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番外編【 2月14日の罠 】 [×]
2021-02-14 12:03:41
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「 え 」
思わず気の抜けた声が出る。先輩は意外と顔が広いから、てっきり大量のチョコを配ったものだと思っていた。買うにも作るにも大変だからやめたのか?
「 長谷にこの謎解きをさせるのに気を取られて、忘れてた 」
「 ………… 」
いかにもこの人らしい。
しかし、それでは他の人に配ったチョコとの比較が出来ない。他の人に本命チョコをあげた可能性は無くなったが、だからと言ってこのチョコが本命だとは言えない。
……それなら、ラッピングはどうだ? 本命チョコのラッピングは凝るものだと聞いたことがある。先輩からのチョコは、ラッピングは派手ではないにしても、丁寧に包装されているのが分かる。それに、いかにも明るい色を好みそうな先輩が緑色のリボンを選び、控えめな装飾にしたのにはどうにも意図を感じてしまう。例えば、そう──俺の趣味に合わせて、だとか。
少し考えて、さすがにこれはこじつけ過ぎだな、と頭を横に振る。というか、さっきから本命を前提に証拠を探している気がする。これではまともな結論を導き出せない。もっと客観的に、確証バイアスに振り回されず、事実だけを軸に考える必要がある。
思い出せ。先輩はチョコを渡す時、何と言っていた?
『 長谷、チョコだ! 』
……びっくりするくらい情報が無い。
分かるのは、先輩が俺に話し掛ける時、いちいち最初に名前を呼ぶことくらい……いや、違う。情報が無いことが、逆に情報なのだ。
「 ……分かりました 」
俺が呟いた言葉に、先輩がぴくりと反応する。
「 ほ、本当か 」
「 はい。先輩は、このチョコを渡す時、俺に『 長谷、チョコだ 』と言いました 」
「 言ったな 」
「 つまり、これはチョコなんです 」
先輩は訳が分からない、という顔をする。
「 今日、2月14日はバレンタインデーです。チョコを貰えば、誰もがそれをバレンタインチョコだと思うはず。でも、先輩はこれを〝バレンタインチョコ〟ではなく〝チョコ〟だと言って俺に渡しました 」
「 う、うん……? 」
「 よって、これは義理でも本命でもない、ただのチョコです 」
暫しの沈黙。先輩は大きく目を見開いたまま固まっている。
「 長谷………… 」
やはり、先輩は話し始めに俺の名前を呼んだ。
「 ……それはさすがに捻くれ過ぎじゃないか? 」
「 ……ですよね 」
はあ、と小さく息を吐く。俺だってまさか本気で〝ただのチョコ〟だと思っていたわけじゃない。むしろ、渡す時にわざわざ〝バレンタインチョコ〟と言う方が少数派だ。
それなのに、なぜそんな推論を話したのかと言うと、要するにあれだ。お手上げ状態、というやつだ。
「 長谷、今日はやけに静かなんだな 」
唐突に、先輩がそんなことを言い出す。
今日に限らず、俺はいつだって静かだ。うるさく騒ぎ立てたことなど、一度もない。
俺が怪訝な表情をしていたからか、先輩はすぐに補足する。
「 あ、推理する時、いつも何か一人でぶつぶつ言ってるから 」
人を変な奴みたいに言うんじゃない。
口に出して言葉にするのは、思考の整理に最適なのだ。人前では意識的にしないようにしていたが、無意識に出てしまっていたのか。出来れば知りたくなかった情報だ。
ならば、今日に限ってそれが無いのは、整理するほどの思考が浮かんで来ないからだろう。どれだけ思い悩んだところで、義理か本命かなんて、結局は先輩のさじ加減でしかない。
「 ………… 」
はあ、と再度息を吐く。今度はさっきよりも重く、少しだけ長い。
「 降参か? 」
耳敏く俺の溜息を拾った先輩が、期待の眼差しでこちらを見ている。
それを「 いいえ 」の一言で否定すると、俺はゆっくりと話し始める。
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