(“パーティー”というものには仕事でも私生活でも慣れっこだが、今日に限ってはそわそわと地に足が付かない。己の常識が覆るような不思議な国、不思議な住人、不思議な日々――そこへ転がってきた一大イベントが、童心にでも返った心地に己を舞い上げる。だからドレスコードの服選びにも一層意気込んで、じっくり時間を掛けて吟味する。まず選ぶのは空の色を吸った雪のような、限りなく淡いアイスブルーのディナージャケットとトラウザー。それから内側は白のシャツに濃いネイビーのウエストコートで締め、首元にはその同色にゴールドのストライプ柄が入ったボウタイ。服が決まれば次は髪型と、左側を前髪もサイドも巻き込んで編み込み、右は垂らしたアシンメトリーに。他に彩る小物は少し迷って、金縁の赤いサテンリボン、柊の葉、雪の華を象った装飾が施された、如何にもな黒いシルクハットを模したヘアアクセサリーを一つ。掌サイズのそれを頭の右側にピンで留め、最後に星型のストーンから黄色と緑の二色を選んで左の目元に泣き黒子宜しく縦に並べ飾り、ブラウンのドレスブーツを履いて仕上げとする。服自体は崩し一切無くかっちりと着るフォーマルさを残しつつ、まるでスノーマンを彷彿とさせるような愛嬌と遊びをふんだんに散らしたその格好に鏡の前で満足げに鼻を鳴らした後、はたと窓の向こうに目をやる。そのまま何か考え込む沈黙を暫し流して、手に取ったのは手紙のセット。『Shall we dance?――手を取ってくれるなら、もみの木の下へ。O.E.アリス。』全体としては読み易く整っているが、文字の尾が所々跳ねる癖がある独特の筆跡でそう茶目っ気混じりの文言を綴り、最後には自身のイニシャルと呼称も添えて。宛先にはこの国で一番初めに会った兎の彼を選び頼んだその後、自らは支度の済んだ部屋を出て待ち合わせ場所として手紙に記したツリーのある大広間へと向かい歩いて。)