> all
ヒック…ひー、ふー、みー、よー、囲まれたな。…ーーー井倉ぁああ!はっ!(夜の京の都の城下街。いつものプライベートの赤い羽織ではなく礼式を考えた暗い地味な色の羽織を纏い、城に努める幕臣と一緒にお店で舞妓の踊りを眺めながら会談と言う名の飲み会を行い彼等と別れた帰り道。千鳥足で道を歩き酔い覚ましに屯所に遠回りで向かうべく徐々に暗い道を進む中路上の真ん中へと立ち止まると無数の足音が聞こえ。自らを囲むのは攘夷志士の者達だろう。釣りの意味を込めて餌として態と一人で歩いていたのだが大物である人斬り井倉その人も連れ口角を釣り上げて背中の野太刀を引き抜き、名を叫び剣先を下に向けた脇構えで疾走し。馬鹿正直に突っ込みながら大物へと向かう中攘夷志士達が己へと斬りかかって来るも勢いを付けた野太刀による一振りで二、三人纏めて上半身と下半身を跳ね飛ばし。凄腕の人斬り井倉へとそのまま向かったらカウンターに会うのは明白。片足で跳躍して壁を蹴って意表を突き勢いを付けた跳躍袈裟斬りを敵大将へと振るうも両手持ちの敵の膂力もさる物で一瞬拮抗し、己の腹部に蹴りが相手の頬へ左拳が互いに命中し、距離が一旦離れ。肋一本程が折れはしないがダメージを負い、相手は歯が折れたのか吐血と一緒に地面へと吐き出し。「逃がさねぇぞ。井倉よ」必殺の片手上段の構えを取れば周囲の空気が一段と変化しプレッシャーに平攘夷志士達は一歩二歩と後退る中、『へっ、局長の首が取れりゃ大金星だなこりゃ』井倉だけは挑発的に笑みを浮かべながら身を屈めて居合の構えを取り。第三者からは龍虎図のようにビリビリと痺れる空気はいつどちらが絶命するかの一触即発の状態へとなり。しかしそんな静寂を打ち破るドンドンっと爆発音が響き渡り「ちっ…阿瑠賀放至か。南蛮か毛唐どっから入手しやがった」鉄砲で狙撃を受け頬と腕へと掠り脇腹に食い込む一撃はダメージを負うにじゅうぶん。不利になったのは明白で、今井倉へと動かれたら殺られる確率が高い。相打ち覚悟で挑むかと考えた刹那『双方止めろ!』と響き渡る女性の声の後に数十の球状の道具が投げ込まれると勢い良く噴出される煙。「煙幕…!逃げの心か」辺り一面白い世界へと変わり井倉がいた場所にある影に向かい横薙ぎに振るうと確かに手応えがあるが人間ではない無機物の感触で。遠ざかって行く足音と共に煙が晴れると現場に残されたのは平攘夷志士の遺体と先程井倉の代わりに斬った丸太であり。)