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16:
純子 [×]
2017-02-13 22:58:09
(茜色が空に滲み出し下校時刻の鐘の音が校舎を掛け巡った後校庭にまで余韻を届け、木陰差す木製の横長い腰掛けに座り読書に耽って居た己に愛おしい時間の終了を告げる。心地良い空間は時の流れが早い。吐き出された嘆息には容赦無い鐘への非難と愛書への感嘆が入り混じり合い切なくも満たされた心持ちで煤けた装丁を閉じ隣に置いて居た鞄へと仕舞う。何十もの木机が並ぶ密閉空間に於いては常に視線を浴び笑顔を振り撒く位置にあると自負する己であるが時折放課後ひとけの無い場所で本の前に座り思想を深める習慣があった。か弱き労働者や傲慢な富豪も等しく一つの財産を共有し一切の上下関係を排除する、正に強きを挫き弱きを助ける理想的にしてあまりに革新的な思想。過去の偉人の記した概念の結晶は思春期の乙女の心を貫き密かに意志の灯火を着けてしまったがため己は態々人目を忍び幾度目を通したか判らぬ書物の頁を開かなければならなかった。鞄を両手で持ち立ち上がれば見知った乙女が眼前を通り口から溢れる情けなく掠れた出し損ないの声。誰とも馴れ合わず教室の隅でを古書を読み凛とした佇まいの彼女には群がられる事は無けれど皆が一目を置く暗黙の了解がある。かく言う己も魅惑的な雰囲気に囚われ密かに視線を捧げる一人であり、かの乙女こそクラスメイトと雖も咄嗟に挨拶の言葉が出て来ぬ唯一の人間であった。少しずつ離れ行く細き背中は黄昏時と相俟って寂寥の波を起こし砂浜に打ち付ける様な爆発を誘い。声の届くうちにと急いて“御機嫌よう!”と声量の整わぬ挨拶を届ければ繊細な御髪を靡かせ緩りと振り返る姿を捉えつつ、此方を向かせた達成感にほろりと笑みを落として)もう遅くてよ。あなたの様な儚いお方が一人で歩いていては攫われてしまうわ。わたくしのこと、途中までご一緒させてくださらない。
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