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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
101:
平 [×]
2024-08-11 23:05:12
とりあえず乾かすには乾かしたが……。
(ドライヤーの熱気を内包したシャツは実に暖かだったが時間もなかったのできちんと乾いてない気がする……。
熱気はあっても湿気が取れていないというか。これが冬場で詰襟だったらと思うと辟易する。まだシャツだけでよかった。ズボンも同様に落ち着かない感じになってしまったが元が黒い生地だから多少濡れていても目立つことはないだろう。帰ってからちゃんと洗って干せばいい。
そんな事を考えながら更衣室を飛び出したのは時間ちょうど。場所についていない事を考えるとフツー遅刻。男女通路の分岐点へたどり着いて視線を左右に巡らせる。東は――……いない。ふぅ、あぶねー……などと息を吐いてから近くにあったリラクゼーションチェアに腰を下ろした。ゆったりとした背もたれに体重を預けると若干の違和感。やはりシャツはしっかりとは乾いていないようだ。まあいい。視線を女子通路の方へと向ける。ここからなら東が出てきてもすぐ見える。……なんか女子通路をじっとみてるって微妙じゃね? 俺はなんとなく後ろめたい気持ちで視線をそらそうとして、たまたま出てきた女子にギョッと目を剥いた。元中の同級生。それも東がどうこう言ってたヤツじゃねーか? 俺はバッと下を俯いて額に手を当てた。てーことはさっきサウナ入っていった男はツレのやつか……?
大丈夫か、東のやつ……鉢合わせてねーならいいけど。
…………?
あれ、俺いま東の心配したか……?
あんな『地元のダチ、おれらマジ最強』とか自撮り写真撮ってそうな連中に自分が見つかって『なにおまえその格好高校デビュー?www』『ウケる中学のときチーズ牛丼好きそうだったのに笑』とかなんとか言われるよりも……?
ちょっとまて落ち着こうダメだ。
椅子から立ち上がって隣に屹立している自販機の前に立つ。九割牛乳類。ひでぇな。ウインドウをぼんやりとみつめながら、残りの一割の飲料に想いを馳せる。
この前のボーリングの時も思ったことではあるが、つくづく東と俺とでは棲んでる世界が違う。まるで俺には理解の追いつかない関係性。でもらあっちのほうが大多数。よく一緒にいられるよな……いや、そんな東だから俺なんかと一緒でも気にしないんか……。はあ、とでかいため息をついた。売り切れランプがこうこうと灯るコーヒー牛乳が少しだけ飲みたくなった。)
102:
東 [×]
2024-08-12 00:03:56
平ー。ごめん、ちょい遅れた。
(更衣室を出て通路を進み、さっき平と別れた地点に辿りつく。軽く辺りを見回すと、すぐ傍にある自販機の前に立っている平を発見。やっぱ待たせちゃったか──急いで駆け寄り、後ろからポンと肩を叩こうとしながら声をかける。
それから、何気なく周囲を確認した。友人③はさすがにもういないかな。一応、①が出てきたりしないか男性用の通路の方にも目をやる。よかった。今のところは大丈夫そうだ。明らかに時間を過ぎて待たせてしまったこともそうだけど、私にはもっと気がかりなことがあった。ラウワンでの平の顔を思い出したら──あの子らに気付いてあんなに真っ青な顔で怯えてた平を、また同じ目に遭わせたくない。すでに中で遭遇してないといいけど。……とにかく、もし友人達がこれから浴場から出てくるとしたら思いっきりはちあわせそうなこんな場所で、何も知らずに呑気に飲み物なんか買おうとしてる平を見て……なぜか私の方がハラハラしてしまった。)
あー。てか、飲み物買うならあっちいかん……?
(何も知らない平に理由なんか言えるわけなくて、ちょっと歯切れ悪くなっちゃったかもしれない。すまん平。でも、普通に考えてここにあの子らがいるとかわざわざ報告される方が嫌だろう。だから許してくれ。自販機ならここだけじゃなくて、端っこのもっと目立たないところにもあったはず。悪いこと言わないから、今は黙って私についてこい。そんな願いを込めて、私は別の自販機がある方向を指差した。)
103:
平 [×]
2024-08-14 04:11:39
(――常々思うのは。俺はきっと、自分が好きではないのだろうということ。子どもの頃の全能感や無邪気さは、なにか一つ失敗する度に俺の中から削げ落ちていった。中学生。〝多感な時期〟などと言われる意味を知る。多彩な感性が人格を形成する時期。俺は子ども過ぎたのかもしれない。女子と仲良くするのは恥ずかしいなんていう小学生のような考えをずっともっていたし、大人に逆らって悪い事をするような度胸もなかった。悪いことはダメなんて口幅ったいことを堂々と指摘する。子どものままの独善的な正義感。少しずつ、周りと並んでいたレールが逸れてゆく。仲が良かったはずの友達とまるで他人のようにすれ違っていく。昨日まで話していたヤツが翌日には違うヤツと俺をみて笑い合う。怒られ、叱られ、否定されて――嫌われて。ああ、俺は。こんな俺は、なにも求めてはいけないんだと知った。やさぐれて塞ぎ込んでも、家族に迷惑をかけてまで貫く行動力さえもない俺には。)
ッ……ああ。東か……。
(不意に肩に感じた軽い接触に思考を寸断されて俺は背筋を跳ねあげて反応した。
びっっ……くりした、元中のヤツかと思った。
急激な鼓動の変化はドッドッと脈打ち呼吸を僅かに乱す。落ち着かない。胸元に手を当てながら深呼吸して東を見る。周囲をぐるりと一望する東。その横顔は先程までの雨だれに濡れた姿とはまるで違ってみえた。湯上がり特有の馥郁漂うその表情は婉然としていて、髪型も服の着こなしも瀟洒。そしてそれらを自然な挙措としている。
俺のような、偽物じゃない。
――ああ、ダメだ。この思考はダメだ。
わかっていても止まらない。
なぜこんな東が俺のことを好きだなどと思い違いをしていたんだろう。こんなに隣にいてさえ、あの中学時代の教室――隔てた境界線ほどに心遠く感じるのに。)
……いや、飲みたいもんとか別にねえから。
(気持ちが悪い。気色が悪い。なにより自分がだ。俺はなにも変わっていなかった。中学時代のあの頃から。
気持ちが悪い。こんな俺が東の心配をしていただなんて事実が気持ち悪い。早く、離れよう。そうしないとダメだ。
怖かった。そうしなければ――東と一緒にいたいだなどと想うこの気持ちさえ、爛れてしまうようで。
東の示す方とは逆に踵を翻す。出口はどっちだ。早く出たい。早く――……。
急いだ俺は早足で、気づかなかった。ちょうど通路の死角からでてきた元中の同級生――東のいうところの友人③とぶつかりそうになるなどと。)
104:
東 [×]
2024-08-14 19:08:03
(自販機の真ん前に立ってガン見しといて、飲みたい物がないって何なんだ……なんて、ツッコむ暇もなかった。意外な答えが返ってきたかと思えば次の瞬間にはもうどこかへ向かい始めた平に唖然として、反応が遅れてしまう。そっちは出入口──いや。これから帰るって考えたらたしかに大正解なんだけど、)
ちょ……平っ!そっちは──!
(さっきから気がかりだったことのせいで、思いっきり焦ったような声が出た。さすがに走るわけにはいかなくて、私も早足で平を追う。友人③はさっき出てったはずだから、まだいるとしたらたぶん出口の方向に──てか、歩くの早っ。こっちは追いかける気満々で追いかけてるのに、なんで全然追いつかないんだ。この早さ、明らかに平の方も逃げる気満々だろ。
他の客とすれ違いざまにぶつかりそうになって、謝っている一瞬の間にまた少し距離が開く。それにしたって平は、こんなに必死に一体何から逃げてるんだろう。追いかけながら平の背中を見て、そんなことを考えた。私か?私が時間過ぎたから怒って──ってのはさすがにないはず。遅れた私が言うのも何だけど、絶対そんな感じじゃなかった。さっき後ろから肩に触れた時、やけにビックリしてたし……やっぱ、中学ん時の友達に会うのが嫌なんだろうな。高校からかなり雰囲気変わった平が、昔の知り合いに会ってそのことを茶化されたりするのを憂う気持ちは私にも想像できる。ただ、それだけじゃないような……だって、ラウワンの時の顔色の悪さなんか尋常じゃなかった。今のこの状況だって普通じゃないし、平はもっと私が想像もできないような何かにビビってるのかもしれない。
──なんか、もったいないな。せっかく努力して、せっかく変わったのに。行く先々で知り合いに会う(かもしれない)度に、こーやって逃げながら過ごすとか。前にも似たようなこと平に言った気がするけど……オシャレになったんだから、もっと自信もっていいのに。急にグレたとかならまだしも、良い方に変わったんだから堂々としてりゃいいじゃん。私から見たら、平は何考えてるかわからん時あるけど人を見る目あってやさしいし、なぜかいつも傘持ってないけど考え方とかちゃんとしっかりしてて努力家だし、喋りやすくて一緒にいると落ち着くし──胸張れるだけの理由も魅力も、いっぱいあると思うんだけどなぁ。)
……あっ、
(追いかけるのに必死で気付かなかった。ってより、後ろから追ってるんだから平の死角は私の死角だ。突然現れた人物が、前を歩く平にぶつかりそうになったのを見て──予感的中すぎてギクッとする。私は、残りの距離を詰めようと全力で走り出した。)
105:
平 [×]
2024-08-16 14:13:51
ッ……すんませっ――!
(――視界に差しはいる影。唐突なそれに早足だった俺は為す術もなく衝突する。ちょうど胸の高さの衝撃に俺は慌てて数歩下がって――その見知った女子の顔に鼓動が大きく跳ねた。
元中の同級生。ほとんど条件反射的に謝ったが相手の条件反射は俺のそれとは些か違ったらしい。「ちょ、あぶねーな……」みたいなのが舌打ちと同時に聞こえた。二の句を告げない俺に元中の女子――友人③は俺の頭から足元までサッと見てから「……気をつけてよね」と言った。
――もしかして気付いてない、のか?
相手は目立つグループで、俺は目立たない陰キャ。特別目を引く存在でない限り案外と気づかれないのかもしれない。それでも、目を合わせるのはなんとなく躊躇われてそっと後ろを仰ぎみる。そこには走ってくる東がいて。さらにその後ろ――男子浴場へ繋がる通路から元中の男が出てくるのが見えた。男はしばし首を彷徨わせてからこちらへ視線を向けて、手を掲げた。俺にでも、もちろん東にでもない。
友人③がそれに手を振って応じる。「遅い」などと声のトーンを高くして。
前に友人③。後ろに東とその元カレ(?だっけ?)に挟まれた形だ。
俺はどうしていいかわからず、ただこの場からすぐに逃げ出したくて、視線を泳がせていた。知らず口を引き結んで。拳をぎゅっと握って。
鼓動がうるさい。拳の中は変な汗でヌメっていた。
東。
ああ、東。
置き去りにしてゴメン。
俺は結局自分のことしか考えていない。
ああ、嫌だ。俺は今どんな顔をしているのだろう。せめて、気づかないで欲しい。そう祈って東に情けない視線を向けた。東の後ろからやってきた男はどうやら東に気づいたようだ――……)
106:
東 [×]
2024-08-16 16:17:33
タイ──、
(2人がぶつかってしまったのを目撃して咄嗟に平の名前を呼ぼうとしたけど、最後まで言い切ることも私が平に追いつくこともなかった。友人③が私の背後にいる誰かに向かって話しかけたと思ったら、ほぼ同時に後ろから聞こえてきた『……アズじゃね?』なんて男の声に遮られたからだ。え、なに。足を止めて振り返ると、そこには友人①こと友人③の今カレこと──私の元カレがいた。)
うわ……。
(マジか。今来る?そりゃ友人③がいるってことは①もいるかもとはちょっと思ってたから驚くとかはないし、こっちはもう過去の話っていうかふーんお幸せにって感じだから、この2人に会って気まずいとかも正直ないけど……ただただタイミング悪。
振り返る直前、確かに見えた平の今にも泣きそうな顔が忘れられない。縋るような目でこっちを見てた平を連れて、早くここから離れたいんだ私は。友人たちがどうとかじゃない。そんなのどうだっていいから、私は平と平和に帰りたい。
面倒くさいことになったなって、たぶん思いっきり顔に出てたんだろう。私の反応を見た友人①が、『何その顔?つか前ラウワンいたよな?LINE返せよ。』なんてヘラヘラ近付いて顔を覗き込んできた。目には見えなくても、語尾に思いっきり(笑)が付いてるのがわかるような話し方。……今まで“無”だった友人①に対する感情が、たった今初めて明確にモヤモヤに変わったのがわかった。
そっちが一方的にフッてきて直後に③と付き合い始めたのに、なんで普通にLINE返ってくると思ってんの……いや、そっか。私のせいか。私が今まで普通に返してたからだ。だからこんな──たったいま、③だって絶対こっち見てんのに。聞こえてるかどうかまではわかんないけど……③の目の前で、普通にヘラヘラ元カノに絡んでくるとか。この光景、③はどんな顔して見てるんだろ。最低かよ。私も③も、めっちゃナメられてんじゃん……。私は、こんなやつのことがずっと嫌いになれなくて、ずっと許しながら連絡とり続けてたのか……あの日平に言われるまで、ずっと。
そのまま①が馴れ馴れしく肩に触れてきた瞬間、私からじゃ見えない③の姿を想像しちゃって胸がきゅってなって──無性に泣きたくなった。)
っ……あーごめん。私、気になる人出来てさ。元カレと連絡すんのとか、キッパリやめたから。てなワケで、じゃっ。
(──言った。感情剥き出しで怒るとかそんなんじゃないし、むしろさらっと言い切ったけど、これは“もう連絡してくんな”っていう明確な拒絶だ。平に指摘されたあの日から、返信こそしてなかったけど何となく消せずに残したままだった連絡先。今日限りでブロックしてやろう。いざ口に出してみたら、友人との縁が切れる寂しさよりもスッキリした気持ちの方が圧倒的に勝っていた。
変に心臓バクバクしてる……。友人①に軽く手を振ってから返事を待たずに再び振り向いて、今度こそ平の方に向かおうとした。)
107:
平 [×]
2024-08-18 22:08:45
(――よく人という字の支え合いについては諸説あるけれど。アレは寄り添いなんじゃないかと思っている。自分以上に怒っている人間が隣にいるとかえって冷静になってしまうように。苦手な人間でも悲しむ姿をみたら心が締めつけられるように。ヒトは、寄り添ってしまうイキモノなんじゃないかって。なぜか今そんな事を思い出した。
少し距離のある東の後ろ姿。元カレとのやり取りはこちらには聞こえない。俺はなんとなくそのやり取りを見ていたくなくて視線を友人③の方へ向けた。今カノであるはずの友人③はなぜか俺と同じように近づくでもなくただ見守っていた。いや、なぜかではない。その表情はひどく不安げで――先程までバレやしないかとヒヤヒヤしていたはずの俺は、情けないことに少しだけ冷静さを取り戻していた。
恐らく彼女は東と自分の彼氏の関係性を知っているのだ。
やがて東が元カレに手を振って、こちらを見て。俺との距離が少しずつ縮まる。
その後ろに、憤慨したように顔色を豹変させた元カレが追って手を伸ばしているのに気づいているのか――……。)
東――……!
(アイツ――……何を話した?
わからない。わからないが――その顔つきはやべぇだろ。男が女に、いや少なくとも元カノに向ける顔には到底思えない。
怯懦に竦んでいた俺の足。
動かなかったはずの足は、動く。
俺は考えるより先に駆けていた。
距離が近づいた事で『おい』と俺の耳に届く元カレの声。
『なンだよそれ。なんか勘違いしてんじゃね? 俺カノジョいるし? お前なんかもう相手にするワケねーじゃん』
…………――あ?
耳朶を打ったその乱暴な言い回しが何度も俺の中に反芻し、胸の内が熱くなるのを感じた。
お前、なんか?
お前なんか相手にするわけない?
東が。
アイツがどんな顔でお前のことを話してたか知ってるか。
〝一度好きになった人なかなか嫌いになれないんだよね〟
あんな顔をさせて。諦めたようなため息をつかせて。寂しそうに笑わせて。)
――……ふざけんなよ。
(東を追って掴みかかろうとしたその手首を掴んでいた。正直声は裏返っていたし、なんなら震えてもいたかもしれない。それでも、恐怖だけはもう消えていた。身体から逆流してくるような熱がそれを遥かに上回っていた。
正面からみた元カレ――元中のイケてるグループだった同級生は虚をつかれたのか少しだけ怯んだような面持ちで。巨像ほど大きく思えたその姿がひどく小さく見えた。
だが次の瞬間、その口元がふっと嫌らしい形に曲がる。
『お前……よくみたら平じゃね?』
そんな言葉を伴って。
俺の鼓動は一瞬、大きく波打った。それでも、掴んだ手首を離すことはなかった。)
108:
東 [×]
2024-08-18 23:38:18
えっ……!
(一体、何がどうなってるんだろう。平の傍に寄ろうとしたら何故か平の方からこっちに近付いてくるし、すぐ後ろから聞こえてきた元カレの言葉に胸がチクリとした瞬間、私より先に口を開いた平が手を伸ばしてきて──びっくりして振り向いたら、元カレの手首を平が掴んでいた。元カレが追ってきていたことにも、らしくない平の行動にも驚いて二人の顔を交互に眺める。数秒くらいそうやって放心しちゃってたけど、平の名前を呼ぶ元カレの声でハッと我に返った。)
平、いいよもう。ホントの事だし……
(これ以上元カレを刺激するな、そんな思いを込めて平を見上げる。決してクズ男を庇いたかったわけじゃない。すぐ傍で見る平は明らかに震えていて、無理してんなってのも丸わかりで……それなのに、なんで自分から傷つきにくるんだ。昔の知り合いに合うの、あんなにビビってたくせに。よりによってこんなクズ男との、いざこざにもなってないようなやりとりに平を巻き込みたくない。私が元カレにフラれたのは事実で、元カレにとっての私が“お前なんか”って存在だってことくらい、言われなくてもわかってる。だから、言わせとけばいいんだ。言わせたまま、黙って立ち去ればいいんだ。未練なんか微塵もないし、言われた私がちょっと我慢すれば全部丸く収まるんだから──。訴えかけるように、元カレの手首を掴んでいる平の手に触れようとした。
『……あー。そーゆー?アズお前、次は平に乗り換えたん?男なら誰でもいいってか。人の事言えねーじゃん。』
平と私を何度も見比べるように眺めていた元カレが、やけにニヤニヤしながら急にそんな事を口にし始めたもんだから……さっきの“お前なんか”より、何倍も何十倍もグサッときた。
私が過去にちょっと強引な男にすぐ惹かれちゃったり、流されるまま付き合っちゃったりしてたのは否定できない。軽そうに見えるのもそうなんだろう。だから、元カレにそう思われるのはべつにいい。でも、平の前でそれを言われるのは──平にそう思われるのだけはヤだな……。今の私は平が好きで、誰でもいいわけじゃないからこそ、平じゃなきゃ嫌だからこそ、今の関係を大事にしたい。だから必死に気持ち押し殺して、慎重に想いを隠してるのに──こんなやつにこんなとこでバラされるのも、平を見てバカにしたように“誰でもいい”なんて言われるのも、絶対に嫌だ。
正直人とモメるのは苦手だし、友人③にも見られてるだろうからこのまま無難にやり過ごしたかった。でも、やんわり断るだけじゃ通じないかもしれない……。平を巻き込んでしまうくらいなら、もっとガツンと言ってやった方が──私は睨みつけるように元カレを見上げ、息を吸い込んだ。)
109:
平 [×]
2024-08-19 07:27:21
(――拳の感触が、妙にリアルだった。
東の元カレがぺらぺらと宣う中で、俺が手を出したのはどのタイミングだったか。
東がもういいよ、と触れた時じゃない。
『なにタイラくーん? 髪とか染めてっから一瞬わかんなかったじゃーん。元気してた?』
ニヤニヤとした挑発的な笑みでこういった時だったか。違う。
『つか平のくせにいつまで俺の手掴んでんだよ。おい。おい!』
ここでもない。
そうだ、こいつが東に向き直って――。
〝男なら誰でもいいってか。人の事言えねーじゃん。〟
――ああ。ここだわ。
『つーか? 男なら誰でもいいっつっても平はねーだろ。ランク落としすぎ。いくら俺らに相手にされねーからって……』
その言葉を最後まで聞くことはなかった。
衝動。
ごちゃごちゃと考えていたはずの頭の中が、今はただその口を黙らせたくて、左手で掴んだままの相手の手首を寄せるように引いて同時に握った右拳をまっすぐ顎先へと撃ち抜いた。)
はあっ…………はあっ……………!
(中指から小指までの拳骨に壮烈な衝撃が伝わる。同時にすっぽ抜けたように掴んでいた相手の手首も離れていく。
凄まじい動悸と肺の詰まったような緊張に俺は大きく肩で息をした。
もんどりうってフローリングに倒れ込む東の元カレとなにかを叫びながら駆け寄るその彼女。
ぜえはあと呼吸を乱している俺と、なにが起こったか理解しきれていない風の元カレ。どっちが殴られた方かわかりゃしない。
頭の中は真っ白で気の利いた言葉のひとつもでてこない。
なのに。口が勝手に動いた。)
おかしいだろ……ッ、東が好きで! たのしくて! 一緒にいたんじゃねーのかよっ……!
なにがあったかとか俺は全然わかんねーけど!
こいつがどんな気持ちでいるか考えたことねーのかよ……なんでだよ……なんでそんなことが言えんだよ……。
(ああ、こういうとき本当に俺は自分が情けない。かくりと力が抜けて、膝をついて。
なぜか溢れ出てくる涙。
赫奕としていたロビーはやがて騒擾へと変わり、俺は自分のした事の大きさを知った。)
110:
東 [×]
2024-08-19 11:43:47
……っ!
(私が何かを言い返すより前に、目の前で元カレが倒れ込む。ぎょっとする私よりも先に反応したのは友人③で、元カレに駆け寄って心配そうに顔を覗き込んだかと思えば泣きながら平や私を睨みつけ、サイテーとかスタッフを呼べとか騒ぎ始めた。私は、友人③のそのでかい声と周囲のざわめきでようやく状況を理解したけど──何も言えなかった。動けなかった。ほんとは私も殴られた元カレに駆け寄って、心配したり二人に謝ったりするべきなんだろう。正常な判断が出来る状況なら、私だってそうしてた。元カレが殴られる直前、平をバカにしたような事さえ言ってなければ──。
何も言えない私の代わりに必死に反論してくれる平の姿を見て、どんどん胸が苦しくなってくる。平だって散々ナメたようなこと言われてんのに、なんで真っ先に言い返すのがそこなんだ。……いや、平に元カレのことを話したあの日だってそうだった。あの日も平は私のために、怒らない私の代わりに怒ってくれてたんだ。)
平っ……!
(私は慌ててしゃがみ込み、脱力して泣き出してしまった平の背中をさすろうとした。殴るのはやりすぎかもしれないけど、そんなこと今の私が言えるわけない。だって──咄嗟に謝れなかった時点で、私だって相当元カレにムカついてたんだから。そうだ、私だって傷ついたしめちゃくちゃ怒ってた。だから殴られた元カレを見て、どこかスカッとした気分になってしまったんだ私は。なのに、平がこんなに怒ってくれるまでモヤモヤの正体に気付けないで穏便に済まそうとしてたとか……自分の疎さが、雑さ加減が逆に恥ずかしくなってきたくらいだ。
好き放題言わせてやり過ごそうとなんかしないで、私がもっとハッキリ言い返すべきだった。そしたら平だって、傷つくようなこと言われずに済んだかもしれないのに……こんな事のために、平が傷つく必要なんかないのに。私が言わなきゃいけなかったことを、平にやらせてしまった。巻き込んじゃって申し訳ないのにそこまでしてくれたことが嬉しくて、また平に救われたって思ってる私がいる。なんか私、いつも平に気付かされてんな……自分の気持ち。
ゾロゾロと人が集まってくる。寄って来ない人達も、みんなこっちを見てヒソヒソと何か喋ったりしてる。私はただ、こっからどう言い訳すればこれ以上平を巻き込まずに済むだろうってグルグル考えて──すぐにスタッフがやって来て、私らに声をかけてきた。)
111:
平 [×]
2024-08-19 19:17:01
(その後の顛末としては、実に想像していたよりもあっけないものだった。騒いだ友人③によって駆けつけたスタッフから事情を問われた際に元カレが『友人同士のほんの諍いだ』と大事にしなかったのだ。最悪警察沙汰――受験シーズンであることからそれを嫌ったのかもしれない。ただ、スタッフからやんわりと退店を促された時、元カレの東を見る目からは険がとれていたようにもみえた。別れ際、しっかり俺にはひと睨みしてきたけれど。あとで彼女に俺の正体とかもろもろ全部バラされて散々に罵られるんだろうな。まあそれは自業自得。よく殴った方の拳も痛いんだ、なんてセリフがあるけど、まさか心が痛むとかの比喩でなく本当に実際に痛いもんだとは思わなかった。なんか手首の当たりがじくじくとする。)
――……カッコわりぃ。
(外。雨のすっかり引いた夕空は茜色に染まり、その斜陽で瞳をうっすらと細めさせられる。どこか遠くで聞こえる喧騒は祭りのあとのように寂しくすり抜けていく。俺の呟きも雨の匂いとともに掻き消えるだろう。
人を殴ったのなんていつ以来だろうか。小学生の時はそりゃ取っ組み合いなんてよくあったけれど。思えばアレって気持ちをうまく言葉にできないからこその行動なんだよな。感情を言語化して伝えることがうまくできないからこそ行動で示すしかない。俺は怒ってるぞ、腹を立てているぞと相手に文字通り体当たりするわけだ。するとまぁ、こんな歳になってする喧嘩なんてのはただの暴力なわけで。しかも殴った俺の方が情けなく涙して……夕暮れ時で助かったかもしれない。もしかしたら今も目元とか赤いんじゃないだろうな。
なんとなく気になって手のひらの付け根あたりで瞼をこする。とにかく、まず謝らなければならない。
俺は一緒に外へ出たはずの東の方へと振り返った。)
112:
東 [×]
2024-08-19 21:28:33
(──とりあえずは、不幸中の幸いってやつだろうか。元カレがあれ以上騒ぎ立てなかったのは私にとって意外だったけど、おかげで助かった。こんなことに平を巻き込んだ上に進路とかにまで影響が出たらって、最悪のケースも頭を過ぎってたから……巻き込んでしまったことに変わりはないけど、そこまでにならなくてよかった。
ただ、館内ではかなりの騒ぎになってたしあのまま追い出される形になったから、結局友人二人には謝り損ねてしまった。平に向けられた元カレの言葉や態度はいまだに許せないけど……それはそれ、これはこれだ。ブロックするにしてもこっちがやったことはちゃんと謝って、一応はあの場を丸く収めてくれたお礼を言ってからにしよう。そんなことを考えながら、平と並んで外に出て──言いたいこともまとまらないまま、それでも真っ先に平に向かって勢いよく両手を合わせ頭を下げた。)
平ごめんっ!なんか変なとこ見せちゃって……てか、巻き込んじゃって。とりあえず謝りたいっていうか、うん。まずお礼?その……あいつに言い返してくれて、嬉しかったから。いや、そもそも自分で言い返せやお前って感じなんはそりゃそうなんだけどね?あー、ところで手大丈夫か?結構思いっきりいって──うわ赤くなってんじゃん。やば。すぐどっかで冷やそう!
(……まとまってないにも程があるだろ、私。言わなきゃって思ってることとか言いたいこととか、とにかく思いの丈を一気にぶつけながら平の手を強引に取ろうとする。後ろめたさとか申し訳なさとか恥ずかしさとか嬉しさとか、頭ん中ごちゃごちゃしてて複雑な感じになってるけど──やっぱ、心配が一番にくる。さっき私の代わりに怒ってくれた手の具合もそうだし、平自身だってあんな風に元カレに言われまくって平気なわけないんだから。どんな態度取るのが正解かわからなくて、私は無駄に明るい声色で捲し立てながら、平の手をグイグイと引っぱって歩き出そうした。)
113:
平 [×]
2024-08-19 22:31:16
……………おう、だから話題絞ってくれ頼むから。
(東――……と口を開きかけた瞬間の東の謝罪。ポンポンポンポンまーよく喋るコレだ。どんなツラして話すのが正解なんだ……とか俺が迷った機先を制された形だ。
どこから返したらいいのかわからない上に俺もどう話したもんかわからないからとりあえず落ち着けといいたい。俺自身にもだ。
東が俺の手をとる。
さっき、なんか痛むな……と手首をさすっていたところを見られたんだろう。言うほどのものでもないし、なにより今は――痛いほうが都合がいい。自分のしでかした事への贖罪にさえならないけれど、身体が痛むほうが心が痛いよりよほどマシなのだから。
俺は東の引く手をゆるりとはずして大仰に手をぷらぷらと振ってみせた。)
別に、たいしたことねーから。それより――……。
(ダセーとこみせちまったな。そう言おうとしたが、東の顔をみていたらなんとなくその言葉を飲み込んでしまった。
――ああ、やっぱりこいつはすげーな。
あんな事があって、もういつも通りでいられる。俺なんか正直すぐにでも駆け出して逃げ出して一週間くれー部屋に引きこもっていたいくらいなのに。
……いつも、どおり?
東の顔をみる。
思えば、いつもその笑顔に救われていた。
東の声が耳に届く。
気づけば、その声が安らげるものとなっていて。
東の向けてくれる優しさが身に沁みいる。
その優しさは、今も入るんじゃないのか?
今笑っている東は。本当に笑えているのか?
たとえば、俺が気にしないように無理して笑っているのだとしたら。
ふと、一陣の風が吹き抜けた。
風は風呂上がりの俺のボサボサの髪をまきあげて。東の横に流している髪を舞わせる事だろう。
俺は隠れてしまった東の表情を確かめたくて、手を伸ばした。その前髪の先に触れるように。)
114:
東 [×]
2024-08-20 00:22:14
そ、そっかぁ。
(せめて手当てくらいさせてくれたら──私にやれそうな事なんかそれくらいしかないのに、それすらやんわりと断られてしまった。たいしたことないなんて、そんなはずないのに。
一方的に元カレにフラれた時だって何も言えずにただ受け入れて、それから連絡がくる度にちょっとモヤりながらも変な情を捨てきれずにズルズルと返事し続けて。そーゆうのよくないって一度平に言われたはずなのに、結局今日だって元カレの罵声を一度は受け流そうとしてしまった。その結果がコレで……何も変われてないじゃん、私。
元カレにナメられまくってたのも、平にまで酷いこと言われたのも全部、今まで私が曖昧な態度を取り続けてきたせいだ。私が言わなきゃいけないこと全部平に言わせて、私が背負えばいい傷まで平に負わせてしまった。それなのに平は、この期に及んで痛いとか一言も言わないんだ。さっきはあんなに震えてたくせに、たいしたことないとか言いやがって……カッコつけんな。
──いや、たぶんカッコつけてるわけじゃない。私にとって平がいま、実際めちゃくちゃカッコイイだけだ。平のやさしさに助けられたのは、これで何度目だろう。その度に平を意識しちゃってどんどん惹かれてくのを、今はハッキリ自覚してるのに──私がこんな、いかにも“まともっぽい”恋してていいのかな。……いやいや、こんなん考え出して辛気臭くなってる場合じゃない。どう考えても、泣きたいのは平の方だろう。自分を奮い立たせるように笑って答えた。)
──えっ?
(突然ふわりと吹いた風に乗ってきたみたいに、いつかの鈴木の言葉が脳裏を過ぎる。
“今これから目の前の人と真摯に向き合おう!って思ったなら……それはもう純愛じゃんね……!?”
鼻の奥がツーンと痛んだ。私はこれから目の前の恋にちゃんと向き合うんだって、そう思ってた。でも……できてんのかな。ちっとも変われてないどころか過去の恋愛のことでいまだにモメて、よりによって今好きな相手を思いっきり巻き込んじゃってるのに──やばい。今更になって、元カレに言われた言葉が効いてくる。“人の事言えない”……マジでそうかも。こんなんで、ホントにいいのか。私にまともな恋愛とかできるのかな。まあ、端から脈ナシなんだけど……。勝手に後ろめたくなって、唇をぎゅっと噛んで泣きそうなのを堪えてたら──突然顔を覆っていた髪を優しく掻き分けられて、私はまたしてもぽかんとすることしか出来なかった。)
115:
平 [×]
2024-08-20 07:23:43
(伸ばした指先が触れた東の髪。毛先は少しだけしっとりとしているように感じた。ちゃんと乾かさなかったのか……なんて事を思うような思考はない。なにしろほとんど無意識に伸ばしてしまった腕なのだから。
そっと、触れた指先――もっと言えば爪の先からゆっくりと、静謐な御簾を覗くようにしてゆっくり左方へと緩やかな毛束を持ち上げて東の顔を瞳に映す。
――ああ。やっぱり。
そこにあったのはおよそ見たこともない苦衷。これが東のする表情かと思うほどに儚げで、今にも泣きそうな面差しだった。
それは当然の帰結だ。
東の優しさがなにも俺にだけ向けられているものではないように。
元カレに向けられたような気遣いが俺にも向けられないはずがないではないか。)
………………ははっ。
(なんて顔してやがる。
そんな顔を隠して、いつも戦っていたんだなお前は。
俺よりよっぽど隠れたくなるような関係の連中相手に怒ることなく笑って、許して。情けなく怯えて隠れようとする俺に、また笑って自分を見とけなんて堂々として――……。
〝キュンとさせたらすまんな〟
――ああ、したよ。
急激に、抱き締めたくなる衝動に駆られる。その顔を少しでも安心させたくて。もちろんできる訳なんてない。
こいつの好みは俺なんかとはかけ離れているのだから。
東が俺のことを好きだったらどうしようって?
とんだ欺瞞だ。
俺が、こいつを好きなんだ。
俺は気付いてしまったソレを胸の奥へとそっとしまって。伸ばした腕を元に戻した。そして、おどけたように笑ってみせた。)
――東、アイツからも〝アズ〟って呼ばれてんだな。下の名前みたいじゃね? 東アズ。
116:
東 [×]
2024-08-20 08:48:36
──オイ、勝手に人の顔みて笑うなッ!
(……あっぶな~~~。急に顔見られたからマジでびっくりした。いま私、絶対ヤバい顔してると思ったけど──よかった。平の反応を見る限り、案外そうでもなかったみたいだ。急になんだって感じだし、見つめられて普通に顔熱くなってきたし、ドッドッドッて心臓うるさいけど。やっと我に返った私は内心ホッとしつつも風で乱れた髪を両手でそそくさと直し、動揺を誤魔化すようにやかましくツッコみながらドュクシ!と平に攻撃しようとした。)
ん~?まあな。ってなんだそれ、ド○えもんのメガネか。
(今となっては元カレからの呼ばれ方なんか興味がなさすぎて、何も意識してなかった。すぐにはピンと来なくてそうだっけと首を傾げて思い出し、あー言われてみればそうだな的なノリで雑な返しをする。でも、この苗字なら絶対下の名前アズってつけなくね?とかどうでもいい考えが過ぎると同時に、頭の中に某猫型ロボットアニメに登場するメガネの少年の姿が浮かんできた。あのキャラの名前が成立すんなら、東アズが“絶対”ないってこともないのか。いやアニメのキャラだけど。……って何考えてるんだ私?よくわからんまま、思い浮かんだままの伝わるかどうかもわからん例えを適当に付け足した。)
117:
平 [×]
2024-08-20 12:51:31
別に顔みて笑った訳じゃねーよ……。
(いや、顔を見て笑ったわ。でもきっとその意味を東が知ることはない。知る必要もないだろう。
翻した肩で東の攻撃を受けながら帰路へつく。
心を占めるのはほんの少し前までの出来事だ。
数日前に東からアプローチされているのでは、なんてとんだ勘違いをして、付き合うかどうかなんて事を考えて。付き合っても上手くいく気がしないなんて、気を重くしていた。
このままでいたい。
その理由が今日ハッキリわかった。
東にガッカリされたくないという自己愛。
それは本心だ。
でも、それに加えて俺はきっと――こいつの悲しむ顔がみたくないんだ。
東のあんな顔をみるくらいなら自分が傷ついた方がよほどマシだ。
だから怖かった。期待に応えられなくて、ガッカリされて、東の顔を曇らせるのが嫌だった。
今のままで、このままでいたいと願ったのはそのせいだろう。
なんとも滑稽で、情けなくて話。
それにしても――ああいう男が好みか。なれそうにはねぇな……。
夕暮れは既に遠くの山の稜線を越えて緩やかに沈んでいく。
もう、泣きそうにはならなかった。)
野比〇び太な。
でもあれは確か親父も名前にのびがついてたから仕方ないんじゃね。多分じいちゃんもついてるぞアレ。
まあ東の場合は佐藤とかもみんなそう呼んでるから、知らんやつが聞いたら『あずさ』とか『あずき』とか下の名前で連想すんだろうな。
118:
東 [×]
2024-08-20 15:15:42
誰だ最初にのびってつけた元凶は。
けど私も気付いたらそう呼ばれてたし、言い出しっぺとか覚えてないわ。逆に、平は平以外の何者でもないよな~。
(一家揃って東アズ子とか東アズ美とかいう名前だったらフツーにやだな。勝手に想像してちょっと顔顰めたけど、私は東アズじゃないしべつに関係なかったわ。一瞬で自己完結した。たしかにいつの間にかみんなアズって呼んでるし、はたから見たら名前がアズみたくなってるのはそうかも。逆に平は、“平”以外の呼ばれ方してんの見たことない気がするな。あってもせいぜい“平くん”ぐらいか?それはそれで結局平だ。隣に並んで歩きながら、じーっと平を見上げてそんな事を考える。
ついさっきまであんなことがあってあんなに恋にも自信なくしかけてたのに、こーやって平とどうでもいい話をし始めるとすぐ楽しくなってくるんだからまったく不思議だ。さっきから何も状況は変わってないのかもしれないけど、平と話してるだけでびっくりするくらい気分が軽くなってくるのがわかる。こうして普通に並んで一緒に帰れてるのが今日はやけに嬉しくて、頬が緩んでしまいそうだ。単純すぎか、私。平に借りたハンカチの存在だって、実はずっと覚えてるけど何となく切り出せずにいる。さっさと返してしまったら、いよいよ別れる準備が整ってしまうみたいな気がして──もうちょっと。別れる間際に返そう。許されるなら、駅までの道のりをもっとゆっくり歩きたくなってくる。もう暗くなり始めてるし、そーいうわけにもいかないだろうけど。あー、なんかまだ別れたくないな……。)
……てかさ!腹減らん?ちな私は減った。平があずきとか言うから。
(衝動的にピタッと立ち止まる。思ったよりでかい声が出た。いや、さっきからいろいろあったし、ちょっと安心したら本当にお腹は空いてて……なんて、心の中で誰にでもない自分自身に言い訳しながら。勢い任せに出た言葉だから、ちょっと自分でも意味わからんとこあるけど。とくに後半。──とにかく、なんか気付いたら口走ってた。引っ込みがつかなくなって、何かの決め台詞を放った直後みたいに謎のキメ顔を崩せないまま平を見つめ続けた。)
119:
平 [×]
2024-08-21 15:00:11
野比一族の伝統に文句をつけるなよ……。
まあ……あだ名とか誰か一人が呼びだすとなんとなくその呼び名で固定なったりするよな。
(逆に一度呼び始めるとわりと変更不可なところもあると思う。ガキの頃の愛称とか何年越しとかで再会してもなんとなくそれで呼んじまうし……。
漫画とかであるような下の名前で呼び合うための儀式みたいなもんは現実にはそうそうない。いや、俺の周りだけかもしれねーけど……。呼んでいい? なんていちいち聞かねーし。勝手に呼び出すか呼ぶわって報告するだけだ。友達の友達とかになってくるとそいつが下の名前で呼んでると他に呼びようもないし苗字きくのもおかしいからそのまま倣って下の名前で呼ぶしかねーし……。まてよ、その理屈でいくと俺も下の名前が『タイラ』って思われてる可能性もあんのか? 平タイラ……。
ン、ふっ……と一人で笑いのツボに入りそうになってばちりと東と視線が絡む。今はどことなく上機嫌にみえるその表示がらなんとも〝らしく〟て。
ああ、好きだな。そう、思った。
これ以上の何かを望むことはない。少なくとも東が笑って過ごせる友人でいられるなら、それ以上はなにも。
ふと夕空――晴れ間となった雲の隙間に思いを馳せる。
他愛のない、言ってしまえばどうでもいい話をしながら東と歩くこの時間がなんとも心地良い。一寸、自分が受験生だという事も忘れてしまいそうなくらいに。
まあ、そこは忘れても今日あった事は忘れられねーんだけどな……帰って一人になったら自己嫌悪から始まる一人反省会で二度と外に出たくなくなる予感がする。そもそも好きな女の前でみっともなく泣くとかありえるか?
東は基本俺のこと舐めてるから驚きも失望もないだろうけど……それが幸いでもあり、ムカつく感じでもあり……複雑だ。
やがて視界に駅が映る頃、東が唐突に声をあげた。)
いや……もう俺は今日あった事で腹いっぱいというか胸いっぱいというか……いやきけよ。
(腹減らん? からの私は減ったってなんだ。自己完結するな。しかも俺のせいにされたぞ。)
…………それ俺のせいにすんなら絶対あずき関連のもの食わせっからな。そんで共食いっつって笑ってやる。
(ゲーム的な表現をするなら恐らく俺の後頭部には怒りマークが浮かんでることだろう。ピッと駅向かいのファミレスを指さした。)
120:
東 [×]
2024-08-21 16:45:25
よし決まり~。いっそ平も共食いする?タイ……鯛……たい焼き!あんこ入ってるし丁度いいな。
(もうちょっと長く一緒にいられるって嬉しさで気持ちはふわふわしまくりで、平のツッコミなんかるんるんで流して笑いながら早速ファミレスに向かおうとした。ついでに“タイ”で“アズ”な食べ物を思いついて、謎の満足感。どうでもいいひらめきだけど、地味に嬉しいな。さすがにファミレスにたい焼きはないだろうけど……今度食い行こって誘ってみるか?二人きりだと、前みたくあからさまに警戒されるだろうし──山田あたり暇してないかなぁ。この時期じゃさすがに厳しいか。
はあ……。一瞬立ち止まってチラッと振り向き、平を見て思わず溜息をつく。最近マジで平のことになると、気分の浮き沈み激しくてやばい。一緒に寄り道できるのは嬉しいけど……私に共食いさせるためだもんなぁ~。帰る時間がちょっと伸びただけでこんなに私は舞い上がってるのに……平はけろっとしてんな。相変わらず完全に脈ナシだ。
今日が特別な日だっただけで、普段平と二人っきりでこんなにいろいろ寄り道する機会なんか滅多にない。貴重な一日がもうすぐ終わるって思うと……やっぱ寂しいな。ただでさえ受験生だし、平とは他のみんなも誘って集まる口実がないとなかなか遊べんし……いやいやいや。実際いま一緒にいれてるんだからいいじゃん。望みすぎ。贅沢な考えを断ち切るように左右に首を振って、気持ち切り替えてスキップで進み始める。共食い上等、一緒にいるためなら何だって口実にしてやる。あずきでも何でもかかってこい。喜んだり落ち込んだり、こんなに気持ちが落ち着かないのはぜんぶ平のせいだ。)
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