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  空 白  /45


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自分のトピックを作る
41:     [×]
2024-02-21 16:01:13






(食事とは単なるエネルギー補給の手段でしかなかった。身体を問題なく動かすために決められた栄養素を規定値通りに体に取り込むだけの行為。それは小さな薬品のような形をしているときもあればゼリー飲料のときもあり、検索に夢中になっている時は腕に管が通されてそこから必要な栄養素が直接注ぎ込まれていた。それに対して何の感想や感情を抱くことなくあの建物の中に居た。それが大きく変わったのはあの夜からだ。机に並べられたのはパッケージに包まれた正体不明の何かで袋ごと無理やり押し付けられた。これが何かと問えばサンドイッチと返ってきて、見知らぬ単語にまた情報の海に入ろうとしたところを騒がしい声で遮られた。どうやら食べ物であることは分かったがじっと手元のサンドイッチを見ていればまた男が眉を寄せる。何故男がサンドイッチを自分に渡したのかと問えば眉間の皺が更に深くなって無理やり奪われて包装を剥がしてから再び手に握らされる。初めて触るそれは柔らかな感覚がして嗅いだことのないような匂いがする。男ももう一つのサンドイッチを手に取って包装を剥がすとそのまま食らいついた。咀嚼してから飲み込んで体内に取り組む、その一連の流れを見て漸くこれが食事だと気づく。見様見真似で手元のサンドイッチの先端にかじりつくと幾つもの感覚が舌から伝達される。柔らかな感触、シャキッとしたみずみずしい感触、何やら半液体状のものが塗られていて挟まっている何かはさっぱりしたような味と濃いめの味とまた違う味が同時に押し寄せた。その情報の処理が追い付かず暫し固まっていると男から名前を呼ばれる。顔を上げれば穏やかな顔で笑っている男がいて味について聞かれた。正直分からないことばかりであるがその顔を見ると無意識に頷いていた。たぶんこれは嫌ではないから。もう一口噛り付く。形容する言葉は分からないが何かが満たされたような気がする。それがきっと始まりだった。)





42:     [×]
2024-02-29 15:55:27






(探偵の仕事をしていれば当然一緒に過ごせない夜だって出てくる。相棒が一晩中張り込みをする日や出張という形で泊まり込みで調査をするときもあるし自分が情報を集めるためにガレージに籠ったりガジェットの修理制作をしたりで理由は様々だ。自分が動くタイプの場合はそれに没頭していれば気が紛れるし余計なことを考えずに済む。問題は逆に相棒が出かけていて自分が暇な時だ。特になにもすることなく一人きりの夜はやけに静かだ。一人で家に戻る気もなくて基本的に事務所で過ごすことが多いがそうすれば尚更調査を終えて帰ってくるかもしれないなんて考えて変に眠れなくなる。いつもなら夜更かししようものなら強引に布団に引きずりこまれるのにそんな相棒も居なくては寝不足に拍車がかかる。今頃何をしているのだろうか。一度そう考えてしまえば思考はそちらに引っ張られてしまう。きっと連絡をすれば優しい彼は応えてくれるだろう。だが要件もないのに寂しいからという理由で電話をかけるのは子供っぽい気がしてベットに身を投げながら連絡手段を閉じた。布団からは僅かに彼の匂いがする。すれ違いに仮眠を取った相手の匂いが移っているのかもしれない。顔を埋めてその匂いを吸い込めば幾らか気分は落ち着いてくる。だけど安心して眠るのには物足りなくて「…早く帰ってきたまえ」と小さく呟けば無理やり目を閉じた)







43:     [×]
2024-03-27 11:32:03






(相棒の声が頭に響く。その音を意味を理解した途端心臓が握りつぶされたような苦しさが襲って瞳が揺れる。相棒がそんなことをいう訳ないと思うのに何処か他人事のように回る頭はこれまでの違和感や記憶から整合性を主張し始めた。自分が今まで幸せだと思っていた時間の中でも相手はずっと自分を恨み許せないと思っていたのだろうか。そう思った途端息が苦しくなって喉がひゅっと鳴った。違う違う違う違う、でも本当に?頭の中はぐちゃぐちゃになって思考がまとまらない。とにかく落ち着かなくてはと息を吸うが言われた言葉を思い出してすぐに吐き出してしまう。全部自分のせいだ、自分のせいで相棒を不幸にした。そんな存在がこれからも隣に居る資格なんてあるのだろうか。とめどない後悔と暗い感情に支配されるともはや息を吸っているのか吐いているか分からず浅い呼吸を繰り返す。そんな状態で体から力が抜けていけば重力のまま床に崩れ落ちた。痛い苦しい辛い助けてほしい、追い込まれた頭は縋るように相棒の姿を見上げるが返ってくる視線は氷のように冷たい。再びあの低い声でこちらの罪を責め立てる。何処かでぽきっと何かが折れたような音がした。嫌われてしまったのならもうどうでもいい。外界から全てを遮断するように膝を丸めて耳を手で塞ぐ。目をぎゅっと瞑れば激しく動く自分の心臓の鼓動しか感じなくなる。それすら今は鬱陶しい。大切な人を傷つけてしまうならもう何もしたくない。全てを放棄して小さく蹲る。それが最期の『     』の記憶だ。)





44:        [×]
2024-04-08 17:30:05







(見上げた桜はこの街の風に吹かれゆらゆらと揺れている。時折花弁が散って空中を舞いながら地面に落ちていくのも綺麗だ。暫しその光景を目に焼き付ける。落ちていく小さな花弁の一つが風に乗って彼のハットの上に乗った。薄らとピンクに染まったそれを見ているととある小説家が桜の木の下には死体が埋まっていると綴っていたのを思い出した。彼によると桜は死体から養分を吸い上げているからこそここまで綺麗に咲いているらしい。勿論それが小説の上での表現であるのは重々承知しているが不思議とずっと頭に残るような言葉だ。もし本当にこの桜の下に死体があるならばこの綺麗な景色はどれだけの屍の上に成り立っているのだろうか。そう思えば花弁の薄紅すら吸い上げた血で染まっているようで美しさと冷たさを感じた。この仕事をしていれば死はそう遠くない所にある。ボタンが掛け違っていれば今こうして花見をすることもなかっただろう。自分達の目指す未来のために到底走るのを辞めるつもりはないが、___もし死んだら、この街の土に還って君の好きなこの街を彩る桜になってもいいなと空を仰いだ)







45:        [×]
2024-05-13 15:25:50






(相手が依頼に関して新情報が入ってきたから直接聞きに行ってくると家を飛び出していったのが十分前。夕食を済ませてのんびりしていた時間の呼び出しを邪魔された、と思わなくもないが依頼人の笑顔のために奔走する相手の顔を見ればとてもじゃないがそんなことは言えない。ベットに寝転んで適当に時間を過ごしていればインターホンが鳴った。相手ならば鍵を持っているはずで所長もここの住所は知っているが来るならば先に連絡ぐらい入れるだろう。他に誰が、とも考えて今日宅配便が届くと相手が言っていたのを思い出した。ベットから降りて一応ドアスコープで配達員の姿を確認してからドアを開けた。予想通り宅配便の受け渡しのようで段ボールを受け取ると配達票に受領印を求められた。『苗字だけのサインで結構なので』と言われ促されるまま【左】と書き込む。それを手渡せば『ありがとうございました』と言って配達員は去っていきリビングに箱を持ちかえる。控えに残った自分の筆跡で書かれた相手の苗字。彼から与えられた名前に苗字は無くて実生活で必要になるときは彼の苗字を名乗ることが多かった。だけど相手と過ごすようになって店の予約をするときや何か手続きをするようになってからは相手の苗字を告げることが多くなってきた。戸籍なんか無くてただの簡易的な見分けの為の名だとしても相手の苗字を名乗るのが嬉しいだなんて、そんなことを伝えたらまた君が花が咲くみたいに微笑んでからかってきそうだから秘密にしておくことにした)






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