進む道中、さも当然の様子で回された腕に──ワタシ、学ンダ、この人を調子付かせたらダメ、と。往年の遊び方は風の噂で存じているが、決してビビの好意を利用しようと自覚している訳では無いのだろう。しかし、まるで親戚の娘にそうするような気安さは、仮にも熱心なアプローチを繰り返している娘に対して、あまりに無配慮というものでは無かろうか。これで──……本気になった、っていったら困った顔をする癖に! と、言外に未だ本気じゃないと自覚していること自体に、自分でも気がついているのかいないのか。出来るだけ相手の温もりを意識しないよう、華奢な身体を縮こまらせれば、件の集落にたどり着くまでの道中は、やけに静かに過ぎていったのだった。 )
──……っ、ありがとうございます。
でも大丈夫、お陰様で十分ですわ。
( さて、道中あんな惨い目に合わされたのだ、不意の返答に少し棘が立つくらいは、どうか許されたいところ。碌でもない経緯で折れたとはいえ、約束は約束、仕事は仕事だ。それまでテキパキと調合の準備を進めていた身体を、ギデオンが姿を見せるなり強ばらせ、毛を逆立てた猫のようににばっと距離をとったかと思うと。「あ、でも、この件が解決したら、なにかご褒美があってもいいですよ? 例えばデートとか、」と、露骨に好意を滲ませるのは、さしずめフシャーッと怒気を滲ませた威嚇といったところだろうか。 ──私は、いつもあなたに迫って困らせている小娘ですよ、と。本人すら無意識な言外の主張を正確に読み取るか、それとも言葉通りに受け取っていつも通りに困惑するか。( 若しくは、更に一枚上手な相手に、上手く宥められでもしたかもしれない )どちらにせよ。やっと普段の距離感を取り戻せば、腰の袋から熟れた手帳を取り出して。これから作ろうとしている物の説明と、今後の作戦相談を。 )
タブレットに記すのは、この一章……マテリア・プリマの節にします。
これ自体は別の……初めて発見されたタブレットの文言ですから、分野の者なら学生だって分かりますけど、エジンパス族は中身には興味が無い……ですよね?
……それで、これを使って、一体どうやって本物を取り返す作戦なんですか?
879:
ギデオン・ノース [×]
2025-03-29 19:11:52
(相手の何やら構えた態度に、最初のうちは呑気なことに不思議そうにしていたが。相変わらずちゃっかりとその気を混ぜ込まれようものなら、一度目を瞬いてから「は、」と呆れたため息を。──それでも仕方なさそうに、「……労いって名目でなら、美味い飯には連れてってやる」と、相手への謝意と期待の両方を込めて言い足し。的確な対応と訝しげな問いに鷹揚に頷けば、近くの切株に腰を掛け、大鍋の薪を取り出して。)
お前の言うとおり、連中は碑文の中身には興味がない。
ただ、他人が価値を置くものを手に入れて悦に入りたいだけだ……だからそいつを利用する。
(──碑文の遺失騒ぎを起こした、盗人亜人・エジパンス族。曰くかれらには、“他人の財産に欲情し、盗んだ獲物に魔素のマーキングを施す”という独特の習性がある。その連中の目の前に、同じエジパンス族の内ではまだ誰も手にしたことのない、完全にまっさらなエメラルド碑文を突き付ければどうなるか。──他の氏族が散々奪い合ってきた人間族の秘宝、その姉妹石でありながら、未だ手つかずの……いわば“処女”にも等しい一枚。所有欲の激しいエジパンス族の連中は、必ず惹きつけられるはずだ。
一部の喩えを取り換えてその考えを説明してから、「ならばそいつをくれてやろう」と、いよいよ作戦の本題に入る。明日の昼、馬車が襲われた辺りの森をヴィヴィアンと歩き回れば、財産狂いのエジパンス族は、必ずこちらを様子見しに来る。その時に贋作をちらつかせてみて、マーキングもないそれに強い反応を示すなら、それは必ず“本物”を所有しているエジパンス族だるう。そうして標的に定めさせたら、後はその晩の野営で、わざと隙を晒しながら寝入ったふりでもすればいい。こちらが手間をかけずとも、エジパンス族の方から近づき、贋作を巣へと持ち帰る。──その贋作に相手の使える追跡魔法をかけておけば、本物の眠る隠し場所も突き止められるというわけで。
馬車でも見せた周辺地図、それを懐から取り出して史料として渡しながら、右手は大鍋を持ち上げて、相手の構えた簡易竈の組み木の上に持っていこうと立ち上がる。だがしかし、二、三歩歩いたその先で、不意によろめいたかと思えば、ガランと大鍋を落とした右手、それを力なくぶら下げながら、咄嗟に肩を抑え込んで。)
あの辺りの森は、夜光草が豊富なわりに強い魔獣がいないからな。本物の回収は問題なくできるだろう。
だから実行は明日から明後日、伸びたとしても明々後日まで、には……っ、
880:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-04 00:06:49
……贋作を囮にする、ってことですね。
( 伝説の宝を探す大冒険に、黒幕には知る人ぞ知る秘密結社、そうして仕事の後には苦労を労い合う仲間との一杯──それってなんだか、すごく、すごぉぉぉっく冒険者っぽい……!! と。デートなどよりよほど目を輝かせて真剣に、相手の語る作戦内容に尊敬の念を顔に浮かべ、その内容を手帳へと書き留めようと視線を落とした時だった。ガラン、と金属製の質量がそれなりの高さから落ちる衝撃音に、何気なくそちらを振り返れば。肩を押えて蹲る先輩に、「ギデオンさん!!」と、一も二もなく駆け寄って。
そうして、まずは原因である闇の魔素を取り除くため、取り急ぎ孤島の砂浜でも披露した回復魔法で応急処置的に蹴散らすも何かがおかしい。結局件の数日前こそついに逃げられてしまったのだったが、翌日ギルバートの返答を報告に行った時には、レイケルの魔素の進行はここまで進んでいなかった筈で。だからこそギルドのドクターも、出動許可を出したのであり、その後の経過はビビもしっかりと確認している。にも関わらず、今この状況に有無を言わさず赤シャツの胸元のボタンへと手をかければ。──身体を蝕む悪意の魔素、その進行速度は宿主の体力に大きく左右される、と。考えうる中で一番可能性が高い原因に想いを馳せれば、その返答次第では相手が現場に立つことを、担当治療官として否定する判断を無常に下さねばならないだろう。 )
ギデオンさん──正直に答えてください。
この件が発覚してから……一週間くらいでしょうか、その中でまとまって5時間か、それ以上の休息をとった日は何日ありますか?
881:
ギデオン・ノース [×]
2025-04-12 18:53:28
……ずっと、内勤だったんだ。毎日休んでたようなもんだろ……
(切株に背を預け、うら若いヒーラー娘に大人しく服を剥かれて介抱を受けながら、いかにも捨て鉢な呻き声を。これが暴論に聞こえることは、こちらも渋々承知している。だが剣士の己に言わせれば、素振りもせずにただ大人しくする日々こそが拷問で、せめて自分が抜けた分の穴埋めでもこなさなければ、気が休まりそうになかった。……とはいえ、「もっと具体的に」とヒーラーに請われたならば、一瞬押し黙ってから、薄青い目を露骨に逸らし。「持ち出せる書類は全部自宅に持ち帰ってた」、「日中まともに疲れないから、一日四時間も眠れちゃいない」と。要するにこのところ、相手の思う休息など一日たりとてとれていないと、ここでようやく認めたものの。)
余計な心配はしないでくれ。
──元々不眠の気があって、ドクターの出す睡眠薬も碌に効いたためしがないんだ。
(さらりと告げたその台詞は、相手に初めて打ち明ける、自分自身の弱みのひとつだ。──冒険者ギデオン・ノースは、元からこういう生活だった。十年ほど前、一睡もできない日々が長く続いていたせいで、それが随分和らいだ今も、そう長くは眠れない。だから無理に仕事を詰めて自縛したわけではなく、休もうと思っても休めない体質なのだと。それなら余程、無為に過ごすより何かした方が有益だ、それを否定しないでくれ……と。はだけた襟元から覗く傷の熱が映ったのか、どこかぼんやりした目つきでヒーラーを見るまなざしは、不調への苛立ち以上に、普段なら見せないような、仄かに弱々しくすら見える懇願の色が滲んで。)
882:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-18 01:26:41
……睡眠時間は一朝一夕では仕方ないにしても、こんな状態で現場に出す許可なんて出せませんよ。
( 一体、何がこの人をこうも駆り立てるのだろう。これまでのビビにとって、分別のある大人であれば自己の健康管理などして当然の、むしろ義務に近い認識のものだった故に。カレトヴルッフの剣士として名高い筈のギデオンの滅茶苦茶な発言に心の底から驚くと。まるでその身の破滅を望んでいるかのような言動をするギデオンに、いつか取り返しのつかない事態を招くのではと、件の海上ぶりに、身体の芯から凍えるような恐怖を覚えて。それでも、あくまで冷静なヒーラーとして、相手の懇願に首を振れば。目の前の剣士に背中を向けてしゃがみこんだのは、丁寧な治療の続きを室内で行うため。
果たして相手がその背中へ素直に体重を預けたかどうか、いずれにせよ本日泊まる宿の部屋、備え付けの椅子に先輩を座らせると。首都キングストンよりずっと北方に来た土地で、もう夏も近いというのに、うっすらと冷える室内を暖炉で温め、闇の魔素に効く薬草を手早く焚べると、その火が大きくなるのを待つ間。患者の身体を脅かす夜気をカーテンで断ち切り、清潔な布や薬、その他治療に必要なものをテキパキと用意しながら、相手のその刹那的な振る舞いをどうすれば辞めさせられるか、必死に知恵を振り絞り。必要な準備を終えて相手の元に舞い戻れば、その冷たい拳に少しでも、自分の体温を移そうとするかのように、しっとりと柔らかな両手で包み込み。 )
……ご自分が一番わかっていらっしゃるでしょうが。
もしさっきみたいに動けなくなるのが戦場だったら、動けなくなったギデオンさんを庇うのは誰です?
( そもそもギデオンにこんな不治の大怪我をおわせたのは誰だ。立場上厳しい言葉連ねながらも、その表情や声音には、何の役にも立ちやしない自責の念が滲むのが我ながら鬱陶しく。それでも、幾ら周囲が望んだところで、この人は自分の身の安全を省みてはくれないのだ、と。であれば、代わりに誰かが常に付き纏い、本人の代わりに省みてやらねば、あっという間にこの人は潰れてしまう。それをこの時点ではっきりと認識していた訳では無いが、兎に角この人を放っておいてはいけないという危機感だけで相手にすがりつけば。「私はギデオンさんの仕事の邪魔はしません」と、「むしろ、ドクターよりも、誰よりも早く貴方を前線に立たせて差し上げます」──だから、精々私をたっぷり利用してください。そうして、その言葉通りに手早く正確に治療を済ませれば、救急箱を閉じながら。物凄く言い出し辛そうに述べた提案の真意はといえば。前線で戦う冒険者や軍人達の中で、戦場から帰ってきた後も、数少なくない者たちが不眠や動悸、性格が変わってしまったかのような激情に悩まされることがある、といった話を何処かで聞いたことあったのだ。その多くが恐らく高ストレスに晒された精神的な負担からくるもので、画一的な根本治療までは誰も研究していないものの、動物や植物……そして他の人間との触れ合いによって一時的な改善が期待できる可能性がある、という対処療法も。果たして、そんなうろ覚えの知識と、往年の相手に纏わる聞きかじった噂から導き出した提案だったが。要は、それを遠回しに口にするだけで、頬を赤らめる娘に、商売女を利用することを仄めかされて、ギデオンはどのように反応するだろうか。 )
あとは私が贋作を作る間、ちゃんと意識して休息をとってください…………眠れない……んですよね。
それって、もし……その、寝る時にどなたかが近くにいた方が、良い、とかでしたら……
その、お金で……いえ、その。"そういった方"を呼ばれたりしても、軽蔑したりしませんから……
883:
ギデオン・ノース [×]
2025-04-20 11:01:08
(よくできた後輩からのご尤もなご指摘に、大人しくため息をつき、素直に治療に身を委ねる──そこまではまだよかった筈だ。しかし問題はその直後。傷の痛みもすっかり和らぎ、つくづく相手は優秀だと感謝の念を覚えながら薬茶を啜るところへ、ともすればあのヘルハルト・レイケルよりよほど容赦なき一撃を叩き込んでくれたのが、またしてもそのヴィヴィアン・パチオで。
これを受けたギデオンといえば、がふっと派手な勢いで咳込み、そのまま唖然としたまなざしで相手の方を振り返る。“わかってますから”、“だって男の人ですもんね”……そう言いたげに赤面など覗かせているこのおぼこを前にして、どうして迂闊に聞き捨てられよう。ガン! と割りかねぬ勢いで茶の器を机に叩きつけ、片手で頭を抱え込むと、耐えかねたような呻き声を絞り出すような有り様で。)
~~~っ、お前、この状況で俺がそんなことをする大馬鹿野郎に見えるのか……!
(……さてはて。魔導学院卒であるヴィヴィアンは、しっかり目敏く気づくだろうか。そう、この男、「この状況で」と宣うあたり──そういった“治療法”について、身に覚えがないわけではないのだ。
この時代のこの国において、冒険者と娼婦とは、非常に密接な関係だ。ギデオンが少年時代を送っていたゼロ年代のギルドなど、クエスト帰りの冒険者が街で贔屓の娼婦を買うのは今より遥かに常識だったし、それは寧ろ男としての“嗜み”であるのだと、そう大真面目に教わるような一種の文化さえ蔓延していた。……これは浅ましく下劣な欲も大きいが、しかし非常に差し迫った実情が混じっていないこともない。今は魔法医が処方してくれる抑制剤が生まれる前、女を買うのは正しく自己管理と言えた。自分の身に生まれる欲を日頃から上手く発散しておかねば、狩らねばならぬラミアやダーム・ヴェルトゥに魅入られ、愚かな殉職を遂げてしまう冒険者が数多くいた。そしてまた、男が常に強いられる凄惨な現場の後には、自分の心をまともな場所へつなぎ留めておくために、女に実存の救いを見出す──そのいっときだけを求める──必要にも駆られてしまいがちだった。多くの男はその苦しみの自覚自体ができておらず、故に社会もまだ見つけていない。ただ女に手を伸ばせば和らぐということだけを、当事者たちが知っていて……そうして連綿と続いてきたのが、冒険者と娼婦の共依存的な関係というわけだ。
しかし今はもうすっかり、5030年も間近という時代である。あの当時に比べれば、社会も倫理も討伐技術もいくらかは進歩しており、例えばバルガスやカーティスのように、女を買う文化圏に寄りつかない青年の方が増えてきている(マルセルとフェルディナンドが先輩風を吹かすつもりでバルガスを花街に誘い、まっとうにドン引きされて寧ろ威厳が吹き飛んだ一幕、あれは三年ほど前だったろうか)。それに応じて、このギデオン・ノースもまた、昔の時代に生まれ育った古い人間でありながら、変わりゆく社会常識を多少取り入れてきたつもりだった。──だからこそ、居た堪れないのだ。
異性の、それもまだうら若い後輩にその辺りを気遣われるのは、脳天に巨人の一撃を喰らうほうがまだマシというものだ。加えて言えば、相手は先代マスター代理・ギルバートの娘であるし、今はこうして庶民的に冒険者などしているが、家系図を辿ればガリニア貴族の血を引くらしい、社会の上澄みのお嬢様である。何故そんな娘っ子が、“ギデオンのような年代の男なら、そういう必要もあるだろう”などと。──それどころかこの口ぶり、俺が昔はそういう店を使っていたと知っていて……いやまあ、こうして汗臭い男社会でしっかりやって来ている以上、そりゃどこかでは聞き知るだろうが……。ここまでやたら堪えているのは、相手が地味に「軽蔑しない」などと口走ったからでもあった。それは裏を返せばつまり、本来のヴィヴィアンは、同年代のバルガスと同じ、今の時代の倫理感覚を宿している娘ということ。──あのろくでなしの後輩コンビ同様に、今この瞬間ギデオンの威厳もまた、自覚なき乙女によって粉々に打ち砕かれ、満身創痍というわけで。)
……誤解されるような状況は、こっちもたまったもんじゃない。だいたいな、ただでさえ上官の俺が、おまえをひとりで屋外作業にあたらせるわけがないだろう。
(疲れた顔をようやく上げると、立ち上がりながら器を手に取り、部屋の水場で軽く洗う。そうして相手に返しながら、有無を言わせぬその言い草で相手の瞳をじっと見るのは、俺は俺なりにちゃんと嬢歩する──だから絶対譲らないぞと、こちらもまなざしで物語るためだ。贋作の錬成に魔法火を使う以上、相手は宿の室内で続きをするわけにいかないし、かといって間もなく夜が来るこの時間に、若い女をたったひとりで外にいさせるわけがない。ならせめて、傍で仮眠を取りながら用心棒を兼ねるくらいはさせてもらおう。これは決定事項とばかりに、背嚢から毛布を取り出し、外に戻るぞという身振りを示し。……相手に何を言われようと、その構えを解かないのは、相手がこちらを案じるように、こちらも相手を案じるからだと、今一度真剣に見つめて。)
生意気を言う前に、自分のことも心配しろ。
お前はもうこっちを治して、自分の仕事を果たしてる。なら戦士の俺にも、それなりの……最低限の働きをさせてくれ。
──ふたりきりのパーティーだろう。
884:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-04-22 10:13:51
っ、……ご、ごめんなさい……?
( 貴重な白磁が木製のテーブルを打つ剣呑な音。そして、目の前の男が珍しく必死に言い募る剣幕に、どうやら間違った提案をしたらしい、ということは認識しつつも──"この状況"って、状況によるものなの? と。むせるギデオンの弁明を、実質、"今では無いが、ことと次第によっては有り得る" といった宣言として受け取れば。年上男の涙ぐましい価値観のアップデートも虚しく、あまりの勢いに小さくのけ反り、目を白黒させる娘の中で、哀れベテラン剣士の前時代的なイメージがここで刷新されることはなく、これから数ヶ月後の秋の夜、犬も食わない一騒動を起こすのは別のお話。現時点ではそんな幻滅する可能性さえ孕みこそすれ、プラスの評価になることではなかろうに、自分でも気が付かないうちに完璧では無い、不安定な危うさを抱える相手から目を離せなくなっていったのはこの頃からだったのかもしれない。 )
…………そこまで仰るなら。
( そうして、「本当に、どこもお辛くないんですね?」と、相手の真剣な眼差しに今度はこちらが根負けすれば。その渋々といった表情からは──屋外って言ったってすぐそこの庭先なのに、といった不満がありありと読み取れるあたり、結局お互い自分の大切に仕方を知らない似た者同士なのだ。
重い素材の詰まった木箱を、強情な相手と取り合いながら庭に戻り、試作も含めて様々な調合を試すこと複数回。やっと納得のいった調合に、コトコトと良い音を立て始めた鍋を確認し、少し離れてギデオンの隣にそっと静かに腰掛ければ。普段の就寝時間を大幅に廻った時間帯、オレンジ色に染まった顔を、揃えた両手でお行儀良く隠すと、これまた無音でくぁりと小さく欠伸して。 )
……、
885:
ギデオン・ノース [×]
2025-04-27 23:32:52
(宿の外壁に取り付けられた木の長椅子に横たわり、魔剣の柄に手をかけたまま、ひとまず目を閉じておくことしばらく。……だがしかし、このところ強張っていた右肩の傷が癒えたからか。或いは相手の立ち働く音に、どこか菱木な懐かしさのある安心感など覚えたせいか。いつしかかすかに気の抜けた顔で素直にとろとろ眠っていたのは、思えばこの娘の前では初めてだったかもしれない。
しかしそれでも、耳馴染みの良い作業音がふとやんだのに気が付けば、薄色の睫毛を震わせながら目を開けて。最初に横の焚火、それから他方へ顔を巡らせ、一休みする相手を見つける。──王都から長旅の後、短い休憩を挟んだだけで小道具作りを任せていたから、あのヴィヴィアンも流石に疲れてきたのだろう。そんなことを考えながらも、数秒ほどただぼんやりとその様子を眺めているのに、果たして気づかれたかどうか。ともかく、目頭を軽く揉みながらようやくのっそり起き上がれば、低く掠れた寝起きの声で話しかけ。)
悪い……おかげで助かった。
……そっちも、一段落ついたのか。
(辺りの闇に、パチパチと火の粉が爆ぜる──それ以外はごく静かな宵。相手の錬成する魔法液がゆっくり煮えるのを待つ間、相手の報告に頷きながら、「寒くはないか、」「小腹は、」などと、ぼんやりしたまなざしのまま、とりとめのない言葉をかける。いつもの己らしくもなく、起き抜けのぼんやりとした感覚がまだ抜けきってくれないせいだ。まあでも、相手にはそう隠さずともいいだろうか……などと考えながら話していると、不意に宿の外から歓声。そちらに顔を向けてみると、どうやら賑やかに聞こえてくるのは、こんな夜更けだというのに、村の向こうからやって来た祭囃子の一隊らしい。)
……牛追い祭りの前夜祭だな。
南部の本格的なやつほどじゃない、小規模なものらしいが……
こっちのは……美味い牛飯が……出ると聞く……
886:
ギデオン・ノース [×]
2025-04-27 23:37:59
(宿の外壁に取り付けられた木の長椅子に横たわり、魔剣の柄に手をかけたまま、ひとまず目を閉じておくことしばらく。……だがしかし、このところ強張っていた右肩の傷が癒えたからか。或いは相手の立ち働く音に、どこか不思議な懐かしさのある安心感など覚えたせいか。いつしかかすかに気の抜けた顔で素直にとろとろ眠っていたのは、思えばこの娘の前では初めてだったかもしれない。
しかしそれでも、耳馴染みの良い作業音がふとやんだのに気が付けば、薄色の睫毛を震わせながら目を開けて。最初に横の焚火、それから他方へ顔を巡らせ、一休みする相手を見つける。──王都からの長旅の後、短い休憩を挟んだだけで小道具作りを任せていたから、あのヴィヴィアンも流石に疲れてきたのだろう。そんなことを考えながらも、数秒ほどただぼんやりとその様子を眺めているのに、果たして気づかれたかどうか。ともかく、目頭を軽く揉みながらようやくのっそり起き上がれば、低く掠れた寝起きの声で話しかけ。)
悪い……おかげで助かった。
……そっちも、一段落ついたのか。
(辺りの闇に、パチパチと火の粉が爆ぜる──それ以外はごく静かな宵。相手の錬成する魔法液がゆっくり煮えるのを待つ間、相手の報告に頷きながら、「寒くはないか、」「小腹は、」などと、ぼんやりしたまなざしのまま、とりとめのない言葉をかける。いつもの己らしくもなく、起き抜けのぼんやりとした感覚がまだ抜けきってくれないせいだ。まあでも、相手にはそう隠さずともいいだろうか……などと考えながら話していると、不意に宿の外から歓声。そちらに顔を向けてみると、どうやら賑やかに聞こえてくるのは、こんな夜更けだというのに、村の向こうからやって来た祭囃子の一隊らしい。)
……牛追い祭りの前夜祭だな。
南部の本格的なやつほどじゃない、小規模なものらしいが……
こっちのは……美味い牛飯が……出ると聞く……
887:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-01 00:20:12
……牛追い祭り?
( ギデオンがその単語を発した途端、それまで淡々と順調な進捗報告をしていた後輩の瞳へ、あくまで真面目に、けれど持ち前の好奇心が隠せていない煌めきがあどけなく滲む。トランフォードではキングストンの建国祭、南部オーツバレーの牛追い祭りとまで言われる程の規模を誇る祭事ではあるが。物心ついて間もなく禁欲的な学院に入学した娘にとって、それは本の中でしか触れたことの無い知識であり、したがってその憧憬は初めて参加する子供たちらと何ら変わらない純朴なそれで。毎年怪我人が続出するにも関わらず、陽気な市民が熱狂するお祭り。その一番定番の催しが終わったあとも、人々は艶やかに装い、街の仲間たちと一晩楽しく踊りあかすという──もしかして、ギデオンさんは現地で見た事があるのだろうか? "牛飯"ってどんな味なんだろう? もし相手から見たいのかと問われれば、明日以降の仕事の責任の重さを承知しているが故に、非常に強く固辞するだろうが。お行儀よくベンチに座ったまま、まろい頬をじゅわりと瑞々しく紅潮させ、賑やかな行列に向けるキラキラとした眼差しは無自覚だったのだろう。 )
わぁ……いいなぁ……
888:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-03 09:16:55
(相手の漏らした呟き声があまりにあどけなく聞こえ、思わずふっと笑みながら薄青い目を投げかける。シルクタウンの帰りの馬車でも思ったが、ヴィヴィアンのこういうところは見ていて非常に好ましい。歳を重ねれば重ねるほど無垢から程遠くなるだけに、若い人間の見せるそれにはつい癒しなど覚えるのだろう。……だがしかし、焚火に明るく照らし出された娘の顔をいざ眺めると、そんな愉快な面差しは、ふと静かに消え失せた。ヒーラ娘のまなざしは、どこまでも混じり気のない煌めきに満ちていて……それが何故か、ごく穏やかに、いたましいと感じたからだ。
──北の辺境で生まれ育った、浮浪児上がりのギデオン・ノースと、華の王都で生まれ育った、名家令嬢のヴィヴィアン・パチオ。たまたま同じギルドで働いている自分たちは、思えば年齢だけでなく、実は身分も随分違う。だがそれでも、国内の祭りをあちこち覗く楽しみは、若い時分に貧乏だった自分の方がたっぷり馴染みきっていて……反対に富める彼女には、ああして遠く眺めるような憧れの世界らしい。厳しい学院をとうに出て独り立ちもしているのだから、実際に行こうと思えば、自由気ままに行けるだろうに。或いはやはり、多忙な仕事の合間を縫って女の身で動くには、何かと不自由するのだろうか。……それとも、“そこに行ってはいけない”という大人に言いつけられた教えを、今もどこかで無意識に、従順に守るせいだろうか。
そんな風に考えたから、最初のそれはただ純粋に、己の後輩を可愛がってやりたいという、下心なしのものだったはずだ。「ヴィヴィアン、」と声をかけ、相手がこちらを見たならば、先に予備動作で予告してから、小さなものをぽいっと放る。──腰袋から取り出したそれは、碑文探しに旅立つ前にギルドの事務から御裾分けされた、包み紙入りの薬飴だ。何でも疲労回復の効能があるとかで、このところやつれていたギデオンを気遣ってのものらしい。とにかく、自分の分も口に投げ入れ、しばらく甘味を味わっていたが。やがてコロ……と転がしていた飴をとどめて、軽く噛み砕いてしまうと、皮革の水筒に手を伸ばしながら、何てことのないように誘って。)
この辺りの郷土料理は、俺も恋しかったところだ。タブレットを回収出来たら……ちょうどいい、付き合ってくれ。
祭はしばらく続くから、終わりがけの手頃な屋台にありつくくらいはできるだろう。
889:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-11 16:28:39
──!
ありがとう、ございます?
( 自分が舐めるついでの気遣いか。ヴィヴィアンにとっては、唐突に投げよこされたように感じる甘味を軽く両手で受け止めると、相手に習って口内に含む。そうして、コロコロと人前で白い頬を膨らませることすら恥ずかしかった時代があることなど、ギデオンには信じられるだろうか。カレトヴルッフに飛び込んで3年間、自分ではずっと世間慣れしたつもりで、何故これまで憧れの祭典へ赴かなかったのかと問われれば。結局、自分にもその権利があると、その発想さえなかったと答えざるを得ないのだから仕方がない。そうして、薬飴の優しい甘さと薬草の香りを楽しむこと暫く、この時はまだ子供扱いに過ぎなかったギデオンの提案に相応しく、素直に目元を見開くと。「わあっ、本当!? いいんですか?」と、片方膨らんだ頬を無邪気染め、満面の笑みを綻ばせれば。 )
それじゃあ益々早く見つけなくちゃ!
( 「ギデオンさん大好き!!」そう元気いっぱい立ち上がったこの頃は、そう遠くない未来、こんな些細な飴では決して満足出来ないほど、自分が相手から目を離せなくなっていくことなど微塵も予想だにしていなかった。
そんなやり取りから、かれこれもう丸一日近くなる。乗合馬車の路線などとうになく、対魔獣用に特別に装備を施した荷台は、普通のそれに比べて倍以上の速さが出る代わりに、乗り心地はお世辞にも良いと言えるものではなく。ビビはと言えば、最初こそピンと元気よく背筋を伸ばし、向かいのギデオンと今回の作戦について真剣な表情で話し合っていたのだが。カダウェル山脈が次第に近づいてくるにつれ、いよいよ本格的になってきた悪路に、紙より白くなった唇を緩慢な動きで抑えると。相棒の許可を得て外の空気を吸おうと、小さく幌を開けた瞬間だった。夕焼けの空にかかる壮大なアーチ、巨人の肋骨に例えられる大コスタ。その知識としてだけは持ち合わせていた、かつて始まりの冒険者たちが踏破した大自然に息を飲むと──ガタンッ、と、一際大きな振動に、為す術もなくころんと後ろにひっくり返り。 )
──……すご、い! これが…………ギデオンさんも見、ひゃっ!?
890:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-18 00:54:56
ッ、おい、気を付け──……
(外から差す陽に照り映える、あどけない娘の横顔。それを見てくれこそ気怠げにじっと眺めていたものの、突然の揺れに目を大きく見開いたのは、ギデオンもまた同じ。──それでも、籠手付きの手を咄嗟に伸ばして娘の頭をどうにか支え。そのまま床から抱え起こす……かと思いきや、その両頬を包み込むようにして後ろから上向かせ、睨むようにして覗き込む。こちらの座席の鋭い角に頭を打ちつけでもしていたら、いったいどうするつもりだったのか。そんな、思えばこの頃から発動していた過保護気味の心配から、剣呑な声を落としたものの。その気配をふと掻き消して馬車の前方を振り向いたのは、馬車が急停止すると同時に、声が聞こえてきたからだ。「ああっ、まずい──止まれ、止まれ!」と。)
(──結論から言うと、幌馬車での旅路はそこで一旦中止となった。先ほど馬車が大揺れしたのは、巨木の根を回り切れずに勢いよく乗り越えたからで、このとき、巨木に絡んでいた寄生植物の太い蔓が、車体の下の複雑な車輪に巻きついてしまったらしい。そのせいで、頑丈なはずの車輪の一部が大きく歪んでしまったとか。帰路での事故を避けるためにも、蔓を慎重に切り離すほか、車輪の部品を新しく替える必要があるそうだ。
それならそれで構わないと、幌馬車の御者と護衛は、この近場の集落にしばらく置いていくことにした。どのみちこの一帯がエジパンス族の住処のはずだし、馬車の入れない鬱蒼とした森林には、冒険者である自分たちだけで分け入っていく必要がある。かれらと一度別れると、ヴィヴィアンとふたりきりでもう一度森に戻った。日が落ちるまであとわずか……野営を構えるその前に、この辺りの様子のことは少しでも知っておきたい。)
(──がさり、がさりと、蜜に絡んだ下生えを踏み分けて、緑の斜面を登っていく。戦士装束に身を包んで遠い山林に繰り出すのは、実に二週間ぶりだった。たかが半月、されど半月……特にこの数日を思えば、自分自身が現地に出て自由自在に行動できる、これの何と喜ばしいこと。腰に下げた魔剣の重み、そして肺にたっぷり吸い込む森の大気は、こんなにも心地良くしっくりくるものだったろうか。
ベテラン戦士のあるべき姿として、大コスタに近い森を慎重に見渡しつつも、普段は澄ました薄青い目は、どこか生き生きと、少年時代に初めて遠征に出た時のように揺れ動き。時折相手を振り返って声をかけるその響きにも、どこか寛いでいるような、のびのびした気配が乗って。)
……、気になる薬草を見つけたら、好きに採集するといい。集落の許可はとれてるし……お前も土産が欲しいだろう。
891:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-22 22:01:01
…………!
( 獣道すらない原生林を、数歩先に行くギデオンに促され、初めてその広い背中と横顔に、自分が見蕩れていた事に気が付く。いくら歴戦の勇士と云えど、必要性がなければ危険な前線より安全地帯を好むのが、生き物としての人間の性ではなかろうか。それが目の前の男ときたら、人の手が及ばぬ魔獣共のテリトリーに怯むどころか、ごく自然にギルドの会議室にいた時より、よほど強い生気に満ち溢れる様子を目の当たりにして──これが、この人が、冒険者ギデオン・ノースなのだ、と。思わず瞳を奪われたのは、この数ヶ月"ハマって"いる戯れとは関係の無い素直な畏敬だ。そんな深い緑を取り込んだ薄青を此方に向けられて、一瞬驚いたように目を見開き、無言で唇を震わせれば。 )
……いいえ。私も──いえ、目の前の仕事に集中させてください。
( "私も、貴方のようになりたい"と、唐非常に突な、そして口にするのも烏滸がましい目標を飲み込み、改めてぐっと引き締め直すと。もしその様子を不思議そうに見つめられれば、「お土産でしたら、帰った後ギデオンさんがしっかり休んでくだされば十分です」と、小首を傾げる仕草こそ可愛らしくも強かに、当初の要望を強くねじ込むことも忘れずに。
そうして当初の計画通り、エジンパス族の森を何処か目的地でもあるかのように歩き回ること暫く。ビビがその違和感に気がついたのは、森の精霊たちがにわかにざわめき始めた時だった。そもそも植物性の精霊は概して警戒心が強いにも関わらず、この森では侵入者であるヴィヴィアンらの足音に、興味津々で近づいては時たま木陰からぴょこりと顔を出す者まで。つまり、普段彼らを脅かす木こりが入って来れない人ならざるものの領域で、その鈴を転がすような笑い声がピタリと止んだのを感じ取れば。果たして、尊敬する相棒と目を合わせたのはどちらからだったか、 )
──……ギデオンさん。
892:
ギデオン・ノース [×]
2025-05-26 00:44:34
──……“この辺りみたいだな”。
(魔力の豊富な相手と違い、ギデオンの目に精霊は視えない。それでも森の気配が変わり、かれらとは違う何者かに囲まれだしたと気がつけば、振り返った薄青い目にいっそ愉快な色すら浮かべ、悠然と一芝居を。盗人亜人エジパンス族は、人間世界に本能的に興味を持つその性質上、人語を解することができる。当然、こちらに忍び寄っては、その会話に聞き耳を立てて注意深く窺うだろう。それを逆手に取ってしまえば、嘘を信じ込ませることだって、こちらにとって容易いわけで。
それからの小一時間、ヴィヴィアンと共に野営の支度を進めながら、無防備な調査隊として、如何にもそれらしい会話を垂れ流しておくことしばらく。ふと懐から取り出した、精巧な“処女”のエメラルド碑文。それを魔法で輝かせれば、やはり周囲に潜む気配に、明らかな動揺が波紋のように広がった。──やはり、当たりだ。心の内では拳を固く握り込みつつ、上辺は素知らぬふりを。「朝になったらこいつの続きを捜し出そう」と……まあこれは、こちら側の本懐ではあるのだが、とにかくそう言い交わしてしまえば、あとはいよいよ寝入る様子を装うだけだ。
今宵のうちに、追跡魔法をかけた碑文をわざとかれらの手に渡らせる。その後を追えば棲みかがわかり、盗み出された本物をこの手にようやく取り戻せる。ギデオンのその計画は、本来ならば間違いなくそのように行くはずだった。しかし、そこには誤算がふたつ。……梢の上の雲間から、神秘的な月明かりが煌々と降り注いだこと。そしてそれに照らされたのが、眠るふりをするヒーラー娘、カレトヴルッフの誇るマドンナ──ヴィヴィアン・パチオだったことで。)
(──こちらを囲む亜人の気配が、何やら……妙なものに変わった? ギデオンがそう察知してそっと薄目を開けた瞬間、ざっと顔から血の気が引いた。月光の差す原生林にて、いよいよ姿を現しはじめた、山羊脚の亜人族の群れ。彼らは何故か、すぐそこに置いてある碑文のレプリカに目もくれず、皆が惚けたような──どこか見覚えのある──顔で、ヴィヴィアンの横たわる方へ、ふらふら吸い寄せられていくのだ。
作戦をかなぐり捨てて魔剣を掴み身を起こしたのと、臆病なエジパンス族がびくっとこちらを向くのが同時。何やらみょうちきりんなポーズで固まったものまでいたが、かれらはすぐに我に返ると、途端に激しくいなないてそれぞれ行動に出始めた。──弓矢をつがえてギデオンに放つ者、ヴィヴィアンの杖を盗んで懐に仕舞い込む者、森の精霊に何やら命じて木の蔦を奮い起こさせる者。どういうつもりか知らないが、こちらの読みが大きく外れ、攻撃されていることはたしかだ。斜面の岩を足場にして矢の雨を除けきりながら、杖を盗んだ一頭に雷魔法を叩き込み、肉薄して奪い返したその大切な仕事道具をヴィヴィアンの方へと放る。話し合う暇はない、今は防戦に出なければ。)
──ッ、受け取れ!
893:
ヴィヴィアン・パチオ [×]
2025-05-28 13:00:09
──……はい、
( 亜人族達の気配を察知して、思わず固く表情を強ばらせたビビに対するギデオンの返答は、ごくごく自然な違和感を感じさせないそれだった。首都キングストンの冒険者ギルドで、伊達にその上層部に名前を連ねてはいないということだろう。そのまま自然に会話をしているようで、ギデオンの質問や指示にビビが短い相槌を打つといったやり取りを何往復か──これは、大変な人を目標に持ってしまった。せめて足手まといだけにはならないようにせねば、とへこたれそうになる頭を上げ、気を引き締め直したヴィヴィアンに。しかし、その名誉挽回の機会は思ったよりも早めに訪れたのだった。 )
ありがとうございますッ!!
( 汚い嘶きに飛び起きて、ギデオンがとり戻してくれた杖を受け取れば、「触らないでっ!」と、此方へと躙り寄って来る一頭へ先日ジェフリーにもお見舞した一撃を。しかし、瀕死の悪党を沈めた一撃も、山の亜人には大して効いていないようで、叩かれた頭を掻きながら立ち上がる亜人にギデオンの元へと飛び退くと、その途中で──……やった! と。視線だけで確認したのは、後ろに飛び退るその瞬間、迂闊を装って踵で蹴飛ばした革鞄、そしてその弾みに衆目の下に晒された処女タブラ・スマラグディナの贋作で。そうして、無防備にも世紀の秘宝を慌てて拾いに行こうとした娘を止めたのは、頼りになる相棒か、手癖の悪いエジパンス族だっただろうか。 必死──なのは、手強いエジパンス族を目の前にして演技では無い。尚も色呆けした表情で此方へ踊りかかってくる亜人に対し、己の杖を構え直せば。間を置かせずに詠唱するのは、前衛であるベテラン剣士に対するバフ、腕力、体力に対する増強魔法。それも相手に合わせてカスタムした特別仕様で。転がった"餌"を一頭が懐に入れたのを確認すると、背後の相棒と視線をかわし頷いて。 )
ギデオンさん、援護します!!
894:
ギデオン・ノース [×]
2025-06-02 07:54:28
──ああ、頼んだ!
(魔剣の柄を今一度強く握り直せば、なみなみと湧き上がる底知れない生命力。ここまでしっくり来るバフは、その道およそ云十年の熟練レベルであるはずで、相手と合わせた薄青い目を、面白がるようにふっと狭める。──ワーウルフ狩り、ファーヴニル狩り、アーヴァンク狩りに呪傷の治療。相手の支援を受ける機会は、これまでたしかに幾度かあった。しかし決して多くないし、己と彼女が組みはじめてから、まだ二ヵ月も経っていない。それだというのにこの娘は、既にギデオンの身体を読みきり、的確な支援魔法を最高効率で寄越してくれる。前衛の戦士にとって、それがどれほど快いことか。
──襲い来る蔦を足場に天高く躍り上がり、月を背に大きく反転、そこから一直線に落下。右手の魔剣の切っ先を稲妻のように閃かせ、力強く着地すれば、こちらを狙って蠢いていたこの森の巨大な蔓が、数秒の遅れを持ってばらりばらりと裂けていく。眺めていたエジパンス族たちに「!?」と走る動揺の波。かれらが皆一様に蹄を一歩下がらせた、その中央で立ち上がるこちらのほうは、まだ戦るかというように軽く不敵な笑みを浮かべて。ここでようやくエジパンス族も、稀代の天才ヒーラーの支援を受けた魔剣使いが、たった単騎でどれほどの脅威になるか、呑み込み始めてくれたようだ。リーダーらしき一頭が大きな震え声で嘶き、皆森の下闇に飛び込んでの一斉退却が始まった。このまま一度逃がしてやってもこちらは問題ないのだが、しかし一応、手持ちの碑文を盗まれたというふりは貫かねばならない。「ヴィヴィアン!」と相手の名を呼び、最低限の荷を回収して共に同じく闇へ繰り出す。
──駆けるふたりを照らし出す、木々の根に茂る夜光草、時折差し込む月明かり。先を行くエジパンス族は小癪なルートを選ぼうとするが、冒険者であるギデオンたちは、そもそも身体能力がそこらの常人と桁違いだ。時折待ち受ける障害ですら、己の魔剣か彼女の杖が容易く無力化してしまうから、こちらを振り向くエジパンス族がぎょっと二度見をするのが見える。それを受けてふっと笑うと、真横の娘にちらりと目を向け、息も乱れぬひと声を漏らして。)
ヴィヴィアン──……楽しいな。
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