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27:
枯れ草 [×]
2017-02-12 14:34:54
三
一方、ここはとある南東の小島であった。ボサボサの黒髪に鳶色の目、どことなく黄色っぽいような肌、新人類とは今一つ似つかない外見の少年、デインは父親の畑仕事を手伝っていた。
「父さん、こっちのほうは終わったよ!」
籠一杯にオレンジを摘み終えると、木の影から顔を出し、遠くにいる父親に呼び掛ける。それに気付いた父親は暖かな笑顔を浮かべて、手を上げた。
「おー、早くなったな。こっちも終わったところだから、一つ休憩しようか」
父親のオレンジ畑は海岸沿いに広がっていた。だから、父子はよく、作業の途中で休憩をする際には崖のふちのあたりまで出て行き、海を眺めながら、弁当と摘みたてのオレンジを食べることにしていた。目の前に広がる水平線は美しく、デインの大好きな景色だった。
「父さん、この海の向こうには神様がいるんでしょう?」
デインが尋ねると、父親は日焼けして、ゴツゴツとした手で彼の頭を優しく撫でながら答えた。
「そうさなぁ。神様がいると良いな。それでお天道様が明日も無事に上るようにと、見ていて下さっているんだったら良いもんだな」
「良いな、ということは本当はいないの?」
「分からないよ。いるかもしれないし、いないかもしれない」
「誰か確かめに行った人はいないのかな」
「聞かないねぇ。毎日毎日、こうして畑の世話をして、たまには海に行って魚や貝を採ってさ、あとは母ちゃんと仲良くしたり、皆と遊んだりするだろ。そうして生きてりゃ、人生なんてあっという間だからね」
父親は海を眺めながら、笑顔で言った。デインは、荷物の中から母親が作ってくれたサンドウィッチを取り出すと「食べよう」と言って父親にも差し出した。父親はそれを「おお、ありがとな」と言って受け取る。それから二人で「いただきます」を言ってから、海を眺めつつ、無言で食べた。
サンドウィッチに挟まっている葉物野菜は、先日、友達の家の畑仕事を手伝って分けて貰ったもので、魚はいつぞや父親が釣ってきたのを母が油漬けにしてくれたものであった。食物のルーツに思いを寄せながら、口に含んでいくと、身体に命が満ちていくような感覚があった。デインは心から、美味しいな、と思った。胸の中が幸福感でいっぱいになるようであった。
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