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自分のトピックを作る
96:  [×]
2024-08-09 17:31:04

うんにゃ、援団で仲良くなった子に聞いただけ。私は鈴木らと去年プリ撮りに来たっきり。

(そもそも受験生だし、帰りに寄り道すること自体ほとんどなくなったしな……なんてぼんやりと考えながら、フロントに向かい受付を済ませる。ほぼ聞いてた話まんまだったから説明の内容に新鮮味はなかったけど、実際にリストバンドが出てきた時は「おーすご。」ってボソッと声に出た。
受け取ったリストバンドを早速身につけ、ワクワクしながらお目当ての浴場まで進んでいく。ここに来るのは数回目だけど、実は私もちゃんと入浴するのは初めてだったりする。前に鈴木らと来た時はゲーセンではしゃいで美味しいもの食べてたら予想以上に盛り上がって、電車の時間やばくなって私だけ先に帰ったんだよなぁ。その前は、たしか岩盤浴だけだったはず。)

おけ。有料エリア行くなら、忘れずにタッチしなよ~。

(更衣室へと続く男女別の入口前。別れ際に、自分が付けているリストバンドを指差しながら声をかける。さっきの説明によると入館料の中に入浴料は含まれてるけど、サウナやら岩盤浴やらマッサージコーナーやらの有料エリアはそれぞれ入口前の読み取りパネルにタッチすることで利用料金が加算される仕組みらしい。
ひらりと手を振って平と別れた後は女性専用の通路を進み、更衣室に設置されているアメニティ用の自販機で必要な物をレンタルしていく。タオルに館内着、ソープ類からコームに洗濯ネットまで、リストバンドでタッチするだけで簡単にお目当ての物が出てきた。しかも、ロッカーの鍵もパネルにタッチするだけで開く仕様みたいだ。マジ便利。
広々とした更衣室に、私以外の客は数人しかいなかった。めっちゃ空いてる。浴場内も、そんなに混雑している気配はなさそうだ。まあ、そもそもこんな雨の日に雨宿り以外でわざわざここまで来ないか。まずは借りたばかりの館内着に着替えて、びしょ濡れの制服と平のハンカチを手にランドリーコーナーへ向かう。1時間あれば、ちょうど入浴している間に乾燥まで終わるだろう。当然のように洗濯機もリストバンドで作動できた。すご。とにかく、これでやっとお待ちかねのお風呂が堪能できそうだ。)

97:  [×]
2024-08-10 13:33:54

親か。……またあとでな。

(謎の目線でアドバイスしてくる東にツッコミを返して進む。右腕に装着したリストバンドをくるくると手首を返して見つめながら更衣室へ入ると夕暮れ前ながらぱらぱらと人がいた。顔面に刻まれた皺や頭髪具合から同年代はいなさそうで、少しだけホッとした。
備え付けの自販機から大小のバスタオルと使い切りのボディソープにシャンプーリンスを買い足す。咄嗟に財布を探そうとしてそもそも紙幣硬貨の投入口が無いことに気づいた。
そうか、リストバンドか……。右腕をあげてタッチしてそれらを回収。荷物を突っ込もうとロッカーの取っ手を引く。開かない。
リストバンドか……。先に登録して閉める感じなのか? さっきから何気にめんどくさいな……。どうやら俺は未来には住めないらしい。ドライヤーは備えついてるしシャツはあとでドライヤーすればいいか。まとった衣類はある程度形を整えて仕分け用のカゴと一緒にロッカーへ。
それにしても男しかいないとはいえ裸でうろつくって微妙だよな……。鏡に映る貧弱な肉体を尻目に奥へ。
ガラス戸のしきりは大きく二つで、開けっ放しとならないように引き戸と押し引きタイプだ。浴場へつながる引き戸――今度はちゃんと手動だ――を引くとムッとした熱気が身を包んだ。知らず冷えきっていた身体にはむしろ心地良い。入ってすぐ左手側に積んである丸い桶を手にとった。
まずは身体洗うんだよな……。と、正面に丸い巨大なツボのようなものが鎮座してる。柄杓つき。
なんだこれ……。胡乱げにみつめていると柄杓を手に取って身体にかけていく親子。
なるほど、掛け湯か。親子が終わってからソワソワと柄杓を掴んで背中側にかけていく。心地よい温かさが身を包む。あー……マジ冷えてたんだな。数度掛け湯をすくって身を清めると洗い場へ。なんとなくあいている隅をみつけてバスチェアに腰を下ろす。シャワーに湯口、小さな姿見。そこにうつる自分の顔は思ったよりくたびれていた。…………こんなツラして東の隣歩いてたんか、俺は。つくづく、似合わない。そんなことを思ってシャンプーを泡立て始めた。)

98:  [×]
2024-08-10 15:30:48

(──最後に髪の毛を簡単なお団子にまとめて、ホカホカと湯気を漂わせながら浴場内の洗い場にある椅子から立ち上がる。さっぱりとメイクを落とし、雨のせいでベタついた髪も濡れた服のせいで冷えた身体も洗い終わると、気分までスッキリしてきた。たまにはいいな、こーいう雰囲気。ふうと一息吐いてから、周囲に飛んだ泡や使った椅子と洗面器をシャワーで軽く流して元あった位置に戻し、本格的に温まるためタオル等を手に湯船に向かう。)

?…………あー。

(私が湯船の端にある段差に足をかけた瞬間、それまで浸かっていた一人の客が入れ替わるように湯船から上がっていった。すれ違いざまにチラッと見えた顔、見覚えありすぎる気がしたんだけど誰だっけ。ぬくぬくと湯船に浸かりながら、ぼーっと考える。……あ。中学ん時同じグループだった友達だ。前に皆でボウリングした時にもはちあわせた③番こと、元カレの今カノ。向こうもスッピンだし、髪まとめてて雰囲気違ったから一瞬気付かなかったけど──どうりでそそくさと出ていくわけだ。その子が消えていった更衣室の方向を眺めながら納得した。
そんなに慌てて逃げなくても、こっちは気にしてないんだけどなぁ。てか、よく私ってすぐ気付いたな。目も合ってないし、こっちは全然気付かなかった。他の友達いなかったけど、彼氏と来てんのかな。ここ出た後、またバッタリ会ったらウケるかも。なんて、どうでもいい事を考えながら温まってたらゆっくりしすぎたかもしれない。そろそろ上がるか……私は湯船から出て、そのまま浴場を後にした。)

99:  [×]
2024-08-11 17:17:14

……………かー。

(悪くねえな――というのが概ねの感想だろう。ガキの頃、家風呂の不調で何度か行ったことのある銭湯とはまるで違う。樽、電気やジェットといった見たこともないような風呂が盛りだくさんで飽きない。まさに名に違うことのないスーパーな銭湯だ。普段風呂に格別のこだわりもない俺でさえこんなに楽しい。堪能しすぎて約束の時間を過ぎてしまわないか心配で何度も浴場に備えついてる時計をみてしまう。実はこの時計がズレていたという罠が怖くて一度更衣室の時計まで見に行ってしまったほどだ。幸いにしてそこそこ楽しんでまだ二〇分ほどはある。ただしシャツを乾かす時間を考えるならそろそろ出ないとだろう。)

ん~~ッ……………。

(湯船の中でおおきく伸びをする。ぱしゃんと波打つ表面に肩まで浸かると出ていくのが名残惜しくなる。受験が終わったら今度は時間を気にせず来てみるのもいいかもしれない。あ、やべー。もう五分経ってる……。東はもうでて待っているだろうか。こんなに楽しいのだからもしかすると時間ギリギリまで入っているかもしれない。
…………いや、どうだろうな。アイツ自分に関しては雑なくせに他人には妙に律儀だしな。今日だってきっちり待ってたワケだし……。さっさたと出るか。んでどの風呂が一番気に入ったか答え合わせでもしてやろう。案外気が合う気がする。俺は口の端を思わず持ち上げて――ふと気づく。最近、なにかあると『東ならどう反応するだろうな』と考えることが多い。例えば世界が終わりそうに焦げついた夕焼けを見たとき。道路の端でしわになったビニール袋が猫に見えた時。この感情は――……。
パシャン、と。両手で掬った湯を顔いっぱいで受け止めて最後に洗い流す。恐らく気が緩んで訪れた気の迷いと共に。)

げっ、もう一〇分しかねえ……。

(アホか俺は。慌てて湯船から飛び出して掛け湯を急ぐ。ふと視界の端、サウナ室へ入る客の姿に見覚えがあった気がしたが――そんなことを考えている余裕もない。俺は更衣室へと早足で上がり、身支度もほどほどにドライヤーをシャツへと当て始めた。)

100:  [×]
2024-08-11 19:03:00

(急いで濡れた身体を拭き、一旦館内着に着替える。洗濯物を取りに行く前に髪を乾かそうと、ドライヤーが備え付けてある鏡の前へ移動する──と、さっきすれ違ったばかりの友人③が端の席に座って髪を乾かしていた。ほぼ同時に向こうも人の気配に気付いたみたいで、こっちを見て一瞬気まずそうな顔をしたかと思えばわざとらしい笑顔で『アレ?東?偶然~。』なんて話しかけてきた。)

うぃーす。ラウワンぶりだっけ~?

(……って。普通に隣に座りながら手まで振って返事しちゃったけど、これでよかったのか私。さっき私に気付かないふりして出て行こうとしてたのも、私の顔見た瞬間嫌そうにしてたのも気付いてるのに……でも、別にこの子のこと嫌いってわけじゃないし、友達だしなぁ。結局そのまま私も髪を乾かし始め、案外普通に話せるもんだなぁなんて考えながら当たり障りのない言葉を交わし、先に乾かし終わった向こうが立ち去っていった。“んじゃまた~。”なんて空いてる片手を振りながら、以前平に言われた言葉が脳裏を過ぎる。やっぱ今のコレも私、雑に扱われてんのかな。たしかに白々しかったけど……だったとして、どんな反応するのが正解だったんだろう。平なら、怒れってまた言うのかな。でも、怒るって今更……?
正解はわかんなかった。結局何も変わらない反応しちゃったや。でも、あの日平に言われなかったらこーやって疑問を抱くこと自体なかっただろう。心のどこかでは引っかかったまま、ちゃんと考えずにうやむやにして──やっぱ平ってすごいよなぁ。何でもなんとなくで許してしまう私と違って、いろいろしっかり考えてるっていうか。私の扱いが雑な私よりずっと、私にやさしくしてくれるっていうか──考えてたら、いつの間にかすっかり髪は乾ききっていた。
ハッとして急いで洗濯物を取りに行き、綺麗になった制服に着替えてから手早くスキンケアやメイクを済ませていく。ポーチに付けているキーホルダーが目に留まると、またドキッとした。さっきの傘といいキーホルダーといい、思い出すだけで心臓が暴れてしまって煩い。アレが欲しいとかコレが欲しいとかねだられた事はあっても、こーいうの貰って胸がきゅんとするのは初めてかもしれない……。
友達と話し込んだりぼーっとしていたせいか、更衣室を出る頃には約束の時間を2分ほど過ぎていた。最悪だ、もっと早く時計見てればよかった──私は荷物をまとめ、小走りで平と別れた場所に向かった。)

101:  [×]
2024-08-11 23:05:12

とりあえず乾かすには乾かしたが……。

(ドライヤーの熱気を内包したシャツは実に暖かだったが時間もなかったのできちんと乾いてない気がする……。
熱気はあっても湿気が取れていないというか。これが冬場で詰襟だったらと思うと辟易する。まだシャツだけでよかった。ズボンも同様に落ち着かない感じになってしまったが元が黒い生地だから多少濡れていても目立つことはないだろう。帰ってからちゃんと洗って干せばいい。
そんな事を考えながら更衣室を飛び出したのは時間ちょうど。場所についていない事を考えるとフツー遅刻。男女通路の分岐点へたどり着いて視線を左右に巡らせる。東は――……いない。ふぅ、あぶねー……などと息を吐いてから近くにあったリラクゼーションチェアに腰を下ろした。ゆったりとした背もたれに体重を預けると若干の違和感。やはりシャツはしっかりとは乾いていないようだ。まあいい。視線を女子通路の方へと向ける。ここからなら東が出てきてもすぐ見える。……なんか女子通路をじっとみてるって微妙じゃね? 俺はなんとなく後ろめたい気持ちで視線をそらそうとして、たまたま出てきた女子にギョッと目を剥いた。元中の同級生。それも東がどうこう言ってたヤツじゃねーか? 俺はバッと下を俯いて額に手を当てた。てーことはさっきサウナ入っていった男はツレのやつか……?
大丈夫か、東のやつ……鉢合わせてねーならいいけど。
…………?
あれ、俺いま東の心配したか……?
あんな『地元のダチ、おれらマジ最強』とか自撮り写真撮ってそうな連中に自分が見つかって『なにおまえその格好高校デビュー?www』『ウケる中学のときチーズ牛丼好きそうだったのに笑』とかなんとか言われるよりも……?
ちょっとまて落ち着こうダメだ。
椅子から立ち上がって隣に屹立している自販機の前に立つ。九割牛乳類。ひでぇな。ウインドウをぼんやりとみつめながら、残りの一割の飲料に想いを馳せる。
この前のボーリングの時も思ったことではあるが、つくづく東と俺とでは棲んでる世界が違う。まるで俺には理解の追いつかない関係性。でもらあっちのほうが大多数。よく一緒にいられるよな……いや、そんな東だから俺なんかと一緒でも気にしないんか……。はあ、とでかいため息をついた。売り切れランプがこうこうと灯るコーヒー牛乳が少しだけ飲みたくなった。)


102:  [×]
2024-08-12 00:03:56

平ー。ごめん、ちょい遅れた。

(更衣室を出て通路を進み、さっき平と別れた地点に辿りつく。軽く辺りを見回すと、すぐ傍にある自販機の前に立っている平を発見。やっぱ待たせちゃったか──急いで駆け寄り、後ろからポンと肩を叩こうとしながら声をかける。
それから、何気なく周囲を確認した。友人③はさすがにもういないかな。一応、①が出てきたりしないか男性用の通路の方にも目をやる。よかった。今のところは大丈夫そうだ。明らかに時間を過ぎて待たせてしまったこともそうだけど、私にはもっと気がかりなことがあった。ラウワンでの平の顔を思い出したら──あの子らに気付いてあんなに真っ青な顔で怯えてた平を、また同じ目に遭わせたくない。すでに中で遭遇してないといいけど。……とにかく、もし友人達がこれから浴場から出てくるとしたら思いっきりはちあわせそうなこんな場所で、何も知らずに呑気に飲み物なんか買おうとしてる平を見て……なぜか私の方がハラハラしてしまった。)

あー。てか、飲み物買うならあっちいかん……?

(何も知らない平に理由なんか言えるわけなくて、ちょっと歯切れ悪くなっちゃったかもしれない。すまん平。でも、普通に考えてここにあの子らがいるとかわざわざ報告される方が嫌だろう。だから許してくれ。自販機ならここだけじゃなくて、端っこのもっと目立たないところにもあったはず。悪いこと言わないから、今は黙って私についてこい。そんな願いを込めて、私は別の自販機がある方向を指差した。)

103:  [×]
2024-08-14 04:11:39

(――常々思うのは。俺はきっと、自分が好きではないのだろうということ。子どもの頃の全能感や無邪気さは、なにか一つ失敗する度に俺の中から削げ落ちていった。中学生。〝多感な時期〟などと言われる意味を知る。多彩な感性が人格を形成する時期。俺は子ども過ぎたのかもしれない。女子と仲良くするのは恥ずかしいなんていう小学生のような考えをずっともっていたし、大人に逆らって悪い事をするような度胸もなかった。悪いことはダメなんて口幅ったいことを堂々と指摘する。子どものままの独善的な正義感。少しずつ、周りと並んでいたレールが逸れてゆく。仲が良かったはずの友達とまるで他人のようにすれ違っていく。昨日まで話していたヤツが翌日には違うヤツと俺をみて笑い合う。怒られ、叱られ、否定されて――嫌われて。ああ、俺は。こんな俺は、なにも求めてはいけないんだと知った。やさぐれて塞ぎ込んでも、家族に迷惑をかけてまで貫く行動力さえもない俺には。)

ッ……ああ。東か……。

(不意に肩に感じた軽い接触に思考を寸断されて俺は背筋を跳ねあげて反応した。
びっっ……くりした、元中のヤツかと思った。
急激な鼓動の変化はドッドッと脈打ち呼吸を僅かに乱す。落ち着かない。胸元に手を当てながら深呼吸して東を見る。周囲をぐるりと一望する東。その横顔は先程までの雨だれに濡れた姿とはまるで違ってみえた。湯上がり特有の馥郁漂うその表情は婉然としていて、髪型も服の着こなしも瀟洒。そしてそれらを自然な挙措としている。
俺のような、偽物じゃない。
――ああ、ダメだ。この思考はダメだ。
わかっていても止まらない。
なぜこんな東が俺のことを好きだなどと思い違いをしていたんだろう。こんなに隣にいてさえ、あの中学時代の教室――隔てた境界線ほどに心遠く感じるのに。)

……いや、飲みたいもんとか別にねえから。

(気持ちが悪い。気色が悪い。なにより自分がだ。俺はなにも変わっていなかった。中学時代のあの頃から。
気持ちが悪い。こんな俺が東の心配をしていただなんて事実が気持ち悪い。早く、離れよう。そうしないとダメだ。
怖かった。そうしなければ――東と一緒にいたいだなどと想うこの気持ちさえ、爛れてしまうようで。
東の示す方とは逆に踵を翻す。出口はどっちだ。早く出たい。早く――……。
急いだ俺は早足で、気づかなかった。ちょうど通路の死角からでてきた元中の同級生――東のいうところの友人③とぶつかりそうになるなどと。)

104:  [×]
2024-08-14 19:08:03

(自販機の真ん前に立ってガン見しといて、飲みたい物がないって何なんだ……なんて、ツッコむ暇もなかった。意外な答えが返ってきたかと思えば次の瞬間にはもうどこかへ向かい始めた平に唖然として、反応が遅れてしまう。そっちは出入口──いや。これから帰るって考えたらたしかに大正解なんだけど、)

ちょ……平っ!そっちは──!

(さっきから気がかりだったことのせいで、思いっきり焦ったような声が出た。さすがに走るわけにはいかなくて、私も早足で平を追う。友人③はさっき出てったはずだから、まだいるとしたらたぶん出口の方向に──てか、歩くの早っ。こっちは追いかける気満々で追いかけてるのに、なんで全然追いつかないんだ。この早さ、明らかに平の方も逃げる気満々だろ。
他の客とすれ違いざまにぶつかりそうになって、謝っている一瞬の間にまた少し距離が開く。それにしたって平は、こんなに必死に一体何から逃げてるんだろう。追いかけながら平の背中を見て、そんなことを考えた。私か?私が時間過ぎたから怒って──ってのはさすがにないはず。遅れた私が言うのも何だけど、絶対そんな感じじゃなかった。さっき後ろから肩に触れた時、やけにビックリしてたし……やっぱ、中学ん時の友達に会うのが嫌なんだろうな。高校からかなり雰囲気変わった平が、昔の知り合いに会ってそのことを茶化されたりするのを憂う気持ちは私にも想像できる。ただ、それだけじゃないような……だって、ラウワンの時の顔色の悪さなんか尋常じゃなかった。今のこの状況だって普通じゃないし、平はもっと私が想像もできないような何かにビビってるのかもしれない。
──なんか、もったいないな。せっかく努力して、せっかく変わったのに。行く先々で知り合いに会う(かもしれない)度に、こーやって逃げながら過ごすとか。前にも似たようなこと平に言った気がするけど……オシャレになったんだから、もっと自信もっていいのに。急にグレたとかならまだしも、良い方に変わったんだから堂々としてりゃいいじゃん。私から見たら、平は何考えてるかわからん時あるけど人を見る目あってやさしいし、なぜかいつも傘持ってないけど考え方とかちゃんとしっかりしてて努力家だし、喋りやすくて一緒にいると落ち着くし──胸張れるだけの理由も魅力も、いっぱいあると思うんだけどなぁ。)

……あっ、

(追いかけるのに必死で気付かなかった。ってより、後ろから追ってるんだから平の死角は私の死角だ。突然現れた人物が、前を歩く平にぶつかりそうになったのを見て──予感的中すぎてギクッとする。私は、残りの距離を詰めようと全力で走り出した。)

105:  [×]
2024-08-16 14:13:51

ッ……すんませっ――!

(――視界に差しはいる影。唐突なそれに早足だった俺は為す術もなく衝突する。ちょうど胸の高さの衝撃に俺は慌てて数歩下がって――その見知った女子の顔に鼓動が大きく跳ねた。
元中の同級生。ほとんど条件反射的に謝ったが相手の条件反射は俺のそれとは些か違ったらしい。「ちょ、あぶねーな……」みたいなのが舌打ちと同時に聞こえた。二の句を告げない俺に元中の女子――友人③は俺の頭から足元までサッと見てから「……気をつけてよね」と言った。
――もしかして気付いてない、のか?
相手は目立つグループで、俺は目立たない陰キャ。特別目を引く存在でない限り案外と気づかれないのかもしれない。それでも、目を合わせるのはなんとなく躊躇われてそっと後ろを仰ぎみる。そこには走ってくる東がいて。さらにその後ろ――男子浴場へ繋がる通路から元中の男が出てくるのが見えた。男はしばし首を彷徨わせてからこちらへ視線を向けて、手を掲げた。俺にでも、もちろん東にでもない。
友人③がそれに手を振って応じる。「遅い」などと声のトーンを高くして。
前に友人③。後ろに東とその元カレ(?だっけ?)に挟まれた形だ。
俺はどうしていいかわからず、ただこの場からすぐに逃げ出したくて、視線を泳がせていた。知らず口を引き結んで。拳をぎゅっと握って。
鼓動がうるさい。拳の中は変な汗でヌメっていた。
東。
ああ、東。
置き去りにしてゴメン。
俺は結局自分のことしか考えていない。
ああ、嫌だ。俺は今どんな顔をしているのだろう。せめて、気づかないで欲しい。そう祈って東に情けない視線を向けた。東の後ろからやってきた男はどうやら東に気づいたようだ――……)

106:  [×]
2024-08-16 16:17:33

タイ──、

(2人がぶつかってしまったのを目撃して咄嗟に平の名前を呼ぼうとしたけど、最後まで言い切ることも私が平に追いつくこともなかった。友人③が私の背後にいる誰かに向かって話しかけたと思ったら、ほぼ同時に後ろから聞こえてきた『……アズじゃね?』なんて男の声に遮られたからだ。え、なに。足を止めて振り返ると、そこには友人①こと友人③の今カレこと──私の元カレがいた。)

うわ……。

(マジか。今来る?そりゃ友人③がいるってことは①もいるかもとはちょっと思ってたから驚くとかはないし、こっちはもう過去の話っていうかふーんお幸せにって感じだから、この2人に会って気まずいとかも正直ないけど……ただただタイミング悪。
振り返る直前、確かに見えた平の今にも泣きそうな顔が忘れられない。縋るような目でこっちを見てた平を連れて、早くここから離れたいんだ私は。友人たちがどうとかじゃない。そんなのどうだっていいから、私は平と平和に帰りたい。
面倒くさいことになったなって、たぶん思いっきり顔に出てたんだろう。私の反応を見た友人①が、『何その顔?つか前ラウワンいたよな?LINE返せよ。』なんてヘラヘラ近付いて顔を覗き込んできた。目には見えなくても、語尾に思いっきり(笑)が付いてるのがわかるような話し方。……今まで“無”だった友人①に対する感情が、たった今初めて明確にモヤモヤに変わったのがわかった。
そっちが一方的にフッてきて直後に③と付き合い始めたのに、なんで普通にLINE返ってくると思ってんの……いや、そっか。私のせいか。私が今まで普通に返してたからだ。だからこんな──たったいま、③だって絶対こっち見てんのに。聞こえてるかどうかまではわかんないけど……③の目の前で、普通にヘラヘラ元カノに絡んでくるとか。この光景、③はどんな顔して見てるんだろ。最低かよ。私も③も、めっちゃナメられてんじゃん……。私は、こんなやつのことがずっと嫌いになれなくて、ずっと許しながら連絡とり続けてたのか……あの日平に言われるまで、ずっと。
そのまま①が馴れ馴れしく肩に触れてきた瞬間、私からじゃ見えない③の姿を想像しちゃって胸がきゅってなって──無性に泣きたくなった。)

っ……あーごめん。私、気になる人出来てさ。元カレと連絡すんのとか、キッパリやめたから。てなワケで、じゃっ。

(──言った。感情剥き出しで怒るとかそんなんじゃないし、むしろさらっと言い切ったけど、これは“もう連絡してくんな”っていう明確な拒絶だ。平に指摘されたあの日から、返信こそしてなかったけど何となく消せずに残したままだった連絡先。今日限りでブロックしてやろう。いざ口に出してみたら、友人との縁が切れる寂しさよりもスッキリした気持ちの方が圧倒的に勝っていた。
変に心臓バクバクしてる……。友人①に軽く手を振ってから返事を待たずに再び振り向いて、今度こそ平の方に向かおうとした。)

107:  [×]
2024-08-18 22:08:45

(――よく人という字の支え合いについては諸説あるけれど。アレは寄り添いなんじゃないかと思っている。自分以上に怒っている人間が隣にいるとかえって冷静になってしまうように。苦手な人間でも悲しむ姿をみたら心が締めつけられるように。ヒトは、寄り添ってしまうイキモノなんじゃないかって。なぜか今そんな事を思い出した。
少し距離のある東の後ろ姿。元カレとのやり取りはこちらには聞こえない。俺はなんとなくそのやり取りを見ていたくなくて視線を友人③の方へ向けた。今カノであるはずの友人③はなぜか俺と同じように近づくでもなくただ見守っていた。いや、なぜかではない。その表情はひどく不安げで――先程までバレやしないかとヒヤヒヤしていたはずの俺は、情けないことに少しだけ冷静さを取り戻していた。
恐らく彼女は東と自分の彼氏の関係性を知っているのだ。
やがて東が元カレに手を振って、こちらを見て。俺との距離が少しずつ縮まる。
その後ろに、憤慨したように顔色を豹変させた元カレが追って手を伸ばしているのに気づいているのか――……。)

東――……!

(アイツ――……何を話した?
わからない。わからないが――その顔つきはやべぇだろ。男が女に、いや少なくとも元カノに向ける顔には到底思えない。
怯懦に竦んでいた俺の足。
動かなかったはずの足は、動く。
俺は考えるより先に駆けていた。
距離が近づいた事で『おい』と俺の耳に届く元カレの声。

『なンだよそれ。なんか勘違いしてんじゃね? 俺カノジョいるし? お前なんかもう相手にするワケねーじゃん』

…………――あ?
耳朶を打ったその乱暴な言い回しが何度も俺の中に反芻し、胸の内が熱くなるのを感じた。
お前、なんか?
お前なんか相手にするわけない?
東が。
アイツがどんな顔でお前のことを話してたか知ってるか。
〝一度好きになった人なかなか嫌いになれないんだよね〟
あんな顔をさせて。諦めたようなため息をつかせて。寂しそうに笑わせて。)

――……ふざけんなよ。

(東を追って掴みかかろうとしたその手首を掴んでいた。正直声は裏返っていたし、なんなら震えてもいたかもしれない。それでも、恐怖だけはもう消えていた。身体から逆流してくるような熱がそれを遥かに上回っていた。
正面からみた元カレ――元中のイケてるグループだった同級生は虚をつかれたのか少しだけ怯んだような面持ちで。巨像ほど大きく思えたその姿がひどく小さく見えた。
だが次の瞬間、その口元がふっと嫌らしい形に曲がる。
『お前……よくみたら平じゃね?』
そんな言葉を伴って。
俺の鼓動は一瞬、大きく波打った。それでも、掴んだ手首を離すことはなかった。)

108:  [×]
2024-08-18 23:38:18

えっ……!

(一体、何がどうなってるんだろう。平の傍に寄ろうとしたら何故か平の方からこっちに近付いてくるし、すぐ後ろから聞こえてきた元カレの言葉に胸がチクリとした瞬間、私より先に口を開いた平が手を伸ばしてきて──びっくりして振り向いたら、元カレの手首を平が掴んでいた。元カレが追ってきていたことにも、らしくない平の行動にも驚いて二人の顔を交互に眺める。数秒くらいそうやって放心しちゃってたけど、平の名前を呼ぶ元カレの声でハッと我に返った。)

平、いいよもう。ホントの事だし……

(これ以上元カレを刺激するな、そんな思いを込めて平を見上げる。決してクズ男を庇いたかったわけじゃない。すぐ傍で見る平は明らかに震えていて、無理してんなってのも丸わかりで……それなのに、なんで自分から傷つきにくるんだ。昔の知り合いに合うの、あんなにビビってたくせに。よりによってこんなクズ男との、いざこざにもなってないようなやりとりに平を巻き込みたくない。私が元カレにフラれたのは事実で、元カレにとっての私が“お前なんか”って存在だってことくらい、言われなくてもわかってる。だから、言わせとけばいいんだ。言わせたまま、黙って立ち去ればいいんだ。未練なんか微塵もないし、言われた私がちょっと我慢すれば全部丸く収まるんだから──。訴えかけるように、元カレの手首を掴んでいる平の手に触れようとした。

『……あー。そーゆー?アズお前、次は平に乗り換えたん?男なら誰でもいいってか。人の事言えねーじゃん。』

平と私を何度も見比べるように眺めていた元カレが、やけにニヤニヤしながら急にそんな事を口にし始めたもんだから……さっきの“お前なんか”より、何倍も何十倍もグサッときた。
私が過去にちょっと強引な男にすぐ惹かれちゃったり、流されるまま付き合っちゃったりしてたのは否定できない。軽そうに見えるのもそうなんだろう。だから、元カレにそう思われるのはべつにいい。でも、平の前でそれを言われるのは──平にそう思われるのだけはヤだな……。今の私は平が好きで、誰でもいいわけじゃないからこそ、平じゃなきゃ嫌だからこそ、今の関係を大事にしたい。だから必死に気持ち押し殺して、慎重に想いを隠してるのに──こんなやつにこんなとこでバラされるのも、平を見てバカにしたように“誰でもいい”なんて言われるのも、絶対に嫌だ。
正直人とモメるのは苦手だし、友人③にも見られてるだろうからこのまま無難にやり過ごしたかった。でも、やんわり断るだけじゃ通じないかもしれない……。平を巻き込んでしまうくらいなら、もっとガツンと言ってやった方が──私は睨みつけるように元カレを見上げ、息を吸い込んだ。)

109:  [×]
2024-08-19 07:27:21

(――拳の感触が、妙にリアルだった。
東の元カレがぺらぺらと宣う中で、俺が手を出したのはどのタイミングだったか。
東がもういいよ、と触れた時じゃない。

『なにタイラくーん? 髪とか染めてっから一瞬わかんなかったじゃーん。元気してた?』

ニヤニヤとした挑発的な笑みでこういった時だったか。違う。

『つか平のくせにいつまで俺の手掴んでんだよ。おい。おい!』

ここでもない。
そうだ、こいつが東に向き直って――。

〝男なら誰でもいいってか。人の事言えねーじゃん。〟

――ああ。ここだわ。

『つーか? 男なら誰でもいいっつっても平はねーだろ。ランク落としすぎ。いくら俺らに相手にされねーからって……』

その言葉を最後まで聞くことはなかった。
衝動。
ごちゃごちゃと考えていたはずの頭の中が、今はただその口を黙らせたくて、左手で掴んだままの相手の手首を寄せるように引いて同時に握った右拳をまっすぐ顎先へと撃ち抜いた。)

はあっ…………はあっ……………!

(中指から小指までの拳骨に壮烈な衝撃が伝わる。同時にすっぽ抜けたように掴んでいた相手の手首も離れていく。
凄まじい動悸と肺の詰まったような緊張に俺は大きく肩で息をした。
もんどりうってフローリングに倒れ込む東の元カレとなにかを叫びながら駆け寄るその彼女。
ぜえはあと呼吸を乱している俺と、なにが起こったか理解しきれていない風の元カレ。どっちが殴られた方かわかりゃしない。
頭の中は真っ白で気の利いた言葉のひとつもでてこない。
なのに。口が勝手に動いた。)

おかしいだろ……ッ、東が好きで! たのしくて! 一緒にいたんじゃねーのかよっ……!
なにがあったかとか俺は全然わかんねーけど!
こいつがどんな気持ちでいるか考えたことねーのかよ……なんでだよ……なんでそんなことが言えんだよ……。

(ああ、こういうとき本当に俺は自分が情けない。かくりと力が抜けて、膝をついて。
なぜか溢れ出てくる涙。
赫奕としていたロビーはやがて騒擾へと変わり、俺は自分のした事の大きさを知った。)

110:  [×]
2024-08-19 11:43:47

……っ!

(私が何かを言い返すより前に、目の前で元カレが倒れ込む。ぎょっとする私よりも先に反応したのは友人③で、元カレに駆け寄って心配そうに顔を覗き込んだかと思えば泣きながら平や私を睨みつけ、サイテーとかスタッフを呼べとか騒ぎ始めた。私は、友人③のそのでかい声と周囲のざわめきでようやく状況を理解したけど──何も言えなかった。動けなかった。ほんとは私も殴られた元カレに駆け寄って、心配したり二人に謝ったりするべきなんだろう。正常な判断が出来る状況なら、私だってそうしてた。元カレが殴られる直前、平をバカにしたような事さえ言ってなければ──。
何も言えない私の代わりに必死に反論してくれる平の姿を見て、どんどん胸が苦しくなってくる。平だって散々ナメたようなこと言われてんのに、なんで真っ先に言い返すのがそこなんだ。……いや、平に元カレのことを話したあの日だってそうだった。あの日も平は私のために、怒らない私の代わりに怒ってくれてたんだ。)

平っ……!

(私は慌ててしゃがみ込み、脱力して泣き出してしまった平の背中をさすろうとした。殴るのはやりすぎかもしれないけど、そんなこと今の私が言えるわけない。だって──咄嗟に謝れなかった時点で、私だって相当元カレにムカついてたんだから。そうだ、私だって傷ついたしめちゃくちゃ怒ってた。だから殴られた元カレを見て、どこかスカッとした気分になってしまったんだ私は。なのに、平がこんなに怒ってくれるまでモヤモヤの正体に気付けないで穏便に済まそうとしてたとか……自分の疎さが、雑さ加減が逆に恥ずかしくなってきたくらいだ。
好き放題言わせてやり過ごそうとなんかしないで、私がもっとハッキリ言い返すべきだった。そしたら平だって、傷つくようなこと言われずに済んだかもしれないのに……こんな事のために、平が傷つく必要なんかないのに。私が言わなきゃいけなかったことを、平にやらせてしまった。巻き込んじゃって申し訳ないのにそこまでしてくれたことが嬉しくて、また平に救われたって思ってる私がいる。なんか私、いつも平に気付かされてんな……自分の気持ち。
ゾロゾロと人が集まってくる。寄って来ない人達も、みんなこっちを見てヒソヒソと何か喋ったりしてる。私はただ、こっからどう言い訳すればこれ以上平を巻き込まずに済むだろうってグルグル考えて──すぐにスタッフがやって来て、私らに声をかけてきた。)

111:  [×]
2024-08-19 19:17:01

(その後の顛末としては、実に想像していたよりもあっけないものだった。騒いだ友人③によって駆けつけたスタッフから事情を問われた際に元カレが『友人同士のほんの諍いだ』と大事にしなかったのだ。最悪警察沙汰――受験シーズンであることからそれを嫌ったのかもしれない。ただ、スタッフからやんわりと退店を促された時、元カレの東を見る目からは険がとれていたようにもみえた。別れ際、しっかり俺にはひと睨みしてきたけれど。あとで彼女に俺の正体とかもろもろ全部バラされて散々に罵られるんだろうな。まあそれは自業自得。よく殴った方の拳も痛いんだ、なんてセリフがあるけど、まさか心が痛むとかの比喩でなく本当に実際に痛いもんだとは思わなかった。なんか手首の当たりがじくじくとする。)

――……カッコわりぃ。

(外。雨のすっかり引いた夕空は茜色に染まり、その斜陽で瞳をうっすらと細めさせられる。どこか遠くで聞こえる喧騒は祭りのあとのように寂しくすり抜けていく。俺の呟きも雨の匂いとともに掻き消えるだろう。
人を殴ったのなんていつ以来だろうか。小学生の時はそりゃ取っ組み合いなんてよくあったけれど。思えばアレって気持ちをうまく言葉にできないからこその行動なんだよな。感情を言語化して伝えることがうまくできないからこそ行動で示すしかない。俺は怒ってるぞ、腹を立てているぞと相手に文字通り体当たりするわけだ。するとまぁ、こんな歳になってする喧嘩なんてのはただの暴力なわけで。しかも殴った俺の方が情けなく涙して……夕暮れ時で助かったかもしれない。もしかしたら今も目元とか赤いんじゃないだろうな。
なんとなく気になって手のひらの付け根あたりで瞼をこする。とにかく、まず謝らなければならない。
俺は一緒に外へ出たはずの東の方へと振り返った。)

112:  [×]
2024-08-19 21:28:33

(──とりあえずは、不幸中の幸いってやつだろうか。元カレがあれ以上騒ぎ立てなかったのは私にとって意外だったけど、おかげで助かった。こんなことに平を巻き込んだ上に進路とかにまで影響が出たらって、最悪のケースも頭を過ぎってたから……巻き込んでしまったことに変わりはないけど、そこまでにならなくてよかった。
ただ、館内ではかなりの騒ぎになってたしあのまま追い出される形になったから、結局友人二人には謝り損ねてしまった。平に向けられた元カレの言葉や態度はいまだに許せないけど……それはそれ、これはこれだ。ブロックするにしてもこっちがやったことはちゃんと謝って、一応はあの場を丸く収めてくれたお礼を言ってからにしよう。そんなことを考えながら、平と並んで外に出て──言いたいこともまとまらないまま、それでも真っ先に平に向かって勢いよく両手を合わせ頭を下げた。)

平ごめんっ!なんか変なとこ見せちゃって……てか、巻き込んじゃって。とりあえず謝りたいっていうか、うん。まずお礼?その……あいつに言い返してくれて、嬉しかったから。いや、そもそも自分で言い返せやお前って感じなんはそりゃそうなんだけどね?あー、ところで手大丈夫か?結構思いっきりいって──うわ赤くなってんじゃん。やば。すぐどっかで冷やそう!

(……まとまってないにも程があるだろ、私。言わなきゃって思ってることとか言いたいこととか、とにかく思いの丈を一気にぶつけながら平の手を強引に取ろうとする。後ろめたさとか申し訳なさとか恥ずかしさとか嬉しさとか、頭ん中ごちゃごちゃしてて複雑な感じになってるけど──やっぱ、心配が一番にくる。さっき私の代わりに怒ってくれた手の具合もそうだし、平自身だってあんな風に元カレに言われまくって平気なわけないんだから。どんな態度取るのが正解かわからなくて、私は無駄に明るい声色で捲し立てながら、平の手をグイグイと引っぱって歩き出そうした。)

113:  [×]
2024-08-19 22:31:16

……………おう、だから話題絞ってくれ頼むから。

(東――……と口を開きかけた瞬間の東の謝罪。ポンポンポンポンまーよく喋るコレだ。どんなツラして話すのが正解なんだ……とか俺が迷った機先を制された形だ。
どこから返したらいいのかわからない上に俺もどう話したもんかわからないからとりあえず落ち着けといいたい。俺自身にもだ。
東が俺の手をとる。
さっき、なんか痛むな……と手首をさすっていたところを見られたんだろう。言うほどのものでもないし、なにより今は――痛いほうが都合がいい。自分のしでかした事への贖罪にさえならないけれど、身体が痛むほうが心が痛いよりよほどマシなのだから。
俺は東の引く手をゆるりとはずして大仰に手をぷらぷらと振ってみせた。)

別に、たいしたことねーから。それより――……。

(ダセーとこみせちまったな。そう言おうとしたが、東の顔をみていたらなんとなくその言葉を飲み込んでしまった。
――ああ、やっぱりこいつはすげーな。
あんな事があって、もういつも通りでいられる。俺なんか正直すぐにでも駆け出して逃げ出して一週間くれー部屋に引きこもっていたいくらいなのに。

……いつも、どおり?

東の顔をみる。
思えば、いつもその笑顔に救われていた。

東の声が耳に届く。
気づけば、その声が安らげるものとなっていて。

東の向けてくれる優しさが身に沁みいる。
その優しさは、今も入るんじゃないのか?
今笑っている東は。本当に笑えているのか?
たとえば、俺が気にしないように無理して笑っているのだとしたら。
ふと、一陣の風が吹き抜けた。
風は風呂上がりの俺のボサボサの髪をまきあげて。東の横に流している髪を舞わせる事だろう。
俺は隠れてしまった東の表情を確かめたくて、手を伸ばした。その前髪の先に触れるように。)

114:  [×]
2024-08-20 00:22:14

そ、そっかぁ。

(せめて手当てくらいさせてくれたら──私にやれそうな事なんかそれくらいしかないのに、それすらやんわりと断られてしまった。たいしたことないなんて、そんなはずないのに。
一方的に元カレにフラれた時だって何も言えずにただ受け入れて、それから連絡がくる度にちょっとモヤりながらも変な情を捨てきれずにズルズルと返事し続けて。そーゆうのよくないって一度平に言われたはずなのに、結局今日だって元カレの罵声を一度は受け流そうとしてしまった。その結果がコレで……何も変われてないじゃん、私。
元カレにナメられまくってたのも、平にまで酷いこと言われたのも全部、今まで私が曖昧な態度を取り続けてきたせいだ。私が言わなきゃいけないこと全部平に言わせて、私が背負えばいい傷まで平に負わせてしまった。それなのに平は、この期に及んで痛いとか一言も言わないんだ。さっきはあんなに震えてたくせに、たいしたことないとか言いやがって……カッコつけんな。
──いや、たぶんカッコつけてるわけじゃない。私にとって平がいま、実際めちゃくちゃカッコイイだけだ。平のやさしさに助けられたのは、これで何度目だろう。その度に平を意識しちゃってどんどん惹かれてくのを、今はハッキリ自覚してるのに──私がこんな、いかにも“まともっぽい”恋してていいのかな。……いやいや、こんなん考え出して辛気臭くなってる場合じゃない。どう考えても、泣きたいのは平の方だろう。自分を奮い立たせるように笑って答えた。)

──えっ?

(突然ふわりと吹いた風に乗ってきたみたいに、いつかの鈴木の言葉が脳裏を過ぎる。

“今これから目の前の人と真摯に向き合おう!って思ったなら……それはもう純愛じゃんね……!?”

鼻の奥がツーンと痛んだ。私はこれから目の前の恋にちゃんと向き合うんだって、そう思ってた。でも……できてんのかな。ちっとも変われてないどころか過去の恋愛のことでいまだにモメて、よりによって今好きな相手を思いっきり巻き込んじゃってるのに──やばい。今更になって、元カレに言われた言葉が効いてくる。“人の事言えない”……マジでそうかも。こんなんで、ホントにいいのか。私にまともな恋愛とかできるのかな。まあ、端から脈ナシなんだけど……。勝手に後ろめたくなって、唇をぎゅっと噛んで泣きそうなのを堪えてたら──突然顔を覆っていた髪を優しく掻き分けられて、私はまたしてもぽかんとすることしか出来なかった。)

115:  [×]
2024-08-20 07:23:43

(伸ばした指先が触れた東の髪。毛先は少しだけしっとりとしているように感じた。ちゃんと乾かさなかったのか……なんて事を思うような思考はない。なにしろほとんど無意識に伸ばしてしまった腕なのだから。
そっと、触れた指先――もっと言えば爪の先からゆっくりと、静謐な御簾を覗くようにしてゆっくり左方へと緩やかな毛束を持ち上げて東の顔を瞳に映す。
――ああ。やっぱり。
そこにあったのはおよそ見たこともない苦衷。これが東のする表情かと思うほどに儚げで、今にも泣きそうな面差しだった。
それは当然の帰結だ。
東の優しさがなにも俺にだけ向けられているものではないように。
元カレに向けられたような気遣いが俺にも向けられないはずがないではないか。)

………………ははっ。

(なんて顔してやがる。
そんな顔を隠して、いつも戦っていたんだなお前は。
俺よりよっぽど隠れたくなるような関係の連中相手に怒ることなく笑って、許して。情けなく怯えて隠れようとする俺に、また笑って自分を見とけなんて堂々として――……。

〝キュンとさせたらすまんな〟

――ああ、したよ。
急激に、抱き締めたくなる衝動に駆られる。その顔を少しでも安心させたくて。もちろんできる訳なんてない。
こいつの好みは俺なんかとはかけ離れているのだから。
東が俺のことを好きだったらどうしようって?
とんだ欺瞞だ。

俺が、こいつを好きなんだ。

俺は気付いてしまったソレを胸の奥へとそっとしまって。伸ばした腕を元に戻した。そして、おどけたように笑ってみせた。)

――東、アイツからも〝アズ〟って呼ばれてんだな。下の名前みたいじゃね? 東アズ。

116:  [×]
2024-08-20 08:48:36

──オイ、勝手に人の顔みて笑うなッ!

(……あっぶな~~~。急に顔見られたからマジでびっくりした。いま私、絶対ヤバい顔してると思ったけど──よかった。平の反応を見る限り、案外そうでもなかったみたいだ。急になんだって感じだし、見つめられて普通に顔熱くなってきたし、ドッドッドッて心臓うるさいけど。やっと我に返った私は内心ホッとしつつも風で乱れた髪を両手でそそくさと直し、動揺を誤魔化すようにやかましくツッコみながらドュクシ!と平に攻撃しようとした。)

ん~?まあな。ってなんだそれ、ド○えもんのメガネか。

(今となっては元カレからの呼ばれ方なんか興味がなさすぎて、何も意識してなかった。すぐにはピンと来なくてそうだっけと首を傾げて思い出し、あー言われてみればそうだな的なノリで雑な返しをする。でも、この苗字なら絶対下の名前アズってつけなくね?とかどうでもいい考えが過ぎると同時に、頭の中に某猫型ロボットアニメに登場するメガネの少年の姿が浮かんできた。あのキャラの名前が成立すんなら、東アズが“絶対”ないってこともないのか。いやアニメのキャラだけど。……って何考えてるんだ私?よくわからんまま、思い浮かんだままの伝わるかどうかもわからん例えを適当に付け足した。)

117:  [×]
2024-08-20 12:51:31

別に顔みて笑った訳じゃねーよ……。

(いや、顔を見て笑ったわ。でもきっとその意味を東が知ることはない。知る必要もないだろう。
翻した肩で東の攻撃を受けながら帰路へつく。
心を占めるのはほんの少し前までの出来事だ。
数日前に東からアプローチされているのでは、なんてとんだ勘違いをして、付き合うかどうかなんて事を考えて。付き合っても上手くいく気がしないなんて、気を重くしていた。
このままでいたい。
その理由が今日ハッキリわかった。
東にガッカリされたくないという自己愛。
それは本心だ。
でも、それに加えて俺はきっと――こいつの悲しむ顔がみたくないんだ。
東のあんな顔をみるくらいなら自分が傷ついた方がよほどマシだ。
だから怖かった。期待に応えられなくて、ガッカリされて、東の顔を曇らせるのが嫌だった。
今のままで、このままでいたいと願ったのはそのせいだろう。
なんとも滑稽で、情けなくて話。
それにしても――ああいう男が好みか。なれそうにはねぇな……。
夕暮れは既に遠くの山の稜線を越えて緩やかに沈んでいく。
もう、泣きそうにはならなかった。)

野比〇び太な。
でもあれは確か親父も名前にのびがついてたから仕方ないんじゃね。多分じいちゃんもついてるぞアレ。
まあ東の場合は佐藤とかもみんなそう呼んでるから、知らんやつが聞いたら『あずさ』とか『あずき』とか下の名前で連想すんだろうな。

118:  [×]
2024-08-20 15:15:42

誰だ最初にのびってつけた元凶は。
けど私も気付いたらそう呼ばれてたし、言い出しっぺとか覚えてないわ。逆に、平は平以外の何者でもないよな~。

(一家揃って東アズ子とか東アズ美とかいう名前だったらフツーにやだな。勝手に想像してちょっと顔顰めたけど、私は東アズじゃないしべつに関係なかったわ。一瞬で自己完結した。たしかにいつの間にかみんなアズって呼んでるし、はたから見たら名前がアズみたくなってるのはそうかも。逆に平は、“平”以外の呼ばれ方してんの見たことない気がするな。あってもせいぜい“平くん”ぐらいか?それはそれで結局平だ。隣に並んで歩きながら、じーっと平を見上げてそんな事を考える。
ついさっきまであんなことがあってあんなに恋にも自信なくしかけてたのに、こーやって平とどうでもいい話をし始めるとすぐ楽しくなってくるんだからまったく不思議だ。さっきから何も状況は変わってないのかもしれないけど、平と話してるだけでびっくりするくらい気分が軽くなってくるのがわかる。こうして普通に並んで一緒に帰れてるのが今日はやけに嬉しくて、頬が緩んでしまいそうだ。単純すぎか、私。平に借りたハンカチの存在だって、実はずっと覚えてるけど何となく切り出せずにいる。さっさと返してしまったら、いよいよ別れる準備が整ってしまうみたいな気がして──もうちょっと。別れる間際に返そう。許されるなら、駅までの道のりをもっとゆっくり歩きたくなってくる。もう暗くなり始めてるし、そーいうわけにもいかないだろうけど。あー、なんかまだ別れたくないな……。)

……てかさ!腹減らん?ちな私は減った。平があずきとか言うから。

(衝動的にピタッと立ち止まる。思ったよりでかい声が出た。いや、さっきからいろいろあったし、ちょっと安心したら本当にお腹は空いてて……なんて、心の中で誰にでもない自分自身に言い訳しながら。勢い任せに出た言葉だから、ちょっと自分でも意味わからんとこあるけど。とくに後半。──とにかく、なんか気付いたら口走ってた。引っ込みがつかなくなって、何かの決め台詞を放った直後みたいに謎のキメ顔を崩せないまま平を見つめ続けた。)

119:  [×]
2024-08-21 15:00:11

野比一族の伝統に文句をつけるなよ……。
まあ……あだ名とか誰か一人が呼びだすとなんとなくその呼び名で固定なったりするよな。

(逆に一度呼び始めるとわりと変更不可なところもあると思う。ガキの頃の愛称とか何年越しとかで再会してもなんとなくそれで呼んじまうし……。
漫画とかであるような下の名前で呼び合うための儀式みたいなもんは現実にはそうそうない。いや、俺の周りだけかもしれねーけど……。呼んでいい? なんていちいち聞かねーし。勝手に呼び出すか呼ぶわって報告するだけだ。友達の友達とかになってくるとそいつが下の名前で呼んでると他に呼びようもないし苗字きくのもおかしいからそのまま倣って下の名前で呼ぶしかねーし……。まてよ、その理屈でいくと俺も下の名前が『タイラ』って思われてる可能性もあんのか? 平タイラ……。
ン、ふっ……と一人で笑いのツボに入りそうになってばちりと東と視線が絡む。今はどことなく上機嫌にみえるその表示がらなんとも〝らしく〟て。
ああ、好きだな。そう、思った。
これ以上の何かを望むことはない。少なくとも東が笑って過ごせる友人でいられるなら、それ以上はなにも。
ふと夕空――晴れ間となった雲の隙間に思いを馳せる。
他愛のない、言ってしまえばどうでもいい話をしながら東と歩くこの時間がなんとも心地良い。一寸、自分が受験生だという事も忘れてしまいそうなくらいに。
まあ、そこは忘れても今日あった事は忘れられねーんだけどな……帰って一人になったら自己嫌悪から始まる一人反省会で二度と外に出たくなくなる予感がする。そもそも好きな女の前でみっともなく泣くとかありえるか?
東は基本俺のこと舐めてるから驚きも失望もないだろうけど……それが幸いでもあり、ムカつく感じでもあり……複雑だ。
やがて視界に駅が映る頃、東が唐突に声をあげた。)

いや……もう俺は今日あった事で腹いっぱいというか胸いっぱいというか……いやきけよ。

(腹減らん? からの私は減ったってなんだ。自己完結するな。しかも俺のせいにされたぞ。)

…………それ俺のせいにすんなら絶対あずき関連のもの食わせっからな。そんで共食いっつって笑ってやる。

(ゲーム的な表現をするなら恐らく俺の後頭部には怒りマークが浮かんでることだろう。ピッと駅向かいのファミレスを指さした。)

120:  [×]
2024-08-21 16:45:25

よし決まり~。いっそ平も共食いする?タイ……鯛……たい焼き!あんこ入ってるし丁度いいな。

(もうちょっと長く一緒にいられるって嬉しさで気持ちはふわふわしまくりで、平のツッコミなんかるんるんで流して笑いながら早速ファミレスに向かおうとした。ついでに“タイ”で“アズ”な食べ物を思いついて、謎の満足感。どうでもいいひらめきだけど、地味に嬉しいな。さすがにファミレスにたい焼きはないだろうけど……今度食い行こって誘ってみるか?二人きりだと、前みたくあからさまに警戒されるだろうし──山田あたり暇してないかなぁ。この時期じゃさすがに厳しいか。
はあ……。一瞬立ち止まってチラッと振り向き、平を見て思わず溜息をつく。最近マジで平のことになると、気分の浮き沈み激しくてやばい。一緒に寄り道できるのは嬉しいけど……私に共食いさせるためだもんなぁ~。帰る時間がちょっと伸びただけでこんなに私は舞い上がってるのに……平はけろっとしてんな。相変わらず完全に脈ナシだ。
今日が特別な日だっただけで、普段平と二人っきりでこんなにいろいろ寄り道する機会なんか滅多にない。貴重な一日がもうすぐ終わるって思うと……やっぱ寂しいな。ただでさえ受験生だし、平とは他のみんなも誘って集まる口実がないとなかなか遊べんし……いやいやいや。実際いま一緒にいれてるんだからいいじゃん。望みすぎ。贅沢な考えを断ち切るように左右に首を振って、気持ち切り替えてスキップで進み始める。共食い上等、一緒にいるためなら何だって口実にしてやる。あずきでも何でもかかってこい。喜んだり落ち込んだり、こんなに気持ちが落ち着かないのはぜんぶ平のせいだ。)

121:  [×]
2024-08-23 22:06:29

共食いの誘いを受けたのは人生で初めてだわ。

(丁度いいってなにがだ……と呟きながらもなんだかご機嫌な東の様子に口の端を綻ばせてしまう。だいたい平とたい焼きって無理があんだろ。東はアズって呼ばれてるからいいが俺はタイとは呼ばれてねぇぞ。いや別に呼んでほしくはねーんだけど……。
そうこうしているうちに路地を抜けて大通りへ。目の前を快速で走り抜けていく単車になんとなく視線を奪われていると少し先の信号が点滅するのが見えた。)

ここ信号ハマると長いんだよな……。

(いけるかいけないかというタイミングで明滅を繰り返していた信号機はとうとう俺たちがたどり着く前に紅に点った。走ればおそらく間に合っていた距離。どうにも急ぐ気になれず歩き続けた結果だ。普段なら絶対走っていただろう。まあ、仮に俺が間に合っても東が間に合うかは微妙なところだが。
横断歩道を挟んで寸断された俺と東の図を思い浮かばて笑いそうになる。あとでまた『ドゥクシ!』とかいって殴られるやつ。)

…………東。あっち。

(俺はちょいちょいと右辺を指さした。向かいに行くための歩道橋。これまで一度も使った事のないその存在を思い出したように促した。普段ならスマホでも眺めながらぼんやり信号の切り替えを待つところなのに今日に限ってはやった事のない行動を東としてみたくなった。まあ、使ったところで多分いいとこ橋の半分くらいのあたりで信号機は青に切り替わるんだろうなとは思う。東が面倒がったらそれはそれだ。)

122:  [×]
2024-08-24 00:23:14

んじゃ平の初めて、私が奪っちゃったな。
……あ。またドラマのスダケンみたいなこと言ったわ。キュンさせすぎてすまん。

(なんて、指ハート作りながらキメ顔で言ってはみたけど……こんなんでキュンさせられるなら、私は何も苦労してない。てか、そんなことが可能なら私は今すぐスダケンになりたい。いいよな、スダケン……私もこれまでかなりときめいてるし。あのモテオーラ、羨ましいわ……。あれの一部でいいから──そう、平限定で効くやつとか。ないかな。ないか。
脳内が見事にたい焼きからスダケンにすり替わって、まあどっちにしろ考え事しまくりで歩みを進めていたら。)

……あー。間に合わんか。

(大通りの信号が点滅し始めたのがわかったけど、いろいろ考えて気持ちふわふわしちゃってたし正直そんな急ぐ理由もなかったから、口ではこう言いつつも端から間に合わせる気はなかった。平がどうだったかはさておき、まあ結果的に二人とも走ってないんだからそーいうことなんだろう。そんなわけでぼーっと待つ体制に入りかけた時、平に声をかけられて小首を傾げながら指し示された方へ視線を向けた。
──歩道橋。明らかに遠回りだし、最後にいつ登ったのかも、登ったことあるのかすら覚えてないけど……なんか面白そうだと思ってしまった。平に誘われなかったら、こんなこと思いつかなかっただろう。平に誘われたから、めちゃくちゃ興味が湧いてきた。私はやけにワクワクしながら歩道橋を見上げる。あそこからの景色を平と一緒に見れたら、どんな風に見えるんだろう。ただの見慣れた街が、すっげーキラキラしたりすんのかな……。)

おけおけ。──私、ここ登んの初めてかも。

(平の提案に即頷いて、早速小走りで歩道橋に向かう。子どもみたいにテンションが上がってきた。私は何に浮かれてるんだろう。平が誘ってくれたこと?平と一緒にいられること?平に初めてを奪い返されたこと?……全部。私は全部が嬉しくて、平といるだけで全部にときめけるんだ。その勢いのまま、歩道橋の階段に足をかけていって──ついてきてるであろう平をチラッと振り返り、初めてだなんて感想を言ってみた。)

123:  [×]
2024-08-24 15:51:44

俺も使った事ねえなここ……つか歩道橋自体が久しぶりだわ。ガキの頃は当たり前に使ってたはずなんだけどな……。

(跳ねるように元気に前を行く東が振り返る。その表情はちょうど逆光になっていてよく見えなかった。それでも足取りと声音から面倒とは思っていなさそうでほっとした。
薄く伸ばした石造りの段差を二つ飛ばしでゆっくりと踏みしめる。階段というには細々とした起伏は一段ずつあがるには自分の歩幅と微妙に噛み合わなかった。これまで気にしたことはなかったが、もしかすると歩道橋とは子供向けなのかもしれないなと少し思った。ちょっとの信号でも全力ダッシュで歩道橋を駆け上がっていく子供時代の記憶。側道として自転車を手押しできるなだらかな坂もついてる。これ実は結構キツイんだよなつかうと……。
記憶を掘り起こすと筋肉痛がしそうだ。
当たり前にそこにあった子供時代。
俺がそうであるように、東にもあったはずだ。
……まるで想像できないが。
俺の知らない時間。俺の知らない、東。
元カレはそんな東も知っているんだろうか。
……当たり前か。
過ごした時間が俺とは違うんだから。
別にそんなのはわかっていたことだ。
大したことじゃない。
べつにたいしたことじゃ…………。)

……………………。

(前方をゆく東をみる。なにか。なにかが……もやぁっとしたなにかが。肺の奥のほうから積もってくるような感覚。知らず、俺は奥歯を噛み締めていた。
そもそもスダケンスダケンいうわりに元カレのアイツはスダケンに似てなくね?
好みっつーのは顔じゃねーってことか?
性格? スダケンの性格知らねえだろ。じゃなんだアレか。雰囲気か。いや雰囲気も似てねーわ。なんだコイツ。なにが良くてアレと付き合ってたんだ……。俺は意識せず舌打ちをして歩道橋の上り階段の最後の一段をあがりきった。)


124:  [×]
2024-08-24 16:51:47

おー、ちゃんと高いな~。なんかさ、高いとこってテンション上がら──ん?

(最後の数段は、小走りどころか完全に駆け足で登っていく。そのまま近くの手すりに駆け寄って両手を乗せ、身を乗り出すようにして景色を眺める。ついさっきまで私らがいた信号前には別の親子が手を繋いで立ってたけど、ここからだと子どもだけじゃなくて母親の方までかなり小さく見えた。いつもとちょっと視点が変わるだけで、なんか楽しくなってくるのは何なんだろう。ちゃんとした展望台とかだと、もっと高くてワクワクするんだろうな。そんなワクワクを、一刻も早く平と共有したい気分になった。あそこにこれから行くファミレス見えるなとか、どっかに同じ学校の制服いないかなとか。他愛もない話をしながら、並んで同じ景色を見たいなと思った。待ちきれないと言わんばかりに勢いよく振り返って、後ろにいるはずの平に話しかけようとした。)

……えー。何その顔?疲労?

(顔色が悪いというか不機嫌というか暗すぎるというか。全部当てはまるようでどれとも言えない、何考えてんのか全くわかんない顔。負のオーラ出しまくりっていうか──いや、それは見慣れてる気もするけど。平って、急にそういうモード入る時あるよな。いつも何をそんなにグチャグチャ考え込んでるのかは謎だけど……それ今くるか?と、呆然としながら平を見つめる。さっきまで普通に喋りながら階段登ってたのに、この短時間に何があった。ちょっと心配な気持ちもあり、私は数歩戻って平に近づき不思議に思いながら顔を覗き込もうとした。)

125:  [×]
2024-08-25 17:21:21

疲労っつーか苦労っつーか……いや別にたいしたことじゃねぇってわかっててもどうにもならねー不可逆性についての悩みなんだよ……そもそも何についてのアレなのかも全然わからねぇし……俺ごときが何目線で不満を抱いてんだっつー話だよな……わかってんだけどなんかモヤモヤしたもんが腹の下に積もってく感じがまた困るっつーか……ブツブツ。

(テンション上がらんって? むしろなんか下がったわ……。
俺ははぁ……とでかいため息をついた。身体の中心に澱のように濁ったソレを少しでも吐き出したかった。
ふと東が近づいていくる。俺がこの階段で疲れたとでも勘違いしたのか。さすがにこんな程度で息切らすほどヤワじゃねーよ……。
と思ったのだが。
いや顔、近っ。
俺を見上げるように覗き込むその髪からほんのりと知ってる香りが鼻腔をくすぐる。健康ランドのトリートメントかもしれない。
グレーのおり混ざった水晶石のような瞳が目尻の緩やかな流れに沿ってくりくりと動いてみえて。こいつ、睫毛なげーよな……。なんて。そんなことを思って。
一瞬――ふと湧いた衝動に俺は拳をぎゅっと握りしめて顔を軽く引いた。)

…………腹減ってんだろ。行くぞ。

(極力平静を装ってぶっきらぼうに言い放ち東の横を通り過ぎて先を歩く。
…………俺、今なにしようとした? ……触れようとした?
まさか……。いやいやいやいや。
軽く被りを振って何故か火照った顔を少しでも冷まそうと試みた。)

126:  [×]
2024-08-25 19:59:56

──?

(やばい。何言ってんのか全然わからん。悩みとか不満とかモヤモヤとかって聞こえたから、疲れてて元気ないわけじゃなさそうだけど──じゃあなんだ?私、何かした?ここには平と私しかいないし、このタイミングで平をモヤモヤさせる要因っていったら私くらいしか思い浮かばないんだけど──心当たりがなさすぎる。私はぽかんと首を傾げちゃって、さっぱりわからんってのが顔に出まくってたと思う。
いやまあ、このタイミングに限らなかったらさっきから心当たりはありすぎるんだけど。大雨の中失くしたキーホルダーを探してて結果的に平に傘買わせる羽目になっちゃったり、元カレとの面倒なゴタゴタに巻き込んじゃったり、それで泣かせて怪我までさせちゃったり……むしろ、心当たりしかないじゃん。溜まりに溜まった不満が、時間差でいま爆発しそうになってる的な?だとしたら、まずはどれから謝ればいいんだ──平の顔を見つめながらどう声をかけようか考えてたら、先に口を開いたのは平の方だった。)

へ?あ、ああ……うん……?

(私をスッと追い抜いて歩き始めた平の背中を眺めながら、何とも言えない不安な気持ちになる。この感じ、どっかで──そうだ、あの時だ。みんなでイルミネーションを見た帰り道、あーこれ平に避けられてんなって気付いちゃったあの感じ。今だってなんか不自然に突き放されたような気がするし、やっぱ私ちょいちょい拒絶されてるよな……。ふと、今朝の出来事を思い出す。私が平の手を取ろうとした時も、思いっきり嫌がってたな……。)

…………。

(脈ナシなのはわかってる。けど、友達としてならフツーに仲良い方だと思ってたのに。時々こうやって平に距離とられてるのを察する度に胸がチクッとして、心が折れそうになってしまう。でもファミレスには行ってくれるっぽいし、嫌われてるってわけじゃなさそうなのに……平は一体、何を考えてるんだろう。何とも言えない不安と寂しさに押し潰されそうになるのをグッと堪えながら、背負っているカバンの肩紐を両手でぎゅっと握りしめる。それから、平の後を追うように私も歩き始めた。)

127:  [×]
2024-08-27 20:23:55

(――なんだこれ。
ドッドッと強く胸を打つ鼓動に収まれと願って握った拳を押し付ける。手首がじくと痛んだ。――ああ怪我してたんだっけ。そんなことさえもう昔のことのようで。鳴り止まない鼓動の音は緊張とよく似ていた。
例えるなら学校。新クラスで見知らぬクラスメイトに自己紹介を一人ずつ告げてゆく。さあもうあと次が自分の番だ、というような……別に死ぬような思いをするわけでもないのに鼓動が破裂しそうな感じ。
……いや違うな。
自分で考えておいてなんだが鼓動が激しいこと以外に共通点ねーな。つい、と肩越しに東を見る。後ろを歩く東は若干俯き気味にみえる。表情はよく見えない。だというのにただそこに居る、居てくれるという事実を嬉しく感じる。
いや、いやいや。どうなってんだこれ。
歩道橋も中頃に差し掛かった辺りで風が吹き抜けた。ざんばらに舞う前髪が眉毛を掠めてゆく。不意に漂う香気。先刻東に感じたものに近い。自身の髪から東と似た匂いがする事実に一瞬、気分が高揚しそうになって。直後にそんな自分に自己嫌悪する。)

マジかよ俺……。

(ぽつりとそう呟いて顔を掌で覆った。ごちゃごちゃの思考に辟易とする。今日はもう色んなことがあった。ありすぎた。駅で動揺して、雨に濡れてコンビニまで走って、人生でも数少ない暴力なんてもんも振るった。人前でみっともなく感情のままに泣いてしまった。
その、どこにも東がいる。
行動の中心に東がいる。
……俺は東が好きだ。それがどういう類のものかはともかく――その好きな相手の前でカッコ悪い、情けない姿しかみせていない。おまけに純粋に俺を心配してくれる東に余裕をもって接することもできない。さっきのもやもやなんかアレはなんだ。
俺からすりゃ元カレはクズだがそんなクズでも笑って許すような東だからこそ俺にも分け隔てなく応援してくれるのだろう。
なんだ東、お前神様かなんかか? 自分を削って施しをするカミサマ。じゃあその神様は誰が救ってくれるんだって話。
俺はお前に――……。)

幸せに、なってもらいてぇよ。

(歩道橋の段差を下る。ぽつりと口からでた本心は間違いなくて。けれど気分は降り階段とどこか似ていた。この階段を下れば目的地はすぐそこだ。)

128:  [×]
2024-08-27 21:30:39

(一歩一歩進む度に、残りの距離が短くなっていく。あんなに楽しみにしていた景色もろくに楽しまないまま、今はただ俯いて歩いてるだけ。私、何やってんだろ……歩道橋、終わっちゃうな。
いや、平も平だ。向こうから歩道橋に誘ってきたくせに、期待させるだけさせといてさっさと前を歩いてっちゃうとか何考えてるんだ。結局こんなことで浮かれてたのは私だけで、一緒に景色見たり感想言い合ったりしたかったのも私だけで──なんか悔しい。気持ち自覚する前の方が、無駄な期待することも変に意識しすぎることもなくて、平との時間をもっと純粋に楽しめてた気がする──。)

はあ……。

(下りの階段が目前に差し掛かり、最後にもう一度街の景色を見下ろす。……ちっともワクワクしなかった。少し先を行く平はどんどん下っていってるし、誰にも聞かれてないって思ったら気が緩んで思いっきり溜息をついてしまう。恋ってもっとこう、なんかキラキラして楽しいものなんじゃないのか。少なくとも私から見たら鈴木も谷も山田もみんな何だかんだで幸せそうだし、絶対もっと若々しくて青春!って感じの“ちゃんとした恋愛”してるよな……。そーいうのいいなあって思うし憧れるけど……マジでやり方がわからん。今までは向こうからガンガンくるパターンばっかだったから、片思いとかした事ないし……。)

──こら、置いてくなっ!

(……いやだ。こんなんじゃダメだ。私ばっかり勝手に盛り上がって落ち込んで、こんなんで気まずくなりたくない。せっかく一緒にいられるんだから、せめていつも通りに楽しみたい。そうだ、いつも通り。ただ普通にしてればいいんだ。平の態度になんでちょっと違和感あったのかはわかんないし、怒らせちゃうような心当たりはあるにはあるけど──私が普段通り接してれば、平だって普段通りに文句言ってくるだろう。良くも悪くも、平の方はこっちを何も意識してないんだから。
私は一度深呼吸して走り出す。そのまま駆け足で階段を下り、横から平を追い抜き下りきった地点に先回りして振り返り、抗議するように平を見上げて睨みつけようとした。)

129:  [×]
2024-08-28 14:36:29

(もの凄い勢いで俺を追い抜いて行く東に「おお……」とよくわからん声を漏らす。なんつーか、元気だな……腹減ってんじゃねーのか。先に降りきって相対する姿はなんつーかアレだ。アレ……。
→タイラはにげようとした。
→しかしアズマにまわりこまれてしまった!
なんて、ゲーム画面がぼんやりと浮かんできた。いやべつに逃げようとはしてねーけど……。
つか、なんだその顔。なんか怒ってる……?)

アズ――……。

(マ、と出しかけた声は、
『アズ――――――――――ッッ、危ないから走らないの!!』
という超でかい声にかき消された。
見るとちょうど俺たちが来た方向、歩道橋を使わなければ待っていたはずの信号を駆ける子供とそれを追う母親の姿だ。
俺はしばし呆然とその様子を眺める。
子供はさも応援してもらったかのように一層意気込んで脚を跳ねあげる。母親の方は鬼気迫る表情でそれを追い――あ、捕まえた。
…………。
俺は無言のまま階段を降りきって東の肩にポンと手を置こうと差し伸ばす。
そして一言こう伝えよう。)

…………アズ。危ないから走らないの。

130:  [×]
2024-08-28 16:33:51

(でかい声で急に名前を呼ばれて、ビクッと大げさに反応してしまった。振り返ってみたら──いや私じゃないんかい。子どもを追いかける母親の姿を見て状況を察し、ちょっと脱力してしまう。まあ、そりゃそっか。知らない人の声だったし……さっきの子ども、アズっていうんだ。偶然だな。そんなことを考えながら親子の方を見ていたら、平が近付いてくる気配に気付いて視線を戻す。今思いっきり反応しちゃったの、見られてたらちょい恥ずいかも。いやその前に何か言えよ。なんで黙ったままなんだ。私は私で反応しすぎかもだけど、逆に平は反応薄くね?
目をぱちくりさせながら、下りてくる平を見上げる。たった数秒の時間がやけに長く感じた。肩に触れられると、距離の近さにほんの一瞬だけドキッとして顔が熱くなったけど──、)

へ?……ふふ、あはは!なんだそれ、私のパパか?

(予想外すぎる言葉にぽかんとしてしまったけど、たった今しっかりと聞こえてきたばかりの母親の言葉と全く同じセリフに笑いが止まらなくなる。突然謎の親子ごっこが始まったことも、どう考えても私の方がママじゃね?って思ってしまったことも笑えるんだけど──平が普通に接してくれたことにホッとしたのが、笑っちゃった一番の理由。
口元に手を添えながら、軽く涙目になってけらけらと笑い続ける。……気は済んだからそろそろ行こうか。なんか知らんけど子ども扱いされたし、こっちからも仕返ししてやろう。ファミレスに向かって歩き出そうとしながら、親子ごっこのノリのまま棒読みで返した。)

パパー。アズ、でっかいパフェたべたーい。

131:  [×]
2024-08-29 14:35:59

イヤだろ、娘のこと苗字で呼ぶ父親……。

(眉根を寄せて半ば呆れ気味にそう告げて俺もひひひと笑う。
……よし、うん。
フツーだよな。普通に、できたよな。
東がけとけと笑う姿を見て安心する。
ああ、やっぱりこいつはこういう顔の方が似合うよなり
中学の時とは髪型もまとう雰囲気もまるで違っていて。陽キャグループとつるんではいても悪ノリに流されたりはしないようなどこかクールなイメージがあった。
その頃のまま――そのイメージのままならきっと俺は東とは今こうして一緒に歩いてはいないだろう。
だが、である。
だからっていま俺が東の悪ノリに付き合うかといえばそれは別な話。軽妙に棒読みしてくる東に俺は思わず顔を顰めた。)

俺はどのポジションなんだよ。そもそもパパもアズじゃねーかよ……。

(じっとりと睨んで返す。別にいつまでも擦る気はないがそのパフェにアズキは入ってんだろうな、なんて思いながら。
『レストラン ゴスト』の自動ドアをくぐって内扉の取っ手を引く。からんからんとドアについた鐘がけたたましい音を立てて来客を告げる。
ここのゴストは前に来たことがあるがその時とは内装やテーブル席の配置が微妙に異なっている気がした。店員は手が離せないのか『お好きな席へどうぞー』なんて声が飛んでくる。確かに誘導が必要なほど混んではいなさそうだった。二人で使うにはアレだが俺は大きめのボックス席を東にちょいちょいと指し示した。)

132:  [×]
2024-08-29 16:36:04

意外とすいてんねー。あ、そっか雨の日だ。

(平に続いて入店し、軽く店内を見渡してみれば結構空席があった。これならそんなに待つこともなさそうでラッキーだと思いながら平が指した席に向かい、よいしょっなんて零しながらぽふりと腰掛ける。
早速メニュー冊子を手に取り、同じく着席したであろう平にも見えるよう横向きにしてテーブルの中央にどーんと広げる。さすがにタッチパネルがあるのは知ってる──二度も同じ手に引っかかってたまるか──けど、やっぱ紙のメニュー見ちゃうんだよね。なんかこっちのが見やすくない?ってわけで、広げたメニューを覗き込みながら、何を頼もうか悩み始める。)

“雨の日クーポン”使えるから、ポテトフライは絶対。で、和風パフェ……あっでもハンバーグ&海老フライのセットもいいな──よし全部いこう。

(私の中で、ゴストが公式アプリで配布している雨の日クーポンを使わない手はない。ポテトフライのページを見る前に断言する。それから、私が普通に食べたいパフェも。フルーツパフェもあったけど、一応あずきが乗ってるやつにしとくか。パフェも結構でかいし、正直そんくらいで十分っちゃ十分なんだけど──片手でスマホを操作しながらアプリのクーポンを確認してみると、ハンバーグ&海老フライのセットも“雨の日クーポン”の対象みたいだ。そうなってくると、脳内にいる別の私がせっかくだからいっちゃおっかって唆してくる。う~~~ん。軽く唸りながら考え込んで──よし、まあいけるだろ。ここでうじうじ悩んでたら、せっかく待ち時間短くても意味ないし。こーいうのは勢いだ。迷ったら全部頼んで、更に雨の日クーポンでドリンクバーもつけちゃえ。私はキリッと宣言しながらメニューから顔を上げ、見終わったメニューの向きを平の方に向けようとした。)

133:  [×]
2024-08-30 12:02:09

――ん。ほれ。

(メニューを向けられたと同時に俺は注文用のタッチパネルを充電台から引き抜いて東側へとテーブルを滑らせた。
終始楽しそうにメニューでアレコレ考える東の様子を頬杖をついてぼんやり見つめていたが飽きなかった。雨の日クーポンとか俺より全然ゴストに詳しいし。アプリとかあんだな。まあ今だとどこもかしこもやれネットオーダーだ公式アプリだと顧客とのエンゲージメントをとにかく高めようとするのが企業傾向だ。
俺みたいな極力余計なアプリを入れたくない派には生きにくい世の中。スマホのホーム画面とか二ページ超えんの嫌だし。
それでも。東がそんな楽しそうにしてるなら俺も取ってみるかなんて事を思った。)

よく食うな……マジで腹減ってたんだな。

(メニューに視線を落としてポツリと洩らす。本当は空腹なんてただの口実で、なんとなくただこのまま帰るのがちょっと惜しいような――そんな俺と同じ気持ちだったらなと思ったが違ったらしい。
そういえばあんな事がなければ今頃健康ランドでソフトクリームでもつまみつつマッサージ機に打たれていたかもしれないんだよな……。
ゴストのメニューはトップページの季節物の限定商品から始まって定番の肉料理、パスタ、サラダと続く。ページこそめくっているが俺の目はリストを泳いでいるだけでなにかを捉えることはなかった。
沈澱させた気持ちが浮上してこようとするのを無意識に封じる。今はごちゃごちゃ考えても東に心配かけるだけだ。どうせ家に帰って一人になればもうどうしようもない葛藤に苛まれるのは確定している。自分の気持ちを言語化して整理するのはそれからでいい。
それまでは無でいよう。
今の不安定な感情はともすれば予期さえしてないことを口に出しかねない。
視線をメニューから東へ向ける。
タッチパネルを操作しているであろうその姿をみて、ふと頭によぎったのは鈴木の台詞だ。谷と付き合いだしたばかりの頃、あいつらの馴れ初めを知りたくて鈴木に問いかけた。『なんで谷なの?』と。それを受けた鈴木は勘違いして確かこういった。『俺にしとけよ?』。
今思いだしても何言ってんだコイツと思う。
なのにさっき歩道橋で名状し難い感情にとらわれた時――東から顔を覗き込まれた時。
俺はこう思ったのか?
――俺の事を好きになればいいのに。
いやいやいや……まさか。勘弁してくれ。
無でいると決めたはずの俺は顔を手で覆って唸った。)

134:  [×]
2024-08-30 15:55:31

さんきゅ。……あー、まあねっ。

(タッチパネルを操作して、注文したいものを一つずつ追加していく。既に決まってるからそんなに時間はかからなくて、最後にスマホを見ながらクーポンコードを入力すれば私の分は完了。途中聞こえてきた平の言葉には、ちょっとギクッとしたけど──まだ帰りたくなくて誘っちゃったとか絶対言えないし、お腹がすいてないわけでもないからこれは嘘じゃない。嘘じゃないのに勝手に焦りながら答えて、なんとなく視線を逸らし店内を見渡す。
店内には他のカップルが何組かいた。いや他のって!私らは全然そんなんじゃないけど……え。てか超今更だけどこーやって二人で座って喋ってんのって、他の客からどう見えてるんだろ……うわマジで今更すぎる。平と二人でファミレスなんか、もう何回も来てるのに。全っ然考えたことなかった……。
意識した途端にめちゃくちゃ恥ずかしくなってきて、他のカップルなんかもう見てらんなくて頭を抱えながら視線を前に戻した。それはそれでフツーに平がいて、バッチリ顔見ちゃったら顔というか耳というか何なら首まで火照ってきた気がする。どうしよ、ドキドキしすぎ。てか、よく見たら平もめちゃくちゃ考え込んでるっぽいし。そんなに食べたい物が決まらないのか……。)

平、決まった?まだならピザとかどうだ?ピザ。これ私好き。クーポンも使えるよ。

(とにかく胸がふわふわして平の方を見ていられなくなって、誤魔化すように既に私の注文が入力済みになっているタッチパネルを見下ろした。そわそわしてとにかく何か喋ろうと思って、パッと目についたマルゲリータピザのページを開いてくるりと画面を平に向ける。なるべく自然に振舞おうとしながら、画面を指差し畳み掛けた。)

135:  [×]
2024-08-31 13:55:29

ピザな――……キライじゃねえけど。

(無にまとわりつこうとする益体もない思考を振り払うように軽く首を振ってから指し示されたタッチパネルを一瞥する。
ゴストのマルゲリータピザといえば値段の割に美味しく腹も膨れる人気メニューだ。もちろんデリバリー中心の有名ピザチェーン店などとは比べるべくもないが懐事情の厳しい学生にはありがたい。
ふと。そういえば、と思い至る。
今日だけでそこそこの出費をしている気がするが――東は大丈夫なんだろうか。
タッチパネルに煌々と灯る注文数は今のところ東だけのものだ。
確か東もラーメン屋だかでバイトはしてたはずだが……まぁ大丈夫じゃなきゃ頼まねーか……。
俺の場合はこういう時の為にコンビニバイトしてたのだから使うぶんには問題ない。普段は無駄遣いなんてしたくないがこういう友人と過ごす貴重な時間でケチケチするのはもったいないと思っている。
思っているのだが――……。)

……どうも食い切れる気がしねえ。なんかもう今日は胸いっぱいなんだよな。

(そういいながらメニューの最後のページを捲りきって裏表紙へひっくり返す。裏面は酒類やつまみが色とりどりと並んでいてその驚きの価格提供であることをこれでもかと強調していた。
もちろん制服きてる俺らには無縁の広告だ。アルコールでなにもかも忘れたい大人の気持ちが今だけはなぜかよくわかる気がした。
俺は頬杖をついてだらしなくテーブルに体重を預けた。)

ゴストっていや昔『ゴストバーガー』ってあったんだよな。ガキの頃食って異様に好きだったの思い出したわ……。

136:  [×]
2024-08-31 15:16:30

あー、わかる。私、ハンバーグの中にチーズ入ってんのが好きだったな。

(少しずつ具材を変えながらなくなったり復活したりを繰り返していた気がするゴストバーガーの存在を思い出してたら、急に食べたくなってきたけど無いものは仕方ない。てか平、注文が決まらないってよりお腹すいてない感じ?……そういえば急に誘ったのも私からだし、平の口から腹減ったなんて返事は一言も貰ってなかったな。
うわ。私、完全にやらかしてんじゃん。ちょっとでも長く一緒に居たいのなんて私だけなんだから、平が腹減ってないってことはここに立ち寄るの自体全然乗り気じゃないわけで──嫌々付き合わせちゃってるってことだ。二人で寄り道してるとか、舞い上がってる場合じゃなかった。今日一日いろいろあったけど、たしかに平からしたらただただ疲れるだけだわ……。完全にまた平を巻き込んじゃってるよなぁ、これ……。)

そ?んじゃ私ピザにするから、テキトーにつまも。あ、ここ私出すから安心して。

(平が食欲ないとしたら確実にさっきまでの出来事のせいだろうし、その上来たくもないファミレスに付き合わせといて無理やり注文させるってのもなかなかに鬼だろう。だったら二人でつまめそうな物を頼んで、食べられる分だけ食べてもらう方がよさそうだ。そもそも平って、さっき高そうな傘も買ってたよな……。半分以上私のせいで。
タッチパネルを再び自身の方に向け、ハンバーグ&海老フライのセットをピザに変更してドリンクバーも二人分入力しながらそう提案してみた。)

137:  [×]
2024-09-01 13:54:58

…………は!? いや金の問題じゃなくて……それは無しだろ……そういうのはやめようぜ。

(東の唐突な提案に俺は自分でも思わぬ大きな声をあげてしまう。やべ、と慌ててボリュームを絞って囁くように伝える。
奢りは貸し借りとはまた違うのだろうけど、金銭で誰かに負担をかけたくはない。
それが親や先輩といった立場が上の相手であるならその顔を立てるという意味でもご馳走になるというのは理解できる……それでも苦手には違いないが。
見返りを求めているんじゃないとわかってはいても、俺はそれをしてもらえるだけのなにかを返せる気が到底しない。
なにより東とは対等でいたい、と思う。
全然対等じゃねーし陰キャが何言ってんだって感じだけど……。
だいたい男が女にご馳走してもらうって構図がまずどうなんだって話。やっぱり時代錯誤な考えなのか……?
それでも――もしも。)

……恋人ならやっぱり俺が奢る側の方がいいかな。

(頬杖をついたままそう洩らす。カッコ悪りいとこばかりでもせめてそのくらいの甲斐性はもちたいと思う。
もう一度メニューを見返そう。考えてみりゃ東もなにも食ってねー相手の前で落ち着いて食えるわけねーよな……。タッチパネルを凝視して東が変更した箇所に唸る。)

――このピザとドリンクバーは俺がもらうから東もちゃんと自分の食いたいもん食えよな。

138:  [×]
2024-09-01 15:29:25

え?…………???

(誘ったの私だしとか、さっき傘買わせてるしとか、キーホルダーとハンカチのこととか、今日のお詫びにこれくらいはとか──いろいろ浮かんでた考えはあるけど、次の平の言葉で全部ぶっ飛んでしまった。思わずぽかーんと固まる。あれ私、なんて返そうとしてたっけ……?いやいや、それよりなんでそこで恋人って言葉が急に出てくるんだ。そっちが気になりすぎて、何も言葉出てこん……。
ぽぽぽぽ……と、顔から湯気でも出そうな勢いで熱が集まってくる。恋人なんて言葉がなければ、私はまたさっきと同じことを考えて凹んじゃってたかもしれない。友達同士だし、そのくらい甘えてくれてもいいじゃんって。何の脈略もなく私が一方的に払わされてるとかならまだしも、今日はいろいろ巻き込んじゃって平に迷惑かけまくってるし助けられてるし、お礼にファミレス奢るくらいはそんな頑なに拒否されるほどおかしい提案でもないだろって。仲良いと思ってたのは私だけで、また一線引かれてるのかって──でも、今のは。)

~~~っ!

(平が変なこと言うから、全身がまた火照ってくる。さっきはちょっとそっけない感じで人のこと置いてこうとしたくせに、急にボソッと期待させるようなこと言うのは何なんだもう。……絶対何も考えてないんだろうな。何も考えてないから、そんな適当なことがさらっと言えるんだ。こっちは浮かれすぎないように必死だっていうのに。私ばっかドキドキさせられて、ほんとズルいよなぁ……。
なんかもう、私も胸がいっぱいになってきた。こっからハンバーグとか海老フライとか、明らかに食える気がしない。なんならパフェとポテトフライだけでも厳しいかもしれない。)

うん、いいからもう確定ボタン押して……。

(落ち着け私。熱くなった頬に片手を添えながら、こっちの分はもう追加しなくていいって意味を込めて空いている手を横に振る。何でもいいから早く頼んで、早くこの話題を終わらせよう。頭が真っ白になってろくに返答が思いつかない中、タッチパネルを平に近付けるように押し出しながらなんとか言葉を絞り出した。)

139:  [×]
2024-09-02 21:27:13

? おう…………?

(――なんだ?
ずいっと押しだされたタッチパネルを受け取りながら首を傾げる。
東はいかにももう早くしろよといいたげな雰囲気だ。少しウダウダしすぎたのかもしれない。
腹減ってるって言ってたし悪りいことしたな……。
俺はタッチパネルに東が入力した例のピザとドリンクバーが入っていることを再確認して確定ボタンを押下した。軽妙な音が注文の完了を告げる。画面に注文内容が表示されるが東が最初に食べたがっていたハンバーグと海老フライがない。東に声をかける間もなくタッチパネルはホーム画面へと推移してしまった。
まあいいか……俺も俺でピザ食い切れる気はしねーし東が足りなければ食ってもらえばいいだけの話。)

……とりあえず飲み物とってくるわ。なにがいい?

(空腹な顔を見られたくないのか、落ち着かなそうな東にそう声をかけて立ち上がる。別に気にしやしないのにな。
荷物はまあ置きっぱなしで大丈夫だろう。
飲み物が少しでも東の空腹を紛らわせられればいいのだが。)

140:  [×]
2024-09-02 22:49:39

……あー、私カルピス。

(立ち上がった平に声をかけられて、慌てて返答する。さっきからふわふわしすぎだってば私。とにかく落ち着く時間が欲しかったし、飲み物は平に任せて一旦深呼吸しよう。そうだ。まずは落ち着いて、ただ自然に。普通に振る舞えばいいだけ──普通って何だっけ。
飲み物を取りに行ってくれたであろう平を待ちながら、気を紛らわせようと改めて店内を見渡す。普通の……というか“ちゃんとした”感じのカップルが仲良く喋ってる。普通……勝手にソワソワしてる今の私も普通じゃないかもだけど、じゃあさっきの平のアレは普通なのか?恋人なら奢る側がいいとか何とか──唐突すぎるだろ。そもそも、そんな言葉がさらっと出てくるとかいい奴すぎないか?私の経験上そんなこと言う恋人は過去に一人もいなかったし、むしろこっちが払うよって言うの待ちみたいな人ばっかだったけどな──あれ?
元カレと付き合ってた時は、好きだったし何の疑問も持たなかったけど……そーいえば、デート代って毎回私持ちだったかも?いや、たまたまか?たまたま出せる方が出せばいいじゃん的な考えでいつも普通に払ってたし……まあ私が何も気にしてなかったんだから、べつに普通だったのか?わからん。元カレ達がクズなのか平がめっちゃいい奴すぎるだけなのか、いよいよわからんくなってきた。)

……まず私が“まともじゃない”……?

(“まともな人間好きになろうと思ったら本人にもまともさがいる”──いつか鈴木に告げた言葉が、ふと私自身を抉ってくる。やっぱ、私が知ってるこれまでの恋愛って普通じゃないんだろうなあ。この前サトと話してて告白とかしたこともされたこともないって言った時も、一瞬空気変わったってか変な間あったもんな……。
ついこの間まで、誠実な男からは旨味を感じられないなんて思ってたくせに……今はあーやって言い切れる平がやけにカッコよく見えて、ちょっとした一言でドキッとしてるし。なんだこれ。これがまともな感覚なのか。それとも、クズばっか好きになってた反動なのか……ダメだ、変に考え始めたら自分の感覚に自信なくなってきた。
落ち着くために気持ち整理したかったのに、余計に混乱してきてしまった。……だから、もう考えるのをやめよう。私はテーブルに向き直り、再び深呼吸しながら使い終わったメニューとタッチパネルを元の場所に仕舞おうとした。)

141:  [×]
2024-09-04 13:12:21

(ゴストのドリンクバーコーナーはおよそファミレスで想像しうる雑多なバーカウンター風だったはずなのだが――…………)

……なんかすっきりしてんな。

(黒と白を基調としたシックな造り。瀟洒な喫茶店のような装いに思わず目を泳がせた。
どこだグラス……ない。
マグカップはあるが……これか? これ使っていいのか……?
マグカップやら小皿やらがひっくり返されて陳列されているがさすがにマグカップでカルピスはねーよな……。
膝下にいくつか空いている棚があり、そこに収められているグラスを恐る恐る手に取る。使って大丈夫だよなこれ……。
まさかゴストで戸惑う羽目になるとは。当時の初カノジョとのデートの記憶が蘇って軽く憂鬱になった。前のままでよかったのに。何勝手にオシャレになってんだゴスト。
グラスをドリンクサーバーにセットしてカルピスのボタンを押す。
ジャバーと痛快な勢いを立ててカルピスが注ぎ口より迸る。……俺の置いたグラスの隣に。)

いや、わかりにくいだろ……。

(慌ててボタンから手を放して誰にも見られてないよな、と周囲を仰ぎみてから悪態づく。
サーバーの表示をよく見ると野菜ジュース系、お茶系、炭酸やジュース系と注ぎ口が分かれている。ジュース系はメロンソーダやカルピス、オレンジジュースなど種類も豊富でそれぞれの絵柄の矢印が一箇所に集約している。俺がグラスを置いた場所はお茶系らしく、二種類しかない。
俺はそのままウーロン茶を注いで、それから隣にグラスを並べてカルピスを程よく注いだ。
両手にグラスを掴んで席へ。以前来た時とは席の並びや配置も変わっていて若干戸惑ってしまう。
ドリンクバーコーナーもそうだが、ずっとおなじままではいられないのだろうか。
飽きるから? 新鮮味を取り入れるために? 今の流行に合わせて?
様々な可能性に思いを馳せてから俺はポツリと「今までのままいいだろ……」と一人ごちた。)

――東。それタッチパネル逆だぞ。

(席へと戻った俺はカルピスとウーロン茶をテーブルに置きながら何故か逆向きにタッチパネルを台にセットしようとしてる風の東に胡乱な視線を向けた。)

142:  [×]
2024-09-04 15:09:12

……ん?うわマジじゃんおかえり、てかメニューも逆だったわカルピスありがと。

(平に言われてまじまじとタッチパネルを見てみたら──いやそんなよく見なくても、明らかに画面に映る文字や商品画像が上下逆さまになっていた。こんな一目見てわかる間違い、普通しないだろ。置くだけなら逆でも置けるっちゃ置けるけど……どんだけボーッとしてたんだ私。逆向きに置こうとしていたタッチパネルと既に逆向きに立てかけていたメニューの向きをそそくさと正しながら、勢いで返事したら話題混ざっちゃったけどまあいっか。
多少強引に解決させて一息つこうとしたら、タッチパネルの画面が切り替わっていることに気がついた。さっき向きを変えた時にどっか触れちゃったみたいだ。何気なく内容に目をやると、どうやら【店員呼び出しメニュー】なるものが開いてしまったようで、“従業員を呼ぶ” “お皿を下げてほしい” “食後のデザートを持ってきてほしい”という三つのボタンが表示されていた。)

え。パフェってこれ押さんと出てこん感じ……?まあ一応押しとくか。

(ちょっと戸惑いながら、軽く身を乗り出して画面を覗き込み首を傾げる。前に平と来た時もたしかパフェ頼んだ気がするけど……あの時、こんなの押したっけ。そもそも、こんなメニュー画面出てきたっけ。あの時はタッチパネルの存在にすら気付かずに笑いまくってたから、全然覚えてないな……てか私、ゴストに来る度にほぼ毎回タッチパネル絡みでなんかやらかしてないか?しかも絶対平いるし。
画面を指差しながら平にも尋ねてみるけど、実際に頼んだ私が覚えてないのに平が知ってるわけないか。わからん時はとりあえず押しとけば間違いないだろうと自己完結した私は、平が答える前に“食後のデザートを持ってきてほしい”のボタンを押そうとした。)

143:  [×]
2024-09-06 13:10:12

その話題の混雑なんとかならんのか。

(テーブルに置いたグラスを東側へ押しやりつつ着座した俺は硬めのソファに体重を数度浮かせてポジションどった。本来は二対二で腰掛けるべきテーブル席は二人で使うには広々と感じる。山田と以前来た時なんかは途中から呼んだ東がちょうど良く二人並んでたっけな。
持ってきたウーロン茶に口をつけると、果たして予想していた程よい苦味がかわいた喉を潤して通過していく。
そういや氷入れてくんの忘れたな……などと思ったのもつかの間。何気なくみていた東の動作に目を剥いた。)

! ……おい、ちょっ――なにやってんだ。

(ぶっと吹きこぼしそうになるウーロン茶。グラスを置くのももどかしく左手にもったまま反対の手をさし伸ばした。東がいままさにタッチパネルを操作しようとしているその指先を捉えるように。揺れたグラスから溢れた茶色の液体が指先を伝って木目調のテーブルに小さな地図を作るのも構わずに。
もしも掴めたなら握りしめる程の勢いで。
なんだ?
店員呼ぶ必要あんのか……?
まるでファミレス自体が急に初心者かのような振る舞いに俺の頭の中は混乱が渦巻いた。
『なんと。こんな小さな箱の中に人間がたくさん入っておるのじゃ』――などと古い時代からタイムスリップしてきた現代武者が思考の右から左に騎馬で駆け抜けていく。
いや、そうはならんだろ。どうした東。)

144:  [×]
2024-09-06 15:02:02

へ?……えー、思いっきり“店員呼び出し”って書いてんじゃん……。

(ボタンを押そうとしていた手を突然掴まれ、驚いて動きを止める。それからキョトンとしたまま、制止してきた平とタッチパネルとを交互に見て──【店員呼び出しメニュー】の文字がハッキリと頭に入ってきた瞬間、ようやく止められた意味を理解して気の抜けた声が出た。……いやいや、見ればわかるだろってのはそりゃそうなんだけど。なんていうか考え事しながらだったから、 “デザートを持ってきてほしい”の文字の方が先に頭に入ってきちゃって謎に混乱してたんだよ……。眠い時とかにボーッとしながら勉強してて、テキストの文字は読んでるけど文章は全然頭に入ってきてないみたいなのあるじゃん。アレだよアレ──なんて脳内で勝手に言い訳してみるけど、そのまま口に出したらそれこそ何をそんなに考え込んでたんだってなるよな……。)

……まあ、こっちはこっちでいろいろあるんだよ……。

(誤魔化しようもないこの状況──いや、誤魔化す意味ってなんだ。フツーに自分に呆れながらフッと溜息をついたら、なんか意味深な返しになっちゃったけど要はただの私のしょーもないやらかしってだけ。そりゃ中学の時なんかは友達グループで来るといぇーいみんなでシェアしよーみたいな暗黙の了解があったし、それぞれが食べたい物選んでく中で私は被らないようにとかこの子はコレ食べれんって言ってたなとか、“自分が食べたい物”ってよりかは“みんなが喜びそうな物”頼むのが癖になっちゃってて──そしたらいつの間にか友達からも元カレからも“アズはコレでいいっしょ?”なんて先に決められることが多くなって、私もべつに嫌じゃなかったから受け入れてそのまま注文任せてたし……ん?私、ゴスト来まくってるわりには言うほど自分で注文してないな。だからってタッチパネルの使い方わからんほど重症じゃないけど。
最近は全然そーいうのなくて、当たり前みたいに自分の好きな物頼んでたからすっかり忘れてた。メニュー見ながら何食べよっかって考えるの楽しいし。やっぱ私いま、めっちゃ友達に恵まれてるよなぁ──とそこまで考えて、タッチパネルから平に視線を戻してハッとした。いや手、手。思いっきり掴まれてるし。気付いた瞬間、顔も触れられている手もドキッと熱くなった。)

145:  [×]
2024-09-06 22:17:43

?……??……おお……そうか。

(急に陰りが差したような重たい雰囲気を感じ取って俺はコクコクと頷いて元の位置へと座り直した。
数瞬前まで東の手を握っていた手のひらに視線を落としてはぁ、とため息する。それは奇しくも東の嘆息とほぼ同じタイミングだった。
……今日だけで何回目だ、東の手を取るの。
今まで接触らしい接触なんて廊下でぶつかるかくれーのものだったのに。
朝に手を引いたり夕方に握ったり……そんな事あるか?
白木の木目テーブルに下垂れたウーロン茶の零れた跡に備え付けの紙ナプキンを二枚重ねて被せた。じんわりと白い紙に染み込んでゆく液体の様相はまるで今の俺の心にできたナニカを表しているようで落ち着かない。
今何時だっけか。
俺はスマホを取り出そうとカバンにかけると、どこからともなく機械音が近づいてきた。
程なく『お待たせしましたニャン』というぎこちない機械音声と共に猫型の顔文字が貼り付いたロボットがテーブルにやってきた。
配膳ロボットである。
俺は乗っかっているポテトフライを東の方へ、ピザを真ん中に置いて受け取り完了ボタンを押す。やはり例のハンバーグと海老フライはない。この後パフェがくるにしても俺がピザを食っちまったら東はポテトしか食うものが無いことになる。中央に置いたピザ皿を東の方に少しだけ押しやった。)

……食えよ、俺多分全部は食えねーから。

146:  [×]
2024-09-06 23:44:58

(さっきから平のこと意識してばっかで、意味わかんないミス続きだ。さすがにそろそろしっかりしなきゃって思うのに、手なんか握られたら落ち着きたくても落ち着けるわけない。しかも、平は私のことなんか1ミリも意識してないってのがまた悔しいしモヤっちゃうんだよなぁ。こっちばっかドキドキしてるのに今も平然と座ってるように見える平をちょっと恨めしげにチラ見しながら、今度こそ落ち着こうと軽く息を吐いて姿勢を正す。まだ何となくソワソワしちゃってたけど、丁度いいタイミングで聞こえてきた配膳ロボットの声でやっと目が覚めた気がした。)

……え、マジ少食。どうした?いやわかるけど……。

(届いた皿を受け取り終わった後の平の言葉に、私はぽかんとしてしまった。って言っても、平がピザを食べ切れそうにないって言ったこと自体に驚いたわけじゃない。注文渋ってたし今日は胸いっぱいとか言ってたし、そもそもここに誘ったのは私なんだから──平がそんなに乗り気じゃないのは、さっきからわかってたことだ。けど……そうさせてしまった原因に察しがつくからこそ、やっぱり突っ込まずにはいられなかった。ここに渋々付き合わせちゃってたとしたら、今朝からのトラブルや傘のことで疲れさせちゃってたとしたら、さっきの元カレの言葉で傷つけちゃってたとしたら──平を振り回すだけ振り回してトラブルに巻き込んだまま申し訳ないなって思いながら悩むくらいなら、やっぱハッキリさせとかなきゃ。平からしたら、蒸し返されるのすら嫌かもだけど。マジですまん。)

胸いっぱいにさせた私が言うのもどーなんって話だけどさあ……ちゃんと食べた方がいいって。濡れたばっかだし、疲れてんなら尚更。風邪ひくよ?あ。そっちじゃなくてあっちか?元カレの──アレは私もめっちゃイラッときたな。どの口が言ってんだって……てかランクって何?よくわからんけど平のが下みたいな言い方してた時点で微塵も理解できんし、どー考えても負け惜しみっしょ?あんなん気にしてたら思うツボじゃん?ほらほら、食え食え。

(──あれ?思うところがありすぎて一気に畳み掛けすぎちゃった気がするし、いろいろと言葉選びも間違えた気がするけど。胸いっぱいにさせたって、自分で言うか私。そんな意味で使ったわけじゃないけど何か自意識過剰みたいじゃん?……いやそもそも、こっちが心配になるような提案してきた平も平だ。パフェもポテトフライも私が食べて更にピザまで分けるってなったら、どう考えてもバランスおかしいのちょっと考えたらわかるだろ。それやるならポテトフライも分けてくれ。うわなんか結局何が言いたいのか自分でもわからんくなってきた。
とにかく勢いに任せて、目の前に置かれていたポテトフライの皿を平に近付けるようにぐいっとテーブルの中央へ押し出した。)

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