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個人用・練習用
自分のトピックを作る
24:
優真 [×]
2021-01-02 16:36:43
季節は冬。
冷たい風が吹く中、私は学校から家へと向かう道を走っていた。
何日か前にやっと冬休みになったと思ったら、学校に大事な宿題のプリントを忘れてしまったからだ。
こんな筈じゃなかった。
今年の冬は、冬休みに入る前から寒くなっていて、もう外に出るものか!と、思っていた私は家を出るのがとても億劫になっていた。
それでも学校へプリントを取りに行かないと宿題が出来ない。母にも念を押されて、私は漸く家を出たのだ。
プリントを取りに行くだけなのにあっという間に日は落ちかけ、辺りはオレンジ色に染まっていく。
この時、私はなんだか不安な気持ちになった。
何故だろう?
春や夏の夕日はそんなに気にならないのに、今日の夕日はいつもと違って何だか胸がザワザワするような… 暗い何かが渦を巻くような、不思議な感覚。
何か分からない不安と焦りから、私は走って帰る事にした。
学校から家まではそれほど遠くはない。
暗くなる前に帰らなくちゃ。
その一心でとにかく走った。
── すると、家へ向かう途中にあるコンビニの明かりがぼんやりと見えて来た。
心細かった私には、いつも見慣れている明かりでさえ今は優しく思えた。
なんて安心するのだろう…。
何かに追われていた訳でもないのにホッと安堵の息を吐き、走っていた足を今度はゆっくりとコンビニに向けた。
店の前ではコンビニの店員だろうか?サンタの格好をして寒い中、ケーキの箱が並べられたカートの前で一生懸命にチラシを配っている。
冬休みになって、学校が無くて浮かれていた私はクリスマスイブだという事をすっかり忘れていたのだ。
もうそんな季節か…。
ポツリ、独り言を漏らし、コンビニの中へ行こうとした時 ──
優しい声が聴こえてきた。
「 ぼく、偉いね。一人でお使い? 」
『 うん!今日はね、お父さんが早く帰って来るから皆でクリスマスケーキ食べるんだ! 』
「 そうか。じゃあ、このケーキを持って気をつけて帰るんだよ? 寒いからしっかり手袋もしてね 」
『 分かった!お兄さん、ありがとう! 』
普段なら気にしないような、何気ない会話。
盗み聞きするつもりも無かった。
なのに、聴き入ってしまったのは店員さんのあまりにも優しい声と、その笑顔に目を奪われてしまったから…。
どうしたらそんな幸せな笑顔が出来るんだろう?
思わず考えていると、それに気づいた店員さんが此方にゆっくりと歩いてくるのが見えた。
どうしよう…!
顔を逸らし、急いで店内へ逃げ込もうとしたけれど外は寒く、思ったように身体が動かなくなっていた。
きっと盗み聞きしたのがバレたんだと、心臓をバクバクさせながらせめてもの抵抗で目をギュッと閉じて覚悟を決める。
( 盗み聞きしてごめんなさい…! )
声にならない声で呪文のように、ごめんなさい。と繰り返し言い続けたが、近づいて来た店員さんの一言に私は目を丸くしてしまった。
「 ── あの… これ。使いかけですが、使ってくれませんか? 」
そう言って店員さんがポケットから取り出したのは使い捨てカイロだった。
男性が使うには少し小さく、手の平にすっぽりと収まってしまうくらいの手持ちカイロを手の平に乗せて差し出してきたのだ。
『 ─…え、良いんですか? 』
「 はい!ずっと外にいたら寒いかな。と思って… 」
差し出されたカイロにゆっくりと手を伸ばして受け取ると、どうして私がずっと外に居たのが分かるのだろう?と今度は不思議な顔をした。
すると、また私の気持ちが分かるかのように店員さんが話しだし。
『 どうして私がずっと外に居たのが分かるんですか? 』
「 だってほら、鼻が真っ赤だったし、こんなに冷たいから ── 」
不意に触れられた頬が温かく、心までポカポカした感じになった。
なんて温かい手なんだろう…。
同じ寒い外に居たと思えないくらい温かで大きな手に癒されつつ、ふと我に返り、今の自分の状況に恥ずかしさを覚え。
慌ててマフラーで口元を隠すような仕草をすると
「 ── 少しは温まりましたか? 」
ふふっ、と笑う店員さんに私は無言で頷いた。
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