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 炎の灯に照らされて、 /61


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32: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:43:43



かかっていた雲が去り、露わになった月がゆらゆらと揺らめく。月から伸びる光が水面へと差し込んできては、星が散ったように光が弾け、水中を明るく照らし出して。まるで舞台が一気にライトアップされたように、明るくなった視界に映した謎のシルエットの正体はやはりというべきだろうか。予想していた通り、人であるように見えた。水面下から見ているために視界は多少歪んでいるが、姿を窺う限り、相手は男らしい。

――ああ、それよりも。この得体の知れない者に己の姿が完全に見えてしまっているのだろう。男の双眸が、しっかりと此方を捉えている。相手から気付かれないように偵察をするつもりが失敗してしまった。今更身を隠すように逃亡しても恐らくは無意味だろう。さてどうしようかと、為す術無く狼狽えかけたその時、男が口を開いた。突然のことで男の話に耳を傾けるより他は無く、さらにどうやら話を聞くところによれば彼は迷子だから道を教えて欲しいのだ、と。……ひとまず、とりあえずは自分に危害を与えてくるような者では無いらしい。
しかし、自分も言ってしまえば迷子のようなものである。それに、この辺の土地勘など無いに等しいようなものだ。最初は変な通りのような場所にいたことは覚えているが、そこからどうやって此処に来たのかなんて覚えているはずもなくて。男の申し出を断ろうと、口を動かそうとした所で気付く。水中で喋っても相手にこの声は届かない。

一旦その場で半回転しつつも相手との距離を少し取れば、水面から上半身のみ出して。すっかり濡れている髪をかき上げながらも相手の方を一瞥する。

「……あんた、迷子みたいだけど。アタシこの海から離れたことないの」

軽く目を細めつつ、俯き加減になりながらも淡々とした口ぶりでそう言い。細かく言えば、正確な情報では無いが半ば真実のようなものだ。実際、此処に来てからはこの水辺のそばを離れたことはない。

「だから、迷子ならアタシじゃない他のとこを当たってくれる?」

面倒だとでも言いたげな目付きになれば、素っ気ないような声色に変わって




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