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1147:
リナ・クロムハーツ [×]
2023-06-10 22:39:31
『ヒストリー』
ROSARY活躍編その1
>>415
>>600まで
※レスの前後、歯抜けあり
信頼と忠誠によって絶妙なバランスで成り立っていたROSARYの統制は嘗てのものとなり、若い女、「偽物のクロムハーツ」と蔑称を吐かれるリナの管理するG-23区アジトは設備のアップデートが後回しにされてしまっていた。建造物の巨大さに相反するように旧時代のものとなった設備でありながら、所属する隊員たちの装備をアップデートできているのは優秀な技術家たちが多数所属している証拠だろう。
夜も更けた頃、技術家の筆頭アマギ・クロウは自身の兵装の改良作業を終えて一息付く。敵の機械神経を麻痺させる武装の開発は彼の優秀な頭脳の裏打ちであり、DOGMAの技術に詳しいということが見え隠れする。仕事の終わりに好物のラーメンをと思い立った彼の下に見慣れた陰が近づいて来る。マリンだ。普段、食事を担当するリナが余り採用しないメニューの味に興味を示した彼女はラーメンの味を、引いては自身が心から「好きだ」と言える味を見つけるべく探求を続けていた。自身の好きをマリンにも味わって貰いたいと感じたアマギは、彼女の求める料理がラーメンではなく担々麺であると推察する。百聞は一見に、一口にしかず。深夜に並び麺を啜る二人の感じる味は決して味覚にのみ訴えられたものではなく、それ故に"美味しい"だったのかもしない。
腹は満たされ、どこか心も満ちた。そんな束の間の温かい時間に滑り込むように可愛い来訪者が来たと気付いた彼は呆れたように「お兄さんだ」と念を押す。彼を「じいじ」と愛称で呼ぶのはフティーだ。彼女の過敏な聴覚を保護する目的のヘッドセットが壊れたのだろう。悲しみに暮れた表情の中に「怒られるかも」という不安を見つけたアマギは理不尽に怒ることはないと優しく話を聞いていく。どこか幼さの残る口調にも真剣に耳を貸し、修理を約束し、次に同じことを起こさないための改善策も組み立てて行きながら。
そんなアマギにフティーは勉学面での不安も吐露する。先日、リナと約束した食用植物の育成技術やデータ取り扱い資格の勉強はROSARYのデータベースから閲覧できる資料を用いて行うようで、専門用語を多数用いるためにハードルが高いらしい。知識の探求とは失敗から経験を重ねることだと答える彼と、彼にも過去、分からないことがあったのかと不思議そうに話を聞く彼女の様子は確かに科学者の先輩後輩という姿であった。
自身の過去を問われ、アマギは自身が決して薬を作らないと決めた時のことを思い出す。DOGMAに居た頃、自分の技術を越えようと躍起になった嘗ての仲間。人間であることを捨ててまで辿り着いた先の悍ましい研究成果と、それを止めなかった後悔の念を持つ彼は、強化薬品を用いて戦い、その副作用に苦しむセリア・メイナードをどんな視点で見るのか。自責か、効果か……。
そんな中、急患だと騒ぐ隊員たちが部屋へと駆け込んでくる。彼らに急かされ、アマギは気持ちの整理も程々に医務室へと向かうのだった。
ーー数刻前
DOGMAが下層で運営を行っている工場の制圧作戦に出撃していたリナ・クロムハーツは負傷しながらもレイ・ロバーツとの共同戦線を張り、リナの持つ広い視野とレイの超高精度の狙撃で危機を脱していた。意識こそあるものの肉体の機械部品が限界を迎えたリナは、作戦の成功を見届け一時撤退。他アジトとの共同作戦であることもあり、成果物の分配交渉のため現場へ戻るための"治療"をアマギに要請する。
卓越した腕前で痛みを最小限に抑え治療を行う彼は、リナにとって大切な仲間であり、決して強化薬品を開発した憎むべき敵ではなかった。そのことをリナがアマギに伝える手段はフティーのような「じいじ」呼びであるところが、G-23区アジト全体がファミリィであることの表れだったのかもしれない。
後日、リナが慌てた様子で医務室に戻ってくる。彼女自身はアマギの手腕により即時の戦線復帰が叶ったが同一の作戦に参加していたマリンが大怪我をしたと報告を受けたためだ。任務の中、背中を預けて戦い、お互いがどれほど大切で掛け替えのない仲間なのかを再認識したリナにとっては大事であり、無理をさせてしまった自身の不甲斐なさを涙ながらに謝罪した。
そんな中、気持ちの通じ合っているマリンはROSARYという居場所を作ってくれたリナに対して「どこにも行くことはない」と常に側にいてくれる約束をする。軽蔑し、離れることはないという仲間としての信頼による返答に別の涙を浮かべながら、今後、マリンが感情を取り戻すための手伝いをし続けることをリナは誓った。
マリンの見舞いを終えアジトの廊下を歩くリナは、同じく兵装の調整を終え、アマギと相棒となる道具の取り回しについて熱く語り合った後のレイに合流する。
彼いわく、出撃した先でフティーと共に工場を散策したらしい。その報告の中にあった、フティーとレイの姉弟関係の構築と、誓いを立てる三国志の真似事に思わずくすりと笑いながら。思えば自身も先程に誓いを立てたばかりだと思い出す。彼からの報告で一件気になったのは、シャイアーという製薬企業に勤めるルカ・フーニアの存在。それもまた、先程マリンから聞いた名前であった。上層で薬品を扱う企業でありながら、安価に抑え信用性を欠く販売体制で売上を伸び悩ませ、下層でチラシを用いた宣伝を行うところまで追い詰められている。何かが引っ掛かり、リナはこのルカ・フーニアという名前をしっかりと記憶しておくことにするのだった。
難しい顔をしているのだろう、どうかしたのかとレイに問われたリナがマリンの名前を口に出すと、話題は彼女のことへと変わっていった。自分自身を見つけるために悩み、善悪の判断に苦しむ彼女にレイは狙撃時の心持ちとそれを重ねていたという。
つくづく信頼できる仲間と共に歩んでいることを実感したリナもまた、共に悩んで行こうと決意した。
やや時が過ぎ、ROSARYメンバーが各々の持ち場で忙しなく働き、戦いを続ける中で少し違った角度から戦う者もいた。共同スペースで未来のROSARYを背負い立つための勉学に励むアリシア・ウォーカーだ。
まだ幼い彼女は憧れる理知的な淑女となるために品格の習得と勉学に明け暮れていたのだが、ある一問の問が彼女を躓かせていた。途方に暮れているところへ通りかかったメンバーはこぞって彼女へと息抜きや、自身の得意分野において勉強に付き合う約束をする。レイ・ロバーツは射撃訓練を、マリンは共に物語の読解を進めていく中、仕事を片付けたリナ・クロムハーツはアリシアの躓きが些細なミスであり、問題へのアプローチ自体は間違っていないと気付く。少しだけ意識を例の問から遠ざけ、同じ解法の別の問から答えさせると、アリシアは自身の力のみでやり遂げることに成功する。ご褒美に外出の約束をしてベッドの中ではパンケーキを食べる約束もして、子供のように、子供らしく欲張った二人は共に眠りにつく。この時は、これからの激動の気配すらなく、戦いの中で確かな温もりを感じあっていた……。
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