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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
41:
Arthur [×]
2025-02-07 10:50:07
(スケッチブックを手渡した後、すぐさま作業の準備に取り掛った。彼女の反応に正面から向き合うことが何故か落ち着かなかく感じたからだ。まずは部屋の光の具合を確かめるべくカーテンへと歩み寄り、軽く開閉して角度を調する。決して大きくはない船室の窓から差し込む自然光を最大限に活かし、柔らかな陰影が生まれるように、彼女の輪郭や表情を最も美しく捉えられる加減を探った。その折、背後から届いた声に思わず一度手を止めて振り返る。その言葉は胸の奥に静かに落ち、ゆるやかに波紋を広げるようだった。どこか遠くを見るように響いた声は、過去に取り残されるような感覚によるものか、あるいは過去を手繰り寄せることができる安堵によるものか。そのいずれであれ、一枚一枚を慈しむようにスケッチブックを見つめる彼女の瞳が、単に絵を鑑賞する以上に、その奥に宿る何かを掬い取ろうとしているのが分かる。妙な充足感が心の奥に満ちるのを感じた。誰かに見せるために描いたものではなかったが、自らの筆が刻んだものが確かに彼女の心へ届いたのだと実感し、その手応えを噛みしめながらも「…お気に召して貰えたなら何より」あくまで返事は淡々と素っ気なく。無造作に置かれた椅子を手に取り、光が最も柔らかく入る位置へと移す。長く座っても負担にならぬよう、背もたれには小さなクッションを添えることも忘れない。大方の準備が整った頃、彼女がふいに、自分自身のことを聞いてほし願い出た。その意図を測りかねつつも承諾し、椅子を軽い手の動きで示して)
それは…どうぞ、描きながらで構わないなら。…ここに座ってくれ。光がちょうどいい。
(/いえいえ、お互いに無理なく続けていけたらと思っておりますので、レスペースについてはどうかお気になさらないでください!展開についての快いお返事もありがとうございます。急なわがままで申し訳ないです…!また、スケッチ中にベアトリス嬢のお話をお聞かせいただけるとのこと、大変嬉しい追加要素でありがたいです!スケッチの過程や心境の変化など丁寧に描きたい場面でしたので、楽しみつつ描写していければ幸いです。引き続きよろしくお願いします。※特に追加確認などが無ければこちらお返事お構いなくです。)
42:
Beatrice [×]
2025-02-07 23:48:57
ベアトリス・ルーナ、17歳。母がプレストン伯爵家に仕えていたご縁で、まだ右も左もわから頃から私もまた自然とプレストン伯爵家に身を寄せていたわ。屋敷での暮らしは毎日が生きるための学びの場で、……プレストン夫人はとても優しい人、幼い私にそっと教えてくださったのよ──「この世にはね、人の数だけふさわしいドレスがあるのよ」と。
(そっと視線を落とせば、用意された座席に添えられたクッションが目に入り、ふわりと薫る淡い気遣いの香りに心がそっとほどけるようで静かに腰を下ろす。少しの緊張感に背筋を伸ばし、小さく息をついた。窓の外からは優しい陽射しが降り注ぎ、ガラスに映る翡翠の瞳が柔らかく煌めき、彼へと顔を戻す。一人語りの許しを得たことでまるで糸を紡ぐように、ぽつりぽつりと自らのことを語り始めた。思い返すのはふんわりと甘く、それでいて温もりをはらんだ布の匂い。アイロンをかけたばかりの生地に宿る、柔らかな熱。そして、果てしなく並ぶ、名前もわからないデザインをした色とりどりのドレスたち。今思うとプレストン夫人は幼い私の容姿を気に入ってくださっていたのかもしれない。でもそれだけではなく、本当に優しく接してくださった。学のない私にも、夫人が学び得た服飾に関する大切な知識を分け与えてくださっていた。最後にあの重たい鉄のアイロンを手にした日すら思い出せないけれど、あの時間は間違いなく私にとって楽しく愛おしい思い出だったと大切な宝箱をこっそり開くように初めて吐露をした。互いのことを多く知らない間柄の彼だから、誰にも話したことの無い胸の中のずっと奥に隠していた大切な思い出を語れているのかもしれない。)
私ね、アイロンがけが得意なのよ。……シワひとつ無いほどピンと張った生地。その上に繊細なレースが映える瞬間が、とても好きだったの。
43:
Arthur [×]
2025-02-08 14:55:37
(彼女が静かに腰を下ろすのを見届けると、対面する位置にもう一脚椅子を引き寄せ、腰を落ち着けながらスケッチブックを開く。窓から差し込む淡い光がベアトリスの髪を撫で、頬の輪郭に繊細な陰影を落とし、瞳に柔らかな輝きを宿らせる。その長い睫毛が作る影までが美しく、筆を取る前の静かな高揚が胸の奥を満たした。彼女の穏やかな語りに耳を傾けつつ、迷いなく紙へ鉛筆を走らせる。労働階級の生まれで貴族の屋敷に仕えていたという過去は、洗練された今の姿とは結びつかない。ふと指先に目を落とせば、そこにあるのは白くしなやかで傷ひとつない指。高価な香油で手入れされたようなその手も、かつては家事に追われ、水仕事に晒されていたのだろうか。しかし彼女の語る思い出に翳りはなく、誇りさえ滲むようだった。プレストン伯爵家での暮らしを懐かしむように話すその表情は、幸福な記憶に彩られている。ならば、彼女はなぜ今ここにいるのか──侯爵の愛人という立場に。その問いを飲み込みながらも無意識に手が止まり、視線が吸い寄せられた。アイロンがけが得意なのだと、大切にしまっていた宝物をそっと見せるように微笑んだその顔を、光と影が際立たせる。揺れる髪の一本、端正な顔立ちの奥に残るあどけなさ、記憶を辿るような遠い眼差し、繊細な指先、ふと浮かぶ微笑み──すべてを捉えようとしたはずなのに、最初に引いた線がひどく不完全に思え、思わずページを繰る。新たな白紙と向き合い、光の加減を確かめながら静かに口を開いて)
……意外だな。今の貴女は上流階級の人間と遜色ないように見える。…少しだけ顎を引いて。…それから、手を組まずに膝の上に自然に置いて…指先の力は抜いて。
44:
Beatrice [×]
2025-02-09 01:18:41
ふふ……ふふっ。本当にそう見えていたの? それならば、私の戯れもなかなかの腕前ということね。──失礼。顎を少し引いて、手はこちらへ。力を抜いて……これでよろしいかしら?
(上流階級の装いが違和感なく映るほどに、他ならぬ芸術家アーサー・バートンの審美眼に認められるとは。まるでストンと矢で射抜かれたかのような衝撃が心臓を貫き、一瞬、呼吸さえ忘れてしまう。大きく見開かれた瞳にほんの刹那、ひどく人間らしい戸惑いと確かな安堵の色が宿り。それを悟られまいと朗らかな笑いを紡ぎ、ほっそりとした指先でそっと口元を隠した。けれど、懐かしむ心が油断を生みほろりとこぼれ落とした発言は思いがけず零れた幼き日より続くごっこ遊びの名残。それを掘り下げられる前に、あるいは自ら掘り下げてしまう前に──そっと指先を降ろし、彼の指示に応じて姿勢を整える。ふと目元を撓めると、モラレス侯爵に迎え入れられるにあたり、最初に模倣した夫人の面影が脳裏をよぎった。幼少期より接してきたプレストン夫人の気立ての良さを学ぶことは、さほど難しくはなかったと。時には社交界で最も人気のあった令嬢の慎ましやかな立ち振る舞いを、時には嫉妬の的となった淑女の聡明さとあざとさを──そのすべてを己が身に落とし込みながら、本来の私とは遠く離れた男性にとって理想の女性へと形を変えることに密やかな愉悦があったと思い出した。忘れてしまっていたくらい当たり前だったその気持ちも、彼の傍にいると上書きされていた”本当のベアトリス”がふと顔を覗かせることに不思議な気持ちを抱き。先ほどまでカリカリと音を立てて迷いなく進められていたペン先が止まった事に気がつくと新たなページにめくられるのを静かに見届けて。どのように私を描いたのか──その好奇心を飲み込む代わりに、そっと微笑みながら質問を口にして。)
Mr.アーサーが芸術に触れたきっかけを教えて頂きたいわ。
45:
Arthur [×]
2025-02-10 00:27:49
……良い。そのままで。
(数秒の静寂の中で、指示通りに整えられた姿勢を確認して頷く。微細な調整を要するかと一瞬考えたが、光の加減と彼女の自然な佇まいに違和感はなく、視線を紙へと戻して迷いなく鉛筆を走らせる。今度こそ、彼女の姿を正しく捉えられるはずだ。綻ぶように滲んだ一瞬の安堵も、それを塗り重ねるように作られた笑顔も、すべてを拾い上げなければ気が済まない。顔の輪郭をなぞるように曲線を走らせたその時、思いがけない問いが耳に届いた。手元の線が乱れる前にそっとペン先を浮かせ、即座に返答はせず、鉛筆の後端を口元に押し当て思考を巡らせる。芸術に触れたきっかけ──紋切り型の答えならいくつも思いつくが、本当の原点を誰かに語ったことは、これまで一度もなかった。目を細めれば、遠い記憶の奥底に埋もれていた情景がゆっくりと輪郭を帯びて蘇る。──鉄と油の香りが入り混じった重い空気。部屋の隅々まで響き渡る活版印刷機の規則正しい駆動音。紙の束が運ばれるたびに立ち上る、乾いた繊維の匂い。煤で曇った窓に西日が差し込み、大きな機械の鋳鉄の表面が鈍く赤く光る、妙に印象的な光景。静かに息を吐き、鉛筆の動きを再開させながら口を開く。なぜこの記憶を知り合ったばかりの彼女に語りたくなったのか、自分でも理由はわからない。)
──…子供の頃、印刷所で働いていた叔父がよく工房に連れて行ってくれた。本や新聞が山ほど積まれていて、まだ字が読めなかったから挿絵のある本ばかり眺めて…その中にレンブラントやターナーの複製画があった。…色彩もない、影と線だけの…今思えば職人が元の絵を真似て彫っただけの版画だ。…だけど、不思議と光を感じた。
(/ご連絡のみ失礼します。相談所の方にご相談の書き込みを致しましたので、お手隙の時にご確認いただけますと幸いです!※こちらご返信お気遣いなくです。)
46:
Beatrice [×]
2025-02-13 11:49:26
(姿勢を正して優雅に佇むその姿はまるで繊細な細工を施された宝石のようで。しなやかに首を傾けて肩の角度を計りながら、微笑みにふわりと優美な曲線を描くことなど、ベアトリスにとっては呼吸するほどに自然な所作だった。向かい合う静寂の中でペンが紙を滑る微かな音に耳を澄ませながら問いを投げてはみたが、その答えはきっと当たり障りのない言葉で彩られてこの場を穏やかに流れてゆくものだと予想していた。だからこそ、予想を超えた真実──彼が芸術に目覚めた瞬間を知ることができたとき、ほんの僅かでも彼の本質に近づけたような気がして心がふわりと浮き立って。作り物のように整えた微笑みはいつしか好奇心に染められて、無邪気な色を帯びていた。それはまるで幼き日に初めて目にした美しい絹の輝きに魅了され、ただ心のすべてを奪われたあの頃の自分と重なって見えたからかもしれない。そう思うと目の前の彼への親しみがそっと芽吹き、もっと彼自身を知りたくなって。心を揺さぶる美しさの前に立ちそれに携わることを選ぶのは、決して容易ではない訳で。そこへ踏み込むには確かな勇気が必要だと理解しているからこそ、静かに翡翠の瞳を向けた。尊敬の色を宿したまなざしで、一瞬だけ、正面に座る彼の姿だけを映し込み。)
……その光に、手を伸ばそうとしたとき。怖くはなかった?──光を追い求めるいま、”アーサー少年”は幸せ?
47:
Arthur [×]
2025-02-14 14:46:49
……痛みを知らない子供は恐れもしない。火に指を伸ばして、崖を覗き込み、闇の中に踏み込んでいくものだ。……そういう意味では、俺は随分長い間、子供だったんだろう。
(二つの問いかけが心に揺らぎを生じさせたことを悟られぬよう、視線を上げることはせず、無言のままスケッチの線をなぞる動作を繰り返して思考の間を稼いだ。ひとつめの問いに対してはさして迷わずに答えが出た。芸術を求める道の途上で恐れを抱いたことはない。最初に炭を握り紙の上に影を落とした瞬間から、その行為は言葉など不要なほど純粋な歓びそのものであり、疑念も逡巡もほんの一欠片たりとも入り込む余地はなかった。才能にも恵まれ、それだけが己を表現する唯一にして絶対の手段であったが故に、筆を握ることはただひたすらに幸福であるはずだった──いや、幸福でなければならなかった。彼女の問いの後半、“今、幸せか”──その言葉は容赦なく突き刺さり、鉛筆の先が震えて紙の上に刻まれる線が微かに乱れる。眉を寄せ、誤魔化すようにスケッチの角度を変えた。直向きに光を追い求める無垢な子供でいることは叶わない。仕事とはそういうものだと教えられ、芸術は自由であるべきだと高尚な信念を掲げたつもりでいながら、現実は貴族たちの望む肖像画を描き、彼らの虚飾を彩ることに費やされる。理想と妥協の狭間で足掻きながらも、他に何も持たない自分には筆を置くことは許されなかった。選ぶ余地など初めからなかったと自らを思い込ませ、それでも折り合いをつけられていないことを、彼女は見透かしている。そこに悪意など微塵もないのが分かるからこそ尚更たちが悪い。沈黙が降りる中、指に余計な力がこもり紙が軋む音が耳を打った。言葉にならない何かを噛み潰し、視線を躱すように頭の角度を深くして。苛立ちとも焦燥ともつかぬ感情が湧き上がるのを、理性が制しようとする。良くない事だとわかっている。わかっていたのに、気づけば言葉が零れていた。)
──…貴女こそ。貴女は……愛しているのか? “彼”のことを
48:
Beatrice [×]
2025-02-19 00:44:55
──アーサー少年は、“子供”のまま”大人”へと堕ちてしまったのね。………この時代に愛をただの幻想ではなく本当に”愛して”生きられる女はどれほどいるのかしら。
(彼の頭は深く落とされ、視線が交わることはそれが物理的に不可能であると教えるように無かった。そんな姿のまま落とされた凪いだ声色の問いかけは、反論の余地すらないほど確信を帯びた内容だったようで喉の奥が石のように重くなり、声を発することさえできなくて。苦虫を噛み潰したように口角がわずかに落ち、瞳が曇る。しかしその色は決して悲壮感ではなく、鋭い言葉を正面から受け止めてころころと鈴を転がすような笑い声を。眉をわずかに下げて意図的に困ったような表情を作りながらも、その返答には確かな負けん気が滲み。何も持たぬ女がこの世を生きるために、どう身を振るべきか──それくらい、思春期を迎える頃の子供でも知っているはずだと。受けた問いに、明確な答えを返すことはせずに暗に伝える、それが己の出した答えだった。夢を追い光に手を伸ばしたはずのアーサー少年がいつしか”幸せ”を濁してしまったように、持たざる者がこの時代を生き抜くためには妥協や諦めが必要になる。そう理解するからこそ、ほんの数秒だけ静かに目を閉じて。誰もが思っていても敢えて投げない意地悪な質問に答えたことが寧ろ心に落ち着きをくれたらしい。ゆっくりと目蓋を開くと長い睫毛に縁取られた瞳には明日を見据える無謀な光が宿り。わずかに下唇を噛む葛藤の末、不敵に口角を上げて言い切って。)
………私もそうよ。今もまだ“子供”のまま、“大人”のふりをしているの。
49:
Arthur [×]
2025-02-19 22:57:34
………すまない。今のは浅はかだった。
(言葉を噛みしめるように低く呟き、手のひらに残る紙の感触を確かめるようにスケッチブックの端を指でなぞる。自分でも驚くほど素直に謝罪の言葉が出たのは、彼女の毅然とした態度に完全に打ち負かされたと悟ったからだ。問いかけた瞬間の自分はあまりにも幼稚で、彼女が何を見て何を知りながら生きているのかを考えもせずに──ただ、現状と向き合うことを恐れ、自己防衛のためにあのような問いを投げたのだと気づいてしまった。自尊心が焼けるように痛めど取り繕うことすらできない。躊躇いながらも視線を上げた丁度その時、丸窓から一際強く差し込んだ陽光が彼女の輪郭を淡く縁取った。金糸のような髪が光を編んでふわりと輝き、影を削り取られたその姿は聖像めいて神々しく、そこに存るだけでひとつの絵画のようだと、深く胸を打たれる。世界の欺瞞も、光の裏に伸びる影も、彼女は現実の冷酷さを知りながら、まるで舞台の幕が下りる最後の瞬間まで演じきる役者のように、堂々と“物語”を生きている。自分にその覚悟はあるかと問われたなら──答えを探すように鉛筆を握り直すも、その先は紙を捉えることが出来ない。このまま問いを閉じることもできたはずだった。彼女の強さをただ眩しいと見上げるだけなら、余計な詮索を加えることなく絵を描き続けることで沈黙を保つことができただろう。しかしそれでは駄目だと、その核心に触れずにはいられないという衝動が抑えようもなく胸の奥で疼いてしまった。指先の微かな震えを握った鉛筆の冷たさで誤魔化して、歯切れ悪く問いを紡ぎながら、光に揺れる彼女を見つめ)
……もし、何にも縛られずただ“子供”でいられたなら……貴女は、何を望んだ?
50:
Beatrice [×]
2025-02-20 19:18:54
私らしく生きることを望むわ。──熟した林檎を口にできなくても、華やかなドレスに袖を通せなくても、たとえこの手が荒れてしまったとしても、それでも構わないわ。ただ、がむしゃらに働いて、自分の足で歩いてみたいの。ベアトリスは、生きていることを楽しむのよ。
(真っ直ぐに届けられた謝罪の言葉が胸の奥をそっと叩いた。ふっと小さく息を漏らし、穏やかな微笑みを浮かべると僅かな表情変化だが許しの意を表して。互いの好きな物だって知らないのに、それでも多くを語らずに理解が出来るのはきっと、生きるために身を置く世界があまりにも似ているからだろうか。あるいは──そう信じたかったのかもしれない。強い陽射しがほんの少し眩しくて、天日に干されたシーツの香りが記憶の扉をそっと叩いた。思わず太陽の香りを探して深く息を吸い込んだけれど、そこに広がったのは太陽の匂いではなく、絵の具や木炭、オイルの混ざった画材の香りだった。その違和感にほんの一瞬、どこか不思議な気持ちになって眉が下がる。不意に筆を止めた彼が、言葉を慎重に選びながら、それでも正解を見つけられずにいるように問いを投げると瞬きの後に視線を向けて。その内容に驚くこと無く、すう。と息を吸い込んで返事をする。──それはあまりにも優しくて、あまりにも現実味のない夢と同じ。子供が「空を飛びたい」と願うのときっと同じくらいに儚く綺麗なだけの内容で。一拍の間を置いてからその言葉に合わせるように、すらりと伸ばした指先を視線の高さまで掲げる。瞳に映るのは冷たい水に晒されたことのない、爪の先まで整えられた美しくきめ細やかな手。苦労を知らない、貴族の愛玩物にふさわしい指先だった。その手をそっと握りしめると静かに再び元の姿勢へと戻った。今、こうして夢を語るベアトリスは誰かの模倣ではない。ベアトリス・ルーナとして、己の言葉を紡いでいると実感が湧いた。それは彼が飾り気のない率直な言葉をくれるからこそ取り繕う必要のないありのままの自分でいられる時間だった。困り眉のまま目を細め、にこりと微笑む。少し大きく開いた唇の隙間からは、白いエナメルが覗いた。幼い子供が楽しくてたまらないときに見せるような、屈託のない笑顔。淑女には相応しくない仕草かもしれない。それでも構わなかった。心のままに、ただ笑う。それはまるで、幼い少女たちが寄り添い、おとぎ話に夢中になるような、無邪気な笑顔でそんな表情のまま言葉を紡ぎ。)
そんなふうに生きた先で、心のままに“愛する”ことができたら──最高ね。
51:
Arthur [×]
2025-02-21 07:05:07
(衝動に駆られるまま投げかけた問いに迷いなく応じた彼女の声は、確かに空気を震わせながらも耳に届く頃にはどこか現実の輪郭を曖昧にし、遠くで鳴る銀の鈴の音のように儚く揺れた。そして言葉を締めくくるように微笑みを向けられた瞬間、世界のすべての音が掻き消えたような錯覚を覚えさせられる。それは決して計算された媚びでもなく、誰かに愛されるための装いでもなく、ただ心の奥底から零れ落ちた何の衒いもない無垢な微笑み。洗練された容貌には不釣り合いなほど幼く無邪気でありながら、その奥底には揺るぎない意志が宿っている。繊細な花弁のように儚い一方で大地を踏みしめる足取りは確かであり、ただのか弱い美しさではなく、己の道を歩もうとする強かさ。その在り方こそが彼女の本質なのだと、理屈ではなく、もっと根源的な部分で理解させられた。震える指先で鉛筆を握り直すが、いざ紙に線を刻もうとした途端その動きは宙で凍りつき、やがて力なく下ろされる。──これまで数え切れぬほどの肖像画を描いてきた。貴夫人の誇りも、戦士の哀しみも、彼らの一瞬の輝きを筆先に掬い取り、紙の上に縫い止めることができたはずだった。だが、今目の前にいる彼女をどう描けばよいのかが、まるでわからない。幾度となく紙に触れ数多の絵画を生み出してきたこの手が、今やただの無機質な器のように虚ろで頼りないものに思える。焦燥が喉の奥に絡みつき、ゆっくりと目を伏せた。彼女の瞳を真正面から受け止めることができない。それ以上に、今の自分では到底この姿を紙に留めることは叶わないという、あまりにも残酷な現実を突きつけられることが、ただ恐ろしい。筆さえあれば何でも描けると信じていた傲慢な幻想は、彼女に触れた瞬間、音もなく崩れ去った。今、ベアトリスの気高き矜持の前に立たされ、痛いほどに思い知らされる。掠れた声で紡ぐ言葉は彼女に向けられたものでありながら、同時に自らの無力を噛み締めるような、苦い告白であり)
……描けない。──……俺の手では、貴女を描くことはできない
52:
Beatrice [×]
2025-02-22 08:29:56
(これは自分でも気がついていなかった夢物語。当然、誰にも漏らしたことのない秘密の会話。心の奥深くに閉じ込めた想いを声に乗せて伝えれば、ほんの少しの恥ずかしさとそれを上回る爽快感が押し寄せた。何も持たぬ愛人の女が語る夢を彼がどう受け取るのか、鼻で笑うのかそれとも馬鹿げた話と笑うことさえないのだろうかと彼の反応を窺って。しかし、予想に反して彼は何かを恐れるような怯えた表情を浮かべていた。何に脅えているのか皆目見当もつかず、苦しみながら絞り出すように発した声には驚きと戸惑いが宿っていた。苦々しく伝えられたその言葉を頭の中で何度も繰り返し、それでもやはり理解できないまま疑問が次々と浮かぶ。何故?どうして?何が理由なの?私の解答が可笑しかったから?頭の中には疑問が渦巻き、声を出せずにいた。芸術家アーサーの実力は、自身の目で確かに把握している。こんなにも素晴らしい芸術家に今後出会える保証はなく、同時に恐らく会えないだろうと思うのに──そんな彼が筆を置いた。彼が描きたいと思わなかったのかもしれない。彼が思い描くほどの魅力がベアトリスにはなかったと言われてしまえば、それまでなのだ。それでも「はい、わかりました」と素直に返事をすることはできず、諦めの悪さで言葉を探し口を結び。必死に彼へかける言葉を探すうちに怯えながら筆を止めた彼の悔しさに触れたらしい、気丈に見せた凜とする声で静かに問いかけて。)
…………Mr.アーサー、どうしてか理由を伺ってもよろしい?
53:
Arthur [×]
2025-02-22 17:33:48
(静かに投げかけられた問いに、即答できるはずもなかった。否、答えならば既に目の前にあるのに、それを手に取り晒すことに、どうしようもなく躊躇いが生じてしまう。──ベアトリス・ルーナという少女は、この手で捉えようとするには、あまりに遠かった。愛の不在ごと己の境遇を受け入れ、しかし決してそれに呑まれることなく自らの意志で立ち、歩み続ける。苦しみも憧れも、そのすべてを抱えながら前へ進もうとする彼女を、果たして描くことなどできるのか。伯爵家の庇護を捨てる覚悟も、ひとりで生きる勇気も持たぬまま、ただ曖昧に、臆病に、「画家」を気取ってきた自分に、彼女の本質を捉える資格があるのか。己の在り方すら定まらぬまま、強靭で、崇高で、そして何より確固たる意志を宿したその瞳を、真に描き出すことなどできるはずがないと、痛いほどに思い知ったのだ。彼女の姿に向き合うことで否応なく自分自身とも向き合わされ、逃げ場のない現実に晒された今、筆は動かず、胸の奥でざわめく何かを押し殺すように強く拳を握る。爪が掌に食い込む痛みだけが生々しく残り、心の奥にまで突き刺さる。見ないふりをして筆を執ることもできただろう、しかしそれでは美しいだけの虚ろな「肖像画」しか生まれない。彼女をそんなものに閉じ込めるわけにはいかない、その一心で筆を置くことが、今、自分にできる唯一の誠実な選択だった。ゆっくりと拳を開き赤く爪痕の滲んだ手のひらを見つめ、沈黙の果てにようやく、塞がった喉を押し開くように言葉を絞り出して)
………月を、掴むようだ。どれだけ手を伸ばしても届かない。──…光を追うことをやめた俺には、貴女が遠い。
54:
Beatrice [×]
2025-02-23 10:17:57
(芸術の殿堂とも称されるクラリッジ伯爵が目を掛ける画家。さらに、彼が描く肖像画は真実を映し出すと噂され、多くの貴族たちが理想の姿を「真実」として描いてほしいと彼の筆を求め始めた。ベアトリスもまた、その一人。ただし、求めたのは虚飾をまとった姿ではなく内面をも映した偽りのない自分だったと言うだけ。今後を生き抜くための光として、その一枚を宝箱に閉じ込めておきたかった。自分でも知らない自分とは何だろうかと昨夜から募らせていた期待。冷たくも鋭い宝石のようなブルーグレーの瞳が己をどのように映しているのかという高揚に満ちていた。しかし、作品が未完に終わるという事実を突きつけられた。彼の痛々しいほどに握り締められた拳と、胸を締めつけられるほど苦しげな表情が、言葉よりも鋭く真実であると物語っている。失望がないと言えば嘘になる。期待していた作品を得られないことは、どうしようもなく残念だった。けれどそれ以上に、彼が自らを罰するほどに苦しんでいることのほうが心に刺さった。誤魔化しなどいくらでもできたはずなのに、適当に仕上げることなく筆を置いたその誠実さは、むしろ好感を抱かせるものだった。彼は、女に恥を晒してでも嘘をつかない。そんな人間がいるのだとベアトリスは初めて知った。静かに立ち上がり、一歩ずつ彼に近づく。イーゼルを避け、正面に立てば、白い肌に爪を立てた深い跡が目に入る。それほどまでに彼を追い詰めたのは何だったのだろう、そう考えてみても彼がこの苦しみを抱えるに至った理由を理解することはできない。ただ、彼が誰よりも誠実な芸術家であることだけは、痛いほどに伝わった。イブニングバッグを開き、控えめなピンクのレースのハンカチを取り出す。そっと爪痕に被せ、そのまま両手を包み込んだ。この手に描いてもらうことは叶わなかったけれど、彼と過ごした時間の中で自分自身を見つめ直すことができた。それは、どんな宝石よりも価値のあるものだった。ふ、と瞼を落として気持ちを込めればかけがえのない感謝を込めて、包んだままの彼の手にそっと温もりを預けるように握りしめて。)
……アーサー様のおかげで、私はベアトリスに触れることができたわ。アーサー様がいてくれたから。アーサー様が、私をちゃんと見ようとしてくれたから──ありがとう。
55:
Arthur [×]
2025-02-23 13:06:47
(己を映し出す鏡──ベアトリスという存在はまさしくその象徴であり、彼女を前にして否応なく突きつけられるのは、自分が求めながらも手を伸ばし得なかったもの、目を逸らし続けたもの、そしてひたすらに背を向け逃げてきたもの、その全てだ。自らの無力を暴き立てられ、画家としての“敗北”を容赦なく突きつけられる、それは筆をとって以来初めての挫折であった。顔を上げることさえ叶わぬまま沈黙の中に身を埋めていると、微かな衣擦れの音が静寂を破り、続いて椅子がわずかに軋む音が響いた。歩み寄る足音は静かで、それでも近づいてくる気配は否応なしに伝わってくる。そして次の瞬間、冷えた指先に、じんわりとした温もりが滲んだ。柔らかな布地が肌を撫でる感触とともに、小さく震えていた手がそっと包み込まれ、ハンカチ越しに伝わる体温がかえって胸を締めつける。痛むほどに優しいその仕草が、まるで無言のうちに己の脆弱さを肯定されるようで、抗いがたいほどの居たたまれなさが込み上げた。それでもなお顔を上げることができず、ただこの手を覆う彼女の白い指先を見つめる他ない。真っ直ぐに向けられる言葉が、いかに真心からのものであるかは理解できた。しかし、だからといってそれに甘んじて己を赦すことなどできるはずもなく、そうであるからこそ、彼女の瞳を見上げることなく目を逸らし、低く押し殺した声で吐き捨てるように呟き)
……やめてくれ。…俺は、貴女が求めるものを何ひとつ形にできなかった。それなのに、感謝される筋合いなんて……
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