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 炎の灯に照らされて、 /61


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31: 下級妖怪 [×]
2021-05-06 20:42:54



ぷくぷく、ぶくぶく。
言葉にしたらそんな音だろうか。見ていた方向の真反対からそんな音がして、音のした方向を振り向く。
先ほどまで波以外何もなかった水面に浮かび消えていく泡が、かすかに見えて。
「(何かいるのか?)」
魚であればキャンプやサバイバル生活をしたことがあるから調理の仕方は分かる。しかし、ただの勘だがこれはそう言ったものではない、と思った。
泡が出ている場所は今いる場所からそう遠くはない。入っていけば捕まえられる、もしくは正体がわかるかもしれない。が、何がいるかも分からない今それは得策ではないと判断し、手燭の明かりだけで何とか見えないか試すも
「(駄目だな。やはりこの明かりでは、上手く見えない)」
やはり入ってみるしかないかと、考えたその時――!
「あ……月が」
サァと、風が頬を撫で。ほぼ同時に、遠くで雲に隠れおぼろげな光を放っていた月がゆっくりと顔を出した。
そのおかげで自分自身の姿も照らされ、また手燭に頼らずとも周囲はパッと明るくなる。そして完全に雲から顔を出した月は、自分と彼女を繋ぐ架け橋を水面に作り出した。
少し大きくなった波と共に青い糸のような物が揺れている。――否、あれは髪だ。
魚の水かきのようなものが見える。――否、あれは耳だ。
青白い何かが見える。――否、あれは皮膚だ。
青く輝く二つの宝石が見える。――否、あれは、目だ。
そこにいたのは魚ではなく、人。女性だった。

その時。
テレビを見ても、街中を歩いても。友達が「あの子可愛いな」と言っている子を見ても、ピクリともしなかった自分の心臓が、久しぶりにトクントクンと早まっていくのを感じた。
初めて見た、人ならざる姿をした彼女。あぁ、しかし、今まで見てきた誰よりも
「――綺麗だ」
思った事を一音一音確かめるように言葉にする。何年ぶりかの胸の高鳴りを覚えつつ、呆けたまま名も知らぬ女性の瞳を見つめて。
――ピシッ
手燭のガラスがひび割れた小さな音は、風の音に攫われ自分の耳には届かなかった。

数秒間見つめていたが、はっと気が付き、すっかり元の調子に戻って。口周りに手燭とは反対の手をあて
「キミは、ここらへんに住んでいる人? あの、俺、怪しい者じゃなくて! 帰りにちょっと迷っちゃってて、できれば道を教えてほしいたいんだけど! 今、大丈夫ですか?」
と、女性に向けて、水の中にも聞こえるように大きな声で問いかけて。




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