(勢い良く空を切った左足を難なく受け止められて、単純に動揺した。生まれた一瞬の隙をついて切り返されたみぞおち狙いの容赦ない蹴りに、踏まれた蛙みたいな声が出る。倒れはしなかったものの前のめりに跪き、染みのついた汚れた床で視界はいっぱいになった。「……何者だ、お前」衝撃で細まった喉から絞り出すごく単純なWhat are you。おまけにstrangerなんて苦々しく付け加えてはゆっくりと立ち上がる。距離を取ろうか少し迷って、結局動かずに自分とそう変わらない背格好の青年をぎろりと見据えて睨みつけた。この男はもう二度も笑っている、俺は一度だって笑いかけてはいないのに。短くて単純な台詞を次々と投げかけられるのはただ腹立たしかった。英語が得意でない外国人、それこそまさしくストレンジャーとでも会話しているようなテンポでおちょくる誘拐犯相手に唾でも吐き掛けたくてたまらない。けれど毒づいたところで夢は覚めないし、残念ながら夢でもないのだ。―――そして気付く、明らかに容量オーバーなジーンズのポケットの膨らみに。デコボコに主張して顔を出す拳銃が引き出すのは陰惨な予感、本能が警鐘を鳴らすにはきっと遅いくらいだったんだ。ああ、逃げなきゃって頭がそれだけになる。「何が目的だ……」ポケットに視線を奪われたまま、吐き出すような問いかけは思ったよりも弱弱しく響く。死ぬには早いはずだろマム、まだそっちには行きたくないんだ。)