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白む空に燻る紫煙 ---〆/5147


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自分のトピックを作る
5095: アルバート・エバンズ [×]
2025-08-24 01:24:49

 





( ベッドに身体を横たえると、重たい疲労感に襲われる。まともに栄養を摂っていないのに、体力ばかりが削られ薬も飲めない。自分が“負の連鎖”に陥っているのは分かっていたが其処から這い上がる術までは見出せず、相手が寝室に来るよりも前に意識を手放していて。---夢の中で、幾度と繰り返したあの日のあの場所に立っていた。園児を抱きしめた妹の姿も、助けを乞う教諭たちからの視線も、控えている刑事の姿も、いつも夢で見るものと同じ。けれど、何故か周囲はスローモーションのように見えていて、自分が真っ直ぐ歩みを進めているのはライフルを持った犯人の元だった。報道で幾度と目にした写真ではあるものの、これほど鮮明に犯人の顔が思い出される事は、夢の中で妹ではなく犯人に視線が向いている事はこれまで無かったと言えよう。当然夢の中ではそんな事に気付くはずもなかったが、至近距離で向き合った犯人に強い殺意が湧き起こったのは確かだった。犯人が手にしたライフルを奪い取り、今この場で、この男を撃てば。そんな事を頭の片隅で考えたものの、まるでタイムリミットだとばかりに銃声が響き夢の世界は崩れていく。一気に意識を引き戻され、呼吸が浅くなるのと同時に強い痛みが鳩尾に走った。痛みが増大しないようにゆっくりと呼吸をしたいのだが、一度喉に張り付いた呼吸はペースを乱し徐々にに浅く苦しげなものに変わっていき。 )






 

5096: ベル・ミラー [×]
2025-08-24 12:16:59





( 安定剤に続いて睡眠薬や鎮痛剤も粉末状にし、終わった頃には僅かあった眠気が覚めてしまっていた。そうなると意識は矢張り相手の不調やこの先の事に向き思考を占領する。ソファに深く腰掛け暗闇に慣れた瞳をぼんやりと点いてもいないテレビに向けながら過ごした時間は果たして数十分かそれ以上か。流石に眠らなければと寝室に行き眠る相手を起こさない様に慎重に隣に潜り込むのだが、直ぐに眠れる訳も無く目だけは閉じるものの意識は今に残ったまま。___隣で眠っていた筈の相手が身動ぎと共に苦しげな息を吐き出した。「…エバンズさん、」と声を掛けてからベッドサイドの間接照明を点ける。身体を丸め蹲る様な体勢で、浅く荒い呼吸を繰り返すその姿を見るのは当たり前ながら慣れる事は無く胸が締め付けられるのだ。「待ってて、」一度寝室を出てキッチンで用意するのはグラスに3分の1程注いだミネラルウォーターの中に粉末状の安定剤と鎮痛剤を入れたそれ。飲み切れる保証は無い。「__錠剤じゃない。水に溶かしてあるから…飲んで?」片手で背を擦りながら、グラスを口元に近付けつつ顔を覗き込んで )






5097: アルバート・エバンズ [×]
2025-08-29 07:48:22

 




( グラスが差し出されると、それを受け取り少量を口に含む。酷い苦味が口に広がったものの、錠剤を飲めていない以上少しでも飲まなければと飲み込んで。苦味の余韻と共に、反射的に吐き気を感じたもののややしてそれは落ち着く。結局時間を掛けて数口は飲んだものの、半分以上残った水はそれ以上飲み進められず、同時に身体の痛みが強まった事で相手にグラスを戻して。ベッドの上に蹲るようにして背中を丸め痛みに耐えていたものの、身体を横たえる事さえままならない程に痛みが強まっていて、思わず縋るように相手に手を伸ばす。深く息をする事は痛みに繋がる為、呼吸は極浅いもの。首筋や背中には汗が滲む。「……っ、…痛い、…」どれ程の時間を耐えれば良いのだろうかという不安が渦巻く中、相手の片方の手を握り締め懸命に痛みをやり過ごす。少しずつ、それでも確実に、あの事件捜査以降悪い方へと引っ張られ足場が崩れて行く不安定さを自分自身が痛感していた。 )







 

5098: ベル・ミラー [×]
2025-08-30 13:13:15





( 懸命に嚥下する最中は背中を擦るも、相手の胃に落ちた水の量は極僅か。直ぐにグラスを返されそれをベッド脇のサイドテーブルに置き今度は掛け布団を掛けようとするのだが。ふいに縋る様に伸ばされた手が己の手を握り締めれば痛みの中の加減を知らぬ強さに思わず目を見開き。骨張った指先は酸素が確りと巡っていないせいか冷たく僅か震えている。“痛い”と、そう訴える相手の声が余りにも苦痛を纏っていて息を飲んだ。痛くない筈がない、苦しくない筈がない。まともな量の鎮痛剤を飲めない以上相手の身体を襲う痛みはそんな簡単に消える事は無いだろう、夜中いっぱい耐え続け意識を失えたら本望だとすら思うだろうか。「…っ、」奥歯を噛み締め、汗の滲む熱い背中を擦る事しか出来ない事の、一秒でも早く痛みが消える事を願うだけのなんて無力な事か。共に分け合える痛みなら、苦しみなら、何の迷いも無く貰い受けるのに。__視界が滲み、緑の虹彩から溢れた涙が己の手を握り締める相手の手の甲に落ちた。震える息を抑え付け、相手の手を僅か持ち上げ己の額に押し付ける。「__何で…エバンズさん、悪い事何もしてないのにねっ…、」何時だって相手ばかりが苦しむ。楽になる事を許さないとばかりに降り注ぐ絶望の数々を受けるのは本来相手では無いのに )






5099: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-02 16:27:04

 





( 相手の涙が手の甲を濡らした。自分の痛みをまるで自分の事のように悲しみ怒ってくれる相手は、行き場のない自分の感情を代弁してくれているかのようだ。痛みに耐え、やがて意識を失うようにして眠りに落ちる。けれどその状態が直ぐに解消される事はなく、非常勤で休みを十分確保しているにも関わらず幾つもの不調に日に日に追い詰められていく事となり。---エバンズの様子が普段と違う事には、数日前までよりも多くの署員が違和感を感じ始めていた。しかし特別捜査に追われているという訳でもなく、寧ろ休みを取っているタイミングだけにアダムス医師にまた無理を言って点滴を打って貰う訳にはいかない。薬を上手く飲めない事も伝えてはいなかった。自己都合で多くの休みを貰っているのだから、せめて出勤している時は自分の仕事をこなさなければという思いに駆られていて。夢の中だけで現れていた幻影が、徐々に現実世界にも侵食し始めている事には、自分自身でさえ未だ気付いていなかった。 )






 

5100: ベル・ミラー [×]
2025-09-02 22:06:13





( ___薬を飲み込む事が出来ず嘔吐く姿を、夜中に悪夢に魘され涙を流す姿を、果たして何度見ただろう。日に日に痩せ線の細くなっていく身体と比例する様に濃さを増す隈は、碧眼に宿る命の灯りすらも消してしまいそうで膨れ上がる恐怖心は僅かも消える事は無かった。___そんな現状が好転することも無いままに数日が経った今日。器物破損と傷害の疑いで事情聴取を受け終えた若い青年が、女性捜査官に連れられて署内の廊下を歩いていた。真一文字に口を結んだ不機嫌そうな男の表情は先の聴取も何もかもが納得がいかないと物語っており、床を踏み付ける足音も何処か荒々しい。そんな状態で周りに視線を向ける事も無くただ真っ直ぐ前を見詰めたまま、丁度刑事課フロアを出た直後の相手の目の前を通り過ぎようとして )






5101: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-02 22:46:15

 





( フロアを出るタイミングで視界が揺らぎ眩暈を起こした、と思った。バランスを崩す事こそ無かったものの、一瞬眩んだ視界が元に戻った時最初に目に入った廊下を歩く男の顔。捜査官に連れられて歩く男は、黒い服を着ていた。たったそれだけ。背格好は近しいものがあったかもしれないが、特別顔が似ている訳でもない。_____けれど、数日前に見たあの夢が思い出された。あいつを殺さなければ、と思ったあの時の焦燥が湧き上がる。一度瞬きをすると、目の前を通過して行った不機嫌そうな男の顔が犯人のものに変わった。十数年も前の事件の犯人が、其れも自分たちの目の前で命を絶ったあの男が生きている筈がない。正常な思考であればそう考えた筈だが、立ち止まる事は最早出来なかった。何を見ているのかと気怠げに向けられた視線、其れを、此方を煽るような嘲笑と錯覚したのと同時に、男の襟首を背後から掴み殴り掛かっていた。ただ、胸の内が焼き切れそうな程の怒りと、憎しみと、やり場のない感情に支配されていた。大きな音と共に男が地面に引き倒され、悲鳴が上がる。「_____っ、殺してやる!!!お前の所為でセシリアは死んだ!!」何が起きたのか理解出来ていない男に怒声を浴びせると半ば馬乗りになるようにして掴み掛かっていて。 )







 

5102: ベル・ミラー [×]
2025-09-03 11:14:19





( 男と捜査官が相手の前を通り過ぎ__また今日と言う日常が始まり出すと思っていた、のだが。何の躊躇も無い力で殴られた男が床に崩れる音と共に彼を連れていた捜査官の悲鳴と、廊下を歩いていた他の捜査官や事務員の悲鳴が重なった。それに被せる様にして誰よりも大きな相手の怒声が響き渡り一瞬にして場は混乱と混沌を生み出した。相手に殴られた男は床に尻餅をついたまま自分の上に馬乗りになる相手を驚愕と恐怖の入り交じった表情で見詰めたまま、わなわなと動かす唇からは結局何か声を発する事が出来ず。__「ッ、!」刑事課フロアから飛び出した己とスミス捜査官はほぼ同時だった。他数名の署員達が扉から顔を覗かせ騒めく中、男に馬乗りになる相手をスミス捜査官が脇に両腕を入れる形で背後から強引に引き剥がし、状況を把握出来ず床に座り込む男を別の捜査官が無理矢理立たせ、相手と距離を取らせる為に足早にエレベーターの方面へと引っ張って行き。「…エバンズさん!…っ、警部補!!」未だ強い強い怒りを瞳に宿し完全に我を忘れている相手の名を、役職を、焦燥の滲む表情と声色で叫ぶ様に呼ぶ。__相手が男に殴り掛かった直後、確かに聞こえた“セシリア”と言う名前。それが胸の奥に残り続け )






5103: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-03 22:02:10

 





( 背後から羽交締めにされるようにして男から引き離されたのだが、胸の内に生まれた激しい怒りは直ぐに落ち着く事はなかった。「______っ、離せ!あいつの所為でセシリアは…!」あの男だけは自分の手で制裁を下してやらないと気が済まないのだと、自分を抑えているスミス捜査官の腕を振り解こうとする。ただ怒りと憎しみの衝動に突き動かされ、周りなど見えていなかった。しかしまた不安定に視界が揺らいだ事で動きが緩み、再びエレベーターの方に居る男と視線が重なった時、犯人とは全く似ても似つかないその顔に思わず言葉を失い動きも止まる。確かに、今の今まであの事件の犯人が目の前に居て、此方を嘲笑したではないか。けれど目の前に広がる光景は、ほんの数十秒前まで自分が見ていた物とは全く違っていた。口の端が切れ怯えたような表情を向ける男と、不安そうに此方の様子を伺う幾つもの視線。理解が追い付かず、一体何が起こっているのかと半ば放心状態で廊下に座り込んだままで居たものの碌な栄養を摂っていない中で暴れた事による反動だろう。突然意識が遠退くのを感じ、誰かの別の悲鳴を聞いたのを最後に意識は途絶えていて。 )






 

5104: ベル・ミラー [×]
2025-09-03 22:43:28





( ___当たり前ながら呼ばれた救急車は意識を失った相手を乗せレイクウッドの総合病院へと向かって行った。騒ぎを聞き付けた警視正がミラーとスミス捜査官を含めた数名の署員達、それから現場を最も良く見ていたであろう男を先導していた女性捜査官に詳細を聞き、重たい溜め息を吐き出したのは救急車のサイレンが聞こえなくなってから。“言葉1つ交わしていないのに警部補が急に男を殴った”と言うのが皆の証言であるものの、それはあくまでも“セシリア”が誰なのかを知らないから。相手の見続ける悪夢を知らないから。謹慎という名の療養で暫く休職してもらう、と言うのが相手自身にはまだ伝えていない警視正の判断となり。___意識の無い相手に最初に施されたのは点滴による栄養補給だった。痩せて酷い顔色の相手が運ばれて来た時、まさか此処まで状態が悪いとはアダムス医師も思っていなかった。勿論相手からの連絡も無かったし、診察に来る事も無かったのだから気付く事が出来ないのはある意味当然なのだが、これでは先に身体が悲鳴をあげてしまう。___その後、遅れて病院に来たミラーから此処数週間の相手の状態、それから倒れる前の状況を伝えられ“セシリア”と口にした事から恐らく幻覚を見た可能性が高いと判断したアダムス医師は、点滴に安定剤も足して。___病室のベッドの上、白い布団を掛けられ眠る相手の姿を何度見たか。閉じられた瞼に掛かる焦げ茶色の前髪を軽く払い、白く骨張った片手を両の手で握り締める。“あの日”犯人が自殺をした事で相手の胸の内にある怒りも、悲しみも、絶望も、ぶつける先を失ったのだろう。けれどそれらは決して消える事無くふつふつと煮えたぎるマグマの様に常に相手の中にあり続け、それがきっと爆発した。“殺してやる”と、そう叫んだその言葉こそが嘘偽りの無い相手の感情だ。大勢の人達の命を奪い償う事無く自殺など、余りにも無責任で、余りにも残酷ではないか )






5105: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-04 19:13:28

 





( 目を覚ました時、視界に広がる白い天井を見て直ぐに病院だと理解した。点滴によって薬を投与されているからだろう、ここ最近の調子が悪過ぎたのだが今はだいぶ身体が楽で思考もクリアな状態だ。当然最後の記憶である騒動についても忘れては居なかった。ゆっくりと横に視線を向けると相手が座っていて、自分が目を覚ました事に気が付くと立ち上がる。此方を覗き込みつつ、意識が戻った事を伝えるべくナースコールを押そうとした相手の手を掴み制止して。相手に、何よりも先にまず聞かなければならない事があった。「_____俺が殴ったのは…誰だった、?」覚えているのだ、確かに”あの男“が自分の目の前を通り過ぎ、此方を振り向いて嘲笑した事を。その顔は紛れもなく、幾度と夢に見た、あの事件を引き起こし身勝手にも逃げ仰せたあの男だった。現実的に考えればそんな筈が無いと分かっていても、其れが間違いなく自分が目にした光景だった。近くに居た相手が其れを否定するなら、自分が”可笑しくなっている“のだと。 )






 

5106: ベル・ミラー [×]
2025-09-04 21:31:06





( 思わず双肩が跳ね驚きに目を見開いたのは、まさか制止が掛かると思っていなかったから。続けられた問い掛けは数時間前の署での騒動を確りと覚えているものなれど、“誰だったか”と問う辺り“見た”男の顔は__そう言う事なのだろう。掴まれた手を引く事無く再び椅子に腰掛け直し、相手を真っ直ぐに見る瞳には真剣さと少しの困惑の様な色が入り混じる。「昨晩起きた事件の重要参考人として聴取を受けていた男性です。…エバンズさんと面識は無いかと、」一度軽く息を吐き紡いだ言葉は誤魔化すでもない正直なもの。“あの事件”には全く無関係の男なのだと言い切った後。「…此処数日の不調で、いっぱいいっぱいになってたのが溢れちゃっただけ。」それでも付け加えたのは相手にとって納得のいかない気休めにすらもならない慰めになってしまっただろうか。男は何もしておらず、過失は100%相手自身にあるのは己も相手自身もわかっている事なれど、どうしても擁護したいと思ってしまうのは相手の心にある感情に触れたからか )






5107: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-05 04:56:56

 





( 少しの困惑を孕んだ相手の返答を聞き、腕を掴んでいた手が緩むとやがて離れる。やはり、可笑しいのは自分だったという事だ。あれ程鮮明に見えていた筈の物は自分が作り出した幻影。悪夢に魘された時などに夢と現実の区別が付かなくなる事はこれまでにも時折あったが、それは眠りから覚めたばかりのその瞬間の事。今日のように普通に活動をしている日中にそんな状態に陥る事など、これまでただの一度も無かったというのに。「……そうか、」とひと言だけ答えたものの、自分への失望は大きかった。なんの落ち度もない男性に突如暴力を振るったとなれば、相応の処分が下されるだろう。いつか、精神科でのより高度な治療がとっくに必要な状態だと吐き捨てた医者がいたが、あながち間違いでは無かったのかもしれない。自分で自分を抑えることができず、過去の幻影に振り回されてはいつ何をするか分からない。相手を自分の側に居させる事さえ憚られた。「______騒ぎを起こして悪かった。お前は仕事に戻れ、」と告げて。 )






 

5108: ベル・ミラー [×]
2025-09-05 13:32:17





( たった一言、その一言に余りに暗く重い失望が纏っているのを感じてしまい膝の上できつく拳を握る。その後に続ける言葉を何も紡げないまま少しの沈黙が流れ__先の騒動の謝罪と共に退室を促されれば軽く首を左右に振り。「やらなきゃいけない仕事はもう終わらせて来てる。」此処に居た所で何が出来る訳でも無いのだが、仕事面で残る署員に迷惑を掛ける事は無いと、暗にまだ居たいと言う事を滲ませた後。「……可笑しくなった、なんて思ってますか?」と、徐に問い掛けて。その声色は真剣で、静かなもの。褪せた碧眼に宿る色が不安定なのを感じているからで )






5109: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-09 05:11:58

 





( 相手の言葉に直ぐに返事を返す事はしなかった。胸の内に巣食う虚無感や苦しさ、其れに抗う事に疲れてしまったというのが正しい表現だろうか。事件に関わった大勢がFBIを去り、この世をも去った人が居る中で、懸命に刑事で在り続けようとして来た。けれど時々、“その意味”を見失いそうになるのだ。もう良いのではないかと、そう諦める為の糸口を自分自身が探しているような。其れでいて”可笑しくなったのなら仕方ない“と、無理やり自分自身を納得させようとしているのかもしれない。「_____あいつは俺たちの目の前で死んだ。悪夢と現実の区別も付かなくなるのは、そういう事だろう。」と、静かな口調で言葉を紡ぎ。一方で胸が焼き切れそうな激しい感情を思い出し、瞳が揺らぐ。「可笑しいのは分かってる。薬で治るなら其れでも良い、…少しで良いから、____“あの日“から解放されたい、」その言葉が全てだ。事件以降ずっと付き纏って来る”あの日“を忘れ、縛られている心を解放してやりたいのに、其れが出来ないのだ。強い薬で其れが叶うと言うなら、或いは医師の言う通りにする事で楽になるなら、今は甘んじて其れを受け入れようとさえ思えた。 )






 

5110: ベル・ミラー [×]
2025-09-10 20:07:10





( 相手から視線を外す事はしなかった。ただ、静かに返事を待つ事数分。余りに落ち着きを払って溢す様に落とされた言葉に僅か眉を微動させると「違う。」と、先ずは真っ向から否定し。「幻覚の1つや2つ見たからと言ってエバンズさんが可笑くなった訳じゃない。…それだけ苦しいからでしょ?心が限界だからでしょ?__私が1番エバンズさんの近くに居る。その私が違うって言うんだから何も可笑しくなんかない。」懸命に訴えたのは或る意味強気にも取れる内容。それが本心だ。何時かの日、アダムス医師では無い別の医師が相手に普段服用している物よりも何倍も強い安定剤を処方した時、吐き捨てた言葉を忘れた事は無かった。精神異常者の様に言い、まるで薬漬けにするかの様な。違うのに__相手は不器用で、優しくて、繊細なだけ。それでいて自分自身の負の感情に蓋をして、心を殺し罪を全て受け入れようとする。だからこそ、そんな相手だからこそ、切望した“解放されたい”と言う気持ちを尊重してあげたい。けれど__「…強い薬での解放には、目を瞑れません。」一度奥歯をきつく噛み締めた後に絞り出す様に伝えた言葉は相手の心を切り裂いただろうか。絶望のドン底に落としただろうか。「私に出来る事は僅かだし…もしかしたら何も無いかもしれない。寄り添うだけじゃエバンズさんの苦しみを取り除く事は出来ないってわかってるけど、それでも薬以外でエバンズさんが少しでも楽になれる事があるなら何だってする。犯人に言いたかったであろうどんな言葉も聞くし、夜中に一緒に起きる事も構わない。だから___もう少しだけ私と一緒に立って。」視界が滲み声に涙が混じる中、“もう良い”とは言わない。妹を、多くを亡くし10年以上苦しみの真ん中で生きている相手を前に血も涙もない残酷な部下だと思われたとしても。何時かの日、暗闇の底に居た己に相手が掛けた“立ち続けろ”と言う言葉を、思い出すだろうか )






5111: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-15 20:46:45

 




( 相手は“もう良い”とは言わなかった。もがきながらでも立ち続けろと______其れはいつの日か、自分が相手に掛けた言葉と、“呪い”と同じ物だ。けれど、自分と一緒に立っていて欲しいと言う言葉は相手の優しさだと理解出来た。もう良いと言ってしまえば、自分が破滅へと沈み込んで行く事を相手は分かっているのだろう。「……優しくないな、」先程までの不安定さが完全に消えた訳ではないものの、そう告げた言葉には相手を揶揄うような呆れたような普段通りの色が少しばかり戻っていて、相手を責めている訳ではない事は伝わるだろう。「…自分でもどうしようもない程、胸の内が焼き尽くされるような感情だった。今此処で、自分があいつを殺さなければと______夢と同じだ。確かにあの男だと思った。……これ以上は不味い、」天井を見つめながら、あの瞬間の苦しい程の感情を思い出す。可笑しくなどなっていないと相手は言うが、現実との境界が曖昧になる状態は当然良い兆候ではない。これ以上落ちていく訳には行かないと思っているからこその言葉を紡いで。 )






 

5112: ベル・ミラー [×]
2025-09-16 19:52:20





優しいだけじゃFBIには__エバンズさんの隣には立てないでしょ。
( 己の告げた余りに酷な言葉に返って来たのはほんの僅か不安定さの薄れた、所謂“らしさ”の感じられるものだった。肩を竦め口角の上がった表情で言い返し、その後続けられた冷静な言葉に思うのは相手と同じ事。立ち続けて欲しいが幻覚を見る程までに不安定な状態のままは絶対的に良くは無く、その状態が長引くのは不味い。再び表情に真剣さを滲ませ数回の相槌の後「…強い薬を使うのは反対だけど、エバンズさんの心が限界な事も、幻覚がその内治まる、なんて無責任な話じゃ無い事もわかります。この先どんな治療が必要になるのか、…エバンズさんは嫌だろうけど入院の話も出るかもしれない。何にせよアダムス先生の話を聞こう。__それと、恐らく今日中に警視正から連絡があると思う。」先ずは相手の思い、考えを否定する事無く聞き届け、主治医であるアダムス医師が出すこの先の治療法の話を。それから間を空けやや控え目に続けたのは、皆まで言わなくとも相手は察するであろう内容の話で。___病室の扉がノックされたのは直ぐの事。廊下に漏れた話し声で相手が目を覚ました事に気付いたのか、入って来たのは穏やかな、けれど何時も無理をする相手に困った様な笑みを浮かべるアダムス医師で、第一声は『調子はどうですか?』 )






5113: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-21 03:42:23

 




( アンナの事件が自分に与えた影響は間違い無く大きい。非常勤という働き方を選びながら此処まで状態が悪化してしまった以上もう少し方法を考えなければならない訳だが、薬で治るなら甘んじて受け入れると言っておきながらも“入院”という言葉は余計に気分を沈ませた。警視正からの連絡______それは確実に、騒動を受けての処分についてだ。あの瞬間の記憶は鮮明だったが、周囲の状況に関しては曖昧でどれ程の騒ぎになっていたかは正直覚えていない。どれ程の署員が、自分の可笑しな言動を目にしていたのかも。ただ少なくとも、全く無関係の男を殴ったとなれば停職は免れないだろうと覚悟はしていた。---扉が叩かれ入って来たのは主治医であるアダムス。投げ掛けられた問いには「……最悪だ、」とひと言。今、というよりは現在に至るまでの事を指した答えなのだが。薬のお陰で幾らか落ち着いているものの、酷い症状の数々に悩まされた。特にこの所はかなり調子が悪く、幻覚を見ても可笑しくないほどに状態が悪かったのは自覚している。「…休む努力はした、其の証拠に今は非常勤だ。…でも、どうにもならなかった、」と、告げて。 )






 

5114: ベル・ミラー [×]
2025-09-23 18:52:48





アダムス医師


( 返って来たのは強がる訳でも無い余りに素直な言葉。今この時の話では無く此処に運ばれる迄の数日間の事も含めた言葉なのだろう事は容易に想像が着くものだから、点滴を確認しながら『そうでしょうね。』と答えたアダムスの返事は、聞いておきながら声色に想定内だと滲み出ていて。点滴が一定の感覚で相手の中に流れるのを見、特別早さを変える必要も無いと判断した後は、2人だけで話す事もあるだろうと売店で飲み物を買って来ると病室を出たミラーに軽く頭を下げ再び相手に向き直り。『…今回の事件は余りに重たいものだったでしょう。それこそ貴方の言う通り、どうにもならなかった程に。』事件の詳細を鮮明に知っている訳では無いが、被害者の女性が相手の妹と瓜二つだと言うそれがもう全てだと言う事は感じていた。『ただ、幻覚を見ている以上、このまま何もせず帰す事は出来ません。一先ず今日1日は点滴による水分と栄養補給を優先に、明日からは暫くの間入院をするか、それとも休職をし自宅で療養するか__選択は貴方に任せます。』敢えて選択肢を作りそれを選ばせたのは、相手が入院を兎に角嫌がる事を知っているからで )






5115: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-24 13:07:11

 





( あれ程鮮明に見えた“犯人の顔”は、自分の生み出した幻影_____実際あの場に居たのは無関係の男で、当然犯人が生きている筈も無い。頭では理解できるのに、犯人が通りすがりに此方を嘲笑したあの瞬間が脳裏には焼き付いて居て、幻覚を見たのだと言われても未だに整理が付かないというのが正直な所だった。---相手が提示した選択肢は2つ。入院して治療を受ければ身体が楽になるのは間違いないのだが、1人病室に居る時間が苦手だった。整然とした病室で何もせずベッドの上で過ごすのは余りに無力な自分を思い知らされ、“自分だけ楽になる”事への心苦しさに苛まれる瞬間がある_____後者は“あの男”に植え付けられた余計な感情なのだが。しかし、これ迄の状態を思うと家で過ごす事への不安もあった。「……出来るなら、家で療養したい。ただ、…いつもの薬だけで過ごすのは心許ない、」点滴による処置などを直ぐに受けられる病院と違い、家では体調を崩しても直ぐには対処できない。今の体調を思えば病院ではない場所で、それでいてある程度医療の体制が整った状況、或いは追加の薬を処方して貰って過ごせれば其れが最善なのだが、それは我儘と見做されるだろうか。 )






 

5116: ベル・ミラー [×]
2025-09-24 18:33:32





アダムス医師


( 相手が選んだのは“自宅での療養”。けれど本人が一番良く感じているのだろう、“何も無いまま”の療養には不安があるようで。しかしその不安を感じているのは此方も同じだった。暫し考える間を空けた後『……今処方している安定剤の強さを変える事はしませんが、幻覚を抑える薬は追加で出します。ただ、あくまでも抑えるだけ。頻度が少なくなるだけで全く見なくなる、と言う訳ではありません。…厳しく聞こえるかもしれませんが、貴方が自分で幻覚だと認識する事がとても重要なんです。』至極真剣な表情で紡いだのはある種の“乗り越え方”。苦しみの真ん中に居る相手だけれど、元に戻れないとは感じていなかった。次に表情を穏やかなものに変えた時、そこには医師でありながら相手がどう思っているかはわからぬものの、友人としての柔らかな笑みがあり。『私は長く貴方を見て来ました。今の貴方は昔に比べてずっと周りに助けを求められる様になったし、痛みや苦しみを言葉に出来る様にもなった。今回のように休む事も出来るようになりましたね。…次は、ほんの僅かでも良い、自分自身を許してあげて下さい。“あの時”貴方が最善を尽くした事は間違い無いんです。』一言一言を言い聞かせる様に、確かに前に進めているのだと変化を言葉にして伝えていく。それから『療養期間中、貴方を助けてくれる人は私を含め沢山居る筈です。傍に居て欲しいと言われて、嫌な顔をする人は居ないでしょう。』と、例え悪夢を見ても、幻覚を見ても、その時1人では無いと安心させる様に締め括って )






5117: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-25 03:11:52

 





( 自分で幻覚だと認識する事。どれほど鮮明に見えていても、其れが過去にまつわる有り得ない状況ならば悪夢を断ち切り“今”を見なければならない。それはかなりのエネルギーを消費する事になるだろうと思いつつも、小さく頷いて。自宅で療養する事を選べば、再び相手の家に戻る事になる。相手に負担を強いる事になるだろうかと立ち止まりそうになった時、アダムスの紡いだ言葉に、迷惑だとは思わないと事あるごとに言葉にするミラーの事を思った。「______レイクウッドには、お人好しが多いからな、」と余計なひと言を溢しつつも、其処に嫌悪の色はない。錠剤を飲み込めず吐き気が強い時の為に制吐剤も処方して欲しいと頼み、いずれの薬を飲んでも体調が改善せず辛い時は病院に来る事を約束する。今回の処分として謹慎する期間は未だ定かではないが、皮肉にも身体を休めるだけの時間はあるだろう。それだけ重大な事案だと理解もしていた。アダムス医師が病室を出ていくと、再び天井に視線を向けて彼が紡いだ言葉の意味を考える。“あの時の自分を許す”事など出来るのだろうか。いつかそれが出来た時にようやく、縛り付けられたあの事件から解放されるのだろうか、と。 )





 

5118: ベル・ミラー [×]
2025-09-25 13:05:17





( 相手に言われた通り制吐剤と、幻覚への抑制剤、それから普段処方している安定剤と睡眠薬、それから鎮痛剤を明日帰る時に窓口で受け取る様にと伝え病室を後にしたアダムスの後、飲み物を買いに行くだけにしては随分遅くミラーが戻って来て。___「色々迷ってたら遅くなっちゃった。」とはにかみ相手に手渡した袋の中には、甘さの種類様々なコーヒーや紅茶、フルーツジュースなんかも入っており、その中の1つ、カフェラテのパックにストローを挿しながら「…アダムス先生と話せた?」と問い掛け。___丁度その時、相手のスマートフォンにあの騒動の詳細は他の署員から聞いた事、最低1週間の謹慎処分とする事、心身共に回復しない場合は1週間以上療養を許可する事、それから何かあれば何時でも話は聞く、と言った旨のメールが届いて )






5119: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-26 14:06:33

 




( ややして戻って来た相手の手には、大きな袋。たくさんの飲み物が入った中身を見て重かっただろうと思うものの、無糖アイスティーのペットボトルを手にするとそれをひと口飲んで。「…入院はせず、家で療養する事にした。もし____…」相手に家で療養する事を告げたものの、言い掛けた言葉は途中で止まる。もし、迷惑になるようなら休職している間はホテルに泊まる、と言おうとしたのだが、先程のアダムスの言葉を思い出したのだ。“傍に居て欲しいと言われて、嫌な顔をする人は居ない”。迷惑じゃないと、目の前の相手がそう返してくる事が想像出来た為、言葉が続かなかったのだ。「……いや。なんでもない、」とだけ告げると、メールを受信したスマートフォンの画面に視線を落とす。文章に目を通すも、騒動を思えば1週間の謹慎は寛容過ぎる処分だ。警視正の優しさと此方への気遣いが感じられて、小さく息を吐き出して。「…1週間は休む。薬は支障の無い範囲で増やして貰ったから、1人で大丈夫だ。」と告げて。相手は通常通り仕事に出る事を思い、心配は要らないと伝えておき。 )





 

5120: ベル・ミラー [×]
2025-09-26 20:58:26





( ストローを咥えながら入院では無く家での療養を選んだ話を黙って聞いていたものの、“もし”の後に続く言葉を直ぐ様察し唇を開き___言葉は続かなかった。100%と断言しても過言では無く“ホテルに泊まる”と言い出すと思ったのに相手自身で話を終わらせたからだ。思わず瞬きをし目前の相手を見詰めるも、此処で何か余計な事を言えば想定通りホテル泊まりを強行されかねない為、再びストローを咥える事で言葉を飲み込みつつ頷くだけで留め。メールの受診を知らせる音の後、相手が口にした療養の期限は1週間だった。直ぐに警視正からだとわかり、同時に己もまた彼の優しさと気遣いを感じた。厳しい所も勿論あるが、部下思いでお茶目な所もある彼は、きっと陰ながら相手の事を思っているのだろう。「…1週間か、」“1人で大丈夫”をまるで聞かなかった呟きを落とした後、カフェラテを両手で包む様に持ち膝の上に下ろし。「私も後半休み貰おうかな。家の中ばっかりだと気分も沈むだろうし。…謹慎処分中の療養だって事は勿論わかってるけど__海行きたくない?」此処には2人だけしか居ないものの、少しばかり声量を落として紡いだのは誘惑となり得るだろうか、1つの提案。何処となく悪戯な、または不敵な笑みと共に相手の表情を伺い見て )






5121: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-27 12:30:21

 





( 1人で大丈夫だと告げた後に続いた相手の言葉に「…お前が休む必要はない、」と返事を返す。体調が安定せず相手に心配を掛けるよりも、1人の方が良いという思いは未だに拭いきれなかった。海、という言葉には曖昧な表情を浮かべる。「謹慎中に海で遊んでいたなんて、其れこそ反省が見られないと見做されて停職になる。」と、呆れたように言葉を紡いで。穏やかな波の音は時に不安を和らげ、上擦った呼吸を落ち着かせてくれる。不安定な時こそ海を眺めてゆっくり時間を過ごしたいという気持ちこそあれど、謹慎中に海にドライブをしに行くという訳にはいかないだろうと。 )





 

5122: ベル・ミラー [×]
2025-09-27 14:40:35






今週は後半に2日休みがあるから、貰うのは実質1日だけ。__私だって有給消化しないといけないんだから。
( 1週間まるまる休みを貰う訳では無く、連休になる様に繋げるだけだと言い返し再びカフェラテを啜る。気持ち的には1週間びっちり相手の傍に居たいと言うのが本音ではあるものの、気を遣われるのを余り好まない相手の事だ、そんなにも長く張り付かれては居心地悪く感じ逆に休めないかもしれないと、己なりの勝手な妥協点で出した休暇3日。空になったカフェラテのパックをゴミ箱に入れ、提案に対して曖昧な色を滲ませたその碧眼を覗き込む。決して遊びに行く訳では無く、あくまでも目的は心を落ち着かせる療養なのだから問題は無いと思うものの、変な所で真面目な相手には通じない。で、あれば。「__最近海沿いの治安の悪さが目立ってるんだって。」ドライブには直接関係しない、余り脈略の感じられない話を唐突に振る。治安が悪いなんて話は勿論出ていないがそれはそうだ。「もしかしたら変な勘が働いて、休みの日だけど見回りに行く事になるかも。私1人じゃ何かあった時に対処しきれないから…エバンズさんは謹慎中だけど駆り出されるかもしれないね。」今この場で作ったとは思えない程淀みなく、さも仕方が無い事だとばかりにそんな戯言を言い放った後は返事に聞く耳を持たないとばかり口角だけは機嫌良く持ち上げたまま視線を他所に向けて。___それから翌日にはアダムス医師から処方された多めの薬と共に相手は退院し、1週間の謹慎処分+療養に入るだろう )






5123: アルバート・エバンズ [×]
2025-09-27 18:12:31

 





( 自分を外へ連れ出そうと画策しているのであろう相手の口からスラスラと紡がれる言葉に、怪訝そうな視線を向けたものの何かを言い返す事はせず。---退院し家での療養が始まると、点滴などの処置をしてもらい幾らか身体は楽になっていたものの、この数週間で悪化した体調を戻す事が必要だった。錠剤を上手く飲み込めない症状は少しばかり改善していて、制吐剤を飲んで少ししてから他の薬を飲む事で戻してしまう事はなくなり。ただ倦怠感が抜けず、横になっている時間は此れ迄よりも少し長くなっただろうか。悪夢を見る事がきっかけで現実との区別が付かなくなり、幻覚を見るようになるのではという恐怖があり、処方された睡眠薬は飲んでいなかった。 )






 

5124: ベル・ミラー [×]
2025-09-27 18:59:31





( 最初の数日は普段通り仕事に行き、夕方に家に帰って来て相手と共に軽い夕飯を食べ他愛無い話をする時間が続いた。ソファに横になり身体を休める相手を背に、床に座り込みキーボードを叩きながら時折声を掛ける。反応が無くなり背後を伺うと少しばかりうつらうつらしている様子が見れて嬉しくなった。けれど安定剤や制吐剤を飲む姿は見ても睡眠薬を飲む姿だけは見なかった。眠る事で悪夢を見る事、その悪夢が幻覚を連れて来る可能性がある事に少なからず恐怖心を抱いているのは簡単に想像が出来るのだが、人間ある程度纏まった睡眠をとらねばそれこそ心身が悲鳴を上げる。___時刻は夜の10時過ぎ。共に寝室のベッドに横になっている体勢で、普段は背中合わせなのだが今日は向かい合わせだ。背を向けた相手の目前に故意的に潜り込んだから。一瞬怪訝そうな表情を浮かべた相手に徐に手を伸ばし、親指の腹で濃くなってしまった隈を緩く撫でる。「__目を閉じて。」そう静かに声を掛け微笑んでから「大丈夫、…目が覚めた時に今が分からなくなってても、ちゃんと戻って来れる様に引き上げるから。」僅かでも眠る時間を作れる様に、一瞬でも不安が薄れる様に、親指を数回動かした後はその手を相手の肩に移動させ、今度はそこを軽く撫でて )






5125: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-10 14:05:46

 





( 向かい合わせになった相手の、ゆっくりと目元を撫でる温かい指先は直ぐに眠気を連れて来た。眠ってはいけないと反射的にブレーキを掛けそうになるのだが、肩を摩られ静かな相手の声を聞いている内に抗う事を辞めていて。程なくして眠りに落ち、やがて意識の遠い所で夢を見る。初めは何の夢かも分からない程に朧げで遠く、徐々に近付いて鮮明に。繰り返し見る“あの日”をなぞりながら、悪夢は記憶よりも凄惨で誇張されたものになる事も暫しある。幾度記憶に残る“赤”に苦しめられたか。妹に近付いた時の靴底で水を踏む様な感覚を今でも覚えていて、足元から背筋が粟立つような、背中が凍るような恐怖心もまた鮮明だった。初めは夢だと朧げに認識していた其れも、目を覚ます頃には現実との区別が付かない程に心を持って行かれている。「_____っ、!」そうして思わず飛び起きた後、悪夢の残像か、手が血に濡れていると錯覚した事でパニックを引き起こし一瞬にして呼吸は意味を成さない浅い物に変わっていた。相手が隣にいる事も今は頭に無く、汚れ切った此の手をどうして良いか分からず片方の手で自分の手首を握りしめる。無意識に爪が食い込むほどに力が籠り、木枯らしの様に掠れた音が唇から溢れ肩を震わせて。 )






 

5126: ベル・ミラー [×]
2025-10-11 18:03:04





( 瞬きがゆっくりしたものに、やがて瞳が完全に閉じられ静かな寝息が聞こえてくれば微笑と共に肩から手を離し掛け布団を引き上げて。___深い眠りの底にあった意識が引っ張られ浮上したのは隣で眠った筈の相手が飛び起きたから。勢い良く捲られた掛け布団と大きく揺れたスプリング、直ぐに追い掛ける喉の奥で引っ掛かる様な枯れた呼吸音。弾かれる様に上半身を起こし、殆ど反射的な動作でベッドサイドの間接照明を点ける。暗闇が柔らかな暖色の明かりに包まれ、パニックの中で肩を震わせる相手の姿が浮かび上がるのだが、その長い指は片方の手首を爪を立てる様に握り締めており、どれだけの力を込めているのか爪先は赤い。「…エバンズさん、痛いのは駄目。ね、大丈夫だから離して。」勿論の事夢の詳細はわからないが、例え発作を治める為とは言え自ら傷を付ける事は容認出来ない。諭す様に極めて穏やかな口調を心掛けながら、相手の両手を下から掬い上げる様にして持ち上げ包み込む。そのまま親指の腹で爪を立てる手の甲を撫でつつ、力が抜けるようにと )






5127: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-18 14:40:08

 





( 浅い呼吸の中、強い力で握り締めていた手が一度は相手の成すがままに離れたものの、包み込まれた手の甲を相手の指先が撫でる感覚で視線が手元に落ちる。手が血に染まっている、其れが幻覚だとは今は分からなかった。「…っ、触るな!!」思わず相手の手を振り払うと、徐にベッドを降りる。視界が揺らぐのだが、そのまま覚束ない足取りで寝室を出てシンクへと向かうと蛇口から水を出す。「____汚い、…っ落ちてくれ、」血塗れた手を洗おうとしたのだが、洗っても洗っても嫌な赤は落ちない。懇願するような言葉が苦しげな吐息と共に唇から漏れ、今はただ悪夢が引き連れて来た“血の記憶”に取り憑かれていた。自分の状態を客観的に見てこれが幻覚だと気づく事も出来なかったが、こうやって可笑しくなって行くのかと何処か遠い所では僅かに感じていただろうか。 )





 

5128: ベル・ミラー [×]
2025-10-18 23:26:43





( このまま発作が落ち着き再び眠りに___は進まなかった。切羽詰まった声と共に手を振り払われ思わず瞠目し一瞬身体が固まるのだが、相手はまるで何かに取り憑かれて居るかの様に、突き動かされているかの様に、朧気な足取りで寝室を出て行くものだから数秒後には慌てた様に後を追う事となり。暗いリビングにシンクをうつ水の音が響く。それと混じり繰り返される懇願はこんなにも胸を締め付ける。その言動で相手の見た夢の内容が容易く想像出来てしまい、熱くなった目頭から涙が溢れる前に一度きつく双眸を閉じ、開くと同時に横から手を伸ばし水に晒され冷たくなった相手の手を取り。「__大丈夫…っ、これだけ洗えばもう綺麗だよ、」幻覚だと、幾ら伝えた所で今の状態の相手を納得させる事は出来ない気がした。それならば否定はせずに、相手のとった行動で大丈夫になったのだと伝え戻って来てもらおうと。同じ様に相手の手に“付着する血”を洗い流す為の動作を数回、直ぐに蛇口の水を止めタオルで互いの手を拭く。勿論“赤”は無い。「…ほら、何も汚くないでしょ?」そのまま冷たくなった相手の片手を引き己の頬にあてる。ひんやりとした冷たさが熱を一瞬奪うがそのまま手を離す事は無く、暗い部屋の中、泣きそうな微笑みを携えたまま微動だにせず居て )






5129: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-19 01:05:17

 





( 幾ら水で洗い流しても落ちる事の無い赤、焦燥と罪悪感ばかりが募り胸が押し潰されそうになる。そんな自分の手を背後から取ったのは相手だった。水を掛けて、そして水気を拭ったタオルにべっとりと赤が纏わりつく事は無かった。掌に人肌の温もりを感じ、目の前に立つ相手の泣き出しそうな表情を認識する。手は汚れていない。しかし未だ不安定なのだろう、相手だと認識した直後に妹の姿が重なり目の前に居るのが何方なのか分からなくなる。_____過去から逃れたい、あの事件の所為で心を壊したくない、けれど過去を忘れる事は“罪”だ。そして現実に犯した“罪”を幾ら後悔した所で、生涯消える事はない。其の葛藤を十数年繰り返し、徐々に深みに足を取られているのだ。---目の前の”妹”の顔を見つめ、そっと頬を撫でる。謝罪を述べようと僅かに開いた唇は音を紡ぐ事はなく、仄かな光を纏って潤んだ相手の若葉色の瞳を見据えた。肩に落ちるのは真っ直ぐなシルバーの髪。「_____ミラー、…」相手の名前を紡ぐと、僅かに眉を顰め視線が落ちる。「……心が、…壊れそうに痛い、」楽になりたいのに、記憶が其れを阻む。けれど、幻覚は消えていた。掌を相手の頬に添えたまま、自分を取り戻そうと深く息を吐いて。 )






 

5130: ベル・ミラー [×]
2025-10-19 12:58:13





( 頬の体温と掌の冷たさが徐々に混じり合い、そこに仄かな熱が生まれた頃。頬に引き寄せた相手の手の指先が僅かに動き確かな動作で以て撫でる仕草をすれば、それが“誰に”向けたものかなど今この瞬間は然程重要じゃないとすら思えた。緩く首を傾け少しばかり擦り寄る仕草を見せた後、震える唇から溢れたのは紛れも無く己の名前。これで今相手の意識が過去に置き去りになっている訳では無い事、さっきまでの“赤”が見えなくなっている事がわかり深い安堵が胸に落ちた___が。だからと言って何事も無かった様に再び眠りに…とはならない。認識した痛みは鋭い棘を纏い心を雁字搦めにし、深い深い所でまるで浮上を許さないかの様に『お前の罪だ』と囁き続けるのだろう。悲痛な色を纏う言葉に、奥歯を噛み締め震える声で「…うん、」とたった一言を返す。それから半歩前へ、その距離を詰めやや重心を前に倒す事で相手の胸元付近に額をあてると「…痛くない筈が無い__背負うものが重すぎるよね…。」隠しきれない涙声でそう続け。一つ深呼吸を置いて「__エバンズさんの痛みが全部全部移ればいいのに、」と、溢れた想いはずっと願い続けている事。触れ合う箇所から相手の痛みが流れ移るなんて有り得ない話なのに、そうわかるのに、可能であればどれ程良いかと思ってしまう。大好きで心の底から幸せになって欲しいと願う相手がこの先痛みに涙を流さず済むのなら、どんな大きな痛みも引き受けたいと思うのだ。想いと比例する様に額を押し付ける強さが僅か強まって )






5131: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-19 20:12:11

 





( 胸元に額を押し付ける相手の声には僅かに涙が滲んでいて、軽く背中に腕を回した。掌に血が付いて居ない事に安堵しつつ、続いた言葉には少しだけ表情を緩めて。「……全部移るのは困る、」此の痛みを、苦しみを、相手には感じて欲しくないのだ。相手を守りたい、という感情とは少し違うかもしれないが、同じような苦しみを被る事が無いようにと願わずにはいられない。夜中のリビングは少し冷えていて、今が本来であれば眠りに就いている筈の時間であることを思い出す。心の内に渦巻いていたやりきれない感情は落ち着いていて、少しして相手の身体を離すとグラスに水を汲んで。幻覚の症状を落ち着ける薬と安定剤を1錠ずつ飲むと、「……もう大丈夫だ、少し落ち着いた。」と静かに告げて。そうして寝室へと戻ると、ベッドに入り身体を軽く曲げるようにして横になり再び眠る事として。 )






 

5132: ベル・ミラー [×]
2025-10-19 20:36:26





( 相手から返って来た返事は予想していたもの。だからこそ胸元から静かに額を離し顔を上げると「だったら半分。__私の気持ちは少しも変わってないよ。」と答え。同じ経験をしていない以上物理的に痛みを分け合う事は出来ないとわかっていながらも、相手を1人闇の中に立たせるなど出来る筈が無かった。何年も前、心の奥底に閉じ込めていた妹を失った過去を吐露した相手に“一緒に背負いたい”と伝えた気持ちは僅かの変化も無く健在なのだから。___少しの落ち着きを取り戻した相手と共に再び眠りにつき、迎えた朝。柔らかな秋風が吹く今日、天候は晴れ。様々な薬を飲んでる中で余り胃に負担を掛けない様にと、普段淹れるブラックコーヒーでは無く多めのミルクを注いだマグカップを相手に手渡しソファに腰掛ける。同じ様にミルクと、相手のより多めの砂糖を入れたコーヒーを啜りながら向けたのは笑顔。「お昼頃に海沿いの見回りに行こうと思ってて。…警部補の同行があれば心強いんですけど、」数日前の病室での遣り取りを徐に、態とらしい敬語と役職呼びで以て計画を遂行させようとして )






5133: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-21 00:55:16

 





( ソファに腰を下ろし、カーテンを揺らす涼しい風を感じながら温かいミルクを口にする。窓から差し込んでくる日差しは普段出勤前に家で感じているものよりも温かみを帯びて、昼間の柔らかさを纏い始めていた。見回りという言葉選びも、わざとらしい警部補呼びも、自分を連れ出す為の策だと分かっていながら相手の言葉に視線を向けると「……見回りなら仕方ないな、」と、暗に誘いに乗る返事をして。身体を休めるとはいえ、何もせず家に篭っていたのでは逆に参ってしまう。気分転換に外に出るのも良いだろうと。---いつも捜査に行く時のように相手の車の助手席に乗り込んだものの、今日は仕事ではないためいつもよりも深く背もたれを倒す。少し窓に隙間を開けて、海沿いに着いた時に外から少し海風が入ってくるように。シートベルトを締めると、窓の外に視線を向けて。 )






 

5134: ベル・ミラー [×]
2025-10-21 16:12:59





( 病室では怪訝な表情を見せた相手だったが、矢張り部屋の中で缶詰状態は息が詰まるのだろう。今度は拒否も無く誘いに乗ってくれた。それに破顔し胃に落としやすい様にとスープジャーに温かいコンソメスープを入れて簡易お昼ご飯もお供に。___走り慣れた道路は然程混んでいる事も無く比較的スムーズに進む事が出来た。こじんまりとした町を抜ければ並木道が広がり木々の香りが風に乗り、更に進めば助手席側には壮大な海が広がる。相手の開けた窓の隙間からは優しい海風が車内に入り込み、特有の潮の香りが鼻腔に届くだろう。それから凡そ15分程で目的地に到着すれば近場のスペースに車を停め「怪しい人物は居なさそうだね。」と、既に見回りが建前だとバレている事をわかっていながら満足そうに口角を持ち上げ。車内から一歩外に出れば潮の香りも強くなると言うもの。吹き抜ける柔らかな海風に靡く髪を押さえ付けてから耳に掛け、備え付けられている木のベンチに視線を向けた後。何を思ったか笑顔のまま相手を見上げるや否や「…エバンズさんのエスコートが欲しいな、」と、珍しい角度の強請りを一言。パーティ会場でもあるまい、たかだか木のベンチまで行くだけにエスコートも何もと言う話だし、そもそも相手はそんなタイプでは無いとわかっていながら楽しげな雰囲気を纏い返事を待って )






5135: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-24 22:26:23

 




( 窓の外を流れる景色からは徐々に建物が消え、やがて広い空と輝く海面が見えるようになる。外吹き込んでくる潮風を浴びながら外を眺めていると、やがて車は砂浜の側へ。未だ見回りの建前を崩さない相手の言葉に「……お前の動体視力は犬並みだな、」と、あのスピードで車を走らせていて見回りも行っていたのならば超人だと真顔で冗談めかして。車を降りれば靴底に感じる砂の柔らかさ。遠巻きに海を眺めていれば唐突な相手の言葉に呆れたような怪訝そうな色を浮かべ「此処はパーティー会場か何かか?」とひと言。そうしてさっさと1人でベンチまで歩いて行くと腰を下ろし、ベンチの砂を軽く手で払い。到底エスコートとも言えないような些細な事だが、レストランの座席を引いてやるのと似たようなものだろうと。 )






 

5136: ベル・ミラー [×]
2025-10-24 23:22:38





( 相手が冗談を口にする事は非常に珍しいと認識していた。だからこそ双眸を瞬かせ真顔を崩さないその表情を一瞬見詰めるのだが、誰がどう聞いても褒められていない事は明白にも関わらず「…優秀でしょ?警察官としても、“番犬”としても。」態とらしく誇らしげに首を擡げて見せた後、何時かの日に“番犬”や“小型犬”の軽口を言い合った事を持ち出して。案の定怪訝な表情を浮かべた相手は、手を差し伸べてくれるどころかエスコートを一刀両断すると同時に此方を振り返る事も無く1人砂浜を進んで行く。「ちょ、!」わかってはいたが思わず非難の色を纏った音が唇から漏れ、歩きにくい砂浜を小走りで相手の後を追い。「___…どーも。」先にベンチに座った相手の手が腰掛けるすぐ横の砂を払ったのを見て、素直さの欠片を失った不貞腐れた様なお礼が出た。勿論本気で不貞腐れた訳でもなければ機嫌を損ねた訳でも無い。更に言えばその細やか行為に照れた訳でも無い。これもまた遣り取りを勝手に楽しむ軽口に似た態とらしい態度だ。だからこそ隣に腰掛けた時にはすっかり表情は穏やかなそれに戻っており、鞄の中から2つのスープジャーを取り出すと、片方を相手に手渡しつつ「暖まるよ。」と、一言。頭を前に戻し、太陽の光を浴びながら寄せては返す穏やかな波を、遠い水平線を見詰めて )






5137: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-28 16:56:35

 





( あからさまに不服そうな表情と声色の相手に「…ハンカチでも敷いてやれば良かったか?」と、すぐに“そういう事じゃない”と食い気味な返事が返って来そうな返答を涼しい顔でひとつ。手渡されたスープジャーを受け取ると、蓋を開ける。コンソメの良い香りと共に湯気が立ち上り、煮込まれた野菜も入っているようだ。それをひと口飲んで小さく息を吐くと、身体の内側に仄かな熱が生まれた気がした。「…美味い、」とひと言感想を告げる。此の所は精神的にも追い込まれ、寒さにも似た恐怖心を抱く事が多かったのだが、少し肩の力が抜けるようだった。未だ鳩尾に痛みが走る事はあったが、日中はやり過ごせる程度の痛みだ。水平線に視線を向け、寄せては返す波の音を聞きながら柔らかな風の中に居ると、心は自然と落ち着いて来る。当然凄惨な事件現場にいるよりも、穏やかな海辺に居る方がずっと負荷は少ない_____此れが”事件捜査から離れて身体を休めろ”と何度も医者が言っていた理由だと、こうして静かな場所に身を置けば分かるのだが。10年以上其れを拒み続けて来た。「……どうしたら良いんだろうな、」紡いだ言葉は、相手に何かを問いかけ答えが欲しいと思って紡いだ物ではなく自然と溢れたものだった。刑事として在り続けたいという思いは変わっていない。休息が必要な事も理解はしている。けれどこのまま立ち止まれば確実に、自分は良くない方向へと沈んで行くだろう。「…海は良い、」と水平線に静かに視線を向けたまま穏やかな声色で呟いて。 )






 

5138: ベル・ミラー [×]
2025-10-28 20:16:55





( 求めていたのは“ベンチに行く前”のエスコートだ。案の定食い気味に返した返事は「そういう事じゃない」の一言で。相手がスープジャーの蓋を開けた事で海風に乗ったコンソメの香りが隣に座る己の元まで届いた。勿論味見もしているし香りだけで味を断定する事は基本無いが、これはなかなかに良い出来だろうとひっそり胸中で呟いた自画自賛は相手からの何より嬉しい賞賛の言葉で膨れ上がると言うもの。「良かった、」と微笑み自分用のスープジャーの蓋を開け中の温かいスープを一口。同じ海を見ながら同じ風に吹かれ同じものを飲む___不思議な事では無いけれど、不思議な気持ちになるのは何故か。暫く互いに沈黙が続き、穏やかな波の音の間で隣から溢れ落ちた言葉を拾い、思わず弾かれた様に顔を向けた。刑事で在り続けたい、けれど心身は確実に悲鳴を上げ痛みも苦しみも消え去ってはくれない。楽になりたいのに自分だけが許されてはいけないとも思い、過去は何時だって顔を覗かせる。“どうしたら良いか”それは何十年も相手自身が一番自問自答し苦しみ続けて来た事だろう。続けられた余りに穏やかな呟きに何故が心臓が大きく跳ねた。理由はわからない。何かを口にしようとした唇が薄く開き、結局言葉無く閉じ、頭は再び正面へ。次の沈黙は先程よりもずっと長いもので、水平線を見詰めたまま数分___「……海の近くで一緒に住むのは…?」相手に視線を向ける事無く紡いだ問い掛けは思いの外小さかったかもしれない。「…ほら、それだったら捜査で苦しくなっても、家に帰って来て窓の外を見れば少しは気持ちが楽になるかもしれないし、今よりずっと短い時間で来れる。__今すぐとかじゃなくて…エバンズさんがそれもありだなって思えた時とか、……」結局肝心な所で臆病な己はまるで言い訳の様な説明文を早口で紡ぐのだ。海の近くに住むだけなら別に2人一緒じゃなく相手1人でも良い、と言う客観的な所は勿論見えないまま )






5139: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-29 16:57:06

 





( 隣の相手が小さな声で紡いだ問い掛けに、海から視線を外して相手を見る。続いた言葉を聞きながら再び視線を前に向けると、「…あぁ、其れも良いかもな。」と、同意を示すようにひと言。海の見える家で暮らす、悪夢に苛まれた夜にも波の音を聞きながら月の光を湛えた水平線を窓から眺められるかもしれない。其れはとても良い環境だと思えた。しかし、いつかの未来の事として考えた訳ではなく、言うなれば絵空事。そんな空間に身を置く事が出来たらきっと幸せだろうと、現実には起こり得ない空想上の話として受け取っていた。コンソメスープをひと口飲むと、小さく息を吐く。相手がどんな思いでその言葉を紡いだかまでは気づく事が出来ず「…お互い、いつまでレイクウッドに居るんだろうな。」と溢して。きっといつかは、相手も本部やフィラデルフィア署に異動するのだろうという前提があっての言葉で。 )






 

5140: ベル・ミラー [×]
2025-10-29 19:39:54





( 前を見ていても視界の端で相手が此方を向いた事がわかった。勿論隣を見る勇気などある筈がなく、頭は固まり視線は縫い付けられたかの様に水平線を見詰めたまま。けれど予想もしていなかった同意の言葉が隣から聞こえた時、次は己が弾かれた様に相手を凝視し。___驚愕と自然と湧き上がった喜びは、続いた言葉で空気の抜けた風船の様にあっという間に萎んだ。先程の同意は此方の気持ちに応えてくれてものでは無く、更に言えばその想いすら届いていないのだ。勿論真っ直ぐなわかりやすい告白では無かったし、逃げ道を作ったのは紛れもない己だ。けれど部下である時間の長さは想像以上に長く隔たり、また、どうしたって越えられない壁がある気もした。胸の奥が小さく痛み、それを誤魔化す様に「そうだなぁ、」なんて悩む素振りを見せる。“愛している”と、確りとした告白をし直す事は選ばない。代わりに小さな笑顔で「本部に戻る時は連れて行ってくれる約束でしょ?」と、首を擡げながら約束もしてはいない勝手な過去の要望の話を持ち出した後。「…私は余程の事が無い限りきっとレイクウッドに居る。それで、あの辺の高台にこじんまりとした家を建てるの。__その時もしエバンズさんが今回みたく住む場所のない状況だったら、一部屋貸してあげる。」一度後ろを振り返り近くの高台を視線で示しつつ、おどけた様な色を纏い直して )






5141: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-29 22:19:17

 




( 本部に戻る時は連れて行って欲しいと言われた事は覚えて居たが、少し前に本部に戻って居た時もその約束は果たせなかった。「…気が向いたらな、」と答えつつ、自分は再び本部に戻る事はあるだろうかと考える。その思考を遮るように紡がれた相手の言葉を聞きながら、示された後ろの高台に視線を向けると少し笑って「…民泊のビジネスでも始めそうだな、」と冗談めかして。相手の心の内に気づくことはできなかったが、海を眺めて他愛も無い話をする時間は穏やかなもので胸の内に渦巻く不安は落ち着いて居た。相手に支えられながら過ごす療養の期間は、負荷が掛かり傷付いた心を日ごとに癒す事だろう。 )






 

5142: ベル・ミラー [×]
2025-10-29 22:55:44





( 相手の微笑と冗談に、今度は一瞬にして先程感じた胸の痛みが消えた気がした。海を見、波の音を聞き、他愛無い話をする事で相手は一瞬でも痛みや苦しみから遠い所に心を置けるならばそれが全てなのではとすら思えたのだ。「刑事って副業OKだっけ?“色取りの良いサラダ”を出すカフェも隣接させたいんだけど。」と、此方も冗談めかした返事を返し。___それから相手の心身の状態も少しずつ少しずつ回復していった。安定剤や睡眠薬は常備しているものの、味覚異常や幻覚、吐き気などの症状も落ち着いている様で、比較的穏やかに過ごせている事に安堵出来る日々が続いて )






5143: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-29 23:45:21

 





( 謹慎期間よりも少し長く休みを取った後、支障無く仕事に復帰出来るだろうという医師の診断を受けて職場に復帰する事となり。騒ぎを起こした事を署員に詫びこれまで通り仕事に復帰する事を伝えると、長らく暗かった執務室に再び明かりが灯る。例の一件を目撃していた者も、あの日のエバンズの状態が普通では無かった事は理解して居て、体調が改善している様子に安堵したようだった。---復帰から暫くして、事件の一報が入る。郊外の空き家で、幼い少年の遺体が見つかったというもの。通報者は空き家を訪れて居た3人の少年だった。「ミラー、車を出してくれ。郊外の空き家で遺体が見つかった。現場に向かう。」執務室の扉を開けると、デスクで仕事をしている相手に声を掛け、コートや資料を手にすると駐車場へと向かって。 )






 

5144: ベル・ミラー [×]
2025-10-30 00:05:43





( ___普段通りデスクで仕事をしている時に掛けられたのは此処数日無かった事件の報せ。直ぐに頷きパソコンの電源を落として相手と共に署を出れば社用車に乗り込み。運転席に座り、エンジンを掛ける前に相手から受け取った書類にザッと目を通す。「…5歳、」と、漏れた言葉と共に眉間に皺が寄った。勿論大人の遺体ならば良いなんて話では無く勿論そんな事は僅かも思わないのだが、矢張り子供の遺体は気分が重くなる。直ぐに書類を相手に返し現場まで車を走らせて。___郊外に建つ空き家の周りには規制線のテープが貼られていた。先に居た警察官に警察手帳を見せて手袋をはめ家の中へ入ると、そこには書類にあった通りまだ幼い男の子の遺体があり、周囲には無造作に散らばった薬剤が。「…エバンズさん、これ。」少年の傍らにしゃがみ薬剤の一つを摘み上げ相手に手渡す様に見せて )






5145: アルバート・エバンズ [×]
2025-10-30 01:05:00

 





( 現場でまず目につくのは相手が指摘した薬剤。遺体の近くに散乱しており、劇薬の可能性も否定出来ない。転がっている茶色い瓶に薬剤の名前は書かれて居なかった。「…鑑識に回して成分を調べる。検視の結果とも擦り合わせる必要があるな。」と同意を示すように告げて。少年の遺体の傍らに膝をつき状態を観察すると、口の端に血の混ざった唾液が付着している事に気付く。転落した可能性は無いかと家の方を見上げたものの、頭などに目立った外傷はないため線としては薄いだろうか。頭だけではなく、遺体に外傷は見られなかった。頭や首、腹部、手首、致命傷となり得る部位は全て綺麗な状態で。「……現時点では死因が特定出来ないな、」と言いながら立ち上がり。死因の特定には検視結果を待つ必要がある、今は目撃情報や防犯カメラの映像を集める事が急務だろうと。 )







 

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