(がこ、ぎいい、と建て付けの悪いドアは握力の限界までしっかり握ったドアノブを捻り、勢いをつけて引っ張らないと開かない。おまけに酷い音がするからアパート中にいつ出掛けていつ帰ってきたのか、プライベートが筒抜けだ。別に構わないのだけれど、といつものように半ば体当たりをするようにしてドアを閉め、じゃらじゃらとよく分からない鍵が連なったキーホルダーからペンキで色をつけた一本を選んで鍵をかけ、"good boy" と問題なく機能する鍵と鍵穴に向かって呟き。ポケットに手を入れぶらりと廊下を歩き出すと見慣れた住人が黄昏ている。"hey, what the f*** are you doing here?" と大袈裟に両手を広げて声をかけ)
..I left my cigarette lighter somewhere.
(ふと聞こえた声の方に顔を向ければ良く知った相手の姿が。同じアパートに住む者として名前や職業等は知っているが一緒に飲みに行った事は無い、そんな関係の相手に向かって親しげにスラングを吐く相手に気を悪くする事もなく、寧ろ好感さえ持てて。火をつけられずかっこ悪く咥えたままになっている煙草を手に持ち変えながら自分の失態を恥じるかのように眉を下げ乍苦笑いを浮かべてみせ。「 Do you have it?」緩りと首を傾げ
Yup. I'm gonna give you one if you need...but maybe you have to learn how to fix the fire.
(皮肉交じりに少し微笑い乍ら、サバイバル映画でよく見るプリミティブな光景よろしく両手を擦り合わせ、木片で火を起こす動作をして見せ。ポケットに入っているのは半ダース程の残りが入った潰れた紅白の箱とドラッグストアで購入したライターが一つずつだけど、部屋に帰れば拾い物も含めて大量のライターのストックがある。中には高価なものと思われるオイルの切れたライターまであって。一つを人にあげたって何の損も無い。寧ろ恩を売れるのだから得ではないか。煙草が吸えない時の苦しみはよく分かるから放って置けないというのもあるけれど。"It's killing you with no cig ya know...anyway, wanna come to my place if you don't mind I have no coffee for ya?" と口数多くべらべらと捲し立てれば、頭の片隅では顔はよく知っているこの男の名前は何だったかと考えつつも気安く親指の先で自室の扉を指し)
Come on, man.Don't tease me.
(相手の動作に思わずくすりと笑みを零し乍肩を竦め。相手には取り合って貰えないと判断すると視線を前に移して、未だ火を待ちわびている煙草をポイと道へと捨て。早々に立ち去るだろうと考えていた相手が此処に残り更には口早に紡いだ話の内容に、逸らしていた視線を再び相手に向け。知らない相手を部屋に誘うなど何のつもりだろうかと疑うような視線を向けるのが普通だろうが生憎こちらは小綺麗な街で育った生娘では無く、時間潰しには良いかも知れないと口角上げながら「 Sure thing but I would rather have a whisky」と頷いてみせ
(彼の投げた煙草を目で追い顔を一瞬顰め。本気でライターをあげようと思ったのに、もうその一本は用済みだと言うのか。だけど拾いに行くのは諦める。誰かが踏み潰そうが、きっと何処かのホームレスが拾って一時の癒しとするだろう。只、"that's how you come here... I mean, like, you're not rich, right? so am I" と真面目くさった表情で、無礼なんだか相手に気を遣っているのか分からない台詞を投げ。先ほどポケットにしまったばかりの鍵束を取り出し手の中で弄び乍ら、"Ewwww, I doooooo hate drunken assholes" と大袈裟にげえ、と舌を出して。実際、友人や誰かがいつの間にか置いていった開封済みの酒瓶であれば部屋に山程あるものの、自分自身は下戸と言っていい程飲めないのだ。だが相手の返答を待たずころりと表情を柔和なものに変え、"Alright, c'mon" と先立って廊下を歩き出し)
You have guessed right.
(相手の失礼な言葉にも苦笑いを浮かべながら眉を下げ。相手の能天気そうな性格から勝手に酒豪だと考えてたためにアルコールが飲めない事実に驚いて目を見開き。「seriously? I think your life is boredom」普段から不機嫌そうな顔を更に歪めてしかめっ面を作り。相手の部屋の間取りは自分の部屋のもとと同じ為、特に新鮮味は感じられないが、独特な香料の香りが僅かに鼻腔をくすぐって。その香りのする方へ視線を移せば、小さな小瓶が目に留まり「This smells nice.」すんすんと鼻を動かし