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自分のトピックを作る
61:  [×]
2024-07-31 03:45:43

いやウケねーよなんでだよ……つかこれ俺のせいか?

(フツーに俺が壊したことにされてるし。いや今のはジャッジが必要だろ……そもそもなんだこの脆い傘は。いかに変形機構がウリとはいってもモロすぎだろ折りたたみ傘。まさか前回と同じ傘じゃねぇだろうな……このメーカーの傘だけは買わねぇ……。
いまや俺だけの手の中で傘がコウモリ状の哀れな姿をさらしている。その横でケトケトと笑う東に笑ってる場合じゃねーだろと思う。思うのに、なぜか俺も吹き出していた。)

この状況で……ホントお前……!

(なんなのこいつ。そう思ってるのに笑いが止まらない。じっとり張り付く前髪も水滴で積もった睫毛も気にならずに東の笑顔をみて俺は、なぜか心が洗い流されるように感じた。
あまり人通りのない道を車が緩やかに通過する。幸いにして歩道まで飛沫が飛んでくるような速度ではないと思う。それでも、俺は無意識に歩道の奥側へ誘導するべき東の濡れそぼった袖口をつまもうと手を伸ばして。それから顎で地区センターの方向を示した。)

東っ……とりあえず、地区センターまで走るぞ。せめて傘直せよ……。


62:  [×]
2024-07-31 08:03:34

そりゃそっか。いこいこー!

(ぶっちゃけまだいくらでも笑えそうな気はしてるけど、やっと一応は笑いが収まってきた。笑いすぎて涙ぐんだ目尻を指で拭っていたら、真横を車が横切っていく。私は気にも留めずにいたけど、水飛沫から庇うような平のさり気ない仕草に胸がキュンってした。2人してこんな意味わかんないことやってても、会う度に好きになってる気がする……。思いっきり笑った直後でテンション上がってるのもあるけど、こっそり平にときめいたのを隠すように明るく答えて早速地区センターに向かって走り出した。)

──平、この後どーすんの?

(すぐ傍にある地区センターにはあっさり到着した。改めて、なんで私はあんなとこで話し込んでたんだ。ひとまずロビーに向かいながら、平をチラッと見る。さすがに2人とも濡れすぎて、この状態で自習室使うのは迷惑だろう。バスタオルとか持ってないし、今座ったら確実に椅子がビショ濡れになる。そもそも出遅れたし、席空いてるのかな。そんなことを考えて歩きながら、傘を受け取ろうと平に手を伸ばす。傘直して簡単に体拭いたら、そのまま帰るって流れが自然かな。ちょっと寂しい気もするけど、今の私髪も服もメイクもやばいことになってるだろうし……え、待って無理、私好きな人にそんなやばい姿晒してたん。いや無理。控えめに言って無理。ありえん。そっこートイレに逃げ込みたい。状況が落ち着いて冷静になってきたら、恥ずかしさと焦りでソワソワしてきてしまった。)

63:  [×]
2024-07-31 22:56:21

おい……ちょっとまてさき行くな。

(地区センターの軒下へ避難した俺はすっかり濡れネズミの様相だ。中に入るにしてもこのままじゃどうにもな……。俺は東に声をかけてから玄関口へと留まり、庇の下で髪についた水滴――というかもうすっかり濡れそぼった前髪をかきあげてから手のひらで払う。それからコウモリ傘――もとい東の傘を揺らして水気を払ってから骨組みを触っていく。
幸いにして骨組みそのものは折れていない。いくつか外れたビニールキャップをつけ直して裏返った骨組みを折りたためばなんとか使えそうだ。
雨はさんさんと降り続いている。俺は地区センターの軒下、玄関口の緩やかな段差となっている階段をぼんやりみつめながら傘を補修していく。)

このあとどーすんのって……つか落としもんってなんだったんだ? 大事なもんなら探すしかねーだろ。

(こんな雨の中でなにやってんだよ……というニュアンスをこめてただでさえ覇気のないであろう自分のまなこを恨みでもありげに――もし俺の言葉で待っていてくれたならすぐ後ろにいるだろう東へと向けた。)


64:  [×]
2024-07-31 23:31:21

(いろいろと考え込んでソワソワしながら先を急ごうとしていたら、平に呼び止められてハッと足を止める。雨でメイクどろどろになってないかな……一度気付いたら気になって落ち着かなくなってきて、傘を直してくれてる平を待ちながらハンカチで髪や服を軽く拭い、なんとか髪だけでもマシに見えるように手櫛で整えようとした。やっぱ鏡欲しいな……さすがに入口の真ん前で本格的に身だしなみ整え始めたら何だこいつってなるし、我慢我慢。)

いや、べつにあのクマが大事ってわけじゃ──てか私じゃなくて平の話な。

(平の予定を尋ねたら、なぜか私の落し物の話題が返ってきた。その顔、絶対呆れてるだろ。まあ、こんな天気で必要以上にウロチョロしてたらそりゃそっか。正直、私も私に呆れてるし。なんて心の声を漏らすかのように、探し物の正体をポロッと口走ってしまった。いやべつに悪い事してるとかじゃないし隠す必要ないかもしんないけど、ただでさえ何やってんだって空気になってんのに……目的がおまけのキーホルダーとかバレたら、そんな物のせいでさっきまで2人して濡れてたんかいって絶対なる。一瞬やってしまったって顔しちゃったかもしれないけど、すぐに平然を装って元の話題に戻そうとした。)

65:  [×]
2024-08-01 13:20:19

?……クマ?

(――クマって……朝のあのキーホルダーか?
財布とか定期入れとかじゃなく??
思わず傘の羽根を伸ばしていた手を止めて俺は東の方を振り返ってそのカバンを見やった。
視線の先、チャックにつけていたはずのキーホルダーが確かにない。なるほど、落としたっつーのはそれか。いやそれにしたって……探すか? この雨の中……。
俺は玄関口の向こうで猛威の手を緩めようともしない曇天に顔を顰めた。かすかに遠雷の音がきこえたような気がする。
再び東に視線を戻す。どこか所在なさげに手櫛で髪を梳る姿はやはり俺と同じずぶ濡れにみえた。そりゃそうだよな……俺が傘壊したちまったなら東だってそうなるか……いや俺が壊したわけじゃねぇけど……。
それでも普段より心なしか落ち着きのない東の様子を目の当たりにすると否が応でも罪悪感を感じた。
そういえばハンカチあったな。まぁハンカチ程度でどうにかなるとも思えねーけど……。)

おい。髪やべぇならこれを――。

(ポケットに突っ込んだ手で布の先をつまみあげる。すると、なにかが同時に勢いよく飛び出て落下。そのまま弾んで玄関口の外側へ転がり落ちていく。軒下先の階段を一段、二段、三段とリズム良く。そういえばさっき奇しくも東から受け取ったキーホルダーをハンカチと一緒にポケットへ突っ込んだ気がする。
俺は思わず「えぇ……」と呟いて呆然とした。)

66:  [×]
2024-08-01 14:19:22

あっ……、

(キーホルダーを探してるのがバレたところまではまだいい。問題は、探してる理由をどう答えるか……なんて考え込む暇もないまま、私に何か言いかけた平のポケットから見覚えのある物が落ちて段差を転がっていくのを目撃した。なんとも派手な、特徴的すぎるパッケージ。一瞬の出来事でも、今朝私が買ったばかりのそれを見間違えるはずがなかった。
ぼーっとしてる平より先に足が動いて、気付けばキーホルダーを追いかけていた。って言ってもキーホルダーは階段下で止まってるし距離も短いから、実際は追いかけるってより拾いに行くの方が正しいかも。落ちていたキーホルダーを拾い上げて平のところまで戻ってから、パッケージについた水滴や汚れを軽く手で払う。持っていたハンカチは、さっき髪とか拭いた時にビショビショになってしまって使い物にならない。汚れを落としながらパッケージ越しにまじまじとクマを見つめ──普通こんなの落としたからってわざわざ大雨の中探さないよな、と改めて思う。それが、平も同じ物を持ってるってだけの理由で普通じゃなくなってしまうんだから……勝手に照れくさくなって、顔が熱くなった。同時に、私の分はもうないんだと思うとちょっと切ない。)

平まで落としてどうすんの──いや、いらんか。

(汚れを払ったキーホルダーを平に返そうとしたけど、そもそも平はこんなのいらなくね?って気付いて伸ばしかけた腕が途中で止まった。そもそもこれは私が無理やり押し付けた物で、お揃いだとか繋がりができたとか勝手に喜んでたのは私だけなんだ。なくしたら探そうとするのも落としたら拾おうとするのも、私だけ。だから平は動かなかったのかも──そう気付いたら今度こそ受け取って貰えない気がして、断られる前に自分から引っ込めてしまおうとした。)

67:  [×]
2024-08-01 19:11:30

! おい、アズっ――。

(名前を言い切るよりも早く。俺が落としたキーホルダーを追って外へ飛び出していく東。その俊敏さたるや、胸中で「また落ちたのかお前……」などとクマにごちて辟易していた俺とは大違いだ。
戻ってきた東は案の定というべきか鵐に濡れている。顔も心なしか赤いし……熱でもでてんじゃねえよな……。
それなのに。そんな事はどうでもい良いとばかりに件のキーホルダーの汚れを払う東。それは、とても大切なものを扱うように。)

悪りぃ……なんかどうも地べたが好きみたいでな、そいつ。出会いからこっち何回も俺の手からすり抜けやがるし……いや地べたが好きってより俺がキライなのか……? ありうるっつか言葉に出してみるとその可能性の方が高くね……? 物には魂が宿るとかいうし俺だってキーホルダーなら俺のところにはいきたくねーっつーか……ブツブツ。

(とめどなく沸いてくる可能性に鬱々とした気分になりながらも、キーホルダーを受け取ろうと手を伸ばす。が。なんか引っ込められた。いや、『いらんか』って。そりゃいるかいらないかで言われりゃ別に執着するほどの付き合いはない。何度も落としてるしな。ただまあ。拾ってつまみ上げた際にお前も大変だな、みたいな。持って生まれた不遇な色合い。劣等感――あのクマがそう感じてるかは知らんが――に親近感を抱いたのも事実だ。いや、勝手に劣等感だとして親近感寄せられても迷惑かもしれんが。
そもそも東もおかしくね? なんで一度あげたもんを引っ込めるんだ……。
俺は自分のハンカチを無言で東に差し出しながら、意図を計るべく顔をまっすぐにみつめた。)


68:  [×]
2024-08-01 19:47:52

ん……?

(私がキーホルダーを引っ込めるのとほぼ同時に平の手が伸びてきたのを見て、カバンに仕舞おうとした手を止めてしまう。で、また何かごちゃごちゃ言い始めたけど……思ってた反応となんか違う。私は手を止めたまま、キョトンと首を傾げた。なんで平は、当たり前みたいに受け取ろうとしたんだ。これが微塵も欲しくない物なら、平だったら今朝のぬるい水みたいにもっとキッパリ拒否するよな……?なんなら、押し付けようとした私に文句の1つや2つや3つ…?飛んできたっておかしくないんだけど。なのに何だその、このクマに嫌われたらイヤだみたいな反応。嫌われてなかったら手元に置いときたいみたいな──やば、なんか嬉しい。てか恥ずい。)

えっなに、いらんこともないって感じ……?

(私の都合いいように解釈しちゃってるだけなのはわかってる。わかってるけど、平がそんな感じでくるなら──断固拒否!って感じじゃないなら、平に持ってて欲しいと思った。本当は、同時に買った私の分も見つかってくれたら最高なんだけど。
反応をうかがうように平の顔を見たら、目が合って耳まで熱くなってきた。それは一体どーいう顔なんだ……?差し出してくれてるハンカチと平の顔、そして私が持ってるキーホルダーを順番に見る。そして──ちょっと戸惑いながらもハンカチを受け取って、空いたその手に一度は引っ込めてしまったキーホルダーを渡そうとした。)

69:  [×]
2024-08-02 06:15:10

?……まあ。せっかくくれたもんだしな……。東が。

(渡しておいてなんだが俺のハンカチで大丈夫だろうかとふと思ってしまった。使ってないやつだから問題はねーと思うが……。
東の顔はやはりどこか熱を帯びたようにみえて。風邪でもひいてんじゃねーだろうな。まぁそれなら俺のハンカチがどうとか言わねぇか。一応非常事態っつーことで。
入れ替わりに受け取ったキーホルダーに視線を落とす。相変わらず季節外れのサンタクロースみたいな彩りだ。コロコロころころよくまぁ俺の元から巣立っていくよなコイツ……。
なんて掌で転がしてからふと気づいた。
――あ。
やべぇ。やっちまったか……?
もしかして東のやつ、自分のつけてたキーホルダー無くして、コレ返して欲しかったんじゃねーのか……?
だからあんなに必死で走って拾って……。
…………あー。
俺は視線をあげて東をみる。
普段なら人目を引く派手さとどこか造形めいた綺麗さがある面差し。
それが今は少しだけ熱っぽさが増していて、不思議な親近感を覚えた。まるで、天上の神が少しだけ下界に人間のフリをして降りてきてくれたような……。
だが。たとえそうだとして神は神。神の考えなど人間ごときに計り知れるはずもない。
いや……どういう表情だよ。なんか期待してんのか。やっぱ返した方がいいのか……?)

なん……いまさら惜しくなったんか……?

(コレ、と改めて手のひらのソレを東にみせるように恐る恐る差し出す。玄関口から差しはいる風雨にはらり、と垂れてきた前髪を反対の手で後ろにかきあげながら東の反応を待った。)


70:  [×]
2024-08-02 07:10:20

……っ、

(ドキッとした。私があげたやつだから……?大した意味なんか含んでない些細な一言だとしても、私はその言葉に反応してしまった。平も、ただの水のおまけのキーホルダーを“私があげた物”って認識してくれてるんだ。いや実際私が渡したんだけど、そうじゃなくて。平の中でそのキーホルダーがどうでもいい物じゃなくて、ちょっとでも意味をもってくれてるみたいな。そんな風に聞こえて、無性に嬉しくなった。私いま、顔赤いかも……。)

……んー、そっちじゃなくてこっち。平も濡れてんじゃん。

(ニヤけそうになる口元をさり気なく片手で隠しながら、平が差し出してきているキーホルダーと受け取ったばかりのハンカチを交互に眺める。キーホルダーを返して欲しいわけじゃないけど、受け取って貰えて嬉しいとか平に持ってて欲しいとか言うのもさすがに変だよな。私は内心舞い上がってるのを隠すように平にハンカチを見せながら、ハンカチの話題にすり替えてしまおうとした。てかマジでそうじゃん。たしかにさっきから濡れた髪が首とか肩とか背中に張り付いて気持ち悪いし、自分のハンカチだけじゃ足りないから貸してくれるんなら有り難いっちゃ有り難いけど。それは平だって同じはずだ。むしろ、平の方が長時間雨に打たれてるのに。私にハンカチ貸してる場合じゃない濡れっぷりの平の顔を見つめ、本当にいいのか確かめるように首を傾げた。)

71:  [×]
2024-08-02 20:07:32

あー……俺は濡れようが濡れまいがたいして変わらねーしな……。

(別に言ってて悲しくもならねーくらいよくわかってる。だからそのハンカチは東が使えと軽く手を振って応じる。
結局、手元に残ったキーホルダーを手で弄りながら本当にいいのかと東をみた。口元を覆った手で表情がよくみえない。
ま、いいか……あとでやっぱり欲しそうならやんわり返すわ。
俺はひとまずキーホルダーをそのままポケットに突っ込んでから周囲をみやった。
地区センターの施設案内。
大きくは講堂やブリーフィングルーム、ほかにも娯楽室に自習室。調理室なんてものもあるが、やはりというかシャワールームなんてものはない。まあ、当然か。
俺はともかく東の様子を鑑みれば勉強などできるはずもなく、かといってこのまま電車乗って帰るにはあまりに風体が悪い。
それに、東が熱でもありそうなのが心配だ。
――スマホで近隣の施設を調べるか。
点けるまえのグレーアウトした画面に一瞬映る自分の顔。こんな濡れて張りついた前髪が温泉マークみたいになってるやつなんて、電車で近寄りたくねーわな。
マップアプリを開くと、たまに遊んでるゲームアプリから『スタミナが完全回復しました』の通知窓がでてきた。あいにくと現実の俺はスタミナぼろぼろだわ、と胸中で毒づきながらマップアプリで検索をかける。キーワードはこの場合一つしか浮かばない。そして――。)

――東。時間あるか?

(俺は検索結果そのままでスマホ画面を東に向けることで提示した。
すぐ近くに健康ランド。銭湯である。)


72:  [×]
2024-08-02 21:20:42

なんだそれ……んじゃ、ありがと!

(いや、濡れっぱなしだったら普通に誰でも風邪引くし。どんな理論だ……本当に大丈夫かちょっと心配になったけど、変に遠慮してハンカチ突き返してもさっきの傘の二の舞になりそうだ。ここは有難く好意を受け取ることにして、借りたハンカチで早速髪の水分を吸い取っていく。綺麗なハンカチがあっという間にビショビショになっていくのはもったいない気もするけど、平にハンカチを借りてるって事実がちょっと嬉しかったりもする。そこに深い意味なんか込められていなかったとしても、こういうふとした時に感じる平のやさしさの1つ1つにいちいち舞い上がってしまいそうになる。平に借りた物だからか、ハンカチを使う手つきも自然と丁寧になっていて──まだ全体的に湿ってるけど、ポタポタと滴り続けていた水滴はほとんど落ちてこなくなった。マジで助かったな。
スッキリしたタイミングで平がスマホをこっちに向けてきたから、「ん?」と身を乗り出して画面を覗き込む。)

おー、いいじゃん。行こうよ!

(近くの健康ランドが表示されている画面を見て、即頷いた。結果的に平からハンカチを奪う形になってしまったけど、銭湯ならタオルもドライヤーもあるしゆっくり暖まれる。びしょ濡れの平の横で私だけスッキリしてるのもやっぱ気が引けるし、私も私でまだまだ濡れてるし。それに──アクシデントのせいとはいえ、平とふたりで寄り道できるレアなチャンスだ。それを平の方から誘ってくれたとなると、喜ぶ理由はあっても断る理由なんかない。平、ナイス。私は前のめりになったまま、声を弾ませ答えた。)

73:  [×]
2024-08-02 23:35:07

おお……ま、少し歩くくらいならこれで大丈夫だろ。

(東の弾んだ声を聞くによっぽど現状がキツかったらしい。俺は手直しした折りたたみ傘を軽く振って玄関口へと足を向けた。
それにしても――マジか、いくのか。自分で提案しといてなんだが実際にいくとなると急に『これでよかったのか?』という感情が湧き上がってくる。いや、ほかに良案があるわけでもない。このまま勉強なんかできるわけもねぇし電車に乗って帰るには少し濡れすぎている。
パチリ、と傘の羽をそっと開いて一応問題はない事を確認してから東に持ち手を差し出した。)

ほれ。近いから場所はわかるよな? 先に行っとけ。俺は少し雨足落ち着いたら走るから。

(さすがにピークは過ぎたのか、風雨が少しだけ穏やかになったように感じる。これならあのオンボロ傘でも目的地くらいまでならもつだろう。多分。
よく目にするし興味がなくもない健康ランド。たまに話題にしているクラスメートもいるが概ね好評のようだった。岩盤浴とか、アイスクリームが美味しかっただとか。とはいえバイトがない日はさっさと帰りたかったしこれまでついぞ行く機会はなかった。
……まさかこういうことになるとはなぁ。人生わからんわ。俺は少しだけ白けてきた曇天をぼんやりと見上げた。)

74:  [×]
2024-08-03 00:33:33

(そうと決まれば早速目的地に向かおうと、ビショビショになった借り物のハンカチをカバンの内ポケットに仕舞う。何気に、後日洗って返すって口実ができたのも嬉しいな……なんて内心浮かれながら、差し出された傘を「サンキュ」と受け取る。ここまでは自然な流れだったけど、受け取った傘をさしながら歩き出そうとした足をすぐに止めてしまった。当然のようにそのまま一緒に向かうと思ってたら、別行動を提案されたからだ。予想外の提案に、ぽかんとして平を振り返る。)

……?いや場所はわかるけど、なんで現地集合?平 傘ないじゃん。……トイレか?フツーに待つよ。

(たしかに場所はわかる。あの健康ランドになら友達と何度か行ったことあるし──まあ、入浴ってよりかは併設されてるゲーセン目当てだけど。でも、今同じ場所にいて目的地も同じなのに一旦解散する意味は何なんだ。しかもまだ雨降ってて、傘も持ってないくせに。普通に意味わかんなくね……?“何言ってんだ”って、思いっきり顔に出ちゃったかもしんない。わからなすぎてちょっと考え込んでみるけど、わざわざ遅れてくる理由……トイレくらいしか思いつかない。仮にトイレだったとして、そんなの数分しか変わんないんだから置いてく理由にならないけど。
とにかく別々に行く意味もわからないしメリットがあるとも思えなくて、一緒に行こうって意図を込めて1人分のスペースを空けるように平がいる方向に傘を軽く傾け、振り返ったまま見つめ続けた。)

75:  [×]
2024-08-03 11:58:24

トイレじゃねえわ。なんでって……わかってんだろ、その傘じゃふたりは入らねぇって。

(現地集合の意味。……まー聞くわな東は。ふたりで入るには如何にも狭い折りたたみ傘。前に俺に折りたたみ傘を渡して帰ろうとした時だって東はふたりで使うには狭いと判断したからだと思ってる。まして一度壊れてるオンボロ傘だ。身を寄せあって使うにも心許ない。東が律儀に隣分開けてくれた傘のスペースからしてお互いに半分ずつ濡れることになる。なら、初めから傘持ってたヤツが使うべきだ。これ以上東が濡れる必要はない。
……気持ちはありがたいけどな。どういったら納得すっかな。)

予報みるとそろそろ雨の勢いも収まってくるらしいし、様子みて俺は走っていくわ。先に暖まっとけって。なんか熱ありそうだし。

(大げさにスマホを振って見せながら。ふと、いつかの景色が頭に過った。みんなで遊んで東と同じ方向になった帰り道。俺は確か、東に遠慮して本屋に寄るからって、別れようとして。東に察されてしまった。
――なんか見透かされた気がして、慌てて取り消したっけな。
あの時の東の顔は今も忘れない。そんな顔をさせたくなくて提案したことなのに、そんな顔させちまうってのはとんだ皮肉だ。
けれど今は違う。ちゃんと明確に理由があっての話だ。先に行ってもらわないと困る。俺は東の背中を押し出そうと前に踏み込んだ。)

……ほれ、もういいだろ。いったいった。


76:  [×]
2024-08-03 13:20:44

あー……。……ん?

(そういう事か、とすぐに理解はしたけどあっさり納得できるわけない。これが平なりの気遣いだっていうのはわかるし平らしいとも思うけど、ハンカチまで借りといて自分だけ傘使って先に行くってのもなぁ。もうすぐ雨足が弱まるなら尚更、収まるの待ってから一緒に行けばいいじゃん。この状況で先に行けと言われて“そ?んじゃ先行くわ~”ってならないだろ、普通に。ちょっと待てば雨がマシになるなら私もその後に行った方が濡れずに済むし、ここで待ってる分にはこれ以上濡れることもない。やっぱ私だけ先に行く意味って何……?腑に落ちなくて考えてたら、また平が変なこと言い出した。熱?何の話だ……私のことか?いや熱とかないと思うけど。頭いっぱいにハテナマークを浮かべながら首を傾げる。思わず自分の額触って確認しちゃったじゃん。)

ちょ……押すなって。わかったわかった。じゃあ──私がトイレ行ってくるわ。

(勝手に話を進めて背中を押してこようとする平に抗議しながら、どうしたら自然な感じで別行動を回避できるか考える。ていうかわかれよ、変に遠慮されると逆に心配になるって。それに──私が平と一緒に行きたいんだよ。前者はともかく、後者は絶対に口に出せるはずないけど。私の下心とか抜きにしても友達なんだし、もうちょっと頼ってくれてもいいのにな……。あ、わかった。これ、私がトイレに行けばいいやつだ。これなら自然にここで待てるし、平の話だとすぐに雨は弱まるみたいだから適当に時間稼いで収まってから一緒に行こう。
名案を思いついた私は、片手でピースサインしながらちょっとドヤって平に宣言する。それから有無を言わせないように、「ちょいこれ持ってて~」と受け取ったばかりの傘を押し付けて地区センター内に入っていこうとした。)

77:  [×]
2024-08-04 15:56:55

は……おい、ちょっ――。

(言うが早くというか。傘を渡された俺は地区センターの中へ入っていく東の姿を呆然と見守った。あいつ……。はぁ、と嘆息しても仕方ない。とうに東の消えた廊下から振り返り、玄関口へそっと顔を出す。
降りしきる雨。風はやや強くて雲は濁流のように流れていく。少し長めの庇のおかげか風雨が玄関まで届くことはなかったが、なぜか俺は心がしっとりとするのを感じていた。
また、気を遣わせたよな。
こんな状況でピースなんてしやがって……いや、そもそもピースとかするかこの歳で……? 仮に写真とりますっつわれてもやらねぇぞ……あ、いや女子はやるのか? 男は……写真撮る時どんなポーズするんだ……? ピースってなんか可愛らしさの演出みたいでこの歳でやるには抵抗があった。谷とか絶対やらなそう。いや、やるのか鈴木に釣られて……。ってダメだな。)

…………あー柄じゃねえ。ホント、こういう時はアイツの……。

(他に思考を割いて自分を誤魔化そうとしてもダメだった。このまま東に気を遣われてそれに乗っかったままでいるのは嫌だ。
自分がこれからやろうとしてることが正しいかはわからない。経験上からすればほとんどが空回りだ。でも、今やらないことは自分で我慢ならないらしい。俺は玄関口の傍にそっと折りたたみ傘を立てかけて――東にわかるように――外へと飛び出した。すぐ戻るつもりではあるが、もし東が先に行くなら必要だろう。相変わらず弱まった気がしない雨だれは容赦なく俺を打つ。まあ、それは当然だ。東には予報があったよあにスマホを振ってみせたが、雨がこの先弱まる予報なんてちっともなかったんだからな。
俺はポケットに突っ込んだスマホで最後に確認したある場所へと急いだ。いい歳をして、みっともないくらいに、全力で。)

78:  [×]
2024-08-04 18:29:05

(地区センター内トイレの化粧直しコーナー。適度に時間を稼ぎたいとはいえ、平を待たせてるし次の人がいつ来るかもわからないからあまり長居はできない。簡易的なカウンターと鏡の前で、手早くメイク直しを済ませて濡れた髪をポニーテールに結ぶ。化粧ポーチを取り出す時に、何もついてないカバンのチャックが目に入ってちょっと寂しくなったりもしたけど──さすがにこの天気だ。ただのおまけだしきっぱり諦めようと、自分に言い聞かせるようにぺしんと両頬を叩いた。
キーホルダーをなくしたのもそうだけど、どちらかというと今は平に距離置かれてる感じがすることの方が寂しかった。私は平になら、もっとこう……“あー傘ないわ” “入れて~” “さんきゅ”くらいのノリで来てくれた方が気が楽なんだけどなぁ。わざわざ現地集合──そういえば前に皆でボウリング行った時も、最寄り駅同じなのに違う電車で行ったっけ。たしかにあの時は一緒に行く理由なかったから、特にこっちから誘ったりとかもしなかったけど。今はすでに一緒にいるのに。……脈なさすぎるのもツラいけど、普通に“友人”としても寂しい。って、こんなとこで凹んでてもしょうがないな。首を左右に振って、気を引き締めた。
身なりも気分もスッキリ……は言い過ぎだけどマシになったところで、トイレを出て玄関口までの道を引き返していく。半ば強引に傘押し付けて平を置いてきてしまったけど、待っててくれてるはずだ。)

……あれ?平……?

(と、思ってたのに。玄関口まで戻ってきた時、そこに平の姿はなかった。しかも、すぐ傍にご丁寧に私の傘が立てかけてある。傘がここにあるってことは、帰ったとか外に飛び出してったとかはなさそうだけど……今度こそトイレか?てか雨、全然弱まってないな。まさか平のやつ──いろんな可能性が一瞬で脳内を駆け巡る。私は小首を傾げながら立てかけてある傘を拾い上げ、辺りをキョロキョロと見回した。)

79:  [×]
2024-08-04 23:02:42

はっ……はっ……!

(――アホらしい。実にアホらしい。自分でそう思う。走る足は水に取られて重たくて。背中はリュックづたいに水が入る気配を感じる。なんでこんな必死になってんだと思う。柄じゃない。誰かのためになんてカッコイイことが言えるようなキャラでもない。だから、これはきっと自分のためなんだ。水びたしで、走り方はきっとみっともなくて、脇腹まで痛い。運動不足は否めないがそこは受験生だ、脇腹にはもう少し我慢してもらいたい。やがて、そこに辿り着いた時にはもう息も絶え絶えで。――そういや、朝も走ってなかったか俺、なんて思うとしばらく穴蔵にでも篭もりたい気持ちになってくる。まあ、とにかく目的地には着いた。あとは――……。)

――……っ……はぁっ……。

(あとは、そう。結局走るわけだ。コンビニで買った頑丈そうなプラスチック傘【1,408円+108円:たけぇ!】を差しながら悠々と歩いて――いけるわけもない。東に何も言わずにでてきてしまった。先に健康ランドに行っててくれるならいいがなんとなくだが――いやもう確信しているが絶対待っている気がする。となればのんびり歩みを進めている場合ではない。さすが、折れないなんて表記にあるだけあって傘は丈夫そのものだ。少なくとも走りながらでも風雨は完全に防げている。……既に濡れ坊主だが。コンビニ店員にギョッとされたが。今から傘差す意味あんのお前って顔されたが。うるせぇ。あるんだよ。
そうこうしているうちになんとか地区センターまで戻ってこれた。っと、呼吸整えないとまた余計な気遣いされちまうな……。
俺は深呼吸を数回しながら玄関口への階段を踏みしめた。……さて、待ってるんかな。そんなことを考えながら。)

80:  [×]
2024-08-05 00:05:04

(……さすがにトイレ長くね?あれだけ雨に打たれてたら、お腹冷えて痛くなっても不思議じゃないけど──なんて、そろそろ心配になってきた頃。一応スマホは確認したけど平から特に連絡もきてないし、黙って帰ったりはしないだろう。だったら、どこ行ったのかはさっぱりわからんけど待つ以外の選択肢は端からない。相変わらず弱まる気配のない雨の音を聞きながら折り畳み傘を手に玄関口に立ち、平を探してキョロキョロしていたら……あ、きた。)

平!……えっ何それ……。

(真っ先に感じたのは、遠目に平の姿を見つけた安堵。傘も持たずになんで外に行ってたのかは謎だけど、とにかく体調崩してトイレに篭ってるとかじゃなくてよかった。そう思って手を振ろうとした瞬間──こっちに向かってくる平が傘を手にしていることに気付いて、挙げかけた手を止めてしまった。状況が飲み込めずにぽかーんとしたまま、振ろうとして止まっていた手で平の傘を指差す。
いや、聞かなくてもそれが何かはわかる。傘だ。問題は、なんで平が傘を持ってるのかってこと──いや、百歩譲ってそれもまだわかる。何を思ってかまではしらないけど、傘がないからどっかで買ってきたか何かだろう。私からしたら、買うくらいなら一緒に入ってけばよかったじゃんって思うけど……まあ、私の折り畳み傘じゃ心許ないのはわかるしな。そうじゃなくて──傘買いに行ったなら、そのまま健康ランドに向かえばよかったんじゃないか。さっきと状況が変わってお互いに傘があるんだし、こうなると逆に現地集合にしない意味がわからなくなってくる。そりゃ私は一緒に行きたかったし、帰ってきてくれてぶっちゃけ嬉しいけど……平は、なんでわざわざここに戻ってきてくれたんだろう。普通に考えて、傘買いに外に出たなら一言そう連絡してそのまま健康ランド集合って流れになりそうだけど。そういう意味でいろいろと謎だらけな平の行動に、私は呆気にとられてしまった。)

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