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✿ 常世からの呼び声 (創作/指名制)/96


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56: 篁ふみ [×]
2018-11-14 19:28:24




>52 銀弧

( 鬱蒼とした木の葉を通り抜けて、柔らかな微風がひっそりと頬を撫ぜる。何処かも分からぬ古ぼけた神社を暮れ泥む夕焼けが辺り一帯を橙に染め上げる中、彼の青だけはその色には染まらず、やけに炯々と然し呆然とした感情を象っていた。此方とて奇怪な状況に当然順応出来ていない、寧ろ驚くべきは自身なのではないか──そして響く焦燥の声。従順に言う事を聞いたというよりは、身体がその悲痛な声音に勝手に反応したと云うべきか。また一段、と上がりかけていた脚を時が止まったようにぴたりと静止させる。何故登ってはいけないのか、何故焦っているのか、問うべき事は絶えず生まれ、胸中に巣食う不安と恐怖と助長させたものの、眼前に悄然と垂れた狐耳も尻尾を見遣ればどうにも抗議する気にはなれず。彼が赫々と聳える鳥居のそのまた向こう、魑魅魍魎と言われる類のものに怯えを抱いている事なぞ露知らず、単純に彼女は「 へえ、狐。銀弧って言うんだ…あないにけったいな事されはったら驚くやろ。 」呑気に軽くじとりと睨め付けるのみで済ませてしまったものの、妖怪と遭遇するなんて初めての経験であるゆえ緊張感は拭えず、何処かぎこちない足取りで一段一段下がってゆき彼の隣へ。彼の存在自体を認めたわけではないが、認めずしてこの状況を何と説明すれば良いのか。淡い橙を背に、無意識的に再び柔らかな温もりを求めたのか、彼の掌へ手を伸ばしかけたと同時に自身も名くらい明かそうかと口を開きかけ、そして。──幾ら記憶の欠片を寄せ集めても、己の名前が思い出せない。それ所か、自分という存在も、昔日の思い出も、送っていた筈の日常も、全てが切り取られたように伽藍堂である。それもそのはず、欠片を寄せ集める前に匣には元より既に何も入っていないのだから。両親と離れた迷子さながらに表情は頼りなく萎れ、ぴたりと空に留まった掌が、所在なさげに揺れては止まり、また微かに揺れた。 )
銀弧、うん、銀弧ね。私の名前は──…、…?何やったっけ、思い出せない。





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