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大きな古時計/24


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21: ハナミズキ [×]
2014-09-23 23:23:48

あと、僕は自分たちがお腹が空いてるなんて書いてなかったのに、神様はお米も一緒に入れてくれたんだ。
そのお米は、そこに居るみんなで分けて食べたから、すぐ無くなっちゃったけど、神様はまた直ぐに沢山の食べ物を置時計の中に入れてくれてた。
そのおかげで僕たちは、飢えて死なずに済んだんだ。


戰爭が終わっても、食べ物はなかなか手に入らなくって、しばらくの間は神様が僕たちを助けてくれた。
そして、日本が復興を遂げてきた時、僕は神様に御礼の手紙を書いたんだ。

――  神様へ  
    今まで有難う御座いました。
    神様のおかげで、僕たちは元気に暮らしています。
    本当に有難うございました。    ――

と。
それっきり神様に手紙が届く事はありませんでした。













22: ハナミズキ [×]
2014-09-23 23:24:26

◆ 翔太の思い ◆


あれから、豊からは手紙が来ない。
どうしたのだろうか。
東京大空襲が始まった3月9日はとうに過ぎた。
豊は無事なのだろうか。
心配だ。

それから一カ月ほど経ったある日、豊から手紙が届いた。
良かった。
生きてたんだ。
あれは安堵をした。
しかし、手紙には妹が生まれたが、母親の母乳が出ないと書いてある。
どうすればいい?
今の時代なら粉ミルクだが、それを送ってもいいのだろうか。
迷っている暇はない。

俺は粉ミルクを買い、それを送る事にした。
乳が出ないという事は、母親も食べる物に困っているのだろう。
当時の食糧事情を思えば、想像は容易くできる。
ミルクと一緒に、米を送った。
時計の中に入れれるだけ入れて。

この食糧難は、戦争が終わっても続いてる事は知っていた。
だから、豊から手紙が来るたびに、時計の中に入るギリギリの食べ物をいつも送っていた。

しばらくして豊からお礼の手紙が来る。
その手紙を境に、その古時計は、いくらゼンマイをまいても動かなくなってしまった。
そして、豊から手紙が届く事も二度となかったのだ。



23: ハナミズキ [×]
2014-09-23 23:24:59

これでよかったのだろうか。
豊は無事に戦後を乗り切ったのだろうか。
戦後69年。豊が生きていれば、いまは80歳位になっているだろう。
合ってみたいな・・・。
でも、もし偶然に出会ったとしても、豊は俺の事など分からないかもな・・。

なんて思っていた時、ふとある事尾を思い出した。
そう言えば、手紙のやり取りを始めたころに、砂糖を入れた紙袋の口が開かないようにと、俺が映っているプリクラをシール代わりにしたことが度だけあったっけ。
まさかそんな物、いつまでも覚えているわけはないよな・・・・と。



24: ハナミズキ [×]
2014-09-23 23:26:45

俺は、大学の実習で老人ホームに研修に行く事になった。
機関は週刊だ。
ちょっと面倒くさい。
でも行かないと単位が貰えないので、仕方なく行く事にする。

その老人ホームは、寝たきりのお年寄りではなく、比較的元気なお年寄りが沢山居た。
俺は学校で学んだとおりにリハビリの手伝いをするが、本と実践ではかなり違う。
これは相当な根気が必要なようだ。

俺が担当をする老人を割り当てられ、その中に聞き覚えのある名前がいた。

「黒田 豊?・・・・まさかな・・・」

俺は独り言のように呟いた。
俺には豊の顔など分からない。
一度も見た事が無いからだ。

俺は、黒田 豊と言う唐人の元に連れていかれた。

「豊さん、今日から少しの間、お手伝いをしてくれる実習生の本田 翔太君ですよ」
「初めまして。本田 翔太と言います。よろしくお願いします」

俺は丁寧にあいさつをした。
すると、その老人は、俺の顔をまじまじと見て嬉しそうな顔をする。

「初めまして。よろしくお願いします」

意外と気さくな爺さんで、俺と黒田の爺ちゃんは直ぐに打ち解け仲良くなった。
そして暇な時間を見つけては、色んな話をしてくれた。
ある時、爺ちゃんや婆ちゃん達と話していると、同じ実習生の一人が戦争の話しを聞いた。

「なんか最近、日本が憲法を変えて、自衛隊じゃなくて国防隊を作ろうとか言ってるけど、戦争にな るのかな?」

するとお年寄り達は口々にこう言った。

「戦争なんてするもんじゃない」
「戦争がどんなに酷いものか、今の若者は知らないからな」
「あの時は食べ物も無くて、草や木の根っこを食べてたわね」
「今の若い者にそんな真似は出来んじゃろて」

「わしが今生きていられるのも、みんな神様のおかげなんじゃ。
 あの時、神様が食べる物を分けてくれたから、わしは生きてこれた」

俺はドキッとした。
まさか・・・・そんな思いで一杯だった。
そして思い切って聞いてみる事にした。

「黒田さんの家って、昔神社の側に在りませんでしたか?」
「良く知ってるな。その通りじゃ。」

俺の中で推測が確信に変わった。
そっか・・・元気に生きてたんだ・・・良かった・・・。

「わしはな、今でもその神様に感謝してるんじゃ。
 大事していた宝物は、むかし泥棒に入られて盗まれてしまったが、
 思い出だけはいつもここにあるよ」

そう言って右手を胸に押し当てている。
そして、俺の方を見ながら一言「ありがとう」と囁いた。

まさか!覚えてるのか?!
70年も前の事だぞ!?
俺はいつの間にか涙を流していた。
何も知らないお年寄りや実習生仲間は、俺が戦争の話しを聞いて、感動して泣いてると思っていたらしい。

だが、俺が何故涙したのか、その理由は、俺と黒田の爺ちゃんしか分からないだろう。

そして、俺の実習が終わる時、俺は黒田の爺ちゃんにあるプレゼントをした。
それは・・・あの置時計だ。
他の人は、何故そんな動きもしない古い時計をプレゼントだと言って渡したのか理解不能な顔をしていた。
でも、黒田の爺ちゃんは涙を流しながら喜んでくれた。
置時計も、本来の持ち主の元に、久しぶりに戻れて嬉しそうにしているように、俺には見えたのだった。


俺は、この道に進もうと思った事に間違いはなかったんだと、改めて実感をし、そして心に誓った。
早く一人前のリハビリ介護士になろうと。










―  完  ―

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