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転生乱舞 ~ 目が覚めたら其処は 異世界だった/94


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自分のトピックを作る
44: ムーン [×]
2016-03-30 22:07:23

===== 



ジェイソンの執務室では、ジェイソンと側近、それに叔父であるウスラ大臣がいた。
四人はなにやら小声で話しをしている。

「そろそろ騒ぎが起こる頃だが」
「叔父上。その計画、当てにしていいんだろうな」

「ふん。今頃王は干からびてる頃よ」

執務室の外が俄かに騒がしくなり、衛兵達が慌ただしく走り回る足音が聞こえてきた。
ウスラ大臣はニヤリと笑みを浮かべながら。

「どうやら成功したようだな」
「これでジェイソン様の邪魔になる者は、第一皇子だけですね」

「後は内乱に持ち込んで、どさくさに紛れて殺ればいいだけよ。カッカッカ」

と、声高らかにウスラ大臣は笑いだした。

― コンコン

ジェイソンの執務室のドアを誰かだ叩いた。

「入れ」

ドアを開けて入って来たのは近衛兵達だ。

「何事だ」

ウスラ大臣がとぼけた振りをして尋ねる。

「はっ。誠に恐れ入りますが、ジェイソン王子にご同行願います」

ジェイソン達は、やっと王様が亡くなられた事を報告に来たかと安易に考えていた。
だが、もし本当に王が亡くなった事を言いに来たのなら「ご同行願います」などと言う訳が無い。
考えの浅いジェイソンは、次はシュレッダーを殺せば自動的に自分が王座に着けると思っていたのだ。


45: ムーン [×]
2016-03-30 22:08:08

====== 



護衛兵に囲まれ連れて行かれるジェイソン。
その後を付いて行くように歩いてくる側近二人とウスラ大臣。
四人は王様を殺した犯人を捜しているため、護衛兵を付けて安全を確保しているものだとばかり思っていた。

ジェイソンは、王様がいる謁見の間へと連れて来られた。
そこには数人の護衛兵と、王座の前にはシュレッダーがいた。

シュレッダーは、入り口から王様の姿がハッキリと分からない位置に立ち、慌ただしく入ってくる衛兵達の話しを聞いていた。
ジェイソンは謁見の間に入るな否や、叔父であるウスラ大臣の陰謀が成功したのだと確信した。
そしてあるミスを犯した。

「父上に一体何があったのです」

その言葉を聞いたシュレッダーも又、確信をした。

「可笑しなことを聞くのだな、ジェイソン。
 何故父上に何かあったと思ったのだ?」

しまった!と思ったジェイソンだったが、事すでに遅し。

「あ、兄上がここに居ると言う事は、父上に何かあったと言う事ではございませんか?」

平常心を保とうと必死ではあるが、額と背中に嫌な汗をかいている。

「確かに私がここに居ると言う事は、父上に緊急の用があったと言う事になる。
 しかし、父上はここに居るではないか」

そう言うと、横に立っている側近が、王座に座っている王様の方へと手で指した。

「なっ・・・・」
「それに、この時間は民との謁見の時間だ。
 それなのに何故、父上ではなく私に声を掛け尋ねた」

「そ…、それは・・・」

返答に困っているとウスラ大臣が援護射撃をしてきた。

「おそれながらシュレッダー皇子。ここに来るまでに幾人もの衛兵たちが
 慌ただしく動いておりました。
 その様子から王宮内で何か大事が起こったものだと考え至り、
 この場に起きましても、まず初めに目に入りましたのがシュレッダー様でしたので
 シュレッダー様にお声を掛けたものだと思われます」

「そ…そうです。ウスラ大臣の言う通りですよ。兄上」

シュレッダーは『白々しい。よくもその様な嘘を述べられるものだな』そう思っていた。

「兄上。父上は如何なされたのですか?
 先ほどから言葉を発していないようですが、具合でも悪いのでしょうか」

「父上の事が心配か?ジェイソン」
「当たり前です!何を仰っているのです!」

「ならば自分の目で父上のご無事を確認するのだな」
『無事…だと?!そんなわけない。叔父上が失敗したのか?!』

半信半疑でジェイソンは王座に向かい歩き、そしてその姿を目にした。

「なっ…!!」
『何ともおぞましい。これが父上だと?!フッフッフ』
「一体誰がこの様な…」

ジェイソンは一瞬驚いたように見せかけ、内心ではこれで計画通りに事が運ぶと喜び、そしてそれを気取られぬ様に、父王を殺した犯人に憎しみの念を込めた。




結局犯人は分からずじまいで、早急に次の王を決めなければならない事になった。
両者供に後ろ盾となる貴族達が譲らず、王宮内では派閥による小競り合いが続いた。
派閥による小競り合いは、国民にも不安を煽り、その噂は瞬く間に各国へと届く事になる。

ある国は面白がって傍観し、またある国は、この隙にゴルティア国を攻めて我が領土にしようと、戦争の準備に入っていた
そのある国とは、隣国《シャブリ帝国》である。

シャブリ帝国の国王は、ゴルティア国に嫁がせた王女より極秘に手紙を貰っていたのだ。
ゴルティア国を領土にしなくても、その孫であるジェイソンが王になれば何も問題ない。
世間を知らないジェイソンを意のままに動かし、傀儡の王に仕立て上げればいいだけなのだから。



そんな思惑が、故郷であるゴルティア国とシャブリ帝国の間で行われているとは、シオン達は想像もしていなかった。


46: ムーン [×]
2016-04-04 20:07:12

第十七話
■ もふもふシルバーは俺のもの ■


妖魔シルバーを飼う事を許してくれたが、二つだけ条件を付けられた。
シルバーは犬として飼う事。
絶対に妖魔だとはバレない様にする事。
単純だがこの二つだ。

この世界で魔物を使役してる人がいないわけではない。
高レベルの冒険者になれば使役する事も可能だし、実際に従魔として使役し、街中を連れて歩いている人もいるくらいだからな。
だけどな、連れて歩く従魔が問題なんだな。
普通はそれ程強い魔物を従魔になんて出来ないんだ。
精々Bランク程度さ。
そこそこ戦闘が出来て、何らかの特殊スキルがある魔物が従魔に選ばれる事が多い。
例えば、穴掘りスキルがある《モグラン》炎を吐くスキルを持つ《ファイアーラビット》何方もそれ程強くはない。

倒すにはそれ程強くはないが、従魔にするのは難しいんだなこれが。
魔物って言われるぐらいだから人慣れなんてしてない。
それどころか人間を見たら襲い掛かってくる。当たり前だよな。
だから、なるべく野性味の少ない魔物を選んで従魔にするんだ。
たまに居るんだよな。そういう魔物がさ。

で、極稀になんだが、上級魔物の中にもそう言う奴がいるわけだ。これが。
俺が今までに見た上級魔物の従魔は、大量の荷物を運ぶのに便利な力自慢の《ケンタウロス》、人や荷物を運ぶ事ができる《ワイバーン》、人を乗せて、馬以上の速さで長時間走行可能な《ブルーウルフ》ぐらいかな。

まあ、上級魔物を従魔にできる人って言えば、Aランク以上の冒険者ぐらいさ。
妖魔?無理無理無理。普通に考えればね。
妖魔って言えばSSランク以上、災害級の魔物だぜ?
ドラゴンと同じレベルの魔物だよ。
ドラゴンが炎系の魔力で町一つ消す事ができるとすれば、妖狼ベルガーは土系を含む自然魔法で町を破壊する事ができる魔物なんだよな…。
まっ、大人のベルガーならな。
シルバーはまだ子供だからそこまで力が強いとは思わないが…たぶん…。
なんせ全身傷だらけの姿で俺の前に現れたしな。

なんにせよ、今日からシルバーも俺達《イカヅチ》の一員だ。
嬉しくて顔がニヤケルぜ!

『おい。さっきから何故そんなに気持ち悪い顔で俺の尻尾を撫で繰り回してるんだ?』
「んぁ?悪い、これは本能だ!気にするな!」

コイツを俺が温水魔法で洗って綺麗にするまではさ、ただの薄汚れた灰色の野良犬だったんだ。
それが、洗い終わって乾かすと、銀色のふわふわモフモフの毛並に早変わり!
なんつーの?すんげぇ毛触りが良い!!
ヤバイな。俺、こういうの好きなんだよな。

尻尾だけでは飽き足らずに、シルバーをひっくり返してお腹の毛に顔を擦り付けながらフガフガしてしまった。
その姿をロジャーとクウが見てたらしく。

「まったくシオンは何をやってんすかね」
「ははは。シオンもああやってれば普通の子供と変わらねぇんだけどな」
「そうっすね」

おい。聞こえてんぞ。
俺の耳は地獄耳なんだからな。

・・・・・・ん~。何かさっきから視線を感じるんだよな…。
魔物の気配はないし…、人影もない…。
キョロキョロと辺りを見まわしてみると、視線の主がそこに居た。
ローズだ。

なんだあいつ。なんでこっち見てんだ?
シルバーが気になるのか?
さっきは汚い犬呼ばわりしてたけど、洗って綺麗になったら触りたいってか?
たまに居るよな。そんな奴。
まぁさ、俺の事も髪の色が薄い出来損ないって言ってたぐらいだしな。
見た目でしか判断できないんだろうな。
てか、中身より見た目重視って言った方がいいか。
あんまりお近づきになりたくないタイプだしな。

どうせこの旅だけの関わりなんだし、表面上だけは問題を起こさず付き合っとけばいっか。
でも俺からは絶対に声を掛けてやらね。
別に用事もないし声を掛ける必要もないしな。
それにアイツ。すっげぇ上から目線で話すし。イラッとくんだよな。
シルバーに触りたかったらそっちから来い。
「触らせろ」とか「抱かせろ」とか命令形じゃなく、ちゃんとお願いして来たら触らせてやってもいいぞ?

・・・・・てか、俺も大概性格悪くなったよな…。
相手はまだ十五歳の子供だっていうのによ…。ハァ~…。

今日の飯当番であるクリフとリカルド達が晩御飯の準備をしている間、俺はシルバーの毛並を堪能しながら火の番をしつつ、そんな事を考えていた。


47: ムーン [×]
2016-04-04 20:08:17




晩御飯が食べ終わると後片付けは俺の仕事になる。
使った鍋や食器を洗うのが俺の日課になっている。
手から直接水を出せる俺が一番便利なんだってよ。
短時間で洗い終わるからな。
確かに、鍋や食器なんてそんなに使わないし、水は使い放題だし、掛かる時間としては洗って仕舞うまで十分程度だもんな。
そんなに苦にはならない。
って言うか、下働き兼雑用の名目で買われた割には楽させてもらってる方だと思うぜ?
まぁ、そりゃあ、そうだろ。
何も役に立ちそうにない出来損ないのガキが、意外や意外、希少価値の闇スキルや光スキルが使えちゃったりしたんだもんな。
他の属性スキルも使えるっちゃ使えるんだが、日常生活においての便利道具程度だし、戦闘には不向きだったつー事だ。
だが!敢えて言わせてもらう!
実はだな。水も火も、他の魔術者の実演を見て習得してるんだよな~。
内緒だけど。

何故内緒にしてるのかって?
あれだよアレ。
俺がそこまで使える奴だって分かったらさ、魔力のあまり多くないリカルド達が嫉妬しちゃうかもしれないだろ?
そうしたらさ。剣術の稽古の時にボコボコにされちまうに決まってるからさ!
体力的に俺に勝ち目は無ぇ!!
痛いの嫌いだし。

まぁ、いざと言う時はそりゃあ助けるけどさ、今んとこそんな要素ないしな。
何だかんだ言ってあいつ等って結構強いんだぜ?
俺の出る幕なんてねーよ。

よし。片付けも終わったし、シルバーにモフモフするかな。


「シルバー」
『終わったのか?』
「終わったぞー」

俺が片付けをしている間、シルバーはリカルド達にモフられてたようだ。
当然の事だが《イカヅチ》のメンバーは全員シルバーが妖魔ベルガーの子供だと知っている。
ベルガー自体を、生きてる間に拝めるような魔物じゃない事も知っている。
なんたって災害級の妖魔だから、その姿を拝んだ直後には町が壊滅して生きてなどいないのだろうからね。

「なんだ。もう行っちゃうのか?シルバーは」

シルバーが俺に呼ばれるとリカルドの手からすり抜け、俺の方へ向かって尻尾をフリフリ走って来た。
離れて行ったシルバーの後姿を見ながら、リカルドはなんか寂しそうな表情をしている。

俺の足元まで来て、クルクルと俺の周りをまわるシルバー。
「抱っこ―」と言わんばかりにピョンピョンと飛び跳ねてくる。
初やつじゃ。

早速抱かかえて焚火の側に腰を落とし、シルバーを膝の上で抱え込む。

「良い子にしてたかー?」
『ワン(当然だ)』
「お前の毛並は最高だな。癒しだよ癒し!」

そう言いながらグリグリと顔をシルバーの脇腹辺りに押し付ける。

『キャンキャンッ(くすぐったいだろ!やめろよ)』
「ちょっとぐらい良いじゃん」
『グルルル(シオンのちょっとはチョットじゃないだろ)』
「シルバーって案外ケチだね…。器がちっさいね…」
『キュ~ン?(なんだと…?)』
「だってそうじゃん。僕がシルバーに触るのは嫌がるくせに、シルバーは僕の
 膝の上に乗ったり抱かれるのは好きじゃん?これっておかしくない?」
『クゥ~ン(・・・・おかしくない)』
「ふ~ん。シルバーは僕の事が嫌いなんだ…」
『クゥ~ン キャンキャンッ(そ…そんな事はないぞ!シオンの事は気に入ってるぞ)』

「何だお前等。そうやってると、シオンとシルバーは喋ってるみたいだな」
「確かに」

そう言ってロジャー達に笑われた。

喋ってるみたいじゃなくて喋ってるんだけどな…。まっ、いっか。




48: ムーン [×]
2016-04-04 20:09:32

===== 




この世界では出来損ないと呼ばれている子供を囲んで、厳つい男五人が楽しそうに笑い合っている。
端から見ればとてもシュールな光景だった。

普通出来損ないの人間は、この世界では奴隷のような存在だ。
仕事と言えば、石切り場や魔石発掘と言う様な重労働しかない。
稀にゴンザレス商会のマーヤの様に下働きとして雇ってもらえる人もいる。
そういう人はとても運が良いと言えるだろう。
それなのに、厳つい冒険者に囲まれて、奴隷の様にこき使われているわけでもなさそうなシオンの姿は、本当に不思議な光景であった。
ゴンザレス商会の人達の目には、この五人の弟なのではないかと錯覚するほどだった。


49: ムーン [×]
2016-04-04 20:10:30



旅の行程も半分ほど進んだ頃。
ゴンザレス商会の主人ハウルはロジャーに聞いてみる事にした。


商会側の焚火から、ハウルがゆっくりとした足取りで此方の方へ歩いてきた。

「少しいいですかな」
「ああ」

「予定では後五日ほどで着くと思うが、明日からは宿に泊まれるのか?」
「そうだな。この先に小さな村が三件と町があるから大丈夫だろ」

町や村がある事は、商人なので知っていた。
が、本題はそこじゃない。
これは単なる話のきっかけだ。

「しかし、貴方達は仲が良いですな。そこの子供は誰かの兄弟ですかな?」
「シオンの事か?イヤ。シオンは二年前に俺が買ったガキだが」

「それにしては何と言うか・・・・」
「ふっ。魔力なんか無くてもシオンは賢い。今じゃ息子の様なもんだ」
「ほほぅ。大した器の方な人のようですな」

ハウルは感心しながらもシオンに興味を持ち始めたのだった。

そしてもう一人。
興味津々と言うか何と言うか、ずっと此方に視線を向けている人がいた。
ローズだ。
ローズは父親が冒険者側の焚火の方へ行った事確認すると、スタスタと歩いてきた。

「父様、何をなさってるんです?」
「いや、ちょっと話しをな」

父親に話しかけながらも、チラチラと視線がシルバーに飛ぶ。
そんな娘の様子に気が付いたハウルは。

「どうした、ローズ」
「いえ、別に…」

いえ、別に。と言いながらも、視線はシルバーに向けられていた。

「犬か?触りたいのなら触らせてもらいなさい」
「でも…」

そう言いながらローズはシルバーを抱いてるシオンに目を向ける。
ローズとシオンの目が合う。
しかしお互いに無言のままだ。

「どうした?娘に抱かせてはくれないのか?」

ハウルがシオンに問う。
ロジャーも┐(´д`)┌ヤレヤレ と言った表情でシオンに言う。

「そこのお嬢様が抱かせてほしいんだとよ」

しかし、シオンの反応はというと。

「ロジャーさん。僕にはお嬢様が「抱かせてください。お願いします」と言う
 言葉は聞こえませんでしたよ?」

シオンの横に居たクゥが小声で

「そこは察してやるっすよ」

俺はクウを見ながら

「自分の気持ちは誰かが察してくれると言うのは間違いだと思います。
 そういう育ち方をすると、誰かが構ってあげないと一生自立が出来ないと思うんですよ。
 今は良いですよ。ちゃんと両親が揃って気持ちを察してくれてるんですから。
 ですが、もし一人っきりになったらどうするんですか?
 全て自分で何とかしなきゃいけなくなるんです。
 頼る人なんて誰も居ないんです」

「シオン、そこまでだ」

俺は、前世と今世の記憶が走馬灯のように流れる中で一気に捲し立てた。

前世では親の引いたレールの上をのんびり走り、良い高校、良い大学へと進み一流会社に就職した。
両親は俺が何も言わなくても、俺が望んでいる事を的確に判断して、その愛情を一身に受けた。
その結果、ちょっと…いや、かなり生意気な性格になってしまったと思う。
今思えば、かなり恥ずかしく嫌な奴だったよな。
そして今世では、生まれて直ぐに母親を亡くし、父親が誰なのかもわからない。
ずっと孤児院で育った俺は、頼れる者など誰も居なかった。
自分の命は自分で守るしかなかった。
それでも前世の記憶があったおかげで、俺は心を折る事なく、あらゆる知恵を使って生き延びてきた。ロジャーに会うまでは…。
だからこそ腹が立ったんだ。
誰かが自分の心の内を察してくれるのが当たり前だと思っているローズに。


50: ムーン [×]
2016-04-04 20:11:16

「シオンは時々鋭い事言うっすよね。
 本当に子供なんすか?歳誤魔化してないっすか?」

「確かにな」

クウが場を和ますように言うと、リカルド達も「うんうん」と言うように首を振る。
その会話を聞いていたローズは顔を真っ赤にして逃げて行ってしまった。

「言い過ぎだぞシオン。後で誤って来いよ」

ファインに言われ、自分でも少し反省したさ。
いくら見た目が十二歳の子供でも、俺は精神年齢三十九歳の大人なのだ。
でも時々忘れちまうんだよな…。
普段子供の振りをしてる事が原因か?
てか、実際に子供なんだけどな。


51: ムーン [×]
2016-04-04 20:12:43



その後少ししてから、俺はローズの所に行き、

「さっきは言い過ぎました。ごめんなさい」

ローズは勝ち誇った様な顔をして

「分かればいいのよ。気にしてないわ」

そう言って両手を俺の方へ差し出してきた。
この場合、ローズの気持ちを察するとしたら、シルバーを抱かせろ、と言う事だろう。
当然却下だ。
無言で手を伸ばすだけなんて有り得んだろ。
さっき俺が言った良い話し、全く聞いてなかったようだな。
俺はお前の下僕じゃない。
ちゃんとお願いしないと抱かせないよ~。
と言わんばかりに、踵を返しその場から立ち去る事にする。

「ちょっと待ちなさいよ!」
「なんですか?僕はちゃんと謝りましたよ?では、失礼します」

「えっ?」と言う様な顔をして口をパクパクさせていた。

「だから待ちなさいって言ってるのよ!」
「何か用事でも?」

なんかちょっと面白くなってきた。
シルバーを抱きたいけど抱かせてとは言えないローズとのやり取りがだ。
チョットした悪戯心が芽生え、俺はシルバーを下におろす。
それを見たローズが抱き上げようと両手を下へ向けた時に。

「シルバー。先に皆の所に帰っといて」
『わん(わかった)』

スタスタとシルバーはロジャー達の所へ戻って行った。

「で?用事は何ですか?」

ポカーンとしてるローズに向かって聞いた。
彼女は少し中腰になって固まっている。

「もしもーし」

ローズの目の前で手をヒラヒラさせて正気に戻すと

「アンタに用事なんてないわよ!さっさと戻りなさいよね!」

怒鳴られた。
本当素直じゃないよな~。
用事がないなら戻るとするか。

皆の所に戻ると、ジト目で見られてしまった。

「まったく…。お前は大人なんだか子供なんだか分からん奴だな…」

と、ロジャーに言われてしまった。
うん。自分でもそう思うよ。ロジャーさん。

「シルバー、おいで~」
『わん(忙しい奴だな、お前は…)』

俺はシルバーを抱きしめ、モフモフを堪能しながら夜は更けて行った。


52: ムーン [×]
2016-04-07 21:58:38

第十八話
■ 何これ? 大中小 精霊大集合だぜ! ■



野営をする時は焚火の前で、二人一組で見張りをするんだが、いつの間にか俺は寝てしまっていたようだった。
子守(俺の)兼見張りのクウが俺を起こす。

「そろそろ起きるっすよ。日が昇るっす」

眠い目を擦りながら、薄らと目を開けると、昇り始めた太陽が遠くにある山から顔を出した。
俺は大きな伸びをしながら目を開けると。

えっ?えっ?ええええええええええぇぇぇぇぇ??!
欠伸をしたままの口が閉まらない位に驚き、固まってしまった。

何ですかこれは!?
何が起こった…。
何故こんな事になってるんだ!?
てか!クウはこの変な物がウジャウジャいる事に違和感とか異常さとか感じないのかよ!
どうなってんだ一体・・・・。

俺がいま目にしている物とは、体長3cm位の大きさで、色取り取りの光の様な物で包まれている生き物だ。
赤い色、青い色、黄色い色、緑の色、茶色の色。
各々色にも強弱があり、薄い色だったり濃い色だったりとこれまた幻想的な光景だ。
そしてその光の中には、小さな女の子の姿があり、ふわふわと空中を舞っている。
何だ?この生き物は…。

よく見ると幼女の背中には、透明で小さな羽も生えている。
まさかな。違うよな?
・・・・・・でもこれってさ、お伽話によく出てくる妖精ってやつに似てるんだが…。
てかこれって触れるのか?
好奇心には勝てず、恐る恐る人差し指を差し出し、近くに居る妖精を突っついてみる。

あっ…、指の先に纏わりついて来たぞ?
この赤い妖精もどきは可愛いな。
俺は口角を上げて少しニヤけてしまった。

「シオン…。お前朝っぱらから気持ち悪いっすよ…。
 なんで火を出してニヤけてるんっすか?」

クウの言葉に正気に戻った俺は自分の指先を見る。

「えっ?いつの間に?なんで?」
「そんなの俺が知るわけないっすよ」

火が出ている場所はさっきまであの妖精もどきが居た場所だ。
俺の人差し指の先から小さな火が灯っている。
それに、妖精もどきはまだ其処かしこにウジャウジャと浮遊していた。
クウには見えないのだろうか。

「他に様子がおかしいとか、違和感とか異常な感じはしないですか?」

一応聞いてみる。

「う~ん…。お前が寝ぼけてるって事以外は、異常はないっすね。
 あっ!それとも魔物の気配でも感知したんっすか?!」
「・・・・いえ。してません…」

どうせ変な夢でも見て、夢と現実がごっちゃになってるんだろうと、クウは大して気にも留めずにポンポンと俺の頭を軽く叩きながら微笑んだ。
完全に子供扱いだ。

って事は、この妖精もどきみたいな奴は俺にしか見えていないと言う事なんだろうか。
俺は小首を傾げながら考えた。
すると耳元から「クスクス」と言う笑い声が聞こえてきた。
今度は何だ!?俺は首を左に回し声の主を確認する。


53: ムーン [×]
2016-04-07 21:59:32


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

見なかった事にしよう!

俺はそっと、そいつから視線をそらした。

『チョット!なんで視線を逸らすかな。
 ウチの事見えてるやろ』

そいつは俺の肩の上にちょこんと座って怒鳴っている。
何なんだこの生き物は?
さっきの妖精もどきより三倍くらいの大きさで、やはり背中には薄い透明な羽が生えている。
体長10cm位で黒髪に黒いドレスが良く似合う。
ああ。これ見た事あるわ。
何とかってアニメに出てくるキャラクターだな。
そうか。これはフィギュアか。納得。

『シオン。現実逃避は止めた方がいいよー。
 やっとウチの姿が見えるようになったんやから、現実受け止めな』
「・・・・で、誰?何者?」

恐る恐る尋ねてみる。
可愛い顔をしているのに、何故か威厳を感じるその姿に少し動揺を隠せない。

『ウチの名前はベル。闇の精霊王よ。』
「精霊王!?」

『元々はアマンダの友達だったのよ。ウチは。
 アマンダって言うのはアンタの母親ね。』
「・・・・母さんの名前…アマンダって言うんだ…。」

初めて聞いた母親の名前に、俺は興味を引き、ベルに色々と聞いた。

「母さんってどんな人だったんだ?」
『アマンダは思いやりのある優しい人間だったわ。
 第二王妃の侍女として、この国でも誠心誠意尽してた。
 多くの人に慕われてたわ。』

「・・・・母さんは俺を産んだから死んだのか?」
『そうかもしれない。でも違うわ。
 アマンダは殺されたのよ。』

「殺された?誰に」
『ゴルティア国第三王子ジェイソンと、王弟ウスラ・フォルン・ミクドニアよ』

「何故母さんは殺されなきゃいけなかったんだ」
『第二王妃の侍女としていつも傍に居たアマンダを、王が見染めてしまったの。
 そしてアマンダは妊娠をした。
 それが貴方よ。』

「俺の父親がゴルティア国の王様…だと?
 だけど、それが何で殺される事になるんだよ」
『ジェイソンとウスラが王座を狙ったからよ。
 王位継承権は第一皇子のシュレッダーが一位でジェイソンは三位。
 当然今のままじゃ自分に王座なんか回って来ないと思ったのね。
 そこで出した結論が、邪魔者は消せ。だったのよ。
 だから第二王子は殺されてしまった。
 その現場を目撃してしまったアマンダも当然殺されかけたわ。
 でもアマンダはウチが逃がしたのよ。
 でもダメだった。逃げる時に切られた傷が原因で、シオンを産んで力尽きたのね』

「・・・・そうか」
『アマンダが死ぬ間際に言ったわ。「この子を生かせて」と。
 だからウチは、ずっと見守ってた。
 おかしいとは思わなかった?
 なんの訓練もしないで闇スキルが使える事を。』

何かが俺の中へストンと落ちてきた感覚がした。
ずっと不思議に思ってた。
生まれた時から聞き耳と言う魔術が自然と使えていた事を。
やたらと闇スキルが使え、そのレベルもMAXだ。
ああ、そうか。そう言う事だったのかと何故か納得をした。

しかしなんだ。精霊王ってこんなにフレンドリーな口調でいいのか?
威厳とか全く感じないぞ。
まぁ、下手に威張られて上から目線で話されるよりは、よっぽど良いけどな。

「・・・・・・お前、さっきから何ブツブツ独り言いってるっすか…?」

痛い子を見る目で、クウが俺の顔を覗き込んでくる。
やはりクウには、この精霊達が見えていないようだ。
シルバーはずっと、俺の膝の上で未だ爆睡中。

「朝飯の準備するっすよ。早く顔を洗って来な」
「はーい」

馬車からタライを出し、そこに指先から出した水を入れて、その水を小さな桶に少しすくい顔を洗う。
顔を洗ったおかげで少し脳内がスッキリした。
水を入れた鍋を火にかけながら、朝食の準備だ。

芋と豆の簡単なスープを作り、皆が起きてくるのを待つ。
クウはその間にのウザギを仕留めに行った。
燻製肉だけじゃ腹持ちがしないからな。


54: ムーン [×]
2016-04-07 22:00:18



待ってる間、精霊たちが俺の周りに集まって来たが、話しをすると言う事はないようだ。
どうやら小さい精霊は喋れないらしい。
小さい精霊に交じり、少し大きい5~6cm位の精霊がたまに居るが、そいつ等は喋れるようだった。
だが無口なのか向こうからは話しかけてくる様子はない。

「あのちょっと大きい精霊は?」
『うん?あれは上級精霊よ』

「上級精霊って?」
『小さいのが下級精霊。人間で言えば幼児ね。
 少し大きいのが上級精霊。人間の年齢で言えば14・5歳ってとこかしら。
 纏ってる色の魔術が使えて、それを人間に分け与える事ができるわ。
 良く見てごらんなさい。
 ロジャーの傍には赤い色を纏った上級精霊がいるでしょ?』

馬車の方に目を向けると、中から出て来たロジャーの傍には確かに赤い色の精霊が居た。

『だから彼は魔術が使えるのよ』
「なるほど~」

『なんだシオンは知らなかったのか?』

目が覚めたのか、足元に居たシルバーに言われてしまった。

「ああ。初めて知った。ってか、初めて精霊なんて者を見たぞ。
 なんで急に見えるようになったんだろ?」
『たぶん俺のせいだな』

「何でシルバーのせいなんだ?」
『俺は自然を操る妖魔だからね。
 森の中じゃ精霊達とは仲が良かったからじゃないかな。
 それに、俺はシオンの従魔になったわけだし、俺の力がシオンに移っても
 何ら不思議じゃないだろ。
 そう言うもんだ」

「・・・・・・・そう言うもんなのか」

シルバーは面倒臭そうに大きな欠伸をして伸びをした。

『まっ、大体そう言う事ね。
 だからこれからが大変かもしれないわよ?
 だって貴方、良い匂いがするんですもの』

そう言ってベルは、シオンの匂いをクンクンと嗅いでいる。

匂いって何だ?匂いって?!
俺ってば精霊に食われるのか?!
マジやめて。マジ勘弁。
だからさっきから精霊が俺に寄って来るのか!

『違うわよ。精霊は人間なんて食べないわよ。
 シオンの匂いを嗅ぐと癒されるのよ。
 それにね。シオンに触れると元気になるって言うの?
 人間で言うヒーラーの様な物がシオンから出てるのよ』

・・・・ってか・・・俺、今言葉に出して喋ってたっけ…?
痛い子やん。マジ痛い子やんか!

『喋ってないわよ』
『喋ってないな』
「・・・・・・えっ?」

『言わなかったっけ?
 脳内で会話できるって』

言ってねぇし!!!
初めて聞いたし!!!!

『ごめん。言うの忘れてたわ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

俺は顔を顰(しか)めてガックリと肩を落とし俯いた。




「何朝っぱらから辛気臭ぇ顔してんだ?」

声の方を振り返れば、ロジャーが訝しげな顔で俺を見つめていた。
そして何故かおでこに手を当てられ、ロジャーは首を傾げている。


「熱は無いな」


そっちかい!
でも、痛い子を見る目で見られるよりはそっちの方がまだマシかな…。
俺は力なく笑い、誤魔化した。


55: ムーン [×]
2016-04-11 22:12:15

第十九話
■ 無限異空間袋 ■


その日のお昼過ぎに、ゴンザレス商会一行は次の村に到着した。
小さな村だが一通りの店は揃っているようだ。
街に比べれば人は多くはないが、ある店先だけは人が集まっていた。
鍛冶屋兼武器屋だ。

錆び付いた剣や槍を手に持ち、鍛冶屋の前には長蛇の列ができている。
中で働いているオヤジさんも忙しそうに動き、汗をかいているのが遠目でも分かる。

「この村も徴兵がかかったか」

苦虫を潰したような顔で呟いたのはハウルだった。
ゴルティア国と戦争になれば、そこに近い村や町から募った兵隊達が逸早く最前線に送られる事だろう。
逆に言えば、敵地より遠い町や村の人の方が後攻めとして送られるのだ。
当然、生存確率も違ってくる。
ハウルにとっては、自分や自分の息子の生存確率を高めるために、今まさに出来るだけ遠くの町に身を置こうとしているのだ。


56: ムーン [×]
2016-04-11 22:13:39




村に立ち寄った一行だったが、ここでの買い物はたいした無い。
したがって、今日は久しぶりの自由行動となる。
村の中なので魔物もいるわけないので護衛をする必要もないと言う事だ。

ロジャー達はここまでに来る途中で倒した魔物から出た魔石や皮や牙など、武具の道具になる物を一度ギルドに持って行き売る事にした。
荷物になるから邪魔なんだってさ。
で、俺は置いてきぼりだ。
だって、しょうがないだろ。俺はまだ冒険者にはなれないんだからな。

冒険者になるには十五歳にならないとなれない。
どんなに剣の腕が良くても、魔力が強くてもだ。

そして何よりも解せないのが、冒険者になると冒険者レベルと言う物があると言う事だ。
俺の一般的レベルはBランク相当らしいが、冒険者として登録をすればFランクから始まるんだってよ。
どんなに実力があっても、皆そこから始めると言うから驚きだよな。
ゲームで言うならレベル上げ必須と言う訳だ。

しかし!しかしだ!ふっふっふ。
これってチートっぽくね?
実力はBランク。冒険者レベルはFランク。
ヤバイでしょ。チート並みにガンガンレベルが上がっちゃうじゃないか!
なんてね。思ってた時期もありましたよ・・・・。

無理なんだってさ。

レベルを上げるには自分と同じランクの依頼を規定量こなさないとダメなんだってよ。
メンドクセー…。
それに、子供がギルド内に入るのもダメなんだってよ!
・・・・・まあいいさ。後三年もすれば俺も冒険者になれるんだからな。
それまでは我慢だ。



57: ムーン [×]
2016-04-11 22:14:23

====== 



って事で、俺は今とーーーーーっても暇なんで、鍛冶屋のオヤジの仕事を覗いてる。

へー。刀ってそうやって造るのか。
あの道具があったら俺にも出来そうだな。
って、無理だよな。
あれは職人技だ。俺には無理だ。
俺に錬金術のスキルがあったらなー…。
そしたら剣やポーションも作れるのにな…。
そんなチートスキルなんて有る訳ないよな…。

『有るわよ?』

俺の頭の上に座っていた闇の妖精王ベルがそう言った。

「そんなスキル今まで見た事が無いぞ」
『そりゃそうよ。本人が望まないのに習得させるわけないじゃない』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

『あっ。でも、習得するには条件があるのよね。
 ポーションなら光の上級妖精。剣なら用途によってそれぞれの上級妖精の力を
 借りなきゃいけないから、まずはその上級妖精を誑かさないといけないわね』
「誑(たぶら)かすって・・・もうちょっとマシな言い方は無いのかよ」

『じゃあ…、虜にする?』
「・・・・・・‥取り敢えず言いたい事は分かった。」

『そうそう。武器のみなら土の上級精霊ね。
 武器に属性加護を付けたいなら、属性ごとの精霊が必要になるわよ』
「分かった…。
 上級精霊か・・・・。」



辺りを見回すと、やはり其処かしこに精霊が沢山いる。
居るにはいるが、小さい幼児精霊ばかりだ。
上級精霊は一体どこに…?

俺の考えを読んだのか、シルバーがその疑問に答えてくれた。

『上級精霊はな、小さな精霊が100人居たらその中に1人だけ居るんだ。
 更にその上の精霊王も、上級精霊100人に対して一人だ』
「へー。つまり、小さい精霊が《平社員》で、上級精霊が《中間管理職》。 
 その上の精霊王が《代表取締役》ってとこか?」

『何だそれは?』
「・・・まあいいさ。大体分かったよ」

シルバーの説明にベルは少し付け足した。

『どーーーーしても上級精霊が見つからない時は、幼児精霊を100人使えば
 その役目を果たすわよ』
「・・・・・・・・・・さいですか。」

たまに思うけどさ。この世界って結構アバウトだよな。
俺的には助かるけど。


って事で!
新しいスキルが増えましたとさ!ニンマリ



58: ムーン [×]
2016-04-11 22:15:15



名前:ハルシオン
年齢:12歳
髪の色:金髪
戦闘スタイル:魔剣士
種族:人族

HP:9000/16500
MP:15000/35000

魔属性:オール
火:業火まで
水:滝レベルまでの垂れ流し
風:高さ5mのつむじ風まで
土:壌土 穴掘り
光:ヒール ヒーラー 万病退散 眩い光
闇:聞き耳 索敵 各種防御壁 隠し身 影分身 麻痺 催眠術 

特殊スキル:錬金術 従魔使い 鑑定
従魔:妖魔ベルガー

守護妖精:闇の精霊王 ベル

好きな女性のタイプ:《教養》《思いやり》《一般的常識》のある人




59: ムーン [×]
2016-04-11 22:16:52


名前:ハルシオン
年齢:12歳
髪の色:金髪
戦闘スタイル:魔剣士
種族:人族

HP:9000/16500
MP:15000/35000

魔属性:オール
火:業火まで
水:滝レベルまでの垂れ流し
風:高さ5mのつむじ風まで
土:壌土 穴掘り
光:ヒール ヒーラー 万病退散 眩い光
闇:聞き耳 索敵 各種防御壁 隠し身 影分身 麻痺 催眠術 

特殊スキル:錬金術 従魔使い 鑑定
従魔:妖魔ベルガー

守護妖精:闇の精霊王 ベル

好きな女性のタイプ:《教養》《思いやり》《一般的常識》のある人




60: ムーン [×]
2016-04-11 22:18:01

うん。錬金術と従魔使いってのが増えたね。
今のところ戦闘で魔術を使うのは難しいな。
これは今後の課題とするか。


61: ムーン [×]
2016-04-11 22:19:01



一頻(ひとしき)り鍛冶屋の仕事を堪能すると、俺は古道具屋の前で立ち止まった。
店先にある台の上にはセールの文字。
少し錆びてる物も多々あるが、磨けばまだまだ使えそうな逸品がある。
セール用品程度なら俺の小遣いでも買えそうなので、何か掘り出し物が無いか眺めていた。
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「古道具屋って…。なんだか貧乏臭い響きよね」

声の方へ振り返ると、そこにはローズが立っていた。
振り返った俺の顔を確認したローズは。

「出来損ないの子供にはお似合いかもね」

鼻で笑うようにそう言った。

「そうですね。でもたまに掘り出し物とかがあるんですよ?
 そういうのを見つけた時にはワクワクしますよ」
「ふん。こんなガラクタばかりの所に掘り出し物なんて在るわけないじゃない」

そう言いながら、ローズは古びたウエストポーチを、親指と人差し指で挟みながらブラブラとさせて持ち上げる。

「お嬢様にはガラクタにしか見えないでしょうが、僕が買えるものと言ったら、
 今はこのくらいの物しかないのです」

少し悲しそうな表情で言った。
流石のローズも言い過ぎたかと、ハッとした様な顔をしたが、そこは生まれながらのお嬢様だ。直ぐに気を取り直し、踵を返してその場を去っていった。
俺はローズが抓んだウエストポーチを手に取る。

確かに指先で抓みたくなるほど汚いな。
素材は…麻?かな?
それにしては色がくすんでるな。
日に焼けたのか汚れてるのか分からない程汚いし、この所々にある赤茶色の斑点は模様なのか?
・・・・・違うな。これは血の色が変色した後だな。
ん~・・・・。一応鑑定はしておこうか。
こう言うのが掘り出し物って可能性もあるしな。

鑑定スキルを使うと、いつもお馴染みのパッド君が登場する。
パッド君に鑑定したい物の判定結果が表示された。



―――――――――――


名:無限異空間袋
特殊効果:時止

《取り扱い説明》

* 許容量無限
* 大小に関わらず収納可能
* 取り出し時はイメージをすれば取り出し可能
* 入れた時の状態をキープ


《備考》

無限異空間袋の中身:薬草×5 オリハルコン 金 銀×3 銅×4 鉄×10
ワイバーンの牙 ブルフの爪


――――――――――― 


・・・・・・おいおいおい。無限異空間袋だと?マジかよ・・・・。
こんなのアニメの中だけだと思ってたぞ…。流石異世界だな。
って事は・・・・これってめっちゃ掘り出し物じゃね?
異空間袋自体はたまに見かけるが、容量制限があるもんな。
ロジャー達が持ってるやつだって、精々20個程しか中に入らないし。
そのくせメチャメチャ高いらしいけどな。
でもこれ・・・・、無限だぜ!?無限!
おまけに時止!
希少品じゃね?
それがこの値段かよ・・・・。
ここの店主見る目が無いな・・・・。俺は嬉しいけど。

ウエストポーチを手に持ち、店内に行き、店主に声を掛ける。

「これ下さい」
「あ~、大銅貨1枚だな」

ポケットから大銅貨を一枚出し、それを店主に渡す。

これが大銅貨一枚とかありえないよな。
大銅貨一枚って言ったら千円だぜ?!千円!
やべぇ。顔がニヤケル。

「ボーズ、本当にそれでいいのか?」
「うん!こう言うの僕欲しかったんだ!」

「俺も売っといてなんだけどよ。よくそんな汚いの買う気になったな」
「エヘヘヘ」

笑って誤魔化した。
おっちゃんこそ、よくこんな希少価値の物を大銅貨一枚で売ろうと思ったよな。
それも中身付きで。
俺はこのポーチの事がバレないうちに逃げるように古道具屋を後にした。


62: ムーン [×]
2016-04-15 16:01:59

第二十話
■ 親心 ■



ロジャー視点


今日はここで野営だな。
やっと半分。まだまだ油断はできねぇな。
ん?向こうから来るのはハウルんとこの奴隷じゃねぇか。確か名前はマーヤとか言ったな。

「あの…、水場はここからどのくらい先にありますか?」
「1㌔ほど先だな。行くのか?」
「はい。足りなくなりそうなので…」

ロジャーは溜息を吐くと、

「おい!シオン。この人を水場まで案内してやってくれ」
「はーい」

そう言うと、マーヤの他にローズ嬢ちゃんまで付いて行くのを見送ったのが一時間ほど前なんだが。
帰って来ねぇ。何かあったのか?

シオンとあの嬢ちゃんは歳が近いくせに、あまり話そうとはしてなかったが大丈夫か?
あの嬢ちゃんの性格なら、シオンの事を奴隷としか見てないだろうが、喧嘩だけはしないでいてくれよ。
シオンは見た目と違って中々芯のあるやつだからな。

シオンの事だから上手く立ち回ってるとは思うが、アイツもまだまだガキだからな。

「クウ。ちょいとシオン達を見に行ってやってくれねぇか」
「シオンなら大丈夫じゃないっすか?アイツの腕ならここら辺の魔物に勝ち目は
 無いっすよ?」

「まあ、そうなんだがな…」
「へぃへぃ。心配なんでやんしょ?ロジャーさんは過保護っすね」

笑ながらクウが言う。

「バッ、バカ言ってんじゃねぇよ!さっさと行ってこい!」
「へ――――――イ」


63: ムーン [×]
2016-04-15 16:02:34


待つ事十分。草木を掻き分けてシオン達は帰って来たんだが…。
俺は幻でも見てんのか?
よく目を凝らして何度も見たが、やっぱり間違いねぇよな…。
何があった。

「それは何だ」

シオンに聞く。

「えっと・・・、怪我してるんだ。迷子なんだ。可哀想だろ?
 まだ子犬なんだ、シルバーは…」

犬だと?バカ言ってんじゃねえ。
そいつは何処からどう見ても妖狼じゃねぇか。
普通の人間は犬だと言っても疑わねぇが、俺達冒険者にそれは通じねぇな。
そいつを犬だと疑わねぇ冒険者は長生きはしねぇ。間違いねぇ。
・・・・ってか、名前まで付けちまったのかよ…、全くしょうがねぇ奴だな。

ロジャーは大きなため息をつきながら、

「名前まで付けちまったもんはしょうがねぇな。バレるなよ」

そう言うと、俺に怒られると思っていたのか、俯きかげんでシュンとしていたはずのシオンの顔が急に上がったかと思うと。

「ロジャーーーー大好きーーーー!!」

そう言って俺に抱き付いてきた。
この、心に広がる温かいものはなんだ。
これが子供を持った父親の感情と言うものだろうか。
こんな気持ちに俺がなろうとはな。誰が想像したよ。
俺も驚いてるよ。まったく。

しかし、いくら妖狼の子供とは言え、災害級の魔物が人間に懐くものなのか?
ち・・・・ちょっと待て!
シオンの足首に浮かんでるあの紋様は・・・・。
あちゃー‥‥。やっちまったか・・・・。
ただのガキじゃないとは思ってたが、まさかそこまでの力があったと言う事か…。
あの紋様は間違いねぇ。主従の紋様だ。
かなりの魔力がねぇと妖狼ベルガーなんぞ使い魔になんかできるはずがねぇ。
しかしなんだ。それを無意識でやってるんだから大したガキだぜ。まったくよ…。

ほら見ろ。あいつ等も飽きれたような顔をしてるぞ。
気が付いてない振りはしてるけどな、気付いてるんだよ。
シオンの実力をな。
アイツ等もあいつ等なりにシオンの事が気に入ってるって事だな。



64: ムーン [×]
2016-04-15 16:03:13

====== 



次の日。お昼を少し過ぎた頃、遠くに町が見えてきた。
今日はここで一泊だな。
シオンとシルバーは運動だと言い、馬車と並走している。
元気だな。こいつ等。


町に入るとさっそく宿屋を取り、俺達はギルドに向かった。
途中倒した魔物の戦利品が袋に入りきらなくて邪魔でしょうがねぇ。
一応ここまでの護衛の報告と、ブツの換金が目的だ。

ギルド内に子供は入れないのでシオンは留守番なんだが、ふて腐れてたな。
決まりだからしょうがない。

ふむふむ。全部で金貨三枚か。まぁまぁだな。
シオンも居ない事だし、ギルド内の酒場で一杯飲むか。

「お前等。好きなだけ飲みやがれ!」
「「「おー!」」」

カーッ!!うめぇ!!!
魔物の警戒をしなくていいってぇのはたまらんな。
いつもより数倍うめぇ!

気分よく酒を飲んでると、隣のテーブルの奴から話しかけられた。

「よう。お前さん達はどっちから来たんだ?」
「マニラだ」

「何?! ・・・・そうか。で、状況はどうなってる」
「状況?」

「知らないのか?いまあそこは大変らしいぞ」

どういう事だ。まさかもう戦争が始まったって言うのか?

「俺達が立った前の日には兵士募集の張り紙は出てたけどな」
「やはりな。マニラに居る奴らが先陣らしいぜ」

「ってぇ事は、俺達冒険者にも参加しろと言う事か」
「ああ。報酬はかなり良いらしいぞ」

今までの俺達なら即答で答えてただろう。「稼ぎ時だな」と。
しかし今はシオンが居る。どうする。

「兄ぃ。どうしやす?」
「ああ。」

「ロジャーさん。俺達は行ってもいいんだけどよ。シオンはどうするんだ?」
「ああ。」

俺は考えた。
戦争に参加する事は嫌じゃねぇ。
むしろ今までそうやって生きてきたんだ。
城の兵士たちに比べれば、俺達の方が遥かに戦い慣れてる。
団体行動は苦手でも、その場その場で臨機応変に対応できる。
奴等にとっても俺達の戦力が欲しいところだろう。
どうしたもんか。

「ロジャーさん。私に考えがあるんですが」
「聞かせろ。ファイン」

「シオンはドラグの街から船で隣国へ行かせたらどうでしょう」
「隣国だと?」

「はい。幸いシオンも剣の腕だけはそこら辺の冒険者にも引けを取りません。
 それにアイツには…シルバーも付いてるので…たぶんそれなりの…」

ファインはハッキリとは言わなかったが、要するに、妖狼を使い魔にするだけの魔力があり、剣の腕も俺達には及ばないが、さっき俺に話しかけて来た冒険者よりは強いはずだ。
出会った頃の様な非力な子供じゃねぇ。そう言いたかったようだ。

「隣国にやってそれからどうする。
 あいつはまだギルドには登録出来ねぇぞ」
「はい。シオンなら読み書きも出来るし、計算もできるので、何とかなるかと」

「はぁっ?!あいつ計算もできるのか!?」
「はい。以前買い物に付いて来た時に、素早く計算してましたね」
「とんでもねぇガキだな・・・・」

二人は顔を見合わせ苦笑した。


65: ムーン [×]
2016-04-15 16:03:52


俺はとんでもねぇ買い物をしたかもしれねぇ。
ただのガキだと思ってた。
荷物持ちに丁度良いと思ってた。
安く買ったガキだ。替えはいくらでもいると持っていた。
たとえ迷宮で魔物に襲われて死んでもだ。

今までもそうだ。
**ば次を買っていた。
情なんてあるわきゃない。
悲しいというより、今回はハズレだな。とか、長持ちしたな。程度にしか思っていなかった。
それがどうだ。
俺だけじゃねぇ。他の奴等も考えてたみてぇだ。
シオンを生かす方法を。


俺達がこんな事を話し合ってるなんて、シオンは知らねぇだろうな。
知ったらどんな反応をするんだ?あの野郎はよ。
まぁ、泣こうが叫ぼうが知ったこっちゃないけどな。

生きてさえいればまた会える。
それで良い。

これが俺達五人の相違だ。




66: ムーン [×]
2016-04-16 20:15:35

第二十一話
■ 別れ ■





あれから一週間ほどでシャブリ帝国の王都《ドラグ》にやって来た。
シルバーの事は大型犬の子犬だと言う事にしている。誰も疑ってない。
大型犬の子犬だと言い張るくらいだから、その姿もかなり大きいのだが。
ぶっちゃけ、成狼になると、ハイジに出てくるヨーゼフ位の大きさになるそうだ。
デカイな。エサ代って俺持ちなのか?・・・・頑張って稼ぐしかないか。

ローズとは相変わらずの仲だ。
しかし、アイツも少し成長したかな。
初対面の時は最悪な態度だったが、最近は大人しいもんな。
それに時々シルバーの事を見つめてるし。
だから触りたけりゃ言えば良いのにな。そこは相変わらずの察してちゃんだ。

シルバーも知ってか知らずか、俺の傍から離れようとしないもんだから、触る機会が無いらしいぞ。ヤレヤレ。



ドラグに着くまでに幾つかの町や村を通ったが、近々戦争が起こりそうだと言っていた。
村人や町の大人たちは、武具や武器を調達する姿が目立ってたな。
ロジャー達も何か隠してるみたいで、その事にはあまり触れないようにしてるのが見え見えだ。
俺はと言えば、言いたくない事を無理に聞く気もないし、そのうち話してくれるだろうとのんびり構えてたんだ。
そして今夜。その話しと言う爆弾が投下された。


食事が終わると珍しく誰も酒場には行こうとはしなかった。
何かいつもと違う、そう思ったんだが、俺は深く考えなかった。
そう。いつもとちょっと違うな。疲れてんのかな。程度にしか思っていなかったんだ。

するとロジャーから全員集合の号令がかけられた。
端から見れば出来損ないの奴隷に見えるが、そんな俺は1人部屋を貰っていた。
そこにクウが呼びに来たんだ。

「シオン。兄いんとこ行くぞ」
「会議?」
「・・・・・・・似たようなもんだ」

今まで今後の予定を組む時に俺は呼ばれた事が無いぞ。
てか、大抵三人部屋でロジャーの居る部屋でやってたんだけどな。
勿論俺もそこには居るが、「子供には関係ねぇ」の一言で隅に追いやられてたっけ。
まぁ、聞き耳のスキルを持つ俺には、2㌔以内だったら聞こえるんだけどな。
逆に言えばだ。2㌔先にでも俺を捨ててこないと無駄だと言う事だ。


「兄い、連れてきましたぜ」

ロジャーの部屋に入ると全員が集まっていた。
それも少し緊張した趣(おもむ)きで。

「シオン。俺達はこのシャブリ帝国でやらなきゃいけない事ができた。
 上手くいけば儲けもデカイ。
 だがな、シオン。お前は邪魔になる」
「!!!!!!!!」

邪魔ってどういう事だよ!

「ロジャーさん、そんな言い方ではシオンが誤解しますよ」

ロジャーは少し困った顔をしながら苦笑する。

「邪魔って、どういうことですか」

俺は意味が分からず問いかける。

「良く聞けシオン。この国は近々戦争になる。
 シャブリ国民は当然だが、俺達冒険者も戦力の対象となる。
 無論それなりの報酬は出るがな」
「それと俺が邪魔になるって、どう結びつくんですか」

「戦争に参加できるのは十五歳以上の成人男性と言う事だ」
「・・・・・・・・・・・・」

「それにだな。この王都にも火種が降りかかると俺達は予想した」

クウ達四人は「うんうん」と首を小さく縦に振る。

ロジャーの話しを要約するとこうだ。
今、ゴルティア国では王座を巡り内戦中だ。
その隙を狙いゴルティア国へ行進し国を奪い領土を広げる気らしい。
正式な王様が居ない今、指揮系統もバラバラなので落としやすいと言う事だ。
しかし、この計画を考えているのはシャブリ帝国だけではなく、それそれの隣国も同じ考えらしい。
そうするとシャブリに面したアルタ国辺りが、兵士を大幅に移動した隙にこの国へ攻めてくる可能性があると言う事だった。
したがってこの王都は諸戦火の中心地になるだろうとロジャーは予測した。

が、この王都に居る限り逃げ道は無い。
東の街道はゴルティアに繋がっており戦争真っただ中になる。
北は高い山脈で《死の山脈》とも呼ばれている。超える事はできない。
南は…、当然の如くアルタ国が存在している。逃げ道は無い。
あるとすれば西側にある海から船で脱出するのみだった。詰んだね。

!!てか、船で逃げればいいじゃん!
そうだよ。皆で船で避難すればいいんだ。

「俺達は残って戦う。お前は…船で避難しろ」
「!!! 何で僕一人で逃げなきゃいけないんだよ!?
 皆で逃げればいいじゃん!」

「そう言う訳にもいかねぇんだ。大丈夫だ。戦争が終わったら迎えに行く」
「ヤダ!絶対に嫌だああああああああああ!
 皆と一緒が良いいいいいい!」

「我がまま言うな!これは決まった事なんだ!」
「・・・・・ヤダ…。一緒が良い・・・・」

ロジャーは困った顔で、苦笑しながらシオンの頭を撫でた。

「心配するな。必ず迎えに行く」
「そうっす。迎えに行くっすよ」
「だな。小さな島だけど良い所らしいぞ?」
「そうですねー。私達が迎えに行くまでに魔石を幾つか集めといてもらえれば
 嬉しいですね」
「・・・・・・それってファインさんが欲しいだけじゃ・・・・」

「ははは、そりゃ良いな。シオン頼めるか?」

俺は涙目になっていたが、涙を流すまいと必死で堪え、「・・・・うん」と答えるのが精一杯だった。

「よし。そうと決まれば出発は明日だ」

早くね?今すぐ戦争が始まるわけでもないのに明日とか。
早過ぎだろ!!


67: ムーン [×]
2016-04-16 20:16:15

====== 



まぁさ、俺が何を言おうがもう決定事項らしいし、これ以上議論しても無駄だと悟ったよ。
ロジャー達なら俺が居なくても早々簡単には死なないだろうしさ。
ここは物分りの良い子供の振りをして頷いとく方がいいよな。

「シオン、忘れ物は無いか?」
「うん。ない」

今俺が居る場所はドラグの港だ。
ここから少し離れた場所に在る《アシデ島》に行く船が出る場所である。
ここに来る前に色々と食料を買い込み無限異空間袋にも突っ込んだ。
島に行くまで五日はかかるんだとさ。

たった数ヶ月の別れのはずなのに、何でこんなに寂しいんだろうな。
もう一生会えなくなるわけでもないのに、何でこんなに胸が苦しいんだろうな。
一人暮らししてた事だってある。(前世でな)
親元離れて海外留学したことだってある。(前世で…)
訳も分からず死んで、一生両親と会えないと悟った時でさえ…こんな気持ちにはならなかった。
何でだろうな…。
そう考えてたら何か温かいものが頬を伝わった。涙だ…。

「あれ?何だこれ…」

必死に堪える涙。しかし涙は無情にも止まる事はない。
ほんと、子供の体って正直だよな。

「シオン、これ持ってけ」

ロジャーは小袋に入った物を渡す。
それはシオンの手にはとても重く、ずっしりとした固い感触がするものだった。
涙を流しながら不思議そうな顔をするシオンに向かい、

「俺が預かってたお前の取り分だ。好きに使えばいい」

中を見ると銀貨がぎっしりと詰まっている。重さからすると百枚以上はあるだろうか。

「でも…僕は…」

俺は奴隷として買われた身。金を貰えるような身分ではない。

「・・・・・お前は俺の息子だ。これ位はさせろ」

その言葉に俺は泣いた。声を上げて泣いた。
この世界に来て初めて掛けられた、俺が今までに最も欲しいと思っていた言葉だったからだ。

生まれて直ぐに親を亡くし、ずっと一人だった。
乳児院の人達は優しかったが俺にだけ優しかったわけじゃない。
孤児院では悲惨なものだった。あそこは恨みしかない。
ロジャーは厳しかったけど優しかった。
それでも他人だと思って一定の距離を取っていた。
気に食わない事があっても、飼い主だと思っていたから反抗もしなかった。
生意気なガキだったと思う。
それでもロジャーはいつも俺の事を気にかけてくれてた事は知っている。
良い事をすれば褒め、悪い事をすれば怒られて殴られた。

・・・・・そっか…、父親なら当然か…。

「ロジャァァァ…行きたくないよぉぉぉ・・・・」

俺は泣きながらロジャーにすがりついた。
ロジャーの顔も苦しそうだ。
いくらしっかりした子供だとは言っても、まだ十二歳なのだから。
心配ではないという方がおかしいのだ。

「約束だ…。必ず迎えに行く。それまで待ってろ」

ロジャーは俺を自分の体から引き剥がし、船の方へと促す。
俺が桟橋を渡るとロジャー達は俺に背を向け街の方へと歩きだして行った。
五人の背中が少し小刻みに震えているのが分かる。
あの屈強な五人が泣いてる。俺にはそう見えた。
俺に泣き顔を見られまいとして足早にこの場を離れたのだろう。
だから俺は精一杯の大声で叫んだ。

「ロジャーああああああ!クウううううううう!ファインさああああああん!
 リカルドおおおおおおお!クリフうううううううう!
 死ぬなよおおおおおおおおお 」と。

この雑多な人と声の中で、俺の声が聞こえたのか、五人は拳を握り締めた右手をかち上げ、別れの挨拶となった。
ただし後ろを向いたままだったがな。

俺はゆっくりと岸を離れて行く帆船の手摺に捕まり、港に居る人の姿が見えなくなるまでその場に立っていた。
足元にいるシルバーは疲れたのか、丸くなって眠ってしまったようだ。
そんなシルバーを見つめながら徐にしゃがみ込み、呟くように小声で言う。

「二人っきりになっちゃったな。・・・・・お前だけは離れて行かないでくれ…」

俺の言葉にシルバーは、目を瞑ったまま尻尾を小さく振る。
空気の読める魔物で助かった。
泣き顔は見られたくない。
今の俺の、数少ないプライドだから。



遠くに見えていたドラグの港はいつの間にか小さくなり、徐々に視界から消えていった。

よし!湿っぽいのはお終いだ。
今日からは俺とシルバーの二人っきりだ。
ロジャーが迎えに来たら、うんと強くなってる俺を見せて驚かせてやろう。
そして・・・・褒めてもらおう。


68: ムーン [×]
2016-04-17 14:24:32

第二十二話
■ ローズと密航騒ぎ ■



前から思ってたけどさ、こっちの世界って科学力低くないか?
車の代わりに馬車。電気の代わりに電魔石。
水は井戸から汲んでくる。何世紀前の時代なんだって話だよ。
そして俺が今乗ってる船だってさ、電力無しの帆船だ。
全てが風頼りってやつだ。

普段は意識的に精霊を見えない様にしてるから気が付かなかったけど、風の精霊が帆に纏わりついてるし、甲板のあちらこちらにも多くの精霊が遊んでる姿って・・・・ちょっと可愛いぞ。
あっ…シルバーの毛の中で寝てる奴もいるわ。

あの帆先に泊まってる精霊は他の精霊より少し大きいな。
多分上級精霊だろう。
上級精霊が居るって事は、今回の旅は順調だって事でいいのかな?良いんだよな。

しかしこの船はデカいな。
遠洋なんだから小舟じゃダメだって事は分かるが、木でこれだけの船を作るのは大変だったろうな。
でもさ、魔石と言う便利アイテムがあるのに何でそれを使わないんだ?
帆船もいいけど足は遅いだろうに。
それなら風魔石を使ってスクリューみたいに使えば早く出来ると思うんだけどな。
何故しないんだろう。
まぁ、俺には関係が無いけどな。


辺りを見回すと甲板には数人の人が風にあたっている。
いくら大きな船だとは言っても船酔いをする人はいるもんだ。
俺?俺はだな。
船酔いキターーーーーーって思ったら即ヒーラーだ。
ヒーラーはいいぞ。完全回復魔法だからな。

ここの医務室にも光の魔術師が居るそうだがヒールだけらしい。
ヒールだと一時凌ぎの回復にしかならないから、一時間後にはまた船酔いが襲ってくるんだな。頑張れ。
だから甲板にいる人の九割方ヒール切れで間違いないだろうな。

俺もそろそろ中に入るか。

「シルバー、行くぞー」
『もう行くのか?』

「荷物を置きにな。」

船内に入るドアを開けると下へ降りる階段がある。
大人が横に並んで三人分くらいの幅だ。
壁には電魔石が等間隔で埋め込まれており、薄暗いが不便はない。
シルバーは俺が抱いてるので、犬嫌いの人がいても大丈夫だろう。

階段を下っていくと、地下一階は個人部屋と二人部屋、それと三人部屋がある。
その下にある地下二階は大部屋だ。
言わなくても分かると思うが、地下一階はそれなりに料金が高い。
利用するのは貴族や商人くらいなものだろう。
当然俺達は地下二階にある大部屋だ。

ドアを開けると、部屋の両脇に二段ベッドが五組づつ置かれている。
つまり、二十人部屋と言う事になる。
中を見渡す限り空きベッドは無いようだ。
階段に近い部屋は人気があると言う事だろう。

結局一番奥の部屋に空きベッドがあるのを見つけ、俺はその部屋に入った。
ドアを開けるなり部屋の奴等が俺に注目してきたが無視だ無視。
どうせ、出来損ないのガキが何でここに居るんだ?って思ってるんだろうさ。
そう言う目をしてるし。

俺は視線をスルーしつつ、空いているベッドの上へと荷物を投げ入れた。

「よっこいせっと」

短いハシゴをよじ登りながらシルバーをベッドに乗せる。
どうやらこの部屋に居るのはシャブリからの避難民っぽい。
小さな子供を連れた母子連れや年寄りが目立つ。
若い男が何人かいるけど多分、貧乏商人だな。
なるべく関わり合いにならないようにしとくか。
面倒事に巻き込まれても嫌だしな。

俺はベッドに横になり、ゴロゴロしながらシルバーと遊んでた。

「お手」
『俺は犬じゃない!』

「でもさ、これから犬の振りをするなら「お手」くらい出来なきゃダメだろ」
『そ・・そうなのか?』
「そうだよ」

シルバーは少し考えていたが、意外と素直に「お手」を習得した。
やっぱコイツ可愛い!

仰向けになってお腹を出しているシルバーに顔を埋め、思いっきりスリスリとした。

『やめろって!くすぐったいだろ!』

文句を言うが止められない。
これぞ至福のひと時というものだ。気持ちいいなぁ~。

「おい・・・。あの出来損ない、何かブツブツ言ってるぞ。」
「ああ。気持ち悪いガキだな」
「あの子の所に近寄っちゃダメよ」

物凄い言われようだな…。

『ふっ。そりゃそうだろ。
 俺との会話は頭の中で出来るって言わなかったか?』
「そう言えばそうだった…」
『自業自得だ。バーカ』

・・・・・・・・・、犬にバカって言われたよ…。

『犬じゃない!俺は妖狼だ!』
「あっ・・・・・」

慣れないな…分かっちゃいるんだけどついつい言葉に出しちゃうんだよな。
気を付けよう。うん。
てか腹減ったな。
確か地下三階には食堂と売店があったはずだ。
廊下の見取り図に書いてあったはず…。もう一回確認しとくか。
その前に。

「シルバー、これ付けようか」

俺はリュックから長い紐と輪っかを取り出した。

『それは何だ』
「さぁ、シルバー。この輪っかを首に嵌めような。カッコいいぞー」

シルバーは大人しく輪っかと言う首輪をはめられた。

『その紐はどうする気なんだ?』
「これを付けないとベッドから降りれないシステムなんだ」

システムと言う言葉の意味は分からなかったようだが、ベッドから降りられないと言う事は分かったらしい。
これも大人しく装着された。

「はい、準備OK。行こうか」

首輪を付けられ、紐で繋がれたシルバーは、どこからどう見ても「犬」だった。
だが、シルバーはその事を知る由もない。
知らぬが仏とはこの事だよな。愛いやつめ。



69: ムーン [×]
2016-04-17 14:25:20

====== 


地下三階。流石にシルバーを連れては食堂には入れないだろう。
なので売店の方に来た。

へぇー、結構充実してるな。それに中も広そうだ。大体コンビニと同じ位の大きさのようだ。
中の様子もコンビニの配置とさほど変わりないな。分かり易い。
入り口の側には日用雑貨。奥の方に行くと食料関係が並んでいる。
入り口付近の左手には会計台があるので、バカな考えの奴はいないだろう。
いたとしても、ここは海の上だ。逃げ道は無い。直ぐに捕まるのが目に見えてるな。

食い物は何があるのかな。
おお。焼きたてじゃないが美味そうなパンが並んでるな。
パンだけじゃ何だし、スープも欲しいよな。
てか何だよ。スープを買う時は皿持参かよ!聞いてねぇよ!
あっ!だから入り口んとこに日用雑貨が売ってたんだ…。流石商人。大阪の商人もびっくりだな、おい。

俺は適当に皿を二つ手に取る。
一つは俺の分。もう一つはシルバーの分だ。
後はパンを買って、甲板にでも出て食うかな。
あれ?この売店には水も売ってるのか。
水道とか無いから当然か。
しかに何だな。水魔法を使えないやつは不便だな。水も買うしかないとは。

食堂に比べると売店の方が幾分安いのか、あまり金のなさそうな人が目立つ。
俺もそのうちの一人なんだが。
パンやスープが多少冷えててもあまり気にならない俺にとっては有難い。
出来るだけ出費は押さえたいからな。
それに、俺は水も出せるし、温風魔法でレンジの要領で温める事も出来る。
何ら問題は無い。

パンを二つと冷えたスープを買い、俺達は甲板へと向かい階段を上がっていった。
さっきより人が多い。船酔いか?

甲板の隅の方に置いてある樽や木箱の側に行くと、ここは丁度死角になるのか誰も居ない。
此処なら人の目を気にしないでゆっくりできると、床に座り込み先ほど買った冷えたスープに温風魔法をかけて床に置く。
ほんわり湯気が立ち上がり美味しそうな匂いがしてくる。

「食べようぜ、シルバー」

ハグハグと食べながら、シルバーは「まぁまぁだな」と言いつつも完食し、満足気な顔をしている。

「静かでいいな」
『なぁ、』
「なんだ?」

シルバーは俺の顔を見ながら訝し気な顔をする。

『気になってたんだけど、聞いてもいいか?』
「答えれる質問なら答えるよ」

『ロジャー達じゃない他の人間。アイツ等はどうしてシオンの事を「出来損ない」と
 呼んで蔑むんだ?』
「ああ、その事か。
 人族ではね、髪の色が重要でね、色が濃い程魔力も強いって思ってるんだ。
 だから僕みたいな髪の人間は魔力の低い「出来損ない」って言われてるんだよ」

『はぁ?!それって可笑しくないか?どこからどう見てもお前の方が強いだろ』
「普通の人間には見た目で強さなんて分からないよ」

『そりゃそうだけどさ…。嫌じゃないのか?』
「うん。もう慣れたしね」

『慣れるもんなのか?』
「慣れるもんなんだよ」

『シオンがそれで良いなら俺は別に構わないが……、何で何時もと話し方が違うんだ』
「ああ、今までならロジャー達がいただろ?
 シルバーとは素で話してたけど、ロジャーや他の人間には年相応に話してたのは
 分かるよな?」
『それは分かる』

「今までは言葉の切り替えができてたけど、これからはほぼシルバーと話す事になる。
 油断してたら巣が出ちゃうじゃないか」
『出たらまずいのか?』

「まずい・・・と、思う」
『何故だ』

「結論から言えば目立ちたくないから。
 生意気なガキだと思われて、喧嘩を吹っ掛けられてこられても迷惑だし。
 それに、僕の力は普通じゃないからね…。
 子供が一人で旅をしてたら、その力に目を付けられて利用しようと考える奴等も
 出てくるだろうし。面倒だろ?」
『確かにそれは面倒臭そうだな』

「だからシルバーも協力してな」
『おう』

木箱にもたれ掛りながら話していると、人の気配が近づいて来るのを感じた。
しかしここは海の上。盗賊や魔物など現れるはずがない。
そう思い油断していた。

「えっ?!」

いきなり背後から聞こえたその声は、シオンにとっては天敵とも呼べる人物の声だった。
後ろを振り返り声の主を確認すると、そこにはローズが立っていた。

「えっ・・・・・?」

お互いに顔を見合わせて固まっている。

何でアイツがここに居るんだよ。
ドラグに居るんじゃなかったのかよ。
はぁ~・・・・、またこいつの嫌味を聞かなきゃいけないのか?
勘弁してくれよ…。

「何であんたがここに居るのよ」
「・・・・・・・・・・・」

仕方ない。無視しとこ。

「答えなさいよ!」

ああ‥‥こうなるとコイツ面倒くさいんだよな…。
仕方がないか。簡単に説明しとこう。

そう思った矢先である。

「分かった!アンタ逃げて来たんでしょ!
 今王都は混乱している。その隙に逃げた。そう言う事ね!」
「な・・・・」

俺は理由を言おうとしたが、ローズは知ったこっちゃない。
口早に俺の言葉を遮り、捲し立ててきた。

「でも何であんたがこの船に乗ってるのよ。
 ああ!分かったわ!あの人たちのお金を盗んで舟券を買ったのね!
 あっ!まさか密航!?だからこんな場所で隠れてるのね!」

・・・・・・・・・。
初めて会った時から思い込みの激しい奴だとは思ってたが、ここまで重傷だったとはな。
怒るどころか哀れにさえ思えてきたぞ…。

ローズのあまりの言いように、シオンの傍で聞いていたシルバーもご立腹のようだ。
「グルルルル…」と、唸り声を上げていた。

「えっ?何?どうしてアタシが唸られるの?
 アタシは何もしてないわよ?シルバーちゃん」

「シルバー。僕は大丈夫だから」
『シオンがそう言うなら…。でも俺は、こいつは気に入らない』

そう言うと「ふんっ」っと鼻先で大きな息を吐きそっぽを向いた。

「話はそれだけですか?ローズさん」

もう雇われている訳じゃないから「お嬢様」とは呼ばなくてもいいだろう。
赤の他人だ。関わり合いになるな。
コイツに関わると碌な事が無いからな。

「えっ?!」
「用が無いなら失礼しますね」

俺は床から立ち上がり、船内の入り口の方へと歩いていった。

「えっ?えっ?!チョット!!待ちなさいってば!」

後ろで何か叫んでるけどシラネ。
シルバーは呆れ顔で付いて来てる。愛いやつだ。



部屋に戻ると子供が青い顔をしてベッドに寝ていた。きっと船酔いだろう。
早く医務室に連れてけばいいのに。
看病をしてる母親の方も少し顔色が悪いように見えるが、母親も船酔いなのか?
でも俺がどうのこうの言える立場でもないし、言っても怪訝な顔をされるだけだもんな。
さっきだって汚物を見るような目つきで睨んでくれたしな。放っとこう。
大人なんだし、いざとなれば医務室にくらい行くだろう。


70: ムーン [×]
2016-04-17 14:25:56

===== 


あれから一時間は立ったが、医務室に行く気配はない。何故だ。
母親の方は放って置いても大丈夫そうだが、子供の方は苦しそうだな。
どうするかな・・・・。

俺は壁の方に身体を向け死角を作った。
そして無限異空間袋から薬草を幾つか取り出し魔術を込める。
初めて使う錬金魔術だが問題ないだろう。

錬金魔術を習得する前でも、二種類の薬草なら混合で来たしな。
今回は船酔い止だから三種類になる。
体力回復の薬草と気持ち悪さを消す毒消しの薬草。それともう一つ、神経強化剤の薬草だ。
何かの役に立つと思って取っといて良かったよ。

即効性がある方が良いから錠剤よりはポーションだな。
確か暇な時に幾つか作った小瓶があったはずだ。
無限異空間袋の中に手を突っ込み念じる。
『小瓶』
出て来た小瓶の中に酔い止めのポーションを入れていき、入れ終わったらコルク栓をする。
全部で十本出来上がった。
意外と沢山出来るもんなんだな。
まぁ、瓶自体も小さいけどな。

瓶の大きさは直径3㎝、高さ5㎝程度の物だ。
中の液体はピンク色をしており、お子様でも飲みやすいイチゴ味仕様だぞ。
俺ってば気の利く男だろ。

『それ、自分で言って虚しくないか?』

うるせ…。
てか、俺の思考ダダ漏れなのか!?

『そんな訳ないだろ。ダダ漏れなら煩くて仕方がない。
 シオンが強く念じるか構って欲しいと思った時だけだ』

・・・・・今サラッと変な事言わなかったか?
構って欲しいとか・・・・。

シルバーは「聞こえませーん」と言うように大きな欠伸をして丸くなって目を瞑った。

何か上手くかわされた様な気もするが、聞かなかった事にしよう。
うん。そうしよう。
俺は気を取り直して残り九本のポーションを無限異空間袋の中に入れ、一本を手に持ち子供のベッドまで行った。

俺が近づいて来た事で警戒心を露わにする母親だったが、怒鳴りつけて追い払う気力がないようだ。
青い顔をしながら「何しに来たの」と言うのが精一杯の様だった。
俺は手に持ってる酔い止めを差し出し、

「これ、その子に飲ませて」
「何?この変な薬は。こんなもの飲ませてウチの子が死んだら困るわ」

「変な薬じゃないです。船酔いを治す薬です」
「・・・・・そんな高価なもの、何で貴方みたいな子供が持ってるの」

えっ?これってそんなに高価なものだったんだ…。失敗した。
何か言い訳を考えなきゃ‥言い訳言い訳…。

「えっと、父さんから渡されたんです。船に酔ったら飲めって(ロジャーごめん)」
「そう…、貴方は家族に大切にされてたのね」

なんか意味がよく分からないが、「はい」とだけ答えておいた。

多分この世界では、俺みたいな髪の色の子供は家族にも虐げられているみたいで、俺が昔いた孤児院の子供達もみな、親に捨てられた子供ばかりだった。
それに、町のかなを歩けば石を投げられる事もしばしばだ。
それだけ忌み嫌われていると言う事だ。
別に悪さをするわけでもないのにな。

でも、仕方がないと言えばしかたがないのかもしれない。
孤児院から出ても働き口などあるはずもなく、奴隷として売られるか、そこから逃げて盗賊にでも成り下がるしか生きる道は無いんだからな。

確かにさ、髪の色が薄いと魔力も小さいが、普通の濃さの奴の中にだって魔力の小さい奴もいるんだぜ?
そいつ等は虐げられなくて色の薄い俺達だけが虐げられるって可笑しくないか?
なんか変だよな。
俺の推測だ正しければ、人族そのものの魔力も低くなってきてるって事じゃないのかな。
色の濃さなんか関係が無い。そう考えれば頷ける。
現にこの母親の髪の色は緑だ。それも綺麗な緑。
それなのにパッド君で見る限りはHP:900 MP:900だぞ。俺より弱い。
まぁ、これだけあれば魔物の一匹や二匹は楽に倒せそうだけどな。


母親が俺の手からポーションを取るとそれを子供に飲ませた。
ポーションを飲んだ子供はみるみるうちに元気になり、ベッドから起き出し、「お腹空いたぁ」と言った。
母親は安堵の顔をすると鞄の中からパンを取り出し、それを子供に与える。
よほど腹が減ってたのか子供は夢中でパンを食べる。そして咽(むせ)た。

「ゲホンッゴホンッ」

子供の背中を摩る母親。見ていて微笑ましい。
俺も小さい頃は母親に同じ事をされてたっけな。(前世で)

この事が切っ掛けで、俺はこの親子と仲良くなった。
同じ部屋に居る貧乏商人達ともついでに仲良くなった。
険悪な雰囲気でいるより仲良くしていた方がいいもんな。

でも俺は、これからの事を考えると、極力魔術を使わないでおこうと考えた。
見た目判断がこの世界のデフォなら、俺はそれを利用させてもらう。
その方が厄介事に首を突っ込まなくセすみそうだからな。


71: ムーン [×]
2016-04-17 14:26:48

===== 


二日目の昼。仲良くなった数人と甲板で飯を食べていた。
売店で買った物を床に置き、昨日とは違い人がいるのでスープは冷たいままだ。
それでも美味いんだから、これを作った料理人は腕がいいな。

が。パンとスープだけと言うのも物足りない。
肉とまでは言わないが魚もたまには食べたいところだ。
運よく目の前には広大な海が広がっている事だし。
ここは一丁釣りとでも洒落込みますか。

食事が終わり、海風に当たりながらボーっとしてる大人たちを尻目に、俺は無限袋から一本の釣竿を取り出した。

「ボーズ、何をする気だ?」
「魚を釣ろうかと」
「あら良いわね。どうせなら大きいのを釣ってちょうだい」

「釣りか!ボウズ、もう一本ないのか?」
「ありませんよ…」
「そうか・・・」

何かガッカリしてるぞこのおっさん。
そんなに釣りがしたかったのか?

「代わりに釣ります?」
「いいのか!?」

やっぱり釣りをしたかったのか…。
何処にでもいるんだな。釣り吉おっさんって。

「はい、どーぞ」

おっさんは大喜びで釣竿を手にして尋ねる。

「餌は無いのか。エサは」

ああ、そうか。ここには《ルアー》と言う物が無いんだな。
俺の釣竿にはルアーが付いている。エサなど必要ないのだ。

「その糸の先についてる魚があるよね。それが餌の代わりになります」
「ほほぅ。で、この変な物は何なんだ?」

おっさんはリールを指さし聞いてきた。
リールも無かったのか…ヤバイな。誤魔化せるかな。

「それは糸の長さを調節する道具です。
 そのつまみを回すと糸が短くなります。」
「ほぅー。誰が作ったんだ?」

やっぱそこ聞くか。

「・・・・父です。(ロジャーごめん!)」
「お前のオヤジさんって凄い人物なのか?」
「いえ、それ程でも?」

何故疑問形で返す。俺。
って言うか、段々ロジャーの人物像が凄い事になってきてないか?
大丈夫かな…。
高価なポーションを子供に持たし(一本銀貨二枚相当らしい)、奇妙は釣竿を作る父親。
奇天烈すぎるだろ…。自重しよう。

おっさんは意気揚々と釣竿を放り投げた。そして巻き戻す。
使い方は俺が教えたんだけどな。

三回ほどそれをやってたらアタリが来た。

「おお!?何だ何だ!?引っ張られるぞ!」
「ゆっくりと巻いてください。急激に巻くと糸が切れます」
「おっ、おお」

十五分程の格闘の末、顔を見せたのはオオヒラダイだった。
コイツの肉は美味い。市場で高値で取引される事もある魚だ。
やったな。おっさん。

「こりゃあ凄いな。市場で見た事はあっても食った事はないぞ…」
「ご馳走ですね」

そう言って俺は笑顔で答えた。
おばさんの方も高級魚が釣れた事によって、目を丸くして嬉しそうな顔をしている。

「どんどん釣っちゃいましょう!」
「おうよ!」

張り切ったおっさんの勢いは止まらず、あれよあれよと言う間に十匹ほど釣る入れ食い状態だ。
中にはイワシやサンマの様な物もあるが、時々釣れる高級魚に興奮していた。
俺達の騒ぎに気が付いた見物客も集まり、ちょっとした見世物状態だ。
その中に天敵ローズの姿があった。

「アンタ。こんな所で何してるのよ」
「見ての通り釣りですけど?」

「そんなの見れば分かるわよ!
 アタシが言いたいのはね!密航者がどうして堂々とここに居るのかって事よ!」

当たりがざわつく。

「密航者だって?」
「出来損ないだ何でここに居るのか不思議だったが密航者だったのか」
「誰か船員に言いに行った方が良くないか」
「まったく図々しいわね」

などと言う暴言が聞こえてきた。
周りの反応に気を良くしたのか、ローズの顔は満足そうだ。

暫くすると船員を伴った乗客が戻ってきた。

「こいつです」

乗客の男が俺を指さすと船員が俺の腕を引っ張り怒鳴る様に言った。

「貴様、いつの間に船に乗った!」
「いつの間にって、初めっから乗ってましたが」

そう言いながらゴソゴソと無限袋から乗船の切符を取り出した。

「はい、これ。」

俺から渡された切符に不備はない。
ちゃんと魔登録をしてあるので俺の顔が浮き出ている。
こう言うのは便利だね。

「た、確かに正規の手続きで購入した物だな」

そう言うとバツが悪かったのか、連れて来た男の方に視線を向けた。

「いや…その。
 そ、そう!あの子が言ったんですよ。この子供が密航者だって!」

そう言って今度はローズの方へ指をさすと。

「ほほぉ~。君がこの騒ぎの元か」
「えっ?ええっ?アタシ?!」

ローズはあたふたとしてるが、元はと言えばお前が悪いんだろ。
人の事を勝手に密航者呼ばわりしやがって。
確か十五歳は大人なんだよな。
大人なら自分のケツは自分で拭かなきゃダメなんだぞ。

あぁあ、怒られて涙目になってら。
しょうがないな、助けてやるか。

「あの~」
「なんだ?」

「ローズはチョット勘違いの激しい子なんです。許してもらえませんか?」
「なんだ?お前の知り合いか?」

「はい」
「ちっ。しょうがねぇな。今度こんな騒ぎを起こしたら只じゃおかねぇからな」
「ありがとうございます」

ふぅ~。やっと騒ぎが収まったよ…。
だから嫌なんだよローズに関わるのが。

「ふん。お礼なんか言わないからね。元はと言えばあんたが悪いんだから」

えっ?俺何かしたか?

「僕、何もしてないと思うよ?」
「昨日アタシが聞いた時にアンタ答えなかったじゃない!」

それかよ!!!
ここは一つ忠告しといた方がいいかもな。

「それはさ、初めからローズは僕の事を疑ってかかってただろ?
 逃げたとか密航者だとかさ。
 本当の事をいっても信じてくれないだろ?
 だってローズは僕の事を見下してるんだから」
「だ、だってそれは!アンタが出来損ない…だから・・・」

ローズの声が尻つぼみになって小さくなっていった。
周りの人もローズと同じ事を思っていただろう。
だがそれでも、これだけ堂々と船内を歩いていれば密航者であるわけが無い。
もし密航がバレればす巻きにされ海の中へドボンだ。
そんなリスクを冒してまでやるバカはいないだろう。

ローズって黙ってりゃ可愛いのに喋ると残念な奴だよな。

「ところで、ローズは何でこの船に乗ってるんだ?」
「アタシはアシデ島にある魔法学院に行く事になったのよ。
 で、アンタは何でここに居るのよ」

どうしても理由を聞きたいわけね。
しゃあない。教えてやるか。

「僕はロジャーに言われたんだ。
 戦争が終わるまでアシデで待ってろって」

「ふ~ん。ならアシデに居る間アタシの奴隷にしてあげてもいいわよ」
「断る!」

即答で断ってやった。
なんでローズの奴隷にならなきゃいけないんだよ。
自分、何様だと思ってるんだ?

あっ。変な顔。口をパクパクさせて、陸に上がった鯉みたいだぞ。

「な、な、何よ!なんで断るのよ!!」

今度は逆切れかよ…。勘弁してくれよな・・・・。

「僕は奴隷になんかなりません。
 ロジャーが迎えに来るまで一人で頑張りますので、心配は御無用です」
「一人で頑張るって言ってもお金が無きゃ生活していけないじゃない!」

「お金の事なら心配いりませんよ。
 ロジャーがちゃんと持たせてくれましたから。
 それに、僕は働きますからね」
「アンタみたいな出来損ないなんか誰も雇ってくれるはずないじゃない!」

「・・・・それでも僕は、一人で頑張ります」
「勝手にしなさいよね!どうなっても知らないから!」

そう言い残しローズは去っていった。

ふぅ~・・・。荒らしは過ぎ去った。やれやれだ。
後ろを振り返ると、皆がキョトンとした顔で見ている。

「どうしたんですか。そんな顔をして」
「いや・・・、凄い子もいるもんだな…と」
「ええ、本当に。どう言う躾をされたらああなるんでしょうね」

一般人から見てもローズは残念な子と言う事が良く分かったよ。
ご愁傷さま。

「それより皆さん。晩御飯の下準備に取り掛かりませんか?」
「ああ、そうだな」




こうしてこの日の晩御飯は豪華な魚料理となった。
とは言っても、甲板で火を使う事は御法度なので、食堂の厨房の人にお願いをして色々と作ってもらった。
その見返りとして、高級魚のオオヒラダイ四匹のうち一匹を厨房の人にあげた。
一匹だけだったけど大喜びだ。
なにせこの魚。幻の魚と言われるくらい警戒心が強く釣れないらしい。
また釣れたら一匹お裾分けをする事で話しが付いたのだった。

たった一匹と思うかもしれないが、この魚、体長50㎝はある。
結構食い応えがあったぞ。
そんなこんなで、二日目の夜も更けて行った。




72: ムーン [×]
2016-04-17 20:01:38

第二十三話
■ タコと海遭難 ■



三日目。事件は起きた。
こんな海のど真ん中でどんな事件だよと思うかもしれないが、俺の目が確かなら、目の前にいるのは巨大なタコの化け物だ。
海に現れる魔物なんて初めて見たぜ。
はい!そこの人!今まで内陸に居たから見ないのが当たり前なんていうなよな。

たまにこう言う事もあるらしく、その為の専属護衛が乗っている。
でもその護衛達もこのサイズのタコは見た事が無いらしい。
あんな巨体でよくあんだけ機敏に動けるよな。
それに器用に八本の手を使い分けているぞ。
大丈夫かこの船。

太くてデカイ手?足?が勢いよく上から振り下ろされる。
何本かの足は護衛の人や乗り合わせていた冒険者によってロープで縛り固定されてるが、如何せん足が多すぎる生き物だ。埒があかない。
空いてる足で容赦なく船に攻撃が与えられ、所々穴が開いてるぞ…。
やっぱり俺も闘った方が良いのかな。

そう考えていると、巨大タコの背後に炎弾が落され、無数の炎の矢が飛んでくるのが見えた。
その矢は巨大タコに見事命中し、止めを刺す形で雷針が突き刺さる。
水と雷って相性抜群だもんな。ナンマイダ。

が。巨大タコは倒されたものの、無数に飛んできた炎の矢がこの船に数本刺さっていた。
イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!
これも一種のテロみたいなもんじゃねぇかよ!
前世は空で爆弾テロに合い。
今世では海で放火テロ?!
マジ勘弁して!!

船に燃え移った炎が段々と上へ登ってき、船客は大混乱だ。
こう言う時の為に避難ボートがあるらしいが、四隻ってどういう事だよ!おい!
ギュウギュウ詰めに乗ったとしても一隻に二十人が良いとこだろうがよ!
この船の乗客が何人いると思ってるんだ?
百人以上はいるぞ。
船で働いてる人も含めたらもっとだ。
無理だ。詰んだな。
てか、俺今回で何回目の詰みだ?
ああ、もう!そんな事はどうでもいいから早く逃げないと!

あっ!そんな事言ってるうちにちょっと待てって。
一隻海に降りたぞ。
ちょっと待てそこのボート。十人しか載ってないのに降ろすなや!
ああああああああああああ!!
他のボートも降りやがった!
待て待て待て!!!
お前等船乗りだろ?!
そのデカい帽子は船長じゃないのか!?
船長が我先に逃げていいのかよ!!!!

ハハハハハ・・・・。これはもう笑うしかないな…。
マジで詰んだわ・・・・。


73: ムーン [×]
2016-04-17 20:03:13



そこに、ゆっくりではあるが一隻の船が近づいて来た。
先程巨大タコから救ってくれた術者が乗ってる船のようだ。
おかげで助かったが死にそうになってるけどな!


「おーい。今ハシゴを渡すからこっちに乗り移れ!」

火の付いてない船の反対側に回った、向こうの船の船員が言う。
船に残された皆はこれで助かると安堵の様子だ。
が、そこは人間。我先に助かろうとハシゴの奪い合いになっていき中々進まない。
そして背後からは炎が顔を出しはじめた。

「早くしろ!」
「私が先よ!」
「俺が先だ!」

醜い言い争いは止まらない。

とうとう炎が甲板まで登り、床を伝って此方の方まで燃え移って来ている。

キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
助けてくれええええええええええええええええ
死にたくねぇえええええええええええええええ

そんな叫び声が次々に上がり、等々自ら海の中に飛び込む人も出て来た。
あと数人と言う所で、炎が自船に移るのを恐れた救助の船が離れて行く。
俺はそれを眺めながら残された人の方へ振り返った。
残されたのは俺を含め五人だ。
海の上にも未だ漂ってる人が十人チョットというところだろう。
この人数なら見られても噂は広まらないだろうと、俺は魔力を使う事にした。

この人達を見捨てて自分だけ助かっても寝ざめが悪いだけだしな。
気持ちを切り替え、俺は水魔法を炎に叩き込む。

「スコール」

瞬く間に雨雲が空一ぱいに広がり、勢いよく雨が降り注ぐ。
船を覆っていた炎は十分程で鎮火した。
急に雨雲が広がった事と、水魔法をこの様な使い方をするという考えがない人達は、これは自然現象だと思っているようだ。
偶然にも雨雲が広がり雨が降り出しただけだと。

だが流石にこのままではダメだ。
船が沈没してしまう。
焼けた側面から海水が入り込み、徐々に沈んで行ってるのだ。

どうせ沈没する船だ。壊してボートを作ろう!
そしてみんなを避難させよう。
そうと決まれば行動あるのみだ。
俺は甲板の板を風圧で持ち上げて剥がし、それを錬金術でボートにした。

「おーい。ここにボートが一隻あるぞー」

そう叫ぶと残ってた人が集まって来る。
全員がボートに乗り込んだのを確認すると、俺は風魔法で浮かせて海の上に置いた。
ボートに乗り込んだ人の中に緑髪の人が二人いたからだ。
何方かが魔法で浮かせて助けてくれたと思ってくれればいい。
そう考えての事だ。

俺が乗る前にボートは降ろされたが、この状況だ。
誰も俺の事など気にしてはいないようだ。
今はそれでいい。

俺は船内に戻り、部屋に居るはずのシルバーを助けに行った。
かろうじて地下二階まで海水は入っていなかったが、時間の問題だろう。

「シルバー。逃げるぞ」
『遅かったな』

「イヤイヤ。早く自力で出てきてほしかったよ」

逃げる際に最終確認だ。
逃げ遅れてる人がいないかを。


・・・・・・・・・・結果、居た。
地下一階の一人部屋にそいつは居た。
ベッドのシーツに包まり震えてるやつがな!

「お前・・・・何で逃げなかったんだよ…」

俺の声に気が付いたそいつは、涙と鼻水でグチャグチャの汚い顔で飛び付いてきた。

「だってええええええ、怖かったんだもんんんんんん」

はいはい分かったから離れような。
そして鼻水を拭け。
俺は無限袋から一枚のタオルを取り出し、それをローズに差し出した。

「汚いからいい」

この期に及んでまだ言うか!

「行くぞ」
「イヤ!」

「はぁ?!」
「こんな顔じゃ外に出られないし!」

こいつ状況を理解していないのか?

「この船は沈むぞ。それでもいいなら僕は何も言わないよ」
「えっ?!」

やっと自分の置かれた状況が呑み込めたか。

「良く見ろ。傾いてるだろ」
「・・・・うそ。。。」

「俺は行くからな。じゃあな」
「待って!アタシも行く!」

ハァ~…、まったく世話が焼けるぜ。

急いで甲板に上がり、さっき作って置いたボートに乗り込む。

「風圧。上へ」
「えっ?浮いてる?どういう事??」

ボートはそのままゆっくりと浮上し海の上へと下りて行った。

「えっ?何で何で??」

どうせ言っても信じないだろうからこのまま無視だな。うん。

「さぁ?誰かが風魔法でも掛けてくれたんじゃないのか?」

ローズは腑に落ちない顔をしているが無視だ無視。
さてどうするかな。
帆が無きゃ風の精霊達に手伝って貰え無さそうだし。
肝心のオールも無いと来たもんだ。遭難確定かも。

ハァ~・・・・、俺一人ならどうにでもなったんだよな。
手を海に突っ込んでつむじ風を起こせばいいだけだったんだよ。
そしたらボートはスクリューを得たように快適に進んでいったのにな。

ハァ~…、こんな魔法、ローズの目の前で使えないしな…どうすっかな…。


74: ムーン [×]
2016-04-17 20:05:05



俺達より先に避難したボートは、既に救助船に引き上げられていて、遠くにその姿が残るだけだった。
周りを見渡しても、飛び込んだ人の姿は無く、どうやら無事に拾われたようだ。
と、思っていたら、壊れた船の切端に人影が…マジかよ…。

どうせオールになりそうな板切れを探そうと思ってたところだ。
この際一人増えようが二人増えようが同じ事だな。
男だったら交代でボートを漕げばいいし、風使いなら風を起こして貰えばいい。
その他だったら?・・・・考えないでおこう。

手でボートを漕ぎながら人が居ると思われる場所に向かったが、中々先には進まない。

「ローズも手伝えよ」
「はぁ?!何言ってるのかしら。
 女性に船を漕げとはあり得ないわ」

「このボートには俺とお前しかいないんだぞ。協力しろよ」
「そう言う事は奴隷の仕事って決まってるのよ。知らなかったの?」

ダメだコイツ…。話しにならん。
やっとの思いで人影の所に辿り着いたが、既に息はしていなかった。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

「行こうか」
「そうね」

アシデに着くまでずっと二人きりで、こんな態度を取り続けられるのかと思うとゾッとする。
だから俺は聞いてみた。

「一つ聞いていいか?」
「何よ」

「お前が俺の事を蔑んでるのは分かる。
 でも何でそこまで格下に見られなきゃいけないんだ?」
「アンタ馬鹿じゃないの?出来損ないだからよ」

「だから自分の方が各上だと。そう言いたいんだな?」
「当たり前じゃない」

世間一般ではそういう考えだよな。
あながち間違いではない。

「なら各上のローズさん。この状況をどうにかしてもらえませんかね?」
「どうにかするって、どう言う事よ」

「そこは各上の偉いローズさんが考えてくれなきゃ、だろ?」
「何で私が考えなきゃいけないのよ」

「なら出来損ないの俺に頼るって事でいいんだな」
「頼るわけないでしょ!アンタに何ができるって言うのよ!

「ならこのまま遭難って事でいいんだな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。それはイヤ」

やっと状況が呑み込めたようだな。
こんな状況でも偉そうな態度が変わらないってのも一種の特技かも知れないな。
大物かもしれない。

「で、どうする気だ」
「・・・・・・・分かんない」

どんだけ甘やかされて育ったらこんな子供が出来るんだよ。
俺の一番嫌いなタイプだわ。

「一つ確認だが。お前は絶対に協力はしたくないんだな?」
「当たり前じゃない。
 何故アタシがそんな奴隷の真似事をしなきゃいけないのか分からないわ」

「了解。よーーーーーーーーく分かった」
「ふん。分かればいいのよ、分かれば」


ローズとの話し合いの後、丁度良い長さの板切れを見つけた。
これを媒体にしてつむじ風を起こし移動する事にした。
どうせボートをどうやって漕ぐかなんてローズは知らないだろうから大丈夫だろう。
しかし問題は進む方角だな。
確かクリフが言ってたな。アシデ島は、ザイル星が見える方向にあるって。

俺は夜になるのを待って、ザイル星目掛けてボートを進める事にした。
しかし、魔物騒ぎや沈没騒ぎで昼飯を食ってない俺達は空腹だと言う事に気が付いた。

「お腹が空いたわ…。そうだ。おやつが有ったんだったわ」

ローズはゴソゴソとリュックの中を漁り、一袋のクッキーを取り出す。
俺がそれを見ていると、

「あげないわよ。あっ、でもアタシの奴隷になるんならあげてもいいわよ」

どこまで上から目線なんだか…。
働かないわ食い物は独り占めするわ、ジャイアンより酷いぞ。

「いらない」
「やせ我慢しちゃって」

何故そこで嬉しそうな顔をするんだ?
こいつどSなのか?

「自分の分はちゃんとあるんで結構です」

ローズは、何処にそんな物があるの?荷物なんて持ってないくせに。
と言いたそうな目をして俺を見る。
俺は無限袋から買い置きしておいた肉まんを三つ取り出すと、一つはシルバーに渡し食べた。
ローズはというと、その汚い袋の中に入ってたものをよく食べられるわね。と言いたそうな目をしている。
失敬な奴だ。見た目は汚くても中は異空間だから綺麗だぞ。

お腹が満たされると今度は喉が渇いて来たな。
取り敢えず水で良いか。

「シルバーも水飲むか?」
「アン♪(飲む)」

シルバーの前に皿を置き、その中に手から水を出して入れてやった。
俺も自分の皿に水を入れてゴクゴクと飲み干す。

「ぶっはぁ~。生き返った~」
「アンアン♪(最高の一杯だな!)」

「・・・・・いま、何をしたの?」

しまった!ローズが居たんだった…。
ここはもう開き直るしかないな。

「何って水を出したんだけど?」
「いえ、だから、何故水が出せるのかって聞いてるのよ!」

コイツは一々怒鳴らないと気が済まないのか?

「魔術使いなら誰でも出来る事なんだろ?
 俺にだって多少の魔力くらいいるさ」
「そうよ。その通りよ。
 だけどアタシが言ってるのは、水使いでもないアンタがどうして水魔法を
 使えるのかって聞いてるのよ!」

「出来るんだからしょうがないだろ」
「普通は出来ないのよ!」

「だって俺は普通じゃないし。出来損ないだからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

勝った♪
あれ?何の勝負だった?これ。




75: ムーン [×]
2016-04-19 20:02:20

第二十四話
■ ザイル星を目指したその先に… ■



あれから五日が経ったが一向に島らしき影が見えてこない。おかしい。
ローズは当然の事ながら食料など持っちゃいないし、自分の飲み水も出せないらしい。
一度やらせようとしたら、危なく船を壊されそうになってしまい、結局は俺が水係となる。

食べ物も持っていないので、仕方なく俺の常備品を分けてやったら

「そんな汚い袋に入ってる物なんて食べられるわけないでしょ!
 アタシがお腹を壊したらどう責任を取ってくれるのよ!」

だとさ。
それでも空腹には勝てなかったのか、最終的には食ってたけどな。
こいつ海に捨ててもいいかな?冗談だけど。

で、文句ばかり言うから新鮮な獲りたての魚でも食わせようと思って釣ったら、今度は

「生でなんて食べれるわけないでしょ!野蛮人!!」

と、来たもんだ。

仕方がないから手造り七輪で焼いてやったよ。
土魔法で形を作って、それを火魔法で焼き固めて出来上がりの自由研究程度の造りだけど、これが結構重宝するんだわ。

そう言う訳だから食い物や飲み物に関しては問題無かったな。
じゃ、何が問題なのかというとだな。
このお嬢様、ほんとーーーーーーーーーーーに、働かない。
ただ飯食うだけの役立たず。リアル

76: ムーン [×]
2016-04-19 20:04:16

ただ飯食うだけの役立たず。リアル

77: ムーン [×]
2016-04-19 20:05:33

「なぁ」
「何よ」

「疲れたから少し変わってくれね?」
「まさかアタシに船を漕げと言うのかしら?」

「そのまさかだ」
「いやよ。絶対に嫌」

「お前な…、食料も俺に世話されて、揚げ句の果ては漕ぎ手も俺か?
 言っとくけどな。俺はお前の奴隷じゃない」
「似たようなもんでしょ!」

「いや、全く違うから!」

そんな不毛な言い合いをしていると、シルバーが何かを感知したようだ。
鼻をヒクヒクさせながら遠くを見つめている。

『陸があるぞ。土と草の香りがする』

どっちの方角だ。

『このまま真っ直ぐだ』

分かった。ありがとう、シルバー。

俺はそのまま木の板に魔力を注ぎ込んだ。
この程度の魔力なら疲れる事はないんだが、長時間同じ体勢って言うのが疲れるんだな。
でもアシデに着けばローズからも解放されるし頑張るか!



それから一時間後。アシデ島が見えてきた。
でも何かおかしい。島にしては大きすぎる。
はて???


78: ムーン [×]
2016-04-19 20:10:00

※お詫び

反映されない言葉が入ってたようで、変な重複になってしまいました事をお詫びいたします。

(読んでくださる方がいると信じて)笑

79: ムーン [×]
2016-04-19 20:12:01

===== 



・・・・・・・・・・ここは何処ですか?
答え。魔大陸だそうですよ、奥さん。

何でだああああああああああああああああああああ!!!!!

クリフに言われた通りに、ザイル星に向かって進めて来たのに、何で魔大陸なんだよ…。
てか、魔大陸って何処に在ったんだよ…。
怪しすぎる名前なんですけど!

でも、見た限りゴルティア国と変わりないような…。
あっ、そうでもないか。
人族より魔族や獣族の方が多いかな。
それでも一応人族も居る事だし何とかなるだろ。
こういう場合は何処に行けばいいんだ?
大使館なんてあるわけないし。
警備兵とか門番あたりに聞けば良いのかな。
取り敢えず、今晩の宿屋を探してそこで聞いてみるか。



三十分ほど前、俺達はアシデ島だと思っていた砂浜に漂着した。
そこにボートを乗り捨て、徒歩で町を目指し歩いた。
俺の探索では、二㌔ほど先に大勢の魔力反応が映し出されたので、この数からいって魔物ではなく人だろうと判断した。

あまり使われてないのか、町に続く道も細い獣道状態で、草木を掻き分けながらの移動となる。
先頭はシルバー。真ん中が俺。最後から付いて来るのがローズだったが、やれ木が当たって痛いだの、虫が飛んでるなどと文句タラタラである。
道を掻き分けながら俺は最終確認を怠らない。
いくら女の子とはいっても俺よりは二つも年上だし、世間では十五歳は成人と言われてるんだから問題ないよな。
それに、町に入ってしまえば一人でも大丈夫だろう。
元々一人でアシデに来る予定だったんだし。

「町に着いたら俺達はそこで別れるって事でいいんだよな」
「当たり前じゃない」

そんな会話の後、町に着いてみるとどうもおかしい。
異常に町がデカすぎるのだ。
そもそもアシデ島自体を知らない俺は、こんなもんなのかと思っていたが、ローズが呟いた。

「アシデ島じゃない…」
「へっ?」

「前に来た時はもっと高い家が立ち並んでたわ。それに…」
「それに?」

「魔族や獣族が多すぎる」
「・・・・・・・・・・・」

町に違和感を感じてるローズだったが、やはりここでも自分から動こうとはしない。
業を煮やした俺は、食料補給も含めて饅頭屋の屋台に近寄って行き、買い物をしながら聞く事にした。
これはクウが良く使っていた手だ。

「あばちゃん饅頭五個ちょうだい」
「あいよ」

「あっ、そうだ。僕たち此処初めてなんだけど、なんていう街なのかな?」
「何だい。お前さん一人旅なのかい?」

「うん。そんな感じ」
「ここはサフレの街だよ」

「サフレ?」
「知らないのかい?魔大陸で唯一中立の街さ」

魔大陸だってえええええええええええええ!!??
魔大陸って・・・・・何処だよ・・・・。



と言う訳で、今の状況に至る。
どうしてこうなった・・・・・。


80: ムーン [×]
2016-04-19 20:13:01

惚けててもしょうがない。
本来行くはずだったアシデ島じゃないって事が分かった今、俺達がしなければいけない事は一つだ。
アシデ島に行く船を見つける事。

しかし困った。

船着き場に船は、今は一隻も見えない。
あるのは小型の漁船ぐらいだ。それも手漕ぎの。

船の切符売り場の様な所はあるものの、人はおらず閉まっている。
今日はもう出港はしないんだろうな。
さてどうするか。

とりあえずは日が暮れる前に宿屋でも探すか。
魔大陸と言う事だけは分かったが、それ以外の情報が全く無いのがいたいな。
・・・・・ちょっと待てよ。ここは魔大陸と言ったよな。
俺達が居た所は確か《人大陸》だったはずだ。
って事は、別の大陸と言う事か。
ユーラシア大陸とアフリカ大陸みたいに繋がった大陸なのか、それとも北アメリカ大陸の様に海を挟んでの大陸なのか…、どっちだ。
後者なら…。そう考えると冷汗が出て来た。

「何一人でブツブツ言ってるのよ。気持ち悪いわね」

ローズは俺の後ろをずっと付いて来てたようで、独り言を言ってる俺を訝しげな顔で見ている。

「取り敢えず宿屋を探すぞ」
「ちょっと!アタシに命令しないでくれる?生意気なのよアンタ!」

海遭難から五日、ずっとこの調子だ。
イラッとは来るけどもう慣れてしまっている自分が怖いわ。

「あー、はいはい。
 俺は宿屋を探すけどローズは好きにしていいよ」
「ちょっ!アタシも探すわよ!」

うん。ちょっと扱いに慣れて来たぞ。
ほんと、黙ってれば可愛いのに、残念な子だよな。



宿屋を探しながら大通りを歩くと、以外と宿屋の数は多く直ぐに見つかった。
ローズも居る事だしセキュリティーの安全な宿屋を選んだ。
どうせ安宿なんかには泊まりたくない、とか駄々を捏ねるに決まっているからだ。
手頃な値段で安全そうな宿を見つけ、チェックインをするために宿の扉を開ける。

入って直ぐにカウンターがあり、右手の方には食堂の入り口がある。
外に食べに行かない分安全だな。夜中は煩そうだけど。
そうと決まれば部屋を取ろう。
俺はカウンターの上に置いてある鈴を鳴らした。

― チリン チリン…

カウンターの奥にある扉から、犬耳を頭に着け、フサフサの尻尾を揺らしながら宿屋のおっさんが出て来た。
ここは獣族の人が経営してる宿だったのか…。
おっさんはニヤニヤとしながら。

「二人かい?」と尋ねて来た。

二人って事はローズとって事だよな。
何勘違いしてるんだかこのおっさんは。

「いえ。俺とシルバーです」

そう言ってシルバーが見えやすいように、足元に大人しくいたシルバーを抱き上げた。
おっさんはシルバーの姿を見た瞬間固まっている。
どうしたんだ。一体何があった。この短時間で!

「あの~…」

ハッ!と我に返ったのか、おっさんは気を取り直し、

「えっ?!いやっ。ちょっと驚いてだな…」

歯切れが悪いが、この宿はペット禁止だったのかな。

「ここはペット禁止の宿ですか?」
「ぺっ、ペットだと?!」

何でそんなに驚くんだよ…。
従魔は良くても犬はダメなのかよ!

『俺は犬じゃない!』

シルバー、ちょっと黙ってようか。

『犬じゃないし…』

「はい、俺が飼ってるペットのシルバーです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

おっさんの目が虚ろになって何処かに彷徨っている。
いったい何だって言うんだよぉ!

『アン アン!(泊めるのか泊めないのかどっちなんだよ!)』
「は、はい!!!ご宿泊ですね!喜んでお部屋をご用意いたします!ハイ!」

えっと・・・、これはもしかして…。

俺は微妙な、犬と狼の力関係を連想した。
狼の遠吠え一つで町中の犬が反応をし吠えだすと言う話しを昔聞いた事がある。
飼い犬より野良犬。野良犬より狼。そんな感じの力関係があったはずだ。
そして犬は、自分より強い相手には腹を見せて降伏のポーズを取ると。
おっさんは腹を見せはしなかったが、完璧に降伏状態の様だった。
シルバー…怖い子。

部屋を取る前に確認しなきゃな。

「えっと。ここから船は何処まで行きますか?」
「何処に行きたいんだ」

「アシデ島です」
「アシデ島なら明後日出港するはずだよ」

「明後日ですか。なら二泊分お願いします」
「分かった。一泊大銅貨五枚で二日分だから銀貨一枚になるが良いかな?」

「それでお願いします」

俺は袋から銀貨を一枚出して渡した。

「はいよ。確かに。で、そっちのお嬢さんはどうするんだい?」
「お願いするわ」

「何泊だい?」
「二泊でお願い」

ローズも二泊取り、それぞれの部屋へと案内してもらう。

「こっちがお嬢ちゃんで、向こう側がお前さんの部屋だ。
 後、晩御飯と朝食が付くから下の食堂まで降りてきな」

俺は軽く会釈をすると、自分の部屋の鍵を受け取り中に入った。


81: ムーン [×]
2016-04-19 20:14:08

===== 



ドアを開けると、部屋の広さは六畳間くらいだ。
両脇が客室なので窓は正面に一つだけある。
窓の下にシングルのベッド。
左側のドア付近にテーブルと椅子が一脚。
右の壁には荷物が置けるスペースが有る造り棚があり、棚の下には大きな荷物でも置けるようにしているのか、何もない空間だ。

シオンの荷物はというと、腰に装着している無限異空間袋と剣。
それと、獲物の解体や料理などに使うと便利な短剣くらいしか無い。
他の冒険者や旅行者に比べるとかなり身軽だ。


部屋に入ると俺はそのままベッドに腰を掛け、乗っていた船が沈没した後の事を考える。
クリフに言われた通りにザイル星を目指してボートを進めて来たが、流れ着いたのは魔大陸だ。
クリフが嘘を言わない限りこんな事にはなるはずがない。
嘘?まさかな。
クリフは冗談好きではあったが、嘘は言わない男だ。
・・・・・・待てよ。
クリフが冗談で言った事を俺が真に受けたとしたら?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。


大きな溜息をついた。



こんな時に闇の精霊王のベルが居てくれれば何の問題も無いのにな。
精霊というのは自分の生まれた大陸を離れられないらしく、付いて行く事ができないと言った。
ここはダメ元でパッド君でも見て見るか。

意外な事に俺の地図スキルが力を発揮したようだ。
今まで俺が見ていた地図は人大陸のみしか映し出されていなかった。
人大陸の周りは全て海で囲まれてたはずだったのに、今は魔大陸の姿が映し出されている。
その大きさは人大陸に匹敵するほど大きい。
そしてチョコンと豆の様に書かれているアシデ島もあった。

おぃおぃおぃ・・・・方向全然違うじゃないかよ。

アシデ島の位置は左下に大きくずれて浮かんでいた。
クリフめ。嘘を教えやがったな…。

クリフは嘘を言ったわけではない。
一人離れる事に落ち込んでいるシオンに対し、冗談で言っただけだった。
まさか乗ってる船が沈没するとは思ってもいなかったんだろう。
沈没さえに無ければ遭難する事も無い。
そのまま船でアシデ島について終わりだ。
軽い気持ちで吐いた冗談のせいで、シオンがこんな事になっているとは想像もしていないだろう。


ガックリと肩を落とし溜息をつくシオンだったが、気を取り直し魔大陸について調べてみる。



《魔大陸》

元々は魔物が住んでいた大陸。
魔物の中には進化をする種族がおり、極稀に進化をする事が確認されている。
体の一部が人間のようになると、知能も人間に近付き言葉も理解できるようになる。
単体で最終進化の妖魔まで行く者もいれば、進化した魔物同士の配合で更に進化できる子供が生まれる。

一般的に、普通の進化を成し遂げた場合、最終進化は《獣人》になる。
この場合、普通の人間と見た目があまり変わらなくなり、知能も人間並みか少し劣る程度だ。
ただし。体の一部に元である獣の証が残る。


魔大陸は人大陸と違い、多くの魔素で出来ている。
魔素とは魔力に必要不可欠な物とされ、これを多く取り込む事によって魔物は力を発揮する。

人間は魔素をそれ程取り込まなくとも、体内で魔素を作る事が可能なので必要はない。
この魔素のおかげで、枯渇した魔力が幾分早く回復できる程度だ。

したがって、魔大陸に住む魔物は、人大陸の魔物よりかなり強い。
人大陸の魔物よりワンランク上の力だと思えばいいだろう。



マジか・・・・。
って事は、最弱なゴブリンがオーク位の強さがあるって事だよな。
面白そうな大陸だな。
あっ、まだ何か書いてあるぞ。

何々。魔大陸は力を求める者の修練場所には最適だと?
ただし、その道のりは過酷で命の保証はしない・・・・って、何だよこれ!
自己責任でやれって事かよ。

でも考えてみりゃ、数カ月は迎えに来ないんだよな。
その間にここで修業をするのも悪くないよな。
魔大陸で俺が噂になったとしても、人大陸まではいかないだろうし。
これはチャンスかもしれない。
半年位修業して、その後でアシデ島に向かおう。

あ~・・・・、そうなるとギルドとかに入って冒険者にならないといけないのか。
俺この間十三歳になったばかりなんだよな…。
ダメ元でギルドにでも行ってみるかな。

そう思った俺は、早速着替えてから下に下りて行き、カウンターに居たおっさんにギルドの場所を聞く。
ギルドは目の前の大通りを左に真っ直ぐに行った場所に在り、かなり目立つ建物だから迷わないだろうと言われた。


82: ムーン [×]
2016-04-19 20:15:34

===== 


うん。これはかなり目立つな。
ピンク色の外壁にミニチュアなお城版だ。
入り口の上にでかでかと「サフレ ギルド支部」と書いてなきゃラブホかと思うぞ…。
これを作った奴の趣味を疑うね。

俺は呆気にとられながらギルドの前で立ち止まり、気を取り直して扉を開けて中に入った。
ギルドの中はその外装とは裏腹に、厳つい男達で溢れかえっている。
人族が五割、獣族が四割で魔族が一割という感じに見える。

魔族は人族と殆ど変わりはないが、大きな特徴として瞳が赤い。
当然魔族と呼ばれるのだから、その魔力も人族より大きい。
なら魔族の方が幅を利かせてるんじゃないかと思われがちだが、魔族は筋肉が発達しない為に、剣術や武術が全くと言っていいほどできない。
遠距離からの攻撃には向いてても、近距離からの攻撃や闇討ちには対処できにくいのだ。

獣族は、人族より遥かに体が丈夫で、種族によっては俊敏さもかなり高いものとなっている。
腕力に長けている獣族は、その分魔力が低いのが特徴だ。
したがって、別種族同士で協力し合うというチーム編成がこの魔大陸では一般的だそうだ。



受付カウンターが四か所あるが何処で登録すればいいんだ?
入り口の直ぐ側に立ちキョロキョロと見回してると、中に居た冒険者の男達が俺の方を見ている。
やっぱり十五歳にならないと冒険者にはなれないのか?
何しに来たんだこの出来損ないが。と言う様な視線が痛いな。
取り敢えず聞くだけ聞いてみよう。
一番人の少なそうなあそこのカウンターがいいな。

俺は一番並んでる人の少ないカウンターに歩いていった。

「いらっしゃい。なんの用事?」

笑顔一つ見せず機械的に聞いてくる。

「冒険者登録をしたいんですけど」
「登録は満十三歳からです」

おお。十三歳なら丁度出来るじゃないか。

「十三歳です」
「あら、そうなの?ならこれに手をかざしてちょうだい」

そう言って受付嬢はテーブルの下から水晶の様な物を取り出した。
俺は言われた通りに水晶に手をかざすと、水晶が光りやがて光は消えた。

「もう良いわよ」

水晶から手を離すと、俺が今まで手をかざしていた場所にカードが現れる。
それを受付嬢が手に取り、カウンターの上に置く。

「このカードの上に手を乗せてちょうだい。
 幾つか質問するから答えて」
「はい」

言われた通りに手を乗せ、俺は質問に答える。

「名前は?」
「ハルシオンです」

「歳は?」
「十三歳」

「出身国は?」
「ゴルティア国」

「受付完了よ。おめでとう」
「ありがとうございます」

「では軽く説明しますね。
 まず初めはFランクからとなります。
 既定の依頼を幾つかこなすとランク昇格となり、Cランクまでならソロでも可能です。
 Cランク以上になるとソロではきついでしょから、パーティーを組んだ方が無難です。
 後は、冒険者専用の宿がこの建物の三階と四階にあるので、ご利用ください。
 料金は一泊二食付きで大銅貨三枚。素泊まりなら大銅貨一枚になります」

こりゃ、めっちゃ安いな。
素泊まりで千円位なら明後日からここに泊まるか。
あそこの宿屋はもう金払ってしまったしな。
飯ならそこら辺にある食堂でもいいし、ギルド内にも食堂兼酒場があるんだから問題は無いだろう。

さて、ここはどんな依頼があるんだ?ちょっと覗いてみるか。
俺は依頼が貼り付けられている壁の前に移動した。

ふむふむ。Fランクは、っと。
ランク別にボードが壁に組み込まれていて分かり易いな。
Cランクの前が一番人が多いか。次にDランクね。
BとAはあんまり人が居ないのな。
ああ、護衛とか討伐が主なのか。納得。

Fランク・・・・って!全くと言っていいほど人が居ねぇ!!
そりゃそうか。初心者ランクだもんな。うんうん。
それにしてもあんまり無いな。
殆どが薬草採取か荷物運びとかの手伝いか。
荷物運びは一時間銅貨五枚。五百円ってとこだな。
薬草採取は、赤の薬草(体力10%回復)が銅貨一枚で緑の薬草(魔力10%回復)が銅貨二枚か。
金バリ草(体力30%回復)が銅貨五枚ね。
おっ、ツルギ草(魔力30%回復)が大銅貨一枚だと!?
これにしよ。
10株も採れば銀貨一枚だぜ。
薬草は常時募集と書いてあるから、今日はもう日が暮れそうだし明日にでも行ってみるか。
取り敢えず今出来る事はしておいたし、今日はゆっくり体を休めるとしよう。
そう思っていたら後ろから声を掛けられた。

「お前ここら辺じゃ見ない顔だな。何処から来たんだ」

声を掛けて来たのは赤い瞳をした魔族の少年だった。
歳は俺とさほど変わらなそうだが少し年上っぽいな。
その魔族が俺に何のようだ?

「人大陸から来た」
「人大陸からだって!?一人で来たのか?!」

「一人じゃないけど、色々と訳があってね」
「じゃあ仲間がいるのか」

「仲間じゃないな。成り行きと言うか、しょうがなくと言うか…」
「ハッキリしないやつだな」

「色々と事情って言うもんがあるんだよ」
「そっか、なら深くは聞かないよ」

おっ?コイツ良い奴かもしれん。

「用が無いなら帰るね」
「あっ、ああ。僕はジョシュって言うんだ。君はなんて言うんだ?」

「俺はハルシオン。じゃあね」

それだけ言うと俺はギルドを後にした。

あのジョシュって奴は何で俺になんか声を掛けて来たんだろ。
子供が俺しか居なかったからか?
深く考えるのも面倒だし、もう会う事もないだろう。
この五日間、ボート漕ぎで疲れたし。
起きてる間ずっと魔力を使って、つむじ風をしてたんだ。
ローズは交代してくれないし。
いや、一回だけ代わってくれたな。一分程な!
直ぐ疲れたと言って放り投げたけどね!!

ハァ~・・・・思い出すと腹が立つな。
アイツの事を考えるのは止めよう。精神的に良くないわ。

俺は足早に宿へ戻り、晩飯を食べて直ぐに寝た。






83: 匿名さん [×]
2016-04-23 00:58:14

第二十五話
■ 薬草採取は簡単なお仕事です? ■



んん~~~~~。良く寝た。
大きな伸びをしベッドから起き上がると、既に日が昇っていた。

『おお。生きてたか』
「何でだよ!起きていきなりその発言ってどうよ?」

『だってシオン、昨日部屋に入っていきなりベッドに倒れたと思ったら
 そのまま動かなくなったんだぞ?だから俺が布団をかけてやったのに
 覚えてないのかよ』
「ごめん・・・・記憶にない。
 でも、ありがとな。・・・・・・・てか・・・シルバー大きくなってないか?」

『あ?そう言えば少し体が軽くなった様な気もするな』
「なんか二回り位デカくなってるぞ…」

今のシルバーはドーベルマン程の大きさになっている。
犬ってこんなに成長早かったっけ?
いや、狼だから早いのか?
こりゃ餌も大物を獲らなきゃダメかもしれんね。



身支度を整え、今日から冒険者初日と言う事で、何となく気分も引き締まる。
冒険者の真似事と言うか、実際には冒険者だったのだが、今まではベテランのロジャー率いる《イカヅチ》のメンバーと供に行動していた。
何に注意を払い、いかに効率よく行動をするかは、この二年半の間に実戦で学んでいる。
今日から請け負う依頼は初歩の初歩なので、何も心配する事はないだろう。

今までも一人でふらっと薬草を摘みに森の中に入った事もある。
迷宮で魔物と対峙した事もあるし護衛の経験だってあるのだ。
普通は不安になるかもしれない。でもシオンは違う。
一人でどこまで出来るのか試してみたいという気持ちの方が大きかった。



一階にある食堂に行くために、ドアを開けて廊下に出ると、そこには不機嫌な顔をしたローズが仁王立ちの姿で立っている。

「遅いわよ!いつまで寝てるのよ!」

俺コイツと飯食う約束なんかしたか?

『俺が知ってる限りではしてないな』

そうだよな。なんでローズはこんなに怒ってんだ?

「俺、朝飯一緒に食べるようなんて言ったっけ?」
「い、言ってないわよ」

「じゃあ何で怒ってるんだよ」
「怒ってなんかないわよ!」

ほら怒ってるじゃないか。
何だかな…。
前世でも相手の考えを汲み取ってやらないと怒る奴がいたけど、そいつらと同じタイプだな。
自分は悪くない。気を使わないお前が悪い。みたいなさ。

無理!無理無理無理!絶対に無理!! メンドクセ。

「怒ってる位なら先に食いに行けばよかったじゃん。
 そこまでして俺を待ってて何の得があるんだよ」
「はぁ?!アタシはね!アンタみたいな出来損ないが一人で食堂に行っても 
 食べさせて貰えないと思ったから待っててあげたのよ!」

待っててあげたのよって、すんげぇ恩着せがましいんですけど。

「いやいやいや。ここの宿だって俺一人でも取れただろ。
 その時にちゃんと説明も受けたぞ。お前何見てたんだよ」
「あれは!アタシが傍に居たからでしょ!アンタがアタシの奴隷だと思ったから
 親切にしてくれただけよ」

こりゃまた思いっきり斜め上を走り出したねぇ~。
昨日町の中を少し歩いて分かったんだが、魔大陸では実力がものを言うようで、魔力・腕力・武術、どれか一つでも出来れば苛まれる事はない。
現にこの俺が、商店でも露天でも、店の人に嫌な視線で見られなかったし、対応も丁寧だった。それがこの大陸の現実だ。

まだ何かブツブツ言ってるが、気にしたら負けだ。
ローズもローズなりに不安なんだろう。
仕方がないので一緒に食堂まで行き朝食を食べたが、朝からどんだけ食うんだよコイツは。
スープと一緒に付いて来たパン二個をあっという間にたいらげ、おかわりを二回して合計六個のパンを食べた。
いくら小さいパンとはいえ、何処にそんなに入るんだか。
見てるだけで腹が一杯になってきたよ。
シルバーだって目を丸くして見てるぞ。


84: 匿名さん [×]
2016-04-23 00:59:02


朝食を食べ終わると俺は、早速依頼の薬草採取に行く事にしようと思い席を立つと、ローズが何処に行くのかと尋ねて来た。

「何処に行くの。アタシも行くわ」
「これからやる事があるからローズは連れて行けないよ」

どんな魔物が出るか分からない魔大陸の森の中になんか連れて行けるはずがない。
ローズを守りながらの薬草採取って、どんな罰ゲームだよ。
魔力はそれなりにある方だとは思うけど、水弾とウォーターカッター位しか使えないだろ。
それなのに自分は強いと思い込んでて魔物に突進して行くんだよな。
それに何より、コイツはノーコンだ。
何処に飛んで行くか分かったもんじゃない。
魔物じゃなくて俺が殺されそうだよ・・・・考えただけでも溜息が出る。
ここは穏便に・・・。

「やる事って何?!何をする気なのよ。
 アタシが付いて行ったらまずい事でもするの?!」
「いや、そうじゃなくて。
 俺には俺の用事がある様に、ローズにはローズの用事があるだろ?」

「そうね。お店も色々見てみたいし、お土産も買おうかしら」
「だろ?だから別行動で良いじゃないか」

「アタシに一人で買い物に行けって言うの?!」
「俺が付いて行く必要性が無いだろ。
 ここは町の中だから安全だし、それに、俺はローズの使用人で奴隷でもないん
 だからな。
 それに昨日自分でも言ってたよな。
 町に着いたら別行動だって。」

「・・・言ったかもしれないけど、か弱い女の子を一人にするなんて信じられないわ!」
「か弱いって…。ローズは俺なんかより強いんだろ?」

「当たり前じゃない!出来損ないのアンタ何かと比べないでよ!」
「だったら一人でもいいじゃないか」

俺は溜息交じりに答える。

「じゃあ!誰が荷物を持つのよ!」
「・・・・・・自分で持てよ。」

「荷物なんて今まで一度も自分で持った事なんてないのよ!アタシは!」
「・・・・・アシデ島に行ったら一人なんだろ?自分で持つしかないよな?
 今から慣れとかないとな」

ローズは何か腑に落ちなそうな顔をしていたが、少し理解をした部分もあるのだろう。
それ以上は何も言ってこなかった。
これで諦めてくれたんだと思った俺は、そのままローズを食堂に残し宿を出ると、依頼をこなすために町の外門まで歩く。
歩く道すがらパッド君で、薬草の生息地を調べ、それを見ながら先を急いだ。
異世界版ナビだね。

外門まで来ると、門の両脇に兵士が立っていて、その近くに見覚えのある姿がある。
昨日の少年、ジョシュだ。

ジョシュは俺の姿を見つけると両手を大きく振り、俺のほうに歩いて来た。

「やあ、また会ったね」

偶然か?それとも誰かと待ち合わせか?

「誰かを待ってるのか?」
「うん。ハルシオンを待ってたんだ」

「俺を?何か用か?」
「薬草採取に行くなら一緒に行こうかと思ってね。
 ・・・・・・ところで、後ろの人は彼女かい?」

後ろ?彼女?シルバーは俺の横に居るし、だいいちシルバーは雄のはず。
一体誰の事を言ってるんだ?
クルリと後ろを振り返ると、そこにはローズが居た。

「何で付いて来てるんだよ。付いて来るなって言っただろ?」
「何処に行こうがアタシの勝手でしょ!?って、誰よその人」

「ローズには関係の無い人だよ」

俺が面倒くさそうに言うと、ジョシュがローズに話しかける。

「君も冒険者かい?」
「違うわよ」

「なら、通行証を貰って来たのかい?」
「通行証って何よ」

ジョシュは嫌な顔をせず丁寧に教えた。

「僕達の様な冒険者は、ギルド発行の証明書があればどの国でも出入りは自由なんだ。
 でも、君の様な一般市民は、町の管理棟で通行証を発行して貰わないと外門から先は
 出られない様になってるんだ。
 町には結界が張られてるから魔物は近寄れないけど、一歩外門の外へ出たら魔物に
 襲われる危険性がある。
 外へ出る時は護衛の冒険者を雇うか自己責任って事になるんだ。」

「魔物くらい平気よ!アタシは魔術が使えるんですもの」
「うん。でも君は冒険者じゃないんだろ?
 だったら管理棟で通行証を発行してもらわなきゃダメだよ」

「アタシの国ではそんな事をしなくても外に出れたわ!」
「君も人大陸から来たみたいだけど、ここは魔大陸なんだ。
 魔大陸には魔大陸のルールがある。分かるよね?」

「それくらい分かるわよ!」
「だったら通行証を貰って来なきゃ外には出れないって理解したかな?」

「・・・・・・分かったわよ。貰ってくれば問題ないんでしょ!
 行くわよ!ハルシオン!」

当然の様に俺の名前を呼び、顎をクイッと突き出す。

「・・・・・俺は行かないよ」
「何でよ!あんたも通行証が無いと出れないのよ?!
 今の話し聞いてなかったの?!理解できないの?!バカなの?!!」

「俺、持ってるし。証明書」

そう言って冒険者用証明書を出して見せる。
ローズは驚いた顔をして、「いつの間に!」とか「何処で手に入れたの!」とか言っていたが、俺はローズの雇用人でもなければ奴隷でもない。
プライベートを話す義務もなけりゃ義理も無い。
少し可哀想だとは思ったが、ローズをその場に残し俺は薬草採取をする為に、町の外門をくぐり外に出た。


85: 匿名さん [×]
2016-04-23 01:00:19

===== 



「良いのかい?あの子を置いて来て」
「町の中なら安全なんだろ?わざわざ危険な所に連れて行く必要はないさ」


パッド君に記されてる薬草の群生地に向かい、両脇に草原が広がる街道を森に向かって歩きながら話す。

「ところで、何で俺と一緒に行こうと思ったんだ?」

昨日ギルドで合った時は、ジョシュは魔術師特有のローブを被り顔が良く見えなかったが、今日はローブについているフードを被っていない為、良く見える。
魔族は一様に中性的な姿形をしているが、ジョシュも類に漏れず中性的だ。
大人なら男性か女性なのかが分かるが、子供は見分けがつけづらい。
かと言って、男女どちらなのかと聞くのも憚(はばか)れる。
だから俺は、俺流の判別をした。
男なら真っ平。女なら出てる。そう、胸の凹凸で判別した。

チラッチラッっとジョシュの胸に視線を置き、真っ平な事を確認する。
おし!男だ。一人称も「僕」だし間違いない。
自分の中でそう納得していると、ジョシュが答える。

「インスピレーションかな?僕の勘なんだけどさ、ハルシオンは優しそうだな
 って思ったんだ。嘘をついたり人を騙したりしなさそうだなってね」
「それだけで?」

「それだけで十分だよ」
「なら、俺の事はシオンって呼んでくれ」

「分かったよ。シオン」

話しをしながら歩いているうちに、薬草の群生地に到着した。
比較的森の浅い場所に生えている薬草は、赤い薬草と緑の薬草だ。
だいたい十株程が点在していた。

俺達は薬草がまた生えてくるように、土に中にある株を残し表面の葉っぱだけを丁寧に短剣で切り落とし、バラバラにならない様に紐で縛り自分の袋の中へ入れる。
パッド君があるおかげで俺達は結構な量の薬草を採取する事ができたが、それでも換金をすれば一人大銅貨二枚程度にしかならない。

ギルド経営の宿に泊まるならこれでも良いが、出来ればもう少し稼ぎたいところだ。
そうだな…ツルギ草あたりがどっかに生えてないかな…。
パッド君で検索してみるか。

おお。あるじゃないか。
少し奥には行った所に結構あるな。画面が真っ赤だ。
(検索対象物は赤い点で映し出される)
パッド君を見ながらブツブツと独り言を言っていると、ジョシュも俺と同じ考えだったのかツルギ草の在りそうな所まで行ってみないかと提案してきた。

「大体の場所は僕が知ってるから案内するよ」

俺はジョシュの後について森の奥へと歩いて行った。
十五分位歩いた所で、俺の索敵に反応が出た。数は一匹。大きさは2m弱。
種類は何だろう。そう思っていたらシルバーが呟く。

『この匂いはタランだな。巨大な毒蜘蛛だ。注意しろよ』
了解。

「魔物が近くに居るぞ」
「えっ?分かるのかい?」

「ああ」
「それはやっぱり・・・・君の相棒が教えてくれてるのかな?」

「相棒ってシルバーの事か?」
「そうだよ。・・・・・だってそれは・・・・ベルガーだろ?」

俺は驚いてジョシュの顔を見た。

「そんなに驚く事かな?って、もしかして今まで誰もベルガーだって知らなかったの?」
「・・・・いや、俺と俺の仲間は知ってたけど、人大陸では「犬」で通してた」

「犬だって!?それを皆信じてたって言うの?!」
「うん。誰も疑ってなかったよ」

「あははは。それは凄いねー」

人大陸で妖狼など見る機会など全くと言って良いほど無い。
だから大きな犬と言っても誰も疑わなかったが、ここではたまに妖狼を見かけるらしく、もし見かけたとしても、こちらから攻撃をしない限り襲っては来ないので、静かにその場所から離れる事が長生きの秘訣だそうだ。

「それにしても良く懐いてるよね」
「まぁね」

シルバーが従魔だっていう事は黙っていよう。
どうやって捕まえたとか、どうやって契約したとか聞かれても俺にはさっぱり分からんし。
いつの間にか主従の契約をしてたからな。聞かれても分からんよ。

森の真ん中で立ち止まり、小声で話していたら、タランの気配が段々と此方の方に近付いて来るのが分かる。
そのまま俺達に気が付かないで横に逸れてくれと願っていたが、どうやらその願いは叶わない様だった。

斜め前方の木の枝や草がわさわさポキポキと音を鳴らすのが聞こえる。
距離にして100mまで近付いて来ているのが索敵で分かる。

俺は腰に挿している剣を抜き構え、ジョシュは呪文を唱え掌に野球ボール大の光の玉を作ると、二人とも臨戦態勢をとる。

木々の間には生い茂る草。
その隙間から黒・黄色・赤で彩られた派手な配色が見え始めた。
流石に50mまで近寄れば臭いで分かったのだろう。
タランはピタリと止まり、一瞬の間を空けて此方へと突進してきた。

「来るぞ!」

俺はそう叫びながらタランに向かって走り出す。
虫の倒し方は知っている。
ロジャー達と何度も迷宮で戦ったから。
まず足を切り落とす。動きを封じるためだ。
毒を吐いてくる奴は、毒を吐こうと口を開けた瞬間に胡椒の様な刺激物を口の中に放り込む。この役目はいつも俺だったので自信はある。

俺は無限袋から胡椒袋を取り出しタイミングを見計らいながらタランとの距離を詰めていく。
タランは口から毒を纏わせた糸を吐こうと大きく口を開けた。
俺はそのタイミングを見逃さず、既に右手に握っていた胡椒袋をタランの口目掛けて投げつけた。

胡椒袋は吸い込まれるようにタランの口の中に入り、タランは大きく咽た。
息が出来ないのか悲鳴が聞こえる。

―ギギギィィィィ!

動きが乱れたのを確認して、俺は一気にタランの足元を攻める。
ロジャーが何時もやってた様に、前方右足を切り落とし、S字を書くように蛇行しながら後方左足を切り落とす。
左右纏めてやるよりも、切り落としながら魔物の体の下に潜った方が、魔物からは死角になって成功しやすいそうだ。

俺がある程度足を切り落とし終わると、今度は遠距離魔術師の出番だ。
動かない魔物は巨大な的にしかならない。
当て放題だ。

「後は頼んだ!ジョシュ!」
「任せろ!」

ジョシュは掌に作った光の玉をタランの頭目掛けて放った。
多分あの技は雷系の魔術だろう。
頭に当たった瞬間に火花の様な物が見えたからな。
何の属性の魔術を使うのか聞いてなかったが風属性だったのか。
魔族は髪の色で属性判断が出来ないからちょっと不便だね。

タランの急所とも言われる頭に一撃を加えたが、まだ息があるようだ。
俺は止めを刺すために、タランの眉間に向かって飛び上がり、頭の上に着地すると一気に剣を振り下ろして、眉間を刺した。

タランの動きが止まり、死んだ事を確認すると、早速タランの解体に取り掛かる。
タランが吐いた毒の糸は、毒素を中和すれば頑丈なピアノ線の様な糸になる。
中和する為には特別な液体を振りかけるか魔法しかないのだが、俺達はそんな液体など持ってはいない。
どうしようかと迷っていると、シルバーが毒素を抜けるというじゃないか!
森に居る光の精霊の手を借りて毒抜きが出来るんだってさ。
流石森を司る妖魔だ。精霊と仲が良いみたいだし有難いね。

って言うか、よく見たら俺とシルバーの周りに精霊が沢山集まってきてないか?
シルバーって人気者だったんだな。

『何をバカな事を言ってるんだ?そいつ等はお前の匂いに釣られて来たんだぞ』

それさ。前にも言ってたよな。
一体どんな匂いなんだよ…。

俺は自分の腕や着ている服の匂いをクンクンと嗅いでみたが、そこまで良い匂いはしない。

『人間には分からないさ。例えるならケーキの様な甘い匂いと言ったところだな』

へ~。甘い匂いね。喰い付かれないなら別にいっか。
それより毒抜きを頼むよ。

『任せとけ』

シルバーが毒糸に噛みつくと、糸に触れた牙から金色に光る何かが流れる。
それはあっという間に毒糸全体に広がり、浄化された部分から次第にその光は消えて行った。
時間にして十秒ほどの出来事である。

おおー。すげぇー。と呆気にとられて観ていた俺だったが、事前に説明をされていたのでそれ程極端に驚いたという訳でもなかった。
しかし、何も説明を受けていなかったジョシュは違った。
シルバーが毒糸に噛み付いた為、咄嗟に止めようと動いたんだが、噛み付いた瞬間に毒糸が光りだした光景に驚いていた。

シルバーが出した金色の光は、中和魔法と言って高度な魔法らしい。
長い詠唱が必要となる為に、この術を使える人は少ないとか。
それを無詠唱一噛みで遣って退けたのだ。驚くなと言う方が難しい。

「す…凄いね…君のシルバーは…」

ジョシュのその言葉に素早く反応したのは何を隠そうシルバー本人だった。

耳がピクピク動いてるぞー。
尻尾も小さくだけど左右に振れてるぞ?
これは嬉しい時の反応だな。分かり易い奴め。
でも可愛いぞ。シルバー♪

毒が中和されてピアノ線のように頑丈な糸だけが残ると、俺達はそれを巻き上げ一つの塊にする。
それを無限袋の中に仕舞い、タランの牙や足の爪を収集し、タランの体を切り裂き体内から魔石を取り出した。

タランが持っていた魔石は闇の魔石で、それもかなり大きい魔石だった。
魔物が持つ魔石の大きさが魔力の大きさだとは聞いていたが、「こんなに大きな魔石は今まで見た事が無いぞ」、俺がそう呟くとジョシュは不思議そうな顔をして、「そうなのか?ここではこれが普通だよ」、と言ってのけた。
マジ半端ねぇ!魔大陸ってどんだけ危険なんだよ!
大丈夫か?俺。やって行けるのか?ここで。
そんな事を考えていた。

するとジョシュが楽しそうに話しかけてきた。

「ハルシオンって強いんだね。それにとても慣れてる風だったよ」
「えっと、しばらくの間冒険者の手伝いみたいな事をしてたからね」

「そうだったんだ。今はもう辞めたのかい?」
「辞めたわけじゃないよ。ちょっと訳ありでね」

「そっか…。言いたくないなら深くは聞かないよ」
「ありがとう」


道具になりそうな部位を取り出し、残りはその場に放置だ。
タランの肉は不味くて食えたもんじゃないとジョシュが言ってたし、放置しておけば他の魔物達が処理をしてくれるそうだ。
そうする事によって人里には近寄らない様にしていると言う。


86: 匿名さん [×]
2016-04-23 01:01:22


気を取り直し、ツルギ草があると思われる森の奥の方に再び向かう為に歩き出す。
しばらく歩くと崖が現れ行き止まりとなった。
パッド君では確かに赤い点が示されているが、見渡す限りツルギ草らしきものは見当たらない。
するとジョシュが崖の先端に立ち、下を見下ろしながら

「この下に沢山生えてるけど降りられないな…」

俺も助手の隣に立ち崖下を見下ろしたが、あまりの高さに、とある箇所が「キューッ」となるような生理現象が襲いかかる。

やばいやばいやばい。高い高い高い。
無理無理無理だああああああああああああああああ!!

「無理だ…。高すぎる…。」
「浮遊術でもあれば行けるんだけど、僕は使えないしな…」

「俺も無理・・・・」
『俺が取って来てやろうか?』

!!!!!

シルバー行けるのか!?
『楽勝だ』

・・・・・・・お願いします。

シルバーは高い所が平気なのか、山ヤギの様に崖の岩肌を上手い事使いながらピョンピョンと軽やかに降下して行った。
途中に咲いているツルギ草を上手に口で摘み取り、一つづつ丁寧に運んでくる。
上から見てるととても怖いぞ。
いつ足を踏み外すかと冷や冷やドキドキだ。

「シルバー!無理はするなよー!」

声を掛けるが聞いちゃいない。
俺の役に立てるのが嬉しいのか意気揚々と飛び跳ねている。

「凄いね~・・・。あの妖狼がこんなに従順なんて、君は一体何者なんだい…?」
「ただの人間の子供だよ」

ジョシュはニコニコとしながら「そう言う事にしとくよ」とだけ答えて、後は何も言ってはこなかった。
深く追及されないのは有難い。
そう言う事も含めて、ジョシュは良い奴なんだろうな。と、改めて思ったのだった。


結局この日の成果は、赤の薬草10 緑の薬草10 金バリ草4 そしてなんと!
ツルギ草が20採取できた。
合計で2銀大銅貨5枚だ。(25、000円)
一人頭1銀 大銅貨2 銅貨5 になる。
おまけに、タランの部位と魔石も合わせると、一人銀貨三枚だ!
何が高かったって?当然ピアノ線の様な糸だよ。
特別な術者じゃないと毒の中和が出来ないから触る事も出来ない代物だもんな。
それを大量に持って来たもんだからギルドの人が固まってたよ。
需要はあっても供給が無いから高額なんだとさ。
タランの糸を織り込んだ装備は高く売れるそうだ。
防弾チョッキのように頑丈だけど軽いし、おまけに毒耐性が付くらしい。
買うとしたら銀貨三十枚はくだらないんだってさ。
またタランに出会ったら、今度は沢山糸を吐かせた後に倒すとしよう。

そうそう。薬草は一度採取したら二日は待たないとダメらしいので、森に行くのは二日後だな。
明日はローズを船に乗せなきゃいけないしね。
てか、何で俺がそこまでしてやらなきゃいけないんだ?
放って置くとアイツ帰らなそうだしな。
そうすると俺の予定が狂う。
そうだよ。そう言う事なんだよ。
俺は自分で自分の考えに納得をすると、依頼報酬を半分受け取りジョシュと別れた。



宿に帰るとローズが俺の部屋にやって来てギャーギャー騒いでたが、何を言ってたのかは覚えていない。
何でそんなに俺に構うんだよ…。
俺の事が気に食わないなら構わなきゃいいのにな。
ほんと変なやつだ。



今日は森の中を歩き回って疲れたし早めに寝るかな。

おやすみ・・・・。



87: ムーン [×]
2016-04-23 14:35:46

第二十六話
■ 俺は子守じゃねぇ! そして最終回? ■


おはよう。

今日の予定は、ローズをアシデ島行きの船に乗せてから、ギルドに向かおうと考えている。
昨日大量に稼いだのにまだ金が欲しいのかと思うだろうが、金は幾らあっても良いに越した事はないからな。
それに、ロジャー達が迎えに来るまでに、皆に新しい武器も作ってやりたい。
折角錬金術を覚えたのに材料が揃わないせいで作れなかったと言う事もあるが。
だけど此処ではかなりの材料が揃いそうだ。
後で本屋にでも行って魔物図鑑でも購入するか。
分布図とか載ってそうだしな。

そうと決まれば朝食を食べてチェックアウトの手続きでもするか。

俺は荷物を纏めるとウエストポーチの中に入れる。
忘れ物が無いかもう一度辺りをチェックし、忘れ物が無い事を確認すると部屋のドアを開けて廊下に出る。
ドアはそのまま開けっ放しでいい。
それがチェックアウトのサインなのだ。

ローズの部屋のドアを見ると、まだ閉まっているままだ。
寝てるのか?
寝ている女性の部屋。否、ローズの部屋に起こしに行ったものなら何をされるか分かったもんじゃない。
激しく罵倒された後に殴られるかもしれん。
放って置くに限るな。

そのまま食堂まで下りて行くとローズが居た。
・・・・・先に食べてたのね。まあ良いけど。

ローズは俺の姿を見つけるとプイッとそっぽを向いた。
まだ怒ってるのか。しょうが無い奴だな。
俺は悪くはないと思うが、ここは一つ大人の対応でもしとくか。

「まだ怒ってるのか?悪かったよ」
「それで誤ってるつもりなの?!アンタって本当に常識が無いのね!」

俺は頭をポリポリ掻きながら今日出港するアシデ島行きの船の事を話す。

「別に許してくれなくてもいいんだけどさ。今日だぞ。アシデ島行きの船が出るのは」
「し、知ってるわよそんな事ぐらい」

あっ。これは完全に忘れてたって顔だな。目が泳いでるし。

「なら準備は大丈夫なんだろうな」
「当たり前じゃない!」

そう言うと残りの食事を流し込むように食べたかと思うと急いで部屋に向かって行く。

魔だ何にもやってないな。アイツ。
俺は大きなため息をつきながら朝食を取り、食べ終わるとローズの部屋の前に行った。
ノックをしようかどうしようか迷っていると、中から慌ただしいバタバタとした足音が聞こえる。

そんなに荷物なんか無かったのに何やってるんだアイツは…。

ドアが勢いよく開き、中から顔を出したのは息が切れて「ハァハァ」言っているローズだ。

ドアとローズの体の隙間から中を覗くと、部屋の中には大量の荷物が・・・・。

「その荷物どうしたんだ?」
「買ったのよ!」

「何でそんなに大量に…」
「別に良いでしょ!アタシの勝手よ!」

腕を組みふんぞり返り、偉そうな顔をしている。
そんなにたくさんの荷物どうやって運ぶつもりなんだろう。
嫌な予感はしたが敢えて聞かないようにした。

「準備が出来たなら行くぞ」
「ちょっと待ってよ!この荷物はどうするのよ!」

やっぱりそう来たか。

「自分で買った物は自分で運べよな」
「はぁ?!荷物運びなんて奴隷のする事でしょ!」

「なら奴隷にでも運ばせたらいいさ」
「だから運びなさいって言ってるのよ!」

「・・・・・・‥俺はお前の奴隷じゃない。何度言えばわかるんだ?」
「出来損ないがアタシに楯突こうって言うの?」

ダメだこりゃ…。呆れを通り越して哀れみにさえ思うぞ…。

「はいはい。分かりましたよ。お嬢様」

取り敢えず船に乗せてしまえばそれでオサラバだ。
それまでの我慢だ我慢!

宿の女将さんに話し、大きめの木箱を譲り受けて、その中に荷物を隙間なく詰め込む。
そのままじゃ重くて持てないので、重力魔法を木箱にかけ、その重さを十分の一にする。
三㎏位ならローズでも持てるしこれで良いか。

俺は荷物を抱えながら船着き場まで行き切符を買うように促す。
切符を手にしたローズを連れて船に登る階段の所まで来ると、荷物を渡し持つように言ったが拒否された。
部屋まで運ぶのが常識なんだってさ。

階段の下の所で船員が切符の確認をしながら客を乗船させていたが、当然俺は切符を持っていない。
なので乗船は拒否された。
だがここは奥の手を使おう。

「ああ。すいません。俺は個人的に頼まれた荷物運びをしてる冒険者なんですよ」

そう言って袋からギルドカードを取り出し見せる。

「なるほど。ご苦労さん」

たまに居るらしい。
同じ宿に泊まっている冒険者を捕まえて荷物運びを依頼する客が。
俺もそれだと思われたみたいだ。

ローズの部屋に荷物を運び入れると、俺はそそくさとその場を後にし下船した。
ローズに気づかれると煩いのでシャドースキルの透明人間を使っての移動だ。
もし俺が居ない事に気付いたとしても、船のどこかに居るだろうと探すだろう。
だから俺は確実に船が港から離れるまでシャドーを解かなかった。
下船してるのがバレて降りられても困るからな。
後は自分で何とかしてくれ。
箱はデカくても軽いから自分で持ってくれよな。



― ボボーーーーーーーッ


船の出向の合図だ。

元気でな!

心の中で呟くと、何故か爽快感が押し寄せてくる。
やっと子守から解放されたという安ど感から来るものかもしれない。
これで俺は自由だ。そう思うと笑みが零れて来た。


88: ムーン [×]
2016-04-23 14:36:25

===== 



さてっと!次は本屋に寄ってギルドでも行こうかな。


今まで本屋と言う所は来た事が無かったが色んな物があるな。
興味が全くなかったと言えば嘘になるが、俺が知りたい事は全てロジャーや他の皆が教えてくれたから必要性が無かっただけだ。

魔物に関しても出会った魔物は全て説明を受けていたし、属性ごとの弱点も教えて貰った。
魔石や鉱石もそうだ。どう言う使い方をするのか、どう言う物と配合をすれば効率が良いのかとか、必要最低限の事は教わっている。
でもそれは人大陸での事であり、魔大陸に関してはど素人と言って良いだろう。
そして今は教えてくれるロジャー達はいない。
自分で調べて、自分で考えなければいけないのだ。
まずは手始めに魔物に関しての知識だな。
どの本を買おうか、俺は手当たり次第に本を手に取る。


《魔物大全集》これは良いかも知れないな。手に取り中を開いてみると、文字がびっしり書いてあるだけだった。写真なりイラストなり載ってないと分かんねぇよ。

《魔物の名前と特徴》・・・・。分かり易いっちゃ分かり易いんだが…、なんだこれ?
子供の落書きか!って程度のイラストが描いてある。
これで大銅貨五枚とかボッタクリだろ!

《草原の魔物》これは!分かり易い上にイラストも丁寧だぞ!
でも草原だけか…。値段はっと…ふむふむ、大銅貨三枚か。安いのか?分からん。
あっ、これはシリーズ物か。他には…《山にの魔物》《森の魔物》《海の魔物》…各大銅貨三枚なのね。
全て買うとしたら一銀大銅貨二枚か。うん。これにしよう。
少々高い出費だが今後の事を考えれば元が取れるだろ。

俺はこの《魔物シリーズ》を手に取り、会計まで持って行こうとした時に視界に入った物があった。
《錬金術の基礎と配合》。思わず手に取り中を見ると、基礎となる魔法陣の詠唱呪文や材料等が書かれている。
詠唱は作る物によって違うらしい。はて?俺は詠唱なんてしてたっけか?

答えは「否」だ。

俺は自分が想像した物しか作れないのだ。
俺が知ってる範囲であり、あれが記憶している物しか作れない。
だけどそれは前世での記憶であり、ゲームの記憶でもある。

そう考えると凄ぇチート能力だよな…。
だがこの能力をひけらかすと厄介事が舞い込んでくるのも承知している。
だから俺はなるべく使わない様にしてきたんだ。
誰構わず人助けをする様な正義の味方でもなければ偽善者でもない。
利用されるのは真っ平ごめんだ。

でもさ、ロジャー達は気付いてたはずなんだよな。
それなのに俺の事を利用しようなんて考えてなかったし、俺の安全を第一に考えてくれてたんだよ。
だから俺も、ロジャー達の為に何かがしたい。そう思ったんだ。
錬金術で作った高性能な武器を渡したら喜ぶかな?喜んでくれるよな。
迎えに来てくれるまでに最高傑作を作ってみせるぞ。

うん。でも高いな…これ。
ええい!必要経費だ!ケチケチするな!

自分で自分にカツを入れ、合計二銀大銅貨二枚を払った。

魔術の本はまた今度と言う事で…。


89: ムーン [×]
2016-04-23 14:37:57

===== 



・・・・・・・・・・・・・・・。
やっぱり派手なラブホに見える…。
ここに入るの何か躊躇するんだよな…。
大きな溜息を吐きながら木製のドアに手をかけ中に入る。



午前中だというのに朝から酒を飲んでる人が食堂の中に沢山いる。
それを尻目に俺は依頼書が張ってある掲示板の前に行く。

今日は何の依頼を受けようかな。
薬草は無理だから手伝いになるのか?
顎に手を当て考えていると、昨日の受付のお姉さんが俺の所に来て声を掛ける。

「ハルシオンさんですよね?」
「ハイそうですが。何か?」

「すみませんがちょっと此方の方に来てもらえませんか?」

言われるままにお姉さんの後を付いて行く。
お姉さんは受付の横にある細い廊下を奥へと進むと、突き当りにある凄く立派なドアの前で立ち止まった。
ドアの上に書いてあるプレートには《ギルド・マスター》と書かれている。

俺なんか不味い事やったっけ?

不安になりつつも動揺はしていない。
何も悪い事などしていないのだからな。

「ハルシオンさんをご案内いたしました」

ドアをノックしてから声を掛ける。

「ああ。入ってもいらいなさい」

お姉さんがドアを開けると、中には四十代くらいの屈強な男性がソファーの一人掛け椅子の方に座っている。容姿はゴリラの様な顔だが優しそうだ。オデコの皺が深く食い込んでいるのが印象的だった。
その向かいにある長椅子の方にはジョシュの姿があった。
俺は軽くお辞儀をした後に中に入り、勧められるままに長椅子に座る。

「そんなに緊張せんでもええで。実はな、お前達に聞きたい事があったんや。
 昨日持って来たタランの糸の事やが、その・・・お前さんの横に座ってるベルガーが
 やったって話やが間違いないか」

「間違いないです」

「そうか。物は相談やが、タラン討伐に行かへんか?」
「俺はまだそんなレベルじゃないと思いますが…」

「レベル的にはそうや。だが、そっちのジョシュと言う子の話しによれば
 並の冒険者より強いというやないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

俺は無言のまま隣に座っているジョシュを睨んだ。
何余計な事言ってくれるんだよ。
そんな目をしていたと思う。

その視線に気が付いたジョシュはバツが悪そうな顔をするかと思いきや、意気揚々と答える。

「そうなんです。ハルシオンは人大陸で冒険者の経験があったみたいで、
 かなりの腕前でした」

俺は目頭を押さえて、俯きながら首を左右に振り溜息を吐く。

良い奴だと思ったのにな…。
だけどジョシュの目的は何だ。
俺はそのまま話しを聞く事にした。

「あんな所に生えてるツルギ草といい、中和術といい、ベルガーと言う生き物は 
 大したもんやな。
 敵になれば恐怖そのものだが味方になると頼もしい限りやで」

さっきから話が先に進まないんだけど、何が言いたいんだ?

「で、話しって何ですか?」

「そうやった。実はな。タランの糸をもっと集めて欲しいんや」
「それなら依頼書を張りだせばよくないですか?」

「それはそうなんやけどな。毒を抜く中和液は知っての通り高いやろ?
 ましてはそんな高度な魔術を使えるような魔術師なんかおらへんのや」
「そうそう。だから君に頼みたいんだってさ。
 僕も手伝うから大丈夫だよね」

はは~ん。そう言う事か。
ランク上げの為にちまちま依頼をこなしてもさほど金にはならないもんな。
昨日みたいに大物の魔物を倒して部位を売ったり、人じゃ絶対に取れない場所に生えてるツルギ草だって、シルバーがいれば安全かつ大量に手に入るし?
魔物だって一匹なら魔族でも倒せるかもしれないが、それ以上の集団になって来ると命に関わるしな。
近距離の俺が居れば、遠距離の人はほぼ安全だし、いざとなれば俺を見捨てて自分だけ逃げればいいだけだもんな。考えたな。

だが、然うは問屋が卸さない。

「あ~・・・・、昨日タランを倒したのは偶然ですよ?
 俺にそんな実力なんてないです。」
「でも毒抜きは出来るんやろ?」

「毒抜き中和が出来るのはシルバーですよ?」
「だからそのベルガーを連れてタラン討伐に行ってくれないやろか」

「どうしても行けと言うんですか?」
「出来ればでいいんやけどな」

「大丈夫だって。僕も一緒に行ってあげるからさ」

いやいやいや!誰かを守りながら戦うのって結構疲れるんだよな!
やっとローズの子守から解放されたと思ったのに、今度はお前かよ!!

「無理っす…。昨日は一匹だけだったから良いようなものの、二匹現れたら
 ジョシュの事まで守れないので…」
「僕は守ってもらおうなんて思ってないよ?自分の事は自分で守れるさ」


・・・・・・どう思う?シルバー。

『無理だな。あのガキは自分の魔力を過信し過ぎている。大怪我するぞ』

「えっと、シルバーが居るから大丈夫だとは思わないでくださいね。
 シルバーは基本的には俺の事しか守りませんから」
「・・・・・・‥やっぱりそう言う間柄だったのかい?」

「ぶっちゃけ言うとそうなりますね」
「「ほぅ~」」

ゴリラマスターとジョシュは「やっぱりな」と言う顔で頷いた。

その後話し合いは平行線で、俺が「うん」と言うまで話が終わりそうもなかった。
同じ内容を二時間も話され説得された俺は精神的に疲れ果ててしまい、とうとう首を縦に振ったのだった。


「分かりました・・・・。その以来お受けします。
 ただし!付いて来るなら自己責任でお願いしますよ!」
「分かってるよ」

ジョシュは嬉しそうな顔をしているが、目が「¥」マークになってるぞ!


話し合いが終わり時計を見ると、お昼を少し過ぎた時間だった。
ギルド内にある食堂で食事をとり終えると、俺は受付のお姉さんの所に行き、長期宿泊を申し出た。
部屋代は二食付きで一日大銅貨三枚。大部屋だと大銅貨二枚だそうだ。
それと、長期滞在になると前金で個室が六銀で借りられるそうだ。三銀も安い!
大部屋だと四銀らしいが、他人と気を使いながら暮らすのはごめんだ。
俺は迷わず個室の部屋を取った。

部屋の中は質素な造りで、広さも六畳間程度だ。
一般の宿屋との大きな違いは流し台がある事だろう。
自分で調理が可能なタイプの部屋だった。
風呂は大浴場が四階にあるらしいが、部屋にもシャワーだけなら付いている。
半畳程度の大きさだけどな!

この部屋がこれから半年間の俺の部屋だ。
ここを起点に実力を上げてロジャーに褒めてもらうんだ。
そう思っただけでも笑みが零れ落ちてくる。

半年でどれだけ成長できるか分からないが、俺は俺なりに精一杯頑張るつもりだ。






今日から俺の、新しい冒険の始まりだ!










90: ムーン [×]
2016-04-28 16:56:22

第二十七話
■ チーム《イカヅチ》のその後 ■




シオンをアシデ島へと送り出したその夜。港で涙の別れをしたはずのロジャー達は酒場で飲んでいた。
これから戦争が始まると言うのに、周りの雰囲気は暗く成るどころか陽気だ。
敵の兵士を百人倒せば銀貨一枚の報酬があり、司令官の首を持って帰れば金貨一枚の報酬となる。
司令官と言ってもピンキリで、小隊長で金貨一枚。中隊長で金貨二枚。大隊長が三枚だ。
総大将ともなれば破格の値段が付き、金貨三十枚が貰える。

平民がひと月に稼ぐ給料が平均して金貨一枚なので、総大将でも討てば余裕で二年は暮らせると言う事だ。
一獲千金を夢見る男達にはまたとないチャンスだろう。


「しかしこんなんで本当に戦争なんて始まるんっすかね」
「ゴルティアがあの状態なら近々おっ始めるだろうよ」

「何で分かるんっすか?」
「第三王子の母親がこの国の出身だからよ」
「??????」

クウの脳内は「?」で一杯だった。

恒例であれば第一皇子であるシュレッダーが王位に就くのが決まりだが、後ろ盾となる第一王妃は既に鬼籍となっている為、第一皇子であるシュレッダーより第三王子のジェイソン派の貴族が多いのである。

生真面目なシュレッダーであれば王位を継いでも何の問題もないが、ジェイソン派の貴族にしてみれば不正がしにくくなり旨味が少ない。
対してジェイソンは、小さい頃から我儘に育ち政務や祭り事にも興味が無く、ただ王座に座って偉そうにしていればいいと思っている愚息にすぎない。
腹黒い大臣や貴族にしてみれば、操り易い人形にしか考えていないのだ。
自分達に都合の良い政務を行い、税収をネコババする。
こんなに旨い話は嘗てない事だろう

したがってジェイソン派の貴族達は、シュレッダーを亡き者にしようと試行錯誤をしていた。
ある時は毒殺。またある時は闇討ち。
そのどれもが悉(ことごと)く失敗に終わっているが、ここに一つの計画を立てていた。

内乱に持ち込み、その後ろから隣国であるシャブリ帝国に襲わせようと。

シャブリ帝国はジェイソンの母親の母国である。
その国王はジェイソンから見れば祖父にあたる。
此方もまた、ゴルティアの大臣ウスラから内々に打診があり、一年前から準備を進めてきていた。

内戦でシュレッダーの命を取れなくても、外からシャブリが攻めてくれば、シュレッダーの事だ、内より外に目を向けるだろう。
シャブリとシュレッダーが交戦している隙に、本来なら味方であるゴルティアの兵士がその命を絶つ。
それにより必然的に王座は残った王子ジェイソンに行く事になるのだ。

戦争のどさくさに紛れてしまえば、敵も味方も分からなくなる乱戦になる。
シュレッダーの性格からすると、兵士たちの士気を高めるために自ら先陣を切る事だろう。
この機会を逃し、もし失敗でもしたのなら、再びこの様な好機は巡って来ないだろう。
故に、失敗は絶対に許されないのだった。



===== 



規模の小さな小競り合いが、第一皇子と第三王子との間で七カ月続いていた。
一進後退の状況は両者変わらず、中々決着がつかない。
第一皇子派は正規の国軍である近衛隊+皇子の私兵で固められているが、第三王子派の兵士は、その全てが貴族達の私兵と王子個人の私兵による軍隊である。
数は第三王子の方が多いが、統制が取れているのは第一皇子の方だ。
それ故に中々決着が付かない揚げ句に、街中でも出合い頭に剣を振り合うと言う事もしばしば起こっていた。
国民は不安になり「もうどっちでもいいからさっさと王座に着いてくれ」と、内心では思っていても声に出しては言えないのが現状だ。
国内がこんな有様では安心して生活が出来ない。そう思っている人も大勢いる。

そんな折、国境付近で守りを固めていた兵士から伝令が届く。

シャブリ帝国の軍隊およそ三万兵がゴルティアに向かって行進してきていると。





===== 



ロジャー、クウ、リカルド、クリフは剣士として最前線へ送られた。
冒険者としての実績を買われたのだろう。
ファインは魔術師として後方支援へ送られ、貴重なヒール使いと言う事で医療班へと回された。

ヒールを使える光の魔術師は少なく、ファインを入れても六人程度しかいない。
故に、力が弱くても一応は使えると言う者が集められ、総勢二十人程となった。
ファインの様に外傷だけでなく内臓も修復できるわけではないが、居ないよりマシと言う事だろう。


そして、秘密裏に立てられたジャブリとゴルティア第三王子派との、茶番とも言える戦争が、今まさに幕開けとなるのだった。








91: ムーン [×]
2016-04-28 22:17:42

第二十八話
■ 報酬と昇格 ■



俺は今、シルバーと一緒に前回薬草採取に来た場所に来ている。
来てはいるんだが・・・・。どうしてこうなった。



前に薬草採取した時、タランに遭遇しただろ?
んで、そいつを倒し糸とか使えそうな物を回収したじゃん?
それをギルドに持って行き買い取ってもらった。そこまでは覚えてるよな?
そこからだ。話しがややこしくなったのは。


毒の塊のようなあの糸は、専用の毒抜きポーションか高度な毒抜き魔術じゃないと毒が抜けないと言う事が判明した。
魔術の方は毒魔法を極めないと習得する事は難しく、現在習得している魔術師は、この大陸中を探しても片手にちょっと毛が生えたくらいしか居ないらしい。
ポーションの方も薬の元となる材料がなかなか手に入らない貴重な素材が含まれているらしく、一本辺り金貨一枚だそうだ。
内容量がたった10mlでだぞ!
それだけ貴重って事らしい。
が。それらを踏まえて。軍資金0で毒抜きが出来る事が判明した今。俺とシルバーが借り出されたと言う事だ。

目を¥マークにしてたジョシュはどうしてるかって?
当然町で留守番だよ。
だってな。タラン狩りに来たのは俺達じゃないんだ。
他の手練れた冒険者達が我こそはと名乗りを上げてきてだな…二十名ほど居るぜ?
俺の周りにな…。

本当ならシルバーだけ借りて行きたかったようだけどさ。
ほら。シルバーって妖魔じゃん?
人の言う事なんて聞かないじゃん?普通ならさ。
でもさ、俺に懐いて言う事聞いてるじゃん?
それで何を勘違いしたのか、シルバーだけ貸せと言って手を伸ばしてきた瞬間にさ、シルバーがやっちまったんだよ。

初めは唸ってただけだったんだけどさ、ギルドマスターが呼んだ他のお偉いさんって言うの?
そんな人が三人程後から来たんだ。
んで、その人達の一人がえらく威張っててだな。
まあ、上から目線で話す話す。聞いててイラッと来たね。



92: ムーン [×]
2016-04-28 22:19:01

===== 



― コンコン

ドアを叩くノックの音がした。

ギルドマスターは「やっと来たか」と小さな声で呟くと「入りなさい」と声を返した。
中に入って来たのは背中に斧を背負った猪顔の獣人と真っ赤な瞳をした魔族の男。それと頭が禿げ上がり、腰に大剣をぶら下げてる人族の男だった。

獣族の人の年齢は分からないが、どことなく狂戦士に見える。
流石力こそが全てと豪語しているだけの種族だ。
魔族の方は年齢が三十歳前後だろうとは思うが、魔族は見た目じゃ判断が出来ないしな。
あいつ等って見た目二十歳でも実年齢が七十歳なんて言う奴もいるんだぞ。ほんと、分からん種族だわ。
そして最後に人族のおっさんだが、見た目通り三十代前半ってとこだろうな。
ロジャーと似たような感じだし。

問題はこのおっさんだ。
魔大陸の人は俺の事を蔑んだような目じゃ見て来ないんだけどさ、人大陸から来たこのおっさんの様な人は…言わなくても分かるよな?
そう。初対面から俺を見下してた。

鼻先でひと笑すると、こんな出来損ないでも従えられる妖狼なんて大した事が無い。
そう思ったんだろうな。

「ふん。この出来損ないがベルガーの飼い主だと?!まだ子狼じゃねえか。
 なるほどな。そう言う事か。なら俺でも使いこなせるってもんだな。」

シルバーを値踏みするように、舐め回すように様子をみる。
その視線にシルバーは唸り声をあげだした。

「一丁前に威嚇するだと?子供のくせに生意気な狼だ」

あまりにも不躾なその態度に、部屋に居る他の四人も顔を顰める。

「まぁまぁ、あんまり挑発せんでくれよ」

ギルドマスターが制止をする。
が。俺がこの場所に居る事自体が気に食わないのか、相変わらず態度は悪い。

「で、話しって言うのは何でしょう」

口火を切ったのは魔族の男だった。

「ああ、そうだった。実はだな ―」

ギルドマスターが言うには、実力のある者にタラン狩りをしてもらうと言う事と、倒す際にできるだけ大量の毒糸を吐かせろと言う事。

「しかし、あの毒糸は毒抜きしないと使えないブヒ」
「私共の方でもタランポイズンバスターを習得している者は居ませんが…」
「ポーションはギルドで用意してくれるならいいが、あれは一本金貨一枚はする
 代物だ。そんなに毒抜きするなら俺達で調達するのは無理だな」

三者三様それぞれの意見だ出る。
「ブヒ」ってるのが獣人で、丁寧語で喋ってるのが魔族。人族は…普通に喋ってるな。

「その事なら心配はいらん。そこのベルガーが毒抜きが出来るそうだ」

ギルドマスターと話していた三人がシルバーの方へと振り向く。
シルバーは唸るのを辞めて大人しく俺の足元でお座りをしていた。まるで飼い犬だね。

「ほぅ~。こいつがですかい。なるほど」

厭らしい目つきで再度舐め回すように見る。
それと同時にベルガーが唸る。
唸られた人族の男は「チッ」と舌打ちをし、話しを進めて行った。

「で、このベルガーを連れて行けばいいんですかい?」
「そうなんだが…、ベルガーだけを連れて行くのはまず無理だろうな」

うん。無理だね。
ロジャー達なら付いてくだろうけど、こいつには付いては行かない。仲間じゃないからな。
って言うか、俺が仲間と認めてないから完全に無理だな。

「ではこの少年も一緒と言う事ですか?」
「まぁ、そうなるな」

「しかしブヒ、子供が一緒だと守りながら戦うって事になるブヒ。
 それはチョットやりづらいブヒ」
「彼も一応冒険者だ。自分の身くらい自分で守れるだろうさ」

そう言って視線を俺の方へ向けて来た。

「はい。自分の身は自分で守れます」

余計な事は言わずにそれだけを答える。

「と、言う事だ。
 で、報酬の無いようだが、糸一塊につき金貨三十枚だ。
 彼にはそのベルガーが毒抜きをした分、一塊に対し金貨一枚を渡そうと思う。
 通常ならポーションを五本ほど使うところだ。安いもんだろ?」

「つまり、彼への報酬は私達が貰う金貨三十枚から一枚払えと言う事ですね」
「そう言う事だ」

「他の部位はその報酬には含まれないブヒか?」
「そうだ」

その話しを聞いた三人は力強く頷き、その依頼を承諾した。

俺の意思は無視ですか…そうですか…。
どうせ俺はシルバーのおまけだよ!チックショー

俺抜きで話しはどんどん進み、最後に欲に目が眩んだ人族の男がとんでもない事を言いだした。

「でもよー。使い物になるのはこのベルガーだけなんだろ。
 こんな出来損ないの言う事も聞いてるんだ。
 なら俺の言う事も聞くだろう。俺の方がこの出来損ないのガキより遥かに
 強いんだからな」

訳の分からん講釈を垂れたかと思うと

「おい!ベルガー!
 今から俺がお前のご主人様だ!」

そうのたまった。
おっさん。見た目判断はいかんよ?
いつか命取りになるぜ。
シルバーは見目は飼い犬っぽいけど妖狼なんだぜ?
そこんとこ忘れてないか?

あ~あ…。おっさんのその言い方でシルバー怒っちゃったよ…。
俺、知-らね。

「グルルルゥ」から唸り声がワンランクアップして「ガルルルゥゥゥ」に変化した。

「何だお前!ご主人様に対して唸ってんじゃねぇよ!こりゃ躾け直しだな」

そう言って右足を後ろに少し引き、シルバーを蹴り上げようとした。
足が前に出た瞬間、シルバーは男の足に噛み付き一瞬で足首を食いちぎる。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ」

男の情けない悲鳴が狭い部屋に響き渡り、男は床に転がりのたうち回る。
そこにシルバーが飛び乗りのど元に噛み付こうとした時、俺は大声で制止する。

「シルバー!そこまでだ!」

男の喉元まで後数ミリと言う所でシルバーは止まり、その大きく開かれた口元から覗かせている牙からは涎の様な糸が垂れてきていた。

突然の出来事で、獣人も魔族の男も咄嗟に動き事ができなかった。と言うより、体が動かなかったのだ。
妖狼であるシルバーの体から、物凄い質量の妖気が漂い、漏れ出していたからだ。
本気モードの妖狼に、いくら子供の妖狼だとはいっても、たかが人間では勝ち目がない。
いや、SSランクが十人もいれば勝てるかもしれないが。

正気に戻った他の四人は慌てた。
目の前にはシルバーに食いちぎられた人族の右足首が転がっており、その持ち主である男は既に床の上で気絶をしている。

魔族の男は幸い癒し術が使えるようで、右足首を急いで拾うと元の位置にくっ付けてヒールを施す。
切り落とされた直後だと問題なく元に戻るのだ。
但し今回は食い千切られたので多少は後遺症が残るかも知れないが、通常の生活には問題がないだろう。

今の事件でシルバーを連れて行く事に多少不安になった男達はシオンに聞いてきた。
ジョシュはと言うと、未だ声も出せず、腰が抜けた状態で床に座り込んでいる。

「君の名前を聞いてもいいかな」
「ハルシオン」

「その妖狼は君の従魔ですか?」
「友達です」

本当は従魔だけど、なんか《従魔》って響きが嫌なんだよな。
従魔っていうと、《下僕》ってイメージがあるじゃん。
俺はシルバーの事を下僕とは思っていない。
どちらかと言うと、ペット?が近いかな。
俺の相棒で友達。そして家族だ。死ぬまで俺が面倒を見る。そんな感じだ。

シルバーは、ペットと言う言葉に耳をピクンとさせたが、その後に続く言葉に満足していた。
私利私欲はなく、自然と発せられた言葉。その言葉がシルバーの中にストンと入り込んだ瞬間だった。

「なら、私とも友達になってくれると思いますか?」

俺はシルバーの方に視線を寄せたが、シルバーは「ふん」と、そっぽを向いた。

「無理みたいですね」

魔族の男は苦笑すると「残念ですね」とだけ言ったのだった。

結局シルバーだけを連れて行く事は不可能だと分かり、ハルシオンも一緒に行く事になり、今の状況に至っていると言う事だ。


獣人の男が率いる《最強》から六人。リーダーの名前は「オクタリア」。
魔族の男が率いる《ナイトクラブ》から八人。リーダーの名前は「ビクター」。
後の六人は腕に自信がある強者達が自己申告で集まって来た。
タランを狩り、吐かせた毒糸の数が今回の報酬となる出来高制だ。
各々力が入ると言うものだ。

普段なら取りたくても取れない高級資材が目の前のタランから吐き出される。
彼等には既に、お宝の山に見えている事だろう。
狩れるだけ狩ったその数はなんと。タランが十体にもなった。
勿論同じ場所で狩るわけではないので、毒抜きで走り回るシオンとシルバーは森中を走り回る。
距離にして30㌔位は走っただろうか。二人にはいい運動だ。

一体のタランから毒糸を搾り取れるだけ吐かせたので、その数は平均三塊程取れた。
合計で三十塊。今回のシオンの報酬は金貨三十枚だ。(三百万)
ただシルバーに噛んでもらって毒抜きをしただけでこの金額である。何気に申し訳ない気がしてくる。
他の冒険者の方も、いつも通りに魔物を倒して一体から平均三百万の儲けが出る。
これを三人で倒せば一人百万だ。
それを三体も倒せば一人三百万程の儲けを一日で稼いでしまったのだ。
こんな旨い話は過去にも、そしてこれからも滅多にある事ではない。
集まった冒険者達は大喜びでシオンとシルバーにお礼を言っている。

「いや~あ。こんなに旨い話は初めてだ。ありがとよ」

そんな言葉を言い残し、依頼完了手続きが終わると各々どこかへ消えて行ってしまった。

シオンは通帳機能も付いてるギルドカードを見ながら、

「結構貯まったな。これなら明日からランク上げに専念しても大丈夫そうだな」
『金が無かったのか?』

「そう言う訳じゃないけどさ。ギリギリで生活するより余裕で生活したいじゃん」
『そんなもんかね』
「そんなもんだ!」



今回の依頼は俺にじゃなくシルバーにだったので、ランク上げの依頼にはカウントされなかった。
あと1回。俺はFランクの仕事を完了しなければEランクには上がれない。
前回は纏めて取って来て数回に渡り完了手続きをしたために一気にこなしたのだ。
あと一回分Fランクの仕事を・・・・って!
そう言えば忘れてたぜ!
タラン狩りの時に、ついでにって見つけた薬草採取しておいたんだった!
これで完了だぜ!!


「おめでとうございます。Eランクに昇格いたしました」
「ありがと!」


今日は昇進祝いだ!
シルバーも好きな物食えよ♪
― キャウン♪


一人と一匹の、長くて短い夜が更けて行った。





93: ムーン [×]
2016-06-24 23:55:25

■ 魔法具屋に行ってみよう ■



Eランクに昇格した俺は、これまで出来なかった魔物討伐が出来るようになった。
魔物討伐は一人でも出来る事は出来るが、それは上級冒険者に限る。
俺みたいな駆け出し冒険者が一人で魔物を狩れるのは、精々1体か2体が良い所だろう。
それ以上の数で束になって来られれば、普通は返り討ちにあって魔物の餌となる事が目に見えている。
そんな事から魔物討伐ともなれば三人以上のパーティーを組まなければならない。

しかし困った。

俺にはパーティーを組めるような知り合いなどいないのだから。





そんな事を考えながらギルドの扉を開けると、俺が来るのを今か今かと待ち構えていたかのように、中に居る冒険者達の視線が一斉に俺の方に注がれた。
そんな厳つい躰で獣耳生やして見られても、可愛くもなけりゃ癒しにもならないからこっち見んなし!逆に怖いわ!

そんな男達が俺の姿を見るとワラワラと俺の周りに集まって来た。

「お前がシオンか?」
「ああ、そうだけど」
「よし。ならお前は今日から俺達のパーティーに入れてやる。有難く思えよ」

いきなりのパーティー勧誘だ。

「はぁ?!何言ってんだお前!そいつは俺達とパーティーを組むんだよ!」
「おぃおぃおぃ。お前こそ何言ってだ。ワイらと組むに決まってんだろ」

近寄って来た男共は口々に勝手な事を言って来る。
どいつも自分達のパーティーに俺が入る事が前提らしい。馬鹿馬鹿しい。

「悪いけど俺は何処のパーティーにも入らないよ」
「ああん?!テメェせっかく俺様が誘ってやってるのに断るって言うのか!」

上から目線で格下扱いされての誘いになんか乗るかっちゅうの。

「はい。既にパーティーには入ってますからね」

嘘は言ってないぞ。俺はロジャーのパーティーのメンバーだ。
今は一時脱退状態だけどな。
ロジャーは戦争が終わったら迎えに来てくれるって言った。だから俺は待つ。ロジャーが来るまでな。

「ほぅー。一体何処のパーティーに入ってるんだ」
「《イカヅチ》人大陸に他のメンバーはいる」

「何だお前、本当は出されたんじゃないのか?!」

周りの冒険者達から一斉に笑い声が上がる。アハハハハ。
笑たけりゃ笑えばいい。そんな事は昔から慣れている。
魔術もろくに使えない役立たず。出来損ない。ごくつぶし。そんな風に言われて嘲笑われて生きて来たんだ。ロジャー達に会うまではな。
俺には俺の生き方がある。恩を返さなきゃいけない人が居る。俺はもっと強くなってロジャーの役に立ちたいんだ。
だからこれ位の事では動じない。笑いたきゃ笑っていろ。

俺は、その人だかりの中から出て依頼書の前まで進んだ。
どうせ俺に声を掛けて来たのだってシルバーが目当てだったんだろう。あの猛毒の糸の毒を抜けるシルバーを使って荒稼ぎでもしようと思ってたんだろうな。そうは問屋が卸すかってんだ。金が欲しけりゃ全うに仕事をしろ。楽して金が手に入るとは思うな。クズが。



暫く依頼書を色々と見てたが、これと言って良い仕事が無さそうだ。
そうだ。この間買った錬金術と魔術の本を見ながらいろいろと試してみるのも良いかも知れないな。
しばらくは働かなくても良い位の金も入った事だし。

さっそく宿屋に戻り本を広げて読みふける。
錬金術で重要なのは、精神統一と念じる心らしい。後は、才能だ。
志が人一倍あっても出来ない奴は出来ない。
回復薬を作ろうとしても、コポコポと泡立つ得体の知れない何かが必ず出来てしまう。それが何なのか飲んでみる度胸のある奴が居るだろうか。俺なら飲まない。
絶対おかしいだろ!そんなの!
俺の経験上そう言うのは毒系統だと決まってるからな。

まぁ、回復薬程度なら何か知らんが俺でも造れるんだ。昔ちょっと練習したら作れるようになったんだよ。問題は武器だな。
確か袋の中にタランの牙があったな。これで武器が作れないかな。
えっと。元になる武器と強化材料の魔物の部位と、鉱石か。
なになに。鉱石の種類によって付与付になるか。鉱石は鉄でいいか。沢山あるしな。
で。どうやってやるんだ?

あー、そうですか。そうですよね。
錬金釜に入れないと出来ないんですね…。って、初めて聞いたわ!!
錬金釜なんて何処に売ってるんだ?道具屋か?
けど、今まで一度も見た事が無いぞ。
分からない事はギルドに聞けば良いか。

さっき訪れたばかりのギルドに再び趣き、暇そうにしている受付の前に行った。

「こんにちは」
「今日はどうされましたか」

うん。マニュアル通りの受け答えだ。

「教えてほしい事があるんですが、いいですか?」
「私に分かる事でしたら、どうぞ」

分からない事は調べてもくれないって事か?大丈夫か、この人で。

「錬金で使う釜ってありますよね。それは一体何処に行けば手に入るんでしょうか」
「釜ですか?魔法具専門店に行けば買えるんじゃないですか?
結構値がありますけどね」

「因みに幾らくらいの物なんです?」
「そうですね…。ピンキリで、安くて金貨5枚。高いのだと金貨30枚と言うのもありますよ」

「やはり値段が高い方が性能が良いんでしょうか」
「そうですね。ある意味そうかも知れません」

歯切れの悪い受付嬢にもう少し突っ込んで聞いてみる。

「ある意味とは?」
「金貨5枚程度の釜ですと、錬金するのに丸三日ほどかかります。
金貨が30枚の方は半日程度で錬金が可能になります」

「なるほどー。分かりました。有難うございます」

急ぐものじゃないし、取り敢えず練習用に安いやつでも買うか。


94: ムーン [×]
2016-06-24 23:56:37

付嬢に地図を描いてもらい、そこに店の名前も書いて貰った。
裏路地の分かりにくい場所に在るようで、俺は地図を見ながら歩く事10分。ようやく店の前に到着した。

「分かりづれぇ・・・・」

一見普通の民家。申し訳程度の看板。これで客が分かるのか不安になる。

「何でこんな場所に店構えてんだ。表通りの方が客が来るだろうに」
『あー。盗賊とかに襲われない様にじゃないのか?魔法具は良い金になるからな』

「―なんでシルバーがそんな事知ってんだよ…」
『常識だ!』

あーそうですか。すみませんね。常識が無くってよ!


木のドアを開けて中に入ると、コンビニ程の広さの中に所狭しと商品が陳列している。
ネックレス・指輪等のアクセサリー関係から鍋や鉄板と言う珍種までさまざまある。
高価そうな物は魔法が施されている透明の硝子のようなケースに入っている物もある。
その中に錬金釜らしき物を見つけた。

ざっと店内を見回し、カウンターの中に居る二十代後半の女性を見ると、俺とシルバーを交互に見て険しい顔をしている。俺の様な子供は買いに来ないのだろうか。それとも店内ペットお断りか?
『おい、誰がペットだ』
シルバーが何やら言ったが聞こえなかった事にしよう。

「すみません。錬金釜が欲しいんですけど」
「お使いかい?」
「いえ。俺が使いたいんですが」

まじまじと俺を見つめた女性は少し考えながら言った。

「錬金は才能が無い者には使えないよ。しかしあれだ。お前みたいな珍しい系統は久しぶりに見たぞ」

珍しいって何だよ。俺は珍獣か?

「まあいいだろう。だが、私も使いこなせない者に売る気はないよ。道具が可愛そうだからな。取り敢えずこれに手をかざしてみろ」

そう言ってカウンターの下から赤子の頭ほどの水晶を取り出した。
俺は言われたままに水晶の上に手をかざす。
水晶が虹色の光を帯びて光が消え去ると、手を離していいと言われ、手を離す。
その水晶を覗き込んだ女性が驚愕の表情になった。そして絞り出すように言葉を発する。

「お前は一体何者なんだ…」
「へっ?」

間の抜けた様な返事をしてしまったのもしょうがないと言うものだ。
いきなり「お前は一体何者だ」なんて言われても返事に困る。ここは「人間だ」と返すべきなのか、それとも「ただの冒険者だ」と言うべきなのか迷う。

「えっと、冒険者で普通の人間ですが。何か?」

結局全部言ってしまった。アホか俺は…。

「いや、悪い。そう言う意味で聞いたのではないんだ。私が言いたかったのは、普通の人間ごときが何故全属性の魔法を扱えるのか。と言う事なんだ。魔族でもない限りあり得ないだろ。普通」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

「いや…、魔族でも無理があるな。精々4属性が良いとこだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「で、お前は一体何者なんだい?」

それまで黙って大人しくしていたシルバーが突然喋り出した。

『それについては俺が説明してやる』
「やはりお主は従魔であったか。では聞こう」
『シオンが全属性を扱えるのは、精霊の加護を授かっているからだ。それも精霊王のな。
コイツはどうも精霊達に好かれているらしい。俺と初めて出会った時にも精霊たちがシオンの周りに纏わりついていたからな』
「そうか、お前は精霊の申し子なのか…」

「精霊の申し子?」
「知らんのか?精霊に愛されし人の子と言う意味だ」
「初めて聞いたな」
「知らないのも無理はない。精霊の申し子が最後に現れたのが約800年前だ。
人大陸にあるゴルティア国の英祖。つまり初代国王がそうだったそうだ」
「ゴルティア国の英祖…?」
「ああ。私も母親から聞いた事だから詳しくは知らないが、金色の髪に紫暗の瞳をしていたと聞いた。・・・・・・・・その髪…、その瞳の色…、まさか・・・・。」
『俺達は人大陸から来た』



シオンは「他人の空似」又は「偶然同じだけ」と思っていた。
自分の出生地が偶然にも同じ国だったと。
ただそれだけだと。
シオンは知らない。
生まれて直ぐに母を亡くしたから。
自分の父親が誰なのかを知らなかったのだ。



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