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1対1のなりきりチャット
自分のトピックを作る
61:
「囚人」 [×]
2020-11-16 16:37:40
( 主人の制止も聞かずに何もかもを忘却の海に沈めてしまう己の頭が呪わしく、また恐ろしい。如何に重要な閃きや理論でも、果ては愛しく尊い思い出でも、無作為に選出された全ての記憶が等しくゼロに還る。今日の自分と明日の自分の同一性を証明できない己は、一生涯テセウスのパラドックスに囚われ続けるのだろう。彼の言う通り、涙の数だけ理由を求めるのはあまりにも不毛だ。人間は非合理性の生き物なのだから。肩口に触れた優しい手には、そうだな、と一言返して微笑むに留めておき )
アンドルー…そうか、アンドルー。君は本当に世話焼きだな、いっそ私のアシスタントにならないか?…冗談だよ、君を都合の良いハウスキーパーとして扱おうとは思っちゃいない。さて、脱ぎ捨てた服は洗濯に回すとして──いやしかし、今回も派手にやったな。
( 繰り返し呟いた名前を今一度心に刻み付ける、二度と忘れてなるものか。師に忠実な使徒の名を冠する彼を助手として迎え入れたい旨を申し出るも、ものの数秒で撤回。あくまでも個人的な厚意と親切から部屋の片付けを買って出てくれた友人の意図を踏み躙りたくはない。周囲に視線を巡らせば、持病の弊害とも言うべき惨状に我が事ながら閉口。足元に転がる小さな真空管を拾い上げると、大きなひびの入った硝子部分を目にして苦笑する。貴重な品をまたひとつ傷物にした。目に見えるだけまだ取り返しがつく、不可視の友情はこれほど分かりやすく損傷を訴えてはくれないから。泣き喚き怒鳴り散らすのは日常茶飯事として、挙句物に当たり始めるほど激しい例の症状を友人は見届けた筈。ちらりと窺った横顔から動揺の色は見て取れず、彼の存在が何にも代え難いことを噛み締めて )
そこに散らばった本は適当に重ねておいてくれ、後で私が分類する。ええと、日記には…なんだ、まだ何も書いていないじゃないか。
( 少しでも記憶の空白は埋めておきたい。あわよくば、昨日から現在に至るまでの記憶を繋ぎ直したい。脳内に残留する直近の記憶は昨晩のもので、幸いにも丸一日以上のブランクは生じていないと推論。頼みの日誌を開いてぱらぱらと捲れば、左端に記された今日の日付以外を空白が占める一頁、加えて一枚のメモが目に留まった。脳損傷による慢性的な健忘症を患っている以上、ほかの参加者のように一日の出来事を完璧に綴ることは難しい。そこで覚えておかなければならない事物やアイデアは早急に書き留め、自室に戻り次第日誌の栞として挟んでおく記憶術を身に付けた。にしても、この書き置きは一体何を示しているのだろう?二重の打ち消し線が引かれた" Kreiss "の文字に、" Andrew "の名が並んでいる。どちらのスペルも友人を示していることは疑い無いが、発明にも研究にも関係のない何を一体書き残したのか。数時間前の自分から突如として放られた難題に首を捻り、ヒントを求めて問いの主人公たる彼に視線を投げ掛け )
なあ、アンドルー。今日の私がどう過ごしていたのかを知らないか?察するに、君と一緒に居たんだろう。もし違ったらすまない。
62:
「墓守」 [×]
2020-11-16 23:50:40
僕が世話焼きに見えるのか?そうでもないぞ、相手を選んでいるからな。ただあんたに関してだけは話が違ってくる…借りが多過ぎるんだ。今の僕は借金塗れで1ペニーさえ返せていない。それだけあんたに貰い過ぎたんだろう。
( 今だけはそう何度も名を呼ばないでいただけたら助かったのに。とうとう堪え切れず一筋静かに零れ落ち、紙を丸めたような表情が見えないように背中を向け、短い呼吸を繰り返し平然を取り戻そうと踏ん張り続けて。声は震えていないだろうか。鼻を啜ってしまうと勘付かれてしまいそうだ。向けていた背中と顔が位置を交換する頃、塩水は幸いにも引っ込んでくれたらしい。友人の前言撤回を黙って聞き届けると寂しい微笑を湛えつつ誤魔化しも弁明もなき真実を伝え。普段ならば感佩をそうそう簡単には態度に出さなかった気がする。今この時だからこそ、彼から自覚も記憶も去ってしまったとしても、両手では既に数えられない友愛を贈られているのは己の方であることに気付いて欲しい。それだけ彼は尊い存在であり、同時に必要不可欠で己史上最高の朋友だと知らしめたい。あわよくば荘園全体公認のソウルメイト同士となりたい、生を享けた誠の意味は彼との巡り合いに在ると自惚れてみたい )
…すまん、さっき色々と蹴飛ばしたのは僕だ。べ、弁償しなきゃならないのか?いっいく幾らだそれ……。なら本はこっちに寄せておく。それにしてもかなり擦り切れているんだな、何回も読み尽くした跡がある。これを全部頭に叩き込んだ…?信じられない。
( 使い物にならなくなった真空管を一瞥して謝罪、あれが科学界では如何なる価値を保有する物なのかは分からない。分からないからこそ実は目玉が飛び出る程の豪華な道具かもしれないと今更震え始め、持ち主の表情を窺い眉を窄めて怒号を待ち。破れて補強された形跡や、表紙から本体が剥がれて丸裸になりかけているものや。集めた数だけ本の冥利に尽きるであろう証を発見して目を見張り。適当に一頁を開いてみたが見事に何も理解出来ない。数学者が見ればあまりもの美しさに卒倒するであろう数式が素人にはアラビア語かその親戚に思えて仕方なし。友人は本当に人間なのか?実は改造人間か何かではないのか?疑いの目を向けてみても凡才と天才を隔てる壁の解明には至らず即時に諦め )
ん?今日の事を知りたいのか?上手く伝えられるかは分からんが…あんたは徹夜明けで僕は早朝のゲーム帰りで、むしゃくしゃしていた僕を宥めてくれた。食堂に連れ込んであの臭いチーズ、ああいや細かくは言う必要は無いよな。飯を食った。角砂糖三つのミルク抜きコーヒーを飲んだあんたに好物を聞いたらコーヒー以外出て来なかった、だから他に考えろと言ってケーキと答えられた。それから──それから、二人ででかい夢を描いたんだ。発明の完成を全員で祝う話までして。柄にもなくワクワクして絶対に叶いそうな気がして、途轍もない希望がそこにはあった。
( 集められるだけの書籍やら小道具やらを整理したお陰で次第に床面積が広がっていくのを立ち止まって眺めていたところで、友人から肝腎要の質問を投げられ顔を其方へ向け。朝からの一連の出来事を要約するのは難しい、其処に事実でないものを混ぜてしまうのも如何なものか。然も最低二回は友人の目前で醜態を晒した身なのだ。省みるのも苦しい時間の使い方をした話までするべきかどうか、考えるだけでも身体が勝手に恥で火照り始めたからさあ大変。聴き取り易さを意識したのは始めの頃のみ、段々と声は小さく掠れていくばかり。パティシエ云々の部分が終わり、最後に思い起こされたあの絶え間ない光栄の瞬間、祝福に彩られた輝かしい未来を回顧する間は打って変わって恍惚とした様相に。新しい時代を約束してくれた友よ、君は大志を抱き続けよ。その為になら犠牲も厭わぬと君は言うのだろう。ならばなすべき事はもう決まった。しがない墓守が有りと有らゆる障害から君を守ってみせるまで )
63:
「囚人」 [×]
2020-11-17 03:57:59
止せったら。君にそれほど沢山のものを与えた覚えは…いや、違うな。そもそも貸しだと思っちゃいないんだ。君との関係に法則としての等価交換を持ちこむつもりはない。ギブアンドギブだって構わないんだよ、それが友達ってものじゃないのか?それに私は、100万ポンド以上の…それこそ金銭に換算するなんて馬鹿げてるくらいのものを既に貰ってる。
( 友人の言葉をそっくり信じるなら、己は彼に決して少なくない貸しを作っているらしい。読んで字の如く覚えがないのは記憶障害の可能性が無きにしも非ず、ならばと発想の転換から自論を展開。生まれた思い出が回想される前に丸々失われようと、例えそれが何度繰り返されようと、一度芽生えた親愛の情は簡単に掠れて消えてしまうものではない。何度頭蓋の内側から排されようと、胸のいちばん奥で覚えている。故に謙虚な反省を敢えて否定はするまい、この誠実で情に厚い友には何もかもを与えんとする己が好意こそ証明だ。身も心も発明に捧げた我が人生、もし彼が望むなら最後に残った魂だけは差し出そう。何にも代え難い献身に報いる方法をそれ以外には知らないから。そして肉体の死後、彷徨える魂を不可視の神や悪魔に明け渡すより、自身の救いとなった確たる存在に最期の贈り物として委ねる方がずっと魅力的に感じられたのだ )
そんな顔するなよ、弁償なんか考えなくていい。私を誰だと思ってる?天才発明家のバルサーだぞ、自分で部品を拵えるのだって朝飯前だ。……ン?なんだ、それが気になるのか?電磁気学に興味があるなら、君の為に特別授業を開講するのも吝かじゃない。はは、実行するなら今晩どころか丸々二晩は寝かせてやれないけどな!折角なら数学や工学分野に限らず、私が知っていることなら何だって教えよう。
( 見る見る萎れた態度は可哀想なくらいに心苦しげな表情と相俟って同情を誘う。自若として言ってのけた言葉に偽りは無く、常ならばおいそれと露わにしない自負心を過剰なほど主張することで内省に浸る友人を宥め。どうせ新たに作り直すなら更に小型化を進めるべきか、いや機能面を改めるべきかと考えを巡らせる。そのまま思索に耽る寸でのところではたと気付けば、目に映るのは書籍を開いた彼の姿。例え一時の気まぐれにせよ、己の専門領域に触れようという試みが見られるのは喜ばしいもので。冗談半分本気半分、淡い期待を乗せ驕傲とも取れる態度で勧誘。乾いた唇を舐めると、微かな鉄錆の味がした。頻繁に穴の開く不完全な知識大系は誇れたものではないが、知的好奇心を満たすに十分なものではあると思いたい )
───ふむ。ああ、成る程…希望か。それは確かに忘れちゃならないものだ、見失って泣きたくなるのも道理だな。ありがとう、今度はしっかり覚えておくよ。日記にも書いておこう、もう忘れないように。君の記憶力が良くて助かった!じゃあそうだな…ついでにもう一つ。このメモがどういうことかは分かるか?
( 自分自身に対して類推を行うのも滑稽な話だが、凡その見当は外れておらず、如何やら午前時間の幾らかを友人と共に過ごしたようだった。一字一句聞き漏らすまいと真剣に耳を傾け、表情の変化さえ見逃すものかと其方を見据える様はいっそ不躾に映ったかも知れない。とはいえ、終始真顔でだんまりとしていた訳ではなくて。苦笑を浮かべ、肩を竦め、嘆息し、得意げな笑みを湛え、頬を掻く。随所随所にごく自然な反応と相槌を挟みつつ、過集中の一種として挙げてよい程の熱意を以て一連の話を聞き終える。友人の語り口の節々に己への信頼と讃美が見え隠れしており、正直言って悪い気はしなかった。感謝の言葉に自戒を添え、加えて備忘録たる一枚の紙片を差し出しながら問いを重ね )
64:
「墓守」 [×]
2020-11-17 23:53:58
そら見ろ、お人好しはあんたの方なんだ。ギブアンドギブなんて言っていたらその内何もかも僕に搾取されるからな、ミイラみたいに乾涸びるのが目に見えてる。僕は死体愛好家じゃない、生きていてくれなきゃ困る…寂しくなるじゃないか。
( 100万ポンド以上は幾ら何でも大袈裟過ぎやしまいか、毎日休まずに墓穴を掘っても到底稼げない額に換算されるような善行を積んだ覚えは無い。自覚が無いのではない、完全に有り得ないのだ。友人の口振りを鵜呑みにしてしまえば友情どころか一方的な依存になってしまう。首を竦め薄目で睨んでみても、縁起でもない喩えで不満を垂れてみても、結局は彼が居ない時間に到底耐えられぬものと自覚した上での子供染みた我儘であり、他に例を見ない愛着があればこその屁理屈でもある。墓守が人に対して生きていろ等と言うのは矛盾があるだろうが、彼を前にすると棘もへし折られ角も丸くなるようで終いには鼻を鳴らし )
そっ、そういう問題じゃないだろ…!あと一つの部品が足りなくてあんたの作品が完成しなかったらどうするんだ、あんたが泣かなくても僕は泣くぞ!でん、じ?こう、何だそれ?えっ良いのか……!?聴く、じゃないな知りたい。ルカの宇宙の中に行ってみたい。
( 折角の寛大なお言葉を頂戴しても猛烈に狼狽え、一番に願うからこそ一番叶わなかったとすれば後悔に次ぐ後悔しか残らない結末を何が何でも避けるべく声を裏返しての反論。友人を支えると誓っておきながら、誓いの真逆を既に歩んでしまっている愚か者め。考え無しはさっさと地獄に堕ちろ。感情の振れ幅が極端という相変わらずな欠点を爆発させた後に拾った本に付着している埃を丁重に払い、恰も我が一族に代々受け継がれる至宝であるかのように確りと抱き。耳慣れない単語に追い付けはしなかったが素敵な提案に瞳孔が拡大。それは単なる自己満足に過ぎないのかもしれない、そうだとしても友人の良き理解者としてまた一歩前進、否それだけが理由ではない。本来ならば彼は雲の上の存在、己とは確実に住む世界が違う人。そのような人物から直接多くを学べるとは有り難き幸せ、思ってもみなかった奇跡!急に愛おしくなった難解な書籍を更に強く抱き締め、友人の瞳を真っ直ぐ見据え )
そんなに心配しなくていい。忘れても何回だって教えてやる。僕の話を好きに繋いで、あんたにとって気分が良くなるような"記憶"を繋いでおけばいいさ。時には本当に忘れてしまった方が楽な場合もある。思い出は美化されるともいうしな。──何だこれは?僕のファミリネームを消してファーストネームを書いた状況とは何なんだ?どっちにしても僕の名前を記録しておきたかったんだろうか…。いつ頃書いたかも記憶にないなら多分、今夜ルカに作品を見せて貰う約束をしたのをあんたの流儀でメモしたのかもな。
( 話した内容は幾分か主観的とはいえ偽りはなかったと思う。それにしてもこの耳の傾け方といい自然な態度といい、万一己が嘘の経緯を話していたら一体どうするつもりなのかと心配にもなってしまう。当然其のような卑しい真似はしない前提で。思わず友人の頭部に手を伸ばし無心で慰撫、先程見た涙に揺れる光景は刹那の解放を許されたからこそだったのだと信じたい。顔に近付けなければ文字が読めず、受け取り紙との至近距離で一文字ずつ目でなぞり。此れだけの情報では書かれた意図が読めない、二重線を引いたのは何らかの理由で打ち消したかったのだろうけれども。思うに食堂で語り合った今日の朝、友人は君付けで統一していたのを初めて呼び捨ててくれた。となると今夜の訪問を記録しておこうと名前のみ書いたが、嬉しいことに新しい呼び名に訂正してくれたのかもしれない。手掛かりをそっと返し、今の回答は飽くまで憶測に過ぎない点はそれとなく言葉尻に匂わせておき )
65:
「囚人」 [×]
2020-11-18 00:12:52
( あ、あー。テストテスト、聞こえてるか?突然すまない、驚いただろ。でも、どうしても伝えたくてさ。なんでも今晩は流星群が見られるそうじゃないか。君は私と違って宵っ張りでもないし、どころか規則正しい生活を送る真人間のようだから、そんな暇は無いかも知れないが。今晩くらいはココアを片手に、同じ星を眺めることが出来たらロマンチックだと思ったんだ。因みにホットココアはラム酒を数滴落とすと美味い。マシュマロを入れるって手もあるな。だから──流れ星が見られたら教えてくれ、明日にでも。いや、見られなくても教えてくれ。残念賞を贈ろう。……まあ、本当にそれだけだ!大した用でもなし、話を横道に逸らすようで悪いな。それじゃ、また。 )
66:
「囚人」 [×]
2020-11-18 13:33:48
言ったろ?君にはもう沢山貰ってるんだ、だから特別なことはしなくたっていい。幾ら与えたって乾涸びやしないさ。それに人はいつか死ぬ。いつかは今じゃあないが、私が天寿を全うしたら君に墓を建ててもらいたいな。
( 過ぎるほど謙虚な友人には是非とも恩義の債務整理を勧めたい、彼の存在によって何度となく救われていることに気が付いていないのだろうか。発作を起こせば皆が皆我関せずの姿勢を貫いた雑居房と比較して、偶々居合わせたただ一人が甲斐甲斐しく介抱を行ってくれる現状の恵まれたことといったら。変わらぬ対応を貫いて欲しいという希望をそれとなく含めつつ、人生の幕切れまで関係が続くことを当然のものとして手前勝手な願望を零し )
まあ、その時はその時だ。無数に存在するイフの話をしたって仕方ないさ。…おっと、まさか快諾されるとは思わなかったな。君がその気なら私も全力で臨もう。まず聞いておきたいんだが、アンドルー、君は今までどれだけ数や量を学んできた?簡単な計算はできるよな。自然数はまあ良いとして、約数は分かるか?断っておくが、決して馬鹿にしている訳じゃないぞ。
( 明らかな周章狼狽ぶりに相対し、悠然どころかいっそ呑気なほど無頓着に返答。パーツの一つ一つには然したる愛着もないから、という理由だけではない。これが己の急病に際した友人の焦燥の産物だということを踏まえると、硝子に走った亀裂はかえって愛しく思える為に。不謹慎にも愉快な心持にくつりと喉を鳴らし、件のひび割れをやさしく指先でなぞる。次いだ予想外の色好い返事には些か瞠目、上げた視線に期待を込めて。どんな題材を扱うにせよ、物理学に臨むならばある程度の数に対する知識は必須。それが相手への軽視や蔑みでないことに念を押し、学習による経験値を把握すべく矢継ぎ早に問いを投げ掛け )
頼もしい限りだ。いつだって真実だけを追い求めるのは難しい、ならいっそ現実を都合良く解釈したって許されるよな。……ああ!"アンドルー"が訪ねてくることを書き留めておいたなら納得が──うん?いや、待てよ。君、さっき「偶然居合わせた」って言ってなかったか。ということは……すまない、君なりに気を遣ってくれたんだろう?それを知らずに片付けの手伝いまでさせて、私はとんだ大馬鹿者だ。兎に角、約束は果たそう。少し待ってくれ、すぐ操作方法を思い出す。
( 良い年をした大人が同年代の同性に撫でられる絵面を客観視し苦笑、それでも友人なりの労いとして受け取れば悪い気はしなかった。矯めてまじまじと紙面に向き合う彼の導いた推定、そしてそれとない示唆から凡その真相を承知。たった二語からよく事情を察せたものだと感心した直後、先ほど告げられた言葉との矛盾にふと気が付いて。書き置きが友人の来訪を示すものであるならば、相対的に先刻の発言への信憑性は薄くなる。部品を破壊した張本人として名乗り出るような彼が、全く意味のない誤魔化しをする筈がないだろう。とすれば、その意図する所は丸々一日の記憶を吹き飛ばした自身への遠慮と気遣いに他ならない。自ら取り付けた約束を違えるような不心得者になるのは御免だ。慌てて机に向かい、入り乱れた部屋の中で唯一整然と並べられた図面からその意味するところを理解しようと努める。途端に存在を主張し始めた疼痛に眉を顰め、朧気な記憶を辿りながら若干覚束ない手付きで試作品らしき装置の仕組みを探り )
67:
「墓守」 [×]
2020-11-18 21:32:18
( ぬあっ!?何だ今の声は、おい何処に隠れて喋っている。心臓が危うく止まるところだったぞ。……?まさか幽体が喋っているんじゃ…勘弁してくれ。流星群っていうのは星が短時間で沢山降る現象の事か、昨晩に起きていたなんて知らなかった。僕は朝に弱い上に体調に響いてしまうから夜更かしが苦手なんだ、笑うなよ?不機嫌な奴に朝っぱらから出くわしたくないだろ。男同士で眺めたって別に嬉しくはないんじゃないか、あんたが言うロマンチックの意味が違うならすまん。ホットココアにラム酒が合うのか。意外な組み合わせがしっくりくる場合もあるものなんだな、丁度あんたと僕のように。因みにルカがココアで僕がラム酒だからな。逆は嫌だ。もう分かっているだろうが星は見えなかった。残念賞を貰うぞ。それであんたの方は見えたのか?それと成仏してくれなきゃ困る。──機会があれば次は夜更かしに付き合ってやるさ、星でも何でもあんたが喜ぶならそれで良い。 )
68:
「囚人」 [×]
2020-11-19 02:26:32
( ははは!いいね、いい反応だ。残念ながら姿は見せられないが、また直ぐに会えるさ。それにしても星は見られなかったのか、惜しかったな。君が夜更かし出来ないからって笑うかよ、寧ろ想像通りの健康優良児で安心した。子どもじゃないって?知ってるとも。でも時々、君が小さな子どもに見えることがあってね。ちょうどこのくらいの…と言っても伝わらないか。見えてないんだったな、失念してたよ。何はともあれ、君はそのままの君で居てくれ。男同士で眺めたって?そっとしておいた事実にわざわざ触れてくれるな!君、ロマンチックどころかむさ苦しいんじゃないかとか思っただろ。まあ事実なんだが。だけどな…ほら、同性だろうが異性だろうが、家族だろうが友人だろうが恋人だろうが、そんなのは些細な問題なんだよ。一緒に星を見る行為自体に夢がある。天体観測はいいぞ、アンドルー。長くなりそうだから強いてその特徴を論うことはしないが、機会があれば天体と銀河系の魅力についても語りたい。因みに私も流れ星は見られなかった、残念なことにな。ラム多めのココアをちびちびやりながら、小一時間夜明け前の空を眺めていたんだが…結局身体を冷やしただけだった。ただ、月は綺麗だったな。地球照がよく見えてさ。──さて!肝心の残念賞についてだが、これは私から君への"招待状"だ。ここ以外にもう一つ、君と言葉を交わすための場を確保した。もっと気軽に意志疎通が図る手段があれば、と思ったんだ。おはようだとかおやすみだとか、今日の試合は酷いもんだったとか、早く寝るだとか夜更かししたいだとか、そんなことでいい。この場所と違って定期的に使う必要もないぞ、好きな時に覗いてくれたらいいから。部屋の名前?ヒントは"宛名"だ。もっとも、迷惑なら無視してくれたっていいけどな。もし気になるなら、ヒントを頼りになんとか探してみてくれよ。/ 〆 )
69:
「囚人」 [×]
2020-11-28 06:46:51
( 開け放たれた扉からエントランスに踏み入り、室内に籠る仄かな温かさにほうと息を吐く。マップ上を支配していた底冷えするような寒さが身体の芯まで染み入っていた為か、末端の感覚は殆どない。工具用手袋を外すと腰から提げたツールバッグへ雑に押し込み、ひと気の無いホールを横切る。無意識のうちに手指を擦り合わせつつ回想、此度のゲームの敗因は一体何であったか。ゲーム開始直後の居場所露見、救助前の駆け引き失敗、更には逃亡経路の誤認。無数の要因が絡み合った結果のサバイバー敗北であることは疑いない。とはいえ、心に引っ掛かっているのは試合の敗因それ自体ではなくその終幕だ。脱落者が二名となった時、行動不能状態に陥った仲間が助けを求めていたことは知っていた。救助可能な状況を作らないことで勝ちを確定させるのがハンターの狙いであり、この時点で自身が標的となる可能性はほぼゼロ。相手とハッチの位置からしても、失血の進行度からしても、治療に向かうのは余りにも無謀。通信機に幾度となく表示された"手を貸して、早く!"という定型文から目を背け、非情と知りつつ地下室への脱出を果たして今に至る。廊下に出ると、未だ閉じられていないカーテンの合間から夕陽が射し込んでいた。自室への歩みを進めつつも、常とは真逆に理論から感情へと振り切れた思考は脳内を巡り続け )
…ああ、そうだよ。発明を実現するためなら、きっと容赦無く仲間を見捨てる。そういう男なんだろうな、私は。
( 失血死と通称される負傷後放置の憂き目に遭った仲間の、あの凍てついた眼差しといったら。救護室に運ばれる間際に視線が交錯したほんの刹那、その瞳はあからさまな失望の色を湛えていた。仲間を信頼すればこその失望であり、相手が己に期待を寄せていたことの証でもある。尤も、その信頼は無に帰すどころか既に侮蔑や諦念へと変じてしまったのだが。これが単なる練習試合でなかったのなら、三人の人命と引き換えに大金を手にしていたことになる。あまりの業の深さに知らず乾いた笑みが零れ、通路の途中で足を止め。理には適っているのだから、口先だけでも己の行動を肯定したかった。科学という名の悪魔に心身を捧げるなら、いっそ不要な人情もかなぐり捨ててしまえたら。そう断ずることが出来ないのは、同じ参加者の一人と結んだ絆があまりにも強すぎた為だろうか。窓辺に歩み寄り、赤々とした西日に片目を眇めて )
( / おはようございます、遅れ馳せながら今週もお疲れ様でございました…!お忙しい中のお返事、並びにお気遣いいただき感謝いたします。近頃ますます冷え込んで参りましたので、墓守君背後様もお身体に気を付けてお過ごし下さいませ。
今後の流れにつきましてご了承いただけた為、此方のトピックにて新たな場面の出だしを投稿させていただきました。あれこれと考えあぐねた結果予想以上に重い描写となってしまいましたが、どのような方針で絡むかは墓守君に一任致します!場面切り替えの描写は未だに慣れていないため、分かり辛い部分等ございましたら申し訳ございません。現状の質問や要望が特に無いようでしたら、此方も一旦失礼致します! )
70:
「囚人」 [×]
2020-11-28 14:06:26
( / 申し訳ございません!今朝方の投稿で誤って下げてしまいましたが、こちらは下げ進行でなくとも問題ございません。取り急ぎ、用件のみにて失礼いたします…! )
71:
「墓守」 [×]
2020-11-28 19:00:27
( ただ外気が冷たいという理由から閉め切った自室にて開いた本は、紙の劣化による黄ばみが目立つもののインクは読める程度に残っていた。単語を紙に書き写しては辞書を頼り、記載されている意味に目を通し、それを書き写した単語の下に記しておくつもりだったのだが。ほんの数日前ならば捗っていた筈の自己学習、然し夕方の試合へ出掛けていった囚人服の恋人の安否が度々案じられるあまりに気も漫ろに。吐息と共にお役目を絶たれた羽根ペンを卓上に置けば窓の外を何度も確かめた、この部屋から姿が見えるわけがないのにも関わらず。部屋で待機していられる落ち着きは失われ、外套を纏い廊下へ出て、帰還を──彼に限った話だとは断じて言わないものの一番に待ち侘びるのは当然一人のみだが──兎に角真っ先に知りたいが為に廊下の先へ目を凝らし。と、ストレッチャーを走らせる嫌な音が何処からか耳へ届き、まさか彼が負傷したのではと慌てて駆け出そうと身構え。だが窓辺で黄昏れる人物のシルエットが霞んだ視界の中に飛び込み、それが何者であるか判別出来た途端に駆け寄り )
───ルカ!無事だったか、思っていたより早かったな。あんたがどうなったのかが気になって、勉強が進まなかった。
( / 外出しておりましたため、お返事が遅くなり申し訳ございません!場面展開のご対応を頂きありがとうございます、囚人君の寂しげな独り言は聞こえなかった体でお出迎えさせて頂きましたがよろしかったでしょうか?現時点では特に要望と質問いずれもございませんので、此方の流れで引き続きよろしくお願い申し上げます! )
72:
「囚人」 [×]
2020-11-28 21:34:27
( 何となしに日没を眺めるうち、焦燥と動揺に奪われていた冷静さを徐々に取り戻した。平素は試合結果に心持を左右されるたちではないのだけれど、などと他人事のように心情を客観視。先刻の自暴自棄とも取れる発言が余人の耳に入っていなければ良いが──そう考えつつ振り向くと同時に、馴染み深い声音がごく間近で耳朶を擽った。些か目を剥くも、数秒と掛からずに彼が己の最も信頼する相手であると判別。眉を下げれば苦笑と共に返答して )
!……ああ、アンドルー。すまない、ぼうっとしていて…今さっき戻ったところだ。心配させたか?見ての通り、大した怪我はしてない。私はな。
( / お返事の速度につきましてはお気になさらず!いつでもご都合の宜しいタイミングで返していただければ幸いです。墓守君の対応についても全く問題ございません、恋人の身を案ずる彼の優しさに触れて心が温まりました…!こちらこそ、引き続きよろしくお願い致します!それでは一旦失礼致します。 )
73:
「墓守」 [×]
2020-11-28 23:17:36
私は、か……お疲れ様。もう日暮れが近いんだな、太陽は燃えているのに空気が冷たいのはどんな仕組みによるものなのか分からん。手袋を外したのか?手を貸してみろ、温めてやる。
( ああだこうだと問わずとも察した、今回の試合も芳しい結果は得られなかった事実を。抑圧され続けてきた発明の完成への渇望を妄想で終わらせない為には自他共に顧みる時間を惜しむ、此れは確かに彼を形成する人格において屡々感ぜられるものではあるけれども。ただ、彼は同時に他者への慈悲と己の行いによる罪悪感をも隙間から漂わせる人物である。負傷者の"目"を酷く恐れるのは脱出に成功した者ならば誰しも否応無しに起こり得るもの、ならば触れてはやるまい。茜色の天空は鮮やかなのにも関わらず、窓ガラスを叩く風は冷たい。先程彼がぼんやりと眺めていた外界に視線向けて呟き。ふと普段は手袋で隠されている両手が剥き出しになっているのに気が付き、決して高いとは言い難い体温を貸すのも吝かではないと己が片手を差し出し )
74:
「囚人」 [×]
2020-11-29 00:57:05
……ありがとう。それは高度の関係だ、冬は太陽の熱も光も地上に届きづらい──と、すまないな。…ほら、結構冷えてるだろ?この時期は得意じゃないんだ、手先が悴んで思うように作業できなくてさ。
( 彼是と悩んだところで何も解決しないのは承知の上。思考を先の試合結果から遠ざけられる話題には一も二もなく飛び付き、幾らか強引に話題の転換を図る。恐らく彼は此方の意を汲んでいるのだろう、今はその思い遣りに甘えたい。不意に齎された触れ合いの機会に口を噤めば、大した役にも立たない蘊蓄は自ずと遮られた。数秒の逡巡を経て、差し出された手を両掌で包み込む。冷え込んだ屋外から戻った為に体温の差が生じているにせよ、この手に触れて明確に温かいと感じたのは初めてかも知れない。皮下に纏わりついた不可視の氷を溶かすように、ほとんど感覚のない手指で彼の手を握り込み )
75:
「墓守」 [×]
2020-11-29 01:46:32
太陽の位置が変わるって事か?宇宙は不思議だな。確かに暑い日ばかりでも困る…そろそろ動物達は冬眠の準備でも始めているかもな。あっ、彼処に駒鳥がいるぞ。──手っ取り早く温める方法なら知っている。こうして……摩擦してやればいける筈だ。
( 万物の創造主で有らせられる天の父が理由無くして季節を用意されたとは考え難い。脳裏に浮かぶ宗教上の観点と、科学者が解き明かした理とは、どちらか一方のみが偽りでも正解でもきっとないのだろう。改めて銀杏の葉を散らして黄色く染まった地面を見下ろしてみるとしよう、時間が許すのならば彼と二人で落ち葉を踏みながら歩いてみたい。木の枝の上、頑張れば手が届きそうな位置に、人間に対する警戒心を失ったムネアカドリの愛らしい姿を発見して僅かに身を乗り出し。ガスで発熱させる器具、手編みの手袋。恋人の冬の手を保護する策は幾つか思い付くことだけは出来る。そう、思い付くだけで何れの策も実現は不可能なのに。だとしても悴んだままではあんまりにも可哀想ではないか。握り込むその手を顔に近付け、息を吐きかけ、もう片手にて血の巡りが戻るようにと擦り続けるのを原始的だと彼は笑うだろう。それでも構わない。少しでも気が紛れるならば願ったり叶ったりなのだから )
76:
「囚人」 [×]
2020-11-29 07:01:27
本当にざっくり言えばな、機会があれば太陽系に関する講義でも開こう。…ん?本当だ。ここまで近寄って来るのも珍しい、人に慣れてるんだろうか。……可愛いなあ。
( 堂々と開講を宣言しつつも、胸を張って教師を名乗れるほど自惚れてはいない。知識を分け与えることが自己満足に過ぎないと理解しつつ止められないのは、彼の学びに対する従順な姿勢を心から愛しく思うが故に。思えば現在の関係に落ち着くより以前も、想いびとが内側から自分の色に染まる過程を無自覚に楽しんでいた節がある。今後も科学の先達者として──或いは恋人として、沢山のことを教えよう。密かな企てを胸に、ふと逸らされた視線の先を目で追って。マロニエの枝に遊ぶ駒鳥の姿を捉えるも、それに意識を向けていたのはほんの数秒。先ほど胸中を占めていた陰鬱はどこへやら、今は彼の横顔に視線を、更には心を奪われている。小鳥を見つけて身を乗り出すさまがいとけなく、恋人の純朴に意図せず頬を緩めてしまったことは許されたい )
ほう?そうなのか。それは…おっと、ふふ。確かに温かい、暖炉に手を翳すよりずっといいな。暫くそうしていてくれ。
( 実の所、この手が温かろうが冷たかろうが然したる問題にはならないのだ。人肌から伝う熱を恋しく思い、ささやかながらも恋人との直接的な触れ合いを求めているに過ぎない。何らかの革新的技術により手のみならず全身を即座に温める選択肢が存在したとして、叶うなら自分はこの非効率的な手法を選びたい。愛情の偉大さを噛み締め、脳下垂体から都合よく分泌され始めた神経伝達物質によって幸福感に浸り )
77:
「墓守」 [×]
2020-11-29 10:08:51
……へへ、あんたから教わるのは、本当に楽しいんだ。駒鳥の胸は夕焼けと同じ色だな。あんたの情熱みたいに燃え続けてる。
( 以前、彼にとって有意義な記憶のみ残るようにと、雑学は己が貰い受ける約束を交わした。あの時の誓いは一時の気休め等ではない。風船から空気が抜けていくが如く彼が断捨離した知識をいつでも引き出す為に、求められれば即時手助けとなれるように。自然と笑顔が生まれ頭を掻き。ムネアカドリの色に関する優しい逸話は昔母が教えてくれた、磔に処された救世主の棘を抜くその鳥のように恋人の苦しみを和らげてやれるならば何でもしてみせる所存だ。駒鳥から視線を恋人へと戻し、絡み合う目と目の心地良さに愛する者同士のみ知り得る平和を見出して表情がまろやかに溶け )
この手は僕にとっても宝だ。手だけじゃない、ルカの全てがかけがえのないものなんだ。こんな事しかしてやれない、でも愛だけは限りなく持ってる。…これ、使えよ。
( 目は口ほどにものを言い、手は口よりも心を表す。痛めつけるも慈しむもその手が心情を表すというのならば、恋人へは後者のみを示し続けていたい。血色を取り戻しても尚その手を離さず、暫し眺め頬擦りで愛おしみ。すらりと長い指に苦労の証が刻まれた彼の手を惜しみつつ離すと、己の手袋を外して片手ずつ順番に填めてやり )
78:
「囚人」 [×]
2020-11-29 14:33:49
胸の赤が私の情熱で、私がさっきの小鳥なら、君はあのトチノキだな。羽を休めるための止まり木で、最後には必ず戻る場所。──あー…本当に、狡いぞ君。その顔は反則だ。
( 記憶の彼方に埋もれた故郷にかわって、彼の傍らが帰るべき場所となれば。浮つく願いの込もった言葉を口にした直後、意味を成さない呻き声と共に額を押さえ。レトリックを巧みに駆使して的確に対象を表現するような、夢溢れる詩人の才能は持ち合わせていない。技術者を自負する以上当然といえば当然だが、花の綻ぶが如き彼の笑みをそれらしく喩える術を知らない語彙を呪う。非難されるべきは自身の技量と心の余裕であるにも関わらず、責任の所在を相手に押し付けて嘆息。これ以上の言葉は要るまい、そも笑顔に溶かされた脳味噌でこれ以上語れることがあるだろうか。周囲にざっと視線を走らせて余人の目が無いことを確認すれば、恋人を力一杯抱き締めようと )
こんな事しか?こんな事まで、の間違いだろ。満ち足りた愛情で窒息しそうだ、悪くないどころか本望だけどな。……なあ、キスしていいか?いま、君が可愛く見えて仕方ない。
( 頬を擦り寄せる様子は恰も小動物に似て愛らしい、ある程度体格に恵まれた彼相手にそう感じることにも疑問を覚えなくなった。愛されていることを遅まきながら実感し、胸の奥がじわりと熱くなる。嵌められた手袋のサイズが若干大きく感じるのは恐らく気の所為ではないだろう。己は凡そ手先のみを用いる作業を、恋人は力仕事を専門としている為か。その些細な差異さえ愛おしく、無意味に握って開いてを繰り返し。ほんのりと廊下全体に落ちていた橙色の光は徐々に弱まり、代わって薄闇が辺りを覆い始めた。ほんの僅かな時間にせよ、荘園じゅうの灯りが点るまでの猶予はある筈。漸く触覚を取り戻し始めた両の手で、彼の頬を優しく包み込み。もし恋人がよく利く夜目を持っていたのなら、視線の逃げ場を奪った状態で注ぐこの眼差しは相当熱っぽく映ることだろう。口づけに態々許可を求めるのは一周回って意地が悪いかも知れないが、度を越した律義さをどうか笑っていただきたい )
79:
「墓守」 [×]
2020-11-29 17:31:30
いいなそれ。あんたが安心して羽休めが出来るようにしっかりと立ち続ける。切られても暴風に曝されても倒れたりしない。枝を伸ばして堂々としてやるんだ。…何が狡いんだよ、変な奴。
( 焼けつくように暑い夏、厳しい寒さで凍える冬。季節折々に姿を変えていても彼が迷わず帰る事が出来る場所でありたい。日差しや吹雪から彼を守りながら毅然と大地に根を生やしていたい。両腕を目一杯開いて樹になってみた、丁度泣き虫と呼ばれるハンターの少年が這わせる樹木のように。呻き声と仕草が意味するは表現に悩むが故と知っていながら恋人の可愛い苦悩を笑ってやろう。普段の知性の差が逆転したから優越感に浸っているのではない、こうも悩んでまで話を合わせてくれる心配りが純粋に嬉しいからこそ。次にしようとするものを読み取り、同じく腕を背中に回し、骨格以上に中身がたっぷり詰まった夢の発信者の抱擁をしかと受け )
窒息したって構わんさ、その時は呼吸を分け与えてやるだけだ。そうだ、クリスマスの贈り物に何か温まるようなやつを選ぼうか?他に希望があれば聞くぞ。──月が僕を見てる。キス、しよう。あんたに触れたい。
( 実寸に関わらず彼の手は偉大なのは間違いないが、指先の革が余っているのを見ると、黙っていても庇護欲が疼き始めどうにも抗えず。タイミング良しと言うべきか思い出したは主が遣わし給うた救いの御子の誕生日、且つ創造物にとって最も喜ばしい日のこと。ナイチンゲールに交渉すれば特例で最適な贈り物を提供して貰える可能性は皆無でもなかろう。実用的な品、将又心癒す小鳥の類はどうか。尋ねておきながら候補が次から次へと忙しなく浮かび。仄暗い廊下で際立って輝いている熱を帯びた瞳、無垢な一雫を今にも零しそうな月の女神の眼差しよ。あなたは僕を掴んで離さず、芳醇な恋の色香で厭世を忘れさせてしまうのだ。無意識な呟きは霞んで消え行き、双眸閉じて恋人のシルエットに重なり )
80:
「囚人」 [×]
2020-11-30 19:18:46
勝手に居なくなられちゃ困る、私の巣は此処にしかないんだ。しかし、く、ふふ……私が小鳥ってさ!似合わないだろう。強いて動物に例えるなら、蛇とか、狐とか、その辺りじゃないか?自分で言うのも可笑しな話だが。いや、うん…反射的に狡いと言ってしまったが、やっぱり君は狡くない。私がその笑顔に弱いだけだ。
( 生憎、籠に囚われる小鳥のような従順さは持ち合わせていない。風雨震雷に晒されようと枷を嵌められようと、夢に見た青白い電光に向かって羽搏くことだけは止めたくない。故に求めるのは外敵から身を護る為の堅牢な鳥籠ではなく、何時なんどきでも其処に在り、確かに迎えてくれる栖だ。そう考えつつも、可愛らしい小鳥と自身のイメージがまるで合致しない事実にくつりと喉を鳴らし。腕に抱かれて眸を閉じると、そのまま冬眠にでも入ってしまいそうな安堵に包まれる。半ば言い訳染みた反省の言葉を口にしながら、布越しに伝う鼓動を聴き )
ああ、そういやもうすぐクリスマスか。私の方でも何か用意しておこう。そうだな、どうせなら君と同じ防寒具が欲しい。それか、色違いのものを。何を選ぶかはアンドルーのセンスに一任する。──君、言うようになったな。しじんの、………。
( 宗教意識の濃淡に関わらず、多くの人々が知る所の行事である降誕祭。来る者は拒まず去る者は決して逃さないこの荘園で日々を送っていると、どうも日付の感覚が鈍りがちであることは否めず。敬虔な信徒と恵まれた子供達にとっての善き日について耳にするや、真っ先に思い描いたのが外界における経済の潤いである辺り全く以て夢が無い。黙考すること数秒、それらしい要望を口にした所で贈り物への期待を馳せる自分に気が付いた。年中行事から何かと距離を置いてきたが、恋人を持つ身となれば話は変わってくる。向後は研究に支障が出ない程度に浮かれてやろう。否、浮かれているのではなく、熱に浮かされているのかも知れない。肉体の接触による脳内物質云々、などと理屈を捏ねる人格を押し退けて瞼を伏せ。"詩人の才能があるんじゃないか"、という軽口は重なる吐息に溶けて消えた。そっと触れ合わせるだけのそれが物足りなくて、後頭を軽く押さえつける。啄むように唇を動かせば、薄く片目を開いて反応を窺い )
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